(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100105
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】棒状部材の施工支援方法、棒状部材の施工支援システム、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
E21D 20/00 20060101AFI20240719BHJP
G01C 15/00 20060101ALI20240719BHJP
E04G 21/18 20060101ALI20240719BHJP
E21D 11/00 20060101ALI20240719BHJP
E21D 9/00 20060101ALI20240719BHJP
G01B 11/00 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
E21D20/00 Z
G01C15/00 103Z
E04G21/18 Z ESW
E21D11/00 Z
E21D9/00 C
G01B11/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003847
(22)【出願日】2023-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷口 信博
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 哲
(72)【発明者】
【氏名】森野 弘之
(72)【発明者】
【氏名】山下 淳
(72)【発明者】
【氏名】淺間 一
(72)【発明者】
【氏名】速水 桃子
(72)【発明者】
【氏名】伊賀上 卓也
(72)【発明者】
【氏名】井倉 幹大
(72)【発明者】
【氏名】樋口 寛
(72)【発明者】
【氏名】ルイ笠原純ユネス
【テーマコード(参考)】
2D155
2E174
2F065
【Fターム(参考)】
2D155BA06
2D155LA13
2E174AA03
2E174BA05
2E174DA56
2E174EA07
2F065AA04
2F065AA17
2F065AA35
2F065CC40
2F065FF04
2F065GG04
2F065HH05
(57)【要約】
【課題】トンネル壁面における棒状部材の挿入孔の位置及び角度を、適宜離れた距離から効率的かつ高精度に計測可能とする。
【解決手段】棒状部材1の挿入対象となる壁面3に所定パターンのレーザ光を照射し、その反射光を観測することで当該壁面3の表面ベクトルを計測する処理と、壁面3の撮影画像を取得し、当該撮影画像が示す輝度情報に基づき、壁面3に形成済みの挿入孔5を検出する処理と、検出した挿入孔5の中心の画像座標と壁面3の表面ベクトルとの関係に基づいて挿入孔5の中心座標を算定する処理を実行する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒状部材の挿入対象となる壁面に所定パターンのレーザ光を照射し、その反射光を観測することで当該壁面の表面ベクトルを計測する処理と、前記壁面の撮影画像を取得し、前記撮影画像が示す輝度情報に基づき、前記壁面に形成済みの挿入孔を検出する処理と、前記検出した挿入孔中心の画像座標と前記壁面の表面ベクトルとの関係に基づいて、前記挿入孔の3次元座標を算定する処理を実行することを特徴とする棒状部材の施工支援方法。
【請求項2】
前記表面ベクトルを計測する処理において、
交差した2線のレーザ光を前記壁面に照射し、その反射光を観測することで当該壁面の表面ベクトルを計測する、
ことを特徴とする請求項1に記載の棒状部材の施工支援方法。
【請求項3】
前記表面ベクトルを計測する処理において、
前記壁面の3点以上にレーザ光を照射し、その反射光を観測することで当該壁面の表面ベクトルを計測する、
ことを特徴とする請求項1に記載の棒状部材の施工支援方法。
【請求項4】
前記棒状部材または当該棒状部材の挿入装置の少なくともいずれかにおける複数箇所に、寸法既知で所定の形状又は色を有するマーカを設置する処理と、前記マーカの画像を撮影し、予め認識している、前記棒状部材の先端と前記マーカの設置箇所との位置関係に基づいて、前記棒状部材の先端座標を算定する処理と、前記棒状部材の先端座標と前記挿入孔の3次元座標とを合わせるよう前記挿入装置を制御して前記棒状部材を前記挿入孔に挿入する処理を、
さらに実行することを特徴とする請求項1に記載の棒状部材の施工支援方法。
【請求項5】
前記挿入孔を検出する処理において、
前記撮影画像が示す輝度情報に基づき、前記壁面に形成済みの挿入孔を楕円領域として検出する処理と、前記楕円領域に対応する前記撮影画像が示す、当該楕円領域の径及び輝度情報に基づき、前記壁面における前記挿入孔の前記画像座標と角度を推定する処理と、をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の棒状部材の施工支援方法。
【請求項6】
前記挿入孔である前記楕円領域を検出する処理において、
前記撮影画像における各領域の輪郭を検出し、前記検出した前記輪郭を楕円形状に近似して、前記各領域を楕円領域に変換する処理と、前記楕円領域それぞれの輝度情報に基づき、前記楕円領域のうち、他の楕円領域又は所定基準よりも暗いものを前記挿入孔と特定する処理を実行する、
ことを特徴とする請求項5に記載の棒状部材の施工支援方法。
【請求項7】
前記挿入孔の前記画像座標と角度を推定する処理において、
前記楕円領域の径および前記棒状部材の既知の径に基づき、前記挿入孔の前記画像座標を特定し、前記楕円領域の短軸方向における輝度の変遷に基づき、当該挿入孔は前記輝度が暗くなる角度に延びていると特定する、
ことを特徴とする請求項5に記載の棒状部材の施工支援方法。
【請求項8】
棒状部材の挿入対象となる壁面に所定パターンのレーザ光を照射するレーザ光源と、
前記レーザ光の反射光を観測する観測ユニットと、
前記壁面の撮影を行う撮影装置と、
前記反射光の観測値を前記観測ユニットから取得し、当該観測値に基づいて前記壁面の表面ベクトルを計測する処理と、前記壁面の撮影画像を前記撮影装置から取得し、前記撮影画像が示す輝度情報に基づき、前記壁面に形成済みの挿入孔を検出する処理と、前記検出した挿入孔中心の画像座標と前記壁面の表面ベクトルとの関係に基づいて、前記挿入孔の3次元座標を算定する処理を実行する情報処理装置と、
を含むことを特徴とする棒状部材の施工支援システム。
【請求項9】
前記レーザ光源は、交差した2線のレーザ光を前記壁面における照射し、
前記観測ユニットは、前記2線のレーザ光の反射光を観測し、
前記情報処理装置は、
前記表面ベクトルを計測する処理において、
前記2線のレーザ光による前記反射光の観測値を、前記観測ユニットから取得し、当該観測値に基づいて前記壁面の表面ベクトルを計測するものである、
ことを特徴とする請求項8に記載の棒状部材の施工支援システム。
【請求項10】
前記レーザ光源は、前記壁面の3点以上にレーザ光を照射し、
前記観測ユニットは、前記3点以上へのレーザ光の照射による反射光を観測し、
前記情報処理装置は、
前記表面ベクトルを計測する処理において、前記3点以上へのレーザ光の照射による反射光の観測値を、前記観測ユニットから取得し、当該観測値に基づいて前記壁面の表面ベクトルを計測するものである、
ことを特徴とする請求項8に記載の棒状部材の施工支援システム。
【請求項11】
前記棒状部材または当該棒状部材の挿入装置の少なくともいずれかにおける複数箇所に、寸法既知で所定の形状又は色を有するマーカが設置された環境において、
前記情報処理装置は、
前記マーカを撮影した画像を所定の撮影装置から取得し、予め認識している、前記棒状部材の先端と前記マーカの設置箇所との位置関係に基づいて、前記棒状部材の先端座標を算定する処理と、前記棒状部材の先端座標と前記挿入孔の3次元座標とを合わせるよう前記挿入装置を制御して前記棒状部材を前記挿入孔に挿入する処理を実行するものである、
ことを特徴とする請求項8に記載の棒状部材の施工支援システム。
【請求項12】
前記情報処理装置は、
前記挿入孔を検出する処理において、
前記撮影画像が示す輝度情報に基づき、前記壁面に形成済みの挿入孔を楕円領域として検出する処理と、前記楕円領域に対応する前記撮影画像が示す、当該楕円領域の径及び輝度情報に基づき、前記壁面における前記挿入孔の前記画像座標と角度を推定する処理をさらに実行するものである、
ことを特徴とする請求項8に記載の棒状部材の施工支援システム。
【請求項13】
前記情報処理装置は、
前記挿入孔である前記楕円領域を検出する処理において、
前記撮影画像における各領域の輪郭を検出し、前記検出した前記輪郭を楕円形状に近似して、前記各領域を楕円領域に変換する処理と、前記楕円領域それぞれの輝度情報に基づき、前記楕円領域のうち、他の楕円領域又は所定基準よりも暗いものを前記挿入孔と特定する処理を実行するものである、
ことを特徴とする請求項12に記載の棒状部材の施工支援システム。
【請求項14】
前記情報処理装置は、
前記挿入孔の前記画像座標と角度を推定する処理において、
前記楕円領域の径および前記棒状部材の既知の径に基づき、前記挿入孔の前記画像座標を特定し、前記楕円領域の短軸方向における輝度の変遷に基づき、当該挿入孔は前記輝度が暗くなる角度に延びていると特定するものである、
ことを特徴とする請求項12に記載の棒状部材の施工支援システム。
【請求項15】
情報処理装置において、
棒状部材の挿入対象となる壁面に所定パターンのレーザ光を照射した際の、反射光の観測値に基づいて、当該壁面の表面ベクトルを計測する処理と、前記壁面の撮影画像が示す輝度情報に基づき、前記壁面に形成済みの挿入孔を検出する処理と、前記検出した挿入孔中心の画像座標と前記壁面の表面ベクトルとの関係に基づいて、前記挿入孔の3次元座標を算定する処理、
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、棒状部材の施工支援方法、棒状部材の施工支援システム、及びプログラムに関するものであり、具体的には、トンネル壁面における棒状部材の挿入孔の位置及び角度を、適宜離れた距離から効率的かつ高精度に計測可能とする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
地山の自然な支保機能を利用したNATM(New Austrian Tunneling Method)工法は、新たな補助工法を適宜採用するなどして、従来の山岳トンネル以外にも適用範囲を広げつつある。
こうしたNATM工法では、地山の掘削や発破等で露出した壁面に、一次覆工のコンクリートを吹き付け、ロックボルトの打設と、二次覆工の覆工コンクリート打設を実施する。こうした施工を行うことで、地山と吹き付けコンクリートとを一体化させ、地山の保持力によってトンネル強度を高めることになる。
【0003】
こうしたロックボルト打設を含むトンネル工事の効率化を図る従来技術としては、例えば、切羽へのコンクリートの鏡吹きによって安全性を確保しつつ、工事作業者が鏡吹きされたコンクリート表面上でその地山状況を視認しながら施工作業を行うことが可能な切羽情報表示方法(特許文献1参照)などが提案されている。
【0004】
こうしたロックボルトの打設は、吹き付けコンクリートを通して壁面に削孔した孔(モルタル充填済み)に対し、ロックボルトを挿入する作業となる。また、当該ロックボルトの挿入は、凹凸のある壁面から孔を見つける作業、ロックボルト先端を孔位置に合わせる作業、及びロックボルト全体を孔に挿入する作業に分かれている。
【0005】
現在これらの作業は、作業員が孔周辺まで赴いて人力で行っている。しかし、粘性の高いモルタルの詰まった細長い孔に、長尺で重いロックボルトを挿入する必要があり、作業性や作業効率が良好とは言えない状況にある。
【0006】
一方では、ロックボルト打設の一連の流れである、壁面での削孔、当該孔へのモルタル注入、及びロックボルト打設を、同一のアームを用いて機械化する手法も様々研究されている。こうした手法によれば、例えば、複数の削孔用削岩機を用いて削孔を行うと同時にロックボルト打設を行う、といった施工を行うため、施工の効率化を図ることができる。
【0007】
しかしながら、正しい孔の位置を壁面上で効率良く自動特定するには至っておらず、ロックボルト先端と孔との位置合わせの自動化が望まれる。こうした位置合わせ作業の自動化を実現するためには、孔の3次元座標および方向を計測する必要がある。
ただし、ロックボルト孔の所在する壁面付近は、湧き水等の影響によって各種センサを取り付けられないケースが多い。そのため、ロックボルト孔に関する計測動作は遠方から行う必要がある。
【0008】
そうした遠方で動作する各種事象を観測する従来技術の一例として、例えば、荷役対象物の3次元姿勢を高精度に推定可能とする技術(特許文献2参照)が提案されている。この技術は、搬送機によってアクセス可能な第1面を備えた荷役対象物であって、前記第1面に配置されたマーカを備えており、前記マーカは、予め定められた標識が表示されている平面形状であり、前記マーカは、前記搬送機に備えられた光学センサを用いて前記マーカを撮像した画像に基づいて、前記マーカの平面に対する法線方向である3次元姿勢を推定することが可能なマーカであり、前記マーカの平面が、前記第1面に対して所定角度で傾いている、荷役対象物に係る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2022-1732号公報
【特許文献2】特開2020-132265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、壁面に開いた孔の方向を求める手法として、2台のカメラを用いた手法がある。この手法では、ステレオ法により、孔口の輪郭の楕円形状に関して3次元座標を計測する。その後、当該輪郭から孔中心に向かうベクトルが孔の方向と直交していることを利用して孔の方向を計測している。
また、レーザ測距計を用いて孔の方向を求める手法では、投影した孔口が真円になる2通りの平面を求め、レーザ測距計により孔周辺の2点の3次元座標を計測することで、平面を一意に定めて孔の方向を計測している。
一方、上述のレーザ測距計の代わりに孔内のグラデーションを用いることで、投影した孔口が真円になる平面を一意に定め、1台のカメラのみで孔の方向を求める手法がある。この手法では、孔内と孔外が連続な部分と、非連続な部分の光の当たり方の違いによって生じるグラデーションから孔の方向を一意に定めている。
上述の壁面の孔に関する計測手法では、孔口の形状から孔方向を計測できる一方、孔が壁面に対し垂直に開いているとの仮定をおいている。ところが、実際に削孔された孔の方向と壁面の方向は必ずしも垂直ではない。このことから、孔口の形状のみを用いて孔方向を高精度に計測することは困難であると考えられる。
【0011】
勿論、孔に対する3次元座標計測手法としては他にも存在し、ToFカメラを用いた孔検出および孔の3次元計測手法や、2台のカメラで平面上の複数の孔を撮影し、ステレオ法により3次元座標計測を行う手法などが提案されてはいる。しかしながら、当該カメラと孔の距離が数センチ以内といった計測条件が前提となっており、遠距離にあるロックボルト孔の検出および3次元座標計測には適していない。
【0012】
また、画像内に直径が既知の孔がある場合、単眼カメラのみを用いて孔の3次元座標を計測する手法がある。この手法では、数m遠方から孔の3次元座標を計測可能であるが、画像内に孔径が既知である孔が存在する必要がある。一方で、ロックボルト孔の孔径は、削孔時の振動等によってばらつきを生じやすい。そのため、削孔に用いるロッドの直径と孔径は必ずしも一致しておらず、ロッド径を孔径として用いて当該手法を適用すると、誤差が生じる可能性が高い。つまり、こうした既知の孔径を用いた計測では誤差が大きくなる恐れがある。
【0013】
そこで本発明は、トンネル壁面における棒状部材の挿入孔の位置及び角度を、適宜離れた距離から効率的かつ高精度に計測可能とする技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決する本発明の棒状部材の施工支援方法は、棒状部材の挿入対象となる壁面に所定パターンのレーザ光を照射し、その反射光を観測することで当該壁面の表面ベクトルを計測する処理と、前記壁面の撮影画像を取得し、前記撮影画像が示す輝度情報に基づき、前記壁面に形成済みの挿入孔を検出する処理と、前記検出した挿入孔中心の画像座標と前記壁面の表面ベクトルとの関係に基づいて、前記挿入孔の3次元座標を算定する処理を実行することを特徴とする。
これによれば、トンネル等における棒状部材の挿入孔の位置や方向を、適宜遠隔で特定し、当該情報を施工に利活用可能となる。よって、棒状部材の挿入工程に際して、作業員が挿入孔付近に赴いて人力で作業する要素を、効果的に低減可能となりうる。ひいては、挿入孔への挿入に伴うロックボルト等の破損や変形の可能性を低減する効果も期待出来る。
【0015】
なお、本発明の棒状部材の施工支援方法における、前記表面ベクトルを計測する処理において、交差した2線のレーザ光を前記壁面に照射し、その反射光を観測することで当該壁面の表面ベクトルを計測する、としてもよい。
【0016】
これによれば、レーザ光を用いた光切断法の実施に際し、壁面のうちレーザ光が投影された部分の3次元座標を、当該壁面に沿って連続的に計測可能となる。
【0017】
また、本発明の棒状部材の施工支援方法における、前記表面ベクトルを計測する処理において、前記壁面の3点以上にレーザ光を照射し、その反射光を観測することで当該壁面の表面ベクトルを計測する、としてもよい。
【0018】
これによれば、レーザ光を用いた光切断法の実施に際し、壁面のうちレーザ光が投影された3点部分を含む平面の3次元座標を計測可能となる。
【0019】
また、本発明の棒状部材の施工支援方法において、前記棒状部材または当該棒状部材の挿入装置の少なくともいずれかにおける複数箇所に、寸法既知で所定の形状又は色を有するマーカを設置する処理と、前記マーカの画像を撮影し、予め認識している、前記棒状部材の先端と前記マーカの設置箇所との位置関係に基づいて、前記棒状部材の先端座標を算定する処理と、前記棒状部材の先端座標と前記挿入孔の3次元座標とを合わせるよう前記挿入装置を制御して前記棒状部材を前記挿入孔に挿入する処理をさらに実行するとしてもよい。
【0020】
これによれば、導入コストが嵩みがちな特別なセンサや解析システム等を導入せずとも、挿入孔の正確な位置に向けた棒状部材の挿入動作を精度良く制御することが可能となる。
【0021】
また、本発明の棒状部材の施工支援方法における、前記挿入孔を検出する処理において、前記撮影画像が示す輝度情報に基づき、前記壁面に形成済みの挿入孔を楕円領域として検出する処理と、前記楕円領域に対応する前記撮影画像が示す、当該楕円領域の径及び輝度情報に基づき、前記壁面における前記挿入孔の前記画像座標と角度を推定する処理と、をさらに含むとしてもよい。
これによれば、導入コストが高くなりがちなビジュアルサーボ技術を用いた各種従来手法等と異なり、トンネル施工現場への導入が技術及びコストの両面で容易な単眼カメラを採用した手法にて、ロックボルト打設や装薬などの対象となる孔の位置及び角度を、効率的かつ精度良く特定可能となる。
【0022】
また、本発明の棒状部材の施工支援方法における、前記挿入孔である前記楕円領域を検出する処理において、前記撮影画像における各領域の輪郭を検出し、前記検出した前記輪郭を楕円形状に近似して、前記各領域を楕円領域に変換する処理と、前記楕円領域それぞれの輝度情報に基づき、前記楕円領域のうち、他の楕円領域又は所定基準よりも暗いものを前記挿入孔と特定する処理を実行する、としてもよい。
【0023】
これによれば、トンネルの周壁面の撮影画像中に数多の楕円領域が含まれるとしても、精度良好にロックボルト等の挿入孔を特定することができる。ひいては、トンネル施工時における棒状部材の挿入孔の位置及び角度を、より効率的かつ精度良く特定可能となる。なお、この撮影画像は、1つの挿入孔のみが撮影対象となる条件下での撮影で得られたものを基本的には想定するが、楕円領域が所定基準より暗いものは挿入孔と特定できるため、特定対象の挿入孔の数に関して限定しない。上述の条件とは、具体的には、トンネルの周壁面に対する撮影装置の配置やレンズ方向、焦点距離、画角といった撮影条件が予め調整された環境に対応したものとなる。
【0024】
また、本発明の棒状部材の施工支援方法における、前記挿入孔の前記画像座標と角度を推定する処理において、前記楕円領域の径および前記棒状部材の既知の径に基づき、前記挿入孔の前記画像座標を特定し、前記楕円領域の短軸方向における輝度の変遷に基づき、当該挿入孔は前記輝度が暗くなる角度に延びていると特定する、としてもよい。
【0025】
これによれば、撮影装置の座標系からみた画像中の形状(孔に対応する楕円領域)と実際のトンネルの周壁面上の形状(実際の孔のもの)との間での相似関係を、既知の孔径をキーに適宜に踏まえることで、精度良好に孔位置の推定を行える。また、楕円領域における輝度のグラデーションと孔の延伸方向との関係性に基づき、当該孔の(トンネルの周壁面から地山内に向けた)角度を効率良く特定できる。すなわち、トンネル施工時における棒状部材の挿入孔の位置及び角度を、より効率的かつ精度良く特定可能となる。
【0026】
また、本発明の棒状部材の施工支援システムは、棒状部材の挿入対象となる壁面に所定パターンのレーザ光を照射するレーザ光源と、前記レーザ光の反射光を観測する観測ユニットと、前記壁面の撮影を行う撮影装置と、前記反射光の観測値を前記観測ユニットから取得し、当該観測値に基づいて前記壁面の表面ベクトルを計測する処理と、前記壁面の撮影画像を前記撮影装置から取得し、前記撮影画像が示す輝度情報に基づき、前記壁面に形成済みの挿入孔を検出する処理と、前記検出した挿入孔中心の画像座標と前記壁面の表面ベクトルとの関係に基づいて、前記挿入孔の3次元座標を算定する処理を実行する情報処理装置と、を含むことを特徴とする。
【0027】
また、本発明の棒状部材の施工支援システムにおいて、前記レーザ光源は、交差した2線のレーザ光を前記壁面における照射し、前記観測ユニットは、前記2線のレーザ光の反射光を観測し、前記情報処理装置は、前記表面ベクトルを計測する処理において、前記2線のレーザ光による前記反射光の観測値を、前記観測ユニットから取得し、当該観測値に基づいて前記壁面の表面ベクトルを計測するものである、としてもよい。
【0028】
また、本発明の棒状部材の施工支援システムにおいて、前記レーザ光源は、前記壁面の3点以上にレーザ光を照射し、前記観測ユニットは、前記3点以上へのレーザ光の照射による反射光を観測し、前記情報処理装置は、前記表面ベクトルを計測する処理において、前記3点以上へのレーザ光の照射による反射光の観測値を、前記観測ユニットから取得し、当該観測値に基づいて前記壁面の表面ベクトルを計測するものである、としてもよい。
【0029】
また、本発明の棒状部材の施工支援システムは、前記棒状部材または当該棒状部材の挿入装置の少なくともいずれかにおける複数箇所に、寸法既知で所定の形状又は色を有するマーカが設置された環境において、前記情報処理装置は、記マーカを撮影した画像を所定の撮影装置から取得し、予め認識している、前記棒状部材の先端と前記マーカの設置箇所との位置関係に基づいて、前記棒状部材の先端座標を算定する処理と、前記棒状部材の先端座標と前記挿入孔の3次元座標とを合わせるよう前記挿入装置を制御して前記棒状部材を前記挿入孔に挿入する処理を実行するものである、としてもよい。
【0030】
また、本発明の棒状部材の施工支援システムにおける、前記情報処理装置は、前記挿入孔を検出する処理において、前記撮影画像が示す輝度情報に基づき、前記壁面に形成済みの挿入孔を楕円領域として検出する処理と、前記楕円領域に対応する前記撮影画像が示す、当該楕円領域の径及び輝度情報に基づき、前記壁面における前記挿入孔の前記画像座標と角度を推定する処理をさらに実行するものである、としてもよい。
【0031】
また、本発明の棒状部材の施工支援システムにおける、前記情報処理装置は、前記挿入孔である前記楕円領域を検出する処理において、前記撮影画像における各領域の輪郭を検出し、前記検出した前記輪郭を楕円形状に近似して、前記各領域を楕円領域に変換する処理と、前記楕円領域それぞれの輝度情報に基づき、前記楕円領域のうち、他の楕円領域又は所定基準よりも暗いものを前記挿入孔と特定する処理を実行するものである、としてもよい。
【0032】
また、本発明の棒状部材の施工支援システムにおける、前記情報処理装置は、前記挿入孔の前記画像座標と角度を推定する処理において、前記楕円領域の径および前記棒状部材の既知の径に基づき、前記挿入孔の前記画像座標を特定し、前記楕円領域の短軸方向における輝度の変遷に基づき、当該挿入孔は前記輝度が暗くなる角度に延びていると特定するものである、としてもよい。
【0033】
また、本発明のプログラムは、情報処理装置において、棒状部材の挿入対象となる壁面に所定パターンのレーザ光を照射した際の、反射光の観測値に基づいて、当該壁面の表面ベクトルを計測する処理と、前記壁面の撮影画像が示す輝度情報に基づき、前記壁面に形成済みの挿入孔を検出する処理と、前記検出した挿入孔中心の画像座標と前記壁面の表面ベクトルとの関係に基づいて、前記挿入孔の3次元座標を算定する処理、を実行させるものとなる。
【0034】
これによれば、ロックボルト打設や装薬などの対象となる孔の位置及び角度を、効率的かつ精度良く特定する機能を情報処理システムに実装可能となる。また、こうした機能を備えた情報処理システムをコンピュータジャンボ等の施工装置と連携させることで、孔へのロックボルト挿入を適宜な精度で効率良く自動化可能となる。このことは、孔へのロックボルト等の挿入に伴い生じていたロックボルト等の破損や変形の可能性を低減する効果にもつながりうる。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、トンネル壁面における棒状部材の挿入孔の位置及び角度を、適宜離れた距離から効率的かつ高精度に計測可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】本実施形態における施工支援方法の適用環境例(人力作業)を示す図である。
【
図2】本実施形態における施工支援方法の適用環境例(トンネル全体)を示す図である。
【
図3】本実施形態における施工支援システムの全体構成例を示す図である。
【
図4】本実施形態における情報処理装置のハードウェア構成例を示す図である。
【
図5】本実施形態における施工支援方法における観測概念を示す図である。
【
図6】本実施形態における施工支援方法のフロー例を示す図である。
【
図7】本実施形態におけるレーザ平面とカメラ原点の関係を示す図である。
【
図8】本実施形態におけるデジタルカメラから見た挿入孔の方向と周壁面との関係を示す図である。
【
図9】本実施形態の周壁面に対して斜めに開いた挿入孔の様子を示す図である。
【
図10】本実施形態における実験装置の構成例を示す図である。
【
図11】本実施形態における実験条件の例を示す図である。
【
図12】本実施形態におけるトータルステーションによる孔計測の例を示す図である。
【
図13】本実施形態におけるARマーカの配置例を示す図である
【
図14】本実施形態における孔検出結果の例を示す図である。
【
図15】本実施形態におけるコンピュータジャンボの表示画面例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
<概要>
まず、本実施形態の棒状部材の施工支援方法を適用する環境や、技術の概要について説明する。
図1、2で例示するように、棒状部材であるロックボルト1(以下、ロックボルト)は、トンネル施工対象となる地山2において、トンネルの周壁面3に設けられた挿入孔5に打設される。
この挿入孔5は、トンネルの周壁面3に施工された吹き付けコンクリート6を通して地山2に削孔されたものとなる。また、ロックボルト打設に先立ち、当該挿入孔5の内空には、モルタルが充填される。
【0038】
こうしたロックボルト1の打設は、上述のように削孔された挿入孔5(モルタル充填済み)に対し、ロックボルト1を挿入する作業となる。この作業は、従来であれば人力によって実施されていたが、本実施形態の施工支援方法を適用した環境下では、コンピュータジャンボなどの施工装置によって、十分な精度で自動化可能である。
【0039】
つまり、施工装置との適宜な連携を図ることで、ロックボルト1の挿入作業を構成する、凹凸のあるトンネルの周壁面3から挿入孔5を特定する作業、ロックボルト1の先端を挿入孔5の開口位置に合わせる作業、及びロックボルト全体を挿入孔5に挿入する作業を自動化しうることとなる。
<システム構成>
以下に本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。
図3は、本実施形態におけるロックボルト1の施工支援システム100(以下同様)の構成例を示す図である。
【0040】
本実施形態における施工支援システム100は、トンネル壁面におけるロックボルト1の挿入孔5の位置及び角度を、適宜離れた距離から効率的かつ高精度に計測可能とするシステムである。
【0041】
こうした施工支援システム100は、
図3で例示するように、観測ユニット10、デジタルカメラ20、情報処理装置50、及びコンピュータジャンボ60のうち、少なくとも観測ユニット10、デジタルカメラ20及び情報処理装置50から構成されている。また、施工支援システム100を構成する各機器は、例えば、インターネットやLAN(Local Area Network)、或いは携帯通信網といった適宜なネットワークNを介して互いに通信可能に結ばれている。
【0042】
このうち観測ユニット10は、レーザ光源11を制御して所定のパターンにてレーザ光を発光させ、トンネルの周壁面3に投影する装置である。なお、本実施形態で例示する発光パターンとしては、2本の線分が交わった、いわゆるクロスライン形態を想定するが、面を捉えるために必要な計測ポイントの最少数である3点(ないしそれ以上)をスポットで照射するパターンも概念に含みうるものとする。
【0043】
この観測ユニット10は、レーザ光源11により投影されたレーザ光の反射光に基づく観測データ13、すなわちトンネルの周壁面3の表面ベクトルのデータを格納・保持する記憶媒体12を有している。観測ユニット10は、この記憶媒体12で保持する観測データ13を、例えばBluetooth(登録商標)などの近接無線通信手段14によって外部装置に配信可能である。本実施形態において、この観測データ13の配信先となる外部装置は、情報処理装置50である。
【0044】
勿論、観測ユニット10における観測データを情報処理装置50に配信する手法としては、こうした無線/有線の通信手段に限定しない。
【0045】
トンネル坑内の環境や導入できる各種リソース等の影響で、無線/有線のいずれの通信手段も採用困難な場合、例えば、作業員が観測ユニット10の記憶媒体12を取り出し、これをリーダー15にセットすることで情報処理装置50に撮影データを読み取らせるといった手法を採用してもよい。なお、リーダー15は、情報処理装置50に適宜なインターフェイスで接続され、記憶媒体12との間でデータの読み書きが可能な装置である。
【0046】
また、デジタルカメラ20は、一般的に市販されている単眼カメラであって、デプスカメラ等の特殊カメラユニットを採用する必要はない。ただし、トンネルの周壁面3の付近は湧水やモルタルの影響もあって、(厳重な防塵、防水機能等を有しない)一般的なデジタルカメラ20の取り付けには相応の配慮が必要となる。
【0047】
そのため、トンネルの周壁面3から5~10m離間した遠方からの撮影を行う必要がある。そこで、デジタルカメラ20に装着するレンズ21としては、種々の撮影条件に対応可能とするため、焦点距離が可変(例えば70~200mm)の可変焦点レンズを採用すると好適である。
【0048】
このデジタルカメラ20は、撮影データを格納・保持する記憶媒体22を有しており、この記憶媒体22で保持する撮影データ23を、例えばBluetooth(登録商標)などの近接無線通信手段24によって外部装置に配信可能である。本実施形態において、この撮影データの配信先となる外部装置は、情報処理装置50である。
【0049】
勿論、デジタルカメラ20における撮影データを情報処理装置50に配信する手法としては、こうした無線/有線の通信手段に限定しない。
【0050】
トンネル坑内の環境や導入できる各種リソース等の影響で、無線/有線のいずれの通信手段も採用困難な場合、例えば、作業員がデジタルカメラ20の記憶媒体22を取り出し、これをリーダー25にセットすることで情報処理装置50に撮影データを読み取らせるといった手法を採用してもよい。なお、リーダー25は、情報処理装置50に適宜なインターフェイスで接続され、記憶媒体22との間でデータの読み書きが可能な装置である。
【0051】
また、コンピュータジャンボ60は、ロックボルト1の施工装置であって、トンネルの周壁面3における挿入孔5の削孔、当該挿入孔5へのモルタル注入、及び当該挿入孔5へのロックボルト1の打設を、同一のアームを用いて機械化する施工装置である。
【0052】
このコンピュータジャンボ60は、複数のアームと、その先端に備わる削岩機やロックボルトの把持ユニットなどといった機構に加えて、当該機構を制御する制御ユニット61と、外部装置との通信を担う通信ユニット62を備える。
【0053】
コンピュータジャンボ60は、情報処理装置50から、挿入孔5の位置や角度に関する情報設定を受け付けて、制御ユニット61が、この情報設定の内容に応じてアームの移動や固定、削岩機の稼働/停止、ロックボルトの把持、挿入といった動作を自動実行する。
【0054】
なお、上述の動作の実行に際し、コンピュータジャンボ60は、情報処理装置50から挿入孔5の中心座標の値を取得すると共に、自身の制御ユニット61(或いは情報処理装置50)により、ロックボルト1(自身のアームにて保持中)の先端座標を演算し特定する。
よって、コンピュータジャンボ60は、情報処理装置50から得た挿入孔5の中心座標の値と、自身で演算したロックボルト1の先端座標の値とに基づいて、ロックボルト1の先端が、所定の角度で挿入孔5の中心から孔奥部に向かうよう、駆動装置(例:モータや油圧装置)によるアームの伸縮や移動、ロックボルト1の送り出し量などを制御することになる。
<ハードウェア構成>
また、情報処理装置50は、一般的なコンピュータ装置であって、
図4で示すように、記憶装置51、メモリ53、演算装置54、入力装置55、出力装置56、及び通信装置57を有している。
【0055】
このうち記憶装置51は、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)といった不揮発性の記憶素子から構成され、処理に必要なプログラム52やデータ、或いは処理結果を格納するものとなる。
【0056】
なお、記憶装置51で保持するプログラム52は、本実施形態の施工支援システム100を構成する情報処理装置50として必要な機能を実装する為のプログラムである。そのためプログラム52は、後述する各式(式1~式15など)を用いた各種解析やコンピュータジャンボ60への設定処理等を行うアルゴリズムを実装したものとなる。
【0057】
また、メモリ53は、RAM(Random Access Memory)などの揮発性記憶素子で構成される。
【0058】
また、演算装置54は、記憶装置51に保持されるプログラム52をメモリ53に読み出すなどして実行し装置自体の統括制御を行なうとともに各種判定、演算及び制御処理を行なうCPU(Central Processing Unit)である。
【0059】
また、入力装置55は、ユーザからのキー入力や音声入力を受け付けるキーボード、マイク、マウスといった装置である。
【0060】
また、出力装置56は、演算装置54での処理データを表示するディスプレイやスピーカーといった装置である。
【0061】
また、通信装置57は、観測ユニット10の近距離無線通信手段14やデジタルカメラ20の近距離無線通信手段24、また、適宜なネットワークNを介したコンピュータジャンボ60と接続して通信処理を担うインターフェイスカード等を想定する。
<計測概要>
以上から、本実施形態ではロックボルト1の打設専用機たるコンピュータジャンボ60による、ロックボルト打設作業の機械化を前提として、トンネルの周壁面3にある削孔済みの挿入孔5の位置および角度を、トンネルの周壁面3から所定距離以上の遠方からの、観測ユニット10におけるレーザ光投影による観測、及びデジタルカメラ20による撮影により推定する技術について、
図5に基づき説明する。
【0062】
トンネルの周壁面3に対して斜めから挿入孔5を撮影した場合、当該挿入孔5は楕円形状に見える。孔口が楕円形状に見える原因は2つある。
【0063】
1つ目は、デジタルカメラ20と周壁面3との位置関係によるものである。周壁面3に対して挿入孔5が垂直に開口しているとき、周壁面3に対し垂直な位置から見た孔口形状は真円になる。このとき、周壁面3に対して斜めから挿入孔5を撮影すると、当該挿入孔5は楕円形状に見える。
【0064】
2つ目の原因は、挿入孔5と周壁面3との関係によるものである。周壁面3に対して挿入孔5が斜めに開口しているとき、周壁面3に対し垂直な位置から見た孔口形状は楕円形である。一般に、ロックボルト孔すなわち挿入孔5は、周壁面3に対して垂直に開いていないため、周壁面3に対して斜めから撮影した際の孔口形状は、デジタルカメラ20と周壁面3との関係と、挿入孔5と周壁面3との関係の両方の影響を受けることになる。
【0065】
撮影画像中の孔口の楕円形状のデータを用い、その短軸長さと長軸長さの関係から挿入孔5の方向を計測する手法では、計測に使用する孔口形状に対し、デジタルカメラ20と周壁面3との関係と、挿入孔5と周壁面3との関係の両方の影響を受けるため、挿入孔5の実際の方向を正確に計測することができない。
【0066】
この問題点を解決するため、発明者らはレーザ光を用いて周壁面3の表面の方向を計測する本手法を考案し、提案するに至った。レーザ光を用いた光切断法では、対象物体のうちレーザ光が投影された部分のみ3次元座標の計測ができる。
【0067】
このため、例えば1本だけのラインレーザを用いて周壁面3の計測を行った場合、3次元座標を計測できるのは、当該ラインレーザの線上のみとなる。つまり、周壁面3の表面を面で計測することができない。
【0068】
そこで本実施形態では、周壁面3の表面を面で計測するため、周壁面3に2本の交差したパターンでレーザ光を照射できるクロスラインレーザ10を使用し、その3次元座標を取得するものとする。また、こうして周壁面3の表面に関して3次元座標を計測するとともに、デジタルカメラ20による撮影画像を用いて挿入孔5の検出を行う。
【0069】
また、クロスラインレーザ10を用いて計測した周壁面3の表面の、デジタルカメラ20に対する角度と、デジタルカメラ20に対する挿入孔5の方向(当該デジタルカメラ20での撮影画像内の(挿入孔5の)孔口の楕円形状を用いて推定したもの)とを併用することにより、挿入孔5の方向を計測する。さらに、デジタルカメラ20での撮影画像内で検出した挿入孔5の孔中心と、ラインレーザ10にて計測した周壁面3の表面の距離情報とを併用することにより、当該孔中心の3次元座標を計測する。
<演算フローの概要>
続いて、本実施形態における、挿入孔5の孔中心に関する3次元座標の算出、及び周壁面3の表面に存在する挿入孔5の検出とその方向推定のフローについて、
図6に基づき説明する。
【0070】
上述の孔中心の3次元座標計測および挿入孔5の方向計測のため、本手法ではクロスラインレーザ10を周壁面3に照射し、その平面を計測する。対象物体などの背景の影響を受けずにレーザ光のみを抽出するため、レーザ照射時とレーザ非照射時の画像を同一地点から取得し(s1)、その差分をとることで、レーザ光のみが含まれた画像を作成する。
【0071】
ここで、レーザ光を照射して撮影した画像をレーザオン画像、レーザ光を照射せずに撮影した画像をレーザオフ画像とする。また、作成したレーザ光のみが含まれる画像をレーザ画像とする。
【0072】
そのため情報処理装置50は、観測ユニット10から得た上述のレーザ画像から、レーザ点を抽出し(s2)、光切断法に基づく3次元座標の算出を実行する(s3)。
【0073】
情報処理装置50は、s3で算出したレーザ点の3次元座標の値をもとに、周壁面3の表面ベクトルを計測する(s4)。情報処理装置50は、これと同時に、レーザオフ画像に対し、孔検出を行って(s5)、孔中心の画像座標の算出と孔口形状の計測を実行する。
【0074】
情報処理装置50は、s4での周壁面3の表面ベクトルの計測結果、およびs5での孔検出により計測した孔中心の画像座標及び孔口形状を用いて、挿入孔5の方向計測および孔中心の3次元座標計測を行う(s6、s7)。
【0075】
ここで、周壁面3に対して角度をつけて削孔した場合の孔口は、削孔に用いたロッドにより壁面が削られることから楕円形状になる。よって、周壁面3に対する挿入孔5の方向は、孔口形状である楕円形を短軸周りに回転させ、長軸が短軸と同一長さになる際の角度から計測できる。
<光切断法による表面ベクトル計測>
光切断法では対象物体に投影されたレーザ光の位置の3次元座標を計測する。本実施形態では、周壁面3の表面を計測するため、観測ユニット10によるレーダー光源により、周壁面3に2本のレーザ光を照射し、その3次元座標すなわち表面ベクトルを取得する。表面ベクトルの計測は、差分によるレーザ画像の取得、レーザ光の画像座標取得、レーザ光投影位置の3次元座標の算出、及び3次元座標をもとにした周壁面3の表面計測の手順で行う。
【0076】
上述の光切断法において、3次元計測のためには画像内に写る対象物体やレーザ光の中から、投影されたレーザ光のみを抽出する必要がある。そこで、対象物体や背景からレーザ光のみを抽出すべく、レーザ光を投影した対象物体、およびレーザ光を投影していない対象物体を同一位置から撮影し、その撮影画像間の差分をとることにより、レーザ画像を取得する。この手法により、レーザ光が視認しにくい条件においても、レーザ光のみを抽出することが可能である。
【0077】
レーザ光の抽出により、2本のレーザ光が含まれたレーザ画像が得られる。ここで、2本のレーザ光は、それぞれ異なるレーザ平面上にあるため、光切断法を用いて3次元座標を計測するためには、それぞれを独立して扱う必要がある。
【0078】
そこで、レーザ画像を2つの領域に分割し、レーザごとのレーザ画像を作成するものとする。作成した各レーザ画像に対し、輝度重心を算出することで、レーザ点の画像座標(u、v) を得る。
【0079】
次に、レーザ点の画像座標をもとに3次元座標を算出する。レーザ平面とカメラ原点の関係を
図7に示す。あるレーザ点の画像座標(up、vp) はカメラ座標系において3次元座標xpをとるとき、xpは光線ベクトルrpを用いて式(1)と表される。
【0080】
[式1]
ここで、spは係数、pは1~v とし、v は1 本のレーザ光上のレーザ点数である。上述の式(1) より、レーザ点の画像座標(up、 vp) の3次元座標xpを求めるためには、変数sp を決定する必要がある。光切断法において、レーザ光の対象物体上の投影点は、レーザ平面上にある。よって、xpが1番目のレーザ平面上にあるとき、xpは式(2)と表される。
【0081】
[式2]
ただし、nl はカメラ座標原点からレーザ平面におろした垂線とする。また、本実施形態では2本のレーザを使用するため、lは1または2である。上述の式(2)に式(1) を代入することにより、変数sp を一意に定めることができ、レーザ光の投影点の3次元座標xpを求めることができる。算出したレーザ光投影点群の3次元座標に対し、最小二乗平面を求めることにより、周壁面3の表面ベクトルを計測する。
【0082】
<画像上の孔中心検出>
挿入孔5の孔内部には光が当たらないことから、その周囲の周壁面3の表面と孔内部とでは輝度差が生じる。このことから、画像中の輝度差を用いて挿入孔5を検出する。また、画像中で孔口は楕円形状に見えることから、挿入孔5に対し楕円フィッティングを行うことで孔中心を計測する。画像内に含まれている1つの挿入孔5を検出する手法を以下に示す。
【0083】
まず、所定の閾値選定法(N。 Otsu: A threshold selection method from gray-level histograms、IEEE Transactions on Systems、 Man、 and Cybernetics、 9、1 (1979)pp。 62-66。)を用いて2値化画像を作成し、その輪郭検出(S。 Suzuki and K。Abe: Topological structural analysis of digitized binary images by border following、 Computer Vision、Graphics、 and Image Processing、30、 1 (1985) pp。 32-46。)を行う。
次に、検出した輪郭に対し、以下の楕円フィッティングを行う。楕円の式の係数をa1、a2、a3、a4、a5 とすると、式(3)のようにa = [a1、 a2、 a3、 a4、 a5]Tについて輪郭の各点との距離を最小化することにより、最小二乗法から楕円の式の係数を決定できる。
【0084】
[式3]
ここで、Nj はj 番目の輪郭を構成する点の総数とする。式(3)により得られたa1~a5 を用いて、楕円の中心点(uc、 vc) および長軸のu 軸からの角度θ は式(4)~(6)と表される。
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
<挿入孔の方向計測>
デジタルカメラ20から見た挿入孔5の方向と周壁面3との関係を
図8に示す。また、周壁面3に対して斜めに開いた挿入孔5の様子を
図9に示す。
図8のように、周壁面3に対して角度を持って削孔した場合、削孔された挿入孔5は、
図9のような楕円形となる。
【0089】
画像内の孔口形状の楕円形を周壁面3に対して正面から見た場合の形状に変換し、周壁面上の孔口形状に変形した楕円形状の短軸周りに、長軸が短軸と同じ長さになるまで回転させたときの角度が、周壁面3に対する挿入孔5の方向である。
【0090】
画像内の孔口形状を、周壁面3に対して正面から見た場合の形状に変換するため、孔口形状の楕円形の短軸および長軸の端点が周壁面上に位置することを利用し、孔中心の3次元座標計測と同様に、各点の3次元座標を計測する。
【0091】
変換前の端点を変換後の端点の位置に移動させるような透視変換行列を求め、この行列により画像を変換することで、周壁面3に対し正面から見た画像を作成する。作成した画像に対し、既に述べた孔検出手法を適用することにより、周壁面3に対し正面から見た孔口形状を計測する。
【0092】
周壁面3に対する挿入孔5の方向ベクトルnhは、ロドリゲスの回転公式により法線と角度を用いて算出した回転行列Rを用いて式(7)と表される。
【0093】
[式7]
ここで、回転角度Φは、回転後の画像内における孔口の楕円形状の長軸の長さl、短軸の長さsを用いて式(8)と表される。
【0094】
[式8]
ここで、角度Φは正負の2通り考えられ、一意に定める必要がある。通常、削孔機は坑口側から切羽側に向かって削孔を行うことから、挿入孔5は切羽側に傾いて削孔される。このことから、角度Φは負とする。よって、正負を一意に定めた角度Φを式(7)に代入することにより、周壁面3に対する挿入孔5の方向ベクトルnhを計測する。
<光切断法による孔中心の3次元座標計測>
孔中心は周壁面3の表面上にあることから、画像内で検出した孔中心の画像座標と、光切断法により計測した周壁面3の表面の関係を用いて、孔中心の3次元座標を計測できる。既に述べた手法にて算出した孔中心の画像座標(uc、vc)、およびnwで表される周壁面3の表面ベクトルを用いて、孔中心の3次元座標xhは、式(9)と表される。
【0095】
[式9]
ここで、孔中心の3次元座標xhは、光線ベクトルrhを用いて式(10) と表される。
【0096】
[式10]
ただし、shは係数である。式(9)に式(10)を代入することで変数shは以下の式(11)ように表される。
【0097】
【0098】
また、光線ベクトルrhは、デジタルカメラ20の内部パラメータKを用いて式(12) のように求められる。
【0099】
[式12]
よって、孔中心の3次元座標xhを、(xh、 yh、 zh) とすると、式(10) に式(11)~(12)を代入することで、孔中心の3次元座標は以下のように求められる。
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
<実験における装置構成等>
本実施形態の施工支援方法の有効性を検証するため、建設中のトンネルにて実験を行った。実験に使用した装置を
図10に示す。実験装置は、望遠レンズを取り付けたデジタルカメラ20、および交差するように取り付けた2本のラインレーザ11で構成した。
【0104】
幅広い距離での計測に対応するため、デジタルカメラ20とラインレーザ11の基線長を短く設定することにより、より多くの範囲でレーザ光の交点が画角に収まるように調整した。また、使用したデジタルカメラ20における装着レンズは可変焦点距離70-200mmのもので、実際に使用した焦点距離は200 mm、解像度は8256×5504 ピクセルとした。
【0105】
実験は、各計測について以下の手順で行った。まず実験装置を指定の位置に設置し、ラインレーザ11によりレーザ光をトンネルの周壁面3に投射してレーザオン画像を撮影した。次に実験装置を移動させずにレーザ光を消し、レーザオフ画像を撮影した。以上の手順を各条件について繰り返した。
【0106】
また、本実施形態における計測精度を従来手法の計測精度と比較するため、デジタルカメラ20のみを用いた手法(速水桃子、伊賀上卓也、井倉幹大、樋口寛、ルイ笠原純ユネス、伊藤哲、谷口信博、森野弘之、吉田健一、山下淳、淺間一: 孔口の楕円近似に基づくカメラ画像を用いたロックボルト孔の位置および角度推定、” 動的画像処理実利用化ワークショップ2022 講演論文集(2022)、pp。 18-23。)による計測を同時に行った。
【0107】
従来手法による計測では、撮影したレーザオフ画像に対し、「画像上の孔中心検出」手法にて述べたものを適用して挿入孔5を検出した。その後、挿入孔5として検出した楕円の長軸長さが、孔径と同一であるという仮定に基づき、既知の孔径と長軸長さの関係から孔中心の3次元座標を計測した。また、長軸長さと短軸長さの比から挿入孔5の方向を計測した。
【0108】
<実験条件>
実験条件を
図8 に示す。周壁面3に対するデジタルカメラ20の角度が変化することによる計測精度への影響を検証するため、デジタルカメラ20と挿入孔5との距離を固定し、デジタルカメラ20と周壁面3の角度を変えて実験を行った。
【0109】
デジタルカメラ20と挿入孔5との距離は約5mとした。地点1は周壁面3の正面である90degの位置とし、地点2は周壁面3の右斜め前である45deg の位置とした。なお、計測地点は挿入孔5との距離および周壁面3との距離をレーザ測距計で計測することにより決定した。
【0110】
また、周壁面3の表面にレーザ光を投影した際、当該レーザ光が孔内に投影される場合と孔外に投影される場合が考えられる。レーザ光が投影される位置が計測精度に及ぼす影響を検証するため、各地点において、レーザ光が孔内に投影されている条件とレーザ光が孔内に投影されていない条件の2通りの条件で計測を行った。
【0111】
実験には、コンクリートの厚さを計測するために用いる直径約50mmの挿入孔5を使用した。ここで、広く用いられているロックボルト径は約30mmであるため、ロックボルト1とロックボルト孔すなわち挿入孔5のクリアランスは±10mmである。よって、ロックボルト先端を挿入孔5に挿入するためには、孔中心の3次元座標のうちxy成分からなる2次元誤差が±10mm以下である精度で計測する必要がある。
【0112】
また、ロックボルト先端を挿入孔5に50mm挿入するためには、±25deg の精度で孔方向を計測する必要がある。
【0113】
提案手法による計測の精度を検証するため、トータルステーション(以下、TS)を用いて、挿入孔5の周囲に設置したARマーカ原点の3次元座標、および孔中心の3次元座標を計測した。TSを用いて挿入孔5の計測をしている様子を、
図12に示す。
図12 のようにARマーカ70を2か所取り付けた所定の棒1A(ロックボルト1としての棒)を挿入孔5に差し込み、当該ARマーカ70の位置を計測することにより、挿入孔5の方向を計測した。
【0114】
なお、実際の運用時におけるARマーカ70は、
図13にて示すように、コンピュータジャンボのアーム65の先端領域等に複数枚(例:3枚以上)を貼り付けて使用する。また、このARマーカ70を貼り付けたアーム65上の位置と、アーム65で把持状態下のロックボルト1の先端1Xとの間の距離、およびロックボルト1の延伸方向は、予め計測してあり、情報処理装置50が当該値を既知であるものとする。また、ARマーカ70は、その実寸と形状または色を予め規定したマーカである。
【0115】
こうした場合、情報処理装置50は、ARマーカ70をデジタルカメラ20で撮影した際の撮影画像のサイズから、撮影場所からARマーカ70までの距離(ARマーカ70の見た目上の観測サイズと実寸との比率を、デジタルカメラ20からの距離との関係で定めたテーブル等で判定可)を特定する。また、デジタルカメラ20での撮影画像における、ARマーカ70の見た目上の形状(の歪み等)とデジタルカメラ20との撮影位置との対応関係から、ARマーカ70とデジタルカメラ20との位置関係を特定する。
【0116】
一方、アーム65やARマーカ70とデジタルカメラ20との位置関係は、予め所定の座標系で定めてあり、またそれらの間の距離も既知であるため、情報処理装置50としては、この座標系における上述のARマーカ70の位置座標を算定し、さらに、その位置座標に基づいてロックボルト1の先端1Xの位置座標を特定する。
なお、デジタルカメラ20は、コンピュータジャンボ60におけるアーム65などの所定箇所であって、ARマーカ70を撮影画角に収める位置に設置されている。このデジタルカメラ20は、制御ユニット61又は情報処理装置50に当該撮影データを配信し、上述のアーム65の駆動等の各種制御につなげている。
【0117】
こうしてロックボルト1の先端1Xの位置座標を随時算定可能とすることで、情報処理装置50ないしコンピュータジャンボ60が、当該位置座標の値を制御ユニット61にリアルタイムで通知し、ロックボルト1の先端1Xと挿入孔5の孔中心や方向との差分を縮めるよう自動制御することとなる。
<実験結果>
レーザオフ画像に対して行った従来手法における孔検出結果および、変換後の画像に対して行った提案手法における孔検出結果のうち、検出した孔付近を拡大した画像を
図14に示す。
【0118】
図14(a)のように、従来手法において、周壁面3から斜めの位置から撮影した際の孔口は、デジタルカメラ20と周壁面3との関係を含んだ形状となっている。提案手法により、光切断法を用いて計測した周壁面3の表面を用いて、周壁面3に対し正面から見た画像に変換することにより、
図14(b)のような孔口形状を得た。
【0119】
光切断法により計測した周壁面3の表面の方向と真値との誤差を表1 に示す。
【0120】
【表1】
ここでは、TSを用いて計測した8点のARマーカ原点から算出した周壁面3の表面の方向を真値とした。
【0121】
表1より、地点1、地点2ともに高精度に周壁面3の方向を計測できた。孔方向の真値、デジタルカメラ20のみを用いて計測した孔方向、および提案手法により計測した孔方向を比較し、評価を行った。
【0122】
ここでは、TSを用いて計測した孔方向を真値とした。計測結果の真値との誤差を表2に示す。
【0123】
【0124】
この表2より、従来手法では地点1での計測において挿入孔5にロックボルト先端を挿入するために必要な精度である±25deg以内での計測が達成できなかったが、提案手法を用いることにより、地点1、地点2の全ての条件において目標精度以下での計測を達成した。このことから、提案手法による計測結果により、ロックボルト先端を挿入孔5に挿入可能であることを示した。
【0125】
また、孔中心の3次元座標の真値、デジタルカメラ20のみを用いて計測した孔中心の3次元座標および提案手法により計測した孔中心の3次元座標を比較し、評価を行った。
【0126】
ここでは、TSを用いて計測した孔中心の3次元座標を真値とした。真値、計測結果およびxy成分の誤差からなる2次元誤差を表3に示す。
【0127】
【0128】
この表3より、従来手法による計測では、地点2のレーザが孔外にある条件以外ではロックボルト先端を挿入孔5に挿入するために必要な精度である±10mmの精度を満たせなかった。一方、提案手法を用いることにより、地点1、地点2の全ての条件において、要求精度以下での計測を達成した。このことから、提案手法による計測により、ロックボルト先端を挿入孔5に挿入することが可能であることを示した。
【0129】
以上の結果を踏まえ、光切断法による3次元計測とデジタルカメラ20での撮影画像による孔検出を併用し、遠方にある挿入孔5の3次元座標および方向を計測する方法の有効性が検証できた。
【0130】
また、本実施形態における手法の実現性を確認するために建設中のトンネルで行った実験では、観測ユニット10等から5m遠方の周壁面3に開いた直径約50mmの挿入孔5に対し計測を行い、その結果から、地点1、地点2 の全ての条件において、従来手法では達成できなかった目標精度(±25deg以内)での孔方向の計測を達成した。
【0131】
また、孔中心の3次元座標計測についても、地点1、地点2の全ての条件において、従来手法では達成できなかった目標精度である2 次元誤差±10mm以内での計測を達成した。このことから、本実施形態の手法による計測結果を用いて、挿入孔5に対しロックボルト1の先端を挿入可能であることを示した。
また、こうした挿入孔の位置や角度の情報を、コンピュータジャンボ60などの施工装置にセットすることで、人力によらず、挿入孔5へのロックボルト1等の挿入が可能となる。こうした情報をセットしたコンピュータジャンボ60における表示画面500の例を
図15にて示す。表示画面500で示すように、周壁面3の表面における挿入孔5と、ロックボルト1の先端1Xとの位置関係を視認可能に表示し、コンピュータジャンボ60による自動挿入動作の様子を施工担当者等が確認可能となる。
このことは、トンネル上部などの高所や危険個所での人手の作業を不要とし、作業員の各種負担やリスクが軽減される。また、挿入孔5への挿入動作に伴うロックボルト1等の破損や変形の可能性を低減する効果も期待出来る。
【0132】
以上、本実施形態によれば、トンネル壁面における棒状部材の挿入孔の位置及び角度を、適宜離れた距離から効率的かつ高精度に計測可能となる。
【0133】
本発明の実施の形態について、その実施の形態に基づき具体的に説明したが、これに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【符号の説明】
【0134】
N ネットワーク
1 ロックボルト(棒状部材)
2 地山
3 トンネルの周壁面(壁面)
5 (ロックボルトの)挿入孔
10 観測ユニット
11 レーザ光源
12 記憶媒体
13 観測データ
14 近距離無線通信手段
15 リーダー
20 デジタルカメラ(撮影装置)
21 レンズ
22 記憶媒体
23 撮影データ
24 近距離無線通信手段
25 リーダー
50 情報処理装置
51 記憶装置
52 プログラム
53 メモリ
54 演算装置
55 入力装置
56 出力装置
57 通信装置
60 コンピュータジャンボ(棒状部材の施工装置)
61 制御ユニット
62 通信ユニット
65 アーム
70 ARマーカ
100 施工支援システム