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特開2024-100295コンクリート構造物の補強方法及び補強構造
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100295
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】コンクリート構造物の補強方法及び補強構造
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20240719BHJP
【FI】
E04G23/02 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023004177
(22)【出願日】2023-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000103769
【氏名又は名称】オリエンタル白石株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】507194017
【氏名又は名称】株式会社高速道路総合技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】505398941
【氏名又は名称】東日本高速道路株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】505398952
【氏名又は名称】中日本高速道路株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】505398963
【氏名又は名称】西日本高速道路株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169155
【弁理士】
【氏名又は名称】倉橋 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075638
【弁理士】
【氏名又は名称】倉橋 暎
(72)【発明者】
【氏名】三宅 央真
(72)【発明者】
【氏名】立石 晶洋
(72)【発明者】
【氏名】正司 明夫
(72)【発明者】
【氏名】高橋 謙一
(72)【発明者】
【氏名】渡瀬 博
(72)【発明者】
【氏名】東 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】萩原 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】岩生 知樹
【テーマコード(参考)】
2E176
【Fターム(参考)】
2E176AA01
2E176AA02
2E176AA04
2E176BB29
(57)【要約】      (修正有)
【課題】補強繊維シートを使用して、コンクリート構造物からの補強繊維シートの端部剥離の発生を回避し、所期の補強効果を達成することのできるコンクリート構造物の補強方法及び補強構造を提供する。
【解決手段】補強繊維シート1は、多数本の連続した強化繊維を一方向に収束した連続強化繊維束にて形成される連続繊維ストランドを配列して形成された補強繊維シート本体1cと、補強繊維シート本体の軸線方向の一側と他側にて細長棒状に賦形された取付部1aと、細長棒状取付部と補強繊維シート本体との間で細長棒状取付部から補強繊維シート本体へと扇状に拡開して細長棒状取付部と補強繊維シート本体とを接続している扇状定着部1bと、を有しており、補強繊維シートの補強繊維シート本体及び扇状定着部をコンクリート構造物の表面に接着剤にて接着し、取付部をコンクリート構造物に形成した取付孔に埋め込み、接着剤にて固着する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続した強化繊維を含むシート状の連続繊維補強部材である補強繊維シートをコンクリート構造物の表面に接着するコンクリート構造物の補強方法であって、
前記補強繊維シートは、
多数本の連続した強化繊維を一方向に収束した連続強化繊維束にて形成される連続繊維ストランドを20~288本長さ方向に配列して形成された補強繊維シート本体と、
前記補強繊維シート本体の軸線方向の一側と他側にて細長棒状に賦形された取付部と、
前記細長棒状取付部と前記補強繊維シート本体との間で前記細長棒状取付部から前記補強繊維シート本体へと扇状に拡開して前記細長棒状取付部と前記補強繊維シート本体とを接続している扇状定着部と、を有しており、
前記補強繊維シートの前記補強繊維シート本体及び前記扇状定着部を前記コンクリート構造物の表面に接着剤にて接着し、前記取付部を前記コンクリート構造物に形成した取付孔に埋め込み、接着剤にて固着する、
ことを特徴とするコンクリート構造物の補強方法。
【請求項2】
前記補強繊維シートは、少なくとも前記補強繊維シート本体が接着される領域は、弾性樹脂層を介して前記コンクリート構造物の表面に接着することを特徴とする請求項1に記載のコンクリート構造物の補強方法。
【請求項3】
前記補強繊維シートは、前記扇状定着部に対して前記補強繊維シートの軸線方向に直交する方向に配置した定着補強部材を接着して前記コンクリート構造物に定着することを特徴とする請求項1に記載のコンクリート構造物の補強方法。
【請求項4】
連続した強化繊維を含むシート状の連続繊維補強部材である補強繊維シートがコンクリート構造物の表面に接着されたコンクリート構造物の補強構造であって、
前記補強繊維シートは、請求項1~3のいずれかの項に記載の構成とされるコンクリート構造物の補強方法によって、前記補強繊維シートの前記補強繊維シート本体及び前記扇状定着部は、前記コンクリート構造物の表面に接着剤にて接着されており、前記取付部は、前記コンクリート構造物に形成した取付孔に埋め込み、接着剤にて固着されている、
ことを特徴とするコンクリート構造物の補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般には、耐震補強のために、例えば橋梁、高架橋、建築物等の梁、桁、柱、壁等のコンクリート構造物を構成するコンクリー部材に、連続した強化繊維を含むシート状の連続繊維補強部材(以後、単に「補強繊維シート」という。)を貼付して、コンクリート構造物を補修補強(以後、単に「補強」という。)するコンクリート構造物の補強に関するものである。特に、本発明は、補強繊維シートの端部をコンクリート部材に定着するための定着アンカー機能を備えた補強繊維シートを使用したコンクリート構造物の補強方法及び補強構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、既存或いは新設の鉄筋コンクリート橋脚においては、耐震補強のために、橋脚の躯体の周囲を鋼板により巻き立てて補強を施す鋼板巻立て工法や、既存のコンクリート柱の外周部分に鉄筋を配筋し、その上にモルタル層を形成するコンクリート増厚工法などが行われている。しかしながら、斯かる従来工法は、鋼板等の重量物を運搬し設置する必要があり、これらの工事には多くの施工時間及びコストを余儀なくし、また、これらの工法によると、断面積が増加するなど施工上の制約がある。
【0003】
このような従来工法が有する補強による構造物の重量増加や工事の煩雑さなどに起因して、近年は、既存或いは新設のコンクリート構造物の梁、桁、柱、壁などのコンクリート部材の補強方法においては、構造物の表面に補強材として炭素繊維シートやアラミド繊維シートなどの補強繊維シートをエポキシ樹脂にて貼り付けたり、巻き付けたりする連続繊維シート接着工法が行われている。
【0004】
このとき、補強繊維シートをコンクリート構造物に貼り付けて補強する場合、補強繊維シートの端部の剥離を防止することが重要である。例えば、特許文献1、2には、本願添付の図22(a)に示すように、多数本の連続繊維ストランドを一方向に引き揃え、細幅或いは縮径部分200aと、該細幅或いは縮径部分200aの一端部或いは両端部に扇形状或いはラッパ形状の拡開部分200bとを有する定着アンカー200を示している。この定着アンカー200は、図22(b)に示すように、柱220を補強繊維シート50で補強する場合には、柱220に隣接した袖壁260の部分に貫通孔10を形成して、この貫通孔10に、定着アンカー200を通し、貫通孔10内に位置する中央部200aの両端部分200bを扇状に成形して拡げ、柱220の左側外周面と右側外周面とに分断して貼り付けられた補強繊維シート50に樹脂を使用して重ねて貼り付け、分断された補強繊維シート50を連結する方法が記載されている。
【0005】
一方、袖壁260が定着アンカー200を通すための貫通孔を形成するのが不可能か或いは極めて困難な場合には、障害となる袖壁260部分には、図23(a)に示すように、定着アンカー取付孔10を形成して、この孔10に定着アンカー200の一端200aを埋め込み、他端200bを補強繊維シート50に貼り付けて定着することが行われている。同様に、図23(b)に示すように、袖壁260部分を補強繊維シート50で補強する場合には、隣接する柱220に貫通孔を形成するのは不可能であり、通常、柱220部分には、定着アンカー取付孔10を形成して、この孔10に定着アンカー200の一端200aを埋め込み、他端200bを壁260に貼り付けられた補強繊維シート50の端部に貼り付けて定着することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4463657号公報
【特許文献2】特開2010-24620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1、2に記載の従来の補強方法では、定着アンカー200は、補強繊維シート50の端部のコンクリート部材に対する定着不足を解消するために使用されており、そのため、コンクリート部材に曲げ、せん断等の荷重が掛かった場合に補強繊維シートがコンクリート構造物から端部剥離するのを防止することが重要である。
【0008】
本発明者らは、特に、上記図23(a)、(b)に示される、所謂、「埋込型」定着アンカーを使用したコンクリート構造物の補強について研究実験を行った。その結果次のことが分かった。
【0009】
つまり、通常、コンクリート構造物の耐震補強において補強繊維シートの大きな定着強度を得るためには、強化繊維として炭素繊維を使用した図23(a)、(b)に示される形態の「埋込型」定着アンカーが使用される。その際、繊維目付量が大とされた補強繊維シートによる補強を可能とするために、例えば24000本の炭素繊維から成る連続繊維ストランドを144本まで使用した強度を有した定着アンカーが使用可能であるが、連続繊維ストランドを144本を超えて使用した定着アンカーでは、定着アンカーとしての破壊強度が低下し、定着アンカーと補強繊維シートの層間で剥離が生じて使用することができないことが分かった。
【0010】
一方、近年、例えば、大型の箱桁を有する高架橋のようなコンクリート構造物の補強のように、補強繊維シートによる補強量が大とされる、例えば、繊維目付量が1200g/mを超えるような補強が要求されている。そこで、従来の、所謂、「埋込型」定着アンカーの代わりに、補強繊維シート自体が定着アンカー機能を備えることとし、定着アンカーを使用する必要のない補強繊維シートを創案するに至った。
【0011】
そこで、本発明の主たる目的は、所謂、「埋込型」定着アンカーの機能をも有した補強繊維シートを使用して、定着強度を向上させ、コンクリート構造物からの補強繊維シートの端部剥離の発生を回避し、所期の補強効果を達成することのできるコンクリート構造物の補強方法及び補強構造を提供することである。
【0012】
本発明の他の目的は、例えば、大型の箱桁を有する高架橋のようなコンクリート構造物の補強のように、コンクリート構造物に貼り付ける補強繊維シートによる補強量が大とされる補強においても、補強繊維シートとコンクリート構造物との間の剥離強度を大とし、定着アンカーとしての破壊強度を増大させ、補強繊維シートとコンクリート構造物との間の剥離を起こすことのない定着強度が大とされる補強繊維シートを使用したコンクリート構造物の補強方法及び補強構造を提供することである。
【0013】
本発明の他の目的は、補強繊維シートの端部剥離の発生を回避することができ、曲げ、せん断に対する耐力を増大させ、コンクリート構造物の耐震補強を極めて有効にしかも簡易な方法で達成することができる補強繊維シートを使用したコンクリート構造物の補強方法及び補強構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上諸目的は、本発明に係るコンクリート構造物の補強方法及び補強構造にて達成される。第1の本発明によると、連続した強化繊維を含むシート状の連続繊維補強部材である補強繊維シートをコンクリート構造物の表面に接着するコンクリート構造物の補強方法であって、
前記補強繊維シートは、
多数本の連続した強化繊維を一方向に収束した連続強化繊維束にて形成される連続繊維ストランドを20~288本長さ方向に配列して形成された補強繊維シート本体と、
前記補強繊維シート本体の軸線方向の一側と他側にて細長棒状に賦形された取付部と、
前記細長棒状取付部と前記補強繊維シート本体との間で前記細長棒状取付部から前記補強繊維シート本体へと扇状に拡開して前記細長棒状取付部と前記補強繊維シート本体とを接続している扇状定着部と、を有しており、
前記補強繊維シートの前記補強繊維シート本体及び前記扇状定着部を前記コンクリート構造物の表面に接着剤にて接着し、前記取付部を前記コンクリート構造物に形成した取付孔に埋め込み、接着剤にて固着する、
ことを特徴とするコンクリート構造物の補強方法が提供される。
【0015】
第1の本発明の一実施態様によると、前記補強繊維シートは、少なくとも前記補強繊維シート本体が接着される領域は、弾性樹脂層を介して前記コンクリート構造物の表面に接着する。
【0016】
第1の本発明の他の実施態様によると、前記補強繊維シートは、前記扇状定着部に対して前記補強繊維シートの軸線方向に直交する方向に配置した定着補強部材を接着して前記コンクリート構造物に定着する。
【0017】
第2の本発明によると、連続した強化繊維を含むシート状の連続繊維補強部材である補強繊維シートがコンクリート構造物の表面に接着されたコンクリート構造物の補強構造であって、
前記補強繊維シートは、上記いずれかの構成とされるコンクリート構造物の補強方法によって、前記補強繊維シートの前記補強繊維シート本体及び前記扇状定着部は、前記コンクリート構造物の表面に接着剤にて接着されており、前記取付部は、前記コンクリート構造物に形成した取付孔に埋め込み、接着剤にて固着されている、
ことを特徴とするコンクリート構造物の補強構造が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るコンクリート構造物の補強方法及び補強構造によると、使用する補強繊維シートが「埋込型」定着アンカーの機能をも有しており、定着強度を向上させ、コンクリート構造物に貼り付けて補強する補強繊維シートの端部剥離の発生を回避し、所期の補強効果を達成することができる。又、本発明によると、定着強度が大とされる補強繊維シートを使用することにより、例えば、大型の箱桁を有する高架橋のようなコンクリート構造物の補強のように、コンクリート構造物に貼り付ける補強繊維シートによる補強量が大とされる補強においても、補強繊維シートとコンクリート構造物との間の剥離強度を大とし、定着アンカーとしての破壊強度を増大させ、補強繊維シートとコンクリート構造物との間の剥離を起こすことがない。
【0019】
更に、本発明によると、補強繊維シートの端部剥離の発生を回避することができ、曲げ、せん断に対する耐力を増大させ、コンクリート構造物の耐震補強を極めて有効にしかも簡易な方法で達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1(a)及び図1(b)は、それぞれ、本発明に使用する補強繊維シートの一実施例の構成を説明する斜視図及び平面図であり、図1(c)は、連続繊維ストランドの一実施例を示す斜視図である。
図2図2(a)、(b)は、本発明に係る補強繊維シートを使用した補強方法の一実施例を説明するための図であり、図2(a)は、コンクリート構造物の一実施例を示す箱桁を有するコンクリート構造物の正面図であり、図2(b)は、箱桁の壁部材が補強繊維シートで補強された状態を示す斜視図である。
図3図3(a)、(b)は、本発明に係る補強繊維シートを作製するための強化繊維シートの一実施例を示す概略構成図である。
図4図4は、本発明に係る補強繊維シートを作製するための強化繊維シートの編成の一実施例を説明するための説明図である。
図5図5は、本発明に係る補強繊維シートを作製するための強化繊維シートを構成する連続繊維ストランドの概略構成図である。
図6図6(a)、(b)は、連続繊維ストランドの他の実施例を説明する概略構成図である。
図7図7(a)~(d)は、本発明に係る補強繊維シートの作製方法の一実施例を説明するための説明図である。
図8図8(a)~(d)は、本発明に係る補強繊維シートの作製方法の他の実施例を説明するための説明図である。
図9図9(a)~(c)は、本発明に係る補強繊維シートを作製するための強化繊維シートの他の実施例と、この強化繊維シートを使用した補強繊維シートの作製方法を説明するための説明図である。
図10図10は、本発明に係る補強繊維シートを作製するための強化繊維シートの他の実施例を示す概略構成図である。
図11図11(a)~(c)は、本発明に係る補強繊維シートの作製方法の他の実施例を説明するための説明図であり、図11(d)は、連続繊維ストランドの一実施例を示す斜視図である。
図12図12(a)、(b)は、本発明に係る補強繊維シートを使用した補強方法の一実施例を説明するための図であり、図12(a)は、コンクリート構造物の一実施例を示す箱桁を有するコンクリート構造物の部分正面図であり、図12(b)は、図12(a)における矢印A方向に見た部分正面図であり、箱桁の壁部材が補強繊維シートで補強された状態を示す図である。
図13図13(a)は、本発明の補強方法の一実施例を説明するためのコンクリート構造物の壁部材と床版の部分断面図であり、図13(b)は、取付孔の一実施例を説明する図13(a)における矢印A方向に見た部分正面図である。図13(c)及び図13(d)は、本発明の補強方法の一実施例を説明するためのコンクリート構造物の壁部材と床版の部分断面図である。図13(e)は、図13(d)における矢印A方向に見た部分正面図である。
図14図14(a)~(c)は、本発明の補強方法の他の実施例を説明するための図である。
図15図15(a)は、本発明の補強方法の他の実施例を説明するためのコンクリート構造物の壁部材と床版の部分断面図であり、図15(b)は、本発明の補強方法の他の実施例を説明するためのコンクリート構造物の壁部材と床版の部分断面図である。図15(c)は、図15(b)における矢印A方向に見た部分正面図である。
図16図16(a)は、本発明の補強方法の他の実施例を説明するためのコンクリート構造物の断面図であり、図16(b)は、正面図である。
図17図17(a)は、本発明の補強方法の他の実施例を説明するためのコンクリート構造物の断面図であり、図17(b)は、正面図である。
図18図18(a)は、本発明の補強方法の他の実施例を説明するためのコンクリート構造物の断面図であり、図18(b)は、正面図である。
図19図19は、本発明にて使用することのできる定着用補強繊維シートの一実施例の構成を説明する斜視図である。
図20図20(a)は、本発明にて使用することのできる定着用補強繊維シートの他の実施例の構成を説明する斜視図であり、図20(b)、(c)は、定着用補強繊維シートに使用する連続繊維ストランドの断面図である。
図21図21(a)~(c)は、本発明のコンクリート構造物の補強方法及び補強構造を実証するための本発明の実験例で使用した試験片及び試験装置の構成を説明するための図である。
図22図22(a)は、従来のコンクリート構造物の補強の際に使用される定着アンカーを示す平面図であり、図22(b)は、定着アンカーを使用したコンクリート構造物の補強態様を説明するための斜視図である。
図23図23(a)、(b)は、従来のコンクリート構造物の補強の際に使用される定着アンカー及びコンクリート構造物の補強態様を説明するための斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係るコンクリート構造物の補強方法及び補強構造を実施例に即して更に詳しく説明する。
【0022】
実施例1
図1(a)~(c)に本発明に使用される補強繊維シート1の一実施例を示し、図2(a)、(b)に示す箱桁を有する高架橋のコンクリート構造物100を参照して本発明に係る補強繊維シート1が箱桁の壁部材120(120A、120B)の補強に使用された実施例について説明する。
【0023】
本実施例では、本発明の補強繊維シート1を使用した補強方法及び補強構造は、図2(a)、(b)に図示するように、例えば、高架橋等の箱桁を有するコンクリート構造物100に適用されるものとして説明するが、本発明はこのような構造のコンクリート構造物100の耐震補強のための補強に限定されるものではない。
【0024】
図2(a)に示すように、箱桁を有する高架橋などのようなコンクリート構造物100は、一般に、水平方向に延在し、上面に舗装111が施される上床版(上フランジ)110A、上床版110Aと略平行に水平方向に延在した下床版(下フランジ)110B、及び、上床版110Aと下床版110Bとを一体に接続する垂直に配置された腹部(ウェブ)120(120A、120B)を有しており、所謂、断面形状が箱形の中空梁(箱桁)を有したコンクリート構造物とされる。
【0025】
上述にて理解されるように、本実施例にて、箱桁を有するコンクリート構造物100において、構造物が地震等により水平及び/又は垂直方向への変形荷重を受けた場合には、腹部(以下、「壁部材」と呼ぶ場合もある。)120には、曲げ及び/又はせん断荷重が負荷されることが考えられる。
【0026】
そこで、以下に詳しく説明するように、壁部材120(120A、120B)には、本発明に従って補強繊維シート1により耐震補強がなされる。
【0027】
図2(a)に示すような箱桁を有する高架橋のコンクリート構造物100は、図示するように、壁部材120の上下に上床版110Aと下床版110Bが位置しており、補強繊維シート1を貼着した壁部材120の端部定着を成すには上床版110Aと下床版110Bが障害物となる。また、壁部材120と、上床版110A及び下床版110Bとが交差して互いに連結された接合部101の構造物内面には、傾斜壁、所謂、「ハンチ」140が形成される。このような場合には、特に、従来の、定着アンカーを使用しての補強繊維シートの端部定着はその施工が困難となる。従って、本発明では、詳しくは後述するが、補強繊維シートの端部に形成した取付部1a(図1(a)参照)がハンチ140等に形成された取付孔10(図13(d)参照)に埋め込まれ、固定される。
【0028】
本実施例の説明では、図2(a)にて、補強繊維シート1によるコンクリート構造物200の耐震補強については、右側の壁部材120Aの補強について、また、図2(b)に示すように、右側の壁部材120Aの下端領域の補強に関連して述べるが、上端領域の補強も同様に行われることを理解されたい。また、左側の壁部材120Bの下端及び上端領域の補強も同様に行うことができる。従って、以下の説明では、右側、左側の壁部材120A、120Bを区別することなく単に「壁部材120」と総称し、また、上床版110A、下床版110Bを区別することなく単に「床版110」と総称して説明する。
【0029】
(補強繊維シート)
本発明に係る補強繊維シート1は、図1(a)~(c)及び図2(a)、(b)に示すように、コンクリート構造物100の表面に貼着され、コンクリート構造物を補強するシート状の連続繊維補強部材である。
【0030】
図1(a)~(c)を参照すると、本発明の補強繊維シート1は、詳しくは後述するように、多数本の連続した強化繊維を一方向に収束した連続強化繊維束にて形成される連続繊維ストランド2を20~288本長さ方向に配列して形成された補強繊維シート本体1cと、補強繊維シート本体1cの軸線方向の両側に位置して細長棒状に賦形された取付部1a、1aと、細長棒状取付部1aと補強繊維シート本体1cとの間で細長棒状取付部1aから補強繊維シート本体1cへと扇状に拡開して細長棒状取付部1aと補強繊維シート本体1cとを接続している扇状定着部1b、1bとを有する。
【0031】
本発明の補強繊維シート1は、補強繊維シート本体1cがコンクリート構造物100の表面に貼着され、また、補強繊維シート1の端部がコンクリート構造物表面から剥離するのを回避するために補強繊維シート1の端部に形成した取付部1aを、コンクリート構造物100に穿設した取付孔10(図13(d)参照)に埋め込み固定して定着を行う。
【0032】
斯かる補強繊維シート1を使用した本発明の補強方法及び補強構造は、曲げ、せん断に対する耐力を向上させ耐震補強を行うコンクリート構造物に広く適用し得るものであり、例えば橋梁、高架橋等のコンクリート構造物を構成する種々のコンクリー部材に施工される。
【0033】
本実施例にて、補強繊維シート1は、図1(b)に示すように、補強繊維シート本体1cは軸線方向の長さL1cが、コンクリート構造物の必要とされる所定の補強範囲長さ、即ち、壁部材120の被補強面の長さL120(図2(a)、(b)参照)とされる。つまり、補強繊維シート1の軸線方向の長さL1cは、補強繊維シート1が、例えば、図2(a)、(b)に示す本実施例のコンクリート構造物100における箱桁の壁部材120(120A、120B)の補強に使用される場合は、L1c=2m以上、例えば3~4m程度とされることもある。また、幅W1は、製造上、取扱い性などの点をも考慮して20~50cmとされる。ただ、これに限定されるものではない。
【0034】
補強繊維シート1の細長棒状取付部1aは、軸線方向の長さL1aが10~50cm、直径D1が8~60mmとされる。軸線方向の長さL1aが10cm未満で且つ直径D1が8mm未満の場合、補強繊維シート1のコンクリート構造物への取付固着力が小さく不十分であり、また、軸線方向の長さL1aが50cmを超え、且つ直径D1が60mmを超えると、補強繊維シート1のコンクリート構造物への取付固着力が必要以上に大となり、コスト高となる。通常、補強繊維シート1の細長棒状取付部1aは、軸線方向の長さL1aが20~40cm、直径D1が10~50mmとされる。
【0035】
扇状定着部1bは、軸線方向の長さL1bが10~100cmとされる。軸線方向の長さL1bが40cm未満で、且つ、扇形最大幅、即ち、肩幅(補強繊維シート本体1cの幅)W1が50cmを超えると、つまり、連続繊維ストランド2の最大拡開角度αmaxが大きくなり過ぎると、連続繊維ストランド2を構成する繊維f、特に高弾性の炭素繊維などを使用した場合には、繊維fが折損する場合が生じ問題が発生する。通常、扇状定着部1bは、軸線方向の長さL1bが40~80cmとされる。
【0036】
本発明にて、補強繊維シート1は、上述にて理解されるように、コンクリート構造物100の表面に貼着された補強繊維シート1がコンクリート構造物表面から剥離するのを回避するために補強繊維シート1の端部に形成した取付部1aを、コンクリート構造物100に穿設した取付孔10(図13(d)参照)に埋め込み固定して定着を行う。
【0037】
斯かる補強繊維シート1を使用した本発明の補強方法及び補強構造は、端部剥離防止のために別部材として用意された定着アンカーを使用する必要がなく、曲げ、せん断に対する耐力を向上させ耐震補強を行うコンクリート構造物に広く適用し得るものであり、例えば橋梁、高架橋等のコンクリート構造物を構成する種々のコンクリー部材に施工される。
【0038】
本発明に使用する補強繊維シート1は、図1(c)に示す樹脂未含浸の多数本の連続繊維ストランド2を使用して、任意の方法にて図1(a)、(b)に示す形状に賦形して作製することができるが、次に、本発明の補強繊維シート1の製造方法を実施例に則して説明する。
【0039】
(1-1)第一の製造実施例
本発明に使用する補強繊維シート1の第一の製造実施例について説明する。補強繊維シート1は、上述した特許文献1(特許第4463657号公報)に記載される定着アンカーを作製するために使用される連続繊維ストランドから成る連続繊維補強部材を用いて作製することができる。以下に図面に則して説明する。
【0040】
図3図7に本発明に係る補強繊維シート1の第一の製造実施例を示す。本実施例にて、補強繊維シート1は、図3(a)、(b)に示されるシート状の連続繊維補強部材、即ち、強化繊維シート1Aを使用して、例えば図7(a)~(d)に示す作製手順にて、図1(a)、(b)に示す形状寸法に賦形される。図3(a)は、平面状の強化繊維シート1Aを一側(表)から見た図であり、図3(b)は、強化繊維シート1Aを他側(裏)から見た図である。
【0041】
本実施例によると、強化繊維シート1Aは、図1(c)、図5などに示すように、高強度の定着力をも達成し得るように、柔軟性を有する連続繊維ストランド2を20本~288本の範囲で所定本数だけ長さ方向に沿って一方向に引き揃えることにより作製される。通常、作製された補強繊維シート1は、繊維目付量30~1200g/mにて使用される。
【0042】
更に説明すると、図1(c)に示すように、各連続繊維ストランド2は、一方向に並列に引き揃えられている多数の連続した強化繊維fを集束して連続強化繊維束Fを形成し、この繊維束Fにて連続繊維ストランド2が形成される。例えば、連続繊維ストランド2は、ヤング率(引張弾性率)が70GPa以上の弾性を有した強化繊維を使用することができ、強化繊維fとしては、炭素繊維、ガラス繊維などの無機繊維、アラミド繊維などの有機繊維を好適に使用し得る。
【0043】
特に補強繊維シート1として炭素繊維が使用される大型の箱桁を有する高架橋のようなコンクリート構造物の補強においては、炭素繊維が好適に使用され、好ましくは、特に、ヤング率が280~500GPaとされる中弾性の炭素繊維、及び、ヤング率が500GPa以上とされる高弾性の炭素繊維を好適に使用することができる。なお、他の繊維のヤング率について言えば、典型的には、ガラス繊維は70~90GPa、アラミド繊維は70~120GPaとされる。
【0044】
連続繊維ストランド2は、図1(c)に示すように、通常、略円形断面形状とされるが、必要に応じて、同等面積とされる円形に近似した楕円形、長円形、多角形、その他の種々の断面形状とすることができる。従って、本発明にて断面が円形状とは、このような近似円形断面形状をも含むものとする。
【0045】
連続繊維ストランド2は、一般に繊維径が5~20μmとされる強化繊維fを3000~96000本収束して形成される強化繊維束Fにて構成される樹脂含浸されていない、所謂、ドライ状態の各連続繊維ストランド2であり、この連続繊維ストランド2は、横断面積Sが0.1~5mm(通常、0.6~1.2mm)であるのが、柔軟性の点、樹脂含浸性の点から好適である。ここで、連続繊維ストランド2の「横断面積」とは、空隙を含まない、強化繊維fのみの横断面積の総和を意味する。
【0046】
本製造実施例にて強化繊維シート1Aは、図3(a)、(b)に示すように、拘束糸(即ち、鎖編糸)3がループ状に縦方向に連続して鎖編み目を形成しながら編成されて作製された鎖編み部(編み組織)30を有する。各連続繊維ストランド2は、詳しくは図4を参照して後述するが、この編み組織30の鎖編み目3Aの中に直交させて配置されている。
【0047】
また、各連続繊維ストランド2を拘束する編み組織30は、互いに隣接した編み組織30が互いに挿入糸4により結束される。つまり、挿入糸4は、編み組織30に対して横方向に挿入され、本実施例では、隣り合った連続繊維ストランド2を囲包して編成された編み組織30に対して、連続繊維ストランド2の長手方向(即ち、縦方向)に沿って所定間隔にて絡み合い、複数の連続繊維ストランド2を平面状に、即ち、強化繊維シート状態に保形する。
【0048】
図4を参照して、拘束糸3がループ状に縦方向に連続して編成された編み組織30の中を、各連続繊維ストランド2が直交して配置されている状態、及び、編み組織30に対する挿入糸4の編絡状態について説明する。
【0049】
図4に示すように、拘束糸3は、ループ状に縦方向に連続して編成されて編み組織30を形成し、複数の縦方向編み組織30により編み構造30Aが形成される。この編み構造30Aを構成する各編み組織30の鎖編み目3Aを貫通するようにして、連続繊維ストランド2が挿入配置される。
【0050】
図4は、理解を容易とするために、連続繊維ストランド2が編み組織30の鎖編み目3Aを貫通するように屈曲している状態にて示すが、実際には、連続繊維ストランド2が曲がることはなく、図3(a)、(b)、図5に示すように、直線状態に配置された連続繊維ストランド2に対して、拘束糸3により編成された編み組織30の鎖編み目3Aが編み込まれることとなる。
【0051】
このような編み組織30に対して、図4に示すように、横方向に挿入して挿入糸4が編み込まれ、隣り合った編み組織30が互いに結束される。
【0052】
つまり、本実施例の強化繊維シート1Aによれば、拘束糸3が縦方向に連続的に、且つ、平面状に編成して編み構造30Aが形成され、この編み構造30Aにおける縦方向に連続的に編成された編み組織30の中に、多数の連続した強化繊維fを一方向に束ねて形成した連続繊維ストランド2が挿入される。そして、縦方向編み組織30の中に挿入された各連続繊維ストランド2は、縦方向の編み組織30に対して横方向に挿入された挿入糸4で連結することによって保形される。
【0053】
上記編み構造30Aにより拘束され、保形された強化繊維シート1Aは、当業者には周知の編成機(経編機)を用いて、複数の連続繊維ストランド2、編み組織30を構成する拘束糸3、及び、編み組織30を結束する挿入糸4を編み込むことによって生産性良く、高品質にて作製することができる。また、連続繊維ストランド2を拘束糸3及び挿入糸4による編み構造により拘束し、保形しているために、強化繊維を縫製して拘束保形する場合に発生する針によるダメージや繊維束割れなどの問題は発生しない。
【0054】
つまり、本実施例によれば、強化繊維シート1Aが編み構造とされるために、伸縮性を有し且つ形態が安定しており、また、編み機による連続生産が可能であり、品質が均一で高品質の製品を製造することができる。また、強化繊維シート1Aは、挿入糸4によりその形状が横方向に対して伸縮自在に保形されているために、横方向形状の広狭が変形可能とされる。挿入糸4と編み組織30との結合回数を変更することにより、強化繊維シート1Aの柔軟性を調整することが可能である。
【0055】
本製造実施例において、各連続繊維ストランド2は、多数の連続した強化繊維fを集束して形成される繊維束Fにて構成される。上述のように、本実施例にて、複数の連続繊維ストランド2が一方向に引き揃え並置された平面状の、即ち、シート状の強化繊維シート1Aでは、各連続繊維ストランド2は、図5に示すように、互いに空隙(g)=0.1~20mmだけ近接離間して、挿入糸4にて伸縮性を有して固定され、シート状態に保形される。また、このようにして形成された強化繊維シート1Aの長さ(L)及び幅(W)は、適宜決定されるが、取扱い上の問題から、一般に、全幅(W)は、10~500mmとされる。又、長さ(L)は、100m以上のものを製造し得るが、使用時においては、適宜切断して使用される。
【0056】
連続繊維ストランド2の繊維量を増やしたい場合には、図6(a)、(b)に示すように、縦方向或いは横方向に繊維束Fを複数、例えば、図示するように2本、或いはそれ以上積層し、つまり、複数本の連続繊維ストランド2a、2bを一つの連続繊維ストランド2として使用する構成としても良い。積層数は、必要幅内に使用される強化繊維及び連続繊維ストランドの太さと糸本数で決定される。この場合においても、上述したように、本実施例の強化繊維シート1Aは、拘束糸3及び挿入糸4と共に編み構造とされ、安定した形態にて均一な且つ高品質の製品とし得る。
【0057】
上述のように、本実施例の強化繊維シート1Aは、各連続繊維ストランド2が個々に、編み組織30を形成している拘束糸3により拘束され、且つ、互いに並置された各連続繊維ストランド2は、挿入糸4により所定形状へと変形可能に保形されている。
【0058】
このように、本実施例にて、拘束糸3は、コンクリート補修補強の施工時に連続繊維ストランド2、即ち、強化繊維fに樹脂を含浸する樹脂含浸時において強化繊維が膨潤し、繊維配向に乱れや樹脂含浸不良が発生するのを防止する。又、挿入糸4は、拘束糸3で拘束された連続繊維ストランド2、2間の距離を規定し、各連続繊維ストランド2がずれてストランド間の距離が変わらないように、拘束糸3と絡み合い固定化する機能をなす。
【0059】
従って、本実施例の補強繊維シート1によれば、樹脂含浸時においても繊維の直線性が維持され、従来の他の定着アンカーのように、樹脂含浸時に繊維の配向が乱れ、定着後の強度が低下するようなことはない。
【0060】
本実施例にて、強化繊維fとしては、上述のように、ヤング率(引張弾性率)が70GPa以上の弾性を有した強化繊維を使用することができ、強化繊維fとしては、好ましくは、中弾性或いは高弾性の高強度の炭素繊維が使用されるが、他には、ガラス繊維などの無機繊維、更には、アラミド繊維などの有機繊維も使用し得る。
【0061】
前記拘束糸3及び挿入糸4は、15~1500d(デニール)のマルチフィラメント糸やモノフィラメント糸とすることができ、例えば、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリアクリロニトリル系、ポリビニルアルコール系及びポリオレフィン系の繊維、アラミド繊維、などのような有機繊維、更には、チタン繊維、スチール繊維などの金属繊維、また、炭素繊維、ガラス繊維などの無機繊維を単独で、又は、複数種混入して作製された糸を使用することができる。又、無機繊維に熱可塑性有機繊維を巻き付け或いは撚り合わせた構成の糸を使用することもできる。
【0062】
上記構成の本実施例の平面状の強化繊維シート1Aは、強化繊維シート1Aが有する編み構造、及び、挿入糸4が有する伸縮性により、自由度の高い特性を有しており、図7(a)、(b)に示すように、強化繊維シート1Aの幅方向両端より圧縮することにより、容易に縮むことができ、又、幅方向両端を外方へと引っ張ることにより容易に伸ばすことができる。
【0063】
図7(a)~(d)を参照して、本発明に係る補強繊維シート1の製造方法について説明する。先ず、図7(a)に示すように、長さL、幅Wとされる上記長尺の平面状の強化繊維シート1Aを所定の長さL1wに切断し、例えば、300~400cmの間の所定の長さに切断する。この細長帯状強化繊維シート1Aの中央領域は、図7(b)に示すように、幅W1、長さ(L1c)の矩形部1cwを形成する。また、矩形部1cwの軸線方向両端領域においては、図7(b)に示すように、幅W1から幅W2へと幅方向より扇形状に圧縮することにより長さ(L1b)の扇形部1bwを形成する。更に、扇形部1bwの軸線方向両端領域においては、図7(b)に示すように、各ストランド2、2間が密とされた幅W2、長さ(L1a)の細幅部1awを形成する。
【0064】
次いで、この強化繊維シート1Aは、図7(c)、(d)に示すように、細幅部1awは幅W2より小さくなるように幅方向に折り畳むことにより、或いは、巻き込んだりすることにより直径D1の円形状とされる。また、拡開扇形部1bw及び矩形部1cwをも幅方向、長さ方向に変形することによって図1(a)、(b)に示すように、補強繊維シート本体1cの両端に取付部1a、1aを備えた補強繊維シート1となるように賦形される。
【0065】
つまり、強化繊維シート1Aは、多数本の連続した強化繊維を一方向に収束した連続強化繊維束にて形成される連続繊維ストランド2を20~288本長さ方向に配列して形成された細長矩形状とされる幅W1、長さL1cの帯状の補強繊維シート本体1cと、補強繊維シート本体1cの軸線方向の一側と他側において断面が直径D1の円形状とされる長さL1aの細長棒状に賦形された取付部1a、1aと、細長棒状取付部1aと補強繊維シート本体1cとの間で細長棒状取付部1aから補強繊維シート本体1cへと扇状に拡開して細長棒状取付部1aと補強繊維シート本体1cとを接続している長さL1bの扇状定着部1bと、を有するように賦形される。
【0066】
次に、本実施例の補強繊維シート1の製造具体例について更に説明する。
【0067】
(製造具体例1)
本製造具体例では、図3図7を参照して説明した構成の強化繊維シート1Aを使用して補強繊維シート1を次のようにして作製した。
【0068】
強化繊維シート1Aにおける連続繊維ストランド2は、繊維fとして平均径5μm、収束本数24000本のPAN系炭素繊維ストランドを用いた。炭素繊維は、中弾性の炭素繊維であり、ヤング率が450GPaであった。拘束糸(鎖編糸)3としては、ポリエステルマルチフィラメント(番手100d)を使用した。また、挿入糸4としては、フロントにポリエステルモノフィラメント(番手63d)を使用し、そして、バックにポリエステルモノフィラメント(番手63d)に低融点ポリアミド繊維(番手100d)を撚り合わせたものを用いた。
【0069】
これら、連続繊維ストランド2、拘束糸3及び挿入糸4を使用して、編成機により、連続繊維ストランド2が240本とされる強化繊維シート1Aを作製した。
【0070】
図7(a)にて、挿入糸4は、連続繊維ストランド2の長手方向に対して10mmの一定の間隔(P4)にて編み込まれた。
【0071】
このようにして作製した強化繊維シート1Aは、幅(W)が200mm、長さ(L)が100mであった。各ストランド間の間隙(g)は、3~4mmであった。
【0072】
次に、上記強化繊維シート1Aを、長さ(L1w)370cmに切断し、図7(a)に示す細長帯状の、即ち、矩形状の強化繊維シート1Aとした。
【0073】
この強化繊維シート1Aは、図7(b)に示すように、その幅方向両端を圧縮することにより、容易に縮むことができ、細幅部1awを形成することができた。更に細幅部1awは、図7(c)に示すように、幅方向に折り込むことにより、図1(a)、(b)に示すように断面が円形状とされる細長棒状に賦形し、直径(D1)が略30mm、長さ(L1a)40cmの取付部1aを形成した。
【0074】
また、図7(b)に示す強化繊維シート1Aは、細幅部1awに連接する扇形部1bw及び矩形部1cwは、それぞれ、長さ方向及び幅方向にその長さを調整することにより、図1(a)、(b)にて、軸線方向の長さ(L1b)のが45cmで且つ扇形最大幅(肩幅)(W1)が20cmの扇状定着部1bと、軸線方向の長さ(L1c)が200cm、幅(W1)が20cmとされる補強繊維シート本体1cとされる補強繊維シート1を形成した。
【0075】
(製造具体例2)
図8(a)~(d)を参照して製造具体例2について説明する。本製造具体例2では、上記製造具体例1と同様に、図3図7を参照して説明した構成の強化繊維シート1Aを使用して補強繊維シート1を作製した。
【0076】
つまり、強化繊維シート1Aは、幅(W)が200mm、長さ(L)が100mであった。各ストランド間の間隙(g)は、3~4mmであった。次に、上記強化繊維シート1Aを、長さ(L1w)750cmに切断し、図8(a)に示す細長帯状の、即ち、矩形状の強化繊維シート1Aとした。上記製造具体例1と同様にして、この強化繊維シート1Aから、図8(b)に示す形態の補強繊維シート1Aを容易に作製することができた。
【0077】
つまり、本製造実施例2によれば、長尺の平面状の連続繊維補強部材1Aは、図8(b)に示すように、
(i)強化繊維シート1Aの長さ方向中央部分に位置して、幅W1、長さ(L1c)の矩形部1cw及びその両側の最大幅W1、長さ(L1b)となる扇形部1bwを有した長さL2の広幅部分(1cw+2×1bw)と、
(ii)長さL2の広幅部分(1cw+2×1bw)の両側にそれぞれ位置して、長さL3(2×L1a)となる細幅部(2×1aw)と、
(iii)長さL3の各細幅部(2×1aw)の長さ方向外側にそれぞれ位置して、最大幅W1、長さ(L1b)となる扇形部1bw及び幅W1、長さ(L1ca)となる矩形部1cwaと、最大幅W1、長さ(L1b)となる扇形部1bw及び幅W1、長さ(L1cb)となる矩形部1cwbと、
が形成された長尺の平面状の帯状とされる強化繊維シート1Aを作製した。
【0078】
この強化繊維シート1Aは、図8(c)、(d)に図示するように、上記(ii)に記載する長さL3の細幅部(2×1aw)の中央部、即ち、細幅部(2×1aw)の長さL3の中心位置(Oa-Oa)、(Ob-Ob)にて、上記(iii)に記載する強化繊維シート1Aの長さ方向両側に位置する領域(1aw+1bw+1cwa)及び領域(1aw+1bw+1cwb)を互いに内方へと折り曲げた。
【0079】
本製造具体例2によれば、上記(iii)に記載する各長さL3の細幅部(2×1aw)の長さ方向外側に位置した最大幅W1、長さ(L1b)となる扇形状部分1bwは、上記(i)に記載する最大幅W1、長さ(L1b)となる扇形部1bwと形状寸法が同じとされ、一致して重ね合わせられる。また、上記(iii)に記載される長さL1caとなる広幅矩形部1cwaと、長さL1cbとなる広幅矩形部1cwbとは重ね合わせられるが、矩形部1cwaの長さL1caと、矩形部1cwbの長さL1cbとは、重ね幅△Lにて、所謂、重ね継手にて重ね合わせられる。この強化繊維シート1Aの長さ方向重ね継手位置及び重ね幅△Lは限定されるものではないが、好ましくは、広幅矩形部1cwの長さ方向中央部にて互いに幅△L、例えば、△L≧10cm、通常△L=10~20cmにて重ね合わされる。
【0080】
本製造具体例2では、強化繊維シート1Aは、細幅部1awを図8(d)に示すように、幅方向に折り込むことにより、図1(a)、(b)に示すように断面が円形状とされる細長棒状に賦形し、直径(D1)が略50mm、長さ(L1a)が40cmの取付部1aを形成した。また、拡開扇形部1bw及び矩形部1cwをも、必要に応じて、幅方向、長さ方向に変形することによって図1(a)、(b)に示すように、補強繊維シート本体1cの両端に取付部1a、1aを備えた補強繊維シート1となるように賦形し、本製造具体例2では、扇形部分1bw及び矩形部分1cwは、それぞれ、軸線方向の長さ(L1b)が45cmで且つ扇形最大幅(肩幅)(W1)が20cmの扇状定着部1bと、軸線方向の長さ(L1c)が200cm、また、長さ(L1ca)が110cm、長さ(L1cb)が100cmで、幅(W1)が20cmとされる補強繊維シート本体1cとされる補強繊維シート1を形成した。
【0081】
本製造具体例2によれば、上記製造具体例1に使用したと同じ強化繊維シート1Aを使用した場合には、繊維目付量を増大させた補強繊維シート1を製造することができる。
【0082】
上述にて理解されるように、上記製造具体例1、2において、強化繊維シート1Aは、多数本の連続した強化繊維を一方向に収束した連続強化繊維束にて形成される連続繊維ストランド2を20~288本長さ方向に配列して形成された細長矩形状とされる幅W1、長さL1cの帯状の補強繊維シート本体1cと、補強繊維シート本体1cの軸線方向の一側と他側において断面が直径D1の円形状とされる長さL1aの細長棒状に賦形された取付部1a、1aと、細長棒状取付部1aと補強繊維シート本体1cとの間で細長棒状取付部1aから補強繊維シート本体1cへと扇状に拡開して細長棒状取付部1aと補強繊維シート本体1cとを接続している長さL1bの扇状定着部1bと、を有するように賦形される。
【0083】
このように、上記製造具体例1、2を参照すると理解されるように、本実施例によれば、強化繊維シート1Aから図1(a)、(b)に示す形態の補強繊維シート1を容易に作製することができた。
【0084】
本実施例によれば、
(1)強化繊維シート1Aを構成する連続繊維ストランド2の本数が常に一定であるため、当然なこととして、施工現場において連続繊維ストランド数を間違えることはない。
(2)強化繊維シート1Aを切り分けて使用するための成形作業に際して、幅方向に容易に伸ばしたり、縮めたりすることができ、また、幅方向に巻き込んだり、長手方向に折り畳むこともでき、貼り付ける場所の形状(例えば、定着扇形の幅)に合わせて、施工現場で容易に変形させることができた。また、縮めた部分の近傍が皺になることもなく、作業性が良かった。更には、強度低下を起こすこともなかった。
(3)個々の連続繊維ストランド2は拘束糸3による編み組織30にて拘束し、挿入糸4にてその形態が保形されているために、樹脂が含浸した際に繊維が揺らいで強度低下を起こすことはなかった。
【0085】
(1-2)第二の製造実施例
本発明に使用する補強繊維シート1の他の製造実施例について説明する。第二の製造実施例によれば、長尺の平面状の連続繊維補強部材1Aは、図9(a)に示すように、
(i)所定の長さL3及び幅W4を有した細幅部(2×1aw)と、
(ii)二つの細幅部(2×1aw)の間に位置し、その中央部分にて最大幅W5、長さL5となる広幅矩形状部1cw及びその両側の扇形状部1bwを有した長さL2の広幅部分(1cw+2×1bw)と、
が交互に形成された長尺の平面状の帯状とされる強化繊維シート1Aとすることができる。
【0086】
このような図9(a)に示す本実施例の強化繊維シート1Aは、シート製造に使用する経編機におけるテンションの強弱を調整することにより、強化繊維シート1Aの幅を広く編成したり、幅を狭く編成したりして製造し得る。
【0087】
また、このような強化繊維シート1Aは、本発明にて使用する場合には、図9(a)、(b)に示すように、先ず、長さL3及び幅W4を有した細幅部(2×1aw)をそれぞれ長さ方向中央部で切断し、長さL6の強化繊維シート1Aを作製する。
【0088】
次いで、この強化繊維シート1Aは、図9(c)に示すように、細幅部1awを幅W4から幅W2へと狭め、更に、図7(c)、(d)に示すように、幅W2より小さくなるように幅方向に折り畳むことにより、或いは、巻き込んだりすることにより直径D1の円形状とされる。また、拡開扇形部1bw及び矩形部1cwをも幅方向、長さ方向に変形することによって図1(a)、(b)に示すように、補強繊維シート本体1cの両端に取付部1a、1aを備えた補強繊維シート1となるように賦形される。
【0089】
つまり、強化繊維シート1Aは、多数本の連続した強化繊維を一方向に収束した連続強化繊維束にて形成される連続繊維ストランド2を20~288本長さ方向に配列して形成された細長矩形状とされる幅W1、長さL1cの帯状の補強繊維シート本体1cと、補強繊維シート本体1cの軸線方向の一側と他側において断面が直径D1の円形状とされる長さL1aの細長棒状に賦形された取付部1a、1aと、細長棒状取付部1aと補強繊維シート本体1cとの間で細長棒状取付部1aから補強繊維シート本体1cへと扇状に拡開して細長棒状取付部1aと補強繊維シート本体1cとを接続している長さL1bの扇状定着部1bと、を有するように賦形される。
【0090】
(1-3)(第三の製造実施例)
図10に、上記(1-1)第一の製造実施例、(1-2)第二の製造実施例にて使用した平面状とされる強化繊維シート1Aの他の製造実施例を示す。
【0091】
本製造実施例の強化繊維シート1Aでは、第一の製造実施例にて説明したと同様に、各連続繊維ストランド2は、拘束糸3がループ状に縦方向に連続して編成された編み組織30の鎖編み目3Aの中に直交させて配置されている。
【0092】
ただ、本製造実施例によると、縦方向編み組織30に対して横方向に挿入された挿入糸4が、各連続繊維ストランド2を拘束する編み組織30に対して、一定のコース毎に振って編み込まれている。
【0093】
つまり、本製造実施例では、第一の製造実施例と同様に、図4に示すように、拘束糸3は、各連続繊維ストランド2が鎖編み目3Aを直交して貫通するようにして、各コース毎に鎖編み目3Aを形成しながら編み組織30を形成する。これにより、各連続繊維ストランド2は拘束される。
【0094】
本製造実施例によると、挿入糸4は、横方向への挿入糸であり、本製造実施例では、1ウェールずつ飛んで編み組織30を構成する拘束糸3に掛けながら蛇行させて挿入される。これにより、編み組織30に拘束された連続繊維ストランド2を有した強化繊維シート1Aが作製される。
【0095】
本製造実施例においても、強化繊維シート1Aは、第一の製造実施例の場合と同様に、図7(a)に示すように、強化繊維シート1Aの幅方向両端より圧縮することにより、容易に縮むことができ、又、幅方向両端を外方へと引っ張ることにより容易に伸ばすことができる。つまり、この強化繊維シート1Aは、図7(b)、(c)、(d)、又は、図8(b)、(c)、(d)に示すように、細幅部分1awは幅W2より小さくなるように幅方向に折り畳むことにより、或いは、巻き込んだりすることにより直径D1の円形状とされ、また、拡開扇形部1bw及び矩形部1cwをも幅方向、長さ方向に変形することによって図1(a)、(b)に示すように、補強繊維シート本体1cの両端に取付部1a、1aを備えた補強繊維シート1となるように賦形される。
【0096】
つまり、強化繊維シート1Aは、多数本の連続した強化繊維を一方向に収束した連続強化繊維束にて形成される連続繊維ストランド2を20~288本長さ方向に配列して形成された細長矩形状とされる幅W1、長さL1cの帯状の補強繊維シート本体1cと、補強繊維シート本体1cの軸線方向の一側と他側において断面が直径D1の円形状とされる長さL1aの細長棒状に賦形された取付部1a、1aと、細長棒状取付部1aと補強繊維シート本体1cとの間で細長棒状取付部1aから補強繊維シート本体1cへと扇状に拡開して細長棒状取付部1aと補強繊維シート本体1cとを接続している長さL1bの扇状定着部1bと、を有するように賦形され、補強繊維シート1を作製することができる。この成形作業において、連続繊維ストランド2の直線性が乱れることはなかった。
【0097】
本製造実施例の強化繊維シート1Aも又、第一の製造実施例と同様に、経編機を用いて作製することができ、第一の製造実施例と同様の作用効果を達成することができる。従って、本製造実施例においても、経編機によるテンションの強弱を調整することにより、第二の製造実施例にて図9(a)を参照して説明したように、シート1の幅を広く編成したり、幅を狭く編成したりすることもまた可能である。
【0098】
(1-4)(第四の製造実施例)
図11(a)~(d)に本発明に係る補強繊維シート1の他の製造実施例を示す。本実施例にて、補強繊維シート1は、図11(a)に示すように、柔軟性を有する連続繊維ストランド2を20本~288本の範囲で所定本数だけ一方向に引き揃えて束ね、柔軟性のある細長棒状の連続繊維補強部材(強化繊維棒状体)1Aから作製される。
【0099】
連続繊維ストランド2は、図11(d)に示すように、一方向に並列に引き揃えられている多数の連続した強化繊維fを集束して連続強化繊維束Fを形成し、この繊維束Fにて連続繊維ストランド2が形成される。
【0100】
本実施例においても、図1(c)を参照して説明した(1-1)第一の製造実施例にて使用したと同じ連続繊維ストランド2を使用することができる。従って、連続繊維ストランド2に関する説明は、先の(1-1)第一の製造実施例における説明を援用し、ここでの再度の説明は省略する。
【0101】
本実施例にて、強化繊維棒状体1Aは、図11(b)に示すように、図1(a)、(b)に示すと同様に、所定の長さ(L1)とされ、多数本の連続した強化繊維を一方向に収束した連続強化繊維束にて形成される連続繊維ストランド2を20~288本長さ方向に配列して形成された細長矩形状とされる幅W1、長さL1cの帯状の補強繊維シート本体1cと、補強繊維シート本体1cの軸線方向の一側と他側において断面が直径D1の円形状とされる長さL1aの細長棒状に賦形された取付部1a、1aと、細長棒状取付部1aと補強繊維シート本体1cとの間で細長棒状取付部1aから補強繊維シート本体1cへと扇状に拡開して細長棒状取付部1aと補強繊維シート本体1cとを接続している長さL1bの扇状定着部1bと、を有するように賦形される。必要により、このようにして賦形された補強繊維シート1は、取扱い性を向上させるために、例えば上述した連続繊維補強部材1Aを作成する際に使用した拘束糸3或いは挿入糸4などとされる糸条5にて縫製し、緩く拘束保形しておくことも可能である。
【0102】
本実施例にて、補強繊維シート1の寸法形状は、図1(a)、(b)に示す補強繊維シート1と同じとされるので、詳しい説明は先の説明を援用し、ここでの再度の説明は省略する。
【0103】
(補強方法及び補強構造)
次に、本発明に係る補強繊維シート1を使用したコンクリート構造物の補強方法及び補強構造を実施例に即して更に具体的に説明する。
【0104】
本実施例では、図12(a)、(b)を参照して、上記図2(a)、(b)を参照して説明したと同様に、箱桁を有するコンクリート構造物100における壁部材120の耐震補強(曲げ及び/又はせん断補強)について説明する。
【0105】
上述したように、従来、既存或いは新設の上記種々のコンクリート構造物の補強方法として、構造物の表面に補強材として炭素繊維シートやアラミド繊維シートなどの補強繊維シートを接着剤にて貼り付けたり、巻き付けたりする連続繊維シート接着工法が行われている。本発明の補強方法は、斯かる連続繊維シート接着工法において上記構成とされる補強繊維シート1を使用してコンクリート構造物100の耐震補強を有効に実施することができる。
【0106】
つまり、本実施例にて、本発明の補強繊維シート1は、図12(a)、(b)、図13(a)~(e)に示すように、補強繊維シート1の一側の取付部1aを、コンクリート構造物100に貼着された補強繊維シート1の端部に近接して形成された取付孔10に埋め込み、取付孔10に固着する。一方、補強繊維シート1の本体1cは、コンクリート構造物100の補強対象領域に接着する。
【0107】
次に、更に詳しく、図12(a)、(b)、図13(a)~(e)、更には、図2(a)、(b)をも参照して本発明に従って実施されるコンクリート構造物100の連続繊維シート接着工法による補強方法及び補強構造について説明する。
【0108】
本実施例の説明では、図12(a)に示すように、図2(a)に示す箱桁を有するコンクリート構造物100における壁部材120の、特に、右側の壁部材120Aの補強について、また、補強繊維シート1については、図13(a)~(e)に示すように、右側の壁部材120Aの下端の定着について述べるが、図12(b)に示すように、上端の定着も同様に行われることを理解されたい。また、左側の壁部材120Bの下端及び上端の定着も同様に行うことができる。従って、以下の説明では、右側、左側の壁部材120A、120Bを区別することなく単に「壁部材120」と総称し、また、上床版110A、下床版110Bを区別することなく単に「床版110」と総称して説明する。
【0109】
(第1工程:取付孔形成)
図13(a)にて、必要により、コンクリート構造物100の被補強面、即ち、本実施例では、補強繊維シート1が接着される壁部材120の被接着面120aの脆弱部を、ディスクサンダー、サンドブラスト、スチールショットブラスト、ウォータージェットなどの研削手段により除去し、コンクリート構造物100の被接着面120aから表面脆弱層を除去した面となるように下地処理をする。
【0110】
本発明によると、上記の下地処理後に、或いは、下地処理に先立って、補強繊維シート1を取付けるための取付孔10が穿設される。
【0111】
図12(a)、図13(a)に示すように、本実施例では、コンクリート構造物100における壁部材120と床版110との接続部101の隅角部には、構造物内面にハンチ140が形成されている。従って、被接着面120aの、ハンチ140に隣接した領域或いはハンチ140領域に補強繊維シート1の取付部1aを受容するための所定の長さ(L10)とされる取付孔10が形成される。
【0112】
更に説明すれば、コンクリート構造物100にて、本実施例に示すように、両コンクリート部材110、120の接合部101の隅角部CR(図2(b)参照)にハンチ140が形成されている場合は、取付孔10は、取付孔中心線10CLが壁部材120の内側表面120aに対して所定の角度(θ)にて、且つ、中心線10CLがハンチ140と壁部材120との境界部から△Eだけ離間して、ハンチ140から接合部101へと延在して、又は、床版110の方向へと延在して穿孔される。このとき、距離△Eは、例えば、△E=0~10mmだけ離間するようにするのが穿孔作業上好ましいが、場合によっては、△Eはマイナス、即ち、取付孔中心線10CLがハンチ140と壁部材120との境界部から更に壁部材120の内側表面120a側へと位置していても良い。また、取付孔中心線10CLの角度(θ)は、135°以上180°未満とすることにより、取付孔10を接合部101の方に延在して穿設することができるが、これに限定されるものではない。もし、取付孔中心線10CLの角度(θ)を180°以上、225°程度とすることにより、取付孔10を、接合部101に隣接した床版110の方へと延在して穿設することもできる。
【0113】
このように、本発明によれば、取付孔10は、接着された補強繊維シート1の端部に隣接して補強繊維シート被接着面120aに、又は、ハンチ140を貫通して接合部101の方へと延在して、又は、接合部101に隣接した床版110に形成される。
【0114】
図13(b)に図示するように、取付孔10は円形状の孔とされ、補強繊維シート1の取付部10aを受容し得る寸法、形状とされ、直径(D10)は10~70mm、深さ(L10)は、15~60cmとされる。一例を挙げれば、例えば、直径(D10)は25mmの円形状で、深さ(L10)が30cmとされる。ただ、取付孔10の断面形状は、円形状孔に限定されるものではなく、例えば、円形状と同等断面積とされる円形状に近似した楕円形状、長円形状、更には、多角形状などの近似円形状とすることもできる。
【0115】
取付孔10は、図13(b)に示すように、壁部材120の幅方向に所望される所定のピッチPで複数の孔が形成される。ピッチPは、等間隔、或いは、不等間隔とすることができる。本実施例では、限定されるものではないが、図12(b)、図13(e)に示されるように、補強繊維シート1は、隣の補強繊維シート1とは空隙Weを有するようにピッチPe(Pe=P)を成すように、貼着されている。
【0116】
(第2工程:補強繊維シート貼付け)
補強繊維シート1は、コンクリート構造物の下地処理した表面120aに接着剤42にて直接貼着することもできるが、図13(c)、(d)に示すように、好ましくは、下地処理した面120aにポリウレア樹脂パテ剤又はウレアウレタン樹脂剤などの弾性樹脂41Aを、本実施例ではポリウレア樹脂パテ剤を所要の厚さ(T41)にて塗布し、反応硬化させて弾性樹脂層41を形成し、その後、補強繊維シート1が接着剤42にてこの弾性層41を介してコンクリート構造物の表面120aに貼着される。
【0117】
弾性樹脂41A(弾性層41)の塗布厚さ(T41)は、被接着面120aの表面の凹凸、補強繊維シート1の厚さに応じて適宜設定されるが、一般にT41=0.2~10mm程度とされる。また、通常、ポリウレア樹脂パテ剤41Aは、被接着面120aの塗布領域の全域に一様に塗布されるが、場合によっては、部分的であっても良い。
【0118】
上述の下地処理面120aに弾性層41を形成する前に、下地処理面120aにプライマーを塗布することもできる。プライマーとしては、ウレタン樹脂プライマーなどのウレタン樹脂系、エポキシ樹脂系、及び、MMA樹脂系など、弾性層41と被補強コンクリート構造物100の材質に合わせて適宜選定される。
【0119】
本実施例でのポリウレア樹脂パテ剤、即ち、弾性層41を形成する弾性樹脂材料(弾性層形成材)41Aは、主剤、硬化剤、充填剤、添加剤などを含んでおり、その組成の一例を示せば、下記の通りとされる。
(i)主剤:イソシアネート(例えば、4,-4’ジフェニルメタンジイソシアネート)を反応成分とするプレポリマーであり、末端残存イソシアネートがNCO重量%で1~16重量部に調整されたものを使用する。
(ii)硬化剤:主成分として芳香族アミン(例えば、アミン価80~90)含む硬化剤を使用し、主剤のNCO:アミン比で、1.0:0.55~0.99重量部で計算されたものを使用する。更には、硬化促進剤としてp-トルエンスルホン酸塩を含むこともできる。
(iii)充填剤:硅石粉、搖変剤等が含まれ、1~500重量部で適宜配合される。
(iv)添加剤:着色剤、粘性調整剤、可塑剤等が含まれ、1~50重量部で適宜配合される。
【0120】
ここで、弾性樹脂、本実施例で使用したポリウレア樹脂パテ剤は、温度-10℃~50℃時において、硬化時における引張伸びが400%以上(通常、400~600%)、引張強度が8N/mm以上(通常、8~10N/mm)、引張弾性率が60N/mm以上500N/mm以下(通常、60~100N/mm)、0スパン塑性伸びが3mm以上25mm以下とされる。
【0121】
硬化時における引張伸びが400%未満、引張強度が8N/mm未満、弾性率が60N/mm未満では、必要な補強応力伝達ができず、また逆に、硬化時における引張伸びが600%を超え、引張強度が10N/mmを超え、弾性率が100N/mmを越えると、特に、500N/mmを超えると、伸び性能が不足するといった問題が生じる。
【0122】
更に、0スパン塑性伸びは、上述のように、温度-10℃~50℃において、3mm以上25mm以下とされるが、0スパン塑性伸びが3mm未満では、コンクリート構造物に発生した場合のひび割れを拘束し、ひび割れ分散性を良くする効果が低減する。0スパン塑性伸びが25mm以下とされるのは、引張弾性率が60N/mmあるもので25mm以上の0スパン塑性伸びの性能を持つものを製造することは技術的に難しいからである。
【0123】
また、ポリウレア樹脂をパテ剤として使用するためには、23℃におけるBM型粘度計による2回転での粘度が200~700Pa・sで、回転数20回転では60~100Pa・sの範囲にあり、チクソトロピックインデックス、即ち、回転粘度計による異なる回転数による粘度の測定値の比(回転数20回転における粘度÷2回転の粘度)が4~7であることが望ましい。
【0124】
すなわち、粘度が60Pa・sより小さくチクソトロピックインデックスが4未満であれば、塗付後にダレ等が生じ塗付面の平滑性及び天井面、壁面の塗布が困難となり、また逆に、粘度が100Pa・sより大きくチクソトロピックインデックスが7を超えると樹脂が硬く、混合に問題があり、且つ、平滑に塗布することも困難になる。
【0125】
ポリウレア樹脂パテ剤は、コンクリート構造物補強用弾性層形成材として使用し、剥離防止、補修補強効果を達成することができ、定着強度、曲げ強度(耐力)及び靭性を増大させ、コンクリート構造物の補強工法に極めて好適に使用し得る。
【0126】
つまり、上記パテ剤41A(弾性層41)は、補強繊維シート1の力をコンクリート構造物に伝達し、良好な補強を達成する。また、本実施例の補強方法によれば、ひび割れの分散性が良好である。
【0127】
また、上記組成のポリウレア樹脂パテ剤は、冬場においても柔軟性を有し、コンクリート構造物の良好な補強を達成することができ、また、ウレアウレタン樹脂剤も又、ポリウレア樹脂パテ剤と同様の性能を発揮し得る。
【0128】
本発明のコンクリート構造物の補強方法によれば、上述したように、コンクリート構造物表面120aに弾性樹脂41Aを塗布した場合には、図13(c)、(d)に示すように、弾性樹脂41Aが硬化し、弾性層41が形成されると、補強繊維シート1が接着剤42にて弾性層41を介してコンクリート構造物の表面120aに貼着される。補強繊維シート1のコンクリート構造物表面120aへの貼着作業は、弾性層41の上に接着剤42を塗布し、この面に、補強繊維シート1を押し付けて補強対象コンクリート構造物100の表面120aに弾性層41を介して接着して行うことができる。この時、補強繊維シート1には、補強繊維シート1のコンクリート構造物100への接着と同時に、この接着剤42による補強繊維シート1に対する樹脂(マトリクス樹脂)含浸をも行うことができる。
【0129】
接着剤42として、常温硬化型エポキシ樹脂、エポキシアクリレート樹脂、アクリル樹脂、MMA樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、光硬化型樹脂等が挙げられ、具体的には、常温硬化型エポキシ樹脂及びMMA樹脂が好適とされる。補強繊維シート1における樹脂含有量は、20~75重量%、好ましくは、40~60重量%とされる。
【0130】
本実施例では、エポキシ樹脂接着剤を使用した。例えば、エポキシ樹脂接着剤は、主剤、硬化剤の2成分型により提供され、その組成の一例を示せば、下記の通りとされる。
(i)主剤:主成分としてエポキシ樹脂を含み、接着増強付与剤として、必要に応じてシランカップリング剤を含むものを使用する。エポキシ樹脂は、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂、特に、靭性付与のためのゴム変性エポキシ樹脂とすることができ、更に、反応性希釈剤及び搖変剤を用途に応じて添加しても良い。
(ii)硬化剤:主成分としてアミン類を含み、必要に応じて、硬化促進剤を含み、添加剤として着色剤を含むものを使用し、主剤のエピクロルヒドリン:硬化剤のアミン当量比は1:1である。アミン類は、例えば、メタキシレンジアミン及びイソホロンジアミンを含む脂肪族アミンとすることができる。
【0131】
尚、接着剤42は、弾性層41の上に塗布するものとして説明したが、勿論、補強繊維シート1に塗布することもでき、また、弾性層41の表面及び繊維シート1の接着面の両面上に塗布しても良い。また、別法として、補強繊維シート1に接着剤42を含浸し、その後、弾性層41の上に押し付けて接着しても良い。補強繊維シート1に対する樹脂含浸は、例えば、接着剤42が満たされた容器内に補強繊維シート1を浸漬することによっても行うことができるが、これに限定されるものではなく任意の方法を採用し得る。補強繊維シート1の樹脂含有量は、上述したように、20~75重量%、好ましくは、40~60重量%とされる。
【0132】
つまり、上述したように、補強繊維シート1は、弾性層41を介して、或いは、直接に、コンクリート構造物表面120aに接着されると共に、補強繊維シート1には、接着剤42が補強繊維シート1内の繊維f間に樹脂(マトリクス樹脂)として含浸される。
【0133】
本発明によれば、高繊維目付量の補強繊維シート1を接着した場合であっても、以下に説明するように、補強繊維シート1の端部をコンクリート構造物の表面に極めて有効に定着することができ、補強繊維シート1とコンクリート構造物表面120aとの間の剥離強度を大とし、補強繊維シート1の端部剥離を回避し、所期の補強効果を達成することができる。
【0134】
(第3工程:補強繊維シート端部の固着)
次に、図13(d)、(e)を参照して、補強繊維シート端部の取付部1aの取付孔10への固着、及び、補強繊維シート端部定着について説明する。
【0135】
本実施例においては、図13(c)、(d)に示すように、補強繊維シート1の一側及び他側に形成した取付部1aを、コンクリート構造体100に形成した取付孔10に埋め込み、上述したと同様の接着剤42などにて取付孔10に固着する。取付孔10には補強繊維シート1の取付部1aを取付けるに先立って、プライマー、例えば、エポキシ樹脂プライマーを塗布することもできる。取付孔10内へのプライマー塗布は、上述した第2工程における補強繊維シート貼付け作業に際して同時に行うことができる。ただ、取付孔10内へのプライマー塗布は、必ずしも必要とするものではない。
【0136】
補強繊維シート1の取付部1a領域及び扇状定着部1bには、上記第2工程にて説明した補強繊維シート貼付け作業に際して、補強繊維シート本体1c領域と共に扇状定着部1b、取付部1a領域にも接着剤42を塗布、含浸させておくことができる。
【0137】
図13(d)に示すように、樹脂含浸された補強繊維シート1の取付部1a領域及び扇状定着部1bは、樹脂含浸され、未だ可撓性を有した樹脂未硬化の状態で一端の取付部1aを先端部より順次、取付孔10内に挿入して設置し、同時に、補強繊維シート1の扇状定着部1bをコンクリート構造物の表面120aに接着される。扇状定着部1bは、好ましくは、弾性層41を介してコンクリート構造物の表面120aに接着する。
【0138】
上述したように、補強繊維シート1の取付部1aは樹脂含浸させた状態にて、取付孔10内に押し込んで挿入配置して固着されるが、補強繊維シート1に樹脂を含浸させる際に、更には、樹脂を含浸し取付孔10に挿入する際に、強化繊維に揺らぎが生じたり、更には、取付孔10内に空気が混入したり、取付孔10内に空隙が生じたりすることを完全に防止し得ない虞がある。
【0139】
そこで、補強繊維シート1を取付孔10内に押し込むに先立って、取付孔10内に予め先込充填樹脂を充填して置き、この樹脂が充填された取付孔10内に、樹脂が含浸された補強繊維シート1の取付部1aを挿入することができる。これにより、補強繊維シート1が取付孔10内に挿入される際に、取付孔10の内壁と擦過し繊維に損傷を生じることを防ぎ、繊維の直線性を保持することが可能であり、また、取付孔10内に空気が混入し残存することで生じる空隙を防ぎ、補強繊維シート1の取付部1aが躯体と強固に接着し硬化することが分かった。従って、斯かる手段をとることによって、樹脂を含浸し取付孔10に挿入する際に、強化繊維に揺らぎが生じたり、更には、取付孔10内に空気が混入したり、取付孔10内に空隙が生じたりすることを防止することができる。
【0140】
更に、図14(a)~(c)を参照して説明すれば、補強繊維シート1を取付孔10内に挿入する際に、挿入時の補強繊維シート1の直線性を保持し、挿入をスムーズに行うために補強繊維シート1の取付部1aの挿入端部に細長形状の挿入棒部材70を取付け、先込充填樹脂60が充填された取付孔10へと棒材70を押し込みことにより、補強繊維シート1の取付部1aを取付孔10内へと極めて容易に押し込むことができる。棒材70は、そのまま取付孔10内に埋設し、固着することができる。
【0141】
挿入棒部材70としては、図14(a)に一例を示すように、直径(D70)が4~8mm、長さ(L70)は、取付孔10と略同じ長さ、或いは、より長くされ、通常、L70=15~50cm程度とされる。挿入棒部材70は、限定するものではないが、金属製とされ、例えばステンレススチール、鋼材、などで作製することができる。
【0142】
一例によれば、図14(a)~(c)に図示するように、挿入棒部材70には、先端から距離(L71)だけ離間した位置に直径(D71)が2~3mm程度の貫通孔71を設け、この貫通孔71を利用して紐状物72により補強繊維シート1の取付部1aを結束し、補強繊維シート1の樹脂含浸処理した後、充填樹脂60が充填された取付孔10内へと挿入棒部材70を押し込む。これによって、補強繊維シート1の取付部1aを取付孔10内へと押し込むことができる。
【0143】
取付孔10内に充填する先込充填樹脂としては、上述の補強繊維シート1に含浸する樹脂と同じ樹脂を使用することができるが、垂れ防止、空気巻き込み防止のために、粘度が23℃において50~5000Pa・s、チクソトロピックインデックス4~7に調整されたものを好適に使用し得る。
【0144】
以上説明したように、本発明の補強方法によれば、上記諸工程にて補強繊維シート1は、コンクリート構造物表面120aに貼着される。この時、複数の補強繊維シート1をコンクリート構造物表面120aに接着してコンクリート構造物の補強を行う場合は、例えば、図12(b)、図13(e)に示す本実施例では、補強繊維シート1は、補強量に応じて適当なピッチPeにて貼着することができる。隣り合った補強繊維シート1、1は互いに隣接して配置することもできるが、必ずしも重ねる必要はなく、本実施例では、補強繊維シート1の幅W1が200mmとされ、隣り合った補強繊維シート1、1の間の距離Weは85mmとした。
【0145】
本発明によれば、樹脂が含浸され、樹脂が未だ未硬化状態の補強繊維シート1は可撓性を有しているために、補強繊維シート1は、取付孔10から壁部材120の表面に沿って容易に変形し、その貼着作業は容易である。なお、必要に応じて、取付孔10から壁部材120の表面に沿って接着された補強繊維シート1に対して、全体的に、更に接着剤42を塗布して空隙を充填することができる。
【0146】
補強繊維シート1を取付孔10及び構造物表面120aに接着した後、補強繊維シート1の含浸接着樹脂42は、常温にて硬化させるか、又は、熱硬化型液状樹脂を使用し、取付孔10及び構造物表面120aに設置した後加熱して硬化させることも可能である。これにより、補強繊維シート1の含浸樹脂が硬化すると共に、補強繊維シート1の取付部1aが取付孔10内に固着すると共に補強繊維シート1が構造物表面120aの上に接着される。本実施例では、補強繊維シート1に含浸された樹脂42が、連続繊維補強部材(補強繊維シート)1の取付孔10への固着剤としても機能する。
【0147】
上記諸工程にて、壁部材120に対して、繊維強化プラスチック(FRP)材とされた補強繊維シート1にて曲げ及び/又はせん断補強がなされる。本発明は、作業工程が極めて容易であり、熟練作業者を必ずしも必要とせず、作業時間の短縮を図ることができる。
【0148】
更に、補強繊維シート1の樹脂が硬化した後、必要に応じて耐候性を向上させるために、壁部材120の面に露出している補強繊維シート1の表面に保護塗装を施すことができる。保護塗装としては、例えば、アクリル系塗料を塗布することができる。
【0149】
実施例2
図12(a)、(b)、図13(a)~(e)などに示す上記実施例1の説明では、壁部材120と床版110とが交差する隅角部CRにはハンチ140が形成される構成について説明したが、図15(a)~(c)に図示するように、本発明はハンチ140が形成されていない構成においても同様に適用して有効である。
【0150】
つまり、本実施例では、図15(a)に図示するように、所定の長さ(L10)とされる取付孔10は、取付孔中心線10CLが壁部材120の内側表面120aに対して所定の角度(θ)にて、且つ、中心線10CLが隅角部CRから△Eだけ床版110側へと離間して床版110から接合部101へと穿孔される。このとき、距離△Eは、例えば、△E=0~10mmだけ離間するようにするのが穿孔作業上好ましいが、場合によっては、△Eはマイナス、即ち、取付孔中心線10CLが壁部材120の内側表面120a側へと位置していても良い。また、取付孔中心線10CLの角度(θ)は、135°以上180°未満とすることにより、取付孔10を接合部101の方に延在して穿設することができるが、これに限定されるものではない。もし、取付孔中心線10CLの角度(θ)を180°以上、225°程度とすることにより、取付孔10を、接合部101に隣接した床版130の方へと延在して穿設することもできる。
【0151】
このように、ハンチ140が形成されていない本実施例2においても、取付孔10は、壁部材120と床版110との接合部101、或いは、接合部101に隣接した床版110の方へと延在して形成される。
【0152】
図15(a)~(c)に図示するように、本実施例における取付孔10の形状、構成、更には、本発明に従った補強方法及び補強構造等は、上記実施例1と同様の構成とすることができるので、上記実施例1で説明した部材と同じ部材には同じ参照番号を付して、これ以上詳しい説明は上記説明を援用し、再度の説明は省略する。
【0153】
実施例3
本発明のコンクリート構造物の補強方法によれば、上記の、例えば図12(a)、(b)、図13(a)~(e)などを参照して説明した実施例1にて理解されるように、補強繊維シート1の補強繊維シート本体1c及び扇状定着部1bをコンクリート構造物100の表面に接着剤42にて接着し、取付部1aをコンクリート構造物100に形成した取付孔10に埋め込み、接着剤にて固着することにより、コンクリート構造物100の表面に接着された補強繊維シート1の定着強度を向上させ、コンクリート構造物100に貼り付けて補強する補強繊維シート1の端部剥離の発生を回避し、所期の補強効果を達成することができる。
【0154】
ここで、更に、補強繊維シート1の端部定着部のコンクリート構造物表面120aからの剥がれ、特に、補強繊維シート1の扇状定着部1bの浮き上がり、即ち、剥がれを抑制し、更なる定着強度の向上を図ることが好ましい。次に、図16(a)、(b)~図18(a)、(b)を参照して、更に詳しく説明する。
【0155】
図16(a)、(b)は、本発明に従って、上記実施例1にて説明したように、例えば、図12(b)、図13(e)に示すと同様に、コンクリート構造物100の表面120aに、本発明に従った構成とされる補強繊維シート1を、補強繊維シート1の軸線方向に直交する方向(幅方向:x-x方向)に複数枚並べて使用してコンクリート構造物100に貼着した態様を示している。
【0156】
本実施例によれば、図16(a)、(b)に示すように、補強繊維シート1の扇状定着部1bにおいて、補強繊維シート1の幅方向(x-x方向)にシート状の連続繊維補強部材、即ち、定着補強部材(以後、「定着用補強繊維シート」と言う。)80を接着剤82にて貼付する。これにより、補強繊維シート1の扇状定着部1b、延いては、本体1cの被接着面120aからの剥がれを抑制することができる。
【0157】
この時、コンクリート構造物100の断面構造を模式的に拡大して示す図16(a)に図示するように、補強繊維シート1の扇状定着部1bにおいては、扇状定着部1bの厚さTyが取付部1aから補強繊維シート本体1cの方へと肉薄になっていることから、補強繊維シート1の軸線方向、即ち、図16(b)にて上下方向(y-y方向)において、補強繊維シート1のコンクリート構造物100への接着面から扇状定着部1bの表面までの高さ(即ち、扇状定着部1bの厚さTy)が異なっていることが理解されるであろう。また、補強繊維シート1の軸線方向(y-y方向)に直交する幅方向(x-x方向)においては、例えば、図16(b)にて、扇状定着部1bの両側領域Axにおいては扇状定着部1bが存在しておらず、補強繊維シート1の表面とコンクリート構造物表面120aとの間に段差が生じている。
【0158】
従って、本実施例では、好ましくは、図17(a)、(b)、図18(a)、(b)に示すように、定着用補強繊維シート80を貼付する扇状定着部1bが位置する領域、即ち、補強繊維シート1の軸線方向の幅W90(略扇状定着部1bの軸線方向長さL1b)と、幅方向の長さL90とにて規定される領域に不陸修正材90を塗布し、定着用補強繊維シート80の貼着面90Sの凹凸、コンクリート構造物表面120aと扇状定着部1bとの間の段差をなくして平滑化する。これによって、補強繊維シート1のコンクリート構造物被接着面から、定着用補強繊維シート80の貼着面(即ち、不陸修正材90の上表面)90Sまでの高さT90Sが一様となる。不陸修正材90を塗布するに先立って、不陸修正材90の塗布領域にプライマーを塗布しても良い。プライマーとしては、エポキシ樹脂プライマーなどのエポキシ樹脂系、ウレタン樹脂プライマーなどのウレタン樹脂系、その他、MMA樹脂系などを使用することができる。プライマーの塗布量は、0.1~0.4kg/mとされる。
【0159】
不陸修正材90は、例えばパテ状エポキシ樹脂接着剤を所要の厚さに塗布することによって形成される。塗布厚、即ち、不陸修正材層90aの層厚(T90)は、定着用補強繊維シート80の貼着面90S、即ち、補強繊維シート1のコンクリート構造物被接着面からの不陸修正材層90aの上表面までの高さT90S(T90S≒T90+Ty)が略一様となり、定着用補強繊維シート貼着面90Sの凹凸、コンクリート構造物表面120aと扇状定着部1bとの間の段差が修正されるように、補強繊維シート1の扇状定着部1bの軸線方向の厚さTyの変動に応じて、層厚(T90)=0.1~100mmの範囲で、通常、8~60mmの範囲で塗布される。
【0160】
不陸修正材90は、パテ状エポキシ樹脂に限定されるものではなく、MMA樹脂などアクリル系樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリマーセメントモルタル、ポリマーセメントペースト、セメントペーストなどを用いることができる。
【0161】
図18(a)、(b)に示すように、不陸修正材90が硬化すると、この不陸修正材層90aの上に接着剤82を塗布し、定着用補強繊維シート80を接着する。
【0162】
定着用補強繊維シート80としては限定されるものではないが、シート状の連続繊維補強部材が好適に使用される。本発明においては種々の形態の定着用補強繊維シート80を使用することができる。定着用補強繊維シート80の実施例を具体的に具体例1~3として説明するが、本発明で使用する定着用補強繊維シート80の形態は、これら具体例に示すものに限定されるものではない。
【0163】
定着用補強繊維シート具体例1
図19に、本発明にて使用することのできる定着用補強繊維シート80の一具体例を示す。定着用補強繊維シート80は、連続した強化繊維fを一方向に引き揃えてシート状に構成される樹脂未含浸の繊維シートとされる。
【0164】
即ち、定着用補強繊維シート80は、一方向に引き揃えた連続した強化繊維fから成る強化繊維シートをメッシュ状の支持体シートなどとされる線材固定材53にて保持した構成とすることができる。例えば、強化繊維fとして炭素繊維を使用した場合には、例えば平均径7μmの単繊維(炭素繊維モノフィラメント)fを6000~24000本収束した樹脂未含浸の単繊維束を複数本、一方向に平行に引き揃えて使用される。炭素繊維定着用補強繊維シート80の繊維目付は、通常、30~1200g/mとされる。
【0165】
線材固定材53としてのメッシュ状の支持体シートを構成する縦糸54及び横糸55の表面に低融点タイプの熱可塑性樹脂を予め含浸させておき、メッシュ状支持体シート53をシート状に配列した炭素繊維の片面或いは両面に積層して加熱加圧し、メッシュ状支持体シート53の縦糸54及び横糸55の部分を炭素繊維シートに溶着する。
【0166】
メッシュ状支持体シート53は、2軸構成のほかに、ガラス繊維を3軸に配向して形成したり、或いは、ガラス繊維を一方向に配列された炭素繊維に対して直交する横糸55のみを配置した、所謂、1軸に配向して形成して前記シート状に引き揃えた炭素繊維に接着することもできる。
【0167】
又、上記線材固定材53の糸条としては、例えばガラス繊維を芯部に有し、低融点の熱融着性ポリエステルをその周囲に配したような二重構造の複合繊維も又好ましく用いられる。
【0168】
なお、定着用補強繊維シート80は、強化繊維fとしては、炭素繊維に限定されるものではなく、ガラス繊維、バサルト繊維;ボロン繊維、チタン繊維、スチール繊維などの金属繊維;更には、アラミド、PBO(ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール)、ポリアミド、ポリアリレート、ポリエステル、高強度ポリエステルなどの有機繊維;が単独で、又は、複数種混入してハイブリッドにて使用することができる。
【0169】
定着用補強繊維シート具体例2
図20(a)~(c)に定着用補強繊維シート80の他の具体例を示す。本具体例の定着用補強繊維シート80は、マトリクス樹脂Rが含浸され硬化された細径の連続した繊維強化プラスチック線材52を複数本、長手方向にスダレ状に引き揃え、各線材52を互いに線材固定材53にて固定した繊維シートとされる。
【0170】
繊維強化プラスチック線材52は、直径(d)が0.5~3mmの略円形断面形状(図20(b))であるか、又は、幅(w)が1~10mm、厚み(t)が0.1~2mmとされる略矩形断面形状(図20(c))とし得る。勿論、必要に応じて、その他の種々の断面形状とすることができる。
【0171】
上述のように、一方向に引き揃えスダレ状とされた定着用補強繊維シート80において、各線材52は、互いに空隙(g)=0.05~3.0mmだけ近接離間して、線材固定材53にて固定される。また、このようにして形成された定着用補強繊維シート80の長さ(L80)及び幅(W80)は、必要に応じて、また、補強される構造物の寸法、形状に応じて適宜決定されるが、取扱い上の問題から、一般に、全幅(W80)は、10~100cmとされる。又、長さ(L80)は、1~5m程度の短冊状のもの、或いは、100m以上のものを製造し得るが、使用時においては、適宜切断して使用される。
【0172】
本具体例の定着用補強繊維シート80の場合においても、強化繊維fとしては、炭素繊維、ガラス繊維、バサルト繊維;ボロン繊維、チタン繊維、スチール繊維などの金属繊維;更には、アラミド、PBO(ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール)、ポリアミド、ポリアリレート、ポリエステル、高強度ポリエステルなどの有機繊維;が単独で、又は、複数種混入してハイブリッドにて使用することができる。また、繊維強化プラスチック線材52に含浸されるマトリクス樹脂Rは、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を使用することができ、熱硬化性樹脂としては、常温硬化型或は熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、MMA樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、又はフェノール樹脂などが好適に使用され、又、熱可塑性樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリビニルフォルマール樹脂などが好適に使用可能である。又、繊維体積含有率(Vf)は、40~75%、好ましくは、50~70%とされる。
【0173】
又、各線材52を線材固定材53にて固定する方法としては、図20(a)に示すように、例えば、線材固定材53として横糸を使用し、一方向にスダレ状に配列された複数本の線材52から成るシート形態とされる線材、即ち、連続した線材シートを、線材に対して直交して一定の間隔(P)にて打ち込み、編み付ける方法を採用し得る。横糸53の打ち込み間隔(P)は、特に制限されないが、作製された繊維シート50の取り扱い性を考慮して、通常10~100mm間隔の範囲で選定される。
【0174】
このとき、横糸53は、例えば直径2~50μmのガラス繊維或いは有機繊維を複数本束ねた糸条とされる。又、有機繊維としては、ナイロン、ビニロン、ポリエステルなどが好適に使用される。
【0175】
各線材52をスダレ状に固定する他の方法としては、上述した図19に示すように、線材固定材53としてメッシュ状支持体シートを使用することができる。つまり、シート形態を成すスダレ状に引き揃えた複数本の線材52、即ち、線材シートの片側面、又は、両面を、例えば直径2~50μmのガラス繊維或いは有機繊維にて作製した、上記具体例1で説明したと同様の構成とされるメッシュ状の支持体シート53により支持した構成とすることもできる。
【0176】
更に、各線材52をスダレ状に固定する他の方法としては、図示していないが、線材固定材53として、例えば、粘着テープ又は接着テープなどとされる可撓性帯材を使用することができる。可撓性帯材53は、シート形態を成すスダレ状に引き揃えた各繊維強化プラスチック線材52の長手方向に対して垂直方向に、複数本の繊維強化プラスチック線材52の片側面、又は、両面を貼り付けて固定する。つまり、可撓性帯材53として、幅2~30mm程度の、塩化ビニルテープ、紙テープ、布テープ、不織布テープなどの粘着テープ又は接着テープが使用される。これらテープを、通常、10~100mm間隔(P)で各繊維強化プラスチック線材52の長手方向に対して垂直方向に貼り付ける。
【0177】
更に、可撓性帯材53としては、ナイロン、EVA樹脂などの熱可塑性樹脂を帯状に、線材2aの長手方向に対して垂直方向に片側面、又は、両面に熱融着させることによっても達成される。
【0178】
定着用補強繊維シート具体例3
本発明にて使用することのできる定着用補強繊維シート80としては、図19図20に示すような定着用補強繊維シート80に樹脂を含浸し、この樹脂が硬化された繊維シート(所謂、FRP板)とすることもできる。勿論、この定着用補強繊維シート80は、一方向或いは複数方向に繊維が配列した単層或いは複数層から成る板厚0.5~10mm程度のFRP板とすることもできる。
【0179】
また、本具体例3における定着用補強繊維シート80の場合の含浸樹脂としては、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を使用することができ、熱硬化性樹脂としては、常温硬化型或は熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、MMA樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、又はフェノール樹脂などが好適に使用され、又、熱可塑性樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリビニルフォルマール樹脂などが好適に使用可能である。又、繊維体積含有率(Vf)は、40~75%、好ましくは、50~70%とされる。
【0180】
ここで、再度コンクリート構造物の補強方法に戻って説明すれば、本発明のコンクリート構造物の補強方法によれば、定着用補強繊維シート80は、補強繊維シート1の扇状定着部1bの浮き上がり、即ち、剥がれを抑制し、更なる定着強度の向上を図ることが主目的であり、そのために、本実施例では、定着用補強繊維シート80は、図16(a)、(b)、図18(a)、(b)に示すように、繊維軸線方向に延在した矩形状シートとされ、不陸修正材90の領域(幅W90×長さL90)と同じか、又は、小さい寸法に設定される。すなわち、補強繊維シート1の幅方向(x-x方向)に延在した、即ち、定着用補強繊維シート80の繊維軸線方向の長さ(L80)は、複数の補強繊維シート1の扇状定着部1bを横方向を覆って延在する長さとされ、また、定着用補強繊維シート80の繊維軸線方向に直交する横方向の長さ(幅W80)は、補強繊維シート1の扇状定着部1bの軸線方向長さ(L1b)と略同じ寸法(W80≒L1b)とされるが、補強繊維シート1の本体1cの方へと延在するように若干大きくても良く、また、本体1cの手前で終わるように小さくても良く、適宜選定される。
【0181】
接着剤82の塗布量は、定着用補強繊維シート80の種類にもよるが、600g/mの炭素繊維シートを用いた場合、1100~1300g/mとされる。
【0182】
接着剤82としては、上記実施例にて補強繊維シート1をコンクリート構造物表面120aに接着する際に使用した接着剤42と同様のものを使用することができ、種々の熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を使用し得るが、常温硬化型エポキシ樹脂、MMA樹脂などが好適とされる。本実施例においては、接着剤82としてエポキシ樹脂接着剤を使用し、好結果を得ることができた。
【0183】
尚、接着剤82は、不陸修正材層90aの上に塗布するものとして説明したが、勿論、定着用補強繊維シート80に塗布することもでき、また、不陸修正材層90aの表面及び定着用補強繊維シート80接着面の両面上に塗布しても良い。
【0184】
本実施例で説明した構成の補強方法にて、補強繊維シート1の端部、即ち、扇状定着部1bがコンクリート構造物被接着面120aからの浮き上がり、即ち、剥がれを抑制することができ、更なる定着強度の向上を図ることができる。
【0185】
上記本実施例3の説明においては、図12(a)、(b)、図13(a)~(e)に示す上記実施例1で説明した補強方法に関連して、壁部材120と床版110とが交差する隅角部CRにはハンチ140が形成される構成について説明したが、図15(a)~(c)を参照して説明した実施例2と同様にハンチ140が形成されていない構成においても同様に本実施例3を適用して有効である。
【0186】
次に、本発明に係るコンクリート構造物の補強方法及び補強構造体の作用効果を実証するために、特に、補強繊維シートの定着アンカー部のコンクリート構造物に対する定着強度についてその作用効果を実証するために以下の実験を行った。
【0187】
実験例
定着アンカーの強度試験
図21に示す補強繊維シート1の軸線方向両側端部に位置した定着アンカー部に相当する定着アンカー試験体1T及び試験装置300Tにより、補強繊維シート1の定着アンカー部の定着強度(耐荷重)を検証した。本実験では、試験装置300Tのコンクリート躯体300Aに定着アンカー試験体1Tを施工して定着アンカー部の広幅シート状定着部を引張る試験を行った。
【0188】
定着アンカー試験体1Tは、(1-1)第一の製造実施例の製造具体例1にて説明した強化繊維シート1Aを使用して図1に示す構成の補強繊維シート1を作製し、次いで、この補強繊維シート1の定着アンカー部としての細長棒状取付部1a、扇状定着部1b及び補強繊維シート本体1cの一部を利用して作製した。つまり、強化繊維シート1Aにおける連続繊維ストランド2は、繊維fとして平均径5μm、収束本数24000本のPAN系炭素繊維ストランドを用いた。炭素繊維は、中弾性の炭素繊維であり、ヤング率が450GPaであった。
【0189】
本実験である定着アンカー試験体1Tの強度試験にて、定着アンカー試験体1Tは長さL1c=20cmとされる補強繊維シート本体1c(図21(a)にて右側端)をタブ300Bにて挟持した。また、定着アンカー試験体1Tの取付部1aは、コンクリート躯体300Aに角度(θ)=150°にて穿設された取付孔10に埋め込んで接着剤(エポキシ樹脂)42にて固定し、また、定着アンカー試験体1Tの長さL1bとされる扇状定着部1bをコンクリート躯体300Aの被接着面に接着剤42にて固定した。この状態で、定着アンカー試験体1Tを挟持したタブ300Bをジャッキ(図示せず)で引っ張り、引張荷重PWを負荷し、定着アンカー試験体1Tとコンクリート躯体300Aとの定着強度試験を行い、その時の破壊強度を測定して定着アンカーの定着強度(耐荷重)を検証した。
【0190】
試験に供した、連続繊維ストランド2の本数及び定着アンカー試験体1Tの仕様、並びに、試験結果は下記表1に示す通りである。
【0191】
【表1】
【0192】
上記試験結果より、比較例(既存の設計値)に比べて高目付を有した実験例1に示す本発明によれば、耐荷重が増大することが分かった。また、実験例2は、実験例1において、定着アンカー試験体1Tが更にポリウレア樹脂パテ剤とされる弾性層41(図13(c)参照)を介して接着剤42にてコンクリート躯体300Aに施工された実験例を示すが、この実験例2によれば、弾性層41を形成したことにより、耐荷重が更に向上したことが分かる。
【0193】
このように、本発明の形状、構成に従った補強繊維シート1の定着アンカー部は、従来構成の定着アンカーに比較して、大幅な定着アンカーの定着強度(耐荷重)の増大を達成していることが分かった。従って、本発明の補強繊維シート1を使用したコンクリート構造物の補強方法及び補強構造体によると、コンクリート構造物に対する十分な補強効果を達成することができる。
【0194】
上記試験結果より、本発明の形状、構成に従った補強繊維シート、並びに、本発明の補強繊維シートを使用したコンクリート構造物の補強方法及び補強構造体によると、コンクリート構造物に対する十分な補強効果が達成されることが分かった。
【符号の説明】
【0195】
1 補強繊維シート
1a 細長棒状取付部
1b 扇状定着部
1c 補強繊維シート本体
1A 連続繊維補強部材(強化繊維シート、強化繊維棒状体)
2 連続繊維ストランド(連続強化繊維束)
3、3a、3b 拘束糸
3A 鎖編み目
4 挿入糸
10 取付孔
30、30a~30d 編み組織
30A 編み構造
41 弾性樹脂層
42 接着剤
60 先込充填樹脂
70 挿入棒部材
80 定着補強部材(定着用補強繊維シート)
82 接着剤
90 不陸修正材
100 コンクリート構造物
101 接合部
110(110A、110B) 床版
120(120A、120B) 壁部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図11
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図18
図19
図20
図21
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