(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100341
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】超電導コイル
(51)【国際特許分類】
H01F 6/06 20060101AFI20240719BHJP
H01B 12/06 20060101ALN20240719BHJP
【FI】
H01F6/06 110
H01F6/06 120
H01F6/06 140
H01B12/06 ZAA
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023004278
(22)【出願日】2023-01-16
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】390021577
【氏名又は名称】東海旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】向山 晋一
(72)【発明者】
【氏名】根本 薫
(72)【発明者】
【氏名】石川 裕記
【テーマコード(参考)】
5G321
【Fターム(参考)】
5G321AA04
5G321BA03
5G321CA04
5G321CA24
5G321CA28
5G321CA41
5G321CA42
5G321CA48
5G321CA50
(57)【要約】
【課題】超電導性能が優れている超電導コイルを提供する。
【解決手段】超電導コイルは、テープ状の超電導線材と絶縁テープとを共巻きしてなる巻線部と、少なくとも前記巻線部の外表面を覆う樹脂部と、を備え、前記超電導線材は、テープ状の金属基板、前記金属基板の一方の主面に設けられる中間層、前記中間層の表面に設けられる超電導層、前記超電導層の表面に設けられる保護層、および前記金属基板と前記中間層と前記超電導層と前記保護層を覆う安定化層を有し、前記絶縁テープは、テープ状の絶縁基材を有し、少なくとも前記超電導線材の一方の主面と前記絶縁テープの一方の主面とに、離型層が設けられ、かつ、前記巻線部の径方向に亘って、前記超電導線材と前記離型層と前記絶縁テープと前記離型層とがこの順に設けられる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
テープ状の超電導線材と絶縁テープとを共巻きしてなる巻線部と、
少なくとも前記巻線部の外表面を覆う樹脂部と、
を備え、
前記超電導線材は、テープ状の金属基板、前記金属基板の一方の主面に設けられる中間層、前記中間層の表面に設けられる超電導層、前記超電導層の表面に設けられる保護層、および前記金属基板と前記中間層と前記超電導層と前記保護層を覆う安定化層を有し、
前記絶縁テープは、テープ状の絶縁基材を有し、
少なくとも前記超電導線材の一方の主面と前記絶縁テープの一方の主面とに、離型層が設けられ、かつ、前記巻線部の径方向に亘って、前記超電導線材と前記離型層と前記絶縁テープと前記離型層とがこの順に設けられる、超電導コイル。
【請求項2】
前記離型層は、前記超電導線材の両方の主面に設けられる、請求項1に記載の超電導コイル。
【請求項3】
前記離型層は、前記絶縁テープの両方の主面に設けられる、請求項1に記載の超電導コイル。
【請求項4】
前記樹脂部は、前記巻線部の径方向における隣り合う前記超電導線材間に設けられる、請求項1に記載の超電導コイル。
【請求項5】
前記絶縁テープの厚さは50μm以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の超電導コイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、超電導コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
超電導技術の向上に伴い、例えば磁気共鳴画像診断装置(MRI)、超電導磁気エネルギー貯蔵装置(SMES)、金属の単結晶引き上げ装置などの超電導応用機器が実用化されている。このような機器は、超電導線材を巻回して形成される超電導コイルを内蔵した構成である。さらに、このような機器では、高磁場中での臨界電流特性に優れた高温超電導線材を使用した超電導コイルの開発が進められている。
【0003】
一般的に、超電導コイルは、樹脂を含浸した状態で使用されることが多い。このような超電導コイルにおいては、冷却時に樹脂と超電導線材との熱収縮率の差に起因する積層方向に対する引張力(剥離力)が働き、層間剥離や超電導線材内の亀裂が生じて、安定した超電導特性を得られない。
【0004】
これまで、超電導線材に働く剥離力を低減する対策として、例えば特許文献1には、超電導線材と離型材テープとを共巻きしてなる巻線をエポキシ樹脂で含浸されて構成される超電導コイルが提案されている。
【0005】
特許文献1の超電導コイルでは、離型材テープと樹脂との界面で力が加わると、両者が容易に剥離されて、超電導線材自体の引張が抑制される。しかしながら、近年の超電導性能向上の要求から、特許文献1の超電導コイルでは、超電導性能が不十分であり、改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示の目的は、超電導性能が優れている超電導コイルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1] テープ状の超電導線材と絶縁テープとを共巻きしてなる巻線部と、少なくとも前記巻線部の外表面を覆う樹脂部と、を備え、前記超電導線材は、テープ状の金属基板、前記金属基板の一方の主面に設けられる中間層、前記中間層の表面に設けられる超電導層、前記超電導層の表面に設けられる保護層、および前記金属基板と前記中間層と前記超電導層と前記保護層を覆う安定化層を有し、前記絶縁テープは、テープ状の絶縁基材を有し、少なくとも前記超電導線材の一方の主面と前記絶縁テープの一方の主面とに、離型層が設けられ、かつ、前記巻線部の径方向に亘って、前記超電導線材と前記離型層と前記絶縁テープと前記離型層とがこの順に設けられる、超電導コイル。
[2] 前記離型層は、前記超電導線材の両方の主面に設けられる、上記[1]に記載の超電導コイル。
[3] 前記離型層は、前記絶縁テープの両方の主面に設けられる、上記[1]または[2]に記載の超電導コイル。
[4] 前記樹脂部は、前記巻線部の径方向における隣り合う前記超電導線材間に設けられる、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の超電導コイル。
[5] 前記絶縁テープの厚さは50μm以上である、上記[1]~[4]のいずれか1つに記載の超電導コイル。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、超電導性能が優れている超電導コイルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施形態の超電導コイルの一例を示す斜視図である。
【
図4】
図4は、実施形態の超電導コイルの他の例を示す斜視図である。
【
図5】
図5は、実施例1の超電導コイルおよび比較例1の超電導コイルを通電試験した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態に基づき詳細に説明する。
【0012】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、超電導コイルを製造するために、テープ状の超電導線材と絶縁テープとを共巻きして巻線部を形成すると、巻線部における超電導線材および絶縁テープの積層状態が積層方向に垂直な方向にずれて(以下、単に積層状態のずれともいう)、超電導線材の主面が絶縁テープで完全に覆われないことがあり、その後の含浸処理で巻線部に含浸した樹脂が超電導線材の主面に直接形成されて、超電導線材の剥離を引き起こすことを発見した。そして、本発明者らは、樹脂含浸した超電導コイルにおいて、超電導線材に働く剥離力を低減すると共に超電導線材と樹脂との密着による剥離を防止することで、超電導性能が向上できることを見出した。本開示は、このような知見に基づいて、完成させるに至った。
【0013】
実施形態の超電導コイルは、テープ状の超電導線材と絶縁テープとを共巻きしてなる巻線部と、少なくとも巻線部の外表面を覆う樹脂部と、を備え、超電導線材は、テープ状の金属基板、金属基板の一方の主面に設けられる中間層、中間層の表面に設けられる超電導層、超電導層の表面に設けられる保護層、および金属基板と中間層と超電導層と保護層を覆う安定化層を有し、絶縁テープは、テープ状の絶縁基材を有し、少なくとも超電導線材の一方の主面と絶縁テープの一方の主面とに、離型層が設けられ、かつ、巻線部の径方向に亘って、超電導線材と離型層と絶縁テープと離型層とがこの順に設けられる。
【0014】
図1は、実施形態の超電導コイルの一例を示す斜視図である。
図2は、
図1のA-A断面図の一例である。なお、
図1では、巻線部10の構成をわかりやすくするために、樹脂部50の一部が透過している状態を示している。また、
図2では、各部材について、巻線部10の構成をわかりやすくするために、幅に対して厚さを大きくしているが、実際には、幅に対する厚さは非常に小さい。
【0015】
図1に示すように、超電導コイル1は、巻線部10と樹脂部50とを備える。巻線部10は、テープ状の超電導線材20と絶縁テープ30とを共巻きしてなる。樹脂部50は、少なくとも巻線部10の外表面を覆う。超電導コイル1は、巻芯部60の外側に超電導線材20が複数重ねて巻回されたいわゆるパンケーキコイルである。巻芯部60の径方向において、超電導線材20の間には、絶縁テープ30が介在されている。例えば、超電導コイル1は高温超電導コイルである。樹脂部50は、巻線部10を樹脂に含浸することによって形成される。
【0016】
巻線部10を構成する超電導線材20は、
図2に示すように、金属基板21と中間層22と超電導層23と保護層24と安定化層25とを有する。
【0017】
超電導線材20を構成する金属基板21は、テープ状の金属基板である。
【0018】
中間層22は、金属基板21の一方の主面に設けられる。金属基板21の主面とは、金属基板21の幅方向に沿った面であり、
図2では左右の面である。
【0019】
超電導層23は、中間層22の表面に設けられる。超電導層23を構成する超電導体としては、液体窒素温度以上で超電導を示すRE系超電導体(RE:希土類元素)であることが好ましく、化学式YBa2Cu3O7-yで表されるイットリウム系超電導体(Y系超電導体)であることがより好ましい。超電導線材20は、高温超電導線材である。
【0020】
保護層24は、超電導層23の表面に設けられる。保護層24は、金属層である。超電導線材20では、金属基板21と中間層22と超電導層23と保護層24は、この順に積層されて、積層体を形成している。
【0021】
安定化層25は、金属基板21、ならびに金属基板21の片側に設けられる中間層22、超電導層23および保護層24の全体を覆う。すなわち、安定化層25は、金属基板21と中間層22と超電導層23と保護層24とが積層されてなる積層体の周囲全体を被覆する。安定化層25は、金属層であり、好ましくは銅から構成される。
【0022】
巻線部10を構成する絶縁テープ30は、テープ状の絶縁基材31を有する。絶縁基材31としては、超電導が発現する液体窒素温度で割れなどが生じにくい絶縁基材であることが好ましく、なかでも離型性を有するポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリイミド、ノーメックス(登録商標)、ポリスチレン、ポリエチレンから構成されることが好ましい。
【0023】
また、
図1~2に示すように、少なくとも超電導線材20の一方の主面と絶縁テープ30の一方の主面とに、離型層40が設けられ、かつ、巻線部10の径方向に亘って、超電導線材20と離型層40と絶縁テープ30と離型層40とがこの順に設けられる。巻線部10において、超電導線材20および絶縁テープ30の積層状態が積層方向に垂直な方向(
図2の幅方向)にずれたとしても、超電導線材20の表面には離型層40が設けられているため、巻線部10を樹脂含浸しても、超電導線材20の剥離を引き起こす引張力が低減され、超電導線材20の剥離を抑制できる。その結果、超電導コイル1の超電導性能を向上できる。
【0024】
離型層40は、離型特性を有する層であり、好ましくはパラフィン、シリコーンオイル、グリース、テフロン(登録商標)から構成される。離型層40の形成方法としては、離型剤を塗布する、離型剤を焼付コーティングする、離型テープを超電導線材20や絶縁テープ30と共に巻回する、離型テープを積層(ラミネート)するなどが好ましい。
【0025】
また、離型層40は、超電導線材20や絶縁テープ30の側面に設けられてもよい。超電導線材20や絶縁テープ30の側面とは、超電導線材20や絶縁テープ30の厚さ方向に沿った面であり、
図2では上下の面である。
【0026】
また、上記の超電導線材20の剥離をさらに抑制する観点から、離型層40は超電導線材20の両方の主面に設けられることが好ましい。さらに、離型層40を両方の主面に備える超電導線材20は、離型層40を片側の主面に備える超電導線材20に比べて離型処理が容易であるため、製造が容易である。また、同様の観点から、離型層40は絶縁テープ30の両方の主面に設けられることが好ましい。離型層40を両方の主面に備える絶縁テープ30についても、同様の理由から製造が容易である。
【0027】
また、巻線部10における超電導線材20および絶縁テープ30の積層状態のずれにより、超電導線材20の安定化層25同士が絶縁なしで向き合うことになり、超電導コイル1に電流を通電したときに発生する外向きの電磁力(フープ力)によって超電導コイル1が圧縮されて、超電導線材20同士が接触することで導通が生じて電流による発熱が生じたり、超電導線材20同士が近接することで超電導コイル1に発生する電圧により放電や短絡が起きたりすることがあることを、本発明者らが発見した。その結果、超電導コイル1の超電導性能が劣化し、超電導コイル1の焼損などが発生する恐れがあることがわかった。
【0028】
このような問題を解決するためには、
図3に示すように、巻線部10における超電導線材20および絶縁テープ30の積層状態のずれが生じた場合、巻線部10の径方向における隣り合う超電導線材20と超電導線材20との間(以下、単に超電導線材20間ともいう)にも樹脂部50が設けられることが好ましい。すなわち、超電導線材20および絶縁テープ30の積層状態がずれて絶縁テープ30が不在となる、巻線部10の径方向における隣り合う超電導線材20と超電導線材20との間(隙間)に、樹脂部50が設けられることが好ましい。
【0029】
超電導線材20および絶縁テープ30の積層状態のずれによって生じる超電導線材20間に樹脂部50が設けられると、超電導線材20同士の直接の接触を防止することに加えて、超電導コイル1に電磁力が加わっても、超電導線材20間の距離が接近することなく絶縁に必要な距離を維持できる。そのため、超電導コイル1の電気絶縁性能を向上できる。
【0030】
また、絶縁テープ30の厚さは、50μm以上であることが好ましく、70μm以上であることがより好ましく、80μm以上であることがさらに好ましい。絶縁テープ30の厚さが上記範囲内であると、超電導線材20間の電気絶縁を十分に確保できる。また、絶縁テープ30の厚さが上記範囲内であると、超電導線材20および絶縁テープ30の積層状態のずれが生じた巻線部10の樹脂含浸処理において、巻線部10の径方向における隣り合う超電導線材20と超電導線材20との間の隙間に樹脂を充填しやすいため、超電導線材20間に樹脂部50を容易に形成できる。また、絶縁テープ30の厚さは、例えば250μm以下である。
【0031】
また、巻芯部60に対して超電導線材20と絶縁テープ30とを巻回してなる巻線部10を樹脂含浸することによって、少なくとも巻線部10の外表面を被覆する樹脂部50を形成できる。超電導線材20および絶縁テープ30の積層状態のずれが生じた場合、樹脂部50は巻線部10の径方向における超電導線材20間にも充填される。
【0032】
次に、上記実施形態の超電導コイル1の製造方法の一例について説明する。
【0033】
離型処理した絶縁テープ30を巻芯部60に巻き付け、同時に離型処理した超電導線材20が絶縁テープ30に重なるように巻き付け、その後、絶縁テープ30および超電導線材20を共巻きする。こうして、径方向に亘って超電導線材20および絶縁テープ30が複数積層した巻線部10を形成する。超電導線材20および絶縁テープ30の巻き緩みを抑制するため、巻線時には、0.5kg以上の張力を超電導線材20および絶縁テープ30にかける。
【0034】
また、巻芯部60の両端につばを設けることで、超電導線材20および絶縁テープ30を巻線部60に巻き付けるときに、超電導線材20や絶縁テープ30の厚み寸法の部分的なばらつきなどに起因する、超電導線材20および絶縁テープ30の積層状態のずれを抑制できる。また、超電導線材20や絶縁テープ30を送り出すガイドローラーと巻線部60との厳密な位置調整を行うことで、巻線部10における超電導線材20および絶縁テープ30の積層状態のずれやねじれなどを抑制できる。
【0035】
続いて、巻線部10を樹脂含浸して、樹脂部50を形成する。こうして、超電導コイル1を製造する。樹脂部50は、巻線部10が型崩れしないように、超電導コイル1に十分な強度を付与している。
【0036】
巻線部10の樹脂含浸処理では、真空排気が可能な含浸容器に巻線部10を収納し、真空ポンプで含浸容器内の圧力を200Pa以下まで真空排気する。含浸容器内の圧力が200Paであると、巻線部10の内部の水分などが蒸発して、巻線部10の隙間などに存在する気体および水分が超電導コイル1から十分に抜ける状態である。
【0037】
このような状態で、注液する樹脂を入れた樹脂容器内の空気を真空排気して、内部の空気を抜いた(脱泡処理した)樹脂を大気圧に戻し、配管により真空状態の含浸容器に大気圧下にある樹脂を吸引させて、巻線部10に樹脂を充填させる。巻線部10内部に空気が存在しないことから、樹脂は空気により阻止されることなく巻線部10に浸透する。さらに、樹脂を十分に浸透させた後に含浸容器を大気圧に戻すことで、超電導コイル1内に存在する気体が気泡サイズとして1mm以下になり、樹脂を超電導コイル1内に隙間なく充填できる。また、超電導線材20および絶縁テープ30が離型処理されているため、余分な樹脂はいずれにも密着せず、余分な樹脂が収縮などしても超電導線材20からは速やかに剥がれて離れることから、超電導線材20を構成する超電導層23などの各層への影響は抑制できる。
【0038】
また、仮に巻線部10における超電導線材20および絶縁テープ30の積層状態のずれが生じた場合には、含浸容器に樹脂を注入する前に、含浸容器の蓋を閉じることにより、含浸容器の底部に収納した巻線部10に対して、巻線部10の幅方向から蓋が当接するため、超電導線材20および絶縁テープ30が巻線部10の幅方向に移動して、積層状態のずれを低減または解消できる。
【0039】
このように、絶縁性能および超電導線材20や絶縁テープ30の滑りやすさのそれぞれに長じた安価な素材を組み合わせることにより、線材としての超電導線材20の取り扱いの難点である絶縁性や厚み方向への機械的強度を解消し、例えば超電導コイル自体の低コスト化、また高温超電導線材である超電導線材20を使用できることでの冷却機構の簡素化を含めた全体で一層の低コスト化を実現できる。
【0040】
以上説明した実施形態によれば、離型処理した超電導線材および絶縁テープを共巻きしてなる巻線部において、径方向に亘って超電導線材と離型層と絶縁テープとを所定配置で設けることによって、超電導線材の剥離を抑制でき、優れた超電導性能を有する超電導コイルを得ることができる。
【0041】
なお、上記では、円環状の巻芯部60に超電導線材20および絶縁テープ30を巻回した例を
図1に示したが、
図4に示すように、直線部と円弧部とを有するレーストラック形状の巻芯部60に超電導線材20および絶縁テープ30を巻回してもよい。
【0042】
以上、実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本開示の概念および特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本開示の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例0043】
次に、実施例および比較例について説明するが、本開示はこれら実施例に限定されるものではない。
【0044】
(実施例1)
両方の主面に離型処理した超電導線材および絶縁テープを巻線部に共巻きして、径方向に亘って超電導線材と離型層と絶縁テープと離型層とがこの順に設けられる巻線部を得た。続いて、巻線部を樹脂含浸することで、少なくとも巻線部の外表面に樹脂部を形成した。こうして、超電導コイルを製造した。
【0045】
(比較例1)
離型処理を施さない超電導線材および絶縁テープを巻線部に共巻きして、径方向に亘って超電導線材と絶縁テープとがこの順に設けられる巻線部を得た。続いて、巻線部を樹脂含浸することで、少なくとも巻線部の外表面に樹脂部を形成した。こうして、超電導コイルを製造した。
【0046】
図5は、実施例1の超電導コイルおよび比較例1の超電導コイルを通電試験した結果を示すグラフである。超電導コイルの通電試験では、電流を上昇させながら超電導コイルで発生する電圧を測定し、電圧発生するところで超電導状態が崩壊する。
【0047】
実施例1では、材料設計通り、巻回した超電導線材の特性に匹敵する値まで電流を流すことができた。一方、比較例1では、巻回した超電導線材の特性に匹敵する値まで電流を流すことができず、電流は実施例1に比べて低減することを確認した。また、通電試験後の比較例1の超電導コイルを解体したところ、超電導線材および絶縁テープの積層体から絶縁テープがずれた部分を見つけた。この部分では、超電導線材の超電導層が剥離していることを確認した。