(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100548
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】MLAデータの補正方法及び鉱物分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/203 20060101AFI20240719BHJP
G01N 33/24 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
G01N23/203
G01N33/24 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023004628
(22)【出願日】2023-01-16
(71)【出願人】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】田浦 弘史
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 誠二
(72)【発明者】
【氏名】木村 昌弘
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA03
2G001BA15
2G001CA03
2G001DA09
2G001FA06
2G001FA08
2G001KA01
2G001LA03
(57)【要約】
【課題】MLAを用いて鉱石中に存在する鉱物の組成比をより精度良く分析することが可能なMLAデータの補正方法及び鉱物分析方法を提供する。
【解決手段】樹脂に鉱物粒子を包埋した鉱石試料の測定面を鉱物粒子解析装置で測定することにより得られる測定面の鉱物粒子の反射電子像と、鉱物粒子を構成する構成鉱物の鉱物領域及び鉱物種の情報を含む鉱物マップとを得る工程S2と、補正対象とする着目鉱物を構成鉱物として含む鉱物粒子に対し、着目鉱物の鉱物領域及び鉱物種の情報を、構成鉱物の反射電子像の輝度補正情報を用いて補正する工程S3とを含むMLAデータの補正方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂中に鉱物粒子を包埋した鉱石試料の測定面を鉱物粒子解析装置で測定することにより得られる前記測定面の前記鉱物粒子の反射電子像と、前記鉱物粒子を構成する構成鉱物の鉱物領域及び鉱物種の情報を含む鉱物マップとを取得する工程、
補正対象とする着目鉱物を前記構成鉱物として含む鉱物粒子に対し、前記着目鉱物の前記鉱物領域及び鉱物種の情報を、前記構成鉱物の前記反射電子像の輝度補正情報を用いて補正する工程
を含むMLAデータの補正方法。
【請求項2】
鉱物粒子解析装置を用いた鉱物分析方法において、
樹脂中に鉱物粒子を包埋した鉱石試料の測定面を鉱物粒子解析装置で測定する工程と、
前記測定面の前記鉱物粒子の反射電子像と、前記鉱物粒子を構成する構成鉱物の鉱物領域及び鉱物種の情報を含む鉱物マップとを得る工程と、
補正対象とする着目鉱物を前記構成鉱物として含む鉱物粒子に対し、前記着目鉱物の前記鉱物領域及び前記鉱物種の情報を、前記構成鉱物の前記反射電子像の輝度補正情報を用いて補正する工程と、
補正後の鉱物粒子の鉱物領域の面積及び構成鉱物の種類に基づいて、前記鉱石試料中に存在する前記構成鉱物の組成比を分析する工程と
を含む鉱物分析方法。
【請求項3】
前記補正する工程が、
前記着目鉱物の前記鉱物粒子に対する面積比が閾値未満のときは、前記着目鉱物の周囲に存在する鉱物種の反射電子像の輝度情報を用いて作製された第1の輝度補正情報を用いて前記着目鉱物の前記鉱物領域を補正し、
前記面積比が閾値以上のときは、前記鉱物粒子を構成する鉱物種の反射電子像の輝度情報を用いて作製された第2の輝度補正情報を用いて前記着目鉱物の鉱物領域を補正すること
を含む請求項2に記載の鉱物分析方法。
【請求項4】
前記輝度補正情報を作製する工程を含み、該工程が、
前記着目鉱物が前記鉱物粒子に占める面積比に基づいて、輝度補正情報を構成する構成鉱物の組み合わせを決定することと、
決定した前記構成鉱物の反射電子像のピーク輝度値を大小順に並べたときに隣り合う構成鉱物を抽出し、前記ピーク輝度値が高い方の構成鉱物の反射電子像の輝度下限初期値と、前記ピーク輝度値が低い方の構成鉱物の反射電子像の輝度上限初期値との中間値を、前記隣り合う構成鉱物間の補正後の鉱物境界値として設定した輝度補正情報を作製する工程
を含む請求項2又は3に記載の鉱物分析方法。
【請求項5】
前記閾値が50%以上である請求項3に記載の鉱物分析方法。
【請求項6】
前記鉱石試料として、二次富化帯の鉱石を分析することを含む請求項2又は3に記載の鉱物分析方法。
【請求項7】
前記着目鉱物が、斑銅鉱石である請求項2又は3に記載の鉱物分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MLAデータの補正方法及び鉱物分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉱物粒子解析装置(MLA)を用いて鉱物の解析を行う方法が知られている。例えば、特開2020-153738号公報(特許文献1)には、鉱物を含有する試料に対するMLAによる測定結果に基づいて得られる試料中の各鉱物の密度の大小関係と、試料に対するX線CT像における輝度の大小関係とを関連付け、関連付けにより得られた関係に基づき、X線CT像における所定輝度に対応する所定の鉱物の粒子データを得、粒子データに基づいて所定の鉱物を評価することが記載されている。
【0003】
特開2016-156826号公報(特許文献2)には、試料中の物質を同定する方法であって、試料上の選択された点に対するスペクトルを得るステップと、純粋相中の物質を同定するために、それぞれの点に対するスペクトルの第1の分析を実行するステップと、試料上の選択された点のうちのいずれかの点において純粋相中にあると識別された物質の試料特有ライブラリを形成するステップと、選択された点における試料の組成を決定するために、選択された点において取得したスペクトルの第2の分析を、試料特有ライブラリを使用して実行するステップとを含む方法が記載されている。
【0004】
特開2015-40724号公報(特許文献3)には、MLA又はQEMSCANと呼ばれるエネルギー分散型X線分析器を有する走査電子顕微鏡をベースとした鉱物粒子解析装置において、鉱石中の鉱物種の存在割合を精度よく分析するために、鉱物粒子の鉱物領域のうち、BSE輝度が閾値以下の部分を除去する補正を行う方法の例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-153738号公報
【特許文献2】特開2016-156826号公報
【特許文献3】特開2015-40724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1~3に記載されるような種々の測定方法、補正方法が試みられており、MLAを用いた分析では、MLAに付属する解析ソフト等を用いて鉱石中に含まれる鉱物の種類及び粒径等の様々な情報を得ることができる。しかしながら、MLAは、分析に走査電子顕微鏡を用いており、走査電子顕微鏡の被写界深度が比較的深い。そのため、試料の深さ方向における鉱物の重なりや鉱物間の境界の存在等により誤認識が生じ、鉱石中に存在する鉱物の組成比の分析精度が低くなる場合がある。
【0007】
上記課題に鑑み、本開示は、MLAを用いて鉱石中に存在する鉱物の組成比をより精度良く分析することが可能なMLAデータの補正方法及び鉱物分析方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本開示の一側面によれば、樹脂に鉱物粒子を包埋した鉱石試料の測定面を鉱物粒子解析装置で測定することにより得られる測定面の鉱物粒子の反射電子像と、鉱物粒子を構成する構成鉱物の鉱物領域及び鉱物種の情報を含む鉱物マップとを取得し、補正対象とする着目鉱物を構成鉱物として含む鉱物粒子に対し、着目鉱物の鉱物領域及び鉱物種の情報を、構成鉱物の反射電子像の輝度補正情報を用いて補正する工程を含むMLAデータの補正方法が提供される。
【0009】
本開示の別の一側面によれば、鉱物粒子解析装置を用いた鉱物分析方法において、樹脂中に鉱物粒子を包埋した鉱石試料の測定面を鉱物粒子解析装置で測定する工程と、測定面の鉱物粒子の反射電子像と、鉱物粒子を構成する構成鉱物の鉱物領域及び鉱物種の情報を含む鉱物マップとを得る工程と、補正対象とする着目鉱物を構成鉱物として含む鉱物粒子に対し、着目鉱物の鉱物領域及び鉱物種を、構成鉱物の反射電子像の輝度補正情報を用いて補正する工程と、補正後の鉱物粒子の鉱物領域の面積及び構成鉱物の種類に基づいて、鉱石試料中に存在する構成鉱物の組成比を分析する工程とを含む鉱物分析方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、MLAを用いて鉱石中に存在する鉱物の組成比をより精度良く分析することが可能なMLAデータの補正方法及び鉱物分析方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施の形態に係るMLAの補正方法及び鉱石の分析方法の一例を示すフローチャートである。
【
図2】二次富化銅鉱物のMLA分析で得られた鉱物粒子の鉱物マップの例を示す説明図である。
【
図3】
図3(a)は、二次富化銅鉱物を用いた鉱石試料についてMLA分析で得られた鉱物マップから得られた鉱物の組成比を分析した結果の例を示す棒グラフであり、
図3(b)は、光学顕微鏡で鉱物の組成比を分析した結果の例を示す棒グラフである。
【
図4】
図1のMLAデータの補正工程における補正方法の一例を示すフローチャートである。
【
図5】
図5(a)は補正前の鉱物粒子の鉱物マップを示し、
図5(b)は反射電子像を示し、
図5(c)は補正後の鉱物粒子の鉱物マップを示す説明図である。
【
図6】
図6(a)は、MLAデータの補正処理後の試料1~6の鉱物の組成比の分析結果を示す棒グラフであり、
図6(b)は、光学顕微鏡を用いて分析を行った実測値の分析結果を示す棒グラフである。
【
図7】
図7(a)は単体鉱物粒子の模式図を表し、
図7(b)は主要な構成鉱物のバックスキャッタリング係数と反射電子像の輝度の実測値の相関性を説明するグラフである。
【
図8】第1の輝度補正情報の算出方法の一例を表す説明図である。
【
図9】第1の輝度補正情報の一例であり、着目鉱物をBnとし、着目鉱物の周囲に存在する構成鉱物がCcp及びClcのときの各鉱物の補正後の輝度範囲を模式的に表すヒストグラムである。
【
図10】
図10(a)は、鉱物マップのBnの周囲にClc、Ccp、Cvの鉱石が隣接する状態を表す補正前の鉱物粒子の鉱物マップ、
図10(b)は、補正前の反射電子像、
図10(c)は、補正後の鉱物マップを示す。
【
図11】銅鉱山から採取した銅精鉱中の銅不溶性物の濃度が高い場合と低い場合と銅品位が通常より低い場合の鉱石を鉱石試料として、本発明の実施の形態に係るMLAデータの補正方法を用いて鉱物の組成比を分析した結果を示すグラフである。
【
図12】着目鉱物の鉱物粒子に対する面積比の閾値(0.1~0.9)の違いによる組成分析結果の違いを表すグラフである。
【
図13】
図11の斑銅鉱石(Bornite)の分析結果を拡大したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであってこの発明の技術的思想は装置の構造、配置、或いは、方法の順番等を下記のものに特定するものではない。
【0013】
本発明の実施の形態に係るMLAデータの補正方法は、
図1に示すように、樹脂中に鉱物粒子を包埋した鉱石試料の測定面を鉱物粒子解析装置で測定する工程(MLA測定工程S1)と、測定面に存在する鉱物粒子の反射電子像と、鉱物粒子を構成する構成鉱物の鉱物領域及び鉱物種の情報を含む鉱物マップとを含むMLAデータを取得する工程(MLAデータ取得工程S2)と、補正対象とする着目鉱物を構成鉱物として含む鉱物粒子に対し、着目鉱物の鉱物領域及び鉱物種の情報を、構成鉱物又は着目鉱物の周囲に存在する構成鉱物の反射電子像の輝度補正情報に基づいて補正する工程(MLAデータ補正工程S3)とを含む。本発明の実施の形態に係る鉱物分析方法は、更に、MLAデータ補正工程S3で得られる補正後の鉱物粒子の鉱物領域の面積及び構成鉱物の種類に基づいて、鉱石試料中に存在する構成鉱物の組成比を分析する工程(鉱物分析工程S4)を含む。
【0014】
MLA測定工程S1では、分析対象とする鉱物粒子を樹脂中に包埋し、測定面の表面を研磨することにより、鉱石試料を作製する。分析対象とする鉱石としては、特に限定されない。例えば、輝銅鉱(Cu2S:以下「Chalcocite」又は「Clc」ともいう)、黄銅鉱(CuFeS2:以下「Chalcopyrite」又は「Ccp」ともいう)、黄鉄鉱(FeS2:以下「Pyrite」又は「Py」ともいう)、銅藍(CuS:以下「Covellite」又は「Cv」ともいう)、斑銅鉱石(Cu5FeS4:以下「Bornite」又は「Bn」ともいう)、輝水鉛鉱(以下「Molybdenite」または「Mo」ともいう)等を含む鉱石が好ましい。
【0015】
本実施形態においては、特に、分析対象として二次富化帯の鉱石(以下「二次富化銅鉱物」ともいう)の組成比を、MLAを用いて精度良く分析することができる。
【0016】
鉱石試料の作製においては、測定面内に均一に分散させるように鉱物粒子を樹脂中に埋め込むことで、測定面近傍に存在する鉱物粒子同士が深さ方向に重なり合わないように、鉱物粒子を包埋することが好ましい。作製された鉱石試料は、EDS搭載走査型電子顕微鏡(SEM-EDS)を備えるMLA内へと導入する。そして、SEM-EDSの各種調整及び測定条件等を設定し、鉱石試料のSEM-EDS測定を行い、測定面の反射電子像(BSE画像)を得る。
【0017】
MLAデータ取得工程S2では、鉱石試料の測定面のSEM-EDSの測定結果に基づいて、測定面に存在する鉱物粒子の反射電子像と、鉱物粒子を構成する構成鉱物の鉱物領域及び鉱物種の情報を含む鉱物マップとを少なくとも含むMLAデータを得る。
【0018】
このMLAデータは、例えば、MLAに付属する汎用の又は専用の解析ソフトを用いて得ることができる。解析ソフトは、SEM-EDS測定で得られる測定面の反射電子像の輝度情報から、鉱石試料の測定面に存在する数千~数万個の鉱物粒子の形状及び面積をそれぞれ解析するとともに、各鉱物粒子を構成する1又は複数の構成鉱物の種類(鉱物種)とその構成鉱物が存在する領域(鉱物領域)の位置及び面積を解析し、それぞれ鉱物領域及び鉱物種の分布を鉱物種毎に異なる分類(異なる色又は色の濃淡)で表した
図2に示すような画像情報を含む「鉱物マップ」を作製する。
【0019】
反射電子像の輝度は、相対的に樹脂部分が低く、鉱物粒子部分が高い。そのため、解析ソフトは、反射電子像の輝度の差を利用することによって、鉱物粒子が有する形状及び面積を決定できる。MLAデータ取得工程S2では、所定の解析ソフトを用いて分析を行うことにより、鉱石試料の測定面に存在する数千~数万個の各鉱物粒子のそれぞれに対し、鉱物マップに対応する領域の反射電子像の情報を取得する。
【0020】
MLAデータ補正工程S3では、MLAデータ取得工程S2で得られた鉱物粒子の鉱物マップから、補正対象とする着目鉱物を抽出し、鉱物マップ内の着目鉱物に対し、鉱物粒子を構成する構成鉱物の反射電子像に基づく補正を行う。
図2は、二次富化銅鉱物のMLA分析で得られた10個の鉱物粒子の鉱物マップの例を示す。二次富化銅鉱物は、その生成反応から、ClcとCcpを構成鉱物として多く含んでいることが分かる。
図2の10個の片刃粒子のClc(又はCv)/Ccpの鉱物間境界には、Bnが高頻度で現れている。
【0021】
二次富化銅鉱物を用いた同一の鉱石試料について、MLAデータ取得工程S2で得られた鉱物マップから求めた鉱物の組成比の分析結果(MLA分析結果)を
図3(a)に示し、光学顕微鏡で撮像されたカラー画像の色を用いた画像解析の結果を
図3(b)に示す。
【0022】
図3(a)及び
図3(b)に示すように、MLA分析結果と光学顕微鏡で撮像された画像解析の結果とでは、特に、グラフ中、黒色で表されるBn(Bornite)の組成比に大きな隔たりがあることが分かる。このBnは、
図2に示すように、隣接する鉱物間(Clc(又はCv)/Ccp)の境界付近に存在する構成鉱物である。MLA分析では、鉱物粒子を構成する構成粒子として、相対的に含有量が最も多い鉱物種とこれに隣接する鉱物種との境界付近に存在する鉱物種の含有量を誤って判定する傾向にあり、これがMLAの測定精度低下の原因の一つと考えられる。
【0023】
よって、MLAデータ補正工程S3では、補正対象とする着目鉱物として、鉱物粒子を構成する構成鉱物のうち、面積が相対的に最も大きい構成鉱物とこの構成鉱物に隣接する構成鉱物との境界に存在する構成鉱物を「着目鉱物」として設定することが好ましい。典型的には、Clc/Ccp境界に現れる「Bn」を着目鉱物として設定することが好ましい。これにより、MLAデータの補正をより精度良く行うことができ、鉱石中に存在する構成鉱物の組成比を、MLAを用いてより精度良く分析することが可能となる。特に、ClcとCcpとを構成鉱物として含む鉱物粒子は、銅鉱床の二次富化帯で頻繁にみられるため、Bnを補正することにより、銅鉱床用途におけるMLA解析精度向上への効果は大きい。なお、二次富化銅鉱物を試料として用いた場合には、Clc/Py境界に現れる「Ccp」を着目鉱物として設定した場合においても、Bnと同様に、鉱石中に存在する鉱物の組成比をより精度良く分析できる。
【0024】
図1のMLAデータ補正工程S3では、まず、複数の鉱物粒子の中から補正対象とする着目鉱物を定め、この着目鉱物を構成鉱物として含む鉱物粒子の情報をMLAデータから抽出する。そして、着目鉱物を構成鉱物として含む鉱物粒子に対し、着目鉱物の鉱物領域の情報を、その着目鉱物を含む構成粒子の構成鉱物の反射電子像の輝度補正情報を用いて補正処理する。
【0025】
この補正処理は、より具体的には、例えば、
図4に示す手順に沿って、一定の手順に基づいてデータを変換、演算又は加工するプロセッサ(処理装置)と所定の記憶手段とを備えた計算機等を用いて進めることができる。
【0026】
図4のステップS31において、まず、
図1のMLAデータ取得工程S2で得られた鉱物マップ及び反射電子像を含むMLAデータから例えば以下の情報が取得される。
(a)鉱物マップにおける各鉱物粒子の構成鉱物の鉱物割合(面積比)
(b)鉱物マップにおける着目鉱物の周囲にある構成鉱物の種類(隣接鉱物種)
(c)各鉱物粒子の反射電子像の輝度分布及び輝度分布に示された各ピークに対応する構成鉱物の種類
【0027】
ステップS32において、操作者が補正対象とする着目鉱物を設定する。ここでは「Bn」を着目鉱物として設定する場合を例に説明するが、着目鉱物はこれに限定されないことは勿論である。
【0028】
ステップS33において、着目鉱物の鉱物粒子に対する面積比が、閾値未満であるか否かが判定される。閾値は操作者が適宜設定することができる。ここでは、閾値を50%とする例を用いて説明する。閾値の適正な設定範囲については後述する。
【0029】
鉱物マップ中の着目鉱物の鉱物粒子に対する面積比が閾値(50%)未満、即ち、着目鉱物の存在割合が鉱物粒子全体に対して小さい場合には、
図4のステップS34へ進む。着目鉱物の鉱物粒子に対する面積比が閾値(50%)以上、即ち、着目鉱物の存在割合が鉱物粒子全体に対して大きい場合には、ステップS35へ進む。
【0030】
ステップS33において、着目鉱物の鉱物粒子に対する面積比が閾値未満である場合、処理装置は、着目鉱物の周囲に存在する鉱物種の反射電子像の輝度情報を用いて作製された第1の輝度補正情報を用いて、着目鉱物の鉱物領域を補正する。なお、着目鉱物の周囲に存在する鉱物種とは着目鉱物と接する鉱物種を意味する。
【0031】
具体的にはまず、処理装置が、補正対象とする着目鉱物を構成鉱物として含む鉱物粒子を抽出する。着目鉱物を構成鉱物として含まない鉱物粒子は、補正を行わなくてよい。抽出した鉱物粒子に対し、処理装置は、例えば
図5(a)に示すように、鉱物マップ上に示されている着目鉱物を含む領域を、単位結晶粒(以下「グレイン」という)g1~g3毎に分けて抽出し、グレインg1~g3毎に補正処理を行う。
【0032】
図5(a)は補正前の鉱物粒子の鉱物マップの例を示し、
図5(b)は反射電子像の例を示し、
図5(c)は補正後の鉱物粒子の鉱物マップの例を示す。例えば、
図5(a)の鉱物マップに示されているグレインg1~g3において、着目鉱物であるBnの周囲に存在する構成鉱物は、ClcとCcpである。そのため、
図5(a)の鉱物マップの補正処理に際しては、Bnの周囲に存在する構成鉱物として「Clc」、「Ccp」の2つの構成鉱物の反射電子像の輝度情報で構成された第1の輝度補正情報を用いて、鉱物マップを補正する。なお、第1の輝度補正情報の作製方法については後述する。
【0033】
一方、
図4のステップS33において、着目鉱物の鉱物粒子に対する面積比が閾値以上、即ち、着目鉱物の存在割合が一の鉱物粒子において相対的に高いときには、ステップS35に進み、鉱物粒子を構成する鉱物種の反射電子像の輝度情報を用いて作製された第2の輝度補正情報を用いて、着目鉱物の鉱物領域を補正する。
【0034】
具体的にはまず、処理装置が、ステップS34と同様に、補正対象とする着目鉱物を構成鉱物として含む鉱物粒子を抽出する。ここでは図示による説明を省略するが、抽出した鉱物粒子に対し、処理装置が、着目鉱物を含む鉱物粒子の情報を抽出し、鉱物粒子毎に補正を行う。着目鉱物の鉱物粒子に対する面積比が閾値以上の場合は、鉱物マップの主構成鉱物としての着目鉱物の存在の可能性が排除できない。そのため、ステップS35では、鉱物粒子を構成する鉱物種の反射電子像の輝度情報を用いて作製された第2の輝度補正情報に基づいて、鉱物マップ上の着目鉱物の鉱物領域の情報及び反射電子像の情報を補正する。第2の輝度補正情報の作製方法の例については後述する。
【0035】
図6(a)に、上述の手順に従ってMLAデータを補正処理した後の試料1~6の鉱物の組成比の分析結果を示し、
図6(b)に光学顕微鏡で撮像されたカラー画像の色を用いた画像解析の結果の例(実測値)を示す。
図6(b)に示す例では、
図3(a)の補正前の鉱物の組成比に比べると、いずれの試料も鉱物種の含有量を誤って判定していると思われるBnの組成比が大幅に低減していることが分かる。このように、MLAデータに本実施形態に係る補正処理を実施することにより、実測値により整合した組成分析結果が得られることが分かる。
【0036】
(輝度補正情報の作製方法)
輝度補正情報の作製方法は、(1)補正に用いる情報を抽出することと、(2)各構成鉱物の反射電子像のピーク輝度値及び鉱物境界値の初期値を決定することと、(3)第1及び第2の輝度補正情報を作製する工程とを含む。更に、第1及び第2の輝度補正情報を作製する工程は、着目鉱物が鉱物粒子に占める面積比に基づいて、輝度補正情報を構成する構成鉱物の組み合わせを決定することと、決定した構成鉱物の反射電子像のピーク輝度値を大小順に並べたときに隣り合う構成鉱物を抽出し、ピーク輝度値が高い方の構成鉱物の反射電子像の輝度下限初期値と、ピーク輝度値が低い方の構成鉱物の反射電子像の輝度上限初期値との中間値を、隣り合う構成鉱物間の補正後の鉱物境界値として設定した輝度補正情報を作製する工程を含む。具体的には、例えば以下の手順に沿って作製することができる。
【0037】
(1)補正に用いる情報の抽出
まず、MLAから出力される鉱物粒子毎の鉱物マップ画像と反射電子像画像のセットから、必要に応じて、以下の情報を抽出する。
(a)鉱物マップの各鉱物粒子に含まれる構成鉱物の鉱物割合(面積比)
(b)鉱物マップの着目鉱物の周囲にある構成鉱物の種類(隣接鉱物種)
(c)各鉱物粒子の構成鉱物の反射電子像の輝度分布情報
【0038】
(2)各構成鉱物の反射電子像のピーク輝度値及び鉱物境界値の初期値の決定
多数の鉱物粒子の情報を含むMLAデータから、鉱物粒子を構成する主要な構成鉱物(Clc、Bn、Cv、Ccp、Py)単体で構成される鉱物粒子、即ち、
図7(a)に示すように、1つの構成鉱物のみで構成される単体鉱物粒子を1又は複数抽出し、これらの反射電子像の情報を抽出する。具体的には、単体鉱物粒子の反射電子像の輝度分布情報(例えば、横軸:輝度、縦軸:ピクセル数としたヒストグラム)から、ピーク位置となる輝度値を、各構成鉱物の反射電子像のピーク輝度値の初期値として決定する。
【0039】
図7(b)に示すように、各構成鉱物の後方散乱光電子の強さ(backscattering係数)と反射電子像の輝度との間には相関性がある。よって、MLAデータから、所望の構成鉱物の単体鉱物粒子の反射電子像の輝度分布情報が得られない場合には、隣接する他の構成鉱物の反射電子像のピーク輝度値の初期値から、
図7(b)の関係に基づいて補間することにより、所望の構成鉱物の単体鉱物粒子の反射電子像のピーク輝度値の初期値を決定する。
【0040】
例えば、Clc、Bn、Ccp、Pyの単体鉱物粒子の反射電子像のピーク輝度値は決定できたものの、Cvの単体鉱物粒子の反射電子像のピーク輝度値は得られなかったとする。このような場合、Cvの反射電子像のピーク輝度値を補間する方法の一つとしては、例えば、表1に示すような、単体鉱物粒子の反射電子像のピーク輝度値及び反射電子像の反射輝度値の実測値比の関係に基づいて、Cvのピーク輝度値の初期値を決定する。なお、表1において「係数」とは、構成鉱物を構成する原子の原子番号に依存した経験式に基づいて計算されるバックスキャッタリング係数ηの比であり、「実測値比」は単体鉱物粒子の反射電子像のピーク輝度値から求めた比を意味する(なお、バックスキャッタリング
係数ηについては以下の文献に記載される経験式に基づいて算出したものである: Hong Zhao, David Darwin著、「QUANTITATIVE BACKSCATTERED ELECTRON ANALYSIS TECHNIQUES FOR CEMENT-BASED MATERIALS」、The university of Kansas, Lawrence, Kansas,1990年6月、pp.5-6)。これら構成鉱物のピーク輝度値の初期値と実測値の関係で補間した結果、Cvのピーク輝度値の初期値の推測値は123となる。
【0041】
【0042】
図7(b)に示すように、典型的な銅鉱石に含まれる各構成鉱物の反射電子像の輝度値は、大きい順にClc、Bn、Cv、Ccp、Pyとなる。この順で反射電子像のピーク輝度値を大小順に並べた場合に隣り合う構成鉱物同士の反射電子像の中間値を「鉱物境界値」とし、表1の各鉱物粒子の反射電子像のピーク輝度値の初期値に基づいて設定した鉱物境界値を「鉱物境界初期値」とする。例えば、表1の単体鉱物粒子の輝度分布情報を用いて決定されたClc、Bn、Ccp、Pyのピーク輝度値の初期値が、それぞれ130、126、114、98であり、上述の手順で補間したCvのピーク輝度値の初期値が123である場合、Clc/Bnの鉱物境界初期値は、ClcとBnの鉱物境界値の中間値を取って128となる。同様に、Bn/Cvの鉱物境界初期値は124.5、Cv/Ccpの鉱物境界初期値は118.5、Ccp/Pyの鉱物境界初期値は106となる。
【0043】
また、ピーク輝度値の最も高い構成鉱物であるClcの反射電子像の輝度上限初期値をClcのピーク値+aと設定し、ピーク輝度値の最も低い構成鉱物であるPyの輝度下限初期値をPyのピーク値-bと設定する。設定値a、bの値は、Clc、Pyの輝度分布情報(横軸:輝度、縦軸:ピクセル数としたヒストグラム)を参考に、凸状のピーク曲線の輝度がほぼ0(バックグラウンド)に収束する位置に基づいて設定する。例えば、設定値をa=7、b=7とした場合、Clcの反射電子像の輝度上限初期値は137、Pyの反射電子像の輝度下限初期値は91となる。
【0044】
(第1の輝度補正情報の作製)
着目鉱物の鉱物粒子内に占める面積比が閾値未満、即ち、着目鉱物の存在割合が鉱物粒子全体に対して小さい場合に適用される第1の輝度補正情報の作製方法の例を以下に説明する。
【0045】
まず、第1の輝度補正情報を構成する構成鉱物の組み合わせを決定する。任意の鉱物粒子の中から着目鉱物を含むグレインを抽出し、そのグレインが着目鉱物の周囲に存在する構成鉱物だけから構成されると仮定して、この領域に現れる鉱物種を、着目鉱物の周囲に存在する構成鉱物と決定することにより、第1の輝度補正情報を構成する構成鉱物の組み合わせを決定する。但し、着目鉱物の周囲に存在する鉱物種が、着目鉱物より輝度が小さい鉱物種だけで構成される場合は、輝度が大きい着目鉱物の可能性を排除しないために、そのグレインは、着目鉱物と、着目鉱物に接する構成鉱物から構成されるものとして、構成鉱物の組み合わせを決定する。
【0046】
決定した構成鉱物の組み合わせについて、構成鉱物の反射電子像のピーク輝度値を大小順に並べたときに隣り合う構成鉱物を抽出し、ピーク輝度値が高い方の構成鉱物の反射電子像の輝度下限初期値と、ピーク輝度値が低い方の構成鉱物の反射電子像の輝度上限初期値との中間値を、ピーク輝度値が高い方の構成鉱物とピーク輝度値が低い方の構成鉱物との間の鉱物境界値に決定することにより、複数の構成鉱物の反射電子像の輝度の範囲を定めた第1の輝度補正情報を作製する。
【0047】
例えば、着目鉱物がBnで、
図5(a)の鉱物粒子のように、着目鉱物に接する鉱物種がClcとCcpで構成される場合を例に説明する。
図8に示すように、着目鉱物に接する鉱物種はClcとCcpであるため、鉱物種ClcとCcpとに基づく第1の輝度補正情報を作製する。上述のピーク輝度値、鉱物境界初期値、輝度上限初期値及び輝度下限初期値の計算では、Clcのピーク輝度値は130であり、Clcの輝度上限初期値は137であり、輝度下限初期値はClc/Bnの鉱物境界初期値の128である。また、Ccpのピーク輝度は114、Ccpの輝度上限初期値はCv/Ccpの鉱物境界初期値である118.5、輝度下限初期値はCcp/Pyの鉱物境界初期値である106である。
【0048】
そのため、鉱物種ClcとCcpに基づく第1の輝度補正情報を作製する際には、ピーク輝度値が高いClcの輝度下限初期値である128と、ピーク輝度値が低いCcpの輝度上限初期値である118.5の中間値、即ち、(128+118.5)/2=123.25を、Clc/Ccpの補正後の鉱物境界値とする。
【0049】
なお、Clcの輝度上限値は輝度上限初期値をそのまま用いて137とする。Ccpの補正後の輝度下限値は、ピーク輝度値が高いCcpの輝度下限初期値である106と、検出下限の輝度上限初期値であるPy/検出下限の鉱物境界初期値である91との中間値、即ち(106+91)/2=98.5とする。その結果、
図9に示すように、反射電子像の輝度123.25~137の範囲をClcと判断し、反射電子像の輝度98.5~123.25未満の範囲をCcpと判断する第1の輝度補正情報(
図9参照)が得られる。
【0050】
同様の手順で、鉱物粒子に含まれる複数の構成鉱物の鉱物種(Clc、Bn、Cv、Ccp、Py)のすべての組み合わせを決定し、この組み合わせを有する鉱物粒子についてそれぞれ第1の輝度補正情報を作製する。なお、第1の輝度補正情報の作製において、輝度の最も高い鉱物粒子と輝度の最も低い鉱物粒子を着目鉱物に接する鉱物種として含む場合は、輝度の最も高い鉱物粒子の補正後の輝度上限値は、輝度上限初期値をそのまま利用する。輝度の最も低い鉱物粒子の補正後の輝度下限値は、輝度下限初期値をそのまま利用する。
【0051】
このような鉱物マップに含まれる着目鉱物の周囲に存在する構成鉱物の反射電子像の輝度補正情報を含む第1の輝度補正情報を用いて、着目鉱物の鉱物領域を補正する際は、着目鉱物の鉱物領域内の反射電子像の輝度をピクセル毎に読み取り、その輝度に対応する輝度を、第1の輝度補正情報と照合することにより、対応する輝度に対応する構成鉱物に補正する。鉱物マップのBnの周囲にClc、Ccp、Cvの鉱石が隣接する場合の補正前の鉱石粒子の鉱物マップを
図10(a)、反射電子像を
図10(b)、補正後の鉱物マップを
図10(c)に示す。
【0052】
(第2の輝度補正情報の作製)
着目鉱物の鉱物粒子内に対する面積比が閾値以上、即ち、着目鉱物の存在割合が鉱物粒子全体に対して大きい場合に適用される第2の輝度補正情報の作製方法の例を以下に説明する。
【0053】
まず、第2の輝度補正情報を構成する構成鉱物の組み合わせを決定する。MLAデータに含まれる複数の鉱物粒子の中から着目鉱物を構成鉱物として含む鉱物粒子であって、着目鉱物が鉱物粒子に占める面積比が閾値以上の鉱物粒子を抽出する。次に、抽出した鉱物粒子に含まれる全構成鉱物を抽出する。
【0054】
第2の輝度補正情報の作製においては、鉱物マップの主構成鉱物である着目鉱物の可能性を排除しないように、反射電子像から決めた構成鉱物と着目鉱物を加えた構成鉱物で鉱物粒子が構成されると仮定する。第2の輝度補正情報の作製時も、第1の輝度補正情報の作製時と同様に、構成鉱物の反射電子像のピーク輝度値を大小順に並べたときに隣り合う構成鉱物を抽出し、ピーク輝度値が高い方の構成鉱物の反射電子像の輝度下限初期値と、ピーク輝度値が低い方の構成鉱物の反射電子像の輝度上限初期値との中間値を、ピーク輝度値が高い方の構成鉱物とピーク輝度値が低い方の構成鉱物との間の鉱物境界値に決定することにより、複数の構成鉱物の反射電子像の輝度の範囲を定めた第2の輝度補正情報を作製する。
【0055】
このような鉱物マップに含まれる着目鉱物の周囲に存在する構成鉱物の反射電子像の輝度補正情報を含む第2の輝度補正情報を用いて、着目鉱物の鉱物領域を補正する際は、着目鉱物の鉱物領域内の反射電子像の輝度をピクセル毎に読み取り、その輝度に対応する輝度を、第2の輝度補正情報と照合することにより、対応する輝度に対応する構成鉱物に補正する。
【0056】
図11に、操業中の銅鉱山から採取された銅精鉱中の銅不溶性物の濃度が高い場合と低い場合と銅品位が通常より低い場合の鉱石を鉱石試料として、本発明の実施の形態に係るMLAデータの補正方法を用いて、鉱物の組成比を分析した結果を示す。試料7は銅不溶性物の濃度が低く銅品位が高い場合であり、試料8は銅不溶性物の濃度が高く銅品位が高い場合であり、試料9は銅不溶性物の濃度が低く銅品位が低い場合の分析結果を示す。試料7~9のいずれも銅精鉱の成分を再現性良く反映した結果が得られた。
【0057】
(着目鉱物の鉱物粒子に対する面積比の閾値の検討)
図4のステップS33の着目鉱物の鉱物粒子に対する面積比の閾値について、閾値を10%~90%の範囲で設定し、その閾値に基づいて、
図4のフローに従い、
図3(a)、
図3(b)の試料1のMLAデータの補正を行い、補正後のMLAデータを用いて組成分析を行った場合における閾値と組成分析結果との関係を
図12に示す。
図13は、
図12のBnの分析結果を拡大したグラフを示す。
図12に示すように、Ccp、Py、Cv、Clcについては、Bnと比べると閾値の設定値による組成分析結果に大きな差は無かった。
図13に示すように、Bnについては、Bn閾値が低いとBnの鉱物割合が高く算出されていることが分かる。
図6(a)、
図6(b)の試料1のBnの鉱物割合と比較しながら検討した結果、閾値は50%以上に設定することが好ましく、更には60%以上、より更には70%以上に設定することが好ましい。
【0058】
MLAデータは、分析に走査電子顕微鏡を用いているため、試料の深さ方向における鉱物の重なり及び鉱物間の境界の存在等により誤認識が生じ、鉱石中に存在する鉱物の組成分析が正しく行われない場合がある。この問題に対し、例えば、BSE輝度に着目し、BSE輝度が所定値以上の鉱物種に対して、BSE輝度が設定閾値よりも低い鉱物部を削除する補正を行う対策が知られているが、組成分析精度向上のためのMLAデータの補正方法としてはまだ検討の余地がある。
【0059】
本発明の実施の形態に係るMLAデータの補正方法によれば、反射電子像の輝度が低い部分を補正により一律に除去するのではなく、MLAデータと実測値とのずれが生じやすい鉱物種を着目鉱物として選択する。そして、この着目鉱物を含む鉱物粒子に対して、MLAデータの補正を行う。MLAデータの補正に際しては、鉱物粒子を構成する構成鉱物又は着目鉱物の周囲に存在する構成鉱物の輝度情報を用いて作製された第1又は第2の輝度補正情報を用いて、MLA分析において誤認識が生じやすい着目鉱物の鉱物領域をより適切な鉱物種に補正することで、鉱石中に存在する鉱物の組成比をより精度良く分析することが可能となる。
【0060】
本発明は上記の実施形態を用いて説明したが、各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、各実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態の構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【0061】
MLAデータの補正方法としては、上述の補正方法に加えて、SEM-EDSを通常時(例えば25keV)よりも低加速電圧(例えば15keV)として測定してもよい。低加速電圧測定により、MLAの空間分解能を向上できるため、MLAの分析精度の向上が図れる。また、MLA解析ソフトの測定モードを鉱物粒子内のグレイン毎に1点ずつ測定するモードとし、誤識別が生じ得るとされる鉱物の境界部分の測定データを除外するか或いは測定しないように設定することも好ましい。
【0062】
MLAデータ補正工程S3におけるMLAデータの補正は、python等を用いた機械学習を用いて自動処理を行うことが好ましい。これにより数万個以上の鉱物粒子の補正処理を短時間で行うことができるためより迅速に分析結果を得ることができる他、大量のMLAデータの補正情報を作製し、これを機械学習に更に利用することで、MLAの分析精度も向上する。
【0063】
上述の実施の形態では、着目鉱物としてBnに着目する例を説明したが、Bn以外の鉱物、例えば、Clc、Ccp、Py、Cv等の鉱物を着目鉱物として設定してもよいことは勿論である。特にClc、Cv、Pyは、Cu-Fe-S系の硫化銅鉱物の端成分で、Bn及びCcpはCu-Fe-S系で端成分の中間組成のため、本方法により補正する効果は特に大きい。
【0064】
図4に示すフロー図では、着目鉱物の鉱物粒子に対する面積比の閾値に基づいて、第1の輝度補正情報又は第2の輝度補正情報のいずれかを利用し、MLAデータを補正する手法を説明したが、本発明は上述の態様には限定されない。例えば、ステップS33における着目鉱物の面積比の閾値の判断を行わずに、着目鉱物の鉱物領域及び鉱物種の情報に対して、着目鉱物の周囲に存在する鉱物種の反射電子像の輝度情報を用いて作製された第1の輝度補正情報のみ、或いは、鉱物粒子を構成する鉱物種の反射電子像の輝度情報を用いて作製された第2の輝度補正情報のみを用いて補正処理する態様も、本実施態様に含まれ得る。