(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100718
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】中間形状算出装置および中間形状算出方法
(51)【国際特許分類】
G06F 30/23 20200101AFI20240719BHJP
B21J 1/04 20060101ALI20240719BHJP
B21J 5/00 20060101ALI20240719BHJP
G06F 113/22 20200101ALN20240719BHJP
【FI】
G06F30/23
B21J1/04
B21J5/00 Z
G06F113:22
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024001706
(22)【出願日】2024-01-10
(31)【優先権主張番号】P 2023003506
(32)【優先日】2023-01-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小名 国仁
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 一広
(72)【発明者】
【氏名】石倉 洋
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 哲
(72)【発明者】
【氏名】山田 崇恭
(72)【発明者】
【氏名】松島 慶
(72)【発明者】
【氏名】長藤 圭介
(72)【発明者】
【氏名】柳本 潤
【テーマコード(参考)】
4E087
5B146
【Fターム(参考)】
4E087AA10
4E087DA04
4E087HA31
4E087HB17
5B146DJ02
5B146DJ07
5B146EA01
(57)【要約】
【課題】成形エネルギを低減可能な鍛造品の中間形状を算出することができる技術を提供する。
【解決手段】形状算出部は、鍛造前形状の設計データ、中間形状の変更前の設計データ、および鍛造後形状の設計データを取得し、取得した各設計データを用いて、第一成形エネルギと第二成形エネルギとを算出し、前回算出した第一成形エネルギと第二成形エネルギとの前回合計値から、今回算出した第一成形エネルギと第二成形エネルギとの今回合計値への変化量を算出し、収束判定処理を実行する。形状算出部は、変化量が収束していない場合には、今回合計値を減少させる形状変位量を算出し、レベルセット関数によって定義された形状導関数から中間形状の変更後の設計データを算出し、中間形状の変更後の設計データを用いてさらに収束判定処理を実行する。収束している場合には、中間形状の変更前の設計データを、最終中間形状を示す設計データとして特定する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍛造品の中間形状を算出する中間形状算出装置であって、
中間形状を示す設計データを繰り返し算出して最終中間形状を示す設計データを特定する形状算出部を備え、
前記形状算出部は、
鍛造品の鍛造前形状の設計データ、前記中間形状の変更前の設計データ、および鍛造後形状の設計データを取得し、
取得した各設計データを用いて、前記鍛造前形状から前記中間形状に変形するための第一成形エネルギと、前記中間形状から前記鍛造後形状に変形するための第二成形エネルギとを算出し、少なくとも前回算出した前記第一成形エネルギと前回算出した前記第二成形エネルギとの合計値である前回合計値から、今回算出した前記第一成形エネルギと今回算出した前記第二成形エネルギとの合計値である今回合計値への変化量を算出して、算出した前記変化量と予め定められた閾値との比較により前記変化量の収束を判定する収束判定処理を実行し、
収束していない場合には、
前記今回合計値を減少させる形状変位量を算出し、
算出された前記形状変位量を用いて、レベルセット関数によって定義された形状導関数から前記中間形状の変更後の設計データを算出し、
前記中間形状の変更後の設計データを前記中間形状の変更前の設計データとして、さらに前記収束判定処理を実行し、
収束している場合には、
前記中間形状の変更前の設計データを、前記最終中間形状を示す設計データとして特定する、
中間形状算出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の中間形状算出装置であって、
前記中間形状は、前記鍛造前形状から変形された第一中間形状と、前記第一中間形状から変形された第二中関形状であって、前記鍛造後形状に変形される前の第二中間形状と、を含み、
1回目の前記収束判定処理において、前記第一中間形状の初期設計データには、前記鍛造前形状と同じ形状の設計データが与えられ、前記第二中間形状の初期設計データには、前記鍛造後形状と同じ形状の設計データが与えられる、
中間形状算出装置。
【請求項3】
請求項2に記載の中間形状算出装置であって、
前記収束判定処理において、
さらに、前記第一中間形状から前記第二中間形状に変形する際に発生する成形エネルギを第三成形エネルギとして算出し、
前回算出した前記第一成形エネルギ、前回算出した前記第二成形エネルギ、および前回算出した前記第三成形エネルギの合計値を、前記前回合計値とし、
今回算出した前記第一成形エネルギ、今回算出した前記第二成形エネルギ、および今回算出した前記第三成形エネルギの合計値を、前記今回合計値として用いて前記変化量の収束を判定する、
中間形状算出装置。
【請求項4】
前記形状変位量は、前記変化量を目的関数とする随伴変数法に基づく感度計算を用いて算出される、請求項1に記載の中間形状算出装置。
【請求項5】
前記中間形状の変更後の設計データは、以下の式(1)を有する形状導関数と、以下の式(2)を有する反応拡散方程式と、を用いて算出される、請求項1に記載の中間形状算出装置。
【数10】
u:変位場
u’:境界上の強制変位
n:外向きの法線ベクトル
t:表面力ベクトル
ε(u):応力歪み場
C:弾性テンソル
【数11】
K:定数(ただし、K>0)
τ:定数(ただし、τ>0)
g:設計感度
Φ:形状変位量
【請求項6】
鍛造品の中間形状を算出する中間形状算出方法であって、
鍛造品の鍛造前形状の設計データ、前記中間形状の変更前の設計データ、および鍛造後形状の設計データを取得し、
取得した各設計データを用いて、前記鍛造前形状から前記中間形状に変形するための第一成形エネルギと、前記中間形状から前記鍛造後形状に変形するための第二成形エネルギとを算出し、少なくとも前回算出した前記第一成形エネルギと前回算出した前記第二成形エネルギとの合計値である前回合計値から、今回算出した前記第一成形エネルギと今回算出した前記第二成形エネルギとの合計値である今回合計値への変化量を算出して、算出した前記変化量と予め定められた閾値との比較により前記変化量の収束を判定する収束判定処理を実行し、
収束していない場合には、
前記今回合計値を減少させる形状変位量を算出し、
算出された前記形状変位量を用いて、レベルセット関数によって定義された形状導関数から前記中間形状の変更後の設計データを算出し、
前記中間形状の変更後の設計データを前記中間形状の変更前の設計データとして、さらに前記収束判定処理を実行し、
収束している場合には、
前記中間形状の変更前の設計データを、最終中間形状を示す設計データとして特定する、
中間形状算出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、中間形状算出装置および中間形状算出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、鍛造品の形状と、データベースに予め格納された複数の形状データとの類似度を評価し、類似度が高い形状を抽出する鍛造品の形状決定方法が開示されている。この鍛造品の形状決定方法では、節点の座標値と類似度とを用いた数式を用いて算出された座標によって中間形状が決定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、類似する鍛造品のデータがデータベースに格納されている場合であっても、鍛造工程で発生する成形エネルギが低減できるとは限らない。そのため、鍛造工程の成形エネルギを低減可能な中間形状を算出する技術が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
(1)本開示の一形態によれば、鍛造品の中間形状を算出する中間形状算出装置が提供される。この中間形状算出装置は、中間形状を示す設計データを繰り返し算出して最終中間形状を示す設計データを特定する形状算出部を備える。前記形状算出部は、鍛造品の鍛造前形状の設計データ、前記中間形状の変更前の設計データ、および鍛造後形状の設計データを取得し、取得した各設計データを用いて、前記鍛造前形状から前記中間形状に変形するための第一成形エネルギと、前記中間形状から前記鍛造後形状に変形するための第二成形エネルギとを算出し、少なくとも前回算出した前記第一成形エネルギと前回算出した前記第二成形エネルギとの合計値である前回合計値から、今回算出した前記第一成形エネルギと今回算出した前記第二成形エネルギとの合計値である今回合計値への変化量を算出して、算出した前記変化量と予め定められた閾値との比較により前記変化量の収束を判定する収束判定処理を実行する。前記形状算出部は、収束していない場合には、前記今回合計値を減少させる形状変位量を算出し、算出された前記形状変位量を用いて、レベルセット関数によって定義された形状導関数から前記中間形状の変更後の設計データを算出し、前記中間形状の変更後の設計データを前記中間形状の変更前の設計データとして、さらに前記収束判定処理を実行する。収束している場合には、前記中間形状の変更前の設計データを、前記最終中間形状を示す設計データとして特定する。
この形態の中間形状算出装置によれば、成形エネルギを減少させる形状変位量を算出することにより、成形エネルギを低減可能な鍛造品の中間形状を算出することができる。
(2)上記形態の中間形状算出装置において、前記中間形状は、前記鍛造前形状から変形された第一中間形状と、前記第一中間形状から変形された第二中関形状であって、前記鍛造後形状に変形される前の第二中間形状と、を含んでよい。1回目の前記収束判定処理において、前記第一中間形状の初期設計データには、前記鍛造前形状と同じ形状の設計データが与えられ、前記第二中間形状の初期設計データには、前記鍛造後形状と同じ形状の設計データが与えられてよい。
この形態の中間形状算出装置によれば、収束判定処理の初期設計データを簡易に設定することができる。
(3)上記形態の中間形状算出装置において、前記収束判定処理では、さらに、前記第一中間形状から前記第二中間形状に変形する際に発生する成形エネルギを第三成形エネルギとして算出してよい。前回算出した前記第一成形エネルギ、前回算出した前記第二成形エネルギ、および前回算出した前記第三成形エネルギの合計値を、前記前回合計値とし、今回算出した前記第一成形エネルギ、今回算出した前記第二成形エネルギ、および今回算出した前記第三成形エネルギの合計値を、前記今回合計値として用いて前記変化量の収束を判定してよい。
この形態の中間形状算出装置によれば、複数の中間工程間で発生する成形エネルギを低減することができる。
(4)上記形態の中間形状算出装置において、前記形状変位量は、前記変化量を目的関数とする随伴変数法に基づく感度計算を用いて算出されてよい。
この形態の中間形状算出装置によれば、随伴変数法を用いることにより設計変数ごとの計算を省略することができ、計算コストを低減することができる。
(5)上記形態の中間形状算出装置において、前記中間形状の変更後の設計データは、以下の式(1)を有する形状導関数と、以下の式(2)を有する反応拡散方程式と、を用いて算出されてよい。
【数1】
u:変位場
u’:境界上の強制変位
n:外向きの法線ベクトル
t:表面力ベクトル
ε(u):応力歪み場
C:弾性テンソル
【数2】
K:定数(ただし、K>0)
τ:定数(ただし、τ>0)
g:設計感度
Φ:形状変位量
この形態の中間形状算出装置によれば、随伴変数法を用いることにより設計変数ごとの計算を省略することができ、計算コストを低減することができる。
本開示は、中間形状算出装置以外の種々の形態で実現することも可能である。例えば、中間形状算出方法、鍛造方法、成形装置、成形エネルギの算出装置、中間形状算出装置の制御方法、その制御方法を実現するコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した一時的でない記録媒体等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1実施形態に係る中間形状算出装置の内部機能構成を示すブロック図。
【
図3】中間形状算出装置が実行する中間形状算出処理を示すフローチャート。
【
図4】従来技術により得られた中間形状を含む製品の形状変化を示す説明図。
【
図5】本開示の中間形状算出装置により得られた中間形状を含む製品の形状変化を示す説明図。
【
図6】中間形状算出装置によって最適化された中間形状を形成する場合に鍛造工程で発生する成形エネルギを示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.第1実施形態:
図1は、本開示の第1実施形態に係る中間形状算出装置60の内部機能構成を示すブロック図である。中間形状算出装置60は、例えば、車両用部品の鍛造工程の製品設計に用いられ、鍛造品の鍛造前の形状である鍛造前形状と、鍛造後の形状である鍛造後形状との間の中間形状の設計データを算出する。
【0009】
図2は、鍛造工程の一例を示す工程図である。本実施形態では、鍛造工程には、ビレットに金型成形を施す熱間型鍛造成形が用いられる。
図2に示すように、鍛造工程は、第一中間工程P10と、第二中間工程P20と、仕上げ工程P30とを備えている。第一中間工程P10は、鍛造前形状を有するビレットを潰して第一中間形状に変形させる、いわゆるつぶし工程である。ビレットは、車両用部品の原材料である。ビレットには、例えば、所定の寸法に加工された棒状または線状の金属材料が用いられる。第二中間工程P20は、潰されたビレットに対して、荒地型を用いた予備成形により第二中間形状を有する粗形材へと変形させる荒地工程である。仕上げ工程P30は、仕上型を用いて、粗形材を鍛造後形状へと変形させる工程である。本開示では、第一中間工程と、第二中間工程とを総じて「中間工程」とも呼び、第一中間形状と、第二中間形状とを総じて「中間形状」とも呼ぶ。
【0010】
図1に示すように、中間形状算出装置60は、中央演算処理装置としてのCPU62、記憶装置64、ならびにインターフェース回路65を備えるコンピュータ、あるいは論理回路である。これらは、バス61を介して互いに接続されており、双方向に通信可能に構成されている。インターフェース回路65には、液晶ディスプレイやタッチパネルなどの表示部66、およびキーボードやマウスなどの入力部68が接続されている。入力部68は、生産条件の設計値の入力などに用いられる。
【0011】
記憶装置64は、たとえば、RAM、ROM、ハードディスクドライブ(HDD)である。HDDまたはROMには、本実施形態において提供される機能を実現するための各種プログラムが格納されている。CPU62がこれらのプログラムをRAM等に展開して実行することによって、形状算出部622、三次元データ生成部624などの機能の一部または全部の機能が実現される。記憶装置64の読み書き可能な領域には、中間形状を算出するための算出式642が格納されている。
【0012】
形状算出部622は、いわゆるトポロジー最適化を利用して、鍛造により発生する成形エネルギを低減させるための中間形状の設定データを算出する。本実施形態では、形状算出部622は、中間形状を示す設計データを繰り返し算出して、成形エネルギを最小化するための最終中間形状を示す設計データを特定する。成形エネルギとは、材料の変形によって発生する平均コンプライアンスを意味する。
【0013】
三次元データ生成部624は、3次元CADソフトウェアなどであり、鍛造品の3次元モデルを描画する。三次元データ生成部624は、例えば、形状算出部622により生成された中間形状の設計データを、3次元点群データに含まれる3次元座標が示す点群に変換する。三次元データ生成部624は、変換された3次元座標を、3次元座標系にマッピングすることにより、鍛造品の3次元CADデータを生成する。生成された3次元CADデータは、表示部66などに出力される。
【0014】
図3は、本実施形態に係る中間形状算出装置60が実行する中間形状算出処理を示すフローチャートである。ステップS10では、形状算出部622は、鍛造品の鍛造前形状の設計データ、第一中間形状の初期設計データ、第二中間形状の初期設計データ、および鍛造後形状の設計データを設定する。これらの設計データは、例えば、製品設計を行う上位の製品設計管理システムなどから取得することができる。
【0015】
「初期設計データ」とは、中間形状算出処理を開始するために最初に与えられる設計データを意味する。すなわち、初期設計データは、中間形状算出処理によって形状が変更される前の形状を示す設計データである。本実施形態では、第一中間形状の初期設計データには、鍛造前形状と同じビレットの形状の設計データが与えられ、第二中間形状の初期設計データには、仕上げ工程後の鍛造後形状と同じ形状の設計データが与えられる。ただし、これに限らず、初期設計データは、任意の形状を用いて設定されてもよい。
【0016】
ステップS20では、形状算出部622は、各形状間の変位量を算出する。ここで、三次元形状Ωの線形弾性変形は、変位場uを用いた以下の式(1)および式(2)によって表される。式(1)、式(2)は、状態方程式、弾性方程式、ナビエ・コーシー方程式(Navier-Cauchy equation)などとも呼ばれる。有限要素法を用いて、式(1)および式(2)の数値解析を行うことで変位場uが得られる。
【0017】
【数3】
λ:ラメの第一定数
μ:ラメの第二定数
u:変位場
【0018】
【0019】
ステップS30では、形状算出部622は、算出した変位量を用いて、三次元形状Ωの変形時に発生し得る最小の成形エネルギを算出する。以下の説明では、技術の理解を容易にするために、例えば、ドライブピニオンなど、三次元構造が軸対称である製品を例として用いて説明する。
【0020】
形状算出部622は、鍛造前形状から中間形状に変形するための第一成形エネルギと、中間形状から鍛造後形状に変形するための第二成形エネルギとをそれぞれ算出する。鍛造工程が複数の中間工程を備える場合には、鍛造前形状から最初の中間工程後の形状に変形する際に発生する成形エネルギを第一成形エネルギとし、最後の中間工程後の形状から鍛造後形状に変形する際に発生する成形エネルギを第二成形エネルギとする。本実施形態では、形状算出部622は、鍛造前形状から第一中間形状、すなわちビレットの形状からつぶし工程後の形状に変形する際に発生する成形エネルギを第一成形エネルギとして算出し、第二中間形状から鍛造後形状、すなわち、荒地工程後の形状から仕上げ工程後の形状に変形する際に発生する成形エネルギを第二成形エネルギとして算出する。また、第一中間形状から第二中間形状に変形する際に発生する成形エネルギを第三成形エネルギとして算出する。
【0021】
成形エネルギJの目的関数は、以下の式(3)で表すことができる。ここで、ε(u)=(∇u+∇uT)/2である。形状算出部622は、以下の式(3)を用いて、第一成形エネルギ、第二成形エネルギ、および第三成形エネルギを算出する。
【0022】
【0023】
ステップS40では、形状算出部622は、形状変更前後での成形エネルギの変化量が収束したか否かを判定する。本開示において、ステップS20からステップS40までの処理を、「収束判定処理」とも呼ぶ。成形エネルギの変化量の収束は、最終中間形状を示す設計データの特定完了を意味する。換言すれば、成形エネルギの変化量の収束は、中間形状の最適化の完了を意味する。
【0024】
形状算出部622は、鍛造前形状から鍛造後形状に変化する際に発生する成形エネルギの合計値を算出する。本実施形態では、形状算出部622は、算出した第一成形エネルギ、第二成形エネルギ、ならびに第三成形エネルギを積算して、成形エネルギの合計値を算出する。なお、中間工程が一つである場合には、形状算出部622は、第一成形エネルギと第二成形エネルギを積算して、成形エネルギの合計値を算出する。
【0025】
形状算出部622は、前回算出した成形エネルギの合計値である前回合計値から、今回算出した成形エネルギの合計値である今回合計値への変化量を算出する。前回合計値から今回合計値の変化量は、例えば、今回合計値から前回合計値を減算することによって算出することができる。なお、合計値の変化量には、今回合計値から前回合計値を除算することによって得られる前回合計値に対する今回合計値の比率などが用いられてもよい。
【0026】
形状算出部622は、算出した合計値の変化量と、予め定められた閾値とを比較することによって、成形エネルギの収束を判定する。形状算出部622は、算出した合計値の変化量が閾値より大きい場合には、成形エネルギは収束していないと判定し(S40:NO)、処理をステップS50へと移行する。なお、ステップS40が初回である場合には、形状算出部622は、成形エネルギが収束していないと判定し(S40:NO)、ステップS50へと移行する。
【0027】
ステップS50では、形状算出部622は、成形エネルギの合計値を減少させる形状変位量を算出する。本実施形態では、形状算出部622は、形状変位量を、前回合計値から今回合計値への成形エネルギの合計値の変化量を目的関数とする随伴変数法に基づく感度計算を用いて算出する。感度計算には、以下の式(4)で示される形状導関数が用いられる。関数gは、成形エネルギJの設計感度である。レベルセット法の設計感度gには、最急降下方向が用いられる。関数gは、三次元形状Ωの微小な摂動に対応する成形エネルギJの降下方向を示している。
【0028】
【数6】
u:変位場
u’:境界上の強制変位
n:外向きの法線ベクトル
t:表面力ベクトル
ε(u):応力歪み場
C:弾性テンソル
【0029】
ステップS60では、形状算出部622は、第一中間形状および第二中間形状を更新する。具体的には、形状算出部622は、算出した形状変位量を用いて、レベルセット関数によって定義された形状導関数から第一中間形状および第二中間形状の変更後の設計データを算出する。第一中間形状および第二中間形状の変更後の各形状は、設計感度gを用いて、以下の式(5)で示される反応拡散方程式により算出される。定数Kは、例えば剛性行列で表すことができる。また、定数τは、形状の複雑さを規定している。
【0030】
【数7】
K:定数(ただし、K>0)
τ:定数(ただし、τ>0)
g:設計感度
Φ:形状変位量
【0031】
ここで、三次元形状Ωの最適形状を導出するために、以下の式(6)および式(7)を用いて、スカラー関数によりレベルセット関数Φを定義する。Ωc(t)は、仮想時間tの関数であり、上記式(5)の反応拡散方程式に従って更新され得る。
【0032】
【0033】
【0034】
形状算出部622は、第一中間形状の変更後の形状、および第二中間形状の変更後の形状を算出すると、処理をステップS20に移行する。形状算出部622は、第一中間形状の変更後の設計データおよび第二中間形状の変更後の設計データを用いて各形状間の変位量、成形エネルギを算出して、さらに収束判定処理を実行する。
【0035】
収束判定処理において、成形エネルギが収束した場合には(S40:YES)、処理をステップS70に移行する。成形エネルギが収束していない場合(S40:NO)、再びステップS50へと移行する。ステップS70では、形状算出部622は、第一中間形状および第二中間形状の設計データを、最終中間形状を示す設計データとして特定する。三次元データ生成部624は、第一中間形状および第二中間形状の設計データを、3DCADデータに変換して、処理を終了する。
【0036】
図4から
図6を用いて、中間形状算出装置60による中間形状算出の効果について説明する。
図4は、比較例として従来技術により得られた最終中間形状を含む製品の形状変化を示す説明図である。
図5は、本開示の中間形状算出装置60により得られた最終中間形状を含む製品の形状変化を示す説明図である。
図4および
図5に示す各製品の形状は、軸対称形状を有している。
図4および
図5では、技術の理解を容易にするために、各製品の形状は、線対称となる断面形状のうち中心軸AXに対して一方側の断面形状のみが示されている。
図4および
図5に示す形状FR1および形状F1には、互いに同一のビレットの形状が与えられている。形状FR4および形状F4は、互いに同一の鍛造後形状が与えられている。形状FR2および形状F2は、第一中間形状であり、形状FR3および形状F3は、第二中関形状である。
図4および
図5に示すように、従来技術と、本開示の中間形状算出装置60による最適化後とでは、第一中間形状および第二中間形状は、互いに異なる形状を有している。
【0037】
図6は、中間形状算出装置60によって最適化された最終中間形状を形成する場合に鍛造工程で発生する成形エネルギを示す説明図である。
図6の上段には、比較例として従来技術により得られた最終中間形状を形成する場合に鍛造工程で発生する成形エネルギが示されている。グラフER1およびグラフE1は、鍛造前形状から第一中間形状に変形するための第一成形エネルギである。グラフER2およびグラフE2は、第二中関形状から鍛造後形状に変形するための第二成形エネルギである。グラフER3およびグラフE3は、第一中間形状から第二中間形状に変形するための第三成形エネルギである。
図6に示すように、本開示に係る中間形状算出装置60によれば、中間形状の最適化により、鍛造工程にかかる成形エネルギを、従来技術に対して約70%低減することができる。
【0038】
以上、説明したように、本実施形態の中間形状算出装置60によれば、中間形状を示す設計データを繰り返し算出して最終中間形状を示す設計データを特定する形状算出部622を備えている。形状算出部622は、前回算出した第一成形エネルギと前回算出した第二成形エネルギとの合計値である前回合計値から、今回算出した第一成形エネルギと今回算出した第二成形エネルギとの合計値である今回合計値への変化量を算出して、算出した変化量と予め定められた閾値との比較により収束を判定する収束判定処理を実行する。形状算出部622は、収束していない場合には、今回合計値を減少させる形状変位量を算出し、算出された形状変位量を用いて、レベルセット関数によって定義された形状導関数から変更後の中間形状の設計データを算出する。形状算出部622は、中間形状の変更後の設計データを中間形状の変更前の設計データとして、さらに収束判定処理を実行する。本実施形態の中間形状算出装置60によれば、成形エネルギを減少させる形状変位量を算出することにより、成形エネルギを低減可能な鍛造品の中間形状を算出することができる。本実施形態の中間形状算出装置60は、収束判定処理を備えることにより、成形エネルギが略最小になる最適化された中間形状を算出することができる。また、鍛造品のデータを有するデータベースを用いることなく中間工程の形状を算出することができ、中間形状算出装置60の構成を簡略化することができる。
【0039】
本実施形態の中間形状算出装置60によれば、中間形状は、鍛造前形状から変形された第一中間形状と、鍛造後形状に変形される前の第二中間形状と、を含んでいる。1回目の収束判定処理において、第一中間形状の初期設計データには、鍛造前形状と同じ形状の設計データが与えられ、第二中間形状の初期設計データには、鍛造後形状と同じ形状の設計データが与えられる。したがって、収束判定処理の初期設計データを簡易に設定することができる。
【0040】
本実施形態の中間形状算出装置60によれば、収束判定処理において、さらに、第一中間形状から第二中間形状に変形する際に発生する成形エネルギを第三成形エネルギとして算出する。前回算出した第一成形エネルギ、前回算出した第二成形エネルギ、および前回算出した前回第三成形エネルギの合計値を、前回合計値とし、今回算出した第一成形エネルギ、今回算出した第二成形エネルギ、および今回算出した今回第三成形エネルギの合計値を、今回合計値として用いて変化量の収束を判定する。したがって、鍛造工程が複数の中間工程を備える場合に、各中間工程間で発生する成形エネルギを最小化することができる。
【0041】
本実施形態の中間形状算出装置60によれば、形状変位量は、変化量を目的関数とする随伴変数法に基づく感度計算を用いて算出される。ここで、直接微分法を用いて算出する場合には、システム行列の逆行列を含むため、設計変数ごとの計算が必要となる。これに対して、随伴変数法は、状態場と同じシステムを利用する随伴場を利用するため、逆行列を含まない。本実施形態の中間形状算出装置60によれば、随伴変数法を用いることにより設計変数ごとの計算を省略することができ、計算コストを低減することができる。
【0042】
本実施形態の中間形状算出装置60によれば、上記式(4)で示される形状導関数および式(5)で示される反応拡散方程式によって算出される。本実施形態の中間形状算出装置60によれば、随伴変数法を用いることにより設計変数ごとの計算を省略することができ、計算コストを低減することができる。数式を規定することにより、目的関数や初期設計データ等の入力という簡易な方法により、最適形状を定量的に算出することができる。
【0043】
B.他の実施形態:
(B1)上記第1実施形態では、鍛造工程が第一中間工程P10と、第二中間工程P20との二つの中間工程を備える例を示した。これに対して、鍛造工程は、いずれか一方のみを有する一つの中間工程を備えてもよい。
【0044】
(B2)上記第1実施形態では、収束判定処理において、前回算出した第一成形エネルギ、前回算出した第二成形エネルギ、および前回算出した前回第三成形エネルギの合計値を、前回合計値とし、今回算出した第一成形エネルギ、今回算出した第二成形エネルギ、および今回算出した今回第三成形エネルギの合計値を、今回合計値として用いて変化量の収束を判定する例を示した。これに対して、例えば、鍛造工程が一つの中間工程のみを備える場合には、第三成形エネルギは、算出されなくてもよい。この場合には、収束判定処理は、前回算出した第一成形エネルギと、前回算出した第二成形エネルギとの合計値を前回合計値とし、今回算出した第一成形エネルギと、今回算出した第二成形エネルギとの合計値を今回合計値として用いて実行される。
【0045】
(B3)上記第1実施形態では、随伴変数法に基づく感度計算を用いて形状変化量を算出する例を示した。これに対して、形状変化量は、随伴変数法のみには限定されず、直接微分法や差分近似法などを用いた感度計算により算出されてもよい。
【0046】
(B4)上記第1実施形態では、形状算出部622が第一中間形状から第二中間形状に変形する際に発生する成形エネルギを第三成形エネルギとして算出する例を示した。これに対して、第三成形エネルギの算出は、省略されてもよい。例えば、鍛造工程が第一中間工程および第二中間工程を備える場合であっても、形状算出部622は、鍛造前形状から第一中間形状に変形するための第一成形エネルギと、第二中間形状から鍛造後形状に変形するための第二成形エネルギとの合計値を、成形エネルギの合計値として用いてもよい。
【0047】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0048】
60…中間形状算出装置、61…バス、62…CPU、64…記憶装置、65…インターフェース回路、66…表示部、68…入力部、622…形状算出部、624…三次元データ生成部、642…算出式、AX…中心軸、F1,F2,F3,F4,FR1,FR2,FR3,FR4…形状