(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100720
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】トランスリッチ-ヒドロキシシクロヘキサン化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 29/145 20060101AFI20240719BHJP
C07C 29/56 20060101ALI20240719BHJP
C07C 29/20 20060101ALI20240719BHJP
C07C 35/08 20060101ALI20240719BHJP
C07C 35/14 20060101ALI20240719BHJP
C07C 231/12 20060101ALI20240719BHJP
C07C 233/23 20060101ALI20240719BHJP
B01J 23/46 20060101ALI20240719BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240719BHJP
【FI】
C07C29/145
C07C29/56 C
C07C29/20
C07C35/08
C07C35/14
C07C231/12
C07C233/23
B01J23/46 301Z
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024001896
(22)【出願日】2024-01-10
(31)【優先権主張番号】P 2023003430
(32)【優先日】2023-01-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川邉 俊行
(72)【発明者】
【氏名】引頭 響子
(72)【発明者】
【氏名】和田 亜弥
(72)【発明者】
【氏名】古里 伸一
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169BA01B
4G169BA08A
4G169BA08B
4G169BA29A
4G169BB02A
4G169BB02B
4G169BB04A
4G169BB08A
4G169BB10A
4G169BB12A
4G169BB14A
4G169BB16A
4G169BC30A
4G169BC65A
4G169BC68A
4G169BC69A
4G169BC70A
4G169BC70B
4G169BC71A
4G169BC75A
4G169CB02
4G169CB41
4G169CB65
4G169CB70
4G169EA01X
4G169FB44
4G169FB77
4H006AA02
4H006AC11
4H006AC14
4H006AC41
4H006BA23
4H006BB31
4H006BC10
4H006BC11
4H006BC15
4H006BC18
4H006BE20
4H006FC22
4H006FE12
4H039CA40
4H039CA60
4H039CB10
4H039CB20
4H039CJ10
(57)【要約】
【課題】シス体に対するトランス体の比の高いヒドロキシシクロヘキサン化合物の新規な製造方法を提供する。
【解決手段】金属触媒の存在下、ヒドロキシベンゼン化合物、シクロヘキサノン化合物、ヒドロキシ化合物、及びケトール化合物から選択される原料をスラリー中で水素と反応させる反応工程を含むトランスリッチ-ヒドロキシシクロヘキサン化合物の製造方法であって、前記ヒドロキシシクロヘキサン化合物は、一般式(1)又(2)で表され、そのトランス/シスの比は1.50超10,000以下である(式(1)中、シクロヘキサン環は、置換基を有していてもよく;nは、0以上2以下の整数である。式(2)中、Rは、ハロゲノ基、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基、-COOR
1、-CON(R
2)
2、-N(R
3)
2、又は-NR
4COR
5であり;R
1~R
5は、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、又はアリール基である。)
。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスリッチ-ヒドロキシシクロヘキサン化合物の製造方法であって、
ヒドロキシベンゼン骨格を有するヒドロキシベンゼン化合物、シクロヘキサノン骨格を有するシクロヘキサノン化合物、ヒドロキシシクロヘキサン骨格を有するヒドロキシ化合物、並びにヒドロキシシクロヘキサン骨格及びシクロヘキサノン骨格を有するケトール化合物からなる群より選択される1種以上の原料を、金属触媒の存在下で水素と反応させる反応工程を含み、
前記反応が、前記原料と前記原料の貧溶媒とを含むスラリー中で行われ、
前記ヒドロキシシクロヘキサン化合物は、一般式(1)又は一般式(2)で表され、
前記一般式(1)で表されるヒドロキシシクロヘキサン化合物におけるシス含有体に対する全トランス体の比が、1.50超10,000以下であり、
前記一般式(2)で表されるヒドロキシシクロヘキサン化合物におけるシス体に対するトランス体の比が、1.50超10,000以下である、トランスリッチ-ヒドロキシシクロヘキサン化合物の製造方法。
【化1】
(式中、シクロヘキサン環を構成する炭素原子のうち、ヒドロキシ基が結合している炭素原子以外の炭素原子に結合した水素原子は、それぞれ独立して、ハロゲノ基、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、炭素数3以上20以下のシクロアルキル基、又は炭素数6以上30以下のアリール基で置換されていてもよく;前記アルキル基、前記ハロゲン化アルキル基、前記シクロアルキル基、及び前記アリール基は、互いに結合して環を形成していてもよく;nは、0以上2以下の整数である。)
【化2】
(式中、Rは、シクロヘキサン環を構成する炭素原子のうち、ヒドロキシ基が結合している炭素原子以外の炭素原子に結合した官能基であって、ハロゲノ基、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、炭素数3以上20以下のシクロアルキル基、炭素数6以上30以下のアリール基、-COOR
1で表される基、-CON(R
2)
2で表される基、-N(R
3)
2で表される基、又は-NR
4COR
5で表される基であり;R
1、R
2、R
3、R
4、及びR
5は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、炭素数3以上20以下のシクロアルキル基、又は炭素数6以上20以下のアリール基である。)
【請求項2】
前記ヒドロキシベンゼン骨格を有するヒドロキシベンゼン化合物が、一般式(1a)又は一般式(2a)で表される、請求項1に記載のトランスリッチ-ヒドロキシシクロヘキサン化合物の製造方法。
【化3】
(式中、ベンゼン環を構成する炭素原子のうち、ヒドロキシ基が結合している炭素原子以外の炭素原子に結合した水素原子は、それぞれ独立して、ハロゲノ基、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、炭素数3以上20以下のシクロアルキル基、又は炭素数6以上20以下のアリール基で置換されていてもよく;前記アルキル基、前記ハロゲン化アルキル基、前記シクロアルキル基、及び前記アリール基は、互いに結合して環を形成していてもよく;nは、0以上2以下の整数である。)
【化4】
(式中、R
aは、ハロゲノ基、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、炭素数3以上20以下のシクロアルキル基、炭素数6以上20以下のアリール基、-COOR
1aで表される基、-CON(R
2a)
2で表される基、-N(R
3a)
2で表される基、ニトロ基、又は-NR
4aCOR
5aで表される基であり;R
1a、R
2a、R
3a、R
4a、及びR
5aは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、炭素数3以上20以下のシクロアルキル基、又は炭素数6以上20以下のアリール基である。)
【請求項3】
前記シクロヘキサノン骨格を有するシクロヘキサノン化合物が、一般式(1b)、一般式(1b’)、又は一般式(2b)で表される、請求項1に記載のトランスリッチ-ヒドロキシシクロヘキサン化合物の製造方法。
【化5】
(式中、シクロヘキサン環を構成する炭素原子のうち、カルボニル基が結合している炭素原子以外の炭素原子に結合した水素原子は、それぞれ独立して、ハロゲノ基、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、炭素数3以上20以下のシクロアルキル基、又は炭素数6以上30以下のアリール基で置換されていてもよく;前記アルキル基、前記ハロゲン化アルキル基、前記シクロアルキル基、及び前記アリール基は、互いに結合して環を形成していてもよく;n’は、0又は1である。)
【化6】
(式中、R
bは、ハロゲノ基、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、炭素数3以上20以下のシクロアルキル基、炭素数6以上30以下のアリール基、-COOR
1bで表される基、-CON(R
2b)
2で表される基、-N(R
3b)
2で表される基、ニトロ基、又は-NR
4bCOR
5bで表される基で
あり;R
1b、R
2b、R
3b、R
4b、及びR
5bは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、炭素数3以上20以下のシクロアルキル基、又は炭素数6以上20以下のアリール基である。)
【請求項4】
前記ヒドロキシシクロヘキサン骨格を有するヒドロキシ化合物が、一般式(1c)又は一般式(2c)で表される、請求項1に記載のトランスリッチ-ヒドロキシシクロヘキサン化合物の製造方法。
【化7】
(式中、シクロヘキサン環を構成する炭素原子のうち、ヒドロキシ基が結合している炭素原子以外の炭素原子に結合した水素原子は、それぞれ独立して、ハロゲノ基、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、炭素数3以上20以下のシクロアルキル基、又は炭素数6以上30以下のアリール基で置換されていてもよく;前記アルキル基、前記ハロゲン化アルキル基、前記シクロアルキル基、及び前記アリール基は、互いに結合して環を形成していてもよく;nは、0以上2以下の整数である。)
【化8】
(式中、R
cは、ハロゲノ基、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、炭素数3以上20以下のシクロアルキル基、炭素数6以上30以下のアリール基、-COOR
1cで表される基、-CON(R
2c)
2で表される基、-N(R
3c)
2で表される基、ニトロ基、又は-NR
4cCOR
5cで表される基であり;R
1c、R
2c、R
3c、R
4c、及びR
5cは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、炭素数3以上20以下のシクロアルキル基、又は炭素数6以上20以下のアリール基である。)
【請求項5】
前記ヒドロキシシクロヘキサン骨格及びシクロヘキサノン骨格を有するケトール化合物が、一般式(1d)で表される、請求項1に記載のトランスリッチ-ヒドロキシシクロヘキサン化合物の製造方法。
【化9】
(式中、シクロヘキサン環を構成する炭素原子のうち、ヒドロキシ基が結合している炭素原子以外の炭素原子に結合した水素原子は、それぞれ独立して、ハロゲノ基、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、炭素数3以上20以下のシクロアルキル基、又は炭素数6以上30以下のアリール基で置換されていてもよく;前記アルキル基、前記ハロゲン化アルキル基、前記シクロアルキル基、及び前記アリール基は、互いに結合して環を形成していてもよく;nは、0以上2以下の整数であ
る。)
【請求項6】
前記原料が、前記ヒドロキシベンゼン骨格を有するヒドロキシベンゼン化合物及び前記シクロヘキサノン骨格を有するシクロヘキサノン化合物からなる群より選択される1種以上である、請求項1に記載のトランスリッチ-ヒドロキシシクロヘキサン化合物の製造方法。
【請求項7】
前記原料が、前記ヒドロキシシクロヘキサン骨格を有するヒドロキシ化合物である、請求項1に記載のトランスリッチ-ヒドロキシシクロヘキサン化合物の製造方法。
【請求項8】
前記金属触媒が、周期表の第8族元素、第9族元素、第10族元素、及び第11族元素からなる群より選択される1種以上の金属を含む触媒である、請求項1に記載のトランスリッチ-ヒドロキシシクロヘキサン化合物の製造方法。
【請求項9】
前記金属触媒が、Ru、Rh、Ni、及びPtからなる群より選択される1種以上の金属を含む触媒である、請求項1に記載のトランスリッチ-ヒドロキシシクロヘキサン化合物の製造方法。
【請求項10】
前記金属触媒が、金属塩、金属酸化物、及び金属単体からなる群より選択される1種以上である、請求項1に記載のトランスリッチ-ヒドロキシシクロヘキサン化合物の製造方法。
【請求項11】
前記金属触媒が、下記(A)、(B)、及び(C)からなる群から選択される1種以上である、請求項1に記載のトランスリッチ-ヒドロキシシクロヘキサン化合物の製造方法。
(A)金属塩、金属酸化物、及び金属単体からなる群より選択される1種以上の物質の粉末。
(B)金属塩、金属酸化物、及び金属単体からなる群より選択される1種以上の物質の多孔質体。
(C)金属塩、金属酸化物、及び金属単体からなる群より選択される1種以上の物質が酸化物、水化物、炭素、及びセルロースからなる群より選択される1種以上の担体に担持された担持触媒。
【請求項12】
前記反応が、水素分圧が0.01MPa以上50.0MPa以下の雰囲気下、及び10℃以上180℃以下の温度条件下で行われる、請求項1に記載のトランスリッチ-ヒドロキシシクロヘキサン化合物の製造方法。
【請求項13】
前記貧溶媒が、水及び炭化水素からなる群より選択される1種以上である、請求項1に記載のトランスリッチ-ヒドロキシシクロヘキサン化合物の製造方法。
【請求項14】
ヒドロキシシクロヘキサン骨格を有するヒドロキシシクロヘキサン化合物を、金属触媒の存在下で水素と反応させる反応工程を含み、
前記反応が、前記ヒドロキシシクロヘキサン化合物と前記ヒドロキシシクロヘキサン化合物の貧溶媒とを含むスラリー中で行われる、ヒドロキシシクロヘキサン化合物の異性化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、トランスリッチ-ヒドロキシシクロヘキサン化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロキシシクロヘキサン化合物は、医薬品、医療用材料、農薬、及びエンジニアリングプラスチック等の合成材料の中間体;溶剤;及び香料;等として使用し得る有用な化合物である。例えば、ジヒドロキシシクロヘキサン化合物は、ジカルボン酸化合物と重合することで、機械的性質、耐熱性、及び耐薬品性等に優れたポリエステルを与え得る。また、ジヒドロキシシクロヘキサン化合物は、ホスゲン、ジフェニルカーボネート等のカルボニル源と重合することで、耐衝撃性及び軽量性等に優れたポリカーボネートを与え得る。
【0003】
ヒドロキシシクロヘキサン化合物のシクロヘキサン環に2以上の置換基が導入されている場合、当該置換基の立体配置によって、ヒドロキシシクロヘキサン化合物には、2種以上の立体異性体が存在する。例えば、1,4-シクロヘキサンジオールには、トランス-1,4-シクロヘキサンジオール及びシス-1,4-シクロヘキサンジオールの2種の立体異性体が存在する。
【0004】
各立体異性体の存在比率は、その製造方法により大きく左右される。例えば、ルテニウム触媒存在下、ヒドロキノンを溶液中で接触水素化することにより、シス体の含有率が95~100%の1,4-シクロヘキサンジオールが得られることが知られている(特許文献1)。
【0005】
立体異性体の違いにより、融点、沸点、反応性、及び香り等の種々の物性が異なること、及び異なる物性の合成材料を与えることから、目的とする立体異性体をより選択的に製造することが求められている。
【0006】
かかる要求に応じるべく、シス体に対するトランス体の比の低い1,4-シクロヘキサンジオール化合物を異性化することで、トランス-1,4-シクロヘキサンジオール化合物を製造する方法が開発されている。例えば、トランス-1,4-シクロヘキサンジオールとシス-1,4-シクロヘキサンジオールとの混合物をグリコールモノアルキルエーテル及び/又はグリコールジアルキルエーテルで再結晶する操作を複数回繰り返す方法が報告されている(特許文献2)。しかしながら、この製造方法では、再結晶及び異性化の繰り返し操作により原料ないし目的物のロスが生じ、十分な収率でトランス-1,4-シクロヘキサンジオールが得られないという問題が残されている。
【0007】
一方、トランス体に対するシス体の比の高い2,2,4,4-テトラメチルシクロブタン-1,3-ジオールを選択的に製造する方法として、目的物が反応液に部分的に溶解する条件で、2,2,4,4-テトラメチルシクロブタン-1,3-ジオン、3-ヒドロキシ-2,2,4,4-テトラメチルシクロブタノン、及び2,2,4,4-テトラメチルシクロブタン-1,3-ジオールから選択される化合物をルテニウム含有触媒の存在下で水素と接触させる方法も報告されている(特許文献3、4)。しかしながら、この製造方法では、トランス体を選択的に製造することはできない。また、シクロブタン化合物に代えてシクロヘキサン化合物を反応させた例も報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公昭45-006009号公報
【特許文献2】特開平05-155797号公報
【特許文献3】国際公開第2016/094478号
【特許文献4】国際公開第2016/094479号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本開示の課題は、シス体に対するトランス体の比の高いヒドロキシシクロヘキサン化合物の新規な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、金属触媒の存在下、特定の原料をスラリー中で水素と反応させることにより、シス体に対するトランス体の比の高いヒドロキシシクロヘキサン化合物が得られることを見出した。すなわち、本開示の要旨は以下とおりである。
【0011】
〔1〕
トランスリッチ-ヒドロキシシクロヘキサン化合物の製造方法であって、
ヒドロキシベンゼン骨格を有するヒドロキシベンゼン化合物、シクロヘキサノン骨格を有するシクロヘキサノン化合物、ヒドロキシシクロヘキサン骨格を有するヒドロキシ化合物、並びにヒドロキシシクロヘキサン骨格及びシクロヘキサノン骨格を有するケトール化合物からなる群より選択される1種以上の原料を、金属触媒の存在下で水素と反応させる反応工程を含み、
前記反応が、前記原料と前記原料の貧溶媒とを含むスラリー中で行われ、
前記ヒドロキシシクロヘキサン化合物は、一般式(1)又は一般式(2)で表され、
前記一般式(1)で表されるヒドロキシシクロヘキサン化合物におけるシス含有体に対する全トランス体の比が、1.50超10,000以下であり、
前記一般式(2)で表されるヒドロキシシクロヘキサン化合物におけるシス体に対するトランス体の比が、1.50超10,000以下である、トランスリッチ-ヒドロキシシクロヘキサン化合物の製造方法。
【化1】
(式中、シクロヘキサン環を構成する炭素原子のうち、ヒドロキシ基が結合している炭素原子以外の炭素原子に結合した水素原子は、それぞれ独立して、ハロゲノ基、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、炭素数3以上20以下のシクロアルキル基、又は炭素数6以上30以下のアリール基で置換されていてもよく;前記アルキル基、前記ハロゲン化アルキル基、前記シクロアルキル基、及び前記アリール基は、互いに結合して環を形成していてもよく;nは、0以上2以下の整数である。)
【化2】
(式中、Rは、シクロヘキサン環を構成する炭素原子のうち、ヒドロキシ基が結合している炭素原子以外の炭素原子に結合した官能基であって、ハロゲノ基、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、炭素数3以上20以下
のシクロアルキル基、炭素数6以上30以下のアリール基、-COOR
1で表される基、-CON(R
2)
2で表される基、-N(R
3)
2で表される基、又は-NR
4COR
5で表される基であり;R
1、R
2、R
3、R
4、及びR
5は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、炭素数3以上20以下のシクロアルキル基、又は炭素数6以上20以下のアリール基である。)
〔2〕
前記ヒドロキシベンゼン骨格を有するヒドロキシベンゼン化合物が、一般式(1a)又は一般式(2a)で表される、〔1〕に記載のトランスリッチ-ヒドロキシシクロヘキサン化合物の製造方法。
【化3】
(式中、ベンゼン環を構成する炭素原子のうち、ヒドロキシ基が結合している炭素原子以外の炭素原子に結合した水素原子は、それぞれ独立して、ハロゲノ基、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、炭素数3以上20以下のシクロアルキル基、又は炭素数6以上20以下のアリール基で置換されていてもよく;前記アルキル基、前記ハロゲン化アルキル基、前記シクロアルキル基、及び前記アリール基は、互いに結合して環を形成していてもよく;nは、0以上2以下の整数である。)
【化4】
(式中、R
aは、ハロゲノ基、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、炭素数3以上20以下のシクロアルキル基、炭素数6以上20以下のアリール基、-COOR
1aで表される基、-CON(R
2a)
2で表される基、-N(R
3a)
2で表される基、ニトロ基、又は-NR
4aCOR
5aで表される基であり;R
1a、R
2a、R
3a、R
4a、及びR
5aは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、炭素数3以上20以下のシクロアルキル基、又は炭素数6以上20以下のアリール基である。)
〔3〕
前記シクロヘキサノン骨格を有するシクロヘキサノン化合物が、一般式(1b)、一般式(1b’)、又は一般式(2b)で表される、〔1〕又は〔2〕に記載のトランスリッチ-ヒドロキシシクロヘキサン化合物の製造方法。
【化5】
(式中、シクロヘキサン環を構成する炭素原子のうち、カルボニル基が結合している炭素原子以外の炭素原子に結合した水素原子は、それぞれ独立して、ハロゲノ基、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、炭素数3以上20以下のシクロアルキル基、又は炭素数6以上30以下のアリール基で置換されていてもよく;前記アルキル基、前記ハロゲン化アルキル基、前記シクロアルキル基、及び前記
アリール基は、互いに結合して環を形成していてもよく;n’は、0又は1である。)
【化6】
(式中、R
bは、ハロゲノ基、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、炭素数3以上20以下のシクロアルキル基、炭素数6以上30以下のアリール基、-COOR
1bで表される基、-CON(R
2b)
2で表される基、-N(R
3b)
2で表される基、ニトロ基、又は-NR
4bCOR
5bで表される基であり;R
1b、R
2b、R
3b、R
4b、及びR
5bは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、炭素数3以上20以下のシクロアルキル基、又は炭素数6以上20以下のアリール基である。)
〔4〕
前記ヒドロキシシクロヘキサン骨格を有するヒドロキシ化合物が、一般式(1c)又は一般式(2c)で表される、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のトランスリッチ-ヒドロキシシクロヘキサン化合物の製造方法。
【化7】
(式中、シクロヘキサン環を構成する炭素原子のうち、ヒドロキシ基が結合している炭素原子以外の炭素原子に結合した水素原子は、それぞれ独立して、ハロゲノ基、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、炭素数3以上20以下のシクロアルキル基、又は炭素数6以上30以下のアリール基で置換されていてもよく;前記アルキル基、前記ハロゲン化アルキル基、前記シクロアルキル基、及び前記アリール基は、互いに結合して環を形成していてもよく;nは、0以上2以下の整数である。)
【化8】
(式中、R
cは、ハロゲノ基、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、炭素数3以上20以下のシクロアルキル基、炭素数6以上30以下のアリール基、-COOR
1cで表される基、-CON(R
2c)
2で表される基、-N(R
3c)
2で表される基、ニトロ基、又は-NR
4cCOR
5cで表される基であり;R
1c、R
2c、R
3c、R
4c、及びR
5cは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、炭素数3以上20以下のシクロアルキル基、又は炭素数6以上20以下のアリール基である。)
〔5〕
前記ヒドロキシシクロヘキサン骨格及びシクロヘキサノン骨格を有するケトール化合物が、一般式(1d)で表される、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のトランスリッチ-ヒドロキシシクロヘキサン化合物の製造方法。
【化9】
(式中、シクロヘキサン環を構成する炭素原子のうち、ヒドロキシ基が結合している炭素原子以外の炭素原子に結合した水素原子は、それぞれ独立して、ハロゲノ基、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、炭素数3以上20以下のシクロアルキル基、又は炭素数6以上30以下のアリール基で置換されていてもよく;前記アルキル基、前記ハロゲン化アルキル基、前記シクロアルキル基、及び前記アリール基は、互いに結合して環を形成していてもよく;nは、0以上2以下の整数である。)
〔6〕
前記原料が、前記ヒドロキシベンゼン骨格を有するヒドロキシベンゼン化合物及び前記シクロヘキサノン骨格を有するシクロヘキサノン化合物からなる群より選択される1種以上である、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のトランスリッチ-ヒドロキシシクロヘキサン化合物の製造方法。
〔7〕
前記原料が、前記ヒドロキシシクロヘキサン骨格を有するヒドロキシ化合物である、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のトランスリッチ-ヒドロキシシクロヘキサン化合物の製造方法。
〔8〕
前記金属触媒が、周期表の第8族元素、第9族元素、第10族元素、及び第11族元素からなる群より選択される1種以上の金属を含む触媒である、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載のトランスリッチ-ヒドロキシシクロヘキサン化合物の製造方法。
〔9〕
前記金属触媒が、Ru、Rh、Ni、及びPtからなる群より選択される1種以上の金属を含む触媒である、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載のトランスリッチ-ヒドロキシシクロヘキサン化合物の製造方法。
〔10〕
前記金属触媒が、金属塩、金属酸化物、及び金属単体からなる群より選択される1種以上である、〔1〕~〔9〕のいずれかに記載のトランスリッチ-ヒドロキシシクロヘキサン化合物の製造方法。
〔11〕
前記金属触媒が、下記(A)、(B)、及び(C)からなる群から選択される1種以上である、〔1〕~〔9〕のいずれかに記載のトランスリッチ-ヒドロキシシクロヘキサン化合物の製造方法。
(A)金属塩、金属酸化物、及び金属単体からなる群より選択される1種以上の物質の粉末。
(B)金属塩、金属酸化物、及び金属単体からなる群より選択される1種以上の物質の多孔質体。
(C)金属塩、金属酸化物、及び金属単体からなる群より選択される1種以上の物質が酸化物、水化物、炭素、及びセルロースからなる群より選択される1種以上の担体に担持された担持触媒。
〔12〕
前記反応が、水素分圧が0.01MPa以上50.0MPa以下の雰囲気下、及び10℃以上180℃以下の温度条件下で行われる、〔1〕~〔11〕のいずれかに記載のトランスリッチ-ヒドロキシシクロヘキサン化合物の製造方法。
〔13〕
前記貧溶媒が、水及び炭化水素からなる群より選択される1種以上である、〔1〕~〔12〕のいずれかに記載のトランスリッチ-ヒドロキシシクロヘキサン化合物の製造方法。
〔14〕
ヒドロキシシクロヘキサン骨格を有するヒドロキシシクロヘキサン化合物を、金属触媒の存在下で水素と反応させる反応工程を含み、
前記反応が、前記ヒドロキシシクロヘキサン化合物と前記ヒドロキシシクロヘキサン化合物の貧溶媒とを含むスラリー中で行われる、ヒドロキシシクロヘキサン化合物の異性化方法。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、シス体に対するトランス体の比の高いヒドロキシシクロヘキサン化合物の新規な製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本開示の実施態様の一例(代表例)であり、本開示はこれらの内容に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0014】
〔トランスリッチ-ヒドロキシシクロヘキサン化合物の製造方法〕
本開示の一実施形態は、トランスリッチ-ヒドロキシシクロヘキサン化合物の製造方法であって、ヒドロキシベンゼン骨格を有するヒドロキシベンゼン化合物、シクロヘキサノン骨格を有するシクロヘキサノン化合物、ヒドロキシシクロヘキサン骨格を有するヒドロキシ化合物、並びにヒドロキシシクロヘキサン骨格及びシクロヘキサノン骨格を有するケトール化合物からなる群より選択される1種以上の原料を、金属触媒の存在下で水素と反応させる反応工程を含む(以下、トランスリッチ-ヒドロキシシクロヘキサン化合物を、単に「ヒドロキシシクロヘキサン化合物」と呼ぶことがある。)。そして、反応工程における反応は、前記原料と前記原料の貧溶媒とを含むスラリー中で行われる。
【0015】
1.トランスリッチ-ヒドロキシシクロヘキサン化合物
本実施形態に係る製造方法の製造目的であるヒドロキシシクロヘキサン化合物は、一般式(1)又は一般式(2)で表される。
【0016】
【0017】
一般式(1)中、シクロヘキサン環を構成する炭素原子のうち、ヒドロキシ基が結合している炭素原子以外の炭素原子に結合した水素原子は、それぞれ独立して、ハロゲノ基、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、炭素数3以上20以下のシクロアルキル基、及び炭素数6以上30以下のアリール基から選択される置換基で置換されていてもよいが、無置換であることが好ましい。前記アルキル基、前記ハロゲン化アルキル基、前記シクロアルキル基、及び前記アリール基は、直接結合又は連結基を介して互いに結合して環を形成していてもよい。
【0018】
なお、一般式(1)において、シクロヘキサン環同士の結合を形成する炭素は、ヒドロキシ基が結合していない炭素、かつ、さらに他のシクロヘキサン環と結合していない炭素であることが好ましい。
【0019】
一般式(1)で表される化合物が上記置換基を有する場合、当該置換基は、ハロゲノ基、炭素数1以上20以下のアルキル基、又は炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基であることが好ましい。
【0020】
ハロゲノ基としては、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、及びヨード基等が挙げられる。
【0021】
炭素数1以上20以下のアルキル基の炭素数は、好ましくは1以上12以下、より好ましくは1以上6以下である。
炭素数1以上20以下のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、イソブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、及びn-イコシル基等が挙げられる。
【0022】
炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基の炭素数は、好ましくは1以上12以下、より好ましくは1以上6以下である。
炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基としては、上述した炭素数1以上20以下のアルキル基の炭素原子に結合した水素原子が上述したハロゲノ基で置換された基が挙げられる。ハロゲノ基による置換の位置及び数は、特に限定されない。
【0023】
炭素数3以上20以下のシクロアルキル基の炭素数は、好ましくは3以上14以下、より好ましくは3以上10以下であり、さらに好ましくは6以上10以下である。
炭素数3以上20以下のシクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ノルボルニル基、アダマンチル基、1-デカヒドロナフチル基、及び2-デカヒドロナフチル基等が挙げられる。
【0024】
炭素数6以上30以下のアリール基の炭素数は、好ましくは6以上20以下、より好ましくは6以上14以下、さらに好ましくは6以上10以下である。
炭素数6以上30以下のアリール基としては、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-フェナントリル基、2-フェナントリル基、3-フェナントリル基、4-フェナントリル基、9-フェナントリル基、1-アントリル基、2-アントリル基、9-アントリル基、2-トリフェニレニル基、1-ピレニル基、2-ピレニル基、及び3-ペリレニル基等が挙げられる。
【0025】
一般式(1)中の置換基であるアルキル基、ハロゲン化アルキル基、シクロアルキル基、及びアリール基が連結基を介して互いに結合して環を形成する場合の連結基としては、特に限定されないが、例えば-CH2-、-C(CH3)2-、-CH2CH2-、-O-、及び-NH-等が挙げられる。
【0026】
一般式(1)中、nは、0以上2以下の整数であり、好ましくは0又は1であり、より好ましくは1である。
【0027】
【0028】
一般式(2)中、Rは、シクロヘキサン環を構成する炭素原子のうち、ヒドロキシ基が結合している炭素原子以外の炭素原子に結合した官能基であって、ハロゲノ基、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、炭素数3以上20以下のシクロアルキル基、炭素数6以上30以下のアリール基、-COOR1で表される基、-CON(R2)2で表される基、-N(R3)2で表される基、又は-NR4COR5で表される基である。R1、R2、R3、R4、及びR5は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、炭素数3以上20以下のシクロアルキル基、又は炭素数6以上20以下のアリール基である。
【0029】
Rで表されるハロゲノ基、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、炭素数3以上20以下のシクロアルキル基、及び炭素数6以上30以下のアリール基は、それぞれ、一般式(1)中の置換基であるハロゲノ基、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、炭素数3以上20以下のシクロアルキル基、及び炭素数6以上30以下のアリール基と同義であり、その好ましい態様も同様である。
【0030】
R1、R2、R3、R4、及びR5で表される炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、及び炭素数3以上20以下のシクロアルキル基は、それぞれ、Rで表される炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、及び炭素数3以上20以下のシクロアルキル基と同義であり、その好ましい態様も同様である。
【0031】
R1、R2、R3、R4、及びR5で表される炭素数6以上20以下のアリール基の炭素数は、好ましくは6以上14以下、より好ましくは6以上10以下である。
R1、R2、R3、R4、及びR5で表される炭素数6以上20以下のアリール基としては、一般式(1)中の置換基であるアリール基のうち、炭素数6以上20以下のものが挙げられる。
【0032】
R1、R2、R3、R4、及びR5は、それぞれ、水素原子又は炭素数1以上20以下のアルキル基であることが好ましい。
【0033】
一般式(1)で表される化合物において、シス含有体に対する全トランス体のモル比(以下、「トランス/シスの比」と呼ぶことがある。)は、通常1.50超10,000以下であり、高品質なポリエステル、ポリカーボネート等の材料の原材料となり得る点で、好ましくは2.00以上5,000以下、より好ましくは3.00以上1,000以下、さらに好ましくは4.00以上500以下、特に好ましくは10.00以上100以下である。
【0034】
一般式(2)で表される化合物において、シス体に対するトランス体のモル比(以下、「トランス/シスの比」と呼ぶことがある。)は、通常1.50超10,000以下であり、香料及び医薬品等の化学製品の原材料となり得る点で、好ましくは2.00以上5,000以下、より好ましくは3.00以上1,000以下、さらに好ましくは4.00以上500以下である。
なお、本開示において、「シス体」は「シス含有体」の一態様であり、「全トランス体」は「トランス体」の一態様であるものとする。
【0035】
ここで、一般式(1)で表される化合物における全トランス体とは、一般式(1)において、各シクロヘキサン骨格に結合したヒドロキシ基又は他のシクロヘキサン骨格が、全
てトランス位で結合している化合物を意味する。また、シス含有体とは、一般式(1)において、各シクロヘキサン骨格に結合したヒドロキシ基又は他のシクロヘキサン骨格の少なくとも1つがシス位で結合している化合物を意味する。
【0036】
具体的には、1つのシクロヘキサン骨格を有するヒドロキシシクロヘキサン化合物(一般式(1)におけるn=0)の場合、全トランス体とは、2つのヒドロキシ基がシクロヘキサン骨格にトランス位で結合している化合物である。シス含有体とは2つのヒドロキシ基がシクロヘキサン骨格にシス位で結合している化合物である。
【0037】
2つのシクロヘキサン骨格を有するヒドロキシシクロヘキサン化合物(一般式(1)におけるn=1)の場合、全トランス体とは、1つのシクロヘキサン骨格に、ヒドロキシ基とヒドロキシシクロヘキサン骨格とがトランスの位置関係で結合している化合物である。シス含有体とは、1つのシクロヘキサン骨格に対して、ヒドロキシ基とヒドロキシシクロヘキサン骨格とがシスの位置関係で結合している化合物である。
【0038】
3つのシクロヘキサン骨格を有するヒドロキシシクロヘキサン化合物(一般式(1)におけるn=2)の場合、全トランス体とは、各シクロヘキサン骨格において、ヒドロキシ基と他のシクロヘキサン骨格との位置関係、及び2つのヒドロキシシクロヘキサン骨格同士の位置関係が、いずれもトランスの位置関係にある化合物である。シス含有体とは、各シクロヘキサン骨格において、ヒドロキシ基と他のシクロヘキサン骨格との位置関係、及び2つのヒドロキシシクロヘキサン骨格同士の位置関係のいずれか1つ以上がシスの位置関係にある化合物である。
【0039】
より具体的な例として、一般式(1)で表される化合物のうち、1,4-シクロヘキサンジオール(n=0)、4,4’-ビシクロヘキサノール(n=1)、及び1,4-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)シクロヘキサン(n=2)の全トランス体及びシス含有体を表1に示す。
【0040】
【0041】
そして、一般式(1)で表される化合物におけるシス含有体に対する全トランス体のモル比とは、全トランス体の存在割合を、シス含有体の存在割合(シス含有体が複数種ある
場合は、全てのシス含有体の合計)で除した値を意味する。
【0042】
ヒドロキシシクロヘキサン化合物の全トランス体、シス含有体、トランス体、及びシス体の存在割合は、後述する実施例に示すように、ガスクロマトグラフィーにより測定することができる。また、その測定結果からヒドロキシシクロヘキサン化合物のトランス/シスの比を算出することができる。
【0043】
2.原料
反応工程で用いられる原料は、ヒドロキシベンゼン骨格を有するヒドロキシベンゼン化合物、シクロヘキサノン骨格を有するシクロヘキサノン化合物、ヒドロキシシクロヘキサン骨格を有するヒドロキシ化合物、並びにヒドロキシシクロヘキサン骨格及びシクロヘキサノン骨格を有するケトール化合物からなる群より選択される1種以上である。原料を2種以上用いる場合、原料の組み合わせ及び比率は任意である。
本実施形態では、スラリー中で、金属触媒の存在下、原料が水素と接触することにより、異性化反応及び/又は接触水素化反応が生じ、トランス/シスの比が向上することで、所望のトランス/シスの比を有するヒドロキシシクロヘキサン化合物が生成する。
【0044】
2-1.ヒドロキシベンゼン骨格を有するヒドロキシベンゼン化合物
ヒドロキシベンゼン骨格を有するヒドロキシベンゼン化合物としては、接触水素化反応又は接触水素化反応及び異性化反応により、一般式(1)又は一般式(2)で表されるヒドロキシシクロヘキサン化合物が生成するものである限り、特に限定されないが、好ましくは一般式(1a)又は一般式(2a)で表される化合物である。一般式(1a)で表される化合物及び一般式(2a)で表される化合物からは、それぞれ、一般式(1)で表される化合物及び一般式(2)で表される化合物が製造される。
【0045】
【0046】
一般式(1a)中、ベンゼン環を構成する炭素原子のうち、ヒドロキシ基が結合している炭素原子以外の炭素原子に結合した水素原子は、それぞれ独立して、ハロゲノ基、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、炭素数3以上20以下のシクロアルキル基、又は炭素数6以上20以下のアリール基で置換されていてもよいが、無置換であることが好ましい。前記アルキル基、前記ハロゲン化アルキル基、前記シクロアルキル基、及び前記アリール基は、直接結合又は連結基を介して互いに結合して環を形成していてもよい。
【0047】
一般式(1a)で表される化合物が上記置換基を有する場合、当該置換基は、ハロゲノ基、炭素数1以上20以下のアルキル基、又は炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基であることが好ましい。
【0048】
一般式(1a)中の置換基であるハロゲノ基、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、及び炭素数3以上20以下のシクロアルキル基は、それぞれ、一般式(1)中の置換基であるハロゲノ基、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、及び炭素数3以上20以下のシクロアルキル基と同義であり、その好ましい態様も同様である。
【0049】
一般式(1a)中の置換基である炭素数6以上20以下のアリール基の炭素数は、好ま
しくは6以上14以下、より好ましくは6以上10以下である。
一般式(1a)中の置換基である炭素数6以上20以下のアリール基としては、一般式(1)中の置換基であるアリール基のうち、炭素数6以上20以下のものが挙げられる。
【0050】
一般式(1a)中の置換基であるアルキル基、ハロゲン化アルキル基、シクロアルキル基、及びアリール基が連結基を介して互いに結合して環を形成する場合の連結基としては、特に限定されないが、例えば-CH2-、-C(CH3)2-、-CH2CH2-、-O-、及び-NH-等が挙げられる。
【0051】
一般式(1a)中のnは、0以上2以下の整数であって、一般式(1)中のnと同義であり、その好ましい態様も同様である。
【0052】
【0053】
一般式(2a)中、Raは、ハロゲノ基、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、炭素数3以上20以下のシクロアルキル基、炭素数6以上20以下のアリール基、-COOR1aで表される基、-CON(R2a)2で表される基、-N(R3a)2で表される基、ニトロ基、又は-NR4aCOR5aで表される基である。R1a、R2a、R3a、R4a、及びR5aは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、炭素数3以上20以下のシクロアルキル基、又は炭素数6以上20以下のアリール基である。
【0054】
Raで表されるハロゲノ基、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、及び炭素数3以上20以下のシクロアルキル基は、それぞれ、一般式(2)中のRで表される炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、及び炭素数3以上20以下のシクロアルキル基と同義であり、その好ましい態様も同様である。
【0055】
Raで表される炭素数6以上20以下のアリール基の炭素数は、好ましくは6以上14以下、より好ましくは6以上10以下である。
Raで表される炭素数6以上20以下のアリール基としては、一般式(2)中のRで表されるアリール基のうち、炭素数6以上20以下のものが挙げられる。
【0056】
Raは、炭素数3以上20以下のシクロアルキル基であることが好ましい。また、Raは、ヒドロキシ基とパラ位の関係にあることも好ましい。
【0057】
R1a、R2a、R3a、R4a、及びR5aで表される炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、炭素数3以上20以下のシクロアルキル基、及び炭素数6以上20以下のアリール基は、それぞれ、一般式(2)中のR1で表される炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、炭素数3以上20以下のシクロアルキル基、及び炭素数6以上20以下のアリール基と同義であり、その好ましい態様も同様である。
【0058】
R1a、R2a、R3a、R4a、及びR5aは、それぞれ、水素原子又は炭素数1以上20以下のアルキル基であることが好ましい。
【0059】
ヒドロキシベンゼン骨格を有するヒドロキシベンゼン化合物は、公知の化合物であるか、公知の化合物から有機合成分野において公知の製造方法又はこれに準じた方法等の任意の方法により製造することができる。
【0060】
2-2.シクロヘキサノン骨格を有するシクロヘキサノン化合物
シクロヘキサノン骨格を有するシクロヘキサノン化合物は、接触水素化反応又は接触水素化反応及び異性化反応により、一般式(1)又は一般式(2)で表されるヒドロキシシクロヘキサン化合物が生成するものである限り、特に限定されないが、好ましくは一般式(1b)、一般式(1b’)、又は一般式(2b)で表される化合物である。一般式(1b)で表される化合物及び一般式(1b’)で表される化合物からは、一般式(1)で表される化合物が製造される。また、一般式(2b)で表される化合物からは、一般式(2)で表される化合物が製造される。
【0061】
【0062】
一般式(1b)及び一般式(1b’)中、シクロヘキサン環を構成する炭素原子のうち、カルボニル基が結合している炭素原子以外の炭素原子に結合した水素原子は、それぞれ独立して、ハロゲノ基、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、炭素数3以上20以下のシクロアルキル基、又は炭素数6以上30以下のアリール基で置換されていてもよいが、無置換であることが好ましい。前記アルキル基、前記ハロゲン化アルキル基、前記シクロアルキル基、及び前記アリール基は、互いに結合して環を形成していてもよい。
【0063】
なお、一般式(1b)において、シクロヘキサン環同士の結合を形成する炭素は、さらに他のシクロヘキサン環と結合していない炭素であることが好ましい。
【0064】
一般式(1b)及び一般式(1b’)で表される化合物が上記置換基を有する場合、当該置換基は、ハロゲノ基、炭素数1以上20以下のアルキル基、又は炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基であることが好ましく、ハロゲノ基であることがより好ましい。
【0065】
一般式(1b)及び一般式(1b’)中の置換基であるハロゲノ基、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、炭素数3以上20以下のシクロアルキル基、及び炭素数6以上30以下のアリール基は、それぞれ、一般式(1)中の置換基であるハロゲノ基、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、炭素数3以上20以下のシクロアルキル基、及び炭素数6以上30以下のアリール基と同義であり、その好ましい態様も同様である。
【0066】
一般式(1b)及び一般式(1b’)中の置換基であるアルキル基、ハロゲン化アルキル基、シクロアルキル基、及びアリール基が連結基を介して互いに結合して環を形成する場合の連結基としては、特に限定されないが、例えば-CH2-、-C(CH3)2-、-CH2CH2-、-O-、及び-NH-等が挙げられる。
【0067】
一般式(1b)中、n’は、0又は1であり、好ましくは0である。
【0068】
【0069】
一般式(2b)中、Rbは、ハロゲノ基、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、炭素数3以上20以下のシクロアルキル基、炭素数6以上30以下のアリール基、-COOR1bで表される基、-CON(R2b)2で表される基、-N(R3b)2で表される基、ニトロ基、又は-NR4bCOR5bで表される基である。R1b、R2b、R3b、R4b、及びR5bは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、炭素数3以上20以下のシクロアルキル基、又は炭素数6以上20以下のアリール基である。
【0070】
Rbで表されるハロゲノ基、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、炭素数3以上20以下のシクロアルキル基、及び炭素数6以上30以下のアリール基は、それぞれ、一般式(2)中のRで表されるハロゲノ基、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、炭素数3以上20以下のシクロアルキル基、及び炭素数6以上30以下のアリール基と同義であり、その好ましい態様も同様である。
【0071】
Rbは、炭素数6以上30以下のアリール基であることが好ましい。
【0072】
R1b、R2b、R3b、R4b、及びR5bで表される炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、炭素数3以上20以下のシクロアルキル基、及び炭素数6以上20以下のアリール基は、それぞれ、一般式(2)中のR1で表される炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、炭素数3以上20以下のシクロアルキル基、及び炭素数6以上20以下のアリール基と同義であり、その好ましい態様も同様である。
【0073】
R1b、R2b、R3b、R4b、及びR5bは、それぞれ、水素原子又は炭素数1以上20以下のアルキル基であることが好ましい。
【0074】
シクロヘキサノン骨格を有するシクロヘキサノン化合物は、公知の化合物であるか、公知の化合物から有機合成分野において公知の製造方法又はこれに準じた方法等の任意の方法により製造することができる。
【0075】
2-3.ヒドロキシシクロヘキサン骨格を有するヒドロキシ化合物
ヒドロキシシクロヘキサン骨格を有するヒドロキシ化合物は、異性化反応により、一般式(1)又は一般式(2)で表されるヒドロキシシクロヘキサン化合物が生成するものである限り、特に限定されないが、好ましくは一般式(1c)又は一般式(2c)で表される化合物である。一般式(1c)で表される化合物及び一般式(2c)で表される化合物からは、それぞれ、一般式(1)で表される化合物及び一般式(2)で表される化合物が製造される。
【0076】
【0077】
一般式(1c)中、シクロヘキサン環を構成する炭素原子のうち、ヒドロキシ基が結合している炭素原子以外の炭素原子に結合した水素原子は、それぞれ独立して、ハロゲノ基、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、炭素数3以上20以下のシクロアルキル基、又は炭素数6以上30以下のアリール基で置換されていてもよいが、無置換であることが好ましい。前記アルキル基、前記ハロゲン化アルキル基、前記シクロアルキル基、及び前記アリール基は、互いに結合して環を形成していてもよい。
【0078】
なお、一般式(1c)において、シクロヘキサン環同士の結合を形成する炭素は、ヒドロキシ基が結合していない炭素、かつ、さらに他のシクロヘキサン環と結合していない炭素であることが好ましい。
【0079】
一般式(1c)で表される化合物が上記置換基を有する場合、当該置換基は、ハロゲノ基、炭素数1以上20以下のアルキル基、又は炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基であることが好ましく、ハロゲノ基であることがより好ましい。
【0080】
一般式(1c)中の置換基であるハロゲノ基、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、炭素数3以上20以下のシクロアルキル基、及び炭素数6以上30以下のアリール基は、それぞれ、一般式(1)中の置換基であるハロゲノ基、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、炭素数3以上20以下のシクロアルキル基、及び炭素数6以上30以下のアリール基と同義であり、その好ましい態様も同様である。
【0081】
一般式(1c)中の置換基であるアルキル基、ハロゲン化アルキル基、シクロアルキル基、及びアリール基が連結基を介して互いに結合して環を形成する場合の連結基としては、特に限定されないが、例えば-CH2-、-C(CH3)2-、-CH2CH2-、-O-、及び-NH-等が挙げられる。
【0082】
一般式(1c)中のnは、0以上2以下の整数であって、一般式(1)中のnと同義であり、その好ましい態様も同様である。
【0083】
一般式(1c)で表される化合物において、シス含有体に対する全トランス体のモル比(以下、「トランス/シスの比」と呼ぶことがある。)は、製造目的であるヒドロキシシクロヘキサン化合物のトランス/シスの比よりも低い値であり、好ましくは1.00以下、より好ましくは0.90以下、さらに好ましくは0.75以下、特に好ましくは0.50以下である。なお、一般式(1c)で表されるヒドロキシシクロヘキサン骨格を有するヒドロキシ化合物におけるトランス/シスの比は、ヒドロキシシクロヘキサン化合物におけるトランス/シスの比と同様に定義及び測定される。
【0084】
原料として一般式(1c)で表される化合物を使用する場合、ヒドロキシシクロヘキサン化合物のトランス/シスの比は、原料のトランス/シスの比の1.00倍超であり、好ましくは1.5倍以上800倍以下、より好ましくは4.30倍以上500倍以下、さらに好ましくは4.40倍以上200倍以下、特に好ましくは5.00倍以上100倍以下である。
【0085】
【0086】
一般式(2c)中、Rcは、ハロゲノ基、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、炭素数3以上20以下のシクロアルキル基、炭素数6以上30以下のアリール基、-COOR1cで表される基、-CON(R2c)2で表される基、-N(R3c)2で表される基、ニトロ基、又は-NR4cCOR5cで表される基である。R1c、R2c、R3c、R4c、及びR5cは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、炭素数3以上20以下のシクロアルキル基、又は炭素数6以上20以下のアリール基である。
【0087】
Rcで表されるハロゲノ基、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、炭素数3以上20以下のシクロアルキル基、及び炭素数6以上30以下のアリール基は、それぞれ、一般式(2)中のRで表されるハロゲノ基、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、炭素数3以上20以下のシクロアルキル基、及び炭素数6以上30以下のアリール基と同義であり、その好ましい態様も同様である。
【0088】
Rcは、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数3以上20以下のシクロアルキル基、又は-NR4cCOR5cで表される基であることが好ましい。
【0089】
R1c、R2c、R3c、R4c、及びR5cで表される炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、炭素数3以上20以下のシクロアルキル基、及び炭素数6以上20以下のアリール基は、それぞれ、一般式(2)中のR1で表される炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、炭素数3以上20以下のシクロアルキル基、及び炭素数6以上20以下のアリール基と同義であり、その好ましい態様も同様である。
【0090】
R1c、R2c、R3c、R4c、及びR5cは、それぞれ、水素原子又は炭素数1以上20以下のアルキル基であることが好ましい。
【0091】
ヒドロキシシクロヘキサン骨格を有するヒドロキシ化合物は、公知の化合物であるか、公知の化合物から有機合成分野において公知の製造方法又はこれに準じた方法等の任意の方法により製造することができる。
【0092】
一般式(2c)で表される化合物において、シス体に対するトランス体のモル比(以下、「トランス/シスの比」と呼ぶことがある。)は、製造目的であるヒドロキシシクロヘキサン化合物のトランス/シスの比よりも低く、好ましくは1.00以下、より好ましくは0.90以下、さらに好ましくは0.75以下、特に好ましくは0.50以下である。
【0093】
原料として一般式(2c)で表される化合物を使用する場合、ヒドロキシシクロヘキサン化合物のトランス/シスの比は、原料のトランス/シスの比の1.00倍超であり、好ましくは1.20倍以上500倍以下、より好ましくは2.00倍以上200倍以下、さらに好ましくは2.50倍以上100倍以下、特に好ましくは4.00倍以上50倍以下である。
【0094】
2-4.ヒドロキシシクロヘキサン骨格及びシクロヘキサノン骨格を有するケトール化合物
ヒドロキシシクロヘキサン骨格及びシクロヘキサノン骨格を有するケトール化合物は、接触水素化反応又は接触水素化反応及び異性化反応により、一般式(1)又は一般式(2)で表されるヒドロキシシクロヘキサン化合物が生成するものである限り、特に限定され
ない。また、ヒドロキシシクロヘキサン骨格中のシクロヘキサン骨格とシクロヘキサノン骨格中のシクロヘキサン骨格とは、異なるシクロヘキサン骨格であってもよく、同一のシクロヘキサン骨格であってもよい。ケトール化合物としては、一般式(1d)で表される化合物が好ましく挙げられる。一般式(1d)で表される化合物からは、一般式(1)で表される化合物が製造される。
【0095】
【0096】
一般式(1d)中、シクロヘキサン環を構成する炭素原子のうち、ヒドロキシ基が結合している炭素原子以外の炭素原子に結合した水素原子は、それぞれ独立して、ハロゲノ基、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、炭素数3以上20以下のシクロアルキル基、又は炭素数6以上30以下のアリール基で置換されていてもよいが、無置換であることが好ましい。前記アルキル基、前記ハロゲン化アルキル基、前記シクロアルキル基、及び前記アリール基は、互いに結合して環を形成していてもよい。
【0097】
なお、一般式(1d)において、シクロヘキサン環同士の結合を形成する炭素は、ヒドロキシ基が結合していない炭素、かつ、さらに他のシクロヘキサン環と結合していない炭素であることが好ましい。
【0098】
一般式(1d)で表される化合物が上記置換基を有する場合、当該置換基は、ハロゲノ基、炭素数1以上20以下のアルキル基、又は炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基であることが好ましく、ハロゲノ基であることがより好ましい。
【0099】
一般式(1d)中の置換基であるハロゲノ基、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、炭素数3以上20以下のシクロアルキル基、及び炭素数6以上30以下のアリール基は、それぞれ、一般式(1)中の置換基であるハロゲノ基、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のハロゲン化アルキル基、炭素数3以上20以下のシクロアルキル基、及び炭素数6以上30以下のアリール基と同義であり、その好ましい態様も同様である。
【0100】
一般式(1d)中の置換基であるアルキル基、ハロゲン化アルキル基、シクロアルキル基、及びアリール基が連結基を介して互いに結合して環を形成する場合の連結基としては、特に限定されないが、例えば-CH2-、-C(CH3)2-、-CH2CH2-、-O-、及び-NH-等が挙げられる。
【0101】
一般式(1d)中のnは、0以上2以下の整数であって、一般式(1)中のnと同義であり、その好ましい態様も同様である。
【0102】
ヒドロキシシクロヘキサン骨格及びシクロヘキサノン骨格を有するケトール化合物は、公知の化合物であるか、公知の化合物から有機合成分野において公知の製造方法又はこれに準じた方法等の任意の方法により製造することができる。
【0103】
3.金属触媒
金属触媒は、金属を含み、原料と水素との反応を促進し得る限り特に限定されない。金属触媒は、1種単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよ
い。
金属触媒に含まれる金属は、周期表の第8族元素、第9族元素、第10族元素、及び第11族元素からなる群より選択される1種以上の金属であることが好ましく、Ru、Rh、Ni、及びPtからなる群より選択される1種以上の金属を含む触媒であることがより好ましく、Ru、Rh、及びPtからなる群より選択される1種以上の金属を含む触媒であることがさらに好ましく、Ruを含む触媒であることが特に好ましい。
【0104】
金属触媒は、金属塩、金属酸化物、及び金属単体からなる群より選択される1種以上であることが好ましく、金属単体であることが好ましい。金属塩としては、金属塩化物、金属臭化物、及び金属ヨウ化物等の金属ハロゲン化物;金属硫酸塩及び金属硝酸塩等の金属の無機酸塩;金属酢酸塩及び金属蟻酸塩等の金属有機酸塩;等が挙げられる。
【0105】
金属触媒の形状は、特に限定されないが、好ましくは粉末又は多孔質体である。
【0106】
また、金属触媒は、担体に担持された金属担持触媒であることが好ましい。担体としては、例えば、酸化物、水化物、炭素、及びセルロースが挙げられ、好ましくは酸化物及び炭素からなる群より選択される1種以上である。担体は、1種単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。
酸化物としては、シリカ、アルミナ、チタニア、セラミック、ジルコニア、ニオビア、及びゼオライト等が挙げられ、好ましくはアルミナである。
水化物としては、ヒドロキシアパタイト、ニオブ酸、ジルコニウム酸、タングステン酸、及びチタン酸等が挙げられる。
炭素としては、活性炭、カーボンブラック、グラファイト、グラフェン、酸化グラフェン、及びカーボンナノチューブ等が挙げられる。
【0107】
金属担持触媒における金属触媒の担持率は、特に限定されないが、好ましくは0.1重量%以上15重量%以下、より好ましくは0.2重量%以上10重量%以下である。
【0108】
原料の使用量(仕込量)に対する金属触媒の使用量(仕込量)は、特に限定されないが、好ましくは0.001mol%以上50.0mol%以下、より好ましくは0.1mol%以上20.0mol%以下、さらに好ましくは1.0mol%以上10.0mol%以下である。金属触媒の使用量を上記下限以上とすることで、反応が良好に促進され、上記上限以下とすることで、反応後の金属触媒の除去を含む後処理が容易となり好ましい。反応工程に金属担持触媒を使用する場合、上述した金属触媒の使用量は、金属担持触媒中の金属触媒の量を意味する。
【0109】
4.スラリー
反応工程における反応は、原料と原料の貧溶媒とを含むスラリー中で行われる。これにより、トランス/シスの比の高いヒドロキシシクロヘキサン化合物を製造することができる。原料及び反応条件等にもよるが、スラリー中で反応を行うと、原料を完全に溶解した溶液中で反応を行うよりもトランス/シスの比が向上する傾向がある。
【0110】
本開示において、反応液の状態を示す「スラリー」とは、反応温度において、反応液中に原料の30重量%以上、好ましくは60重量%以上、より好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上が溶解していない状態を意味する。また、「スラリー中で反応を行う」とは、反応液がスラリーの状態で反応を開始することを意味する。
【0111】
スラリーの溶媒には、原料の貧溶媒(以下、単に「貧溶媒」と呼ぶことがある。)が含まれる。反応をスラリー中で行うことができる限り、スラリーには原料の良溶媒が含まれていてもよいが、トランス/シスの比を向上する観点から、スラリーには良溶媒が含まれ
ていないことが好ましい。
【0112】
貧溶媒は、原料の溶解性が低く、反応温度において原料をスラリーの状態とすることができる限り特に限定されない。原料の溶解性は、極性によっても変わるため、原料の種類に応じて適切な貧溶媒を選択すればよい。好ましい貧溶媒としては、例えば、水及び炭化水素が挙げられる。貧溶媒は、1種単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。
【0113】
炭化水素としては、特に限定されず、例えばn-ヘキサン、n-へプタン、ベンゼン、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン等が挙げられ、好ましくはn-へプタンである(以下、「n-」、「o-」、「m-」、及び「p-」を省略する場合がある)。
【0114】
反応開始時点におけるスラリー中の原料の含有量は、特に限定されないが、好ましくは1重量%以上50重量%以下、より好ましくは2重量%以上30重量%以下、さらに好ましくは4重量%以上10重量%以下である。
【0115】
5.反応条件及び反応手順
本実施形態における反応工程は、例えば、原料と、貧溶媒及び必要に応じてその他の溶媒を含む溶媒と、金属触媒(金属触媒を担体に担持して使用する場合には、金属担持触媒。以下、「金属触媒」には、金属担持触媒も含むものとする。)とを反応器中で撹拌してスラリー状の反応液を調製する反応液調製工程、及び反応器に水素含有ガスを供給し、反応液と水素とを接触させる水素供給工程により行うことができる。
【0116】
反応液調製工程においては、各成分の混合順は特に限定されず、例えば、原料、溶媒、及び金属触媒を個別に反応器に供給してもよく、原料と金属触媒とを予め混合した後に溶媒と混合してもよい。反応器の撹拌動力の急激な負荷を抑制するため、反応器の撹拌を稼働させたまま各成分を反応器に供給してもよい。また、金属触媒を反応器に供給する際、金属触媒そのものを反応器に供給してもよく、金属触媒と水等の溶媒とを含むペースト、溶液、及びスラリー等の湿潤物を反応器に供給してもよい。湿潤物における溶媒の量は、好ましくは1重量%以上95重量%以下、より好ましくは5重量%以上80重量%以下、さらに好ましくは10重量%以上70重量%以下である。
【0117】
反応器としては、水素ガスを供給できるものである限り、特に限定されず、例えば、フラスコ;オートクレーブ;反応器を回転させて内容物を混合できるロータリーエバポレーター;等を使用することができる。
【0118】
水素供給工程において、反応器に供給する水素含有ガスは、好ましくは50体積%以上、より好ましく70体積%以上、さらに好ましくは90体積%以上含むガスである。水素含有ガスは、水素以外にも、窒素及びアルゴン等の不活性ガスを含んでいてもよい。
【0119】
水素供給工程において反応液と水素とを接触させる方法は、特に限定されず、例えば、反応器内の雰囲気を水素含有ガスで置換する方法、及び反応液中に水素含有ガスをバブリングする方法が挙げられる。
【0120】
反応器内の雰囲気を水素含有ガスで置換する方法としては、水素含有ガスを反応器内に多量に導入して置換する方法;水素含有ガスによるパージを繰り返す方法;反応器内を減圧した後に反応器へ水素を供給する方法;等が挙げられる。このとき、反応開始時における水素の分圧(特段の断りがない限り絶対圧)が、好ましくは0.01MPa以上50.0MPa以下、より好ましくは0.1MPa以上5.0MPa以下、さらに好ましくは0
.5MPa以上1.0MPa以下となるよう反応器内への水素含有ガスの組成及び反応器の全圧を調整する。
【0121】
反応液中に水素含有ガスをバブリングする方法における、水素含有ガスの流速は特に限定されないが、好ましくは0.01L/min以上1.0L/min以下、より好ましくは0.05L/min以上0.8L/min以下、さらに好ましくは0.1L/min以上0.5L/min以下である。
【0122】
反応工程における反応温度は、特に限定されないが、好ましくは10℃以上180℃以下、より好ましくは30℃以上150℃以下、さらに好ましくは50℃以上120℃以下である。
反応工程における反応時間は、特に限定されないが、好ましくは0.1時間以上72時間以下、より好ましくは1時間以上24時間以下、さらに好ましくは3時間以上12時間以下である。
【0123】
反応工程においては、反応液を撹拌しながら反応を行ってもよく、原料と金属触媒とが十分に混合された状態が維持されている限り反応液を撹拌せずに反応を行ってもよい。
【0124】
6.その他の工程
本実施形態に係る製造方法は、反応工程以外の任意の工程を含んでいてもよい。任意の工程としては、例えば反応工程で得られた反応混合物から金属触媒を除去する触媒除去工程、反応工程における生成物に所望の官能基を導入する官能基導入工程、及び目的物の純度を向上する精製工程等が挙げられる。
【0125】
6-1.触媒除去工程
触媒除去工程において反応混合物から金属触媒を除去する方法は、特に限定されず、生成物の物性、及び反応スケール等に応じて公知の手法又はこれに準じた手法等の任意の方法から適宜選択すればよい。
【0126】
公知の手法としては、例えば反応混合物のろ過、蒸留、昇華、及び溶融等が挙げられる。反応混合物のろ過により金属触媒を除去する場合、生成物が完全に溶解するよう、反応混合物に有機溶媒を加えることが好ましい。有機溶媒としては、生成物を溶解し得る限り特に限定されず、例えば水;メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、及び2-エチルヘキサノール等のアルコール;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、及びテトラヒドロフラン等のエーテル;ヘキサン、ヘプタン、及びシクロヘキサン等の炭化水素;アセトン、メチルエチルケトン、及びシクロヘキサノン等のケトン;酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、及びイソ酪酸イソブチル等のエステル;等が挙げられる。これらの有機溶媒は、1種単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0127】
なお、触媒除去工程で反応混合物から分離された金属触媒は、必要に応じて水及び有機溶媒等の溶剤で洗浄し、再度反応工程に用いることもできる。
【0128】
6-2.官能基導入工程
反応工程で得られる生成物が、一般式(1)又は一般式(2)で表される化合物でなく、所望の官能基を有していない場合には、前記生成物に所望の官能基を導入する官能基導入工程を行うことにより、一般式(1)又は一般式(2)で表される化合物を合成することができる。官能基導入工程における官能基の導入方法は、反応工程における反応の生成物から一般式(1)又は一般式(2)で表される化合物を合成できる限り、特に限定され
ず、公知の有機合成反応又はこれに準じた合成反応等の任意の反応を適宜採用することができる。
【0129】
6-3.精製工程
精製工程において、目的物の純度を向上するための方法は、特に限定されず、吸着、カラムクロマトグラフィー、蒸留、乾燥等の有機合成分野で通常行われる精製方法を採用することができる。
【0130】
〔ヒドロキシシクロヘキサン化合物の異性化方法〕
本開示の他の実施形態は、ヒドロキシシクロヘキサン骨格を有するヒドロキシシクロヘキサン化合物の異性化方法であって、ヒドロキシシクロヘキサン骨格を有するヒドロキシシクロヘキサン化合物を、金属触媒の存在下で水素と反応させる反応工程を含む。そして、反応工程における反応は、前記ヒドロキシシクロヘキサン化合物と前記ヒドロキシシクロヘキサン化合物の貧溶媒とを含むスラリー中で行われる。
【0131】
本実施形態に係る異性化方法は、水素と反応する対象が「ヒドロキシ化合物」と同義の「ヒドロキシシクロヘキサン骨格を有するヒドロキシシクロヘキサン化合物」のみである点、及び反応により得られるヒドロキシシクロヘキサン化合物のトランス/シスの比が特に限定されない点以外は、上述したトランスリッチ-ヒドロキシシクロヘキサン化合物を製造する方法と同じである。
【実施例0132】
以下、実施例により本開示を更に詳しく説明するが、本開示はこれらに限定されるものではない。
【0133】
〔GC測定条件〕
実施例及び比較例における、反応生成物のガスクロマトグラフィーの測定条件は、下記の通りである。
・測定装置:株式会社島津製作所製「Nexis GC-2030」
・カラムI*a:アジレント・テクノロジー株式会社製「Agilent J&W GC カラム-DB-5ms」(Phenyl Aryleneポリマーを使用した無極性カラム;長さ60m;内径0.32mm;膜厚0.25μm)
・カラムII*b:アジレント・テクノロジー株式会社製「Agilent J&W GC カラム-DB-1ms」(100%ジメチルポリシロキサンを使用した無極性カラム;長さ30m;内径0.32mm;膜厚0.25μm)
・キャリアガス:ヘリウム
・流量I*a:2.24mL/min
・流量II*b:1.93mL/min
・試料気化室の温度:300℃
・検出器:FID
・検出器温度:320℃
・試料:反応生成物の0.15重量%メタノール溶液
・試料注入量:0.5μL
*a:実施例1~6、8~16及び比較例1~6、8~14
*b:実施例7、比較例7
【0134】
〔実施例1〕
反応装置は東京理化器械株式会社製「パーソナル有機合成装置ChemiStationTM PPM-5512型」を使用した。
4,4’-ビシクロヘキサノール(全トランス体/シス含有体=0.34)2.52m
mol、Ru/C(エヌ・イー ケムキャット株式会社製「Aタイプ」、Ru5重量%、含水率50重量%)0.2g、イオン交換水10mLを60mL試験管に投入し、スラリーを調製した。試験管内を減圧した後、水素ガスバルーンを装着し、試験官内を水素ガスで置換した。その後、水素分圧0.10MPa(ゲージ圧0.00MPaG)、反応温度80℃、撹拌速度300rpmの条件下で、6時間反応を行い、反応混合物を得た。
【0135】
この反応混合物にメタノール50mLを添加して反応混合物を溶解させ、メンブレンフィルター(アドバンテック東洋株式会社製「DISMIC(登録商標) 13HP020AN」、孔径0.20μm)を用いてろ過することにより、Ru/Cを除去した。その後、ガスクロマトグラフィーにより反応生成物の収率を算出した。結果を表5に示す。
【0136】
なお、反応生成物には、4,4’-ビシクロヘキサノールの立体異性体である(1s,1’s,4S,4’S)-[1,1’-ビ(シクロヘキサン)]-4,4’-ジオール(c-c-体)、(1r,1’s,4R,4’S)-[1,1’-ビ(シクロヘキサン)]-4,4’-ジオール(c-t-体)、及び(1r,1’r,4R,4’R)-[1,1’-ビ(シクロヘキサン)]-4,4’-ジオール(t-t-体)の他、副生成物としてothersが含まれる。
【0137】
〔実施例2~実施例16〕
原料及び反応条件を表2~表4に示す通りに変更した以外は、実施例1と同様に反応を行い、反応生成物の収率を算出した。結果を表5に示す。
ただし、水素分圧を0.90MPa(ゲージ圧0.80MPaG)とした実施例3、実施例5、及び実施例13においては、反応装置として東京理化器械株式会社製「パーソナル有機合成装置ChemiStationTM PPV-4460型」、反応管として190mL試験管を使用した。
【0138】
〔比較例1〕
反応装置は東京理化器械株式会社製「パーソナル有機合成装置ChemiStationTM PPM-5512型」を使用した。
4,4’-ビシクロヘキサノール(全トランス体/シス含有体=0.34)2.52mmol、Ru/C(エヌ・イー ケムキャット株式会社製「Aタイプ」、Ru5重量%、含水率50重量%)0.2g、イソプロピルアルコール(IPA)10mLを60mL反応管に投入し、原料が完全に溶解した溶液を調製した。反応管にガスラインを接続し、反応管内を水素ガスで置換した。その後、水素分圧0.10MPa(ゲージ圧0.00MPaG)、反応温度80℃、撹拌速度300rpmの条件下で、6時間反応を行い、反応混合物を得た。
【0139】
この反応混合物をメンブレンフィルター(アドバンテック東洋株式会社製「DISMIC(登録商標) 13HP020AN」、孔径0.20μm)を用いてろ過することにより、Ru/Cを除去した。その後、ガスクロマトグラフィーにより反応生成物の収率を算出した。結果を表5に示す。
【0140】
〔比較例2~比較例14〕
原料及び反応条件を表2~表4に示す通りに変更した以外は、比較例1と同様に反応を行い、反応生成物の収率を算出した。結果を表5に示す。
ただし、水素分圧を0.90MPa(ゲージ圧0.80MPaG)とした比較例2、比較例3、比較例5、及び比較例13においては、反応装置として東京理化器械株式会社製「パーソナル有機合成装置ChemiStationTM PPV-4460型」、反応管として190mL試験管を使用した。
【0141】
【0142】
【0143】
【0144】
【0145】
実施例及び比較例から、スラリー状態の反応液中で接触水素化反応及び/又は異性化反応を行うことにより、溶液状態の反応液中で接触水素化反応及び/又は異性化反応を行った場合よりも、全トランス体/シス含有体の比の高いヒドロキシシクロヘキサン化合物が得られることがわかる。
本製造方法により得られるトランスリッチ-ヒドロキシシクロヘキサン化合物は、医薬品、医療用材料、農薬、及びエンジニアリングプラスチック等の合成材料の中間体;溶剤;及び香料;等に利用することができ、特に、ガラス転移温度、衝撃強度、耐候性、及び加水分解安定性に優れた高品質のポリエステル及びポリカーボネート等の原料として好適である。