(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100748
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】バッテリの電気化学モデルを用いたバッテリ異常の診断方法及び装置
(51)【国際特許分類】
G01R 31/367 20190101AFI20240719BHJP
G01R 31/382 20190101ALI20240719BHJP
G01R 31/385 20190101ALI20240719BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20240719BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
G01R31/367
G01R31/382
G01R31/385
H01M10/48 301
H01M10/48 P
H02J7/00 Y
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024003938
(22)【出願日】2024-01-15
(31)【優先権主張番号】10-2023-0006306
(32)【優先日】2023-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】590002817
【氏名又は名称】三星エスディアイ株式会社
【氏名又は名称原語表記】SAMSUNG SDI Co., LTD.
【住所又は居所原語表記】150-20 Gongse-ro,Giheung-gu,Yongin-si, Gyeonggi-do, 446-902 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】田 昌潤
(72)【発明者】
【氏名】金 和洙
【テーマコード(参考)】
2G216
5G503
5H030
【Fターム(参考)】
2G216BA01
2G216BB01
2G216CB11
5G503AA01
5G503BA01
5G503BB02
5G503CA11
5G503EA05
5G503EA08
5G503GD03
5G503GD04
5G503GD06
5H030AA10
5H030AS08
5H030FF22
5H030FF41
5H030FF42
5H030FF43
5H030FF44
5H030FF52
(57)【要約】
【課題】バッテリの少なくとも一つのパラメータを測定することで生成されるデータに基づいて、バッテリの内部状態を推定するプロセッサを用いて、バッテリの異常を診断する方法を提供する。
【解決手段】少なくとも一つのパラメータを獲得するステップ、及び少なくとも一つのパラメータに基づいて、バッテリの正極電極及び負極電極についての単一粒子モデルに基づいて算出された電気化学モデルを用いて、バッテリの塩析出を診断するステップを含み、電気化学モデルは、バッテリの正極電極及び負極電極のリチウムイオンの拡散差に鑑みて正極電極及び負極電極の内部リチウムイオン濃度を計算し、正極電極及び負極電極の間の内部リチウムイオン濃度の差を用いて、バッテリの内部状態を推定するモデルである、バッテリ異常の診断方法。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリの少なくとも一つのパラメータを測定することで生成されるデータに基づいて、バッテリの内部状態を推定するプロセッサを用いて、バッテリの異常を診断する方法において、
前記少なくとも一つのパラメータを獲得するステップと、
前記少なくとも一つのパラメータに基づいて、前記バッテリの正極電極及び負極電極についての単一粒子モデルに基づいて算出された電気化学モデルを用いて、前記バッテリの塩析出を診断するステップと、を含み、
前記電気化学モデルは、前記バッテリの正極電極及び負極電極のリチウムイオンの拡散差に鑑みて、前記正極電極及び負極電極の内部リチウムイオン濃度を計算し、前記正極電極及び負極電極の間の内部リチウムイオン濃度の差を用いて、前記バッテリの内部状態を推定するモデルである、バッテリ異常の診断方法。
【請求項2】
前記バッテリの塩析出を診断するステップは、
前記バッテリの負極電極と分離膜との間の電解質の電位を推定するステップと、
前記バッテリの負極電極の電位を推定するステップと、
前記電解質の電位及び前記負極電極の電位を用いて、前記バッテリの負極電極と分離膜との間の過電位の値を算出し、前記過電位の値に基づいて前記バッテリの塩析出を診断するステップと、を含む請求項1に記載のバッテリ異常の診断方法。
【請求項3】
前記バッテリの負極電極と分離膜との間の電解質の電位を推定するステップは、前記電気化学モデルに基づいて、前記バッテリの正極電極と負極電極との間の拡散差によって発生する内部リチウムイオンの濃度差を用いて、前記電解質の電位を推定するステップを含む請求項2に記載のバッテリ異常の診断方法。
【請求項4】
前記電気化学モデルは、前記バッテリの正極電極及び負極電極についての前記単一粒子モデルを、それぞれ複数の層を持つ球に離散化して、前記バッテリの正極電極及び負極電極の内部リチウムイオン濃度を計算するモデルであり、
前記電気化学モデルは、前記バッテリの正極電極及び負極電極の濃度分布による拡散係数を用いて、前記バッテリの正極電極及び負極電極の内部リチウムイオン濃度を計算するモデルであり、
前記拡散係数は、前記バッテリの正極電極及び負極電極の前記単一粒子モデルの前記複数の層において、各層の濃度及び温度によって定められる、請求項1に記載のバッテリ異常の診断方法。
【請求項5】
前記電気化学モデルは、前記バッテリの測定電圧と前記バッテリの開放電圧との差である過電位の値に基づいて、バッテリの電圧を推定するモデルである、請求項4に記載のバッテリ異常の診断方法。
【請求項6】
前記電気化学モデルは、前記バッテリの正極電極及び負極電極の前記単一粒子モデルの前記複数の層において、最外郭層のリチウムイオン濃度に関する情報、前記バッテリの正極電極及び負極電極の平均リチウムイオン濃度に関する情報、及び前記バッテリの電圧降下情報を用いて予測過電位の値を算出し、
前記予測過電位の値と既定の過電位比例係数を用いて、前記過電位の値を算出するモデルである、請求項5に記載のバッテリ異常の診断方法。
【請求項7】
前記既定の過電位比例係数は、前記予測過電位の値と前記過電位の値との関係を、バトラー・ボルマー式でカーブ・フィッティングを用いて模写する実験値である、請求項6に記載のバッテリ異常の診断方法。
【請求項8】
コンピュータ装置を用いて請求項1ないし7のうちいずれか一つの方法を実行させるために、記録媒体に保存されているコンピュータプログラム。
【請求項9】
バッテリの少なくとも一つのパラメータを測定することで生成されるデータを保存するメモリと、
前記少なくとも一つのパラメータに基づいて、前記バッテリの正極電極及び負極電極についての単一粒子モデルに基づいて算出された電気化学モデルを用いて、前記バッテリの塩析出を診断するプロセッサと、を備え、
前記電気化学モデルは、前記バッテリの正極電極及び負極電極のリチウムイオンの拡散差に鑑みて、前記正極電極及び負極電極の内部リチウムイオン濃度を計算し、前記正極電極及び負極電極の間の内部リチウムイオン濃度の差を用いて、前記バッテリの内部状態を推定するモデルである、バッテリ異常の診断装置。
【請求項10】
前記プロセッサは、前記バッテリの負極電極と分離膜との間の電解質の電位を推定し、
前記バッテリの負極電極の電位を推定し、前記電解質の電位及び前記負極電極の電位を用いて、前記バッテリの負極電極と分離膜との間の過電位の値を算出し、前記過電位の値に基づいて前記バッテリの塩析出を診断する、請求項9に記載のバッテリ異常の診断装置。
【請求項11】
前記プロセッサは、前記電気化学モデルに基づいて、前記バッテリの正極電極と負極電極との間の拡散差によって発生する内部リチウムイオン濃度差を用いて、前記電解質の電位を推定する、請求項10に記載のバッテリ異常の診断装置。
【請求項12】
前記電気化学モデルは、前記バッテリの正極電極及び負極電極についての前記単一粒子モデルを、それぞれ複数の層を持つ球に離散化して、前記バッテリの正極電極及び負極電極の内部リチウムイオン濃度を計算するモデルであり、
前記電気化学モデルは、前記バッテリの正極電極及び負極電極の濃度分布による拡散係数を用いて、前記バッテリの正極電極及び負極電極の内部リチウムイオン濃度を計算するモデルであり、
前記拡散係数は、前記バッテリの正極電極及び負極電極の前記単一粒子モデルの前記複数の層において、各層の濃度及び温度によって定められる、請求項9に記載のバッテリ異常の診断装置。
【請求項13】
前記電気化学モデルは、前記バッテリの測定電圧と前記バッテリの開放電圧との差である過電位の値に基づいて、バッテリの電圧を推定するモデルである、請求項12に記載のバッテリ異常の診断装置。
【請求項14】
前記電気化学モデルは、前記バッテリの正極電極及び負極電極の前記単一粒子モデルの前記複数の層において、最外郭層のリチウムイオン濃度に関する情報、前記バッテリの正極電極及び負極電極の平均リチウムイオン濃度に関する情報、及び前記バッテリの電圧降下情報を用いて予測過電位の値を算出し、
前記予測過電位の値と既定の過電位比例係数を用いて、前記過電位の値を算出するモデルである、請求項13に記載のバッテリ異常の診断装置。
【請求項15】
前記既定の過電位比例係数は、前記予測過電位の値と前記過電位の値との関係を、バトラー・ボルマー式でカーブ・フィッティングを用いて模擬する実験値である、請求項14に記載のバッテリ異常の診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッテリの電気化学モデルを用いたバッテリ異常の診断方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
バッテリの内部状態の推定は、バッテリ管理及び制御において最も重要な考慮事項のうち一つである。例えば、充電状態(SOC:State Of Charge)、健康状態(SOH:State Of Health)及び出力状態(State Of Power)などに関する推定は、バッテリの性能をリアルタイムで監視および維持するために非常に重要である。
【0003】
バッテリの内部状態の推定において、リチウムイオン二次電池を数値的にモデル化して、リチウムイオン二次電池で生じる移動現象を定量的かつ理論的な方式で理解しようとする試みがあった。また、最近は、バッテリ研究において、SPM(single particle model)のような電気化学モデルが用いられている。
【0004】
バッテリのリチウム析出現象は、可用リチウムの量を低減させてバッテリの寿命を短くするか、リチウム・デンドライトの生成によって内部短絡(internal short circuit)を発生させる恐れがある。低温では、特に、電解質のイオン伝導度が低くなってリチウムイオンの電解質拡散が遅くなり、リチウムイオンの負極活物質の内部拡散も遅くなる。このように、リチウムイオンの拡散が遅くなって、電解質のリチウムイオンが負極に拡散されない場合、リチウムが析出される可能性が高くなる。これらの問題は、バッテリが老化するにつれてさらに大きく現われる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、バッテリの電気化学モデルを用いたバッテリ異常の診断方法及び装置を提供することである。しかし、このような課題は、例示的なものであり、これによって本発明の範囲が限定されるものではない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述した技術的課題を解決するための技術的手段として、バッテリの少なくとも一つのパラメータを測定することで生成されるデータに基づいて、バッテリの内部状態を推定するプロセッサを用いて、バッテリの異常を診断する方法において、前記少なくとも一つのパラメータを獲得するステップ、及び前記少なくとも一つのパラメータに基づいて、前記バッテリの正極電極及び負極電極についての単一粒子モデルに基づいて算出された電気化学モデルを用いて、前記バッテリの塩析出を診断するステップを含み、前記電気化学モデルは、前記バッテリの正極電極及び負極電極のリチウムイオンの拡散差に鑑みて前記正極電極及び負極電極の内部リチウムイオン濃度を計算し、前記正極電極及び負極電極の間の内部リチウムイオン濃度の差を用いて、前記バッテリの内部状態を推定するモデルである、バッテリ異常の診断方法が提供される。
【0007】
一例によれば、前記バッテリの塩析出を診断するステップは、前記バッテリの負極電極と分離膜との間の電解質の電位を推定するステップ、前記バッテリの負極電極の電位を推定するステップ、並びに前記電解質の電位及び前記負極電極の電位を用いて前記バッテリの負極電極と分離膜との間の過電位の値を算出し、前記過電位の値に基づいて前記バッテリの塩析出を診断するステップを含む。
【0008】
他の例によれば、前記バッテリの負極電極と分離膜との間の電解質の電位を推定するステップは、前記電気化学モデルに基づいて、前記バッテリの正極電極と負極電極との間の拡散差によって発生する内部リチウムイオンの濃度差を用いて、前記電解質の電位を推定するステップを含む。
【0009】
さらに他の例によれば、前記電気化学モデルは、前記バッテリの正極電極及び負極電極についての前記単一粒子モデルを、それぞれ複数の層を持つ球に離散化して、前記バッテリの正極電極及び負極電極の内部リチウムイオン濃度を計算するモデルであり、前記電気化学モデルは、前記バッテリの正極電極及び負極電極の濃度分布による拡散係数を用いて、前記バッテリの正極電極及び負極電極の内部リチウムイオン濃度を計算するモデルであり、前記拡散係数は、前記バッテリの正極電極及び負極電極の前記単一粒子モデルの前記複数の層において、各層の濃度及び温度によって定められる。
【0010】
さらに他の例によれば、前記電気化学モデルは、前記バッテリの測定電圧と前記バッテリの開放電圧との差である過電位の値に基づいて、バッテリの電圧を推定するモデルである。
【0011】
さらに他の例によれば、前記電気化学モデルは、前記バッテリの正極電極及び負極電極の前記単一粒子モデルの前記複数の層において、最外郭層のリチウムイオン濃度に関する情報、前記バッテリの正極電極及び負極電極の平均リチウムイオン濃度に関する情報、及び前記バッテリの電圧降下情報を用いて予測過電位の値を算出し、前記予測過電位の値と既定の過電位比例係数を用いて、前記過電位の値を算出するモデルである。
【0012】
さらに他の例によれば、前記既定の過電位比例係数は、前記予測過電位の値と前記過電位の値との関係を、バトラー・ボルマー式(Butler Volmer equation)でカーブ・フィッティングを用いて模写する実験値である。
【0013】
前述した技術的課題を解決するための技術的手段として、コンピュータ装置を用いて前述した方法を実行させるために、記録媒体に保存されているコンピュータプログラムが提供される。
【0014】
前述した技術的課題を解決するための技術的手段として、本発明の一側面によるバッテリ異常の診断装置は、バッテリの少なくとも一つのパラメータを測定することで生成されるデータを保存するメモリ、及び前記少なくとも一つのパラメータに基づいて、前記バッテリの正極電極及び負極電極についての単一粒子モデルに基づいて算出された電気化学モデルを用いて、前記バッテリの塩析出を診断するプロセッサを備え、前記電気化学モデルは、前記バッテリの正極電極及び負極電極のリチウムイオンの拡散差に鑑みて、前記正極電極及び負極電極の内部リチウムイオン濃度を計算し、前記正極電極及び負極電極の間の内部リチウムイオン濃度の差を用いて、前記バッテリの内部状態を推定するモデルである。
【0015】
一例によれば、前記プロセッサは、前記バッテリの負極電極と分離膜との間の電解質の電位を推定し、前記バッテリの負極電極の電位を推定し、前記電解質の電位及び前記負極電極の電位を用いて、前記バッテリの負極電極と分離膜との間の過電位の値を算出し、前記過電位の値に基づいて前記バッテリの塩析出を診断する。
【0016】
他の例によれば、前記プロセッサは、前記電気化学モデルに基づいて、前記バッテリの正極電極と負極電極との間の拡散差によって発生する内部リチウムイオン濃度差を用いて、前記電解質の電位を推定する。
【0017】
さらに他の例によれば、前記電気化学モデルは、前記バッテリの正極電極及び負極電極についての前記単一粒子モデルを、それぞれ複数の層を持つ球に離散化して、前記バッテリの正極電極及び負極電極の内部リチウムイオン濃度を計算するモデルであり、前記電気化学モデルは、前記バッテリの正極電極及び負極電極の濃度分布による拡散係数を用いて、前記バッテリの正極電極及び負極電極の内部リチウムイオン濃度を計算するモデルであり、前記拡散係数は、前記バッテリの正極電極及び負極電極の前記単一粒子モデルの前記複数の層において、各層の濃度及び温度によって定められる。
【0018】
さらに他の例によれば、前記電気化学モデルは、前記バッテリの測定電圧と前記バッテリの開放電圧との差である過電位の値に基づいて、バッテリの電圧を推定するモデルである。
【0019】
さらに他の例によれば、前記電気化学モデルは、前記バッテリの正極電極及び負極電極の前記単一粒子モデルの前記複数の層において、最外角層のリチウムイオン濃度に関する情報、前記バッテリの正極電極及び負極電極の平均リチウムイオン濃度に関する情報、及び前記バッテリの電圧降下情報を用いて予測過電位の値を算出し、前記予測過電位の値と既定の過電位比例係数を用いて、前記過電位の値を算出するモデルである。
【0020】
さらに他の例によれば、前記既定の過電位比例係数は、前記予測過電位の値及び前記過電位の値の間の関係を、バトラー・ボルマー式でカーブ・フィッティングを用いて模写する実験値である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、バッテリの正極と負極の活物質を一つの球体で表現した単一粒子モデル(single particle model、SPM)に基づいて、既存の短所であった、電流の大きい領域で、電解質のリチウムイオン濃度によって生じるセル電圧模写の限界を克服しながら、バッテリの異常を診断することができる。このような効果によって本発明の範囲が限定されるものではないということは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施形態によるバッテリパックを概略的に示す図面である。
【
図2】本発明の一実施形態によるバッテリの単一粒子モデル(single particle model、SPM)を説明するための例示的な図面である。
【
図3】本発明の一実施形態によるバッテリのリチウムイオン濃度の変化を説明するための図面である。
【
図4】本発明の一実施形態によるバッテリの単一粒子モデルを離散化する方法を説明するための図面である。
【
図5】本発明の一実施形態によるバトラー・ボルマー式を説明するための図面である。
【
図6】本発明の一実施形態によるバッテリ内部状態の推定方法を説明するためのフローチャートである。
【
図7】本発明の他の実施形態によるバッテリのリチウムイオン濃度の変化を説明するための図面である。
【
図8】本発明の一実施形態によるバッテリの塩析出診断方法を説明するための図面である。
【
図9】本発明の一実施形態による負極電極の電位を推定する方法を説明するための図面である。
【
図10】本発明の一実施形態による塩析出診断方法の効果を説明するための図面である。
【
図11】本発明の一実施形態によるバッテリ異常の診断方法を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付した図面を参照して当業者が容易に実施することができるように多様な実施形態を詳細に説明する。しかし、本発明の技術的思想は、多様な形態に変形されて具現されうるために、本明細書で説明する実施形態に制限されない。本明細書に開示された実施形態を説明するに際して、関連する公知技術を具体的に説明することが、本発明の技術的思想の要旨を不明瞭にすると判断される場合、その公知技術の具体的な説明は省略する。同一または類似した構成要素には同じ参照番号を付し、これについての重なる説明を省略する。
【0024】
本明細書で、ある要素が他の要素と「連結」されていると記述される時、これは「直接連結」されている場合だけではなく、その間に他の要素を介して「間接的に連結」されている場合も含む。ある要素が他の要素を「含む」という時、これは、特に反対の記載がない限り、他の要素以外にさらに他の要素を排除するものではなく、さらに他の要素をさらに備えるということを意味する。
【0025】
一部の実施形態は、機能的なブロック構成及び多様な処理ステップによって説明される。これらの機能ブロックの一部または全部は、特定機能を行う多様な数のハードウェア及び/またはソフトウェア構成で具現される。例えば、本発明の機能ブロックは、一つ以上のマイクロ・プロセッサによって具現されるか、所定の機能のための回路構成によって具現される。本発明の機能ブロックは、多様なプログラミングまたはスクリプト言語で具現される。本発明の機能ブロックは、一つ以上のプロセッサで実行されるアルゴリズムで具現される。本発明の機能ブロックの行う機能は、複数の機能ブロックによって行われるか、本発明で複数の機能ブロックの行う機能は、一つの機能ブロックによって行われることもある。また、本発明は、電子的な環境設定、信号処理、及び/またはデータ処理などのために、従来技術を採用してもよい。
【0026】
図1は、本発明の一実施形態によるバッテリパックを概略的に示す図面である。
【0027】
図1を参照すれば、バッテリパック100は、バッテリ110、プロセッサ150、メモリ160、電圧測定部120、電流測定部130、及び温度測定部140を備える。
【0028】
バッテリ110は、少なくとも一つのバッテリセルを備え、バッテリ110は、充電可能な二次電池であってもよい。例えば、バッテリ110は、リチウム-イオン電池を備える。
【0029】
バッテリ110に含まれるバッテリセルの数及び連結方式は、バッテリパック100に要求される電力量及び電圧などに基づいて定められる。例えば、バッテリセルは、互いに並列に連結されるか、直列及び並列に連結される。
図1には、単なる概念的な目的のために、バッテリパック100が一つのバッテリ110を備えると示されるが、直列、並列または直列と並列に連結される複数のバッテリ110を備えてもよい。バッテリ110は、ただ一つのバッテリセルを備えてもよい。
【0030】
バッテリ110は、それぞれ複数のバッテリセルで構成される複数のバッテリモジュールを備える。また、バッテリパック100は、電気負荷または充電装置が連結され得る一対のパック端子101及び102を備える。
【0031】
本明細書で、バッテリの内部状態を推定する対象として、バッテリは、バッテリ110であってもよく、バッテリ110に含まれる少なくとも一つのバッテリセルそれぞれであってもよい。本明細書では、一つのバッテリの内部状態を推定する方法について説明するが、バッテリ110に含まれる複数のバッテリセルそれぞれの内部状態を推定する方法にも同一に適用される。
【0032】
本発明の一実施形態によるバッテリパックは、スイッチを備える。スイッチは、バッテリ110とパック端子101及び102のうち一つ(例えば、101)との間に連結される。スイッチは、プロセッサ150によって制御される。
図1には示されてはいないが、バッテリパック100は、バッテリ保護回路、ヒューズ、電流センサなどをさらに備える。
【0033】
本発明の一実施形態によるバッテリの内部状態を推定する装置は、プロセッサ150及びメモリ160を備える。
【0034】
プロセッサ150は、バッテリの内部状態を推定する装置の全般的な動作を制御する。例えば、プロセッサ150は、前述した動作を行うために、当業界で周知のプロセッサ、ASIC(Application-Specific Integrated Circuit)、他のチップセット、論理回路、レジスタ、通信モデム及び/またはデータ処理装置などを選択的に備える形態に具現される。
【0035】
プロセッサ150は、基本的な算術、ロジック及び入出力演算を行い、例えば、メモリ160に保存されているプログラムコードを実行する。プロセッサ150は、データをメモリ160に保存するか、メモリ160に保存されているデータをローディングする。
【0036】
メモリ160は、プロセッサ150が読み取り可能な記録媒体であって、RAM、ROM及びディスクドライブのような永久大容量記録装置(permanent mass storage device)でもある。メモリ160には、オペレーティング・システムと、少なくとも一つのプログラムまたはアプリケーションコードが格納される。メモリ160には、本発明の一実施形態によって、バッテリの内部状態を推定するためのプログラムコードが保存される。例えば、メモリ160には、バッテリ110の少なくとも一つのパラメータを測定することで生成されるデータが保存される。また、メモリ160には、バッテリ110の固有容量が保存される。また、メモリ160には、バッテリ110のSOC-OCV(Open Circuit Voltage)データが保存されてもよい。例えば、前記データは、バッテリの充放電電流、端子電圧及び/または温度を含む。また、前記データは、バッテリの放電率を含む。メモリ160には、バッテリ110の少なくとも一つのパラメータを測定することで生成されるデータを用いて、バッテリのSOCを推定するためのプログラムコード、SOC-OCVデータが保存される。バッテリ110の少なくとも一つのパラメータは、バッテリ110の端子電圧、充放電電流、及び/または周辺温度のような要素または変数を意味する。
【0037】
バッテリの内部状態を推定する装置は、バッテリ110の少なくとも一つのパラメータを測定するための電圧測定部120、電流測定部130、及び温度測定部140をさらに備える。バッテリの内部状態を推定する装置は、車両の電子制御装置、充電装置のコントローラなどの他の装置と通信するための通信モジュールをさらに備えてもよい。
【0038】
電圧測定部120は、バッテリ110の電圧を測定するように構成される。例えば、
図1の構成に示されたように、電圧測定部120は、バッテリ110の両端と電気的に連結される。また、電圧測定部120は、電気的信号を送受信するように、プロセッサ150と電気的に連結される。また、電圧測定部120は、プロセッサ150の統制下で、時間間隔を置いてバッテリ110の両端電圧を測定し、測定された電圧のサイズを示す信号をプロセッサ150に出力する。この時、プロセッサ150は、電圧測定部120から出力される信号からバッテリ110の電圧を定める。例えば、電圧測定部120は、当業界で一般的に使われる電圧測定回路を用いて具現される。
【0039】
また、電流測定部130は、バッテリの電流を測定するように構成されてもよい。例えば、
図1の構成に示されたように、電流測定部130は、バッテリ110の充放電経路上に備えられている電流センサと電気的に連結される。また、電流測定部130は、電気的信号を送受信するようにプロセッサ150と電気的に連結される。また、電流測定部130は、プロセッサ150の統制下で、時間間隔を置いてバッテリ110の充電電流または放電電流のサイズを繰り返して測定し、測定された電流のサイズを示す信号をプロセッサ150に出力する。この時、プロセッサ150は、電流測定部130から出力される信号から、電流のサイズを定める。例えば、電流センサは、当業界で一般的に使われるホールセンサまたはセンス抵抗を用いて具現される。
【0040】
温度測定部140は、バッテリの温度を測定するように構成されてもよい。例えば、
図1の構成に示されたように、温度測定部140は、バッテリ110と連結されて、バッテリ110に備えられている二次電池の温度を測定する。また、温度測定部140は、電気的信号を送受信するようにプロセッサ150と電気的に連結される。また、温度測定部140は、時間間隔を置いて二次電池の温度を繰り返して測定し、測定された温度のサイズを示す信号をプロセッサ150に出力する。この時、プロセッサ150は、温度測定部140から出力される信号から、二次電池の温度を定める。例えば、温度測定部140は、当業界で一般的に使われる熱電対を用いて具現される。
【0041】
また、プロセッサ150は、電圧測定部120、電流測定部130、及び温度測定部140から受信したバッテリ110についての電圧測定値、電流測定値及び温度測定値のうち少なくとも一つ以上を用いて、バッテリ110の内部状態を推定する。例えば、プロセッサ150は、バッテリ110の充電状態(SOC:State Of Charge)を推定する。ここで、SOCは、0%ないし100%範囲でバッテリ110の残存量に対応する数値で算出される。
【0042】
本発明の一側面で、プロセッサ150は、バッテリ110の充放電電流を積算してバッテリ110のSOCを推定する。ここで、バッテリ110の充電または放電が始まる時、充電状態の初期値は、充電または放電が始まる前に測定したバッテリ110の開放電圧(OCV:Open Circuit Voltage)を用いて定めることができる。このために、プロセッサ150は、開放電圧別に充電状態を定義したSOC-OCVデータに基づいて、SOC-OCVデータからバッテリ110の開放電圧に対応する充電状態をマッピングする。
【0043】
本発明の他の側面で、プロセッサ150は、拡張カルマンフィルタを用いてバッテリ110のSOCを推定する。拡張カルマンフィルタとは、二次電池の電圧、電流及び温度を用いて、二次電池の充電状態を適応的に推定する数学的アルゴリズムをいう。
【0044】
バッテリ110のSOCは、前述した電流積算法または拡張カルマンフィルタ以外にも、二次電池の電圧、電流及び温度を選択的に活用して充電状態を推定することができる他の公知の方法によっても定められる。
【0045】
図2は、本発明の一実施形態によるバッテリの単一粒子モデル(single particle model、SPM)を説明するための例示的な図面である。また、
図3は、本発明の一実施形態によるバッテリのリチウムイオン濃度の変化を説明するための図面である。
【0046】
図2及び
図3を参照すれば、バッテリの負極は、バッテリ充電時にリチウムイオンがインターカレートされて、最外郭から濃度が上昇し、逆に、正極は、リチウムイオンが抜け出ながら最外郭から濃度が低くなる。ここで、バッテリの単一粒子モデルの正極及び負極に印加される電流情報(boundary condition)は等しいため、単一粒子モデルの内部の正極から抜け出たリチウムイオンの量と、負極の内部に入ったリチウムイオンの量は同じである。
【0047】
また、バッテリの負極の充電されたリチウムイオンの濃度を、単一粒子モデルに入ることができる最大濃度であるC
s,maxで除して正規化すれば、SOCになる。但し、バッテリの正極からはリチウムイオンが抜け出るため、SOCが高くなるほど濃度が低くなる形で模擬されねばならないが、
図3に示されたように、本発明では、バッテリの正極でも、リチウムイオンが抜け出る量を基準として定義して、充電が多くなされるほど、抜け出るリチウムイオン量が多くなると見なすことができるため、負極と同一に見ることができる。すなわち、バッテリの負極では、濃度の増加量を基準として定義し、バッテリの正極では、濃度減少量を基準としてC
sを定義することができる。ここで、C
sは、リチウムイオン濃度を示し、C
s,pは、正極電極リチウムイオン濃度を示し、C
s,nは、負極電極リチウムイオン濃度を示す。
【0048】
例えば、バッテリの正極はLiCoO
2、バッテリの負極はCからなるバッテリを仮定する場合、充電時にSOCが0%から100%になる時、負極では、Li
xC
6がx=0からx=1に大きくなり、バッテリの正極では、Li
yCoO
2のy=1からy=0に減少する。本発明の単一粒子モデルでは、電解液のリチウムイオン濃度を考慮しないため、正極と負極のリチウムイオン濃度の総和は保存されるため、y=1-xで示すことができる。よって、x側面で正極と負極を展開すれば、同じ数式において、正負極の拡散差のみを考慮すればよい。また、単一粒子モデルで使う球体構造内の平均濃度を計算すれば、正極と負極に印加される電流が等しいため、平均値である
【数1】
と
【数2】
の値はSOCと等しい。ここで、
【数3】
は、正極電極の平均リチウム濃度(mol m
-3)を示し、
【数4】
は、負極電極の平均リチウム濃度を示す。
【0049】
また、バッテリの正極と負極それぞれの拡散程度は相異なるため、多様なSOC、温度によって拡散差が大きくなって、セル電圧や単一粒子の内部濃度の勾配差が示され、これを拡張して用いれば、アノードセパレータ部位の電解質の濃度や電位を予測するときに使うことができる。
【0050】
図4は、本発明の一実施形態によるバッテリの単一粒子モデルを離散化する方法を説明するための図面である。
【0051】
図4を参照すれば、本発明の一実施形態によるバッテリの正極電極及び負極電極についての単一粒子モデルについて、複数の層を持つ球で離散化された図面が示されている。
【0052】
【0053】
【0054】
ここで、Cs,pは、正極電極リチウムイオン濃度(mol m-3)を示し、Cs,nは、負極電極リチウムイオン濃度(mol m-3)を示す。また、Ds,pは、正極電極粒子の拡散係数(m2s-1)を示し、Ds,nは、負極電極粒子の拡散係数(m2s-1)を示す。
【0055】
例えば、
図4に示されたように、C
s,pC
s,nそれぞれについて前記数式1と数式2の数式を展開して、バッテリの内部状態を推定する時、バッテリの単一粒子モデルは、N個の層を持つ球に分けられ、それぞれ下記の数式3ないし数式7のように離散化される。具体的に、数式1及び2が数式3のように離散化され、数式3を解くためには、層の両端での電流情報を確認せねばならない。また、第1層では、さらに奥に拡散が展開されることができないため、数式4のように、第N層(最外郭層)での球外部の電流情報によって濃度が変わるため、数式5のように表記することができる。すなわち、外部から入ってくる電流と容量との関係によって数式6の関係が影響を及ぼすため、数式6を数式5に代入すれば、数式7で表現される。
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
ここで、Iは、バッテリ電流(A)を示し、Rは、電極粒子の半径(m)を示し、Aは、電極の面積(m2)、δは、電極の厚さ(m)、Fは、ファラデー定数、εは、活物質の体積分率を示す。
【0062】
前記数式1及び数式2の数式は、数式3ないし数式7のように離散化して、正極及び負極それぞれについて数式が展開される。また、Ds,rkは、正極と負極の濃度分布による拡散係数であり、該位置の濃度と温度によって定められる値である。
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
ここで、R
oは、抵抗(Ohm)を示し、Tは、バッテリの温度(℃またはK)を示し、OCPは、開放電位を示し、OCP
pは、正極電極のOCP、OCP
nは、負極電極のOCPを示し、C
s,p,surfaceは、正極最外角層のリチウム濃度(mol m
-3)、C
s,n,surfaceは、負極最外郭層のリチウム濃度を示す。また、
【数16】
は、正極電極の平均リチウム濃度
【数17】
を示し、
【数18】
は、負極電極の平均リチウム濃度(mol m
-3)を示す。また、K
Rは、過電位(overpotential)の比例係数を示す。
【0068】
ηは、過電位を示す。過電位は、前記数式8において、セル電圧(V)と開放電圧(OCV)との差であり、数式8に数式9を代入すれば、セル電圧を予測することができる。しかし、本発明による電気化学モデルで計算された予測過電位の値(priori overpotential、η
-)は、実際過電位の値(η)と差が発生するが、その理由は、バトラー・ボルマー関係のためである。例えば、
図5を共に参照すれば、バトラー・ボルマー関係が示されている。
【0069】
本発明では、本発明による電気化学モデルで計算された、前記数式10及び数式8で実際に測定されたセル電圧とOCVとの差を用いて、バトラー・ボルマー関係を模写することができる数式11の形態に、予測過電位の値(η-)と実際過電位の値(η)との関係を一般化した。例えば、過電位比例係数KRは、実験を通じて導出された実験値であり、カーブ・フィッティングを用いた一例である。本発明によれば、予測過電位の値(η-)と実際過電位の値(η)との関係を用いて、電流密度と過電位との繰り返し(iteration)なしに関係を導出することができる。
【0070】
前記数式10は、バッテリの正極電極及び負極電極の最外郭濃度と、正極電極及び負極電極の平均リチウム濃度情報、電圧降下(IR drop)情報を用いて導出され、前記数式8で測定された電圧(V)と、正極電極及び負極電極の平均リチウム濃度情報をOCPに変形して、実際過電位の値(η)の間の関係と前記数式11のように、カーブ・フィッティングを通じて導出される。
【0071】
数式8ないし数式11において、下記の数式12を参照すれば、正極OCPと負極OCPのSOCを差し引けば、意味的にSOCによるOCVが導出される。
【0072】
【0073】
ここで、
【数20】
は、正極から抜け出た平均リチウムイオン濃度/最大濃度であるため、正極のSOCを示す。また、
【数21】
は、負極に入ってきた平均リチウムイオン濃度/最大濃度であるため、負極のSOCを示す。また、SOC
p=SOC
n=SOCで正極と負極はいずれも単一粒子であるため、正極及び負極のSOCは等しい。
【0074】
数式8で、η(過電位(Overpotential))は、測定したセル電圧(V)と安定化された時の電圧(OCV)との差と定義すれば、過電位は、測定したセル電圧(V)からOCVを引いて求めることができ、この過電位と数式10の予測過電位の値(priorioverpotential、η-)との関係を、実験を通じてグラフで示して、バトラー・ボルマー式を模写するようにカーブ・フィッティングを実行すれば、数式12のような数式とKR(過電位比例係数)が算出される。例えば、過電位比例係数は、シグモイド関数、ロジスティック関数、双曲線正接、アークタンジェント、対数関数などを用いて算出されてもよい。
【0075】
図6は、本発明の一実施形態によるバッテリ内部状態の推定方法を説明するためのフローチャートである。本発明の一実施形態によるバッテリの内部状態を推定する方法は、
図1に示されたプロセッサ150によって行われる。ここで、プロセッサ150は、バッテリの少なくとも一つのパラメータに基づいて、バッテリの正極電極及び負極電極についての単一粒子モデルに基づいて算出された電気化学モデルを用いて、バッテリの内部状態を推定することができる。
【0076】
図6を参照すれば、ステップS110で、プロセッサ150は、バッテリの少なくとも一つのパラメータを獲得する。例えば、本発明の一実施形態による少なくとも一つのパラメータは、バッテリの電圧、電流及び温度を含む。
【0077】
ステップS120で、プロセッサ150は、バッテリの少なくとも一つのパラメータに基づいて、バッテリの正極電極及び負極電極についての単一粒子モデルに基づいて算出された電気化学モデルを用いて、バッテリの内部状態を推定する。
【0078】
本発明の一実施形態による電気化学モデルは、バッテリの正極電極及び負極電極のリチウムイオンの拡散差に鑑みて、正極電極及び負極電極の内部リチウムイオン濃度を計算し、正極電極及び負極電極の間の内部リチウムイオン濃度の差を用いて、バッテリの内部状態を推定するモデルでもある。
【0079】
また、本発明の一実施形態による電気化学モデルは、バッテリの正極電極及び負極電極についての単一粒子モデルを、それぞれ複数の層を持つ球に離散化して、バッテリの正極電極及び負極電極の内部リチウムイオン濃度を計算するモデルでもある。
【0080】
また、本発明の一実施形態による電気化学モデルは、バッテリの正極電極及び負極電極の濃度分布による拡散係数を用いて、バッテリの正極電極及び負極電極の内部リチウムイオン濃度を計算するモデルでもある。
【0081】
本発明の一実施形態による拡散係数は、バッテリの正極電極及び負極電極の単一粒子モデルの複数の層において、各層の濃度及び温度によって定められる。
【0082】
また、本発明の一実施形態による電気化学モデルは、バッテリの測定電圧とバッテリの開放電圧との差である過電位の値に基づいて、バッテリの電圧を推定するモデルでもある。
【0083】
また、本発明の一実施形態による電気化学モデルは、バッテリの正極電極及び負極電極の単一粒子モデルの複数の層において、最外郭層のリチウムイオン濃度に関する情報、バッテリの正極電極及び負極電極の平均リチウムイオン濃度に関する情報、及びバッテリの電圧降下情報を用いて予測過電位の値を算出するモデルでもある。
【0084】
また、本発明の一実施形態による電気化学モデルは、予測過電位の値と既定の過電位比例係数を用いて過電位の値を算出するモデルでもある。
【0085】
また、本発明の一実施形態による既定の過電位比例係数は、予測過電位の値と過電位の値との関係を、バトラー・ボルマー式でカーブ・フィッティングを用いて模写する実験値であってもよい。
【0086】
本発明によれば、本発明によるバッテリモデルは、単一粒子状の電気化学モデルで、電解質(電解液)の拡散よりは、固体粒子(solid particle)の内部の拡散が主に影響を与える計算量を低減させたモデル(reduce order model)であり、パラメータは、正極と負極の拡散及び抵抗で表現される。
【0087】
また、本発明によるバッテリモデルは、等価モデルの場合にも、電気化学モデルの表面Li密度(surface Li-density)を計算することと類似した概念である表面SOC(surface SOC)を導出することができるモデルである。
【0088】
また、本発明によるバッテリモデルは、正極/負極間の拡散差に鑑みて、正極と負極の内部のLi密度情報を導出することができるモデルである。
【0089】
また、本発明によるバッテリモデルは、正極/負極の拡散差で発生する正極/負極の内部のLi密度分布、正極/負極の間のLi密度情報の差を用いて電解質の濃度、電位を予測し、これを通じて特定位置の電位を予測するモデル(例えば、アノードセパレータ部位のアノード電位)に拡張することができる。
【0090】
図7は、本発明の他の実施形態によるバッテリのリチウムイオン濃度の変化を説明するための図面であり、
図8は、本発明の一実施形態によるバッテリの塩析出診断方法を説明するための図面である。また、
図9は、本発明の一実施形態による負極電極の電位を推定する方法を説明するための図面である。
【0091】
塩析出条件は、電解質のリチウムイオンが、負極活物質である負極電極(anode)に入られなくなる時に起きるため、低温または充電電流が大きい場合に発生する可能性が高く、特に、負極電極と分離膜でその可能性がさらに高い。よって、負極電極-分離膜(anode-separator)の位置での電解質の電位と負極電極の電位を計算して、該位置の過電位の値が0以下に落ちないかを診断するロジックが必要である。例えば、
図8に示されたように、塩析出条件に該当するしきい値(例えば、過電位の値が0以上である)以下に過電位の値が落ちないように、バッテリの電流または電圧を制御して塩析出を防止することができる。これにより、塩析出による急激なセル老化を先制的に防止してセル内部の短絡を防止することができる。
【0092】
本発明による電気化学モデル基盤のSOCを使えば、正極と負極との間の拡散差によってSPM内部の勾配が変わり、このような内部勾配間の差を用いれば、電解質の電位を推定することができる。例えば、内部勾配間の差は、最外郭/最内郭のリチウム濃度差、正負極間の最外郭層のリチウム濃度差、正負極間のリチウム濃度の勾配差などを含む。
【0093】
また、負極活物質である負極電極の電位は、最外郭層のリチウム濃度と負極の抵抗を通じて、下記の数式15のように導出される。例えば、
図9を共に参照すれば、数式15では、ニューラルネットワークを用いて正負極のリチウムイオン濃度情報と、その情報の重み(weight)、バイアスを通じて、負極電極の電位を推定することができる。ここで、情報の重み及びバイアスは、実験を通じて導出して得た実験値である。
【0094】
【0095】
【0096】
【0097】
数式14で、ηan-sepは、バッテリの負極電極と分離膜との間の過電位の値を示す。ηan-sepは、負極電極と分離膜とが当接した位置でのアノード固体粒子(anode solid particle)の電位を意味し、該電位は、該位置の固体粒子の最外郭電位であるφs,nと、該位置の電解液電位であるφe,an-sepとの差と定められる。
【0098】
正極及び負極の電解液の電位も考えねばならないが、正極/負極の固体粒子の電位差に比べて差が大きくないと仮定すれば、セル電圧は、次の数式16のように仮定することができる。
【0099】
【0100】
すなわち、アノード粒子(anode particle)の最外郭電位はOCPn(Cs,n,surface/Cs,max)-I*Ro,nで表示することができるが、その理由は、正極から負極の電位を差し引いた値がセル電圧であるからである。ここで、電流の方向は、充電時に+、放電時に-で表現された。
【0101】
【0102】
但し、塩析出条件は、Li+/Li還元電位が0Vであるため(Li還元電位を、0Vを基準電位と設定)、前記数式17の条件では塩析出が起きる可能性がある。該塩析出条件が0V以下にならないようにバッテリを制御して、塩析出が起きないように防止することができる。
【0103】
但し、セルが3次元構造であり、モデル誤差がありうるため、塩析出条件電位Vth(しきい値電圧)を、実験を通じて導出して、バッテリ制御及び診断に使うことができる。この場合、数式18のように、塩析出条件は、しきい値Vth以下で塩析出が起きる可能性がある。
【0104】
【0105】
そうであるならば、モデルでは存在していない電解液の電位であるφe,an-sepを導出せねばならないが、この値は、正極と負極の濃度勾配の差を通じて関係式で導出することができる。(ここで、重み、バイアス係数は、実験を通じて導出される。)
【0106】
【0107】
図10は、本発明の一実施形態による塩析出診断方法の効果を説明するための図面である。
【0108】
図10を参照すれば、本発明による塩析出防止を適用したバッテリの容量サイクル数グラフ10と、塩析出防止を適用していないバッテリの容量サイクル数グラフ11が示されている。
【0109】
本発明による塩析出防止を適用する場合、塩析出が発生しないようにバッテリを制御して、セル内部の短絡及び急激なセル老化を防止して、バッテリの寿命が延びることが分かる。
【0110】
図11は、本発明の一実施形態によるバッテリ異常の診断方法を説明するためのフローチャートである。本発明の一実施形態によるバッテリ異常の診断方法は、
図1に示されたプロセッサ150によって行われる。ここで、プロセッサ150は、バッテリの少なくとも一つのパラメータに基づいて、バッテリの正極電極及び負極電極についての単一粒子モデルに基づいて算出された電気化学モデルを用いて、バッテリの塩析出を診断することができる。
【0111】
図11を参照すれば、ステップS210で、プロセッサ150は、バッテリの少なくとも一つのパラメータを獲得する。例えば、本発明の一実施形態による少なくとも一つのパラメータは、バッテリの電圧、電流及び温度を含む。
【0112】
ステップS220で、プロセッサ150は、バッテリの少なくとも一つのパラメータに基づいて、バッテリの正極電極及び負極電極についての単一粒子モデルに基づいて算出された電気化学モデルを用いて、バッテリの塩析出を診断することができる。
【0113】
本発明の一実施形態による電気化学モデルは、バッテリの正極電極及び負極電極のリチウムイオンの拡散差に鑑みて、正極電極及び負極電極の内部リチウムイオン濃度を計算し、正極電極及び負極電極の間の内部リチウムイオン濃度の差を用いて、バッテリの内部状態を推定するモデルでもある。
【0114】
本発明の一実施形態によるプロセッサ150は、バッテリの負極電極と分離膜との間の電解質の電位を推定する。また、プロセッサ150は、バッテリの負極電極の電位を推定する。また、プロセッサ150は、前記電解質の電位及び前記負極電極の電位を用いて、バッテリの負極電極と分離膜との間の過電位の値を算出し、前記過電位の値に基づいてバッテリの塩析出を診断する。
【0115】
また、プロセッサ150は、前記電気化学モデルに基づいて、バッテリの正極電極と負極電極との間の拡散差によって発生する内部リチウムイオンの濃度差を用いて、前記電解質の電位を推定する。
【0116】
以上、説明された多様な実施形態は例示的なものであり、互いに区別されて独立して実施されるべきものではない。本明細書で説明された実施形態は、互いに組み合わせられた形態で実施される。
【0117】
以上、説明された多様な実施形態は、コンピュータ上で多様な構成要素により実行されるコンピュータプログラムの形態で具現され、これらのコンピュータプログラムは、コンピュータで読み取り可能な媒体に記録される。この時、媒体は、コンピュータで実行可能なプログラムを保存し続けるか、実行またはダウンロードのために臨時保存するものであってもよい。また、媒体は、単一または複数のハードウェアが結合された形態の多様な記録手段または保存手段でありうるが、あるコンピュータシステムに直接接続される媒体に限定されず、ネットワーク上に分散存在するものであってもよい。媒体の例示としては、ハードディスク、プロッピィーディスク及び磁気テープのような磁気媒体、CD-ROM及びDVDのような光記録媒体、フロプティカルディスクなどの磁気-光媒体、及びROM、RAM、フラッシュメモリなどを含み、プログラム命令語が保存されるように構成されたものがある。また、他の媒体の例示として、アプリケーションを流通するアプリストアや、その他の多様なソフトウェアを供給ないし流通するサイト、サーバなどで管理する記録媒体ないし保存媒体も挙げられる。
【0118】
本明細書で、「部」、「モジュール」などは、プロセッサまたは回路などのハードウェア構成、及び/またはプロセッサなどのハードウェア構成によって実行されるソフトウェア構成でありうる。例えば、「部」、「モジュール」などは、ソフトウェア構成要素、客体志向ソフトウェア構成要素、クラス構成要素及びタスク構成要素などの構成要素と、プロセス、関数、属性、プロシージャ、サブルーチン、プログラムコードのセグメント、ドライバ、ファームウェア、マイクロコード、回路、データ、データベース、データ構造、テーブル、アレイ、および変数によって具現される。
【0119】
前述した本発明の説明は例示のためのものであり、当業者ならば、本発明の技術的思想や必須な特徴を変更しなくても他の具体的な形態に容易に変形できるということを理解できるであろう。よって、以上で述べた実施例はすべて例示的なものであり、限定的なものではないと理解せねばならない。例えば、単一型に説明されている各構成要素は、分散して実施されてもよく、同様に、分散していると説明されている構成要素も、結合された形態に実施されてもよい。
【0120】
本発明の範囲は、前記詳細な説明よりは後述する特許請求の範囲によって現れ、特許請求の範囲の意味及び範囲そしてその均等な概念から導出されるすべての変更または変形された形態は、本発明の範囲に含まれると解釈されねばならない。
【符号の説明】
【0121】
110 バッテリ
120 電圧測定部
130 電流測定部
140 温度測定部
150 プロセッサ
160 メモリ