(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000101
(43)【公開日】2024-01-05
(54)【発明の名称】破骨細胞分化抑制剤
(51)【国際特許分類】
A61K 36/23 20060101AFI20231225BHJP
A61K 36/54 20060101ALI20231225BHJP
A61K 36/906 20060101ALI20231225BHJP
A61K 36/67 20060101ALI20231225BHJP
A61K 36/537 20060101ALI20231225BHJP
A61K 36/61 20060101ALI20231225BHJP
A61P 19/08 20060101ALI20231225BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231225BHJP
A61P 19/10 20060101ALI20231225BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20231225BHJP
【FI】
A61K36/23
A61K36/54
A61K36/906
A61K36/67
A61K36/537
A61K36/61
A61P19/08
A61P43/00 105
A61P19/10
A23L33/105
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022098658
(22)【出願日】2022-06-20
(71)【出願人】
【識別番号】000116297
【氏名又は名称】ヱスビー食品株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504147254
【氏名又は名称】国立大学法人愛媛大学
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 建吾
(72)【発明者】
【氏名】恩田 浩幸
(72)【発明者】
【氏名】吉野 七海
(72)【発明者】
【氏名】菅原 卓也
(72)【発明者】
【氏名】西 甲介
(72)【発明者】
【氏名】石田 萌子
(72)【発明者】
【氏名】今井 祐記
【テーマコード(参考)】
4B018
4C088
【Fターム(参考)】
4B018MD48
4B018MD61
4B018MD66
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4C088AB33
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4C088MA52
4C088NA05
4C088NA14
4C088ZA96
4C088ZA97
4C088ZB21
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、安全な骨粗鬆症の薬剤を提供することである。
【解決手段】前記課題は、本発明のコリアンダー、月桂樹、カルダモン、唐辛子、胡椒、セージ、及びクローブからなる群から選択される植物の粉砕物又は抽出物を含む、破骨細胞分化抑制剤によって解決することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コリアンダー、月桂樹、カルダモン、唐辛子、胡椒、セージ、及びクローブからなる群から選択される植物の粉砕物又は抽出物を含む、破骨細胞分化抑制剤。
【請求項2】
前記抽出物が、極性有機溶媒、水性溶媒、又は極性有機溶媒若しくは水性溶媒を含む混合溶媒による抽出物である、請求項1に記載の破骨細胞分化抑制剤。
【請求項3】
前記植物が、コリアンダーの果実、月桂樹の葉、カルダモンの果実、唐辛子の果実、胡椒の果実、セージの葉、茎、又は花穂、又はクローブの花蕾である、請求項1又は2に記載の破骨細胞分化抑制剤。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の破骨細胞分化抑制剤を含む、骨粗鬆症予防又は治療用医薬組成物。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の破骨細胞分化抑制剤を含む、骨粗鬆症予防又は治療用食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、破骨細胞分化抑制剤に関する。本発明によれば、骨粗鬆症を予防又は治療することができる。
【背景技術】
【0002】
骨粗鬆症は、女性に多く主に閉経後のホルモンバランスの崩れによっておこる。また、老化、遺伝的な体質、偏食、極端なダイエット、喫煙、又は過度の飲酒が原因と言われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
骨粗鬆症を治療するための薬剤として、ビスホスホネート系の薬剤が知られている(特許文献1)。しかしながら、副作用の報告もあり、安全な骨粗鬆症の薬剤の開発が期待されている。
本発明の目的は、安全な骨粗鬆症の薬剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、安全な骨粗鬆症の薬剤について、鋭意研究した結果、驚くべきことに、特定のハーブの粉砕物又は抽出物が、破骨細胞の分化を抑制することを見出した。
本発明は、こうした知見に基づくものである。
従って、本発明は、
[1]コリアンダー、月桂樹、カルダモン、唐辛子、胡椒、セージ、及びクローブからなる群から選択される植物の粉砕物又は抽出物を含む、破骨細胞分化抑制剤、
[2]前記抽出物が、極性有機溶媒、水性溶媒、又は極性有機溶媒若しくは水性溶媒を含む混合溶媒による抽出物である、[1]に記載の破骨細胞分化抑制剤、
[3]前記植物が、コリアンダーの果実、月桂樹の葉、カルダモンの果実、唐辛子の果実、胡椒の果実、セージの葉、茎、又は花穂、又はクローブの花蕾である、[1]又は[2]に記載の破骨細胞分化抑制剤、
[4][1]~[3]のいずれかに記載の破骨細胞分化抑制剤を含む、骨粗鬆症予防又は治療用医薬組成物、及び
[5][1]~[3]のいずれかに記載の破骨細胞分化抑制剤を含む、骨粗鬆症予防又は治療用食品組成物、
に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の破骨細胞分化抑制剤によれば、破骨細胞の分化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】コリアンダー抽出物の破骨細胞分化に対する抑制作用を示したグラフである。
【
図2】月桂樹抽出物の破骨細胞分化に対する抑制作用を示したグラフである。
【
図3】唐辛子抽出物の破骨細胞分化に対する抑制作用を示したグラフである。
【
図4】胡椒抽出物の破骨細胞分化に対する抑制作用を示したグラフである。
【
図5】クローブ抽出物の破骨細胞分化に対する抑制作用を示したグラフである。
【
図6】カルダモン抽出物の破骨細胞分化に対する抑制作用を示したグラフである。
【
図7】セージ抽出物の破骨細胞分化に対する抑制作用を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の破骨細胞分化抑制剤は、コリアンダー、月桂樹、カルダモン、唐辛子、胡椒、セージ、及びクローブからなる群から選択される植物の粉砕物又は抽出物を含む。
【0009】
《コリアンダー》
コリアンダーは、セリ科の一種であり香辛料として使用される。香辛料としては、植物全体を使用したり、果実や種子部分をコリアンダーシードと称して使用されたり、葉や茎の部分をコリアンダーリーフやパクチーと称して使用されたりする。本発明において、コリアンダーの使用部位は、特に限定されるものではなく、植物全体、根、茎、葉、花、果実、若しくは種子、又はそれらの少なくとも2種以上の混合物を挙げることができるが、好ましくは果実である。コリアンダーは、粉砕操作又は抽出操作を行う際に、生のまま用いてもよく、乾燥(例えば、凍結乾燥)させたものを用いてもよい。抽出する場合は、抽出効率が向上するように、破砕物又は粉体の状態に加工することが好ましい。
【0010】
《月桂樹》
月桂樹は、クスノキ科ゲッケイジュ属の植物であり、月桂樹の葉をローレルと称する。地中海沿岸の原産と言われ、すがすがしく、明瞭な芳香があり、香り付けに使用される。肉の臭みなどを消し、欧風カレーやポトフなどの煮込み料理に香辛料として使用されている。月桂樹は、粉砕操作又は抽出操作を行う際に、生のまま用いてもよく、乾燥(例えば、凍結乾燥)させたものを用いてもよい。抽出する場合は、抽出効率が向上するように、破砕物又は粉体の状態に加工することが好ましい。
【0011】
《カルダモン》
カルダモンには、グリーンカルダモンと、ブラックカルダモンとがある。本発明で用いるカルダモンは、グリーンカルダモン(Elettaria cardamomum)である。グリーンカルダモンは、インド、スリランカ、及びマレー半島を原産とするショウガ科のショウズク属の多年草であり、ショウズク(小荳▲く▼)とも称される。カルダモンの使用部位は、特に限定されるものではなく、植物全体、根、茎、葉、花、果実、若しくは種子、又はそれらの少なくとも2種以上の混合物を挙げることができるが、好ましくは果実である。カルダモンの緑色の果実は、種子を含んだまま乾燥され、そのまま、又は挽いて粉にして、香辛料として使用される。本発明において、カルダモンは粉砕操作又は抽出操作を行う際に、生のまま用いてもよく、乾燥(例えば、凍結乾燥)させたものを用いてもよい。抽出する場合は、抽出効率が向上するように、破砕物又は粉体の状態に加工することが好ましい。
【0012】
《唐辛子》
唐辛子は、中南米を原産とする、ナス科トウガラシ属(Capsicum)の植物であり、果実を香辛料として用いる。唐辛子には様々な種類があり、本発明に用いる唐辛子は限定されるものではないが、例えば赤唐辛子(レッドペッパー)、又は青唐辛子が使用できる。
唐辛子の使用部位は、特に限定されるものではなく、植物全体、根、茎、葉、花、果実、若しくは種子、又はそれらの少なくとも2種以上の混合物を挙げることができるが、好ましくは果実である。唐辛子は、粉砕操作又は抽出操作を行う際に、生のまま用いてもよく、乾燥(例えば、凍結乾燥)させたものを用いてもよい。抽出する場合は、抽出効率が向上するように、破砕物又は粉体の状態に加工することが好ましい。
【0013】
《胡椒》
胡椒は、コショウ科コショウ属に属するつる性植物であり、果実が香辛料として使用される。本発明において、胡椒の使用部位は、特に限定されるものではなく、植物全体、根、茎、葉、花、果実、若しくは種子、又はそれらの少なくとも2種以上の混合物を挙げることができるが、好ましくは果実である。胡椒は、粉砕操作又は抽出操作を行う際に、生のまま用いてもよく、乾燥(例えば、凍結乾燥)させたものを用いてもよい。抽出する場合は、抽出効率が向上するように、破砕物又は粉体の状態に加工することが好ましい。
【0014】
《セージ》
セージは、地中海原産のシソ科アキギリ属の多年草又は常緑低木である。高さは50-70cm程度であり、5-7月ごろに、紫又は白色の唇状花を咲かせる。長楕円形で柄のある葉は対生し、表面に細かい縮れがあるが、葉が香辛料として使用される。
セージの使用部位は、特に限定されるものではなく、植物全体、根、茎、葉、花、果実、若しくは種子、又はそれらの少なくとも2種以上の混合物を挙げることができるが、好ましくは葉、茎、又は花穂であり、これらの2つ以上の組み合わせ(葉及び茎、葉及び花穂、茎及び花穂、又は葉、茎、及び花穂)でもよい。セージは、粉砕操作又は抽出操作を行う際に、生のまま用いてもよく、乾燥(例えば、凍結乾燥)させたものを用いてもよい。抽出する場合は、抽出効率が向上するように、破砕物又は粉体の状態に加工することが好ましい。
【0015】
《クローブ》
クローブは、フトモモ科の樹木チョウジノキであり、花蕾が香辛料として使用されている。本発明において、胡椒の使用部位は、特に限定されるものではなく、植物全体、根、茎、葉、花、果実、花蕾、若しくは種子、又はそれらの少なくとも2種以上の混合物を挙げることができるが、好ましくは花蕾である。クローブは、粉砕操作又は抽出操作を行う際に、生のまま用いてもよく、乾燥(例えば、凍結乾燥)させたものを用いてもよい。抽出する場合は、抽出効率が向上するように、破砕物又は粉体の状態に加工することが好ましい。
【0016】
《粉砕物》
本発明における植物の粉砕物は、植物が粉砕された状態のものであれば特に限定されるものではないが、例えば、粉末状、粒状、又はペースト状の粉砕物が挙げられるが、好ましくは粉末である。また、粉末を、例えば、キューブ状、ブロック状、又は顆粒状に成型又は造粒したものも好ましく使用できる。粉砕物に加工するための処理は、特に限定されないが、例えば、クラッシャー、ミル、ブレンダー、ミキサー、及び石臼などの粉砕用の機器又は器具を用いて、当業者が通常使用する任意の方法により植物体を粉砕する処理が挙げられる。粉砕前に、植物体を乾燥してもよい。乾燥の処理法としては、凍結乾燥、減圧乾燥、送風乾燥又は加熱乾燥が挙げられる。
【0017】
本発明の破骨細胞分化抑制剤に含まれる植物が粉砕物である場合、限定されるものではないが、例えば、植物粉砕物の平均最長径が、0.01~2mm、好ましくは、0.01~1.5mm、より好ましくは0.01~1mm、さらに好ましくは0.01~0.75mm、最も好ましくは0.01~0.5mmのものを使用することができる。また、植物粉砕物の90重量%以上が、0.01~2mm、好ましくは、0.01~1.5mm、より好ましくは0.01~1mm、さらに好ましくは0.01~0.75mm、最も好ましくは0.01~0.5mmの最長径を有するものを使用することができる。また、植物粉砕物の90重量%以上が、JIS試験篩いメッシュ換算表において、8.6メッシュ(2mm)、10メッシュ(1.7mm)、16メッシュ(1mm)、又は30メッシュ(0.5mm)を通過するものを使用することができる。植物の平均最長径の計測は、粒径を計測するための公知の機器を使用して行うことができる。また、植物の粉砕物の中から任意で100個を選択して、それらの最長径を、実体顕微鏡を用いて測定し、それらの平均を計算することで算出することもできる。
【0018】
《抽出物》
有効成分を含む抽出物は、植物に由来する成分の抽出に用いられる通常の抽出方法によって抽出することができる。抽出法としては、限定されるものではないが、溶剤抽出法、水蒸気蒸留法、圧搾法(直接、高温、若しくは低温)、又は超臨界抽出法が挙げられる。また、これらの抽出法の組み合わせ、例えば圧搾した後に溶剤抽出する方法を用いてもよいが、好ましくは溶媒抽出である。抽出に用いる植物は、生のまま用いてもよく、又は乾燥させたものを用いてもよい。また、抽出効率が向上するように、破砕物又は粉体の状態に加工してから抽出してもよい。
【0019】
(溶剤抽出法)
溶剤抽出法で用いられる抽出溶媒は、抽出液中に有効成分が充分に抽出されることができる限りにおいては限定されるものではない。例えば、有機溶媒、水性溶媒、又は有機溶媒及び水性溶媒の混合溶媒を使用することができるが、好ましくは極性有機溶媒、水性溶媒、又は極性有機溶媒若しくは水性溶媒を含む混合溶媒である。本発明の破骨細胞分化抑制剤に含まれる破骨細胞分化を抑制する有効成分は、極性溶媒である水性溶媒又は極性有機溶媒に、効率的に溶解すると考えられる。従って、抽出溶媒としては、特に極性有機溶媒又は水性溶媒が好ましい。
【0020】
有機溶媒としては、例えばアルコール、アセトン、ベンゼン、エステル、酢酸エチル、ヘキサン、クロロホルム、又はジエチルエーテルが挙げられるが、好ましくは極性有機溶媒である。極性有機溶媒としては、例えばアルコール、エステル、酢酸エチル、ヘキサン、クロロホルム、又はジエチルエーテルが挙げられる。アルコールとしては、抽出液中に有効成分が充分に抽出されることができる限りにおいては限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、及びブチルアルコール等の炭素数1~5の一価アルコール、1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、及びグリセリン等の炭素数2~5の多価アルコールが挙げられる。
【0021】
水性溶媒としては、水を含んでいる限りにおいて限定されるものではなく、例えば水、生理食塩水、又は緩衝液などを使用することができる。緩衝液としては、リン酸緩衝液、リン酸ナトリウム緩衝液、炭酸ナトリウム緩衝液、クエン酸緩衝液、クエン酸リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、及びトリス緩衝液などが挙げられる。好ましい水性溶媒は、リン酸ナトリウム緩衝液である。前記水性溶媒のpHは、特に制限されない。
【0022】
また、本発明の破骨細胞分化抑制剤に用いる抽出物は、極性有機溶媒を含む混合溶媒により抽出することができる。混合溶媒中に含まれる極性有機溶媒の量は、抽出液中に有効成分が充分に抽出されることができる限りにおいては限定されないが、抽出溶媒の全体量に対して極性有機溶媒の含有量は、例えば、50重量%以上、70重量%以上、又は90重量%以上であることができる。本発明の破骨細胞分化抑制剤に用いる抽出物は、水性溶媒を含む混合溶媒により抽出することができる。混合溶媒中に含まれる水性溶媒の量は、抽出液中に有効成分が充分に抽出されることができる限りにおいては限定されないが、抽出溶媒の全体量に対して水性溶媒の含有量は、例えば、50重量%以上、70重量%以上、又は90重量%以上であることができる。
【0023】
前記抽出物を溶剤抽出法で抽出する場合、抽出温度は、抽出液中に有効成分が充分に抽出されることのできる温度である限り、特に限定されるものではないが、-50℃~150℃であることが好ましい。抽出温度の下限は、ある態様では-25℃以上であり、ある態様では0℃以上であり、ある態様では5℃以上であり、ある態様では10℃以上であり、ある態様では30℃以上であり、ある態様では50℃以上である。抽出温度の上限は、ある態様では120℃以下であり、ある態様では100℃以下であり、ある態様では80℃以下であり、ある態様では50℃以下であり、ある態様では20℃以下である。前記温度の上限及び下限は、適宜組み合わせることができる。
【0024】
また、抽出の際には、抽出効率が向上するように、撹拌又は振盪しながら実施することが好ましい。抽出時間は、例えば、根、茎、葉、花、果実、又は種子などの使用部分に応じて適宜決定することができる。また、抽出時間は、植物の状態、すなわち、生若しくは乾燥物であるか、又は破砕物若しくは粉体の状態に加工した場合にはその加工状態に応じて適宜決定することができる。さらに、抽出時間は、抽出液の温度、又は撹拌若しくは振盪の有無などの抽出条件に応じて、適宜決定することができる。抽出時間は、通常、1分~72時間であり、1時間~48時間であることが好ましく、12時間~36時間であることが最も好ましい。
【0025】
(水蒸気蒸留法)
本発明の破骨細胞分化抑制剤に含まれる植物の抽出物は、水蒸気蒸留法により抽出することができる。水蒸気蒸留法とは、カラムに充填した原料に水蒸気を通気し、水蒸気に伴われて留出してくる香気成分を水蒸気とともに凝縮させる方法である。蒸留手段として、加圧水蒸気蒸留、常圧水蒸気蒸留、及び減圧水蒸気蒸留のいずれかを採用することができる。
【0026】
(圧搾法)
圧搾法とは、植物に物理的に圧力をかけて、抽出物を抽出する方法である。常温で行う直接圧搾法、高温で行う高温圧搾法、及び低温で行う低温圧搾法がある。本発明の破骨細胞分化抑制剤に含まれる抽出物は、いずれの圧搾法を用いても抽出可能である。
【0027】
(超臨界抽出法)
本発明の破骨細胞分化抑制剤に含まれる抽出物は、超臨界抽出法を用いて抽出可能である。超臨界抽出法とは、超臨界状態にある物質を用いて特定の植物から抽出物を抽出する方法である。超臨界状態にある物質としては、例えば二酸化炭素を用いることができる。超臨界状態にある二酸化炭素は、強力な溶解力を有するため、コーヒーの脱カフェイン、又は植物などの天然原料からの香料及び医薬品成分抽出にも一般に用いられている。
【0028】
《有効成分》
本発明の破骨細胞分化抑制剤に含まれる有効成分は、植物から抽出される抽出物に含まれている。したがって、前記植物は破骨細胞分化を抑制する成分を含んでおり、前記植物の粉砕物も、抽出物に含まれる有効成分を含んでいる。従って、前記植物の粉砕物も破骨細胞分化抑制剤として使用可能である。
前記植物抽出物に含まれる有効成分としては、植物抽出物から分画した活性成分を含む画分、又は精製した活性成分でもよい。
【0029】
《破骨細胞分化抑制》
本発明の破骨細胞分化抑制剤は、破骨細胞前駆細胞から破骨細胞への分化を抑制するものである。破骨細胞は、造血幹細胞を起源とし、数個の細胞が融合した多核巨細胞である。破骨細胞は、細胞質に酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ(tertrate-resistant acid phosphatase;TRAP)活性を示すものである。破骨細胞への分化誘導シグナルであるRANKL(receptor activator of NF-κB ligand)が、破骨細胞前駆細胞膜上の受容体(RANK)に結合し、破骨細胞への分化が開始される。
本発明の破骨細胞分化抑制剤は、破骨細胞前駆細胞から破骨細胞への分化を抑制する剤である。破骨細胞前駆細胞から破骨細胞への分化が促進されると、破骨細胞が増加し骨吸収が促進されることがある。骨吸収の過度な増加は、骨破壊につながり骨粗鬆症、歯周病、関節リウマチなどの吸収性骨疾患の原因となる可能性がある。本発明の破骨細胞分化抑制剤は、基本的には破骨細胞の分化が亢進した患者に対して投与されるものである。吸収性骨疾患の原因は、破骨細胞前駆細胞から破骨細胞への分化の促進の他に、破骨細胞の骨吸収の促進、及び骨芽細胞の骨形成の減少などがあるが、本発明の破骨細胞分化抑制剤は、前記の通り、破骨細胞の分化が亢進した吸収性骨疾患患者に対して投与されるものである。
【0030】
《骨粗鬆症》
骨組織は、破骨細胞による破壊(骨吸収)及び骨芽細胞による形成(骨形成)によって維持されている。通常の状態では、破骨細胞と骨芽細胞との間に活性のバランスが保たれている。このバランスが破壊(骨吸収)に傾くと、骨量が低下し、例えば骨粗鬆症などの吸収性骨疾患引き起こす。例えば、骨粗鬆症は、骨がスカスカになって脆弱になる病気で、日常生活程度の負荷でも骨折を引き起こす。老人の骨折は寝たきりに繋がり、QOLを著しく低下させる。骨粗鬆症は、閉経期以降の女性や高年齢の男性で多く見られ、女性においては60歳代で約30%、70歳代で約40%以上が、男性においては60歳代で約10%、70歳代で約20%が骨粗鬆症であるとの報告がある。
【0031】
《医薬組成物》
本発明の骨粗鬆症予防又は治療用医薬組成物は、前記破骨細胞分化抑制剤を含む。本発明の医薬組成物は、コリアンダー、月桂樹、カルダモン、唐辛子、胡椒、セージ、及びクローブからなる群から選択される植物の粉砕物、又は抽出物を含み、骨粗鬆症の予防又は治療用として用いることができる。また、本発明の医薬組成物は、破骨細胞分化抑制用医薬組成物として用いることができる。
本発明の医薬組成物の投与剤型としては、特には限定がなく、経口剤及び非経口剤を挙げることができるが、経口剤が好ましい。前記経口剤は、例えば、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、及び丸剤等の固形状又は粉末状製剤、並びに懸濁液、エマルジョン剤、シロップ剤、及びエキス剤等の液状製剤を挙げることができる。非経口剤としては、例えば、注射剤を挙げることができる。
【0032】
本発明の医薬組成物は、植物粉砕物又は植物抽出物から成るものでもよく、また植物粉砕物又は植物抽出物を含むものでもよい。本発明の医薬組成物が、植物粉砕物又は植物抽出物を含むものである場合、他の添加剤を含むことができる。
【0033】
本発明の医薬組成物が経口剤である場合、他の添加剤としては、賦形剤、結合剤、崩壊剤、乳化剤、滑沢剤、流動性促進剤、希釈剤、保存剤、着色剤、香料、矯味剤、安定化剤、保湿剤、防腐剤、酸化防止剤、又は懸濁化剤を挙げることができ、具体的には、例えば、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、澱粉、コーンスターチ、白糖、乳糖、ぶどう糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、デキストリン、ポリビニルピロリドン、結晶セルロース、大豆レシチン、ショ糖、脂肪酸エステル、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール、ケイ酸マグネシウム、無水ケイ酸、又は合成ケイ酸アルミニウムなどであることができる。
【0034】
本発明の医薬組成物が非経口剤である場合、他の添加剤としては、生理食塩水若しくはリンゲル液等の水溶性溶剤、植物油若しくは脂肪酸エステル等の非水溶性溶剤、ブドウ糖若しくは塩化ナトリウム等の等張化剤、溶解補助剤、安定化剤、防腐剤、懸濁化剤、又は乳化剤などを挙げることができる。
【0035】
本発明の医薬組成物は、植物粉砕物又は抽出物を、90重量%以上、50重量%以上、10重量%以上、又は1重量%以上含むことができる。
【0036】
本発明の医薬組成物の投与量又は摂取量は、製剤形態、並びに使用する対象の年齢、性別、体重及び症状の程度などに応じて適宜調整することができるが、当該医薬組成物を投与又は摂取することで、骨粗鬆症の発症を予防するか、又は発症した骨粗鬆症を緩和若しくは治療することができる量であることが好ましい。具体的には、植物水性溶媒抽出物の添加量に換算して、0.01~1000mg/kg体重/日、好ましくは、0.1~750mg/kg体重/日、より好ましくは1~500mg/kg体重/日、さらに好ましくは5~400mg/kg体重/日、さらに好ましくは10~300mg/kg体重/日、さらに好ましくは15~200mg/kg体重/日、又は最も好ましくは20~150mg/kg体重/日であることができる。もちろん、上記の投与法は一例であり、他の投与法であってもよい。ヒトへの医薬組成物の投与方法、投与量、投与期間、及び投与間隔等は、管理された臨床治験によって決定されることが望ましい。
【0037】
本発明の医薬組成物は、ヒトに対して投与することができるが、投与対象はヒト以外の動物であってもよく、鳥、ブタ、ウマ等の動物が挙げられる。
【0038】
本発明の医薬組成物は、骨粗鬆症の予防又は治療用医薬組成物であることができる。前記医薬組成物には、医薬品及び医薬部外品が含まれる。医薬品としては、例えば、生薬製剤及び漢方製剤などを挙げることができる。医薬部外品としては、例えば、栄養ドリンク及び生薬含有保健薬などを挙げることができる。
【0039】
《食品組成物》
本発明の粗鬆症予防又は治療用食品組成物は、前記破骨細胞分化抑制剤を含む。本発明の食品組成物は、コリアンダー、月桂樹、カルダモン、唐辛子、セージ、胡椒、及びクローブからなる群から選択される植物の粉砕物、又は抽出物を含み、骨粗鬆症の予防又は治療用として用いることができる。また、本発明の食品組成物は、破骨細胞分化抑制用食品組成物として用いることができる。
【0040】
食品としては、具体的には、サラダなどの生鮮調理品;ステーキ、ピザ、ハンバーグなどの加熱調理品;野菜炒めなどの炒め調理品;トマト、ピーマン、セロリ、ニガウリ、ニンジン、ジャガイモ、及びアスパラガスなどの野菜及びこれら野菜を加工した調理品;クッキー、パン、ビスケット、乾パン、ケーキ、煎餅、羊羹、プリン、ゼリー、アイスクリーム類、チューインガム、クラッカー、チップス、チョコレート及び飴等の菓子類;うどん、パスタ、及びそば等の麺類;かまぼこ、ハム、及び魚肉ソーセージ等の魚肉練り製品;チーズ、クリーム、及びバターなどの乳製品;みそ、しょう油、ドレッシング、ケチャップ、マヨネーズ、スープの素、麺つゆ、カレー粉、みりん、ルウ等の調味料類;豆腐などの大豆食品;ふりかけ、佃煮、シリアル等の農水産加工品;並びにこんにゃくなどを挙げることができる。
【0041】
飲料としては、例えば、コーヒー飲料;ココア飲料;前記の野菜から得られる野菜ジュース;グレープフルーツジュース、オレンジジュース、ブドウジュース、及びレモンジュース等の果汁飲料;緑茶、紅茶、煎茶、及びウーロン茶等の茶飲料;ビール、ワイン(赤ワイン、白ワイン、又はスパークリングワインなど)、清酒、梅酒、発泡酒、ウィスキー、ブランデー、焼酎、ラム、ジン、及びリキュール類等のアルコール飲料;乳飲料;豆乳飲料;流動食;並びにスポーツ飲料などを挙げることができる。
【0042】
食品又は飲料には、動物に対する飼料及び飲料が含まれる。対象となる動物は、例えば、ヒトなどの霊長類、トリ、ブタ、又はウマ等が挙げられる。
【0043】
これらの食品又は飲料には、所望により、酸化防止剤、香料、酸味料、着色料、乳化剤、保存料、調味料、甘味料、香辛料、pH調整剤、安定剤、植物油、動物油、糖及び糖アルコール類、ビタミン、有機酸、果汁エキス類、野菜エキス類、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の食品添加物及び食品素材を単独で又は2種以上組み合わせて配合することができる。これらの食品素材及び食品添加物の配合量は、本発明の目的を損なわない範囲内で適宜決定することができる。
【0044】
これらの食品又は飲料は、例えば、レトルト及びオートクレーブなどの加熱加圧滅菌、バッチ式殺菌、プレート殺菌、通電加熱殺菌、マイクロ波加熱殺菌、並びに、インジェクション及びインフュージョンなどのスチーム殺菌などの一般的な殺菌処理を行うことができる。
【0045】
食品及び飲料には、機能性食品(飲料)及び健康食品(飲料)が含まれる。本明細書において「健康食品(飲料)」とは、健康に何らかの効果を与えるか、あるいは、効果を期待することができる食品又は飲料を意味し、「機能性食品(飲料)」とは、前記「健康食品(飲料)」の中でも、生体調節機能(すなわち、骨粗鬆症の発症の予防、又は骨粗鬆症症状の緩和若しくは治療の機能)を充分に発現することができるように設計及び加工された食品又は飲料を意味する。機能性食品及び健康食品は、顆粒状、固形状、液状、カプセル状、ゲル状、又は錠剤状であることができる。
【実施例0046】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0047】
《調製例1~5》
本調整例では、コリアンダーの種子(調製例1)、月桂樹の葉(調製例2)、唐辛子の果実(調製例3)、胡椒の種子(調製例4)、クローブの花蕾(調製例5)、カルダモンの果実(調製例6)、又はセージの葉、茎、及び花穂の混合物(調製例7)からエタノールを用いて抽出物を調製した。
各凍結乾燥粉末約1gを、50mLのエタノールに懸濁し、振盪機を用いて、室温で30分間抽出した。その後、濾過により不溶物を除去し、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した。得られた残渣を、DMSOに溶解した。
【0048】
《実施例1》
本実施例では、コリアンダーの抽出物の、破骨細胞への分化に与える影響を調べた。RAW264細胞(前駆破骨細胞)を、96穴培養プレートにα-MEM培地を用いて播種した。0日目に、RANKL(140ng/mL)を添加し、破骨細胞の分化を誘導した。同時に、コリアンダーの抽出物(12.5、25、又は50μg/mL;DMSO終濃度0.1%)を添加し、5日間培養した。プレートに、ホスファターゼ発色基質pNPP(2mg/mL)を加え、30分間、37℃でインキュベートし、TRAP5b活性を吸光度により測定した。陰性コントロールとして、RANKL及びコリアンダー抽出物を添加しないものを、陽性コントロールとしてRANKLのみを添加したものを作製した。
図1に示すように、陽性コントロールと比較して、コリアンダー抽出物によって、破骨細胞への分化が抑制された。
【0049】
《実施例2》
本実施例では、月桂樹の抽出物の、破骨細胞への分化に与える影響を調べた。月桂樹抽出物(12.5、又は25μg/mL;DMSO終濃度0.1%)を用いたことを除いては、実施例1の操作を繰り返した。
図2に示すように、陽性コントロールと比較して、月桂樹抽出物によって、破骨細胞への分化が抑制された。
【0050】
《実施例3》
本実施例では、唐辛子の抽出物の、破骨細胞への分化に与える影響を調べた。唐辛子抽出物(12.5、25、又は50μg/mL;DMSO終濃度0.1%)を用いたことを除いては、実施例1の操作を繰り返した。
図3に示すように、陽性コントロールと比較して、唐辛子抽出物によって、破骨細胞への分化が抑制された。
【0051】
《実施例4》
本実施例では、胡椒の抽出物の、破骨細胞への分化に与える影響を調べた。胡椒抽出物(12.5、25、又は50μg/mL;DMSO終濃度0.1%)を用いたことを除いては、実施例1の操作を繰り返した。
図4に示すように、陽性コントロールと比較して、胡椒抽出物によって、破骨細胞への分化が抑制された。
【0052】
《実施例5》
本実施例では、クローブの抽出物の、破骨細胞への分化に与える影響を調べた。クローブ抽出物(50μg/mL;DMSO終濃度0.1%)を用いたことを除いては、実施例1の操作を繰り返した。
図5に示すように、陽性コントロールと比較して、クローブ抽出物によって、破骨細胞への分化が抑制された。
【0053】
《実施例6》
本実施例では、カルダモンの抽出物の、破骨細胞への分化に与える影響を調べた。カルダモン抽出物(25、又は50μg/mL;DMSO終濃度0.1%)を用いたことを除いては、実施例1の操作を繰り返した。
図6に示すように、陽性コントロールと比較して、カルダモン抽出物によって、破骨細胞への分化が抑制された。
【0054】
《実施例7》
本実施例では、セージの抽出物の、破骨細胞への分化に与える影響を調べた。セージ抽出物(12.5、25、又は50μg/mL;DMSO終濃度0.1%)を用いたことを除いては、実施例1の操作を繰り返した。
図7に示すように、陽性コントロールと比較して、セージ抽出物によって、破骨細胞への分化が抑制された。