IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JNC株式会社の特許一覧

特開2024-101155低誘電率樹脂形成用組成物、低誘電率樹脂部品、およびそれらを用いた電子機器
<>
  • 特開-低誘電率樹脂形成用組成物、低誘電率樹脂部品、およびそれらを用いた電子機器 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101155
(43)【公開日】2024-07-29
(54)【発明の名称】低誘電率樹脂形成用組成物、低誘電率樹脂部品、およびそれらを用いた電子機器
(51)【国際特許分類】
   C08F 220/30 20060101AFI20240722BHJP
【FI】
C08F220/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023004936
(22)【出願日】2023-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高田 章博
(72)【発明者】
【氏名】佐郷 弘毅
(72)【発明者】
【氏名】藤原 武
【テーマコード(参考)】
4J100
【Fターム(参考)】
4J100AL66P
4J100AL66Q
4J100BA02P
4J100BA02Q
4J100BC04P
4J100BC43P
4J100BC43Q
4J100CA01
4J100CA04
4J100DA25
4J100FA03
4J100FA18
4J100JA43
4J100JA44
(57)【要約】
【課題】 高周波数化が進む次世代通信機器や、レーダー等の基板に好適に用いることができ、硬化後には高い耐熱性、および高周波数領域において低誘電率・低誘電正接の誘電特性を示し、さらに放熱性も高い低誘電率樹脂形成用組成物を提供することである。
【手段】 共役や極性基が少なく、分子の直線性や対称性が高い重合性多環化合物を硬化させることにより、溶液プロセスで成形可能で、従来の液晶ポリマー以上の低誘電性と、熱伝導性を示す重合性の組成物である低誘電率樹脂形成用組成物を実現できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される末端に重合性基を有する液晶性化合物を含有する組成物であって、該組成物に無機充填剤を添加しないで硬化した場合の硬化物の10GHzにおける比誘電率が3.0より低い低誘電率樹脂形成用組成物。
1a-Z-A-A-Z-A-A-Z-R1b (1)
式(1)中、
、A、A、およびAは独立して、1,4-シクロヘキシレン、1,4-シクロヘキセニレン、1,4-フェニレン、ビシクロ[2.2.2]オクタン-1,4-ジイル、ビシクロ[3.1.0]ヘキサン-3,6-ジイル、またはフルオレン-2,7-ジイルであり、これらの環において、少なくとも1つの-CH-は、-O-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの-CH=は、-N=で置き換えられてもよく、少なくとも1つの水素は、ハロゲンまたは少なくとも1つの水素がハロゲンで置き換えられてもよい炭素数1~10のアルキルで置き換えられてもよく、このアルキルにおいて、少なくとも1つの-CH-は、-O-、-CO-、-COO-、-OCO-、または-C=C-で置き換えられてもよく、A、A、A、およびAのうちの少なくとも2つは、1,4-シクロヘキシレンであり;
およびZは独立して、単結合または炭素数1~20のアルキレンであり、このアルキレンにおいて、少なくとも1つの-CH-は、-O-、-S-、-CO-、-COO-、-OCO-、-SO-、-CH=CH-、-CF=CF-、-CH=N-、-N=CH-、または-N=N-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの水素は、ハロゲンで置き換えられてもよく;
は、炭素数4~20のアルキレンであり、このアルキレンにおいて、少なくとも1つの-CH-は、-O-、-S-、-CO-、-COO-、-OCO-、-SO-、-CH=CH-、-CF=CF-、-CH=N-、-N=CH-、または-N=N-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの水素は、ハロゲンで置き換えられてもよく;
1aおよびR1bは独立して、式(PG-1)で表される重合性基から選択される基であり、
式(PG-1)中、Rは、水素、ハロゲン、-CF、または炭素数1~5のアルキルであり、式中に複数あるRは、それらが同一であっても異なっていてもよい。
【請求項2】
式(1)において、A、A、A、およびAが独立して、1,4-シクロヘキシレン、1,4-シクロヘキセニレン、1,4-フェニレン、ビシクロ[2.2.2]オクタン-1,4-ジイル、ビシクロ[3.1.0]ヘキサン-3,6-ジイル、またはフルオレン-2,7-ジイルであり、これらの環において、少なくとも1つの水素が、フッ素または少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられてもよい炭素数1~10のアルキルで置き換えられてもよく、A、A、A、およびAのうちの少なくとも2つが、1,4-シクロヘキシレンである、請求項1に記載の低誘電率樹脂形成用組成物。
【請求項3】
式(1-1)~(1-7)で表される末端に重合性基を有する液晶性化合物から選択される少なくとも1種を含有する、請求項1に記載の低誘電率樹脂形成用組成物。
式(1-1)~(1-7)中、
およびZは独立して、単結合、-(CH-、-O(CH-、-(CHO-、-O(CHO-、-COO-、-OCO-、-CH=CH-COO-、-OCO-CH=CH-、-(CH-COO-、-OCO-(CH-、-CH=CH-、-SO-、-OCF-、または-CFO-であり、ここで、aは1~20の整数であり、bは1~19の整数であり、cは1~18の整数であり;
は、-(CH-、-O(CH-、-(CHO-、-O(CHO-、-CH=CH-COO-、-OCO-CH=CH-、-(CH-COO-、または-OCO-(CH-であり、ここで、dは4~20の整数であり、eは3~19の整数であり、fは2~18の整数であり;
Xは、フッ素またはメチルであり、
nは、0~4の整数であり、
式中にXが複数ある場合は、それらが同一であっても異なっていてもよく、
1aおよびR1bは独立して、式(PG-1)で表される重合性基から選択される基であり、
式(PG-1)中、Rは、水素、ハロゲン、-CF3、または炭素数1~5のアルキルであり、式中に複数あるRは、それらが同一であっても異なっていてもよい。
【請求項4】
式(1-1a)~(1-7a)で表される末端に重合性基を有する液晶性化合物から選択される少なくとも1種を含有する、請求項1に記載の低誘電率樹脂形成用組成物。
式(1-1a)、(1-7a)中、
は、水素、ハロゲン、-CF3、または炭素数1~5のアルキルであり、
は、-(CH-、-O(CH-、-(CHO-、-O(CHO-、-CH=CH-COO-、-OCO-CH=CH-、-(CH-COO-、または-OCO-(CH-、であり、ここで、dは4~20の整数であり、eは3~19の整数であり、fは2~18の整数であり、
mは、0~19の整数であり、
Mは、単結合または酸素であり、
Xは、フッ素またはメチルであり、
nは、0~4の整数であり、
式中のXが複数ある場合は、それらが同一であっても異なっていてもよく、
式中に、複数あるR、m、またはMは、それらが同一であっても異なっていてもよい。
【請求項5】
以下の(A)および(B)から選択される少なくとも1種を含有する、請求項1に記載の低誘電率樹脂形成用組成物。
(A)式(1)で表される末端に重合性基を有する液晶性化合物の重合体
(B)式(1)で表される末端に重合性基を有する液晶性化合物以外の重合性化合物
【請求項6】
非重合性の液晶性化合物を含有する、請求項1に記載の低誘電率樹脂形成用組成物。
【請求項7】
無機充填剤を含有する、請求項1に記載の組成物であって、該組成物を硬化した硬化物の熱伝導率が1W/m・K以上である低誘電率樹脂形成用組成物。
【請求項8】
無機充填剤として窒化物充填剤を含有する、請求項1に記載の組成物であって、該組成物を硬化した硬化物の熱伝導率が10W/m・K以上である低誘電率樹脂形成用組成物。
【請求項9】
無機充填剤が、球状シリカ、粉砕シリカ、中空シリカおよびヒュームドシリカの酸化珪素化合物、窒化アルミニウム、窒化ホウ素および窒化珪素の金属窒化物、ダイアモンド、黒鉛、炭化珪素、ならびに酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化錫、酸化ホルミニウム、および酸化カルシウムの金属酸化物から選択される少なくとも1種である、請求項7に記載の低誘電率樹脂形成用組成物。
【請求項10】
繊維状補強剤を含有する、請求項1に記載の低誘電率樹脂形成用組成物。
【請求項11】
繊維状補強剤が、ガラスクロス、低誘電ガラスクロス、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、ポリアミド繊維、アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、液晶性ポリエステル繊維、珪酸塩ウイスカー、アルミナウイスカー、酸化マグネシウムウイスカー、酸化亜鉛ウイスカー、および窒化アルミニウムウイスカーから選択される少なくとも1種である、請求項10に記載の低誘電率樹脂形成用組成物。
【請求項12】
請求項1に記載の低誘電率樹脂形成用組成物を、熱または紫外線で硬化させた高分子成形体である低誘電率樹脂絶縁膜。
【請求項13】
請求項1に記載の低誘電率樹脂形成用組成物を、熱または紫外線で硬化させた高分子成形体である低誘電率樹脂フィルムまたは低誘電率樹脂シート。
【請求項14】
請求項1に記載の低誘電率樹脂形成用組成物を、熱または紫外線で硬化させた高分子成形体である低誘電率樹脂部品。
【請求項15】
請求項12~14のいずれか1項に記載の高分子成形体を用いた電子機器。
【請求項16】
請求項1に記載の式(1)で表される末端に重合性基を有する液晶性化合物のうち、Zの炭素数が5~20である化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合性基を有する液晶性化合物を用いた低誘電率樹脂形成用組成物と、それを用いた低誘電率樹脂部品に関する。特に、高周波基板用材料およびその周辺材料と、それを用いた低誘電率樹脂部品および電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、通信機器の5G化さらにはbeyond5Gや6G化に伴い、電子基板上での電気信号の高周波化や、アンテナが送受信する電波も高周波化しており、信号処理回路基板やアンテナ基板による信号の損失が問題になっている。そのため、基板に用いられる樹脂材料の低誘電率化、低誘電正接が求められており、従来のポリイミドやエポキシ樹脂に代わり、液晶ポリマー(LCP)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、シクロオレフィンポリマー(COP)、フッ素樹脂(PTFE)などの樹脂が使用され始めている。
低誘電基板は無機フィラーを含まないものでは比誘電率が3.0以下、高熱伝導フィラーを含むものでは比誘電率3.5以下の材料がラインアップされており、これらよりも比誘電率が低い材料の開発が求められている。(非特許文献1)
【0003】
ただし、現在の高周波基板用材料は、熱可塑性樹脂が主流であり、高温で成形や接着を行う必要があったり、樹脂同士や電極となる銅箔と接着性が良くなかったりなど、使いにくい面も多い。特許文献1には、液晶ポリマーの分子構造を検討することにより、液晶ポリマーをより低誘電率化させるための検討がなされている。ただし、液晶ポリマーは融点が高く350℃以上の加工温度が必要で熱ラミネートや銅箔との接着などが難しい。
【0004】
特許文献2では、有機溶媒への溶解性を高くすることによりワニス化するための検討がなされている。PPE樹脂の分子構造を検討することにより、PPE樹脂を塗布法で製膜できるようになり、絶縁ワニスに使用できるようになった。しかしながら、溶解力の高い有機溶媒を使用する必要があり、誘電特性以外の特性を調整しようとしてもポリマー設計の自由度が低いなど問題点も多い。そのため、絶縁被覆用ワニスのように塗布し、簡便に硬化できる低誘電率樹脂の開発が望まれている。
【0005】
また、通信量の増加に伴い、データ処理用半導体チップの発熱量も増大していたり、発熱量の大きいパワー半導体チップをアンテナ基板上に実装したりするために、電子基板の放熱性も求められつつあることから、高熱伝導率を持つ樹脂の開発も要求されている。
特許文献3には、直線性の高い重合性液晶性化合物を配向させ硬化すると、通常の熱硬化樹脂よりも配向方向に高熱伝導になること、および特許文献4には重合性液晶性化合物を放熱フィラーと複合化することにより、さらに高熱伝導な熱硬化性樹脂材料が形成可能であることが記されている。さらに、特許文献5には、低誘電率で、さらに高熱伝導性も併せ持つ重合性液晶性化合物を用いた樹脂形成用の組成物が記載されている。しかしながら、この文献中の重合性液晶性化合物は、高熱伝導性の実現のため、メソゲン部位の剛直性や直線性を重視しており、特に分子中に環構造を多く有する化合物は、結晶性が高く、融点が高く、溶媒に溶けにくく、また他の低誘電樹脂と共重合させようとしても、溶媒を乾燥させていくと重合性液晶性化合物の針状結晶が析出してしまい、均質な硬化物を得ることが困難な場合がある。
【0006】
環構造を多く有する低分子液晶化合物では、例えばメソゲン骨格を複数有する化合物について、相構造や粘弾性などの調査が行われている。非特許文献2では、二量体液晶化合物のメソゲン骨格間の炭素鎖の鎖長の影響について調査が行われており、鎖長を長くすることにより融点が低下することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2019-189734号公報
【特許文献2】特開2009-67894号公報
【特許文献3】特開2006-265527号公報
【特許文献4】国際公開第2015/170744号
【特許文献5】国際公開第2022/092063号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】福永浩之/浜戸喜之、「高速/高周波基板の基礎と選び方」、RFワールド、CQ出版社、2017、No.40、p.p.97-111
【非特許文献2】Liquid Crystals、(英)、Taylor & Francis、2015、Vol.42、No.4、p.p.463-472
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、従来の低誘電高熱伝導を目指した重合性液晶性化合物が有する問題点を解決するために、低誘電特性と高放熱性(熱伝導性)の特性を向上させながら、加工する上で十分に低い融点を有し、硬化後の耐熱性が高い、重合性液晶性化合物を実現することである。
本発明の低誘電率樹脂形成用組成物を用いることで、高周波数領域における次世代通信機器およびレーダーなどの用途に好適な材料を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、共役や極性基が少なく、二つのメソゲン骨格間に長い結合基を有し、分子の直線性や対称性が高い重合性基を有する液晶性化合物を硬化させることにより、低誘電性を示す重合性の組成物を実現できることを見出し、本発明を完成させた。従来の重合性液晶性化合物は環構造が多い場合、高い配向性のために優れた特性が期待される一方で、融点が非常に高く、融解より先に重合や分解が始まってしまい均質な材料を得ることが難しい。本発明の化合物を用いることにより、融点が下がり、均質な材料を得ることが可能になった。さらに、複数の脂環構造を有することにより、融点の低下と誘電特性の向上の両方の効果を得ることができる。また、硬化後の結晶性も高く耐熱性を高くすることもできる。
【0011】
本発明は以下の構成を有する。
[1] 式(1)で表される末端に重合性基を有する液晶性化合物を含有する組成物であって、該組成物に無機充填剤を添加しないで硬化した場合の硬化物の10GHzにおける比誘電率が3.0より低い低誘電率樹脂形成用組成物。
1a-Z-A-A-Z-A-A-Z-R1b (1)
式(1)中、
、A、A、およびAは独立して、1,4-シクロヘキシレン、1,4-シクロヘキセニレン、1,4-フェニレン、ビシクロ[2.2.2]オクタン-1,4-ジイル、ビシクロ[3.1.0]ヘキサン-3,6-ジイル、またはフルオレン-2,7-ジイルであり、これらの環において、少なくとも1つの-CH-は、-O-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの-CH=は、-N=で置き換えられてもよく、少なくとも1つの水素は、ハロゲンまたは少なくとも1つの水素がハロゲンで置き換えられてもよい炭素数1~10のアルキルで置き換えられてもよく、このアルキルにおいて、少なくとも1つの-CH-は、-O-、-CO-、-COO-、-OCO-、または-C=C-で置き換えられてもよく、A、A、A、およびAのうちの少なくとも2つは、1,4-シクロヘキシレンであり;
およびZは独立して、単結合または炭素数1~20のアルキレンであり、このアルキレンにおいて、少なくとも1つの-CH-は、-O-、-S-、-CO-、-COO-、-OCO-、-SO-、-CH=CH-、-CF=CF-、-CH=N-、-N=CH-、または-N=N-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの水素は、ハロゲンで置き換えられてもよく;
は、炭素数4~20のアルキレンであり、このアルキレンにおいて、少なくとも1つの-CH-は、-O-、-S-、-CO-、-COO-、-OCO-、-SO-、-CH=CH-、-CF=CF-、-CH=N-、-N=CH-、または-N=N-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの水素は、ハロゲンで置き換えられてもよく;
1aおよびR1bは独立して、式(PG-1)で表される重合性基から選択される基であり、
式(PG-1)中、Rは、水素、ハロゲン、-CF、または炭素数1~5のアルキルであり、式中に複数あるRは、それらが同一であっても異なっていてもよい。
【0012】
[2] 式(1)において、A、A、A、およびAが独立して、1,4-シクロヘキシレン、1,4-シクロヘキセニレン、1,4-フェニレン、ビシクロ[2.2.2]オクタン-1,4-ジイル、ビシクロ[3.1.0]ヘキサン-3,6-ジイル、またはフルオレン-2,7-ジイルであり、これらの環において、少なくとも1つの水素が、フッ素または少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられてもよい炭素数1~10のアルキルで置き換えられてもよく、A、A、A、およびAのうちの少なくとも2つが、1,4-シクロヘキシレンである、[1]に記載の低誘電率樹脂形成用組成物。
【0013】
[3] 式(1-1)~(1-7)で表される末端に重合性基を有する液晶性化合物から選択される少なくとも1種を含有する、[1]に記載の低誘電率樹脂形成用組成物。
式(1-1)~(1-7)中、
およびZは独立して、単結合、-(CH-、-O(CH-、-(CHO-、-O(CHO-、-COO-、-OCO-、-CH=CH-COO-、-OCO-CH=CH-、-(CH-COO-、-OCO-(CH-、-CH=CH-、-SO-、-OCF-、または-CFO-であり、ここで、aは1~20の整数であり、bは1~19の整数であり、cは1~18の整数であり;
は、-(CH-、-O(CH-、-(CHO-、-O(CHO-、-CH=CH-COO-、-OCO-CH=CH-、-(CH-COO-、または-OCO-(CH-であり、ここで、dは4~20の整数であり、eは3~19の整数であり、fは2~18の整数であり;
Xは、フッ素またはメチルであり、
nは、0~4の整数であり、
式中にXが複数ある場合は、それらが同一であっても異なっていてもよく、
1aおよびR1bは独立して、式(PG-1)で表される重合性基から選択される基であり、
式(PG-1)中、Rは、水素、ハロゲン、-CF3、または炭素数1~5のアルキルであり、式中に複数あるRは、それらが同一であっても異なっていてもよい。
【0014】
[4] 式(1-1a)~(1-7a)で表される末端に重合性基を有する液晶性化合物から選択される少なくとも1種を含有する、[1]に記載の低誘電率樹脂形成用組成物。
式(1-1a)、(1-7a)中、
は、水素、ハロゲン、-CF3、または炭素数1~5のアルキルであり、
は、-(CH-、-O(CH-、-(CHO-、-O(CHO-、-CH=CH-COO-、-OCO-CH=CH-、-(CH-COO-、または-OCO-(CH-、であり、ここで、dは4~20の整数であり、eは3~19の整数であり、fは2~18の整数であり、
mは、0~19の整数であり、
Mは、単結合または酸素であり、
Xは、フッ素またはメチルであり、
nは、0~4の整数であり、
式中のXが複数ある場合は、それらが同一であっても異なっていてもよく、
式中に、複数あるR、m、またはMは、それらが同一であっても異なっていてもよい。
【0015】
[5] 以下の(A)~(B)から選択される少なくとも1種を含有する、[1]~[4]のいずれか1項に記載の低誘電率樹脂形成用組成物。
(A)式(1)で表される末端に重合性基を有する液晶性化合物の重合体
(B)式(1)で表される末端に重合性基を有する液晶性化合物以外の重合性化合物
【0016】
[6] 非重合性の液晶性化合物を含有する、[1]~[5]のいずれか1項に記載の低誘電率樹脂形成用組成物。
【0017】
[7] 無機充填剤を含有する、[1]~[6]のいずれか1項に記載の組成物であって、該組成物を硬化した硬化物の熱伝導率が1W/m・K以上である低誘電率樹脂形成用組成物。
【0018】
[8] 無機充填剤として窒化物充填剤を含有する、[1]~[6]のいずれか1項に記載の組成物であって、該組成物を硬化した硬化物の熱伝導率が10W/m・K以上である低誘電率樹脂形成用組成物。
【0019】
[9] 無機充填剤が、球状シリカ、粉砕シリカ、中空シリカおよびヒュームドシリカの酸化珪素化合物、窒化アルミニウム、窒化ホウ素および窒化珪素の金属窒化物、ダイアモンド、黒鉛、炭化珪素、ならびに酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化錫、酸化ホルミニウム、および酸化カルシウムの金属酸化物から選択される少なくとも1種である、[7]に記載の低誘電率樹脂形成用組成物。
【0020】
[10] 繊維状補強剤を含有する、[1]~[9]のいずれか1項に記載の低誘電率樹脂形成用組成物。
【0021】
[11] 繊維状補強剤が、ガラスクロス、低誘電ガラスクロス、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、ポリアミド繊維、アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、液晶性ポリエステル繊維、珪酸塩ウイスカー、アルミナウイスカー、酸化マグネシウムウイスカー、酸化亜鉛ウイスカー、および窒化アルミニウムウイスカーから選択される少なくとも1種である、[10]に記載の低誘電率樹脂形成用組成物。
【0022】
[12] [1]~[11]のいずれか1項に記載の低誘電率樹脂形成用組成物を、熱または紫外線で硬化させた高分子成形体である低誘電率樹脂絶縁膜。
【0023】
[13] [1]~[11]のいずれか1項に記載の低誘電率樹脂形成用組成物を、熱または紫外線で硬化させた高分子成形体である低誘電率樹脂フィルムまたは低誘電率樹脂シート。
【0024】
[14] [1]~[11]のいずれか1項に記載の低誘電率樹脂形成用組成物を、熱または紫外線で硬化させた高分子成形体である低誘電率樹脂部品。
【0025】
[15] [12]~[14]のいずれか1項に記載の高分子成形体を用いた電子機器。
【0026】
[16] [1]に記載の式(1)で表される末端に重合性基を有する液晶性化合物のうち、Zの炭素数が5~20である化合物。
【発明の効果】
【0027】
本発明の組成物を硬化して得られる硬化物は、低誘電性に加え、放熱性、透明性が高く、化学的安定性、耐熱性、硬度および機械的強度などの特性の少なくとも1つに優れた特性を有することから、たとえば、低誘電回路基板、低誘電アンテナ用基板、低誘電塗膜、低誘電接着剤、高周波数領域における次世代通信機器およびレーダーなどの用途などに適している。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は、[実施例]および[比較例]において、融解した組成物の厚みを制御し、融液が外部に流出するのを防ぐために、離型剤で処理した離型剤付きポリイミドフィルム上下に挟み込まれて使用される目的で作製したPTFEテープ製簡易金型の模式図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明に用いられるメソゲン骨格間に長い結合基を有する重合性液晶性化合物、およびその重合性液晶性化合物から選ばれる少なくとも1種を含有する低誘電率樹脂形成用組成物、該組成物を熱または紫外線で硬化させた低誘電率樹脂の高分子成形体である低誘電率樹脂絶縁膜、低誘電率樹脂フィルム、低誘電率樹脂シート、低誘電率樹脂部品、および該高分子形成体を用いた電子機器、ならびにこれらの製造方法について詳細に説明する。
本明細書における用語の使い方は以下のとおりである。
「液晶性化合物」は、ネマチック相やスメクチック相などの液晶相を有する化合物、および、液晶相を有しないが誘電率異方性、屈折率異方性、磁化率異方性などのような液晶に特有の物性を有し、液晶組成物の成分として有用な化合物の総称である。液晶温度範囲では配向処理が容易になり、熱可塑性樹脂における延伸処理のように分子の配向を制御することができる。
「化合物(1)」は、前記式(1)で表わされる重合性液晶性化合物を意味し、また、式(1)で表わされる化合物の少なくとも1種を意味することもある。なお、「化合物(1-1)」などについても同様であり、化合物(1-1)、化合物(1-2)および化合物(1-3)を総称して「化合物(1)」と表すこともある。1つの化合物(1)が複数のXを有するとき、任意の2つのXは同一でも異なっていてもよい。複数の化合物(1)がRを有するとき、任意の2つのRは同一でも異なっていてもよい。この規則は、nおよびMなど他の記号、基などにも適用される。
「重合体(1)」は該化合物(1)を重合させることによって得られる重合体の少なくとも1種を意味する。なお、「化合物(1)」と同様に、化合物(1-1)、化合物(1-2)および化合物(1-3)それぞれの重合体を総称して「重合体(1)」と表すこともある。
「組成物(1)」は、該化合物(1)から選ばれる少なくとも1種を含有する組成物、すなわち本発明の低誘電率樹脂形成用組成物を意味する。
【0030】
1)化合物(1)
本発明に用いられるメソゲン骨格間に長い結合基を有する重合性液晶性化合物(1)(以下、化合物(1)ということがある。)は、液晶骨格(棒状のメソゲン骨格)と重合性基を有し、好ましくは共役や極性基が少なく、分子の直線性や対称性が高く、高い重合反応性、広い液晶相温度範囲、良好な混和性などを有する。この化合物(1)は他の液晶性化合物や重合性化合物などと混合するとき、容易に均一になりやすい。
化合物(1)の融点は、成形・硬化温度の観点から好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下、さらに好ましくは160℃以下、または化合物(1)のネマチック相から液体への転移温度は、成形・硬化温度の観点から好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下、さらに好ましくは160℃以下である。
本発明に用いられる前記式(1)で表される化合物(1)は、環構造、結合基および末端基などの基から構成されている。化合物(1)の末端基R1aまたはR1b、環構造A、A、AまたはAおよび結合基Z、ZまたはZを適宜選択することによって、液晶相発現領域などの物性を任意に調整することができる。末端基、環構造および結合基の種類が、化合物(1)の物性に与える効果、ならびにこれらの好ましい例を以下に説明する。なお、環構造、結合基および末端基を、それぞれ「環構造A」、「結合基Z」および「末端基R」と総称して表すこともある。
なお、「アルキルにおける少なくとも1つの-CH-は、-O-で置き換えられてもよい」などの句の意味を一例で示す。たとえば、C-における少なくとも1つの-CH-が、-O-で置き換えられた基としては、C3O-、CH-O-(CH-、CH-O-CH-O-などである。このように「少なくとも1つの」という語は、「区別なく選択された少なくとも1つの」を意味する。なお、化合物の安定性を考慮して、酸素と酸素とが隣接したCH-O-O-CH-よりも、酸素と酸素とが隣接しないCH-O-CH-O-の方が好ましい。
【0031】
<環構造A :A、A、AおよびA
【0032】
化合物(1)の環構造A、A、AおよびAの特に好ましい例は、1,4-フェニレン、2-メチル-1,4-フェニレン、3-メチル-1,4-フェニレン、2,3-ジメチル-1,4-フェニレン、2,5-ジメチル-1,4-フェニレン、2,6-ジメチル-1,4-フェニレン、3,5-ジメチル-1,4-フェニレン、2-フルオロ-1,4-フェニレン、3-フルオロ-1,4-フェニレン、2,3-ジフルオロ-1,4-フェニレン、2,5-ジフルオロ-1,4-フェニレン、2,6-ジフルオロ-1,4-フェニレン、および3,5-ジフルオロ-1,4-フェニレン、
1,4-シクロヘキシレン、2-メチル-1,4-シクロヘキシレン、3-メチル-1,4-シクロヘキシレン、2,3-ジメチル-1,4-シクロヘキシレン、2,5-ジメチル-1,4-シクロヘキシレン、2,6-ジメチル-1,4-シクロヘキシレン、3,5-ジメチル-1,4-シクロヘキシレン、2-フルオロ-1,4-シクロヘキシレン、3-フルオロ-1,4-シクロヘキシレン、2,3-ジフルオロ-1,4-シクロヘキシレン、2,5-ジフルオロ-1,4-シクロヘキシレン、2,6-ジフルオロ-1,4-シクロヘキシレン、および3,5-ジフルオロ-1,4-シクロヘキシレンなどである。
【0033】
1,4-シクロヘキシレンの立体配置は、シス体であってもトランス体であってもよく、シス体の場合は融点が低く、トランス体の場合は直線性が高く低誘電を示す。
【0034】
環構造Aにおける少なくとも2つの環が1,4-シクロヘキシレンである場合、比誘電率が非常に低く、誘電損失が低く、かつ、粘度が小さい。また少なくとも2つの環がトランス-1,4-シクロヘキシレンである場合、透明点が高く、比誘電率が非常に低く、誘電損失が低く、かつ、粘度が小さい。シス-1,4-シクロヘキシレンの場合は融点が低く、トランス-1,4-シクロヘキシレンの場合は直線性が高く低誘電を示す。環構造Aにおける少なくとも1つの環が1,4-フェニレンの場合、難燃性に優れる。
【0035】
<結合基Z :Z、Z、およびZ
化合物(1)の結合基ZおよびZの好ましい例は、単結合、-(CH-、-O(CH-、-(CHO-、または-O(CHO-であり、ここでaは1~20の整数であり、bは1~19の整数であり、cは1~18の整数である。
結合基ZおよびZが、単結合、-(CH-、-(CHO-、-O(CH-、または-O(CHO-である場合、粘度が小さくなる。また、結合基ZおよびZが-(CH-、-(CHO-、-O(CH-、または-O(CHO-であり、aが2~12程度の整数であり、bが1~11程度の整数であり、cが1~10程度の整数である場合は分子長が長くなり、融点が低下し、かつ、有機溶媒への溶解性が高く、誘電正接が小さい。
化合物(1)の結合基Zの好ましい例は、-(CH-、-O(CH-、-(CHO-、または-O(CHO-であり、ここでdは4~20の整数であり、eは3~19の整数であり、fは2~18の整数であり、より好ましい例は、-(CH-、-O(CH-、-(CHO-、または-O(CHO-であり、ここでdは5~20の整数であり、eは4~19の整数であり、dは3~18の整数である。
結合基Zが、単結合、-(CH-、-(CHO-、-O(CH-、または-O(CHO-である場合、粘度が小さくなる。また、結合基Zが-(CH-、-(CHO-、-O(CH-、または-O(CHO-であり、dが5~12程度の整数であり、eが4~11程度の整数であり、fが3~10程度の整数である場合は分子長が長くなり、融点が低下し、かつ、有機溶媒への溶解性が高く、誘電正接が小さい。
【0036】
<末端基R :R1aおよびR1b
化合物(1)の末端基Rは、式(PG-1)で表される重合性基である。
【0037】
【0038】
式(PG-1)中、Rは、水素、ハロゲン、-CFまたは炭素数1~5のアルキルである。
また複数あるRは、それらが同一であっても異なっていてもよい。
【0039】
化合物(1)の末端基Rの好ましい例は、式(PG-1a)~(PG-1d)で表される重合性基が挙げられる。
【0040】
【0041】
これらの好ましい重合性基において、(PG-1a)~(PG-1d)は、α,β-不飽和ケトンの構造を有しているので、様々な手段により重合し、より大きな分子量を有する高分子へと変化させることができる。
【0042】
式(PG-1)で表される重合性基は、低誘電率樹脂の製造条件により、適切なものを選ぶことができる。たとえば、通常用いられる光硬化で低誘電率樹脂フィルムを作製する場合、高い硬化性、有機溶媒への溶解性、および取扱いのしやすさなどの点から、式(PG-1)で表されるアクリルやメタクリルが好ましい。
【0043】
以上のように、環構造A、結合基Z、および末端基Rの種類などを適宜選択することにより、目的の物性を有する化合物を得ることができる。好ましい化合物(1)の例としては、式(1-1)~(1-7)で表される化合物が挙げられる。
【0044】
【0045】
式(1-1)~(1-7)中、
およびZは独立して、単結合、-(CH-、-O(CH-、-(CHO-、-O(CHO-、-COO-、-OCO-、-CH=CH-COO-、-OCO-CH=CH-、-(CH-COO-、-OCO-(CH-、-CH=CH-、-SO-、-OCF-、または-CFO-であり、ここで、aは1~20の整数であり、bは1~19の整数であり、cは1~18の整数であり;
は、-(CH-、-O(CH-、-(CHO-、-O(CHO-、-CH=CH-COO-、-OCO-CH=CH-、-(CH-COO-、または-OCO-(CH-であり、ここで、dは4~20の整数であり、eは3~19の整数であり、fは2~18の整数であり;
Xは、フッ素またはメチルであり、
nは、0~4の整数であり、
式中にXが複数ある場合は、それらが同一であっても異なっていてもよく、
1aおよびR1bは、式(PG-1)で表される重合性基であり、
式(PG-1)中、Rは、水素、ハロゲン、-CF3、または炭素数1~5のアルキルであり、式中に複数あるRは、それらが同一であっても異なっていてもよい。
【0046】
化合物(1)のより好ましい具体例を以下に示す。
【0047】
【0048】
式(1-1a)、(1-7a)中、
は、水素、ハロゲン、-CF3、または炭素数1~5のアルキルであり、
は、-(CH-、-O(CH-、-(CHO-、-O(CHO-、-CH=CH-COO-、-OCO-CH=CH-、-(CH-COO-、または-OCO-(CH-、であり、ここで、dは4~20の整数であり、eは3~19の整数であり、fは2~18の整数であり、
mは、0~19の整数であり、
Mは、単結合または酸素であり、
Xは、フッ素またはメチルであり、
nは、0~4の整数であり、
式中のXが複数ある場合は、それらが同一であっても異なっていてもよく、
式中に、複数あるR、m、またはMは、それらが同一であっても異なっていてもよい。
【0049】
[化合物(1)の合成方法]
化合物(1)は、有機合成化学における公知の手法を組み合わせることにより合成できる。出発物質に目的の末端基、環構造および結合基を導入する方法は、たとえば、ホーベン-ワイル(Houben-Wyle, Methods of Organic Chemistry, Georg Thieme Verlag, Stuttgart)、オーガニック・シンセシーズ(Organic Syntheses, John Wily & Sons, Inc.)、オーガニック・リアクションズ(Organic Reactions, John Wily & Sons Inc.)、コンプリヘンシブ・オーガニック・シンセシス(Comprehensive Organic Synthesis, Pergamon Press)、新実験化学講座(丸善)などの成書に記載されている。
【0050】
結合基Zの導入方法について、下記スキーム1~4で説明する。これらのスキームにおいて、MSGおよびMSGは、少なくとも一つの環を有する1価の有機基を示し、Halはハロゲンを示す。下記スキームで用いた複数のMSG(またはMSG)は、同一でも異なっていてもよい。下記スキームにおける化合物(1A)~(1F)は上記化合物(1)に相当する。これらの方法は、光学活性な化合物(1)および光学的に不活性な化合物(1)の合成に適用できる。
【0051】
(スキーム1)Zが単結合の化合物
下記に示すように、アリールホウ酸(S1)と公知の方法で合成される化合物(S2)とを、炭酸塩水溶液およびテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムのような触媒の存在下で反応させることにより、MSGとMSGとの間に単結合が導入された化合物(1A)を合成することができる。この化合物(1A)は、公知の方法で合成される化合物(S3)に、n-ブチルリチウム、次いで塩化亜鉛を反応させた後、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムのような触媒の存在下で化合物(S2)をさらに反応させることによっても合成することができる。
【0052】
【0053】
(スキーム2)Zが-(CH-の化合物
下記に示すように、上記のようにして得られた化合物(1B)をパラジウム炭素などの触媒の存在下で水素化することにより、MSGとMSGとの間に-(CH2-を有する化合物(1C)を合成することができる。
【0054】

【0055】
(スキーム3)Zが-(CH4-の化合物
下記に示すように、スキーム3の方法に従って、ホスホニウム塩(S7)を用いて-(CH2-CH=CH-を有する化合物を合成し、これを上記スキーム2と同様にして接触水素化することにより、MSGとMSGとの間に-(CH4-が導入された化合物(1E)を合成することができる。
【0056】
【0057】
(スキーム4)Zが-CHO-または-OCH-の化合物
下記に示すように、化合物(S4)を水素化ホウ素ナトリウムなどの還元剤で還元して化合物(S8)を得る。これを臭化水素酸などでハロゲン化して化合物(S9)を得る。この化合物(S9)と化合物(S10)とを、炭酸カリウムなどの存在下で反応させることにより、MSGとMSGとの間に-OCH-(または-CHO-)が導入された化合物(1F)を合成することができる。
【0058】
【0059】
2)重合体(1)
本発明に用いられる化合物(1)は重合性基(末端基R)を有するので、容易に重合させることが可能である。本発明における重合体(1)は、該化合物(1)を重合させることによって得られる重合体の少なくとも1種である。次項の組成物(1)において、その他の少なくとも1種の成分として組み合わせで構成される重合体(1)としては、化合物(1)のオリゴマーであってもよい。このオリゴマーは、重合体(1)を構成する化合物(1)の構成単位(constitutional unit)の数(重合度)が少ない低重合体を意味する。オリゴマーのうち、構成単位の数に応じて、ダイマー(dimer:二量体)、トライマー(trimer:三量体)、テトラマー(tetramer:四量体)などと呼ぶこともある。
【0060】
3)組成物(1)
本発明における組成物(1)は、化合物(1)を少なくとも1種含む組成物である。すなわち、組成物(1)は、2種以上の化合物(1)で構成されていてもよく、また、少なくとも1種の化合物(1)と、重合体(1)を含む化合物(1)以外のその他の少なくとも1種の成分との組み合わせで構成されていてもよい。このようなその他の少なくとも1種の成分である構成要素としては、特に限定されないが、たとえば、重合体(1)、化合物(1)以外の重合性化合物(以下「その他の重合性化合物」ともいう。)、重合開始剤、硬化剤、有機溶媒、非重合性の液晶性化合物、無機充填剤および繊維状補強剤などが挙げられる。好ましい組成物(1)としては、少なくとも1種の化合物(1)および重合体(1)で構成される組成物、少なくとも1種の化合物(1)およびその他の重合性化合物で構成される組成物、ならびに少なくとも1種の化合物(1)、重合体(1)およびその他の重合性化合物で構成される組成物などが挙げられる。
【0061】
4)その他の重合性化合物
組成物(1)は、化合物(1)以外の重合性化合物(その他の重合性化合物)を含んでいてもよい。化合物(1)以外の重合性化合物は、以下の化合物(1)以外の重合性液晶性化合物(以下「その他の重合性液晶性化合物」ともいう。)の少なくとも1種および化合物(1)以外の重合性非液晶性化合物(以下「その他の重合性非液晶性化合物」ともいう。)の少なくとも1種から構成される。
4-1)その他の重合性液晶性化合物
組成物(1)は、化合物(1)以外の重合性液晶性化合物の少なくとも1種を含んでいてもよい。重合性液晶組成物である組成物(1)の液晶相の発現ならびに化合物(1)および有機溶媒などとの相溶性の観点から、例えば式(M1)、(M2)または(M3)で表される化合物(ただし、化合物(1)を除く。)が、該重合性液晶性化合物として好ましい。
【0062】
【0063】
式(M1)、(M2)、および(M3)中、
は独立し、1,4-フェニレン、1,4-シクロへキシレン、1,4-シクロへキセニレン、ピリジン-2,5-ジイル、1,3-ジオキサン-2,5-ジイル、ナフタレン-2,6-ジイル、またはフルオレン-2,7-ジイルから選ばれるいずれかの二価基であり、該二価基において、少なくとも一つの水素はフッ素、塩素、シアノ、ヒドロキシ、ホルミル、トリフルオロアセチル、ジフルオロメチル、トリフルオロメチル、炭素数1~5のアルキル、炭素数1~5のアルコキシ、炭素数2~5のアルコキシカルボニル、または炭素数2~5のアルカノイルで置き換えられてもよく、
は独立して、単結合、-OCH-、-CHO-、-COO-、-OCO-、-COS-、-SCO-、-OCOO-、-CONH-、-NHCO-、-CFO-、-OCF-、-CHCH-、-CFCF-、-CH=CHCOO-、-OCOCH=CH-、-CHCHCOO-、-OCOCHCH-、-COOCHCH-、-CHCHOCO-、-CH=CH-、-N=CH-、-CH=N-、-N=C(CH)-、-C(CH)=N-、-N=N-、-C≡C-、-CH=N-N=CH-、または-C(CH)=N-N=C(CH)-であり、
は水素、フッ素、塩素、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、シアノ、炭素数1~20のアルキル、炭素数2~20のアルケニル、炭素数1~20のアルコキシ、または炭素数2~20のアルコキシカルボニルであり、
は独立して、単結合、-O-、-COO-、-OCO-、または-OCOO-であり、
は、単結合、-O-、-COO-、または-OCO-であり、
qは1~6の整数であり、
cおよびdは独立して、0~3の整数であり、かつ、1≦c+d≦6の関係であり、aは0~20の整数であり、
は水素またはメチルである。
【0064】
4-2)その他の重合性非液晶性化合物
組成物(1)は、その他の重合性非液晶性化合物の少なくとも1種を構成要素としてもよい。このようなその他の重合性非液晶性化合物としては、膜形成性および機械的強度を低下させない化合物が好ましい。この重合性非液晶性化合物は、液晶性を有しない化合物に分類される。液晶性を有しない重合性化合物であるその他の重合性非液晶性化合物としては、ビニル誘導体、スチレン誘導体、(メタ)アクリル酸誘導体、ソルビン酸誘導体、フマル酸誘導体、イタコン酸誘導体などの誘導体、変性ポリイミドオリゴマー、変性マレイミドオリゴマー、変性ポリフェニレンエーテルオリゴマー、変性ポリフェニレンサルファイドオリゴマー、変性ポリブタジエンエラストマーなどの変性されたエンジニアリングプラスチックのオリゴマー、すなわち重合性官能基を有する高分子量化合物を意味するマクロマーが挙げられる。これらの誘導体の好ましい例を以下に示す。
文中、「(メタ)アクリロイルオキシ」は、アクリロイルオキシまたはメタクリロイルオキシを意味し、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートまたはメタクリレートを意味し、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸またはメタクリル酸を意味する。
【0065】
好ましいビニル誘導体としては、たとえば、塩化ビニル、フッ化ビニル、酢酸ビニル、ピバリン酸ビニル、2,2-ジメチルブタン酸ビニル、2,2-ジメチルペンタン酸ビニル、2-メチル-2-ブタン酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、2-エチル-2-メチルブタン酸ビニル、N-ビニルアセトアミド、p-t-ブチル安息香酸ビニル、N,N-ジメチルアミノ安息香酸ビニル、安息香酸ビニル、エチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルモノビニルエーテル、t-アミルビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールメチルビニルエーテル、α,β-ビニルナフタレン、メチルビニルケトン、イソブチルビニルケトンなどが挙げられる。
【0066】
好ましいスチレン誘導体としては、たとえば、スチレン、o-クロロスチレン、m-クロロスチレン、p-クロロスチレン、o-クロロメチルスチレン、m-クロロメチルスチレン、p-クロロメチルスチレン、α-メチルスチレンなどが挙げられる。
【0067】
好ましい(メタ)アクリル酸誘導体としては、たとえば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールEO付加トリアクリレート、ペンタエリストールトリアクリレート、トリス(メタ)アクリロイルオキシエチルフォスフェート、ビスフェノールA EO付加ジアクリレート、ビスフェノールA グリジジルジアクリレート(商品名:大阪有機化学工業(株)製「ビスコート700」)、ポリエチレングリコールジアクリレートジメチルイタコネートなどが挙げられる。
【0068】
好ましいソルビン酸誘導体としては、たとえば、ソルビン酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、ソルビン酸リチウム、ソルビン酸1-ナフチルメチルアンモニウム、ソルビン酸ベンジルアンモニウム、ソルビン酸ドデシルアンモニウム、ソルビン酸オクタデシルアンモニウム、ソルビン酸メチル、ソルビン酸エチル、ソルビン酸プロピル、ソルビン酸イソプロピル、ソルビン酸ブチル、ソルビン酸t-ブチル、ソルビン酸ヘキシル、ソルビン酸オクチル、ソルビン酸オクタデシル、ソルビン酸シクロペンチル、ソルビン酸シクロヘキシル、ソルビン酸ビニル、ソルビン酸アリル、ソルビン酸プロパギルなどが挙げられる。
【0069】
好ましいフマル酸誘導体としては、たとえば、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジイソプロピル、フマル酸ジブチル、フマル酸ジシクロペンチル、フマル酸ジシクロヘキシルなどが挙げられる。
【0070】
好ましいイタコン酸誘導体としては、たとえば、ジエチルイタコネート、ジブチルイタコネート、ジイソプロピルイタコネートなどが挙げられる。
これらの他にも、ブタジエン、イソプレン、マレイミドなど、多くの重合性非液晶性化合物を用いることができる。
【0071】
5)重合開始剤
組成物(1)は重合開始剤を構成要素としてもよい。重合開始剤は、組成物(1)の硬化方法(重合方法)に応じて、たとえば熱ラジカル重合開始剤、光ラジカル重合開始剤、光カチオン重合開始剤などを用いればよい。本発明に用いられる重合性化合物を、無機フィラーと複合化し高熱伝導化させる場合には、無機フィラーが光を吸収してしまうので、熱ラジカル重合開始剤を使用することが好ましい。無機フィラーとの複合材料を数μmの厚みの薄膜で使用する場合には、開始剤を増やしたり、強力な開始剤を使用したりすることにより、光重合で硬化させることも可能である。
【0072】
好ましい熱ラジカル重合開始剤としては、たとえば、過酸化ベンゾイル、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシピバレート、ジ-t-ブチルパーオキシド(DTBPO)、t-ブチルパーオキシジイソブチレート、過酸化ラウロイル、2,2’-アゾビスイソ酪酸ジメチル(MAIB)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル(ACN)、2,2’-アゾビス(イソ酪酸)ジメチルなどが挙げられる。
市販品の過酸化物系の開始剤としては、各社から市販されている過酸化ベンゾイルの他、東京化成工業(株)製「ジクミルペルオキシド」、日油(株)製「パークミルD、ナイパーBMT、パーヘキサ25Z」などが挙げられる。アゾ重合開始剤としては、たとえば、各社から市販されているAIBNの他、富士フイルム和光純薬(株)製「V―40、V-50、V-59、V-65、V-70、V-501、V-601」などが挙げられる。一般に、アゾ重合開始剤は熱ラジカル重合と光ラジカル重合の両方に好適に使用できる。
【0073】
光ラジカル重合開始剤としては、特に限定されず、公知のものを使用することができ、
たとえば、4-メトキシフェニル-2,4-ビス(トリクロロメチル)トリアジン、2-(4-ブトキシスチリル)-5-トリクロロメチル-1,3,4-オキサジアゾール、9-フェニルアクリジン、9,10-ベンズフェナジン、ベンゾフェノン/ミヒラーズケトン混合物、ヘキサアリールビイミダゾール/メルカプトベンズイミダゾール混合物、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、ベンジルジメチルケタール、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オン、2,4-ジエチルキサントン/p-ジメチルアミノ安息香酸メチル混合物、ベンゾフェノン/メチルトリエタノールアミン混合物などが挙げられる。市販品としては、たとえば、チバ・スペシャリティー社製「ダロキュアーシリーズ1173、4265」、「イルガキュアーシリーズ184、369、500、651、784、819、907、1300、1700、1800、1850、2959」などが挙げられる。
【0074】
光カチオン重合開始剤としては、特に限定されず、公知のものを使用することができ、たとえば、UCC社製「サイラキューアーUVI-6990、6974」、(株)ADEKA製「アデカオプトマーSP-150、152、170、172」、ローディア社製「Photoinitiator 2074」、チバ・スペシャリティー社製「イルガキュアー250」、みどり化学(株)製「DTS-102」などの市販品が挙げられる。
【0075】
アニオン重合、配位重合およびリビング重合用の好ましい開始剤としては、たとえば、n-C49Li、t-C49Li-R3Alなどのアルカリ金属アルキル化合物、アルミニウム化合物、遷移金属化合物などが挙げられる。
【0076】
6)硬化剤
組成物(1)が、エーテル結合を有する環状化合物である環状エーテルを構成要素とする場合、硬化剤を構成要素として含有してもよい。好ましい硬化剤の例を以下に示す。
【0077】
アミン系硬化剤として、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、o-キシレンジアミン、m-キシレンジアミン、p-キシレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、イソホロンジアミン、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン、ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ノルボルネンジアミン、1,2-ジアミノシクロヘキサン、3,9-ジプロパンアミン-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノ-1,2-ジフェニルエタン、o-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、ポリオキシプロピレンジアミン、ポリオキシプロピレントリアミン、ポリシクロヘキシルポリアミン、N-アミノエチルピペラジンなどが挙げられる。
【0078】
酸無水物系硬化剤として、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルナジック酸無水物、水素化メチルナジック酸無水物、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルシクロヘキセンテトラカルボン酸二無水物、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメチレート、グリセリンビス(アンヒドロトリメリテート)モノアセテート、デデセニル無水コハク酸、クロレンド酸無水物などが挙げられる。
【0079】
フェノール系硬化剤として、フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、2,3-キシレノール、2,5-キシレノール、2,6-キシレノール、3,4-キシレノール、3,5-キシレノール、m-エチルフェノール、p-エチルフェノール、2,3,5-トリメチルフェノール、2,3,6-トリメチルフェノール、o-イソプロピルフェノール、p-tert-ブチルフェノール、o-sec-ブチルフェノール、p-オクチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、レゾルシノール、1-ナフトール、2-ナフトール、ビスフェノールA、フェノールノボラック、キシリレンノボラック、ビスフェノールAノボラックなどが挙げられる。
上記以外にも特開2004-256687号公報、特開2002-226550号公報などに記載されている硬化剤も使用することができる。
【0080】
活性エステル系硬化剤としては、特に限定されず、公知のものを使用することができ、たとえば、ジシクロペンタジエン型ジフェノール構造を含む活性エステル化合物としてDIC(株)製「HPC-8000H-65T」、ナフタレン構造を含む活性エステル化合物としてDIC(株)製「EXB-8150-65T」、フェノールノボラックのアセチル化物を含む活性エステル化合物として三菱ケミカル(株)製「DC808」、フェノールノボラックのベンゾイル化物を含む活性エステル化合物として三菱ケミカル(株)製「YLH1026」、フェノールノボラックのアセチル化物である活性エステル系硬化剤として三菱ケミカル(株)製「DC808」、フェノールノボラックのベンゾイル化物である活性エステル系硬化剤として三菱ケミカル(株)製「YLH1026」などの市販品が挙げられる。
【0081】
また、硬化促進剤として、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(DBU)、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン、5,6-ジブチルアミノ-1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン等のシクロアミジン化合物;該シクロアミジン化合物に無水マレイン酸、1,4-ベンゾキノン、2,5-トルキノン、1,4-ナフトキノン、2,3-ジメチルベンゾキノン、2,6-ジメチルベンゾキノン、2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ベンゾキノン、2,3-ジメトキシ-1,4-ベンゾキノン、フェニル-1,4-ベンゾキノン等のキノン化合物、ジアゾフェニルメタン、フェノール樹脂などのπ結合を有する化合物を付加してなる分子内分極を有する化合物;ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等の3級アミン化合物;該3級アミン化合物の誘導体;2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール等のイミダゾール化合物;該イミダゾール化合物の誘導体;トリブチルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリス(4-メチルフェニル)ホスフィン、ジフェニルホスフィン、フェニルホスフィン等の有機ホスフィン化合物;該有機ホスフィン化合物に無水マレイン酸、上記キノン化合物、ジアゾフェニルメタン、フェノール樹脂等のπ結合を有する化合物を付加してなる分子内分極を有するリン化合物;テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、トリフェニルホスフィンテトラフェニルボレート、2-エチル-4-メチルイミダゾールテトラフェニルボレート、N-メチルモルホリンテトラフェニルボレート等のテトラフェニルボロン塩;該テトラフェニルボロン塩の誘導体;トリフェニルホスホニウム-トリフェニルボラン、N-メチルモルホリンテトラフェニルホスホニウム-テトラフェニルボレート等のホスフィン化合物と該テトラフェニルボロン塩との付加物などが挙げられる。
【0082】
7)有機溶媒
組成物(1)は有機溶媒を含有してもよい。組成物(1)の硬化は有機溶媒中で行っても、無溶媒で行ってもよい。たとえば、有機溶媒を含有する組成物(1)を基板上に、スピンコート法などにより塗布した後、有機溶媒を除去してから光硬化させてもよい。また、光硬化後適当な温度に加温して熱硬化により後処理を行ってもよい。
【0083】
好ましい有機溶媒としては、たとえば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、テトラヒドロフラン、γ-ブチロラクトン、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、酢酸2-メトキシ-1-メチルエチル(プロピレングリコールメチルエーテルアセタート:PGMEA)などが挙げられる。上記有機溶媒は1種単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
なお、硬化時の有機溶媒の使用割合を限定することにはあまり意味がなく、硬化効率、溶媒コスト、エネルギーコストなどを考慮して、個々のケースごとに決定すればよい。
【0084】
本発明の組成物(1)は、総重量の70wt%以下の有機溶媒を含有していることが好ましく、無溶媒の組成物であることが特に好ましい。なお、無溶媒の組成物とは、有機溶媒を使用することなく常温で流動性を保持し、または溶融時に高い流動性を示すワニス状に調製することが可能な組成物である。総重量の70wt%以下の有機溶媒を含有する組成物、または無溶媒の組成物を用いることで硬化物濃度が高くなるため硬化物の機能を有効に発現することができる。
硬化前の組成物(1)は、常温付近で液体状態であって流動性を保持しており、そのまま無溶媒または総重量に対して70wt%以下の有機溶媒を含有するワニスとして使用できる。すなわち、そのままコーティングまたは接着などの用途に使用でき、高温で溶媒を揮発させる工程などが必要ない。
なお、ここで使用し得る有機溶媒としては、環境負荷の観点から比較的毒性の低いアセトン、メチルエチルケトン、トルエン、キシレン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、エチレングリコールモノメチルエーテル、N,N-ジメチルホルムアミド、メタノール、エタノールなどが挙げられる。本発明の組成物(1)は非有機溶媒系での高い耐熱性と高い低誘電率樹脂形成が可能であることから、プリント配線基板用積層板、基板用層間絶縁材料、接着フィルム、半導体封止剤、導電性接着剤など各種電子部品用の絶縁材料を提供できる。
【0085】
8)非重合性の液晶性化合物
組成物(1)は、重合性基を有しない液晶性化合物を構成要素としてもよい。このような非重合性の液晶性化合物の例は、液晶性化合物のデータベースであるリクリスト(LiqCryst, LCI Publisher GmbH, Hamburg, Germany)などに記載されている。非重合性の液晶性化合物を含有する組成物(1)を硬化させることによって、化合物(1)の重合体と液晶性化合物との複合材料(composite materials)を得ることができる。このような複合材料では、たとえば、高分子分散型液晶のような高分子網目中に非重合性の液晶性化合物が存在している。
【0086】
9)無機充填剤および繊維状補強剤
熱伝導率向上、機械強度向上、粘度調整などのために、無機充填剤を組成物(1)に加えることができる。なお、本明細書では無機充填剤を無機フィラーということがある。
たとえば、誘電損失を抑えるためには、球状シリカ、粉砕シリカ、中空シリカ、ヒュームドシリカなどの珪素化合物、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタンなどの金属酸化物、チタン酸カリウムなどの金属塩であってもよい。好ましくは、球状シリカ、中空シリカ、酸化マグネシウム、チタン酸カリウムが好ましく、より好ましくは中空シリカが好ましい。
基板や樹脂部品としての強度を高くするための、繊維状またはウイスカー状の充填剤として、繊維状補強剤が使用できる。ガラスクロス、低誘電ガラスクロス、カーボンファイバー、カーボンナノチューブなどの無機繊維、珪酸塩ウイスカー、アルミナウイスカー、酸化マグネシウムウイスカー、酸化亜鉛ウイスカー、窒化アルミニウムウイスカーなどの無機ウイスカーが好ましく、より好ましくは低誘電ガラスクロス、酸化アルミニウムウイスカー、窒化アルミニウムウイスカーが好ましい。
機械的強度を高くするためには、充填剤が多い方が好ましいが、多すぎると樹脂が充填剤の隙間を埋めることができない場合がある。また樹脂が多すぎても機械強度を高くする効果が表れない場合がある。また、充填剤を増やすと誘電率が高く、誘電正接が下がる傾向があるので、両者のバランスを取りながら組成を決めることが好ましい。また、無機物の繊維の他に、有機物の繊維を使用することもできる。機械強度の高い有機繊維として、ポリアミド繊維、アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、液晶性ポリエステル繊維などが挙げられる。無機繊維に比べると軽量であり、携帯型機器の基板などに好ましい。
熱伝導率の高い充填剤としては、粉末状の窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化珪素などの金属窒化物からなる窒化物充填剤、ダイアモンド、黒鉛、炭化珪素などの炭化物、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化珪素、酸化チタン、酸化錫、酸化ホルミニウム、酸化カルシウムなどの金属酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、などの金属水酸化物、およびコーディエライト、またはムライトなどの珪酸塩化合物、金、銀、銅、白金、鉄、錫、鉛、ニッケル、アルミニウム、マグネシウム、タングステン、モリブデン、ステンレスなどの金属充填剤であってもよい。好ましくは、誘電率が低い、窒化ホウ素、酸化珪素が好ましく、特に六方晶系の窒化ホウ素(h-BN)は誘電率が低く熱伝導率が高いので好ましい。熱伝導率などは無機フィラーが多いほど高くなるが、一般に無機フィラーは樹脂成分とくらべ、比誘電率が大きく誘電正接が小さいので、充填量を増やすと誘電率が大きくなる。したがって、充填量は目的とする誘電率を超えない範囲で必要量を充填することが好ましい。
本発明の組成物(1)は透明性が高く、低誘電だけでなく、低屈折光学材料に使用する場合は、中空シリカ、球状シリカ、酸化チタン、酸化ジルコニウムなどの粉末を加え、屈折率を調整することができる。
【0087】
充填剤の形状としては、球状、無定形、繊維状、ウイスカー状、筒状、板状などが挙げられる。充填剤の種類、形状、大きさ、添加量などは、目的に応じて適宜選択できる。得られる高分子成形体が絶縁性を必要とする場合、所望の絶縁性および機械強度、誘電率、誘電損失が保たれれば導電性を有する充填剤であっても構わない。
【0088】
球状または不定形状の充填剤の平均粒径は、0.1~200μmであることが好ましい。より好ましくは、1~100μmである。0.1μm以上であると熱伝導率が良好であり、200μm以下であると充填率を上げることができる。また、繊維状の充填剤に関しては、繊維長が長いほど引張強度は向上するが、混練や分散はできなくなる場合があるので、用途によって選択することが好ましい。分散させる場合は、繊維状充填剤の平均粒径は、0.01~200μmであることが好ましい。より好ましくは、0.1~100μmである。0.01μm以上であると熱伝導率が良好であり、200μm以下であると機械強度を上げることができる。
充填剤の量は、硬化後の高分子成形体中20~95wt%の充填剤を含有するようにすることが好ましい。より好ましくは、50~95wt%である。20wt%以上であると熱伝導率が高くなり好ましい。95wt%以下であると高分子成形体が脆くならず好ましい。
【0089】
充填剤としては、親和処理、易接着処理、分散処理、防水処理などの表面処理された市販品をそのまま用いてもよく、該市販品から表面処理剤を除去したものを用いてもよい。また、処理されていない充填剤を、シランカップリング剤、親和剤、表面張力調整剤、沈降防止剤、凝集防止剤などにより処理して用いてもよい。
【0090】
10)その他の添加剤
化合物(1)および組成物(1)は高い重合性を有するので、取扱いを容易にするために、安定剤を組成物(1)に添加してもよい。このような安定剤としては、公知のものを制限なく使用でき、たとえば、ハイドロキノン、4-エトキシフェノールおよび3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン(BHT)などが挙げられる。
低誘電正接(低tanδ)、高ガラス転移温度が求められる用途では、架橋剤を添加することが好ましい。架橋剤は本発明に用いられる末端に重合性基を有する化合物(1)の重合性基と化学結合し、3次元架橋を形成するものが好ましい。
【0091】
本発明の組成物(1)は、硬化物の特性を調整するために、本発明に用いられる化合物(1)と反応しない他の樹脂を添加してもよい。たとえば、ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE樹脂)、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリブタジエン共重合体、ポリビニルアセタール樹脂、天然ゴム、合成ゴム、合成エラストマー、本発明に用いられる化合物(1)の骨格とは異なるエポキシ樹脂、オキセタン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、マレイミド樹脂、オキサジン樹脂、オキサゾリン樹脂などが挙げられる。特に誘電特性を重視する場合には、ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE樹脂)、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂が好ましい。これらの樹脂中に未反応の部位があり、本発明に用いられる化合物(1)と反応する場合もあるが、その場合は架橋のような構造になるため、完全に反応しない場合と比べ特性が向上する効果が期待できる。
【0092】
11)低誘電率樹脂
本発明の別の実施形態である低誘電率樹脂は、上記組成物(1)の硬化物なので低い誘電率を有するとともに、熱伝導率、耐熱性、剛性、弾性、成形流動性、耐薬品性、および寸法安定性等にも優れる。
【0093】
低誘電率樹脂が液晶性を示す場合、硬化前の配向処理により分子配向を制御できる。比誘電率と熱伝導率は分子の配向方向により異方性が発現する。たとえば電子基板の誘電率設計や熱設計の際に、発熱するICの真下は厚み方向に熱伝導率が高く、ICの真下以外は横方向に配向させて熱を広範囲に広げるようにデザインするなど、より進んだ材料設計が可能になる。配向方法は下記方法により制御できる。
低誘電率樹脂形成用組成物中の液晶分子のメソゲン部位を配向制御する方法としては、無機フィラー表面に配向能を有するシランカップリング剤や配向剤などで処理する方法、該組成物自体が有する自己配向規制力により配向させる方法などが挙げられる。これらの方法は、1種単独で行っても、2種以上を組み合わせて行ってもよい。このような配向制御方法により制御する配向状態としては、たとえば、ホモジニアス、ツイスト、ホメオトロピック、ハイブリッド、ベンドおよびスプレー配向などが挙げられ、用途や配向制御方法に応じて適宜決定することができる。また、製膜時や成形時において、硬化前に液晶状態で、ずり応力を加え物理的に配向させることもできる。
【0094】
配向温度は、室温~250℃、好ましくは室温~200℃、より好ましくは室温~180℃の範囲である。上記熱処理時間は、5秒~2時間、好ましくは10秒~60分、より好ましくは20秒~30分の範囲である。熱処理時間が上記範囲よりも短いと、組成物(1)からなる層の温度を所定の温度まで上昇できないことがあり、上記範囲よりも長いと、生産性が低下することがある。なお、上記熱処理条件は、組成物(1)に用いられる成分の種類および組成比、重合開始剤の有無および含有量などによって変化するため、あくまでおおよその範囲を示したものである。特に、組成物(1)に用いられる重合性成分の重合開始温度より高くなってしまうと、配向する前に硬化してしまうので、分子鎖が一定方向に配向した低誘電率樹脂は得られない。
【0095】
組成物(1)の硬化方法(重合方法)としては、たとえば、重合性基(重合性成分)のラジカル重合法、アニオン重合法、カチオン重合法、配位重合法などが挙げられるが、分子配列を固定化したり、らせん構造を固定化したりするには、電子線、紫外線、可視光線または赤外線(熱線)などの光線や熱を利用した熱重合法や光重合法が適している。熱重合法はラジカル重合開始剤の存在下で行うことが好ましく、光重合法は光ラジカル重合開始剤の存在下で行うのが好ましい。たとえば、光ラジカル重合開始剤の存在下、紫外線または電子線などを照射する重合法によって、液晶分子の配列が固定化された重合体が得られる。得られる重合体は、単独重合体、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体のいずれであってもよく、用途などに応じて適宜選択すればよい。
【0096】
組成物(1)の配向を光重合法により固定する際には、通常、紫外線または可視光線が用いられる。光照射に用いられる光の波長は、150~500nm、好ましくは250~450nm、より好ましくは300~400nmの範囲である。光照射の光源としては、たとえば、低圧水銀ランプ(殺菌ランプ、蛍光ケミカルランプ、ブラックライト)、高圧放電ランプ(高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ)およびショートアーク放電ランプ(超高圧水銀ランプ、キセノンランプ、水銀キセノンランプ)、紫外線発光ダイオードなどが挙げられる。これらの中では、メタルハライドランプ、キセノンランプ、紫外線発光ダイオードおよび高圧水銀ランプが好ましい。
【0097】
上記光源と組成物(1)との間にフィルターなどを設置して特定の波長領域のみを通すことにより、照射光源の波長領域を選択してもよい。光源から照射する光量は、2~5000mJ/cm2、好ましくは10~3000mJ/cm2、より好ましくは100~2000mJ/cm2の範囲である。光照射時の温度条件は、上述した熱処理温度と同様に設定されることが好ましい。
【0098】
熱重合法により組成物(1)の配向を固定化する条件としては、熱硬化温度が、室温~350℃、好ましくは室温~250℃、より好ましくは50℃~200℃の範囲であり、硬化時間は、5秒~10時間、好ましくは1分~5時間、より好ましくは5分~1時間の範囲である。硬化後は、応力ひずみなど抑制するために徐冷することが好ましい。また、再加熱処理を行い、ひずみなどを緩和させてもよい。
【0099】
上記のようにして配向制御した硬化物または硬化過程の組成物を延伸などの機械的操作により、さらに任意の方向に配向制御してもよい。
単離した重合体(1)は、有機溶媒に溶かしてその他の成分とともに組成物を調製して、配向処理基板上で配向・硬化させフィルムなどに加工してもよく、この場合2つの重合体を混合して加工してもよく、複数の重合体を積層させてもよい。該有機溶媒としては、たとえば、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドジメチルアセタール、テトラヒドロフラン、クロロホルム、1,4-ジオキサン、ビス(メトキシエチル)エーテル、γ-ブチロラクトン、テトラメチル尿素、トリフルオロ酢酸、トリフルオロ酢酸エチル、ヘキサフルオロ-2-プロパノール、2-メトキシエチルアセテート、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどが好ましい。これらは、アセトン、ベンゼン、トルエン、ヘプタン、塩化メチレンなど一般的な少量の有機溶媒と混合して用いてもよい。
【0100】
直線性の高い低誘電率樹脂形成用組成物が、非常に狭い範囲で液晶相を示す場合は、結晶性が高い場合には一定方向に軸が揃ったドメインを形成するので、ビスフェノールA構造などの重合性化合物と比べ熱伝導率が高くなる。また、配向方向が揃った高分子シートの表面や結晶性の樹脂フィラーなどを結晶成長のコアとして存在させた状態で、等方相液体の状態からゆっくり硬化させることによっても、配向や結晶性が制御できる。ただし、結晶性を高くし過ぎるとフレキシブル性が低くなる傾向があるので、適切な結晶性の組成物を使用する必要がある。
【0101】
12)低誘電率樹脂絶縁膜、低誘電率樹脂フィルム、および低誘電率樹脂シート
本発明の高分子成形体は、上記組成物(1)からなる低誘電率樹脂形成用組成物の硬化物である低誘電率樹脂の成形体であり、薄膜状の低誘電率樹脂絶縁膜として用いられるほか、フィルム状、シート状、板状、繊維状、三次元形状の部品(コネクターの絶縁部分)、またはそのままコート剤、接着剤や充填剤として使用することもできる。
薄膜状、フィルム状、シート状、板状、繊維状、三次元形状の成形体などで使用する場合、好ましい形状はフィルムおよび薄膜である。フィルムおよび薄膜は、組成物(1)を基板や離型フィルムに塗布した状態、または基板や金型などの平板で挟んだ状態で硬化させることによって得られる。また、有機溶媒を含有する組成物(1)を、配向処理した基板に塗布し、有機溶媒を除去することによっても得られる。さらに、フィルムについては、硬化物をプレス成形することによっても得られる。なお、本明細書におけるシートの膜厚は1mm以上であり、フィルムの膜厚は5μm以上1mm未満、好ましくは10~500μm、より好ましくは20~300μmであり、薄膜の膜厚は5μm未満である。
【0102】
以下、有機溶媒を含有する組成物(1)を用いて、高分子成形体としてのフィルムを製造する方法について具体的に説明する。
まず、離型処理した基板上に組成物(1)を塗布し、有機溶媒を乾燥除去して膜厚の均一な塗膜層を形成する。塗布方法としては、たとえば、スピンコート法、ロールコート法、カーテンコート法、フローコート法、プリント法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、ワイヤーバーコート法、デップコート法、スプレーコート法、メニスカスコート法などが挙げられる。
【0103】
有機溶媒の乾燥除去は、たとえば、室温での風乾、ホットプレートでの乾燥、乾燥炉での乾燥、温風や熱風の吹き付けなどにより行うことができる。有機溶媒除去の条件は特に限定されず、有機溶媒がおおむね除去され、塗膜層の流動性がなくなるまで乾燥すればよい。なお、組成物(1)に用いる化合物の種類と組成比によっては、塗膜層を乾燥する過程で、塗膜層中の液晶分子の分子配向が完了していることがある。このような場合、乾燥工程を経た塗膜層は、前述した熱処理工程を経由することなく、重合工程(硬化工程)に供することができる。しかしながら、塗膜層中の液晶分子の配向をより均一化させるためには、乾燥工程を経た塗膜層を液晶相発現温度まで加熱し液晶状態で配向させ、その後に光重合または熱重合処理して配向を固定化することが好ましい。
【0104】
また、組成物(1)を低誘電率樹脂絶縁膜として使用する場合には、塗布前に基板表面を配向処理することも好ましい。配向処理方法としては、たとえば、基板上に配向膜を形成するだけでもよいし、基板上に配向膜を形成させた後、レーヨン布などでラビング処理する方法、基板を直接レーヨン布などでラビング処理する方法、さらには酸化珪素を斜方蒸着する方法、延伸フィルム、光配向膜またはイオンビームなどを用いるラビングフリー配向などの方法が挙げられる。また、基板表面の処理を行わなくても、所望の配向状態を形成することができる場合もある。たとえば、ホメオトロピック配向を形成する場合はラビング処理などの表面処理を行わない場合が多いが、より高い配向性を実現する点でラビング処理を行ってもよい。
【0105】
上記配向膜としては、組成物(1)の配向を制御できるものであれば特に限定されず、公知の配向膜を用いることができ、たとえば、ポリイミド、ポリアミド、ポリビニルアルコール、アルキルシラン、アルキルアミンまたはレシチン系配向膜が好適である。垂直配向させる場合にはシランカップリング剤も好適である。
【0106】
上記ラビング処理には任意の方法を採用することができ、通常は、レーヨン、綿およびポリアミドなどの素材からなるラビング布を金属ロールなどに捲き付け、基板または配向膜に接した状態でロールを回転させながら移動させる方法や、ロールを固定したまま基板側を移動させる方法などが採用される。
【0107】
また、より均一な配向を得るために配向制御添加剤を組成物(1)中に含有させてもよい。このような配向制御添加剤としては、たとえば、イミダゾリン、4級アンモニウム塩、アルキルアミンオキサイド、ポリアミン誘導体、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン縮合物、ポリエチレングリコールおよびそのエステル、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ラウリル硫酸アミン類、アルキル置換芳香族スルホン酸塩、アルキルリン酸塩、脂肪族または芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物、ラウリルアミドプロピルベタイン、ラウリルアミノ酢酸ベタイン、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンアルキルアミン、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物、パーフルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩、パーフルオロアルキルと親水性基とを有するオリゴマー、パーフルオロアルキルと親油性基とを有するオリゴマー、パーフルオロアルキルを有するウレタン、および、1級アミノ基を有する有機ケイ素化合物(たとえば、アルコキシシラン型、直鎖状のシロキサン型、および、3次元縮合型のシルセスキオキサン型の有機ケイ素化合物)などが挙げられる。
【0108】
上記基板としては、たとえば、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリケトンサルファイド、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリアリレート、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、セルロース、トリアセチルセルロースまたはその部分鹸化物、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ノルボルネン樹脂などのプラスティックフィルム基板およびガラス強化樹脂基板のほか、アルカリガラス、ホウ珪酸ガラス、フリントガラスなどのガラス基板;アルミニウム、鉄、銅などの金属基板;シリコンなどの無機基板;などが挙げられる。
【0109】
上記フィルム基板は、一軸延伸フィルムでも、二軸延伸フィルムであってもよい。上記フィルム基板は、事前に鹸化処理、コロナ処理、プラズマ処理などの表面処理を施してもよい。なお、これらのフィルム基板上には、上記組成物(1)に含まれる有機溶媒に侵されないような保護層を形成してもよい。保護層として用いられる材料としては、たとえばポリビニルアルコールが挙げられる。さらに、保護層と基板の密着性を高めるためにアンカーコート層を形成させてもよい。このようなアンカーコート層は保護層と基板の密着性を高めるものであれば、無機系および有機系のいずれの材料であってもよい。
【0110】
13)低誘電率樹脂部品および電子機器
本発明の低誘電率樹脂形成用組成物は、低誘電率樹脂絶縁膜、低誘電率樹脂フィルム、低誘電率樹脂シートなどの低誘電率樹脂部品として用いることができる。さらには、低誘電率樹脂基板、低誘電率樹脂コーティング、低誘電率樹脂接着剤、低誘電率樹脂成形品などの各種電子機器としての用途に有用である。
【0111】
[製造方法]
以下、低誘電率樹脂形成用組成物を製造する方法、および該組成物から低誘電率樹脂部品を製造する方法について具体的に説明する。
【0112】
本発明の低誘電率樹脂形成用組成物は、そのまま液晶相や等方相を発現する温度領域で液状の樹脂原料として用いるほかに、有機溶媒に溶解させて溶液として使用することもできる。低誘電率樹脂形成用組成物の調製は、重合性液晶性化合物である化合物(1)、必要に応じて有機溶媒、無機フィラー、上述した各種の添加剤などを加え、撹拌機を用いて組成ムラが無くなる程度まで撹拌・脱泡する。たとえば、自転・公転ミキサーを用い、回転数2000rpmで10分間撹拌後、回転数2200rpmで10分間脱泡する。自転・公転ミキサーの他には、攪拌モーター、らいかい機、三本ロール、ボールミル、自転・公転ミル、遊星ミル、ビーズミル、ジェットミルなどを用いて分散させることができる。
【0113】
塗布方法には、上記低誘電率樹脂形成用組成物を均一にコーティングするために、ウェットコーティング法を用いることが好ましい。ウェットコーティング法のうち、低誘電率樹脂部品を少量作製する場合には簡便で均質な製膜が可能であるスピンコート法が好ましい。生産性を重視する場合には、グラビアコート法、ダイコート法、バーコート法、リバースコート法、ロールコート法、スリットコート法、ディッピング法、スプレーコート法、キスコート法、リバースキスコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、インクジェット法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法、ロッドコート法などが好ましい。ウェットコーティング法は、これらの方法から必要とする膜厚、粘度や硬化条件などに応じて適宜選択することができる。
【0114】
シートを製造する場合には、離型処理した基材上に組成物を上記方法などでコーティングし剥離するキャスト成形法、構造物を製造する場合には必要に応じて金型を用い、プレス成形法、インジェクション成形法(射出成形法)、各種3Dプリンター成形法(吐出積層法)などの樹脂成形法を用いることができる。成形後、金型を外して本硬化することも、金型に入れたまま本硬化することも、または金型を用いない成形法の場合には成形体をそのまま本硬化することも可能である。
【実施例0115】
実施例(化合物、組成物、重合体、低誘電率樹脂などの作製例を含む)により、本発明をさらに詳しく説明する。本発明はこれらの実施例によって制限されない。
【0116】
[化合物(1)の合成例]
化合物(1)は、合成例1など合成例に示す手順により合成した。特に記載のないかぎり、反応は窒素雰囲気下で行った。合成した化合物は、NMR分析などの方法により同定した。化合物(1)、組成物、重合体、低誘電率樹脂などの素子特性は、下記の方法により測定した。
【0117】
<NMR分析>
測定には、日本電子(株)製のJNM-ECZRを用いた。H-NMRの測定では、試料をCDClなどの重水素化溶媒に溶解させ、測定は、室温で、500MHz、積算回数16回の条件で行った。テトラメチルシランを内部標準として用いた。19F-NMRの測定では、CFClを内部標準として用い、積算回数32回の条件で行った。核磁気共鳴スペクトルの説明において、sはシングレット、dはダブレット、tはトリプレット、qはカルテット、quinはクインテット、sexはセクステット、mはマルチプレット、brはブロードであることを意味する。
【0118】
<ガスクロマト分析>
測定には、(株)島津製作所製のGC-2014型ガスクロマトグラフを用いた。カラムは、アジレント・テクノロジーズ(株)(Agilent Technologies Inc.、現:キーサイト・テクノロジー(株))製のキャピラリカラムDB-1(長さ30mまたは15m、内径0.25mm、膜厚0.25μm)を用いた。キャリアーガスとしては窒素(1ml/分)を用いた。試料気化室の温度を300℃、検出器(FID)部分の温度を300℃に設定した。試料はアセトンなどの適切な溶媒に溶解して、1wt%の溶液となるように調製し、得られた溶液1μlを試料気化室に注入した。記録計には(株)島津製作所製のGCSolutionシステムなどを用いた。
【0119】
<HPLC分析>
測定には、(株)島津製作所製のProminence(LC-20AD;SPD-20A)を用いた。カラムは(株)ワイエムシー製のYMC-Pack ODS-A(長さ150mm、内径4.6mm、粒子径5μm)を用いた。溶出液は、メタノール/純水、またはアセトニトリル/純水を適宜混合して用いた。検出器としてはUV検出器、RI検出器、CORONA検出器などを適宜用いた。UV検出器を用いた場合、検出波長は210~254nmとした。試料はメタノールまたはアセトニトリルに溶解して、0.1wt%の溶液となるように調製し、この溶液1μLを試料室に導入した。記録計としては(株)島津製作所製のC-R7Aplusを用いた。
【0120】
<紫外可視分光分析>
測定には、(株)島津製作所製のPharmaSpec UV-1700用いた。検出波長は190nmから700nmとした。試料はアセトニトリルに溶解して、0.01mmol/Lの溶液となるように調製し、石英セル(光路長1cm)に入れて測定した。
【0121】
<測定試料>
転移温度(透明点、融点、重合開始温度など)、および化合物が液晶相を示す場合は相構造およびを測定するときには、化合物そのものを試料として用いた。
【0122】
(1)転移温度(℃)
測定には、(株)日立ハイテクサイエンス(旧エスアイアイ・ナノテクノロジー(株))製の高感度示差走査熱量計、X-DSC7000を用いた。試料は、3~5℃/分の速度で昇降温し、試料の相変化に伴う吸熱ピークまたは発熱ピークの開始点を外挿により求め、転移温度を決定した。化合物の融点、重合開始温度もこの装置を使って測定した。化合物が液晶相を示す場合は、固体からスメクチック相、ネマチック相などの液晶相に転移する温度を「液晶相の下限温度」と略すことがある。化合物が結晶から液体に転移する温度を「透明点」と略すことがある。
【0123】
結晶はCと表した。結晶の種類の区別がつく場合は、それぞれをC1、C2のように表した。液晶相がある場合は、スメクチック相はS、ネマチック相はNと表した。スメクチック相の中で、スメクチックA相、スメクチックB相、スメクチックC相、またはスメクチックF相の区別がつく場合は、それぞれSA、SB、SC、またはSFと表した。液体(等方相:アイソトロピック)はIと表した。転移温度は、たとえば、「C 50.0 N 100.0 I」のように表記した。これは、結晶からネマチック相への転移温度が50.0℃であり、ネマチック相から液体への転移温度が100.0℃であることを示す。
【0124】
(2)相構造
化合物が液晶相を示す場合は、偏光顕微鏡を備えた融点測定装置のホットプレート(メトラー・トレド(株)FP-52型ホットステージ)に試料を置いた。この試料を、3℃/分の速度で加熱しながら相状態とその変化を偏光顕微鏡で観察し、相の種類を特定した。
【0125】
[合成例1]
化合物(S01 :化合物(1-2a)で、Zは-O(CHO-、Rはすべてメチル、Mは単結合、m=0、n=0である化合物)の合成

p-(トランス-4-ヒドロキシシクロヘキシル)フェノール(S01-a)は、例えば富士フイルム和光純薬株式会社などで市販されている。
【0126】
(第1段)
窒素雰囲気下で、p-(トランス-4-ヒドロキシシクロヘキシル)フェノール(S01-a)(19.0g、98.8mmol)、炭酸カリウム(20.5g/148.2mmol)、ヨウ化カリウム(1.64g、9.88mmol)のN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)(570ml)溶液に、60℃にて1,6-ジブロモヘキサン(12.1g、49.4mmol)を滴下し、60℃で8時間加熱攪拌した。反応液を純水に流し込み、酢酸エチルで3回抽出を行い、合わせた有機層を純水で3回洗浄した後に40℃で減圧濃縮した。得られた残渣をメタノールで洗浄、ろ過し、ろ晶を減圧乾燥して化合物(S01-b)(16.3g、34.9mmol)を得た。
【0127】
(第2段)
窒素雰囲気下で、化合物(S01-b)(15.7g、33.6mmol)、トリエチルアミン(10.2g、100.9mmol)のジクロロメタン(630mL)溶液に、0℃にて塩化メタクリロイル(7.74g、74.0mmol)を滴下し、そのまま終夜攪拌した。反応液をそのまま濾過し、ろ液を水酸化ナトリウム水溶液で1回、重層水で1回、純水で3回洗浄した後に有機層を40℃で減圧濃縮した。得られた残渣をトルエンで洗浄し、ろ過を行い、ろ晶を減圧乾燥して白色固体として化合物(S01)(13.7g、22.7mmol)を得た。この化合物(S01)の転移点はC 170.2 I(℃)であった。また重合開始温度は175℃であった。
また、化合物のH-NMRシグナルは以下の通りであった。
δ(ppm;CDCl):7.13-7.11(d,4H)、6.85-6.82(d,4H)、6.11(qd,2H)、5.56-5.55(qd,2H)、4.87-4.82(tt,2H)、3.96-3.94(t,4H)、2.52-2.46(tt,2H)、2.14-2.13(m,4H)、1.96-1.94(m,10H)、1.82-1.79(m,4H)、1.62-1.51(m,12H)。
【0128】
[誘電特性(比誘電率および誘電正接)および放熱性(熱拡散率)の物性評価]
[実施例1]
<誘電特性測定用サンプルの作製>
離型剤で処理を行った50μm厚のポリイミドフィルムの上に、120μmの粘着剤付き耐熱フッ素樹脂(PTFE)テープで図1のように内側が約80mm角の枠を形成し、この枠内に化合物(1)として重合性の化合物(S01)1.2gを、樹脂製の薬さじを用いて80mm角の枠内になるべく平らになるように載せた。その上に、同じ離型剤で処理した50μm厚のポリイミドフィルムを離型面が内側になるように載せ、さらに2mm厚の2枚のアルミ板に挟み、120℃にセットした(株)井元製作所製小型手動加熱プレスで20MPaの圧力をかけながら240℃まで温度をあげ、1時間硬化させた。硬化条件を決定する際に、ホットプレートに化合物(S01)を載せて熱挙動を観察したところ、融点は180℃付近であり、重合開始剤の重合開始温度がアゾ系で数十℃、過酸化物系の重合開始温度が高い物でも130℃程度であり、化合物(S01)が融ける前に重合開始剤が分解してしまうこと、またメタクリルは重合開始剤無しの状態でも自己重合を起こすことから、重合開始剤は使用せずに、少し高めの硬化温度(240℃)で1時間硬化させることにした。
硬化後にプレスから取り外し、上側の離型剤付きポリイミドフィルムを取り除き、ポリイミドフィルムの内側をカッターで切り出し、ポリイミド/化合物(S01)硬化物の2層シートを得た。下側のポリイミドフィルムも剥がせるが、80mm角の化合物(S01)硬化物を、クラックを入れずに剥がすことが難しかったので、2層シートのまま測定することにした。この2層シートを用いて、無機充填剤を添加しないで硬化した場合の化合物(S01)硬化物の10GHzにおける比誘電率を以下のとおり評価した。
【0129】
<誘電特性(比誘電率および誘電正接)の評価方法>
ベクトルネットワークアナライザー(アンリツ(株)製MS46522B-043型)に接続した、(株)エーイーティー(AET, INC.)製の空洞共振器(TEモード10GHz用)を用いて、作製した測定用試料の、共振周波数のシフト量と減衰量を測定し、同社製ソフトウエアを用いて比誘電率および誘電正接(tanδ)の誘電特性を求めた。
この測定値はポリイミドフィルムと硬化物の2層分の測定結果であるので、サンプル作製と同時に、200℃で1時間熱処理したポリイミドフィルムのみのサンプルを準備しておき、2層シートのサンプルと、ポリイミドフイルムのみを別々に測定し、同社製ソフトウエアを用いてそれぞれの比誘電率および誘電正接(tanδ)の誘電特性を求めた。そして、このポリイミドフィルムの測定値を第1層の誘電特性として用いて、同社の2層膜計算用の表計算シートで化合物(S01)硬化物のみの比誘電率(Dk)および誘電正接(Df)の誘電特性を計算して求めた。
【0130】
[比較例1]
重合性化合物を(R01)にし、予め重合開始剤として富士フイルム和光純薬株式会社製商品名:V-601の油溶性アゾ重合開始剤を0.06g加え、プレス開始温度を60℃に、本硬化温度を200℃に変更し、それ以外は実施例1と同様にサンプルを作製し、比誘電率と誘電正接を測定した。R01は特許第5084148(特開2006-265527)号公報のスキームと同様に合成した。
【0131】
[比較例2]
重合性化合物を三菱ケミカル(株)製の商品名:jER807とそのエポキシ当量に合わせた4,4―ジアミノフェニルメタン(DDM)との混合物にした以外は比較例1と同様にサンプルを作製し、比誘電率と誘電正接を測定した。
【0132】
実施例1、比較例1と2の10GHzでの比誘電率と誘電正接の値を表1に示す。
【0133】
<表1>
【0134】
まず、前述のように4環の重合性液晶性化合物は中間体の段階から溶媒への溶解性が低く、また融点が高いため、3環以上のフッ素を含まない重合性液晶性化合物として、古くからあり、入手しやすく、比較的に一般的なR01と本発明で合成したS01とを比較した。その結果、誘電率も誘電正接も低い値となり、低誘電低損失化合物として本発明の組成物の有効性が示された。また、一般的なビスフェノール型エポキシの硬化物と比較しても、誘電率が低い。これらの結果より、低誘電率樹脂の原料としてS01の化合物は有用であることが分かる。
【0135】
<耐熱性の評価>
実施例1と比較例1、比較例2のサンプルについて、エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)(現:日立ハイテクサイエンス(株))製TMA/SS6100型熱機械的分析装置を用いて、サンプルの熱膨張率の変化からガラス転移温度を求めた。TMA測定は4mm幅で30mmの短冊で測定できるので、比誘電率を測定したサンプルをポリイミドフィルムから剥がし、気泡を含まない部分をカッターナイフで切り出して使用した。その結果を表2に示す。
【0136】
<表2>
【0137】
表2より、本発明の化合物S01は、ガラス転移温度が240℃以上と高く、大気中で250℃に加熱しても少し黄変は見られるが、他のサンプルのように焦げるようなことはなかった。したがって、耐熱性が高く高温で使用されるデバイスにも使用しやすいことが分かった。
【0138】
[高放熱フィラー複合材料の放熱性(熱拡散率)の物性評価]
<放熱性(熱拡散率)測定用サンプルの作製>
[実施例2]
放熱性が求められる用途では、本発明の重合性の化合物と高放熱フィラーとを複合化して用いられると考えられるため、放熱性の評価は、低誘電率樹脂形成用組成物に用いられる化合物と窒化ホウ素フィラーを、体積比が50:50となるように複合化し測定した熱拡散率により行った。重合性の化合物(S01)0.44g、および窒化ホウ素(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン(合)製商品名:PolarTherm PTX-25)0.80gをメノウ乳鉢で3分間混ぜ合わせ、重合開始剤(富士フイルム和光純薬株式会社製商品名:V601)0.022gを0.066gのトルエンに溶かし、全量を化合物(S01)と窒化ホウ素との混合物に加え、さらに薬さじを用いて混ぜ、トルエンを蒸発させた後、120μmの粘着剤付き耐熱フッ素樹脂(PTFE)テープを2枚重ねにした以外は実施例1と同様に200℃で1時間硬化させた。
【0139】
<放熱性(熱拡散率)評価>
作製した複合材料の厚み方向の熱拡散率を(株)アイフェイズ製熱拡散率測定装置アイフェイズ・モバイル1型および付属ソフトウエアにより求めた。サンプルの厚みは、熱拡散率を測定する際に装置内で測定される。
【0140】
[比較例3]
重合性化合物を(R01)にした以外は実施例2と同様にサンプルを作製し、熱拡散率を評価した。
【0141】
[比較例4]
重合性化合物を比較例2の市販エポキシとジアミンとの組み合わせにした以外は実施例2と同様にサンプルを作製し、熱拡散率を評価した。
【0142】
実施例2、比較例3と4の熱拡散率の値を表3に示す。
<表3>
【0143】
表3より、化合物S01と窒化ホウ素を複合化させたサンプルの熱拡散率は、3環のアクリル重合性液晶性化合物(R01)や市販のエポキシ樹脂と窒化ホウ素とを複合化させたサンプルよりも高いことが分かった。S01は融点と自己重合開始温度が近く、昇温を早くし過ぎるとフィラーの隙間に重合性液晶性化合物が侵入する前に硬化してしまい、密度も熱拡散率も低くなってしまうことがあったが、この点だけ注意すれば、高熱伝導な重合性液晶性化合物として使用できることが分かる。
【0144】
[化合物(1)とそれ以外の重合性化合物との混合物の誘電特性(比誘電率および誘電正接)の物性評価]
[実施例3]
化合物(1)として重合性の化合物(S01)1.0g、および化合物(1)以外の重合性化合物として両末端にメタクリルを導入したポリフェニレンエーテルオリゴマー(mPPE:SABIC社製、商品名:NоrylSA9000樹脂)1.0gを、メノウ乳鉢を用い3分間混合した粉末を使用した以外は実施例1と同様にサンプルを作製し、比誘電率と誘電正接を測定した。
【0145】
[比較例5]
化合物(S01)の替わりに重合性化合物(R01)を使用した以外は、実施例3と同様にサンプルを作製し、比誘電率と誘電正接を測定した。
【0146】
実施例3、比較例5の10GHzでの比誘電率と誘電正接の値を表4に示す。
【0147】
<表4>
【0148】
絶縁材料として重合性の化合物S01を使用する際は、特性の調整のためその他の重合性化合物としてラジカル反応性の樹脂と混合して使用することになるので、低誘電正接樹脂として広く使用されているmPPEを混合して誘電特性を測定したところ、誘電正接の低下が認められた。また、比誘電率も低下しており、重合性の化合物S01は、低誘電率樹脂の1成分としても有用なことが分かった。
【0149】
誘電特性を良好とするための手法の一つとして、極性が高くなってしまう重合性基の密度を減らすために、できるだけその間隔を長くしたいが、4環がつながった骨格を使用すると融点が300℃近くになることが多く、溶媒にも溶けないので樹脂原料としては使用できない。アルキル部分を長くし過ぎるとガラス転移温度が下がるので高温で使用する樹脂としては特性が落ちてしまう。折れ曲がった構造にすると液晶性が発現しないので、熱拡散率が下がってしまう。一般に芳香環よりも脂環の方が、誘電率が低いが、脂環化合物は反応が難しいことから、ベンゼン環とシクロヘキサン環を1つのブロックとして、これを長すぎないアルキルで結合させた構造は、誘電特性が良好であり、高耐熱性で、熱拡散率も高い材料として、beyоnd5Gや6Gに向け有用であることが分かった。
【符号の説明】
【0150】
11 離型剤付きポリイミドフィルム(A5サイズ)
12 耐熱PTFEテープ
図1