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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101203
(43)【公開日】2024-07-29
(54)【発明の名称】環状亜硫酸エステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 327/10 20060101AFI20240722BHJP
【FI】
C07D327/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023005034
(22)【出願日】2023-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100117400
【弁理士】
【氏名又は名称】北川 政徳
(72)【発明者】
【氏名】手島 樂
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 葉裕
(72)【発明者】
【氏名】深澤 瑞基
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 崇
(57)【要約】
【課題】反応収率に優れ、且つ、目的生成物と分離が困難である有機ハロゲン化合物の副生を抑制することが可能となる、環状亜硫酸エステルの製造方法を提供する。
【解決手段】不活性ガスを反応系に流通させながら、液相において、特定のジオール化合物とハロゲン化チオニルとを連続的に反応させて、特定の環状亜硫酸エステルを製造する方法であって、不活性ガスの流通速度が、反応で発生するハロゲン化水素ガスの最大理論発生速度に対して0.4倍以上10倍以下とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不活性ガスを反応系に流通させながら、液相において一般式(1)で表される化合物とハロゲン化チオニルとを連続的に反応させて、一般式(2)で表される環状亜硫酸エステルを製造する方法であって、
前記不活性ガスの流通速度が、反応で発生するハロゲン化水素ガスの最大理論発生速度に対して0.4倍以上10倍以下である環状亜硫酸エステルの製造方法。
【化1】
(式中、R及びRはそれぞれ互いに独立し、炭素数1から4の炭化水素基又は水素である。)
【化2】
(式中、R及びRは前記に同じ。)
【請求項2】
前記不活性ガスを、液相中に流通させる請求項1に記載の環状亜硫酸エステルの製造方法。
【請求項3】
前記反応が、前記一般式(1)で表される化合物が存在する液相に、前記ハロゲン化チオニルを連続的に導入してなり、前記ハロゲン化チオニルの導入時の反応温度を0℃以下とする、請求項1又は2に記載の環状亜硫酸エステルの製造方法。
【請求項4】
前記一般式(1)で表される化合物とハロゲン化チオニルとを1:0.8以上2以下のモル比で反応させる、請求項1又は2に記載の環状亜硫酸エステルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状亜硫酸エステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環状亜硫酸エステルは、非水電解液の添加物として用いられている。非水電解液は、優れた電池特性を高い安定性で示すリチウム二次電池に供するため、一般的に、有機塩素化合物含有量を低減することを求められる。よって環状亜硫酸エステルにおいても、有機塩素化合物を含んでいると非水電解液の添加物として避けられる。
【0003】
特許文献1には、ジオール化合物とハロゲン化チオニルとを反応させ、環状亜硫酸エステルとすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開WO2011/016440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この従前知られた環状亜硫酸エステルの製造方法では、反応の副産物として発生する塩化水素の系外への除去については記載も示唆もなく、該塩化水素に起因する副生物である有機塩素化合物が多く生成されるものである。このため、結果として、製造された環状亜硫酸エステルを非水電解液の添加物とするためには、該有機塩素化合物を除去するために生産性の低下した蒸留等による精製を必要としていた。すなわち、該有機塩素化合物を含む環状亜硫酸エステルを蒸留により精製するためには、有機塩素化合物を多量の環状亜硫酸エステルと共に除去しなければならず、歩留まり悪化の原因となっていた。
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものである。すなわち、反応収率に優れ、且つ、目的生成物と分離が困難な有機ハロゲン化合物の副生を抑制することが可能となる、環状亜硫酸エステルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、環状亜硫酸エステルの製造おいて、使用する不活性ガスの流通速度を所定の範囲内にすることにより、反応収率に優れ、且つ、目的生成物と分離が困難な有機ハロゲン化合物の副生を抑制することが可能となることを見いだし、本発明に至った。
【0008】
即ち、本発明は、以下を要旨とする。
[1]不活性ガスを反応系に流通させながら、液相において一般式(1)で表される化合物とハロゲン化チオニルとを連続的に反応させて、一般式(2)で表される環状亜硫酸エステルを製造する方法であって、前記不活性ガスの流通速度が、反応で発生するハロゲン化水素ガスの最大理論発生速度に対して0.4倍以上10倍以下である環状亜硫酸エステルの製造方法。
【0009】
【化1】
【0010】
(式中、R及びRはそれぞれ互いに独立し、炭素数1から4の炭化水素基又は水素である。)
【0011】
【化2】
【0012】
(式中、R及びRは前記に同じ。)
【0013】
[2]前記不活性ガスを、液相中に流通させる[1]に記載の環状亜硫酸エステルの製造方法。
[3]前記反応が、前記一般式(1)で表される化合物が存在する液相に、前記ハロゲン化チオニルを連続的に導入してなり、前記ハロゲン化チオニルの導入時の反応温度を0℃以下とする、[1]又は[2]に記載の環状亜硫酸エステルの製造方法。
[4]前記一般式(1)で表される化合物とハロゲン化チオニルとを1:0.8以上2以下のモル比で反応させる、[1]乃至[3]のいずれか1項に記載の環状亜硫酸エステルの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、環状亜硫酸エステルの製造において、反応収率に優れ、且つ、有機ハロゲン化合物の副生、特にハロゲンが塩素の場合は、目的生成物と分離が困難な有機塩素化合物の副生を抑制することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、不活性ガスを反応系に流通させながら、液相において、特定のジオール化合物とハロゲン化チオニルとを連続的に反応させて、特定の環状亜硫酸エステルを製造する方法に関する発明である。
【0016】
[ジオール化合物A]
本発明で用いられるジオール化合物(以下「ジオール化合物A」と称する場合がある。)は、下記一般式(1)で表される化合物である。
【0017】
【化3】
【0018】
なお、式中、R及びRはそれぞれ互いに独立し、炭素数1から4の炭化水素基又は水素である。
該炭素数1から4の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、ビニル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基等が挙げられ、メチル基、エチル基、ビニル基、n-プロピル基及びn-ブチル基からなる群より選ばれた少なくとも一つの基が好ましく、エチル基及び/又はビニル基がより好ましく、ビニル基がさらに好ましい。又、R及びRの片方が水素であることが好ましい。R及びRを前記した好ましい基とすることにより、反応収率に優れ、且つ、有機ハロゲン化合物の副生、特にハロゲンが塩素の場合は、目的生成物と分離が困難な有機塩素化合物の副生を抑制することが可能となる。
【0019】
このジオール化合物Aの具体例としては、1,2-ジヒドロキシエタン、1,2-ジヒドロキシプロパン、1,2-ジヒドロキシブタン、2,3-ジヒドロキシブタン、1,2-ジヒドロキシ-3-ブテン、1,2-ジヒドロキシペンタン、2,3-ジヒドロキシペンタン、1,2-ジヒドロキシ-3-ペンテン、3,4-ジヒドロキシ-1-ペンテン等が挙げられる。
【0020】
[環状亜硫酸エステルA]
前記環状亜硫酸エステル(以下「環状亜硫酸エステルA」と称する場合がある。)は、前記のジオール化合物Aとハロゲン化チオニルとを反応させることにより得られ、下記一般式(2)で表される。
【0021】
【化4】
【0022】
なお、式中、R及びRは前記に同じである。
この環状亜硫酸エステルAの具体例としては、エチレンサルファイト、1-メチル-エチレンサルファイト、1-エチル-エチレンサルファイト、1,2-ジメチル-エチレンサルファイト、ビニルエチレンサルファイト、1-プロピル-エチレンサルファイト、1-エチル-2-メチル-エチレンサルファイト、プロペンエチレンサルファイト、1-メチル-4-ビニル-エチレンサルファイト等が挙げられる。
【0023】
[ハロゲン化チオニル]
ハロゲン化チオニルとしては、フッ化チオニル、塩化チオニル、臭化チオニルが挙げられるが、発生するハロゲン化水素の取り扱いの容易さから、塩化チオニルが好ましい。
【0024】
[反応系]
本発明において、ジオール化合物Aとハロゲン化チオニルを反応させることにより、環状亜硫酸エステルAが製造される。この反応系において、ジオール化合物Aとハロゲン化チオニルとは、連続的に反応が行われる。連続反応方法の例としては、ジオール化合物Aが存在する液相に、ハロゲン化チオニルを連続的に導入して反応を行う方法や、ハロゲン化チオニルが存在する液相に、ジオール化合物Aを連続的に導入して反応を行う方法、ジオール化合物A及びハロゲン化チオニルが存在しない液相に、ジオール化合物A及びハロゲン化チオニルをそれぞれ別個に、同時に導入する方法等が挙げられる。
【0025】
前記液相を構成する物質として、ジオール化合物A又はハロゲン化チオニルが液相として存在する場合の当該ジオール化合物A又はハロゲン化チオニルや、トルエン、キシレン等の、ジオール化合物A及びハロゲン化チオニルと反応性を有さず、かつ、ジオール化合物A又はハロゲン化チオニルを溶解させる有機溶媒を挙げることができる。
【0026】
前記のジオール化合物Aが存在する液相、ハロゲン化チオニルが存在する液相、ジオール化合物A及びハロゲン化チオニルが存在しない液相の温度は、いずれも、0℃以下が好ましく、-10℃以下がより好ましく、-20℃以下がさらに好ましい。該反応温度の下限は特に制限はないが、-50℃が好ましい。前記範囲とすることにより、反応収率に優れ、且つ、目的生成物と分離が困難な有機ハロゲン化合物の副生を抑制することが可能となる。
【0027】
また、前記ハロゲン化チオニル、前記ジオール化合物Aは、いずれかを反応系に導入する場合や、これらを同時に反応系に導入する場合において、ハロゲン化チオニルが導入された時点で、ジオール化合物Aは反応系に存在し、ジオール化合物Aが導入された時点で、ハロゲン化チオニルは反応系に存在する。よって、導入されるハロゲン化チオニルやジオール化合物Aを反応系への導入する際の反応温度は、前記した液相の温度範囲と同様の範囲とすることが好ましい。
【0028】
前記連続反応において、副反応を抑え、主反応を効率よく行う観点から、不活性ガスを反応系に流通させることがよい。特に不活性ガスを反応系の前記液相中に流通させると、副反応の抑制効果がより高まる。
この不活性ガスとしては、窒素や、ヘリウム、ネオン、アルゴン等の希ガス等があげられる。
この不活性ガスの反応系における流通速度は、前記反応で発生するハロゲン化水素ガスの最大理論発生速度の0.4倍以上が好ましく、1倍以上がより好ましい。0.4倍より低いと、後記する副反応が生じやすくなり、前記環状亜硫酸エステルAと分離が困難な有機ハロゲン化合物等の副生物の生成量が増加する問題点が生じる傾向がある。また、不活性ガスの反応系における流通速度は、前記反応で発生するハロゲン化水素ガスの最大理論発生速度の10倍以下が好ましく、5倍以下がより好ましい。10倍より高いと、反応剤が揮発し、反応収率が低下するという問題点が生じる傾向がある。
【0029】
この反応系は、目的生成物と分離が困難な有機ハロゲン化合物の副生を抑制する観点から、常圧又は減圧下で行うことが好ましい。
【0030】
[副反応]
前記のジオール化合物Aとハロゲン化チオニルとの反応において、副反応として、環状亜硫酸エステルAとの分離が困難である有機ハロゲン化合物等の副生物が生じる反応が生じ得る。この有機ハロゲン化合物の例としては、4-アセトキシ-3-クロロ-1-ブテン、1-クロロ-2-ヒドロキシ-3-ブテン、2-クロロ-1-ヒドロキシ-3-ブテン、1-アセトキシ-2-クロロ-3-ブテン、2-アセトキシ-1-クロロ-3-ブテン、1,2-ジクロロ-3-ブテン、1,4-ジクロロ-2-ブテン、3-クロロ-4-((2-クロロブタ-3-エン-1-イル)オキシ)ブタ-1-エン(3-chloro-4-((2-chlorobut-3-en-1-yl)oxy)but-1-ene)、1-((2-クロロブタ-3-エン-1-イル)オキシ)ブタ-3-エン-2-オール(1-((2-chlorobut-3-en-1-yl)oxy)but-3-en-2-ol)、(E/Z)-4-((2-クロロブタ-3-エン-1-イル)オキシ)ブタ-2-エン-1-オール((E/Z)-4-((2-chlorobut-3-en-1-yl)oxy)but-2-en-1-ol)、(E/Z)-1-((4-クロロブタ-2-エン-1-イル)オキシ)ブタ-3-エン-2-オール((E/Z)-1-((4-chlorobut-2-en-1-yl)oxy)but-3-en-2-ol)、4-クロロ-3-((1-クロロブタ-3-エン-2-イル)オキシ)ブタ-1-エン(4-chloro-3-((1-chlorobut-3-en-2-yl)oxy)but-1-ene)、4-クロロ-3-((2-クロロブタ-3-エン-1-イル)オキシ)ブタ-1-エン(4-chloro-3-((2-chlorobut-3-en-1-yl)oxy)but-1-ene)、O,O-ビス(2-クロロブタ-3-エン-1-イル)カルボノチオエート(O,O-bis(2-chlorobut-3-en-1-yl) carbonothioate)、O-(2-クロロブタ-3-エン-1-イル)-O-(1-クロロブタ-3-エン-2-イル)カルボノチオエート(O-(2-chlorobut-3-en-1-yl)-O-(1-chlorobut-3-en-2-yl) carbonothioate)、O,O-ビス(1-クロロブタ-3-エン-2-イル)カルボノチオエート(O,O-bis(1-chlorobut-3-en-2-yl) carbonothioate)等があげられる。このうち、4-アセトキシ-3-クロロ-1-ブテン及び1-クロロ-2-ヒドロキシ-3-ブテンは、環状亜硫酸エステルAとの分離が特に困難であり、これらの副生物を低減させることが特に好ましい。
【0031】
[量比]
ジオール化合物Aとハロゲン化チオニルとの反応における量比(モル比)は、ジオール化合物A:ハロゲン化チオニルで、1:0.8以上2以下のモル比とすることがよく、モル比の下限は1:0.85が好ましく、1:0.9がより好ましい。モル比の上限は1:1.5が好ましく、1:1.2がより好ましい。前記範囲とすることにより、反応収率に優れ、且つ、有機ハロゲン化合物の副生、特にハロゲンが塩素の場合は、目的生成物と分離が困難である有機塩素化合物の副生を抑制することが可能となる。
【0032】
[吸収化合物]
前記の反応系にはさらに、反応で発生するハロゲン化水素を吸収する化合物(以下「吸収化合物」と称する場合がある。)を導入してもよい。導入量としては、特に制限はないが、目的生成物の精製の観点から、ジオール化合物A量に対して、0.01モル%以下が好ましい。吸収化合物の種類としては、ジメチルフォルムアミド(以下「DMF」と称する場合がある。)等のN,N-二置換アミド、トリエチルアミン等の3級アミン、ピリジン等の含窒素複素環化合物等が挙げられ、DMF、ピリジンが好ましい。
【実施例0033】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明の要旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
なお、以下の実施例及び比較例において、各反応原料、反応により得られた生成物の分析は、内部標準法によるガスクロマトグラフィーにより、内部標準物質としてトリデカンを使用し、実施した。生成物中、目的物質であるビニルエチレンサルファイトと分離が困難な副生物である有機ハロゲン化合物(有機塩素化合物)の合計を算出した。この副生物である有機ハロゲン化合物(有機塩素化合物)は、4-アセトキシ-3-クロロ-1-ブテン(以下「ACL」と称する場合がある。)、1-クロロ-2-ヒドロキシ-3-ブテン、2-クロロ-1-ヒドロキシ-3-ブテン、1-アセトキシ-2-クロロ-3-ブテン、2-アセトキシ-1-クロロ-3-ブテン、1,2-ジクロロ-3-ブテン、1,4-ジクロロ-2-ブテン、3-クロロ-4-((2-クロロブタ-3-エン-1-イル)オキシ)ブタ-1-エン(3-chloro-4-((2-chlorobut-3-en-1-yl)oxy)but-1-ene)、1-((2-クロロブタ-3-エン-1-イル)オキシ)ブタ-3-エン-2-オール(1-((2-chlorobut-3-en-1-yl)oxy)but-3-en-2-ol)、(E/Z)-4-((2-クロロブタ-3-エン-1-イル)オキシ)ブタ-2-エン-1-オール((E/Z)-4-((2-chlorobut-3-en-1-yl)oxy)but-2-en-1-ol)、(E/Z)-1-((4-クロロブタ-2-エン-1-イル)オキシ)ブタ-3-エン-2-オール((E/Z)-1-((4-chlorobut-2-en-1-yl)oxy)but-3-en-2-ol)、4-クロロ-3-((1-クロロブタ-3-エン-2-イル)オキシ)ブタ-1-エン(4-chloro-3-((1-chlorobut-3-en-2-yl)oxy)but-1-ene)、4-クロロ-3-((2-クロロブタ-3-エン-1-イル)オキシ)ブタ-1-エン(4-chloro-3-((2-chlorobut-3-en-1-yl)oxy)but-1-ene)、O,O-ビス(2-クロロブタ-3-エン-1-イル)カルボノチオエート(O,O-bis(2-chlorobut-3-en-1-yl) carbonothioate)、O-(2-クロロブタ-3-エン-1-イル)-O-(1-クロロブタ-3-エン-2-イル)カルボノチオエート(O-(2-chlorobut-3-en-1-yl)-O-(1-chlorobut-3-en-2-yl) carbonothioate)、O,O-ビス(1-クロロブタ-3-エン-2-イル)カルボノチオエート(O,O-bis(1-chlorobut-3-en-2-yl) carbonothioate)であった。
【0034】
[ハロゲン化水素ガスの最大理論発生速度の算出方法]
・本発明の基本的な反応は、前記一般式(1)で示されるジオール化合物Aとハロゲン化チオニルとを反応させて、前記一般式(2)で示される環状亜硫酸エステルAと2倍モル量のハロゲン化水素を発生する反応である。
・本発明では、「反応で発生するハロゲン化水素ガスの最大理論発生速度」とは、理論的に、前記一般式(1)で示されるジオール化合物Aとハロゲン化チオニルは反応系で共存すると瞬時に反応し、ハロゲン化水素が発生すると仮定したときの発生速度と考える。
・本反応は、前記の通り、ジオール化合物Aが存在する液相に、ハロゲン化チオニルを連続的に導入して反応を行う方法や、ハロゲン化チオニルが存在する液相に、ジオール化合物Aを連続的に導入して反応を行う方法、ジオール化合物A及びハロゲン化チオニルが存在しない液相に、ジオール化合物A及びハロゲン化チオニルをそれぞれ別個に、同時に導入する方法等の、ジオール化合物Aとハロゲン化チオニルとを連続的に反応させる方法が採られる。
・してみると、ハロゲン化水素ガスの理論発生速度は、導入されるジオール化合物Aやハロゲン化チオニル等の成分の添加速度の2倍となる。
(ただし、一方の成分が液相に存在し、他方の成分が添加等の導入がされる場合、一方の成分のモル量が、他方の成分のモル量より多い場合に限られる。逆に、他方の成分のモル量が、一方の成分のモル量より多い場合は、導入される他方の成分のうち、一方の成分のモル量と同等のモル量が導入されるまでの添加速度の2倍がハロゲン化水素ガスの理論発生速度となる。)
・そして、導入される成分の添加速度に変動があった場合、添加速度が最大である速度の2倍を、ハロゲン化水素ガスの「最大」理論発生速度とする。(導入される成分の添加速度に変動がない場合は、その添加速度の2倍を、ハロゲン化水素ガスの最大理論発生速度とする。)
【0035】
・尚、本発明は、ハロゲン化水素ガスの最大理論発生速度と不活性ガスの流通速度(導入速度)の比が特定範囲であることが要件である。このハロゲン化水素の最大理論発生速度はモル基準で算出できるが、体積基準(ガス)に変換する必要がある。そのためには、反応系の温度(P)、圧力(V)の記載が必須となり、従う基準として、PV=nRT(n:モル数、T:温度、R:モル気体定数=0.082atm・L/mol・K)を採用する。
以下、ハロゲン化水素ガスの最大理論発生速度と不活性ガスの流通速度(導入速度)の比の算出方法について、下記の実施例1を用いて示す。
実施例1において、塩化チオニルの添加速度は、0.743(mol)/50(分)=0.01486(mol/分)であり、塩化水素の最大理論発生速度は、0.01486×2=0.02972(mol/分)となる。
反応系は、圧力が常圧、温度が-20℃であるから、mol/分を体積基準に変換すると、0.02972×0.082×253=0.617(L/分)となる。
一方、窒素ガスは0.3L/分であるから、不活性ガスの流通速度の、反応で副生するハロゲン化水素ガスの最大理論発生速度に対する比は、0.3/0.617=0.49となる。
【0036】
(実施例1)
撹拌装置を具備した200mlのガラス製容器に1,2-ジヒドロキシ-3-ブテン60.0g(0.682mol)、トルエン60.1gを導入し、-20℃に冷却し、反応液とした。該反応液気相部に窒素ガスを0.3L/minの流通速度で流通させながら、塩化チオニル88.4g(0.743mol)を50分かけて連続的に該反応液に導入し、反応を行った。尚、窒素ガスの流通速度は反応で発生する塩化水素ガスの最大理論発生速度の0.49倍であった。塩化チオニル導入終了後、-20℃で80分間攪拌して反応を続行した。その後、反応液を室温にし、30分撹拌した後、反応液を氷冷し、反応液に7.82質量%の炭酸水素ナトリウム水溶液を24.0g加えて30分撹拌し、窒素ガスの流通停止と共に反応を停止した。尚、以上の反応は全て常圧下で実施した。反応液は水相と有機相の2相に分離した。該有機相をガスクロマトグラフィーにより分析したところ、ビニルエチレンサルファイト重量は14.4g(0.111mol、反応収率96.3%)であり、製造されたビニルエチレンサルファイト100重量%に対して有機塩素化合物が0.320重量%副生していた。
【0037】
(実施例2)
撹拌装置を具備した200mlのガラス製容器に1,2-ジヒドロキシ-3-ブテン59.9g(0.681mol)、トルエン60.1gを導入し、-20℃に冷却し、反応液とした。該反応液気相部に窒素ガスを1.8L/minの流通速度で流通させながら、塩化チオニル88.4g(0.743mol)を50分かけて連続的に該反応液に導入し、反応を行った。尚、窒素ガスの流通速度は反応で発生する塩化水素ガスの最大理論発生速度の2.92倍であった。塩化チオニル導入終了後、-20℃で80分間攪拌して反応を続行した。その後、反応液を室温にし、30分撹拌した後、反応液を氷冷し、反応液に7.82質量%の炭酸水素ナトリウム水溶液を144.4g加えて30分撹拌し、窒素ガスの流通停止と共に反応を停止した。尚、以上の反応は全て常圧下で実施した。反応液は水相と有機相の2相に分離した。該有機相をガスクロマトグラフィーにより分析したところ、ビニルエチレンサルファイト重量は89.2g(0.112mol、反応収率97.8%)であり、製造されたビニルエチレンサルファイト100重量%に対して有機塩素化合物が0.203重量%副生していた。
【0038】
(実施例3)
撹拌装置を具備した200mlのガラス製容器に1,2-ジヒドロキシ-3-ブテン5.0g(0.057mol)、トルエン5.0gを導入し、-20℃に冷却し、反応液とした。該反応液気相部に窒素ガスを0.5L/minの流通速度で流通させながら、塩化チオニル7.34g(0.062mol)を50分かけて連続的に該反応液に導入し、反応を行った。尚、窒素ガスの流通速度は反応で発生する塩化水素ガスの最大理論発生速度の9.71倍であった。塩化チオニル導入終了後、-20℃で80分間攪拌して反応を続行した。その後、反応液を室温にし、30分撹拌した後、反応液を氷冷し、反応液に7.82質量%の炭酸水素ナトリウム水溶液を12.0g加えて30分撹拌し、窒素ガスの流通停止と共に反応を停止した。尚、以上の反応は全て常圧下で実施した。反応液は水相と有機相の2相に分離した。該有機相をガスクロマトグラフィーにより分析したところ、ビニルエチレンサルファイト重量は6.9g(0.053mol、反応収率93.3%)であり、製造されたビニルエチレンサルファイト100重量%に対して有機塩素化合物が0.05重量%副生していた。
【0039】
(比較例1)
撹拌装置を具備した200mlのガラス製容器に1,2-ジヒドロキシ-3-ブテン10.2g(0.116mol)、トルエン10.1gを導入し、-20℃に冷却し、反応液とした。該反応液気相部に窒素ガスを0.005L/minの流通速度で流通させながら、塩化チオニル14.8g(0.124mol)を50分かけて連続的に該反応液に導入し、反応を行った。尚、窒素ガスの流通速度は反応で発生する塩化水素ガスの最大理論発生速度の0.05倍であった。塩化チオニル導入終了後、-20℃で80分間攪拌して反応を続行した。その後、反応液を室温にし、30分撹拌した後、反応液を氷冷し、反応液に7.82質量%の炭酸水素ナトリウム水溶液を24.3g加えて30分撹拌し、窒素ガスの流通停止と共に反応を停止した。尚、以上の反応は全て常圧下で実施した。反応液は水相と有機相の2相に分離した。該有機相をガスクロマトグラフィーにより分析したところ、ビニルエチレンサルファイト重量は12.4g(0.097mol、反応収率83.2%)であり、製造されたビニルエチレンサルファイト100重量%に対して有機塩素化合物が1.69重量%副生していた。
【0040】
(比較例2)
撹拌装置を具備した200mlのガラス製容器に1,2-ジヒドロキシ-3-ブテン7.3g(0.083mol)、トルエン10.1gを導入し、-20℃に冷却し、反応液とした。該反応液気相部に窒素ガスを2.0L/minの流通速度で流通させながら、塩化チオニル10.9g(0.092mol)を50分かけて連続的に該反応液に導入し、反応を行った。尚、窒素ガスの流通速度は反応で発生する塩化水素ガスの最大理論発生速度の26.17倍であった。塩化チオニルの導入終了後、-20℃で80分間攪拌して反応を続行した。その後、反応液を室温にし、30分撹拌した後、反応液を氷冷し、反応液に7.82質量%の炭酸水素ナトリウム水溶液を18.3g加えて30分撹拌し、窒素ガスの流通停止と共に反応を停止した。尚、以上の反応は全て常圧下で実施した。反応液は水相と有機相の2相に分離した。該有機相をガスクロマトグラフィーにより分析したところ、ビニルエチレンサルファイト重量は10.1g(0.075mol、反応収率90.7%)であり、製造されたビニルエチレンサルファイト100重量%に対して有機塩素化合物が0.02重量%副生していた。
【0041】
(実施例4)
撹拌装置を具備した200mlのガラス製容器に1,2-ジヒドロキシ-3-ブテン10.2g(0.116mol)、トルエン10.1gを導入し、-20℃に冷却し、反応液とした。該反応液液相中に窒素ガスを0.3L/minの流通速度で流通させながら、塩化チオニル14.8g(0.124mol)を50分かけて連続的に該反応液に導入し、反応を行った。尚、窒素ガスの流通速度は反応で発生する塩化水素ガスの最大理論発生速度の2.91倍であった。塩化チオニルの導入終了後、-20℃で80分間攪拌して反応を続行した。その後、反応液を室温にし、30分撹拌した後、反応液を氷冷し、反応液に7.82質量%の炭酸水素ナトリウム水溶液を24.3g加えて30分撹拌し、窒素ガスの流通停止と共に反応を停止した。尚、以上の反応は全て常圧下で実施した。反応液は水相と有機相の2相に分離した。該有機相をガスクロマトグラフィーにより分析したところ、ビニルエチレンサルファイト重量は14.4g(0.112mol、反応収率96.9%)であり、製造されたビニルエチレンサルファイト100重量%に対して有機塩素化合物が0.04重量%副生していた。
【0042】
以上より、本発明の製造方法により、環状亜硫酸エステルAを製造すると、反応収率が向上し、該環状亜硫酸エステルAと分離が困難である有機ハロゲン化合物の副生を抑制できることが明らかである。