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特開2024-101345垂直共振器面発光レーザ素子の製造方法及び垂直共振器面発光レーザ素子
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101345
(43)【公開日】2024-07-29
(54)【発明の名称】垂直共振器面発光レーザ素子の製造方法及び垂直共振器面発光レーザ素子
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/183 20060101AFI20240722BHJP
   H01S 5/343 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
H01S5/183
H01S5/343 610
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023005286
(22)【出願日】2023-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】嶋津 亮真
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 顕一
【テーマコード(参考)】
5F173
【Fターム(参考)】
5F173AC03
5F173AC04
5F173AC14
5F173AC35
5F173AC42
5F173AH22
5F173AK22
5F173AP05
5F173AP33
5F173AP61
5F173AP66
5F173AR99
(57)【要約】
【課題】垂直共振器面発光レーザ素子について、電流狭窄領域における高い絶縁性を実現して、より一層の長寿命化を図ることを目的とする。
【解決手段】n側半導体層、活性層及びp側半導体層をこの順に有する窒化物半導体層を準備する工程と、前記p側半導体層の表面の少なくとも一部に、マスク部材を形成する工程と、前記マスク部材を形成した前記p側半導体層を、アルミニウムを含む部材又は石英部材と共に酸素雰囲気下に配置し、前記マスク部材から露出した前記p側半導体層の表面に反応性イオンエッチングを施す工程と、得られた前記p側半導体層を酸素雰囲気下で熱処理する工程と、前記熱処理する工程後、前記マスク部材を除去する工程と、前記反応性イオンエッチングを施した前記p側半導体層の表面から前記マスク部材を除去した前記p側半導体層の表面にわたって電極を形成する工程と、を有する垂直共振器面発光レーザ素子の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
n側半導体層、活性層及びp側半導体層をこの順に有する窒化物半導体層を準備する工程と、
前記p側半導体層の表面の少なくとも一部に、マスク部材を形成する工程と、
前記マスク部材を形成した前記p側半導体層を、アルミニウムを含む部材又は石英部材と共に酸素雰囲気下に配置し、前記マスク部材から露出した前記p側半導体層の表面に反応性イオンエッチングを施す工程と、
得られた前記p側半導体層を酸素雰囲気下で熱処理する工程と、
前記熱処理する工程後、前記マスク部材を除去する工程と、
前記反応性イオンエッチングを施した前記p側半導体層の表面から前記マスク部材を除去した前記p側半導体層の表面にわたって電極を形成する工程と、を有する垂直共振器面発光レーザ素子の製造方法。
【請求項2】
前記アルミニウムを含む部材又は石英部材が、アルミナから形成される支持部材である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記熱処理する工程における温度が700℃以上である請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記マスク部材をウェットエッチングによって除去する工程をさらに有する請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記反応性イオンエッチングを施した前記p側半導体層の表面には、ガリウムを含む酸化物層が形成される請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
さらに、前記酸化物層の表面に酸化ケイ素膜を形成し、窒素雰囲気下で熱処理を行い、熱処理後に前記酸化ケイ素膜を除去する工程を有する請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
n側半導体層、活性層及びp側半導体層をこの順に有する窒化ガリウム系の窒化物半導体層と、
前記p側半導体層の表面の一部に設けられたガリウムを含む酸化物層と、
前記p側半導体層の表面のうち前記酸化物層から露出した領域と、前記酸化物層とにわたって配置された電極を備え、
前記酸化物層は、少なくとも一部にアルミニウムを有し、
前記p側半導体層の表面と前記酸化物層は平坦な平面である垂直共振器面発光レーザ素子。
【請求項8】
前記p側半導体層は、p型窒化ガリウム層である請求項7に記載の垂直共振器面発光レーザ素子。
【請求項9】
前記酸化物層は、ガリウムに対する酸素のモル比が0.50~4.80の範囲にある請求項7に記載の垂直共振器面発光レーザ素子。
【請求項10】
前記酸化物層の厚みは、10nm以下である請求項7~9のいずれか一項に記載の垂直共振器面発光レーザ素子。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直共振器面発光レーザ素子の製造方法及び垂直共振器面発光レーザ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子の一例である垂直共振器面発光レーザ素子は、不純物をイオン注入し、半導体層の表面の一部に電流狭窄層を形成している(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開公報2018/096850号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、垂直共振器面発光レーザ素子においては、さらなる寿命特性の改善が求められている。このような状況下、本願においては、電流狭窄層における高い絶縁性を実現して、より一層の長寿命化を図ることができる垂直共振器面発光レーザ素子の製造方法及び垂直共振器面発光レーザ素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一形態に係る垂直共振器面発光レーザ素子の製造方法は、n側半導体層、活性層及びp側半導体層をこの順に有する窒化物半導体層を準備する工程と、前記p側半導体層の表面の少なくとも一部に、マスク部材を形成する工程と、前記マスク部材を形成した前記p側半導体層を、アルミニウムを含む部材又は石英部材と共に酸素雰囲気下に配置し、前記マスク部材から露出した前記p側半導体層の表面に反応性イオンエッチングを施す工程と、得られた前記p側半導体層を酸素雰囲気下で熱処理する工程と、前記熱処理する工程後、前記マスク部材を除去する工程と、前記反応性イオンエッチングを施した前記p側半導体層の表面から前記マスク部材を除去した前記p側半導体層の表面にわたって電極を形成する工程と、を有する。
【0006】
本開示の一実施形態に係る垂直共振器面発光レーザ素子は、n側半導体層、活性層及びp側半導体層をこの順に有する窒化ガリウム系の窒化物半導体層と、前記p側半導体層の表面の一部に設けられたガリウムを含む酸化物層と、前記p側半導体層の表面のうち前記酸化物層から露出した領域と、前記酸化物層とにわたって配置された電極を備え、前記酸化物層は、少なくとも一部にアルミニウムを有し、前記p側半導体層の表面と前記酸化物層は平坦な平面である。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一実施形態によれば、電流狭窄領域における高い絶縁性を実現して、より一層の長寿命化を図ることができる垂直共振器面発光レーザ素子の製造方法及び垂直共振器面発光レーザ素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1A】本開示の一実施形態に係る垂直共振器面発光レーザ素子の製造方法を示す概略断面工程図である。
図1B】本開示の一実施形態に係る垂直共振器面発光レーザ素子の製造方法を示す概略断面工程図である。
図1C】本開示の一実施形態に係る垂直共振器面発光レーザ素子の製造方法を示す概略断面工程図である。
図1D】本開示の一実施形態に係る垂直共振器面発光レーザ素子の製造方法を示す概略断面工程図である。
図1E】本開示の一実施形態に係る垂直共振器面発光レーザ素子の製造方法を示す概略断面工程図である。
図1F】本開示の一実施形態に係る垂直共振器面発光レーザ素子の製造方法を示す概略断面工程図である。
図1G】本開示の一実施形態に係る垂直共振器面発光レーザ素子の製造方法を示す概略断面工程図である。
図2A】本開示の一実施形態に係る垂直共振器面発光レーザ素子を示す概略断面工程図である。
図2B】本開示の一実施形態に係る垂直共振器面発光レーザ素子を示す概略断面工程図である。
図3】試験例1~3及び比較例1~3におけるI-V特性を測定するための半導体層の構造を示す概略断面図である。
図4】試験例1~3及び比較例1~3で用いた試料から計測したI-V測定において、10μA通電時点での電圧の違いを示すグラフである。
図5A】試験例1に係る試料のXPSナロースペクトル図である。
図5B】試験例2に係る試料のXPSナロースペクトル図である。
図5C】試験例3に係る試料のXPSナロースペクトル図である。
図6図2Aの部分Xを拡大した拡大断面図である。
図7】試験例1に係る試料の断面写真とそのTEM分析の結果を示す表である。
図8】参考例に係る試料の断面写真とそのTEM分析の結果を示す表である。
図9】比較例1に係る試料の断面写真とそのTEM分析の結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に示す形態は、本発明の技術思想を具体化するための例示であって、本発明を以下に限定するものではない。また、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするために誇張していることがある。さらに、同一の名称、符号については、原則として同一もしくは同質の部材を示しており、重複した説明は適宜省略する。
【0010】
(垂直共振器面発光レーザ素子の製造方法)
以下で、図1A図1Gを参照して、本開示の一実施形態に係る垂直共振器面発光レーザ素子の製造方法を説明する。図1A図1Gは、本開示の一実施形態に係る垂直共振器面発光レーザ素子の製造方法の各工程を例示する概略断面図である。
【0011】
(窒化物半導体層の準備)
まず、図1Aに示すように、窒化物半導体層5を準備する。窒化物半導体層5は、n側半導体層2、活性層3、及びp側半導体層4をこの順に有する積層構造を有する。n側半導体層2は、n型半導体層を含む。p側半導体層4は、p型半導体層を含む。ここで、n型半導体層とは、n型不純物を含む半導体層を指し、p型半導体層とは、p型不純物を含む半導体層を指す。なお、n側半導体層2及びp側半導体層4は、一部にアンドープの層を有していてもよい。窒化物半導体層5を構成する材料としては、例えば、一般式InAlGa1-x-yN(0≦x、0≦y、x+y≦1)の窒化物半導体が挙げられる。InAlGaNの窒化物半導体としては、AlN、InN、GaN、AlGaN、InGaN、AlInN、AlInGaN等が挙げられる。本実施形態における窒化物半導体層5は、n側半導体層2、活性層3及びp側半導体層4をこの順に有する窒化ガリウム系の窒化物半導体層であることが好ましい。
【0012】
n側半導体層2は、単層又は多層であり、n型不純物、例えば、Si又はGe等をドープしたn型半導体層を1層以上有する。活性層3は、多重量子井戸構造または単一量子井戸構造を有する。例えば、InGaNよりなる量子井戸層と、GaNよりなる障壁層とを交互に積層した積層構造が挙げられる。積層数は所望の特性により適宜設定することができる。障壁層としてはGaNの他に量子井戸層のInGaNよりIn組成の低いInGaN等を用いてもよい。p側半導体層4は、p側クラッド層と、その上に配置されたp側コンタクト層を有することができる。p側コンタクト層は、p型不純物、例えば、Mg等がドープされた層である。p側クラッド層は、p型不純物を、p側コンタクト層よりもp型不純物を低濃度でドープした層又はアンドープの層とすることができる。この場合、p側コンタクト層はp側半導体層4の最上層である。p側コンタクト層は、例えばp型の不純物を含有する窒化ガリウム層である。
【0013】
n側半導体層2、活性層3及びp側半導体層4の各厚みは、適宜設定することができる。後述する第1反射層11の上面から後述する第2反射層8の下面までの全膜厚をλ/(2neq)(neqは導波路の等価屈折率である)の整数倍とし、その間に定在波が生じるように設定する。そして、定在波の腹の部分が活性層3に、定在波の節の部分が、後述する透光性のp電極6に位置するように配置することが好ましい。このような設定にすることで、閾値電流を低減することができる。なお、閾値電流とはレーザ発振に必要な最小電流を意味する。
【0014】
本実施形態において、p側半導体層4の表面(上面)は平坦な平面である。具体的には、p側半導体層4の、活性層3とは反対側の面が平坦な平面(上面)である。このようにp側半導体層4の表面を平坦な平面とすることにより、その上に形成される電極を平坦に配置することができるために、電極の折れ曲がり等に起因する電流集中を回避することができる。ここでの平坦とは、例えば、p側半導体層4の表面の算術平均粗さが1nm以下であることを意味する。このような平坦な平面とすることにより、後述する第2反射層8を平坦に形成することができる。窒化物半導体層5は、例えば、半導体成長用の基板1上に、さらに第1反射層11上に、当該分野で公知の方法、例えば、有機金属気相成長法(MOCVD:Metal organic chemical Vapor Deposition)等を利用して、エピタキシャル成長により形成することができる。半導体成長用の基板1及び第1反射層11については、後述する。
【0015】
(マスク部材の形成)
次に、図1Bに示すように、窒化物半導体層5のp側半導体層4の表面の少なくとも一部に、マスク部材12を形成する。マスク部材12は、後に電流狭窄領域4bとして機能する領域以外の領域を被覆するように形成する。具体的には、マスク部材12となる材料層を、p側半導体層4の全表面に形成した後、パターニング等で一部を取り除くことによって、所望の形状に形成することができる。
【0016】
マスク部材12を形成する材料として、例えば、SiOを含むSiO系材料、SiN等のSiN系材料、SiO材料、Ta、ZrO、AlN、Al、Ga等の無機材料が挙げられる。本実施形態において、マスク部材12の材料として、SiOを用いる。マスク部材12の厚みは、形成する材料によって適宜調整することができ、例えば、0.1μm以上1μm以下となるように設けることができる。
【0017】
マスク部材12の形状は、平面視、例えば、円形、楕円形、三角形、四角形、六角形等の多角形、これらを組み合わせた形状等、種々の形状とすることができる。なかでも、円形、楕円形であることが好ましい。マスク部材12の形状が円形、または楕円形であることで、得られる垂直共振器面発光レーザ素子の電流狭窄領域の形状も円形となり、電流集中やそれによる素子の劣化を低減することができる。マスク部材12の大きさとして、例えば、一辺又は直径の大きさを1μm以上30μm以下とすることができる。なお、小型化の観点から1μm以上10μm以下とすることが好ましい。マスク部材12の位置は、上面視において、p側半導体層4の表面の中央又はその周辺に設定することができる。これにより、窒化物半導体層5に対して、面内において均一に電流を注入することが可能となる。
【0018】
(反応性イオンエッチング)
次に、図1Cに示すように、マスク部材12を形成したp側半導体層4を、アルミニウムを含む部材または石英を含む部材13と共に酸素雰囲気下に配置し、マスク部材12から露出したp側半導体層4の表面に反応性イオンエッチングを施す。なお、ここでの酸素含有ガスによる反応性イオンエッチング処理は、一部が削られるなどによってp側半導体層4の表面が除去されることが含まれる必要はない。少なくともp側半導体層4の表面状態が変化すればよく、例えばp側半導体層4の表面の酸素濃度が増加させられればよい。酸素濃度の増加とは、p側半導体層4に酸素がドープされた形態や、p側半導体層4の一部が酸化された形態を含む。アルミニウムを含む部材または石英を含む部材13は、反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching)を行う装置内に、窒化物半導体層5とともに導入する部材である。部材13として、例えば窒化物半導体層5を載置する部材、窒化物半導体層5とは別個に側方に配置する部材等、種々の部材が挙げられる。具体的には、アルミナ又は石英から形成される支持部材が挙げられ、例えば、トレイ等が挙げられる。なお、部材13としては、後述するようにアルミナを含む部材であることが好ましい。
【0019】
酸素雰囲気としては、大気雰囲気であってもよいが、大気中の酸素濃度よりも酸素の割合が高い雰囲気が好ましい。例えば、酸素の含有率が10%以上の酸素雰囲気下で反応性イオンエッチングを行う。本実施形態において、酸素の含有率は80%以上であることがより好ましい。このような濃度とすることで、後述する酸化物層の形成をよりしやすくすることができる。なお、酸素雰囲気には、酸素以外に、アルゴン、窒素等の不活性ガスを含んでいてもよい。
酸素雰囲気下での反応性イオンエッチングは、例えば、その圧力を5Pa~50Paで行うことができる。また、その時間は、30秒~30分間である。
【0020】
このように、アルミニウムを含む部材または石英を含む部材13が配置された酸素雰囲気下で、反応性イオンエッチングを施すことにより、窒化物半導体層5のp側半導体層4の表面に、酸素イオンを添加することができる。これによって、p側半導体層4の表面に酸化物を含む層を形成することができる。例えば、p側半導体層4がガリウムを含む半導体層によって形成されている場合には、p側半導体層4の表面にガリウムを含む酸化物層4c、例えば、Ga、GaON等を含む層を形成することができる。また、p側半導体層4の表面におけるガリウムを含む酸化物を含む層において、アルミニウムまたはシリコンの酸化物が添加される。
【0021】
(熱処理)
図1Dに示すように、上述した反応性イオンエッチングを施した窒化物半導体層5、特に、p側半導体層4の表面を酸素雰囲気下で熱処理する。ここでの熱処理は、マスク部材12をp側半導体層4上に配置したまま行う。熱処理を行うことにより、p側半導体層4の表面において、酸化ムラを低減して均一な酸化度を実現し、高抵抗を実現したガリウムの酸化物を含む酸化物層4cを形成することができる。以下、酸化物層4cを、電流狭窄領域4bということがある。
【0022】
酸素雰囲気としては、反応性イオンエッチングを施したものと同様の雰囲気であってもよいし、異なる雰囲気であってもよく、例えば、上述した酸素濃度の酸素雰囲気のなかから適宜設定することができる。本実施形態において、熱処理は、例えば600℃以上の温度で行うことができる。さらに、酸化物層4cの均一化の観点から、熱処理を700℃以上の温度で行うことが好ましい。熱処理は、例えば1分間以上行うことが挙げられる。本実施形態においては、熱処理を3分間以上、好ましくは5分間以上行う。なお、熱処理の時間は上述の時間に限定されず、例えば、10分間程度熱処理を行ってもよい。なお、この熱処理は、水蒸気を含む酸素雰囲気下で行ってもよい。
【0023】
酸化物層4cには、前述の反応性イオンエッチング時に導入されたアルミニウムまたはシリコンの酸化物が含まれる。これらの酸化物は、例えば、アルミナ、SiO、SiO、アモルファス状態のSiO等である。
【0024】
酸化物層4cの厚みは、例えば10nm以下である。さらに、本実施形態においては、例えば1nm程度としている。また、酸化物層4cの厚みは、0.1nm以上とすることができる。酸化物層4cの厚みは、上述した反応性イオンエッチング及び/又は熱処理の条件の1以上を適宜調整することにより、調整することができる。熱処理後の酸化物層4cは、十分な絶縁性を確保することができ、良好な電流狭窄領域4bを形成することができる。このように、十分な絶縁性を有する酸化物層4cが形成されることにより、電流注入領域4a以外の領域において、電流のリークを抑制することができる。これにより、後述する垂直共振器面発光レーザ素子において、より一層の長寿命化を実現することができる。
【0025】
(酸化ケイ素膜の形成及び熱処理)
上述した熱処理を行った後、マスク部材12を除去する前に、任意に、図1Eに示すように、マスク部材12を含む、窒化物半導体層5のp側半導体層4の酸化物層4cの表面に酸化ケイ素膜14を形成してもよい。酸化ケイ素膜14の例として、SiO、SiO、アモルファス状態のSiO等が挙げられる。酸化ケイ素膜14の厚みとしては、例えば50nm以上1500nm以下とすることができる。より好ましくは、150nm以上600nm以下である。酸化ケイ素膜14の厚さを150nm以上とすることにより、後述の窒素雰囲気下での熱処理時に、酸化ケイ素膜14から酸化物層4cの表面へ酸素イオンを十分に添加することができる。また、600nm以下とすることにより、酸化ケイ素膜14の形成時間、及び後述する除去の時間を、酸化ケイ素膜14をより厚く形成する場合と比べ短縮できる。酸化ケイ素膜14は、p側半導体層4の表面において、一部に厚膜又は薄膜の部位があってもよいし、均一な膜厚で形成してもよい。
【0026】
酸化ケイ素膜14を形成した後、酸化ケイ素膜14が設けられている側の面を、窒素雰囲気下で熱処理する。熱処理は、例えば、500℃以上800℃以下で行うことができる。熱処理の時間は、その温度によって適宜調整することができ、例えば、1分間以上60分間以下である。このような熱処理により、p側半導体層4の表面において、酸化ケイ素膜14が接触していた酸化物層4cにおいて、酸化ケイ素膜14からp側半導体層4に酸素が拡散する。これにより、酸素が拡散された部分の抵抗をより均一に上昇させることができ、さらに良好な電流狭窄領域4bを形成することができる。また、電流狭窄領域4bが形成されることにより、マスク部材12が被覆していたp側半導体層4の表面領域は、相対的に抵抗の低い領域(電流注入領域4a)となる。これにより、平坦なp側半導体層4を維持しつつ、電流狭窄領域4bの絶縁性をより高めることができるため、信頼性がより向上した垂直共振器面発光レーザ素子を製造することができる。なお、本実施形態の垂直共振器面発光レーザ素子の製造方法においては、酸素雰囲気下の熱処理後に、酸化ケイ素膜14の形成及び熱処理を行わず、後述のマスク部材12を除去してもよい。
【0027】
(マスク部材の除去)
図1Fに示すように、酸素雰囲気下での熱処理工程の後、マスク部材12を除去する。マスク部材12の除去は、用いた材料によって、ウェットエッチング、ドライエッチング、研磨、ポリッシング等当該分野で公知の方法を適宜選択して行うことができる。
なお、上述したように、マスク部材12を含むp側半導体層4の表面に酸化ケイ素膜14を形成した場合、マスク部材12と酸化ケイ素膜14との除去を別々に行ってもよいし、連続して行ってもよい。別々に又は連続して除去する場合のいずれにおいても、同じ方法で行ってもよいし、異なる方法で行ってもよい。なかでも、酸化ケイ素膜14とともに、マスク部材12を連続して除去することが好ましい。
【0028】
マスク部材12としてSiOを用いた場合は、ウェットエッチングによって、任意に酸化ケイ素膜14とともに、マスク部材12を除去することが挙げられる。具体的には、エッチャントとして、加熱又は非加熱のHCl、リン酸(HPO)、硝酸(HNO)、酢酸(CHCOOH)、王水、フッ化水素酸(HF)又はバッファードフッ酸(BHF)、硫酸、過酸化水素水の単独又は2以上の酸系の溶液又は混合液、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、NaOH(水酸化ナトリウム)等のアルカリ系の溶液又は混合液等を任意の濃度で調整して用いることが挙げられる。具体的には、マスク部材12がSiO、SiNの場合、バッファードフッ酸(BHF)を用いることが挙げられる。この際のエッチャントの温度は、例えば5℃以上100℃以下とすることができ、10℃以上80℃以下が挙げられる。エッチャントとマスク部材12との接触方法は、浸漬、滴下、噴霧等が挙げられる。
【0029】
マスク部材12を、任意に酸化ケイ素膜14とともに、除去することにより、電流注入領域4aを、p側半導体層4の表面において、電流狭窄領域4bと同一平面で形成することができる。つまり、電流注入領域4aから電流狭窄領域4bにわたって平坦とすることができる。ここでの同一平面及び平坦とは、例えば、1nm程度の高低差又は凹凸は許容される。
【0030】
(電極の形成)
次に、図1Gに示すように、得られた窒化物半導体層5のp側半導体層4の表面に電極を形成する。言い換えると、窒化物半導体層5の表面のうち反応性イオンエッチングが行われていない領域、つまり、酸素雰囲気下で熱処理されていない領域と電気的に接続するように電極を形成する。以下、この電極をp電極6と呼ぶ。
【0031】
p電極6は、上記工程においてマスク部材12を形成していた領域、つまり、電流注入領域4a及びその周辺において、平坦なp側半導体層4に接触していることが好ましい。p電極6上面の表面積は、例えば、電流注入領域4aの表面積よりも大きく、平面視においてp側半導体層4の上面の外縁より内側にp電極6の外縁が配置されるか、それらが一致する大きさとすることができる。これにより、後述するように、平面視において第2反射層8と重ならないようにpパッド電極9pを形成しやすくなる。
【0032】
p電極6は、垂直共振器面発光レーザ素子の発振するレーザ光のピーク波長の光に対する透過率が80%以上、好ましくは99%以上である透光性の材料によって形成することができる。透光性の材料としては、インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)等の酸化物を母材とする透明導電材料が挙げられる。p電極6の厚みは、例えば、5nm以上100nm以下である。より好ましくは、20nm以上30nm以下である。p電極6の厚みをこの範囲とすることにより、p電極6による光の吸収を低減し、閾値電流を低減することができる。なお、p電極6の形成は、後述するn側半導体層2を露出させる工程後に行うことができる。
【0033】
(その他の工程)
上述した垂直共振器面発光レーザ素子の製造方法は、さらに以下の工程を含んでもよい。例えば、n側半導体層2、活性層3及びp側半導体層4をこの順に有する窒化物半導体層5を積層する前に、基板1に第1反射層11を形成する。なお、窒化物半導体層5を積層したのちに、第1反射層11を形成してもよい。基板1の上には、第1反射層11、n側半導体層2、活性層3及びp側半導体層4がこの順に積層される。また、p電極6を含むp側半導体層4の表面に、第2反射層8をさらに形成することを含む。さらに、n側半導体層2に接触する電極9n(以下、n電極ということがある)を形成することを含む。これらの工程に加えて、さらに、反射防止膜を形成すること、放熱基板に接合することを含んでもよい。
【0034】
(第1反射層の形成)
図2Aに示すように、第1反射層11を形成する。第1反射層11は、例えば、上述した窒化物半導体層5を形成する前に形成することができる。つまり、半導体成長用の基板1を準備し、基板1上に第1反射層11を形成し、その後、第1反射層11の上面に、n側半導体層2、活性層3及びp側半導体層4をこの順に積層することができる。また、半導体成長用の基板1上に窒化物半導体層5を形成し、その後、窒化物半導体層5から半導体成長用の基板1を除去し、除去によって露出した窒化物半導体層5の表面に第1反射層11を形成してもよい。半導体成長用の基板1としては、例えば、GaNに代表される窒化物基板、サファイア、SiC等の基板が挙げられる。
【0035】
第1反射層11は、所望の反射率を得るために、各層を構成する材料、膜厚、積層数等を適宜選択することができる。第1反射層11は、例えば、半導体多層膜、誘電体多層膜を含んで構成することができる。屈折率が異なる2種以上の膜を交互に積層することにより、第1反射層11を得ることができる。半導体多層膜としては、AlInGaN化合物半導体等の窒化物半導体層が挙げられる。具体的には、AlN、InN、GaN、AlGaN、InGaN、AlInN、AlInGaNが挙げられる。なかでも、GaNと、それと格子整合するAlInNとの組み合わせが好ましい。誘電体多層膜としては、Si、Mg、Al、Hf、Nb、Zr、Sc、Ta、Ga、Zn、Y、B、Ti等の酸化物、窒化物又はフッ化物等が挙げられ、具体的には、SiO/Nb、SiO/Ta、SiO/Alが挙げられる。多層膜を構成する各層の厚さはλ/(4n)(但し、λはレーザ素子の発振波長、nは各層を構成する媒質の屈折率である)であり、発振波長λにおける用いる材料の屈折率nによって適宜設定することができる。具体的には、λ/(4n)の奇数倍とすることが好ましい。例えば、発振波長λが450nmの発光素子において、第1反射層11を、GaN/AlInNによって構成する場合、各層の厚みは、40nm以上70nm以下が挙げられる。多層膜の積層数は、意図する特性により適宜設定することができる。多層膜の積層数は、2層以上が挙げられ、例えば5層以上100層以下とすることができる。第1反射層11の全体の厚みは、例えば、0.08μm以上7μm以下とすることができる。第1反射層11は、レーザ素子の発光部を覆う限り、大きさ及び形状は、適宜設計することができる。
【0036】
半導体成長用の基板1は、第1反射層11、窒化物半導体層5を形成した後、任意の段階で、第1反射層11と反対側の面を薄膜化して、薄膜化された基板1とすることができる。基板1の薄膜化又は除去は、当該分野で公知の研磨方法、エッチング方法等を利用して行うことができる。
【0037】
(第2反射層の形成)
図2Aに示すように、p電極6を含むp側半導体層4の表面に、第2反射層8を形成することが好ましい。第2反射層8は、例えばp電極6の上にのみ形成する。第2反射層8が、p電極6の上にのみ形成される場合、第2反射層8をより平坦に形成することが可能である。これにより、発振するレーザ光の形状を制御しやすくなる。なお、p電極6の上からp電極6が設けられないp側半導体層4の表面にわたって形成してもよい。
【0038】
さらに、第2反射層8は、p電極6の表面において、電流注入領域4aの直上とその周辺の電流狭窄領域4b上にわたって形成される。これにより、第2反射層8の形成時のパターンの位置合わせが容易になり、生産性を向上させることができる。なお、第2反射層8は、電流注入領域4aの直上のみに形成されてもよい。また、第2反射層8は、電流注入領域4aの上側に位置し、平坦なp電極6上に形成されるために、凹凸による影響を受けることを抑制することができる。これにより、比較的広範囲の領域で反射率をある程度均一にすることができる。その結果、発振するレーザ光の形状がより安定化されるために、より容易に制御することが可能となる。
【0039】
第2反射層8は、上面視で、電流注入領域4aの直径(又は一辺)の長さよりもその直径(又は一辺)の長さが大きい。第2反射層8の直径(一辺)の長さは、例えば電流注入領域4aの直径(一辺)の長さの1.1倍~1.5倍とすることができる。また、第2反射層8は、誘電体多層膜を含んで構成することができる。第2反射層8は、例えば上述した第1反射層11で例示した誘電体多層膜と同様の構成とすることができる。また、第2反射層8を、SiO/Nb等から構成する場合、各層は、40nm以上100nm以下が挙げられる。多層膜の積層数は、2層以上が挙げられ、例えば5層以上20層以下とすることができる。第2反射層8の全体の厚みは、例えば、0.08μm以上2.5μm以下が挙げられ、0.6μm以上1.7μm以下とすることができる。
【0040】
第2反射層8は、後述する絶縁膜7とは離隔して形成することが好ましい。言い換えると、第2反射層8は、平面視において、後述する絶縁膜7と重ならないように配置されていることが好ましい。これにより、段差が少ない第2反射層8を形成することができる。なお、この第2反射層8の形成は、後述する絶縁膜7、pパッド電極9p、及びn電極9nの形成後に行うことができる。
【0041】
(絶縁膜7、pパッド電極9p、n電極9nの形成)
まず、p側半導体層4、活性層3、及びn側半導体層2の一部を厚み方向に除去し、n側半導体層2を一部露出させる。これらの半導体層を除去する方法としては、例えばフォトリソグラフィ及びエッチングなどの方法を利用することができる。この露出工程は、前述したp電極6を形成する前に行うことができる。これにより、p側半導体層4上にp電極6を形成した後に露出工程を行う場合と比べ、p電極6を除去する必要がないため、露出工程をより容易に行うことができる。
【0042】
次に、露出させたn側半導体層2の一部上並びにp側半導体層4、活性層3及びn側半導体層2の側面において、絶縁膜7を形成することが好ましい。この絶縁膜7は、p側半導体層4の上面を被覆していてもよいが、少なくとも上述した第2反射層8が設けられるp側半導体層4の電流注入領域4aとは離して形成することが好ましい。絶縁膜7は、SiOを含むSiO系材料、SiN等のSiN系材料、SiO材料、Ta、ZrO、AlN、Al、Ga等の無機材料等によって形成することができる。絶縁膜7の厚みは、適宜設定することができる。
【0043】
さらに、p電極6上にpパッド電極9pを形成する。pパッド電極9pは、電流注入領域4aの外周を取り囲む形状で、p電極6に接触するように形成することが好ましい。これにより、pパッド電極9pからp電極6を介して、p側半導体層4により均一に電流を注入することができる。また、pパッド電極9pは、前述した第2反射層8と上面視で重なるように配置される。より詳細には、pパッド電極9pが配置された後に、第2反射層8が形成されるため、上面視で第2反射層8の外周部に重なるようにpパッド電極9pを形成する。
【0044】
さらに、前述の露出工程により露出したn側半導体層2の上に、n電極9nを形成する。これにより、レーザ素子に電流を供給するp電極6及びn電極9nを窒化物半導体層5の同一面側に配置することができる。pパッド電極9p及びn電極9nは、同じ材料によって、単層又は積層構造で形成してもよい。n電極9n及びpパッド電極9pを同じ材料によって同じ積層構造で形成する場合、n電極9n及びpパッド電極9pを同一工程で形成することができる。これにより、レーザ素子に電流を供給するp電極6及びn電極9nを窒化物半導体層5の同一面側に配置することができる。pパッド電極9p及びn電極9nは、当該分野において通常電極として用いられる導電性材料の何れによって形成してもよい。例えば、Ti/Pt/Au、Ti/Rh/Au等が挙げられる。
【0045】
(反射防止膜の形成)
図2Bに示すように、基板1の第1反射層11と反対側の面に、さらに反射防止膜24を形成してもよい。基板1を完全除去する場合は、反射防止膜24は第1反射層11の表面に形成してよい。反射防止膜24は、上述した第1反射層11で例示した誘電体多層膜と同様の材料を用いることができる。反射防止膜24の厚みは、例えば、0.1μm以上5μm以下が挙げられる。
【0046】
(放熱基板への接合)
図2Bに示すように、得られた窒化物半導体層5を、金属膜25を有する放熱基板22に接合層23を介して、接合してもよい。接合層23は、pパッド電極9p及びn電極9nにそれぞれに接合し、放熱基板22の金属膜25とそれぞれ接合するように配置することができる。放熱基板22と得られた窒化物半導体層5との間、つまり窒化物半導体層5における接合層23が配置される領域以外の領域は、空洞のままであってもよいし、絶縁性の放熱部材等によって埋め込んでもよい。なお、放熱基板22への窒化物半導体層5の接合は、基板1の薄膜化等及び/又は反射防止膜24の形成の前に行ってもよい。また、第1反射層11の形成は第2反射層8の形成の後に行ってもよい。例えば、基板1の一部又は全部を除去し、その除去によって露出した面に第1反射層11を形成することができる。
【0047】
放熱基板22としては、AlN等のセラミックス、SiC等の半導体からなる半導体基板、金属単体基板又は2種以上の金属の複合体からなる金属基板等が挙げられる。例えば、絶縁性のAlNセラミックスを母材とし、その表面に複数の金属膜25が形成された基板を放熱基板22として用いることができる。金属膜25は、それぞれ、pパッド電極9p及びn電極9nと電気的に接続される。pパッド電極9pとn電極9nが窒化物半導体層5を挟んで配置されている場合や、第1反射層11の側を放熱基板22に接合する場合等は、p電極とn電極の両方を放熱基板22に電気的に接続しなくともよい。その場合は、放熱基板22として金属基板などの導電性の基板を用いてもよい。放熱基板22の厚みは、例えば、50μm以上500μm以下が挙げられる。放熱基板22の形成方法は、当該分野で通常使用される方法を利用することができる。
【0048】
(垂直共振器面発光レーザ素子)
本実施形態の垂直共振器面発光レーザ素子は、図2A及び図2Bに示すように、n側半導体層2、活性層3及びp側半導体層4をこの順に有する窒化ガリウム系の窒化物半導体層5と、p側半導体層4の表面の一部に設けられたガリウムを含む酸化物層4cと、p側半導体層4の表面のうち酸化物層4cから露出した領域である電流注入領域4aとにわたって配置されたp電極6とを備える。酸化物層4cは、少なくとも一部にアルミニウムを有する。また、p側半導体層4の表面と酸化物層4cとは平坦な平面を構成している。上述したように、p側半導体層4は、p型窒化ガリウム層であることが好ましい。また、酸化物層4cは、ガリウムに対する酸素のモル比が0.5~4.80の範囲にあることが好ましい。酸化物層4cの厚みは、10nm以下であることが好ましい。なお、ここでの同一平面及び平坦とは、例えば、1nm程度の高低差又は凹凸は許容される。これは、例えばTEM等の断面分析により、p側半導体層4(電流注入領域4a)のp電極6側の面と酸化物層4c(電流狭窄領域4b)のp電極6側の面との、窒化物半導体層5の積層方向における距離が、1.5nm以下であることを確認できれば、同一平面あるいは平坦であるとみなす。TEM分析を行う場合は、例えばp側半導体層4の電流注入領域4aと電流狭窄領域4bの境界付近を分析すればよい。なお、上述の距離は、より好ましくは1nm以下である。
【0049】
(試験例1~3)
次に、上述した垂直共振器面発光レーザ素子の製造方法のうち、特に電流狭窄構造の製造方法によって形成した電流狭窄領域4bの絶縁性及び組成を評価した。評価には、図3に示す、GaNからなるp側半導体層4xと、ITOからなる透光性の一対のp電極6xとを有する構造を形成して用いた。p側半導体層4xは、上述したように、表面において、電流狭窄領域として酸化物層4bxを有する。この酸化物層4bxは、図1A図1D及び図1Gに示す方法に準じて形成し、一対のp電極6xを酸化物層4bxの上面に接触するように形成した。
【0050】
具体的には、GaNからなる基板1上にp側半導体層(p-GaN層)4xを形成し、得られたp側半導体層4xを、それぞれアルミナ、石英又はSiCからなる支持部材13上に載置して、p側半導体層4xの全面に、酸素雰囲気下にて700℃の温度で5分間反応性イオンエッチング処理を施した。続いて、酸素雰囲気下で熱処理を、700℃にて5分間行った。このようにして、電流狭窄領域として、p側半導体層4xの表面に酸化物層4bxを形成した。そして、この酸化物層4bx上に、一対のp電極6x(ITO膜、厚み200nm)をスパッタリング法によって形成した。このような構成において、一対のp電極6xを介して、プローブ18から、室温にて電圧を印加して、I-V特性を評価した。以下、試験例1は、アルミナ製の支持部材13を用いて、p側半導体層4xに反応性イオンエッチングを施し、その後、酸素雰囲気下、700℃にて5分間熱処理した試料を示す。試験例2は、石英製の支持部材13を用いて、p側半導体層4xに反応性イオンエッチングを施し、その後、酸素雰囲気下、700℃にて5分間熱処理した試料を示す。試験例3は、SiC製の支持部材13を用いて、p側半導体層4xに反応性イオンエッチングを施し、その後、酸素雰囲気下、700℃にて5分間熱処理した試料を示す。
【0051】
(比較例1~3)
比較例として、上述した電流狭窄構造の製造方法において、それぞれアルミナ、石英又はSiCからなる支持部材13上に載置して、p側半導体層4xに反応性イオンエッチングを施した後、熱処理を行わずに、その表面に一対のp電極6xを形成した。このような構成において、同様に、一対のp電極6xを介して、プローブ18から、室温にて電圧を印加して、I-V特性を評価した。以下、比較例1は、アルミナ製の支持部材13を用いて、p側半導体層4xに反応性イオンエッチングを施し、その後、熱処理を行わなかった試料を示す。比較例2は、石英製の支持部材13を用いて、p側半導体層4xに反応性イオンエッチングを施し、その後、熱処理を行わなかった試料を示す。比較例3は、SiC製の支持部材13を用いて、p側半導体層4xに反応性イオンエッチングを施し、その後、熱処理を行わなかった試料を示す。
【0052】
図4は、試験例1~3及び比較例1~3を用いたI-V特性の評価の結果を示している。図4から、試験例1では、10μA時点の電圧(Vf)を、8.4Vに向上させることができることが確認できる。試験例2では、10μA時点の電圧を、6.7Vに向上させることができることが確認できる。なお、試験例3については、10μA時点の電圧は、1.9Vであり、良好な結果を得られなかった。一方で、比較例1乃至3では、いずれも、10μA時点の電圧は、3.1V、3.4V、3.1Vにとどまることが確認された。
【0053】
従って、アルミナ及び石英製の支持部材を用いて、反応性イオンエッチング及び熱処理を行った試験例1及び2に関しては、十分に絶縁性が向上させることができ、垂直共振器面発光レーザ素子の信頼性の向上を図ることができることが分かる。アルミナを含む支持部材13を用いて、反応性イオンエッチング及び熱処理を行った試験例1に関しては、特に良好な結果が得られた。これは、アルミニウムを含む部材13とともにp側半導体層4表面に反応性イオンエッチングを行うことにより、部材13が含むアルミニウムが、p側半導体層4の表面の酸化(あるいは酸素イオンの添加)を促進するためである可能性が考えられる。一方、SiCを含む支持部材13を用いて、反応性イオンエッチング及び熱処理を行った試験例3では、良好な結果は得られなかった。また、比較例1~3の結果から、いずれの支持部材13を用いても、反応性イオンエッチングの後に熱処理を行わない比較例1~3からは、良好な結果は得られなかった。
【0054】
(垂直共振器面発光レーザ素子)
上述した方法によって得られた試験例1乃至3について、その酸化物層4bx表面のXPSナロースペクトルを測定した。測定条件は、X線源としてAl-Kα(エネルギー1486.6eV)を用い、励起パワー50W、分析エリアΦ200μmとした。
【0055】
その結果を図5A図5Cに示す。図5A図5Cの結果は、それぞれ試験例1~3に対応する。図5A図5Cにおいて、丸で囲む箇所がカウント数(強度)のピークである。図5Bの(i)および図5Cの(i)には、明確なピークが確認されなかったため、ピークを示す丸を付していない。図5Aの(i)から、結合エネルギー72~74eV付近において、カウント数(強度)のピークが見られる。これは、特に良好な特性結果が得られた試験例1における酸化物層4bxに関して、Alが検出されたことを示す。さらに、試験例1で検出されたAlは、ピークを示す結合エネルギー値から、酸化物層4bx内における化学状態はアルミナであることが推定される。これに対して、図5Bの(i)、図5Cの(i)の結果から、試験例2、3における酸化物層4bxについて、カウント数のピークは見られない。つまり、試験例2、3における試料から、Alの検出は認められなかった。一方で、図5Aの(ii)、(iii)、図5Bの(ii)、(iii)、及び図5Cの(ii)、(iii)の結果から、いずれも結合エネルギー値が18~22、530~534付近においてカウント数のピークが見られる。いずれの試験例においても、ガリウム及び酸素が検出されたことが示されている。
【0056】
(TEM分析)
図6は、図2Aの部分Xを拡大した拡大断面図である。試験例1と同じ試料のp側半導体層4の表面に、さらにp電極6を設けた試料における断面のTEM分析を行った。ここでのp電極6はITOを用いた。図7は、試験例1に係る試料の断面写真及びTEM分析の結果を示す表である。図7の断面写真は、図6に示す拡大断面図に対応する。また、図7の断面写真内のA1~A3は、図6のA1~A3に対応する。A1は、p電極6(ITO)の中央部分の領域である。A2は、p側半導体層4の酸化物層4cの領域である。A3は、p側半導体層4の酸化物層4cよりも下方に位置する領域である。なお、断面写真におけるA2、A3については、見やすさのために白枠で示している。また、図6では、酸化物層4cを明瞭にするため、酸化物層4cの厚みを試験例1のTEM写真よりも厚く示している。
【0057】
図7の分析結果によると、領域A1からインジウム、酸素、及び微量のアルミニウムが検出された。領域A1からは、窒素及びガリウムは検出されなかった。また、領域A2からガリウム、酸素、窒素、及び少量のアルミニウムが検出された。領域A2からは、インジウムは検出されなかった。領域A3からは、ガリウム、窒素、少量の酸素、及び微量のアルミニウムが検出された。領域A3からは、インジウムは検出されなかった。これらの結果から、試験例1において、p電極6(ITO)と窒化物半導体層(GaN)との間にガリウム酸化物層が形成されていることが確認できる。本試料におけるガリウム酸化物層は酸化ガリウム(Ga)層、酸窒化ガリウム(GaNO)層、あるいはその混合物であると考えられる。本試料においては、ガリウム酸化物層がAlを含有している。また、ガリウム酸化物層は1.0nm程度であるが、均一に形成されていた。これにより、p電極6と窒化物半導体層5を絶縁しているものと考えられる。このように、絶縁性を有する電流狭窄領域が形成されていることにより、電流注入領域以外の領域からの電流のリークを抑制できる。これにより、例えばこの電流狭窄の構造を用いた垂直共振器面発光レーザ素子は、より一層の長寿命化を実現することができる。
【0058】
例えば、本明細書において、ガリウム酸化物層とGaN層とを、ガリウムに対する酸素のモル比によって区別する場合がある。これは、酸化物層が設けられない窒化物半導体層と本実施形態の酸化物層とを区別する為である。参考例として、ガリウム酸化物層が設けられない窒化物半導体層(GaN)と電極(ITO)の断面写真と、GaNとITOの境界におけるTEM分析の結果を図8に示す。断面写真において、TEM分析を行った領域を白枠で示している。図8の結果から、GaN層とITOとの境界においても、ガリウムに対する酸素のモル比は、0.5を超えない。つまり、本実施形態において、ガリウム酸化物層とは、ガリウムに対する酸素のモル比が、0.5以上の層を指すものとする。
同様に、本明細書において、ガリウム酸化物層とITOとを、ガリウムに対する酸素のモル比によって区別する場合がある。これは、例えば酸化物層が均一に設けられず、酸化物層とITOが混合した層を有する窒化物半導体層と本実施形態の酸化物層とを区別する為である。図9は、p側半導体層に酸素雰囲気下で反応性イオンエッチングを行った後に、酸素雰囲気下で熱処理を行わずに電極(ITO)を設けた比較例1の試料の断面写真とTEM分析を行った結果である。断面写真内のそれぞれのB1~B3は、図6のA1~A3に対応する。当該試料では、酸素雰囲気下で熱処理を行わなかったため、ガリウム酸化物が一部のみに形成されている。これにより、領域B2においては、ITOとガリウム酸化物が混合した層となっているものと考えられる。このとき、ガリウムに対する酸素のモル比は、4.8倍を超えている。つまり、本実施形態において、ガリウム酸化物層とは、ガリウムに対する酸素のモル比が4.8以下の層を指し、この混合した層と区別するものとする。
【0059】
以上の実施形態に加えて、さらに以下の付記を開示する。
(付記1)
n側半導体層、活性層及びp側半導体層をこの順に有する窒化物半導体層を準備する工程と、
前記p側半導体層の表面の少なくとも一部に、マスク部材を形成する工程と、
前記マスク部材を形成した前記p側半導体層を、アルミニウムを含む部材または石英部材と共に酸素雰囲気下に配置し、前記マスク部材から露出した前記p側半導体層の表面に反応性イオンエッチングを施す工程と、
得られた前記p側半導体層を酸素雰囲気下で熱処理する工程と、
前記熱処理する工程後、前記マスク部材を除去する工程と、
前記反応性イオンエッチングを施した前記p側半導体層の表面から前記マスク部材を除去した前記p側半導体層表面にわたって電極を形成する工程とを有する垂直共振器面発光レーザ素子の製造方法。
(付記2)
前記アルミニウムを含む部材又は石英部材が、アルミナから形成される支持部材である(付記1)に記載の製造方法。
(付記3)
前記熱処理する工程における温度が700℃以上である(付記1)又は(付記2)に記載の製造方法。
(付記4)
前記マスク部材をウェットエッチングによって除去する工程をさらに有する(付記1)~(付記3)のいずれか1に記載の製造方法。
(付記5)
前記反応性イオンエッチングを施した前記p側半導体層の表面には、ガリウムを含む酸化物層が形成される(付記1)~(付記4)のいずれか1に記載の製造方法。
(付記6)
さらに、前記酸化物層の表面に酸化ケイ素膜を形成し、窒素雰囲気下で熱処理を行い、熱処理後に前記酸化ケイ素膜を除去する工程を有する(付記5)に記載の製造方法。
(付記7)
n側半導体層、活性層及びp側半導体層をこの順に有する窒化ガリウム系の窒化物半導体層と、
前記p側半導体層の表面の一部に設けられたガリウムを含む酸化物層と、
前記p側半導体層の表面のうち前記酸化物層から露出した領域と、前記酸化物層とにわたって配置された電極を備え、
前記酸化物層は、少なくとも一部にアルミニウムを有し、
前記p側半導体層の表面と前記酸化物層は平坦な平面である垂直共振器面発光レーザ素子。
(付記8)
前記p側半導体層は、p型窒化ガリウム層である(付記7)に記載の垂直共振器面発光レーザ素子。
(付記9)
前記酸化物層は、ガリウムに対する酸素のモル比が0.5~4.80の範囲にある(付記7)又は(付記8)に記載の垂直共振器面発光レーザ素子。
(付記10)
前記酸化物層の厚みは、10nm以下である(付記7)~(付記9)のいずれか1に記載の垂直共振器面発光レーザ素子。
【符号の説明】
【0060】
1 基板
2 n側半導体層
3 活性層
4 p側半導体層
4a 電流注入領域
4b 電流狭窄領域
4bx、4c 酸化物層
5 窒化物半導体層
6、6x p電極(ITO)
7 絶縁膜
8 第2反射層
9n n電極
9p pパッド電極
11 第1反射層
12 マスク部材
13 部材(支持部材)
14 酸化ケイ素膜
18 プローブ
22 放熱基板
23 接合層
24 反射防止膜
25 金属膜
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図1G
図2A
図2B
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8
図9