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特開2024-101458ニッケルめっき材及びタブリード用リード導体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101458
(43)【公開日】2024-07-29
(54)【発明の名称】ニッケルめっき材及びタブリード用リード導体
(51)【国際特許分類】
   C25D 7/00 20060101AFI20240722BHJP
   C25D 7/06 20060101ALI20240722BHJP
   C25D 5/34 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
C25D7/00 G
C25D7/06 A
C25D5/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023005461
(22)【出願日】2023-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 知亮
(72)【発明者】
【氏名】成井 浩徳
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 康則
(72)【発明者】
【氏名】澁谷 義孝
【テーマコード(参考)】
4K024
【Fターム(参考)】
4K024AA03
4K024AA09
4K024AB02
4K024BA09
4K024BB09
4K024BC02
4K024CA06
4K024DA07
4K024GA07
(57)【要約】
【課題】成形加工性に優れるニッケルめっき材を提供する。
【解決手段】金属基材と、前記金属基材上に形成された銅めっき層と、前記銅めっき層上に形成されたニッケルめっき層とを備えるニッケルめっき材である。前記金属基材及び前記銅めっき層の結晶粒界の少なくとも一部が連続的に繋がっているとともに、前記銅めっき層及び前記ニッケルめっき層の結晶粒界の少なくとも一部が連続的に繋がっている。前記金属基材及び前記銅めっき層の結晶粒界が連続的に繋がっている割合が25%以上である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材と、
前記金属基材上に形成された銅めっき層と、
前記銅めっき層上に形成されたニッケルめっき層と
を備え、
前記金属基材及び前記銅めっき層の結晶粒界の少なくとも一部が連続的に繋がっているとともに、前記銅めっき層及び前記ニッケルめっき層の結晶粒界の少なくとも一部が連続的に繋がっており、
前記金属基材及び前記銅めっき層の結晶粒界が連続的に繋がっている割合が25%以上である、ニッケルめっき材。
【請求項2】
前記銅めっき層及び前記ニッケルめっき層の結晶粒界が連続的に繋がっている割合が10%以上である、請求項1に記載のニッケルめっき材。
【請求項3】
前記金属基材、前記銅めっき層及び前記ニッケルめっき層の3層に渡って結晶粒が連続的に繋がっている部分を有する、請求項1に記載のニッケルめっき材。
【請求項4】
前記金属基材、前記銅めっき層及び前記ニッケルめっき層の3層に渡って結晶粒が連続的に繋がっている部分を有する、請求項2に記載のニッケルめっき材。
【請求項5】
前記連続的に繋がっている前記結晶粒界のずれが100nm以内である、請求項1~4のいずれか一項に記載のニッケルめっき材。
【請求項6】
前記金属基材が銅又は銅合金である、請求項1~4のいずれか一項に記載のニッケルめっき材。
【請求項7】
前記金属基材がコルソン合金である、請求項1~4のいずれか一項に記載のニッケルめっき材。
【請求項8】
前記金属基材が条の形態である、請求項1~4のいずれか一項に記載のニッケルめっき材。
【請求項9】
前記ニッケルめっき層の厚みが0.1~3.0μmである、請求項1~4のいずれか一項に記載のニッケルめっき材。
【請求項10】
前記銅めっき層の厚みが0.1~3.0μmである、請求項1~4のいずれか一項に記載のニッケルめっき材。
【請求項11】
請求項1~4のいずれか一項に記載のニッケルめっき材を備えるタブリード用リード導体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ニッケルめっき材及びタブリード用リード導体に関する。
【背景技術】
【0002】
銅、銅合金などの金属基材にニッケルめっき層が形成されたニッケルめっき材が、電子部品、自動車部品などの各種用途で用いられている。
ニッケルめっき材は、プレス加工、曲げ加工などの成形加工を施すことによって各種用途に適した形状に加工される。しかしながら、ニッケルめっき層は延性に乏しいため、ニッケルめっき材を加工する際に、ニッケルめっき層に割れが生じてしまうことがある。この場合、ニッケルめっき層の割れを起点として金属基材が腐食するなどの問題が生じ得る。
【0003】
上記の問題に対し、金属基材を成形加工した後にニッケルめっきを施すことが考えられる。しかしながら、複雑な形状への成形加工が行われる場合、ニッケルめっきを施すことが難しく、そのコストも増大してしまう。そのため、金属基材に予めニッケルめっきを施したニッケルめっき材を成形加工することが望ましい。
【0004】
成形加工性に優れるニッケルめっき材として、特許文献1には、表層の加工変質層が除去された金属基材上にニッケルめっき層を設けることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-2233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のニッケルめっき材は、成形加工性が十分であるとはいえず、加工の程度によってはニッケルめっき層の割れを抑制できない。例えば、タブリード用リード導体(特に、車載用)にニッケルめっき材を用いる場合、ニッケルめっき材には高い曲げ性が要求されることがあるが、特許文献1に記載のニッケルめっき材では、ニッケルめっき層の割れを抑制できないことがある。
【0007】
本発明の実施形態は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、成形加工性に優れるニッケルめっき材、及びこのニッケルめっき材を用いたタブリード用リード導体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の問題を解決すべく鋭意研究を行った結果、金属基材上に銅めっき層及びニッケルめっき層が形成されたニッケルめっき材において、金属基材の結晶粒界と銅めっき層の結晶粒界との連続性、及び銅めっき層の結晶粒界とニッケルめっき層の結晶粒界との連続性が、成形加工性と密接に関係していることを見出し、本発明の実施形態を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の実施形態は、金属基材と、前記金属基材上に形成された銅めっき層と、前記銅めっき層上に形成されたニッケルめっき層とを備え、前記金属基材及び前記銅めっき層の結晶粒界の少なくとも一部が連続的に繋がっているとともに、前記銅めっき層及び前記ニッケルめっき層の結晶粒界の少なくとも一部が連続的に繋がっており、前記金属基材及び前記銅めっき層の結晶粒界が連続的に繋がっている割合が25%以上である、ニッケルめっき材に関する。
【0010】
また、本発明の実施形態は、別の側面において、前記ニッケルめっき材を備えるタブリード用リード導体に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の実施形態によれば、成形加工性に優れるニッケルめっき材、及びこのニッケルめっき材を用いたタブリード用リード導体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1~3のSIM像である。
図2】比較例1~4のSIM像である。
図3】金属基材、銅めっき層及びニッケルめっき層の結晶粒が3層に渡って連続的に繋がっている割合を算出する方法を説明するための実施例2のSIM像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態について具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されて解釈されるべきものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、改良などを行うことができる。以下の実施形態に開示されている複数の構成要素は、適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、以下の実施形態に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除してもよいし、異なる実施形態の構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【0014】
本発明の実施形態に係るニッケルめっき材は、金属基材と、金属基材上に形成された銅めっき層と、銅めっき層上に形成されたニッケルめっき層とを備える。
【0015】
金属基材としては、特に限定されず、例えば、銅、銅合金、アルミ、アルミ合金、鉄、鉄合金、ステンレス、ニッケル、ニッケル合金、チタン、チタン合金、金、金合金、銀、銀合金、白金族、白金族合金、クロム、クロム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、タングステン、タングステン合金、モリブデン、モリブデン合金、鉛、鉛合金、タンタル、タンタル合金、ジルコニウム、ジルコニウム合金、錫、錫合金、インジウム、インジウム合金、亜鉛、亜鉛合金などから構成される金属基材を用いることができる。これらの中でも金属基材は、コスト、導電性、成形加工性の観点から銅又は銅合金が好ましく、その中でも強度が求められる場合はコルソン合金が好ましい。コルソン合金は、Ni及びCoのうち少なくとも1種以上と、Siとを含む銅合金であり、Siを0.2~1.5質量%、NiとCoとを合わせて0.4~5.0質量%含むことが好ましい。
【0016】
金属基材の形状は、特に限定されず、例えば、条、板、箔などの形態とすることができる。これらの中でも金属基材は、生産性の観点から、条の形態であることが好ましい。
また、金属基材の厚みは、特に限定されないが、例えば0.02~1.0mmである。
【0017】
銅めっき層は、金属基材上に形成される。また、銅めっき層は、金属基材の少なくとも一つの面に形成されていればよい。すなわち、銅めっき層は、金属基材の一方の面に形成されていてもよいし、金属基材の両面に形成されていてもよい。
金属基材上に銅めっき層を設けることにより、金属基材とニッケルめっき層との間のエピタキシーを改善することができるため、ニッケルめっき材の成形加工性が向上する。
【0018】
銅めっき層の結晶粒界の少なくとも一部は、金属基材の結晶粒界の少なくとも一部と連続的に繋がっている。すなわち、金属基材及び銅めっき層の結晶粒界の少なくとも一部が連続的に繋がっている。このような構成であれば、金属基材と銅めっき層との間のエピタキシーを改善することができるため、ニッケルめっき材の成形加工性が向上する。
ここで、本明細書において「金属基材及び銅めっき層の結晶粒界が連続的に繋がっている」とは、ニッケルめっき材の断面をSIM観察したときに、金属基材と銅めっき層との界面において、金属基材の結晶粒界と銅めっき層の結晶粒界とのずれが100nm以下の状態であることを意味する。すなわち、ニッケルめっき材の断面のSIM観察時の倍率にもよるが、金属基材と銅めっき層との界面において、金属基材の結晶粒界と銅めっき層の結晶粒界とが直線状又は曲線状で繋がっているように見える状態のことを意味する。
【0019】
ここで、SIM観察の条件は以下の通りとする。
(装置)
株式会社日立ハイテク製高性能FIB-SEM複合装置(Ethos NX5000)
(断面加工)
前処理:加工位置にカーボン保護膜を製膜
加速電圧:30kV
(観察)
加速電圧:30kV
イオン電流:1pA
【0020】
金属基材及び銅めっき層の結晶粒界が連続的に繋がっている割合は、特に限定されないが、好ましくは25%以上、より好ましくは30%以上である。この割合の上限は、高いほど好ましく、100%であってもよい。
金属基材及び銅めっき層の結晶粒界が連続的に繋がっている割合は、次のようにして求めることができる。まず、ニッケルめっき材の断面のSIM像(横幅30μm)において、金属基材と銅めっき層との界面における金属基材及び銅めっき層の結晶粒界を特定する。次に、当該界面における金属基材の結晶粒界と銅めっき層の結晶粒界とのずれを測定し、以下の式(1)により金属基材及び銅めっき層の結晶粒界が連続的に繋がっている割合を算出する。
(ずれが100nm以下であった銅めっき層の結晶粒界の数)/(ずれが100nmを超えた銅めっき層の結晶粒界の数+ずれが100nm以下であった銅めっき層の結晶粒界の数)×100 ・・・(1)
なお、SIM像の縦幅(ニッケルめっき材の厚み方向の幅)は、ニッケルめっき層及び銅めっき層の厚みの合計の厚みより少し厚い(例えば、0.5μm)程度とすることができる。これは、ニッケルめっき層と銅めっき層との界面、および銅めっき層と金属基材との界面を観察できればよいためである。
【0021】
銅めっき層の厚みは、特に限定されないが、0.1~3.0μmが好ましく、0.1~1.0μmがより好ましく、0.1~0.5μmが更に好ましい。銅めっき層の厚みを0.1μm以上とすることにより、金属基材上に銅めっき層が形成されていない箇所の発生を抑制できるため、銅めっき層による効果が安定して確保される。また、銅めっき層の厚みを3.0μm以下とすることにより、銅めっき層上に所望の金属組織を有するニッケルめっき層が得られ易くなるとともに、実際の操業の際に銅めっきを行う際の負担が少なくなる。
【0022】
ニッケルめっき層は、銅めっき層上に形成される。
ニッケルめっき層の少なくとも一部は、銅めっき層の結晶粒界の少なくとも一部と連続的に繋がっている。すなわち、銅めっき層及びニッケルめっき層の結晶粒界の少なくとも一部が連続的に繋がっている。このような構成であれば、銅めっき層とニッケルめっき層との間のエピタキシーを改善することができるため、ニッケルめっき材の成形加工性が向上する。
ここで、本明細書において「銅めっき層及びニッケルめっき層の結晶粒界が連続的に繋がっている」とは、ニッケルめっき材の断面をSIM観察したときに、銅めっき層とニッケルめっき層との界面において、銅めっき層の結晶粒界とニッケルめっき層の結晶粒界とのずれが100nm以下の状態であることを意味する。すなわち、ニッケルめっき材の断面のSIM観察時の倍率にもよるが、銅めっき層とニッケルめっき層との界面において、銅めっき層の結晶粒界とニッケルめっき層の結晶粒界とが直線状又は曲線状で繋がっているように見える状態のことを意味する。
【0023】
銅めっき層及びニッケルめっき層の結晶粒界が連続的に繋がっている割合は、特に限定されないが、好ましくは10%以上、より好ましくは30%以上、更に好ましくは70%以上である。この割合の上限は、高いほど好ましく、100%であってもよい。
銅めっき層及びニッケルめっき層の結晶粒界が連続的に繋がっている割合は、上述の金属基材及び銅めっき層の結晶粒界が連続的に繋がっている割合と同様に算出する。
【0024】
ニッケルめっき層の厚みは、特に限定されないが、0.1~3.0μmが好ましく、0.3~2.5μmがより好ましく、0.5~2.0μmが更に好ましい。ニッケルめっき層の厚みを0.1μm以上とすることにより、ニッケルめっき層による効果(耐腐食性や、ニッケルめっき層の上に貴金属めっきを行う場合の基材成分の拡散防止効果)が安定して確保される。また、ニッケルめっき層の厚みを3.0μm以下とすることにより、所望の金属組織を有するニッケルめっき層が得られ易くなり、ニッケルめっき材の成形加工性が安定して向上する。
【0025】
金属基材、銅めっき層及びニッケルめっき層は、3層に渡って結晶粒が連続的に繋がっている部分を有することが好ましい。このような構成であれば、ニッケルめっき材の成形加工性が向上する。
ここで、本明細書において「金属基材、銅めっき層及びニッケルめっき層の3層に渡って結晶粒が連続的に繋がっている」とは、ニッケルめっき材の断面をSIM観察したときに、金属基材の結晶粒とニッケルめっき層の結晶粒との間を銅めっき層の1つの結晶粒が繋いでおり、当該結晶粒の金属基材と銅めっき層との界面における金属基材の結晶粒界と銅めっき層の結晶粒界とのずれ、及びニッケルめっき層と銅めっき層との界面におけるニッケルめっき層の結晶粒界と銅めっき層の結晶粒界とのずれが、それぞれ100nm以下の状態であることを意味する。すなわち、ニッケルめっき材の断面のSIM観察時の倍率にもよるが、銅めっき層と金属基材及びニッケルめっき層の両方との界面において、銅めっき層の結晶粒界と金属基材及びニッケルめっき層の結晶粒界とが直線状又は曲線状で繋がっているように見える状態のことを意味する。
【0026】
金属基材、銅めっき層及びニッケルめっき層の3層に渡って結晶粒が連続的に繋がっている部分を有するかどうかは、次のようにして判断することができる。まず、ニッケルめっき材の断面のSIM像(横幅30μm)において、金属基材、銅めっき層及びニッケルめっき層の各界面における金属基材、銅めっき層及びニッケルめっき層の結晶粒界を特定する。この界面に存在する銅めっき層の結晶粒界のうち、金属基材の結晶粒界又はニッケルめっき層の結晶粒界に連続的に繋がっている結晶粒界を特定する。特定された銅めっき層の結晶粒界により閉じられた銅の結晶粒が存在する場合に、ニッケルめっき材が金属基材、銅めっき層及びニッケルめっき層の3層に渡って結晶粒が連続的に繋がっている部分を有すると判断する。詳細は実施例にて具体例を用いて後述する。
【0027】
本発明の実施形態に係るニッケルめっき材の製造方法は、上記のような特徴を有するニッケルめっき材を製造可能であれば特に限定されない。以下に典型的な製造方法を説明する。
本発明の実施形態に係るニッケルめっき材は、連続めっきラインにおいて、金属基材の表面をエッチングした後、銅めっき層及びニッケルめっき層を順次形成することによって製造することができる。
【0028】
金属基材のエッチングは、化学エッチングや電解エッチングなどの公知の方法を用いて行うことができる。ただし、金属基材のエッチングでは、加工変質層が形成された領域よりも深く表層を除去することが必要である。表層の加工変質層は、その金属基材の加工履歴にもよるが、概ね金属基材の表面から0.5μmの領域に存在しており、当該加工変質層が存在している領域よりも更に深く(典型的には金属基材の表面から1.0μm程度)除去し、金属基材の母相を表面に露出させることが必要である。このように金属基材の母相を表面に露出させた上で、銅めっき層又はニッケルめっき層を形成することにより、所望の特徴を有するニッケルめっき層が形成され易くなる。
【0029】
化学エッチングの条件としては、特に限定されず、所定のエッチング深さとなるように条件を設定すればよい。例えば、硫酸、硝酸、塩酸、過酸化水素水、フッ酸などの酸から構成されるエッチング液を用い、所定のエッチング深さとなるまで金属基材を浸漬すればよい。また、エッチング液としては、市販のエッチング液を用いてもよい。なお、化学エッチングの時間及び温度は、使用するエッチング液の種類に応じて適宜設定すればよい。
【0030】
電解エッチングの条件としては、特に限定されず、所定のエッチング深さとなるように条件を設定すればよい。例えば、リン酸系電解液などの電解液中に金属基材を浸漬し、所定のエッチング深さとなるまで金属基材を電解処理すればよい。電解エッチングの条件(例えば、電解液の温度、電流密度、エッチング時間)は、使用する電解液の種類に応じて適宜設定すればよい。
【0031】
銅めっき層及びニッケルめっき層は、公知の方法に準じて形成することができる。例えば、銅めっき層及びニッケルめっき層は、電気めっきによって形成することができる。その条件は、使用する電気めっき装置に応じて調整すればよく特に限定されないが、一般的な電気めっき装置を用いて銅めっき層及びニッケルめっき層を形成する際の条件は以下の通りである。なお、電気めっきは、1回であってもよいし、複数回行ってもよい。
【0032】
(銅めっき層)
めっき液組成:150~270g/Lの硫酸銅、40~90g/Lの硫酸
めっき液温度:40~50℃
電流密度:2~50A/dm2
ただし、銅めっきの電流密度を高くする場合、その理由は不明であるものの、銅めっき層の厚さを小さくすることで成形加工性が良好になる傾向がみられる。同様に、銅めっきの電流密度を低くする場合、その理由は不明であるものの、銅めっき層の厚さを大きくすることで成形加工性が良好になる傾向がみられる。なお、銅めっき層の厚さは、めっき時間を制御することによって調整することができる。
【0033】
(ニッケルめっき層)
めっき液組成:300~650g/Lのスルファミン酸ニッケル、0~30g/Lの塩化ニッケル、30~40g/Lのほう酸
めっき液温度:50~60℃
電流密度:2~50A/dm2
【0034】
本発明の実施形態に係るニッケルめっき材は、成形加工性に優れるため、複雑な形状への成形加工が要求される様々な用途で用いるのに適している。例えば、本発明の実施形態に係るニッケルめっき材は、複雑な形状への加工や厳しい曲げ加工が施されるコネクタ、スイッチ、又は高い曲げ性が求められるタブリード用リード導体として用いるのに適している。タブリード用リード導体において、ニッケルめっき材は、帯状に加工して一般に用いられる。これらの用途に用いられるニッケルめっき材は、ニッケルめっき材のみから構成されていてもよいし、ニッケルめっき材に加えて、ニッケルめっき材以外の部材(例えばニッケルめっき層の上に貴金属めっき層)を更に備えていてもよい。
【実施例0035】
以下、本発明の実施形態を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0036】
(実施例1~3)
金属基材の表面を化学エッチングした後、電気めっきによって銅めっき層及びニッケルめっき層を順次形成することにより、ニッケルめっき材を作製した。使用した金属基材の種類、エッチング方法、電流密度、銅めっき層及びニッケルめっき層の厚みを表1に示す。その他の条件は以下の通りである。
【0037】
<金属基材>
コルソン合金:厚みが0.20mmのCu-2.8Ni-0.6Si-0.5Sn-0.4Zn(数値の単位は質量%である)
黄銅:厚みが0.25mmのCu-30Zn(数値の単位は質量%である)
【0038】
<化学エッチング>
エッチング液として三菱ガス化学株式会社製のCPB-40Nを水で2倍に希釈したものを用い、金属基材を25℃のエッチング液中で1分間揺動することによって化学エッチングを行った。この化学エッチングによって、金属基材の表層を約1μm除去することができる。
【0039】
<銅めっき層の形成>
めっき液組成:240g/Lの硫酸銅、80g/Lの硫酸
めっき液温度:45℃
【0040】
<ニッケルめっき層の形成>
めっき液組成:600g/Lのスルファミン酸ニッケル、40g/Lのほう酸
めっき液温度:55℃
【0041】
(比較例1)
金属基材の表面を化学エッチングしなかったこと以外は、上記の実施例に準じて同様に行い、ニッケルめっき材を作製した。
【0042】
(比較例2)
金属基材の表面を化学エッチングしなかったこと以外は、上記の実施例に準じて同様に行い、ニッケルめっき材を作製した。
【0043】
(比較例3)
金属基材の表面を化学エッチングせず、銅めっき層を形成しないとともに、ニッケルめっき層を形成する際の電流密度を変更したこと以外は、上記の実施例に準じて同様に行い、ニッケルめっき材を作製した。
【0044】
(比較例4)
銅めっき層を形成しなかったこと以外は、上記の実施例に準じて同様に行い、ニッケルめっき材を作製した。
【0045】
【表1】
【0046】
上記のようにして得られたニッケルめっき材について、以下の評価を行った。
【0047】
<金属基材及び銅めっき層の結晶粒界が連続的に繋がっている割合、銅めっき層及びニッケルめっき層の結晶粒界が連続的に繋がっている割合、並びに金属基材、銅めっき層及びニッケルめっき層の3層に渡って結晶粒が連続的に繋がっている割合>
ニッケルめっき材の断面をSIM観察し、上記の方法によって金属基材及び銅めっき層の結晶粒界が連続的に繋がっている割合(表2では「基材/Cuの割合」と表す)、銅めっき層及びニッケルめっき層の結晶粒界が連続的に繋がっている割合(表2では「Cu/Niの割合」と表す)、並びに金属基材、銅めっき層及びニッケルめっき層の3層に渡って結晶粒が連続的に繋がっている割合(表2では「3層連続の割合」と表す)を求めた。また、銅めっき層を設けていない比較例3及び4においては、金属基材及びニッケルめっき層の結晶粒界が連続的につながっている割合(表2では「基材/Niの割合」と表す)も参考として求めた。なお、SIM観察は、前述の条件で行った。
また、実施例1~3のSIM像を図1、比較例1~4のSIM像を図2に示す。なお、図1及び2では、銅めっき層を「Cu」、ニッケルめっき層を「Ni」と表す。また、特に図1の実施例1及び2で観察される斜めに入ったコントラストの異なる結晶は、双晶であると考えられる。双晶は、1つの結晶粒界の中である一定の面を境界にして互いに鏡面対象となっている結晶を意味し、本明細書では、この双晶境界も結晶粒界とみなす。
【0048】
ここで、一例として、金属基材、銅めっき層及びニッケルめっき層の3層に渡って結晶粒が連続的に繋がっている割合を算出する方法を説明するために、実施例2のSIM像を図3に示す。まず、1つの結晶粒で金属基材とニッケルめっき層とを繋ぐ銅めっき層の結晶粒(視野内における両端の結晶粒は除く)の数をカウントした。
次に、金属基材と銅めっき層との界面、及びニッケルめっき層と銅めっき層との界面に存在する銅めっき層の結晶粒界を特定した(図3の丸印)。なお、図3では、金属基材の結晶粒界又はニッケルめっき層の結晶粒界に連続的に繋がっている結晶粒界には黒色の丸印を、連続的に繋がっていない結晶粒界には白の丸印を付している。そして、この黒色の結晶粒界で閉じられた銅めっき層の結晶粒の数をカウントした。この数を上述の1つの結晶粒で金属基材とニッケルめっき層とを繋ぐ銅めっき層の結晶粒(視野内における両端の結晶粒は除く)の数で除した割合を、金属基材、銅めっき層及びニッケルめっき層の3層に渡って結晶粒が連続的に繋がっている割合とする。
なお、黒丸の結晶粒界で閉じられた銅めっき層の結晶粒とは、例えば、銅めっき層の結晶粒が、金属基材と銅めっき層との界面及び銅めっき層とニッケルめっき層との界面にそれぞれ辺を有する4角形である場合、この4角形の4隅が全て黒丸であることを意味する。このように黒丸の結晶粒界で閉じられた銅めっき層の結晶粒は典型的には4角形であるが、図3の視野内右側にある結晶粒のような5角形、又は曲面を有する形もあり得る。
【0049】
<成形加工性(MBR/t)>
ニッケルめっき材から10mm×30mmの試験片を切り出した。この試験片について、曲げ角度90°のW曲げ試験を行った。断面観察においてクラックの発生しなかった曲げ半径Rを試験片の厚みで割った値を安全曲げ半径(MBR/t)とした。MBR/tの値が小さいほど、曲げ加工性(成形加工性)に優れるといえる。
上記の評価結果を表2に示す。
【0050】
【表2】
【0051】
表2に示されるように、実施例1~3のニッケルめっき材は、金属基材及び銅めっき層の結晶粒界が連続的に繋がっている割合が25%以上、並びに銅めっき層及びニッケルめっき層の結晶粒界が連続的に繋がっている割合が10%以上であり、金属基材及び銅めっき層の結晶粒界の少なくとも一部が連続的に繋がっているとともに、銅めっき層及びニッケルめっき層の結晶粒界の少なくとも一部が連続的に繋がっていることを確認した。また、金属基材としてコルソン合金を用いた実施例1及び2のニッケルめっき材は、同一の金属基材を用いた比較例1のニッケルめっき材に比べて、MBR/tが低く、曲げ加工性(成形加工性)に優れることがわかった。また、金属基材として黄銅を用いた実施例3のニッケルめっき材は、同一の金属基材を用いた比較例2~4のニッケルめっき材に比べて、MBR/tが低く、曲げ加工性(成形加工性)に優れることがわかった。
なお、表2において、同じ金属基材同士を比較して、金属基材の表面をエッチングしておらず、銅めっき層も形成しなかった場合のMBR/tの半分以下のMBR/tとなったものを実施例、そうでないものを比較例として定義している。例えば、金属基材として黄銅を用いた場合、金属基材の表面をエッチングしておらず、銅めっき層も形成しなかった比較例3のMBR/t(4.0)を基準としているため、MBR/tが2.0以下となっているもの(実施例3)が実施例となり、2.0を超えるもの(比較例2及び4)が比較例となっている。また、コルソン合金を用いた場合については、最もMBR/tが大きくなることが期待される、金属基材の表面をエッチングしておらず、銅めっき層も形成しなかったニッケルめっき材がなかったため、便宜的に金属基材の表面をエッチングしなかった比較例1のMBR/t(6.0)を基準とした。そのため、MBR/tが3.0以下となっているもの(実施例1及び2)が実施例となる。
本発明者は、このような金属基材の表面をエッチングしておらず、銅めっき層も形成しなかった場合のMBR/tの半分以下のMBR/tのニッケルめっき材とすることで、ニッケルめっきを予め施したニッケルめっき材に対して複雑な成形加工を行ってもニッケルめっきの割れの発生を抑制することができることを見出した。
本発明の実施形態に係るニッケルめっき材によれば、成形加工後ではなく成形加工前にニッケルめっきを施すことができるため、ニッケルめっきの難易度やコストを従来よりも大幅に低下させることができる。
【0052】
比較例1及び2のニッケルめっき材は、金属基材の表面をエッチングしていないため、金属基材及び銅めっき層の結晶粒界の少なくとも一部や、銅めっき層及びニッケルめっき層の結晶粒界の少なくとも一部が連続的に繋がっておらず、曲げ加工性(成形加工性)が低下してしまった。
比較例3のニッケルめっき材は、金属基材の表面をエッチングしておらず、銅めっき層も形成していないため、金属基材とニッケルめっき層とのエピタキシーが不十分であり、曲げ加工性(成形加工性)が低下してしまった。
比較例4のニッケルめっき材は、金属基材の表面を化学エッチングしているものの、銅めっき層を形成しなかったため、金属基材とニッケルめっき層とのエピタキシーが不十分であり、曲げ加工性(成形加工性)が低下してしまった。
【0053】
以上の結果からわかるように、本発明の実施形態によれば、成形加工性に優れるニッケルめっき材、及びこのニッケルめっき材を用いたタブリード用リード導体を提供することができる。
したがって、本発明の実施形態は、以下の態様とすることができる。
【0054】
(1) 金属基材と、
前記金属基材上に形成された銅めっき層と、
前記銅めっき層上に形成されたニッケルめっき層と
を備え、
前記金属基材及び前記銅めっき層の結晶粒界の少なくとも一部が連続的に繋がっているとともに、前記銅めっき層及び前記ニッケルめっき層の結晶粒界の少なくとも一部が連続的に繋がっており、
前記金属基材及び前記銅めっき層の結晶粒界が連続的に繋がっている割合が25%以上である、ニッケルめっき材。
【0055】
(2) 前記銅めっき層及び前記ニッケルめっき層の結晶粒界が連続的に繋がっている割合が10%以上である、(1)に記載のニッケルめっき材。
【0056】
(3) 前記金属基材、前記銅めっき層及び前記ニッケルめっき層の3層に渡って結晶粒が連続的に繋がっている部分を有する、(1)に記載のニッケルめっき材。
【0057】
(4) 前記金属基材、前記銅めっき層及び前記ニッケルめっき層の3層に渡って結晶粒が連続的に繋がっている部分を有する、(2)に記載のニッケルめっき材。
【0058】
(5) 前記連続的に繋がっている前記結晶粒界のずれが100nm以内である、(1)~(4)のいずれか1つに記載のニッケルめっき材。
【0059】
(6) 前記金属基材が銅又は銅合金である、(1)~(5)のいずれか1つに記載のニッケルめっき材。
【0060】
(7) 前記金属基材がコルソン合金である、(1)~(6)のいずれか1つに記載のニッケルめっき材。
【0061】
(8) 前記金属基材が条の形態である、(1)~(7)のいずれか1つに記載のニッケルめっき材。
【0062】
(9) 前記ニッケルめっき層の厚みが0.1~3.0μmである、(1)~(8)のいずれか1つに記載のニッケルめっき材。
【0063】
(10) 前記銅めっき層の厚みが0.1~3.0μmである、(1)~(9)のいずれか1つに記載のニッケルめっき材。
【0064】
(11) (1)~(10)のいずれか1つに記載のニッケルめっき材を備えるタブリード用リード導体。
図1
図2
図3