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特開2024-101606非水電解質二次電池用複合粒子及び非水電解質二次電池
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  • 特開-非水電解質二次電池用複合粒子及び非水電解質二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101606
(43)【公開日】2024-07-30
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用複合粒子及び非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20240723BHJP
【FI】
H01M4/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023005601
(22)【出願日】2023-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】590002817
【氏名又は名称】三星エスディアイ株式会社
【氏名又は名称原語表記】SAMSUNG SDI Co., LTD.
【住所又は居所原語表記】150-20 Gongse-ro,Giheung-gu,Yongin-si, Gyeonggi-do, 446-902 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(74)【代理人】
【識別番号】100227673
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 光起
(72)【発明者】
【氏名】白 鎭碩
(72)【発明者】
【氏名】乾 州弘
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA15
5H050BA15
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA02
5H050FA02
5H050FA04
5H050FA17
5H050GA02
5H050GA10
5H050HA00
5H050HA07
(57)【要約】
【課題】内部温度が上昇しやすい環境下においても電池の内部温度の上昇を十分に抑制することができる非水電解質二次電池用複合粒子を提供する。
【解決手段】金属水酸化物と難燃化剤とを含む非水電解質二次電池用複合粒子であって、
前記複合粒子の昇温脱離ガス質量分析計(TDS-MS)による80℃から1400℃までの脱離P量(MS1)が200×10-6 mol/g以上2500×10-6 mol/g以下であり、TDS-MSによる80℃から200℃までの脱離HO量(MS2)が50×10-6 mol/g以上1000×10-6 mol/g以下であり、前記複合粒子の体積基準の粒度分布の積算値50%(D50)が0.1μm以上8μm以下である、非水電解質二次電池用複合粒子。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属水酸化物と難燃化剤とを含む非水電解質二次電池用複合粒子であって、
前記複合粒子の昇温脱離ガス質量分析計(TDS-MS)による80℃から1400℃までの脱離P量(MS1)が200×10-6 mol/g以上2500×10-6 mol/g以下であり、前記複合粒子のTDS-MSによる80℃から200℃までの脱離HO量(MS2)が50×10-6 mol/g以上1000×10-6 mol/g以下であり、前記複合粒子の体積基準の粒度分布の積算値50%(D50)が0.1μm以上8μm以下である、非水電解質二次電池用複合粒子。
【請求項2】
前記複合粒子に窒素を吸着させて測定される吸着等温線によって算出される前記複合粒子の比表面積(BET)が8m2/g以上80m2/g以下である、請求項1に記載の非水電解質二次電池用複合粒子。
【請求項3】
前記脱離ガス量の比が、以下の式(1)を満たす、請求項1に記載の非水電解質二次電池用複合粒子。
0.5≦(MS1/MS2)≦10.0・・・(1)
【請求項4】
前記金属水酸化物が、水酸化アルミニウム、擬べーマイト、ベーマイト、アルミナおよびカオリナイトからなる群から選ばれる1種以上であり、前記金属水酸化物の表面及び内部が難燃化剤で改質されるものである、請求項1に記載の非水電解質二次電池用複合粒子。
【請求項5】
前記難燃化剤が、リン酸、リン酸エステル、ホスホン酸及びホスフィン酸からなる群のうち1種以上を含むものである、請求項1に記載の非水電解質二次電池用複合粒子。
【請求項6】
誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-AES)によるアルミニウム元素の含有量が5質量%以上30質量%以下であり、リン元素の含有量が5質量%以上30質量%以下である、請求項1に記載の非水電解質二次電池用複合粒子。
【請求項7】
前記複合粒子において、TDS-MSによる80℃から1400℃までの脱離CH量(MS3)が30×10-6 mol/g以上500×10-6 mol/g以下であり、前記複合粒子において、TDS-MSによる80℃から1400℃までの脱離CHOH量(MS4)が500×10-6 mol/g以上3000×10-6 mol/g以下である、請求項1に記載の非水電解質二次電池用複合粒子。
【請求項8】
TDS-MSによる80℃から1400℃までの脱離C量(MS5)が100×10-6 mol/g以上3000×10-6 mol/g以下である、請求項1に記載の非水電解質二次電池用複合粒子。
【請求項9】
正極集電体と、該正極集電体上に積層された正極合剤層とを含み、
前記正極合剤層が正極活物質と、請求項1~8のいずれかに記載の非水電解質二次電池用複合粒子を含有するものである、非水電解質二次電池用正極。
【請求項10】
正極と負極とセパレータと非水電解液とを備える非水電解質二次電池であって、前記正極が請求項9に記載の非水電解質二次電池用正極であることを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項11】
金属水酸化物粒子と難燃化剤とを混合し加熱する工程を含む非水電解質二次電池用複合粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用複合粒子及びこれを含有する非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池をはじめとする非水電解質二次電池は、スマートフォンやノート型パソコン等の電源として広く用いられており、最近は車載用など大型電池にも使用されている。
一方、リチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が高いという利点の反面、非水電解質を使用するため、安全性に十分な対策が必要であるが、近年電池の大型化に応じて、安全性の確保が更に重要となっている。
【0003】
例えば、リチウムイオン二次電池が高温環境下に置かれた場合等には、リチウムイオン二次電池の正極が発熱したり、正極から発生した酸素ラジカルによる電解質の酸化分解反応によって熱が発生したりして電池の内部温度の上昇が引き起こされる可能性がある。
このような原因により電池の内部温度が非常に高温になると、リチウムイオン二次電池が備えるセパレータが収縮することによる短絡が発生しやすくなり、ますます電池の内部温度が上昇してしまう恐れがある。
【0004】
そこで、リチウムイオン二次電池の内部温度上昇を抑制して安全性を確保する方法として、ラジカル捕捉能を有するリン酸エステル等のラジカル捕捉剤を含有するバインダーを正極に含有させるもの(特許文献1)又は吸熱性を有する金属水酸化物からなる吸熱粒子を含有させるもの(特許文献2、3)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-159484号公報
【特許文献2】特開2016-162528号公報
【特許文献3】特開2011-258481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、特許文献1に記載されているラジカル捕捉剤や、特許文献2及び3に記載されている無機粒子をそれぞれ単独でリチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池に含有させただけでは、電池の内部温度を十分に抑制できない場合があることが分かった。
また、前述したような吸熱粒子やラジカル捕捉剤などの発熱抑制添加物を添加することによって、電池のサイクル特性が悪化してしまう場合があることについても本発明者は気が付いた。
【0007】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、電池の内部温度の上昇を十分に抑制しながらも、サイクル特性などの電池性能の低下を抑制することができる非水電解質二次電池用複合粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は以下の内容を含むものである。
[1]金属水酸化物と難燃化剤とを含む非水電解質二次電池用複合粒子であって、
前記複合粒子の昇温脱離ガス質量分析計(TDS-MS)による80℃から1400℃までの脱離P量(MS1)が200×10-6 mol/g以上2500×10-6 mol/g以下であり、前記複合粒子のTDS-MSによる80℃から200℃までの脱離HO量(MS2)が50×10-6 mol/g以上1000×10-6 mol/g以下であり、前記複合粒子の体積基準の粒度分布の積算値50%(D50)が0.1μm以上8μm以下である、非水電解質二次電池用複合粒子。
[2]前記複合粒子に窒素を吸着させて測定される吸着等温線によって算出される前記複合粒子の比表面積(BET)が8m2/g以上80m2/g以下である、[1]に記載の非水電解質二次電池用複合粒子。
[3]前記脱離ガス量の比が、以下の式(1)を満たす、[1]又は[2]に記載の非水電解質二次電池用複合粒子。
0.5≦(MS1/MS2)≦10.0・・・(1)
[4]前記金属水酸化物が、水酸化アルミニウム、擬べーマイト、ベーマイト、アルミナおよびカオリナイトからなる群から選ばれる1種以上であり、前記金属水酸化物の表面及び内部が難燃化剤で改質されるものである[1]~[3]のいずれかに記載の非水電解質二次電池用複合粒子。
[5]前記難燃化剤が、リン酸、リン酸エステル、ホスホン酸及びホスフィン酸からなる群のうち1種以上を含むものである[1]~[4]のいずれかに記載の非水電解質二次電池用複合粒子。
[6]誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-AES)によるアルミニウム元素の含有量が5質量%以上30質量%以下であり、リン元素の含有量が5質量%以上30質量%以下である[1]~[5]のいずれかに記載の非水電解質二次電池用複合粒子。
[7]前記複合粒子において、TDS-MSによる80℃から1400℃までの脱離CH量(MS3)が30×10-6 mol/g以上500×10-6 mol/g以下であり、前記複合粒子において、TDS-MSによる80℃から1400℃までの脱離CHOH量(MS4)が500×10-6 mol/g以上3000×10-6 mol/g以下である[1]~[6]のいずれかに記載の非水電解質二次電池用複合粒子。
[8]TDS-MSによる80℃から1400℃までの脱離C量(MS5)が100×10-6 mol/g以上3000×10-6 mol/g以下である[1]~[7]のいずれかに記載の非水電解質二次電池用複合粒子。
[9][1]~[8]のいずれかに記載の非水電解質二次電池用複合粒子を0.1重量%以上3.0重量%以下の範囲で含有する非水電解質二次電池用正極。
[10]正極と負極とセパレータと非水電解液とを備える非水電解質二次電池であって、前記正極が[9]に記載の非水電解質二次電池用正極であることを特徴とする非水電解質二次電池。
[11]金属水酸化物粒子の原料と難燃化剤とを混合し加熱する工程を含む非水電解質二次電池用複合粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
このように構成した非水電解質二次電池用複合粒子によれば、リン酸化合物によるラジカル捕捉能と金属水酸化物による吸熱能との両方を兼ね備えるだけでなく、複合粒子とした際の粒径についても最適な範囲としているので、非水電解質二次電池における内部温度の上昇を十分に抑制しながらも電池性能の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る複合粒子の構造を示す模式図である。
図2】本発明の実施例及び比較例におけるセル特性を示すグラフ。
図3】本発明の実施例及び比較例における正極発熱抑制効果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の一実施形態に係る非水電解質二次電池の具体的な構成について説明する。
<1.非水電解質二次電池の基本構成>
本実施形態に係る非水電解質二次電池は、正極と、負極と、セパレータ(separator)と、非水電解質と、を備えるリチウムイオン二次電池である。
リチウムイオン二次電池の形態は、特に限定されないが、例えば、円筒形、角形、ラミネート(laminate)形、またはボタン(button)形等のいずれであってもよい。
【0012】
(1-1.正極)
前記正極は、正極集電体と、該正極集電体上に形成された正極合剤層とを備えている。
前記正極集電体は、導電体であればどのようなものでも良く、例えば、板状又は箔状のものであり、アルミニウム(aluminum)、ステンレス(stainless)鋼、及びニッケルメッキ(nickel coated)鋼等で構成されることが好ましい。
前記正極合剤層は、正極活物質を含み、導電剤と、正極用バインダーとをさらに含んでいてもよい。
【0013】
前記正極活物質は、例えば、リチウムを含む遷移金属酸化物または固溶体酸化物であり、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵および放出することができる物質であれば特に制限されない。リチウムを含む遷移金属酸化物としては、例えば、Li1.0Ni0.88Co0.1Al0.01Mg0.01等を挙げることができるが、これ以外にも、LiCoO等のLi・Co系複合酸化物、LiNiCoMn等のLi・Ni・Co・Mn系複合酸化物、LiNiO等のLi・Ni系複合酸化物、またはLiMn等のLi・Mn系複合酸化物等を例示することができる。固溶体酸化物としては、LiMnCoNi(1.150≦a≦1.430、0.45≦x≦0.6、0.10≦y≦0.15、0.20≦z≦0.28)、LiMn1.5Ni0.5等を例示することができる。なお、前記正極活物質の含有量(含有比)は、特に制限されず、非水電解質二次電池の正極合剤層に適用可能な含有量であればよい。また、これらの化合物を単独で用いても良いし、または複数種混合して用いてもよい。
【0014】
前記導電剤は、前記正極の導電性を高めるためのものであれば特に制限されない。前記導電剤の具体例としては、例えば、カーボンブラック、天然黒鉛、人造黒鉛及び繊維状炭素、シート状炭素の中から選ばれる一種以上を含有するものを挙げることができる。
前記カーボンブラックの例としては、ファーネスブラック(furnace black)、チャネルブラック(channel black)、サーマルブラック(thermal black)、ケッチェンブラック(ketjen black)、アセチレンブラック(acetylene black)等を挙げることができる。
前記繊維状炭素の例としては、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバ等を挙げることができ、シート状炭素の例としては、グラフェンなどを挙げることができる。
正極合剤層における前記導電剤の含有量は、特に制限されないが、導電性と電池容量とを両立させるという観点から、正極合剤層全体に対して0.1質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上3質量%以下であることがより好ましい。
【0015】
前記正極用バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride)等のフッ素含有樹脂、スチレンブタジエンゴム(styrene-butadiene rubber)等のエチレン含有樹脂、エチレンプロピレンジエン三元共重合体(ethylene-propylene-diene terpolymer)、アクリロニトリルブタジエンゴム(acrylonitile-butadiene rubber)、フッ素ゴム(fluororubber)、ポリ酢酸ビニル(polyvinyl acetate)、ポリメチルメタクリレート(polymethylmethacrylate)、ポリエチレン(polyethylene)、ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol)、カルボキシメチルセルロース(carboxy metyl cellulose)若しくはカルボキシメチルセルロース誘導体(カルボキシメチルセルロースの塩等)、又はニトロセルロース(nitrocellulose)等を挙げることができる。前記正極用バインダーは、前記正極活物質及び前記導電剤を前記正極集電体上に結着させることができるものであればよく、特に制限されない。
【0016】
(1-2.負極)
負極は、負極集電体と、該負極集電体上に形成された負極合剤層とを備えるものである。
前記負極集電体は、導電体であればどのようなものでも良く、例えば、板状又は箔状のものであり、銅、ステンレス鋼、及びニッケルメッキ鋼等で構成されるものであることが好ましい。
【0017】
前記負極合剤層は、負極活物質を含み、導電剤と、負極用バインダーとをさらに含んでいても良い。
前記負極活物質は、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵及び放出することが出来るものであれば特に限定されないが、例えば、黒鉛活物質(人造黒鉛、天然黒鉛、人造黒鉛と天然黒鉛との混合物、人造黒鉛を被覆した天然黒鉛等)、Si系活物質又はSn系活物質(例えば、ケイ素(Si)もしくはスズ(Sn)もしくはそれらの酸化物の微粒子と黒鉛活物質との混合物、ケイ素もしくはスズの微粒子、ケイ素もしくはスズを基本材料とした合金)、金属リチウム及びLiTi12等の酸化チタン系化合物、リチウム窒化物等が考えられる。負極活物質としては、以上に挙げたもののうち一種類を用いても良いし、2種類以上を併用しても良い。なお、ケイ素の酸化物は、SiOx(0≦x≦2)で表される。
【0018】
前記導電剤は、前記負極の導電性を高めるためのものであれば特に制限されず、例えば、前記正極の項で説明したものと同様のものを使用することができる。
負極合剤層における前記導電剤の含有量は、特に制限されないが、導電性と電池容量とを両立させるという観点から、負極合剤層全体に対して0.1質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上3質量%以下であることがより好ましい。
【0019】
前記負極用バインダーとしては、前記負極活物質及び前記導電剤を前記負極集電体上に結着させることができるものであればよく、特に制限されない。前記負極用バインダーは、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアクリル酸(PAA)、スチレンブタジエン系共重合体(SBR)、カルボキシメチルセルロースの金属塩(CMC)などであってもよい。1種のバインダーが単独で使用されても良いし、2種以上を含有するものとしても良い。
【0020】
(1-3.セパレータ)
セパレータは、特に制限されず、リチウムイオン二次電池のセパレータとして使用されるものであれば、どのようなものであってもよい。セパレータとしては、優れた高率放電性能を示す多孔膜や不織布等を、単独あるいは併用することが好ましい。セパレータを構成する樹脂としては、例えば、ポリエチレン(polyethylene)、ポリプロピレン(polypropylene)等に代表されるポリオレフィン(polyolefin)系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(polyethylene terephthalate)、ポリブチレンテレフタレート(polybutylene terephthalate)等に代表されるポリエステル(polyester)系樹脂、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene difluoride)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(vinylidene difluoride-hexafluoropropylene copolymer)、フッ化ビニリデン-パーフルオロビニルエーテル共重合体(vinylidene difluoride-perfluoroninylether copolymer)、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン共重合体(vinylidene difluoride-tetrafluoroethylene copolymer)、フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン共重合体(vinylidene difluoride-trifluoroethylene copolymer)、フッ化ビニリデン-フルオロエチレン共重合体(vinylidene difluoride-fluoroethylene copolymer)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロアセトン共重合体(vinylidene difluoride-hexafluoroacetone copolymer)、フッ化ビニリデン-エチレン共重合体(vinylidene difluoride-ethylene copolymer)、フッ化ビニリデン-プロピレン共重合体(vinylidene difluoride-propylene copolymer)、フッ化ビニリデン-トリフルオロプロピレン共重合体(vinylidene difluoride-trifluoro propylene copolymer)、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(vinylidene difluoride-tetrafluoroethylene copolymer)、フッ化ビニリデン-エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(vinylidene difluoride-ethylene-tetrafluoroethylene copolymer)等を挙げることができる。なお、セパレータの気孔率は、特に制限されず、従来のリチウムイオン二次電池のセパレータが有する気孔率を任意に適用することが可能である。
【0021】
セパレータは、前述した多孔膜や不織布の表面を覆う表面層をさらに備えるものとしても良い。前記表面層は、電極と接着して電池素子を固定化するための接着剤を含むものであっても良い。接着剤としてはフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン重合体の酸変性物、スチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体等を挙げることができる。
【0022】
(1-4.非水電解液)
非水電解液は、従来からリチウムイオン二次電池に用いられる非水電解液と同様のものを特に限定なく使用することができる。非水電解液は、電解液用溶媒である非水溶媒に電解質塩を含有させた組成を有する。前記非水溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート(propylene carbonate)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate)、ブチレンカーボネート(butylene carbonate)、クロロエチレンカーボネート(chloroethylene carbonate)、フルオロエチレンカーボネート(fluoroethylene carbonate)、ビニレンカーボネート(vinylene carbonate)等の環状炭酸エステル類、γ-ブチロラクトン(γ-butyrolactone)、γ-バレロラクトン(γ-valerolactone)等の環状エステル類、ジメチルカーボネート(dimethyl carbonate)、ジエチルカーボネート(diethyl carbonate)、エチルメチルカーボネート(ethylmethyl carbonate)等の鎖状カーボネート類、ギ酸メチル(methylformate)、酢酸メチル(methylacetate)、酪酸メチル(methylbutyrate)、プロピオン酸エチル(ethyl propionate)、プロピオン酸プロピル(propyl propionate)等の鎖状エステル類、テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)またはその誘導体、1,3-ジオキサン(1,3-dioxane)、1,4-ジオキサン(1,4-dioxane)、1,2-ジメトキシエタン(1,2-dimethoxyethane)、1,4-ジブトキシエタン(1,4-dibutoxyethane)、またはメチルジグライム(methyldiglyme)、エチレングリコールモノプロピルエーテル(ethylene glycol monopropyl ether)、プロピレンレングリコールモノプロピルエーテル(propylene glycol monopropyl ether)等のエーテル類、アセトニトリル(acetonitrile)、ベンゾニトリル(benzonitrile)等のニトリル類、ジオキソラン(dioxolane)またはその誘導体、エチレンスルフィド(ethylene sulfide)、スルホラン(sulfolane)、スルトン(sultone)またはその誘導体等を、単独で、またはそれら2種以上を混合して使用することができる。なお、前記非水溶媒を2種以上混合して使用する場合、各非水溶媒の混合比は、従来のリチウムイオン二次電池で用いられる混合比が適用可能である。
【0023】
電解質塩としては、例えば、LiClO、LiBF、LiAsF、LiPF、LIPF-x(C2n+1)x[但し、1<x<6、n=1or2]、LiSCN、LiBr、LiI、LiSO、Li10Cl10、NaClO、NaI、NaSCN、NaBr、KClO、KSCN等のリチウム(Li)、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)の1種を含む無機イオン塩、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiN(CFSO)(CSO)、LiC(CFSO、LiC(CSO、(CHNBF、(CHNBr、(CNClO、(CNI、(CNBr、(n-CNClO、(n-CNI、(CN-maleate、(CN-benzoate、(CN-phtalate、ステアリルスルホン酸リチウム(stearyl sulfonic acid lithium)、オクチルスルホン酸リチウム(octyl sulfonic acid lithium)、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウム(dodecyl benzeneulfonic acid lithium)等の有機イオン塩等が挙げられ、これらのイオン性化合物を単独、あるいは2種類以上混合して用いることが可能である。なお、電解質塩の濃度は、従来のリチウムイオン二次電池で使用される非水電解液と同様でよく、特に制限はない。本実施形態では、前述したようなリチウム化合物(電解質塩)を0.8mol/l以上1.5mol/l以下程度の濃度で含有させた非水電解液を使用することが好ましい。
【0024】
なお、非水電解液には、各種の添加剤を添加してもよい。このような添加剤としては、負極作用添加剤、正極作用添加剤、エステル系の添加剤、炭酸エステル系の添加剤、硫酸エステル系の添加剤、リン酸エステル系の添加剤、ホウ酸エステル系の添加剤、酸無水物系の添加剤、及び電解質系の添加剤等が挙げられる。これらのうちいずれか1種を非水電解液に添加しても良いし、複数種類の添加剤を非水電解液に添加してもよい。
【0025】
<2.本実施形態に係る非水電解質二次電池の特徴構成>
以下に、本実施形態に係る非水電解質二次電池の特徴構成について説明する。
本実施形態に係る非水電解質二次電池の正極合剤層は、前述した成分に加えて、電池の内部温度上昇を抑制する発熱抑制添加剤として機能する非水電解質二次電池用複合粒子(単に複合粒子ともいう。)を含有している。
【0026】
この複合粒子は、吸熱反応によって吸熱可能な金属水酸化物とラジカル捕捉能を有する難燃化剤とが複合した複合粒子である。この複合粒子は、図1に示すように、前記金属水酸化物粒子と前記難燃化剤とができるだけ均一に混合されて複合化され、より具体的には前記難燃化剤がその表面及び内部に含まれた状態の金属水酸化物粒子が複数個集まったものである。ここで複合とは、例えば、各粒子が有している官能基(例えば水酸基とリン酸基)を介して互いに化学結合して複数の粒子が一つの塊になっている状態である。ここでの化学結合とは、共有結合だけでなく、イオン結合、配位結合、金属結合などの様々な結合を含むものである。なお、粒子間の結合状態については、例えば、X線光電子分光法などによって確認することができる。複合粒子の粒径は、その体積基準の粒度分布の積算値50%(D50)が0.1μm以上8μm以下である。複合粒子のD50が、0.5μm以上6μm以下であることがより好ましく、1μm以上5μm以下であることが特に好ましい。
複合粒子の粒径は、複合粒子の作製条件により制御することができる。例えば、複合粒子を作製する際の温度を高くする又は攪拌周速度を大きくすると複合粒子の粒径が小さくなる傾向にあり、例えば、複合粒子の粒径を出発物質である金属水酸化物の粒径よりも小さくすることも可能である。
【0027】
前記金属水酸化物粒子は、吸熱反応を起こすことができる吸熱物質であれば良く特に限定されない。前記金属水酸化物の具体例としては、例えば、水酸化アルミニウム、擬べーマイト、ベーマイト、アルミナおよびカオリナイト等を挙げることができる。これらは単独で使用しても良いし、2種類以上を併用しても良い。
【0028】
前記金属水酸化物粒子の体積基準の粒度分布の積算値50%(D50)は、10nm以上10μm以下であることが好ましく、50nm以上5μm以下であることがより好ましい。
【0029】
前記難燃化剤は、正極合剤層において発生する酸素ラジカル等のラジカルを捕捉するラジカル捕捉能を有するものであればよく、例えば、前記金属水酸化物と複合させることによってリン(P)元素を含有する官能基を形成することが可能なリン酸、リン酸エステル、ホスホン酸及びホスフィン酸からなる群のうちの1種以上であることが好ましい。
【0030】
前記複合粒子中の水酸化物粒子の含有量は、複合粒子全体に対して1質量%以上60質量%以下の範囲であることが好ましく、5質量%以上50質量%以下の範囲であることがより好ましく、10質量%以上40質量%以下の範囲であることがさらに好ましい。
【0031】
前記複合粒子中の難燃化剤の含有量は、複合粒子全体に対して0.1質量%以上25質量%以下の範囲であることが好ましく、0.5質量%以上20質量%以下の範囲であることがより好ましく、1質量%以上15質量%以下の範囲であることがさらに好ましい。
【0032】
正極合剤層における複合粒子の含有量は、正極合剤層全体に対して0.1質量%以上5質量%以下の範囲であることが好ましく、0.2質量%以上3質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以上2質量%以下であることが特に好ましい。このような範囲であれば、十分な発熱抑制効果と良好な電池性能を発揮することができる。
また、前記非水電解質二次電池用複合粒子の非水電解質二次電池全体に対する含有量は、非水電解質二次電池の用途によっても異なるために以下の範囲に限定されるものではないが、例えば、非水電解質二次電池全体の質量を100質量%とした場合の、該非水電解質二次電池に含まれる非水電解質二次電池用複合粒子の含有量は0.01質量%以上5.0質量%以下であることが好ましく、0.02質量%以上2.0質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以上0.5質量%以下であることが特に好ましい。
【0033】
<3.本実施形態に係る非水電解質二次電池の製造方法>
次に、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の製造方法について説明する。
(3-1.複合粒子の作製方法)
本実施形態に係る非水電解質二次電池用複合粒子は、金属水酸化物粒子と難燃化剤とを混合し、加熱することによって作製することができる。
混合は、例えば、金属水酸化物粒子と難燃化剤とを適切な溶媒中に分散させて攪拌することによって行うことができる。ここで攪拌の周速度は50m/min以上500m/min以下が好ましく、より好ましくは100m/min以上400m/min以下であることが好ましい。
前記の分散液を、例えば、40℃以上100℃以下の温度となるように加熱し、そのままの温度で1時間以上48時間以下反応させた後に、濾紙でろ過することによって複合粒子を得ることができる。
前記溶媒は、水を含有するものであることが好ましく、好ましくは水とエタノール、2-プロパノール等のアルコール系の有機溶媒とを混合したものである。
加熱温度は60℃以上80℃以下であることが好ましく、加熱時間(反応時間)は5時間以上30時間以下であることが好ましい。
【0034】
前述したように製造した粒子が目的の複合粒子となっていることは、例えば、各種修飾基に起因する各種脱ガス量が以下のような範囲になっていることによって確かめることができる。
【0035】
また、前記複合粒子を80℃から1400℃まで加熱した際に該複合粒子から脱離するPガスの量をTDS-MSによって測定した脱離P量(MS1とする。)が200×10-6mol/g以上2500×10-6mol/g以下であり、かつ前記複合粒子を80℃から1400℃まで加熱した際に該複合粒子から脱離するHOガスの量をTDS-MSによって測定した脱離HO量(MS2とする。)が50×10-6mol/g以上1000×10-6mol/g以下であることが好ましい。
MS1は300×10-6mol/g以上2000×10-6mol/g以下であることがより好ましく、400×10-6mol/g以上1800×10-6mol/g以下であることが特に好ましい。
MS2は、100×10-6mol/g以上950×10-6mol/g以下であることがより好ましく、300×10-6mol/g以上900×10-6mol/g以下であることが特に好ましい。
【0036】
さらに、これらガス離脱量の比(M1/M2)が、0.1以上10.0以下であることが好ましく、0.3以上5.0以下であることがより好ましく、0.5以上3.0以下であることが特に好ましい。ガス離脱量の比(M1/M2)がこの好適範囲を満たすことによって、難燃化剤による修飾を増やすことによる温度上昇抑制効果と電池性能との両方をよりバランスよく発揮することができる。
【0037】
また、前記複合粒子に窒素を吸着させて測定される吸着等温線によって算出される前記複合粒子の比表面積が8m2/g以上80m2/g以下であることが好ましく、10m/g以上75m/g以下であることがより好ましく、15m/g以上75m/g以下であることが特に好ましい。
【0038】
金属水酸化物に対して難燃化剤をより多く修飾させた複合粒子とするために、出発物質である金属水酸化物の比表面積はできるだけ大きいものを使用することが好ましく、比表面積が比較的大きい金属水酸化物に難燃化剤を混合してこれらを複合化した複合粒子の比表面積を前述した範囲にすることが好ましい。複合粒子の比表面積は、金属水酸化物に対して添加する難燃化剤の量を増やしたり、金属水酸化物と難燃剤とを複合する際の反応時間を長くしたりすると小さくなる傾向がある。そのため、複合粒子の比表面積はこれらの条件を変化させることによって調節できるため出発物質である金属水酸化物の比表面積は特に限定されないが、金属水酸化物の比表面積は例えば100m2/g以上500m2/g以下であることが好ましい。
【0039】
本実施形態に係る複合粒子について、誘導結合プラズマ発行分光分析装置(ICP-AES)によって測定されるAl(アルミニウム)元素及びP(リン)元素の含有量が以下の範囲内のものであることが好ましい。
複合粒子におけるAl元素の含有量は、1質量%50質量%以下であることが好ましく、3質量%以上40質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上30質量%以下であることが特に好ましい。
複合粒子におけるP元素の含有量は、1質量%50質量%以下であることが好ましく、3質量%以上40質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上30質量%以下であることが特に好ましい。
【0040】
前記複合粒子による吸熱効果をさらに向上させるためには、前記複合粒子がCH基、CHOH基等の官能基によって修飾されていることが好ましい。これら官能基による修飾度合いは、リン(P)元素を含有する官能基(例えば、ホスホン酸)による修飾度合と同様にこれら官能基に由来する以下の各種ガスの脱離量によって評価することでき、各種ガスの離脱量が以下の範囲を満たすものであることが好ましい。なお、これら各種ガスの脱離量は、複合粒子の作製に用いる金属水酸化物及び難燃化剤の種類及び含有量によって調整することができるものである。
前記複合粒子を80℃から1400℃まで加熱した際に該複合粒子から脱離するCHガスの量をTDS-MSによって測定した脱離CH量(MS3とする。)は0であっても良いが、0を超えて1000×10-6mol/g以下であっても良く、10×10-6mol/g以上700×10-6mol/g以下であることがより好ましく、30×10-6mol/g以上500×10-6mol/g以下であることが特に好ましい。
同様に測定した脱離CHOH量(MS4とする。)は0であっても良いが、0を超えて4000×10-6mol/g以下であることが好ましく、200×10-6mol/g以上3000×10-6mol/g以下であることがより好ましく、500×10-6mol/g以上3000×10-6mol/g以下であることがより好ましい。
【0041】
前記複合粒子がフェニル基を含有する官能基によって修飾されている場合には、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)など非水溶媒を用いてスラリーを作製する際に溶媒中に金属水酸化物粒子を分散させやすい。
そこで、前記金属水酸化物粒子のTDS-MSによる80℃から1400℃までの脱離C量(MS5とする。)が0であっても良いが、0を超えて4000×10-6mol/g以下であることが好ましく、10×10-6mol/g以上3000×10-6mol/g以下であることがより好ましく、100×10-6mol/g以上3000×10-6mol/g以下であることが特に好ましい。
【0042】
前記複合粒子中の修飾分子の合計含有量は、複合粒子全体を100質量%に対して10質量%以上99質量%以下の範囲であることが好ましく、20質量%以上97質量%以下の範囲であることがより好ましく、30質量%以上95質量%以下の範囲であることがさらに好ましい。
【0043】
(3-2.正極の作製方法)
正極は、以下のように作製される。まず、正極活物質、導電剤、正極用バインダー及び前記複合粒子を所望の割合で混合したものを、正極スラリー用溶媒に分散させることで正極スラリーを形成する。次いで、この正極スラリーを正極集電体上に塗布し、乾燥させることで、正極合剤層を形成する。なお、塗布の方法は、特に限定されない。塗布の方法としては、例えば、ナイフコーター(knife coater)法、グラビアコーター(gravure coater)法、リバースロールコーター(reverse roll coater)、スリットダイコーター(slit die coater)等が考えられる。以下の各塗布工程も同様の方法により行われる。次いで、プレス(press)機により正極合剤層を所望の密度となるようにプレスする。これにより、正極が作製される。
【0044】
(3-3.負極の作製方法)
負極も、正極と同様に作製される。まず、負極合剤層を構成する材料を混合したものを、負極スラリー用溶媒に分散させることで、負極スラリーを作製する。次いで、負極スラリーを負極集電体上に塗布し、乾燥させることで、負極合剤層を形成する。次いで、プレス機により負極合剤層を所望の密度となるようにプレスする。これにより、負極が作製される。
【0045】
(3-4.非水電解質二次電池の製造方法)
次いで、セパレータを正極及び負極で挟むことで、電極構造体を作製する。次いで、電極構造体を所望の形態(例えば、円筒形、角形、ラミネート形、ボタン形等)に加工し、当該形態の容器に挿入する。次いで、当該容器内に非水電解液を注入することで、セパレータ内の各気孔や正極及び負極の空隙に電解液を含浸させる。これにより、リチウムイオン二次電池が作製される。
【0046】
<4.本実施形態による効果>
以上のように構成した非水電解質二次電池によれば、内部短絡等の電池異常により内部温度が上昇しやすい環境下においても非水電解質二次電池の内部温度の上昇を十分に抑制することができ、さらに非水電解質二次電池の電気抵抗を小さく抑えることができる。
【0047】
<5.本発明に係る他の実施形態>
本発明は、前述した実施形態に限られるものではない。
前述した実施形態では、本発明に係る複合粒子を正極が含有する場合について説明したが、複合粒子を負極が含有するものとしてもよい。負極に複合粒子を含有させる場合には、正極に含有させる場合と同等の含有量とすることが好ましい。
また、電解液に複合粒子を含有させるようにしても良いし、正極、負極及び電解液のうちの複数個所に含有させるものとしても良い。
前記非水電解質二次電池用複合粒子を負極が含有する場合には、負極全体に対する前記非水電解質二次電池用複合粒子の含有量は正極の場合と同様の範囲であることが好ましい。前記非水電解質二次電池用複合粒子を電解液が含有する場合には、電解液全体の質量を100質量%とした場合の前記非水電解質二次電池用複合粒子の含有量が0.1重量%以上10.0重量%以下の範囲であることが好ましい。
その他、本発明はこれら実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であることは言うまでもない。
【実施例0048】
以下、本発明を具体的な実施例に基づいてより詳細に説明する。しかしながら、以下の実施例は、あくまでも本発明の一例であり、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
<複合粒子又は粒子混合物の作製>
(実施例1)
出発物質として、水酸化アルミニウム(D50:3μm、BET:205m/g)1.0gとメチルホスフィン酸5.0gとを用い、これらをエタノールと精製水との混合溶液(混合比1:1)50ccに分散させた。この分散液を70℃、攪拌周速度300m/minで24時間加熱した後、水とエタノールとで濾過し、水とエタノールとを用いて洗浄した後に、濾紙上の固体を真空乾燥させることによって複合粒子Aを得た。
【0050】
(実施例2)
出発物質として活性アルミナ(D50:3μm、BET:300m/g)1.0gとメチルホスホン酸5.0gを使用し、攪拌周速度100m/minで攪拌した以外は、実施例1と同様の手順で複合粒子Bを得た。
【0051】
(実施例3)
出発物質として擬ベーマイト(D50:1.8μm、BET:384m/g)1.0gとリン酸ジフェニル5.0gを使用した以外は、実施例1と同様の手順で複合粒子Cを得た。
【0052】
(実施例4)
出発物質としてカオリナイト(AlSi(OH)、D50:1μm、BET:120m/g)1.0gとリン酸フェニル5.0gを使用した以外は、実施例1と同様の手順で複合粒子Dを得た。
【0053】
(実施例5)
出発物質として擬ベーマイト(D50:1.8μm、BET:384m/g)1.0gとフェニルホスホン酸5.0gを使用し、攪拌周速度400m/minで攪拌した以外は、実施例1と同様の手順で複合粒子Eを得た。
【0054】
(実施例6)
出発物質として擬ベーマイト(D50:1.8μm、BET:384m/g)1.0gとリン酸ジフェニル1.0gを使用した以外は、実施例1と同様の手順で複合粒子Fを得た。
【0055】
(実施例7)
出発物質として擬ベーマイト(D50:1.8μm、BET:384m/g)1.0gとリン酸フェニル5.0gを使用した以外は、実施例1と同様の手順で複合粒子Gを得た。
【0056】
(実施例8)
出発物質として擬ベーマイト(D50:1.8μm、BET:384m/g)1.0gとメチルホスフィン酸5.0gを使用した以外は、実施例1と同様の手順で複合粒子Hを得た。
【0057】
(実施例9)
出発物質として擬ベーマイト(D50:1.8μm、BET:384m/g)1.0gとリン酸5.0gを使用した以外は、実施例1と同様の手順で複合粒子Iを得た。
【0058】
(実施例10)
出発物質としてカオリナイト(AlSi(OH)、D50:1μm、BET:120m/g)1.0gとフェニルホスホン酸5.0gを使用した以外は、実施例1と同様の手順で複合粒子Jを得た。
【0059】
(実施例11)
出発物質としてカオリナイト(AlSi(OH)4、D50:1μm、BET:120m/g)1.0gとメチルホスホン酸5.0gを使用した以外は、実施例1と同様の手順で複合粒子Kを得た。
【0060】
(実施例12)
出発物質としてカオリナイト(AlSi(OH)4、D50:1μm、BET:120m/g)1.0gとメチルホスフィン酸5.0gを使用した以外は、実施例1と同様の手順で複合粒子Lを得た。
【0061】
(実施例13)
出発物質として水酸化アルミニウム(D50:3μm、BET:205m/g)1.0gとメチルホスフィン酸5.0gを使用した以外は、実施例1と同様の手順で複合粒子Mを得た。
【0062】
(実施例14)
出発物質として水酸化アルミニウム(D50:3μm、BET:205m/g)1.0gとフェニルホスホン酸5.0gを使用した以外は、実施例1と同様の手順で複合粒子Nを得た。
【0063】
(実施例15)
出発物質として活性アルミナ(D50:3μm、BET:300m/g)1.0gとメチルホスフィン酸5.0gを使用した以外は、実施例1と同様の手順で複合粒子Oを得た。
【0064】
(実施例16)
出発物質として活性アルミナ(D50:3μm、BET:300m/g)1.0gとフェニルホスホン酸5.0gを使用した以外は、実施例1と同様の手順で複合粒子Pを得た。
【0065】
(比較例5)
出発物質として水酸化アルミニウム(D50:18μm、BET:125m/g)1.0gとメチルホスホン酸2.0gを使用した以外は、実施例1と同様の手順で複合粒子Qを得た。
【0066】
(比較例6)
水酸化アルミニウム(D50:5μm、BET:20m/g)1.0gとリン酸1.0gとを株式会社ダルトン社製V型混合機にて10分間混合させて、粒子混合物aを得た。
【0067】
(比較例7)
擬ベーマイト(D50:1.8μm、BET:384m/g)1.0gとリン酸ジフェニル1.0gとを株式会社ダルトン社製V型混合機にて10分間混合させて、粒子混合物bを得た。
【0068】
<正極の作製>
(実施例1-16、比較例2-7)
LiCoO、アセチレンブラック、ボリフッ化ビニリデン及び表1に記載の複合粒子、吸熱粒子、粒子混合物又はラジカル捕捉剤(複合粒子、吸熱粒子、粒子混合物又はラジカル捕捉剤についてはこれらを総称して発熱抑制添加剤ともいう。)をそれぞれ溶媒を含まない乾燥粉体(固形分)としての質量比で97.0:1.0:1.3:0.7の割合となるようにN-メチル-2-ピロリドン溶媒中に分散させて混合することで、正極合剤スラリーを作製した。次いで、乾燥後の合剤塗布量(面密度)が片面20.0mg/cm2になるようにスラリーをアルミニウム集電体の片面又は両面に塗工乾燥させた後、ロールプレス機で正極合剤層密度が4.15g/ccとなるようにプレスし、正極を作製した。
【0069】
(比較例1)
LiCoO、アセチレンブラック、ポリフッ化ビニリデンを、溶媒を含まない乾燥粉体(固形分)としての質量比で97.7:1.0:1.3の割合となるようにN-メチル-2-ピロリドン溶媒中に分散させて混合することで、正極合剤スラリーを作製した以外は、実施例1と同様の手順で正極を作製した。
【0070】
<負極作製>
(実施例1-16、比較例1-7)
人造黒鉛、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩(CMC)、スチレンブタジエン系水分散体をそれぞれ溶媒を含まない乾燥粉体(固形分)としての質量比で97.5:1.0:1.5の割合となるように水溶媒中に溶解分散させることで、負極合剤スラリーを作製した。次いで、乾燥後の合剤塗布量(面密度)が15.0mg/cm2になるように負極合剤スラリーを銅箔上の片面又は両面に塗工乾燥させた後、ロールプレス機で負極合剤層密度が1.65g/ccとなるようにプレスし、負極を作製した。
【0071】
<二次電池セル作製>
(実施例1-16、比較例1-7)
ポリプロピレン製多孔質セパレータを介して、電池設計容量が300mAhになるように複数枚の正極と負極とを積層して電極積層体を作製した。この時、電極積層体の内部に配置される正極及び負極については集電体の両面に合材層が形成されたものを使用し、最外層に配置される正極又は負極については片面にのみ合剤層が形成されたものを使用した。具体的には、極板面積が8.5cmである正極(両面5枚)と、極板面積が10.0cmになる負極(両面4枚と片面2枚)とを作製した。次いで、アルミラミネートフィルム内に上述の電極積層体の負極電極、正極電極にそれぞれニッケル及びアルミリード線を溶接した後、リード線を外部に引き出した状態で収納し、電解液を注液して減圧封止することで初期充電前二次電池セルを作製した。電解液には、エチレンカーボネート/ジメチルカーボネート/フルオロエチレンカーボネートを15/80/5(体積比)で混合した溶媒に1.3MのLiPFおよび1%質量%のビニレンカーボネートを溶解させたものを使用した。
【0072】
<発熱抑制添加物の評価>
実施例及び比較例に用いた発熱抑制添加物の評価を以下の通り行った。
(元素分析)
誘導結合プラズマ発行分光分析装置(ICP-AES、アジレント・テクノロジー社製、Agilent 5110 VDV型)を用いて、JIS K0116:2014にて測定し、各実施例比較例の吸熱粒子又はラジカル補足剤に含まれるAl元素とP元素とを定量分析した。
【0073】
(比表面積(BET))
無機粒子または複合粒子の比表面積(水蒸気を吸着させて測定される吸着等温線に基づいて算出される比表面積であるBET)は、ガス吸着量測定装置(マイクロトラック・ベル社製 BELSORP)を用い、JIS K6217-2にて測定した。
【0074】
(脱離ガス量)
昇温脱離ガス質量分析(TDS-MS)は、電子科学製昇温脱離ガス分析装置TDS-1200型を用いて、脱離するメタン分子、メタノール分子、ベンゼン分子、二燐分子および水分子の量の測定と解析を次の要領で行なった。
TDSにおいて、試料としての負極活物質をセットする試料ステージは石英製、試料皿はSiC製である。また、昇温速度は60℃/minとした。昇温は試料表面温度をモニターすることにより制御した。また、試料重量は1mgとし、実測重量で補正した。検出には四重極質量分析計を用い、印加電圧は1000Vとした。
TDSにより、80℃から1400℃までの温度上昇において無機粒子または複合粒子から脱離した各ガス量(μmol/g)を測定した。測定値の解析に用いた質量数[M/z]は、CHが15、HOが18、CHOHが31、Pが62、Cは78とし、上記質量数に対応するガスは、それぞれ全て上記の各物質であるとした。ここで、HOのガス量に関しては、全温度範囲の結果のうち、80℃から200℃までの積算値のみと使用し脱離HO量(MS2)とした。
【0075】
(粒子径の評価)
複合粒子、吸熱粒子又は粒子混合物の粒子径は、レーザー回折/散乱法によって求めた粒度分布における粒子径体積基準の粒度分布の積算値50%(D50)として評価した。D50は、以下の装置及び条件によって測定した。
測定装置:レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置MT3300(マイクロトラック・ベル株式会社製)
透過性:透過
形状:非球状
循環速度:7
測定時間:30秒
反復回数:3
屈折率:a. 複合粒子、吸熱粒子又は粒子混合物:1.65
b.エタノール溶媒:1.36
【0076】
[二次電池の評価]
(サイクル特性)
実施例1~16および比較例1~7で作製した二次電池セルを、25℃の恒温槽内で設計容量の0.1CAで4.3Vまで定電流充電を行い、引き続き4.3Vで0.05CAになるまで定電圧充電を行った。その後0.1CAで3.0Vまで定電流放電を行った。さらに、25℃の恒温槽内で、充電終止電圧4.3V、放電終止電圧3.0Vの条件で0.2CAで定電流充電、0.05CAで定電圧充電、0.2CAで定電流放電を1サイクル行い、初期放電容量を測定した。この二次電池セルを、45℃の温度下、充電終止電圧4.3V、放電終止電圧3.0Vの条件で0.5CAで定電流充電、0.05CAで定電圧充電、0.5CAで定電流放電する寿命試験を100サイクル実施した。そして、100サイクル後、定電流充電0.2CA、定電圧充電0.05CA、放電0.2CAでの放電容量を計測し、初期放電容量で除算することで、100サイクル後の容量維持率を測定した。
【0077】
(加熱試験)
実施例1~16および比較例1~7で作製した二次電池セルを、25℃の恒温槽内で設計容量の0.1CAで4.3Vまで定電流充電を行い、引き続き4.3Vで0.05CAになるまで定電圧充電を行った。その後0.1CAで3.0Vまで定電流放電を行った。さらに、25℃の恒温槽内で、充電終止電圧4.3V、放電終止電圧3.0Vの条件で0.2CAで定電流充電、0.05CAで定電圧充電、0.2CAで定電流放電を1サイクル行ったあと、再び4.3Vまで定電流/定電圧充電を行ったセルを初期セルとした。この二次電池セルを165℃に加熱した恒温槽中に1時間放置し、電池の電圧が4.2V以下になった場合を「異常発生」とし、10個の電池試験の異常発生率を評価した。
【0078】
(釘差し試験)
上述の初期セルにおいて、セル中央部に、直径3mmの釘を1mm/sの速度で、釘刺し試験が実施された。釘が刺されてから、5秒後の電池外部温度が50℃以上になった場合を「異常発生」とし、10個の電池試験の異常発生率を評価した。
【0079】
(過充電試験)
上述の初期セルをさらに、12Vまで、3CAでの定電流充電を行い、12V到達後10分間定電圧充電した後の電池外部温度が50℃以上になった場合を「異常発生」とし、10個の電池試験の異常発生率を評価した。
【0080】
(評価結果)
以上に説明した実施例及び比較例で使用した発熱抑制添加物の種類及び物性を表1に示す。また、実施例1~16及び比較例1~7の二次電池セルについての評価結果を表2にまとめた。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
また、表1及び表2に記載の実施例6、比較例1、比較例3~4で作製した二次電池セルについての放電容量維持率をグラフにしたものを図2に示す。
【0084】
<充電正極と電解液共存下で発熱挙動確認>
表1及び表2に記載の実施例6、比較例1、比較例3~4で作製し、満充電された二次電池セルの初期セルをグローブボックス内で解体したのち、正極をジメチルカーボネート溶媒にて洗浄及び乾燥して得られた正極を「充電正極」とした。その「充電正極」2.0mgと二次電池セルを作製する際に用いたものと同じ電解液1.0mgを専用密閉容器にいれカシメした後、示差走査熱量測定装置であるDSC(日立ハイテクサイエンス社製)を用い、JISK7121の規定に準じて、昇温速度5K/minで昇温し、発熱挙動を評価した。結果を図3に示す。
【0085】
<実施例及び比較例についての考察>
表2の結果から、実施例1~16においては、発熱抑制添加物を含有していない比較例1はもちろんのこと、金属水酸化物又はラジカル補足剤の一方のみを含有する比較例2~4に比べて、高温条件下や、釘差しによる外部からの衝撃、過充電など電池の内部温度が上昇しやすい条件下においても、電池内部の温度上昇によって引き起こされる異常の発生率を十分に小さく抑えることができた。この効果は図3の発熱挙動において150℃~250℃までの間の発熱ピークが消失していることからも示されている。
また、発熱抑制添加物として複合粒子を含有しているもののD50が13μmである比較例5や本発明に係る複合粒子と同じ成分を混合させた粒子混合物を含有している比較例6、7と比較しても実施例1~16によれば明らかに電池内部の温度上昇によって引き起こされる異常の発生率を十分に小さく抑えられていることが分かる。
さらに、表2及び図2の結果から、比較例2~7においては各種発熱抑制添加物の添加により発熱抑制添加物を添加していない比較例1よりもサイクル特性が低下しているが、実施例1~16においては比較例1と同等のサイクル特性を維持できていることが分かる。
以上の実験結果から、本願発明によれば、吸熱効果とラジカル補足能とを両方有する複合粒子とし、この複合粒子のD50の範囲を適切なものとすることにより、正極合材層における正極活物質粒子の密度をできるだけ低下させずに、正極活物質粒子の周囲にできるだけたくさんの複合粒子を配置することができる。その結果、150℃以上300℃以下の温度帯において正極活物質から発生する酸素及びラジカルを捕捉し、それらを介した電解液の分解反応を効果的に抑制して電池の内部温度の上昇を十分に抑制しながらも、サイクル特性などの電池性能の低下を抑制することができる。

図1
図2
図3