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特開2024-101664電池劣化判定方法、電池劣化判定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101664
(43)【公開日】2024-07-30
(54)【発明の名称】電池劣化判定方法、電池劣化判定装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/392 20190101AFI20240723BHJP
   G01R 31/385 20190101ALI20240723BHJP
   G01R 31/387 20190101ALI20240723BHJP
   G01R 31/382 20190101ALI20240723BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20240723BHJP
   H02J 13/00 20060101ALI20240723BHJP
   H01M 10/44 20060101ALI20240723BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
G01R31/392
G01R31/385
G01R31/387
G01R31/382
H02J7/00 Q
H02J13/00 301A
H01M10/44 Q
H01M10/48 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023005686
(22)【出願日】2023-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】井上 健士
(72)【発明者】
【氏名】平澤 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】米元 雅浩
(72)【発明者】
【氏名】堀越 伸也
(72)【発明者】
【氏名】望月 誠仁
(72)【発明者】
【氏名】澄川 陽介
(72)【発明者】
【氏名】小西 宏明
(72)【発明者】
【氏名】上田 克
【テーマコード(参考)】
2G216
5G064
5G503
5H030
【Fターム(参考)】
2G216AB01
2G216BA01
2G216BA21
2G216BA41
2G216BA61
2G216CA02
2G216CA03
2G216CD03
5G064AA01
5G064AC09
5G064CB08
5G064DA11
5G503AA01
5G503BA02
5G503BB02
5G503CA03
5G503CA12
5G503CB11
5G503EA05
5G503EA09
5G503GD03
5G503GD05
5H030AA01
5H030AS08
5H030BB02
5H030FF42
5H030FF43
(57)【要約】
【課題】
各セル電圧情報が得られない場合であっても、電池パックの劣化度合いの指標となる各セルのアンバランスとAh容量を推定、もしくは推定が不可能な場合にはワーニングを出す電池劣化判定方法を提供する。
【解決手段】
電池パックの劣化度合いを診断する電池劣化判定方法であって、(a)電池パックのセル平均電圧または前記電池パックのトータル電圧、および前記電池パックの充電電流に関する情報を取得するステップと、(b)前記充電電流からCV充電期間を推定するステップと、(c)前記CV充電期間のセル平均電圧、および各セルのCV電圧の関係から各セルのアンバランス関係と前記電池パックのAh容量を推定するステップと、を有することを特徴とする。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池パックの劣化度合いを診断する電池劣化判定方法であって、
(a)電池パックのセル平均電圧または前記電池パックのトータル電圧、および前記電池パックの充電電流に関する情報を取得するステップと、
(b)前期充電電流からCV充電期間を推定するステップと、
(c)前記CV充電期間のセル平均電圧、および各セルのCV電圧の関係から各セルのアンバランス関係と前記電池パックのAh容量を推定するステップと、
を有することを特徴とする電池劣化判定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電池劣化判定方法であって、
前記(c)ステップにおいて、前記CV充電期間のセル平均電圧および前記各セルのCV電圧を、前記CV充電期間のセル平均電圧および前記各セルのCV電圧と各セルのアンバランス関係と前記電池パックのAh容量との関係を予め設定したテーブルと照合することで、前記各セルのアンバランス関係と前記電池パックのAh容量を推定する、または電池パックの劣化度合いを診断することを特徴とする電池劣化判定方法。
【請求項3】
電池の充電方式にて、充電でCC―CV充電を用いず、CC充電から充電電流が一定でなくなり減少する期間を設け、あるセルが一定電圧に到達したときに該セルが満充電になったと判定し電池パックの充電を停止する場合、充電電流が一定でなくなり減少する期間を電流低減期間とし、
(a)電池パックのセル平均電圧または前記電池パックのトータル電圧、および前記電池パックの充電電流に関する情報を取得するステップと、
(b)前記充電電流から電流低減期間を推定するステップと、
(c)前記電流低減期間に前記電流低減期間にセル電圧が,満充電電圧に至ったセルはアンバランスなしと判定し、満充電電圧に満たないセルはアンバランスが発生していると判定するステップと,
を有することを特徴とする電池劣化判定方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の電池劣化判定方法であって、
前記(a)ステップにおいて、前記電池パックを充電器で充電する際の前記セル平均電圧または前記トータル電圧、および前記充電電流に関する情報を取得することを特徴とする電池劣化判定方法。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項に記載の電池劣化判定方法であって、
前記診断の結果に基づいてメッセージを作成してユーザーに通知することを特徴とする電池劣化判定方法。
【請求項6】
請求項1から3のいずれか1項に記載の電池劣化判定方法であって、
前記各セルのアンバランス関係、および前記電池パックのAh容量をそれぞれレベル分けしてレベル毎の閾値を設定し、前記アンバランス関係または前記Ah容量が前記レベル毎の閾値を超えた場合、ユーザーに警告することを特徴とする電池劣化判定方法。
【請求項7】
請求項1から3のいずれか1項に記載の電池劣化判定方法であって、
前記各セルのアンバランスが発生していなく、かつ前記各セルのAh容量が等しい時、充電器から得たデータに基づいて、標準OCVと標準抵抗を示すテーブルを作成することを特徴とする電池劣化判定方法。
【請求項8】
請求項1から3のいずれか1項に記載の電池劣化判定方法であって、
通信装置を介して、前記セル平均電圧または前記トータル電圧、および前記充電電流に関する情報を充電器から遠隔取得することを特徴とする電池劣化判定方法。
【請求項9】
充電器からデータを取得する通信装置と、
前記データに基づいて演算処理を行う演算処理装置と、
電池劣化判定テーブルが記憶された記憶装置と、を備え、
前記通信装置は、電池パックのセル平均電圧または前記電池パックのトータル電圧、および前記電池パックの充電電流に関する情報を前記充電器から取得し、
前記演算処理装置は、前記充電電流からCV充電期間を推定し、かつ、当該推定したCV充電期間のセル平均電圧および各セルのCV電圧を、前記電池劣化判定テーブルと照合することで、各セルのアンバランス関係と前記電池パックのAh容量を推定することを特徴とする電池劣化判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池パックの診断方法及び診断装置に係り、特に、電池パックの各セル電圧情報が得られない場合の電池パックの劣化診断に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
EV(Electric Vehicle:電気自動車)は、一般的に年数を経ると電池容量が低下し航続距離が短くなるなど、従来の自動車とは異なる特性がある。EVが広く市場に普及するためには、ユーザーが安心してEVを使用できる環境整備が重要となる。しかしながら、繰り返し充放電されるEV電池(車載バッテリー)の状態診断やその診断結果に対する評価は極めて難しいという課題がある。
【0003】
そのため、EVの本格的な普及を前に、簡素化した充電設備を活用して、EV電池の性能を短時間で診断・予測する技術を実用化しようとする取り組みがなされている。また、電池の残存容量や残存性能に加えて、電池そのものの内部状態まで詳細に把握するための技術開発も活発化している。
【0004】
本技術分野の背景技術として、例えば、特許文献1のような技術がある。特許文献1には、「電池パックを構成する複数のセルの各セル電圧を用いて電池の劣化診断を行う電池パックの診断方法及び診断装置」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2022/024885号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、EV電池には、一般的に、複数のセルで構成される電池パックが用いられている。このような電池パックの状態診断や劣化診断には、電池パック内の各セルのSOC(State of Charge:充電率)や各セル電圧の情報が必要となる。
【0007】
しかしながら、上述したように、簡素化した充電設備(充電器)から得られる情報は限られており、各セル電圧情報が得られない場合がある。
【0008】
また、電池パックを満充電にした後に電池パック内の各セルの電圧が揃っていない状態(アンバランス状態)を評価する場合、各セル電圧情報を用いずに、各セルの平均電圧、電池パックの充電電流、電池パックのSOCのみでアンバランスが起きているかどうかを定量的に判断するのは難しい。
【0009】
上記特許文献1の技術では、電池の劣化診断に各セル電圧を用いることを前提としており、簡素化した充電設備(充電器)では適用が難しい場合がある。
【0010】
そこで、本発明の目的は、各セル電圧情報が得られない場合であっても、電池パックの劣化度合いの指標となる各セルのアンバランスとAh容量を推定、もしくは推定が不可能な場合にはワーニングを出す電池劣化判定方法及び電池劣化判定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は、電池パックの劣化度合いを診断する電池劣化判定方法であって、(a)電池パックのセル平均電圧または前記電池パックのトータル電圧、および前記電池パックの充電電流に関する情報を取得するステップと、(b)前記充電電流からCV充電期間を推定するステップと、(c)前記CV充電期間のセル平均電圧、および各セルのCV電圧の関係から各セルのアンバランス関係と前記電池パックのAh容量を推定するステップと、を有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、電池パックの劣化度合いを診断する電池劣化判定方法であって、前記電池パックは、二次電池、例えばリチウムイオン電池であり、(a)電池パックのセル平均電圧または前記電池パックのトータル電圧、および前記電池パックの充電電流に関する情報を取得するステップと、(b)前記充電電流から電流低減期間を推定するステップと、(c)前記電流低減期間に満充電に至ったセル電圧はアンバランスなしと判定し、満充電に満たないセル電圧はアンバランスが発生していると判定するステップと、を有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、充電器からデータを取得する通信装置と、前記データに基づいて演算処理を行う演算処理装置と、電池劣化判定テーブルが記憶された記憶装置と、を備え、前記通信装置は、電池パックのセル平均電圧または前記電池パックのトータル電圧、および前記電池パックの充電電流に関する情報を前記充電器から取得し、前記演算処理装置は、前記充電電流からCV充電期間を推定し、かつ、当該推定したCV充電期間のセル平均電圧および各セルのCV電圧を、前記電池劣化判定テーブルと照合することで、各セルのアンバランス関係と前記電池パックのAh容量を推定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、各セル電圧情報が得られない場合であっても、電池パックの劣化度合いの指標となる各セルのアンバランスとAh容量を推定、もしくは推定が不可能な場合にはワーニングを出す電池劣化判定方法及び電池劣化判定装置を実現することができる。
【0015】
これにより、比較的簡単な構成で電池パックの劣化診断を行うことができ、電池パック及びそれを搭載する電気自動車(EV)の信頼性向上に寄与できる。
【0016】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施例1に係る電池劣化判定装置の概略構成を示す図である。
図2】電池劣化判定テーブルの一例を示す図である。
図3】本発明の実施例1に係る電池劣化判定方法を示すフローチャートである。
図4】本発明の実施例2に係る電圧・電流パタンを示す図である。
図5】CC-CV方式による充電方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。なお、各図面において同一の構成については同一の符号を付し、重複する部分についてはその詳細な説明は省略する。
【実施例0019】
図1から図3、及び図5を参照して、本発明の実施例1に係る電池劣化判定方法及び電池劣化判定装置について説明する。
【0020】
図1は、本実施例の電池劣化判定装置1の概略構成を示す図である。図2は、図1の電池劣化判定装置1で用いられる電池劣化判定テーブルの一例を示す図である。図3は、本実施例の電池劣化判定方法を示すフローチャートである。なお、図5は、本発明を分かり易くするために示す、電池パックの代表的な充電方式であるCC-CV方式による充電方法を示す図である。
【0021】
先ず、図5を用いて、本発明の前提となるCV充電期間について説明する。
【0022】
図5に示すように、CC-CV方式による電池パックの充電は、CC充電(Constant Current:定電流充電)と、CV充電(Constant Voltage:定電圧充電)との組み合わせで行われる。CC充電期間においては、一定の電流で充電し続け、電池電圧は徐々に上昇する。一方、CV充電期間においては、一定の電圧で充電し続け、充電電流は徐々に低下する。
【0023】
つまり、CC-CV方式による充電では、初めに一定の電流(CC)で充電を行い、電池電圧が設定電圧に到達したら一定の電圧(CV)に制御を切り替えて充電を続け、過電圧充電状態を避けつつ満充電まで充電を行う。CC-CV方式による充電は広く使われている。
【0024】
本発明では、充電電流が一定から急に落ちる時刻から、満充電になるまでの時系列を抽出することで、CV充電期間を推定する。そして、推定したCV充電期間の最初の電圧と最後の電圧より、各セルのAh(アンペアアワー)容量及びアンバランスを判定する。
【0025】
図1を用いて、本実施例の電池劣化判定装置1の構成と機能について説明する。
【0026】
図1に示すように、本実施例の電池劣化判定装置1は、主要な構成として、入力されたデータに基づいて演算処理を行うCPU(Central Processing Unit)等の演算処理装置2と、図2で後述する電池劣化判定テーブル等を記憶する記憶装置(メモリ)3と、外部とのデータ通信を行う通信装置4とを備えている。
【0027】
演算処理装置2は、CV充電期間抽出手段5、Ah容量・アンバランス判定手段6、テーブル設定手段7の各機能を有している。
【0028】
電池劣化判定装置1は、センター8内に独立した装置として設置したり、センター8内のサーバーに格納したりすることで実現される。
【0029】
電池劣化判定装置1は、電気自動車(EV)9を充電する際の充電器10の各種データを、充電器10に設置された通信装置11を介して遠隔取得する。
【0030】
充電器10から取得する通信データとしては、充電日時やEV9の車両ID、電池パックの充電電流,電池パックの総電圧(トータル電圧),電池パックのSOC等が挙げられる。なお、この通信データには、電池パックの各セル電圧情報は含まれていないものとする。
【0031】
電池劣化判定装置1は、通信装置11から送信された充電器通信データを、通信装置4により受信する。
【0032】
通信装置4により取得した充電器通信データ13は、演算処理装置(CPU)2に入力される。
【0033】
CV充電期間抽出手段5は、入力された充電器通信データ13から、電池パックのセル平均電圧または総電圧(トータル電圧)、及び電池パックの充電電流に関する情報を取得するとともに、取得した電池パックの充電電流からCV充電期間を推定する。
【0034】
CV充電期間抽出手段5により推定したCV充電期間は、Ah容量・アンバランス判定手段6に入力される。
【0035】
一方、テーブル設定手段7は、入力された充電器通信データ13に基づいて、電池劣化判定テーブルを作成する。テーブル設定手段7により作成された電池劣化判定テーブルは、記憶装置(メモリ)3に、過去のデータとマージされてCV充電期間の平均電圧・電流パタンとして記憶される。
【0036】
Ah容量・アンバランス判定手段6は、過去のデータとマージされたCV充電期間の平均電圧・電流パタンを、記憶装置(メモリ)3から電池劣化判定テーブルとして読み出し、CV充電期間抽出手段5により推定したCV充電期間と参照(マッチング)することで、電池パックの各セルのアンバランス関係と電池パックのAh容量を推定する。
【0037】
電池劣化判定テーブルには、電池パックの劣化診断を行うための判定基準(メッセージ)も含まれており、各セルのアンバランス関係及びAh容量とともに、電池パックの劣化度合いを診断することができる。
【0038】
Ah容量・アンバランス判定手段6により推定した各セルのアンバランス関係及びAh容量、及び電池パックの劣化度合いの診断結果は、通信装置4を介して、ドライバーやディーラー等のユーザー12にメッセージ(警告)として送信される。
【0039】
図2を用いて、電池劣化判定テーブルの一例を説明する。図2は、CV充電期間のセル平均電圧および各セルのCV電圧(VM)を、前記CV充電期間のセル平均電圧および前記各セルのCV電圧のパタン毎に、各セルのアンバランス関係と前記電池パックのAh容量との関係を予め設定したテーブルである。また、図2の判定をするのは、電池パックとして満充電になった場合に限定しても良い。この電池パックとして満充電となった判定は、OBD-SOCが100%になっていた場合としても良いし、最後の充電電流が予め設定した値(例えば10A)以下になった場合としても良い。
【0040】
図2では、No.1~No.4の4つのパタンを示している。電池劣化判定テーブルには、各パタンに対応する電圧・電流のグラフ、状況、判断(メッセージ)が設定されている。
【0041】
例えば、No.1のパタンでは、電圧・電流のグラフから、CV充電期間Aにおけるセル平均電圧は、CV充電開始時はセルCV電圧VMであり、パック満充電終了時は同じくセルCV電圧VMである。また、OBD-SOCと電流積算から求めたパックQmaxは時系列的に連続である。
【0042】
No.1のパタンの場合、アンバランスは起きておらず、セルQmax(Ah容量)は等しく、セル毎抵抗も等しく、抵抗リファレンスに使用可能であると判断する。一個から数個のセルのみ電圧の低い場合のアンバランスが起きている可能性もあるが、この場合CV充電になってからも電圧が少しづつ上昇するため、後述するパタンと判断する。
【0043】
なお、No.1のパタンでは、各セルのアンバランスが発生していなく、かつ各セルのAh容量が等しいため、充電器から得たデータに基づいて、標準OCV(Open Circuit Voltage:開回路電圧)と標準抵抗を示すテーブルを作成するようにしても良い。
【0044】
続いて、No.1の場合でAh容量を計算する方法について述べる。この場合、最後のSOCは100%であるため、最初の電圧よりOCVテーブル(SOCを引数とした場合のOCV)より最初のSOCが求められる。各セル電圧は等しいため、全てのQmaxは等しく、Qmaxは最初から最後まで充電されたAh(電流積分)を{100-最初のSOC}÷100で割った値となる。これは、電圧により求めた方法であるが、OBDのSOCを用いても良い。この場合には、最初から最後までに充電された電荷Ah×100÷{最後のOBD-SOC―最初のOBD-SOC}の値とする。
【0045】
続いて、標準OCVテーブルは最初から設定されているものとするが、過去のデータから推定しても良い。この方法について述べる。
【0046】
No.1の場合OBD-SOCは真値に近いとするならば、充電開始直前の電圧と充電開始直前のSOCのデータペアを抽出し、そのデータペア群よりOCVを関数近似で求めても良い。
【0047】
次に、標準抵抗テーブルを作成する方法について述べる。これは電流積分時系列(q(t)とする)、Qmaxより求めたSOC(SOC(t)と記載。SOC初期値+100q(t)/Qmaxとする。代わりにOBD-SOCを用いても良い)、SOCより求めたOCVの時系列(OCV(t)とする)を用い、{電圧―OCV(t)}÷電流として時刻tにおける抵抗R(t)(連続充電状態での抵抗)を求める。これは時刻tのときにはSOC(t)であるため、SOC(t)における抵抗が判る。
【0048】
この抵抗を求める際には電流変化が起こったときには分極電圧が定常になっていないため、電流変化が起こってT秒の間はデータを集計しない(Tは予め設定された値であり例えば300秒)。そして、もしOBDの中に温度時系列(Temp(t)とする)情報があるならば、R(t)はSOC(t)とTemp(t)の2次元のテーブルを関数近似で作成する。
【0049】
次に、VMの設定方法について述べる。VMが予め判っているならばその値を設定しておくが、判らない場合には過去のデータを集計し、No.1の状態でかつ、CC充電期間からCV充電期間に切り替わる際の電圧を求める。これは総電圧の場合にはセル数で割ることでVMが求められる。
【0050】
続いてパック容量の計算方法について述べる。パック容量としてはAhの容量とWhの容量の2通りがありNo.1のパタンの場合、アンバランスが起きていないため、パックのAh容量はセルのQmaxと等しくなる。このため、パックのWh容量計算について述べる。No.1のパタンの場合アンバランスは起きていないため、充電終了時のSOCは100%となる。問題は電池パックが空になっている状態でそれぞれのセルのSOCがどうなっているかである。このとき式(1)となるSOCsを求める。SOCsは電池パックが0になっている状態でのSOCであり、最低電圧とはセルのカタログで示されている放電時の最低電圧である。
【0051】
OCV(SOCs)-Id×R(SOCs,25)=最低電圧・・・(1)
式(1)の方程式でSOCsが0以下の場合には0と設定する。また最低電圧が示されていない、判らない場合や、簡易的には、SOCs=0としても良い。
【0052】
続いて、各セルのWh容量(EVの場合、航続距離に依存する放電側Wh)を計算する。放電時には、放電電流Id一定(例えばセルのカタログAh容量の1/3の)25℃想定時のセルkのWh容量は、式(2)のパワーをSOCでSOCsから100まで積分した値を100で割った値となる(k=1,…,セル数)。
【0053】
セルkパワー=Id×{OCV(SOC)-Id×R(SOC,25℃)}・・・(2)
ここでOCVと25℃抵抗は既にテーブルで用意されている関数であり、数値積分が実行できる。この数値積分であるセルkのWh容量をE[k]とするならば、パックのWh容量とはE[k]のセルkによる総和となる。
【0054】
今、k番目の各セルのQmaxをQmax[k]とし、最もQmaxの小さいセルの番号をk_minとする。k番目のセルのSOCは100×{Qmax[k]-Qmax[k_min]}/Qmax[k]となる。この値をSOCi[k]とする。そして各セルのSOCはから100からSOCi[k]まで放電電流Idで放電されるため、充電時のセルkの25℃想定時のWh容量とはId×{OCV(SOC)-Id×R(SOC,25℃)}をSOCで積分した値となる。
【0055】
No.2のパタンでは、電圧・電流のグラフから、CV充電期間Aにおけるセル平均電圧は、CV充電開始時はセルCV電圧VMより低く、パック満充電終了時はセルCV電圧VMである。また、OBD-SOCと電流積算から求めたパックQmaxは時系列的に連続である。
【0056】
No.2のパタンの場合、アンバランスは起きていない、または起きていても少ないと判断し、セルQmax(Ah容量)は数個低く、セル毎抵抗は最も抵抗の大きいセルの値が出ると判断する。このとき一番先にQmaxの最小を与えるセルがCV充電に切り替わることになる。このため、平均セル電圧はNo.2に示す挙動となる。もちろん、他の状況、例えばアンバランスが起きて満充電に至らないセルがあってもNo.2に示す平均セル電圧となる状況はあり得る。しかしながら、ここではセルQmax(Ah容量)は数個低い状態が尤もらしいと判断する。
【0057】
次に、No.2の場合の、セルQmaxの最小値の見積もりとパックQmaxの最小値の見積もり方法を述べる。
【0058】
アンバランスが起きていない場合には、パックの代表SOCは、一般的に最もQmaxの低いセルのSOCを示す。このため、最もQmaxの小さいセルのQmaxはQmax=充電量[Ah]×100/{(OBD-SOC最終)-(OBD-SOC最初)}として求められる。
【0059】
パックのAh容量は最もQmaxの小さいセルになるため、最もQmaxの小さいセルのQmaxがパックのAh容量となる。なお、補足的に、正常なセルのQmaxを見積もり、メッセージとしてユーザーに通知しても良い。この計算方法を述べる。セル1つのみQmaxが低く、それ以外のセルは同じQmaxとする場合が、ワーストケースである。充電開始前の最初のセル平均電圧は、同じQmaxのセルのOCVと近似できる。従い、充電開始直前のセル平均電圧より求めたSOC(SOCiとする)より、大きい方のQmaxはQmax=充電量[Ah]×100/{100-SOCi}として求められる。
【0060】
No.3のパタンでは、電圧・電流のグラフから、CV充電期間Aにおけるセル平均電圧は、CV充電開始時はセルCV電圧VMより低く、パック満充電終了時もセルCV電圧VMより低い。また、OBD-SOCと電流積算から求めたパックQmaxは時系列的に急に低くなる。
【0061】
No.3のパタンの場合、アンバランスが起きており数個の電圧が低く、セル毎抵抗が不明であると判断される。数個の電圧が低いため、CV充電期間となってもセルの電圧は上昇するが、最後のCV期間でセル平均電圧が完全にVMに至らないため、No.3のパタンとして判断する。
【0062】
パックQmaxの見積もり値としては、充電開始直前のセル平均電圧が最初に高いSOCを示すセルと近似し、パックQmax=充電電荷×100÷{100-SOC(充電直前のセル平均電圧)}として見積もる。
【0063】
充電最後の状況では数個の電圧の低いセル電圧情報が平均セル電圧に反映され難いため、充電終了時の状態でアンバランスの見積もりが困難である。しかしながら、充電最初のOBD-SOCは最もSOCの低いセルに律速され、出力される。このため、Qmaxが等しいと仮定したアンバランスのワーストケースは見積もることが可能となる。このアンバランス分を式(3)のSOCを求め、「満充電時に、ワースト値として数個のセルが式(3)のSOC分電圧が低い」のメッセージを出す。このアンバランスSOC分はアンバランス解消で回復する電池パックの容量割合となる。
【0064】
アンバランスSOC=OBD-SOC ― SOC(充電直前の平均セル電圧)・・・(3)
No.4のパタンでは、電圧・電流のグラフから、CV充電期間Aにおけるセル平均電圧は、CV充電開始時はセルCV電圧VMよりさらに低く、パック満充電終了時もセルCV電圧VMよりさらに低い。また、OBD-SOCと電流積算から求めたパックQmaxも低いと考えられるが、見積もり値としてOBD-SOCと電流積算から求めたQmaxをパックQmaxとして出力する。
【0065】
No.4のパタンの場合、アンバランスが起きており数個の電圧が高く、セル毎抵抗は不明であると判断される。圧倒的な数のセルが満充電に至らなく、充電の最後で平均セル電圧がVMより下回るとしたパタンである。
【0066】
一個から数個のセルのみ電圧が高い場合は、充電終了後の電圧を考慮する。この理由は、数個のセルはSOC100であるが、大多数のセルは充電終了後の平均セル電圧からOCVテーブルより見積もったSOCとなる。このため、式(4)でSOCを見積もり「満充電時にワースト値として数個のセルが式(4)のSOC分電圧が高い」とのメッセージを出す。このアンバランスSOC分はアンバランス解消で回復する電池パックの容量割合となる。
【0067】
アンバランスSOC=100 ― SOC(充電終了後の平均セル電圧)・・・(4)
図3を用いて、本実施例の電池劣化判定装置1による電池劣化判定方法について説明する。
【0068】
電池劣化判定装置1による処理がスタートすると、先ず、ステップS1において、充電器から、電池パックのセル平均電圧(またはトータル電圧)、及び電池パックの充電電流に関する情報を取得する。
【0069】
次に、ステップS2において、取得した電池パックの充電電流からCV充電期間を推定する。この方法は、電流が一定の状態(CC充電期間)から値が下がった時以降を切り出す。
【0070】
続いて、ステップS3において、推定したCV充電期間のセル平均電圧及び各セルのCV電圧を電池劣化判定テーブル(図2の状態)と照合することで、各セルのアンバランス関係と電池パックのAh容量を推定し、なおかつ、電池パックの劣化度合いを診断する。
【0071】
最後に、ステップS4において、診断の結果に基づいてメッセージを作成してユーザーに通知し、処理を終了する。
【0072】
なお、ステップS4では、各セルのアンバランス関係、及び電池パックのAh容量をそれぞれレベル分けしてレベル毎の閾値を設定し、アンバランス関係またはAh容量がレベル毎の閾値を超えた場合、ユーザーに警告するようにしても良い。
【0073】
以上説明した本実施例の電池劣化判定方法及び電池劣化判定装置によれば、各セル電圧情報が得られない場合であっても、電池パックの劣化度合いの指標となる各セルのアンバランスとAh容量を推定することができる。
【実施例0074】
図4を参照して、本発明の実施例2に係る電池劣化判定方法について説明する。図4は、本実施例の電圧・電流パタンを示す図である。
【0075】
実施例1では、CC-CV方式による電池パックの充電を前提に説明したが、本実施例では、他の充電方法の電池劣化判定方法を以下説明する。なお、本充電方式はLFPやLFP以外のリチウムイオン電池でも下記の充電方式を用いることがある。
【0076】
LFP電池は、正極側にリチウム(Li)・鉄(Fe)・リン(P)を材料として利用したリチウムイオン二次電池の一種である。LFP電池では、CC-CV充電方式ではなく、CC充電から、どれかのセルの電圧が高くなったときに、電流を絞るような充電方式を採用することが多い。この電流を絞る期間を電流低減期間と呼ぶことにする。図4に示すように、本充電では、初めに一定の電流(CC)で充電を行い、電流低減期間において、電流を直線的に絞る。最後に終わらせるのは、いずれかのセルが所定の閾値電圧(例えば3.7V)になったときである。
【0077】
充電電流から電流低減期間を推定する方法は、実施例1(図3のステップS1及びステップS2)と同様である。
【0078】
次に、充電電流から電流低減期間を推定する。この電流低減期間において、全てのセルが満充電のパタン(図4のA)である場合、アンバランスは起きていないと判定される。一方、セル電圧が満充電に満たないパタン(図4のB)である場合、すなわち電圧パタンが鈍っている場合は、アンバランスが発生していると判定される。
【0079】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0080】
1…電池劣化判定装置
2…演算処理装置(CPU)
3…記憶装置(メモリ)
4…通信装置
5…CV充電期間抽出手段
6…Ah容量・アンバランス判定手段
7…テーブル設定手段
8…センター(サーバー)
9…電気自動車(EV)
10…充電器
11…通信装置
12…ユーザー
13…充電器通信データ
図1
図2
図3
図4
図5