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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101899
(43)【公開日】2024-07-30
(54)【発明の名称】スパッタリング装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/35 20060101AFI20240723BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
C23C14/35 B
C23C14/34 S
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006104
(22)【出願日】2023-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(72)【発明者】
【氏名】北沢 僚也
(72)【発明者】
【氏名】石榑 文昭
(72)【発明者】
【氏名】磯部 辰徳
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029AA09
4K029AA24
4K029BA45
4K029BA49
4K029BA50
4K029BC09
4K029BD01
4K029CA05
4K029DA04
4K029DA09
4K029DC39
4K029DC43
4K029DC46
4K029KA09
(57)【要約】
【課題】非エロージョン発生領域周りのぼやけた領域の発生を抑制して、パーティクル発生原因を減らす。
【解決手段】スパッタリング装置において、被成膜基板の形成領域に向けてスパッタ粒子を放出するカソードユニットが、エロージョン領域が形成されるターゲットと、ターゲットにエロージョン領域を形成するマグネットユニットと、マグネットユニットと被成膜基板とを揺動方向(走査方向)における一方の揺動端と他方の揺動端との間に規定される揺動領域において相対的に往復動作可能なマグネットユニット走査部と、を有し、マグネットユニットは、その長手方向がターゲット表面に沿って揺動方向に交差する揺動幅方向に延在するマグネットを有するとともに、アノードに電子が入射しないようにカソードユニットに対してアノードを所定の電位とするアノード電位設定機構を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードと対応して、被成膜基板の形成領域に向けてスパッタ粒子を放出するカソードユニットが、
エロージョン領域が形成されるターゲットと、
前記ターゲットに対して前記被成膜基板とは反対側に配置されて前記ターゲットに前記エロージョン領域を形成するマグネットユニットと、
前記マグネットユニットと前記被成膜基板とを前記ターゲット表面に沿った揺動方向(走査方向)における一方の揺動端と他方の揺動端との間に規定される揺動領域において相対的に往復動作可能なマグネットユニット走査部と、
を有し、
前記マグネットユニットは、その長手方向が基板表面に沿って前記揺動方向に交差する揺動幅方向に延在するマグネットを有するとともに、
前記アノードに接続されて、前記アノードに電子が入射しないように前記カソードユニットに対して前記アノードを所定の電位とするアノード電位設定機構を有する、
ことを特徴とするスパッタリング装置。
【請求項2】
前記アノード電位設定機構は、前記アノードをグランド電位とは異なる電位にする、
ことを特徴とする請求項1記載のスパッタリング装置。
【請求項3】
前記アノードを支持する絶縁支持部を有する、
ことを特徴とする請求項2記載のスパッタリング装置。
【請求項4】
前記アノード電位設定機構は、前記カソードユニットに対して前記アノードを負電位にする、
ことを特徴とする請求項2記載のスパッタリング装置。
【請求項5】
前記アノード電位設定機構は、前記カソードユニットに対して前記アノードをフローティング電位にする、
ことを特徴とする請求項2記載のスパッタリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスパッタリング装置に関し、特に、マグネトロンカソードを有する成膜に用いて好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
マグネトロンカソードを有する成膜装置においては、ターゲットの利用効率を向上することなどを目的として、マグネットをターゲットに対して移動させる方式が知られている。
特許文献1に開示の技術のように、成膜の均一性向上等の目的のために、マグネットの移動に加え、カソードおよびターゲットを被成膜基板に対して揺動させることも知られている。
【0003】
また、特許文献2に開示の技術のように、発生したパーティクルがスパッタ処理室内における成膜に悪影響を及ぼすことを防止する目的などで、マグネットおよびカソードを揺動させることが知られている。
さらに、マグネットおよびカソードに対して被成膜基板を揺動させる技術として、本出願人らは特許文献3のような技術を公開している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-41115号公報
【特許文献2】特開2012-158835号公報
【特許文献3】特許第6579726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記のようにターゲットに対してマグネットを走査(揺動)させる技術であっても、非エロージョン領域の発生により、マグネットの揺動範囲の縁部に近接する成膜領域の周縁部付近においては、パーティクル発生原因となる場合があるためこれを解消したいという要求があった。特に、非エロージョン領域の発生そのものよりも、非エロージョン領域とエローション領域との境界がぼやけた場合に、これがリデポ膜(ターゲットに着膜したスパッタ膜)の再スパッタ発生など、問題となるパーティクル発生の原因となることがわかった。
【0006】
また、上記のようにターゲットに対してマグネットを走査(揺動)させる技術であっても、非エロージョン領域の発生により、マグネットの揺動範囲に近接する成膜領域の周縁部付近においては、膜厚の減少、膜厚分布や膜質分布にムラができてしまうなどの問題が、依然として解消されていない。さらに、基板の大型化によってこのような不具合に対する改善要求が大きくなっていた。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、以下の目的を達成しようとするものである。
1.非エロージョン発生領域周りのぼやけた領域の発生を抑制して、パーティクル発生原因を減らすこと。
2.形成されたプラズマ分布を安定させ、マグネットの揺動位置にかかわらずに膜厚分布・膜厚特性分布の均一性を向上すること。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、非エロージョン領域によるパーティクル発生の抑制、および、膜厚分布、膜質特性分布のばらつきの抑制に成功した。
【0009】
スパッタリング中は、カソードに印加された電力によりマグネットからは磁界(磁場、磁力線)が形成されている。このとき、スパッタリングに寄与するプラズマまたは電子は、マグネットの形成する磁力線に沿って移動している。マグネットによる磁力線のうち、プラズマ発生に寄与するものは、ターゲットと平行に面一として配置されるマグネットの両極のうち、N極からターゲットに向かい円弧状にS極に到達する。このとき、マグネットによる磁力線は、N極から、ターゲットを裏面側から表面側に向けて厚さ方向に貫通し、プラズマ発生空間で円弧状に形成され、ターゲットを表面側から裏面側に向けて厚さ方向に貫通してS極へと戻る。
【0010】
ターゲットの端部周辺には、グランド電位部分であるアノードが配置されている。この状態で、マグネットを走査(揺動)させてマグネットが揺動端付近に位置した場合には、マグネットがこのアノードに近接した位置となる。
すると、N極からの磁力線は、マグネットの揺動端付近で近接しているアノードつまりグランド電位部分に向かってしまい、S極に戻らないという現象が起こる場合がある。すると、電子は磁力線に沿ってトラッキングされる(動く)ため、プラズマ形成空間に戻らず、プラズマ形成に寄与せずにアノードつまりグランド電位部分に流れてしまう。これを電子が吸われると称する。
【0011】
電子がアノードに吸われると、ターゲットの表面側、つまり、プラズマ発生空間における電子密度が低下する。すると、形成されるプラズマ密度が低下する、あるいは、プラズマが発生しない、という現象が起こる場合がある。これをプラズマが吸われると称する。このような現象が発生した場合、プラズマによりターゲットがスパッタリングされないために、非エロージョン領域が発生し、さらに、非エロージョン領域が大きくなる場合がある。
【0012】
ここで、電子がアノードに吸われた場合、マグネットの揺動その他に起因して、アノード付近におけるプラズマのオンオフが発生する。これにより、プラズマによるスパッタリングのオンオフが発生する。すると、リデポ膜のスパッタリングに起因するパーティクルが発生する可能性が増大する。
【0013】
つまり、非エロージョン領域の発生により、マグネットの揺動範囲に近接する成膜領域の周縁部付近においては、パーティクル発生原因となる場合がある。
このとき、非エロージョン領域とエロージョン領域との境界が不明瞭になっており、エロージョン-非エロージョン境界領域が形成されることになる。
【0014】
このように、非エロージョン領域の発生そのものよりも、非エロージョン領域とエローション領域との境界がぼやけた場合に、これがリデポ膜の再スパッタ発生など、問題となるパーティクル発生の原因となることがわかった。
【0015】
上記のように、電子がアノードに吸われる場合、マグネットからの磁力線が、アノードに向かう状態、つまり、ターゲットの厚さ方向よりも、ターゲットの輪郭外向きに傾斜した状態である。
【0016】
本願発明者らはこのような問題を解決するために、カソードに対するアノードの電位を制御することで、マグネットの揺動端において、マグネットから形成される磁力線がアノードに吸われた場合でも、アノード付近におけるプラズマのオンオフが発生しないようにすること、つまり、形成されるプラズマ密度が低下するあるいはプラズマが発生しないという現象を起こさないことが可能であることを見出した。つまり、アノードの電位をグランド電位から変更することが、非エロージョン領域の低減に有効であることを見出した。
【0017】
なお、上記の説明では、通常の表記に従って磁力線をN極からS極へ到達するように表記したが、逆の極性としても現象の理解には支障がない。
【0018】
さらに、非エロージョン領域が発生している場合には、プラズマ発生が抑制されていることになる。このため、印加された供給電力がプラズマ発生に消費されずに余剰となる。この余剰電力が、もともとの非エロージョン領域とは異なる領域に対して再分配される、あるいは、全体の電圧(電力)変動として吸収されることになる。従って、電圧変動のようにプラズマ発生条件が変動してしまい、結果的に膜厚分布のばらつき、膜質特性分布のばらつき拡大の原因となる。
【0019】
つまり、電子がアノードに吸われてプラズマのオンオフが発生した場合、非エロージョン領域発生に起因して、さらなるプラズマ発生条件の変動が発生して、膜厚分布のばらつき、膜質特性分布のばらつきがより一層拡大することになる。
【0020】
さらに、非エロージョン領域が発生している場合、電圧変動等によるプラズマ発生条件の部分的変動により、もともとの非エロージョン領域とは異なる非エロージョン領域が発生してしまうこともある。この場合、パーティクル発生、および、膜厚分布、膜質特性分布のばらつきなどが拡大してしまうことになる。
【0021】
このため、本願発明者らはこの問題を解決するために、カソードに対するアノードの電位を制御することで、マグネットの揺動端において、マグネットから形成される磁力線がアノードに吸われた場合でも、アノード付近におけるプラズマのオンオフが発生しないようにすること、つまり、形成されるプラズマ密度が低下するあるいはプラズマが発生しないという現象を起こさないことが可能であることを見出した。つまり、アノードの電位をグランド電位から変更することが、膜厚分布、膜質特性分布のばらつき発生の抑制に有効であることを見出した。
【0022】
これらを鑑みて、本願発明者らは、以下のように本願発明を完成した。
【0023】
(1)本発明にかかる一態様のスパッタリング装置は、
アノードと対応して、被成膜基板の形成領域に向けてスパッタ粒子を放出するカソードユニットが、
エロージョン領域が形成されるターゲットと、
前記ターゲットに対して前記被成膜基板とは反対側に配置されて前記ターゲットに前記エロージョン領域を形成するマグネットユニットと、
前記マグネットユニットと前記被成膜基板とを前記ターゲット表面に沿った揺動方向(走査方向)における一方の揺動端と他方の揺動端との間に規定される揺動領域において相対的に往復動作可能なマグネットユニット走査部と、
を有し、
前記マグネットユニットは、その長手方向が基板表面に沿って前記揺動方向に交差する揺動幅方向に延在するマグネットを有するとともに、
前記アノードに接続されて、前記アノードに電子が入射しないように前記カソードユニットに対して前記アノードを所定の電位とするアノード電位設定機構を有する、
ことにより上記課題を解決した。
(2)本発明のスパッタリング装置は、上記(1)において、
前記アノード電位設定機構は、前記アノードをグランド電位とは異なる電位にする、
ことができる。
(3)本発明のスパッタリング装置は、上記(2)において、
前記アノードを支持する絶縁支持部を有する、
ことができる。
(4)本発明のスパッタリング装置は、上記(2)において、
前記アノード電位設定機構は、前記カソードユニットに対して前記アノードを負電位にする、
ことができる。
(5)本発明のスパッタリング装置は、上記(2)において、
前記アノード電位設定機構は、前記カソードユニットに対して前記アノードをフローティング電位にする、
ことができる。
【0024】
(1)本発明にかかる一態様のスパッタリング装置は、
アノードと対応して、被成膜基板の形成領域に向けてスパッタ粒子を放出するカソードユニットが、
エロージョン領域が形成されるターゲットと、
前記ターゲットに対して前記被成膜基板とは反対側に配置されて前記ターゲットに前記エロージョン領域を形成するマグネットユニットと、
前記マグネットユニットと前記被成膜基板とを前記ターゲット表面に沿った揺動方向(走査方向)における一方の揺動端と他方の揺動端との間に規定される揺動領域において相対的に往復動作可能なマグネットユニット走査部と、
を有し、
前記マグネットユニットは、その長手方向が基板表面に沿って前記揺動方向に交差する揺動幅方向に延在するマグネットを有するとともに、
前記アノードに接続されて、前記アノードに電子が入射しないように前記カソードユニットに対して前記アノードを所定の電位とするアノード電位設定機構を有する、
ことにより上記課題を解決した。
【0025】
上記の構成によれば、カソードに対するアノードの電位を制御することで、マグネットの揺動端において、マグネットから形成される磁力線がアノードに吸われた場合でも、アノード付近におけるプラズマのオンオフが発生しないようにすることができる。つまり、カソードに対するアノードの電位を制御することで、形成されるプラズマ密度が低下するあるいはプラズマが発生しないという現象を起こさないことができる。
あるいは、カソードに対するアノードの電位を制御することで、アノードをグランド電位にしないことで、トラッキングされた電子がアノードに向かった場合でも、電子がアノードに吸われずに、プラズマが消失しないようにすることができる。
つまり、アノードの電位をグランド電位から変更することにより、エロージョン-非エロージョン境界領域を効果的に低減して、エロージョン-非エロージョン境界領域が形成されることに起因するパーティクル発生を低減することができる。
同時に、供給電圧のさらなる変動を抑制して、マグネットの揺動端位置によるプラズマ密度の変動を抑制し、プラズマ発生状態を安定して、膜厚分布、膜質特性分布のばらつき発生の抑制を効果的におこなうことが可能となる。
【0026】
(2)本発明のスパッタリング装置は、上記(1)において、
前記アノード電位設定機構は、前記アノードをグランド電位とは異なる電位にする、
ことができる。
【0027】
上記の構成によれば、カソードに対して、アノードの電位をグランド電位から変更することで、マグネットの揺動端において、マグネットから形成される磁力線がアノードに吸われてトラッキングされた電子がアノードに向かった場合でも、電子がアノードに吸われずに、アノード付近におけるプラズマのオンオフが発生しないようにすることができる。つまり、カソードに対して、アノードの電位をグランド電位から変更することで、形成されるプラズマ密度が低下するあるいはプラズマが発生しないという現象を起こさないことができる。
【0028】
(3)本発明のスパッタリング装置は、上記(2)において、
前記アノードを支持する絶縁支持部を有する、
ことができる。
【0029】
上記の構成によれば、カソードに対して、アノードの電位をグランド電位から変更することが容易にできる。さらに、被成膜基板の周辺に位置するグランド電位であるチャンバを構成する部品からアノードの電気的に切り離して、アノードの電位をグランド電位とは異なる電位に設定することが容易に可能となる。これにより、カソードに対して、アノードの電位をグランド電位から変更して、マグネットの揺動端において、マグネットから形成される磁力線がアノードに吸われてトラッキングされた電子がアノードに向かった場合でも、電子がアノードに吸われずに、アノード付近におけるプラズマのオンオフが発生しないようにすることができる。つまり、カソードに対して、アノードの電位をグランド電位から変更することで、形成されるプラズマ密度が低下するあるいはプラズマが発生しないという現象を起こさないことができる。
【0030】
(4)本発明のスパッタリング装置は、上記(2)において、
前記アノード電位設定機構は、前記カソードユニットに対して前記アノードを負電位にする、
ことができる。
【0031】
上記の構成によれば、カソードに対して、アノードの電位を負電位に設定することで、マグネットの揺動端において、マグネットから形成される磁力線がアノードに吸われてトラッキングされた電子がアノードに向かった場合でも、電子がアノードに吸われずに、アノード付近におけるプラズマのオンオフが発生しないようにすることができる。つまり、カソードに対して、アノードの電位を負電位に設定することで、形成されるプラズマ密度が低下するあるいはプラズマが発生しないという現象を起こさないことができる。
【0032】
(5)本発明のスパッタリング装置は、上記(2)において、
前記アノード電位設定機構は、前記カソードユニットに対して前記アノードをフローティング電位にする、
ことができる。
【0033】
上記の構成によれば、カソードに対して、アノードの電位をフローティング電位に設定することで、マグネットの揺動端において、マグネットから形成される磁力線がアノードに吸われてトラッキングされた電子がアノードに向かった場合でも、電子がアノードに吸われずに、アノード付近におけるプラズマのオンオフが発生しないようにすることができる。つまり、カソードに対して、アノードの電位をフローティング電位に設定することで、形成されるプラズマ密度が低下するあるいはプラズマが発生しないという現象を起こさないことができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、プラズマ密度を維持することを可能として、非エロージョン発生領域周りのぼやけた領域の発生を抑制して、パーティクルの削減を図ること、および、形成されたプラズマ分布を安定させ、マグネットの揺動位置にかかわらずに膜厚分布・膜厚特性分布の均一性向上を図ることができることができるという効果を奏することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本発明に係るスパッタリング装置の第1実施形態を示す模式平面図である。
図2】本発明に係るスパッタリング装置の第1実施形における成膜室を示す模式側面図である。
図3】本発明に係るスパッタリング装置の第1実施形態におけるガラス基板とカソード装置の構成との位置関係を示す模式図である。
図4】本発明に係るスパッタリング装置の第1実施形態におけるガラス基板とターゲットとマグネットユニットとの位置関係を示す正面図である。
図5】本発明に係るスパッタリング装置の第1実施形態におけるマグネットユニットの端部を示す拡大断面図である。
図6】本発明に係るスパッタリング装置の第1実施形態における絶縁支持部を示す拡大断面図である。
図7】本発明に係るスパッタリング装置の第1実施形態におけるアノード電位設定機構の作用を説明するための図である。
図8】本発明に係るスパッタリング装置の第1実施形態におけるアノード電位設定機構の作用を説明するための図である。
図9】本発明に係るスパッタリング装置の第2実施形態におけるアノード電位設定機構の作用を説明するための図である。
図10】本発明に係るスパッタリング装置の第2実施形態におけるアノード電位設定機構の作用を説明するための図である。機構の作用を説明するための図である。
図11】スパッタリング装置におけるアノード電位設定機構がない場合の作用を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明に係るスパッタリング装置の第1実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態におけるスパッタリング装置を示す模式平面図である。図2は、本実施形態におけるスパッタリング装置における成膜室を示す模式側面図である。図において、符号1は、スパッタリング装置である。
【0037】
本実施形態に係るスパッタリング装置1は、例えば、半導体装置の製造工程や、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイなどのFPD(flat panel display,フラットパネルディスプレイ)の製造工程においてガラス等からなる基板上にTFT(Thin Film Transistor)を形成する場合などに用いる。本実施形態に係るスパッタリング装置1は、ガラスや樹脂からなる被処理基板に対して、真空環境下で加熱処理、成膜処理、エッチング処理等を行うインターバック式の真空処理装置である。
【0038】
本実施形態では、ガラス基板(被成膜基板、透明基板)11として、一辺100mm程度から、一辺2500mm以上の矩形基板を適用可能であり、さらに、厚み1mm以下の基板、厚み数mmの基板や、厚み10mm以上の基板も用いることができる。
【0039】
本実施形態に係るスパッタリング装置1は、図1に示すように、ロード・アンロード室(真空チャンバ)2と、成膜室(真空チャンバ)4と、搬送室(真空チャンバ)3と、を備えている。
ロード・アンロード室2は、略矩形のガラス基板11(被処理基板)を外部との間で搬入/搬出する。成膜室4は、ガラス基板11上に、例えば、ZnO系やIn系の透明導電膜等、アルミニウムや銀等の金属や酸化物、それ以外の被膜をスパッタリング法により形成する耐圧の真空チャンバである。搬送室3は、成膜室4とロード・アンロード室2との間に位置し、成膜室4とロード・アンロード室2(真空チャンバ)との間でガラス基板11を搬送する。
【0040】
本実施形態に係るスパッタリング装置1は、図1に示すように、ロード・アンロード室(真空チャンバ)2と、成膜室(真空チャンバ)4と、搬送室(真空チャンバ)3と、を備えている。
ロード・アンロード室2は、略矩形のガラス基板11(被処理基板)を外部との間で搬入/搬出する。成膜室4は、ガラス基板11上に、例えば、ZnO系やIn系の透明導電膜等、アルミニウムや銀等の金属や酸化物、それ以外の被膜をスパッタリング法により形成する耐圧の真空チャンバである。搬送室3は、成膜室4とロード・アンロード室2との間に位置し、成膜室4とロード・アンロード室2(真空チャンバ)との間でガラス基板11を搬送する。
【0041】
本実施形態に係るスパッタリング装置1は、図1に示すように、サイドスパッタ式の装置として構成できる。あるいは、本実施形態に係るスパッタリング装置1は、図2に示すように、スパッタダウン式の装置として構成できる。さらに、スパッタアップ式の装置として構成することもできる。
【0042】
さらに、スパッタリング装置1には、成膜室(真空チャンバ)4Aとロード・アンロード室(真空チャンバ)2aとを設けてもよい。これら複数のチャンバであるロード・アンロード室2、ロード・アンロード室2a、成膜室4、成膜室4Aは、搬送室3の周囲を取り囲むように形成されている。こうしたチャンバは、例えば、互いに隣接して形成された2つのロード・アンロード室(真空チャンバ)と、複数の処理室(真空チャンバ)とを有して構成されることになる。
【0043】
例えば、一方のロード・アンロード室2は、外部からスパッタリング装置1(真空処理装置)の内部に向けてガラス基板11を搬入するロード室であり、他方のロード・アンロード室2aは、スパッタリング装置1の内部から外部にガラス基板11を搬出するアンロード室である。また、成膜室4と成膜室4Aとが異なる成膜工程を行う構成が採用されてもよい。また、成膜室4と成膜室4Aとが異なる方式のスパッタリング処理を行う構成が採用されてもよい。たとえば、成膜室4と成膜室4Aとの一方がサイドスパッタ式、他方がスパッタダウン式の装置として構成できる。
【0044】
搬送室3とロード・アンロード室2との間には、仕切りバルブ(ドアバルブ)が形成されていればよい。同様に、搬送室3とロード・アンロード室2aとの間には、仕切りバルブ(ドアバルブ)が形成されていればよい。搬送室3と成膜室4との間には、仕切りバルブ(ドアバルブ)が形成されていればよい。搬送室3と成膜室4Aとの間には、仕切りバルブ(ドアバルブ)が形成されていればよい。
【0045】
ロード・アンロード室2には、スパッタリング装置1の外部から搬入されたガラス基板11の載置位置を設定してアライメント可能な位置決め部材が配置されていてもよい。ロード・アンロード室2には、また、この室内を粗真空引きするロータリーポンプ等の粗引き排気装置(粗引き排気手段、低真空排気装置)が設けられる。
【0046】
搬送室3の内部には、図1に示すように、搬送装置(搬送ロボット)3aが配置されている。
搬送装置3aは、回転軸と、この回転軸を回転駆動する回転駆動装置と、回転軸に取り付けられたロボットアームと、ロボットアームの一端に形成されたロボットハンドと、ロボットハンドを上下動させる上下動装置とを有している。ロボットアームは、互いに直交してそれぞれ水平方向にスライド可能な第一のアーム部と、第二のアーム部とから構成されている。搬送装置3aは、被搬送物であるガラス基板11を、ロード・アンロード室2、ロード・アンロード室2a、成膜室4、成膜室4Aの各々と、搬送室3と、の間で移動させることができる。
【0047】
成膜室4には、図1に示すように、カソード装置10と、マスク等を有する基板ホルダとされた基板保持部13と、ガス導入装置(ガス導入手段)および高真空排気装置(高真空排気手段)を備えるガス制御部14と、が設けられている。
成膜室4の内部は、図1に示すように、成膜時にガラス基板11の表面が露出する前側空間41と、成膜時にガラス基板11の裏面側に位置する裏側空間42とで構成されている。前側空間41には、カソード装置10が配置される。
【0048】
カソード装置10は、図1に示すサイドスパッタ式の成膜室4の内部において、搬送室3に接続される搬送口4aから最も遠い位置に立設される。
また、カソード装置10は、図2に示すダウンスパッタ式の成膜室4の内部において、搬送口4aから搬送室3に搬送した水平位置のガラス基板11の上方に、かつ、ガラス基板11と平行に対向して配置される。ここで、成膜口4bの周囲には、マスク20が配置されてもよい。
【0049】
基板保持部(基板保持機構)13は、図1または図2に示すように、裏側空間42内部に設けられている。基板保持部13は、搬送口4aから搬入されたガラス基板11を支持可能とされる。
基板保持部13は、図1に示すように、成膜中に後述するターゲット23とガラス基板11の被処理面(成膜面)11aとが対向するように、ガラス基板11を保持する。基板保持部13は、成膜中には、立設されたカソード装置10に対向する縦位置にガラス基板11を保持する。
【0050】
基板保持部13(基板保持手段)は、図2に示すように、成膜中に後述するターゲット23とガラス基板11の被処理面(成膜面)11aとが対向するように、ガラス基板11を保持する。基板保持部13は、成膜中には、下方に向いたカソード装置10に対向する水平位置にガラス基板11を保持する。
基板保持部13は、図1に示すサイドスパッタ式の成膜室4の内部において、裏側空間42の下側位置で、搬送口4aおよび/または成膜口4bと略並行に延在する揺動軸と、揺動軸に取り付けられガラス基板11の裏面を保持する保持部と、を備えてもよい。
【0051】
ガス制御部14におけるガス導入装置(ガス導入手段)は、成膜室4の内部にガスを導入する。ガス制御部14における高真空排気装置(高真空排気手段)は、成膜室4の内部を高真空引きするターボ分子ポンプ等である。
【0052】
カソード装置10は、図1に示すサイドスパッタ式の成膜室4の内部において、成膜室4の内部における成膜位置(プラズマ処理位置)とされたガラス基板11に対してガラス基板11の主面に沿った水平方向に揺動可能とされている。この場合、カソード装置10は、カソードボックスと称される箱形に構成されてもよい。
カソード装置10は、図2に示すダウンスパッタ式の成膜室4の内部において、成膜室4の内部における成膜位置(プラズマ処理位置)とされたガラス基板11に対してガラス基板11の主面に沿った水平方向に揺動可能とされている。
【0053】
以下の説明では、図1に示すサイドスパッタ式の成膜室4の内部におけるカソード装置10について説明するが、揺動方向が異なるだけで、図2に示すダウンスパッタ式の成膜室4の内部におけるカソード装置10も、同じ構成とすることができる。
【0054】
図3は、本実施形態のスパッタリング装置におけるガラス基板とカソード装置の構成との位置関係を示す模式図である。
カソード装置10は、図3に示すように、1つのカソードユニット22を有する。
カソードユニット22は、図3に示すように、ガラス基板11の表面と対向するZX平面に沿って配置されている。カソードユニット22では、ターゲット23、バッキングプレート24、および、マグネットユニット21が、ガラス基板11に近い位置から離間するY方向に向けて、この順に配置されている。
【0055】
なお、図3おいて、カソード装置10は、図1に示すサイドスパッタ式に即して、ガラス基板11と略平行にターゲット23を鉛直方向に立てた縦型として記載している。さらに本実施形態の構成は、図2に示すダウンスパッタ式に即して、ガラス基板11が水平状態でターゲット23の下側に配置されたダウンデポの場合でも、XYZの方向をそれぞれ対応して読み替えることで、同様の構成に対応することができる。
【0056】
図4は、本実施形態のスパッタリング装置におけるガラス基板とターゲットとマグネットユニットとの位置関係を示す正面図である。
ターゲット23は、ガラス基板11と対向するZX平面に沿った平板状に配置される。ターゲット23は、カソードボックスの表面でガラス基板11に対向する位置に露出している。
【0057】
ターゲット23は、図4に示すように、Z方向においてガラス基板11よりも長い幅を有する。また、ターゲット23は、揺動方向であるX方向においてガラス基板11よりも大きい幅を有する。ターゲット23の周囲には、アノード28が設けられる。
アノード28は、ターゲット23の全周に設けられる。アノード28は、ターゲット23からはみ出したバッキングプレート24を、ガラス基板11に対して覆っている。
【0058】
アノード28は、Y方向における位置がターゲット23と一致している。アノード28とターゲット23との厚さは、ほぼ等しい。なお、アノード28とターゲット23との厚さは、アノード28がターゲット23より大きい厚さであってもよいし、アノード28がターゲット23より小さい厚さであってもよい。
【0059】
アノード28は、成膜室4の壁部45に支持されている。アノード28は、ターゲット23と離間した外周位置が壁部45に接続される。壁部45は、ターゲット23から離間したアノード28からターゲット23に向かう向きにY方向に立設される壁部45aと、Z方向の位置が成膜時におけるガラス基板11と略同一の壁部45bとを有する。
アノード28は、絶縁支持部44により壁部45に接続される。壁部45は、接地電位(グランド電位)とされている。アノード28は、電気的に壁部45から切り離されている。絶縁支持部44については後述する。
【0060】
アノード28には、アノード電位設定機構40が接続される。アノード電位設定機構40は、ターゲット23、バッキングプレート24、ガラス基板11、成膜室4の壁部45等に対して、アノード28の電位を設定する。
【0061】
アノード電位設定機構40は、カソードに対するアノード28の電位を設定可能な構成である。すなわち、アノード電位設定機構40は、バッキングプレート24またはターゲット23に対するアノード28の電位を設定可能である。アノード電位設定機構40は、例えば、アノード28に接続されて電位を印加するDC電源である。アノード電位設定機構40は、制御部26に接続される。
アノード28は、電気的に壁部45から切り離されているため、アノード電位設定機構40によって成膜室4の他の部分とは独立して電位を設定することができる。
【0062】
バッキングプレート24は、ガラス基板11と対向するZX平面に沿った平板状に形成される。バッキングプレート24は、ターゲット23のガラス基板11と向かい合わない面に接合されている。バッキングプレート24は、ターゲット23のガラス基板11と反対側の面に接合されている。バッキングプレート24には、直流電源を有する制御部26が接続している。直流電源から供給される直流電力は、バッキングプレート24を通じてターゲット23に供給される。カソードの電源として直流電源に変えて、直流電源・パルス電源・RF電源を用いてもよい。
カソードユニット22は、ガラス基板11の成膜面11aと対向するZX平面に沿ってターゲット23が配置されている。カソードユニット22には、ターゲット23の裏面側、つまり、ターゲット23に対してバッキングプレート24に近接する位置に、複数本のマグネット25が並ぶマグネットユニット21を有する。
【0063】
マグネットユニット21は、平行に並んだ複数本のマグネット25を有する。マグネット25は、多連マグネットである。複数本のマグネット25は、いずれも長手方向がZ方向に沿うように配置されている。複数本のマグネット25は、ZX平面に沿って互いに平行に配置される。マグネット25は、その長手方向がガラス基板11の表面に沿った揺動方向と交差する揺動幅方向に延在する。マグネット25は、その長手方向がガラス基板11の表面に沿った揺動方向と交差する揺動幅方向に延在する。X方向において、複数本のマグネット25は、互いに等間隔に配置される。
【0064】
本実施形態のマグネットユニット21は、例えば9本のマグネット25がX方向に隣接される。マグネットユニット21において、マグネット25の本数は、ガラス基板11の面積やターゲット23の面積、あるいは、後述するマグネットユニット21の揺動範囲等に応じて適宜設定することができる。なお、本実施形態におけるカソードユニット22では、ガラス基板11に対してターゲット23が固定配置されて、ターゲット23が成膜室4に固定された構成とされる。
【0065】
マグネット25は、それぞれ磁気回路を形成している。
1本のマグネット25は、ガラス基板11と向かい合うターゲット23の表面23aにそれぞれマグネトロン磁場を形成する。
マグネットユニット21において、それぞれのマグネット25は永久磁石の組み合わせによって所定の磁気回路を形成する構成されてもよい。マグネットユニット21において、それぞれのマグネット25は個別に制御部26に接続されて、個々に発生する磁場状態を制御可能な構成としてもよい。
マグネットユニット21のうち、揺動方向であるX方向端部で揺動終端と揺動始端のマグネット25には、磁力線傾斜機構が設けられる。磁力線傾斜機構に関しては後述する。
【0066】
図5は、本実施形態におけるスパッタリング装置のマグネットユニットにおける端部を示す拡大断面図である。
マグネットユニット21において、マグネット25は、図4図5に示すように、ヨーク31と、中央磁石部50と、周縁磁石部60と、を有する。
【0067】
ヨーク31は、図4図5に示すように、略矩形輪郭を有する平板状の磁石ベースとされる。ヨーク31は、その表面に中央領域25aを有する。ヨーク31は、SUS430等から形成することができる。
中央磁石部50は、Z方向を長手方向とする棒状の複合磁石体である。中央磁石部50は、中央領域25aにおいてX方向の中央位置に配置される。中央磁石部50は、Z方向に沿った略直線状に配置される。
周縁磁石部60は、磁石ベース(ヨーク)31平面において、中央磁石部50から離間して、この中央磁石部50を囲むように周設される。周縁磁石部60は、ZX面に沿って配置される略長円の環状磁石である。
【0068】
中央磁石部50と周縁磁石部60とは、図4図5に示すように、いずれもZ方向に向かう磁極面(磁極平面)30を有する。中央磁石部50と周縁磁石部60とは、いずれもZX面に沿った磁極面30を有する。中央磁石部50と周縁磁石部60とは、互いに極性が異なる。中央磁石部50と周縁磁石部60とは磁気回路を構成する。
中央磁石部50および周縁磁石部60は、マグネット25の長手方向であるZ方向の中央領域25aにおいて、互いに平行である平行領域を形成する。
【0069】
中央磁石部50は、その延在するZ方向に複数に分割されている。中央磁石部50は、分割された個々の磁石がZ方向に連続的に隣接して配置される。中央磁石部50は、複数の磁石を棒状に並べた構成である。
【0070】
同様に、周縁磁石部60は、環状に延在するZ方向およびX方向に沿って複数個に分割されている。周縁磁石部60は、分割された個々の磁石がZ方向およびX方向に連続的に隣接して配置される。周縁磁石部60は、複数の磁石を環状に並べた構成である。周縁磁石部60は、ZX面において、長円形状、言い換えると、レーストラック形状に配置される。または、周縁磁石部60は、ZX面において、四隅を角丸めした長方形に近い形状として配置される。
【0071】
ここで、長円形状とは、平面上で2分割した円を分割線と直交する方向に離間し、分割して対向する位置の端部どうしを平行な2直線で結んだ形状である。あるいは、レーストラック形状とは、長方形の四隅を角丸めするとともに、短辺がなくなる程度まで円弧状に角丸めした輪郭形状を意味する。
【0072】
周縁磁石部60は、図4図5に示すように、長手直線部61と、長手直線部62と、橋渡し部63と、を有する。
長手直線部61と長手直線部62とは、周縁磁石部60のうち、Z方向に延在する部分である。長手直線部61と長手直線部62とは、ZX面において、いずれも、中央磁石部50の両側に平行に延びる。長手直線部61と長手直線部62とは、Z方向の全長で、X方向における互いの離間距離が等しい。長手直線部61と長手直線部62とは、Z方向の全長で、X方向に等間隔に配置される。
【0073】
長手直線部61と長手直線部62とは、Z方向の全長が、互いに等しく形成される。長手直線部61と長手直線部62とは、中央磁石部50に対して、Z方向において互いに等しい位置に配置される。長手直線部61と長手直線部62とは、Z方向の全長で、X方向における幅寸法が等しく形成される。長手直線部61の外周面(外周部)と長手直線部62の外周面(外周部)とは、ヨーク31の外周輪郭のうちZ方向に沿った辺に沿って配置される。
【0074】
長手直線部61のZ方向端部(端面)と長手直線部62のZ方向端部(端面)とは、Z方向の配置が互いに同じ位置である。長手直線部61の内周面(内周部)と長手直線部62の内周面(内周部)とは、互いに平行に対向する。長手直線部61の内周面と長手直線部62の内周面とは、いずれもZY平面に沿って形成される。
【0075】
橋渡し部63は、長手直線部61と長手直線部62とにおけるZ方向の端部を夫々橋渡ししている。橋渡し部63は、Z方向における長手直線部61と長手直線部62との橋渡し部を有する。橋渡し部63は、マグネット25におけるZ方向の端部に配置される。橋渡し部63は、長手直線部61のZ方向端部61aからZ方向に向かい、X方向に曲がって、さらにZ方向に曲がって長手直線部62のZ方向端部に接続する。橋渡し部63は、中央領域25aよりもZ方向で外側となる端部領域25bに含まれる。
【0076】
周縁磁石部60は、長手直線部61および長手直線部62が所定の長さに分割されて直線状に組み合わされている。長手直線部61および長手直線部62を構成するそれぞれの磁石は、いずれも永久磁石である。また、橋渡し部63は、所定の長さに分割されて組み合わされる。橋渡し部63を構成するそれぞれの磁石は、いずれも永久磁石である。
【0077】
周縁磁石部60のZX面に沿った径方向の肉厚は、長手直線部61および長手直線部62、橋渡し部63でほぼ等しく形成されることができる。なお、周縁磁石部60のZX面に沿った径方向の肉厚は、長手直線部61および長手直線部62に比べて、橋渡し部63のコーナー部分で小さく形成されてもよい。
【0078】
中央磁石部50は、図4図5に示すように、長手方向となるZ方向に直線状、あるいは棒状に形成される。中央磁石部50は、所定の長さに分割されて直線状に組み合わされる。中央磁石部50を構成するそれぞれの磁石は、いずれも永久磁石である。中央磁石部50は、周縁磁石部60には接していない。中央磁石部50は、周縁磁石部60から離間している。
【0079】
カソード装置10は、マグネットユニット21を1つの走査方向である揺動方向に沿って移動させるマグネットユニット走査部29を備える。揺動方向は、マグネットユニット21において、複数本のマグネット25が立設されるZ方向と直交するX方向である。
マグネットユニット走査部29は、ターゲット23に対するマグネットユニット21の位置を変える。マグネットユニット走査部29は、ターゲット23に対する複数本のマグネット25の位置を変える。マグネットユニット走査部29は、複数本のマグネット25の相対位置関係を変えずに揺動することが可能である。つまり、マグネット25は、いずれも、ターゲット23に対して、マグネットユニット走査部29によってターゲット23の粒子放出面と平行に移動(揺動)可能とされている。
【0080】
Y方向から見た場合に、マグネットユニット走査部29によってマグネットユニット21が走査する範囲である領域を、揺動領域と称する。なお、揺動領域に沿った、との表現をZX面に沿った、との意味で用いることがある。Y方向から見て、揺動領域は略矩形輪郭を有する。揺動領域は、X方向におけるそれぞれの揺動端となる一方の揺動端と他方の揺動端との間に規定される。
【0081】
マグネットユニット走査部29は、例えば、走査方向に沿って延びるレールと、カソードユニット22におけるX方向の2つの端部の各々に取り付けられたローラーと、ローラーの各々を自転させる複数のモーター等から構成される。マグネットユニット走査部29は、走査方向に沿って延びるレールを有するLMガイド等から構成されてもよい。
マグネットユニット走査部29のレールは、走査方向(X方向)においてターゲット23と同程度かそれよりも長い幅を有する。なお、マグネットユニット走査部29は、走査方向に沿って複数本のマグネット25を一体として移動させることが可能であれば、他の構成として具体化されてもよい。
【0082】
図6は、本実施形態におけるスパッタリング装置の絶縁支持部を示す拡大断面図である。
絶縁支持部44は、図6に示すように、アノード28を壁部45aに対して電気的に絶縁している。絶縁支持部44は、ターゲット23、バッキングプレート24、ガラス基板11、成膜室4の壁部45等に対して、アノード28の電位を設定可能な状態を維持する。
【0083】
絶縁支持部44は、アノード28を壁部45aに対して固定している。絶縁支持部44は、ボルト44aと、絶縁上部材44bと、絶縁下部材44cと、を有する。
ボルト44aは、アノード28を壁部45aに対して固定している。ボルト44aは、アノード28に設けられた貫通孔28aを貫通している。ボルト44aは、壁部45aに設けられた雄ネジ部45dに螺合される。
【0084】
絶縁上部材44bは、アノード28とボルト44aとを絶縁している。絶縁上部材44bは、絶縁材料から形成される。絶縁上部材44bは、ボルト44aのボルトヘッドの周囲を囲む円筒部分と、ボルト44aのボルトヘッドと貫通孔28aの拡径部との摩擦位置に挟まれる円盤部分と、を有する。絶縁上部材44bは、ボルト44aのボルトヘッドとアノード28との間に配置される。絶縁上部材44bは、貫通孔28aの拡径部に配置される。
【0085】
絶縁下部材44cは、ボルト44aと壁部45aとを絶縁している。絶縁下部材44cは、絶縁材料から形成される。絶縁下部材44cは、雄ネジ部45aよりもアノード28に近接する拡径部45cに配置される。絶縁下部材44cは円筒状である。絶縁下部材44cの軸方向長さは、拡径部45cの深さ寸法よりも大きい。絶縁下部材44cの一端は、アノード28に接している。絶縁下部材44cの他端は、拡径部45cの底部に接している。
【0086】
絶縁上部材44bは、アノード28とボルト44aのボルトヘッドとの間に挟まれている。絶縁上部材44bがアノード28とボルト44aのボルトヘッドとの間に挟まれることで、アノード28とボルト44aとが直接接触しない。
絶縁下部材44cは、アノード28と壁部45aとの間に挟まれている。絶縁下部材44cがアノード28と壁部45aとに挟まれることで、アノード28と壁部45とが直接接触しない。
これにより、アノード28を壁部45とは異なる電位にすることが可能となる。
【0087】
本実施形態におけるカソードユニット22では、図3図4に示すように、マグネットユニット走査部29によって、スパッタ粒子を放出して成膜するとき、マグネットユニット21を揺動端位置Reversと揺動端位置Forwardとの間で往復移動させる。
【0088】
カソードユニット22では、複数本のマグネット25からなる多連マグネットをまとめてマグネットユニット21とする。カソードユニット22では、マグネットユニット走査部29により、マグネットユニット21を、揺動方向(X方向)中央位置centerから、図3図4において右向きに揺動端位置Forwardまで、さらに揺動端位置Forwardから左向きに中央位置centerを経由して揺動端位置Reversまで、さらに、揺動端位置Reversから中央位置centerまで移動させて、1スキャンが終了する。カソードユニット22では、このスキャンを複数回繰り返す。
【0089】
同時に、マグネットユニット21では、それぞれのマグネット25において、中央磁石部50と周縁磁石部60とが磁場を形成する。マグネット25では、中央磁石部50と周縁磁石部60とヨーク31で磁気回路を形成する。このように、マグネット25が磁力線を形成した状態を維持しつつ、マグネットユニット走査部29により、マグネットユニット21は、スキャンをおこなう。
【0090】
次に、本実施形態に係るスパッタリング装置1において、ガラス基板11に対する成膜について説明する。
【0091】
まず、スパッタリング装置1の外部から内部に搬入されたガラス基板11は、まず、ロード・アンロード室2内の位置決め部材に載置され、ガラス基板11がアライメントされる(図1参照)。
次に、ガラス基板11は、搬送装置3aのロボットハンドで支持され、ロード・アンロード室2から取り出される。そして、ガラス基板11は、搬送室3を経由して成膜室4へ搬送される。
【0092】
成膜室4においては、基板保持部13が駆動部によって回転されて水平載置位置に配置される。さらに、図示しないリフトピン移動部によって、リフトピンは、基板保持部13から上方に突出した準備位置に配置されている。
この状態で、成膜室4へ到達したガラス基板11は、搬送装置3aによって基板保持部13の上側に挿入される。
【0093】
次いで、搬送装置3aのロボットハンドが降下して基板保持部13に近接することで、基板保持部13の所定の位置にアライメントされた状態として、リフトピン上にガラス基板11が載置される。その後、搬送ロボット3aのロボットハンドが搬送室3へ後退する。そして、リフトピンが下降し、ガラス基板11が基板保持部13上に支持される。
【0094】
次いで、スパッタリング装置1がサイドスパッタ式の装置である場合には、基板保持部13が回動されることで、基板保持部13によってガラス基板11が保持された状態で、ガラス基板11は鉛直処理位置に到達するように立ち上がる。これにより、ガラス基板11によって成膜口4bがほぼ閉塞され、ガラス基板11が成膜位置に保持される。この状態でガス制御部14によって所定のガス雰囲気とし、制御部26によってプラズマを発生させ、スパッタリングにより成膜処理をおこなう。
また、スパッタリング装置1では、成膜処理をおこなう際に、制御部26がアノード電位設定機構40を制御して、アノード28の電位を設定する。成膜処理時のアノード電位設定機構40によるプラズマ発生等については後述する。
【0095】
スパッタリング装置1がスパッタダウン式の装置である場合には、基板保持部13が上昇することで、基板保持部13によってガラス基板11が保持された状態で、ガラス基板11は鉛直処理位置に到達する。これにより、ガラス基板11によって成膜口4bがほぼ閉塞され、ガラス基板11が成膜位置に保持される。この状態でガス制御部14によって所定のガス雰囲気とし、制御部26によってプラズマを発生させ、スパッタリングにより成膜処理をおこなう。
【0096】
スパッタリング装置1がサイドスパッタ式の装置である場合には、成膜処理が終了した際に、基板保持部13が回動されることで、基板保持部13によってガラス基板11が保持された状態で、ガラス基板11は水平載置位置に到達する。
【0097】
スパッタリング装置1がスパッタダウン式の装置である場合には、成膜処理が終了した際に、基板保持部13が下降することで、基板保持部13によってガラス基板11が保持された状態で、ガラス基板11は搬出可能位置に到達する。
成膜処理が終了したガラス基板11は、搬送装置3aによって、成膜室4から取り出される。そして、ガラス基板11は、搬送室3を経由してロード・アンロード室2から取り出される。
【0098】
以下、本実施形態におけるアノード電位設定機構の作用について説明する。
【0099】
マグネットユニット21の作用について説明する。
図11は、本実施形態におけるマグネットユニットの作用を説明するための図であり、アノード電位設定機構がない場合における磁力線の向きを示す模式図である。
【0100】
まず、アノード電位設定機構40のない場合、つまり、アノード28の電位が接地電位とされた場合について説明する。
上述したように、マグネット25の形成した磁場により、ターゲット23の表面23aとガラス基板11との間にプラズマを発生させる。この状態で、後述するスパッタ条件とすることで、ガラス基板11の表面に成膜をおこなう。
【0101】
ここで、スパッタリング中、N極の周縁磁石部60からS極の中央磁石部50へと磁力線が形成される。中央磁石部50と周縁磁石部60とヨーク31で磁気回路が形成されている。
これにより、磁力線に沿って電子がトラッキングされる。
【0102】
このとき、ターゲット23の揺動範囲のうち揺動端となる位置では、図11に示すように、N極の周縁磁石部60からの磁力線が近接しているアノード28に向かい、ターゲット23の表面23aにおいては、磁力線密度が低下する。つまり、トラッキングされる電子密度が不充分になり、プラズマ密度が不充分になる。この結果、ターゲット23の表面23aにおけるエロージョン領域が形成されず、X方向の両端で、非エロージョン領域が形成される。
N極の周縁磁石部60からの磁力線は、Y方向に向かうに連れて、X方向で左向きに傾いてアノード28に向かっている。
【0103】
また、N極の周縁磁石部60からS極の中央磁石部50へと磁力線が形成される。この磁力線により、ターゲット23の表面23aにおいては、周縁磁石部60によって囲まれた中央磁石部50の周囲をZX面に沿って電子が周回する。このとき、マグネット25の長手方向で電子の移動方向の端部、つまり、中央磁石部50に沿ってZ方向に移動してきた電子は、橋渡し部63に沿ってX方向に曲がる付近で、その移動速度が遅くなり密度が上昇する。
【0104】
その結果、橋渡し部63から周縁磁石部60に沿って、電子がX方向からZ方向に曲がる位置付近においては、電子の密度が減少する。この結果、ターゲット23の表面23aにおけるエロージョンが減少し、非エロージョン領域が形成される。この現象は隣り合うマグネット25においては、中央磁石部50のまわりを回る電子の向きが逆になって打ち消し合って相殺されるので、X方向の両端(揺動端)となる2本のマグネット25において発現する。しかも、X方向の両端では、それぞれ非エロージョン領域の形成される位置がZ方向で反対側となる。つまり、X方向の両端でそれぞれ非エロージョン領域の形成される位置は、ターゲット23の対角位置になる。
【0105】
この結果、磁力線傾斜機構のない場合には、ターゲット23の四隅のうち、対角となる2箇所に非エロージョン領域が形成される。また、このように非エロージョン領域が形成されると、X方向の両端位置、および、対角となる2箇所以外にも、他の非エロージョン領域が形成されやすい。これは、非エロージョン領域が形成された場合、印加された供給電力がプラズマ発生に消費されずに余剰となることによる。この余剰電力が、X方向の両端位置、および、対角となる2箇所の非エロージョン領域とは異なる領域に対して再分配される、あるいは、全体の電圧(電力)変動として吸収されることになるためである。従って、電圧変動の発生時ように、プラズマ発生条件がターゲット23表面における位置に応じて変動してしまうと考えられる。
【0106】
次に、アノード電位設定機構40のある場合について説明する。
図7は、アノード電位設定機構の作用を説明するための図であり、アノード電位設定機構がある場合における磁力線の向きを示す模式図である。図8は、アノード電位設定機構の作用を説明するための図であり、アノード電位設定機構がある場合のZX面における電子トラッキング状態を示す模式図である。
【0107】
本実施形態のスパッタリング装置1において、スパッタリング中、揺動範囲のうち揺動端となるマグネット25では、図7に示すように、N極の周縁磁石部60からS極の中央磁石部50へと磁力線が形成される。このとき、アノード28は、アノード電位設定機構40によって負電位に設定される。また、中央磁石部50と周縁磁石部60とヨーク31とで磁気回路が形成される。
これにより、本実施形態のスパッタリング装置1では、図8に示すように、磁力線に沿って電子がトラッキングされる。
【0108】
このとき、揺動端となるマグネット25では、図7に示すように、アノード電位設定機構40がない場合と同様に、N極の周縁磁石部60からの磁力線がアノード28に向かう。揺動領域における揺動端に隣接しているアノード28が負電位に設定されている場合でも、アノード電位設定機構40がなくアノード28が接地電位である場合と同じように磁力線は形成される。
【0109】
このため、アノード28が負電位に設定された場合、磁力線がアノード28に吸われる状態は変わらない。しかし、アノード28が負電位に設定された場合には、電子がアノード28に吸われることがない。つまり、電子はアノード28で消失しない。
これは、アノード28付近において、電子がプラズマを介してインピーダンスの低い部分を目指して流れ込むためである。つまり、電子は、接地電位ではなく負電位とされたアノード28に流れ込まずに、プラズマを介して壁部45に流れ込んでいることに起因している。
【0110】
結果的に、スパッタリング装置1では、プラズマ形成電流が交流電源側にリターンして、プラズマ生成電流が回路として成立しており、プラズマ発生状態が安定的に維持される。
このようにプラズマ生成電流が回路として成立するためには、アノード28が接地電位である壁部45等から、電気的に切り離されていることが重要である。本実施形態においては、絶縁支持部44によって、アノード28が壁部45等から電気的に切り離されている。このため、電子がアノード28に吸い込まれることがなく、プラズマ発生状態を安定的に維持することができる。
【0111】
すると、ターゲット23の表面23aにおいては、磁力線密度が低下することがない。つまり、揺動端となるマグネット25では、トラッキングされる電子密度が充分に維持されるとともに、プラズマ密度が充分に維持される。この結果、ターゲット23の表面23aにおいて、X方向の両端に形成されていた非エロージョン領域を抑制することができる。
【0112】
また、揺動端となるマグネット25では、中央磁石部50と周縁磁石部60とで磁気回路が形成されており、N極の周縁磁石部60からS極の中央磁石部50へと向かう磁力線が形成されている。これにより、ターゲット23の表面23aにおいて周縁磁石部60によって囲まれた中央磁石部50の周囲を周回する電子は、マグネット25の長手方向の端部で、その移動速度が遅くなることがない。したがって、マグネット25のZ方向端部においては、電子の密度上昇が抑制される。つまり、揺動端となるマグネット25では、中央磁石部50に沿ってZ方向に移動してきた電子が、橋渡し部63に沿ってX方向に曲がる付近で、その移動速度が遅くなることがない。また、橋渡し部63に沿ってX方向に曲がる付近で、電子の密度上昇が抑制される。
【0113】
その結果、揺動端となるマグネット25では、長手直線部61または長手直線部62から、橋渡し部63に沿って電子がX方向からZ方向に曲がる位置において、電子密度の減少が発生しない。この結果、X方向の両端となる2本のマグネット25においては、ターゲット23の表面23aにおける非エロージョン領域の形成を抑制することができる。つまり、アノード電位設定機構40によってアノード28が負電位に設定されることで、対角となる2箇所の非エロージョン領域の形成を抑制することができる。これにより、ターゲット23では、電圧変動の発生を抑制することができる。ターゲット23では、X方向端部における非エロージョン領域の形成を抑制することができる。したがって、ターゲット23では、X方向の端部および対角となる2箇所以外に他の非エロージョン領域が形成されやすくなることを抑制できる。
【0114】
本実施形態におけるスパッタリング装置1によれば、アノード電位設定機構40を設け、アノード28を負電位に設定することによって、揺動端のマグネット25において、このマグネット25が形成する磁力線がアノード28に向かうものの、電子が消失しないようにすることができる。すなわち、マグネット25が形成する磁力線の形状に影響されることなく、プラズマ生成電流を回路として成立させることができる。これにより、スパッタリング装置1は、プラズマ発生状態を安定的に維持して、非エロージョン領域の形成される面積をトータルで低減することができる。
【0115】
つまり、スパッタリング装置1は、非エロージョン領域の発生を低減することにより、パーティクルの発生を抑制することが可能となる。つまり、スパッタリング装置1は、非エロージョン領域とエロージョン領域との境界が不明瞭になってパーティクル発生の原因となるエロージョン-非エロージョン境界領域の形成を低減することができる。
【0116】
さらに、スパッタリング装置1は、非エロージョン領域発生を抑制することで、供給パワーが再分配されないようにすることができる。これにより、スパッタリング装置1は、放電電圧のスパイク変動を抑制して、電圧変動等によるプラズマ発生条件の部分的変動を抑制できる。したがって、スパッタリング装置1は、パーティクル発生、および、膜厚分布、シート抵抗値分布等の膜質特性分布のばらつきなどを抑制することができる。
【0117】
以下、本発明に係るスパッタリング装置の第2実施形態を、図面に基づいて説明する。
図9は、アノード電位設定機構の作用を説明するための図であり、アノード電位設定機構がある場合における磁力線の向きを示す模式図である。図10は、アノード電位設定機構の作用を説明するための図であり、アノード電位設定機構がある場合のZX面における電子トラッキング状態を示す模式図である。
本実施形態において、上述した第1実施形態と異なるのは、アノード電位設定機構による設定電位に関する点であり、これ以外の上述した第1実施形態と対応する構成には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0118】
本実施形態におけるアノード電位設定機構40は、アノード28をフローティング電位に設定する。ここで、アノード電位設定機構40は、積極的にアノード28をフローティング電位にしてもよいし、電源であるアノード電位設定機構40をアノード28から切断するようにスイッチング可能としてもよい。
【0119】
本実施形態のスパッタリング装置1において、スパッタリング中、揺動範囲のうち揺動端となるマグネット25では、図9に示すように、N極の周縁磁石部60からS極の中央磁石部50へと磁力線が形成される。このとき、アノード28は、アノード電位設定機構40によってフローティング電位に設定される。また、中央磁石部50と周縁磁石部60とヨーク31とで磁気回路が形成される。
これにより、本実施形態のスパッタリング装置1では、図10に示すように、磁力線に沿って電子がトラッキングされる。
【0120】
このとき、揺動端となるマグネット25では、図9に示すように、アノード電位設定機構40がない場合と同様に、N極の周縁磁石部60からの磁力線がアノード28に向かう。揺動領域における揺動端に隣接しているアノード28がフローティング電位に設定されている場合でも、アノード電位設定機構40がなくアノード28が接地電位である場合と同じように磁力線は形成される。
【0121】
このため、アノード28がフローティング電位に設定された場合、磁力線がアノード28に吸われる状態は変わらない。しかし、アノード28がフローティング電位に設定された場合には、電子がアノード28に吸われることがない。つまり、電子はアノード28で消失しない。
これは、アノード28付近において、電子がプラズマを介してインピーダンスの低い部分を目指して流れ込むためである。つまり、電子は、接地電位ではなくフローティング電位とされたアノード28に流れ込まずに、プラズマを介して壁部45に流れ込んでいることに起因している。
【0122】
結果的に、スパッタリング装置1では、プラズマ形成電流が交流電源側にリターンして、プラズマ生成電流が回路として成立しており、プラズマ発生状態が安定的に維持される。
このようにプラズマ生成電流が回路として成立するためには、アノード28が接地電位である壁部45等から、電気的に切り離されていることが重要である。本実施形態においては、絶縁支持部44によって、アノード28が壁部45等から電気的に切り離されている。このため、電子がアノード28に吸い込まれることがなく、プラズマ発生状態を安定的に維持することができる。
【0123】
すると、ターゲット23の表面23aにおいては、磁力線密度が低下することがない。つまり、揺動端となるマグネット25では、トラッキングされる電子密度が充分に維持されるとともに、プラズマ密度が充分に維持される。この結果、ターゲット23の表面23aにおいて、X方向の両端に形成されていた非エロージョン領域を抑制することができる。
【0124】
また、揺動端となるマグネット25では、中央磁石部50と周縁磁石部60とで磁気回路が形成されており、N極の周縁磁石部60からS極の中央磁石部50へと向かう磁力線が形成されている。これにより、ターゲット23の表面23aにおいて周縁磁石部60によって囲まれた中央磁石部50の周囲を周回する電子は、マグネット25の長手方向の端部で、その移動速度が遅くなることがない。したがって、マグネット25のZ方向端部においては、電子の密度上昇が抑制される。つまり、揺動端となるマグネット25では、中央磁石部50に沿ってZ方向に移動してきた電子が、橋渡し部63に沿ってX方向に曲がる付近で、その移動速度が遅くなることがない。また、橋渡し部63に沿ってX方向に曲がる付近で、電子の密度上昇が抑制される。
【0125】
その結果、揺動端となるマグネット25では、長手直線部61または長手直線部62から、橋渡し部63に沿って電子がX方向からZ方向に曲がる位置において、電子密度の減少が発生しない。この結果、X方向の両端となる2本のマグネット25においては、ターゲット23の表面23aにおける非エロージョン領域の形成を抑制することができる。つまり、アノード電位設定機構40によってアノード28がフローティング電位に設定されることで、対角となる2箇所の非エロージョン領域の形成を抑制することができる。これにより、ターゲット23では、電圧変動の発生を抑制することができる。ターゲット23では、X方向端部における非エロージョン領域の形成を抑制することができる。したがって、ターゲット23では、X方向の端部および対角となる2箇所以外に他の非エロージョン領域が形成されやすくなることを抑制できる。
【0126】
本実施形態におけるスパッタリング装置1によれば、アノード電位設定機構40を設け、アノード28をフローティング電位に設定することによって、揺動端のマグネット25において、このマグネット25が形成する磁力線がアノード28に向かうものの、電子が消失しないようにすることができる。すなわち、マグネット25が形成する磁力線の形状に影響されることなく、プラズマ生成電流を回路として成立させることができる。これにより、スパッタリング装置1は、プラズマ発生状態を安定的に維持して、非エロージョン領域の形成される面積をトータルで低減することができる。
【0127】
つまり、スパッタリング装置1は、非エロージョン領域の発生を低減することにより、パーティクルの発生を抑制することが可能となる。つまり、スパッタリング装置1は、非エロージョン領域とエロージョン領域との境界が不明瞭になってパーティクル発生の原因となるエロージョン-非エロージョン境界領域の形成を低減することができる。
【0128】
さらに、スパッタリング装置1は、非エロージョン領域発生を抑制することで、供給パワーが再分配されないようにすることができる。これにより、スパッタリング装置1は、放電電圧のスパイク変動を抑制して、電圧変動等によるプラズマ発生条件の部分的変動を抑制できる。したがって、スパッタリング装置1は、パーティクル発生、および、膜厚分布、シート抵抗値分布等の膜質特性分布のばらつきなどを抑制することができる。
【0129】
さらに、本発明においては、上述した各実施形態における個々の構成を個別に選択して、それぞれ組み合わせて実施することも可能である。
【0130】
たとえば、本実施形態においては、アノード電位設定機構40がアノード28をフローティング電位としたが、アノード28と壁部45aとをまとめてフローティング電位、あるいは、負電位とすることもできる。さらに、アノード28と壁部45aと壁部45bとをまとめてフローティング電位、あるいは、負電位とすることもできる。
【符号の説明】
【0131】
1…スパッタリング装置
4…成膜室(チャンバ)
10…カソード装置
11…ガラス基板(被成膜基板、透明基板)
22…カソードユニット
23…ターゲット
24…バッキングプレート
25…マグネット(磁気回路)
26…制御部
27…補助マグネット
28…アノード
29…マグネットユニット走査部
31…ヨーク
40…アノード電位設定機構
41…前側空間
42…裏側空間
44…絶縁支持部
50…中央磁石部
60…周縁磁石部
61,62…長手直線部
63…橋渡し部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図10
図11