(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101925
(43)【公開日】2024-07-30
(54)【発明の名称】鉱石の鉱物種解析方法
(51)【国際特許分類】
G06T 7/90 20170101AFI20240723BHJP
G06V 10/56 20220101ALI20240723BHJP
【FI】
G06T7/90 D
G06V10/56
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006149
(22)【出願日】2023-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】田浦 弘史
(72)【発明者】
【氏名】木村 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 誠二
【テーマコード(参考)】
5L096
【Fターム(参考)】
5L096AA01
5L096BA08
5L096CA18
5L096FA15
5L096GA41
5L096JA11
(57)【要約】 (修正有)
【課題】鉱石における鉱物種をより高精度で解析する鉱石の鉱物種解析方法を提供する。
【解決手段】方法は、鉱石を光学顕微鏡で撮影し、ピクセル単位で画像情報を含む光学顕微鏡像を得る第1の工程と、光学顕微鏡像を二値化して、鉱物粒子に対応する鉱物粒子領域を抽出する第2の工程と、鉱物粒子領域の解析対象のピクセルについて、画像情報を変数とした空間に各ピクセルの画像情報の値をプロットしたピクセルの分布データを作成する第3の工程と、分布データにおけるピクセルの密度のピーク位置と、各鉱物種の鉱物判定領域とを比較し、解析対象に含まれる鉱物種を判定する第4の工程と、解析対象の各ピクセルの画像情報と、前記第4の工程で判定された鉱物種の鉱物識別領域とを比較し、前記解析対象の各ピクセルが前記第4の工程で判定された鉱物種であるかを識別する第5の工程と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉱石の鉱物種解析方法であって、
前記鉱石を光学顕微鏡で撮影し、ピクセル単位で画像情報を含む光学顕微鏡像を得る第1の工程と、
前記光学顕微鏡像を二値化して、鉱物粒子に対応する鉱物粒子領域を抽出する第2の工程と、
前記鉱物粒子領域の解析対象のピクセルについて、画像情報を変数とした空間に各ピクセルの画像情報の値をプロットしたピクセルの分布データを作成する第3の工程と、
前記分布データにおけるピクセルの密度のピーク位置と、各鉱物種の鉱物判定領域とを比較し、前記解析対象に含まれる鉱物種を判定する第4の工程と、
前記解析対象の各ピクセルの画像情報と、前記第4の工程で判定された鉱物種の鉱物識別領域とを比較し、前記解析対象の各ピクセルが前記第4の工程で判定された鉱物種であるかを識別する第5の工程とを含み、
前記鉱物判定領域と前記鉱物識別領域とは、前記画像情報を変数とした空間上に設定された領域である、鉱石の鉱物種解析方法。
【請求項2】
前記第3乃至第5の工程で使用する画像情報は、(R、G、B、H、S、V、Lデータ)内から選択される、請求項1に記載の鉱石の鉱物種解析方法。
【請求項3】
前記第3乃至第5の工程で使用する画像情報は、S及びVのデータである、請求項2に記載の鉱石の鉱物種解析方法。
【請求項4】
前記鉱物判定領域の設定は、特定の鉱物種であることが判明している複数の鉱物粒子領域のそれぞれの前記ピーク位置を求め、当該複数の鉱物粒子領域から得た複数のピーク位置を含むように、前記特定の鉱物種の鉱物判定領域を設定することにより行う、請求項1又は2に記載の鉱石の鉱物種解析方法。
【請求項5】
前記鉱物判定領域は、異なる鉱物種間において重複がないように設定される、請求項1又は2に記載の鉱石の鉱物種解析方法。
【請求項6】
前記鉱物識別領域の設定は、特定の鉱物種であることが判明している複数の鉱物粒子領域の前記画像情報のピクセルデータの分布範囲を含むように、前記特定の鉱物種の鉱物識別領域を設定することにより行う、請求項1又は2に記載の鉱石の鉱物種解析方法。
【請求項7】
さらに、前記第5の工程の後に、識別された各鉱物種の面積割合、及び鉱物種の密度に基づき、鉱物種ごとの割合を算出する工程を含む、請求項1又は2に記載の鉱石の鉱物種解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉱石の鉱物種解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉱山から採掘された鉱石の中には、有用性の高いものから低いものまで様々な鉱物が含まれている。このような鉱石に含まれる鉱物粒子を解析する方法の一例として、従来、光学顕微鏡を用いた鉱物種解析方法が知られている。光学顕微鏡を用いた鉱物種解析方法では、一般に、光学顕微鏡で得られた情報に基づいて、指標との比較による定量化やポイントカウンティング法による定量化などによって、鉱物粒子を解析している。
【0003】
また、鉱石に含まれる鉱物粒子を解析する方法の一例として、MLA:鉱物粒子解析装置(Mineral Liberation Analyzer)が知られている。MLAは、SEM-EDSをベースとして鉱物を自動分析することができる。
【0004】
例えば、特開2019-174473号公報(特許文献1)には、非鉄金属製錬において、原料を溶解して得られるスラグに対して、デジタルマイクロスコープで観察することで、より簡易な手法でスラグ中に存在するマット粒の濃度の解析を行うことが可能なスラグの解析方法が開示されている。
【0005】
また、MLA分析用の観察試料の作製方法として、特開2016-050918号公報(特許文献2)には、鉱物粉粒体に対して所定の埋包方法を適用して試料を作製することにより、鉱石粒子の比重差に起因する鉱物の存在状態の偏りを抑制して観察する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-174473号公報
【特許文献2】特開2016-050918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の光学顕微鏡を用いた鉱物種解析方法では、測定範囲が狭く、鉱物の定量的な取り扱いが困難であった。また、従来のMLA分析方法では、例えば、鉱物Aと鉱物Bの中間組成となる鉱物Cが理論上存在する場合、鉱物Aと鉱物Bの境界では実際に鉱物Cが存在しないにもかかわらず、見かけ上、鉱物Cが存在する結果となり、鉱物割合がずれて評価される問題が生じている。
【0008】
本発明は上記問題点に鑑み完成されたものであり、一実施形態において、鉱石における鉱物種をより高精度で解析することができる、鉱石の鉱物種解析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するために種々鋭意検討した結果、光学顕微鏡による鉱物の定性能力が高いことを利用して、光学顕微鏡を鉱物解析に用いるとともに、画像解析による識別をプログラム化し、定量分析を実施することで、上記課題を解決することができることを見出した。具体的には、デジタルマイクロスコープの自動制御を活用し、広域視野観察を行い、観察された色に基づき解析することによって鉱物種を識別することができる。本発明は上記知見に基づき完成されたものであり、以下に例示される。
【0010】
[1]
鉱石の鉱物種解析方法であって、
前記鉱石を光学顕微鏡で撮影し、ピクセル単位で画像情報を含む光学顕微鏡像を得る第1の工程と、
前記光学顕微鏡像を二値化して、鉱物粒子に対応する鉱物粒子領域を抽出する第2の工程と、
前記鉱物粒子領域の解析対象のピクセルについて、画像情報を変数とした空間に各ピクセルの画像情報の値をプロットしたピクセルの分布データを作成する第3の工程と、
前記分布データにおけるピクセルの密度のピーク位置と、各鉱物種の鉱物判定領域とを比較し、前記解析対象に含まれる鉱物種を判定する第4の工程と、
前記解析対象の各ピクセルの画像情報と、前記第4の工程で判定された鉱物種の鉱物識別領域とを比較し、前記解析対象の各ピクセルが前記第4の工程で判定された鉱物種であるかを識別する第5の工程とを含み、
前記鉱物判定領域と前記鉱物識別領域とは、前記画像情報を変数とした空間上に設定された領域である、鉱石の鉱物種解析方法。
[2]
前記第3乃至第5の工程で使用する画像情報は、(R、G、B、H、S、V、Lデータ)内から選択される、[1]に記載の鉱石の鉱物種解析方法。
[3]
前記第3乃至第5の工程で使用する画像情報は、S及びVのデータである、[2]に記載の鉱石の鉱物種解析方法。
[4]
前記鉱物判定領域の設定は、特定の鉱物種であることが判明している複数の鉱物粒子領域のそれぞれの前記ピーク位置を求め、当該複数の鉱物粒子領域から得た複数のピーク位置を含むように、前記特定の鉱物種の鉱物判定領域を設定することにより行う、[1]~[3]のいずれか1項に記載の鉱石の鉱物種解析方法。
[5]
前記鉱物判定領域は、異なる鉱物種間において重複がないように設定される、[1]~[4]のいずれか1項に記載の鉱石の鉱物種解析方法。
[6]
前記鉱物識別領域の設定は、特定の鉱物種であることが判明している複数の鉱物粒子領域の前記画像情報のピクセルデータの分布範囲を含むように、前記特定の鉱物種の鉱物識別領域を設定することにより行う、[1]~[5]のいずれか1項に記載の鉱石の鉱物種解析方法。
[7]
さらに、前記第5の工程の後に、識別された各鉱物種の面積割合、及び鉱物種の密度に基づき、鉱物種ごとの割合を算出する工程を含む、[1]~[6]のいずれか1項に記載の鉱石の鉱物種解析方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一実施形態によれば、鉱石における鉱物種をより高精度で解析することができる、鉱石の鉱物種解析方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態において、鉱物粒子領域の光学顕微鏡像を得るための手順を説明する図である。
【
図2】本発明の一実施形態において、異なる鉱物種のS-Vプロット分布の例を示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態において、実際にCcp及びPyの両方の鉱物粒子を含む鉱石に対して決定した鉱物判定領域を示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態において、実際にCcp及びPyの両方の鉱物粒子を含む鉱石に対して決定した鉱物判定領域及び鉱物識別領域を示す図である。
【
図5】本発明の一実施形態において、鉱物判定領域及び鉱物識別領域を用いて、鉱石サンプルの解析を行う手順を示すフローチャートである。
【
図6】本発明の実施例の鉱石サンプルの鉱物判定領域及び鉱物識別領域を示す図である。
【
図7】鉱石サンプルをMLA分析した場合の画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に本発明を実施するための形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0014】
(1.鉱石)
本発明の実施形態に係る鉱石の鉱物種解析方法において、解析対象となる鉱物は、鉱物を色で判定できる鉱石の鉱物であれば特に限定されず、どのような鉱物であっても解析可能である。特に、銅鉱石は鉱物種の色によって識別しやすいため、本発明は銅鉱石の鉱物種解析に好適に用いることができる。銅鉱石としては、銅精鉱に含まれる種々の鉱物(例えば、Chalcopyrite、Chalcocite、Covellite、Bornite、Pyrite、Molybdenite)などが挙げられる。
【0015】
鉱石に含まれる鉱物粒子は、後述の光学顕微鏡像による観察のために、前処理を実施し、平滑な観察面を形成しておくことが好ましい。具体的な前処理の方法は限定されないが、例えば、鉱物粒子を樹脂材料に埋め込んで、該樹脂材料中に鉱物粒子を固定した試料埋込樹脂を作製する方法が挙げられる。
【0016】
鉱物粒子を樹脂材料に埋め込むには、容器内に、鉱物粒子を液体状樹脂材料とともに投入し、容器内の鉱物粒子及び液体状樹脂材料を撹拌してから、液体状樹脂材料を硬化させる、という手法をとることができる。撹拌に際して、鉱物粒子及び液体状樹脂材料入りの容器を、自転公転撹拌機で自転させつつ該自転とは逆の回転方向に公転させることが好ましい。これにより、粒子の凝集が効果的に抑制されて、樹脂材料中の粒状試料の分散性を有効に向上でき、分離偏析のない代表組成を得ることができる。
【0017】
鉱物粒子の粒径は、例えば1μm~700μm、典型的には20μm~200μmの範囲であり、通常は比較的全体的に分布していて均一である。なお、粒度分布計で測定できる粒度は、例えば0.243μm~2000μmである場合があるが、上述したような鉱物粒子の粒径はこの範囲で均一に分布しているのが通常である。
【0018】
鉱物粒子を埋め込んで固定するための樹脂材料としては、容器への投入の際及び撹拌の際に液体状に維持でき、かつその後に硬化させることができれば様々なものを用いることができるが、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂等を挙げることができ、このなかでも、熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂が好ましい。
【0019】
容器に投入する液体状樹脂材料に対する鉱物粒子の割合は、100体積%~300体積%とすることが好適である。より好ましくは、200体積%~300体積%とする。これはすなわち、鉱物粒子の割合が100体積%以上であれば、粒子の凝集を抑制することができ、また鉱物粒子の割合が300体積%以下であれば、鉱物粒子を十分に固結させることができ、測定面を露出させる面出し研磨時に破損する現象を抑制することができる。
【0020】
上述の前処理方法では、鉱物粒子を樹脂材料に十分に分散させることができるため、グラファイト等をさらに投入することを要しない。もちろん、グラファイトを投入してもよい。また、当該前処理方法の詳細については、特許第7018804号公報を参照することができる。
【0021】
(2.光学顕微鏡像)
本実施形態において、複数の鉱物種が存在する鉱物粒子を含む解析対象の試料に対して、まず、鉱石の光学顕微鏡像を撮影し、ピクセル単位で画像情報を含む光学顕微鏡像を得る(第1の工程)。光学顕微鏡像を得るための光学顕微鏡の種類は特に限定されないが、好適には、デジタルカメラを搭載した光学顕微鏡を用いることができる。
【0022】
光学顕微鏡像の倍率、視野面積等は、解析対象である鉱物の複雑さ、要求される精度などによって適宜設定することができる。ただし、後述の鉱物の解析の精度を高める観点から、光学顕微鏡像の1ピクセル(正方形)の大きさが1μm以下となるように条件を設定することが好ましい。1ピクセルの大きさが1μm以下であれば、当該ピクセルに対応する解析対象の鉱物種の解析の精度が高く、解析対象全体において当該鉱物種の定量の計算の誤差も小さいからである。この観点から、1ピクセルの大きさが0.9μm以下であることがより好ましく、0.8μm以下であることがさらにより好ましく、0.7μm以下であることがさらにより好ましく、0.6μm以下であることがさらにより好ましく、0.5μm以下であることがさらにより好ましい。1ピクセルの大きさの下限は、観察対象の組織や大きさ等に応じて適切な条件で設定することができる。
【0023】
(3.鉱物粒子領域の抽出)
次に、解析対象の光学顕微鏡像を二値化して、鉱物粒子に対応する輝度の明るい部分を鉱物粒子領域として抽出する(第2の工程)。前述のように、解析対象の鉱物粒子は前処理を実施しているため、樹脂やグラファイト等が光学顕微鏡像に存在する。これらの樹脂やグラファイトを除外するため、光学顕微鏡像を二値化する。樹脂やグラファイト等は光をあまり反射せず、二値化により暗い部分になるからである。光学顕微鏡像のサイズが大きい場合、解析できるサイズに画像データを分割して処理してもよい。鉱物粒子領域の数は、鉱物粒子の粒径、光学顕微鏡像のサイズなどによって変動し得る。
【0024】
なお、二値化処理は、判定対象である鉱物粒子を適切に抽出できれば、光学顕微鏡像を白黒画像に変換できればよく、具体的な条件が制限されない。例えば、光学顕微鏡像の明るさについて、0を黒、255を白とし、128を閾値として、128未満のピクセルの明るさをすべて0、128以上のピクセルの明るさをすべて255に置き換えることで、二値化を行うことができる。また、二値化処理の前に、カラー画像をグレースケール化してもよい。
【0025】
(4.画像情報の処理)
次に、二値化前の光学顕微鏡像の画像情報を、必要に応じて、異なる色形式に変換する。例えば、二値化前の光学顕微鏡像がRGBデータからなる場合は、RGBデータをHSVデータ又はHSLデータに変換することができる。RGBとは、赤(Red)、緑(Green)、青(Blue)の三つの原色を混ぜて幅広い色を再現する加法混合の色空間を意味する。HSVとは、色相(Hue)、彩度(Saturation)、明度(Value・Brightness)の成分からなる色空間を意味する。HSLとは、色相(Hue)、彩度(Saturation)、輝度(Lightness)の成分からなる色空間を意味する。
【0026】
次に、画像情報(R、G、B、H、S、V、Lなどのデータ)の内から、鉱物種の解析に用いる2種以上の画像情報を選択する。ここで、選択した2種以上の画像情報を変数(次元軸)とした空間を考えると、鉱物粒子領域に含まれる各ピクセルは、その画像情報の値(以下、ピクセルデータともいう)によって同空間の特定の位置にプロットすることができる。後述する鉱物種の解析では、この空間上の位置によって各ピクセルの鉱物種を解析する。
【0027】
鉱物種の解析に用いる画像情報には、画像情報(R、G、B、H、S、V、Lなどのデータ)の内の2種以上の任意の組み合わせを用いることができる。例えば、光学顕微鏡像で使用される光源が白色光である場合は、HSVデータのSとVを用いてもよい。以下では、鉱物種の解析に用いる画像情報にHSVデータのSとVを選択した場合を例として説明する。なお、以下では、Sの具体的な値をS値と称し、Vの具体的な値をV値と称す。また、S値とV値との組み合わせをS-Vデータと称す。
【0028】
SとVを変数(次元軸)とした二次元の空間(以下、S-V空間ともいう)に、複数のピクセルのS-Vデータをプロットしたとき、同一の鉱物種のピクセルはS-V空間の一定の範囲内に集中する傾向がある(このように複数のピクセルのS-VデータをS-V空間にプロットしたものを、S-Vプロットと称す)。異なる鉱物種であれば、ピクセルが集中する範囲も異なる。そのため、着目するピクセルがどの範囲に位置するかを見ることで、そのピクセルがどの鉱物種に対応するかを識別することが可能である。
【0029】
例えば、鉱物種Chalcopyrite(「Ccp」と略称する)及びPyrite(「Py」と略称する)のS-Vデータをプロットしたグラフを
図2に示す。S-Vプロットにおいて、両者のS-Vデータが密集する領域が明らかに異なることが分かる。
【0030】
(5.比較技術)
ここで、本実施形態とは別の手法を採用する比較技術について述べる。CcpとPyとのいずれであるかをS-Vデータからピクセルごとに識別しようとするとき、CcpとPyのS-Vデータが分布する領域を2つに分割し、一方の領域にCcpを割り当てて他方の領域にPyを割り当てることがまず考えられる。前者の領域に含まれるS-VデータのピクセルをCcpと識別し、後者の領域に含まれるS-VデータのピクセルをPyと識別すれば、ピクセルごとに鉱物種を識別することがある程度可能である。
【0031】
しかし、鉱物種によっては、異なる鉱物種でもS-Vデータの分布が重複する場合がある。
図2に示されるように、CcpとPyのS-Vデータの分布は完全に分かれているわけではなく、分布の広がり(すなわち、S-Vデータが存在し得る領域)は一部重複する。そのため、実際にはPyのみが存在し、Ccpが存在しない場合であっても、PyのピクセルのS-Vデータの一部がCcpに割り当てられた領域に存在する場合、そのピクセルはCcpとして判定されてしまい、識別の精度が損なわれる。したがって、単にS-Vデータが分布する領域を分割して鉱物種を識別する方法では、精度の限界がある。
【0032】
(6.鉱物種の判定)
そこで、本発明者らは、画像情報の分布のピーク位置の違いに着目した。すなわち、各鉱物種の画像情報の分布は重複してしまうことが多いが、それぞれの分布のピーク位置(すなわち、ピクセルデータが集中する位置)が異なり、他の鉱物種とは重複しない。この特性を利用することで、より精度の高い判定が可能である。
【0033】
また、ピクセルデータの分布のピーク位置を求めたピクセルの母集合に1つの鉱物種しか存在しない場合は、ピーク位置は1つしか現われない。一方、複数の鉱物種が存在する場合は、その鉱物種に対応した複数のピーク位置が現れる。このように、ピーク位置を求めることでそのピクセルの母集合に含まれる鉱物種を特定することができ、上述したPyとCcpの例のように、実際には1つの鉱物種しか存在しないのに一部のピクセルが他の鉱物種と判定されることを防ぐことができる。
【0034】
ピクセルデータの分布のピーク位置を求めるには、鉱物粒子領域の解析対象のピクセルについて、画像情報を変数(次元軸)とした空間に各ピクセルの画像情報の値をプロットしたピクセルの分布データを作成する(第3の工程)。解析対象のピクセルは、当該鉱物粒子領域の少なくとも一部である。そして、この分布データをもとにピクセルの密度のピーク位置の画像情報を得る。なお、ピーク位置を求める母集合となるピクセルは、1つの鉱物粒子領域に含まれるすべてのピクセルであってもよいし、1つの鉱物粒子領域内の一部のピクセルであってもよい。また、複数の鉱物粒子領域のピクセルを足し合わせて1つの母集合としてもよい。ここでは、1つの鉱物粒子領域に含まれるすべてのピクセルを母集合としてピーク位置を求める場合を例として説明する。
【0035】
S-Vデータを例としてピーク位置の特定方法を説明する。鉱物粒子領域の各ピクセルのS-VデータをS-V空間にプロットしたピクセルの分布データを求める。この分布データに対し、S値とV値を説明変数としピクセル数を目的変数としたガウス関数(正規分布)をカーネル関数として用い、バンド幅を適宜設定してカーネル密度推定を行うと、ピクセルの密度のピーク位置のS値及びV値がそれぞれ得られる。ただし、ピーク位置の特定方法は特に限定されず、例えば、S-V空間上で円を描き、包含するピクセル数が最も多い円の円心位置をピーク位置とすることも可能である。
【0036】
ピーク位置が求められると、次に、鉱物種を判別する。具体的には、分布データにおけるピクセルの密度のピーク位置と、予め設定された各鉱物種に対応する鉱物判定領域とを比較し、解析対象である鉱物粒子領域に含まれる鉱物種を判定する(第4の工程)。鉱物判定領域とは、上記ピーク位置に基づいて鉱物種を特定するために画像情報の空間上に設定される範囲のことをいう。後述する鉱物識別領域を用いたピクセルごとの鉱物種の識別では、この鉱物判定領域との比較により判定された鉱物種の鉱物識別領域のみが用いられる。換言すると、この鉱物種の判定は、複数の鉱物種の鉱物識別領域のうち、後のピクセルごとの鉱物種の識別で用いる鉱物識別領域の鉱物種を特定するものである。
【0037】
鉱物判定領域は、特定の鉱物種(例えば、Ccp)であることが予め判明している複数の鉱物粒子領域を用いて設定される。具体的には、それらの複数の鉱物粒子領域のそれぞれのピーク位置を前述の方法で求め、当該複数の鉱物粒子領域から得た複数のピーク位置を含むように、当該特定の鉱物種の鉱物判定領域を設定する。鉱物判定領域は、典型的には一定の閉形状で囲まれる範囲である。当該閉形状は、ピーク位置の分布特徴、要求される精度によって適宜設定でき、例えば、円形、楕円形、矩形などの形状であり得る。当該閉形状の形状、位置及び大きさは、それぞれの鉱物種の前述のピーク位置を囲むように設定される。ただし、ピーク位置は、必ずしも鉱物判定領域の幾何学的中心でなくてもよい。
【0038】
図3は、実際にCcp及びPyの両方の鉱物粒子を含む鉱石に対して決定した鉱物判定領域を示す図である。前述の
図2は、1つの鉱物粒子領域に含まれる各ピクセルのS-Vデータをプロットした図であるが、
図3は、複数の鉱物粒子領域について、前述の手順に従い各鉱物粒子領域のピーク位置を特定した後、これらのピーク位置をプロットした図である。すなわち、
図3において、1つのデータ点は、1つの鉱物粒子領域について算出されたピーク位置を示している。それぞれの鉱物判定領域(網掛け部分)は、これらのピーク位置を囲むが、互いに重複がないように設定される。
【0039】
図3に示されるように、同一の鉱物種であっても、各鉱物粒子領域のピーク位置は全く同じではなく、ある程度の広がりを持つ分布が確認できる。そのため、判定不可の鉱物粒子領域を排除するため、鉱物判定領域を設定する際には、これらの分布の広がりをカバーすることが必要である。それぞれの鉱物種について、分布の広がりの特徴が異なるが、鉱物判定領域を設定する上では、鉱物サンプルに含まれるすべての鉱物粒子領域のS-Vプロットのピーク位置をプロットする必要はなく、各鉱物種のピーク位置の分布を示す代表性が確保される十分な数の鉱物粒子領域についてピーク位置をプロットすればよい。この十分な数は必要に応じて適宜設定できるが、例えば30~1000の範囲内で設定することができる。
【0040】
このように、S-Vプロットにおいて、各鉱物種のピクセルデータ全体の分布に重複が生じ得るが(
図2)、そのピーク位置の分布は各鉱物種間において重複がない(
図3)。各鉱物種のピーク位置の分布をカバーしつつ、異なる鉱物種間において重複がないように、鉱物判定領域を設定することで、ピーク位置に基づく鉱物種の判定が可能となり、判定不可や重複した判定を回避することが可能になる。
【0041】
図3の例はCcp及びPyについて示したが、Ccp又はPy以外の鉱物種についても、同様の方法で鉱物判定領域を設定できる。なお、鉱山によっては、鉱物種の組み合わせや頻度が異なるため、鉱物判定領域は、鉱山ごとに設定してもよく、鉱山ごとの違いをカバーするように広めに設定してもよい。
【0042】
(7.鉱物種の識別)
次に、ピクセルごとに鉱物種を識別するため、前述の画像情報を変数とした空間において、鉱物粒子領域における各ピクセルの画像情報と、鉱物判定領域を用いて判定された鉱物種について予め設定された鉱物識別領域とを比較し、各ピクセルが鉱物判定領域を用いて判定された鉱物種であるかを識別する(第5の工程)。鉱物判定領域とは、後述の方法で設定された画像情報の空間上の領域である。
【0043】
鉱物識別領域は、対応する鉱物判定領域を包含し、対応する鉱物判定領域より広い。鉱物識別領域の設定は、特定の鉱物種であることが予め判明している複数の鉱物粒子領域のピクセルデータの分布範囲を含むように、当該特定の鉱物種の鉱物識別領域を設定することにより行う。具体的な例としては、
図4に示されるように、Ccp及びPyそれぞれのS-Vデータの分布範囲をカバーできるように、それぞれの鉱物識別領域を設定する(右上図及び右下図の網掛け部分)。
【0044】
前述のように、異なる鉱物種であっても、ピクセルデータの分布には重複が存在するため、鉱物識別領域が重複する現象があるが、先に鉱物判定領域に基づき、当該鉱物粒子の鉱物種を判定しているため、どの鉱物種の鉱物識別領域を用いるかが確定される。具体的には、上述したCcp及びPyのS-Vプロットの重複領域にS-Vデータの一部が分布していたとしても、当該S-Vプロットのピーク位置がPyの鉱物判定領域にしか観測されない場合、その鉱物粒子にPyのみが含まれていると先に判定できる。この場合、ピクセルごとの鉱物種の識別には、Pyの鉱物識別領域を用い、Ccpの鉱物識別領域を用いない。そして、Ccp及びPyのS-Vプロットの重複領域を含む広い範囲にPyの鉱物識別領域を設定すれば、すべてのピクセルをPyとして正しく認識することができ、上述した比較技術のようにCcpと誤って判断されることを回避できる。なお、
図4の左下図で分かるように、鉱物粒子領域内のすべてのS-Vデータが鉱物判定領域に含まれるとは限らないが、鉱物識別領域に含まれていれば、これらのピクセルデータが対応する鉱物種を識別できる。
【0045】
なお、鉱物判定領域を用いて鉱物種を絞っても、鉱物種によっては鉱物識別領域が一部重複する場合がまれに存在すると考えられる。例えば上述の例では、S-Vプロットのピーク位置がCcp及びPyの両方の鉱物判定領域に観測される場合、Ccp及びPyの両方の鉱物識別領域を用いて識別を行うことになるため、両者が重複する領域内に含まれるピクセルデータの扱いについて決定する必要がある。このようなピクセルデータの扱いについて、必要に応じて任意のルールを定めることができる。例えば、以下の手法が考えられる。
(1)鉱物判定領域を用いて特定された複数の鉱物種のうち、最初に一の鉱物種の鉱物識別領域を用いて識別を行い、次に他の鉱物種の鉱物識別領域を用いて識別を行う。各鉱物識別領域を用いる順番は任意に決定し得る。この場合、鉱物識別領域が重複する領域内のピクセルデータは、最後に用いられた鉱物識別領域の鉱物種と識別し、それ以外の鉱物種として識別しない。
(2)鉱物識別領域が重複する領域内のピクセルデータと、それぞれの鉱物種の鉱物判定領域のピーク位置との距離を計算し、距離の短いほうのピーク位置に対応する鉱物種として識別する。
(3)鉱物識別領域の形状を修正して、重複しないようにする。修正に際しては、各鉱物識別領域に対応する鉱物種のピクセルデータの分布範囲をできる限り含むことが理想的である。
【0046】
ただし、実際には、鉱物判定領域を用いて鉱物種を予め絞っておけば、重複が発生しても、重複する領域内に含まれるピクセルデータは全体のデータのごく一部であるため、その扱いを任意に決定しても、解析の精度に対する影響は小さい。
【0047】
鉱山によっては、鉱物種の組み合わせや頻度が異なるため、鉱物識別領域も、鉱山ごとに設定してもよく、鉱山ごとの違いをカバーするように広めに設定してもよい。
【0048】
また、1つの鉱物粒子領域に、2種以上の鉱物種が含まれる場合がある。その場合には、2つ以上の鉱物判定領域に含まれる2つ以上のピーク位置が観察されるはずである。そこで、それぞれのピーク位置を含む鉱物判定領域に対応する鉱物種が分かれば、当該鉱物粒子領域に含まれる鉱物種を判定することができる。
【0049】
(8.解析手順)
以上、鉱物判定領域及び鉱物識別領域それぞれの意義を説明したが、以下、本実施形態の解析方法において、鉱物判定領域及び鉱物識別領域を用いて鉱石サンプルを解析する手順を示す(
図5)。本実施形態において、判定とは、当該鉱物粒子領域に含まれる鉱物種の種類を特定することを意味し、識別とは、当該鉱物粒子領域の画像情報に基づき、判定された鉱物種に対応するかどうかについて、ピクセルごとに決定することを意味する。
【0050】
まず、鉱物の判定及び識別を行う1つの鉱物粒子領域を選定する(S101)。鉱物粒子領域は、前述の光学顕微鏡像を二値化して抽出されたものである。
【0051】
次に、当該鉱物粒子領域のS-Vプロットを作成し、前述の方法によりピーク位置を算出する。そして、既知の鉱物種について設定された鉱物判定領域と照合して、当該ピーク位置がどの鉱物判定領域に含まれるかを確認し、鉱物種を判定する(S102)。
【0052】
鉱物種を特定すると、当該鉱物粒子領域の画像情報について、ピクセルごとの識別を行うため、ピクセルを1つ選定する(S103)。
【0053】
次に、選定されたピクセルについて、上記S102で判定された鉱物種に対応する鉱物識別領域に照合して、当該ピクセルが当該鉱物種に対応するかどうかを識別する(S104)。当該ピクセルデータ(S-Vプロットの場合、S-Vデータ)が当該鉱物識別領域内であれば、当該鉱物種に対応するものとして識別し、そうでなければ鉱物として識別しない。
【0054】
次に、上記識別が鉱物粒子領域内のすべてのピクセルについて完了したかどうかを判定し、完了していなければS103に戻って、次のピクセルを選定してS103及びS104を繰り返し、完了していれば次に進む(S105)。
【0055】
次に、上記判定及び識別がすべての鉱物粒子領域について完了したかどうかを判定し、完了していなければS101に戻って、次の鉱物粒子領域を選定して上記手順を繰り返し、完了していれば判定及び識別を終了する(S106)。なお、本実施形態では、判定及び識別の繰り返し手順は、1つの鉱物粒子領域を単位として実施されるが、複数の鉱物粒子領域を単位として判定及び識別の繰り返し手順を実施することも、1つの鉱物粒子領域を複数の分割領域に分割して、分割領域を単位として判定及び識別の繰り返し手順を実施することも可能である。
【0056】
(9.鉱物種の定量(任意))
前述のように、それぞれの鉱物粒子領域について、各ピクセルが対応する鉱物種の識別ができるので、光学顕微鏡像全体について、同様の手順を実施することで、分析対象全体における鉱物の種類及びそれぞれの割合を特定することができる。具体的には、光学顕微鏡像全体のピクセルを前述の手法で解析して、それぞれの鉱物種に対応するピクセルの数の割合を算出する。鉱物粒子は通常分布が等方的で平均的であるため、これをそれぞれの鉱物種の体積の割合に相当すると見なせば、それぞれの鉱物種の密度に基づき、質量割合を計算することが可能となる。
【0057】
光学顕微鏡像を分割して解析する場合、分割画像を合成したうえ上記定量の手順を実施してもよい。このように、画像データを分割して処理し、後でデータを合体してもデータの一貫性が完備され、高精細な広域視野画像の処理でも容易に適用できる。
【0058】
本発明の他の実施態様において、解析対象の鉱石としては、銅精鉱に限らず、色識別できる検体に応用が可能である。また、パラメータが多変数の場合、主成分分析などを併用して解析することも可能である。
【実施例0059】
以下、本発明及びその利点をより良く理解するための実施例を例示するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0060】
(1.鉱物判定領域及び鉱物識別領域の設定)
まず、解析対象の試料として、銅精鉱の鉱石サンプルを準備した。なお、当該銅精鉱の鉱石サンプルは、Chalcopyrite(Ccp)、Chalcocite(Clc)、Covellite(Cv)、Bornite(Bn)、Pyrite(Py)、Molybdenite(Mo)が含まれることは事前の組成分析で判明している。
【0061】
次に、S-Vプロット図において、それぞれの鉱物種の鉱物判定領域及び鉱物識別領域をそれぞれ設定した。具体的には、前述の方法にしたがって、既知の鉱物種Ccp、Clc、Cv、Bn、Py、Moの単体粒子のそれぞれのピーク位置をそれぞれ
図6に示す。そして、それぞれの鉱物種について、
図6のように、鉱物判定領域及び鉱物識別領域を設定した。
【0062】
(2.鉱物種の解析)
上記鉱石サンプルに対して、前述の自転公転撹拌機を用いた方法を用いて、試料埋込樹脂を作製した。具体的には、鉱石サンプルをエポキシ樹脂(Buehler社製のエポキュア2)とともにクリアカップに投入した後、自転公転撹拌機(シンキー社製のあわとり練太郎(登録商標))を用いて撹拌を行った。その後、大気中でエポキシ樹脂を硬化させた。
【0063】
次に、オリンパス社製のDSX500光学顕微鏡像を用いて、約8mm×4mmの画像を撮影した。得られた光学顕微鏡像を二値化して、輝度の明るい部分だけを鉱物粒子領域として抽出した(
図1)。なお、1ピクセルの大きさが0.92μmであった。
【0064】
次に、抽出された鉱物粒子領域の画像のそれぞれについて、ピクセル単位でRGBデータからなる画像情報をHSVデータに変換した。ここでは、抽出された鉱物粒子領域ごとにRGBからHSVに変換してS-Vプロットした。それぞれのS-Vプロットについては、分布密度を描き、ピーク位置を取得した。取得されたピーク位置と、前述の鉱物判定領域と比較し、それぞれの鉱物粒子領域に含まれる鉱物種を判定した。
【0065】
次に、前述の鉱物識別領域に基づいて、S-Vプロット上の各ピクセルについて鉱物識別を行った。これらの手順をすべての鉱物粒子領域について実施し、結果をつなぎ合わせることで、光学顕微鏡像全体における各鉱物種に対応するピクセルの面積割合を算出できた。面積から、鉱物の密度を使って、重量比に換算したところ、表1に示される組成が得られた。
【0066】
【0067】
比較対象のため、同じ鉱石サンプルについて、MLA分析を行った。分析条件は以下のとおりである。
分析装置:サーモフィッシャー社製 MLA650F
EDS検出器:Bruker社製 XFlash Detector 5030、30mm2×2本
測定モード:GXMAP(Grain X-ray Map)
【0068】
MLA分析により得られる組成の結果を表2に示す。
【0069】
【0070】
表1と表2とを比較すると、MLA分析では、Bornite(Bn)の重量比が明らかに高い。しかし、当該鉱石サンプルには、Bnがほとんど含まれていないことが事前に把握されている。すなわち、本発明の解析方法に基づく解析結果が実態に近い結果である。
【0071】
MLA分析では、Bornite(Bn)の重量比が高くなる理由は
図7に示される。すなわち、Chalcopyrite(Ccp)とChalcocite(Clc)の境界、Pyrite(Py)とChalcocite(Clc)の境界等においては、2つの信号が混ざり、Bornite(Bn)の信号として誤認識されてしまうことがある。一方、本発明の解析方法では、鉱物判定領域を用いた判定において、Bnに対応するピークが検出されなければBnとして判定されることはないため、鉱物種の判定の精度がはるかに高い。その結果、MLA分析に比べて、Chalcopyrite(Ccp)が減少し、Chalcocite(Clc)が増加し、Pyrite(Py)が増加し、Covellite(Cv)についても増加する結果が得られ、これらのことも、実態に近づいていると考えられる。