(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101938
(43)【公開日】2024-07-30
(54)【発明の名称】撮像装置および撮像システム
(51)【国際特許分類】
H04N 25/70 20230101AFI20240723BHJP
H01L 27/146 20060101ALI20240723BHJP
H01L 27/144 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
H04N25/70
H01L27/146 A
H01L27/146 D
H01L27/144 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006180
(22)【出願日】2023-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】有川 安信
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 誠
(72)【発明者】
【氏名】渡部 平司
(72)【発明者】
【氏名】志村 考功
(72)【発明者】
【氏名】江藤 剛治
(72)【発明者】
【氏名】廣▲瀬▼ 裕
【テーマコード(参考)】
4M118
5C024
【Fターム(参考)】
4M118AA10
4M118AB01
4M118BA14
4M118BA19
4M118CA02
4M118CA14
4M118CA22
4M118CA40
4M118CB20
4M118DD04
4M118FA06
4M118FA33
4M118GA01
4M118GA05
4M118GA09
4M118GB03
4M118GB11
4M118GC20
4M118HA26
5C024EX22
5C024GX02
5C024GX07
5C024GY31
(57)【要約】
【課題】時間分解能を向上できる撮像装置を提供する。
【解決手段】複数の要素素子(112)における第1層(164)に到達するまでにセンサ光(145)が通る経路は、複数の要素素子における第2層(163)に到達するまでにセンサ光が通る経路より長く、センサ光とシャッター光(146)との両方が要素素子を通過するときに生成される第3生成電荷量は、センサ光が単独で要素素子を通過するときに生成される第1生成電荷量と、シャッター光が単独で要素素子を通過するときに生成される第2生成電荷量との和とは異なる。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の受光部を備える撮像装置であって、
前記複数の受光部のそれぞれは、電磁波を受光して電荷を生成する光電変換部を有する複数の画素を備え、
前記複数の受光部のそれぞれには、被写体の情報を有する第1電磁波が一方向から照射され、第2電磁波が他方向から照射され、
前記複数の受光部のうちの第1受光部に到達するまでに前記第1電磁波が通る経路は、前記複数の受光部のうちの第2受光部に到達するまでに前記第1電磁波が通る経路より長く、
前記第1電磁波と前記第2電磁波との両方が前記受光部を通過するときに前記光電変換部において単位時間かつ単位面積当たりに生成される第3生成電荷量は、前記第1電磁波が単独で前記受光部を通過するときに前記光電変換部において単位時間かつ単位面積当たりに生成される第1生成電荷量と、前記第2電磁波が単独で前記受光部を通過するときに前記光電変換部において単位時間かつ単位面積当たりに生成される第2生成電荷量との和とは異なる、撮像装置。
【請求項2】
前記複数の受光部は互いに積層されている、請求項1に記載の撮像装置。
【請求項3】
前記複数の受光部のそれぞれは、前記光電変換部が生成した電荷を外部に転送する転送部をさらに備え、
前記転送部は、前記第1電磁波および前記第2電磁波の両方が前記受光部を通過した後に、前記光電変換部が生成した電荷を外部に転送する、請求項1に記載の撮像装置。
【請求項4】
前記第1電磁波および前記第2電磁波の両方が前記受光部を通過するときの前記光電変換部の吸収係数は、前記第1電磁波が単独で前記受光部を通過するときの前記光電変換部の吸収係数より大きい、請求項1に記載の撮像装置。
【請求項5】
前記光電変換部は超格子を含む、請求項4に記載の撮像装置。
【請求項6】
前記第1電磁波および前記第2電磁波の両方が前記受光部を通過するときの前記光電変換部の吸収係数は、前記第1電磁波が単独で前記受光部を通過するときの前記光電変換部の吸収係数より小さい、請求項1に記載の撮像装置。
【請求項7】
前記光電変換部は電界感受性有機光電変換材料を含む、請求項6に記載の撮像装置。
【請求項8】
前記第1電磁波および前記第2電磁波は、2光子吸収によって生じる電荷を検出可能な強度の電磁波の組である、請求項1に記載の撮像装置。
【請求項9】
前記第1電磁波および前記第2電磁波は、互いに干渉可能な電磁波の組である、請求項1に記載の撮像装置。
【請求項10】
前記光電変換部の前記第1電磁波の入射側の前面には、隣接する複数の画素からなる画素群毎に、第1偏光方向の光を通す偏光子、および第1偏光方向と異なる第2偏光方向の光を通す偏光子が少なくとも設けられる、請求項1に記載の撮像装置。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載の撮像装置と、
前記第1電磁波をパルス波に整形する第1整形部と、
前記第2電磁波をパルス波に整形する第2整形部と、
前記第1電磁波と前記第2電磁波とが同時に前記撮像装置に到達するように前記第1電磁波および前記第2電磁波の照射タイミングを制御するタイミング制御部と、を備える撮像システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮像装置および撮像システムに関する。
【背景技術】
【0002】
(超高速イメージセンサ)
100枚以上の画像を連続的に撮影できるカメラをビデオカメラと呼ぶ。10枚程度の画像を連続撮影できるカメラをマルチフレーミングカメラと呼ぶ。これらのカメラの中核となる技術はイメージセンサに係る技術である。
【0003】
連続撮影ができる世界最高速のイメージセンサの時間分解能は約10nsである(特許文献1、非特許文献1)。撮影速度に換算すると1億枚/秒である。
【0004】
理化学研究所のX線自由電子レーザSACLAの時間分解能は約10fs(フェムト秒)である。10nsから10fsまでの6桁の速度領域(時間分解能領域)では連続撮影ができるイメージセンサはない。
【0005】
ほとんどのイメージセンサはシリコン半導体からなる。シリコンイメージセンサの理論的な限界時間分解能は11.1psである(非特許文献2、非特許文献3)。
【0006】
フォトダイオードをシリコンからゲルマニウムに変えると、原理的には1ps以下の時間分解能を達成できる(非特許文献3)。撮影速度では1Tfps(Tera frames per second、1兆枚/秒)以上に相当する。
【0007】
一方、現在最高速のトランジスタの駆動周波数は100GHz程度であり、時間分解能に換算すると10psである。
【0008】
従って、駆動回路の性能から見て10nsから10psの間の3桁の時間分解能領域に対しては、近い将来、連続撮影ができるイメージセンサが開発される(非特許文献3)。
【0009】
一方、時間分解能10ps程度から10fs程度の3桁の時間分解能領域に対しては、既存の技術の延長上の技術で連続撮影可能なイメージセンサを開発することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】“Light-In-Flight Imaging by a Silicon Image Sensor: Toward the Theoretical Highest Frame Rate”, Sensors, 19(10), May 2019. DOI: 10.3390/s19102247
【非特許文献2】“The Theoretical Highest Frame Rate of Silicon Image Sensors”, Sensors, 17(3), Feb. 2017. DOI: 10.3390/s17030483
【非特許文献3】江藤剛治著、「超高速カメラ開発の歴史と展望」、応用物理、2021年 90巻 6号、332-338頁
【非特許文献4】"Quantum-confined Stark effect"、[online]、[令和4年9月30日検索]、インターネット<https://en.wikipedia.org/wiki/Quantum-confined_Stark_effect>
【非特許文献5】"Warwick Centre for Ultrafast Spectroscopy: Facilities: TPTP"、[online]、[令和4年9月30日検索]、インターネット<https://warwick.ac.uk/fac/sci/wcus/facilities/tptp/>
【非特許文献6】"2光子吸収過程"、[online]、[令和4年9月30日検索]、インターネット<https://ja.wikipedia.org/wiki/2%E5%85%89%E5%AD%90%E5%90%B8%E5%8F%8E%E9%81%8E%E7%A8%8B>
【非特許文献7】Takao Kuroda, Essential Principles of Image Sensors, CRC Press.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1、非特許文献1-3に開示される技術では、時間分解能10ps以下で連続画像ができる撮像装置を実現することができない。
【0013】
本発明の一態様は、時間分解能を向上できる撮像装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る撮像装置は、複数の受光部を備える撮像装置であって、前記複数の受光部のそれぞれは、電磁波を受光して電荷を生成する光電変換部を有する複数の画素を備え、前記複数の受光部のそれぞれには、被写体の情報を有する第1電磁波が一方向から照射され、第2電磁波が他方向から照射され、前記複数の受光部のうちの第1受光部に到達するまでに前記第1電磁波が通る経路は、前記複数の受光部のうちの第2受光部に到達するまでに前記第1電磁波が通る経路より長く、前記第1電磁波と前記第2電磁波との両方が前記受光部を通過するときに前記光電変換部において単位時間かつ単位面積当たりに生成される第3生成電荷量は、前記第1電磁波が単独で前記受光部を通過するときに前記光電変換部において単位時間かつ単位面積当たりに生成される第1生成電荷量と、前記第2電磁波が単独で前記受光部を通過するときに前記光電変換部において単位時間かつ単位面積当たりに生成される第2生成電荷量との和とは異なる。
【0015】
また、前記複数の受光部は互いに積層されていてもよい。
【0016】
また、複数の受光部のそれぞれは、前記光電変換部が生成した電荷を外部に転送する転送部をさらに備え、前記転送部は、前記第1電磁波および前記第2電磁波の両方が前記受光部を通過した後に、前記光電変換部が生成した電荷を外部に転送してもよい。
【0017】
また、前記第1電磁波および前記第2電磁波の両方が前記受光部を通過するときの前記光電変換部の吸収係数は、前記第1電磁波が単独で前記受光部を通過するときの前記光電変換部の吸収係数より大きくてもよい。前記光電変換部は超格子を含んでもよい。
【0018】
また、前記第1電磁波および前記第2電磁波の両方が前記受光部を通過するときの前記光電変換部の吸収係数は、前記第1電磁波が単独で前記受光部を通過するときの前記光電変換部の吸収係数より小さくてもよい。前記光電変換部は電界感受性有機光電変換材料を含んでもよい。
【0019】
また、前記第1電磁波および前記第2電磁波は、2光子吸収によって生じる電荷を検出可能な強度の電磁波の組であってもよい。
【0020】
また、前記第1電磁波および前記第2電磁波は、互いに干渉可能な電磁波の組であってもよい。
【0021】
また、前記光電変換部の前記第1電磁波の入射側の前面には、隣接する複数の画素からなる画素群毎に、第1偏光方向の光を通す偏光子、および第1偏光方向と異なる第2偏光方向の光を通す偏光子が少なくとも設けられてもよい。
【0022】
また、撮像システムは、前記撮像装置と、前記第1電磁波をパルス波に整形する第1整形部と、前記第2電磁波をパルス波に整形する第2整形部と、前記第1電磁波と前記第2電磁波とが同時に前記撮像装置に到達するように前記第1電磁波および前記第2電磁波の照射タイミングを制御するタイミング制御部と、を備えてもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の一態様によれば、撮像装置における時間分解能を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】入射光の波長に対する真性シリコンの吸収係数を示すグラフである。
【
図2】外部からかける電界が0kV/cmおよび電界93kV/cmの場合における、入射光の波長に対する超格子の吸収係数を示すグラフである。
【
図3】非特許文献5に開示される方法により生成可能な、テラヘルツパルス波の電界の時間波形を示す。
【
図4】上記テラヘルツパルス波の電界の空間パターンを示す。
【
図6】上記要素素子が積層された積層素子を示す図である。
【
図7】上記積層素子と当該積層素子を収めるパッケージとを備える撮像装置を示す側面図である。
【
図8】上記要素素子の各画素の平面図および断面図である。
【
図9】上記画素の回路領域の回路構成を示す図である。
【
図10】上記撮像装置を備える撮像システムの概略構成図である。
【
図11】上記撮像装置による高速シャッターの方法を説明する説明図である。
【
図12】上記撮像装置により撮像された画像の一例を示す。
【
図13】上記撮像装置により撮像された画像の他の例を示す。
【
図15】上記要素素子が3枚積層された積層素子を示す図である。
【
図16】上記要素素子が5枚積層された積層素子と当該積層素子を収めるパッケージとを備える撮像装置を示す側面図である。
【
図17】上記要素素子が3枚積層された積層素子による高速シャッターの方法を説明する説明図である。
【
図18】実施形態2に係る撮像装置による高速シャッターの方法を示す図である。
【
図19】実施形態3に係る撮像装置による高速シャッターの方法を示す図である。
【
図20】実施形態4に係る撮像装置による高速シャッターの方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[従来技術との比較]
(光の速度と通過時間)
光は真空中を1psで300μm進む。フェムト秒オーダーで時間差を制御するのは容易ではない。一方、光が真空中をフェムト秒オーダーの時間をかけて進む距離であるマイクロメータ程度の機械加工精度は比較的容易に達成できる。例えは1psの1/100の10fsの時間差を検出することは容易ではない。一方、300μmの1/100の3μmの精度で機械加工することは比較的容易である。従って、非常に短い時間差を距離差に置き換えることができれば高精度で時間差を検出できる。
【0026】
(超高速イメージセンサの開発の方向性)
イメージセンサの高速化の歴史は、信号電荷の生成位置と保存位置との間の信号電子の移動時間の短縮の歴史であった。
【0027】
高速イメージセンサで最も一般的なものは並列読み出し型である。画像信号は撮像素子の外部に用意した大容量のメモリに転送されて保存される。撮影枚数は大きくできるが、信号の転送に多大な時間を要する。そのため、並列の多数の信号読出し線を備えるイメージセンサを用いている。
【0028】
超高速撮影に使われるバーストイメージセンサには2種類のセンサがある。一つは各画素中ではなく、受光面の周辺に画像信号メモリを備えるものである。この技術で100nsの時間分解能が達成された。
【0029】
現在世界最速のイメージセンサは各画素内に多数の画像信号メモリを持つバーストイメージセンサである。これにより約10nsの時間分解能が達成された。この場合、イメージセンサの時間分解能は、フォトダイオードから画素内メモリの1個に信号電子を転送するに要する時間である。これにより既存のシリコン技術で100ps程度の時間分解能を達成できる(非特許文献3)。
【0030】
ただし、各画素内に作り込めるメモリ要素の数は小さいので連続撮影枚数は限られる。
【0031】
さらに、信号電子が生成したその場で保存できれば画素内転送時間も0になる。
【0032】
(本発明の一態様に係る特徴点)
非常に短い時間差を距離差に置き換える機能を備えるイメージセンサを開発する。とくに、通常のイメージセンサ技術では達成することが困難な時間分解能10ps以下で連続画像を得るための技術を開発する。
【0033】
また信号電子を生成したその場で残すための技術を開発する。
【0034】
これらの技術を実現するために被写体の時間的変化を伴う情報を有する光(以後「センサ光」と呼ぶ)に加えて、これを短い時間で区切るためのシャッターとして使う光(以後「シャッター光」と呼ぶ)の2本の光を組み合わせて用いる。
【0035】
それぞれの光はX線やテラヘルツ波を含む広義の光、すなわち電磁波である。
【0036】
このとき第1の課題は、生成した信号電子の転送距離を0にするイメージセンサの構造の発案である。
【0037】
第2の課題は、連続撮影という目的を最も効率的に達成するための二つの光の組み合わせの選択である。
【0038】
第3の課題は、センサ光とシャッター光をイメージセンサに入射させるときのタイミング制御である。
【0039】
第4の課題は、これらの光によるイメージセンサの誤動作を回避することである。
【0040】
例えば、光電効果とトランジスタ等を組み合わせてシャッター機能を有する電子回路を作る場合、フォトダイオードおよびトランジスタのサイズを代表する距離を電子が移動する時間のオーダーより短い時間で機能するイメージセンサを作ることは原理的に不可能である。この課題を超えることが第1の課題である。
【0041】
例えば、センサ光およびシャッター光が到着したときに、光電変換特性がシフトして電子の生成率が変化し、生成した電子を信号電子としてその場に残すことができれば、信号電子の輸送距離に依存することなく、瞬間的にシャッター効果を機能させることができる。このような電子の生成率の変化を引き起こすセンサ光およびシャッター光の組み合わせを見出すことが第2の課題である。信号電子の読出しは後でゆっくり行えばよい。これは第1の課題の解決手段の候補にもなる。
【0042】
またイメージセンサを構成する要素について、タイミング制御を容易にする位置および長さの関係を明確にするのが第3の課題である。
【0043】
このような光電変換特性をシフトさせる最も単純な方法は強い電界を電子シャッターとする方法である。一方、強い電界は電子回路に誤動作を起こす確率が高い。この抑制が第4の課題である。
【0044】
[種々の原理について]
本発明の様々な実施形態に係る撮像装置は、一方向(以下、上方とする)から入射するセンサ光(第1電磁波)と他方向(以下、下方とする)から入射するシャッター光(第2電磁波)との両方が到達したときの電磁波を検出可能とするイメージセンサである。すなわち、本発明の様々な実施形態に係る撮像装置は、上述の第1の課題および第2の課題を解決し得るイメージセンサである。まず、撮像装置の構成の説明に先立ち、このようなイメージセンサを実現するためのいくつかの方法について以下に説明する。
【0045】
(量子閉じ込めシュタルク効果)
多くの光電変換物質では入射光の波長(入射波長)が長くなると吸収係数が急激に小さくなる。吸収係数を実際的にゼロとみなせる入射光の波長を吸収端と呼ぶ。
【0046】
例えば、
図1に示す様に真性シリコンの吸収係数101の吸収端102は1200nm程度である(非特許文献3)。
図1において、横軸は入射光の波長、縦軸は真性シリコンの吸収係数である。
【0047】
結晶格子定数がわずかに異なる2種の薄層(原子層厚の数倍程度の厚さを有する層)を交互に数10層から1000層積層した光電変換層を超格子と呼ぶ。
【0048】
超格子に強い電界をかけると入射波長に対する吸収係数が長波長側にシフトする。この現象を量子閉じ込めシュタルク効果と呼ぶ(非特許文献4)。
【0049】
非特許文献4中に開示されている光電変換層による量子閉じ込めシュタルク効果の例を
図2に示す。この光電変換層は、Ge結晶を第1の薄層とし、Siが18%でGeが82%の層を第2の薄層とする超格子である。
【0050】
図2は、外部からかける電界が0kV/cmの場合の超格子の吸収係数103と、外部からかける電界が93kV/cmの場合の超格子の吸収係数104とを示している。
図2において、横軸は入射光の波長、縦軸は、上述の超格子の吸収係数である。
【0051】
この系では吸収端が急激にゼロになるのではなく、長波長側に長く裾105を引いている。
【0052】
例えば波長1370nmの波長に対する吸収係数は、電界が0kV/cmのときは250(1/cm)、電界が93kV/cmのときは750(1/cm)である。その比は約3である。
【0053】
従って1370nmの光をこの超格子に透過させ、0kV/cmと93kV/cmとの電界を交互にかければ透過光の明暗比が約3対1になる。
【0054】
以下、このような超格子に瞬間的に(例えば、1ピコ秒以下の間)電界をかけることが可能な電磁波であるテラヘルツパルス波について説明する。
【0055】
現在の実用技術で100kV/cm程度の電界で1ピコ秒以下の時間分解能を有する電磁波を生成することができる。
【0056】
図3と
図4とは、Warwick大学の研究施設におけるテラヘルツ波の電界の時間波形106と空間パターン107とをそれぞれ示す(非特許文献5)。
【0057】
図3よりテラヘルツ波のピーク電界108は約280kV/cmである。テラヘルツ波における、93kV/cm程度以上の時間ビーム幅109は約0.35psである。
【0058】
また
図4より、テラヘルツ波における空間ビーム幅110は1mmである。
【0059】
例えば画素サイズ5μmのイメージセンサにこのテラヘルツ波を入射すると、200画素×200画素(=1mm×1mm)の領域に対して約0.35ps間、93kV/cm以上の電界をかけることができる。
【0060】
超高速駆動では正確な矩形パルスを作ることは難しい。比較的長いパルスの前後に緩やかな立ち上がりと立ち下り部分がある。超高速駆動では、テラヘルツ波は、ガウス波形または1周期のコサイン波形に近い波形になる。また、超高速駆動では、テラヘルツ波は、前後で負の値を含む振動部分を備えることが多い。
【0061】
代表的なパルス幅として、ピーク強度の1/2の強度のときの時間幅(等価パルス幅)または、立ち上がり部と立ち下り部とのパルス幅(基底長)などが用いられることが多い。
【0062】
図3ではピーク強度の1/2の強度(電界140kV/cm)のときのパルス幅(半値全幅)は約0.3psである(図では示していない)。
【0063】
93kV/cmの電界に対応するパルス幅0.35psは半値全幅0.3psより少し長いが、後述の実施形態1では
図2に示す電界93kV/cmによる吸収係数のシフトを利用するため、以後は、便宜上、0.35psを上述の超格子にかけるテラヘルツ波の等価パルス幅とする。
【0064】
(2光子吸収過程)
2光子吸収過程は、微細な空間に同じ波長の2個の光子が同時に存在すると1/2波長、すなわち2倍のエネルギーを有する光が生成する過程である(非特許文献6)。例えば1300nmの時空間的パルス入射光に対して650nmの光子を生成する。
【0065】
微細な空間に同じ波長の2個の光子が同時に存在する確率は非常に小さい。従って2光子吸収過程による発光(以下「2光子発光」と呼ぶ)は微弱である。
【0066】
検出できる程度の2光子発光を起こすには、超短パルスレーザの時間パルス幅をできるだけ小さくして総エネルギーに対してピーク強度をできるだけ大きくすればよい。また、検出できる程度の2光子発光を起こすには、入射光を回折限界に近い面積に集光すればよい。
【0067】
入射光のパルス幅が短いときは、局所的な温度上昇は入射光の総エネルギーに比例する。一方、2光子発光は入射光強度の2乗に比例する。
【0068】
短パルス光の照射によって試料が受けるダメージには大別して熱的ダメージと化学的ダメージがある。
【0069】
550nm程度の緑色可視光から赤外線に至る波長範囲では熱的ダメージが支配的である。
【0070】
生物試料では50℃程度で弱いダメージを受ける。照射パルス幅が短い場合はダメージを受ける限界温度はそれより高い。被写体の耐性にも依存するが、100℃に近い温度まで耐性のある生物試料もある。
【0071】
従って温度上昇を50℃以下に保ち、入射光の時間的空間的パルス幅をできるだけ小さくするとき、単位面積及び単位時間当たりの入射光強度は(パルス面積×時間幅)に逆比例して大きくできる。
【0072】
2光子発光は入射光強度の2乗に比例して強くなるので、パルス面積・時間幅が小さいほど2光子発光が相対的に大きくなる。
【0073】
2光子発光を利用した顕微鏡は、生体などに対して可視光が届かない深さでの現象の近赤外光によるイメージングで使われている。また近赤外光の回折限界より狭い分解能の観察に使われる。
【0074】
近赤外光の吸収係数は可視光のそれに比べて一桁程度低く、はるかに深くまで到達する。
【0075】
分解能が高くなるのは以下の2つの理由による。
【0076】
2光子発光は入射光エネルギーの2乗に比例して生じる。従って、2光子発光はピーク近傍の狭い領域で強化される。
【0077】
また、発生した2光子発光は顕微鏡に入射する前に生体を通る間に拡散する。ある程度広がっても画像処理で重心位置を求めることで回折限界以下の時間分解能で中心位置の座標を求めることができる。
【0078】
面、もしくは深さを含む3次元観察では入射近赤外パルス光の集光位置を2または3次元的に走査する。
【0079】
(電界感受性有機色素)
強い電界をかけると吸収端が短波長側に延びる有機色素がある。これらは電界感受性有機色素と呼ばれる。
【0080】
(偏光と電界)
左右上下に隣接する4個の画素を1個のマクロピクセルとし、これらの画素にフィルターとして入射波長程度の幅の4種のスリットを載せる。
4種のスリットの方向は縦、横、右下に向かう45°、左下に向かう45°である。これらの4個の画素への入射光の強度比からマクロピクセルへの入射光の偏光特性を算出できる。
【0081】
直線偏光は強い電界をかけると方向が回転することは良く知られている。
【0082】
〔実施形態1〕
(撮像装置の概略構成)
本実施形態に係る撮像装置121の概略構成について、以下に説明する。撮像装置121は、複数の要素素子112(受光部)と、複数の要素素子112を収容するパッケージ119とを備える(
図7参照)。複数の要素素子112のそれぞれには、上方から(被写体の情報を有する)センサ光が照射され、下方から(当該センサ光を所定の時間に区切って検出するための)シャッター光が照射される。
【0083】
複数の要素素子112のそれぞれは、複数の画素113を備える(
図5参照)。複数の画素113のそれぞれは、電磁波を受光して電荷を生成する光電変換領域127(光電変換部)と光電変換領域127が生成した電荷を外部に転送する回路領域128(転送部)とを備える(
図8参照)。
【0084】
ここで、センサ光が単独で、シャッター光が単独で、およびセンサ光とシャッター光との両方が、受光部(要素素子112)を通過するときに光電変換領域127において単位時間かつ単位面積当たりに生成される電荷量を、それぞれ第1生成電荷量、第2生成電荷量、および第3生成電荷量とする。このとき、第3生成電荷量は、第1生成電荷量と第2生成電荷量との和とは異なる。
【0085】
上記の構成によれば、撮像装置121は、センサ光がシャッター光とともに要素素子112を通過したことによる電荷の生成量の変化に基づき、センサ光がシャッター光とともに要素素子112を通過したときのセンサ光が有する被写体の情報を取得することができる。
【0086】
本実施形態では、センサ光とシャッター光との両方が要素素子112を通過するときの光電変換領域127の吸収係数は、センサ光が単独で要素素子112を通過するときの光電変換領域127の吸収係数より大きい。これにより、第3生成電荷量は第1生成電荷量より多くなる。つまり、通常のカメラのシャッターが開くことによりイメージセンサの各画素での生成電荷量が増える現象と同様に、シャッター光を要素素子112に通過させることにより要素素子112の各画素での生成電荷量を増加させることができる。すなわち、シャッター光は、通常のカメラのシャッターのように機能する(シャッター効果を起こすことができる)。
【0087】
具体的には、光電変換領域127が、
図2を参照して上述した超格子を含む超格子層199を備えることにより、上述の構成が達成される(
図8参照)。
【0088】
また、複数の要素素子112のうちの第1要素素子112a(第1受光部)に到達するまでにセンサ光が通る経路は、複数の要素素子112のうちの第2要素素子112b(第2受光部)に到達するまでにセンサ光が通る経路より長い。
【0089】
上記の構成によれば、第1要素素子112aと第2要素素子112bとで、センサ光とシャッター光との両方が通過するタイミングをずらすことができる。これにより、第1期間165の被写体の情報を有するセンサ光は、シャッター光とともに第1要素素子112a(第1層164)を通過し、第1要素素子112aにて当該情報が取得される。そして、第1期間165より以前の第2期間166の被写体の情報を有するセンサ光は、シャッター光とともに第2要素素子112b(第2層163)を通過し、第2要素素子112bにて当該情報が取得される。(
図11参照)。したがって、センサ光が有する被写体の情報の非常に短い時間差を、センサ光の経路長の差に置き換えることができる。言い換えると、撮像装置121の時間分解能を、電磁波の経路長の差により生み出すことができる。
【0090】
上述したように、例えは1psの1/100の10fsの時間差を検出することは容易ではない。一方、(電磁波が1psで進む)300μmの1/100の3μmの精度で機械加工することは比較的容易である。したがって、撮像装置121の時間分解能を電磁波の経路長の差により生み出す上記構成によれば、従来のイメージセンサでは達成できなかった10ps程度から10fs程度の時間分解能を有するイメージセンサを比較的容易に実現できる。
【0091】
本実施形態では、複数の要素素子112は(上下方向に沿って)互いに積層されており、積層素子118を形成している(
図6参照)。複数の要素素子112を互いに積層させるといった簡易的な構成により、上方からセンサ光が照射されることで、複数の要素素子112ごとに電磁波が到達するまでの経路長を異ならせることができる。
【0092】
また、回路領域128は、センサ光およびシャッター光の両方が要素素子112を通過した後に、光電変換領域127が生成した電荷を外部に転送してもよい。これにより、非線形光電変換特性を生じさせるような強い電界を有するシャッター光を用いる場合でも、要素素子112内の電気回路の撮影中における誤動作を最小限に抑制することができる。
【0093】
(撮像装置の詳細な構成)
次に、実施形態1に係る撮像装置121の詳細な構成について、以下に説明する。なお、以下では一例として1370nmの波長を有するセンサ光(すなわち、近赤外線)を検出するための撮像装置121の構成を説明するが、検出対象であるセンサ光の波長に応じて撮像装置121の構成は適宜変更されてもよい。
【0094】
図5は実施形態1に係る1枚の要素素子112の平面図を示す。要素素子112は、画素113、要素素子の制御電圧を入力するための入力回路領域114、要素素子の各画素で生成した画像信号を外部へ読み出すための出力回路領域115を備える。また要素素子112は、画像信号読出しコンタクト116が配備されている読出しコンタクト領域、および制御電圧コンタクト117が配備されている入力コンタクト領域を備える。
【0095】
入力回路領域114と出力回路領域115の表面はアルミニウム層(記載されていない)で覆われており、該アルミニウム層は接地されており(記載されていない)、外部から与えられる電界の影響を最小限に抑制している。
【0096】
図5では、簡単のため画素数を20列×29行で示しているが、実際の画素数は200列×290行である。1個の画素のサイズは5μmである。従って受光面サイズは1000μm×1450μm(=1mm×1.45mm)である。
【0097】
コンタクトの個数は20×29個でピッチは50μmである。
図5では、簡単のため2画素行および2画素列ごとに1個のコンタクトが配備されているように示しているが、実際は10画素行および10画素列ごとに1個のコンタクトが配備されている。
【0098】
図6は要素素子112を5枚積層した積層素子118を示している。
図7はパッケージ119に収められ、コンタクトからの配線120によりパッケージ119に電気的に接続した積層素子118を備える撮像装置121の側面図を示す。
【0099】
図6,
図7に示す様に要素素子112を1枚重ねるごとに1コンタクト列ずつずらしている。従って4枚分のずれは4×50=200μmである。
図5、
図7に示す様に5枚の要素素子の全てで画像を撮影できるのはこのずらし領域122を除く重なり部分123である。ずらし領域122は反対側のサイドにもあるので、縦横方向、および左右方向でそれぞれ400μmを除く領域における有効受光面124で5枚分の撮影ができる。
【0100】
従って有効受光面124は(1000-400)×(1450-400)=600μm×1050μm=0.6mm×1.05mmである。有効画素数は(600/5)×(1050/5)=120×210=25,200画素である。
【0101】
通常のTV画面の縦横比は16/9=1.78である。本実施形態では、有効受光面124の縦横比は、1050/600=1.75である。すなわち、有効受光面124の縦横比は、TV画面の縦横比とほぼ同じである。
【0102】
図6、
図7に示すように、各要素素子は光電変換層125と支持基盤126とからなる。支持基盤126はセンサ光およびシャッター光に対して透明な石英ガラスからなる。
【0103】
図8の符号8aは各要素素子の各画素113の平面図を示す。画素113は、光電変換領域127と回路領域128とからなる。光電変換領域127は6μm×4.5μmである。回路領域128は6μm×1.5μmである。
【0104】
図9は回路領域128の回路構成129を示す。回路構成129は、基本的な読出し回路である。光電変換領域(フォトダイオード)188で信号電荷が生成する。第1垂直転送線189の末端にある水平選択スイッチ(通常はトランジスタ)190をオンにし、第1行第1列の画素191内の垂直選択スイッチ192をオンにすると、第1行第1列の画素191で生成した信号電荷は水平転送線193に転送される。そして、当該信号電荷は、読出しアンプ194から素子外に読みだされる。
【0105】
水平選択スイッチ190のオン電圧は水平シフトレジスタ195で順次生成される。1個の水平選択スイッチ190がオンになった状態で垂直シフトレジスタレジスタ196が順次オン電圧を生成し、垂直選択スイッチ192が順次オン状態になる。
【0106】
現在のイメージセンサでは画素内にノイズ低減と信号増幅のための増幅回路208が挿入されている。増幅回路208の詳細については、成書(例えば非特許文献7)に詳しく紹介されているので、ここでは説明を割愛する。
【0107】
図8の符号8bは各要素素子の各画素113の断面図を示す。光電変換領域127は3層から成る。中央の第2層はシリコンとゲルマニウムの混相結晶材料の薄層を積層した超格子層199(光電変換層199とも称する)で、厚さ2μmである。第1層および第3層は石英ガラスからなる絶縁層198,200(それぞれ第1絶縁層198、第2絶縁層200と称する)で、厚さは0.02μmである。従って要素素子の厚さは2.04μmである。
【0108】
各要素素子の下面には、隣接する要素素子との間の距離を一定に保つために厚さ66.5μmの石英ガラス板201を接着している。石英ガラス板201の厚さと要素素子の厚さとにより要素素子間を飛翔する光の飛翔時間が決まる。
【0109】
回路領域128はSiからなる。絶縁層である第1絶縁層198の回路領域128における上部はタングステンからなる遮光層202で覆われている。
【0110】
図8に示す様に、光電変換層の1端は高濃度p型領域203であり、コンタクトポイント204が設けられている。
【0111】
光電変換領域127と回路領域128との境界線の中央に接してトランスファゲート205が設けられている。トランスファゲート205は縦型である。すなわちゲート電極は2枚1対からなり、超格子層199の上端から下端にわたって縦に貫通している。
【0112】
トランスファゲート205に隣接して読出し回路206とリセット回路207とが設けられている。読出し回路206は増幅回路208と垂直選択スイッチ192とから成る。増幅回路208はフローティングディフュージョン209とソースフォロワーアンプ210とからなる。リセット回路207はリセットゲート211とリセットドレーン212とからなる。これらの読出し回路206とリセット回路207との組はほとんどのイメージセンサに搭載されている一般的な回路である。従ってその詳細な説明はほとんど全てのイメージセンサ関係の成書(例えば非特許文献7)に書かれているので、ここでの説明は割愛する。
【0113】
要素素子の光電変換領域127は
図2に示すGeと、Siが18%でGeが82%の層の互層からなる超格子層199を含む。
【0114】
この超格子層199の厚さは2μm、要素素子間の石英ガラス板201の厚さは66.5μmで、その合計は68.5μmである。2層の石英ガラスからなる絶縁層198,200の厚さは合計0.04μmであるが68.5μmに比べて十分薄いので、光の通過時間を評価する場合は絶縁層198,200の厚さは0として計算する。
【0115】
図2より1370nmの光に対して、外部電界が0kV/cmのときと93kV/cmのときの吸収係数はそれぞれ、250(1/cm)および750(1/cm)である。すなわち外部電界が0kV/cmのとき、および93kV/cmのときの平均侵入深さはそれぞれ、1/250(cm)=40μmおよび1/750(cm)=13.3μmである。
【0116】
すなわち厚さ2μmの平均侵入深さに対する相対侵入深さは電界が0のとき2/40=0.05であり、93kV/cmのとき2/13.3=0.15である。
【0117】
相対侵入深さが0.05のとき、量子効率、すなわち光電変換される光子の割合は(1-exp(-0.05))=4.9%である。93kV/cmの電界がかかったとき、量子効率は(1-exp(-0.15))=13.9%である。
【0118】
すなわち93kV/cmの電界がかかることにより生成する電子数は0kV/cmのときに生成する電子数の2.84倍(=13.9/4.9)、すなわち約3倍である。
【0119】
超格子層199の厚さは2μmである。1370nmの光に対する超格子の屈折率は約4.3である。従って超格子中を光が進む速度は300000km/s/4.3=(300μm/s)/4.3=70μm/psであり、超格子層199の透過に要する時間TPは2/70=0.029psである。
【0120】
支持基盤の石英ガラス(石英ガラス板201)の厚さは66.5μmである。1370nmの光に対する石英ガラスの屈折率は約1.45である。従って石英ガラス中を光が進む速度は207μm/psであり、石英ガラス板201の透過に要する時間は66.5/207=0.321psである。
【0121】
従って1枚の要素素子112の厚さは2+66.5=68.5μmである。1枚の要素素子112の間を1370nmの光が通過するに要する時間TE=0.029+0.321=0.35psである。
【0122】
(撮像システムの概略構成)
図10は積層素子118を収めたパッケージ119を備える撮像システム132の構成図を示す。
【0123】
前記の撮像システム132は、シャッター光となる超短パルスレーザを発生させるテラヘルツ波発生用超短パルスレーザ発振器133と、センサ光となる近赤外線レーザを発生させる近赤外線レーザ発振器134との2つのレーザ発生装置を備える。両レーザの照射タイミングはタイミングコントローラ135(タイミング制御部)で調整される。具体的には、タイミングコントローラ135は、センサ光とシャッター光とが同時に撮像装置121に到達するようにセンサ光およびシャッター光の照射タイミングを制御する。
【0124】
テラヘルツ波発生用超短パルスレーザ発振器133で発生した超短パルスレーザを入力として、テラヘルツ波整形装置136(第2整形部)により所望の電界強度と時間波形を持ったテラヘルツ波が生成される。すなわち、テラヘルツ波整形装置136は、シャッター光をパルス波に整形する。波形が整形されたテラヘルツ波はシャッター光導波光学系137により導かれて、シャッター光集光光学系138によって積層素子118の受光面に下方から入射する。
【0125】
近赤外線レーザ発振器134で発光したレーザ光は、近赤外レーザパルス整形装置139(第1整形部)で所望の時間波形、すなわちできるだけパルス波形に近い形状で所望のパルス幅の光に調整される。すなわち、近赤外レーザパルス整形装置139は、センサ光をパルス波に整形する。波形が整形された近赤外線パルス光は、照明光導波光学系140で被写体照明光学系141に導かれた後、試料ステージ上の試料142に照射される。
【0126】
試料を透過した近赤外線パルス光はセンサ光集光光学系143によって積層素子118の受光面に上方から照射される。
【0127】
(撮像装置の機能と操作)
図8の1画素の各要素に加える電圧を説明する。電圧は配線を通じて送付されるが、簡単のため、配線についての具体的な説明は割愛する。
【0128】
リセットドレーン212の電圧は0Vで一定である。リセットゲート211の電圧は高い電圧(VH)と低い電圧(VL)の2値を取る。リセットゲート211ではVH=1V、VL=-1Vである。リセットゲート211の電圧は、通常はVLに保たれており、フローティングディフュージョン209に蓄積された電子をリセットドレーン212を通じて要素素子外に排出するときのみ瞬間的にVHにする。このときフローティングディフュージョン209の電位は1Vではなくドレーン電位と同じ0Vとなる。
【0129】
トランスファゲート205は-2Vに保たれている。コンタクトポイント204を通じて光電変換層199の左端の高濃度p型領域203には一定電圧-3Vが加えられている。これにより光電変換層199は部分的に空乏化している。
【0130】
撮影開始直前にリセットゲート211の電圧をVHとし、フローティングディフュージョン209の電位を0Vにする。短時間で関係要素が熱平衡状態になる。直後にリセットゲート211の電圧をVLにし光を光電変換層に入射する。生成する電子はトランスファゲート205を通してフローティングディフュージョン209に流入し蓄えられる。これによりフローティングディフュージョン209で生じる負電位V2をソースフォロワーアンプ210で電流増幅し、垂直選択スイッチ192をオンにして読み出す。
【0131】
図6、
図7に示す一例では、積層素子118は5枚の要素素子112から成る。
図11は積層素子118の機能および操作方法についての説明
図144である。
【0132】
図11では、簡単のため、同一の要素素子が3枚積層している場合について説明している。積層素子118の機能および操作方法は5枚でも3枚でも基本的に同じである。
【0133】
センサ光およびシャッター光の強度は時間的に変化する。
図11ではセンサ光およびシャッター光を代表的な期間で区切って、各期間におけるセンサ光およびシャッター光の強度を一定の代表値としている。この代表値は基本的には各期間におけるセンサ光およびシャッター光の強度の平均値である。
【0134】
ただし立上がり部および立下り部の代表値は0としている。実際には立上がり部および立下り部の平均値は他の部分に比べて小さい正または負の値である。これらを0とする近似に起因する生成電荷量の誤差は小さい。
【0135】
図11の縦軸は要素素子112および積層素子118の厚さを、その厚さを電磁波が透過するに要する時間に換算したものと、センサ光およびシャッター光のパルス長と、時間経過に対するそれぞれのパルスの位置関係と、を示している。
【0136】
積層素子118のある画素の上から下に向かって強度Xのセンサ光145が、下から上に向かって強度Yのシャッター光146が入射する。
【0137】
横軸は時間の経過を時間ステップ147~157で示している。
【0138】
1枚の光電変換層を電磁波が通過するに要する時間はTP158である。隣接する2枚の要素素子の光電変換層の表面と表面の間の距離を通過するに要する時間はTE159である。積層素子、即ち3枚の要素素子を通過するに要する時間はTSである。
【0139】
シャッター光のパルス幅は2TE160である。
【0140】
以下、2TEを単位としてセンサ光とシャッター光を区切る。
【0141】
センサ光の全パルス幅は2TS=3×2TE=6TE161である。
【0142】
センサ光として用いる電磁波だけが光電変換層を通過するときに生じる、ある量の1画素および単位時間当たりの生成量をF(X)とする。シャッター光として用いる電磁波だけが光電変換層を通過するときに生じる、ある量の1画素および単位時間当たりの生成量をG(Y)とする。
【0143】
本実施形態では前記のある量は電子である。一般的にはこの量は電子に限らないが、説明を簡略化するために以下では電子を例にする。
【0144】
センサ光とシャッター光の両方が同時に光電変換層を占めたときに1画素および単位時間当たりに生じる電子数をH(X,Y)とする。
【0145】
センサ光とシャッター光の組み合わせはH(X,Y)≠F(X)+G(Y)となる電磁波の組である。
【0146】
この強度差をD(X,Y)とする。すなわちD(X,Y)=H(X,Y)-(F(X)+G(Y))。
【0147】
本実施形態ではシャッター光は
図3に示すテラヘルツ波である。すなわち、シャッター光は、93kV/cm以上の電界が0.35ps続くテラヘルツ波である。
【0148】
また光電変換層は
図2の特性を備える超格子で、厚さは2μmである。支持層は石英ガラスで厚さは66.5μmである。すなわち要素素子の厚さは68.5μmで、この間を電磁波が通過する時間TEは0.35psである。
【0149】
また、1370nmのセンサ光が単独で光電変換層を通過する場合の生成電子数F(X)に対して、センサ光とシャッター光とが同時に通過する場合の生成電子数H(X,Y)は2.84倍になる。
【0150】
図11でわかるように、本実施形態ではシャッター光が単独で3枚のいずれかの光電変換層を通過する場合はない。従ってG(X,Y)=0。
【0151】
従ってH(X,Y)=U×F(X)。ここにU=2.84(
図2と共に上述される超格子層199のシュタルク効果に起因)。
【0152】
以下、時間経過とともに生起する電子数の変化を説明する。
【0153】
シャッター光146の強度Yについてはパルス幅6TEの間は一定値Yである。
【0154】
センサ光145の強度Xについては試料を透過した後、試料内で超短時間で起こる変化に対応して変化する。
【0155】
光電変換層を上から順に第3層162、第2層163、第1層164と呼ぶことにする。
【0156】
センサ光145を区分する期間のうち最初の2TEの期間(第1期間165)におけるXの平均値をX1とする。また、センサ光145を区分する期間のうち引き続く2番目および3番目の2TEの各期間(第2期間166および第3期間167)におけるXの平均値をそれぞれX2(166)およびX3(167)とする。
【0157】
時間ステップ147では、第1層164では、センサ光145もシャッター光146も到達していないので電子は生じない。第2層163および第3層162では、第1期間165におけるセンサ光145が到達しているので単位時間当たりF(X1)の電子が生成する。
【0158】
時間ステップ148の中間時点から、時間ステップ152の中間時点の間、第1層164では第1期間165におけるセンサ光145と、シャッター光146とが遭遇する。従って第1層164における電子の生成強度はH(X1,Y)=U×F(X1)である。
【0159】
この状態は、2TEだけ継続する。従ってこの間に第1層164において生成する電子数は2TE×U×F(X1)である。
【0160】
その後、第2期間166および第3期間167におけるセンサ光145により、第1層164には2TE×F(X2)+2TE×F(X3)の電子が生成する。
【0161】
従って、第1層164で生成する電子数の総和E(1)は
E(1)=2TE×(U×F(X1)+F(X2)+F(X3))
である。
【0162】
同様に第2層163と第3層162で生じる総電子数E(2)とE(3)はそれぞれ、
E(2)=2TE×(F(X1)+U×F(X2)+F(X3))、
E(3)=2TE×(F(X1)+F(X2)+U×F(X3))
である。
【0163】
これらの式の和をETとすると、
ET=E(1)+E(2)+E(3)=2TE×(U+2)×(F(X1)+F(X2)+F(X3))
ET/(U+2)=2TE×(F(X1)+F(X2)+F(X3))
これをE(1)から差し引くと、
E(1)-ET/(U+2)=2TE×(U-1)×F(X1)
従って、
F(X1)=(E(1)-ET/(U+2))/(2TE×(U-1))
同様にF(X2)、F(X3)が求まり、これからX1、X2、X3が求まる。
【0164】
すなわち、
図11からは3枚の画像の間に重複(時間的クロストーク)が生じているように見える。例えば時間ステップ150と152の中間点のTE時間の間、第1層164と第2層163の両方で露光が生じている。
【0165】
しかし実際には上記の式からわかるように、
図11の時間的関係を満たすとき、画像情報を無駄なく使って最も高精度にF(X1)、F(X2)、F(X3)の値を求めることができる。
【0166】
また、Wb=2TE×(F(X1)+F(X2)+F(X3))、WI=(U-1)×F(XI)=1.84×F(XI)(I=1,2,または3)とする。このとき、第I要素素子(第I層)の各画素には、Wbという同一の背景光に相当する電子数に、WIというセンサ光145とシャッター光146との両方が到達することに由来する電子数を加えた電子数が生じることがわかる。
【0167】
なお、実際には2TEの間でもXの値は変化し、Yもガウス波形等になるので、時間に関する積分形式で定式化する必要がある。しかしながら、上記の定式化で数学的な扱いの本質的な部分は保持されており、この近似による誤差は大きくない。
【0168】
このとき、第1電磁波(センサ光145)の継続時間は2TS=6TEで第2電磁波(シャッター光146)の継続時間は2TEである。2TSより長いパルス幅のセンサ光は背景信号を大きくする。2TEより長いシャッター光は不要にブレ(上記近似による誤差)を大きくする。
【0169】
したがって、近赤外レーザパルス整形装置139(第1整形部)は、センサ光145(第1電磁波)の継続時間を実質的に2TSとすればよい。また、テラヘルツ波整形装置136(第2整形部)は、シャッター光146(第2電磁波)の継続時間を実質的に2TE以下とすればよい。
【0170】
(撮影画像の例)
実際に撮影される画像の例を
図12および
図13に示す。
【0171】
例えば、センサ光145の第2期間166において(すなわち時間ステップ150の中間時点と時間ステップ154の中間時点との間の2TEの間で)、画面の中央の円形部分が明るくなる、すなわち透過率が上がる現象が生起した場合、
図12の画像168が得られる。ただしこの場合、明るくなる部分169の位置の変化はなく、時間的変化のみが生じている。
【0172】
図13は一定強度の円形の明るい領域が速度Vで左から右に移動した場合の3枚の画像170を示す。
【0173】
この場合、時間ステップ150の中間時点と時間ステップと時間ステップ152の中間点との間のTEの間は、第1の要素素子と第2の要素素子の両方で同時に画像信号が発生する。従って、TE×Vに相当する距離分だけ重複領域171を持った、いわゆるブレた画像172になる。
【0174】
移動体を撮影する場合にはブレは必ず起こる。ブレを小さくするためにはシャッター光146のパルス幅を2TEより小さくする必要がある。
【0175】
ただし電磁波が光電変換層を通過するに要する時間分のブレは必ず起こる。従ってシャッター光146のパルス幅を2TP以下にしても無意味である。
【0176】
〔変形例〕
図14は変形例に係る要素素子174の平面図を示す。
図15は要素素子174を3枚積層した積層素子175を示す。
【0177】
図14では上下端のコンタクト部176、左右端のコンタクト部177が要素素子174の枚数に対応して各3列になっている。
【0178】
また要素素子174は、制御信号入力回路部178と画像信号読出し回路部179とを備えている。受光面は180である。
【0179】
図16は要素素子174を5枚積層した積層素子181がパッケージに収められている状態を示している。受光面は180である。
【0180】
図17は変形例に係るセンサ光182とシャッター光183との時間関係184を示す。
【0181】
変形例では、シャッター光のパルス幅は、2TP185である。ここにTP186は電磁波が1枚の光電変換層を通過するに要する時間である。
【0182】
センサ光は、パルス幅2TPで時間間隔2TE187の3個のパルスからなるパルス列である。
【0183】
パルス光の総エネルギーが一定であればパルス幅が小さいだけ強度を大きくできる。
【0184】
変形例ではシャッター効果によりブレのない画像が得られる。
【0185】
センサ光とシャッター光の組み合わせはH(X,Y)≠F(X)+G(Y)となる電磁波の組であれば何でも良い。
【0186】
また、光電変換領域127のセンサ光の入射側の前面には、隣接する複数の画素113からなる画素群毎に、第1偏光方向の光を通す偏光子、および第1偏光方向と異なる第2偏光方向の光を通す偏光子が少なくとも設けられてもよい。例えば、当該画素群毎に、画素列に沿った画素列方向、画素列方向に直交する方向、画素列方向と45°をなす方向、および画素列方向と135°をなす方向にそれぞれ伸びるスリット列が設けられてもよい。
【0187】
上記の構成によれば、各マクロピクセルに入射する光の偏光特性を検出することができ、偏光を利用した連続撮影が可能となる。
【0188】
〔実施形態2〕
センサ光とシャッター光との組み合わせは、実施形態1のような近赤外光とテラヘルツ光との組み合わせに限らない。また光電変換層は超格子に限らない。
【0189】
波長が同じで偏光特性の異なる2つの光でも良い。もしくは直線偏光光とテラヘルツ波との組みでも良い。
【0190】
(光干渉を用いた高速シャッター)
図18は、実施形態2に係る撮像装置321による高速シャッターの方法を示す図である。撮像装置321は、互いに積層された複数の要素素子312を備える。複数の要素素子312は、シリコンを含む光電変換層を備えるシリコンイメージセンサである。要素素子312の詳細な構成は、光電変換層が超格子層でなくてもよい点を除き、実施形態1に係る要素素子112と同様であってもよい。
【0191】
複数の要素素子312のそれぞれには、上方からセンサ光345(第1電磁波)が照射され、下方からシャッター光346(第2電磁波)が照射される。シャッター光346およびセンサ光345は、互いに干渉可能な電磁波の組である。
【0192】
上記センサ光345と上記シャッター光346とが重なった場所に干渉縞が現れる。そのため、1つの要素素子312で得られた信号から干渉縞を有する信号のみを抽出的に計測し、さらに縞模様を取り除く画像処理を行うことで、センサ光とシャッター光との両方が到達したときのセンサ光が有する被写体の情報を取得できる。これを互いに積層された複数の要素素子312において実行することで、超高速画像計測が可能である。
【0193】
なお、
図18では、3層構造を有する要素素子312により3枚の連続撮影ができる構造を示しているが、要素素子312の層の数はこれに限定されない。
【0194】
〔実施形態3〕
(2光子吸収過程を用いた高速シャッター)
図19は、実施形態3に係る撮像装置421による高速シャッターの方法を示す図である。撮像装置421は、互いに積層された複数の要素素子412と、複数の要素素子412の(センサ光445の入射側の)前面にそれぞれ配置された波長変換層499と、を備える。複数の要素素子412は、シリコンを含む光電変換層を備えるシリコンイメージセンサである。要素素子412の詳細な構成は、光電変換層が超格子層でなくてもよい点を除き、実施形態1に係る要素素子112と同様であってもよい。波長変換層499は、2光子吸収・発光を生じさせやすい材料を含む。波長変換層499は、例えば、レーザの波長変換結晶であるKTP(KTiOPO
4)結晶等である。
【0195】
複数の要素素子412のそれぞれには、上方からセンサ光445(第1電磁波)が照射され、下方からシャッター光446(第2電磁波)が照射される。センサ光445およびシャッター光446は、2光子吸収によって生じる電荷を要素素子412が検出可能な強度の電磁波の組である。
【0196】
複数の要素素子412のうちの第1要素素子412aの前面に配置された第1波長変換層499aは、第1要素素子412aに隣接しており、その他の要素素子からは(石英ガラス板等を介して)離れている。これにより、第1波長変換層499aから生じた2光子発光は主に第1要素素子412aに吸収され、その他の要素素子に吸収されない。
【0197】
例えば、センサ光445およびシャッター光446は、共に波長が1300nmの近赤外光でも良い。この場合、波長変換層499によってセンサ光445およびシャッター光446が2光子吸収され、波長変換層499から波長が650nmの可視光が生じる。波長が650nmの可視光は、要素素子412によって、光電変換される。
【0198】
複数の要素素子412は例えば、厚さ1μmのシリコン層を想定する。1300nmの光はシリコンを完全に透過する。650nmの光の平均侵入深さは5μm程度である。光電変換層厚が1μmであれば1枚当たり20%程度の650nmの光が光電変換されて信号電子になる。このように650nmの光に対する要素素子412の感度を高めることができる。
【0199】
これにより、センサ光およびシャッター光がそれぞれ単独で要素素子412を通過するときの生成電荷量と比較し、センサ光とシャッター光との両方が要素素子412を通過するときの生成電荷量を増加させることができる。例えば、センサ光およびシャッター光がそれぞれ単独で要素素子412を通過する時の生成電荷量を1とするとき、センサ光およびシャッター光が同時に要素素子412を通過する時の生成電荷量はそれらの和の2乗である4倍とすることができる。すなわち、シャッター光は、通常のカメラのシャッターのように機能する(シャッター効果を起こすことができる)。
【0200】
なお、
図18では、3層構造を有する要素素子412により3枚の連続撮影ができる構造を示しているが、要素素子412の層の数はこれに限定されない。
【0201】
〔実施形態4〕
(電界感受性有機色素を含む光電変換層による高速シャッター)
図20は、実施形態4に係る撮像装置521による高速シャッターの方法を示す図である。撮像装置521は、1枚の光電変換素子512と、ビームスプリッタアレイ501とを備える。複数の要素素子512は、シリコンを含む光電変換層を備えるシリコンイメージセンサである。要素素子512の詳細な構成は、光電変換層が超格子層でなくてもよい点を除き、実施形態1に係る要素素子112と同様であってもよい。
【0202】
ビームスプリッタアレイ501は、上方から入射するセンサ光545を、光電変換素子512における複数の受光領域512a~512c(受光部)に導く。例えば、ビームスプリッタアレイ501は、第1ビームスプリッタ501a~第3ビームスプリッタ501cを備える。第1ビームスプリッタ501aは、上方から入射するセンサ光545を、第1受光領域512aおよび第2ビームスプリッタ501bに導く。第2ビームスプリッタ501bは、第1ビームスプリッタ501aから入射するセンサ光545を、第2受光領域512bおよび第3ビームスプリッタ501cに導く。第3ビームスプリッタ501cは、第2ビームスプリッタ501bから入射するセンサ光545を、第3受光領域512cに導く。
【0203】
このような構成により、複数の受光領域のそれぞれには、上方からセンサ光545が照射され、(実施形態1~3のような積層型と同様に)複数の受光領域ごとに電磁波が到達するまでの経路長を異ならせることができる。また、光電変換素子512の背面全体にわたって下方からシャッター光546が照射されることにより、複数の受光領域のそれぞれには、下方からシャッター光546が照射される。なお、シャッター光546は、上方から複数の受光領域に照射されてもよい。
【0204】
また、複数の受光領域のそれぞれは、複数の画素を備える。複数の画素のそれぞれは、電磁波を受光して電荷を生成する光電変換領域(光電変換部)を備える。ここで、センサ光とシャッター光との両方が受光領域を通過するときの光電変換領域の吸収係数は、センサ光が単独で受光領域を通過するときの光電変換領域の吸収係数より小さい。これにより、上記第3生成電荷量は上記第1生成電荷量より少なくなる。つまり、通常のカメラのシャッターが開くことによりイメージセンサの各画素での生成電荷量が増える現象とは逆に、シャッター光を受光領域に通過させることにより受光領域の各画素での生成電荷量を減少させることができる。結果として、撮像装置は、センサ光がシャッター光とともに受光領域を通過したときのセンサ光が有する被写体の情報を取得することができる。
【0205】
具体的には、光電変換領域は、電界感受性有機光電変換材料599を含む。これにより、上述の構成が達成される。
【0206】
電界感受性有機色素を光電変換層とする場合は、センサ光は可視光、シャッター光はテラヘルツパルス波となる。この場合、電解感受性有機色素はセンサ光に対して吸収率が高いものを選択し、テラヘルツ波が透過している時間だけ吸収スペクトルがシフトすることで吸収率がさがる。そのためセンサ光がシリコンセンサに到達し計測される。
【0207】
必要に応じて、テラヘルツ波に対する屈折率が高い材料を含み、厚さを遅延時間に合わせて制御したエタロン板502を用いて、複数の受光領域ごとのシャッター光の到達時刻に時間差をつけてもよい。
【0208】
(補足事項)
テラヘルツ波を用いる場合、
図3に示す様に、ピーク電界の後に大きな逆方向の電界を生じることが多い。これはパルス状の電位の立ち上がり部と立ち下がり部では電界の正負が逆になることで生じる。
図3の場合にピーク後の電界の絶対値がピーク後のそれに対して小さいのは、電位波形の立ち上がり部が急峻であり、立下り部が相対的に緩やかであることによる。
【0209】
逆方向電位で電子は逆方向に運動する。この対策として、一旦生起した電子の逆方向の運動を抑制する手段、もしくは生成した位置の近傍に留める手段が必要である。
【0210】
また超格子の場合は、生成した電子の読み出し方向を、強電界と逆方向、すなわち層と並行方向にしても良い。
【0211】
信号電荷はホールでも良い。
【0212】
現在、ポンプ・プローブ法でしか観察できない超高速現象を、本実施形態に係る撮像装置によれば、ワンショットの撮影で観察できるようになり、新規の材料開発、製薬開発等の基礎研究を進展させる。
【0213】
実用的な観点からは要素素子を積層させる枚数の最大値は10程度である。要素素子を1枚増やすごとに背景光強度が相対的に大きくなるからである。
【0214】
それでも十分科学技術上の意義がある。例えば要素素子の枚数が2枚であっても、本実施形態に係る撮像装置によれば、減衰係数や時系列画像相関等を計算することができる。
【0215】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0216】
112、174、312、412 複数の要素素子(複数の受光部)
512a~512c 複数の受光領域(複数の受光部)
113 複数の画素
118、175、181 積層素子
121、321、421、521 撮像装置
127 光電変換領域(光電変換部)
128 回路領域(転送部)
132 撮像システム
135 タイミングコントローラ(タイミング制御部)
136 テラヘルツ波整形装置(第2整形部)
139 近赤外レーザパルス整形装置(第1整形部)
145、182、345、445、545 センサ光(第1電磁波)
146、183、346、446、546 シャッター光(第2電磁波)