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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101974
(43)【公開日】2024-07-30
(54)【発明の名称】ポリイミド系樹脂
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/10 20060101AFI20240723BHJP
   B32B 15/088 20060101ALI20240723BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20240723BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
C08G73/10
B32B15/088
C08J5/18 CFG
H05K1/03 610N
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054381
(22)【出願日】2023-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2023006157
(32)【優先日】2023-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(74)【代理人】
【識別番号】100162710
【弁理士】
【氏名又は名称】梶田 真理奈
(72)【発明者】
【氏名】小沼 勇輔
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 正弘
(72)【発明者】
【氏名】高岡 裕太
(72)【発明者】
【氏名】西岡 宏司
【テーマコード(参考)】
4F071
4F100
4J043
【Fターム(参考)】
4F071AA60X
4F071AA81X
4F071AF14
4F071AF19
4F071AF40Y
4F071AF62Y
4F071AG28
4F071AH13
4F071BA02
4F071BB02
4F071BC01
4F071BC12
4F100AB17B
4F100AB33B
4F100AK49A
4F100BA02
4F100EH46A
4F100GB43
4F100JA02A
4F100JA07A
4F100JG05A
4F100JK17
4F100YY00A
4J043PA04
4J043QB15
4J043QB26
4J043RA06
4J043RA35
4J043SA06
4J043SA47
4J043SB03
4J043TA22
4J043TA71
4J043TB01
4J043TB03
4J043UA122
4J043UA131
4J043UA132
4J043UA141
4J043UA142
4J043UA151
4J043UB121
4J043UB131
4J043UB172
4J043XA03
4J043XA16
4J043ZA12
4J043ZA35
4J043ZA43
4J043ZB50
(57)【要約】
【課題】突刺強度が十分に高いポリイミド系フィルムを形成可能なポリイミド系樹脂を提供する。
【解決手段】ポリイミド系樹脂であって、多角度光散乱検出器と示差屈折率検出器を備えた装置を用いるゲル浸透クロマトグラフィーにおいて、
前記多角度光散乱検出器で得られる前記ポリイミド系樹脂の90°方向における光散乱信号強度を縦軸、溶出時間(分)を横軸とした前記ポリイミド系樹脂のクロマトグラムにおける、溶出開始点から溶出終了点までのピークの総面積をSLSとし、前記示差屈折率検出器で得られる前記ポリイミド系樹脂の屈折率信号強度を縦軸、溶出時間(分)を横軸とした前記ポリイミド系樹脂のクロマトグラムにおける、溶出開始点から溶出終了点までのピークの総面積をSRIとしたときに、SLS/SRIは1.0以上である、ポリイミド系樹脂。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド系樹脂であって、多角度光散乱検出器と示差屈折率検出器を備えた装置を用いるゲル浸透クロマトグラフィーにおいて、
前記多角度光散乱検出器で得られる前記ポリイミド系樹脂の90°方向における光散乱信号強度を縦軸、溶出時間(分)を横軸とした前記ポリイミド系樹脂のクロマトグラムにおける、溶出開始点から溶出終了点までのピークの総面積をSLSとし、前記示差屈折率検出器で得られる前記ポリイミド系樹脂の屈折率信号強度を縦軸、溶出時間(分)を横軸とした前記ポリイミド系樹脂のクロマトグラムにおける、溶出開始点から溶出終了点までのピークの総面積をSRIとしたときに、SLS/SRIは1.0以上である、ポリイミド系樹脂。
【請求項2】
重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は2.0以上である、請求項1に記載のポリイミド系樹脂。
【請求項3】
前記示差屈折率検出器で得られる前記ポリイミド系樹脂の屈折率信号強度を縦軸、溶出時間(分)を横軸とした前記ポリイミド系樹脂のクロマトグラムにおいて、前記ポリイミド系樹脂の絶対分子量が20万以上である成分の、溶出開始点から溶出終了点までのピーク面積をSM20としたときに、
(SM20/SRI)×100は0.5%以上である、請求項1又は2に記載のポリイミド系樹脂。
【請求項4】
前記ポリイミド系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、100,000以上である、請求項1又は2に記載のポリイミド系樹脂。
【請求項5】
前記ポリイミド系樹脂は、テトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A)とジアミン由来の構成単位(B)とを含む、請求項1又は2に記載のポリイミド系樹脂。
【請求項6】
前記構成単位(B)は、ビフェニル骨格含有ジアミン由来の構成単位(B1)を含む、請求項5に記載のポリイミド系樹脂。
【請求項7】
前記構成単位(B1)は、式(b1):
【化1】
[式(b1)中、Rb1は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、
pは0~4の整数を表す]
で表されるジアミン由来の構成単位(b1)である、請求項6に記載のポリイミド系樹脂。
【請求項8】
前記構成単位(A)は、エステル結合含有テトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A1)を含む、請求項5に記載のポリイミド系樹脂。
【請求項9】
前記構成単位(A1)は、式(a1):
【化2】
[式(a1)中、Zは2価の有機基を表し、
a1は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、
sは互いに独立に、0~3の整数を表す]
で表されるテトラカルボン酸無水物由来の構成単位(a1)である、請求項8に記載のポリイミド系樹脂。
【請求項10】
前記構成単位(A)は、ベンゼン骨格含有テトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A2)を含む、請求項5に記載のポリイミド系樹脂。
【請求項11】
前記構成単位(A2)は、式(a2):
【化3】
[式(a2)中、Ra2は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、
kは0~2の整数を表す]
で表されるテトラカルボン酸無水物由来の構成単位(a2)、及び/又は式(a2’):
【化4】

[式(a2’)中、Ra3は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、
tは、互いに独立に、0~3の整数を表す]
で表されるテトラカルボン酸無水物由来の構成単位(a2’)である、請求項10に記載のポリイミド系樹脂。
【請求項12】
前記構成単位(B)は、式(b2):
【化5】
[式(b2)中、Rb2は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、
Wは、互いに独立に、-O-、-CH-、-CH-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-C(CF-、-COO-、-OOC-、-SO-、-S-、-CO-又は-N(R)-を表し、Rは水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~12の一価の炭化水素基を表し、
mは1~4の整数を表し、
qは互いに独立に、0~4の整数を表す]
で表されるジアミン由来の構成単位(b2)を含む、請求項5に記載のポリイミド系樹脂。
【請求項13】
前記構成単位(B1)の含有量は、構成単位(B)の質量に対して30モル%を超える、請求項6に記載のポリイミド系樹脂。
【請求項14】
ポリイミド系樹脂を含むポリイミド系フィルムであって、多角度光散乱検出器と示差屈折率検出器を備えた装置を用いるゲル浸透クロマトグラフィーにおいて、
前記多角度光散乱検出器で得られる前記ポリイミド系樹脂の90°方向における光散乱信号強度を縦軸、溶出時間(分)を横軸とした前記ポリイミド系樹脂のクロマトグラムにおける、溶出開始点から溶出終了点までのピークの総面積をSLSとし、前記示差屈折率検出器で得られる前記ポリイミド系樹脂の屈折率信号強度を縦軸、溶出時間(分)を横軸とした前記ポリイミド系樹脂のクロマトグラムにおける、溶出開始点から溶出終了点までのピークの総面積をSRIとしたときに、SLS/SRIは1.0以上である、ポリイミド系フィルム。
【請求項15】
10GHzにおける誘電正接は0.004以下である、請求項14に記載のポリイミド系フィルム。
【請求項16】
線膨張係数は50ppm/K以下である、請求項14に記載のポリイミド系フィルム。
【請求項17】
厚さは5~100μmである、請求項14に記載のポリイミド系フィルム。
【請求項18】
請求項14に記載のポリイミド系フィルムの片面又は両面に金属箔層を含む、積層フィルム。
【請求項19】
請求項14に記載のポリイミド系フィルムを含む、フレキシブルプリント回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
高周波帯域用のプリント回路基板やアンテナ基板等に利用できるポリイミド系フィルムを形成することが可能なポリイミド系樹脂、該ポリイミド系フィルム及びこれを含む積層フィルム、並びにフレキシブルプリント回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキシブルプリント回路基板(以下、FPCと記載することがある)は、薄く軽量で可撓性を有するため、立体的、高密度な実装が可能であり、携帯電話、ハードディスク等の多くの電子機器に使用され、その小型化、軽量化に寄与している。従来、FPCには、耐熱性、電気絶縁性に優れるポリイミド樹脂が広く用いられており、例えば、FPCに使用される金属張積層板として、単層又は複数層のポリイミド系フィルムの片面又は両面に金属層を有する積層体が知られている。
近年、5Gと称される第5世代移動通信システムが本格的に普及しつつあり(例えば特許文献1)、5G以降の高速通信用途に適したポリイミド系フィルムが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-161285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
5G以降の高速通信用途に利用されるポリイミド系フィルムには、フィルムの厚み方向に衝撃が加わる可能性があるため、そのような衝撃に耐えうる突刺強度が求められる。しかし、本発明者の検討によれば、従来のポリイミド系フィルムは、突刺強度が十分でないことがわかった。
【0005】
したがって、本発明の目的は、突刺強度が十分に高いポリイミド系フィルムを形成することが可能なポリイミド系樹脂、該ポリイミド系フィルム及びこれを含む積層フィルム、並びにフレキシブルプリント回路基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、特定のポリイミド系樹脂によって、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明には、以下の態様が含まれる。
【0007】
〔1〕ポリイミド系樹脂であって、多角度光散乱検出器と示差屈折率検出器を備えた装置を用いるゲル浸透クロマトグラフィーにおいて、
前記多角度光散乱検出器で得られる前記ポリイミド系樹脂の90°方向における光散乱信号強度を縦軸、溶出時間(分)を横軸とした前記ポリイミド系樹脂のクロマトグラムにおける、溶出開始点から溶出終了点までのピークの総面積をSLSとし、前記示差屈折率検出器で得られる前記ポリイミド系樹脂の屈折率信号強度を縦軸、溶出時間(分)を横軸とした前記ポリイミド系樹脂のクロマトグラムにおける、溶出開始点から溶出終了点までのピークの総面積をSRIとしたときに、SLS/SRIは1.0以上である、ポリイミド系樹脂。
〔2〕重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は2.0以上である、〔1〕に記載のポリイミド系樹脂。
〔3〕前記示差屈折率検出器で得られる前記ポリイミド系樹脂の屈折率信号強度を縦軸、溶出時間(分)を横軸とした前記ポリイミド系樹脂のクロマトグラムにおいて、前記ポリイミド系樹脂の絶対分子量が20万以上である成分の、溶出開始点から溶出終了点までのピーク面積をSM20としたときに、
(SM20/SRI)×100は0.5%以上である、〔1〕又は〔2〕に記載のポリイミド系樹脂。
〔4〕前記ポリイミド系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、100,000以上である、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のポリイミド系樹脂。
〔5〕前記ポリイミド系樹脂は、テトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A)とジアミン由来の構成単位(B)とを含む、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のポリイミド系樹脂。
〔6〕前記構成単位(B)は、ビフェニル骨格含有ジアミン由来の構成単位(B1)を含む、〔5〕に記載のポリイミド系樹脂。
〔7〕前記構成単位(B1)は、式(b1):
【化1】
[式(b1)中、Rb1は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、
pは0~4の整数を表す]
で表されるジアミン由来の構成単位(b1)である、〔6〕に記載のポリイミド系樹脂。
〔8〕前記構成単位(A)は、エステル結合含有テトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A1)を含む、〔5〕~〔7〕のいずれかに記載のポリイミド系樹脂。
〔9〕前記構成単位(A1)は、式(a1):
【化2】
[式(a1)中、Zは2価の有機基を表し、
a1は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、
sは互いに独立に、0~3の整数を表す]
で表されるテトラカルボン酸無水物由来の構成単位(a1)である、〔8〕に記載のポリイミド系樹脂。
〔10〕前記構成単位(A)は、ベンゼン骨格含有テトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A2)を含む、〔5〕~〔9〕のいずれかに記載のポリイミド系樹脂。
〔11〕前記構成単位(A2)は、式(a2):
【化3】
[式(a2)中、Ra2は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、
kは0~2の整数を表す]
で表されるテトラカルボン酸無水物由来の構成単位(a2)、及び/又は式(a2’):
【化4】

[式(a2’)中、Ra3は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、
tは、互いに独立に、0~3の整数を表す]
で表されるテトラカルボン酸無水物由来の構成単位(a2’)である、〔10〕に記載のポリイミド系樹脂。
〔12〕前記構成単位(B)は、式(b2):
【化5】
[式(b2)中、Rb2は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、
Wは、互いに独立に、-O-、-CH-、-CH-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-C(CF-、-COO-、-OOC-、-SO-、-S-、-CO-又は-N(R)-を表し、Rは水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~12の一価の炭化水素基を表し、
mは1~4の整数を表し、
qは互いに独立に、0~4の整数を表す]
で表されるジアミン由来の構成単位(b2)を含む、〔5〕~〔11〕のいずれかに記載のポリイミド系樹脂。
〔13〕前記構成単位(B1)の含有量は、構成単位(B)の質量に対して30モル%を超える、〔6〕~〔12〕のいずれかに記載のポリイミド系樹脂。
〔14〕ポリイミド系樹脂を含むポリイミド系フィルムであって、多角度光散乱検出器と示差屈折率検出器を備えた装置を用いるゲル浸透クロマトグラフィーにおいて、
前記多角度光散乱検出器で得られる前記ポリイミド系樹脂の90°方向における光散乱信号強度を縦軸、溶出時間(分)を横軸とした前記ポリイミド系樹脂のクロマトグラムにおける、溶出開始点から溶出終了点までのピークの総面積をSLSとし、前記示差屈折率検出器で得られる前記ポリイミド系樹脂の屈折率信号強度を縦軸、溶出時間(分)を横軸とした前記ポリイミド系樹脂のクロマトグラムにおける、溶出開始点から溶出終了点までのピークの総面積をSRIとしたときに、SLS/SRIは1.0以上である、ポリイミド系フィルム。
〔15〕10GHzにおける誘電正接は0.004以下である、〔14〕に記載のポリイミド系フィルム。
〔16〕線膨張係数は50ppm/K以下である、〔14〕又は〔15〕に記載のポリイミド系フィルム。
〔17〕厚さは5~100μmである、〔14〕~〔16〕のいずれかに記載のポリイミド系フィルム。
〔18〕〔14〕~〔17〕のいずれかに記載のポリイミド系フィルムの片面又は両面に金属箔層を含む、積層フィルム。
〔19〕〔14〕~〔18〕のいずれかに記載のポリイミド系フィルムを含む、フレキシブルプリント回路基板。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、突刺強度が十分に高いポリイミド系フィルムを形成することが可能なポリイミド系樹脂を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明の範囲はここで説明する実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更をすることができる。また、特定のパラメータについて複数の上限値及び下限値が記載されている場合、これらの上限値及び下限値のうち任意の上限値と下限値とを組合せて好適な数値範囲とすることができる。
【0010】
〔ポリイミド系樹脂〕
<GPC測定>
本発明のポリイミド系樹脂は、多角度光散乱検出器と示差屈折率検出器を備えた装置を用いるゲル浸透クロマトグラフィーにおいて得られるLS面積(SLSと表記する)とRI面積(SRIと表記する)との比(SLS/SRI)が1.0以上である。SLSは、前記多角度光散乱検出器で得られる前記ポリイミド系樹脂の90°方向における光散乱信号強度を縦軸、溶出時間(分)を横軸とした前記ポリイミド系樹脂のクロマトグラムにおける、溶出開始点から溶出終了点までのピークの総面積を表し、SRIは前記示差屈折率検出器で得られる前記ポリイミド系樹脂の屈折率信号強度を縦軸、溶出時間(分)を横軸とした前記ポリイミド系樹脂のクロマトグラムにおける、溶出開始点から溶出終了点までのピークの総面積を表す。本明細書において、ポリイミド系樹脂を「PI系樹脂」と称し、ポリイミド系フィルムを「PI系フィルム」と称することがある。
【0011】
本発明者は、PI系フィルムが前記SLS/SRIが1.0以上であるPI系樹脂を含む場合、驚くべきことに、十分に高い突刺強度を有することを見出した。これは、PI系樹脂が分岐の多い構造を有し、かつ多くの高分子量成分から構成されていることにより、フィルム厚み方向にかかる衝撃に強くなるからだと推定される。
【0012】
さらに本発明者は、PI系フィルムが前記SLS/SRIが1.0以上であるPI系樹脂を含む場合、基材に対して優れた接着性を発現しやすくなることも見出した。これは、PI系樹脂が分岐の多い構造を有し、かつ多くの高分子量成分から構成されていることにより、凝集破壊が抑制されやすいので、基材との界面破壊の起点となり得る剥離を防止できるからだと推定される。
【0013】
前記SLS/SRIは、好ましくは1.5以上、より好ましくは2.0以上、さらに好ましくは2.5以上、さらにより好ましくは3.0以上である。前記SLS/SRIが上記の下限以上であると、突刺強度や基材との接着性をより高めることができる。また、前記SLS/SRIは、好ましくは10以下、より好ましくは8.0以下、さらに好ましくは5.0以下である。前記SLS/SRIが上記の上限以下であると、分岐構造が多くなりすぎず、PI系樹脂の配向が阻害されないため、突刺強度の低下や基材との接着性の低下を防ぐことができ、また線膨張係数(CTE)も低減しやすくなる。
【0014】
前記SLS/SRIの求め方を以下に説明する。SLS/SRIは、多角度光散乱検出器と示差屈折率検出器を備えた装置を用いるゲル浸透クロマトグラフィーにおいて、SLSとSRIとをそれぞれ測定後、SLSをSRIで除することにより求められる。SRIは、前記示差屈折率検出器を用いて、ISO16014-1の記載に従ってベースラインを設定した屈折率信号強度を縦軸、溶出時間(分)を横軸とするPI系樹脂のクロマトグラムを得て、該クロマトグラムにおいて、溶出開始点から溶出終了点までを全成分について積算することで得ることができる。SLSは、前記多角度光散乱検出器を用いて、ISO16014-1の記載に従ってベースラインを設定した90°方向における光散乱信号強度を縦軸、溶出時間(分)を横軸とするPI系樹脂のクロマトグラムを得て、該クロマトグラムにおいて、溶出開始点から溶出終了点までを全成分について積算することで得ることができる。
【0015】
なお、上記のゲル浸透クロマトグラフィー測定において、移動相はPFP及びクロロホルムから成る混合溶媒(重量分率:PFP/クロロホルム=34/66)であり、測定温度は23℃である。PI系樹脂の移動相中での屈折率増分(dn/dc)は0.233mL/gであり、屈折率増分とは、濃度変化に対する屈折率の変化率である。上記のゲル浸透クロマトグラフィー測定は、例えば実施例に記載の方法により実施でき、SLS/SRIは、例えば実施例に記載の方法により求められる。
【0016】
本発明の一実施形態において、本発明のPI系樹脂は、前記示差屈折率検出器で得られる前記PI系樹脂の屈折率信号強度を縦軸、溶出時間(分)を横軸とした前記PI系樹脂のクロマトグラムにおいて、絶対分子量が20万以上である成分の、溶出開始点から溶出終了点までのピーク面積をSM20としたときに、(SM20/SRI)×100(RI面積率と称することがある)が0.5%以上であることが好ましい。RI面積率は、全成分のうちの高分子量成分の割合を示し、PI系樹脂の分岐が生じると、より高分子量成分の量が増える傾向にある。RI面積率が0.5%以上であると、PI系フィルムの突刺強度や基材との接着性を高めることができる。これは、PI系樹脂が分岐の多い構造を有し、多くの高分子量成分を含む構成であるからだと推定される。RI面積率は、好ましくは1%以上、より好ましくは3%以上、さらに好ましくは5%以上、さらにより好ましくは10%以上、特に好ましくは13%以上、特により好ましくは17%以上である。RI面積率が上記の下限以上であると、突刺強度や基材との接着性をより高めることができる。RI面積率は、好ましくは50%以下、より好ましくは40%以下、さらに好ましくは30%以下である。RI面積率が上記の上限以下であると、分岐構造が多くなりすぎず、PI系樹脂の配向が阻害されないため、突刺強度の低下や基材の接着性の低下を防ぐことができ、また製膜時の加工性の観点で有利である。SRIは、上記の通り、前記示差屈折率検出器を用いて、ISO16014-1の記載に従ってベースラインを設定した屈折率信号強度を縦軸、溶出時間(分)を横軸とするPI系樹脂のクロマトグラムにおいて、溶出開始点から溶出終了点までを全成分について積算した値であるのに対して、SM20は、これらの成分のうち、絶対分子量が20万以上の成分について積算した値である。絶対分子量が20万以上の成分は、多角度光散乱検出器と示差屈折率検出器により得られたデータから、各成分の絶対分子量をデータ処理ソフトASTRAで解析することで特定できる。RI面積率は、例えば実施例に記載の方法により求められる。なお、絶対分子量の値は、後述の通りに求めることができる。
【0017】
LS/SRIやRI面積率は、PI系樹脂の分子量や分子構造が反映された値であり、PI系樹脂に含まれる高分子量成分や分岐構造が増加すると大きくなる傾向があり、高分子量成分や分岐構造が少なくなると小さくなる傾向がある。
【0018】
LS/SRIやRI面積率は、PI系樹脂を構成する構成単位の種類及びそれらの構成、並びに、PI系樹脂の分子量、及びイミド化条件等の製造方法を適宜調整することによって調整し得、例えば後述の説明において、突刺強度や基材との接着性等に有利な好ましい態様を採用等することによって上記範囲内に調整してもよい。例えば、後述の好ましいPI系樹脂の構成単位及びその含有量、後述の好ましいPI系樹脂前駆体溶液に含まれる溶媒、後述の好ましいイミド化条件を用いること等により適宜調整してもよい。特に、後述のイミド化条件における塗膜の乾燥条件を後述の通りに行うことや、後述のイミド化時に塗膜全体に溶媒が十分に存在した状態(又は良く馴染んだ状態)でイミド化すること(好ましくは後述の静置工程を経ること)でSLS/SRIやRI面積率を上記の範囲に調整できる。また、イミド化条件に加えて、PI系樹脂が強直すぎず、ある程度自由度がある柔軟な構造を含んでいると、イミド化する際の加熱時に分岐を生じさせやすく、高分子量成分が増加しやすい傾向にあるので、SLS/SRIやRI面積率が上記の範囲になりやすい傾向がある。
【0019】
本発明の一実施形態において、前記SLS(mV・分)は、特に限定されないが、例えば20以上、30以上、50以上、70以上、90以上又は110以上であってもよく、例えば300以下、200以下、又は150以下であってもよい。前記SRI(μRIU・分)は、特に限定されないが、例えば150以下、100以下、又は50以下であってもよく、例えば10以上、20以上、又は30以上であってもよい。
【0020】
本発明の一実施形態において、本発明のPI系樹脂は、多角度光散乱検出器と示差屈折率検出器を備えた装置を用いるゲル浸透クロマトグラフィーにより得られるPI系樹脂の絶対分子量と慣性半径のデータを、前記絶対分子量の対数を横軸、前記慣性半径の対数を縦軸としてプロットし、前記プロットのデータを、横軸が前記PI系樹脂の重量平均分子量(Mw)の対数以上、z平均分子量(Mz)の対数以下の範囲において最小二乗法近似することにより得られる式(I):
logR=αlogM+logK (I)
[式(I)中、Rは前記ポリイミド系樹脂の慣性半径(nm)を表し、Mは前記ポリイミド系樹脂の絶対分子量を表し、Kは定数を表す]
により表わされる直線の傾きの値として定義されるαが0.10以上0.55以下であることが好ましい。なお、logKは式(I)で表される直線の切片を示す。
【0021】
式(I)における値αが0.10以上0.55以下であるPI系樹脂を含むPI系フィルムは、突刺強度をより高めることができる。これは、PI系樹脂が最適な分岐構造を有することにより、PI系樹脂の分子鎖の絡み合いが生じやすくなるため、PI系フィルムの厚み方向にかかる衝撃に対する強度が向上するからだと推定される。
【0022】
さらに、式(I)における値αが0.10以上0.55以下であると、PI系樹脂を含むPI系フィルムが基材に対して優れた接着性をより発現しやすくなる。これは、PI系樹脂が最適な分岐構造を有することにより、凝集破壊がより抑制されやすいので、基材との界面破壊の起点となり得る剥離をより防止しやすいからだと推定される。
【0023】
値αは、好ましくは0.5以下、より好ましくは0.45以下、さらに好ましくは0.4以下、さらにより好ましくは0.35以下であり、好ましくは0.15以上、より好ましくは0.2以上、さらに好ましくは0.25以上である。値αが上記の上限以下であると、PI系樹脂に含まれる分岐構造の量が大きくなるので、突刺強度を向上しやすい。また凝集破壊が抑制されやすくなるので、基材との接着性をより発現しやすい。また、値αが上記の下限以上であると、分岐構造が多くなりすぎず、PI系樹脂の配向が阻害されないため、突刺強度の低下や基材との接着性の低下を防ぐことができ、また線膨張係数(CTE)も低減しやすくなる。
【0024】
値αの求め方を以下に説明する。値αは式(I)により表される直線の傾きである。まず、多角度光散乱検出器と示差屈折率検出器を備えた装置を用いるゲル浸透クロマトグラフィーにおいて、多角度光散乱検出器から散乱角θにおける過剰レイリー比(R(θ))、示差屈折率検出器からポリマー濃度(c)をそれぞれ求める。得られたR(θ)及びcのデータを元に、Wyatt Technology社のデータ処理ソフトASTRAを使用して、絶対分子量、慣性半径、数平均分子量(Mnと略記することがある)、重量平均分子量(Mwと略記することがある)、及びZ平均分子量(Mzと略記することがある)を求める。ここで、PI系樹脂の絶対分子量、及び慣性半径は、例えば、以下の式(II)等を用いることにより解析できる。
[式(II)中、R(θ)は散乱角θにおける過剰レイリー比を表し、cはPI系樹脂のポリマー濃度を表し、Rは前記PI系樹脂の慣性半径(nm)を表し、Mは前記PI系樹脂の絶対分子量を表し、λは入射光の真空中での波長を表し、nは移動相の屈折率を表し、K’は光学定数を表す]
【0025】
次に、得られた絶対分子量の対数を横軸、慣性半径の対数を縦軸にプロットし、得られたプロットのデータにおいて、横軸がPI系樹脂のMwの対数以上、Mzの対数以下の範囲内で最小二乗法近似することにより、式(I)で表される直線を得る。得られた式(I)で表される直線の傾きから値αが得られる。値αは、例えば実施例に記載の方法により求めることができる。
【0026】
式(I)における傾きの値αは、PI系樹脂の分子形態や分子構造が反映された値であり、値αが小さくなるほど、樹脂に含まれる分岐構造が多くなる又は凝集の程度が大きくなる傾向があり、値αが大きくなるほど、樹脂に含まれる分岐構造が少なくなる又は凝集の程度が小さくなる傾向がある。値αは、上記のSLS/SRIやRI面積率と同様の方法により上記の範囲に調整してもよく、好ましくは、後述のイミド化条件における塗膜の乾燥条件を後述の通りに行うことや、後述のイミド化時に塗膜全体に溶媒が十分に存在した状態(又は良く馴染んだ状態)でイミド化すること(好ましくは後述の静置工程を経ること)で上記の範囲に調整できる。
【0027】
本発明の一実施形態において、本発明のPI系樹脂の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、好ましくは2.0以上、より好ましくは2.2以上、さらに好ましくは2.5以上、さらにより好ましくは2.7以上、特に好ましくは3.0以上である。Mw/Mnが上記の下限以上であると、突刺強度や基材との接着性を高めやすい。Mw/Mnの上限は、好ましくは10以下、より好ましくは8以下、さらに好ましくは5以下である。
【0028】
本発明の一実施形態において、本発明のPI系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、突刺強度や基材との接着性を高める観点から、例えば、10,000以上、好ましくは40,000以上、より好ましくは70,000以上、さらに好ましくは100,000以上、さらにより好ましくは150,000以上、特に好ましくは200,000以上、特により好ましくは250,000以上、特にさらに好ましくは300,000以上である。また、ワニスの製造容易性や製膜性の観点から、好ましくは800,000以下、より好ましくは600,000以下、さらに好ましくは500,000以下、さらにより好ましくは450,000以下である。
【0029】
本発明の一実施形態において、本発明のPI系樹脂の数平均分子量(Mn)は、突刺強度や基材との接着性を高める観点から、例えば、5,000以上、好ましくは20,000以上、より好ましくは40,000以上、さらに好ましくは60,000以上、さらにより好ましくは80,000以上である。また、ワニスの製造容易性や製膜性の観点から、好ましくは400,000以下、より好ましくは250,000以下、さらに好ましくは150,000以下である。
【0030】
本発明の一実施形態において、本発明のPI系樹脂のz平均分子量(Mz)は、突刺強度や基材との接着性を高める観点から、例えば、110,000以上、好ましくは200,000以上、より好ましくは500,000以上、さらに好ましくは1,000,000以上、さらにより好ましくは1,500,000以上であり、また、ワニスの製造容易性や製膜性の観点から、好ましくは8,000,000以下、より好ましくは5,000,000以下、さらに好ましくは3,000,000以下である。Mw、Mn及びMzは、上記のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定でき、例えば実施例に記載の方法により測定できる。なお、PI系樹脂の上記のMn、Mw、Mzは相対分子量ではなく絶対分子量であり、上記のMw/Mnも絶対分子量分布である。
【0031】
PI系樹脂は1種類で構成されていてもよく、2種類以上混合されたものであってもよい。PI系樹脂のSM20、SLS、SRI、Mn、Mw、Mz、値α等を求めるための上記のGPC測定は、PI系樹脂をフィルム化した後であっても、例えばペンタフルオロフェノール等の溶媒に溶解させて行うことができる。例えば、1つのPI系樹脂含有層(単にPI層ということがある)から構成される単層のPI系フィルム(単層PI系フィルムということがある)が1種又は2種以上のPI系樹脂からなる場合は、該単層PI系フィルムを溶媒に溶解させてGPC測定を行ってもよく、2つ以上のPI系樹脂含有層から構成される多層のPI系フィルム(多層PI系フィルムということがある)が1種又は2種以上のPI系樹脂からなる場合は、該多層PI系フィルムを溶媒に溶解させてGPC測定を行ってもよい。なお、本明細書において、PI系フィルムは、単層PI系フィルムと多層PI系フィルムを含む意味である。
【0032】
本発明のPI系樹脂は、誘電特性にも優れており、誘電正接(以下、Dfと記載することがある)や比誘電率(以下、Dkと記載することがある)が低いPI系フィルム及び金属張積層板を形成できる。そのため、該金属積層板は、5Gの通信に適用可能な高周波信号を伝送する高周波帯域であっても低い伝送損失を実現できる。このように、本発明のPI系樹脂は、低いDfを有しつつ、十分に高い突刺強度や基材への接着性を発現できる。なお、本明細書において、誘電特性とは、Df、Dk等の誘電に関する特性を意味し、誘電特性が高まる又は向上するとは、Df及び/又はDkが低減することを示す。機械物性とは、突刺強度、屈曲耐性、及び、弾性率を含む機械的物性を意味し、機械物性が高まる又は向上するとは、例えば、突刺強度、屈曲耐性、及び/又は弾性率が高くなることを示す。熱物性とは、CTE、ガラス転移温度(Tgと記載することがある)、熱による変性や劣化の程度等を含む物性を意味し、熱物性が高まる又は向上するとは、例えば、CTEが低くなること、Tgが高くなること、及び/又は、熱による変性や劣化が少ないこと等を示す。
【0033】
<構成単位>
本発明のPI系樹脂は、イミド基を含む繰返し構造単位を含有する樹脂であり、イミド基及びアミド基の両方を含む繰り返し構造単位を含んでいてもよい。
【0034】
本発明のPI系樹脂は、PI系フィルムの突刺強度、基材との接着性や誘電特性等を高める観点から、テトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A)とジアミン由来の構成単位(B)とを含むことが好ましい。なお、本発明において「由来の構成単位」とは、「由来する構成単位」を意味し、例えば「テトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A)」は「テトラカルボン酸無水物に由来する構成単位(A)」を意味する。
【0035】
(テトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A))
テトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A)(以下、単に、構成単位(A)と略すことがある)は、例えば、式(1):
【化6】
[式(1)中、Yは4価の有機基を表す]
で表されるテトラカルボン酸無水物由来の構成単位であることが好ましい。
【0036】
式(1)において、Yは、互いに独立に4価の有機基を表し、好ましくは炭素数4~40の4価の有機基を表し、より好ましくは環状構造を有する炭素数4~40の4価の有機基を表す。環状構造としては、脂環、芳香環、ヘテロ環構造が挙げられる。前記有機基は、有機基中の水素原子がハロゲン原子、炭化水素基、アルコキシ基又はハロゲン化炭化水素基で置換されていてもよく、その場合、これらの基の炭素数は好ましくは1~8である。本発明のPI系樹脂は、複数種のYを含み得、複数種のYは、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。Yとしては、式(31)~式(40)で表される基又は構造;式(31)~式(40)で表される基中の水素原子がメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、フルオロ基、クロロ基又はトリフルオロメチル基で置換された基;4価の炭素数1~8の鎖式炭化水素基などが挙げられる。
【0037】
【化7】
[式(31)~式(33)中、R19~R26及びR23’~R26’は、互いに独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基を表し、R19~R26及びR23’~R26’に含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよく、
及びVは、互いに独立に、単結合(ただし、e+d=1のときを除く)、-O-、-CH-、-CH-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-C(CF-、-SO-、-S-、-CO-、-N(R)-、又は式(a)
【化8】
(式(a)中、R27~R30は、互いに独立に、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表し、
Dは互いに独立に、単結合、-C(CH-又は-C(CFを表し、
iは1~3の整数を表し、
*は結合手を表す)
を表し、
は、水素原子、又はハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~12の一価の炭化水素基を表し、
e及びdは、互いに独立に、0~2の整数を表し(ただし、e+dは0ではない)、
fは0~3の整数を表し、
g及びhは、互いに独立に、0~4の整数を表し、
式(39)中、Zは2価の有機基を表し、
a1は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、
sは互いに独立に、0~3の整数を表し、
式(40)中、Ra3は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、
tは、互いに独立に、0~3の整数を表し、
*は結合手を表す]。
【0038】
本発明におけるPI系樹脂は、PI系フィルムの機械物性、基材との接着性、熱物性や誘電特性等を高める観点から、式(1)中のYとして、式(31)、式(32)、式(33)、式(39)及び式(40)で表される構造からなる群から選択される少なくとも1つの構造を含むことが好ましく、エステル結合を含有する構造、及びベンゼン骨格を含有する構造からなる群から選択される少なくとも1つの構造を含むことがより好ましく、式(32)、式(39)及び式(40)で表される構造からなる群から選択される少なくとも1つの構造を含むことがさらに好ましい。
【0039】
式(31)~式(33)において、R19~R26及びR23’~R26’は、互いに独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基を表す。
炭素数1~6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、2-メチル-ブチル基、3-メチルブチル基、2-エチル-プロピル基、n-ヘキシル基等が挙げられる。
炭素数1~6のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基及びシクロヘキシルオキシ基等が挙げられる。
炭素数6~12のアリール基としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基及びビフェニル基等が挙げられる。R19~R26及びR23’~R26’に含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよく、該ハロゲン原子としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。これらの中でも、PI系フィルムの機械物性、基材との接着性や熱物性を向上する観点から、R19~R26及びR23’~R26’は、互いに独立に、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基が好ましく、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基がより好ましく、水素原子がさらに好ましい。
【0040】
式(31)において、V及びVは、互いに独立に、単結合(ただし、e+d=1のときを除く)、-O-、-CH-、-CH-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-C(CF-、-SO-、-S-、-CO-、-N(R)-又は式(a)を表し、PI系フィルムの機械物性、基材との接着性や熱物性を向上する観点から、好ましくは単結合(ただし、e+d=1のときを除く)、-O-、-CH-、-C(CH-、-C(CF-又は-CO-を表し、より好ましくは単結合(ただし、e+d=1のときを除く)、-O-、-C(CH-又は-C(CF-を表す。Rは水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~12の一価の炭化水素基を表す。炭素数1~12の1価の炭化水素基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、2-メチル-ブチル基、3-メチルブチル基、2-エチル-プロピル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、tert-オクチル基、n-ノニル基及びn-デシル基等が挙げられ、これらはハロゲン原子で置換されていてもよい。ハロゲン原子としては、上記と同様のものが挙げられる。
【0041】
式(31)において、e及びdは、互いに独立に、0~2の整数を表し(ただし、e+dは0ではない)、PI系フィルムのDfを低減する観点から、好ましくは0又は1を表す。また、e+dは好ましくは1を表す。なお、式(31)において、eが0のときは、2つのベンゼン環はVで結合していないことを示し、dが0のときは、2つのベンゼン環はVで結合していないことを示す。
【0042】
式(32)及び式(33)において、fは0~3の整数を表し、PI系フィルムのDfを低減する観点から、好ましくは0又は1、より好ましくは0を表す。
【0043】
式(33)において、g及びhは、互いに独立に、0~4の整数を表し、PI系フィルムの機械物性、基材との接着性や熱物性を高める観点から、好ましくは0~2の整数、より好ましくは0又は1を表す。また、g+hは好ましくは0~2の整数を表す。なお、fが1以上の場合、複数のg及びhは、互いに独立に、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0044】
式(a)において、R27~R30は、互いに独立に、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表す。
炭素数1~6のアルキル基としては上記に例示のものが挙げられる。これらの中でも、PI系フィルムの機械物性、基材との接着性や熱物性を高める観点から、R27~R30は、互いに独立に、好ましくは水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を表し、より好ましくは水素原子を表す。
【0045】
式(a)において、Dは、単結合、-C(CH-又は-C(CF-を表す。Dがこのような構造であると、PI系フィルムの機械物性、基材との接着性や熱物性を向上しやすい。iは1~3の整数を表し、PI系フィルムの機械物性、基材との接着性や熱物性を高める観点から、好ましくは1又は2である。iが2以上の場合、複数のD及びR27~R30は、互いに独立に、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0046】
式(39)において、Zは2価の有機基を表し、PI系フィルムの機械物性、基材との接着性、熱物性や誘電特性等を向上する観点から、好ましくは炭素数4~40の2価の有機基を表し、より好ましくは環状構造を有する炭素数4~40の2価の有機基を表し、さらに好ましくは芳香環を有する炭素数4~40の2価の有機基を表し、特に好ましくは式(z1)、式(z2)及び式(z3):
【化9】
[式(z1)~式(z3)中、Rz11~Rz14は、互いに独立に、水素原子、又はハロゲン原子を有してもよい1価の炭化水素基を表し、Rz2は、互いに独立に、ハロゲン原子を有してもよい1価の炭化水素基を表し、nは1~4の整数を表し、jは、互いに独立に、0~3の整数を表し、*は結合手を表す]
からなる群から選択される2価の有機基を表し、特により好ましくは式(z1)で表される2価の有機基を表す。
【0047】
式(z1)において、Rz11~Rz14は、互いに独立に、水素原子、又はハロゲン原子を有してもよい1価の炭化水素基を表す。
1価の炭化水素基としては、芳香族炭化水素基、脂環族炭化水素基、脂肪族炭化水素基が挙げられる。
芳香族炭化水素基としては、例えばフェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニル基などのアリール基が挙げられる。
脂環族炭化水素基としては、例えばシクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基が挙げられる。
脂肪族炭化水素基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、2-メチル-ブチル基、3-メチルブチル基、2-エチル-プロピル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、tert-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等のアルキル基が挙げられる。
ハロゲン原子としては、上記に記載のものが挙げられる。
z11~Rz14は、PI系フィルムの機械物性、基材との接着性、熱物性や誘電特性等を向上する観点から、互いに独立に、好ましくは水素原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、より好ましくは水素原子、又はハロゲン原子を有してもよい炭素数1~6のアルキル基、さらに好ましくは水素原子、又はハロゲン原子を有してもよい炭素数1~3のアルキル基、とりわけ好ましくは水素原子を表す。
【0048】
式(z1)において、nは1~4の整数を表し、PI系フィルムの機械物性、基材との接着性、熱物性や誘電特性等を向上する観点から、好ましくは1~3の整数、より好ましくは1又は2、とりわけ好ましくは2を表す。
【0049】
式(z2)において、Rz2は、互いに独立に、ハロゲン原子を有してもよい1価の炭化水素基を表し、1価の炭化水素基としては、上記に例示のものが挙げられる。Rz2は、PI系フィルムのDfを低減する観点から、互いに独立に、好ましくはハロゲン原子を有してもよいアルキル基、より好ましくはハロゲン原子を有してもよい炭素数1~6のアルキル基、さらに好ましくはハロゲン原子を有してもよい炭素数1~3のアルキル基を表す。
【0050】
式(z2)において、jは、互いに独立に、0~3の整数を表し、PI系フィルムのDfを低減する観点から、好ましくは0又は1、より好ましくは0である。
【0051】
式(39)において、Ra1は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、PI系フィルムの機械物性、熱物性、基材との接着性や誘電特性等を向上する観点から、好ましくは互いに独立に、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基を表す。
炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基及び炭素数6~12のアリール基としては、上記に例示のものが挙げられる。
a1に含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよく、ハロゲン原子としては上記に例示のものが挙げられる。これらの中でも、PI系フィルムの機械物性、熱物性、基材との接着性や誘電特性等を向上する観点から、Ra1は、互いに独立に、好ましくは炭素数1~6のアルキル基、より好ましくは炭素数1~3のアルキル基を表す。
【0052】
式(39)において、sは互いに独立に、0~3の整数を表し、PI系フィルムの機械物性、熱物性、基材との接着性や誘電特性等を向上する観点から、好ましくは0~2の整数、より好ましくは0又は1を表す。
【0053】
式(40)において、Ra3は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、PI系フィルムの機械物性、熱物性、基材との接着性や誘電特性等を向上する観点から、好ましくは互いに独立に、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基を表す。
炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基及び炭素数6~12のアリール基としては、上記に例示のものが挙げられる。
a3に含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよく、ハロゲン原子としては上記に例示のものが挙げられる。これらの中でも、PI系フィルムの機械物性、熱物性、基材との接着性や誘電特性等を向上する観点から、Ra3としては、互いに独立に、好ましくは炭素数1~6のアルキル基、より好ましくは炭素数1~3のアルキル基が挙げられる。
【0054】
式(40)において、tは、互いに独立に、0~3の整数を表し、PI系フィルムの機械物性、熱物性、基材との接着性や誘電特性等を向上する観点から、好ましくは0~2の整数、より好ましくは0又は1を表す。
【0055】
式(31)~式(33)、式(39)及び式(40)で表される構造の具体例としては、式(41)~式(56)で表される構造が挙げられる。なお、これらの式中、*は結合手を表す。
【0056】
【化10】
【0057】
本発明の一実施形態において、式(1)中のYとして、式(31)~式(33)、式(39)及び式(40)で表される構造からなる群から選択される少なくとも1つを含む場合、式(1)中のYが式(31)~式(33)、式(39)及び式(40)で表される構造からなる群から選択される少なくとも1つで表されるテトラカルボン酸無水物由来の構成単位の割合、特に式(1)中のYが式(32)、式(39)及び式(40)で表される構造からなる群から選択される少なくとも1つで表されるテトラカルボン酸無水物由来の構成単位の割合は、構成単位(A)の総モル量に対して、好ましくは30モル%以上、より好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上、特に好ましくは90モル%以上であり、好ましくは100モル%以下である。前記割合が上記範囲であると、PI系フィルムの機械物性、熱物性、基材との接着性や誘電特性等を高めやすい。前記構成単位の割合は、例えばH-NMRを用いて測定することができ、又は原料の仕込み比から算出することもできる。
【0058】
(エステル結合含有テトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A1))
本発明の一実施形態において、構成単位(A)は、エステル結合含有テトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A1)(以下、単に構成単位(A1)と略すことがある)を含むことが好ましい。構成単位(A)が前記構成単位(A1)を含むと、PI系フィルムの突刺強度や基材との接着性を向上できる。これは、強直すぎず、ある程度自由度がある柔軟な構造であるため、イミド化時に加熱により分岐構造を形成しやすく、高分子量化もしやすいからだと推定される。さらに、分子配向性を有するエステル結合がPI系樹脂に組み込まれるため、PI系フィルムのDfを低減できる。また、CTEを低減し、PI系フィルムの寸法安定性を高めうる。さらに、前記構成単位(A1)を含むPI系樹脂は、イミド化温度が例えば350℃以下の低温であってもDfが低いPI系フィルムを得やすいため、銅箔との積層構成でPI系樹脂前駆体塗膜を熱イミド化することにより銅張積層体(CCLと記載することがある)を製造しても、銅箔表面の劣化を抑制しやすく、優れた高周波特性を有するCCLが得られやすい。
【0059】
本発明の一実施形態において、構成単位(A1)は、エステル結合を含有していれば特に制限されず、構成単位(A1)に含有されるエステル結合は1つであっても2つ以上であってもよいが、PI系フィルムのDfを低減する観点や、突刺強度や基材との接着性を高める観点からは、式(a1):
【化11】
[式(a1)中、Zは2価の有機基を表し、
a1は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、
sは互いに独立に、0~3の整数を表す]
で表されるテトラカルボン酸無水物由来の構成単位(a1)であることが好ましい。
【0060】
式(a1)におけるRa1は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、PI系フィルムのDfを低減する観点や、突刺強度や基材との接着性を高める観点から、好ましくは互いに独立に、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基を表す。
炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基及び炭素数6~12のアリール基としては、上記に例示のものが挙げられる。
a1に含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよく、ハロゲン原子としては上記に例示のものが挙げられる。
これらの中でも、PI系フィルムのDfを低減する観点や、突刺強度や基材との接着性を高める観点から、Ra1としては、互いに独立に、好ましくは炭素数1~6のアルキル基が挙げられ、より好ましくは炭素数1~3のアルキル基が挙げられる。
また、式(a1)におけるsは、互いに独立に、0~3の整数を表し、好ましくは0又は1、より好ましくは0を表す。
【0061】
式(a1)におけるZは2価の有機基を表し、2価の有機基としては、式(39)における2価の有機基として上記に例示のものが挙げられる。これらの中でも、PI系フィルムのDfを低減する観点や、突刺強度や基材との接着性を高める観点から、Zは、式(z1)、式(z2)及び式(z3):
【化12】
[式(z1)及び式(z2)中、Rz11~Rz14は、互いに独立に、水素原子、又はハロゲン原子を有してもよい1価の炭化水素基を表し、
z2は、互いに独立に、ハロゲン原子を有してもよい1価の炭化水素基を表し、
nは1~4の整数を表し、
jは、互いに独立に、0~3の整数を表し、
*は結合手を表す]
からなる群から選択される2価の有機基であることが好ましく、式(z1)で表される2価の有機基であることがより好ましい。
【0062】
本発明の一実施形態において、式(z1)におけるRz11~Rz14は、互いに独立に、水素原子、又はハロゲン原子を有してもよい1価の炭化水素基を表す。
1価の炭化水素基としては、上記に例示のものが挙げられる。
z11~Rz14は、PI系フィルムのDfを低減する観点や、突刺強度や基材との接着性を高める観点から、互いに独立に、好ましくは水素原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、より好ましくは水素原子、又はハロゲン原子を有してもよい炭素数1~6のアルキル基、さらに好ましくは水素原子、又はハロゲン原子を有してもよい炭素数1~3のアルキル基、特に好ましくは水素原子を表す。
【0063】
本発明の一実施形態において、式(z2)におけるRz2は、互いに独立に、ハロゲン原子を有してもよい1価の炭化水素基を表し、1価の炭化水素基としては、上記に例示のものが挙げられる。Rz2は、PI系フィルムの機械物性、熱物性、基材との密着性や誘電特性等を向上する観点から、互いに独立に、好ましくはハロゲン原子を有してもよいアルキル基、より好ましくはハロゲン原子を有してもよい炭素数1~6のアルキル基、さらに好ましくはハロゲン原子を有してもよい炭素数1~3のアルキル基を表す。
【0064】
本発明の一実施形態において、PI系フィルムのDfを低減する観点や、突刺強度や基材との接着性を高める観点から、式(z1)におけるRz11~Rz14を有するベンゼン環において、Rz11~Rz14の少なくとも1つがハロゲン原子を有してもよい1価の炭化水素基であってもよいが、Rz11~Rz14が全て水素原子であることが好ましい。
【0065】
式(z2)におけるjは、互いに独立に、0~3を表す。本発明の一実施形態において、PI系フィルムの機械物性、熱物性、基材との密着性や誘電特性等を向上する観点から、jは互いに独立に、好ましくは0又は1、より好ましくは0であり、さらに好ましくはjは全て0である。
【0066】
式(z1)において、nは1~4の整数を表し、PI系フィルムのDfを低減する観点や、突刺強度や基材との接着性を高める観点から、好ましくは1~3の整数、より好ましくは1又は2、特に好ましくは2を表す。
【0067】
本発明の好適な一実施形態において、式(a1)は、式(a1’)又は式(a1”):
【化13】
で表されることが好ましい。PI系樹脂が、構成単位(A1)として、式(a1)、特に式(a1’)又は式(a1”)で表されるテトラカルボン酸無水物由来の構成単位を含むと、PI系樹脂が強直すぎず、ある程度自由度がある柔軟な構造となり得るため、イミド化時に加熱により分岐構造を形成しやすく、高分子量化もしやすいので、PI系フィルムの突刺強度や基材との接着性をより向上できる。また、得られるPI系フィルムのDfをより低減できるとともに、CTEを低減し、PI系フィルムの寸法安定性を高めることができる。さらに、構成単位(a1)、特に(a1’)又は(a1”)を含むPI系樹脂は、式イミド化温度が例えば350℃以下の低温であってもDfが低いPI系フィルムを得やすいため、銅箔との積層構成でPI系樹脂前駆体塗膜を熱イミド化することにより銅張積層体(CCLと記載することがある)を製造しても、銅箔表面の劣化を抑制しやすく、優れた高周波特性を有するCCLが得られやすい。
【0068】
本発明の一実施形態において、構成単位(A1)の含有量は、構成単位(A)の総量に対して、好ましくは10モル%以上、より好ましくは20モル%以上、さらに好ましくは30モル%以上、さらにより好ましくは35モル%以上、特に好ましくは40モル%以上である。また、構成単位(A1)の含有量は、構成単位(A)の総量に対して、好ましくは75モル%以下、より好ましくは70モル%以下、さらに好ましくは65モル%以下、特に好ましくは60モル%以下である。構成単位(A1)の含有量が上記範囲であると、PI系フィルムのDfが低減しやすく、突刺強度や基材との接着性も向上しやすい。さらに、CTEを低減し、PI系フィルムの寸法安定性を高めやすい。前記構成単位の割合は、例えばH-NMRを用いて測定することができ、又は原料の仕込み比から算出することもできる。本明細書において、構成単位の「総量」とは、該構成単位が1つの単位からなる場合はその単位の量を表し、該構成単位が2以上の単位からなる場合はそれらの単位の合計量を表す。
【0069】
本発明の別の実施形態では、構成単位(A1)の含有量は、構成単位(A)の総量に対して、好ましくは45モル%以下(0~45モル%)であり、より好ましくは35モル%以下、さらに好ましくは25モル%以下、さらにより好ましくは15モル%以下、特に好ましくは5モル%以下、特により好ましくは1モル%以下であり、下限は0モル%であってよい。構成単位(A1)の含有量が上記範囲であると、PI系フィルムのDfが低減しやすく、突刺強度や基材との接着性も向上しやすい。
【0070】
(ベンゼン骨格含有テトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A2))
本発明の一実施形態において、前記構成単位(A)は、ベンゼン骨格含有テトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A2)(以下、単に構成単位(A2)と略すことがある)を含むことが好ましい。構成単位(A)が前記構成単位(A2)を含むと、PI系フィルムの突刺強度や基材との接着性が高まる傾向がある。さらにPI系フィルムのDfを低減でき、またCTEも低減できる。
【0071】
本発明の一実施形態において、構成単位(A2)は、ベンゼン骨格を含有していれば特に制限されず、構成単位(A2)に含有されるベンゼン骨格(又はベンゼン環)は1つであっても2つ以上であってもよい。例えば、ベンゼン環を2つ有する構造には、ナフタレン骨格やビフェニル骨格等が含まれる。また、構成単位(A2)は、ベンゼン骨格を含有し、エステル結合を含有しない構成単位であることが好ましく、本明細書において、エステル結合及びベンゼン骨格の両方を含有するテトラカルボン酸無水物由来の構成単位は、構成単位(A2)ではなく、エステル結合含有テトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A1)に分類される。
【0072】
前記構成単位(A2)は、PI系フィルムにおけるDfの低減、突刺強度や基材との接着性の向上、CTEの低減等の観点から、式(a2):
【化14】
[式(a2)中、Ra2は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、
kは0~2の整数を表す]
で表されるテトラカルボン酸無水物由来の構成単位(a2)、及び/又は式(a2’):
【化15】
[式(a2’)中、Ra3は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、
tは、互いに独立に、0~3の整数を表す]
で表されるテトラカルボン酸無水物由来の構成単位(a2’)であることが好ましい。
【0073】
式(a2)及び式(a2’)において、Ra2及びRa3は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、PI系フィルムにおけるDfの低減、突刺強度や基材との接着性の向上、CTEの低減等の観点から、好ましくは互いに独立に、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基を表す。炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基及び炭素数6~12のアリール基としては、上記に例示のものが挙げられる。Ra2及びRa3に含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよく、ハロゲン原子としては上記に例示のものが挙げられる。これらの中でも、PI系フィルムにおけるDfの低減、突刺強度や基材との接着性の向上、CTEの低減等の観点から、Ra2及びRa3は、互いに独立に、炭素数1~6のアルキル基が好ましく、炭素数1~3のアルキル基がより好ましい。
【0074】
式(a2)におけるベンゼン環に結合する2つのカルボン酸無水物の結合位置は特に制限されないが、PI系フィルムにおけるDfの低減、突刺強度や基材との接着性の向上、CTEの低減等の観点から、1,2-位と4,5-位、又は、1,2-位と3,4位であることが好ましく、1,2-位と4,5-位であることがより好ましい。kは0~2の整数を表し、PI系フィルムにおけるDfの低減、突刺強度や基材との接着性の向上、CTEの低減等の観点から、好ましくは0又は1、より好ましくは0を表す。
【0075】
式(a2’)におけるビフェニル骨格を構成するベンゼン環に結合する2つのカルボン酸無水物の結合位置は特に制限されず、2つのベンゼン環を結合する単結合を基準に、互いに独立に、3,4-、又は、2,3-であってもよく、PI系フィルムにおけるDfの低減、突刺強度や基材との接着性の向上、CTEの低減等の観点から、3,4-であることが好ましい。tは、互いに独立に、0~3の整数を表し、PI系フィルムにおけるDfの低減、突刺強度や基材との接着性の向上、CTEの低減等の観点から、好ましくは0~2の整数、より好ましくは0又は1、さらに好ましくは0である。
【0076】
本発明の好適な一実施形態において、式(a2)は、式(a2-1)及び/又は式(a2’-1):
【化16】
で表されることが好ましい。PI系樹脂が、構成単位(a2)として、式(a2-1)で表されるテトラカルボン酸無水物由来の構成単位(a2-1)及び/又は式(a2’-1)で表されるテトラカルボン酸無水物由来の構成単位(a2’-1)を含むと、得られるPI系フィルムの突刺強度や基材との接着性が高まりやすく、またPI系フィルムのDfを低減しやすい。さらにCTEも低減しやすい。
【0077】
本発明の一実施形態において、構成単位(A2)の含有量は、構成単位(A)の総量に対して、好ましくは25モル%以上、より好ましくは30モル%以上、さらに好ましくは35モル%以上、特に好ましくは40モル%以上である。また、構成単位(A2)の含有量は、構成単位(A)の総量に対して、例えば100モル%以下、好ましくは90モル%以下、より好ましくは80モル%以下、さらに好ましくは70モル%以下、特に好ましくは60モル%以下である。構成単位(A2)の含有量が上記範囲であると、PI系フィルムの突刺強度や基材との接着性が高まりやすい。さらに、PI系フィルムのDfを低減しやすく、またCTEを低減し、寸法安定性を高めやすい。前記構成単位の割合は、例えばH-NMRを用いて測定することができ、又は原料の仕込み比から算出することもできる。
【0078】
本発明の一実施形態において、PI系樹脂が構成単位(a1)と構成単位(a2)とを含む場合、その含有量比(モル比、(a1):(a2))は、好ましくは10:90~90:10、より好ましくは15:85~80:20、さらに好ましくは20:80~70:30、さらにより好ましくは25:75~65:35である。構成単位(a1)と構成単位(a2)との含有量比が上記範囲であると、PI系フィルムの突刺強度や基材との接着性が高まりやすい。さらに、PI系フィルムのDfを低減しやすく、またCTEを低減し、寸法安定性を高めやすい。
【0079】
(構成単位(A3))
本発明の一実施形態において、構成単位(A)は、構成単位(A1)及び構成単位(A2)以外のテトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A3)(以下、単に構成単位(A3)と略すことがある)を含んでいてもよい。
なお、本明細書において、「構成単位(A1)及び構成単位(A2)以外のテトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A3)」とは、構成単位(A1)及び構成単位(A2)の何れにも該当しないテトラカルボン酸無水物由来の構成単位を意味し、「構成単位(A3)の含有量とは、構成単位(A3)が複数存在する場合、構成単位(A3)の総量を意味する。
【0080】
本発明の一実施形態において、構成単位(A3)としては、エステル骨格及びベンゼン骨格のいずれも含有しないテトラカルボン酸無水物由来の構成単位、例えば、式(1)中のYが式(31)、式(33)~式(38)で表されるテトラカルボン酸無水物由来の構成単位が挙げられ、PI系フィルムのDfを低減する観点から、好ましくは式(1)中のYが式(42)、式(44)~式(49)又は式(53)で表されるテトラカルボン酸無水物由来の構成単位、より好ましくは式(1)中のYが式(42)、式(46)、式(49)、又は式(53)で表されるテトラカルボン酸無水物由来の構成単位であり、さらに好ましくは式(1)中のYが式(42)、式(46)、式(49)又は式(53)で表されるテトラカルボン酸無水物由来の構成単位である。
【0081】
本発明の一実施形態において、構成単位(A3)を含む場合、その含有量は、構成単位(A)の総量に対して、例えば0.01~55モル%、もしくは0.01~40モル%であってよく、好ましくは40モル%以下、より好ましくは35モル%以下、さらに好ましくは30モル%以下、特に好ましくは25モル%以下であり、また、通常0.01モル%以上、好ましくは10モル%以上である。構成単位(A3)の含有量が上記範囲であると、PI系フィルムのDfが低減する傾向がある。前記構成単位の割合は、例えばH-NMRを用いて測定することができ、又は原料の仕込み比から算出することもできる。
【0082】
(ジアミン由来の構成単位(B))
PI系樹脂は、ジアミン由来の構成単位(B)(以下、単に、構成単位(B)と略すことがある)を含有する。構成単位(B)は、例えば、式(2):
【化17】
[式(2)中、Xは2価の有機基を表す]
で表されるジアミン由来の構成単位であることが好ましい。
【0083】
式(2)において、Xは、2価の有機基を表し、好ましくは炭素数2~100の2価の有機基を表す。2価の有機基としては、例えば2価の芳香族基、2価の脂肪族基等が挙げられ、2価の脂肪族基としては、例えば2価の非環式脂肪族基又は2価の環式脂肪族基が挙げられる。これらの中でも、PI系フィルムの機械物性、基材との接着性、熱物性や誘電特性等を高める観点から、2価の環式脂肪族基及び2価の芳香族基が好ましく、2価の芳香族基がより好ましい。2価の有機基は、有機基中の水素原子がハロゲン原子、炭化水素基、アルコキシ基又はハロゲン化炭化水素基で置換されていてもよく、その場合、これらの基の炭素数は好ましくは1~8である。なお、本明細書において、2価の芳香族基は芳香族基を有する2価の有機基であり、その構造の一部に脂肪族基又はその他の置換基を含んでいてもよい。また、2価の脂肪族基は脂肪族基を有する2価の有機基であり、その構造の一部にその他の置換基を含んでいてもよいが、芳香族基は含まない。
【0084】
本発明の一実施形態において、PI系樹脂は、複数種のXを含み得、複数種のXは、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。式(2)中のXとしては、例えば式(60)~式(65)で表される基(構造);式(60)~式(65)で表される基中の水素原子がメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、フルオロ基、クロロ基又はトリフルオロメチル基で置換された基などが挙げられる。
【0085】
【化18】
[式(60)及び式(61)中、R及びRは、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、R及びRに含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよく、
Wは、互いに独立に、単結合、-O-、-CH-、-CH-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-C(CF-、-COO-、-OOC-、-SO-、-S-、-CO-又は-N(R)-を表し、Rは水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~12の一価の炭化水素基を表し、
t’は0~4の整数を表し、uは0~4の整数を表し、nは0~4の整数を表し、
式(62)中、環Aは炭素数3~8のシクロアルカン環を表し、
は炭素数1~20のアルキル基を表し、
rは0以上であって、(環Aの炭素数-2)以下の整数を表し、
S1及びS2は、互いに独立に、0~20の整数を表し、
式(60)~式(65)中、*は結合手を表す]。
【0086】
式(2)中のXの他の例としては、例えば、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、プロピレン基、1,2-ブタンジイル基、1,3-ブタンジイル基、1,12-ドデカンジイル基、2-メチル-1,2-プロパンジイル基、2-メチル-1,3-プロパンジイル基等の直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基などの2価の非環式脂肪族基が挙げられる。2価の非環式脂肪族基中の水素原子は、ハロゲン原子で置換されていてもよく、炭素原子はヘテロ原子、例えば酸素原子、窒素原子等で置換されていてもよい。
【0087】
これらの中でも、PI系フィルムの機械物性、基材との接着性、熱物性や誘電特性等を高める観点から、本発明におけるPI系樹脂は、式(2)中のXとして、式(60)及び式(61)で表される構造を含むことが好ましく、式(60)で表される構造を含むことがより好ましい。
【0088】
式(60)及び式(61)において、各ベンゼン環又は各シクロヘキサン環の結合手は、-W-又は各ベンゼン環又は各シクロヘキサン環を結ぶ単結合を基準に、それぞれ、オルト位、メタ位、若しくはパラ位、又は、α位、β位、若しくはγ位のいずれに結合していてもよく、PI系フィルムにおけるDfの低減、突刺強度や基材との接着性の向上、CTEの低減等の観点から、好ましくはメタ位若しくはパラ位、又は、β位若しくはγ位、より好ましくはパラ位、又はγ位に結合することができる。
及びRは、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、好ましくはハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基若しくはアリール基、より好ましくはハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、又は炭素数6~12のアリール基を表す。炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、及び炭素数6~12のアリール基としては、上記に例示したものが挙げられる。R及びRに含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよく、該ハロゲン原子としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。PI系フィルムにおけるDfの低減、突刺強度や基材との接着性の向上、CTEの低減等の観点から、R及びRは、互いに独立に、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数1~6のフッ化アルキル基であることが好ましく、さらに銅箔等の基材との接着性をより高める観点から、フッ素を含有しない炭素数1~6のアルキル基であることがより好ましく、フッ素を含有しない炭素数1~3のアルキル基であることがさらに好ましく、メチル基であることが特に好ましい。
【0089】
式(60)及び式(61)において、t’及びuは、互いに独立に、0~4の整数であり、PI系フィルムにおけるDfの低減、突刺強度や基材との接着性の向上、CTEの低減等の観点から、好ましくは0~2の整数、より好ましくは0又は1である。
【0090】
式(60)及び式(61)において、Wは、互いに独立に、単結合、-O-、-CH-、-CH-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-C(CF-、-COO-、-OOC-、-SO-、-S-、-CO-又は-N(R)-を表し、PI系フィルムにおけるDfの低減、突刺強度や基材との接着性の向上、CTEの低減等の観点から、好ましくは-O-、-CH-、-C(CH-、-C(CF-、-COO-、-OOC-又は-CO-を表し、さらに銅箔等の基材との接着性をより高める観点から、より好ましくは単結合、-O-、-CH-又は-C(CH-、さらに好ましくは-O-又は-C(CH-を表す。Rは水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~12の一価の炭化水素基を表す。炭素数1~12の一価の炭化水素基としては、上記に例示のものが挙げられる。
【0091】
式(60)及び式(61)において、nは、0~4の整数であり、PI系フィルムにおけるDfの低減、突刺強度や基材との接着性の向上、CTEの低減等の観点から、好ましくは0~3の整数、より好ましくは1~3である。nが2以上の場合、複数のW、R、及びt’は互いに同一であってもよく、異なっていてもよく、-W-を基準とした各ベンゼン環の結合手の位置も同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0092】
本発明におけるPI系樹脂が、式(2)中のXとして、式(60)及び式(61)で表される構造を2つ以上含む場合、一方の式(60)及び式(61)におけるW、n、R、R、t’及びuは、互いに独立に、他方の式(60)及び式(61)におけるW、n、R、R、t’及びuと同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0093】
式(62)において、環Aは炭素数3~8のシクロアルカン環を表す。シクロアルカン環としては、例えばシクロプロパン環、シクロブタン環、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロヘプタン環、シクロオクタン環が挙げられ、好ましくは炭素数4~6のシクロアルカン環が挙げられる。環Aにおいて、各結合手は、互いに隣接していてもよいし、隣接していなくてもよい。例えば、環Aがシクロヘキサン環である場合、2つの結合手はα位、β位又はγ位の位置関係にあってもよく、好ましくはβ位又はγ位の位置関係にあってもよい。
【0094】
式(62)中のRは炭素数1~20のアルキル基を表す。炭素数1~20のアルキル基としては、脂肪族炭化水素基として上記に例示のものが挙げられ、好ましくは炭素数1~10のアルキル基を表す。式(62)中のrは0以上であって、「環Aの炭素数-2」以下の整数を表す。rは好ましくは0以上であり、好ましくは4以下である。式(62)中のS1及びS2は、互いに独立に、0~20の整数を表す。S1及びS2は、互いに独立に、好ましくは0以上、より好ましくは2以上であり、好ましくは15以下である。
【0095】
式(60)~式(62)で表される構造の具体例としては、式(71)~式(92)で表される構造が挙げられる。なお、これらの式中、*は結合手を表す。
【0096】
【化19】
【0097】
本発明の好適な実施形態において、式(2)中のXとして、式(60)及び式(61)で表されるジアミン由来の構成単位を少なくとも1つ含む場合、式(2)中のXが、式(60)及び式(61)で表されるジアミン由来の構成単位の割合、特に式(60)において、nが1であり、Wが単結合を表すジアミン由来の構成単位の割合は、構成単位(B)の総モル量に対して、好ましくは25モル%以上、より好ましくは30モル%超、さらに好ましくは50モル%以上、さらにより好ましくは70モル%以上、特に好ましくは90モル%以上であり、好ましくは100モル%以下である。式(2)中のXが式(60)及び式(61)で表されるジアミン由来の構成単位の割合、特に式(60)において、少なくとも1つのWが単結合を表すジアミン由来の構成単位の割合が上記の範囲であると、PI系フィルムの突刺強度や基材との接着性が高まりやすい。さらに、PI系フィルムのDfを低減しやすく、またCTEを低減し、寸法安定性を高めやすい。前記構成単位の割合は、例えばH-NMRを用いて測定することができ、又は原料の仕込み比から算出することもできる。
【0098】
(ビフェニル骨格含有ジアミン由来の構成単位(B1))
本発明の一実施形態において、構成単位(B)は、ビフェニル骨格含有ジアミン由来の構成単位(B1)(以下、単に、構成単位(B1)と略すことがある)を含むことが好ましい。構成単位(B)が前記構成単位(B1)を含むPI系樹脂は、PI系フィルムの突刺強度や基材との接着性を高めることができる。また、得られるPI系フィルムのDfが低減しやすいので、得られるPI系フィルムからなる電気回路は、伝送損失を低減できる。さらにCTEも低減しやすいので、PI系フィルムの寸法安定性を高めることができる。PI系樹脂が構成単位(B1)を含むと、PI系樹脂が強直になりすぎず、ある程度の自由度がある柔軟な構造をとりやすいため、イミド化する際の加熱時に分岐を生じさせやすく、高分子量化もしやすいので、SLS/SRIやRI面積率が上記の範囲になりやすい。
【0099】
本発明の一実施形態において、構成単位(B1)は、ビフェニル骨格を含有していれば特に制限されず、構成単位(B1)に含有されるビフェニル骨格は1つであっても2つ以上であってもよい。本発明の一実施形態において、構成単位(B1)は、PI系フィルムにおけるDfの低減、突刺強度や基材との接着性の向上、CTEの低減等の観点から、式(b1):
【化20】
[式(b1)中、Rb1は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、
pは0~4の整数を表す]
で表されるジアミン由来の構成単位(b1)であることが好ましい。
【0100】
式(b1)において、Rb1は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、PI系フィルムにおけるDfの低減、突刺強度や基材との接着性の向上、CTEの低減等の観点から、好ましくは互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基若しくはアリール基を表し、より好ましくはハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、又は炭素数6~12のアリール基を表す。炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、及び炭素数6~12のアリール基としては、上記に例示したものが挙げられる。Rb1に含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよく、該ハロゲン原子としては、上記と同様のものが挙げられる。PI系フィルムにおけるDfの低減、突刺強度や基材との接着性の向上、CTEの低減等の観点から、Rb1は、互いに独立に、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数1~6のフッ化アルキル基であることが好ましく、さらに銅箔等の基材との接着性をより高める観点から、フッ素を含有しない炭素数1~6のアルキル基であることがより好ましく、フッ素を含有しない炭素数1~3のアルキル基であることがさらに好ましく、メチル基であることが特に好ましい。
【0101】
式(b1)において、pは、互いに独立に、0~4の整数を表し、PI系フィルムにおけるDfの低減、突刺強度や基材との接着性の向上、CTEの低減等の観点から、好ましくは0~2の整数、より好ましくは0又は1である。
【0102】
式(b1)において、各ベンゼン環に結合する-NH基は、各ベンゼン環を結ぶ単結合を基準に、それぞれ、オルト位、メタ位、若しくはパラ位、又は、α位、β位、若しくはγ位のいずれに結合していてもよく、PI系フィルムにおけるDfの低減、突刺強度や基材との接着性の向上、CTEの低減等の観点から、好ましくはメタ位若しくはパラ位、又は、β位若しくはγ位、より好ましくはパラ位、又はγ位に結合することができる。
【0103】
本発明の好適な一実施形態において、式(b1)は、式(b1’):
【化21】
で表されることが好ましい。PI系樹脂が、構成単位(B1)として、式(b1)、特に式(b1’)で表されるジアミン由来の構成単位を含むと、SLS/SRIやRI面積率が上記の範囲になりやすく、PI系フィルムの突刺強度や基材との接着性を高めやすい。また、得られるPI系フィルムのDfを低減しやすく、CTEも低減しやすいため、PI系フィルムの寸法安定性をより高めることができる。さらに、構成単位(b1)、特に式(b1’)を含むPI系樹脂は、イミド化温度が例えば350℃以下の低温であってもDfが低いPI系フィルムを得やすいため、銅箔との積層構成でPI系樹脂前駆体塗膜を熱イミド化することによりCCLを製造しても、銅箔表面の劣化を抑制しやすく、優れた高周波特性を有するCCLが得られやすい。
【0104】
本発明の一実施形態において、構成単位(B1)、好ましくは構成単位(b1)の含有量は、構成単位(B)の総量に対して、例えば1モル%以上又は5モル%以上であり、好ましくは25モル%以上、より好ましくは30モル%超、さらに好ましくは40モル%以上、さらにより好ましくは60モル%以上、特に好ましくは70モル%以上、特により好ましくは80モル%以上、特にさらに好ましくは90モル%以上である。構成単位(B1)、好ましくは構成単位(b1)の含有量が上記下限以上であると、PI系フィルムの突刺強度や基材との接着性が高まりやすい。さらにPI系フィルムのDfを低減しやすく、またCTEも低減しやすい。また、構成単位(B1)、好ましくは構成単位(b1)の含有量の上限は特に制限されず、構成単位(B)の総量に対して、通常100モル%以下、好ましくは99.9モル%以下、より好ましくは99モル%以下、さらに好ましくは95モル%以下であり、例えば90モル%以下、80モル%以下、60モル%以下、40モル%以下、又は20モル%以下であってもよい。前記構成単位の割合は、例えばH-NMRを用いて測定することができ、又は原料の仕込み比から算出することもできる。
【0105】
(構成単位(B2))
本発明の一実施形態において、構成単位(B)は、2つ以上の芳香環を有し、各芳香環が2価の有機基を介して結合しているジアミン由来の構成単位(B2)(以下、単に、構成単位(B2)と略すことがある)を含むことが好ましい。構成単位(B2)における2価の有機基としては、例えば、ハロゲン原子を有してもよいアルキレン基、-O-、-COO-、-OOC-、-SO-、-S-、-CO-又は-N(R)-等が挙げられ、Rは水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~12の一価の炭化水素基を表す。これらの中でも、構成単位(B2)における2価の有機基としては、-O-、-CH-、-CH-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-C(CF-、-COO-、-OOC-、-SO-、-S-、-CO-又は-N(R)-が好ましい。
【0106】
本発明の一実施形態において、構成単位(B)は、構成単位(B2)として、式(b2):
【化22】
[式(b2)中、Rb2は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、
Wは、互いに独立に、-O-、-CH-、-CH-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-C(CF-、-COO-、-OOC-、-SO-、-S-、-CO-又は-N(R)-を表し、Rは水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~12の一価の炭化水素基を表し、
mは1~4の整数を表し、
qは互いに独立に、0~4の整数を表す]
で表されるジアミン由来の構成単位(b2)(以下、単に、構成単位(b2)と略すことがある)を含むことが好ましい。構成単位(B)が前記構成単位(B2)、特に構成単位(b2)を含むと、PI系フィルムの突刺強度や基材との接着性を高めることができる。また、得られるPI系フィルムのDfが低減しやすいので、得られるPI系フィルムを含んでなる電気回路の伝送損失を低減できる。また、構成単位(B2)、特に(b2)を含むPI系樹脂は、イミド化温度が例えば350℃以下の低温であってもDfが低いPI系フィルムを得やすいため、銅箔との積層構成でPI系樹脂前駆体塗膜を熱イミド化することによりCCLを製造しても、銅箔表面の劣化を抑制しやすく、優れた高周波特性を有するCCLが得られやすい。さらにCTEも低減しやすいので、PI系フィルムの寸法安定性を高めることができる。
【0107】
式(b2)において、Rb2は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、好ましくはハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、又は炭素数6~12のアリール基を表す。炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、及び炭素数6~12のアリール基としては、上記に例示したものが挙げられる。Rb2に含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよく、該ハロゲン原子としては、上記と同様のものが挙げられる。PI系フィルムのDfの低減、突刺強度や基材との接着性の向上、CTEの低減等の観点から、Rb2は、互いに独立に、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数1~6のフッ化アルキル基であることが好ましく、さらに銅箔等の基材との接着性をより高める観点から、フッ素を含有しない炭素数1~6のアルキル基であることがより好ましく、フッ素を含有しない炭素数1~3のアルキル基であることがさらに好ましく、メチル基であることが特に好ましい。
【0108】
式(b2)において、qは、互いに独立に、0~4の整数を表し、PI系フィルムのDfの低減、突刺強度や基材との接着性の向上、CTEの低減等の観点から、好ましくは0~2の整数、より好ましくは0又は1である。
【0109】
式(b2)において、Wは、互いに独立に、-O-、-CH-、-CH-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-C(CF-、-COO-、-OOC-、-SO-、-S-、-CO-又は-N(R)-を表し、PI系フィルムのDfの低減、突刺強度や基材との接着性の向上、CTEの低減等の観点から、好ましくは-O-、-CH-、-C(CH-、-C(CF-、-COO-、-OOC-又は-CO-を表し、さらに銅箔等の基材との接着性をより高める観点から、より好ましくは-O-、-CH-又は-C(CH-、さらに好ましくは-O-又は-C(CH-を表す。Rは水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~12の一価の炭化水素基を表す。炭素数1~12の1価の炭化水素基としては、上記に例示のものが挙げられ、これらはハロゲン原子で置換されていてもよい。ハロゲン原子としては、上記と同様のものが挙げられる。
【0110】
式(b2)において、mは1~4の整数であり、PI系フィルムのDfの低減、突刺強度や基材との接着性の向上、CTEの低減等の観点から、好ましくは1~3の整数、より好ましくは2又は3である。式(b2)において、複数のW、Rb2、及びqは、互いに同一であってもよく、異なっていてもよく、各ベンゼン環の-NHを基準とした-W-の位置も同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0111】
本発明の一実施形態では、構成単位(B)は、mが1又は2である(b2)で表されるジアミン由来の構成単位(b2)((b2’)ということがある)を含むことが好ましく、mが2である(b2)で表されるジアミン由来の構成単位(b2)を含むことがより好ましい。このような形態であると、PI系フィルムの突刺強度や基材との接着性が高まりやすい。さらに、PI系フィルムのDfを低減しやすく、またCTEも低減しやすい。
【0112】
本発明の別の実施形態では、構成単位(B)は、mが3又は4である(b2)で表されるジアミン由来の構成単位(b2)((b2”)ということがある)を含むことが好ましく、mが3である(b2)で表されるジアミン由来の構成単位(b2)を含むことがより好ましい。このような形態であると、PI系フィルムの突刺強度や基材との接着性が高まりやすい。さらに、PI系フィルムのDfを低減しやすく、またCTEも低減しやすい。
【0113】
式(b2)において、-W-は、互いに独立に、各ベンゼン環の-NHを基準に、それぞれ、オルト位、メタ位、若しくはパラ位、又は、α位、β位、若しくはγ位のいずれに結合していてもよく、PI系フィルムのDfの低減、突刺強度や基材との接着性の向上、CTEの低減等の観点から、好ましくはメタ位若しくはパラ位、又は、β位若しくはγ位、より好ましくはパラ位、又はγ位に結合することができる。mが2以上である場合、2つのWが結合するベンゼン環において、2つのWの結合位置は、互いにオルト位、メタ位、若しくはパラ位の関係、又は、α位、β位、若しくはγ位の関係であってもよく、PI系フィルムのDfの低減、突刺強度や基材との接着性の向上、CTEの低減等の観点から、好ましくはメタ位若しくはパラ位の関係、又は、β位若しくはγ位の関係であってもよい。
【0114】
本発明の一実施形態において、PI系フィルムのDfの低減、突刺強度や基材との接着性の向上、CTEの低減等の観点から、式(b2)において、mは3であり、Wは互いに独立に、-O-又は-C(CH-を表すことが好ましく、式(b2)は、式(b2-1):
【化23】
で表されることがより好ましい。
【0115】
本発明の別の実施形態において、PI系フィルムのDfの低減、突刺強度や基材との接着性の向上、CTEの低減等の観点から、式(b2)において、mは2であり、Wは互いに独立に、-O-を表すことが好ましく、式(b2)は、式(b2-2)及び/又は式(b2-3):
【化24】
で表されることがより好ましい。
【0116】
本発明の一実施形態において、構成単位(B2)の含有量は、構成単位(B)の総量に対して、好ましくは0モル%以上、より好ましくは0.001モル%以上、さらに好ましくは0.005モル%以上である。構成単位(B2)の含有量が上記下限以上であると、PI系フィルムの突刺強度や銅箔等の基材との接着性を高めやすく、またDfを低減しやすい傾向がある。構成単位(B2)の含有量は、構成単位(B)の総量に対して、好ましくは75モル%以下、より好ましくは60モル%以下、さらに好ましくは50モル%以下であり、例えば30モル%以下、20モル%以下、15モル%以下、10モル%以下、5モル%以下、1モル%以下、又は0.5モル%以下であってもよい。構成単位(B2)の含有量が上記上限以下であると、PI系フィルムのCTEを低減しやすい傾向がある。
【0117】
本発明の別の実施形態において、構成単位(B2)の含有量は、構成単位(B)の総量に対して、好ましくは5モル%以上、さらに好ましくは10モル%以上、さらにより好ましくは15モル%以上、特に好ましくは20モル%以上、特により好ましくは25モル%以上であり、例えば30モル%以上、40モル%以上、60モル%以上、又は80モル%以上であってもよい。また、構成単位(B2)の含有量は、構成単位(B)の総量に対して、例えば99%以下、95モル%以下、又は80モル%以下、好ましくは70モル%以下、より好ましくは65モル%以下、さらに好ましくは60モル%以下、さらにより好ましくは55モル%以下であり、例えば50モル%以下、45モル%以下、又は40モル%以下であってもよい。構成単位(B2)の含有量が上記の範囲であると、PI系フィルムの突刺強度や基材との接着性が高まりやすい。さらに、PI系フィルムのDfを低減しやすく、またCTEも低減しやすい。構成単位(B2)の割合は、例えばH-NMRを用いて測定することができ、又は原料の仕込み比から算出することもできる。
【0118】
本発明の一実施形態において、構成単位(B1)と構成単位(B2)との合計含有量は、構成単位(B)の総量に対して、好ましくは25モル%以上、より好ましくは30モル%超、さらに好ましくは40モル%以上、さらにより好ましくは60モル%以上、特に好ましくは70モル%以上、特により好ましくは80モル%以上、特にさらに好ましくは90モル%以上、特にさらにより好ましくは95モル%以上であり、好ましくは100モル%以下である。構成単位(B1)と構成単位(B2)との合計含有量が上記下限以上であると、PI系フィルムの突刺強度や基材との接着性が高まりやすい。さらに、PI系フィルムのDfを低減しやすく、またCTEも低減しやすい。
【0119】
(構成単位(B3))
PI系樹脂は、構成単位(B1)及び構成単位(B2)以外のジアミン由来の構成単位(B3)(以下、単に構成単位(B3)と略すことがある)を含んでもよい。構成単位(B3)としては、例えば、式(b2)中のmが0であるジアミン由来の構成単位、式(2)中のXが式(61)~式(64)で表されるジアミン由来の構成単位等が挙げられ、これらの中でも、式(2)中のXが式(74)で表されるジアミン由来の構成単位(p-フェニレンジアミン由来の構成単位)が好ましい。本明細書において、「構成単位(B1)及び構成単位(B2)以外のジアミン由来の構成単位(B3)」とは、構成単位(B1)及び構成単位(B2)の何れとも異なるジアミン由来の構成単位を意味する。
【0120】
本発明の一実施形態において、構成単位(B)が構成単位(B3)を含む場合、構成単位(B3)の含有量は、構成単位(B)の総量に対して、好ましくは25モル%以下、より好ましくは20モル%以下、さらに好ましくは10モル%以下であり、好ましくは0.01モル%以上である。
【0121】
本発明の一実施形態において、PI系フィルムのDfの低減、突刺強度や基材との接着性の向上、CTEの低減等の観点から、構成単位(B)はフルオレン基を含まないことが好ましい。
【0122】
<PI系樹脂>
本発明のPI系樹脂は、前記SLS/SRIが1.0以上であるため、十分に高い突刺強度を有するPI系フィルムを形成できる。そのため、PI系フィルムの厚み方向に衝撃を受けても破損を有効に抑制できる。また、PI系樹脂を含むPI系フィルムは、基材との接着性にも優れるとともに、低いDfを有することもできる。そのため、本発明のPI系樹脂を含むPI系フィルムは、高周波帯域用のプリント回路基板やアンテナ基板に対応可能な基板材料などに好適に利用できる。
【0123】
本発明の一実施形態において、PI系樹脂は、例えば上記の含ハロゲン原子置換基等によって導入することができる、ハロゲン原子、好ましくはフッ素原子を含有していてもよい。PI系樹脂がフッ素原子を含有する場合、得られるPI系フィルムの比誘電率を低減しやすい。PI系樹脂にフッ素原子を含有させるために好ましい含フッ素置換基としては、例えばフルオロ基及びトリフルオロメチル基が挙げられる。
また、本発明の別の一実施形態において、PI系樹脂は、得られるPI系フィルムの銅箔等の基材との接着性を高める観点からは、フッ素原子を含有していないことが好ましい。また、PI系樹脂がフッ素を含有すると分子鎖間の相互作用を弱める傾向があるため、フッ素原子を含有していないと、PI系フィルムのDfが低減される傾向がある。
【0124】
PI系樹脂がハロゲン原子を含有する場合、PI系樹脂におけるハロゲン原子、特にフッ素原子の含有量は、PI系樹脂の質量を基準として、好ましくは0.1~35質量%、より好ましくは0.1~30質量%、さらに好ましくは0.1~20質量%、とりわけ好ましくは0.1~10質量%である。ハロゲン原子の含有量が上記の下限以上であると、得られるPI系フィルムの耐熱性及び誘電特性を高めやすい。ハロゲン原子の含有量が上記の上限以下であると、コスト面で有利であり、PI系フィルムのCTEを低減しやすく、またPI系樹脂の合成が容易となる。
【0125】
本発明の一実施形態において、PI系樹脂のイミド化率は、好ましくは90%以上、より好ましくは93%以上、さらに好ましくは95%以上であり、通常100%以下である。PI系フィルムの機械物性、基材との接着性、熱物性や誘電特性等を向上する観点から、イミド化率が上記の下限以上であることが好ましい。イミド化率は、PI系樹脂中のテトラカルボン酸化合物に由来する構成単位のモル量の2倍の値に対する、PI系樹脂中のイミド結合のモル量の割合を示す。なお、PI系樹脂がトリカルボン酸化合物を含む場合には、PI系樹脂中のテトラカルボン酸化合物に由来する構成単位のモル量の2倍の値と、トリカルボン酸化合物に由来する構成単位のモル量との合計に対する、PI系樹脂中のイミド結合のモル量の割合を示す。また、イミド化率は、IR法、NMR法などにより求めることができる。
【0126】
本発明の一実施形態において、PI系樹脂のTgは、得られるPI系フィルムの突刺強度を高め、Dfを低減する観点から、好ましくは350℃以下、より好ましくは330℃以下、さらに好ましくは310℃以下、さらにより好ましくは290℃以下、特に好ましくは290℃未満、特により好ましくは275℃以下、特にさらに好ましくは260℃以下、極めて好ましくは240℃以下である。また、PI系樹脂のTgは、PI系フィルムのDfを低減する観点やPI系フィルムの耐熱性を高める観点から、好ましくは200℃以上、より好ましくは202℃以上、さらに好ましくは205℃以上、さらにより好ましくは210℃以上、特に好ましくは215℃以上、特により好ましくは220℃以上である。PI系樹脂のTgは、動的粘弾性測定により測定でき、例えば実施例に記載の方法で測定できる。
【0127】
本発明の一実施形態において、PI系樹脂のTgが、上記範囲内であると、PI系樹脂が回転運動の抑制された好ましい高次構造を形成しやすい傾向があるため、PI系樹脂中の極性基の回転が抑制され、電気エネルギーが熱運動として失われることが低減されると推定される。ゆえに、Tgが上記範囲内にあるPI系樹脂により、Dfが低いPI系フィルムが得られると考えられる。このようなPI系樹脂は、イミド化温度が例えば350℃以下の低温であってもDfが低いPI系フィルムを得やすいため、銅箔との積層構成でPI系樹脂前駆体塗膜を熱イミド化することによりCCLを製造しても、銅箔表面の劣化を抑制しやすく、優れた高周波特性を有するCCLが得られやすい。
【0128】
PI系樹脂のTgは、PI系樹脂を構成する構成単位の種類及びそれらの構成、並びに、PI系樹脂の分子量及び製造方法、特にイミド化条件等を、適宜調整することによって調整し得、例えば好ましい態様として記載されている範囲内に調整することによって、上記範囲内に調整し得る。
【0129】
〔ポリイミド系樹脂の製造方法〕
本発明のPI系樹脂は、特に限定されないが、テトラカルボン酸無水物とジアミンとを反応させてPI系樹脂前駆体を得る工程、及び、得られたPI系樹脂前駆体をイミド化する工程を含む方法により製造することが好ましい。なお、テトラカルボン酸化合物の他に、ジカルボン酸化合物、トリカルボン酸化合物を反応させてもよい。
【0130】
PI系樹脂前駆体の合成に用いられるテトラカルボン酸無水物としては、例えば、芳香族テトラカルボン酸二無水物等の芳香族テトラカルボン酸化合物;及び脂肪族テトラカルボン酸二無水物等の脂肪族テトラカルボン酸化合物等が挙げられる。テトラカルボン酸化合物は、単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。テトラカルボン酸化合物は、二無水物の他、酸クロリド化合物等のテトラカルボン酸化合物類縁体であってもよい。
【0131】
テトラカルボン酸化合物としては、例えば、式(a1)で表されるテトラカルボン酸無水物、式(a2)で表されるテトラカルボン酸無水物が挙げられる。
【0132】
テトラカルボン酸化合物の具体例としては、無水ピロメリット酸(以下、PMDAと記載することがある)、4,4’-(4,4’-イソプロピリデンジフェノキシ)ジフタル酸無水物(以下、BPADAと記載することがある)、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下、BPDAと記載することがある)、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(以下、6FDAと記載することがある)、4,4’-オキシジフタル酸二無水物(以下、ODPAと記載することがある)、2,2’,3,3’-、2,3,3’,4’-又は3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3’,3,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、p-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸二無水物)(以下、TAHQと記載することがある)、無水トリメリット酸と2,2’,3,3’,5,5’-ヘキサメチル-4,4’-ビフェノールとのエステル化物(以下、TMPBPと記載することがある)、4,4’-ビス(1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-イルカルボニルオキシ)ビフェニル(以下、BP-TMEと記載することがある)、2,3’,3,4’-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、3,3”,4,4”-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3”,4”-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2”,3,3”-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)-プロパン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-プロパン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,2,7,8-、1,2,6,7-フェナンスレン-テトラカルボン酸二無水物、1,2,9,10-フェナンスレン-テトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)テトラフルオロプロパン二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(以下、HPMDAと記載することがある)、2,3,5,6-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、4,4’-ビス(2,3-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルメタン二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(以下、CBDAと記載することがある)、ノルボルナン-2-スピロ-α’-スピロ-2”-ノルボルナン-5,5’,6,6’-テトラカルボン酸無水物、p-フェニレンビス(トリメリテート無水物)、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸二無水物、4,8-ジメチル-1,2,3,5,6,7-ヘキサヒドロナフタレン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、2,6-ジクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,7-ジクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-テトラクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-テトラクロロナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-テトラクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-テトラクロロナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物、2,3,8,9-ペリレン-テトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10-ペリレン-テトラカルボン酸二無水物、4,5,10,11-ペリレン-テトラカルボン酸二無水物、5,6,11,12-ペリレン-テトラカルボン酸二無水物、ピラジン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ピロリジン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、チオフェン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物などが挙げられる。これらの中でも、PI系フィルムのDfの低減、突刺強度や基材との接着性の向上、CTEの低減等の観点から、BPDA、PMDA、TAHQ、BP-TMEが好ましい。これらのテトラカルボン酸化合物は単独又は二種以上組合せて使用できる。
【0133】
PI系樹脂前駆体の合成に用いられるジアミン化合物としては、例えば、脂肪族ジアミン、芳香族ジアミン及びこれらの混合物が挙げられる。なお、本実施形態において「芳香族ジアミン」とは、芳香環を有するジアミンを表し、その構造の一部に脂肪族基又はその他の置換基を含んでいてもよい。この芳香環は単環でも縮合環でもよく、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環及びフルオレン環等が例示されるが、これらに限定されるわけではない。これらの中でも、好ましくはベンゼン環である。また「脂肪族ジアミン」とは、脂肪族基を有するジアミンを表し、その構造の一部にその他の置換基を含んでいてもよいが、芳香環は有しない。
【0134】
ジアミン化合物としては、例えば、式(b1)で表されるジアミン、式(b2)で表されるジアミン、式(2)で表されるジアミンが挙げられる。
【0135】
ジアミン化合物の具体例としては、1,4-ジアミノシクロヘキサン、4,4’-ジアミノ-2,2’-ジメチルビフェニル(以下、m-TBと記載することがある)、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジメチルビフェニル、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノジフェニル(以下、TFMBと記載することがある)、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(以下、TPE-Qと記載することがある)、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(以下、TPE-Rと記載することがある)、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(以下、BAPPと記載することがある)、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジヒドロキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2-ビス-[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[1-(4-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[1-(3-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、2,2-ビス-[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス-[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、4,4’-メチレンジ-o-トルイジン、4,4’-メチレンジ-2,6-キシリジン、4,4’-メチレン-2,6-ジエチルアニリン、4,4’-メチレンジアニリン、3,3’-メチレンジアニリン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、3,3’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルエタン、3,3’-ジアミノジフェニルエタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,3-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、ベンジジン、3,3’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメトキシベンジジン、4,4”-ジアミノ-p-テルフェニル、3,3”-ジアミノ-p-テルフェニル、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン(以下、p-PDAと記載することがある)、レゾルシノール-ビス(3-アミノフェニル)エーテル、4,4’-[1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、4,4’-[1,3-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、ビス(p-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(p-β-アミノ-tert-ブチルフェニル)エーテル、ビス(p-β-メチル-δ-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(2-メチル-4-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(1,1-ジメチル-5-アミノペンチル)ベンゼン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン、2,4-ビス(β-アミノ-tert-ブチル)トルエン、2,4-ジアミノトルエン、m-キシレン-2,5-ジアミン、p-キシレン-2,5-ジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、ピペラジン、4,4’-ジアミノ-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ビシクロヘキサン、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4”-ジアミノ-p-ターフェニル、ビス(4-アミノフェニル)テレフタレート、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)-2,5-ジ-tert-ブチルベンゼン、4,4’-(1,3-フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、1,4-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル]ベンゼン、2,4-ジアミノ-3,5-ジエチルトルエン、2,6-ジアミノ-3,5-ジエチルトルエン、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-(ヘキサフルオロプロピリデン)ジアニリン、1,2-ジアミノエタン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキンサン、1,2-ジアミノプロパン、1,2-ジアミノブタン、1,3-ジアミノブタン、2-メチル-1,2-ジアミノプロパン、2-メチル-1,3-ジアミノプロパン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ノルボルナンジアミン、2’-メトキシ-4,4’-ジアミノベンズアニリド、4,4’-ジアミノベンズアニリド、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、9,9-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]フルオレン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、2,5-ジアミノ-1,3,4-オキサジアゾール、ビス[4,4’-(4-アミノフェノキシ)]ベンズアニリド、ビス[4,4’-(3-アミノフェノキシ)]ベンズアニリド、2,6-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノピリジンなどが挙げられる。これらの中でも、PI系フィルムのDfの低減、突刺強度や基材との接着性の向上、CTEの低減等の観点から、m-TB、BAPP、TPE-Q、TPE-Rが好ましい。ジアミン化合物は単独又は二種以上組合せて使用できる。
【0136】
なお、前記PI系樹脂前駆体は、得られるPI系フィルムの各種物性を損なわない範囲で、上記のPI系樹脂前駆体合成に用いられるテトラカルボン酸化合物に加えて、他のテトラカルボン酸、ジカルボン酸及びトリカルボン酸並びにそれらの無水物及び誘導体をさらに反応させたものであってもよい。
【0137】
他のテトラカルボン酸としては、上記テトラカルボン酸化合物の無水物の水付加体が挙げられる。
【0138】
ジカルボン酸化合物としては、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸及びそれらの類縁の酸クロリド化合物、酸無水物等が挙げられ、2種以上を組合せて用いてもよい。具体例としては、テレフタル酸;イソフタル酸;ナフタレンジカルボン酸;4,4’-ビフェニルジカルボン酸;3,3’-ビフェニルジカルボン酸;炭素数8以下である鎖式炭化水素、のジカルボン酸化合物及び2つの安息香酸が単結合、-O-、-CH-、-C(CH-、-C(CF-、-SO-又はフェニレン基で連結された化合物並びに、それらの酸クロリド化合物が挙げられる。
【0139】
トリカルボン酸化合物としては、芳香族トリカルボン酸、脂肪族トリカルボン酸及びそれらの類縁の酸クロリド化合物、酸無水物等が挙げられ、2種以上を組合せて用いてもよい。具体例としては、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸の無水物;2,3,6-ナフタレントリカルボン酸-2,3-無水物;フタル酸無水物と安息香酸とが単結合、-O-、-CH-、-C(CH-、-C(CF-、-SO-又はフェニレン基で連結された化合物が挙げられる。
【0140】
PI系樹脂前駆体の製造において、ジアミン化合物、テトラカルボン酸化合物、ジカルボン酸化合物及びトリカルボン酸化合物の使用量は、所望とするPI系樹脂前駆体の各構成単位の比率に応じて適宜選択できる。突刺強度の向上やDfの低減等の観点からは、ジカルボン酸化合物及びトリカルボン酸化合物由来の構成単位の総量は、全カルボン酸由来の構成単位の総量に対して、好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下、さらに好ましくは1モル%以下、さらにより好ましくは0.5モル%以下、特に好ましくは0モル%である。
【0141】
本発明において、テトラカルボン酸化合物の総量1モルに対するジアミン化合物の総使用モル数をアミン比として定義する。本発明の好適な一実施形態においては、アミン比は、テトラカルボン酸化合物の総量1モルに対して、好ましくは0.90モル以上であり、好ましくは0.999モル以下である。また、別の一実施形態においては、アミン比は、テトラカルボン酸化合物の総量1モルに対して、好ましくは1.001モル以上であり、好ましくは1.10モル以下である。
本発明の一実施形態において、アミン比が1以下である場合、アミン比は好ましくは0.90モル以上0.999モル以下、より好ましくは0.95モル以上0.997モル以下、さらに好ましくは0.97モル以上0.995モル以下である。
本発明の一実施形態において、アミン比が1以上である場合、アミン比は好ましくは1.001モル以上1.10モル以下、より好ましくは1.002モル以上1.05モル以下、さらに好ましくは1.003モル以上1.03モル以下である
アミン比が1.0モルに近いと、合成時に急激に分子量が増大する傾向があり、1.0モルから大きく離れると得られるPI系樹脂の分子量が低下しやすい傾向がある。分子量が急激に増大すると、合成マスの中で不均一に成長して、PI系樹脂前駆体から得られるPI系樹脂の物性が安定しにくい傾向がある。一方、分子量が低すぎると機械物性が低下する傾向がある。
【0142】
ジアミン化合物とテトラカルボン酸化合物との反応温度は、好ましくは50℃以下、より好ましくは40℃以下、さらに好ましくは30℃以下である。反応温度が上記の上限以下であると、得られるPI系フィルムの突刺強度や基材の接着性が高まりやすく、またDfやCTEが低減しやすい。また、ジアミン化合物とテトラカルボン酸化合物との反応温度は、好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上、さらに好ましくは15℃以上である。反応温度が上記の下限以上であると、反応速度を高めやすく、重合時間を短くできる傾向がある。
反応時間は特に限定されず、例えば0.5~72時間程度、好ましくは3~32時間であってもよい。反応時間が上記の範囲内であると、得られるPI系フィルムの突刺強度や基材の接着性が高まりやすく、またDfやCTEが低減しやすい。
【0143】
ジアミン化合物とテトラカルボン酸化合物との反応は、溶媒中で行うことが好ましい。溶媒としては、反応に影響を与えない限り特に限定されないが、例えば、水、メタノール、エタノール、エチレングリコール、イソプロピルアルコール、プロピレングリコール、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、1-メトキシ-2-プロパノール、2-ブトキシエタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール系溶媒;フェノール、クレゾール等のフェノール系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、乳酸エチル等のエステル系溶媒;γ-ブチロラクトン(以下、GBLと記載することがある)、γ-バレロラクトン等のラクトン系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、2-ヘプタノン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒;エチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素溶媒;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒;アセトニトリル等のニトリル系溶媒;テトラヒドロフラン及びジメトキシエタン等のエーテル系溶媒;クロロホルム及びクロロベンゼン等の塩素含有溶媒;N,N-ジメチルアセトアミド(以下、DMAcと記載することがある)、N,N-ジメチルホルムアミド(以下、DMFと記載することがある)等のアミド系溶媒;ジメチルスルホン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄系溶媒;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒;N-メチルピロリドン(以下、NMPと記載することがある)等のピロリドン系溶媒;及びそれらの組合せなどが挙げられる。これらの中でも、溶解性の観点から、好ましくはフェノール系溶媒、ラクトン系溶媒、アミド系溶媒、ピロリドン系溶媒、より好ましくはアミド系溶媒を好適に使用できる。
【0144】
本発明の一実施形態において、ジアミン化合物とテトラカルボン酸化合物との反応に用いる溶媒の沸点は、PI系フィルムのDfの低減、突刺強度や基材との接着性の向上、CTEの低減等の観点から、好ましくは230℃以下、より好ましくは200℃以下、さらに好ましくは180℃以下であり、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上である。
【0145】
ジアミン化合物とテトラカルボン酸化合物との反応は、必要に応じて、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気等の不活性雰囲気下又は減圧の条件下において行ってもよく、不活性雰囲気、例えば、窒素雰囲気又はアルゴン雰囲気等の下、厳密に制御された脱水溶媒中で撹拌しながら行うことが好ましい。
【0146】
得られるPI系樹脂前駆体は、慣用の方法により一旦単離してもよいが、単離することなく、PI系樹脂前駆体の合成により得られたPI系樹脂前駆体を含む反応液を、PI系樹脂の製造に用いてもよい。
【0147】
PI系樹脂は、250℃以上360℃未満の熱処理によって、前記PI系樹脂前駆体をイミド化して製造することが好ましい。イミド化条件は〔ポリイミド系フィルムの製造方法〕の項に記載のものと同じ方法であることが好ましく、SLS/SRI、RI面積率や値αを上記の範囲に調整しやすい観点から、〔ポリイミド系フィルムの製造方法〕の項に記載の方法によりイミド化を行ってPI系樹脂を製造することがより好ましい。なお、SLS/SRI、RI面積率や値αを上記の範囲に調整しやすい観点から、〔ポリイミド系フィルムの製造方法〕の項に記載の静置工程を含む方法によりPI系樹脂を製造することもできる。
【0148】
PI系樹脂は、慣用の方法、例えば、濾過、濃縮、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段や、これらを組合せた分離手段により分離精製して単離できる。
【0149】
〔ポリイミド系フィルム〕
本発明は、ポリイミド系樹脂を含み、多角度光散乱検出器と示差屈折率検出器を備えた装置を用いるゲル浸透クロマトグラフィーにおいて、前記多角度光散乱検出器で得られる前記ポリイミド系樹脂の90°方向における光散乱信号強度を縦軸、溶出時間(分)を横軸とした前記ポリイミド系樹脂のクロマトグラムにおける、溶出開始点から溶出終了点までのピークの総面積をSLSとし、前記示差屈折率検出器で得られる前記ポリイミド系樹脂の屈折率信号強度を縦軸、溶出時間(分)を横軸とした前記ポリイミド系樹脂のクロマトグラムにおける、溶出開始点から溶出終了点までのピークの総面積をSRIとしたときに、SLS/SRIは1.0以上である、ポリイミド系フィルムを包含する。
【0150】
LS/SRIは、〔ポリイミド系樹脂〕の項に記載のSLS/SRIと同じであり、好適な範囲や測定方法も同じである。
【0151】
本発明のPI系フィルムは、SLS/SRIが1.0以上であるPI系樹脂を含むため、十分に高い突刺強度を有することができる。そのため、PI系フィルムの厚み方向に衝撃を受けても破損を有効に抑制できる。また、基材との接着性にも優れるとともに、低いDfを有することもできる。
【0152】
本発明の一実施形態において、本発明のPI系フィルムは、前記示差屈折率検出器で得られる屈折率信号強度を縦軸、溶出時間(分)を横軸とするクロマトグラムにおいて、溶出開始点から溶出終了点までのピークの総面積をSRI、絶対分子量が20万以上である成分のピーク面積をSM20としたときに、(SM20/SRI)×100(RI面積率)が0.5%以上であるPI系樹脂を含むことが好ましい。(SM20/SRI)×100は、〔ポリイミド系樹脂〕の項に記載の(SM20/SRI)×100と同じであり、好適な範囲や測定方法も同じである。
【0153】
本発明の一実施形態において、本発明のPI系フィルムは、多角度光散乱検出器と示差屈折率検出器を備えた装置を用いるゲル浸透クロマトグラフィーにより得られるPI系樹脂の絶対分子量と慣性半径のデータを、前記絶対分子量の対数を横軸、前記慣性半径の対数を縦軸としてプロットし、前記プロットのデータを、横軸が前記PI系樹脂の重量平均分子量(Mw)の対数以上、z平均分子量(Mz)の対数以下の範囲において最小二乗法近似することにより得られる式(I):
logR=αlogM+logK (I)
[式(I)中、Rは前記ポリイミド系樹脂の慣性半径(nm)を表し、Mは前記ポリイミド系樹脂の絶対分子量を表し、Kは定数を表す]
により表わされる直線の傾きの値として定義されるαが0.10以上0.55以下であることが好ましい。値αは、〔ポリイミド系樹脂〕の項に記載の値αと同じであり、好適な範囲や測定方法も全て同じである。
【0154】
本発明のPI系フィルムは、該PI系フィルムに含まれるPI系樹脂のSLS/SRIが1.0以上であれば限定されないが、突刺強度、基材との接着性や誘電特性を高める観点から、〔ポリイミド系樹脂〕の項に記載の本発明のポリイミド系樹脂を含むことが好ましい。また、本発明のPI系樹脂は、イミド化温度が低温であっても、Dfの低いPI系フィルムを形成できる。そのため、本発明の好適な実施形態では、本発明のPI系フィルムは、PI系樹脂前駆体を200℃以上500℃以下、好ましくは250℃以上360℃未満、より好ましくは260℃以上350℃以下、さらに好ましくは275℃以上350℃以下の熱処理によりイミド化して得られるPI系樹脂を含むことが好ましい。
【0155】
本発明の一実施形態において、PI系フィルム中のPI系樹脂の含有量は、本発明のPI系フィルムの質量に対して、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上である。また、PI系樹脂の含有量の上限は特に制限されず、PI系フィルムの質量に対して、例えば100質量%以下、99質量%以下、又は95質量%以下であってもよい。PI系樹脂の含有量が上記範囲であると、PI系フィルムの突刺強度や基材との接着性が高まりやすい。さらに、PI系フィルムのDfを低減しやすく、またCTEも低減しやすい。
【0156】
本発明のPI系フィルムは、必要に応じて、フィラーを含むことができる。フィラーとしては、シリカ、アルミナ等の金属酸化物粒子、炭酸カルシウム等の無機塩、フッ素樹脂、シクロオレフィンポリマー等のポリマー粒子等が挙げられる。フィラーは単独又は2種以上を組合せて使用することができる。フィラーを含む場合、その含有量は、PI系フィルムの質量に対して、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下であり、好ましくは0.01質量%以上である。
【0157】
また、本発明の一実施形態において、本発明のPI系フィルムは、必要に応じて、添加剤を含むことができる。添加剤としては、例えば酸化防止剤、難燃剤、架橋剤、界面活性剤、相溶化剤、イミド化触媒、耐候剤、滑剤、抗ブロッキング剤、帯電防止剤、防曇剤、無滴剤、顔料などが挙げられる。添加剤は単独又は二種以上組合せて使用できる。各種添加剤の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜選択でき、各種添加剤を含む場合、その合計含有量は、PI系フィルムの質量に対して、好ましくは7質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは4質量%以下、さらにより好ましくは1質量%以下であり、好ましくは0.001質量%以上である。なお、本発明のPI系樹脂が、前記フィラー及び前記添加剤を含んでいてもよい。
【0158】
本発明の一実施形態において、PI系フィルムのCTEは、好ましくは50ppm/K以下、より好ましくは40ppm/K以下、さらに好ましくは30ppm/K以下、さらにより好ましくは25ppm/K以下である。PI系フィルムのCTEが上記の上限以下であると、優れた寸法安定性を有することができる。また、PI系フィルムのCTEは、好ましくは0ppm/K以上、より好ましくは5ppm/K以上、さらに好ましくは8ppm/K以上、さらにより好ましくは10ppm/K以上、特に好ましくは11ppm/K以上、特により好ましくは11.8ppm/K以上である。PI系フィルムのCTEが、上記の範囲(下限以上かつ上限以下)とすることによって、銅箔とPI層のCTEが近くなるため、積層フィルムの剥がれを抑制できる。なお、CTEは、例えば熱機械分析装置(以下、「TMA」と記載することがある)により測定でき、実施例に記載の方法により求められる。
【0159】
プリント回路には、伝送損失が小さくなることが求められる。伝送損失は、誘電体で生じる電界によって発生する損失である誘電損失と、導体を流れる電流に起因して発生する損失である導体損失との和で表される。そして、誘電損失は、近似的に式(i)で表される指標Eに比例することが知られている。
E=Df×(Dk)1/2 (i)
[式(i)中、Dfは誘電正接を表し、Dkは比誘電率を表す]
5G用FPCで用いられる高周波数域では、誘電損失が大きくなる傾向にあるため、前記指標Eの値が小さく、誘電損失を抑制できる材料が特に求められている。
一方、高周波信号は導体のごく表面に電流が集中する。したがって、導体損失は接する誘電体の誘電特性に関連し、近似的に(Dk)1/2に比例することが知られている。
【0160】
本発明のPI系フィルムは、Df及びDkが小さいので、誘電損失の指標E及び導体損失も小さくなり、該PI系フィルムを含む回路では伝送損失が低減できる。
【0161】
本発明の一実施形態において、PI系フィルムの10GHzにおける誘電損失の指標Eは、好ましくは0.008未満、より好ましくは0.0075以下、さらに好ましくは0.007以下、さらにより好ましくは0.0065以下、特に好ましくは0.006以下、特により好ましくは0.005以下、特にさらに好ましくは0.004以下である。前記指標Eが小さければ小さいほどPI系フィルムを含んでなる電子回路の伝送損失は低くなるため、前記指標Eの下限は特に制限されず、例えば0以上であってよい。
【0162】
本発明の一実施形態において、PI系フィルムの10GHzにおけるDfは、PI系フィルムを含んでなる電子回路の伝送損失を低減する観点から、好ましくは0.004以下、より好ましくは0.0038以下、さらに好ましくは0.0035以下、さらにより好ましくは0.0033以下、特に好ましくは0.003以下、特により好ましくは0.0029以下であり、例えば0.0027以下、0.0025以下、0.0023以下、又は0.0021以下であってもよい。前記Dfが小さければ小さいほどPI系フィルムを含んでなる電子回路の伝送損失は低くなるため、前記Dfの下限は特に制限されず、例えば0以上であってよい。
【0163】
本発明の一実施形態において、PI系フィルムの10GHzにおけるDkは、好ましくは3.50以下、より好ましくは3.45以下、さらに好ましくは3.41以下であり、例えば3.38以下、3.36以下、3.33以下、又は3.31以下であってもよい。
【0164】
PI系フィルムのDf及びDkは、ベクトルネットワークアナライザ及び共振器を用いて測定でき、例えば実施例に記載の方法で測定できる。
【0165】
本発明のPI系フィルムの厚さは、用途に応じて適宜選択でき、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、さらに好ましくは20μm以上、さらにより好ましくは30μm以上であり、好ましくは500μm以下、より好ましくは300μm以下、さらに好ましくは100μm以下、特に好ましくは80μm以下、特により好ましくは60μm以下、特にさらに好ましくは50μm以下である。PI系フィルムの厚さが上記の範囲であると、PI系フィルムの突刺強度や基材との接着性が高まりやすい。フィルムの厚さは、フィルムの任意の5点以上の厚さを測定し、それらの平均値とする。なお、フィルムの厚さは、膜厚計やレーザー顕微鏡等を用いて測定でき、例えば実施例に記載の方法により測定できる。なお、本発明のPI系フィルムが後述の多層PI系フィルムである場合、上記厚さは単層部分の厚さを表す。
【0166】
本発明のPI系フィルムは、通常工業的に採用されている方法によって、コロナ放電処理、プラズマ処理、オゾン処理等の表面処理が施されていてもよい。
【0167】
本発明のPI系フィルムの突刺強度は、好ましくは7N以上、より好ましくは7.5N以上、さらに好ましくは8N以上、さらにより好ましくは8.5N以上、特に好ましくは9N以上、特により好ましくは9.5N以上である。PI系フィルムの突刺強度が上記の下限以上であると、フィルムの厚み方向に衝撃を受けた際の破損を有効に抑制できる。PI系フィルムの突刺強度の上限は、限定されないが、例えば30N以下であってもよい。突刺強度は、室温(例えば温度23℃)、相対湿度50%の環境下で、JIS Z 1707に準拠して小型卓上試験機を用いて測定でき、例えば実施例に記載の方法により測定できる。
【0168】
本発明のPI系フィルムの基材(好ましくは銅箔)に対する剥離強度は、好ましくは0.45kN/m以上、より好ましくは0.5kN/m以上、さらに好ましくは0.55kN/m以上、さらにより好ましくは0.6kN/m以上である。剥離強度が上記の下限以上であると、基材との高い接着性を発現できる。PI系フィルムの基材に対する剥離強度の上限は、限定されないが、例えば10kN/m以下であってもよい。剥離強度は、基材付きPI系フィルムを作製後、温度23℃、相対湿度50%、剥離速度:50mm/分の条件下で小型卓上試験機を用いて測定でき、例えば実施例に記載の方法により測定できる。
【0169】
本発明のPI系フィルムは、単層PI系フィルムであっても、多層PI系フィルムであってもよい。つまり、1つのPI系樹脂含有層から構成されていてもよいし、2つ以上のPI系樹脂含有層から構成されていてもよい。本発明のPI系フィルムが多層PI系フィルムである場合、PI系フィルムにおけるSM20、SLS、SRI、値α、Mn、Mw、Mzを含む上記の測定は、多層PI系フィルム自体を測定することにより行うことができる。上記の測定は、例えば実施例に記載の方法により行うことができる。
【0170】
本発明のPI系フィルムが多層PI系フィルムである場合、突刺強度、基材との接着性や誘電特性を高める観点から、多層PI系フィルムは2層以上、好ましくは3層以上のPI系樹脂含有層から構成されていてもよく、好ましくは5層以下、より好ましくは4層以下、さらに好ましくは3層のPI系樹脂から構成されていてもよい。本発明の一実施形態では、本発明の多層PI系フィルムは、PI系樹脂含有層(PI-1)とPI系樹脂含有層(PI-2)とを含むことが好ましい。本発明の好適な実施形態では、突刺強度、基材との接着性や誘電特性を高め、さらに多層PI系フィルムの反りを抑制する観点から、本発明の多層PI系フィルムは、PI系樹脂含有層(PI-1)及びPI系樹脂含有層(PI-2)に加え、さらにPI系樹脂含有層(PI-3)を含むことが好ましい。かかる実施形態では、本発明の多層PI系フィルムは、突刺強度、基材との接着性や誘電特性を高め、さらに多層PI系フィルムの反りを抑制する観点から、PI系樹脂含有層(PI-2)、PI系樹脂含有層(PI-1)及びPI系樹脂含有層(PI-3)をこの順に含むことが好ましく、互いに隣接してこの順に含むことがより好ましい。なお、ポリイミド系樹脂含有層(PI-1)を、単に層(PI-1)ということがあり、層(PI-1)以外のポリイミド系樹脂含有層についても同様に、層(PI-2)及び層(PI―3)と記載することがある。PI系樹脂含有層(PI-1)、PI系樹脂含有層(PI-2)及びPI系樹脂含有層(PI-3)(PI系樹脂含有層(PI-1)~(PI-3)又は層(PI-1)~(PI-3)と記載することがある)を含む多層PI系フィルムを多層PI系フィルム(L)と記載することがある。
【0171】
本発明の一実施態様において、層(PI-2)の厚みは、層(PI-1)の厚みの0.05~0.3倍であることが好ましい。前記厚みが前記関係にある場合、多層PI系フィルムは、高い突刺強度、高い基材との接着性やフレキシブルプリント回路基板に適する柔軟性などの機械物性を備え得る。また、多層フィルムのDfを低減するとともに、突刺強度を向上させ得るため、フレキシブルプリント回路基板に適する機械物性と5G等の高速通信用途に適する誘電特性とをバランスよく備えた多層PI系フィルムを得ることができる。特に、多層PI系フィルムの厚みが20~100μmであり、かつ、層(PI-2)の厚みが、層(PI-1)の厚みの0.05~0.3倍である場合に前記本発明の効果はより得られやすくなる。層(PI-2)の厚みは、層(PI-1)の厚みに対し、より好ましくは0.08倍以上、さらに好ましくは0.10倍以上、特に好ましくは0.12倍以上であり、より好ましくは0.25倍以下、さらに好ましくは0.23倍以下、特に好ましくは0.20倍以下である。なお、本発明の多層PI系フィルムが層(PI-3)を有する場合、層(PI-3)の厚みは、上記層(PI-2)の範囲から選択してもよい。
【0172】
本発明の一実施形態において、多層PI系フィルムの厚みは、好ましくは20μm以上、より好ましくは25μm以上、さらに好ましくは30μm以上、さらにより好ましくは35μm以上、特に好ましくは40μm以上であり、好ましくは150μm以下、より好ましくは130μm以下、さらに好ましくは100μm以下、さらにより好ましくは90μm以下、特に好ましくは80μm以下、特により好ましくは70μm以下、特にさらに好ましくは60μm以下である。多層PI系フィルムの厚みが前記範囲内であると、多層PI系フィルムは、高い突刺強度やフレキシブルプリント回路基板等に適する柔軟性などの機械物性を備え得る。また、多層PI系フィルムのDfを低減するとともに、多層PI系フィルムの突刺強度を向上させ得るため、フレキシブルプリント回路基板に適する機械物性と5G等の高速通信用途に適する誘電特性とをバランスよく備えた多層PI系フィルムを得ることができる。
【0173】
本発明の一実施形態において、多層PI系フィルムに含まれる各PI系樹脂含有層の厚みは、それぞれ、通常、0.5~100μmの範囲であり、各PI系樹脂含有層の機能や用途等に応じて適宜決定すればよい。例えば、本発明の一実施形態において、層(PI-1)の厚みは、通常5μm以上であり、好ましくは10μm以上、より好ましくは15μm以上、さらに好ましくは20μm以上、さらにより好ましくは30μm以上であり、好ましくは80μm以下、より好ましくは60μm以下、さらに好ましくは55μm以下、さらにより好ましくは50μm以下である。また、層(PI-2)の厚みは、通常0.5μm以上であり、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上、さらに好ましくは3μm以上、さらにより好ましくは4μm以上であり、好ましくは20μm以下、より好ましくは15μm以下、さらに好ましくは10μm以下、さらにより好ましくは8μm以下である。各層の厚みは、膜厚計やレーザー顕微鏡等を用いて測定でき、例えば実施例に記載の方法により測定できる。
【0174】
本発明の一実施形態では、本発明の多層PI系フィルムにおいて、層(PI-1)及び層(PI-2)を構成するポリイミド系樹脂は、優れた誘電特性を維持しつつ、突刺強度を高める観点から、層(PI-1)及び層(PI-2)はそれぞれ、非熱可塑性のポリイミド系樹脂含有層(以下、mPI層と記載することがある)又は熱可塑性のポリイミド系樹脂含有層(以下、TPI層と記載することがある)であることが好ましく、層(PI-1)及び層(PI-2)のうち、一方はmPI層であり、他方はTPI層であることがより好ましい。
mPI層は、一般に、フレキシブルプリント回路基板用途の多層PI系フィルムにおいて主となるPI系樹脂含有層となる。TPI層は、多層PI系フィルムを金属箔(例えば銅箔等)と接着する接着層としても機能し得る層であり、多層PI系フィルムにおいて金属箔と接し得る最外層に位置することが好ましい。
【0175】
PI系樹脂含有層を3層以上含む多層PI系フィルムにおいては、少なくとも1層のPI系樹脂含有層がmPI層であり、少なくとも1層(好ましくは少なくとも2層)のPI系樹脂含有層がTPI層であることが好ましく、TPI層、mPI層、TPI層をこの順に備えることがより好ましい。したがって、多層PI系フィルム(L)においては、層(PI-1)はmPI層であることが好ましく、層(PI-2)及び層(PI-3)はそれぞれTPI層であることが好ましい。多層PI系フィルム(L)がこのような層構成であると、mPI層において向上した熱物性を確保して、熱変性や劣化を抑制し、多層PI系フィルムの寸法安定性を確保し得るとともに、TPI層によって金属箔(例えば銅箔等)との接着性を高めることができる。
多層PI系フィルム(L)に複数層のTPI層又はmPI層が含まれる場合、複数層含まれるTPI層又はmPI層の構成はそれぞれ同じであっても、異なっていてもよい。また、多層PI系フィルム(L)においては、通常、層(PI-1)と、層(PI-2)及び層(PI-3)との構成は異なるが、層(PI-2)と層(PI-3)との構成は同じであっても、異なっていてもよい。なお、本明細書において、「非熱可塑性」のポリイミド系樹脂とは、動的粘弾性測定装置(DMA)を用いて測定した40℃における貯蔵弾性率が1.0×10Pa以上であり、かつ、300℃における貯蔵弾性率が1.0×10Pa以上であるポリイミド系樹脂を意味し、「熱可塑性」のポリイミド系樹脂とは、40℃における貯蔵弾性率が1.0×10Pa以上であり、かつ、300℃における貯蔵弾性率が1.0×10Pa未満であるポリイミド系樹脂を意味する。なお、貯蔵弾性率は、例えば実施例に記載の方法により測定できる。
【0176】
本発明の一実施形態において、PI系樹脂含有層(PI-1)~(PI-3)、好ましくはmPI層及びTPI層においてPI系樹脂が、構成単位(A)として構成単位(A2)、好ましくは構成単位(a2)及び/又は構成単位(a2’)と、構成単位(B)として構成単位(B2)、好ましくは構成単位(b1)と構成単位(b2)とを含むことが好ましい。
【0177】
本発明の好適な一実施形態において、多層PI系フィルムを構成するPI系樹脂含有層(PI-1)、好ましくはmPI層に含まれるPI系樹脂が構成単位(A)として、構成単位(A1)及び/又は(A2)、好ましくは構成単位(a2)、構成単位(a2’)及び構成単位(A1)から選択される少なくとも2種の構成単位(より好ましくは構成単位(A1)と構成単位(a2)及び/又は構成単位(a2’)と)を含み、PI系樹脂含有層(PI-2)、好ましくはTPI層に含まれるPI系樹脂が構成単位(A)として、構成単位(A2)、好ましくは構成単位(a2)及び構成単位(a2’)を含み、かつ、PI系樹脂含有層(PI-1)及びPI系樹脂含有層(PI-2)、好ましくはmPI層及びTPI層を構成するPI系樹脂がそれぞれ構成単位(B)として、構成単位(B2)、好ましくは構成単位(b1)及び(b2)を含む。
【0178】
本発明の好適な一実施形態において、多層PI系フィルムが、さらにPI系樹脂含有層(PI-3)を含む場合、多層PI系フィルム(L)を構成するPI系樹脂含有層(PI-1)、好ましくはmPI層に含まれるPI系樹脂が構成単位(A)として、構成単位(A1)及び/又は(A2)、好ましくは構成単位(a2)、構成単位(a2’)及び構成単位(A1)から選択される少なくとも2種の構成単位(より好ましくは構成単位(A1)と構成単位(a2)及び/又は構成単位(a2’)と)を含み、PI系樹脂含有層(PI-2)及びPI系樹脂含有層(PI-3)、好ましくはTPI層に含まれるPI系樹脂が構成単位(A)として、構成単位(A2)、好ましくは構成単位(a2)及び構成単位(a2’)を含み、かつ、PI系樹脂含有層(PI-1)~層(PI-3)、好ましくはmPI層及びTPI層を構成するPI系樹脂がそれぞれ構成単位(B)として構成単位(B2)、好ましくは構成単位(b1)及び(b2)を含む。
【0179】
mPI層、TPI層、層(PI-1)、層(PI-2)や層(PI-3)が、上記構成単位を組み合わせて含んで構成されると、各層のPI系樹脂が剛直すぎず、ある程度自由度がある柔軟な構造となり得るため、イミド化時の加熱により分岐構造を形成しやすく、また、結晶性を高める傾向がある。さらに、隣接する2つの層間の相互作用を高めることができる。それゆえに、これらの層から構成される多層PI系フィルムにおけるSLS/SRI、RI面積率や値αを所望の範囲に制御しやすくなり、PI系樹脂が各構成単位を有することにより期待される本発明の上記各効果が得られやすくなり、また、該効果をより一層高めることができる。
【0180】
<層(PI-1)>
本発明の一実施形態において、層(PI-1)を構成するPI系樹脂は、構成単位(A)として、構成単位(A1)及び/又は構成単位(A2)を含み、好ましくは構成単位(a2)、構成単位(a2’)及び構成単位(A1)から選択される少なくとも2種の構成単位を含み、より好ましくは、構成単位(A1)と構成単位(a2)及び/又は構成単位(a2’)とを含む。層(PI-1)がこれらの構成単位を含む場合、構成単位(A2)(好ましくは構成単位(a2)又は構成単位(a2’))の含有量は、構成単位(A)の総量に対して、好ましくは20モル%以上、より好ましくは30モル%以上、さらに好ましくは35モル%以上、特に好ましくは40モル%以上であり、好ましくは80モル%以下、より好ましくは75モル%以下、さらに好ましくは70モル%以下、特に好ましくは65モル%以下である。また、構成単位(A1)の含有量は、構成単位(A)の総量に対して、好ましくは10モル%以上、より好ましくは20モル%以上、さらに好ましくは30モル%以上、さらにより好ましくは35モル%以上、特に好ましくは40モル%以上であり、好ましくは75モル%以下、より好ましくは70モル%以下、さらに好ましくは65モル%以下、特に好ましくは60モル%以下である。また、別の実施形態では、構成単位(A1)の含有量は、好ましくは45モル%以下(0~45モル%)、より好ましくは35モル%以下、さらに好ましくは25モル%以下、さらにより好ましくは15モル%以下、特に好ましくは5モル%以下、特により好ましくは1モル%以下であり、下限は0モル%であってよい。
構成単位(A2)及び/又は構成単位(A1)の含有量がそれぞれ上記範囲にあると、PI系樹脂が剛直すぎず、ある程度自由度がある柔軟な構造となり得るため、イミド化時の加熱により分岐構造を形成しやすく、また、結晶性を高める傾向がある。これにより、多層PI系フィルムにおけるSLS/SRI、RI面積率や値αを所望の範囲に制御しやすくなり、突刺強度、基材との接着性、誘電特性や熱物性に優れたPI系フィルムを得ることができる。
【0181】
一方、本発明の別の一実施形態において、層(PI-1)を構成するPI系樹脂における構成単位(a2)又は(a2’)の含有量は、構成単位(A)の総量に対して、好ましくは30モル%未満、より好ましくは25モル%以下、さらに好ましくは20モル%以下、特に好ましくは10モル%以下である。本発明の一実施形態においては、層(PI-1)は構成単位(a2)又は(a2’)を実質的に含まなくてもよく、構成単位(a2)又は(a2’)の含有量の下限は0モル%であり得る。
【0182】
本発明の一実施形態において、層(PI-1)を構成するPI系樹脂は、構成単位(B)として、構成単位(B2)を含むことが好ましい。構成単位(B2)としては、好ましくは構成単位(b2)、より好ましくは構成単位(b2’)及び/又は構成単位(b2”)を含む。層(PI-1)を構成するPI系樹脂における構成単位(B2)の含有量は、構成単位(B)の総量に対して、好ましくは0.001モル%以上、より好ましくは0.01モル%以上、さらに好ましくは0.1モル%以上、さらにより好ましくは1モル%以上であり、例えば5モル%以上、10モル%以上、20モル%以上、30モル%以上、又は40モル%以上であってもよい。また、構成単位(B2)の含有量は、構成単位(B)の総量に対して、好ましくは90モル%以下、より好ましくは80モル%以下、さらに好ましくは70モル%以下、さらにより好ましくは60モル%以下であり、例えば50モル%以下、40モル%以下、30モル%以下、20モル%以下、10モル%以下、5モル%以下、又は3モル%以下であってもよい。また、層(PI-1)を構成するPI系樹脂は、構成単位(B)として、構成単位(B1)を含むことが好ましい。層(PI-1)を構成するPI系樹脂における構成単位(B1)の含有量は、構成単位(B)の総量に対して、好ましくは25モル%以上、より好ましくは30モル%超、さらに好ましくは40モル%以上であり、例えば60モル%以上、70モル%以上、80モル%以上、又は90モル%以上であってもよい。構成単位(B1)の含有量は、構成単位(B)の総量に対して、構成単位(B)の総量に対して、好ましくは99.9モル%以下、より好ましくは99モル%以下、さらに好ましくは95モル%以下であり、例えば例えば90モル%以下、80モル%以下、70モル%以下、又は60モル%以下であってもよい。構成単位(B1)及び/又は構成単位(B2)の含有量がそれぞれ上記範囲にあると、PI系樹脂が剛直すぎず、ある程度自由度がある柔軟な構造となり得るため、イミド化時の加熱により分岐構造を形成しやすく、また、結晶性を高める傾向がある。これにより、多層PI系フィルムにおけるRI面積率、SLS/SRIや値αを所望の範囲に制御しやすくなり、突刺強度、基材との接着性、誘電特性や熱物性に優れたPI系フィルムを得ることができる。
【0183】
<層(PI-2)及び層(PI-3)>
本発明の一実施形態において、多層PI系フィルムは、層(PI-2)を含み、さらに層(PI-3)を含むことができる。層(PI-2)及び層(PI-3)を構成するPI系樹脂は、それぞれ、構成単位(A)として好ましくは構成単位(A2)、より好ましくは(a2)及び/又は構成単位(a2’)を含む。これらの構成単位を含む場合、構成単位(A2)の含有量は、構成単位(A)の総量に対して、好ましくは30モル%以上、より好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上、さらにより好ましくは90モル%以上であり、好ましくは100モル%以下である。また、構成単位(a2)の含有量は、構成単位(A)の総量に対して、好ましくは10モル%以上、より好ましくは15モル%以上、さらに好ましくは20モル%以上であり、好ましくは80モル%以下、より好ましくは70モル%以下、さらに好ましくは60モル%以下、特に好ましくは50モル%以下である。また、構成単位(a2’)の含有量は、構成単位(A)の総量に対して、好ましくは20モル%以上、より好ましくは30モル%以上、さらに好ましくは40モル%以上、さらにより好ましくは50モル%以上、特に好ましくは60モル%以上であり、好ましくは90モル%以下、より好ましくは85モル%以下、さらに好ましくは80モル%以下、さらにより好ましくは75モル%以下である。構成単位(A2)、特に構成単位(a2)及び/又は構成単位(a2’)の含有量がそれぞれ上記範囲にあると、PI系樹脂が剛直すぎず、ある程度自由度がある柔軟な構造となり得るため、イミド化時の加熱により分岐構造を形成しやすく、また、結晶性を高める傾向がある。これにより、多層PI系フィルムの突刺強度の向上、基材との接着性の向上やDfの低減が可能であり、さらにCTEも効果的に低減することができるため、優れた突刺強度、基材との接着性、誘電特性や熱物性を有するPI系フィルムを得ることができる。
【0184】
本発明の一実施態様において、層(PI-2)及び層(PI-3)を構成するPI系樹脂中の構成単位(A1)の含有量は、構成単位(A)の総量に対して、好ましくは10モル%以下、より好ましくは8モル%以下、さらに好ましくは5モル%以下、特に好ましくは3モル%以下である。本発明の一実施形態においては、層(PI-2)及び層(PI-3)は構成単位(A1)を実質的に含まなくてもよく、構成単位(A1)の含有量の下限は0モル%であり得る。
【0185】
本発明の一実施形態において、層(PI-2)及び層(PI-3)を構成するPI系樹脂は、構成単位(B)として、構成単位(B2)を含むことが好ましい。構成単位(B2)としては、好ましくは構成単位(b2)、より好ましくは構成単位(b2’)及び/又は構成単位(b2”)を含む。層(PI-2)及び層(PI-3)を構成するPI系樹脂における構成単位(B2)の含有量は、構成単位(B)の総量に対して、好ましくは20モル%以上、より好ましくは30モル%以上、さらに好ましくは35モル%以上、特に好ましくは40モル%以上であり、好ましくは99モル%以下、より好ましくは95モル%以下であり、さらに好ましくは92モル%以下であり、例えば90モル%以下、80モル%以下、70モル%以下、又は60モル%以下であってもよい。また、層(PI-2)及び層(PI-3)を構成するPI系樹脂は、構成単位(B)として、構成単位(B1)を含むことが好ましい。層(PI-2)及び層(PI-3)を構成するPI系樹脂における構成単位(B1)の含有量は、構成単位(B)の総量に対して、好ましくは1モル%以上、より好ましくは5モル%以上であり、例えば10モル%以上、25モル%以上、30モル%超、又は40モル%以上であってもよい。構成単位(B1)の含有量は、構成単位(B)の総量に対して、好ましくは80モル%以下、より好ましくは80モル%以下、さらに好ましくは70モル%以下、さらにより好ましくは60モル%以下であり、例えば50モル%以下、40モル%以下、30モル%以下、又は20モル%以下であってもよい。構成単位(B1)及び/又は構成単位(B2)の含有量がそれぞれ上記範囲にあると、PI系樹脂が剛直すぎず、ある程度自由度がある柔軟な構造となり得るため、イミド化時の加熱により分岐構造を形成しやすく、また、結晶性を高める傾向がある。これにより、多層PI系フィルムの突刺強度の向上、基材との接着性の向上やDfの低減が可能であり、さらにCTEも効果的に低減することができるため、優れた突刺強度、基材との接着性、誘電特性や熱物性を有するPI系フィルムを得ることができる。
【0186】
〔ポリイミド系フィルムの製造方法〕
本発明のPI系フィルムは、例えば、以下の工程:
本発明のPI系樹脂前駆体を含むPI系樹脂前駆体溶液を基材上に塗工する工程、及び
200℃以上500℃以下の熱処理によって、PI系樹脂前駆体をイミド化する工程
を含む方法によって製造することができる。
【0187】
<ポリイミド系樹脂前駆体溶液の塗工工程>
(PI系樹脂前駆体溶液の調製)
PI系樹脂前駆体溶液は、前記PI系樹脂前駆体と溶媒とを含み、該PI系樹脂前駆体と溶媒とを混合することによって調製できる。また、本発明の一実施形態において、PI系樹脂前駆体の合成により得られたPI系樹脂前駆体を含む反応液を、必要に応じて溶媒で適宜希釈し、PI系樹脂前駆体溶液として使用してもよい。
【0188】
PI系樹脂前駆体溶液に含まれる溶媒は、PI系樹脂前駆体の製造におけるジアミン化合物とテトラカルボン酸化合物との反応に用いる溶媒として例示のものが挙げられ、好ましくはラクトン系溶媒、アミド系溶媒、ピロリドン系溶媒、より好ましくはアミド系溶媒である。また、本発明の一実施形態において、PI系樹脂前駆体溶液に含まれる溶媒の沸点は、PI系フィルムのDfの低減、突刺強度や基材との接着性の向上、CTEの低減等の観点から、好ましくは230℃以下、より好ましくは200℃以下、さらに好ましくは180℃以下、特に好ましくは170℃以下であり、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上である。
【0189】
PI系樹脂前駆体溶液に含まれるPI系樹脂前駆体の含有量は、PI系樹脂前駆体溶液の総量に対して、好ましくは8質量%以上、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは12質量%以上、特に好ましくは13質量%以上であり、また、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、さらに好ましくは23質量%以下、特に好ましくは20質量%以下である。PI系樹脂前駆体の含有量が上記の範囲内であると、製膜時の加工性に優れる。
【0190】
(ポリイミド系樹脂前駆体溶液の塗工)
PI系樹脂前駆体溶液の塗工工程は、PI系樹脂前駆体溶液を基材上に塗工し、塗膜を形成する工程である。
【0191】
塗工工程において、公知の塗工方法又は塗布方法により、基材上に組成物(PI系樹脂前駆体溶液)を塗工して塗膜を形成する。公知の塗工方法としては、例えばワイヤーバーコーティング法、リバースコーティング、グラビアコーティング等のロールコーティング法、ダイコート法、カンマコート法、リップコート法、スピンコーティング法、スクリーン印刷コーティング法、ファウンテンコーティング法、ディッピング法、スプレー法、カーテンコート法、スロットコート法、流涎成形法等が挙げられる。PI系樹脂前駆体の溶液を基材上に塗工又は塗布するときは、基材上に単層のPI系樹脂前駆体を塗工しても、複数層のPI系樹脂前駆体を基材上に塗工してもよい。基材上に複数層のPI系樹脂前駆体を塗工する場合、複数回に分けて塗工し乾燥してもよく、複数層を同時に塗工してもよい。
【0192】
基材の例としては、金属箔等の金属板、SUSベルト等のSUS板、ガラス基板、PETフィルム、PENフィルム、本発明のPI系フィルム以外の他のPI系樹脂フィルム、ポリアミド系樹脂フィルム等が挙げられる。中でも、耐熱性に優れる観点から、好ましくは金属板、SUS板、ガラス基板、PETフィルム、PENフィルム等が挙げられ、フィルムとの接着性及びコストの観点から、より好ましくは金属板、SUS板、ガラス基板又はPETフィルム等が挙げられる。本発明の一実施形態において、金属箔を構成する金属としては、例えば、アルミニウム、銅、鉄、ニッケル、クロム、チタン、タンタル、ステンレス及びこれらの合金等が挙げられる。これらの中でも、金属箔は、銅箔、銅合金箔、SUS箔、アルミニウム箔等が好ましく、導電性及び金属加工性の観点からは、銅箔又は銅合金箔がより好ましく、銅箔が特に好ましい。
【0193】
<イミド化工程>
イミド化工程は、200℃以上500℃以下の熱処理によって、基材上に塗工されたPI系樹脂前駆体をイミド化する工程である。
本発明の好適な実施形態において、イミド化工程は、PI系樹脂前駆体のイミド化の前に、基材上に塗工されたPI系樹脂前駆体溶液を例えば250℃未満、好ましくは80℃以上200℃以下、より好ましくは100℃以上150℃以下の比較的低い温度で加熱して乾燥(予備乾燥と記載することがある)し、得られたPI系樹脂前駆体の乾燥膜を、200℃以上500℃以下の熱処理によって、イミド化する工程であることが好ましい。また、本発明の一実施形態において、基材上のPI系樹脂前駆体の乾燥膜をイミド化してPI系フィルムを得てもよく、PI系樹脂前駆体の乾燥膜を基材から剥離し、基材から剥離された該乾燥膜をイミド化してPI系フィルムを得てもよい。
【0194】
本発明の好適な実施形態では、イミド化工程は、好ましくは基材上に塗工されたPI系樹脂前駆体を予備乾燥した後、比較的速い速度で低温(第1温度という)から高温(第2温度という)まで昇温し、高温下で長時間保持した後、第3温度まで冷却する工程を含むことが好ましい。このように、比較的速い速度で、好ましくは急速に昇温させてイミド化が完了していない状態で高温に到達させた後、長時間保持することで、イミド化と同時に分解等により分岐点が生じやすくなり、高分子量成分も多くなりやすいので、SLS/SRI、RI面積率や式(I)中の値αを上記の範囲に調整しやすい。
【0195】
第1温度は、好ましくは20℃以上50℃以下、より好ましくは25℃以上35℃以下であり、第2温度は、好ましくは250℃以上360℃未満、より好ましくは275℃以上350℃以下であり、第3温度は、好ましくは50℃以上150℃以下、より好ましくは80℃以上120℃以下である。また、第1温度から第2温度まで昇温する速度は、好ましくは4℃/分以上、より好ましくは5℃/分以上、さらに好ましくは6℃/分以上であり、好ましくは15℃/分以下、より好ましくは12℃/分以下である。本発明の一実施形態において、後述する静置工程を設ける場合、第1温度から第2温度まで昇温する速度は、例えば10℃/分以上、15℃/分以上又は20℃/分以上であってもよい。第2温度下での保持時間は、好ましくは70分以上、より好ましくは80分以上、さらに好ましくは100分以上、さらにより好ましくは110分以上、特に好ましくは120分以上であり、好ましくは500分以下、より好ましくは300分以下、さらに好ましくは200分以下である。第2温度から第3温度まで降温する速度は、好ましくは0.1℃/分以上、より好ましくは0.5℃/分以上、さらに好ましくは1℃/分以上であり、好ましくは3℃/分以下、より好ましくは2℃/分以下である。第1温度、第2温度、第3温度、第2温度下での保持時間、前記昇温速度、及び前記降温速度、特に前記昇温速度、前記第2温度及び第2温度下での保持時間が上記の範囲であると、PI系樹脂のイミド化と分解のバランスがよく、SLS/SRI、RI面積率や式(I)中の値αを上記の範囲により調整しやすい。例えば、第2温度が低すぎると、分岐が生じにくくなり、第2温度が高すぎると、PI系樹脂の分解が優先的に生じ、分岐が生じにくく、分子量も低減しやすく、突刺強度や基材との接着性が低くなりやすい。
【0196】
第1温度から第2温度までの昇温時間は、これらの温度や昇温速度に応じて適宜選択でき、好ましくは12時間以下、より好ましくは6時間以下、さらに好ましくは3時間以下、さらにより好ましくは1時間以下であり、好ましくは10分以上、より好ましくは30分以上である。また、第2温度から第3温度までの降温時間は、これらの温度や降温速度に応じて適宜選択でき、好ましくは10時間以下、より好ましくは5時間以下、さらに好ましくは3.5時間以下であり、好ましくは30分以上、より好ましくは1時間以上、さらに好ましくは2時間以上である。前記昇温時間及び前記降温時間、特に第1温度から第2温度までの昇温時間が上記の範囲であると、SLS/SRI、RI面積率や式(I)中の値αを上記の範囲により調整しやすい。なお、第3温度まで降温した後は、例えば室温で放置してもよい。
【0197】
本発明のより好適な実施形態では、イミド化工程は、好ましくは基材上に塗工されたPI系樹脂前駆体を100~150℃で予備乾燥後、25~35℃(第1温度)から250~350℃(第2温度)まで5~12℃/分の速度で昇温し、120~200分保持した後、80~120℃(第3温度)まで1~3℃/分の速度で降温する工程を含むことが特に好ましい。このような形態であると、SLS/SRI、RI面積率や式(I)中の値αを上記の範囲にさらに調整しやすい。
【0198】
また、本発明の一実施形態では、350℃以下の低温でイミド化しても、得られるPI系フィルムのDfを低減でき、十分に高い突刺強度や基材への接着性を発現できる。さらに、イミド化温度が350℃以下であると、基材として銅箔を使用した場合においても、銅箔の熱劣化を抑制し得るため、高周波特性に優れたCCLを得やすい。また、イミド化温度は、十分にイミド化率を向上する観点及びDfを低減する観点からは、好ましくは250℃以上、より好ましくは260℃以上、さらに好ましくは275℃以上である。また、平滑なフィルムを得る観点や、Dfを低減する観点からも、上記のように段階的に加熱を行うことが好ましい。
【0199】
本発明の一実施形態において、本発明のPI系フィルムが多層PI系フィルムである場合、例えば基材に、対応するPI系樹脂前駆体の溶液を塗布及び予備乾燥して多層塗膜を得る工程(塗工及び予備乾燥工程ともいう);並びに多層塗膜を加熱してPI系樹脂をイミド化する工程(イミド化工程ともいう)を含む方法により製造できる。本発明の一実施形態では、塗膜全体に溶媒が十分に残存した状態、又は樹脂層間が良く馴染んだ状態でイミド化することにより、多層PI系フィルムにおけるSLS/SRI、RI面積率や値αを所望の範囲に制御しやすくなる。理由は定かではないが、このような状態であると、イミド化時まで樹脂分子の自由度が高くなるのでPI系樹脂が分岐構造を形成しやすくなり、また高分子量化し得るからだと考えられる。本発明の好適な実施形態では、上記の塗工及び予備乾燥工程とイミド化工程との間に、得られた多層塗膜を静置する工程(静置工程ともいう)を設けることが好ましい。静置工程、好ましくは後述する低温下での静置工程を設けることにより、塗膜全体に溶媒が十分に残存した状態、又は樹脂層間が良く馴染んだ状態にできるため、上記の通り、多層PI系フィルムにおけるSLS/SRI、RI面積率や値αを所望の範囲に制御しやすくなる。
【0200】
多層PI系フィルムにおけるPI系樹脂前駆体溶液の調製は、上記の(PI系樹脂前駆体溶液の調製)の項に記載の方法と同様に行うことができる。
また、塗工及び予備乾燥工程としては、例えば、基材に、対応するPI系樹脂前駆体の溶液を塗布及び予備乾燥することを複数回繰り返すことにより多層塗膜を得る方法(逐次パターンということがある)や、多層押出により、同時に各層に、対応するPI系樹脂前駆体の溶液を多層に積層した状態で塗布及び予備乾燥することにより多層塗膜を得る方法(同時パターンということがある)が挙げられる。
例えば、PI系樹脂含有層(PI-2)、PI系樹脂含有層(PI-1)及びPI系樹脂含有層(PI-3)をこの順に有する多層PI系フィルム(L)の場合、逐次パターンでは、基材上に、PI系樹脂含有層(PI-2)に対応するPI系樹脂前駆体溶液を塗工し、予備乾燥させて塗膜を形成した後、該塗膜上に、PI系樹脂含有層(PI-1)に対応するPI系樹脂前駆体溶液を塗工し、予備乾燥させて2層塗膜を形成した後、該2層塗膜上に、PI系樹脂含有層(PI-3)に対応するPI系樹脂前駆体溶液を塗工し、予備乾燥させて3層塗膜を形成する工程であってもよい。また、同時パターンでは、多層押出等により、基材上に、PI系樹脂含有層(PI-2)に対応するPI系樹脂前駆体溶液、PI系樹脂含有層(PI-1)に対応するPI系樹脂前駆体溶液、及びPI系樹脂含有層(PI-3)に対応するPI系樹脂前駆体溶液を同時に塗工し、予備乾燥させて3層塗膜を形成する工程であってもよい。
PI系樹脂前駆体の溶液の塗工は、上記の(ポリイミド系樹脂前駆体溶液の塗工)の項に記載の方法と同様に行うことができ、予備乾燥は、上記の<イミド化工程>の項に記載の予備乾燥と同様に行うことができる。また、多層塗膜のイミド化工程も、上記の<イミド化工程>の項に記載の方法と同様に行うことができる。なお、本発明の一実施形態では、多層PI系フィルムの製造において、後述の静置工程を設けた場合、SLS/SRI、RI面積率や値αを上記の範囲に調整しやすくなるため、イミド化工程における第2温度下での保持時間を、例えば1~100分、2~50分、又は3~20分と短くすることもできる。
【0201】
<静置工程>
静置工程は、塗工及び予備乾燥工程で得られた多層塗膜を静置する工程である。イミド化工程前に、静置工程に供することにより、イミド化時に塗膜全体に溶媒が十分に残存した状態、又は樹脂層間が良く馴染んだ状態となりやすく、イミド化時まで樹脂分子の自由度を高くすることができる。そのため、PI系樹脂が分岐構造を形成しやすくなり、また高分子量化し得るため、SLS/SRIやRI面積率が大きくなる傾向があり、また値αが小さくなる傾向があり、これらを上記の範囲に調整しやすくなると考えられる。
【0202】
静置工程において、多層塗膜を静置する時間(静置時間ともいう)は、静置する際の温度(静置温度ともいう)に応じて適宜選択でき、特に限定されないが、好ましくは3時間以上、より好ましくは6時間以上、さらに好ましくは12時間以上、さらにより好ましくは18時間以上、特に好ましくは22時間以上であり、例えば24時間以上、30時間以上、36時間以上、又は45時間以上であってもよい。多層塗膜の静置時間の上限は、特に限定されず、通常450時間以下、好ましくは100時間以下、より好ましくは75時間以下、さらに好ましくは50時間以下であり、例えば40時間以下であってもよい。多層塗膜の静置時間が前記範囲であると、イミド化時に塗膜全体に溶媒が十分に残存した状態(又は良く馴染んだ状態)となりやすいので、PI系フィルムにおけるSLS/SRI、RI面積率や値αを上記の範囲に調整しやすい。
【0203】
また、本発明の好適な実施形態では、静置工程は、多層塗膜を低温下(好ましくは冷蔵下)で静置(又は保管)する工程であることが好ましい。低温下で静置(又は保管)することにより、塗膜全体に溶媒がさらに十分に残存した状態、又は樹脂層間がさらに良く馴染んだ状態を作りやすいため、イミド化時までの樹脂分子の自由度をさらに高くできるので、PI系フィルムにおけるSLS/SRI、RI面積率や値αを上記の範囲に調整しやすい。
静置工程において、多層塗膜の静置温度は、好ましくは20℃以下、より好ましくは15℃以下、さらに好ましくは10℃以下、さらにより好ましくは8℃以下、特に好ましくは5℃以下である。多層塗膜の静置温度が前記上限以下である場合、イミド化時に塗膜全体に溶媒が十分に残存した状態(又は良く馴染んだ状態)をより作りやすいので、PI系フィルムにおけるSLS/SRI、RI面積率や値αを上記の範囲に調整しやすい。また、多層塗膜の静置温度の下限は、通常-30℃以上、好ましくは-20℃以上、さらに好ましくは-10℃以上、さらにより好ましくは-5℃以上、特に好ましくは0℃以上である。なお、静置工程は、例えば空気中又は不活性ガス雰囲気下で行ってもよく、密閉空間で行ってもよい。
また、本発明の好適な実施形態において、上記の静置工程を含む製造方法により得られるPI系フィルムは、SLS/SRI、RI面積率や値αが上記の範囲を満たしやすいため、高い突刺強度や基材との高い接着性に加え、Dfを低く維持しやすい。なお、PI系フィルムが単層PI系フィルムである場合でも、静置工程を含む方法により製造してもよい。
【0204】
イミド化後、基材上に形成された塗膜を基材から剥離することによって、PI系フィルムを得ることができる。本発明の一実施形態において、基材が銅箔の場合には、塗膜を銅箔から剥離することなくPI系フィルムを形成し、得られた銅箔上にPI系フィルムが積層された積層フィルムをCCLに用いることもできる。
【0205】
本発明の一実施形態において、本発明のPI系フィルムが多層PI系フィルムである場合には、例えば、共押出加工法、押出ラミネート法、熱ラミネート法、ドライラミネート法等の多層PI系フィルム形成法により製造することもできる。
【0206】
〔積層フィルム〕
本発明のPI系フィルムは、十分に高い突刺強度を有し、また金属箔等の基材との接着性が高く、Dfが低い傾向にあるので、FPCに用いられる金属張積層板の形成に好適に使用し得る。したがって、本発明は、本発明のPI系フィルム(単層PI系フィルム又は多層PI系フィルム)をポリイミド(PI)層として用いて、PI層と金属箔層とを含む積層フィルムを包含する。本発明の一実施形態において、本発明の積層フィルムは、金属箔層をPI層の片面のみに含んでいてもよく、両面に含んでいてもよい。
【0207】
本発明の一実施形態において、金属箔層を構成する金属としては、上記に記載の金属が挙げられ、これらの中でも、金属箔層は、銅箔層、銅合金箔層、SUS箔層、アルミニウム箔層等が好ましく、導電性及び金属加工性の観点からは、銅箔層又は銅合金箔層がより好ましく、銅箔層が特に好ましい。
【0208】
本発明のPI系フィルムは、熱イミド化温度が低温であっても、突刺強度が十分に高く、さらに金属箔層との接着性に優れ、Dfが低い傾向にあり、高周波特性を示すの金属張積層板(好ましくはCCL)の形成に好適に使用し得るため、本発明の好適な一実施形態において、本発明の積層フィルムは、本発明のPI系フィルムの片面又は両面に金属箔層を含む積層フィルムであることが好ましい。
【0209】
本発明の一実施形態において、金属箔層、特に銅箔層の厚さは、好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上であり、また、回路の微細化をしやすく、屈曲耐性を向上しやすい観点から、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下、さらに好ましくは30μm以下、特に好ましくは20μm以下である。金属箔層、特に銅箔層の厚さは、膜厚計等を用いて測定できる。なお、PI系フィルムの両面に金属箔層、特に銅箔層を含む場合、各金属箔層、特に各銅箔層の厚さは互いに同じであっても異なっていてもよい。
【0210】
本発明の一実施形態において、積層フィルムの厚さは、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、さらに好ましくは15μm以上であり、好ましくは200μm以下、より好ましくは150μm以下、さらに好ましくは100μm以下、さらにより好ましくは80μm以下、特に好ましくは70μm以下である。積層フィルムの厚さは、膜厚計等を用いて測定できる。
【0211】
本発明の積層フィルムは、PI系フィルム及び金属箔層、特に銅箔層に加えて、機能層等の他の層を含んでいてもよい。機能層としては、例えば、接着層などが挙げられる。機能層は単独又は二種以上組合せて使用できる。
【0212】
本発明の一実施形態において、本発明の積層フィルムは、金属箔層及びPI層から構成される2層金属張積層板であっても、金属箔層、PI層及び接着層から構成される3層金属張積層板であってもよいが、耐熱性、寸法安定性及び軽量化の観点からは、接着層を含まない2層金属張積層板であることが好ましい。
また、本発明のPI系フィルムは、イミド化温度が低温であってもDfが低いため、銅箔上でPI系樹脂前駆体塗膜の熱イミド化を行うことにより金属箔が銅箔である積層フィルムを製造しても、銅箔表面の劣化を抑制できる。したがって、本発明の積層フィルムは、接着層を含んでいなくとも、優れた高周波特性を有する。
【0213】
また、本発明の一実施形態において、本発明のPI系フィルムと金属箔層、特に銅箔層とは直接接していてもよく、PI系フィルムと金属箔層、特に銅箔層との間に機能層が挿入され、これらが機能層を介して接していてもよいが、機械物性や熱物性を向上する観点からは、PI系フィルムと金属箔層、特に銅箔層とが直接接していることが好ましい。
【0214】
〔積層フィルムの製造方法〕
本発明の積層フィルムは、例えば、以下の工程:
PI系樹脂前駆体溶液を基材上に塗工する工程、及び
200℃以上500℃以下の熱処理によって、PI系樹脂前駆体をイミド化して、本発明のPI系フィルムを基材上に形成する工程
を含む方法により製造できる。なお、積層フィルムを構成するPI系フィルムが多層PI系フィルムである場合、本発明の積層フィルムは、基材に、対応するPI系樹脂前駆体の溶液を塗布及び予備乾燥して多層塗膜を得る工程(塗工及び予備乾燥工程);並びに多層塗膜を加熱してPI系樹脂をイミド化する工程(イミド化工程)を含む方法により製造でき、また塗工及び予備乾燥工程とイミド化工程との間に、得られた多層塗膜を静置する工程(静置工程)を設けることが好ましい。
【0215】
本発明の積層フィルムの製造方法における「PI系樹脂前駆体を含むPI系樹脂前駆体溶液を基材上に塗工する工程」及び「200℃以上500℃以下の熱処理によって、PI系樹脂前駆体をイミド化して、本発明のPI系フィルムを基材上に形成する工程」、並びに、「基材に、対応するPI系樹脂前駆体の溶液を塗布及び予備乾燥して多層塗膜を得る工程」及び「多層塗膜を加熱してPI系樹脂をイミド化する工程」については、〔ポリイミド系フィルムの製造方法〕の項に記載の各工程に関する説明が同様にあてはまる。
【0216】
本発明の一実施形態において、基材は金属箔であることが好ましく、銅箔であることが特に好ましい。金属箔、特に銅箔に関する記載は、〔積層フィルム〕の項に記載の金属箔に関する記載が同様にあてはまる。
【0217】
本発明の積層フィルムは、上記方法以外の方法、例えば、積層フィルムに含まれる金属箔以外の別の基材上にPI系樹脂前駆体溶液を塗工及び乾燥することにより得られるPI系樹脂前駆体の乾燥膜を、前記基材から剥離し、剥離された前記PI系樹脂前駆体の乾燥膜を金属箔に貼合せる方法により製造してもよい。PI系樹脂前駆体の乾燥膜と金属箔とを貼合せる方法としては、プレスによる方法、熱ロールを使用したラミネート方法等を採用してよく、貼合せる工程において、PI系樹脂前駆体のイミド化を同時に行ってもよい。しかし、本発明のPI系フィルムは、イミド化温度が低温であってもDfが低いため、例えば銅箔上でPI系樹脂前駆体塗膜の熱イミド化を行うことにより金属箔が銅箔である積層フィルムを製造しても、銅箔表面の劣化を抑制できる。したがって、本発明の積層フィルムは、上記のような貼合工程を経ることなく製造しても、優れた高周波特性を有する。
【0218】
〔フレキシブルプリント回路基板〕
本発明のPI系フィルムは、Dfが低いため、PI系フィルムからなる電気回路の伝送損失を低減することができる。さらに、本発明のPI系フィルムは、CTEも低く、突刺強度や金属箔等の基材との接着性も高いため、FPC基板材料として好適に利用できる。したがって、本発明は本発明のPI系フィルムを含むFPC基板も包含する。
【実施例0219】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0220】
実施例及び比較例で使用したモノマーの略号は、以下の化合物を示す。
BPDA:3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
TAHQ:p-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸二無水物)
BP-TME:4,4’―ビス(1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-イルカルボニルオキシ)ビフェニル
PMDA:無水ピロメリット酸
m-TB:4,4’-ジアミノ-2,2’-ジメチルビフェニル
BAPP:2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン
TPE-Q:1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン
TPE-R:1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン
【0221】
[実施例1]
(ポリイミド系樹脂前駆体溶液1の合成)
m-TB 17.93g(84.4mmol)、及びBAPP 0.35g(0.9mmol)をDMAc 284gに溶解させた後、TAHQ 19.35g(42.2mmol)を加えて窒素雰囲気下20℃で1時間撹拌した。その後、BPDA 12.42g(42.2mmol)を加えて窒素雰囲気下20℃で24時間撹拌し、PI系樹脂前駆体溶液1を得た。用いた酸二無水物モノマーに対するジアミンモノマーのモル比(アミン比)は1.01であった。
【0222】
(ポリイミド系フィルムの製造)
上記で得られたPI系樹脂前駆体溶液1を、電解銅箔(厚さ12μm)の粗化面側(表面粗さ;Rz=1.1μm)に流涎成形し、アプリケーターを用いて、線速0.4m/分でPI系樹脂前駆体溶液1の塗膜を成形した。前記塗膜を120℃で30分間加熱して乾燥させた。その後、金枠に銅箔と前駆体の積層フィルムを固定し、酸素濃度0.05%未満の雰囲気下で、46分間かけて30℃から350℃まで昇温した後、350℃で120分間保持し、180分かけて350℃から100℃まで冷却した。得られたPI系フィルムと銅箔との積層フィルム(銅箔付きPI系フィルム)を大容量の濃度40質量%の塩化第二鉄水溶液に室温で10分間浸漬した後、純水で洗浄した。目視で銅の残存がないことを確認した後、80℃で1時間乾燥して、PI系樹脂からなる単独(単層)のPI系フィルムを得た。PI系フィルムの厚みは50μmであった。
【0223】
[比較例1]
実施例1と同様にして、PI系樹脂前駆体溶液1の塗膜を成形した後、前記塗膜を120℃で30分間加熱して乾燥させた。その後、金枠に銅箔と前駆体の積層フィルムを固定し、酸素濃度0.05%未満の雰囲気下で、46分間かけて30℃から350℃まで昇温した後、350℃で5分間保持し、180分間かけて350℃から100℃まで冷却した。得られたPI系フィルムと銅箔との積層フィルム(銅箔付きPI系フィルム)を大容量の濃度40質量%の塩化第二鉄水溶液に室温で10分間浸漬した後、純水で洗浄した。目視で銅の残存がないことを確認した後、80℃で1時間乾燥して、PI系樹脂からなる単独(単層)のPI系フィルムを得た。PI系フィルムの厚みは50μmであった。
【0224】
[実施例2]
(ポリイミド系樹脂前駆体溶液2の合成)
m-TB 48.61g(228.9mmol)、及びTPE-Q 66.92g(228.9mmol)をDMAc 1598gに溶解させた後、BP-TME 118.22g(221.2mmol)を加えて窒素雰囲気下20℃で1時間撹拌した。その後、PMDA 48.25g(221.2mmol)を加えて窒素雰囲気下20℃で3時間撹拌し、PI系樹脂前駆体溶液2を得た。用いた酸二無水物モノマーに対するジアミンモノマーのモル比は1.04であった。
【0225】
(ポリイミド系樹脂前駆体溶液3の合成)
m-TB 9.87g(46.5mmol)、及びTPE―R 122.35g(418.5mmol)をDMAc 1890gに溶解させた後、PMDA 30.26g(138.7mmol)、及びBPDA 95.25g(323.7mmol)を順に加えて窒素雰囲気下20℃で3時間撹拌し、PI系樹脂前駆体溶液3を得た。用いた酸二無水物モノマーに対するジアミンモノマーのモル比は1.01であった。
【0226】
(ポリイミド系フィルムの製造)
電解銅箔(厚さ12μm)の粗化面側(表面粗さ;Rz=0.6μm)に、上層/中層/下層として、上記で調製したPI系樹脂前駆体溶液3/PI系樹脂前駆体溶液2/PI系樹脂前駆体溶液3を、それぞれ乾燥厚みで5μm/40μm/5μmとなるように同時に塗工して、PI系樹脂前駆体溶液の3層積層塗膜を成形した。次いで、前記3層積層塗膜を100℃で12分間加熱して乾燥させた後、この銅箔と前記3層積層塗膜とからなる積層体を密封容器に入れて温度4℃の環境下で24時間静置した。その後、密封容器から取り出した前記積層体が室温になったことを確認した後、金枠に固定し、酸素濃度1%雰囲気下で、10分間かけて30℃から320℃まで昇温した後、320℃で120分間保持した。得られた3層のPI系樹脂含有層と銅箔とからなる銅箔付きPI系フィルムを大容量の濃度40質量%の塩化第二鉄水溶液に室温で10分間浸漬した後、塩化第二鉄水溶液を純水で洗浄した。目視で銅の残存がないことを確認した後、80℃で1時間乾燥して、3層のPI系樹脂含有層からなるPI系フィルムを得た。PI系フィルムの厚みは50μmであった。
【0227】
[実施例3]
(ポリイミド系樹脂前駆体溶液4の合成)
m-TB 44.34g(208.8mmol)、及びTPE―R 61.06g(208.8mmol)をDMAc 1598gに溶解させた後、BPDA 85.39g(290.2mmol)、及びPMDA 27.13g(124.4mmol)を順に加えて窒素雰囲気下20℃で3時間撹拌し、PI系樹脂前駆体溶液4を得た。用いた酸二無水物モノマーに対するジアミンモノマーのモル比は1.01であった。
【0228】
(ポリイミド系フィルムの製造)
電解銅箔(厚さ12μm)の粗化面側(表面粗さ;Rz=0.6μm)に、PI系樹脂前駆体溶液4を乾燥厚みが5μmとなるように塗工し、塗膜を得た。前記塗膜を120℃で10分間加熱して乾燥させ、その乾燥させた塗膜上にPI系樹脂前駆体溶液1を乾燥厚みが40μmとなるように塗工して2層積層塗膜を得た。前記2層積層塗膜を120℃で30分間加熱して乾燥させ、乾燥させた2層積層塗膜上にPI系樹脂前駆体溶液4を乾燥厚みが5μmとなるように塗工し、3層積層塗膜を得た。前記3層積層塗膜を120℃で30分間加熱して乾燥後、この銅箔と前記3層積層塗膜とからなる積層体を密封容器に入れて温度4℃の環境下で48時間静置した。その後、密封容器から取り出した前記積層体が室温になったことを確認した後、金枠に固定し、酸素濃度1%雰囲気下で、10分間かけて30℃から320℃まで昇温した後、320℃で5分間保持した。得られた3層のPI系樹脂含有層と銅箔とからなる銅箔付きPI系フィルムを大容量の濃度40質量%の塩化第二鉄水溶液に室温で10分間浸漬した後、塩化第二鉄水溶液を純水で洗浄した。目視で銅の残存がないことを確認した後、80℃で1時間乾燥して、3層のPI系樹脂含有層からなるPI系フィルムを得た。該PI系フィルムの厚みは50μmであった。
【0229】
[実施例4]
(ポリイミド系フィルムの製造)
電解銅箔(厚さ12μm)の粗化面側(表面粗さ;Rz=0.6μm)に、PI系樹脂前駆体溶液4を乾燥厚みが5μmとなるように塗工し、塗膜を得た。前記塗膜を120℃で10分間加熱して乾燥させ、その乾燥させた塗膜上にPI系樹脂前駆体溶液1を乾燥厚みが40μmとなるように塗工して2層積層塗膜を得た。前記2層積層塗膜を120℃で30分間加熱して乾燥させ、乾燥させた2層積層塗膜上にPI系樹脂前駆体溶液4を乾燥厚みが5μmとなるように塗工し、3層積層塗膜を得た。前記3層積層塗膜を120℃で30分間加熱して乾燥後、この銅箔と前記3層積層塗膜とからなる積層体を密封容器に入れて温度4℃の環境下で18時間静置した。その後、密封容器から取り出した前記積層体が室温になったことを確認した後、金枠に固定し、酸素濃度1%雰囲気下で、10分間かけて30℃から320℃まで昇温した後、320℃で120分間保持した。得られた3層のPI系樹脂含有層と銅箔とからなる銅箔付きPI系フィルムを大容量の濃度40質量%の塩化第二鉄水溶液に室温で10分間浸漬した後、塩化第二鉄水溶液を純水で洗浄した。目視で銅の残存がないことを確認した後、80℃で1時間乾燥して、3層のPI系樹脂含有層からなるPI系フィルムを得た。該PI系フィルムの厚みは50μmであった。
【0230】
実施例及び比較例で得られたPI系フィルムについて、各測定及び評価を行った。以下に測定及び評価方法を説明する。
【0231】
<値α、RI面積率、LS面積/RI面積(SLS/SRI)の算出>
以下の条件で実施例及び比較例で得られたポリイミド系樹脂を多角度光散乱検出器と示差屈折率検出器を備えた装置を用いるゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により分析し、値α、RI面積率、及びLS面積/RI面積(SLS/SRI)を算出した。また、絶対分子量、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、及びZ平均分子量(Mz)も求めた。なお、ポリイミド系樹脂の各測定には、実施例1及び比較例1ではPI系樹脂からなる単層PI系フィルムを使用し、実施例2~4ではPI系樹脂からなる3層の多層PI系フィルムを使用した。
【0232】
(測定試料溶液の調製)
PI系フィルム4.86mgにペンタフルオロフェノール(PFP)3.4gを加え、125℃で2時間加熱撹拌してPI系樹脂を溶解させた。得られた溶液を40℃まで冷却後、クロロホルム6.3gを添加して撹拌した。次いで、得られた溶液を孔径0.45μmのPTFE製メンブランフィルターでろ過した。得られたろ液を測定試料溶液とした。
【0233】
(GPC測定条件)
多角度光散乱検出器:DAWN HELEOSII(Wyatt Technology)
示差屈折率検出器:Optilab T-rEX(Wyatt Technology)
GPCカラム:GPC K-G(Shodex、内径8.0mm、長さ5cm)1本、GPC K-806M(Shodex、内径8.0mm、長さ30cm)2本、GPC K-802(Shodex、内径8.0mm、長さ30cm)1本を直列に接続
移動相:PFP及びクロロホルムから成る混合溶媒(重量分率:PFP/クロロホルム=34/66)
移動相の屈折率:1.431
流量:0.7mL/分
測定温度(カラム及び各検出器):23℃
試料溶液注入量:200μL
検出器間の遅れ容量補正及び多角度光散乱検出器のノーマライゼーションに使用した標準物質:東ソー TSKgel標準ポリスチレンF-4(重量平均分子量:37,900、多分散度:1.01)
PI系樹脂の移動相中での屈折率増分(dn/dc)は0.233mL/gとした。多角度光散乱検出器及び示差屈折率検出器から得られるデータ(前記過剰レイリー比(R(θ))及び前記ポリマー濃度(c))から、絶対分子量、慣性半径、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)及びZ平均分子量(Mz)を求めるにあたっては、Wyatt Technology社のデータ処理ソフトASTRAを利用した。なお、屈折率増分とは、濃度変化に対する屈折率の変化率である。
【0234】
(値αの算出)
上記で得られたPI系樹脂の絶対分子量の対数を横軸、PI系樹脂の慣性半径の対数を縦軸として、測定したデータをプロットし、前記プロットしたデータを、横軸が前記PI系樹脂の重量平均分子量(Mw)の対数以上、z平均分子量(Mz)の対数以下の範囲において最小二乗法近似することにより、式(I)により表される直線を作成した。式(I)を表す直線の傾きの値をαとした。
logR=αlogM+logK (I)
[式(I)中、Rは前記PI系樹脂の慣性半径(nm)を表し、Mは前記PI系樹脂の絶対分子量を表し、Kは定数を表す]
【0235】
(RI面積(SRI)及びピーク面積(SM20)の算出)
上述の(測定試料溶液の調製)及び(GPC測定条件)に記載の条件で実施した、示差屈折率検出器で得られた屈折率信号強度を縦軸、溶出時間(分)を横軸としたPI系樹脂のクロマトグラムにおいて、ISO16014-1の記載に従い、試料が溶出する直前の点とベースラインの復帰した直後の点とを結び、ベースラインを設定した。ベースラインを設定した屈折率信号強度について、全成分について溶出開始点から溶出終了点までの積算した値を求め、ピークの総面積SRIを算出した。また、多角度光散乱検出器と示差屈折率検出器により得られたデータから、各成分の絶対分子量をデータ処理ソフトASTRAで解析することにより絶対分子量が20万以上の成分を特定した。さらに、絶対分子量が20万以上の成分についての屈折率信号強度を積算した値を求め、ピーク面積SM20を算出した。
【0236】
(LS面積(SLS)の算出)
多角度光散乱検出器で得られた90°方向における光散乱信号強度を縦軸、溶出時間(分)を横軸としたPI系樹脂のクロマトグラムにおいて、ISO16014-1の記載に従い、試料が溶出する直前の点とベ-スラインの復帰した直後の点とを結び、ベースラインを設定した。ベースラインを設定した90°方向における光散乱信号強度について、全成分について溶出開始点から溶出終了点までの積算した値を求め、ピークの総面積SLSを算出した。
【0237】
(RI面積率の算出)
上記で得られたRI面積(SRI)、及び絶対分子量が20万以上の成分のピーク面積SM20を式(III)に代入して、式(III)で表されるRI面積率を算出した。
RI面積率(%)=(SM20/SRI)×100 (III)
【0238】
(LS面積/RI面積)
上記で得られたLS面積(SLS)をRI面積(SRI)で割った値であるLS/RI(SLS/SRI)を算出した。
【0239】
<フィルム厚さ>
実施例1及び比較例1で得られたPI系フィルムの厚さは、デジマチックインジケータ((株)ミツトヨ製、ID-C112XBS)を使用し、フィルムの任意の5点以上の厚さを測定し、それらの平均値をフィルム厚さとした。
実施例2~4で得られたPI系フィルムの厚さは以下の方法により求めた。
実施例2~4で得られたPI系フィルムから、それぞれ、5mm×5mmで任意の箇所を切り出し、樹脂で包埋することで膜厚測定用サンプルを作成した。作成した膜厚測定用サンプルにおいて、ミクロトームにより切削することで測定断面を作製し、レーザー顕微鏡を用いて、下記条件にてPI系フィルムの厚み及び3層のPI系樹脂含有層の各厚みを測定した。
装置:オリンパス(株)製 LEXT OLS4100
観察倍率:100倍
【0240】
<誘電損失の指標Eの評価>
実施例及び比較例で得られたPI系フィルムの誘電損失の指標Eを下記式で算出した。
E=Df×(Dk)1/2 (i)
Df:誘電正接
Dk:比誘電率
【0241】
<Df及びDkの測定>
実施例及び比較例で得られたPI系フィルムから50mm×50mmの測定サンプルを切り出し、Df及びDkを以下の条件で測定した。23℃/50%RHで24時間サンプルを調湿した後に、測定を行った。
装置:アンリツ(株)製 コンパクトUSBベクトルネットワークアナライザ(製品名:MS46122B)
(株)エーイーティー製空洞共振器(TEモード 10GHzタイプ)
測定周波数:10GHz
測定雰囲気:23℃/50%RH
【0242】
<線熱膨張係数(CTE)の測定>
実施例及び比較例で得られたPI系フィルムのCTEは、TMAを用いて、下記条件で測定を行い、50℃から100℃におけるCTEを算出した。
装置:(株)日立ハイテクサイエンス製 TMA/SS7100
荷重:50.0mN
温度プログラム:20℃から130℃まで5℃/分の速度で昇温
試験片:長さ40mm、幅5mm、厚さ50μmの直方体
【0243】
<ガラス転移温度(Tg)の測定>
実施例1及び比較例1で得られたPI系樹脂のTgは、以下の条件で、PI系フィルムを測定することにより求めた。
動的粘弾性測定装置(アイティー計測制御(株)製、DVA-220)を用い、次のような試料及び条件下で測定して、貯蔵弾性率(Storage modulus、E’)と損失弾性率(Loss modulus、E”)の値の比であるtanδ曲線を得た。tanδ曲線のピークの最頂点をTgとした。
試験片:長さ40mm、幅5mm、厚さ50μmの直方体
実験モード:単一周波数、定速昇温
実験様式:引張
サンプルつかみ間長:15mm
測定開始温度:室温~342℃
昇温速度:5℃/分
周波数:10Hz
静/動応力比:1.8
主な収集データ:
(1)貯蔵弾性率(Storage modulus、E’)
(2)損失弾性率(Loss modulus、E”)
(3)tanδ(E”/E’)
【0244】
<突刺強度の測定>
実施例及び比較例で得られたPI系フィルムの突刺強度は、温度23℃、相対湿度50%の環境下で、JIS Z 1707に準拠して、株式会社島津製作所社製、小型卓上試験機 EZ-LXを用いて測定した。具体的には、幅50mm、長さ50mm、厚さ0.05mmの試験片を用いて、Φ2.5mmかつ先端形状直径0.5mmの半円形の針の加圧子をロードセル50N、試験速度200mm/分の条件で試験を行い、破断点変位を測定し、その際の最大荷重を突刺強度とした。
【0245】
<剥離強度の測定>
実施例1、2及び比較例1で得られた銅箔付きPI系フィルムの剥離強度は、下記条件で90度剥離試験を行うことで測定した。剥離強度測定用のサンプルは、2mm幅の耐溶剤性テープでマスキングした銅箔付きPI系フィルムを、大容量の濃度40質量%の塩化第二鉄水溶液に40℃で5分間浸漬し、塩化第二鉄水溶液を純水で洗浄した後、80℃で1時間乾燥することで作製した。また剥離強度の測定値は、N=3の測定値の平均値を測定値とした。
装置名:島津製作所社製 小型卓上試験機 EZ-LX
測定環境:23℃、相対湿度50%
剥離速度:50mm/分
測定サンプル幅:2mm
【0246】
<貯蔵弾性率の測定>
上記PI系樹脂前駆体溶液1~4から形成された各PI系樹脂の貯蔵弾性率は、以下の方法で作製したPI系樹脂フィルムを、下記条件で測定することにより求めた。
各PI系樹脂前駆体溶液を、乾燥厚みが30μmとなるようにガラス基板上に流涎成形し、PI系樹脂前駆体溶液の塗膜を成形した。前記塗膜を120℃で30分間加熱し、得られたフィルムをガラス基板から剥離した後、金枠にフィルムを固定した。金枠に固定したフィルムを酸素濃度1%雰囲気下で、10分間かけて30℃から320℃まで昇温した後、320℃で5分間維持し、PI系樹脂フィルムを得た。
動的粘弾性測定装置(アイティー計測制御(株)製、DVA-220)を用い、次のような試料及び条件下で測定して、貯蔵弾性率(Storage modulus、E’)を得た。
試験片:長さ40mm、幅5mm、厚さ30μmの直方体
実験モード:単一周波数、定速昇温
実験様式:引張
サンプルつかみ間長:15mm
測定開始温度:室温~342℃
昇温速度:5℃/分
周波数:10Hz
静/動応力比:1.8
上記方法により測定した結果、PI系樹脂前駆体溶液1から形成されたPI系樹脂フィルムは、40℃における貯蔵弾性率が10×10Pa、300℃における貯蔵弾性率が1.6×10Paであり、PI系樹脂前駆体溶液2から形成されたPI系樹脂フィルムは、2.3×10Pa、300℃における貯蔵弾性率が2.8×10Paであり、PI系樹脂前駆体溶液3から形成されたPI系樹脂フィルムは、40℃における貯蔵弾性率が2.4×10Pa、300℃における貯蔵弾性率が1.1×10Paであり、PI系樹脂前駆体溶液4から形成されたPI系樹脂フィルムは、40℃における貯蔵弾性率が2.3×10Pa、300℃における貯蔵弾性率が1.2×10Paであった。
【0247】
実施例及び比較例で得られたPI系フィルムについて、各測定を行った結果を表1に示す。
【0248】
表1に示される通り、実施例1~4で得られたPI系樹脂を含むPI系フィルムは、比較例1と比べて、突刺強度が高いことが確認された。よって、本発明のPI系樹脂は、突刺強度が十分に高いPI系フィルムを形成できる。
また、実施例1及び2で得られたPI系樹脂を含むPI系フィルムは、比較例1と比べて、基材に対する剥離強度も高いことが確認された。
さらに、実施例1~4で得られたPI系樹脂を含むPI系フィルムは、Dfが低く、伝送損失の指標Eも低いことが確認された。