(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102174
(43)【公開日】2024-07-30
(54)【発明の名称】腸内環境改善用組成物及びその製造法
(51)【国際特許分類】
C07K 4/00 20060101AFI20240723BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20240723BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20240723BHJP
A61P 1/14 20060101ALI20240723BHJP
A23L 33/18 20160101ALI20240723BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20240723BHJP
C12P 19/28 20060101ALI20240723BHJP
C12P 21/00 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
C07K4/00
A61K9/48
A61K38/17
A61P1/14
A23L33/18
A23L2/00 F
A23L2/52
C12P19/28
C12P21/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024072841
(22)【出願日】2024-04-26
(62)【分割の表示】P 2023015391の分割
【原出願日】2018-08-30
(31)【優先権主張番号】P 2017166833
(32)【優先日】2017-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福留 博文
(72)【発明者】
【氏名】小川 哲弘
(72)【発明者】
【氏名】山口 敏幸
(72)【発明者】
【氏名】足立 典子
(72)【発明者】
【氏名】田口 雄一
(72)【発明者】
【氏名】李 娟
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 光太郎
(72)【発明者】
【氏名】冠木 敏秀
(72)【発明者】
【氏名】酒井 史彦
(57)【要約】 (修正有)
【課題】κ-カゼイングリコマクロペプチドよりも優れた腸内環境改善作用を有する糖ペプチド組成物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】スレオニン及び/又はセリン残基を有するペプチドに糖鎖が結合した糖ペプチドを含み、糖ペプチドの分子量が500以上3,000以下であり、糖鎖がペプチドのスレオニン又はセリン残基の水酸基に結合し、糖鎖の構成糖がシアル酸、N-アセチルガラクトサミン及びガラクトースからなる群から選択される1つ以上である、糖ペプチド組成物であって、特定の糖鎖を含む、糖ペプチド組成物である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スレオニン及び/又はセリン残基を有するペプチドに糖鎖が結合した糖ペプチドを含み、
前記糖ペプチドの分子量が500以上3,000以下であり、
前記糖鎖が前記ペプチドのスレオニン又はセリン残基の水酸基に結合し、
前記糖鎖の構成糖がシアル酸、N-アセチルガラクトサミン及びガラクトースからなる群から選択される1つ以上である、糖ペプチド組成物であって、
以下の(a)~(e)の全ての糖鎖を含む、前記糖ペプチド組成物。
(a)Neu5Acα2-3Galβ1-3(Neu5Acα2-6)GalNAcα1
(b)Galβ1-3(Neu5Acα2-6)GalNAcα1
(c)Neu5Acα2-3Galβ1-3GalNAcα1
(d)Neu5Acα2-3Galβ1-3(O-Ac-Neu5Acα2-6)GalNAcα1
(e)Neu5Acα2-3Galβ1-3(O-diAc-Neu5Acα2-6)GalNAcα1
【請求項2】
前記(a)と、
前記(b)~(e)からなる群から選ばれる1つ以上とからなる糖鎖をさらに含む請求項1に記載の糖ペプチド組成物。
【請求項3】
前記糖ペプチドの糖鎖がシアル酸及びガラクト-N-ビオースを含み、前記シアル酸と前記ガラクト-N-ビオースのモル比が1.5:1~2:1である、請求項1又は2に記載の糖ペプチド組成物。
【請求項4】
前記糖ペプチドの糖鎖がシアル酸及びガラクト-N-ビオースを含み、前記シアル酸と前記ガラクト-N-ビオースの合算量が20重量%以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の糖ペプチド組成物。
【請求項5】
前記糖ペプチドのペプチド鎖のアミノ酸残基数が1以上13以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の糖ペプチド組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の糖ペプチド組成物の製造方法であって、以下の工程を含む製造方法。
(1)κ-カゼイングリコマクロペプチド、κ-カゼイングリコマクロペプチドを含む組成物、κ-カゼインを含む組成物から選ばれる1つ以上をエンド型プロテアーゼまたはエキソ型プロテアーゼで処理する工程
(2)前記工程で得られた処理物を分画分子量500以上3,000以下の限外ろ過に供する処理工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖ペプチド組成物を含む腸内環境改善用組成物、及び該組成物を含む腸内環境改善用飲食品、医薬品及び飼料に関する。また、糖ペプチド組成物やその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品中の栄養素は、消化管での消化・吸収を経て全身を巡り、動物の成長、発達、生命の維持に重要な役割を果たす。一方、消化管での消化・吸収から逃れた成分(難消化性成分)についても、消化管や腸内細菌を介して様々な生理機能を発揮し、生体恒常性の維持に欠かせないことが明らかとなっている。難消化性成分としては、従来から、デンプン性であるレジスタントスターチ、難消化性デキストリン、非デンプン性の食物繊維(多糖類、リグニンなど)、オリゴ糖、糖アルコール、レジスタントプロテイン、などが知られている。これら難消化性成分は、工業的な生産法も確立していることから市場に広く普及し、健康の維持・増進に寄与する食品素材として認識されている。
【0003】
一方、最近では新たな難消化性成分として、糖タンパク質糖鎖を利用することが期待されている(非特許文献1)。糖タンパク質糖鎖は、言葉の通りタンパク質に結合した糖鎖であり、従来の難消化性成分である多糖類、オリゴ糖、糖アルコールなどとは化学的に異なる構造を有する成分である。特に、消化管から産生される主要な糖タンパク質であるムチンは、腸内の善玉菌の代表であるBifidobacterium bifidumや、肥満や糖尿病の抑制に関わっていることが示唆されているAkkermansia muciniphilaに選択的に利用されていることが明らかになりつつある(非特許文献2)。消化管から産生されるムチンは難分解性
であることで消化管上皮を保護する機能をもつ物質であるが、内因性の難消化性成分として腸内細菌叢の調節機能も有することが明らかにされつつある。
【0004】
さらに、酵母、植物、動物などの真核生物が合成するN-結合型糖タンパク質の糖鎖についても、乳児型ビフィズス菌であるBifidobacterium infantisや、大人の大腸における優勢菌種であるBacteroides thetaiotaomicronが選択的に利用することが報告されている(非特許文献1)。
このように、糖タンパク質糖鎖は、機能性を有する新たな難消化性成分として利用されることが期待されている。しかし、現在までに、難消化性成分として糖タンパク質糖鎖を豊富に含む食品素材を工業的に大量調製する方法はこれまでなかったため、市場に普及されてこなかった。
【0005】
ところで、κ-カゼイングリコマクロペプチド(以下、単にGMPということがある)は、牛乳のκ-カゼインにレンネット又はペプシンを作用させた時に生成する糖ペプチドであって、チーズホエー及びレンネットカゼインホエー中に含まれている。また、GMPは、κ-カゼインのC末端側64個のアミノ酸からなるペプチド鎖に、Neu5Acα2-3Galβ1-3(Neu5Acα2-6)GalNAc、Galβ1-3(Neu5Acα2-6)GalNAc、Neu5Acα2-3Galβ1-3GalNAc、Galβ1-3GalNAc、GalNAcが結合している(非特許文献4)。
GMPは、ビフィズス菌の増殖を促進する効果(非特許文献3)や、腸内環境を改善する効果(非特許文献5)などの機能性に寄与する可能性が期待されている。非特許文献3では、ビフィズス菌がin vitroでGMPを資化することが示されている。
非特許文献4では、マウスにGMPを摂取させることで、潰瘍性大腸炎で増加するDesulfovibrio属菌が腸内で減少し、宿主に有益な腸内細菌代謝物である酢酸、プロピオン酸、酪酸といった有機酸が増加するなど、腸内環境が改善することが示されている。さらに、このGMPによる腸内環境改善作用により、血中の炎症性サイトカインの濃度が低下し、脾臓における炎症性免疫細胞の割合が低下するなど、抗炎症作用を示すことが報告されている。また、大腸や盲腸内で有機酸量が高まることから、大腸や盲腸においてカルシウムなどのミネラル吸収を促進する効果(特許文献1、2)や、病原菌の増殖を抑制する効果(特許文献3)なども期待される。
これらGMPの有益な効果では、特にGMPのシアル酸を含んだ糖鎖部分が腸内環境を改善するプレバイオティクスとして作用することが重要なのではないか、と推察されてきた。
【0006】
しかし、GMPは64個のアミノ酸からなるペプチド鎖を含むため、相対的に糖鎖部分の割合は低くなり、糖含量は約10wt%しか含まれていない。すなわち、オリゴ糖や食物繊維などの一般的な難消化性成分の有効量である1~10gをGMPから摂取するためには、10~100gを摂取する必要があり、1日での摂取量としては現実的ではなかった。また、これだけのGMPを含有した食品を製造するとなると、食品の風味や物性に与える影響が大きくなり、配合設計する上で大きな制約となることが課題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3575724号公報
【特許文献2】特許第3372499号公報
【特許文献3】特許第2631470号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】藤田清貴、2017、ビフィズス菌がもつ糖タンパク質糖鎖の分解代謝システム、化学と生物、55(4):242
【非特許文献2】芦田久、2016、消化管ムチンを介した微生物と宿主の相互作用、化学と生物、54(12):901
【非特許文献3】Idota T, Kawakami H, Nakajima I. 1994. Growth-promoting effects of N-acetylneuraminic acid-containing substances on bifidobacteria. Biosci Biotechnol Biochem. 58:1720-1722.
【非特許文献4】Saito T., Itoh T. 1992. Variations and distributions of O-Glycosidically linked sugar chains in bovine k-casein. J Dairy Sci. 75:1768-1774.
【非特許文献5】Emily A. Sawin, Travis J. De Wolfe, Busra Aktas, Bridget M Stroup, Sangita G. Murali, James L. Steele, and Denise M. Ney, 2015, Glycomacropeptide is a prebiotic that reduces Desulfovibrio bacteria increases cecal short-chain fatty acids, and is anti-inflammatory in mice. Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol. 309:G590-G601.
【非特許文献6】Robitaille G., Lapointe C., Leclerc D., Britten M. 2012. Effect of pepsin-treated bovine and goat caseinomacropeptide on Escherichia coli and Lactobacillus rhmnosus in acidic conditions. J Dairy Sci. 95:1-8.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、糖鎖部分が、少なくともGMPの2倍以上の割合になるように濃縮した糖ペプチド成分が期待されていた。そのような糖ペプチド成分が調製できれば、GMPそのものよりも単位量あたりの効果が高い素材となり、食品などへの添加量をGMPよりも減少させることができ、食品の風味や物性に与える影響を最小限にすることができる。さらにその物質の調製技術としては、簡便で収率が高く、かつ食品に使用できる加工技術である必要がある。しかし、そのような加工技術は、これまで見出されてこなかった。
特許文献1では、感染防御剤としてGMPおよびGMP由来のペプチドを示しているが、それにより調製したペプチドがGMPそのものよりも効果が高まるか否か、そして具体的にどのような化学組成物が調製できているのか、についてはなんら示されていない。本特許文献1では、GMPをエンドペプチダーゼで処理した後に、得られた生成物をゲルろ過、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等の分画手段の一種又もしくは二種以上を組み合わせたものに付してペプチドを分取することが記載されている。しかし、クロマトグラフィーを用いた分画法は、操作が煩雑であり、洗浄や溶出に多量の溶媒や塩が必用という問題がある。現在では限外ろ過膜を用いた分画法も利用されているが、酵素分解後に糖鎖の無いペプチド鎖と糖鎖の付加されたペプチド鎖を分画する技術は示されていない。GMPのペプチド鎖の分解をすすめていくと、アミノ酸、ペプチド、糖、に分解されるが、それぞれの分子量は500以下になってしまうため、限外ろ過膜による分画は不可能となる。また、非特許文献6では、GMPペプシン分解物の抗菌効果・プロバイオ菌増殖効果が示されているが、それらの関与成分は糖鎖を含まないN末端のペプチド18残基と記載されており、本特許が示す糖ペプチドとは化学的に異なる構
造を有する成分である。
本発明の課題は、GMPよりも優れた腸内環境改善作用を有する糖ペプチド組成物、およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、GMPから糖ペプチド組成物を濃縮する方法について、GMPの分解条件および分画条件を鋭意検討した結果、以下に構成される特定の糖ペプチド組成物を調製する方法を見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明の1つの態様は、GMPをエンドまたはエキソ型プロテアーゼで消化した後、得られた生成物を分画分子量500~3,000の限外ろ過膜に供することで特定の糖ペプチド組成物を製造する方法である。
また、本発明の別の態様は、上記製造方法で調製した特定の糖ペプチド組成物、及びこれを有効成分とする腸内環境改善用組成物である。
具体的には、本発明は以下の構成を有する。
<1>
スレオニン及び/又はセリン残基を有するペプチドに糖鎖が結合した糖ペプチドを含む
腸内環境改善用組成物であって、
前記糖ペプチドの分子量が500以上3,000以下であり、
前記糖鎖が前記ペプチドのスレオニン又はセリン残基の水酸基に結合し、
前記糖鎖の構成糖がシアル酸、N-アセチルガラクトサミン及びガラクトースからなる
群から選択される1つ以上であることを特徴とする腸内環境改善用組成物。
<2>
前記糖ペプチドの糖鎖がシアル酸及びガラクト-N-ビオースを含むことを特徴とする<1>に記載の腸内環境改善用組成物。
<3>
前記シアル酸と前記ガラクト-N-ビオースのモル比が1:1~2:1である<2>に記載の腸内環境改善用組成物。
<4>
前記シアル酸と前記ガラクト-N-ビオースの合算量が20重量%以上である<2>に記載の腸内環境改善用組成物
<5>
前記糖ペプチドのペプチド鎖のアミノ酸残基数が1以上13以下である<1>~<4>のいずれか1項に記載の腸内環境改善用組成物。
<6>
スレオニン及び/又はセリン残基を有し当該残基の水酸基に糖鎖が結合した糖ペプチド、を含む腸内環境改善用組成物であって、
前記糖鎖の構造が、以下の(1)~(5)からなる群から選ばれる1つ以上であることを特徴とする腸内環境改善用組成物。
(1)Neu5Acα2-3Galβ1-3(Neu5Acα2-6)GalNAcα1
(2)Galβ1-3(Neu5Acα2-6)GalNAcα1
(3)Neu5Acα2-3Galβ1-3GalNAcα1
(4)Neu5Acα2-3Galβ1-3(O-Ac-Neu5Acα2-6)GalNAcα1
(5)Neu5Acα2-3Galβ1-3(O-diAc-Neu5Acα2-6)GalNAcα1
<7>
前記糖鎖の構造が、前記(1)及び前記(2)~(5)からなる群から選ばれる1つ以上である<6>に記載の腸内環境改善用組成物。
<8>
ビフィズス菌の増殖を促進する<1>から<7>のいずれか1項に記載の腸内環境改善用組成物。
<9>
ビフィズス菌が、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)であることを特徴とする<8>に記載の腸内環境改善用組成物。
<10>
腸内の有機酸量を増加させることを特徴とする<1>から<9>のいずれか1項に記載の腸内環境改善用組成物。
<11>
有機酸が、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸及びコハク酸からなる群から選択される1つ以上である<10>に記載の腸内細菌改善用組成物。
<12>
糖ペプチドが乳由来である<1>~<11>のいずれか1項に記載の腸内環境改善用組成物。
<13>
<1>~<12>のいずれか1項に記載の腸内環境改善用組成物を含む腸内環境改善用飲食品。
<14>
<1>~<12>のいずれか1項に記載の腸内環境改善用組成物を含む腸内環境改善用医薬品。
<15>
<1>~<12>のいずれか1項に記載の腸内環境改善用組成物を含む腸内環境改善用飼料。
<16>
スレオニン及び/又はセリン残基を有するペプチドに糖鎖が結合した糖ペプチドであって、
前記糖ペプチドの分子量が500以上3,000以下であり、
前記糖鎖が前記ペプチドのスレオニン又はセリン残基の水酸基に結合し、
前記糖鎖の構成糖がシアル酸、N-アセチルガラクトサミン及びガラクトースからなる群から選択される1つ以上である前記糖ペプチド、を含有する組成物の製造方法であって、以下の工程を含む製造方法。
(1)κ-カゼイングリコマクロペプチドをエンド型プロテアーゼまたはエキソ型プロテアーゼで処理する工程
(2)前記工程で得られた処理物を分画分子量500以上3,000以下の限外ろ過に供する処理工程
<17>
スレオニン及び/又はセリン残基を有するペプチドに糖鎖が結合した糖ペプチドを含む組成物であって、
前記糖ペプチドの分子量が500以上3,000以下であり、
前記糖鎖が前記ペプチドのスレオニン又はセリン残基の水酸基に結合し、
前記糖鎖の構成糖がシアル酸、N-アセチルガラクトサミン及びガラクトースからなる群から選択される1つ以上である、糖ペプチド組成物。
<18>
前記糖ペプチドの糖鎖がシアル酸及びガラクト-N-ビオースを含む、<17>記載の糖ペプチド組成物。
<19>
前記糖ペプチドの糖鎖が、シアル酸とガラクト-N-ビオースから成る、<17>または<18>記載の糖ペプチド組成物。
<20>
前記シアル酸と前記ガラクト-N-ビオースのモル比が1.5:1~2:1である、<17>~<19>のいずれか1項記載の糖ペプチド組成物。
<21>
前記シアル酸と前記ガラクト-N-ビオースの合算量が20重量%以上である、<17>~<20>のいずれか1項記載の糖ペプチド組成物。
<22>
前記糖ペプチドのペプチド鎖のアミノ酸残基数が1以上13以下である、<17>~<21>のいずれか1項記載の糖ペプチド組成物。
<23>
スレオニン及び/又はセリン残基を有し当該残基の水酸基に糖鎖が結合した糖ペプチド、を含む糖ペプチド組成物であって、
前記糖鎖の構造が、以下の(a)~(e)からなる群から選ばれる1つ以上である、糖ペプチド組成物。
(a)Neu5Acα2-3Galβ1-3(Neu5Acα2-6)GalNAcα1
(b)Galβ1-3(Neu5Acα2-6)GalNAcα1
(c)Neu5Acα2-3Galβ1-3GalNAcα1
(d)Neu5Acα2-3Galβ1-3(O-Ac-Neu5Acα2-6)GalNAcα1
(e)Neu5Acα2-3Galβ1-3(O-diAc-Neu5Acα2-6)GalNAcα1
<24>
前記糖鎖の構造が、前記(a)と、前記(b)~(e)からなる群から選ばれる1つ以上とである、<23>記載の糖ペプチド組成物。
[実施態様1]
スレオニン及び/又はセリン残基を有するペプチドに糖鎖が結合した糖ペプチドを含む腸内環境改善用組成物であって、
前記糖ペプチドの分子量が500以上3,000以下であり、
前記糖鎖が前記ペプチドのスレオニン又はセリン残基の水酸基に結合し、
前記糖鎖の構成糖がシアル酸、N-アセチルガラクトサミン及びガラクトースからなる群から選択される1つ以上である、腸内環境改善用組成物。
[実施態様2]
前記糖ペプチドの糖鎖がシアル酸及びガラクト-N-ビオースを含む、実施態様1に記載の腸内環境改善用組成物。
[実施態様3]
前記シアル酸と前記ガラクト-N-ビオースのモル比が1:1~2:1である、実施態様2に記載の腸内環境改善用組成物。
[実施態様4]
前記シアル酸と前記ガラクト-N-ビオースの合算量が20重量%以上である、実施態様2に記載の腸内環境改善用組成物。
[実施態様5]
前記糖ペプチドのペプチド鎖のアミノ酸残基数が1以上13以下である、実施態様1~実施態様4のいずれか1項に記載の腸内環境改善用組成物。
[実施態様6]
スレオニン及び/又はセリン残基を有し当該残基の水酸基に糖鎖が結合した糖ペプチド、を含む腸内環境改善用組成物であって、
前記糖鎖の構造が、以下の(1)~(5)からなる群から選ばれる1つ以上である、腸内環境改善用組成物。
(1)Neu5Acα2-3Galβ1-3(Neu5Acα2-6)GalNAcα1
(2)Galβ1-3(Neu5Acα2-6)GalNAcα1
(3)Neu5Acα2-3Galβ1-3GalNAcα1
(4)Neu5Acα2-3Galβ1-3(O-Ac-Neu5Acα2-6)GalNAcα1
(5)Neu5Acα2-3Galβ1-3(O-diAc-Neu5Acα2-6)GalNAcα1
[実施態様7]
前記糖鎖の構造が、
前記(1)と、
前記(2)~(5)からなる群から選ばれる1つ以上とである、実施態様6に記載の腸内環境改善用組成物。
[実施態様8]
ビフィズス菌の増殖を促進することを特徴とする実施態様1から実施態様7のいずれか1項に記載の腸内環境改善用組成物。
[実施態様9]
ビフィズス菌が、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)であることを特徴とする実施態様8に記載の腸内環境改善用組成物。
[実施態様10]
腸内の有機酸量を増加させることを特徴とする実施態様1から実施態様9のいずれか1項に記載の腸内環境改善用組成物。
[実施態様11]
有機酸が、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸及びコハク酸からなる群から選択される1つ以上である実施態様10に記載の腸内細菌改善用組成物。
[実施態様12]
糖ペプチドが乳由来である実施態様1~実施態様11のいずれか1項に記載の腸内環境改善用組成物。
[実施態様13]
実施態様1~実施態様12のいずれか1項に記載の腸内環境改善用組成物を含む腸内環境改善用飲食品。
[実施態様14]
実施態様1~実施態様12のいずれか1項に記載の腸内環境改善用組成物を含む腸内環境改善用医薬品。
[実施態様15]
実施態様1~実施態様12のいずれか1項に記載の腸内環境改善用組成物を含む腸内環境改善用飼料。
[実施態様16]
スレオニン及び/又はセリン残基を有するペプチドに糖鎖が結合した糖ペプチドであって、
前記糖ペプチドの分子量が500以上3,000以下であり、
前記糖鎖が前記ペプチドのスレオニン又はセリン残基の水酸基に結合し、
前記糖鎖の構成糖がシアル酸、N-アセチルガラクトサミン及びガラクトースからなる群から選択される1つ以上である前記糖ペプチド、を含有する組成物の製造方法であって、以下の工程を含む製造方法。
(1)κ-カゼイングリコマクロペプチド、κ-カゼイングリコマクロペプチドを含む組成物、κ-カゼイングを含む組成物から選ばれる1つ以上をエンド型プロテアーゼまたはエキソ型プロテアーゼで処理する工程
(2)前記工程で得られた処理物を分画分子量500以上3,000以下の限外ろ過に
供する処理工程
[実施態様17]
スレオニン及び/又はセリン残基を有するペプチドに糖鎖が結合した糖ペプチドを含む組成物であって、
前記糖ペプチドの分子量が500以上3,000以下であり、
前記糖鎖が前記ペプチドのスレオニン又はセリン残基の水酸基に結合し、
前記糖鎖の構成糖がシアル酸、N-アセチルガラクトサミン及びガラクトースからなる群から選択される1つ以上である、糖ペプチド組成物。
[実施態様18]
前記糖ペプチドの糖鎖がシアル酸及びガラクト-N-ビオースを含む、実施態様17記載の糖ペプチド組成物。
[実施態様19]
前記糖ペプチドの糖鎖が、シアル酸とガラクト-N-ビオースから成る、実施態様17または18記載の糖ペプチド組成物。
[実施態様20]
前記シアル酸と前記ガラクト-N-ビオースのモル比が1.5:1~2:1である、実施態様17~19のいずれか1項記載の糖ペプチド組成物。
[実施態様21]
前記シアル酸と前記ガラクト-N-ビオースの合算量が20重量%以上である、実施態様17~20のいずれか1項記載の糖ペプチド組成物。
[実施態様22]
前記糖ペプチドのペプチド鎖のアミノ酸残基数が1以上13以下である、実施態様17~21のいずれか1項記載の糖ペプチド組成物。
[実施態様23]
スレオニン及び/又はセリン残基を有し当該残基の水酸基に糖鎖が結合した糖ペプチド、を含む糖ペプチド組成物であって、
前記糖鎖の構造が、以下の(a)~(e)からなる群から選ばれる1つ以上である、糖ペプチド組成物。
(a)Neu5Acα2-3Galβ1-3(Neu5Acα2-6)GalNAcα1
(b)Galβ1-3(Neu5Acα2-6)GalNAcα1
(c)Neu5Acα2-3Galβ1-3GalNAcα1
(d)Neu5Acα2-3Galβ1-3(O-Ac-Neu5Acα2-6)GalNAcα1
(e)Neu5Acα2-3Galβ1-3(O-diAc-Neu5Acα2-6)GalNAcα1
[実施態様24]
前記糖鎖の構造が、
前記(a)と、
前記(b)~(e)からなる群から選ばれる1つ以上とである、実施態様23記載の糖ペプチド組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、GMPよりも優れた腸内環境改善作用を有する糖ペプチド組成物、及びそれを簡便かつ食品への利用可能な手法により製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】糖ペプチドのサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)分析結果を示すチャートである。
【
図2】ビフィズス菌によるグルコース、GMP、糖ペプチド資化性試験結果を示すグラフである。
【
図3】GMP投与群と糖ペプチド投与群のマウス盲腸内容物の重量を示すグラフである。
【
図4】
図4Aは、GMP投与群と糖ペプチド投与群のマウス盲腸内容物中の各種有機酸量を示すグラフである。
図4Bは、GMP投与群と糖ペプチド投与群のマウス盲腸内容物中のトータル有機酸量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の糖ペプチド組成物を有効成分として含む腸内環境改善作用を有する組成物、及び糖ペプチド組成物を有効成分として含む腸内環境改善作用を有する飲食品、医薬品、飼料について以下に詳細に説明する。
【0014】
(糖ペプチド組成物)
本発明の糖ペプチド組成物は、スレオニン(Threonine)及び/又はセリン(Serine)残基を有するペプチドに糖鎖が結合した糖ペプチドであって、分子量が500以上3,000以下であり、糖鎖がスレオニン又はセリン残基の水酸基に結合し、糖鎖の構成糖がシアル酸、N-アセチルガラクトサミン、ガラクトースから選択される1つ以上であるものを用いることができる。分子量の下限はさらに好ましくは1,000以上である。
本発明の糖ペプチド組成物は、糖鎖がシアル酸、およびガラクト-N-ビオース(Galβ1-3GalNAc)から成るものが好ましく、シアル酸とガラクト-N-ビオースのモル比が1:1~2:1の範囲にあり、シアル酸とガラクト-N-ビオースの合算量が20重量%以上であるものが更に好ましい。
また、本発明の糖ペプチド組成物はペプチド鎖が1アミノ酸残基以上13アミノ酸残基以下程度のものを用いることができる。さらに、本発明の糖ペプチド組成物はアセチル化したシアル酸を含むものも用いることができる。
【0015】
本願発明の糖ペプチド組成物の一態様として、スレオニン及び/又はセリン残基を有し当該水酸基に糖鎖が結合したシアリル糖ペプチドであって、前記糖鎖の構造が、以下の(1)~(5)からなる群から選ばれる1つ以上であるシアリル糖ペプチドを含む組成物が挙げられる。
(1)Neu5Acα2-3Galβ1-3(Neu5Acα2-6)GalNAcα1
(2)Galβ1-3(Neu5Acα2-6)GalNAcα1
(3)Neu5Acα2-3Galβ1-3GalNAcα1
(4)Neu5Acα2-3Galβ1-3(O-Ac-Neu5Acα2-6)GalNAcα1
(5)Neu5Acα2-3Galβ1-3(O-diAc-Neu5Acα2-6)GalNAcα1
【0016】
また、本願発明の糖ペプチド組成物のもうひとつの態様として、前記糖鎖の構造が、
下記(1)と、
下記(2)~(5)からなる群から選ばれる1つ以上と、の組み合わせであるシアリル糖ペプチドを含む組成物が挙げられる。
(1)Neu5Acα2-3Galβ1-3(Neu5Acα2-6)GalNAcα1
(2)Galβ1-3(Neu5Acα2-6)GalNAcα1
(3)Neu5Acα2-3Galβ1-3GalNAcα1
(4)Neu5Acα2-3Galβ1-3(O-Ac-Neu5Acα2-6)GalNAcα1
(5)Neu5Acα2-3Galβ1-3(O-diAc-Neu5Acα2-6)GalNAcα1
【0017】
本発明の糖ペプチド組成物は、GMP等を酵素等で加水分解することにより得ることができる。
GMPはκ-カゼインの糖鎖を含むC末端ペプチドであり、牛乳においてはκ-カゼインの106-169残基に相当し、分子量は、約7,000である。本発明の糖ペプチド組成物の原料となるGMPは、牛乳のほか、ヤギ、ヒツジなどの獣乳由来のホエイ中から得られるものであればどのようなものでも用いることができる。
また、本発明の糖ペプチド組成物は、微生物、植物、動物の臓器の抽出物を酵素などで加水分解することにより調製することもできる。さらに、化学的に合成されたもの、もしくは遺伝子組換え体で調製したものでもよい。
【0018】
(糖ペプチド組成物の製造方法)
本発明の糖ペプチド組成物の製造方法についてその一態様を示し説明する。本発明の糖ペプチド組成物は、例えばGMPを加水分解することにより得られるため、まず、GMPの製造方法の一態様について説明する。
GMPを含む組成物は、特許第2673828号、または特開平6-25297号公報に記載の方法により調製することができる。すなわち、GMPを含有する乳質原料物質、例えばチーズホエー、ホエー蛋白質濃縮物、除蛋白質チーズホエー等を、まずpH4未満に調整した後、分画分子量10,000~50,000の膜を用い、限外濾過処理をして透過液を得、好ましくは再度、該透過膜をpH4以上に調整した後、分画分子量50,000以下の膜を用いて脱塩し濃縮することによりGMPを調整する方法が挙げられる。また、乳質ホエーをpH6.0以上に調整し40~79℃で加熱処理したものを膜処理に付
して乳清たんぱく質を除去し、GMPを濃縮液側に回収し、得られた濃縮液をpH5.5以下にした後、再び膜処理に供してGMPを透過液側に回収することによりGMP含有量の高い組成物を調製する方法を挙げることができる。
得られた組成物中のGMP量は、例えば、特許文献2の実施例に示されるようなウレア-SDS電気泳動法により分析することができる。
次に、このようにして得られるGMPをエンド型プロテアーゼまたはエキソ型プロテアーゼで処理する工程と、前記工程で得られた処理物を分画分子量500以上3,000以下の限外ろ過に供する処理工程を経ることにより本発明の糖ペプチド組成物を製造することができる。
糖ペプチド製造に用いるプロテアーゼの種類は、ペプチド結合を加水分解し、上記(糖ペプチド組成物)で記載したような分子量と糖鎖を有する糖ペプチドを得ることができるものであれば特に限定されるものではなく、1種類、又は複数のエンド型プロテアーゼ、エキソ型プロテアーゼを用いることができる。好ましくは、食品や医薬品の製造に使用可能な酵素がよく、アクチナーゼE(科研ファルマ)、アクチナーゼAS(科研ファルマ)、ヌクレイシン(HBI)、オリエンターゼAY(HBI)、スミチームFP(新日本化学工業)、スミチームSPP-G(新日本化学工業)、プロテアーゼA(天野エンザイム)、ペプチダーゼR(天野エンザイム)などを単独、あるいは組み合わせて使用することができる。
【0019】
(糖ペプチド組成物の腸内環境改善作用の評価)
本発明の糖ペプチド組成物による腸内環境改善作用は、糖ペプチド組成物を投与した場合と非投与の場合における腸の内容物、または糞便中の有機酸量を比較し、非投与よりも糖ペプチド組成物投与の方が増加した場合に本発明の腸内環境改善作用があると評価することができる。さらに好ましくは、GMPを投与の場合における腸の内容物、または糞便中の有機酸量を比較し、GMP投与よりも糖ペプチド組成物投与の方が増加した場合に本発明の腸内環境改善作用が顕著であると評価することができる。
また、in vitroにおけるビフィズス菌増殖試験において、培地中に糖源として糖ペプチド組成物を添加した場合と非添加(糖なし)の場合におけるビフィズス菌の増殖能を比較し、非添加よりも糖ペプチド組成物添加の方がビフィズス菌の増殖能が高い場合に、本発明の腸内環境改善作用があると評価することができる。さらに好ましくは、GMPを添加した場合におけるビフィズス菌の増殖能を比較し、GMP添加よりも糖ペプチド組成物添加の方がビフィズス菌の増殖能が高い場合に、本発明の腸内環境改善作用が顕著であると評価することができる。
【0020】
(糖ペプチド組成物を含む飲食品、医薬品、飼料)
本発明の上記製造方法により得られた糖ペプチド組成物は、そのまま飲食品の素材、原材料として用いることができ、糖ペプチドを含む組成物を添加すること以外は、各食品の定法により製造すれば良い。
したがって、本発明の有効量の糖ペプチド組成物はどのような飲食品に配合しても良く、飲食品の製造工程中に原料に添加しても良い。飲食品の例としては、チーズ、発酵乳、乳製品乳酸菌飲料、乳酸菌飲料、バター、マーガリンなどの乳製品、乳飲料、果汁飲料、清涼飲料などの飲料、ゼリー、キャンディー、プリン、マヨネーズなどの卵加工品、バターケーキなどの菓子・パン類、さらには、各種粉乳の他、乳幼児食品、栄養組成物などを挙げることができるが特に限定されるものではない。
このようにして製造された有効量の糖ペプチド組成物を含む飲食品は、腸内環境改善作用を有する飲食品として提供される。
【0021】
本発明の上記製造方法により得られた糖ペプチド組成物は、そのまま医薬品の原材料として用いることができ、糖ペプチド組成物を添加すること以外は、錠剤、カプセル、粉末、シロップ等の定法により製造すれば良い。
したがって、本発明の糖ペプチド組成物を有効成分として含む医薬品の製剤化に際しては、製剤上許可されている賦型剤、安定剤、矯味剤などを適宜混合して製剤化するほか、糖ペプチド組成物をそのまま乾燥して粉末剤、散剤として用いることもできる。また、腸内環境改善作用を妨げない範囲で、賦型剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味矯臭剤、懸濁剤、コーティング剤、その他の任意の薬剤を混合して製剤化することもできる。剤形としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、粉剤、シロップ剤などが可能である。
このようにして製造された有効量の糖ペプチド組成物を含む医薬品は、腸内環境改善作用を有する医薬品として提供される。
【0022】
本発明の上記製造方法により得られた糖ペプチド組成物は、そのまま飼料の原材料として用いることができ、糖ペプチド組成物を添加すること以外は、飼料の定法により製造すれば良い。
したがって、本発明の有効量の糖ペプチド組成物は前記飲食品と同様にどのような飼料に配合しても良く、飼料の製造工程中に原料に添加しても良い。
このようにして製造された有効量の糖ペプチド組成物を含む飼料は、腸内環境改善作用を有する飼料として提供される。
【0023】
(糖ペプチド組成物の摂取量)
本発明の糖ペプチド組成物を飲食品、医薬品、飼料などの素材又はそれら素材の加工品に配合させて腸内環境改善作用を有する組成物を製造する場合、配合割合は特に限定されず、製造の容易性や好ましい一日投与量にあわせて適宜調節すればよい。
一日投与量は、投与対象の症状、年齢などを考慮してそれぞれ個別に決定されるが、成人ヒトの場合、糖ペプチド組成物を1日当り0.1g以上を摂取すればよく、1g以上が好ましく、10g以上がさらに好ましい。
【0024】
〔実施例1〕本発明の糖ペプチド組成物の調製方法
1.GMPの製造方法
ホエイタンパク質濃縮物(サンラクトN-2、太陽化学製)1kgを50℃の水50Lに溶解し、濃塩酸によりpH3.5に調整した。これを、分画分子量20,000の限外ろ過膜(GR61PP、DDS製)を用い、50℃、圧力0.4MPa、平均透過液流速52.4L/m2・hにて限外ろ過を行なった。透過液量が40Lに達した時点で濃縮液に50℃の水40Lを加え、連続して限外ろ過を行なった。以上の様にして連続運転を行い、透過液を160L得た。
得られた透過液に25%苛性ソーダを加え、pH7.0とし、再度同じ条件、同じ限外ろ過膜で濃縮液が5Lになるまで限外ろ過を行い、脱塩濃縮した。続いて50℃の水を加え、濃縮液量を常に10Lに保ちながら、これまでと同じ条件、同じ限外ろ過膜でダイアフィルトレーションを行い、さらに脱塩した。このダイアフィルトレーションにより透過液量が80Lに達した時点で濃縮液に水を加えるのをやめ、濃縮液量が2Lになるまで限外ろ過にて濃縮し、この濃縮液を乾燥し、GMP54gを得た。
【0025】
2.糖ペプチド組成物の製造方法
上記1.で得られたGMPを用い、30Kgの5%GMP溶液を調製した。これをエンド型プロテアーゼ(アクチナーゼAS、科研ファルマ製)を添加して50℃で6時間反応させた。これを、分画分子量1,000の限外ろ過膜を用いて限外ろ過を行なった。濃縮液に水を加えて連続して限外ろ過を行なうことでダイアフィルトレーションを行ない、5倍の加水濃縮を行なった後に濃縮液画分を得た。この濃縮液を乾燥し、糖ペプチド組成物Aを271.7g得た。
3.2種類の酵素を組合わせた糖ペプチド組成物の製造方法
上記1.で得られたGMPを用い、30Kgの5%GMP溶液を調製した。これをエンド型プロテアーゼ(オリエンターゼAY、HBI製)を添加して50℃で4時間反応させた後、エキソ型プロテアーゼ(ペプチダーゼR、天野エンザイム製)を添加して37℃で2時間反応した。これを、分画分子量1,000の限外ろ過膜を用いて限外ろ過を行なった。濃縮液に水を加えて連続して限外ろ過を行なうことでダイアフィルトレーションを行ない、5倍の加水濃縮を行なった後に濃縮液画分を得た。この濃縮液を乾燥し、糖ペプチド組成物Bを312.6g得た。
【0026】
〔実施例2〕糖ペプチド組成物のシアリダーゼ処理
実施例1で調製した糖ペプチド組成物Aを2mM塩化カルシウムを含む100mM酢酸緩衝液(pH5.0)で20mg/mLに調製し、それにシアリダーゼ(Clostridium perfringens由来:Sigma,N2876-25UN)を10U/mLとなるように加え
、37℃で20時間反応させた。酵素添加なしのブランクは、酵素を添加せずに同条件で反応させた。反応後は5分間ボイルすることで、反応を停止させた。得られた反応液は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)に供した。SEC分析には、2本のTSKgel G3000PW(東ソー)を装着したL-2000(HITACHI)システムを用い、UV214nmの吸収を検出した。移動相として0.1%トリフルオロ酢酸を含む40%アセトニトリル溶液を用い、流速0.3ml/minで120分間室温でアイソクラチック(isocratic)に溶出した。
SEC分析の結果を
図1に示す。70分付近に大きなピークが認められたが、このピークは、酵素反応に用いた酢酸緩衝液である。
糖ペプチド組成物の主要なピークは50分から60分の間に認められたが、これらはシアリダーゼ処理することで全体的に低分子側にシフトした。このことから、調製した糖ペプチド組成物Aの主体は、シアル酸を含有する化合物であることが明らかとなった。
【0027】
〔実施例3〕糖ペプチド組成物のLC/MSを用いた構造解析
LC/MS分析には、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)ParadigmMS2(Michrom Bioresources)に接続したイオントラップ型質量分析計LTQ Velos(Thermofisher scientific)を用い(LC-ESI-IT MS)、分離カラムとしてInertSustain C18(φ0.2mm×150mm,ジーエルサイエンス)を装着した。移動相には、0.1%のギ酸を含んだ2%アセトニトリル溶液(A液)、および0.1%ギ酸を含んだ90%アセトニトリル溶液(B液)を用いた。糖ペプチド組成物Aを50%アセトニトリル-0.1%ギ酸溶液で100μg/mLに調製し、25μLをHPLCに導入した。移動相は2μL/minで通液し、試料導入後0分から90分の間にB液の割合を0%から45%まで直線的に増加させた。質量分析計は、MS測定(m/z400-2000,ポジティブモード)とMS/MS測定を行った。
MS/MS測定は、MSのうち強度の高い順に5つのイオンを自動的にプレカーサーイオンとして選択し、コリジョンエネルギー35Vで破壊して生じたプロダクトイオンのm/zを観測した。プレカーサーイオンとプロダクトイオンのm/zの差が292であるものをNeu5Ac、334をN,O-ジアセチルノイラミン酸(O-Ac-Neu5Ac)、376をN,O,O-トリアセチルノイラミン酸(O,O-diAc-Neu5Ac)、203をGalNAc、162をGalと帰属し、プロダクトイオンのパターンから糖鎖構造を決定した。糖鎖が完全に解離したと思われるイオンのm/zをペプチドにプロトンが付加したイオンに由
来すると推定し、そのm/zに相当するペプチド配列をGMPの配列中から探索することで、糖ペプチドの構造を推定した。
実施例1で調製した糖ペプチド組成物Aについて、LC/MS分析で得られたMSスペクトルおよびMS/MSスペクトルから、糖ペプチド組成物に含まれる糖ペプチドの糖鎖構造を推定した。
表1に、LC/MS分析で検出した糖ペプチドの糖鎖構造を示す。その結果、検出したいずれの糖ペプチドもシアル酸を含む糖鎖が結合したペプチドであった。検出した多くの糖ペプチドが、シアル酸を2分子結合したNeu5Acα1-3Galβ1-3(Neu5Acα1-6)GalNAcの糖鎖構造(Glycan type 3, 4, 5, 6, 7)を有していたが、シアル酸が1分子であるNeu5Acα1-3Galβ1-3GalNAc(Glycan type 1)やGalβ1-3(Neu5Acα1-6)GalNAc(Glycan type 2)も検出された。さらに、シアル酸のO-アセチル体であるN,O-ジアセチルノイラミン酸(O-Ac-Neu5Ac, Glycan type 4)、およびN,O,O-トリアセチルノイラミン酸(O- diAc-Neu5Ac, Glycan type 5)も検出された。また、一つのペプチド鎖に2本の糖鎖が結合した糖ペプチド(Glycan type 6, 7)も検出された。
MS/MSスペクトル解析から検出したペプチド鎖は、いずれもウシのグリコマクロペプチドに含まれるペプチド鎖であった。検出したすべての糖ペプチドのペプチド鎖にはセリンまたはスレオニン残基が1分子以上存在し、ペプチド鎖長は最も短いもので1残基、最も長いもので13残基であった。また、検出したペプチド鎖の分子量は、745から2928の範囲であった。
【0028】
【0029】
〔実施例4〕糖ペプチド組成物の構成糖と存在比
糖ペプチド組成物は糖鎖とペプチド鎖から成るが、腸内環境改善作用には糖ペプチド組成物中の糖鎖の構成糖とその含量が重要と考えられる。
実施例3で示したように、糖ペプチド組成物の糖鎖は、シアル酸(N-アセチルノイラミン酸)、およびガラクト-N-ビオース(GNB:Galb1-3GalNAc)から成ることが明らかとなった。よって、次に糖ペプチド組成物中のシアル酸とガラクト-N-ビオースのそれぞれの量を測定し、これらの存在比を調べた。
実施例1で調製したGMPおよび糖ペプチド組成物中のシアル酸量は、以下に記載した方法で測定した。すなわち、シアル酸量を測定するために、ねじ口試験管に100μLのサンプル溶液、800μLの水、および100μLの1N 硫酸溶液を添加し、ブロックヒーターを用いて80℃で45分間、加熱した。冷却後、等量の100mMの水酸化ナトリウムで中和した後、0.45μmのフィルターで不溶物を除去した。得られた反応液中の糖含量は、Carbopak PA1カラムを装着したDIONEX ICS-5000DPシステムを用いて測定した。
実施例1で調製したGMPおよび糖ペプチド組成物からガラクト-N-ビオースを遊離させるために、まず実施例2に記載した方法でGMPおよび糖ペプチド組成物をシアリダーゼ処理した。シアリダーゼ処理後のGMPおよび糖ペプチド組成物は、引き続きO-グルカナーゼ(エンド-a-N-アセチルガラクトサミニダーゼ)処理することで、糖ペプチド組成物からガラクト-N-ビオースを遊離させた。遊離したガラクト-N-ビオースは、Carbopak PA1カラムを装着したDIONEX ICS-5000DPシステムを用いて測定した。結果を表2に示す。
シアル酸(N-アセチルノイラミン酸:Neu5Ac)とガラクト-N-ビオース(GNB:Galb1-3GalNAc)の含量は、GMPよりも糖ペプチド組成物の方が高い値となった。また、シアル酸とガラクト-N-ビオースの量を合算したトータルの糖含量は、糖ペプチド組成物AはGMPよりも3.9倍、糖ペプチド組成物BはGMPよりも2.8倍高い含量となり、GMPの糖鎖が濃縮されたことが明らかとなった。
【0030】
【0031】
〔試験例1〕ビフィズス菌による糖ペプチド組成物に対する資化性の検討
ビフィズス菌による、GMPまたは糖ペプチド組成物の資化性を検討した。
1.試験方法
資化性試験には、PY培地(200 mM PIPES, pH 6.7, 2g/L peptone, 2 g/L BBL Trypticase Peptone, 2g/L Bacto Yeast Extract, 8 mg/L CaCL2, 19.2 mg/L MgSO4 7H2O, 80 mg/L NaCl, 4.9 mg/L hemin, 0.5 g/L L-Cycteine hydrochloride, 100 μg/L vitamin K1, autoclaved 115℃, 15 min)を用いた。糖源を含まないPY培地に、0.5%グルコース(Glc)、1.5% GMP、および実施例1で調製した糖ペプチド組成物Aを1.5%となるように糖源を添加した。
ビフィズス菌として、Bifidobacterium bifidum JCM1254、Bifidobacterium bifidum JCM7004、Bifidobacterium bifidum SBT10550を使用し、あらかじめ1%Glucoseを添加したGAM培地で18時間培養した。培養液をPY培地に0.1%接種した。菌を接種したPY培地を200μL/wellで96穴マイクロプレートに播種し、嫌気条件下37℃で72時間培養した。菌の増殖は、濁度(OD660nm)で評価した。
2.試験結果
糖源を含まない培地では、ビフィズス菌の増殖は認められなかったが、グルコース、GMP、糖ペプチド組成物を添加した区分ではビフィズス菌の増殖が認められた。また、3株ともに、GMPよりも糖ペプチド組成物を添加した区分が統計的に有意に高い増殖性を示した(
図2)。
図2中、「***」は、GMPと比較して統計的に有意であることを示す(p<0.001)。
したがって、糖ペプチド組成物は、ビフィズス菌の増殖を促進する作用があることが明らかになった。
【0032】
〔試験例2〕糖ペプチド組成物の腸内有機酸増加効果の検討
1.試験方法
マウスを3群に分け、通常餌(コントロール群)、GMPを10%添加した餌(GMP群)、または実施例1で調製した糖ペプチド組成物Aを10%添加した餌(糖ペプチド組成物群)を3週間摂取させ、マウスの盲腸内容物重量及び、盲腸内容物中の有機酸量の測定を行った。ヒトにおける難消化性成分の主な発酵部位は大腸であるが、マウスでその役割を担っている部位は盲腸であるため、この試験では盲腸内容物について測定した。したがって、実験結果は盲腸内容物の重量、及び有機酸量を示すが、これらの結果が盲腸での作用に限定するわけではなく、ヒトでの主な発酵部位である大腸における内容物の重量、及び大腸内容物または糞便中の有機酸量に置き換えることができる。
2.試験結果
糖ペプチド組成物群のマウスの盲腸内容物重量は、コントロール群およびGMP群に比べて有意に増加した(
図3)。この盲腸内容物中の有機酸量を測定した結果、コントロール群およびGMP群と比較して糖ペプチド組成物群において、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸、コハク酸、総有機酸の量が有意に増加した(
図4A,
図4B)。
したがって、糖ペプチド組成物はGMPよりも優れた有機酸産生能を有することが明らかとなった。
図3,4中のa,b,cは、それぞれ異なる記号が付いた区分間で統計的に有意であることを示す(p<0.05)。
【0033】
〔実施例5〕サプリメントの製造
実施例1で得られた糖ペプチド組成物粉末30gに、ビタミンCとクエン酸の等量混合物40g、グラニュー糖100g、コーンスターチと乳糖の等量混合物60gを加えて混合した。混合物をスティック状袋に詰め、本発明の腸内環境改善用サプリメントを製造した。
【0034】
〔実施例6〕飲料の製造
表3に示した配合により原料を混合し、容器に充填した後、加熱殺菌して、本発明の腸内環境改善用飲料を製造した。
【0035】
【0036】
〔実施例7〕医薬品(カプセル剤)の製造
表4に示した配合により原料を混合し、造粒により顆粒状とした後、空カプセルに10mgずつ充填して、本発明の腸内環境改善用医薬品を含むカプセル剤を製造した。
【0037】
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明によれば、糖ペプチド組成物を有効成分とする新たな腸内環境改善用組成物、及び糖ペプチド組成物を有効成分とする腸内環境改善用飲食品、医薬品、飼料を提供することが可能となった。