(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102232
(43)【公開日】2024-07-30
(54)【発明の名称】幹細胞の凍結保存
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0775 20100101AFI20240723BHJP
C12N 1/04 20060101ALI20240723BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20240723BHJP
【FI】
C12N5/0775
C12N1/04
C12N5/071
【審査請求】有
【請求項の数】22
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024074946
(22)【出願日】2024-05-02
(62)【分割の表示】P 2021547274の分割
【原出願日】2020-02-11
(31)【優先権主張番号】19382099.0
(32)【優先日】2019-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】000002934
【氏名又は名称】武田薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】エレウテリオ、ロンバルド、デ、ラ、カマラ
(72)【発明者】
【氏名】マイタネ、オルティス、ビルムブラレス
(57)【要約】 (修正有)
【課題】脂肪由来間質幹細胞(ASC)などの間葉系幹細胞(MSC)を含む幹細胞集団の凍結保存の方法を提供する。
【解決手段】以下の工程:a.幹細胞の集団をN-アセチルシステイン(NAC)で処理して、幹細胞の処理集団を得ること;およびb.幹細胞の処理集団を凍結させて、幹細胞の凍結集団を得ることを含んでなる、幹細胞の凍結保存の方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
幹細胞の凍結保存の方法であって、前記方法が、以下の工程:
a.幹細胞の集団をN-アセチルシステイン(NAC)で処理して、幹細胞の処理集団を得ること;および
b.前記幹細胞の処理集団を凍結させて、幹細胞の凍結集団を得ること
を含んでなる、方法。
【請求項2】
前記方法が、以下の工程:
a.前記幹細胞の集団をNACで処理して、幹細胞の処理集団を得ること;
b.前記幹細胞の処理集団を凍結させて、幹細胞の凍結集団を得ること;および
c.前記幹細胞の凍結集団を解凍して、幹細胞の解凍集団を得ること
を含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記方法が、以下の工程:
a.前記幹細胞の集団をNACで処理して、幹細胞の処理集団を得ること;
b.前記幹細胞の処理集団を洗浄して、NACを除去し、かつ幹細胞の洗浄集団を得ること、および前記幹細胞の洗浄集団を凍結させて、幹細胞の凍結集団を得ること;ならびに
c.前記幹細胞の凍結集団を解凍して、幹細胞の解凍集団を得ること
を含んでなる、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記処理工程が、
前記幹細胞の集団を凍結させる前に、前記幹細胞の集団をNACで少なくとも約1、2、4、6、8、10、12、16、24もしくは48時間インキュベートすること;および/または
NACを前記幹細胞の集団に加えて、およそ0.5~10mMの範囲の初濃度とすることを含んでなり、場合によりここで、前記処理工程は、NACの濃度を事前選択されたレベルに維持するためのNACの1回以上のさらなる添加を含んでなる、
請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記方法が、以下の工程:
d.前記幹細胞の解凍集団を培養して、幹細胞の拡大集団を得ること
をさらに含んでなる、請求項2~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記方法が、以下の工程:
d.前記幹細胞の解凍集団をNACの存在下で培養して、幹細胞の拡大集団を得ることをさらに含んでなり、場合によりここで:
前記培養工程は、NACを加えて、およそ0.5~5mMの範囲の初濃度とすることを含んでなり、さらに場合によりここで、前記培養工程は、NACの濃度を事前選択されたレベルに維持するためのNACの1回以上のさらなる添加を含んでなり;かつ/または
前記方法は、前記幹細胞の拡大集団を洗浄して、NACを除去し、かつ幹細胞の洗浄および拡大集団を得る工程をさらに含んでなる、
請求項2~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記方法が、前記幹細胞の解凍集団または前記幹細胞の拡大集団を洗浄し、かつ前記細胞を薬学上許容可能な担体に再懸濁させる工程をさらに含んでなる、請求項2~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記方法が、以下の工程:
e.前記幹細胞の拡大集団または前記幹細胞の洗浄および拡大集団を凍結させて、幹細胞の凍結拡大集団または幹細胞の凍結、洗浄および拡大集団を得ること;ならびに場合により
f.前記幹細胞の凍結拡大集団または前記幹細胞の凍結、洗浄および拡大集団を解凍して、幹細胞の解凍拡大集団を得ること;ならびに場合により
g.前記幹細胞の解凍拡大集団を洗浄し、かつ前記細胞を薬学上許容可能な担体に再懸濁させること
をさらに含んでなる、請求項6~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
幹細胞の凍結保存の方法であって、前記方法が、以下の工程:
a.幹細胞の集団を凍結させて、幹細胞の凍結集団を得ること;
b.前記幹細胞の凍結集団を解凍して、幹細胞の解凍集団を得ること;および
c.前記幹細胞の解凍集団をNACの存在下で培養して、幹細胞の拡大集団を得ることを含んでなり、場合によりここで、前記培養工程は、NACを加えて、およそ0.5~5mMの初濃度とすることを含んでなり、さらに場合によりここで、前記培養工程は、NACの濃度を事前選択されたレベルに維持するためのNACの1回以上のさらなる添加を含んでなる、
方法。
【請求項10】
前記幹細胞が間葉系幹細胞(MSC)であり、かつ/または前記幹細胞が脂肪由来間質幹細胞(ASC)である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の方法により得られる、幹細胞の集団。
【請求項12】
解凍後ならびに場合により約1日間および/もしくは約4日間の培養後の生細胞の数が、幹細胞の対照集団と比較して増加し;
解凍後の生細胞の数が、幹細胞の対照集団と比較して少なくとも約1.05倍、少なくとも約1.1倍、少なくとも約1.2倍、少なくとも約1.3倍、少なくとも約1.4倍、少なくとも約1.5倍、少なくとも約1.6倍、少なくとも約2倍、もしくは少なくとも約5倍増加し;
解凍後の成長率が、幹細胞の対照集団と比較して、前記幹細胞の集団において少なくとも約1.03倍、少なくとも約1.05倍、少なくとも約1.1倍、少なくとも約1.15倍、少なくとも約1.2倍、少なくとも約1.25倍、少なくとも約1.3倍、少なくとも約1.4倍、少なくとも約1.6倍、もしくは少なくとも約2倍増加し;
解凍後ならびに場合により約1日間および/もしくは約4日間の培養後のミトコンドリア活性が、幹細胞の対照集団と比較して少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%もしくは少なくとも約50%増加し;
解凍後にASCを回収するのに要する時間が、幹細胞の対照集団と比較して減少し;かつ/または
解凍後に細胞を回収するのに要する時間が、幹細胞の対照集団と比較して少なくとも約1.1倍、少なくとも約1.2倍、少なくとも約1.4倍、少なくとも約1.6倍、少なくとも約2倍、少なくとも約3倍、少なくとも約4倍、もしくは少なくとも約5倍減少し、
ここで、前記幹細胞の対照集団は、NACで処理された幹細胞の集団と同じ幹細胞の集団に由来し、かつNACで処理されていないが、その他の点では同一の条件に供されている、
請求項11に記載の幹細胞の集団。
【請求項13】
解凍後ならびに場合により約1日間および/もしくは約4日間の培養後の生細胞の数が、幹細胞の対照集団と比較して増加し;
解凍後の生細胞の数が、幹細胞の対照集団と比較して少なくとも約1.05倍、少なくとも約1.1倍、少なくとも約1.2倍、少なくとも約1.3倍、少なくとも約1.4倍、少なくとも約1.5倍、少なくとも約1.6倍、少なくとも約2倍、もしくは少なくとも約5倍増加し;
解凍後の成長率が、幹細胞の対照集団と比較して、前記幹細胞の集団において少なくとも約1.03倍、少なくとも約1.05倍、少なくとも約1.1倍、少なくとも約1.15倍、少なくとも約1.2倍、少なくとも約1.25倍、少なくとも約1.3倍、少なくとも約1.4倍、少なくとも約1.6倍、もしくは少なくとも約2倍増加し;
解凍後ならびに場合により約1日間および/もしくは約4日間の培養後のミトコンドリア活性が、幹細胞の対照集団と比較して少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%もしくは少なくとも約50%増加し;
解凍後にASCを回収するのに要する時間が、幹細胞の対照集団と比較して減少し;かつ/または
解凍後に細胞を回収するのに要する時間が、幹細胞の対照集団と比較して少なくとも約1.1倍、少なくとも約1.2倍、少なくとも約1.4倍、少なくとも約1.6倍、少なくとも約2倍、少なくとも約3倍、少なくとも約4倍、もしくは少なくとも約5倍減少する、
請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
請求項11または請求項12に記載の幹細胞の集団と凍結保存培地とを含んでなる凍結保存組成物であって、場合により、前記組成物は凍結され、かつ/または場合により、前記組成物はNACを含有する、組成物。
【請求項15】
幹細胞の凍結保存のための、NACの使用。
【請求項16】
クライオバイアルと、NACを含有する容器と、幹細胞の集団を含んでなる容器とを含んでなる、凍結保存キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪由来間質幹細胞(ASC)などの間葉系幹細胞(MSC)を含む幹細胞集団の凍結保存の方法に関する。より詳しくは、本発明は、凍結保存方法におけるN-アセチルシステイン(NAC)の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
世界的な修復再生医学の市場は、治療用細胞の生存率および機能が維持され、その結果、製造場所から患者への細胞の輸送、安全性試験および品質管理試験の完了、ならびに細胞バンクの設立が可能になることを必要としている。細胞は、利用前または利用中に、正常温度に戻される前に凍結保存されるか、または低温維持される。これらの療法の成功は、細胞の単に構造だけでなく機能も保存する能力に少なくとも部分的に依存する。
【0003】
細胞保存の目的は、種類を問わず、生物学的時間を特定の期間停止し、次いで、細胞の生存率、構造、および機能を要求に応じて復帰させることである。理想的には、凍結保存される細胞/組織は、解凍後に同じ特性を有するはずである。この目的の達成は、多くの場合において実現には程遠いものである。保存成績は、保存直後に測定される高度の細胞生存率の維持に次いで、細胞の応答性、機能、および生殖能力の減少を伴う24~48時間にわたるその後の減少をしばしば特徴とする。低温保存に関しては、保存間隔は、ほとんどの細胞系で一般に1~3日に限定される。
【0004】
多くの試験が、細胞特性(例えば、細胞の活動、生存、増殖能)は凍結および解凍プロセスにより影響を受けることを観察している。保存プロセスは、代謝プロセスおよび生化学的プロセスの温度依存的脱共役の結果として、多数のストレスを細胞に与える。これらには、とりわけ、脂質過酸化の下流効果に起因する細胞に対して有害である酸化的呼吸の混乱によるフリーラジカルの生成、DNAおよびRNA損傷、細胞骨格構造成分の変化が含まれる。細胞の膜構造、流動性、および構成の変化はまた、膜受容体を活性化し、ストレス応答経路およびアポトーシスの刺激を含む細胞内事象のカスケードを惹起し得る。膜結合Na+/K+ポンプおよびCa2+イオンチャネルの遮断を介した細胞のイオンバランスの調節不全は、細胞内ストアからのカルシウムの放出、浸透圧流入、および細胞腫脹を含むストレス応答機序を活性化する。さらなるストレス応答機序の宿主はまた、低温保存を介して活性化されて、細胞に害を及ぼし得る。
【0005】
ジメチルスルホキシド(DMSO)、グリセロールまたは動物由来血清などの凍結防止剤が、これらの負の効果を最小限にするために凍結保存培地に一般に加えられる。しかしながら、幹細胞の凍結保存の方法を改善する必要性が依然として存在する。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、脂肪由来間質幹細胞(ASC)などの間葉系幹細胞(MSC)を含む幹細胞の凍結保存に関する方法および組成物、ならびに前記組成物の使用を提供するものとして要約される。特に、幹細胞の研究試験および臨床適用を促進するために、本発明者らは、治療的使用に必要とされるような、細胞の構造特性および/または機能特性を維持しながら、解凍後の生細胞数の増加、成長率の増加、ミトコンドリア活性の増加および/または回収率の改善をもたらす、N-アセチルシステイン(NAC)で細胞を処理することが関与する新規な凍結保存アプローチを開発した。
【0007】
本発明は、幹細胞の凍結保存の方法であって、前記方法が、以下の工程:(a)幹細胞の集団をN-アセチルシステイン(NAC)で処理して、幹細胞の処理集団を得ること;および(b)前記幹細胞の処理集団を凍結させて、幹細胞の凍結集団を得ることを含んでなる方法を提供する。いくつかの実施形態において、前記方法は、以下の工程:(a)前記幹細胞の集団をNACで処理して、幹細胞の処理集団を得ること;(b)前記幹細胞の処理集団を凍結させて、幹細胞の凍結集団を得ること;および(c)前記幹細胞の凍結集団を解凍して、幹細胞の解凍集団を得ることを含んでなる。いくつかの実施形態において、前記方法は、以下の工程:(a)前記幹細胞の集団をNACで処理して、幹細胞の処理集団を得ること;(b)前記幹細胞の処理集団を洗浄して、NACを除去し、かつ幹細胞の洗浄集団を得ること、および前記幹細胞の洗浄集団を凍結させて、幹細胞の凍結集団を得ること;ならびに(c)前記幹細胞の凍結集団を解凍して、幹細胞の解凍集団を得ることを含んでなる。前記方法のいずれかにおいて、前記処理工程は、前記幹細胞の集団を凍結させる前に、前記幹細胞の集団をNACで少なくとも約1、2、4、6、8、10、12、16、24または48時間インキュベートすることを含んでなってもよい。前記処理工程は、NACを前記幹細胞の集団に加えて、およそ0.5~10mMの範囲の初濃度とすることを含んでなってもよい。前記処理工程は、NACの濃度を事前選択されたレベルに維持するためのNACの1回以上のさらなる添加を含んでなってもよい。いくつかの実施形態において、前記方法は、以下の工程:(d)前記幹細胞の解凍集団を培養して、幹細胞の拡大集団を得ることをさらに含んでなる。いくつかの実施形態において、前記方法は、以下の工程:(d)前記幹細胞の解凍集団をNACの存在下で培養して、幹細胞の拡大集団を得ることをさらに含んでなる。前記培養工程は、NACを加えて、およそ0.5~5mMの範囲の初濃度とすることを含んでなってもよい。前記培養工程は、NACの濃度を事前選択されたレベルに維持するためのNACの1回以上のさらなる添加を含んでなってもよい。いくつかの実施形態において、前記方法は、前記幹細胞の拡大集団を洗浄して、NACを除去し、かつ幹細胞の洗浄および拡大集団を得る工程をさらに含んでなる。いくつかの実施形態において、前記方法は、前記幹細胞の解凍集団または前記幹細胞の拡大集団を洗浄し、かつ前記細胞を薬学上許容可能な担体に再懸濁させる工程をさらに含んでなる。いくつかの実施形態において、前記方法は、以下の工程:(e)前記幹細胞の拡大集団または前記幹細胞の洗浄および拡大集団を凍結させて、幹細胞の凍結拡大集団または幹細胞の凍結、洗浄および拡大集団を得ることをさらに含んでなる。いくつかの実施形態において、前記方法は、以下の工程:(e)前記幹細胞の拡大集団または前記幹細胞の洗浄および拡大集団を凍結させて、幹細胞の凍結拡大集団または幹細胞の凍結、洗浄および拡大集団を得ること;ならびに(f)前記幹細胞の凍結拡大集団または前記幹細胞の凍結、洗浄および拡大集団を解凍して、幹細胞の解凍拡大集団を得ることをさらに含んでなる。いくつかの実施形態において、前記方法は、以下の工程:(g)前記幹細胞の解凍拡大集団を洗浄し、かつ前記細胞を薬学上許容可能な担体に再懸濁させることをさらに含んでなる。
【0008】
本発明はまた、幹細胞の凍結保存の方法であって、前記方法が、以下の工程:(a)幹細胞の集団を凍結させて、幹細胞の凍結集団を得ること;(b)前記幹細胞の凍結集団を解凍して、幹細胞の解凍集団を得ること;および(c)前記幹細胞の解凍集団をNACの存在下で培養して、幹細胞の拡大集団を得ることを含んでなる方法を提供する。前記培養工程は、NACを加えて、およそ0.5~5mMの初濃度とすることを含んでなってもよい。いくつかの実施形態において、前記培養工程は、NACの濃度を事前選択されたレベルに維持するためのNACの1回以上のさらなる添加を含んでなる。
【0009】
本発明の方法のいずれかにおいて、前記凍結工程は、約-0.5~約-10℃/分の速度で温度を-70℃~-130℃に下げることを含んでなってもよい。いくつかの実施形態において、前記凍結工程は、10~60分で温度を+4℃から-100~-180℃に下げることを含んでなる。
【0010】
本発明の方法のいずれかにおいて、前記幹細胞の集団は、37℃で解凍され得る。前記幹細胞の凍結集団の細胞密度は、およそ100万~およそ5,000万個/mLの範囲、好ましくは、およそ2,500万個/mLであり得る。
【0011】
いくつかの実施形態において、前記幹細胞の集団は、実質的に純粋である。いくつかの実施形態において、前記幹細胞は間葉系幹細胞(MSC)である。いくつかの実施形態において、前記幹細胞は脂肪由来間質幹細胞(ASC)である。いくつかの実施形態において、前記幹細胞はヒト細胞である。好ましい複数の実施形態において、前記幹細胞はヒトASCである。
【0012】
本発明の方法のいずれかにおいて、前記方法は、前記細胞を薬学上許容可能な担体に再懸濁させる工程をさらに含んでなってもよい。前記方法は、前記幹細胞の集団を複数のクライオバイアル中で凍結させることを含んでなってもよい。
【0013】
いくつかの実施形態において、前記方法は、幹細胞の複数の集団に対して本発明の方法のいずれか1つの工程を反復することを含んでなる。前記方法は、前記幹細胞の複数の集団を複数のクライオバイアル中で凍結させることを含んでなってもよい。前記方法は、前記複数の凍結保存バイアルを液体窒素保存容器中で少なくとも1ヵ月間、少なくとも2ヵ月間、少なくとも3ヵ月間、少なくとも6ヵ月間、または少なくとも1年間保存することをさらに含んでなってもよい。
【0014】
本発明は、本発明の方法に従って得られる複数の凍結保存バイアルを含有する液体窒素保存容器をさらに提供する。
【0015】
本発明は、本発明の方法により得られる幹細胞の集団を提供する。
【0016】
本発明の方法または本発明の幹細胞の集団のいずれかにおいて、解凍後ならびに場合により約1日間および/または約4日間の培養後の生細胞の数は、幹細胞の対照集団と比較して増加し得る。本発明の方法または本発明の幹細胞の集団のいずれかにおいて、解凍後の生細胞の数は、幹細胞の対照集団と比較して少なくとも約1.05倍、少なくとも約1.1倍、少なくとも約1.2倍、少なくとも約1.3倍、少なくとも約1.4倍、少なくとも約1.5倍、少なくとも約1.6倍、少なくとも約2倍、または少なくとも約5倍増加し得る。本発明の方法または本発明の幹細胞の集団のいずれかにおいて、解凍後の成長率は、幹細胞の対照集団と比較して、前記幹細胞の集団において少なくとも約1.03倍、少なくとも約1.05倍、少なくとも約1.1倍、少なくとも約1.15倍、少なくとも約1.2倍、少なくとも約1.25倍、少なくとも約1.3倍、少なくとも約1.4倍、少なくとも約1.6倍、または少なくとも約2倍増加し得る。本発明の方法または本発明の幹細胞の集団のいずれかにおいて、解凍後ならびに場合により約1日間および/または約4日間の培養後のミトコンドリア活性は、幹細胞の対照集団と比較して少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%または少なくとも約50%増加し得る。本発明の方法または本発明の幹細胞の集団のいずれかにおいて、解凍後にASCを回収するのに要する時間は、幹細胞の対照集団と比較して減少し得る。本発明の方法または本発明の幹細胞の集団のいずれかにおいて、解凍後に細胞を回収するのに要する時間は、幹細胞の対照集団と比較して少なくとも約1.1倍、少なくとも約1.2倍、少なくとも約1.4倍、少なくとも約1.6倍、少なくとも約2倍、少なくとも約3倍、少なくとも約4倍、または少なくとも約5倍減少し得る。
【0017】
本発明は、本発明の幹細胞の集団と凍結保存培地とを含んでなる凍結保存組成物を提供する。前記組成物は凍結され得る。いくつかの実施形態において、前記組成物はNACを含有する。
【0018】
本発明はまた、本発明の幹細胞の集団と薬学上許容可能な担体とを含んでなる医薬組成物を提供する。前記組成物は、およそ100万個の細胞~およそ1億5,000万個の細胞、好ましくは、およそ3,000万個の細胞またはおよそ1億2,000万個の細胞を含んでなってもよい。いくつかの実施形態において、前記細胞密度は、およそ1~2,000万個/mLである。
【0019】
本発明は、例えば、本発明の方法における、幹細胞の凍結保存のためのNACの使用を提供する。
【0020】
本発明はまた、療法における使用のための、本発明の幹細胞の集団、本発明の医薬組成物または本発明の凍結保存組成物を提供する。
【0021】
本発明は、それを必要とする患者における、瘻孔を治療する、かつ/または炎症性障害、自己免疫疾患、もしくは免疫介在性疾患、例えば、敗血症、関節リウマチ、アレルギー(例えば、IV型過敏性反応)、過敏性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎もしくは臓器拒絶反応を治療および/もしくは予防する方法における使用のための、本発明の幹細胞の集団、本発明の医薬組成物または本発明の凍結保存組成物をさらに提供する。
【0022】
本発明は、瘻孔を治療する、かつ/または炎症性障害、自己免疫疾患、もしくは免疫介在性疾患、例えば、敗血症、関節リウマチ、アレルギー(例えば、IV型過敏性反応)、過敏性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎もしくは臓器拒絶反応を治療および/もしくは予防する方法であって、前記方法が、それを必要とする対象に本発明の幹細胞の集団、本発明の医薬組成物または本発明の凍結保存組成物を投与すること含んでなる方法を提供する。
【0023】
本発明はまた、それを必要とする患者における、瘻孔を治療する、かつ/または炎症性障害、自己免疫疾患、もしくは免疫介在性疾患、例えば、敗血症、関節リウマチ、アレルギー(例えば、IV型過敏性反応)、過敏性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎もしくは臓器拒絶反応を治療および/もしくは予防する方法における使用のための幹細胞の集団を提供し、ここで、前記方法は、以下の工程:(a)幹細胞の集団をNACで処理して、幹細胞の処理集団を得ること;(b)前記幹細胞の処理集団を凍結させて、幹細胞の凍結集団を得ること;(c)前記幹細胞の凍結集団を解凍して、幹細胞の解凍集団を得ること;(d)場合により、前記幹細胞の解凍集団を培養して、幹細胞の拡大集団を得ること;および(e)前記患者に前記幹細胞の集団を投与することを含んでなる。
【0024】
本発明は、それを必要とする患者における、瘻孔を治療する、かつ/または炎症性障害、自己免疫疾患、もしくは免疫介在性疾患、例えば、敗血症、関節リウマチ、アレルギー(例えば、IV型過敏性反応)、過敏性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎もしくは臓器拒絶反応を治療および/もしくは予防する方法であって、前記方法が、以下の工程:(a)幹細胞の集団をNACで処理して、幹細胞の処理集団を得ること;(b)前記幹細胞の処理集団を凍結させて、幹細胞の凍結集団を得ること;(c)前記幹細胞の凍結集団を解凍して、幹細胞の解凍集団を得ること;(d)場合により、前記幹細胞の解凍集団を培養して、幹細胞の拡大集団を得ること;および(e)前記患者に前記幹細胞の集団を投与することを含んでなる方法をさらに提供する。
【0025】
本発明は、それを必要とする患者における、瘻孔を治療する、かつ/または炎症性障害、自己免疫疾患、もしくは免疫介在性疾患、例えば、敗血症、関節リウマチ、アレルギー(例えば、IV型過敏性反応)、過敏性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎もしくは臓器拒絶反応を治療および/もしくは予防する方法における使用のための幹細胞の集団を提供し、ここで、前記方法は、以下の工程:(a)幹細胞の集団を凍結させて、幹細胞の凍結集団を得ること;(b)前記幹細胞の凍結集団を解凍して、幹細胞の解凍集団を得ること;(c)前記幹細胞の解凍集団をNACの存在下で培養して、幹細胞の拡大集団を得ること;および(d)前記患者に前記幹細胞の集団を投与することを含んでなる。
【0026】
本発明はまた、それを必要とする患者における、瘻孔を治療する、かつ/または炎症性障害、自己免疫疾患、もしくは免疫介在性疾患、例えば、敗血症、関節リウマチ、アレルギー(例えば、IV型過敏性反応)、過敏性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎もしくは臓器拒絶反応を治療および/もしくは予防する方法であって、前記方法が、以下の工程:(a)幹細胞の集団を凍結させて、幹細胞の凍結集団を得ること;(b)前記幹細胞の凍結集団を解凍して、幹細胞の解凍集団を得ること;(c)前記幹細胞の解凍集団をNACの存在下で培養して、幹細胞の拡大集団を得ること;および(d)前記患者に前記幹細胞の集団を投与することを含んでなる方法を提供する。
【0027】
いくつかの実施形態において、本発明に係る使用のための幹細胞の集団または本発明に係る治療の方法は、前記患者に前記幹細胞の集団を投与する前に、本明細書に記載の幹細胞の凍結保存の方法の工程のいずれか1つをさらに含んでなる。
【0028】
本発明に係る使用のための幹細胞の集団、医薬組成物もしくは凍結保存組成物または本発明の治療の方法のいくつかの実施形態において、前記方法は、およそ100万~1億5,000万個の細胞、好ましくは、およそ3,000万個の幹細胞またはおよそ1億2,000万個の幹細胞を投与することを含んでなる。前記方法は、およそ100万~およそ1,000万個/kgの細胞を投与することを含んでなってもよい。前記方法は、本発明の幹細胞の集団、医薬組成物または凍結保存組成物を注射することを含んでなってもよい。前記幹細胞は、本明細書に定義された通りであり得る。いくつかの実施形態において、前記幹細胞は、同種異系または自己である。好ましい複数の実施形態において、前記幹細胞は、ヒト同種異系ASCである。
【0029】
本発明は、クライオバイアルと、NACを含有する容器と、幹細胞の集団を含んでなる容器とを含んでなる凍結保存キットを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】例示されたアッセイを説明するフローチャート。
【
図2】無処理(NT)細胞と比較した、凍結前に種々の化合物(NAC;LY294,002、sc-79またはエキセンディン-4)で処理されているASCの解凍後播種後24時間におけるMTSアッセイ。MTSに関して6回の技術的反復での単一実験を代表するデータ。
【
図3】無処理(NT)細胞と比較した、凍結前に6mM NAC(NAC)で処理されているASCの解凍後播種後24時間における細胞数。技術的三重反復での単一実験を代表するデータ。
【
図4】無処理(NT)細胞と比較した、凍結前に6mM NAC(NAC)で処理されているASCの解凍後播種後1、4、および7日(A)における細胞密度ならびに24時間(B)および96時間(C)におけるMTSアッセイ。MTSの結果は、無処理細胞と比較した、490nmの吸光度のパーセンテージとして示す。細胞数に関して三重反復で、MTSに関して6回の技術的反復での単一実験を代表するデータ。
図4Aにおける0日時点は、他の時点で示される接着生細胞の数ではなく、細胞播種密度を示す。
【
図5】解凍後播種後1、4および7日における2例の異なるドナー(ドナーA(DON A)およびドナーB(DON B))由来のASCの細胞密度を示すグラフ。ASCを6mM NACで前処理し、無処理細胞と比較した。技術的三重反復での1つの実験を代表するデータ。
【
図6】平板培地に加えられた2、6または12mM NACで解凍後処理された解凍ASCの播種後7、11および14日における細胞密度を示すグラフ。技術的三重反復での2つの実験を代表するデータ。
【
図7】フローサイトメトリーによるASC同一性アッセイ。ASC(ドナーA由来であり、凍結前に6mM NACで処理された)を解凍後2週において分析し、CD29、CD73、CD90およびCD105に関して無処理細胞と比較した。陽性細胞のパーセンテージを図に示す。実験は技術的三重反復で行った。
【
図8】無処理細胞と比較した、6mM NACで前処理されたドナーA由来の解凍ASCを使用したリンパ球増殖アッセイ。分析は、ASC:PBMCに関する比1:75を使用して、96時間において行った。(A)活性化PBMCの最大増殖とASCの存在下でのPBMCとの重ね合わせ。(B)リンパ球増殖に関する解凍後のNAC処理ASCと無処理ASCとの比較。結果は、右下のパネルにおいて定量化されている。
【
図9】ASCおよび単球の共培養の計画およびタイミングを示す図、ならびにマクロファージおよびmDCの分化および機能に対するASCの効果を評価するために行った分析。
【
図10】成熟DC培養物単独、またはNACで前処理されたもしくは無処理の2例の異なるドナー(ドナーA(DON A)およびドナーB(DON B))由来の解凍ASCの存在下での成熟DC培養物の2倍顕微鏡像。
【
図11】成熟DC培養物単独、またはNACで前処理されたもしくは無処理の2例の異なるドナー(ドナーA(DON A)およびドナーB(DON B))由来の解凍ASCの存在下での成熟DC培養物の20倍顕微鏡像。
【
図12】フローサイトメトリーにより測定された、NAC前処理ありまたはなしでの2例の異なるドナー(ドナーA(DON A)およびドナーB(DON B))由来のASCの非存在下または存在下でのmDCによる黄色ブドウ球菌粒子の食作用を示すヒストグラム。
【
図13】フローサイトメトリーにより測定された、NAC前処理ありまたはなしでの2例の異なるドナー(ドナーA(DON A)およびドナーB(DON B))由来のASCの非存在下または存在下でのmDCによる食作用受容体CD206(マンノース受容体)の表面発現。ASCは、mDCにおけるCD14、CD206およびCD163の発現を誘導する。ASCのNAC前処理は、これらの効果を変化させなかった。
【
図14】フローサイトメトリーにより測定された、NAC前処理ありまたはなしでの2例の異なるドナー(ドナーA(DON A)およびドナーB(DON B))由来のASCの非存在下または存在下でのmDCによる食作用受容体CD163(スカベンジャー受容体)の表面発現。ASCは、mDCにおけるCD14、CD206およびCD163の発現を誘導する。ASCのNAC前処理は、これらの効果を変化させなかった。
【
図15】フローサイトメトリーにより測定された、NAC前処理ありまたはなしでの2例の異なるドナー(ドナーA(DON A)およびドナーB(DON B))由来のASCの非存在下または存在下でのmDCによるCD14およびCD1a(抗原提示分子)の表面発現を示すドットプロット。mDCはCD14-CD1a+であるが、ASCの存在は、新たな調節性CD14+CD1a- DC集団を産生する。ASCのNAC前処理は、この効果を修飾しなかった。
【発明を実施するための形態】
【0031】
詳細な説明
本発明は、幹細胞の凍結保存のための方法および組成物に関し、ここで、幹細胞の集団は、凍結前(「NAC前処理」)および/または幹細胞が解凍された後(「解凍後処理」)にN-アセチルシステイン(NAC)で処理される。
【0032】
本発明者らは、凍結解凍プロセスに対する細胞の抵抗性を改善する目的で、細胞におけるアポトーシス傷害(例えば、低酸素、血清枯渇、酸化ストレス(例えば、過酸化水素処理により引き起こされた)、Fasリガンド誘導死など)を調節することで知られる多数の化合物を試験した。NACは、無処理対照細胞と比較して、生細胞数を増加させる、成長率を増加させる、ミトコンドリア活性を増加させる、かつ/または回収率を改善させるという点で、解凍後の幹細胞に対して利点を与えることが見出された。解凍時に直ちに利用可能な生細胞の数を増加させることは、例えば、急性治療にとって有用である。これらの利点は、例えば、解凍後の培養下の凍結保存細胞を回収および/または拡大するのに必要な時間を低減することにより、幹細胞ストックおよび細胞株の保存、輸送および取扱い、ならびに細胞ベースの療法の調製および輸送を促進する助けとなるであろう。
【0033】
N-アセチルシステイン
N-アセチル-L-システインとしても知られるN-アセチルシステイン(NAC)は、天然に存在するアミノ酸であるL-システインのN-アセチル誘導体に対する一般名である。これは、分子量163.2gmol
-1および以下の化学構造を有する抗酸化剤である:
【化1】
【0034】
NACは、アセタドート(登録商標)、ムコミスト(登録商標)、パルボレックス(登録商標)、フルイムシル(登録商標)などの商品名で市販されている。これは、パラセタモール(アセトアミノフェン)過剰投与の治療を含むいくつかの適応症に対して(注射剤および経口剤として)、ならびに嚢胞性線維症または慢性閉塞性肺疾患を有する個人における厚い粘液を緩めるための粘液溶解剤として(静脈内投与、経口投与またはミストとして吸入)承認されている。NACはまた、肝不全、種々の癌、メタクリロニトリル中毒、造影剤誘発性腎症の低減、および心臓バイパス手術中の再灌流傷害の低減を含む他の適応症を治療するためにも使用または検討されている。
【0035】
NACによる前処理
幹細胞の凍結保存の方法であって、前記方法が、凍結前にNACによる幹細胞の集団の処理、すなわち、幹細胞の集団の「前処理」を含んでなる方法が、本明細書に開示される。このため、「NAC前処理細胞」は、NACで処理され、次いで凍結されている細胞を指す。
【0036】
前記幹細胞の凍結保存の方法は、以下の工程:(a)幹細胞(例えば、ASC)の集団をN-アセチルシステインで処理して、幹細胞の処理集団を得ること;および(b)前記幹細胞の処理集団を凍結させて、幹細胞の凍結集団を得ることを含んでなってもよい。
【0037】
幹細胞の集団をNACで処理すること(「処理」または「処理工程」)は、一般に、NACを幹細胞の集団にとって好適な細胞培養培地に加えることにより、行われる。NACのストック溶液は、例えば、水中で調製することができ、次いで、NACを培養培地中で必要な濃度に希釈することができる。
【0038】
当業者は、特定の細胞型の成長を支持するための好適な細胞培養培地を認識しているであろう。細胞培養培地は、液体形態、またはゼラチン培地、例えば、寒天、アガロース、ゼラチンおよびコラーゲン基質を含む固体形態であり得る。培地は、既知組成(通常、精製された)成分から構成され、かつ酵母抽出物およびビーフブロスなどの特性が明らかでない生物学的抽出物を含有しない「限定培地」であり得る。培地は、いかなる特殊な栄養補充物も必要としない多くの種類の微生物の成長を促進する「基本培地」であり得る。ほとんどの基本培地は、一般に、4つの基本的な化学群:アミノ酸、炭水化物、無機塩類、およびビタミンを含んでなる。基本培地は、一般に、血清、緩衝液、成長因子、脂質などの補充物が加えられるより複雑な培地の基礎としての役割を果たす。基本培地の例としては、限定されるものではないが、イーグル基本培地、最小必須培地、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、培地199、栄養混合物ハムF-10およびハムF-12、マッコイ5A、ダルベッコMEM/F-12、アルファ改変最小必須培地(アルファMEM)、ロズウェルパーク記念研究所培地1640(RPMI1640)、およびイスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)が挙げられる。一般に、0~20%ウシ胎仔血清(FBS)または1~20%ウマ血清が、MSCの成長を支援するために上記の培地に加えられる。しかしながら、MSCに対するFBS中の必要な成長因子、サイトカイン、およびホルモンが同定され、増殖培地中にて適当な濃度で提供される場合、限定培地が使用され得る。培養培地に含まれ得る抗生物質としては、限定されるものではないが、ペニシリンおよびストレプトマイシンが挙げられる。既知組成培養培地中のペニシリンの濃度は、約10~約200単位/mlである。既知組成培養培地中のストレプトマイシンの濃度は、約10~約200μg/mlである。例えば、ASCに対する好適な細胞培養培地は、完全DMEM(DMEM/F-12培地 - GlutaMAX(商標)-I、Gibco社、100μg/mLペニシリン/ストレプトマイシンおよび10%FBSを補充)である。
【0039】
前記処理工程は、NACを前記幹細胞の集団に加えて、およそ0.5~10mM NAC、例えば、およそ2~8mMまたはおよそ4~6mMの範囲の初濃度とすることを含んでなってもよい。0.5~20mM NAC、例えば、およそ3~15mM NAC、0.5~12mMまたは4~12mM NACの初濃度を使用してもよい。特に好ましい実施形態において、NACの初濃度は、およそ6mMである。「初濃度」は、幹細胞の集団に添加した際のNACの濃度を指す。しかしながら、細胞への添加後、例えば、NACが分解または代謝されることにより、NACの初濃度は減少する可能性が高いと理解されるであろう。このため、前記処理工程は、例えば、幹細胞の集団が曝露するNACの濃度を維持するためのNACの1回以上のさらなる添加を含んでなってもよい。このため、前記「処理工程」は、幹細胞の集団をNACの初濃度で処理すること、場合により、前記処理工程中のNACのレベルをモニタリングすること、およびNACの濃度を初濃度または事前選択されたレベル(例えば、上記のNACの濃度)に維持するためのNACの1回以上のさらなる添加を行うことを含んでなってもよい。
【0040】
前記処理工程は、前記幹細胞の集団を凍結させる前に、前記幹細胞の集団をNACで少なくとも約1、2、4、6、8、10、12、16、24または48時間インキュベートすることを含んでなってもよい。例えば、NACでの幹細胞の集団のインキュベーションは、前記幹細胞の集団を凍結させる前に、約1~約48時間、約2~24時間、または約6~24時間行ってもよい。インキュベーションは、任意の好適な条件下(例えば、幹細胞の集団が安定している)で行ってもよい。好ましい複数の実施形態において、インキュベーションは、特定の細胞型に対する培養条件下で行われる。例えば、ASCは、完全DMEM(DMEM/F-12培地 - GlutaMAX(商標)-I、Gibco社、100μg/mLペニシリン/ストレプトマイシンおよび10%FBSを補充)中にてNACでインキュベートされ得、5%CO2にて37℃でインキュベートされ得る。一つの実施形態において、前記幹細胞の集団は、全培養期間NACでインキュベートされない。培養期間は、細胞培養容器への前記幹細胞の集団の播種と前記幹細胞の集団の凍結との間の期間である。一つの実施形態において、前記幹細胞の集団は、第1の期間にNAC添加なしで培養培地中にてインキュベートされ、次いで、第2の期間にNAC添加ありで培養培地中にてインキュベートされる。
【0041】
本明細書に開示されるNAC「処理工程」に供されている幹細胞の集団は、「幹細胞の処理集団」という。
【0042】
前記処理工程の後、前記幹細胞の処理集団は凍結される。本明細書に開示される凍結(「凍結工程」)に供されている幹細胞の集団は、「幹細胞の凍結集団」という。本明細書に開示される解凍(「解凍工程」)に供されている幹細胞の集団は、「幹細胞の解凍集団」という。このため、前記方法は、以下の工程:(a)前記幹細胞の集団をNACで処理して、幹細胞の処理集団を得ること;(b)前記幹細胞の処理集団を凍結させて、幹細胞の凍結集団を得ること;および(c)前記幹細胞の凍結集団を解凍して、幹細胞の解凍集団を得ることを含んでなってもよい。
【0043】
前記幹細胞の処理集団を凍結させる前に、NACを除去してもよい(すなわち、細胞がもはや細胞外NACに曝露しないように)。一般に、これは、前記幹細胞の集団を、例えば、(1)NACを含有しない細胞培養培地(例えば、前記処理工程において使用されるような);(2)リン酸緩衝生理食塩水(PBS);および/または(3)凍結培地で洗浄することにより行うことができる。本明細書に開示される洗浄(「洗浄工程」)に供されている幹細胞の集団は、「幹細胞の洗浄集団」という。洗浄は、細胞を凍結培地などの異なる培地中で凍結させることができるように、培地交換工程として使用することもできる。このため、前記方法は、以下の工程:(a)前記幹細胞の集団をN-アセチルシステインで処理して、幹細胞の処理集団を得ること;(b)前記幹細胞の処理集団を洗浄して、N-アセチルシステインを除去し、かつ幹細胞の洗浄集団を得ること、および前記幹細胞の洗浄集団を凍結させて、幹細胞の凍結集団を得ること;ならびに(c)前記幹細胞の凍結集団を解凍して、幹細胞の解凍集団を得ることを含んでなってもよい。
【0044】
前記幹細胞の処理集団の洗浄は、任意の好適な方法により行うことができる。接着細胞に関して、NAC含有溶液(例えば、培地)は、簡単なピペット操作により、異なるもの(例えば、NACを含まない、かつ/または凍結培地であるもの)と交換することができる。浮遊状態の細胞(トリプシン処理接着細胞を含む)に関して、細胞は、例えば、遠心分離機を使用してペレット化し、上清を除去し、場合により洗浄し(例えば、培養培地またはPBSで)、次いで、必要な培地(例えば、培養培地または凍結培地)に再懸濁させることができる。細胞を洗浄するために、濾過、限外濾過または透析を使用することもできる。接着細胞をトリプシン処理する方法は、当技術分野で公知であり、好適な方法は、実施例において例示される。
【0045】
凍結解凍後、細胞は、例えば、細胞を回収できるようにするため、かつ/または細胞数を増加させるために培養することができる(「培養」または「培養工程」)。得られた細胞は、「幹細胞の拡大集団」という。本明細書で使用する場合の用語「拡大」は、細胞を言及する際、当技術分野におけるその通常の意味を有するものとし、すなわち、in vitroで増殖している細胞を意味するものとする。「増殖」は、細胞数の増加を指す。「増殖している」および「増殖」は、有糸分裂を受けている細胞を指す。このため、前記方法は、以下の工程:(d)前記幹細胞の解凍集団を培養して、幹細胞の拡大集団を得ることをさらに含んでなってもよい。
【0046】
本明細書で使用する場合の「培養」は、当技術分野で認識される用語、すなわち、好適な培地中で細胞成長を達成する任意の方法を指す。細胞は、幹細胞の培養のための当技術分野で公知の任意の技術により培養してもよい。培養工程は、小規模、中規模または大規模であり得る。総培養量が約100mL未満の場合、培養は小規模とみなされ得る。総培養量が約100mL~約5Lである場合、培養は中規模とみなされ得る。総培養量(例えば、バイオリアクター中での)が約5L超である場合、培養は大規模とみなされ得、総培養量は、10L、100L、500Lまたは1,000L超であってもよい。
【0047】
「細胞培養」は、in vitroでの細胞の成長を指す。このような培養において、細胞は増殖するが、それ自体は組織に組織化しない。「組織培養」は、その構造および機能を保存するための、in vitroでの組織、例えば、器官原基または成体器官の外植片の維持または成長を指す。「単層培養」は、細胞が主に互いにおよび基質に接着しながら、好適な培地中で増殖する培養を指す。さらに、「懸濁培養」は、細胞が好適な培地中で懸濁されながら増殖する培養を指す。同様に、「連続流動培養」は、細胞成長、例えば、生存率を維持するための新鮮培地の連続流下での細胞または外植片の培養を指す。「コンフルエント培養」は、総ての細胞が接触し、それにより培養容器の全表面が覆われている細胞培養であり、細胞がまたそれらの最大密度に達していることを意味するが、コンフルエンスは、必ずしも分裂が停止することまたは集団のサイズが増加しないことを意味するわけではない。
【0048】
種々の培養技術、ならびにそれらのスケールアップの考察は、Freshney, R.I., Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Technique and Specialized Applications, 第7版, Wiley-Blackwell January 2016において見出され得る。培養工程は、任意の種類の容器で行うことができる(異なる種類の容器の考察を含む、MSCの製造のレビューについては、Mizukami et al. “Mesenchymal Stromal Cells: From Discovery to Manufacturing and Commercialization” Stem Cells International (2018) 論文ID 4083921, 1-13 https://doi.org/10.1155/2018/4083921参照)。本明細書に開示される方法において使用され得る容器の例としては、Nunc Cell FactoryおよびCorning Cell Stackなどの単一コンパートメントまたは多層容器セルファクトリーからなる単層培養フラスコまたは二口平底フラスコ(flat two-dimensional flask)が挙げられる。フラスコの代替として、回転瓶を使用することができ、すなわち、細胞が瓶の内部表面の周囲に単層を形成することができる回転装置内に配置された円柱状の瓶を使用することができる。MSC(ASCなど)を含む細胞の大規模拡大に好適なバイオリアクターは市販されており、2D(すなわち、実質的に平面の)拡大バイオリアクターおよび3D拡大バイオリアクターの両方が含まれ得る。本明細書に開示される方法において使用され得るこのようなバイオリアクターの例としては、限定されるものではないが、栓流バイオリアクター、灌流バイオリアクター、連続撹拌槽型バイオリアクター、または固定床バイオリアクター(stationary-bed bioreactor)が挙げられる。バイオリアクターは、バッチモード、フェドバッチモードまたは灌流モードで操作され得る。MSCの足場依存的な性質のために、バイオリアクター中での培養は、一般に、浮遊状態で容易に維持され、細胞が接着および成長するための表面を提供する小さなビーズ(直径100~200μm)であるマイクロキャリアの使用を必要とする。マイクロキャリアの例としては、Cytodex-3マイクロキャリア(GE Healthcare社)が挙げられる。細胞は、一般に、加湿環境下にて31℃~37℃の温度で成長する。このため、いくつかの実施形態において、幹細胞の拡大集団を得るための幹細胞(例えば、ASCなどのMSC)の解凍集団の培養は、マイクロキャリアを使用した大規模バイオリアクター中で行われる。
【0049】
幹細胞の解凍集団の培養は、例えば、回収率を改善させる、かつ/または細胞数を増加させるために、NACの存在下で行ってもよい。言い換えれば、NACによる前処理に加えて、解凍後NAC処理を使用することができる。このため、前記方法は、以下の工程:(d)前記幹細胞の解凍集団をN-アセチルシステインの存在下で培養して、幹細胞の拡大集団を得ることをさらに含んでなってもよい。前記幹細胞の解凍集団の培養は、細胞型にとって好適な細胞培養条件下で、NACを加えて、およそ0.5~5mM NAC、例えば、およそ0.5~4mMまたはおよそ1~2mMの範囲、好ましくは、およそ2mMの初濃度とすることを含んでなってもよい。NACのさらなる添加は、(例えば、NACが分解または代謝されることによる)細胞培養培地中のNACの濃度を維持するために必要とされ得る。このため、前記培養工程は、培養培地中の初濃度のNACを加えること、次いで、NACの初濃度を維持するための、またはNACの濃度を事前選択されたレベル(例えば、上記のNACの濃度)に維持するためのNACのさらなる添加を含んでなってもよい。さらなる添加は、NAC単独または他の栄養素と組み合わせて(例えば、流加培養において)、ボーラスとして行うことができる。前記「培養工程」は、NACのレベルをモニタリングすること、および初濃度または事前選択されたレベルに維持するためのNACの1回以上のさらなる添加を行うことをさらに含んでなってもよい。あるいは、NACは、例えば、灌流培養中に新鮮培地に連続的に補充することができる。
【0050】
NACは、必要に応じて、幹細胞の集団の任意の下流での使用の前に除去することができる。このため、前記方法は、前記幹細胞の拡大集団を洗浄して、NACを除去し、かつ幹細胞の洗浄および拡大集団を得る工程をさらに含んでなってもよい。前記洗浄工程は、例えば、薬学上許容可能な担体、NACを含有しない溶液/培地、または凍結培地への培地交換を可能とし得る。洗浄は、遠心分離、濾過、限外濾過または透析を含む任意の好適な方法により行うことができる。接着細胞に関して、NAC含有溶液(例えば、培地)は、簡単なピペット操作により、異なるものと交換することができる。浮遊状態の細胞(トリプシン処理接着細胞を含む)に関して、細胞は、(例えば、遠心分離機を使用して)ペレット化し、上清を除去し、場合により洗浄し(例えば、培養培地またはPBSで)、次いで、必要な溶液(例えば、培養培地、凍結培地または薬学上許容可能な担体)に再懸濁させることができる。このため、前記方法は、(例えば、工程(c)もしくは(d)の)前記幹細胞の解凍もしくは拡大集団を洗浄する、または前記細胞(例えば、浮遊細胞もしくはトリプシン処理接着細胞)を薬学上許容可能な担体に再懸濁させる工程をさらに含んでなってもよい。
【0051】
幹細胞の拡大集団は、例えば、細胞ストックとしての保存および/または輸送のために凍結してもよい。前記方法は、以下の工程:(e)(例えば、工程(d)からの)幹細胞の拡大集団を凍結させて、幹細胞の凍結拡大集団を得ることをさらに含んでなってもよい。前記方法は、以下の工程:(e)前記幹細胞の拡大集団を凍結させて、幹細胞の凍結拡大集団を得ること;および(f)前記幹細胞の凍結拡大集団を解凍して、幹細胞の解凍拡大集団を得ることをさらに含んでなってもよい。前記方法は、以下の工程:(e)前記幹細胞の洗浄および拡大集団を凍結させて、幹細胞の凍結、洗浄および拡大集団を得ることを含んでなってもよい。前記方法は、以下の工程:(e)前記幹細胞の洗浄および拡大集団を凍結させて、幹細胞の凍結、洗浄および拡大集団を得ること;および(f)前記幹細胞の凍結、洗浄および拡大集団を解凍して、幹細胞の解凍拡大集団を得ることをさらに含んでなってもよい。上記で考察したように、工程(d)の「培養工程」はNACの存在下で行うことができるため、これらの例において、幹細胞の拡大集団は、凍結前にNACで「前処理された」とみなされ得る。NACは、凍結前に、必要に応じて洗浄により除去することができ、かつ/または洗浄は、例えば、凍結培地への培地交換のために使用することができる。場合により、前記方法は、以下の工程:(g)前記幹細胞の解凍拡大集団を洗浄し、かつ前記細胞(例えば、浮遊細胞またはトリプシン処理接着細胞)を薬学上許容可能な担体に再懸濁させることをさらに含んでなってもよい。
【0052】
上記で考察した方法から得られる幹細胞(例えば、ASC)の凍結集団は、マスター細胞ストックを形成する。例えば、幹細胞の集団は、複数のクライオバイアル、例えば、少なくとも約10個、少なくとも約20個、少なくとも約50個、約100個、約1,000個、約2,000個、約5,000個以上のクライオバイアルに分注し、極低温で(例えば、液体窒素保存容器中で)保存することができる。次いで、個々のクライオバイアルは、下流での使用のために別々に解凍することができる。上記で考察した方法から得られる幹細胞(例えば、ASC)の解凍または拡大集団は、治療用幹細胞集団であり得る。例えば、幹細胞(例えば、ASC)の解凍または拡大集団は、それを必要とする患者に投与するための好適な処方物(例えば、薬学上許容可能な担体を含有する医薬組成物)中に含まれ得る。
【0053】
前記方法は、前記細胞を薬学上許容可能な担体に再懸濁させる工程をさらに含んでなってもよい。
【0054】
解凍後NAC処理
幹細胞の凍結保存の方法であって、前記方法が、以下の工程:(a)幹細胞(例えば、ASC)の集団を凍結させて、幹細胞の凍結集団を得ること;(b)前記幹細胞の凍結集団を解凍して、幹細胞の解凍集団を得ること;および(c)前記幹細胞の解凍集団をNACの存在下で培養して、幹細胞の拡大集団を得ることを含んでなる方法が、本明細書に開示される。NACの存在下での前記幹細胞の解凍集団の培養(すなわち、解凍後NAC処理)は、回収率を改善させ得る、かつまたは生細胞数を増加させ得る。
【0055】
前記幹細胞の解凍集団の培養は、細胞型にとって好適な細胞培養条件下で、NACを加えて、およそ0.5~5mM NAC、例えば、およそ0.5~4mMまたはおよそ1~2mMの範囲、好ましくは、およそ2mMの初濃度とすることを含んでなってもよい。NACのさらなる添加は、(例えば、NACが分解または代謝されることによる)細胞培養培地中のNACの濃度を維持するために必要とされ得る。このため、前記培養工程は、培養培地中の初濃度のNACを加えること、次いで、NACの初濃度を維持するための、またはNACの濃度を事前選択されたレベル(例えば、上記の解凍後処理のためのNACの濃度)に維持するためのNACのさらなる添加を含んでなってもよい。さらなる添加は、場合により他の栄養素と組み合わせて(例えば、流加培養において)、ボーラスとして行うことができる。前記「培養工程」は、NACのレベルをモニタリングすること、および初濃度または事前選択されたレベルに維持するためのNACの1回以上のさらなる添加を行うことをさらに含んでなってもよい。あるいは、NACは、例えば、灌流培養中に提供された新鮮培地に連続的に補充することができる。
【0056】
前記方法は、前記細胞を薬学上許容可能な担体に再懸濁させる工程をさらに含んでなってもよい。
【0057】
凍結保存
本明細書において、用語「凍結保存」は、低温環境下、すなわち、-70℃~-196℃での細胞の保存を説明するために使用される。これらの温度は、長期保存(数ヵ月~数年)に好適である。本明細書で考察される幹細胞の文脈における用語「凍結させること」、「凍結させる」および「凍結した」の使用は、このような低温に細胞を曝露させる行為、およびそれに供されている細胞を指す。
【0058】
一般に、冷却時、外部培地は凍結するため、水を失うことにより細胞が平衡化し、それにより、細胞内溶質濃度が増加する。約-10~-15℃未満で、細胞内凍結が生じる。細胞内凍結および溶液効果の両方が、細胞傷害の原因となる。細胞外氷による物理的損傷は、大部分が、細胞の浸透脱水に起因する形質膜傷害の結果である。
【0059】
システムが凍結されたら、総ての生物学的プロセスが停止するわけではない。凍結中、細胞は、凍結氷マトリックスに包まれながら、生化学的に活性の非凍結状態を維持する。温度が凍結防止剤/細胞溶液混合物のガラス転移点(Tg)(一般に-100℃未満)に下がってから、細胞は、生化学的活性および生体分子活性が停止するガラス状態に入る。
【0060】
凍結およびその後の解凍中、温度がTgを上回る場合、重要な一組の分子事象および生化学的事象が各細胞内で生じ、その解凍後の生存率および機能に激しく影響を及ぼす。この温度範囲(およそ+15℃~-99.9℃)において、凍結保存と低温保存との間で細胞応答機序に多数の類似性が認められ得る。このような事象としては、フリーラジカルの形成、生化学的経路の脱共役、細胞内廃棄物の蓄積、イオン勾配の破壊、タンパク質の変性および分解、ならびに酵素の切断および活性化が挙げられる。これらのおよび他の事象は、アポトーシス細胞死経路および/または壊死性細胞死経路を活性化し得、その結果、遅延性細胞死の現象が生じ得る。これは、保存直後の生存率の尺度と24~48時間後の真の生存との間の乖離として観察され得る。
【0061】
凍結保存培地
幹細胞(例えば、ASC)の集団は、凍結保存培地(「凍結培地」)中で凍結してもよい。前記培地は、凍結解凍後の細胞の特性(例えば、生存率)のうち1つ以上を(特定の程度まで)保存し得、かつ/または回収を助長し得る。前記凍結保存培地は、例えば、約0.5~10mMの濃度のNACを含有し得る。一つの実施形態において、前記凍結保存培地は、NACを含有しない。凍結保存培地は、一般に、1以上の凍結保存剤、例えば、DMSO、PVP、セリシン、またはメチルセルロースを含有し、かつ/または市販の凍結保存溶液を含有し得る。前記1以上の凍結保存剤または凍結保存溶液は、凍結保存培地を作製するために、DMEMなどの幹細胞培養培地に加えてもよい。一つの実施形態において、前記凍結保存培地は、いかなる添加された成長因子も含有しない。一つの実施形態において、前記凍結保存培地は、いかなる添加されたEGFおよびbFGFも含有しない。一つの実施形態において、前記凍結保存培地は、添加された亜セレン酸ナトリウムを含有しない。一つの実施形態において、前記凍結保存培地は、NACを含有せず、かついかなる添加された成長因子も含有しない。一つの実施形態において、前記凍結保存培地は、NACを含有せず、かついかなる添加されたEGFおよびbFGFも含有しない。一つの実施形態において、前記凍結保存培地は、NACを含有せず、かついかなる添加された亜セレン酸ナトリウムも含有しない。一つの実施形態において、前記凍結保存培地は、NACを含有せず、かついかなる添加された成長因子も含有せず、かついかなる添加された亜セレン酸ナトリウムも含有しない。一つの実施形態において、前記凍結保存培地は、NACを含有せず、かつEGFおよびbFGFを含有せず、かついかなる添加された亜セレン酸ナトリウムも含有しない。
【0062】
凍結保存剤(または凍結防止剤)は、理想的には無毒であり、凍結中に細胞を保護し、水の代用となり、かつ/または高いガラス転移温度を有する。理論に拘束されることを望むものではないが、凍結防止剤は、とりわけ、以下の機序:外部浸透圧を平衡させること、選択的排除を介して生体分子を安定化すること、生体分子周囲に保護ガラスを形成すること、および脂質膜における有害な相転移を予防することを介して、凍結から細胞を保護すると仮定される。
【0063】
歴史的に、DMSO、グリセロールおよび動物血清が、凍結防止剤として使用されている。
【0064】
DMSOは、一般に、1~20%(v/v)、例えば、5~15%の範囲、すなわち、約1%、2%、5%、10%または20%で凍結保存培地に加えられる。およそ10%の終濃度が、特に好ましい。
【0065】
DMSOは、血清、すなわち、仔ウシ/ウシ胎仔血清(FCS/FBS)またはヒト血清と組み合わせて使用してもよい。例えば、前記凍結保存培地は、20~95%血清(ヒトまたはFCS)および5~15%DMSOを含有し得る。本明細書に記載の方法のいずれか1つに使用される特に好ましい凍結保存培地(例えば、ASCなどのMSCのための)は、およそ10%DMSOおよびおよそ90%FCS(またはFBS)を含有する。例えば、ヒトASCなどのMSCの集団のための凍結保存培地は、FBS中の5~15%DMSOを含有し得る。ヒト胚性幹細胞の集団のための凍結培地は、10%DMSO、30%FBSおよび60%条件HES培地を含有し得る。
【0066】
DMSOは、ヒト血清アルブミンと組み合わせて使用してもよい。例えば、前記凍結保存培地は、約2~10%ヒト血清アルブミンおよび約5~15%DMSOを含有し得る。特に好ましい凍結保存培地は、およそ10%DMSOおよびおよそ5%ヒト血清アルブミンを含有する。
【0067】
他の分子、例えば、グリセロール、エチレングリコール、ヒドロキシセルロース、または二糖類のスクロース、マルトース、およびトレハロースが、凍結培地中のDMSOと組み合わせた場合、細胞生存率を増大させることが示されている。
【0068】
トレハロースは、ほぼ完全な脱水を生き延びることができる多種多様な生物体において高濃度で認められる二糖類であり、凍結中に特定の細胞を安定化することが示されている。トレハロースは、リン脂質頭部基の間隔を保存すること、ならびに脂質相転移および凍結中の分離を阻害することにより、膜の熱力学的安定性を維持すると考えられる。トレハロースは、脂質二重層を容易には貫通しないものであり、エンドサイトーシスまたは細胞膜を一時的に破壊する他の方法を介して、細胞内にロードしなければならない。例えば、前記ASCのための凍結保存培地は、約50~200mM、例えば、およそ100mMの濃度のトレハロースを含有し得る。トレハロースは、例えば、上記で考察した濃度のDMSOと組み合わせて使用する場合、他の凍結防止剤と関連した潜在的な毒性を低減するために使用することができる(例えば、Buchanan et al. Cell Preservation Technology (2005) 3(4): 212-222参照)。
【0069】
ポリビニルピロリドン(PVP)、セリシンおよびマルトース、ならびにメチルセルロース(MC)が、代替の凍結保存剤である。これらの化合物は、DMSOまたは動物由来血清の代替として、例えばASCの凍結保存溶液として試験されている(Miyagi-Shiohira et al. Cell Medicine (2015) 8: 3-7)。
【0070】
高分子ポリマーであるPVPは、凝固点を低下させ、細胞外塩濃度の増加を阻害し、それにより、凍結解凍プロセス中に細胞膜を安定化する。PVPは、約1%~40%、例えば、約8~25%、例えば、約1%、5%、10%、20%または40%のレベルで前記凍結保存培地に加えることができる。前記凍結保存培地はまた、PVPに加えて、場合により約5~20%のヒト血清(例えば、10%ヒト血清)を含有し得る。例えば、前記ASCのための凍結保存培地は、10%PVPおよび10%ヒト血清を含有し得る。
【0071】
MCは、凍結保存溶液中の動物由来血清の代用となり得る高分子ポリマーであるが、DMSO(または別の凍結保存剤)の存在は、凍結解凍プロセス後の細胞活性を保持するために必須である。凍結保存培地は、上記で考察したような好適な濃度のDMSOと組み合わせて、約0.5%~2%w/v MC、例えば、約1%w/vを含有し得る。例えば、前記凍結保存培地は、約1%MCおよび約10%DMSOを含有し得る。
【0072】
セリシンは、これもまた凍結保存溶液中の動物由来血清の代用となり得る繭由来タンパク質である。凍結保存培地は、約0.5%~2%w/vセリシン、例えば、約1%w/vを含有し得る。セリシンは、マルトース(例えば、50~200mMマルトース)および/または上記で考察したような好適な濃度のDMSOと組み合わせて使用してもよい。例えば、前記凍結保存培地は、約1%セリシン、100mMマルトースおよび10%DMSOを含有し得る。
【0073】
種々の市販の凍結保存溶液が存在し、例えば:FM-1(極東製薬工業株式会社、東京、日本)、セルバンカー凍結防止剤シリーズ(日本全薬工業株式会社、福島、日本);CryoStor(Stem Cell Technologies社);Synth-a-Freeze凍結保存培地(Thermo Fisher Scientific社)およびMesenCult(商標)-ACF凍結培地(Stem Cell Technologies社)が挙げられる。
【0074】
セルバンカー凍結防止剤シリーズは、-80℃での急速な細胞凍結保存を可能にし、その使用は、凍結および解凍後の生存率の改善に関連する。血清含有セルバンカー1および1+は、ほぼ総ての哺乳動物細胞の凍結保存に使用することができる。さらに、無血清タイプのセルバンカー2は、無血清培養条件下での細胞の凍結保存を可能にする。他方、STEMCELLBANKER(セルバンカー3)は、既知組成で、ゼノフリーであり(すなわち、非ヒト動物製品を含有しない)、体性幹細胞および人工多能性幹細胞などの幹細胞の保存性能を最適化する細胞凍結保存溶液である。
【0075】
CryoStor(登録商標)の種類(BioLife Solutions,Inc.)は、種々の濃度のDMSO(CS10 10%DMSO;CS5 5%DMSO;CS2 2%DMSO)を含有する、無血清、動物成分不含の限定凍結保存培地である。CryoStor(登録商標)CS10は、MSC(ASCを含む)、胚性幹細胞(ES)および人工多能性幹細胞(iPS)の凍結保存に使用されている。Synth-a-Freeze凍結保存培地(Thermo Fisher Scientific社)は、人工多能性幹細胞(iPS)を凍結保存するために使用されている。
【0076】
細胞特異的な凍結保存培地も利用可能であり、例えば、ES細胞およびiPS細胞用のmFreSR(商標)およびFreSR(商標)-S凍結保存培地、MSC用のMesenCult(商標)-ACF凍結培地、ならびにES/iPS細胞由来の神経前駆細胞用のSTEMdiff(商標)神経前駆細胞凍結培地が挙げられる。例えば、MSCは、MSCを凍結保存するためのMesenCult(商標)-ACF PlusまたはMesenCult(商標)培地(Stem Cell Technologies社)中でのMSC培養後に使用することができる、MesenCult(商標)-ACF凍結培地(Stem Cell Technologies)中で凍結保存することができる。
【0077】
種々の幹細胞型に使用される例示的な凍結保存培地および凍結防止剤を、以下の表に示す:
【0078】
【0079】
MSCの凍結保存に関するさらなる詳細は、例えば、Marquez-Curtis et al. (Cryobiology (2015) 71(2): 181-197)およびFrancois et al. (Cytotherapy (2012) 14(2): 147-152)において提供される。
【0080】
凍結プロトコールおよび保存条件
凍結速度は、細胞の脱水および損傷を引き起こす溶質および電解質の不均衡を回避するのに十分速く、かつ細胞外および細胞内の氷晶形成を防止するのに十分遅くなければならない。凍結防止剤は培地の凝固点を下げるため、細胞および凍結防止剤を含有する凍結保存培地の混合物は、合わさった凝固点は個々の成分より低いことから、共融系である。凍結プロセス中、液体は、非凍結細胞中のより低い溶質濃度から部分的に凍結した培地へと移動し、一方、形質膜は、細胞外氷晶の侵入を防止する。緩慢凍結は、培地が凍結する時間までに細胞と培地との間の浸透圧の平衡をもたらす速度で液体が細胞から移動することを可能にする。速度が遅すぎると、細胞が致命的に脱水されるか、またはそれらの形質膜が不可逆的に損傷を受ける。速度が速すぎると、液体の移動が不十分となり、細胞が凍結保存プロセス中に高いレベルの凍結水分を保持し、致命的な細胞内氷の損傷に至る。
【0081】
本明細書に記載の方法において幹細胞の集団を凍結させるために、機械的冷凍庫または制御速度冷凍庫を使用してもよい。制御速度冷凍庫は、特定の速度で細胞をおよそ-80℃に冷却するようにプログラムすることができる。ほとんどの細胞(MSCを含む)を-80℃に凍結保存するための典型的な凍結速度は、-1℃/分である。このような凍結速度は、例えば、独立気泡ポリエチレンフォーム容器(例えば、CoolCell(登録商標);BioCision社)、スタイロフォーム容器またはイソプロパノール(IPA)充填容器(例えば、Mr.Frosty(商標)(Thermo Scientific社))を使用して、幹細胞を-80℃の機械的冷凍庫に入れる前に、幹細胞の集団を絶縁することにより達成され得る。CoolCell(登録商標)およびMr.Frosty(商標)の両方とも、規定の凍結速度-1℃/分を有する。しかしながら、凍結プロトコールは、解凍時の最大の生存率および機能の維持を達成するために、特定の細胞型または細胞株に対する最適化を必要とする場合がある。本明細書に記載の方法において、1つまたは複数の凍結工程は、約-0.5~約-10℃/分、好ましくは、約-3~約-5℃/分の範囲、例えば、およそ-1、-2、-3、-4、-5または-10℃/分で行ってもよい。最終凍結温度は、約-70℃~約-130℃であり得る。このため、開示された方法において、1つまたは複数の凍結工程は、約-0.5~約-10℃/分の速度で温度を-70℃~-130℃に下げることを含んでなってもよい。温度は、10~60分で+4℃から-100~-180℃に下げてもよい。
【0082】
幹細胞の集団は、任意の細胞密度で凍結することができる。幹細胞の凍結集団の好ましい細胞密度は、およそ100万~およそ5,000万個/mLの範囲、好ましくは、およそ2,500万個/mLである。
【0083】
凍結後、細胞の凍結集団は、必要となるまで-196℃の液体窒素中で保存してもよい。熱依存的代謝プロセスは一般に-100℃未満では生じないため、幹細胞は液体窒素中で代謝静止の状態にある。低温機械的ストレスがさほど重度ではない-100℃超の温度では、種々の容器を使用してもよい。しかしながら、液体窒素温度で材料を保存する場合、極低温に耐えるように特異的に設計された容器(すなわち、「クライオバイアル」)を使用しなければならない。極低温での使用のために特異的に設計された種々の容器が市販されており、プラスチッククライオバイアル(例えば、ねじ蓋付き)またはガラスアンプル(フレームシールされていてもよい)が挙げられる。一般に使用されるサイズは、1.2、2.0、4、5、10および15mLクライオバイアルである(例えば、Nalgene(登録商標)およびTruCool(登録商標)バイアルを参照)。一般に、0.5~1.0mLの細胞懸濁液が1.2または2.0mLバイアルに入れられる。様々なサイズおよび種類の液体窒素保存容器が市販されている(例えば、Thermo Scientific(商標)Locator(商標)PlusシステムおよびCryoExtra(商標)High-Efficiency極低温保存システムを参照)。
【0084】
好ましい実施形態において、細胞(例えば、ASC)の集団は、-80℃の1以上のクライオバイアル中の凍結保存培地(例えば、FBS中10%DMSO)中で凍結され、次いで、液体窒素保存容器に移される。
【0085】
本明細書に記載の幹細胞の凍結保存の方法は、複数のクライオバイアル中のASCなどの幹細胞の集団を凍結させることを含んでなってもよい。複数のクライオバイアルの各々における幹細胞の集団は、同一であってもよい、すなわち、本明細書に開示される方法のいずれか1つから得られる幹細胞の単一集団のアリコートであってもよい。いくつかの例において、前記方法は、幹細胞の複数の集団に対して本明細書に記載の幹細胞の凍結保存の方法のいずれか1つの工程を反復することをさらに含んでなってもよい。反復工程は、連続して、すなわち、先の方法の工程に続いて行ってもよい。あるいは、反復工程は、並行して行ってもよい、すなわち、前記方法の工程は、前記幹細胞の複数の集団に対して同時に行われる。各反復は、同じ方法の工程を含んでなってもよいし、または本明細書に記載の異なる方法の工程を含んでなってもよい。前記幹細胞の複数の集団は、(例えば、1つまたは複数の別々の手順において本明細書に記載の同じ方法の工程を使用することにより、または本明細書に記載の1つまたは複数の異なる方法を使用することにより、異なる集団が得られる)同じドナーから得られる幹細胞(例えば、ASC)の集団を含んでなってもよい。前記幹細胞の複数の集団は、異なるドナーから得られる幹細胞(例えば、ASC)の集団であってもよい。あるいは、前記幹細胞の複数の集団は、異なる種類のMSCを含んでなってもよい。例えば、前記幹細胞の複数の集団は、以下のMSC:骨髄、臍帯、歯髄、血液(例えば、末梢血、臍帯血または月経血)、胎盤および脂肪由来MSCのうち1つ以上、2つ以上、3つ以上を含んでなってもよい。これらの方法はまた、前記幹細胞の複数の集団を複数のクライオバイアル中で凍結させることを含んでなってもよい。前記方法は、前記複数のクライオバイアルを液体窒素保存容器中で少なくとも1ヵ月間、少なくとも2ヵ月間、少なくとも3ヵ月間、少なくとも6ヵ月間、または少なくとも1年間保存することをさらに含んでなってもよい。前記クライオバイアルは、-80℃で凍結し、次いで、液体窒素保存容器に移してもよい。複数のクライオバイアルは、1個超のクライオバイアル、例えば、少なくとも約10個、少なくとも約20個、少なくとも約50個、約100個、約1,000個、約2,000個または約5,000個以上のクライオバイアルである。
【0086】
本明細書に記載の方法に従って得られる複数の凍結保存バイアルを含有する液体窒素保存容器も、本明細書において提供される。
【0087】
ガラス化は、開口保存容器内で凍結保存培地に浸漬された細胞の非常に急速な(-1,000℃/秒超)冷却が関与する冷却の別の形態である。急速凍結は、クライオバイアル中のサンプルを液体窒素に浸漬することにより達成され得る。このプロセスは、氷形成を阻害するが、潜在的に細胞毒性の濃度の凍結防止剤を必要とし、開口容器の使用は、汚染のリスクを有する。ガラス化は、ヒト胚性幹細胞(hESC)を凍結保存することに成功している。DMSOおよびエチレングリコールを含有する凍結保存培地中でのヒト胚性幹細胞の毛細管ガラス化(capillary vitrification)は、緩慢凍結法および急速解凍法と比較して、凍結保存細胞の生存を1桁超増大させることが示されている。簡単に述べれば、より低いDMSOおよびEG溶液中での平衡化後、hEScのコロニー(100~400個の細胞)を、20%DMSO、20%エチレングリコールおよび0.5Mスクロースを含んでなる凍結保存培地に入れる。コロニーをストローにロードし、液体窒素に浸漬する。
【0088】
解凍プロトコール
一般に、細胞は、それらの成長温度、例えば約37℃で、またはその付近で解凍される。このため、本明細書に開示される方法において、幹細胞の集団は、37℃で解凍され得る。
【0089】
細胞は、凍結および解凍中に、氷晶形成のための温度、-15℃~-60℃を通過する。37℃の水浴への浸漬によるおよそ90~100℃/分での急速解凍が、氷晶形成を防止するためにしばしば用いられる。しかしながら、より低い温度またはより遅い速度での解凍は、膜が氷晶化により形成されるあらゆる細孔を塞ぐことを可能にしながら、接着媒介シグナル伝達により検出される酸化ストレスなどの特定の種類の損傷を低減し得る。本明細書に記載の方法において、幹細胞の集団は、一般に、37℃で解凍される。この急速解凍工程は、クライオバイアル中の細胞を37℃の水浴に浸漬することにより達成され得る。しかしながら、解凍プロトコールは、最大の生存率および/または細胞機能の維持を達成するために、特定の細胞型または細胞株に対する最適化を必要とする場合がある。
【0090】
解凍細胞は、培養前に、凍結保存培地を除去するために洗浄することができる。上記で考察した(例えば、NACの除去および/または培地交換に関連した)洗浄方法の例は、この目的に対しても好適である。
【0091】
解凍後評価
幹細胞の集団の解凍後評価(例えば、NAC前処理または解凍後処理の影響を調べるための)は、以下の試験:細胞生存率、形態、細胞表面マーカー評価、分化アッセイおよび他の機能特性の分析のうち1つ以上(または総て)を含んでもよい。例示的な評価を実施例において示す。
【0092】
生存率
本明細書で使用する場合、用語「生存率」または「生存可能な」は、凍結保存および解凍された後に正常な成長および発達が可能な細胞を指す。このため、NACによる前処理、NACによる解凍後処理、またはその両方に供されていない幹細胞の類似集団と比較した前記幹細胞の集団の生存率の評価は、前記細胞が、NACによる前処理および/または解凍後処理の結果、負の影響(すなわち、生存率の減少)を受けていないことを確認するために使用することができる(しかしながら、NACによる前処理および/または解凍後処理は、以下でさらに考察するように、生細胞数、成長率および回収率などに対する正の効果を有し得る)。
【0093】
細胞生存率のレベルを決定するために、開示された方法において使用され得る実験の例としては、実施例において考察するように、トリパンブルー染色およびMTSアッセイが挙げられる。MTSアッセイは、機能的生存率(すなわち、代謝)の尺度であり、一方、トリパンブルーアッセイは、構造的生存率(すなわち、膜の完全性)の尺度である。アラマーブルーアッセイなどの当業者に公知の他の方法も、細胞生存率測定に使用してもよい。
【0094】
MTSアッセイは、増殖アッセイまたは細胞毒性アッセイにおいて生細胞の数を決定するための比色法である。例えば、CellTiter96(登録商標)AQueous One Solution Reagentは、新規なテトラゾリウム化合物[3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-5-(3-カルボキシメトキシフェニル)-2-(4-スルホフェニル)-2H-テトラゾリウム、分子内塩;MTS(a)]および電子カップリング試薬(フェナジンエトスルファート;PES)を含有する。PESは、増強した化学安定性を有し、これにより、MTSと組み合わさって安定溶液を形成することが可能となっている。この好都合な「One Solution」形式は、フェナジンメトスルファート(PMS)が電子カップリング試薬として使用され、PMS SolutionおよびMTS Solutionが別々に供給されるCellTiter96(登録商標)AQueous Assayの第1バージョンを改善したものである。MTSテトラゾリウム化合物(オーエン試薬)は、代謝活性細胞により、組織培養培地に可溶性である有色ホルマザン産物に生体内還元される。アッセイは、少量のCellTiter96(登録商標)AQueous One Solution Reagentを培養ウェルに直接加え、1~4時間インキュベートし、次いで、96ウェルプレートリーダーで490nmの吸光度を記録することにより、行うことができる。
【0095】
分化能
凍結保存後、種々の治療応用に適用可能な幹細胞に関して、前記細胞は、生存可能なままでなければならず、かつ未分化状態で維持され、それらの分化能を保持しなければならない。いずれの分化も、下流での適用におけるそれらの使用を限定するであろう。このため、NACによる前処理、NACによる解凍後処理、またはその両方に供されていない幹細胞の類似集団と比較した前記幹細胞の集団の分化能の評価は、前記細胞の同一性が、NACによる前処理および/または解凍後処理により影響を受けていないことを確認するために使用することができる。
【0096】
本明細書において、用語「分化」または「分化する」は、多能性幹細胞または多能性(非特殊化)幹細胞が、より特殊化された細胞型に変化するプロセスを指す。
【0097】
胚性幹細胞または人工多能性幹細胞における分化能または多能性を決定するための1つの方法は、例えば、免疫蛍光顕微鏡法により、OCT4およびSSEA-4などの表面マーカーのレベルを測定することである(Xu, C., et al., (2001) Nat Biotechnol. 19: 971-974)。OCT4およびSSEA-4は、未分化幹細胞(すなわち、他の系列に分化する潜在能力を有する)のマーカーである。OCT4は、発達多能性の制御において役割を果たす胚性遺伝子転写因子であるため、OCT4遺伝子活性が多能性幹細胞の分化において抑制されると、分化が生じる。SSEA4発現は、フローサイトメトリーによっても決定することができる。
【0098】
MSCは、骨、軟骨、腱および脂肪組織などの異なる組織に分化する能力を有する。それらの分化能は、あらゆる成体組織に分化する潜在能力を有する胚性幹細胞または人工多能性幹細胞などの多能性/全能性幹細胞のものよりも制限されることから、MSCは多能性成体前駆細胞と考えられている(Jiang et al., (2002) Nature 418(6893):41-49)。異なる組織におけるMSCの分化能を試験する方法は、従来技術において公知である(例えば、Guilak et al., J Cell Physiol. (2006) 206(1): 229-237; Zuk et al., Mol Biol Cell. (2002) 13(12): 4279-4295)。
【0099】
細胞の形態および/またはサイズ
幹細胞の集団の表現型は、形態および/またはサイズにより評価してもよい。用語「表現型」は、細胞表面マーカーなどを含む、サイズ、形態、タンパク質発現などの細胞の観察可能な特徴を指す。このため、NACによる前処理、NACによる解凍後処理、またはその両方に供されていない幹細胞の類似集団と比較した前記幹細胞の集団の細胞の形態および/またはサイズの評価は、前記細胞の同一性が、NACによる前処理および/または解凍後処理により影響を受けていないことを確認するために使用することができる。
【0100】
細胞の形態および/またはサイズは、倒立培養顕微鏡を使用して視認および画像化することができる。
【0101】
ヒトiPSCおよびESCは、形態、増殖、表面マーカー、遺伝子発現、in vitro分化能および奇形腫形成を含む類似の特徴を共有する(例えば、Thomson et al. Science (1998) 282(5391): 1145-1147; Xu et al. Nat. Biotechnol. (2001) 19(10): 971-974; Takahashi et al. Cell (2007) 131(5): 861-872; Courtot et al. Biores. Open Access (2014) 3(5): 206-216; Kato et al. Scientific Reports (2016) 6: 34009参照)。
【0102】
起源組織に応じて、MSCは、形態的および免疫表現型的に類似するが、同一ではない(Colter et al., Proc. Natl Acad. Sci. USA (2000) 97(7): 3213-3218; Kern et al., Stem Cells (2006) 24(5): 1294-1301; Huang et al., J. Dent. Res. (2009) 88(9): 792-806; Carvalho et al., Curr. Stem Cell Res. Ther. (2011) 6(3): 221-8; Harris et al., Curr. Stem Cell Res. Ther. (2013) 8(5): 394-9; Li et al., Ann N Y Acad Sci. (2016) 1370(1): 109-118)。
【0103】
細胞表面マーカーのキャラクタリゼーション
幹細胞集団の表現型キャラクタリゼーションは、1以上の細胞表面マーカーを分析することにより、行うことができる。このため、NACによる前処理、NACによる解凍後処理、またはその両方に供されていない幹細胞の類似集団と比較した前記幹細胞の集団上の1以上の細胞表面マーカーの発現の評価は、前記細胞の同一性が、NACによる前処理および/または解凍後処理により影響を受けていないことを確認するために使用することができる。
【0104】
目的の細胞表面マーカーに結合する抗体の存在または非存在は、限定されるものではないが、免疫蛍光顕微鏡法、X線撮影法およびフローサイトメトリーを含む異なる方法により決定され得る。抗体による表面マーカーの発現のプロファイルの決定は、標識抗体を使用した直接的であってもよいし、または目的の細胞マーカーに対する一次特異抗体に対する二次標識抗体を使用し、その結果シグナル増幅が達成される、間接的であり得る。フローサイトメトリーでは、標識抗体を使用することにより、蛍光色素のレベルを、前記抗体に特異的に結合した細胞表面マーカーの量と相関させることができる。幹細胞集団における1以上の細胞表面マーカーの差次的発現は、例えば、FACS(蛍光活性化セルソーティング)を使用した前記集団の同定および/または単離を可能にする。
【0105】
例えば、国際細胞治療学会(International Society for Cellular Therapy)によれば、MSCを定義する最小限の基準は、CD105、CD73、CD44およびCD90の発現、ならびにCD45、CD14またはCD11b、CD79アルファまたはCD19およびHLAクラスIIの発現の欠如であり得る(Dominici et al., Cytotherapy. (2006) 8(4): 315-7)。CD73、CD90およびCD105マーカーを評価するために使用することができる抗体の例を、実施例5に示す。他のマーカーを評価するために使用することができる抗体は、例えば、Beckton Dickinson社から市販されており、その例を以下に列挙する。
【0106】
【0107】
例えば、ASCの集団の解凍後評価は、(例えば、実施例5におけるような)CD29、CD73、CD90およびCD105の発現を調べることにより、行うことができる。
このような分析は、前記細胞の同一性が、NACによる前処理または解凍後処理により影響を受けていないことを確認するために使用することができる。
【0108】
特定の幹細胞型に関連する細胞表面マーカーは公知であり、以下に例示する。
【0109】
他の機能特性
(NACによる前処理、NACによる解凍後処理、またはその両方に供されていない幹細胞の類似集団と比較した)前記幹細胞の集団の他の機能特性の評価は、前記細胞の同一性が、NACによる前処理および/または解凍後処理により影響を受けていないことを確認するために使用することができる。例えば、ASCに関して、評価され得る他の機能特性としては、刺激リンパ球の増殖を阻害するASCの能力(例えば、実施例6におけるような);例えば、単球分化に対するASCの免疫調節能(例えば、実施例7におけるような);成熟樹状細胞(mDC)による、例えば、黄色ブドウ球菌粒子の食作用を調節するASCの能力;mDCの細胞表面上のCD206およびCD163のうちの1つもしくはその両方のASC媒介アップレギュレーション(例えば、実施例9におけるような);ならびに/または、CD14+CD1a- mDCへのCD14-CD1a+ mDCのASC媒介調節(例えば、実施例9におけるような)が挙げられる。
【0110】
このため、本明細書に開示される方法のいずれかにおいて、ASCの解凍集団は、以下の特性:(1)細胞生存率;(2)細胞表面マーカーCD29、CD73、CD90およびCD105の発現;(3)刺激リンパ球の増殖を阻害する能力;(4)単球分化に対する免疫調節効果;(5)例えば、黄色ブドウ球菌粒子の成熟樹状細胞による食作用を調節する能力;(6)mDCの細胞表面上のCD206およびCD163のうちの1つまたはその両方をアップレギュレートする能力;ならびに(7)CD14+CD1a- mDCへのCD14-CD1a+ mDCの調節のうち1個以上、2個以上、3個以上、4個以上、5個以上、6個以上または7個総てに対して評価され得る。各特性に関して、評価は、NACによる前処理、NACによる解凍後処理、またはその両方に供されていないASCの類似集団と比較して行うことができ、その結果、NACによる前処理および/または解凍後処理により、前記細胞の同一性が影響を受けていない、かつ/または細胞生存率が負の影響(すなわち、細胞生存率の減少)を受けていないことを確認することが可能となる。同様に、(例えば、上記で考察したように、NACによる前処理、NACによる解凍後処理、またはその両方に供されていないASCの類似集団と比較して評価された)これらの特性のうち1個以上、2個以上、3個以上、4個以上、5個以上、6個以上または7個総てを有する、本明細書に記載の方法のいずれか1つにより得られるASCの集団も開示される。
【0111】
幹細胞の種類
前記幹細胞の集団は、多能性幹細胞の集団であってもよいし、または間葉系幹細胞(MSC)、例えば、骨髄由来、臍帯組織由来、血液由来(臍帯血由来を含む)、月経血由来、歯髄由来、胎盤由来または脂肪由来MSCの集団であってもよい(Huang et al., J. Dent. Res. (2009) 88(9): 792-806; Carvalho et al., Curr. Stem Cell Res. Ther. (2011) 6(3): 221-8; Harris et al., Curr Stem Cell Res Ther. (2013) 8(5): 394-9; Li et al., Ann. N Y Acad. Sci. (2016) 1370(1): 109-18)。好ましい実施形態において、前記幹細胞はヒト細胞(例えば、ヒトASC)である。本発明の好ましい複数の実施形態において、前記幹細胞の集団は脂肪由来間質幹細胞(ASC)である。本明細書に記載の凍結保存の方法において使用されるASCは、ASCの拡大集団であってもよい。
【0112】
本発明に係る幹細胞の集団を作製および培養する方法は、周知である。
【0113】
前記幹細胞の集団は、実質的に純粋であり得る。幹細胞の集団(例えば、ASCの集団などのMSC集団)に関連した用語「実質的に純粋」は、少なくとも約75%、一般に、少なくとも約85%、より一般に、少なくとも約90%、最も一般に、少なくとも約95%均一である幹細胞集団を指す。均一性は、形態および/または細胞表面マーカープロファイルにより評価することができる。形態および細胞表面マーカープロファイルを評価するための技法は、本明細書に開示されている。
【0114】
多能性幹細胞
多能性幹細胞の源は2つ存在する。第1に、胚性幹細胞(ESC)は、着床前胚盤胞の内部細胞塊に由来し、多能性は、コア転写因子であるオクタマー結合転写因子4(OCT4)、性決定領域Y-box2(SOX2)、およびNanogホメオボックス(NANOG)の内因性調節ネットワークにより制御される。一つの実施形態において、胚性幹細胞株が使用される。胚性幹細胞株は、単一胚から回収された親細胞の群から産生される常に分裂する細胞を含んでなる。本発明において使用される胚性幹細胞株は、ヒト胚の破壊により得られるものではない。胚性幹細胞株は、例えば、ATCCから市販されている。胚性幹細胞株の胚性幹細胞は、培養下にある間、それらの多能性を失わない。特に、胚性幹細胞株の胚性幹細胞は、培養下にある間、分化しない。第2に、人工多能性幹細胞(iPSC)は、体細胞における多能性の誘導に必須の4つの転写因子、OCT4、SOX2、クルッペル様因子4(KLF4)、およびMYC癌原遺伝子(C-MYC)の異所性発現または高度発現により誘導される。
【0115】
ヒト胚性幹細胞などの胚性幹細胞の安定(未分化)培養物を単離するための技法は、十分確立されている(例えば、US 5,843,780; Thomson et al., Science (1998) 282: 1145-1147; Turksen K. (編) Human Embryonic Stem Cell Protocols. Methods in Molecular Biology, 第331巻, Humana PressにおけるTurksen & Troy (2006) Human Embryonic Stem Cells.; Sevilla et al., Stem Cell Research (2017) 25: 217-220; およびTurksen K. (編) Human Embryonic Stem Cell Protocols. Methods in Molecular Biology, 第331巻, Humana PressにおけるMitalipova & Palmarini (2006) Isolation and Characterization of Human Embryonic Stem Cells.)。一つの実施形態において、胚性幹細胞を得る方法は、1以上のヒト胚の破壊を含まない。
【0116】
iPSCを作製するための技法は、2007年に山中のグループによりそれらが発見されて以降、十分確立されている(例えば、Takahashi et al., Cell (2007) 131(5): 861-72)。それ以降、非組込みおよびフィーダーフリーの方法ならびに自動ハイスループット誘導を含む、iPSC作製のための新たな改善された方法が開発されている(Paull et al., Nature Methods (2015) 12(9): 885-892)。
【0117】
iPSCは、一連の多能性マーカー:NANOG、SOX2、SSEA4、TRA1-81、TRA1-60の発現、および系列特異的マーカーの欠如を特徴とする。iPSCの多能性は、免疫組織化学による三胚葉由来分化マーカーTuj1(外胚葉マーカー)、SMA(中胚葉マーカー)およびSOX17(内胚葉マーカー)の事後分析を用いた胚様体アッセイにおける三胚葉に分化するそれらの能力により示される(Paull et al., Nature Methods (2015) 12(9): 885-892)。
【0118】
MSC
「間葉系幹細胞」(本明細書において「MSC」ともいう)は、多能性間質細胞である。それらは、一般に結合組織に由来し、非造血細胞である。MSCの集団は(Dominici et al. 2006 (Cytotherapy 8(4): 315-317)によれば)、(1)標準的な培養条件下(例えば、最小必須培地+20%ウシ胎仔血清)でプラスチックに接着し得;(2)CD105、CD90、CD73およびCD44を発現し得(すなわち、MSCの集団の80%以上);(3)CD45、CD14またはCD11b、CD79αまたはCD19、およびHLA-DR(HLAクラスII)の発現を欠如し得(例えば、MSC集団の5%以下);(4)骨芽細胞、脂肪細胞および軟骨芽細胞に分化する能力を有し得る。
【0119】
MSCは、例えば、骨髄、臍帯組織および血液、月経血、歯髄、臍帯血、胎盤および脂肪組織から、標準的な方法を使用して得ることができる。
【0120】
異なる組織から得られるMSCは類似しているが、それらは表現型的特徴および機能的特徴にいくつかの違いを有する。例えば、細胞表面マーカーCD54およびCD106の発現レベルは、MSCの源/起源に応じて異なり得る。これらは、フローサイトメトリーにより測定することができる。SOX2、IL1アルファ、IL1ベータ、IL6およびIL8などのいくつかの遺伝子のmRNAレベルは、異なる組織由来のMSCにより差次的に発現し得、常法により測定することができる。IL6およびPGE2分泌も、異なる起源のMSC間で異なり得、このため、細胞は異なる調節能を有し得る(例えば、Yang et al. PLoS ONE (2013) 8(3) e59354参照)。
【0121】
骨髄由来MSC(BMSC)
骨髄間葉系幹細胞(BM-MSC)は、他の組織源からのMSCと類似している。しかしながら、それらは、他の組織起源のMSC、例えば、臍帯MSC、胎盤MSC、歯髄MSC、および月経血MSCと比較して、表現型的特徴および機能的特徴においていくつかの違いを有する。プラスチックに接着するそれらの能力、最小限の表面同一性マーカーならびに骨、軟骨、腱および脂肪組織に分化する能力を含め、それらの最小限のキャラクタリゼーション基準は共通であるが、それらは総て、いくつかのわずかな違いを有する。これらの特性には、CD105などのいくつかの表面マーカーの異なる発現レベル、それらの免疫調節能および再生能に関連付けられる分泌可溶性因子の異なるレベル、ならびに一般に、それぞれの源または起源を特定の治療適応症にさらに好適とし得るわずかに異なる機能特性が含まれる(Miura et al., Int J Hematology (2016) 103(2): 122-128; Wuchter et al., Cytotherapy (2015) 17(2): 128-139; Wright et al., Stem Cells (2011) 29(2): 169-178)。
【0122】
臍帯由来および歯髄由来MSC
Huang et al. (J. Dent. Res. (2009) 88(9): 792-806)は、歯髄由来MSCを考察し、それらの特徴を他の源からのMSCと比較している。Carvalho et al. (Curr Stem Cell Res Ther. (2011) 6(3): 221-228)およびHarris et al. (Curr Stem Cell Res Ther. (2013) 8(5): 394-399)は、臍帯由来MSC、それらのキャラクタリゼーション(表現型およびセクレトームを含む)ならびにそれらの適用を考察している。
【0123】
ASC
脂肪由来MSC(ASC)は、通常、皮下脂肪組織から単離され、それにより、ASCを多数獲得することが可能となる。ASCは、高い細胞活性をもって急速に増殖し、その結果、ASCがMSCを得るための理想的な源となる。
【0124】
「脂肪組織」とは、任意の脂肪組織を意味する。脂肪組織は、皮下組織、大網/内臓組織、乳腺組織、生殖腺組織、または他の脂肪組織部位に由来する褐色または白色の脂肪組織であり得る。一般に、脂肪組織は、皮下白色脂肪組織である。このような細胞は、初代細胞培養物または不死化細胞株を含んでなってもよい。脂肪組織は、脂肪組織を有する任意の生物体由来であってもよい。一般に、脂肪組織は哺乳動物のものであり、最も一般に、脂肪組織はヒトのものである。脂肪組織の好都合な源は、脂肪吸引術からのものであるが、脂肪組織の源または脂肪組織の単離の方法は、本発明にとって重要なものではない。
【0125】
前記幹細胞の集団は、実施例1に記載の方法、または本明細書に記載の方法のいずれか1つを使用して作製されたASCの集団であってもよい。
【0126】
好ましいASCは、製品「Darvadstrocel」(商品名「Alofisel(登録商標))において認可されているヒト同種異系脂肪由来幹細胞(ヒトeASC)である。これらの拡大ASCは、細胞表面マーカーCD29、CD73、CD90およびCD105を発現する。前記細胞は、血管内皮成長因子(VEGF)、トランスフォーミング成長因子-ベータ1(TGF-β1)、インターロイキン6(IL-6)、マトリックスメタロプロテイナーゼ阻害剤-1(TIMP-1)およびインターフェロン-ガンマ(IFN-γ)および誘導性インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)などの因子を発現することができる。このため、前記ASCの集団は、少なくとも約50%、少なくとも約60%;少なくとも約70%;少なくとも約80%;少なくとも約85%;少なくとも約90%または少なくとも約95%以上が、CD29、CD73、CD90および/またはCD105のうち1つ以上を発現することを特徴とし得る。前記ASCの集団は、前記細胞の集団の少なくとも約50%、少なくとも約60%;少なくとも約70%;少なくとも約80%;少なくとも約85%;少なくとも約90%または少なくとも約95%が、CD29、CD73、CD90およびCD105の総てを発現することを特徴とし得る。一般に、前記ASCの集団は、前記細胞の集団の少なくとも約80%が、CD29、CD73、CD90およびCD105の総てを発現することを特徴とし得る。
【0127】
Bourin et al. (Cytotherapy (2013) 15(6): 641-648)によれば、ASCの集団は、CD13、CD29、CD44、CD73、CD90およびCD105の発現に対して陽性であり、かつCD31およびCD45の発現に対して陰性であると定義され得る。前記ASCの集団において、前記細胞の集団の少なくとも約50%、少なくとも約60%;少なくとも約70%;少なくとも約80%;少なくとも約85%;少なくとも約90%または少なくとも約95%が、CD13、CD29、CD44、CD73、CD90およびCD105を発現し得、前記ASCの集団の約5%、約4%、約3%または約2%未満が、CD31およびCD45を発現し得る。一般に、前記ASCの集団において、前記細胞の集団の少なくとも約80%が、CD13、CD29、CD44、CD73、CD90およびCD105を発現し得、前記ASCの集団の約5%未満が、CD31およびCD45を発現し得る。
【0128】
ASCは、標準的な培養条件下でプラスチックに接着し得る。
【0129】
拡大ASC(eASC)は、培養下で線維芽細胞様の形態を示す。具体的には、これらの細胞は巨大であり、長く薄い細胞突起がほとんどない浅い細胞体という形態的特徴を有する。核は、巨大かつ円形であり、顕著な核小体を有し、これが核を鮮明な外観にしている。eASCのほとんどはこの紡錘形の形態を示すが、前記細胞のいくつかは多角形の形態を獲得することが通常である(Zuk et al. Tissue Eng (2001) 7(2): 211-228)。
【0130】
ASCは、表面マーカーHLAI、CD29、CD44、CD59、CD73、CD90、およびCD105に対して陽性であり得る。いくつかの実施形態において、前記ASCの集団は、前記ASCの集団の少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約85%;少なくとも約90%または少なくとも約95%が、表面マーカーHLAI、CD29、CD44、CD59、CD73、CD90、およびCD105を発現することを特徴とし得る。一般に、eASCの少なくとも約80%が、表面マーカーHLAI、CD29、CD44、CD59、CD73、CD90、およびCD105を発現する。
【0131】
ASCは、表面マーカーHLAII、CD11b、CD11c、CD14、CD45、CD31、CD80およびCD86に対して陰性であり得る。いくつかの実施形態において、前記ASCの集団は、前記ASCの集団の約5%未満が、表面マーカーHLAII、CD11b、CD11c、CD14、CD45、CD31、CD80およびCD86を発現することを特徴とし得る。より一般に、前記ASCの集団の約4%、3%または2%未満が、表面マーカーHLAII、CD11b、CD11c、CD14、CD45、CD31、CD80およびCD86を発現する。一つの実施形態において、前記ASCの集団の約1%未満が、表面マーカーHLAII、CD11b、CD11c、CD14、CD45、CD31、CD80およびCD86を発現する。
【0132】
いくつかの例において、ASCの集団において、前記細胞の集団の少なくとも約80%が、CD29、CD73、CD90およびCD105の総てを発現し、前記ASCの集団の約5%未満が、表面マーカーHLAII、CD11b、CD11c、CD14、CD45、CD31、CD80およびCD86を発現する。
【0133】
いくつかの実施形態において、前記ASCの集団は、HLAI、CD29、CD44、CD59、CD73、CD90、およびCD105のうち1個以上(例えば、2個以上、3個以上、4個以上、5個以上、6個または7個)を発現し得る。いくつかの実施形態において、eASCは、HLAII、CD11b、CD11c、CD14、CD45、CD31、CD80のうち1個以上(例えば、2個以上、3個以上、4個以上、5個以上、6個以上、7個または8個)を発現しなくてもよい。いくつかの実施形態において、eASCは、HLAI、CD29、CD44、CD59、CD73、CD90、およびCD105のうち4個以上を発現し、HLAII、CD11b、CD11c、CD14、CD45、CD31、CD80のうち4個以上を発現しない。
【0134】
CD34の発現は、陰性または低レベルであり得、例えば、前記ASCの集団の0~約30%により発現され得る。このため、いくつかの例において、上記のASCは、低レベルで、例えば、前記集団の約5~約30%においてCD34を発現し得る。あるいは、他の例において、上記のASCはCD34を発現せず、例えば、前記ASCの集団の約5%未満が、CD34を発現する。
【0135】
いくつかの実施形態において、前記ASCの集団(例えば、前記細胞の集団の少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約85%;少なくとも約90%または少なくとも約95%)は、マーカーCD9、CD10、CD13、CD29、CD44、CD49A、CD51、CD54、CD55、CD58、CD59、CD90およびCD105のうち1個以上(例えば、2個以上、3個以上、4個以上、5個以上、6個以上、7個以上、8個以上、9個以上、または10個以上(例えば、最大13個))を発現し得る。例えば、ASCは、マーカーCD29、CD59、CD90およびCD105のうち1個以上(例えば、2個、3個または総て)、例えば、CD59および/またはCD90を発現し得る。
【0136】
いくつかの実施形態において、前記ASCの集団は、マーカー第VIII因子、アルファ-アクチン、デスミン、S-100、ケラチン、CD11b、CD11c、CD14、CD45、HLAII、CD31、CD45、STRO-1およびCD133のうち1個以上(例えば、2個以上、3個以上、4個以上、5個以上、6個以上、7個以上、8個以上、9個以上、または10個以上(例えば、最大15個))を発現しなくてもよく、例えば、ASCは、マーカーCD45、CD31およびCD14のうち1個以上(例えば、2個、3個または総て)、例えば、CD31および/またはCD45を発現しない。
【0137】
特定の複数の実施形態において、上記のASCは、(i)抗原提示細胞(APC)に特異的なマーカーを発現せず;(ii)IDOを構成的に発現せず;かつ/または(iii)MHC IIを構成的に有意に発現しない。一般に、IDOまたはMHC IIの発現は、IFN-γによる刺激により誘導され得る。
【0138】
特定の複数の実施形態において、上記のASCは、Oct4を発現しない。
【0139】
ASCの集団を調製する方法
eASCおよび本発明の幹細胞の集団を提供するためのASCの単離および培養の方法、ならびに本発明の幹細胞の集団を含んでなる組成物は、当技術分野で公知である。ASCは、一般に、脂肪組織の間質画分から調製され、好適な表面、例えば、プラスチックへの接着性により選択される。このため、本明細書に開示される幹細胞の凍結保存の方法は、(i)患者から得られた脂肪組織の間質画分からASCの集団を単離すること、および(ii)前記ASCの集団を培養すること、という初期工程(前記方法のいずれか1つの工程(a)の前)を含んでなってもよい。ASCは、場合により、好適な表面、例えば、プラスチックへの接着性に関する工程(i)において選択することができる。場合により、ASCの表現型は、培養工程(ii)の間および/またはその後に評価してもよい。
【0140】
ASCは、当技術分野において標準的な任意の手段により得ることができる。一般に、前記細胞は、源の組織(例えば、脂肪吸引組織または脂肪組織)から、一般に、前記組織をコラゲナーゼなどの消化酵素で処理することにより、前記細胞を分離することにより得られる。次いで、消化された組織物質は、一般に、約20ミクロン~1mmのフィルターで濾過される。次いで、細胞を単離し(一般に、遠心分離により)、接着表面(一般に、組織培養プレートまたはフラスコ)で培養する。このような方法は、当技術分野で公知であり、例えば、米国特許第6777231号に開示されている。この方法によれば、脂肪吸引組織は脂肪組織から得られ、細胞はそれに由来する。この方法の最中に、細胞を、好ましくはPBSで洗浄して、汚染デブリおよび赤血球を除去してもよい。細胞を、PBS中のコラゲナーゼで消化する(例えば、37℃で30分間、0.075%コラゲナーゼ;I型、Invitrogen社、カールスバッド、カリフォルニア州)。残存する赤血球を除去するために、消化サンプルを洗浄し(例えば、10%ウシ胎仔血清で)、160mmol/L NH4Clで処理し、最後にDMEM完全培地(10%FBS、2mmol/Lグルタミンおよび1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含有するDMEM)に懸濁させることができる。細胞は、40μmナイロンメッシュで濾過することができる。
【0141】
本発明の特定の複数の実施形態に係る培養ヒトASCは、DelaRosa et al. (Tissue Eng Part A. (2009) 15(10): 2795-806)、Lopez-Santalla et al. (Stem cells (2015) 33: 3493-3503)において記載されている。一つの実施形態において(Lopez-Santalla et al. 2015に記載の通りに)、健常ドナー由来のヒト脂肪吸引組織を、リン酸緩衝食塩水で2回洗浄し、0.075%コラゲナーゼ(I型;Invitrogen社)で消化した。消化サンプルを10%ウシ胎仔血清(FBS)で洗浄し、160mM NH4Clで処理して残存する赤血球を除去し、培養培地(10%FBSを含有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM))に懸濁させた。細胞を組織培養フラスコに播種し(2~3×104個/cm2)、3~4日毎に培養培地を交換しながら培養した(37℃、5%CO2)。細胞が90%コンフルエンスに達した場合、細胞を新しいフラスコに移した(103個/cm2)。細胞を最大12~14回重複して拡大し、凍結させた。実験は、12~14回集団倍加した2例の男性成人ドナーおよび2例の女性成人ドナー由来の細胞を用いて行った。ASCを同じクライオバンクから解凍し、各実験の前に播種した。国際細胞治療学会(International Society for Cellular Therapy)の基準に従って、ASCを、HLA-I、CD73、CD90、およびCD105に対して陽性であり、かつCD11b、CD14、CD31、CD34、およびCD45に対して陰性であると定義した。
【0142】
別の実施形態において(DelaRosa et al. 2009による記載の通りに)、健常成人ドナー由来のヒト脂肪組織から得られた脂肪吸引組織をPBSで2回洗浄し、18U/mLのPBS中I型コラゲナーゼで37℃にて30分間消化した。1単位のコラゲナーゼが、37℃、pH7.5にて5時間でコラーゲンから1mMのL-ロイシン当量を遊離させた(Invitrogen社、カールスバッド、カリフォルニア州)。消化サンプルを10%のウシ胎仔血清(FBS)で洗浄し、160mM NH4Clで処理し、培養培地(10%FBSを含有するDMEM)に懸濁させ、40mmナイロンメッシュで濾過した。細胞を組織培養フラスコに播種し(2~3×104個/cm2)、7日毎に培養培地を交換しながら、37℃および5%CO2で拡大した。培養物が90%のコンフルエンスに達した場合、細胞を新しい培養フラスコに移した。細胞は、軟骨形成系列、骨形成系列、および脂肪生成系列に分化するそれらの能力により表現型的に特徴付けられた。さらに、hASCを、特異的表面マーカーによる染色により検証した。hASCは、HLA-I、CD90、およびCD105に対して陽性であり、HLA-II、CD40、CD80、CD86、およびCD34に対して陰性であった。6例の健常ドナー(男性3例および女性3例、35~47歳)からのプールを試験に使用した。細胞は、4~6継代のものを使用した。
【0143】
ASCを、ASCの接着に好適な表面、例えば、プラスチックを含んでなる好適な組織培養容器中で培養する。非接着細胞は、例えば、好適な緩衝液中で洗浄することにより除去して、接着間質細胞(例えば、ASC)の単離集団を得る。このように単離した細胞は、組織培養フラスコに播種し(好ましくは、2~3×104個/cm2)、3~4日毎に培養培地を交換しながら、37℃および5%CO2で拡大することができる。培養物がおよそ90%のコンフルエンスに達した場合、細胞を好ましくは接着表面から剥がし(例えば、トリプシンにより)、新しい培養フラスコ(1,000個/cm2)に移す(「継代する」)。
【0144】
ASCは、少なくとも約15日間、少なくとも約20日間、少なくとも約25日間、または少なくとも約30日間培養され得る。一般に、培養下での細胞の拡大は、実質的に純粋な集団が得られるように、集団における細胞表現型の均一性を改善する。
【0145】
いくつかの実施形態において、ASCは、少なくとも3培養継代、培養下で拡大される、または「少なくとも3回継代される」。他の複数の実施形態において、前記細胞は、少なくとも4回、少なくとも5回、少なくとも6回、少なくとも7回、少なくとも8回、少なくとも9回、または少なくとも10回継代される。細胞は、細胞集団における細胞表現型の均一性を改善するために、3回超継代されることが好ましい。実際に、前記細胞は、細胞表現型の均一性が改善され、分化能が維持される限り、無期限に培養下で拡大され得る。
【0146】
いくつかの実施形態において、ASCは、少なくとも3回集団倍加させるために培養下で増殖され、例えば、前記細胞は、少なくとも4回、5回、6回、7回、8回、9回、10回、15回または20回集団倍加させるために、培養下で拡大される。いくつかの実施形態において、前記細胞は、7回、8回、9回、10回、15回または20回未満集団倍加させるために、培養下で拡大される。特定の複数の実施形態において、前記細胞は、約5~10回集団倍加させるために、培養下で拡大される。特定の複数の実施形態において、前記細胞は、約10~15回集団倍加させるために、培養下で拡大される。特定の複数の実施形態において、前記細胞は、約15~20回集団倍加、例えば、約16回集団倍加させるために、培養下で拡大される。
【0147】
ASCの単離は、好ましくは、無菌条件下またはGMP条件下で行われる。
【0148】
幹細胞(例えば、ASC)の集団は、同種異系であってもよい、すなわち、前記幹細胞の集団が療法として投与される対象から単離されたものでなくてもよい。
【0149】
幹細胞の集団
本明細書に開示される方法に係るNACによる前処理、NACによる解凍後処理またはNACによる前処理および解凍後処理の両方の組合せは、以下の特性:幹細胞の対照集団と比較した、生細胞数の増加、成長率の増加、ミトコンドリア活性の増加および回収率の改善のうち1個以上、2個以上、3個以上、または4個総てをもたらし得る。幹細胞の対照集団は、NACによる前処理、NACによる解凍後処理、またはその両方に供されていないが、その他の点では同一の条件に供されている同じ幹細胞の集団である。別の実施形態において、前記幹細胞の対照集団は、NACによる前処理、NACによる解凍後処理、またはその両方に供された幹細胞の集団と同じ幹細胞の集団に由来するが、前記対照集団は、NACによる前処理、NACによる解凍後処理、またはその両方に供されていないが、その他の点では同一の条件に供されている。
【0150】
これらの特性のうち1個以上、2個以上、3個以上、または4個総てを有する、本明細書に記載の方法のいずれか1つにより得られる幹細胞(例えば、ASC)の集団も提供される。
【0151】
解凍後、および場合により約1日間、約2日間、約3日間、約4日間、約7日間、または約10日間以上の培養後の生細胞の数は、細胞の対照集団と比較して、前記幹細胞の集団で増加し得る。例えば、解凍後ならびに1日間(および/または4日間)の培養後の生細胞の数は、幹細胞の対照集団と比較して、前記幹細胞の集団において少なくとも約1.05倍、少なくとも約1.1倍、少なくとも約1.2倍、少なくとも約1.3倍、少なくとも約1.4倍、少なくとも約1.5倍、少なくとも約1.6倍、少なくとも約2倍、または少なくとも約5倍以上増加し得る。例えば、
図4Aは、生細胞の数が、培養1日後(約5,000対約3,000個/cm
2)および培養4日後(約12,500対約9,000個/cm
2)に、無処理細胞と比較して6mM NACで前処理されたASCにおいて増加していることを示している。別の例では、
図6は、2mM NACによる解凍後処理は、培養7日目(約6,300対約5,600個/cm
2)、11日目(約18,700対約17,500個/cm
2)および14日目(約18,300対約15,200個/cm
2)において、無処理細胞と比較して生細胞の数を増加させていることを示している。生細胞の数を測定する好適な方法は、上記の通りである。
【0152】
前記幹細胞の集団の成長率(すなわち、1日あたりの生細胞数/cm
2の増加)は、幹細胞の対照集団と比較して増加し得る。解凍後の成長率(例えば、解凍後培養の1~4日目)は、幹細胞の対照集団と比較して、前記幹細胞の集団において少なくとも約1.03倍、少なくとも約1.05倍、少なくとも約1.1倍、少なくとも約1.15倍、少なくとも約1.2倍、少なくとも約1.25倍、少なくとも約1.3倍、少なくとも約1.4倍、少なくとも約1.5倍、少なくとも約1.6倍、または少なくとも約2倍以上増加し得る。例えば、
図4Aは、6mM NACで前処理されたASCに関する培養1~4日目の成長率は、無処理細胞と比較して増加していることを示している。具体的には、NAC前処理細胞に関する1~4日目の成長は、無処理細胞のおよそ2,000個/cm
2/日と比較して、およそ2,500個/cm
2/日であり、すなわち、およそ1.25倍改善している。さらなる例では、
図6は、2mM NACで解凍後処理されたASCに関する7~11日目の成長率は、無処理細胞と比較して増加しており、すなわち、無処理細胞のおよそ3,000個/cm
2/日と比較しておよそ3,100個/cm
2/日であることを示している。
【0153】
解凍後、および場合により約1日間、約2日間、約3日間、約4日間、約7日間、または約10日間以上の培養後の細胞の幹細胞の集団のミトコンドリア活性(例えば、MTSアッセイにより測定)は、幹細胞の対照集団と比較して増加し得る。解凍後ならびに1日間(および/または4日間)の培養後のミトコンドリア活性は、幹細胞の対照集団と比較して、前記幹細胞の集団において少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%または少なくとも約50%以上増加し得る。例えば、
図4Bは、解凍後培養の24時間後の測定において、無処理細胞と比較して、6mM NACによる前処理後のミトコンドリア活性の35%超の増加を示している(490nmでのMTSアッセイ読み取り値は、対照に対して100%で正規化した)。別の例では、
図4Cは、解凍後培養の96時間後の測定において、無処理細胞と比較して、6mM NACによる前処理後のミトコンドリア活性の15%超の増加を示している。
【0154】
接着細胞(ASCなど)に関して、解凍後「回収」は、接着細胞の生細胞数が、培養中に初期の播種密度よりも増加する時点と定義され得る。浮遊状態で成長する細胞に関して、解凍後「回収」は、生細胞数が、培養中に初期の播種密度よりも増加する時点と定義され得る。幹細胞の解凍集団の回収率、すなわち、解凍後に細胞を回収するのに要する時間は、幹細胞の対照集団と比較して改善(すなわち、短縮)され得る。例えば、解凍後に回収するのに要する時間は、幹細胞の対照集団と比較して少なくとも約1.1倍、少なくとも約1.2倍、少なくとも約1.4倍、少なくとも約1.6倍、少なくとも約2倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍または少なくとも5倍以上減少し得る。例えば、
図4Aは、6mM NACで前処理されたASCは、解凍後培養の1日後に回収されているが、無処理細胞ではそうではないことを示している。
【0155】
本明細書に開示される好ましい方法または幹細胞の集団において、前記幹細胞の集団は、以下の特性:(a)解凍後ならびに場合により約1日間および/もしくは約4日間の培養後の生細胞の数が、幹細胞の対照集団と比較して少なくとも約1.05倍、少なくとも約1.1倍、少なくとも約1.2倍、少なくとも約1.3倍、少なくとも約1.4倍、少なくとも約1.5倍、少なくとも約1.6倍、少なくとも約2倍もしくは少なくとも約5倍以上増加する;(b)解凍後の成長率(例えば、解凍後培養の1~4日目)が、幹細胞の対照集団と比較して、前記幹細胞の集団において少なくとも約1.03倍、少なくとも約1.05倍、少なくとも約1.1倍、少なくとも約1.15倍、少なくとも約1.2倍、少なくとも約1.25倍、少なくとも約1.3倍、少なくとも約1.4倍、少なくとも約1.5倍、少なくとも約1.6倍、もしくは少なくとも約2倍以上増加する;(c)解凍後ならびに場合により約1日間および/もしくは約4日間の培養後のミトコンドリア活性が、幹細胞の対照集団と比較して少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%もしくは少なくとも約50%増加する;(d)解凍後に細胞を回収するのに要する時間が、幹細胞の対照集団と比較して減少する;ならびに/または(e)解凍後に細胞を回収するのに要する時間が、幹細胞の対照集団と比較して少なくとも約1.1倍、少なくとも約1.2倍、少なくとも約1.4倍、少なくとも約1.6倍、少なくとも約2倍、少なくとも約3倍、少なくとも約4倍、もしくは少なくとも約5倍減少する、のうち1個以上、2個以上、3個以上、4個以上、または5個総てを有する。
【0156】
本明細書に開示される好ましい方法または幹細胞の集団において、ASCの集団は、以下の特性:(1)解凍後および約1日間の培養後の生細胞の数が、幹細胞の対照集団と比較して少なくとも約1.5倍増加する(例えば、6mM NACによる24時間の前処理後);(2)解凍後および約4日間の培養後の生細胞の数が、幹細胞の対照集団と比較して少なくとも約1.3倍増加する(例えば、6mM NACによる24時間の前処理後);(3)解凍後培養の1~4日目の成長率が、幹細胞の対照集団と比較して少なくとも約1.25倍増加する(例えば、6mM NACによる24時間の前処理後);(4)解凍後および約1日間の培養後のミトコンドリア活性が、幹細胞の対照集団と比較して少なくとも約35%増加する(例えば、6mM NACによる24時間の前処理後);(5)解凍後および約4日間の培養後のミトコンドリア活性が、幹細胞の対照集団と比較して少なくとも約15%増加する(例えば、6mM NACによる24時間の前処理後);ならびに/または(6)解凍後にASCを回収するのに要する時間が、幹細胞の対照集団と比較して減少する(例えば、6mM NACによる24時間の前処理後)、のうち1個以上、2個以上、3個以上、4個以上、5個以上、または6個総てを有する。
【0157】
本明細書に記載の好ましい方法または幹細胞の集団において、ASCの集団は、以下の特性:(a)NAC(例えば、2mM)による7日間の解凍後処理後の生存可能なASCの数が、幹細胞の対照集団と比較して少なくとも約1.1倍増加する;(b)NAC(例えば、2mM)による11日間の解凍後処理後の生存可能なASCの数が、幹細胞の対照集団と比較して少なくとも約1.05倍増加する;(c)NAC(例えば、2mM)による14日間の解凍後処理後の生存可能なASCの数が、幹細胞の対照集団と比較して少なくとも約1.2倍増加する;および/または(d)NAC(例えば、2mM)による解凍後処理後の成長率が、培養の7~11日目に測定した場合、幹細胞の対照集団と比較して少なくとも約1.03倍増加する、のうち1個以上、2個以上、3個以上、または4個総てを有する。
【0158】
凍結保存組成物
本明細書に開示される方法のいずれか1つにより作製される幹細胞(例えば、ASC)の集団と凍結保存培地とを含んでなる凍結保存組成物が開示される。前記凍結保存組成物は凍結され得る。前記凍結保存組成物は、例えば、およそ0.5~10mM、例えば、およそ2~8mMまたはおよそ4~6mMの範囲の濃度のNACを含有し得る。特に好ましい実施形態において、前記凍結保存組成物中のNACの濃度は、約6mMである。
【0159】
本発明の方法の実践において、凍結保存プロセスは、種々の細胞プロセスに対する効果を有し得ることが想定される。上記で考察したように、凍結プロセスは、遺伝子転写を含む細胞内反応を停止し得る。これらの効果は、凍結保存培地の化学組成(凍結防止剤の代謝効果、イオン濃度など)またはNACによる細胞の前処理に起因し得るか、またはそれに加わるものであり得る。また、凍結保存において、凍結により誘導されるストレスは、熱ショックタンパク質または膜不安定化タンパク質が関与する細胞輸送プロセスに影響を及ぼす。
【0160】
医薬組成物
本明細書に開示される方法のいずれか1つにより作製される幹細胞(例えば、ASC)の集団と薬学上許容可能な担体とを含んでなる医薬組成物が開示される。
【0161】
句「薬学上許容可能な」は、健全な医学的判断の範囲内で、妥当なベネフィット/リスク比と釣り合った、過剰な毒性、刺激、アレルギー反応、または他の問題もしくは合併症をもたらすことなく、ヒトおよび動物の組織への接触における使用に好適であるそれらの化合物、材料、組成物、および/または投与形を指すように、本明細書において用いられる。
【0162】
薬学上許容可能な担体の例としては、ある器官、または身体の部分から、別の器官、または身体の部分への対象化合物の運搬または輸送に関与する、薬学上許容可能な材料、組成物またはビヒクル、例えば、液体もしくは固体充填剤、希釈剤、賦形剤、または溶媒封入材料が挙げられる。各担体は、処方物の他の成分と適合し、かつ患者に対して有害ではないという意味で「許容可能」でなければならない。
【0163】
前記医薬組成物は、無菌であり、望まれないウイルス、細菌および他の病原体の存在がなく、ならびにパイロジェンフリーであり得る。すなわち、ヒトへの投与のために、対象組成物は、FDA Office of Biologicsの基準により要求される無菌性、発熱性ならびに一般的な安全性および純度の基準を満たすべきである。
【0164】
十分な自己幹細胞を得る際の困難さのために、本明細書に開示される幹細胞の集団は、同種異系源から得てもよい。骨髄由来MSCおよびASCは、in vitroで同種異系リンパ球の応答を誘発せず、その結果、これらの細胞は、MHC不適合に関係なくいずれの患者にも使用できることが、当技術分野で公知である。このため、前記医薬組成物中の幹細胞(例えば、骨髄由来MSCまたはASC)の集団は、意図される移植宿主に関して同種異系であってもよい。
【0165】
前記医薬組成物は、以下でより詳細に記載するように、例えば、医薬品または生体材料としての使用のために、種々の溶液または材料中の幹細胞の集団の懸濁液を含んでなってもよい。前記医薬組成物は、リンゲル液およびHSA中の幹細胞(例えば、同種異系ASC)の懸濁液を含んでなってもよい。前記医薬組成物は、無菌緩衝生理食塩水中の幹細胞(例えば、同種異系ASC)の懸濁液を含んでなってもよい。細胞は、保存剤を含有しない使い捨てバイアル中で提供してもよい。細胞は、1億2,000万個の細胞の用量(例えば、500万個/mLの濃度)で投与することができる。細胞(例えば、ASC)は、およそ100万~1,000万個/kgで投与することもできる。
【0166】
特定の複数の実施形態において、前記医薬組成物は、材料、例えば、ポリマー、糊、ゲルなどの中の幹細胞(例えば、同種異系ASC)の懸濁液である。このような懸濁液は、例えば、培養培地から幹細胞を沈殿させて取り出し、所望の溶液または材料にそれらを再懸濁させることにより、調製してもよい。細胞は、例えば、遠心分離、濾過、限外濾過などにより、培養培地から沈殿および/または変化させて取り出してもよい。
【0167】
対象脂肪組織由来間質幹細胞含有組成物中の対象脂肪組織由来間質幹細胞の濃度は、少なくとも約500万個/mL、少なくとも約1,000万個/mL、少なくとも約2,000万個/mL、少なくとも約3,000万個/mL、または少なくとも約4,000万個/mLであり得る。一般に、濃度は、約100万個/mL~1,000万個/mL、例えば、約500万個/mL~1,000万個/mLである。特定の複数の実施形態において、細胞密度は、医薬組成物中でおよそ500万個/mLである。
【0168】
特定の複数の実施形態において、前記医薬組成物は、およそ100万~1億5,000万個の細胞、好ましくは、およそ3,000万個の細胞またはおよそ1億2,000万個の細胞を含んでなる。
【0169】
いくつかの例において、前記医薬組成物は、NACを含んでなってもよい。他の例において、前記医薬組成物は、NACを含まなくてもよい。
【0170】
薬学上許容可能な担体および希釈剤は、生理食塩水、水性緩衝液、溶媒および/または分散媒を含む。このような担体および希釈剤の使用は、当技術分野で周知である。溶液は、一般に、無菌であり、かつ容易な通針性が存在する程度に流動性である。一般に、溶液は、製造および保存の条件下で安定であり、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどの使用を通じて、細菌および真菌などの微生物の汚染作用に対して保護される。前記医薬組成物は、本明細書に記載の幹細胞(例えば、ASC)の集団を、薬学上許容可能な担体または希釈剤、および必要に応じて、上記に列挙された他の成分に懸濁させ、次いで濾過滅菌を行うことにより、調製してもよい。
【0171】
薬学上許容可能な担体として役割を果たし得る材料および溶液のいくつかの例としては、(1)糖、例えば、ラクトース、グルコースおよびスクロース;(2)デンプン、例えば、コーンスターチおよびジャガイモデンプン;(3)セルロース、およびその誘導体、例えば、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、エチルセルロースおよび酢酸セルロース;(4)トラガント末;(5)麦芽;(6)ゼラチン;(7)タルク;(8)賦形剤、例えば、カカオ脂および坐剤用ワックス;(9)油、例えば、落花生油、綿実油、サフラワー油、ゴマ油、オリーブ油、コーン油およびダイズ油;(10)グリコール、例えば、プロピレングリコール;(11)ポリオール、例えば、グリセリン、ソルビトール、マンニトールおよびポリエチレングリコール;(12)エステル、例えば、オレイン酸エチルおよびラウリン酸エチル;(13)寒天;(14)緩衝剤、例えば、水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウム;(15)アルギン酸;(16)パイロジェンフリー水;(17)等張生理食塩水;(18)リンゲル液;(19)エチルアルコール;(20)pH緩衝液;(21)ポリエステル、ポリカーボネートおよび/またはポリ酸無水物;ならびに(22)医薬処方物において一般に用いられる他の無毒の適合物質が挙げられる。
【0172】
特定の複数の実施形態において、前記医薬組成物は、接着剤をさらに含んでなる。前記接着剤は、フィブリン系接着剤、例えば、フィブリンゲルもしくはフィブリン糊もしくはフィブリン系ポリマーもしくは接着剤、または他の組織接着剤もしくは外科用糊、例えば、シアノアクリレート、コラーゲン、トロンビン、およびポリエチレングリコールであり得る。使用され得る他の材料としては、限定されるものではないが、アルギン酸カルシウム、アガロース、I型、II型、IV型もしくは他のコラーゲンアイソフォーム、ポリ乳酸/ポリグリコール酸、ヒアルロン酸誘導体または他の材料が挙げられる(Perka et al. J. Biomed. Mater. Res. (2000) 49: 305-311; Sechriest et al. J. Biomed. Mater. Res. (2000) 49: 534-541; Chu et al. J. Biomed. Mater. Res. (1995) 29:1147-1154; Hendrickson et al. Orthop. Res. (1994) 12: 485-497)。他の複数の実施形態において、前記接着剤は液体包帯であり、ここで、幹細胞(例えば、ASC)の集団は、液体包帯材料と混合される。「液体包帯」とは、噴霧器またはブラシで創傷に適用され、次いで、蒸発により溶媒を除去して、創傷に保護フィルムをもたらす化合物、例えば、高分子材料を含んでなる溶液である。
【0173】
前記医薬組成物は、支持体、例えば、医療機器を被覆するためにも使用してもよい。例えば、前記支持体は、縫合糸または糸であり得る。前記支持体は、例えば、浸漬、噴霧、塗布、刷込みなど、当業者に公知の任意の様式において細胞で被覆してもよい。一つの実施形態において、前記支持体は、縫合糸、ステープル、吸収性糸、非吸収性糸、天然糸、合成糸、モノフィラメント糸またはマルチフィラメント糸(ブレードともいう)である。脂肪組織由来間質幹細胞で被覆された創傷を閉鎖するために使用される縫合糸および他の支持体を作製する好ましい方法は、2005年2月14日に出願された米国特許出願第11/056,241号「Biomaterial for Suturing」において開示されており、この出願は引用することによりその全内容が本明細書の一部とされる。本明細書に開示される医薬組成物は、米国特許出願第11/056,241号に開示される方法で使用され得る新規な組成物を表す。
【0174】
さらに、開示される医薬組成物のいずれかにおいて、少なくとも1つの治療剤を前記組成物に組み込んでもよい(これは必要ではなく、場合により除外することができるが)。例えば、前記医薬組成物は、鎮痛剤(例えば、炎症もしくは疼痛の治療の助けとなるために)、または前記組成物で治療された部位の感染症を予防するための抗感染剤を含有し得る。
【0175】
より具体的には、本明細書に記載の医薬組成物に含まれ得る有用な治療剤の限定されない例として、以下の治療カテゴリー:鎮痛剤、例えば、非ステロイド性抗炎症薬、アヘンアゴニストおよびサリチル酸塩;抗感染剤、例えば、駆虫剤、抗嫌気性菌剤、抗生物質、アミノグリコシド系抗生物質、抗真菌性抗生物質、セファロスポリン系抗生物質、マクロライド系抗生物質、種々のβ-ラクタム系抗生物質、ペニシリン系抗生物質、キノロン系抗生物質、スルホンアミド系抗生物質、テトラサイクリン系抗生物質、抗マイコバクテリア剤、抗結核抗マイコバクテリア剤、抗原虫剤、抗マラリア抗原虫剤、抗ウイルス剤、抗レトロウイルス剤、抗疥癬剤、抗炎症剤、コルチコステロイド抗炎症剤、鎮痒剤/局所麻酔剤、局所抗感染剤、抗真菌局所抗感染剤、抗ウイルス局所抗感染剤;電解質および腎臓作用剤、例えば、酸性化剤、アルカリ化剤、利尿剤、炭酸脱水酵素阻害利尿剤、ループ利尿剤、浸透圧性利尿剤、カリウム保持性利尿剤、チアジド系利尿剤、電解質置換剤、および尿酸排泄剤;酵素、例えば、膵酵素および血栓溶解酵素;消化器系作用剤、例えば、止痢剤、制吐剤、消化管抗炎症剤、サリチル酸系消化管抗炎症剤、制酸抗潰瘍剤、胃酸ポンプ阻害抗潰瘍剤、胃粘膜抗潰瘍剤、H2ブロッカー抗潰瘍剤、胆石溶解剤、消化剤、催吐剤、緩下剤および便軟化剤、ならびに運動促進剤;一般的な麻酔剤、例えば、吸入麻酔剤、ハロゲン化吸入麻酔剤、静脈麻酔剤、バルビツール酸系静脈麻酔剤、ベンゾジアゼピン系静脈麻酔剤、およびアヘンアゴニスト静脈麻酔剤;ホルモンおよびホルモン調節剤、例えば、堕胎剤、副腎作用剤、コルチコステロイド副腎作用剤、アンドロゲン、抗アンドロゲン、免疫生物学的製剤、例えば、免疫グロブリン、免疫抑制剤、トキソイド、およびワクチン;局所麻酔剤、例えば、アミド系局所麻酔剤およびエステル系局所麻酔剤;筋骨格作用剤、例えば、抗痛風抗炎症剤、コルチコステロイド抗炎症剤、金化合物抗炎症剤、免疫抑制抗炎症剤、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、サリチル酸系抗炎症剤、無機質;ならびにビタミン、例えば、ビタミンA、ビタミンB、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、およびビタミンKが挙げられる。
【0176】
上記のカテゴリーからの有用な治療剤の好ましいクラスとしては、(1)一般的な鎮痛剤、例えば、リドカインまたはその誘導体、および非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)鎮痛剤、例えば、ジクロフェナク、イブプロフェン、ケトプロフェン、およびナプロキセン;(2)アヘンアゴニスト鎮痛剤、例えば、コデイン、フェンタニル、ヒドロモルホン、およびモルヒネ;(3)サリチル酸系鎮痛剤、例えば、アスピリン(ASA)(腸溶性ASA);(4)H1ブロッカー抗ヒスタミン剤、例えば、クレマスチンおよびテルフェナジン;(5)抗感染剤、例えば、ムピロシン;(6)抗嫌気性菌抗感染剤、例えば、クロラムフェニコールおよびクリンダマイシン;(7)抗真菌性抗生物質抗感染剤、例えば、アムホテリシンb、クロトリマゾール、フルコナゾール、およびケトコナゾール;(8)マクロライド系抗生物質抗感染剤、例えば、アジスロマイシンおよびエリスロマイシン;(9)種々のβ-ラクタム系抗生物質抗感染剤、例えば、アズトレオナムおよびイミペネム;(10)ペニシリン系抗生物質抗感染剤、例えば、ナフシリン、オキサシリン、ペニシリンG、およびペニシリンV;(11)キノロン系抗生物質抗感染剤、例えば、シプロフロキサシンおよびノルフロキサシン;(12)テトラサイクリン系抗生物質抗感染剤、例えば、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、およびテトラサイクリン;(13)抗結核抗マイコバクテリア抗感染剤、例えば、イソニアジド(INH)、およびリファンピン;(14)抗原虫抗感染剤、例えば、アトバコンおよびダプソン;(15)抗マラリア抗原虫抗感染剤、例えば、クロロキンおよびピリメタミン;(16)抗レトロウイルス抗感染剤、例えば、リトナビルおよびジドブジン;(17)抗ウイルス抗感染剤、例えば、アシクロビル、ガンシクロビル、インターフェロンアルファ、およびリマンタジン;(18)抗真菌局所抗感染剤、例えば、アムホテリシンB、クロトリマゾール、ミコナゾール、およびナイスタチン;(19)抗ウイルス局所抗感染剤、例えば、アシクロビル;(20)電解質および腎臓作用剤、例えば、ラクツロース;(21)ループ利尿剤、例えば、フロセミド;(22)カリウム保持性利尿剤、例えば、トリアムテレン;(23)チアジド系利尿剤、例えば、ヒドロクロロチアジド(HCTZ);(24)尿酸排泄剤、例えば、プロベネシド;(25)酵素、例えば、リボヌクレアーゼおよびデオキシリボヌクレアーゼ;(26)制吐剤、例えば、プロクロルペラジン;(27)サリチル酸系消化管抗炎症剤、例えば、スルファサラジン;(28)胃酸ポンプ阻害抗潰瘍剤、例えば、オメプラゾール;(29)H2ブロッカー抗潰瘍剤、例えば、シメチジン、ファモチジン、ニザチジン、およびラニチジン;(30)消化剤、例えば、パンクレリパーゼ;(31)運動促進剤、例えば、エリスロマイシン;(32)エステル系局所麻酔剤、例えば、ベンゾカインおよびプロカイン;(33)筋骨格コルチコステロイド抗炎症剤、例えば、ベクロメタゾン、ベタメタゾン、コルチゾン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、およびプレドニゾン;(34)筋骨格抗炎症免疫抑制剤、例えば、アザチオプリン、シクロホスファミド、およびメトトレキサート;(35)筋骨格非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、例えば、ジクロフェナク、イブプロフェン、ケトプロフェン、ケトロラク、およびナプロキセン;(36)無機質、例えば、鉄、カルシウム、およびマグネシウム;(37)ビタミンB化合物、例えば、シアノコバラミン(ビタミンB12)およびナイアシン(ビタミンB3);(38)ビタミンC化合物、例えば、アスコルビン酸;ならびに(39)ビタミンD化合物、例えば、カルシトリオールが挙げられる。
【0177】
特定の複数の実施形態において、前記治療剤は、成長因子または細胞の分化および/もしくは増殖に影響を及ぼす他の分子であり得る。最終分化状態を誘導する成長因子は、当技術分野で周知であり、最終分化状態を誘導することが示されている任意のこのような因子から選択され得る。特定の複数の実施形態において、本明細書に記載の方法における使用のための成長因子は、機能的バリアントまたは天然に存在する成長因子のフラグメントであり得る。例えば、バリアントは、保存的アミノ酸変化を行い、当技術分野で公知のアッセイを使用して、成長因子の機能に関して得られたバリアントを試験することにより、作製され得る。
【0178】
使用および適用
NACの使用
例えば、本明細書に開示される方法のいずれか1つにおける、幹細胞の凍結保存のためのNACの使用が開示される。
【0179】
医学的適用
幹細胞は、増え続けている数の疾患および障害を治療するために使用されている。このため、本明細書に開示される方法のいずれか1つに従って作製される幹細胞の集団、本明細書に開示される医薬組成物または本明細書に開示される凍結保存組成物は、療法において使用され得る。用語「療法」は、患者における疾患、障害または症状の治療および/または予防を網羅することを意図するものである。用語「対象」、「レシピエント」および「患者」は、本明細書において互換的に使用され、特に断りのない限り、療法を必要とする任意のヒトまたは非ヒト動物(例えば、哺乳動物)を指す。好ましい複数の実施形態において、患者はヒトである。患者がヒトである場合、幹細胞の集団は、一般にヒトのものである。
【0180】
それを必要とする患者における、瘻孔を治療する、かつ/または炎症性障害、自己免疫疾患、もしくは免疫介在性疾患、例えば、敗血症、関節リウマチ、アレルギー(例えば、IV型過敏性反応)、過敏性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎もしくは臓器拒絶反応を治療および/もしくは予防する方法における使用のための、本明細書に記載の幹細胞の集団、医薬組成物または凍結保存組成物が開示される。前記方法において使用される細胞の集団は、本明細書に開示される幹細胞の凍結保存の方法のいずれ1つにより作製され得る。
【0181】
また、それを必要とする患者における、瘻孔を治療する、かつ/または炎症性障害、自己免疫疾患、もしくは免疫介在性疾患、例えば、敗血症、関節リウマチ、アレルギー(例えば、IV型過敏性反応)、過敏性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎もしくは臓器拒絶反応を治療および/もしくは予防するための薬剤の製造のための、本明細書に記載の幹細胞の集団、医薬組成物または凍結保存組成物の使用も開示される。
【0182】
瘻孔を治療する、かつ/または炎症性障害、自己免疫疾患、もしくは免疫介在性疾患、例えば、敗血症、関節リウマチ、アレルギー(例えば、IV型過敏性反応)、過敏性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎もしくは臓器拒絶反応を治療および/もしくは予防する方法であって、前記方法が、それを必要とする対象に本明細書に開示される幹細胞の集団、医薬組成物または凍結保存組成物を投与すること含んでなる方法がさらに開示される。
【0183】
本明細書に記載の幹細胞の集団、医薬組成物または凍結保存組成物は、特に、前記幹細胞の集団がASCである場合、瘻孔を治療するために使用され得る。用語「瘻孔」は、通常、2つの内部器官間、または内部器官から身体の表面に通じている、あらゆる異常な通路または連絡または接続、例えば、通常は接続されない臓器または血管間の接続または通路を指す。例えば、瘻孔が生じる身体の領域に名前が由来する瘻孔の種類としては、肛門直腸瘻または痔瘻または糞瘻(直腸または他の肛門直腸領域と皮膚表面との間)、動静脈瘻またはA-V瘻(動脈と静脈との間)、胆汁瘻(胆管と皮膚表面との間、しばしば胆嚢手術に起因する)、頸瘻(頸部における異常開口)、頭蓋洞瘻(頭蓋内腔と副鼻腔との間)、腸腸瘻(腸の2つの部分間)、腸管皮膚瘻(腸と皮膚表面との間、すなわち、十二指腸または空腸または回腸から)、腸膣瘻(腸と膣との間)、胃瘻(胃と皮膚表面との間)、子宮腹膜瘻(子宮と腹膜腔との間)、外リンパ瘻(中耳と内耳との間の膜の間の裂傷)、肺動静脈瘻(肺の動脈と静脈との間、血液のシャントに至る)、直腸膣瘻(直腸と膣との間)、臍瘻(臍と腸との間)、気管食道瘻(気管と食道との間)ならびに膀胱膣瘻(膀胱と膣との間)が挙げられる。瘻孔の原因としては、外傷、医学的処置による合併症および疾患が挙げられる。クローン病および潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患が、肛門直腸瘻、腸腸瘻、および腸管皮膚瘻の主因である。特定の複数の実施形態において、瘻孔は、肛門周囲瘻、例えば、クローン病を有する患者における難治性複雑肛門周囲瘻である。幹細胞(例えば、同種異系ASC)の集団は、病変内注射のために約1億2,000万個(例えば、約500万個/mL)の用量で投与してもよい。
【0184】
それを必要とする患者における、瘻孔を治療する、かつ/または炎症性障害、自己免疫疾患、もしくは免疫介在性疾患、例えば、敗血症、関節リウマチ、アレルギー(例えば、IV型過敏性反応)、過敏性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎もしくは臓器拒絶反応を治療および/もしくは予防する方法における使用のための本明細書に開示される幹細胞の集団であって、前記方法が、以下の工程:(a)幹細胞の集団をNACで処理して、幹細胞の処理集団を得ること;(b)前記幹細胞の処理集団を凍結させて、幹細胞の凍結集団を得ること;(c)前記幹細胞の凍結集団を解凍して、幹細胞の解凍集団を得ること;(d)場合により、前記幹細胞の解凍集団を培養して、幹細胞の拡大集団を得ること;および(e)前記患者に前記幹細胞の集団を投与することを含んでなる幹細胞の集団が開示される。
【0185】
また、それを必要とする患者における、瘻孔を治療する、かつ/または炎症性障害、自己免疫疾患、もしくは免疫介在性疾患、例えば、敗血症、関節リウマチ、アレルギー(例えば、IV型過敏性反応)、過敏性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎もしくは臓器拒絶反応を治療および/もしくは予防するための薬剤の製造のための本明細書に開示される幹細胞の集団の使用であって、前記方法が、以下の工程:(a)幹細胞の集団をNACで処理して、幹細胞の処理集団を得ること;(b)前記幹細胞の処理集団を凍結させて、幹細胞の凍結集団を得ること;(c)前記幹細胞の凍結集団を解凍して、幹細胞の解凍集団を得ること;(d)場合により、前記幹細胞の解凍集団を培養して、幹細胞の拡大集団を得ること;および(e)前記患者に前記幹細胞の集団を投与することを含んでなる使用も開示される。
【0186】
それを必要とする患者における、瘻孔を治療する、かつ/または炎症性障害、自己免疫疾患、もしくは免疫介在性疾患、例えば、敗血症、関節リウマチ、アレルギー(例えば、IV型過敏性反応)、過敏性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎もしくは臓器拒絶反応を治療および/もしくは予防する方法であって、前記方法が、以下の工程:(a)幹細胞の集団をNACで処理して、幹細胞の処理集団を得ること;(b)前記幹細胞の処理集団を凍結させて、幹細胞の凍結集団を得ること;(c)前記幹細胞の凍結集団を解凍して、幹細胞の解凍集団を得ること;(d)場合により、前記幹細胞の解凍集団を培養して、幹細胞の拡大集団を得ること;および(e)前記患者に前記幹細胞の集団を投与することを含んでなる方法がさらに開示される。
【0187】
特定の複数の実施形態において、前記治療および/または予防の方法は、前記患者に前記幹細胞の集団を投与する前に、本明細書に開示される方法において定義される工程のいずれか1つ(例えば、「前処理」)をさらに含んでなる。
【0188】
それを必要とする患者における、瘻孔を治療する、かつ/または炎症性障害、自己免疫疾患、もしくは免疫介在性疾患、例えば、敗血症、関節リウマチ、アレルギー(例えば、IV型過敏性反応)、過敏性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎もしくは臓器拒絶反応を治療および/もしくは予防する方法における使用のための本明細書に記載の幹細胞の集団であって、前記方法が、以下の工程:(a)幹細胞の集団を凍結させて、幹細胞の凍結集団を得ること;(b)前記幹細胞の凍結集団を解凍して、幹細胞の解凍集団を得ること;(c)前記幹細胞の解凍集団をNACの存在下で培養して、幹細胞の拡大集団を得ること;および(d)前記患者に前記幹細胞の集団を投与することを含んでなる幹細胞の集団が開示される。
【0189】
また、それを必要とする患者における、瘻孔を治療する、かつ/または炎症性障害、自己免疫疾患、もしくは免疫介在性疾患、例えば、敗血症、関節リウマチ、アレルギー(例えば、IV型過敏性反応)、過敏性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎もしくは臓器拒絶反応を治療および/もしくは予防するための薬剤の製造のための本明細書に記載の幹細胞の集団の使用であって、前記方法が、以下の工程:(a)幹細胞の集団を凍結させて、幹細胞の凍結集団を得ること;(b)前記幹細胞の凍結集団を解凍して、幹細胞の解凍集団を得ること;(c)前記幹細胞の解凍集団をNACの存在下で培養して、幹細胞の拡大集団を得ること;および(d)前記患者に前記幹細胞の集団を投与することを含んでなる使用も開示される。
【0190】
それを必要とする患者における、瘻孔を治療する、かつ/または炎症性障害、自己免疫疾患、もしくは免疫介在性疾患、例えば、敗血症、関節リウマチ、アレルギー(例えば、IV型過敏性反応)、過敏性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎もしくは臓器拒絶反応を治療および/もしくは予防する方法であって、前記方法が、以下の工程:(a)幹細胞の集団を凍結させて、幹細胞の凍結集団を得ること;(b)前記幹細胞の凍結集団を解凍して、幹細胞の解凍集団を得ること;(c)前記幹細胞の解凍集団をNACの存在下で培養して、幹細胞の拡大集団を得ること;および(d)前記患者に前記幹細胞の集団を投与することを含んでなる方法がさらに開示される。
【0191】
特定の複数の実施形態において、前記治療および/または予防の方法は、前記患者に前記幹細胞の集団を投与する前に、本明細書に開示される方法において定義される工程のいずれか1つ(例えば、「解凍後処理」)をさらに含んでなる。
【0192】
前記幹細胞の集団、医薬組成物または凍結保存組成物は、およそ100万~1億5,000万個の幹細胞(例えば、同種異系ASC)の用量で投与してもよい。好ましい複数の実施形態において、幹細胞(例えば、同種異系ASC)は、およそ3,000万またはおよそ1億2,000万個の用量で投与してもよい。
【0193】
対象、特にヒト対象への本明細書に開示される幹細胞の集団、医薬組成物または凍結保存組成物の投与は、前記対象における標的部位への前記細胞の注射または移植により行ってもよい。例えば、対象への注射または移植による導入を促進する送達デバイスを使用してもよい。このような送達デバイスとしては、レシピエント対象の身体へ注射するためのチューブ、例えば、カテーテルが挙げられる。好ましい実施形態において、前記チューブは、所望の位置で前記対象に前記幹細胞の集団、医薬組成物または凍結保存組成物を導入することができる針、例えば、シリンジをさらに有する。
【0194】
好ましい複数の実施形態において、前記幹細胞の集団(前記医薬組成物および/または凍結保存組成物中のものを含む)は、ASCである。
【0195】
前記幹細胞は、同種異系または自己であり得る。
【0196】
対象化合物の毒性および治療効果は、例えば、LD50およびED50を決定するための細胞培養または実験動物における標準的な医薬手順により決定され得る。大きな治療指数を示す組成物が好ましい。中毒性副作用を示す化合物を使用してもよいが、副作用を低減させるために所望の部位に剤を標的とする送達システムを設計するように注意が必要である。
【0197】
細胞培養アッセイおよび動物試験から得られたデータは、ヒトにおける使用のための様々な用量の処方において使用され得る。任意の治療剤あるいはその中の任意の成分の用量は、一般に、毒性がほとんどないか全くないED50を含む循環濃度の範囲内にある。用量は、用いられる投与形および使用される投与経路に応じて、この範囲内で変動し得る。本発明の剤に関して、治療上有効な量は、細胞培養アッセイから最初に推定され得る。用量は、細胞培養において決定されたIC50(すなわち、症状の最大半量阻害を達成する試験化合物の濃度)を含む循環血漿濃度範囲を達成するために、動物モデルにおいて処方され得る。このような情報は、ヒトにおける有用な用量をより正確に決定するために使用され得る。血漿中のレベルは、例えば、高速液体クロマトグラフにより測定され得る。
【0198】
キット
クライオバイアルと、NACを含有する容器と、幹細胞の集団を含んでなる容器とを含んでなる凍結保存キットが開示される。前記キットは、その使用のための説明書を含んでなってもよい。複数のクライオバイアルと、NACを含有する容器と、幹細胞の集団を含んでなる容器とを含んでなる凍結保存キットが開示される。前記幹細胞の集団は、本明細書に開示される組成物または医薬組成物として、キットの中に提供され得る。
【0199】
一般的定義
特に定義されない限り、本明細書において使用される総ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者にとって一般に理解されるのと同じ意味を有する。
【0200】
冠詞「a」および「an」は、冠詞の文法的目的語の1つまたは1つ超(すなわち、少なくとも1つ)を指す。例として、「要素(an element)」は、1つの要素または1つ超の要素を意味する。
【0201】
用語「含んでなる(comprise)」および「含んでなる(comprising)」は、包括的なオープンセンスで使用され、追加の要素を含んでもよいことを意味する。
【0202】
一般に、多数の工程を「含んでなる」方法は、特定の順序で行う必要がある工程を必要としない。方法が、多数の連続的に番号が付されたまたはアルファベット順の工程(例えば、(1)、(2)、(3)または(a)、(b)、(c)など)を含んでなる場合、これは、工程が特に断りのない限り規定の順序で行わなければならないことを意味する。しかしながら、このような用語は、規定の工程の各々の間に追加の工程が行われる可能性を除外するものではない。
【0203】
用語「含む」は、本明細書において、「限定されるものではないが、~を含む」を意味するために使用される。「含む」および「限定されるものではないが、~を含む」は、互換的に使用される。
【実施例0204】
本発明を概ね説明してきたが、以下の実施例を参照することにより、より容易に理解されるであろう。以下の実施例は、本発明の特定の側面および実施形態を単に例示する目的で含まれるものであり、本発明を限定することを意図したものではない。
【0205】
実施例1 - ASCの単離および培養
ヒトサンプルを、インフォームドコンセント(組織調達部位に関する基準のスペイン倫理委員会により承認;Clinica de la Luz Hospital、マドリード、スペイン)の下で得た。ASCは、以前に公表された通りに得た(Manchenio-Corvo et al., Frontiers in Immunology (2017), 8, 462; Menta et al., Frontiers in Immunology (2014), 8, 462)。簡単に述べれば、健常ドナー由来のヒト脂肪吸引組織をリン酸緩衝食塩水(PBS)で2回洗浄し、0.075%コラゲナーゼ(I型、Invitrogen社、カールスバッド、カリフォルニア州、米国)で消化した。消化サンプルを10%ウシ胎仔血清(FBS)で洗浄し、160mM NH4Clで処理して残存する赤血球を除去し、培養培地(10%FBSを含有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM))に懸濁させた。細胞を組織培養フラスコに播種し、3~4日毎に培養培地を交換しながら拡大した(37℃、5%CO2)。細胞が90%コンフルエンスに達した場合、細胞を新しいフラスコに移した。細胞を最大12~14回重複して拡大し、10%DMSOを含有するFBS中で凍結させた(本明細書に記載の総ての実施例を通じて、ASCを凍結させる際、10%DMSOを含有するFBSを凍結培地として使用した)。実験は、12~14回集団倍加した3例の男性成人ドナーおよび3例の女性成人ドナー由来の細胞のプールを用いて行った。拡大ACS(eASC)は、国際細胞治療学会(International Society for Cellular Therapy)の基準に従った定義(Dominici et al., Cytotherapy (2006) 8(4): 315-317)を満たし、Becton Dickinson社(フランクリン・レイクス、ニュージャージー州、米国)からのCD73(AD2)およびCD90(5E10)ならびにBiolegend社(サンディエゴ、カリフォルニア州、米国)からのCD105(43A3)に対して陽性であり、Immunotech社(モンロビア、カリフォルニア州、米国)からのCD14(RM052)、Becton Dickinson社からのCD19(4G7)、HLA-DR(L243)、およびCD34(8G12)、ならびにBeckman Coulter社(ブレア、カリフォルニア州、米国)からのCD45(J33)に対して陰性であることが確認された。
【0206】
実施例2 - 解凍後のASC細胞数に対する種々の前処理工程の評価
ASC前処理
ドナーA由来のASCを、バイアルを37℃浴中で加温し、新鮮完全DMEM(DMEM/F-12培地 - GlutaMAX(商標)-I、Gibco社、100μg/mLペニシリン/ストレプトマイシンおよび10%FBSを補充)でDMSOを含有する凍結培地を希釈することにより、解凍した。細胞を室温にて450gで6分間遠心分離して、残りのDMSOを除去し、完全DMEM中20,000個/cm2でT-175フラスコに蒔いた。24時間の解凍後、細胞を、以下の表に示す好適な濃度の化合物で24時間処理した:
【0207】
【0208】
NAC(SIGMA社)の600mMストックを、Milli-Q水(Millipore社)中で調製した。このストックを、5mLの培地にウェルあたり50μLストック溶液を直接加え、終濃度6mMとすることにより、前処理および後処理に使用した。2mMに関しては、ウェルあたり16.7μLのみを加え、12mMの場合は、100μLのストックを加えた。DMSOを、sc79およびLY294に対するビヒクルとして使用した。
【0209】
前処理工程の後、培地を除去し、細胞をPBSで洗浄し、トリプシン-EDTA0.25%(ThermoFisher社)を使用して37℃で8分間トリプシン処理した。完全DMEMによるトリプシン不活化の後、細胞を回収し、凍結培地(10%DMSOを含有するFBS)に再懸濁させる前に遠心分離し、バイアルあたり50万または100万個に凍結させ、さらなる使用のために液体窒素中で保存した。具体的には、細胞をCool Cell(登録商標)デバイス(BioCision社)中で-80℃にて24時間凍結させ、次いで、液体窒素保存容器に移した。総ての実験は、インキュベーター中で37℃、5%CO2にて行った。
【0210】
解凍後の細胞数および成長に対する種々の前処理工程の評価
ASCを96ウェル平底プレートに播種し(ウェルあたり1,000または2,000個のASC)、24時間培養し、次いで、製造業者の説明書に従ってMTSアッセイ(CellTiter96(登録商標)Aqueous One Solution Cell Proliferation Assay;Promega社)を使用して、生細胞数を評価した。CellTiter96(登録商標)Aqueous One Solution Cell Proliferation Assayは、生細胞の数を決定するための比色法である。CellTiter96(登録商標)AQueous One Solution Reagentは、テトラゾリウム化合物[3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-5-(3-カルボキシメトキシフェニル)-2-(4-スルホフェニル)-2H-テトラゾリウム、MTS]および電子カップリング試薬(フェナジンエトスルファート;PES)を含有する。MTSテトラゾリウム化合物は、細胞により(おそらく、代謝活性細胞中のデヒドロゲナーゼ酵素により産生されるNADPHまたはNADHにより)、組織培養培地に可溶性である有色ホルマザン産物に生体内還元される。
【0211】
簡単に述べれば、40μLの試薬を各ウェル中200μLの完全DMEMに加え、Navisionシステム(Microsoft社)を使用して、490nmにて2~3時間後に吸光度を測定した。各条件は、6回の技術的反復で測定した。MTSアッセイの結果は、無処理(NT)細胞と比較した、490nmの吸光度のパーセンテージとして示す。
【0212】
NAC前処理は、MTSアッセイ(
図2)および細胞密度(
図3)により評価されたように、無処理(NT)と比較して、播種後24時間において細胞数の増加をもたらした。
【0213】
NACに加えて、エキセンディン-4、IL6、sc79およびLY294による前処理を評価した。Sc79は、増殖および生存促進シグナルであるPI3K経路のアクチベーターであり(Jo et al. Proceedings of the National Academy of Sciences (2012), 109(26): 10581-10586, Chen et al. Oncotarget (2017) 8(19): 31065-31078)、LY294は、Zonca et al., (2012) Tissue Engineering: Part A 18(7-8): 852-859およびGharibi et al., (2014) Stem Cells 32: 2256-2266において使用されたこの同じ経路の阻害剤分子である。DMSOを、sc79およびLY294に対するビヒクルとして使用した。NAC以外の化合物による前処理は、細胞数に対する再現性のある効果を示さなかった。
【0214】
実施例3 - 解凍後のASC細胞数に対するNAC前処理工程のさらなる評価
ASC増殖アッセイ
ドナーAまたはドナーB最終原薬(FDS)からの実施例2に記載の方法に従ってNACで前処理したASCを、バイアルを37℃浴中で加温し、新鮮完全DMEMでDMSO(10%DMSOを含有するFBS)を含有する凍結培地を迅速に希釈することにより、解凍した。細胞を室温にて450gで6分間遠心分離して、残りのDMSOを除去し、ウェルあたり5mLの完全DMEM中ウェルあたり3,000個でP6ウェルプレート(Falcon #353046)に三重反復で蒔いた。細胞を1倍PBSで洗浄し、トリプシン-EDTA0.25%(ThermoFisher社)を使用して37℃で8分間トリプシン処理した。完全DMEMによるトリプシン不活化の後、細胞を回収し、遠心分離し、新鮮DMEMに再懸濁させた;三重反復ウェルを計数目的で単一サンプルとして統合した。細胞を、Invitrogen Countess Automated Cell Counter(Invitrogen社)を使用して播種し、生存率染色としてトリパンブルーを加えた後の24時間、96時間および7日において三重反復で計数した(
図4A)。細胞密度の計算は、表面単位(cm
2)あたりの生存可能なASC(トリパンブルーに対して陰性)の数を使用して行った。
【0215】
NACによる前処理は、24時間および4日において計数した細胞の数を増加させた(
図4Aに示されるように、解凍後4日における無処理対照における9,200個/cm
2と比較して、12,500個)。これらの所見は、NAC前処理後にミトコンドリア活性の15~20%の増加を示す、並行して行ったMTSデータ(
図4BおよびC)により支持された。ASCの成長は、7日目前にコンフルエンシーに達し、したがって、4日目と比較して、この時点での有意な成長はみられない。
【0216】
上記で考察したデータを再確認するために、2例の異なるASCドナー(ドナーA(DON A)およびドナーB(DON B))によるNAC前処理後に、成長アッセイを行った。細胞数を、各ドナーに対して、NAC前処理細胞または無処理細胞を解凍した後の1、4および7日目に分析した(
図5AおよびB)。両ドナーからの細胞は、播種後24時間から細胞数の増加を示し、この増加は、培養下で1週間維持された(
図5)。このデータは、NAC前処理は凍結解凍回収後の細胞数を増加させることを確認するものである。
【0217】
実施例4 - 解凍後の細胞成長に対する異なる濃度のNACによる解凍後処理の効果
細胞成長に対する異なる濃度のNACによる解凍後処理(解凍後NAC処理)の効果も検討した。ASCを凍結させ(NAC前処理なし)、上記で考察したように解凍し、次いで、プレーティングする前に完全DMEM中の3つの異なるNAC濃度(2、6および12mM)で処理し、4、11および14日目の細胞数を分析した。2mM NACによる解凍後処理は、培養下で最大2週間持続した細胞数の増加をもたらした(
図6)。6mMおよび12mM NACによる解凍後処理後に認められた低い細胞密度に関する1つの考えられる説明は、これらの濃度のNACは、プレートに対する解凍後(「浮遊」)ASCの接着に対して影響を及ぼし得るというものである。
【0218】
実施例5 - NAC前処理は、解凍および培養後のASCの同一性に影響を及ぼさない 4つの表面マーカー(CD29、CD73、CD90およびCD105、国際細胞治療学会(International Society for Cellular Therapy)の基準に一致(Dominici et al., Cytotherapy (2006) 8(4): 315-317))の発現を使用して、実施例2に記載の方法に従って6mMの濃度でNACによる前処理を行った後の解凍および拡大ASCの同一性を確認した。
【0219】
細胞の同一性は、培養下(解凍後)で2週間後に、標準的なプロトコールに従って分析した。回収した細胞を、以下の表に示す好適な濃度の抗体(製造業者の説明書に従って希釈)で染色し、FACSCaliburサイトメーター(BD社)を使用して評価した。
【0220】
【0221】
データは、FCS Expressソフトウェアを使用して分析した。
図7は、細胞がCD29、CD73、CD90およびCD105を発現することを示しており、凍結前の細胞のNAC前処理は、解凍および培養後のASC同一性マーカーの発現を変化させないことを確認するものである。
【0222】
実施例6 - NAC前処理は、刺激リンパ球の増殖を阻害する解凍ASCの能力に有意に影響を及ぼさない
NACによるASCの前処理がin vitroにおける成長の利点をもたらしたことを示した後、NAC前処理がACSの機能特性に影響を及ぼしたかどうかを確認するために実験を行った。第1に、刺激リンパ球の増殖を阻害する解凍および拡大ASC(実施例2における方法に従ってNACで前処理した)の能力を測定した。
【0223】
免疫抑制アッセイに関して以前に公表された通りに(Manchenio-Corvo et al., Frontiers in Immunology (2017), 8, 462; Menta et al., Frontiers in Immunology (2014), 8, 462)、National Transfusion Centre of the Comunidad Autonoma of Madridにより提供されたバフィーコートから、Ficoll-Paque Plus(GE Healthcare Biosciences AB社、ウプサラ、スウェーデン)を使用した密度勾配遠心分離により末梢血単核細胞(PBMC)を単離し、脾細胞をC57/BL6雄マウスから得た。
カルボキシフルオレセインジアセテートN-サクシニミジルエステル(CFSE)標識化のために、PBMCまたは脾細胞を徹底的に洗浄してFBSを除去し、10μM CFSE(Sigma-Aldrich社、セントルイス、ミズーリ州、米国)溶液に再懸濁させ(溶液200μlあたり107個のPBMCまたは脾細胞)、37℃で10分間一定に振り混ぜながらインキュベートした。氷冷培地(RPMI+10%FBS)を加えることにより反応を停止させ、細胞を氷冷PBSで3回洗浄した。次いで、細胞を一晩培養し、1つのアリコートを使用して、CFSEのためのFL-1電圧を設定および制御した。一晩静置した後、CFSE標識PBMCを、製造業者の説明書に従ってPan T Cell Activation Kit(抗CD3、抗CD2、および抗CD28で被覆されたミクロビーズ;Miltenyi Biotec社、オーバーン、カリフォルニア州、米国)で活性化した。CFSE標識脾細胞を、抗CD3(Becton Dickinson社)およびIL-2(Novartis社、バーゼル、スイス)で活性化した。PBMCまたは脾細胞(100万個/ウェル)を、全容量2mLのRPMI+10%FBS中で、単独でまたはeASCとともに(4×104個/ウェル;eASC:PBMCまたはeASC:脾細胞の比1:25)、24ウェルプレート中で培養した。ASC:PBMC比1:75は、最適以下の条件下でのサンプル間の差の評価を可能とするものであった。PBMCに関しては5日後、脾細胞に関しては3日後に、細胞を回収し、7-AADおよび抗CD3抗体で標識し、CD3+/7-AAD-集団(生存可能なCD3 Tリンパ球)の細胞増殖を、CFSEシグナルの損失に従って、フローサイトメトリーにより決定した。データは、FCSExpress4(De Novo Software社、グレンデール、カリフォルニア州、米国)およびBD CellQuest(商標)Pro分析(Becton Dickinson社)ソフトウェアを使用して分析した。CaliBRITEビーズ(BD Bioscience社、エーレムボーデゲム-アールスト、ベルギー)を使用して、サイトメーターにおける収集イベントを較正した。
【0224】
凍結前にNACで前処理されたASCの阻害能は、無処理細胞と類似していた(
図8)(NAC前処理がASCの阻害能を増強するわずかな傾向も、1つまたは2つの実験で認められた)。
【0225】
実施例7 - マクロファージおよびmDCの分化および機能に対するASCの効果に対するNAC前処理の評価
ASCの免疫調節能におけるNACの効果を評価するために実施した第2の機能的in vitroアッセイは、単球分化の調節であった。
図9は、実験のタイミングおよびセットアップを示す。
【0226】
血液サンプル
バフィーコートをTransfusions Center at Comunidad de Madridから得た。約50~60mLの血液を、室温のPBSで希釈し、15mLの室温のFicoll Hypaque Plusの上の50mLチューブ間に分配した。次いで、チューブを、ブレーキまたは加速化をすることなく、10℃にて2,000rpmで40分間遠心分離した。PBMCの白色リングを回収し、50mLの冷PBS中で洗浄し、ブレーキまたは加速化をすることなく10℃にて1,800rpmで15分間遠心分離した。50mLの冷RPMI完全培地(10%FBS、2mM L-Gluおよび100μg/ml Pen/Strepを含有するRPMIc:RPMI)による2回目の洗浄後、チューブを、ブレーキおよび加速化をしながら10℃にて1,500rpmで15分間遠心分離した。最終洗浄を50mLの冷RPMIcで行い、ブレーキおよび加速化をしながら10℃にて1,200rpmで15分間遠心分離した。PBMCをRPMIcに再懸濁させ、計数した。細胞を冷RPMIcに1億個/mLで再懸濁させ、10%DMSOを補充した同じ容量の冷RPMIcを加え、すなわち、終濃度5%DMSOとした。PBMCを、5,000万個のPBMCのバイアル中の液体窒素中で凍結させた。
【0227】
CD14
+
単球の単離
PBMCの凍結バイアルを解凍し、計数し、製造業者の説明書に従って、Dynabeads Untouched Human Monocytesキット(Dynal #11350D)を使用してCD14+CD16-単球を単離した。
【0228】
ヒト単球の培養および分化
単離されたCD14+CD16-単球(上記参照)を、酸素正常状態で、6ウェル(Falcon #353046)あたり150万個で5mLのRPMIcに蒔いた。非極性化M0マクロファージへの分化または単培養下でのM1、M2マクロファージおよび成熟樹状細胞(mDC)集団へのさらなる極性化のために、以下の因子を加えた(Beyer et al., PLoS One (2012) 7(9): e45466; Erbel et al., J. Vis. Exp. (2013) 76: e50332; Zhou et al, 2014; Tarique et al, American Journal of Respiratory Cell and Molecular Biology 2015;53(5):676-688を含む、いくつかの刊行物に基づく)。
未成熟DC(iDC):RPMIc+5ng/mL GM-SCF+10ng/mL IL-4を5日間
DC(mDC)の成熟:5日目に、40ng/mL LPSを加える(すなわち、400ng/mL LPSを補充した500μL/ウェルのRPMIcを既存の培地に加える)。
ヒト組換えGM-CSF(#100-22B)およびIL-4(#200-04)は、Peprotech社のものであった。LPS(#L8274)は、SIGMA社のものであった。GM-CSFおよびIL4の添加は、未成熟樹状細胞(iDC)への分化を媒介する;5日後、LPSの添加により、mDCへのiDCの成熟を誘導し、2日後、これらの成熟DCの表現型および機能をASCの存在下または非存在下で分析した。
【0229】
ASCによる共培養実験
新鮮単離ヒトCD14+CD16-単球を、ポリカーボネート6ウェルトランズウェル(Corning #3412インサートおよびFalcon #353046プレート)中で、ドナーAまたはドナーB由来ASCとともに共培養した。
【0230】
NAC前処理ASC(実施例2における方法に従って)、または無処理ASCを解凍し、1mLのRPMIc培地中での共培養の設定前16時間または24時間において、150,000個のASCをトランズウェルインサートに蒔き、150万個の単球を4mLのRPMIc培地中のウェルの底に入れた。単球単独の分化と同じ因子を使用して、分化を行った(上記参照、すなわち、GM-CSFおよびIL4の添加により、iDCへの分化を誘導し;5日後、LPSの添加により、mDCへのiDCの成熟を誘導し、2日後、これらの成熟DCの表現型および機能をASCの存在下または非存在下で分析した)。ASCは、分化プロセスの全期間、トランズウェルインサート中で維持した。
【0231】
活性化クラスターは、NAC前処理ASCまたは無処理ASCとのmDCの共培養後、プレート上に形成せず、ASCはmDCの活性化を調節し、この効果はNAC前処理により妨害されないことが示された(倍率2倍(
図10)および倍率20倍(
図11)の顕微鏡像を参照)。
【0232】
実施例8 - NAC前処理は、mDCによる黄色ブドウ球菌粒子の食作用を調節するASCの能力を有意に変化させない
黄色ブドウ球菌粒子を貪食するmDCの能力を調節する解凍ACSの能力に対するNAC前処理(実施例2における方法に従った)の効果を分析した。
【0233】
in vitroでの単培養または共培養における分化の後(使用したサイトカイン、濃度および分化時間を含む分化条件は、実施例7において示している)、マクロファージおよびmDCを、0.05%トリプシン-EDTAを使用して37℃で10分間回収した。極性化マクロファージまたはmDCの食作用能を、製造業者の説明書に従って、pHRodo Red結合黄色ブドウ球菌粒子(Life Technologies #A10010)を使用して評価した。簡単に述べれば、50,000個のmDCを96ウェルU底ウェル(Corning #3799)に移し、細胞をRPMIc中で60分間静置した。凍結乾燥pHRodo結合粒子を、使用前にバイアルあたり1mLのRPMIc中で溶解し、粒子を20%の振幅で5分間超音波処理した。次いで、ウェルあたり50μLのpHRodo Zymosanを加え、細胞を37℃にて酸素正常状態で60分間インキュベートした。その後、氷上で食作用を停止させ、細胞を洗浄し、Fortessaサイトメーター(BD社)でのFACS分析の前に、5μL 7-アミノアクチノマイシンD(7AAD)で染色した。食作用に関する陰性対照は、pHRodo試薬なしの細胞とした。結果は、FlowJoソフトウェアで分析した。PEチャネルにおける蛍光の強度は、細胞あたり貪食された細菌粒子の量と比例している。
【0234】
図12は、非接触条件下(すなわち、mDCおよびASC細胞をトランズウェルプレート中で共培養した)でのASCの存在は、蛍光チャネルにおいてより強い細胞、すなわち、貪食された蛍光粒子を有する細胞の新たな集団の出現をもたらすことを示している。NACによるASCのNAC前処理は、mDCの食作用能を増大するそれらの能力を変化させなかった。
【0235】
実施例9 - 成熟樹状細胞上の表面発現に対するASC媒介効果に対するNAC前処理の効果
細菌を貪食するmDCの能力は、CD209(DC-SIGN)、CD206(マンノース受容体)またはCD163(スカベンジャー受容体)などの食作用マーカーの発現と関連している。これらの膜受容体は、真菌、細菌および寄生虫の表面上の特異的なパターンを認識し、単球、マクロファージおよびDCによるそれらの食作用を媒介する。CD163受容体は、組織損傷後のアポトーシス細胞からの細胞デブリのクリアランスにさらに介入し、創傷治癒のプロセスに寄与する。
【0236】
成熟樹状細胞による食作用受容体CD206(マンノース受容体)およびCD163(スカベンジャー受容体)の表面発現に対する解凍ASC媒介効果に対するNAC前処理(実施例2に従った)の効果を、フローサイトメトリーにより測定した。
【0237】
表現型キャラクタリゼーション
in vitroでの単培養または共培養における分化の後(使用したサイトカイン、濃度および分化時間を含む分化条件は、実施例7において示している)、上清を回収し、今後のサイトカインおよび/またはHPLC分析のために凍結させた後、マクロファージおよびmDCを、0.05%トリプシン-EDTAを使用して37℃で10分間回収した。mDCを計数した後、それらを染色のための96ウェルV底プレート(Nunc #249570)に分配した。細胞を、1%ヒト血清を含有するBlue MACS緩衝液中で氷上にて15分間インキュベートし、Fcγ受容体媒介非特異的抗体結合をブロッキングした。その後、細胞を以下の抗体ミックスで氷上にて20分間染色した(50μLの1:10抗体希釈液中で染色;CD64は例外で、1:20希釈であった):
【0238】
【0239】
使用した抗体の詳細を、以下の表に示す:
【0240】
【0241】
ウェルあたり5μLの7AADを加え、氷上で10分間染色することにより、細胞生存率を評価し、サンプルをBD Fortessaサイトメーターにおいて取得した。結果は、FSC Expressソフトウェアで分析した。
【0242】
細菌を貪食するmDCの能力は、CD209(DC-SIGN)、CD206(マンノース受容体)またはCD163(スカベンジャー受容体)などの食作用マーカーの発現と関連している。これらの膜受容体は、真菌、細菌および寄生虫の表面上の特異的なパターンを認識し、単球、マクロファージおよびDCによるそれらの食作用を媒介する。CD163受容体は、組織損傷後のアポトーシス細胞からの細胞デブリのクリアランスにさらに介入し、創傷治癒のプロセスに寄与する。成熟樹状細胞による食作用受容体CD206(マンノース受容体)およびCD163(スカベンジャー受容体)の表面発現に対する解凍ASC媒介効果に対するNAC前処理(実施例2に従った)の効果を、フローサイトメトリーにより測定した。
【0243】
ASCは、単球、マクロファージおよびmDCの表面上のCD206およびCD163マーカーの発現をアップレギュレートし、このアップレギュレーションは、ASCをNACで前処理した場合でさえ、インタクトであった(
図13および14)。
【0244】
成熟樹状細胞上のCD14およびCD1aの表面発現に対する解凍ASC媒介効果に対するNAC前処理(実施例2に従った)の効果も、フローサイトメトリーにより測定した。mDCはCD14-CD1a+である。CD1aは、抗原提示分子であり、免疫系の他の細胞へのmDCによる抗原の提示を媒介し、それらの応答を活性化する。ASCは、これらのmDCの表現型を調節して、それらをCD14+CD1a-細胞に変える。この集団は、抗炎症特性および調節特性を有している(Chang et al., Journal of Immunology, 165(7), 3584-3591)。
【0245】
図15は、ASCのNAC前処理は、このmDC調節集団の形成を誘導する解凍ASCの能力を変化させないことを示している。
【0246】
番号が付された実施形態
本発明はまた、以下の番号が付された実施形態を提供する:
【0247】
1.幹細胞の凍結保存の方法であって、前記方法が、以下の工程:
a.幹細胞の集団をN-アセチルシステイン(NAC)で処理して、幹細胞の処理集団を得ること;および
b.前記幹細胞の処理集団を凍結させて、幹細胞の凍結集団を得ること
を含んでなる、方法。
【0248】
2.前記方法が、以下の工程:
a.前記幹細胞の集団をNACで処理して、幹細胞の処理集団を得ること;
b.前記幹細胞の処理集団を凍結させて、幹細胞の凍結集団を得ること;および
c.前記幹細胞の凍結集団を解凍して、幹細胞の解凍集団を得ること
を含んでなる、実施形態1に記載の方法。
【0249】
3.前記方法が、以下の工程:
a.前記幹細胞の集団をNACで処理して、幹細胞の処理集団を得ること;
b.前記幹細胞の処理集団を洗浄して、NACを除去し、かつ幹細胞の洗浄集団を得ること、および前記幹細胞の洗浄集団を凍結させて、幹細胞の凍結集団を得ること;ならびに
c.前記幹細胞の凍結集団を解凍して、幹細胞の解凍集団を得ること
を含んでなる、実施形態1または実施形態2に記載の方法。
【0250】
4.前記処理工程が、前記幹細胞の集団を凍結させる前に、前記幹細胞の集団をNACで少なくとも約1、2、4、6、8、10、12、16、24または48時間インキュベートすることを含んでなる、実施形態1~3のいずれか一項に記載の方法。
【0251】
5.前記処理工程が、NACを前記幹細胞の集団に加えて、およそ0.5~10mMの範囲の初濃度とすることを含んでなる、実施形態1~4のいずれか一項に記載の方法。
【0252】
6.前記処理工程が、NACの濃度を事前選択されたレベルに維持するためのNACの1回以上のさらなる添加を含んでなる、実施形態5に記載の方法。
【0253】
7.前記方法が、以下の工程:
d.前記幹細胞の解凍集団を培養して、幹細胞の拡大集団を得ること
をさらに含んでなる、実施形態2~6のいずれか一項に記載の方法。
【0254】
8.前記方法が、以下の工程:
d.前記幹細胞の解凍集団をNACの存在下で培養して、幹細胞の拡大集団を得ることをさらに含んでなる、実施形態2~6のいずれか一項に記載の方法。
【0255】
9.前記培養工程が、NACを加えて、およそ0.5~5mMの範囲の初濃度とすることを含んでなる、実施形態8に記載の方法。
【0256】
10.前記培養工程が、NACの濃度を事前選択されたレベルに維持するためのNACの1回以上のさらなる添加を含んでなる、実施形態9に記載の方法。
【0257】
11.前記方法が、前記幹細胞の拡大集団を洗浄して、NACを除去し、かつ幹細胞の洗浄および拡大集団を得る工程をさらに含んでなる、実施形態8~10のいずれか一項に記載の方法。
【0258】
12.前記方法が、前記幹細胞の解凍集団または前記幹細胞の拡大集団を洗浄し、かつ前記細胞を薬学上許容可能な担体に再懸濁させる工程をさらに含んでなる、実施形態2~11のいずれか一項に記載の方法。
【0259】
13.前記方法が、以下の工程:
e.前記幹細胞の拡大集団または前記幹細胞の洗浄および拡大集団を凍結させて、幹細胞の凍結拡大集団または幹細胞の凍結、洗浄および拡大集団を得ること
をさらに含んでなる、実施形態7~12のいずれか一項に記載の方法。
【0260】
14.前記方法が、以下の工程:
e.前記幹細胞の拡大集団または前記幹細胞の洗浄および拡大集団を凍結させて、幹細胞の凍結拡大集団または幹細胞の凍結、洗浄および拡大集団を得ること;ならびに
f.前記幹細胞の凍結拡大集団または前記幹細胞の凍結、洗浄および拡大集団を解凍して、幹細胞の解凍拡大集団を得ること
をさらに含んでなる、実施形態7~13のいずれか一項に記載の方法。
【0261】
15.前記方法が、以下の工程:
g.前記幹細胞の解凍拡大集団を洗浄し、かつ前記細胞を薬学上許容可能な担体に再懸濁させること
をさらに含んでなる、実施形態14に記載の方法。
【0262】
16.幹細胞の凍結保存の方法であって、前記方法が、以下の工程:
a.幹細胞の集団を凍結させて、幹細胞の凍結集団を得ること;
b.前記幹細胞の凍結集団を解凍して、幹細胞の解凍集団を得ること;および
c.前記幹細胞の解凍集団をNACの存在下で培養して、幹細胞の拡大集団を得ることを含んでなる、方法。
【0263】
17.前記培養工程が、NACを加えて、およそ0.5~5mMの初濃度とすることを含んでなる、実施形態16に記載の方法。
【0264】
18.前記培養工程が、NACの濃度を事前選択されたレベルに維持するためのNACの1回以上のさらなる添加を含んでなる、実施形態17に記載の方法。
【0265】
19.前記凍結工程が、約-0.5~約-10℃/分の速度で温度を-70℃~-130℃に下げることを含んでなる、実施形態1~18のいずれか一項に記載の方法。
【0266】
20.前記凍結工程が、10~60分で温度を+4℃から-100~-180℃に下げることを含んでなる、実施形態1~19のいずれか一項に記載の方法。
【0267】
21.前記幹細胞の集団が、37℃で解凍される、実施形態1~20のいずれか一項に記載の方法。
【0268】
22.前記幹細胞の凍結集団の細胞密度が、およそ100万~およそ5,000万個/mLの範囲、好ましくは、およそ2,500万個/mLである、実施形態1~21のいずれか一項に記載の方法。
【0269】
23.前記幹細胞の集団が、実質的に純粋である、実施形態1~22のいずれか一項に記載の方法。
【0270】
24.前記幹細胞が間葉系幹細胞(MSC)である、実施形態1~23のいずれか一項に記載の方法。
【0271】
25.前記幹細胞が脂肪由来間質幹細胞(ASC)である、実施形態1~24のいずれか一項に記載の方法。
【0272】
26.前記幹細胞がヒト細胞である、実施形態1~25のいずれか一項に記載の方法。
【0273】
27.前記方法が、前記細胞を薬学上許容可能な担体に再懸濁させる工程をさらに含んでなる、実施形態1~26のいずれか一項に記載の方法。
【0274】
28.前記方法が、前記幹細胞の集団を複数のクライオバイアル中で凍結させることを含んでなる、実施形態1~27のいずれか一項に記載の方法。
【0275】
29.前記方法が、幹細胞の複数の集団に対して実施形態1~28のいずれか一項に記載の工程を反復することを含んでなる、実施形態1~28のいずれか一項に記載の方法。
【0276】
30.前記方法が、前記幹細胞の複数の集団を複数のクライオバイアル中で凍結させることを含んでなる、実施形態29に記載の方法。
【0277】
31.前記方法が、前記複数の凍結保存バイアルを液体窒素保存容器中で少なくとも1ヵ月間、少なくとも2ヵ月間、少なくとも3ヵ月間、少なくとも6ヵ月間、または少なくとも1年間保存することを含んでなる、実施形態28または実施形態30に記載の方法。
【0278】
32.実施形態28または実施形態30に記載の方法に従って得られる複数の凍結保存バイアルを含有する、液体窒素保存容器。
【0279】
33.実施形態1~31のいずれか一項に記載の方法により得られる、幹細胞の集団。
【0280】
34.解凍後および場合により約1日間または約4日間の培養後の生細胞の数が、幹細胞の対照集団と比較して増加する、実施形態1~31のいずれか一項に記載の方法または実施形態33に記載の幹細胞の集団。
【0281】
35.解凍後の生細胞の数が、幹細胞の対照集団と比較して少なくとも約1.05倍、少なくとも約1.1倍、少なくとも約1.2倍、少なくとも約1.3倍、少なくとも約1.4倍、少なくとも約1.5倍、少なくとも約1.6倍、少なくとも約2倍、または少なくとも約5倍増加する、実施形態1~31および34のいずれか一項に記載の方法または実施形態33もしくは34に記載の幹細胞の集団。
【0282】
36.解凍後の成長率が、幹細胞の対照集団と比較して、前記幹細胞の集団において少なくとも約1.03倍、少なくとも約1.05倍、少なくとも約1.1倍、少なくとも約1.15倍、少なくとも約1.2倍、少なくとも約1.25倍、少なくとも約1.3倍、少なくとも約1.4倍、少なくとも約1.6倍、または少なくとも約2倍増加する、実施形態1~31、34もしくは35のいずれか一項に記載の方法または実施形態33~35に記載の幹細胞の集団。
【0283】
37.解凍後および場合により約1日間または約4日間の培養後のミトコンドリア活性が、幹細胞の対照集団と比較して少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%または少なくとも約50%増加する、実施形態1~31、34~36のいずれか一項に記載の方法または実施形態33~36に記載の幹細胞の集団。
【0284】
38.解凍後にASCを回収するのに要する時間が、幹細胞の対照集団と比較して減少する、実施形態1~31、34~37のいずれか一項に記載の方法または実施形態33~37に記載の幹細胞の集団。
【0285】
39.解凍後に細胞を回収するのに要する時間が、幹細胞の対照集団と比較して少なくとも約1.1倍、少なくとも約1.2倍、少なくとも約1.4倍、少なくとも約1.6倍、少なくとも約2倍、少なくとも約3倍、少なくとも約4倍、または少なくとも約5倍減少する、実施形態1~31、34~38のいずれか一項に記載の方法または実施形態33~38に記載の幹細胞の集団。
【0286】
40.実施形態33~38のいずれか一項に記載の幹細胞の集団と凍結保存培地とを含んでなる、凍結保存組成物。
【0287】
41.前記組成物が凍結される、実施形態40に記載の凍結保存組成物。
【0288】
42.前記組成物がNACを含有する、実施形態40または実施形態41に記載の凍結保存組成物。
【0289】
43.実施形態33~38のいずれか一項に記載の幹細胞の集団と薬学上許容可能な担体とを含んでなる、医薬組成物。
【0290】
44.前記組成物が、およそ100万個の細胞~およそ1億5,000万個の細胞、好ましくは、およそ3,000万個の細胞またはおよそ1億2,000万個の細胞を含んでなる、実施形態43に記載の医薬組成物。
【0291】
45.前記細胞密度が、およそ100万~2,000万個/mLである、実施形態43または実施形態44に記載の医薬組成物。
【0292】
46.幹細胞の凍結保存のための、NACの使用。
【0293】
47.実施形態1~31および34~39のいずれか一項に記載の方法における、実施形態46に記載のNACの使用。
【0294】
48.療法における使用のための、実施形態33~39のいずれか一項に記載の幹細胞の集団、実施形態43~45のいずれか一項に記載の医薬組成物または実施形態40~42のいずれか一項に記載の凍結保存組成物。
【0295】
49.それを必要とする患者における、瘻孔を治療する、かつ/または炎症性障害、自己免疫疾患、もしくは免疫介在性疾患、例えば、敗血症、関節リウマチ、アレルギー(例えば、IV型過敏性反応)、過敏性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎もしくは臓器拒絶反応を治療および/もしくは予防する方法における使用のための、実施形態33~39のいずれか一項に記載の幹細胞の集団、実施形態43~45のいずれか一項に記載の医薬組成物または実施形態40~42に記載の凍結保存組成物。
【0296】
50.瘻孔を治療する、かつ/または炎症性障害、自己免疫疾患、もしくは免疫介在性疾患、例えば、敗血症、関節リウマチ、アレルギー(例えば、IV型過敏性反応)、過敏性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎もしくは臓器拒絶反応を治療および/もしくは予防する方法であって、前記方法が、それを必要とする対象に実施形態33~39のいずれか一項に記載の幹細胞の集団、実施形態43~45のいずれか一項に記載の医薬組成物または実施形態40~42に記載の凍結保存組成物を投与すること含んでなる、方法。
【0297】
51.それを必要とする患者における、瘻孔を治療する、かつ/または炎症性障害、自己免疫疾患、もしくは免疫介在性疾患、例えば、敗血症、関節リウマチ、アレルギー(例えば、IV型過敏性反応)、過敏性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎もしくは臓器拒絶反応を治療および/もしくは予防する方法における使用のための幹細胞の集団であって、前記方法が、以下の工程:
a.幹細胞の集団をNACで処理して、幹細胞の処理集団を得ること;
b.前記幹細胞の処理集団を凍結させて、幹細胞の凍結集団を得ること;
c.前記幹細胞の凍結集団を解凍して、幹細胞の解凍集団を得ること;
d.場合により、前記幹細胞の解凍集団を培養して、幹細胞の拡大集団を得ること;
および
e.前記患者に前記幹細胞の集団を投与すること
を含んでなる、幹細胞の集団。
【0298】
52.それを必要とする患者における、瘻孔を治療する、かつ/または炎症性障害、自己免疫疾患、もしくは免疫介在性疾患、例えば、敗血症、関節リウマチ、アレルギー(例えば、IV型過敏性反応)、過敏性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎もしくは臓器拒絶反応を治療および/もしくは予防する方法であって、前記方法が、以下の工程:
a.幹細胞の集団をNACで処理して、幹細胞の処理集団を得ること;
b.前記幹細胞の処理集団を凍結させて、幹細胞の凍結集団を得ること;
c.前記幹細胞の凍結集団を解凍して、幹細胞の解凍集団を得ること;
d.場合により、前記幹細胞の解凍集団を培養して、幹細胞の拡大集団を得ること;
および
e.前記患者に前記幹細胞の集団を投与すること
を含んでなる、方法。
【0299】
53.前記方法が、前記患者に前記幹細胞の集団を投与する前に、実施形態3~14、18~31または34~39に定義される工程のいずれか1つをさらに含んでなる、実施形態51に記載の使用のための幹細胞の集団または実施形態52に記載の治療の方法。
【0300】
54.それを必要とする患者における、瘻孔を治療する、かつ/または炎症性障害、自己免疫疾患、もしくは免疫介在性疾患、例えば、敗血症、関節リウマチ、アレルギー(例えば、IV型過敏性反応)、過敏性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎もしくは臓器拒絶反応を治療および/もしくは予防する方法における使用のための幹細胞の集団であって、前記方法が、以下の工程:
a.幹細胞の集団を凍結させて、幹細胞の凍結集団を得ること;
b.前記幹細胞の凍結集団を解凍して、幹細胞の解凍集団を得ること;
c.前記幹細胞の解凍集団をNACの存在下で培養して、幹細胞の拡大集団を得ること;および
d.前記患者に前記幹細胞の集団を投与すること
を含んでなる、幹細胞の集団。
【0301】
55.それを必要とする患者における、瘻孔を治療する、かつ/または炎症性障害、自己免疫疾患、もしくは免疫介在性疾患、例えば、敗血症、関節リウマチ、アレルギー(例えば、IV型過敏性反応)、過敏性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎もしくは臓器拒絶反応を治療および/もしくは予防する方法であって、前記方法が、以下の工程:
a.幹細胞の集団を凍結させて、幹細胞の凍結集団を得ること;
b.前記幹細胞の凍結集団を解凍して、幹細胞の解凍集団を得ること;
c.前記幹細胞の解凍集団をNACの存在下で培養して、幹細胞の拡大集団を得ること;および
d.前記患者に前記幹細胞の集団を投与すること
を含んでなる、方法。
【0302】
56.前記方法が、前記患者に前記幹細胞の集団を投与する前に、実施形態15~31または34~39のいずれか一項に定義される工程のいずれか1つをさらに含んでなる、実施形態54に記載の使用のための幹細胞の集団または実施形態55に記載の治療の方法。
【0303】
57.前記方法が、およそ100万~1億5,000万個の細胞、好ましくは、およそ3,000万個の幹細胞またはおよそ1億2,000万個の幹細胞を投与することを含んでなる、実施形態48、49、51、53、54もしくは56のいずれか一項に記載の使用のための幹細胞の集団、医薬組成物もしくは凍結保存組成物、または実施形態50、52、53、55もしくは56のいずれか一項に記載の方法。
【0304】
58.前記方法が、およそ100万~およそ1,000万個/kgの細胞を投与することを含んでなる、実施形態48、49、51、53、54、56もしくは57のいずれか一項に記載の使用のための幹細胞の集団、医薬組成物もしくは凍結保存組成物、または実施形態50、52、53、55~57のいずれか一項に記載の方法。
【0305】
59.前記方法が、実施形態43~45のいずれか一項に記載の幹細胞の集団もしくは医薬組成物または実施形態40~42のいずれか一項に記載の凍結保存組成物を注射することを含んでなる、実施形態48、49、51、53、54、56~58のいずれか一項に記載の使用のための幹細胞の集団もしくは医薬組成物もしくは凍結保存組成物、または実施形態50、52、53、55~58のいずれか一項に記載の方法。
【0306】
60.前記幹細胞が、実施形態23~26のいずれか一項に定義された通りである、実施形態48、49、51、53、54、56~59のいずれか一項に記載の使用のための幹細胞の集団もしくは医薬組成物もしくは凍結保存組成物、または実施形態50、52、53、55~59のいずれか一項に記載の方法。
【0307】
61.前記幹細胞が、同種異系または自己である、実施形態48、49、51、53、54、56~60のいずれか一項に記載の使用のための幹細胞の集団もしくは医薬組成物もしくは凍結保存組成物、または実施形態50、52、53、55~60のいずれか一項に記載の方法。
【0308】
62.クライオバイアルと、NACを含有する容器と、幹細胞の集団を含んでなる容器とを含んでなる、凍結保存キット。