(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102419
(43)【公開日】2024-07-31
(54)【発明の名称】3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロピオン酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12P 7/52 20060101AFI20240724BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20240724BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20240724BHJP
A61P 5/50 20060101ALI20240724BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20240724BHJP
A61K 31/192 20060101ALI20240724BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
C12P7/52
A61P3/04
A61P3/10
A61P5/50
A61P9/12
A61K31/192
A61P43/00 111
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006275
(22)【出願日】2023-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】591082421
【氏名又は名称】丸善製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】高田 ゆり絵
【テーマコード(参考)】
4B064
4C206
【Fターム(参考)】
4B064AD05
4B064AD07
4B064AD32
4B064CA02
4B064CE10
4B064DA01
4B064DA10
4C206AA04
4C206DA21
4C206KA01
4C206NA20
4C206ZA42
4C206ZA70
4C206ZC20
4C206ZC35
(57)【要約】 (修正有)
【課題】生活習慣病に関与する作用を有しているものと認められ、その機能性に関心が集まっている、3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロピオン酸の製造方法を提供する。
【解決手段】乳酸菌ロイゴラクトバチルス・コリニフォルミス(Loigolactobacillus coryniformis)を用いて、4-ヒドロキシ-3-メトキシけい皮酸を3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロピオン酸に変換することを含む、3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロピオン酸の製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式(1)で表される化合物の製造方法であって、
乳酸菌ロイゴラクトバチルス・コリニフォルミス(Loigolactobacillus coryniformis)を用いて、下記構造式(A)で表される化合物を下記構造式(1)で表される化合物に変換することを含むことを特徴とする方法。
【化1】
【化2】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロピオン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、飽食や運動不足等の生活習慣が原因となり、肥満、2型糖尿病、高血圧症、インスリン抵抗性等といった生活習慣病が大きな問題となっている。これら生活習慣病を改善するにあたり、医薬品による治療だけでなく、天然物由来あるいは食品由来の成分による予防・治療等も注目されている。
【0003】
下記構造式(1)で表される化合物の名称は、3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロピオン酸(英名:3-(4-Hydroxy-3-methoxyphenyl)propionic acid)であり、上記した生活習慣病に関与する作用を有しているものと認められ、その機能性に関心が集まっている。
これまでに、下記構造式(1)で表される化合物は、例えば、cAMPホスホジエステラーゼ活性阻害作用、ジペプチジルペプチダーゼIV活性阻害作用等を有することが報告されている(例えば、特許文献1参照)。
【化1】
【0004】
また、前記構造式(1)で表される化合物の製造方法として、所定のアミノ酸配列を備えるタンパク質(A)の存在下で、所定のアミノ酸配列を備えるタンパク質(B)を、4-ヒドロキシ-3-メトキシけい皮酸に作用させる工程を含む方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
上記したように、前記構造式(1)で表される化合物の製造方法は提案されているものの、新たな製造方法に対する要望は依然として強く、その速やかな開発が求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-079186号公報
【特許文献2】特開2021-137010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、構造式(1)で表される化合物を製造することができる新たな構造式(1)で表される化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、安全性の高い乳酸菌ロイゴラクトバチルス・コリニフォルミス(Loigolactobacillus coryniformis)が、下記構造式(A)で表される化合物を下記構造式(1)で表される化合物に変換できることを知見し、本発明を完成した。
【化2】
【化3】
【0009】
本発明は、本発明者らの前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 下記構造式(1)で表される化合物の製造方法であって、
乳酸菌ロイゴラクトバチルス・コリニフォルミス(Loigolactobacillus coryniformis)を用いて、下記構造式(A)で表される化合物を下記構造式(1)で表される化合物に変換することを含むことを特徴とする方法である。
【化4】
【化5】
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、構造式(1)で表される化合物を製造することができる新たな構造式(1)で表される化合物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、試験例1において、市販のブルーチーズを加えた試料のHPLC分析の結果を示すクロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(構造式(1)で表される化合物の製造方法)
本実施形態の構造式(1)で表される化合物の製造方法は、変換工程を少なくとも含み、必要に応じて更にその他の工程を含む。
【0013】
<変換工程>
前記変換工程は、乳酸菌ロイゴラクトバチルス・コリニフォルミス(Loigolactobacillus coryniformis)を用いて、構造式(A)で表される化合物を構造式(1)で表される化合物に変換する工程である。
前記変換工程では、前記乳酸菌ロイゴラクトバチルス・コリニフォルミス、前記構造式(1)で表される化合物、及び前記構造式(A)で表される化合物以外のその他の成分が存在していてもよい。
【0014】
-構造式(1)で表される化合物-
下記構造式(1)で表される化合物の名称は、3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロピオン酸(英名:3-(4-Hydroxy-3-methoxyphenyl)propionic acid)である(以下、「HMPA」と称することがある。)。
【化6】
【0015】
-構造式(A)で表される化合物-
前記構造式(A)で表される化合物の名称は、4-ヒドロキシ-3-メトキシけい皮酸(英名:4-Hydroxy-3-methoxycinnamic acid)である(以下、「HMCA」と称することがある。)。
【化7】
【0016】
前記構造式(A)で表される化合物は、公知の化合物であり、市販品を使用してもよいし、公知の方法により製造したものを使用してもよい。また、前記構造式(A)で表される化合物が含まれる植物素材を使用することもできる。前記植物素材としては、前記構造式(A)で表される化合物が含まれるものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0017】
前記変換工程における前記構造式(A)で表される化合物の使用量としては、特に制限はなく、乳酸菌ロイゴラクトバチルス・コリニフォルミスの使用量や製造する構造式(1)で表される化合物の量などに応じて適宜選択することができる。
【0018】
-乳酸菌ロイゴラクトバチルス・コリニフォルミス-
前記乳酸菌ロイゴラクトバチルス・コリニフォルミスは、天然に存在する乳酸菌であり、例えば、ブルーチーズなどから常法により単離することができる。
【0019】
前記乳酸菌ロイゴラクトバチルス・コリニフォルミスは、単離したものを使用してもよいし、ブルーチーズ等の飲食品などに含まれている状態のものを使用してもよい。
【0020】
前記変換工程における前記乳酸菌ロイゴラクトバチルス・コリニフォルミスの使用量としては、特に制限はなく、構造式(A)で表される化合物の使用量や製造する構造式(1)で表される化合物の量などに応じて適宜選択することができる。
【0021】
-その他の成分-
前記その他の成分としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、乳酸菌培養培地に含まれる成分、乳酸菌を用いた飲食品や化粧料に含まれる成分などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記その他の成分の使用量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0022】
-変換-
前記変換の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記乳酸菌ロイゴラクトバチルス・コリニフォルミスが生育可能な環境下に前記構造式(A)で表される化合物を加える方法が挙げられる。具体例としては、公知の乳酸菌培養培地中に、前記乳酸菌ロイゴラクトバチルス・コリニフォルミスと、前記構造式(A)で表される化合物と、必要に応じて前記その他の成分とを加え、培養し、前記構造式(1)で表される化合物を製造する方法;乳酸菌発酵物を含む飲食品、乳酸菌発酵物を含む化粧料、乳酸菌発酵物を含む医薬品の製造において、前記乳酸菌として前記乳酸菌ロイゴラクトバチルス・コリニフォルミスを用い、前記構造式(A)で表される化合物と、必要に応じて前記その他の成分とを加え、飲食品、化粧料、又は医薬品中に前記構造式(1)で表される化合物を製造する方法などが挙げられる。
【0023】
前記乳酸菌ロイゴラクトバチルス・コリニフォルミスが生育可能な環境としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、30~40℃、嫌気的条件などが挙げられる。
【0024】
前記変換工程の期間としては、特に制限はなく、製造する前記構造式(1)で表される化合物の量などに応じて適宜選択することができ、例えば、1~5日間などが挙げられる。
【0025】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記変換工程で製造された前記構造式(1)で表される化合物を回収する回収工程などが挙げられる。
前記回収工程の方法としては、特に制限はなく、公知の回収方法を適宜選択することができ、例えば、溶媒抽出法、各種吸着材に対する吸着親和性の差を利用する方法、クロマトグラフ法などが挙げられる。
【0026】
本実施形態の構造式(1)で表される化合物の製造方法によれば、構造式(1)で表される化合物を簡易に効率良く製造することができる。
【実施例0027】
以下、本発明の試験例を説明するが、本発明は、これらの試験例に何ら限定されるものではない。
【0028】
(試験例1:構造式(1)で表される化合物への変換能の確認)
市販のブルーチーズを、滅菌したMRS培地にスパーテルで少量加え、37℃嫌気的条件下(アネロパック(三菱ガス化学株式会社製の嫌気培養キット)を使用)で2日間培養した。1日間培養後に培養液を取り、濁度及びpHを測定し、乳酸菌発生の有無を確認した。
その後、前記2日間培養した培養液の1mLを、フィルター滅菌した構造式(A)で表される化合物(富士フイルム和光純薬株式会社製)0.2g/Lに調整したMRS培地10mLに添加し、37℃嫌気的条件下(アネロパックを使用)で3日間培養した。3日間培養後にサンプルを取り、希釈無しにて乳酸値の測定と、4倍希釈にて高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析を行った。
【0029】
濁度(660nm)及びpHを測定した結果を表1に示す。
【0030】
【0031】
前記乳酸値は、L-乳酸値を多機能バイオセンサBF-9(王子計測機器株式会社)を用いてフローインジェクション分析法にて測定した。結果を表2に示す。
【0032】
【0033】
表1及び2に示したように、市販のブルーチーズを加えた場合には、培養液の濁度の上昇、pHの低下が確認され、また、L-乳酸値の上昇がみられたため、乳酸菌が含まれることが考えられる。
【0034】
前記HPLC分析は下記のようにして行い、構造式(1)で表される化合物、構造式(A)で表される化合物、及び4-ビニルグアイアコール(4VG)の培養液における濃度を算出した。結果を表3及び
図1に示す。
=HPLC条件=
カラム : Wakosil II 5C18HG φ4.6mm×250mm
カラム温度 : 40℃
注入量 : 10μL
移動相 : A液:0.1%TFA水溶液、B液:アセトニトリル
0分→12分 : A液及びB液の混液(82:18)
12分→20分 : A液及びB液の混液
(82:18)→(75:25)
20分→35分 : A液及びB液の混液
(75:25)→(70:30)
35分→40分 : A液及びB液の混液(70:30)
40分→50分 : A液及びB液の混液(10:90)
50分→65分 : A液及びB液の混液(82:18)
流速 : 0分→40分 : 1.0mL/分
40分→55分 : 1.4mL/分
55分→65分 : 1.0mL/分
検出器 : UV検出器
検出波長 : 構造式(1)で表される化合物、4VG : 280nm
構造式(A)で表される化合物 : 320nm
【0035】
【0036】
表3及び
図1に示したように、市販のブルーチーズを加えた試料では、構造式(1)で表される化合物が生成されることが確認され、市販のブルーチーズを加えた試料に含まれる乳酸菌は、添加した構造式(A)で表される化合物を構造式(1)で表される化合物に変換することが確認された。
【0037】
(試験例2:乳酸菌の菌種の同定)
試験例1において、培地にブルーチーズを加えて培養して得た乳酸菌を、平板塗抹培養を3回繰り返し、単一のコロニーを作製した。得られた単離コロニーをDNAシークエンス及びBLAST検索により解析した。
【0038】
解析の結果、試験例1において、培地にブルーチーズを加えて培養して得た乳酸菌は、ロイゴラクトバチルス・コリニフォルミス(Loigolactobacillus coryniformis)(アクセッション番号:CP042392.1)である可能性が非常に高いことが示された(BLAST検索 : スコア 1447、E-Value 0、相同性 100.00%)。
【0039】
以上より、ロイゴラクトバチルス・コリニフォルミス(Loigolactobacillus coryniformis)を用いることで、構造式(A)で表される化合物から、構造式(1)で表される化合物を簡易に効率良く製造できることが確認された。