(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102476
(43)【公開日】2024-07-31
(54)【発明の名称】ブドウの脱粒防止貯蔵方法
(51)【国際特許分類】
A23L 19/00 20160101AFI20240724BHJP
A23B 7/00 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
A23L19/00 Z
A23B7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006379
(22)【出願日】2023-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100085257
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 有
(72)【発明者】
【氏名】北澤 裕明
【テーマコード(参考)】
4B016
4B169
【Fターム(参考)】
4B016LC06
4B016LG01
4B016LP13
4B169AA04
4B169HA11
(57)【要約】 (修正有)
【課題】輸送中にブドウが脱粒するのを防止する貯蔵方法を提供する。
【解決手段】ブドウを房の状態で収穫後に貯蔵期間を経て出荷(輸送)するにあたり、前記貯蔵期間を25日以上44日以下とする。また、前記貯蔵期間経過後に出荷する際に、脱粒した果梗を除去する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブドウを房の状態で収穫後に貯蔵期間を経て出荷(輸送)するにあたり、前記貯蔵期間を25日以上44日以下とすることを特徴とするブドウの脱粒防止貯蔵方法。
【請求項2】
前記貯蔵期間経過後に出荷する際に、脱粒した果梗を除去することを特徴とするブドウの脱粒防止貯蔵方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は輸送中にブドウが脱粒するのを防止する貯蔵方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に果実は収穫した後、一定期間貯蔵されこの後出荷される。ブドウに関しては果軸に粒が付いた状態(房)で出荷されるため、出荷の際の輸送中に脱粒することは商品価値が低下するため、できるだけ脱粒を防止する必要がある。
【0003】
非特許文献1、2には、収穫後のブドウ(シャインマスカット)の果軸を保水キャップに挿入することで、ある程度脱粒が抑制されることが記載されている。
【0004】
特許文献1、2には梱包用緩衝材の形状などを工夫することで、輸送中の衝撃による脱粒を防止することが開示されている。
特許文献3には、収穫前のブドウの房の下方から伸縮性のある袋状ネットを房全体を包むようにして被せ、その状態でさらに数日ないし十数日間房を樹上に留め、完熟後に房を袋状ネットで包装したまま収穫して出荷する。
【0005】
非特許文献3には、収穫前の植調剤処理による脱粒防止方法が提案されている。
【0006】
また、非特許文献4には、穂軸の含水率を高め、あるいは低温保存することで脱粒抵抗力が上がり、振動抵抗性も低下しないことが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】意匠登録第1572040号公報
【特許文献2】特許第6532027号公報
【特許文献3】特開2009-136152号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】北澤裕明 渡邊高志「ブドウ‘シャインマスカット’長期貯蔵中の衝撃による脱粒性の変化」日本包装学会第28回年次大会(2019年7月11日)
【非特許文献2】ブドウ「シャインマスカット」収穫期延長・貯蔵マニュアル、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構、山形県、青森県 2015年
【非特許文献3】Retmales,J., Bangerth,F., Cooper,T., & Callejas R.(1994) Effects of CPPU and GA3 on fruit quality of Sultania table grape. Plant Bioregulators in Horticulture 394,149-158
【非特許文献4】ブドウ「シャインマスカット」長期保存技術 山形県農業総合研究 https://www.affrc.go.jp/docs/sentan_gijutu/pdf/pammphlet/agriculture/h29_pamph_21.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来にあっては、保水キャップによる穂軸の含水率向上、緩衝材による輸送中の衝撃緩和あるいは収穫前の植調剤処理による脱粒防止を図っており、ある程度の効果は期待される。
しかしながら完全に脱粒を防止することはできず、更なる脱粒防止策が望まれる。
【0010】
また、特許文献3に記載されるように、袋状ネットで包装したまま収穫して出荷する場合は、外観的には脱粒が起きていないように見えても、実際には脱粒した状態で消費者に送られることが生じる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、温度と湿度を同じにして一定期間貯蔵した場合、貯蔵期間がその後の脱粒に関連すること、即ち最大60日間の貯蔵期間を設定した場合、貯蔵期間を中程度とすると、貯蔵期間が短い場合や長い場合に比較して脱粒率が低くなる知見を得た。
【0012】
上記知見に基づき本発明をなしたものであり、本発明に係るブドウの脱粒防止貯蔵方法は、収穫後に貯蔵期間を経て出荷(輸送)するにあたり、前記貯蔵期間を25日以上44日以下とする。
【0013】
前記脱粒した後には果梗が残るので、この果梗を除去することで、残った果実に果梗先端が刺さり、腐敗することが防げる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るブドウの脱粒防止貯蔵方法によれば、貯蔵中の温度、湿度、保水の他に、貯蔵日数を適切にコントロールすることで、出荷の際の輸送中の脱粒率を低下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】(a)は20cmの高さから20回ブドウ(シャインマスカット)を鉄板上に落下させた場合の脱粒率と貯蔵日数との関係を示すグラフ、(b)は20cmの高さから25回ブドウ(シャインマスカット)を鉄板上に落下させた場合の脱粒率と貯蔵日数との関係を示すグラフ
【
図4】(a)は貯蔵初日に脱粒した果梗の先端の写真、(b)は50日貯蔵した後に脱粒した果梗の先端の写真
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1に示すように、落下試験では、果軸1に果実2が付いたブドウ(シャインマスカット)の房3を、20cmの高さからそれぞれ20回及び25回鉄板4上に落下させた場合の脱粒率と貯蔵日数との関係を示すグラフである。他の条件は、温度は2℃、湿度は80~90%に維持した。
【0017】
実験の結果、
図2(a)及び(b)に示すように、落下回数が多い場合(25回)は少ない場合(20回)より脱粒率が当然ながら高くなった。
一方、落下回数に拘わらず、貯蔵日数が少ない場合(1日(初日)及び15日)と貯蔵日数が多い場合(60日)は、脱粒率が高くなり、貯蔵日数が中間(27日及び44日)の場合は落下回数に拘わらず脱粒率が低くなった。
ここで、貯蔵開始日は貯蔵日数に含めない。したがって、貯蔵1日目(初日)は貯蔵開始日から数えると2日目となる。
【0018】
図3は、貯蔵日数を1日(初日)、25日、50日とし、落下回数を5回、10回、15回、20回、25回とした場合の脱粒率を比較したグラフである。
【0019】
このグラフから、貯蔵日数を25日とした場合は、貯蔵日数0日及び50日と比較して大幅に脱粒率が低下することがわかる。
【0020】
図1~3を総合的に判断すると、貯蔵日数を25日以上44日以下すると、出荷輸送中の衝撃による脱粒率が低下すると言える。
【0021】
図4(a)は貯蔵日数が1日の場合の脱粒した果梗の先端の写真であり、(b)は貯蔵日数が50日の場合の脱粒した果梗の先端の写真である。
これらの写真から、貯蔵日数が中間(25日~44日)の場合に脱粒率が退化する理由を推察できる。
【0022】
即ち、貯蔵日数が1日のように短い場合には
図4(a)に示すように、果梗の先端に果肉の一部が残っている場合が多い。このことは、果梗先端と果肉との結合状態は強いが、果梗先端と果実との境界部の弾力性が弱いため、振動などの外部からの力が加わることで脱粒を生じる。しかし果梗先端に付いている箇所の結合力は強いので果肉の一部が果梗先端に残る。
また、貯蔵日数が50日と長くなると、果梗先端と果実との境界部が硬くなって離層が形成され果実が果梗先端から離れやすくなる。
【0023】
一方、貯蔵日数が中間(25日~44日)の場合は、果梗先端と果実との境界部の弾力が増し、外部から衝撃が加わってもこの弾力でそれを吸収し、脱粒が起きにくくなる。
【0024】
実施例では脱粒率と貯蔵日数との関係から最適な貯蔵日数を決定しているが、果梗先端と果実との境界部の弾力の変化が脱粒に影響していると思われるので、境界部の弾性をセンサーによって測定して最適な貯蔵日数を決定することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0025】
ブドウとしてはシャインマスカットを用いて実験を行っているが、本発明は各種ブドウの貯蔵に適用できる。
【符号の説明】
【0026】
1…果軸、2…果実、3…房、4…鉄板。