(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102665
(43)【公開日】2024-07-31
(54)【発明の名称】多層構造体及び内装材
(51)【国際特許分類】
B32B 27/28 20060101AFI20240724BHJP
D06N 7/00 20060101ALI20240724BHJP
C09J 7/50 20180101ALI20240724BHJP
C09J 201/00 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
B32B27/28 102
D06N7/00
C09J7/50
C09J201/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006710
(22)【出願日】2023-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(71)【出願人】
【識別番号】000104906
【氏名又は名称】クラレプラスチックス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石原 久
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 晃平
【テーマコード(参考)】
4F055
4F100
4J004
4J040
【Fターム(参考)】
4F055AA11
4F055BA10
4F055BA12
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4F055FA05
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4F100AK03A
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4F100AK51B
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4J004AA09
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4J040DE021
4J040DE031
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4J040NA12
(57)【要約】
【課題】水性エマルジョン系接着剤を含む層を備える多層構造体であっても、耐ブロッキング性を有し、かつ、比較的高温(40℃程度)環境下であっても剥離強度を維持できる多層構造体の提供。
【解決手段】エチレン-ビニルアルコール共重合体(a1)を含む樹脂組成物からなる層(A)、アンカーコート層(B)および水性エマルジョン系接着剤(c1)を含む組成物からなる接着層(C)を備え、前記水性エマルジョン系接着剤(c1)が特定条件を満たす、多層構造体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン-ビニルアルコール共重合体(a1)を含む樹脂組成物からなる層(A)、アンカーコート層(B)および水性エマルジョン系接着剤(c1)を含む組成物からなる接着層(C)を備え、前記水性エマルジョン系接着剤(c1)が下記条件(1)を満たす、多層構造体。
[条件(1):100質量部の水性エマルジョン系接着剤(c1)と、82.9質量部のウレタン系硬化剤であるノニオン系末端イソシアネートのウレタンプレポリマーを混合し、23℃で10分間撹拌して塗工液を作製し、乾燥後の厚みが0.2μmとなるように前記塗工液をエチレン-ビニルアルコール共重合体層(エチレン単位含有量44モル%、ケン化度99.5モル%、MFR(190℃、2160g荷重下)5g/10分、厚み12μm)上に塗工し、60℃で5分乾燥しエチレン-ビニルアルコール共重合体層上に塗工液層を形成した後、塗工液層上に水性エマルジョン系接着剤(c1)を乾燥後の厚みが2μmとなるように塗工し、60℃で5分乾燥することで接着層を形成し、接着層上に非発泡塩化ビニル壁紙基材を積層し、熱傾斜シートシールテスターにて圧力0.1MPa、温度130℃、加熱時間1秒の条件で熱シールした後、JISK6854-3(1999)に準拠して測定される、エチレン-ビニルアルコール共重合体層と塗工液層との間の層間剥離強度が1N/15mm以下である。]
【請求項2】
層(A)が変性ポリオレフィン(a2)を含む、請求項1に記載の多層構造体。
【請求項3】
変性ポリオレフィン(a2)が無水マレイン酸変性ポリオレフィンである、請求項2に記載の多層構造体。
【請求項4】
層(A)におけるエチレン-ビニルアルコール共重合体(a1)と変性ポリオレフィン(a2)の質量比(a1)/(a2)が40/60~95/5である、請求項2または3に記載の多層構造体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の多層構造体と基材(D)とを備える内装材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層構造体及び内装材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ポリ塩化ビニル樹脂層を主体とする樹脂成形物が、建築物の内装材として広く用いられている。しかしこれらポリ塩化ビニル樹脂層を含む壁紙や、一般家庭、病院、医院、飲食店、工場、船舶、電車、自動車などの天井材、壁面材、床材、家具などに用いられる化粧板(以下壁紙類と略称する事がある)は、たばこの煙、手垢、落書き、各種食品中の色素などで汚染されやすい。またポリ塩化ビニル樹脂用の可塑剤が、壁紙類の表面にブリードアウトし、このブリードアウトした可塑剤に埃が付着することによって、ポリ塩化ビニル樹脂層を含む壁紙類はさらに汚れ易くなる。一方、最近使用され始めてきたポリオレフィン樹脂を主体とする壁紙類の場合でも、可塑剤のブリードアウトの問題は少ないものの、上記の各種汚れで汚染されやすいのは同様である。
【0003】
この問題に対し、エチレン-ビニルアルコール共重合体(以下、EVOHと略称する事がある)またはEVOH組成物からなるフィルムを、壁紙類の表面に積層する事により、耐汚染性を改善する技術が知られており、例えば、特許文献1には、ビニルアルコール系重合体樹脂組成物と無機系抗菌剤を含む組成物層と水性エマルジョン系接着剤と酸化剤とを含む接着剤層を有する多層フィルムを用いることで、汚れ防止機能・接着力を保持しつつ、VOC量が実質的に0である多層フィルムが提供できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の多層フィルムの場合、多層フィルムをロールに巻き取った際のブロッキングが問題となる場合があった。また、上記従来の多層フィルムを用いて得られた壁紙は、ある程度高温(40℃等)の環境下にさらされると、壁紙と接着剤層との剥離強度を高く維持できなくなる場合があることがわかった。
【0006】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、水性エマルジョン系接着剤を含む層を備える多層構造体であっても、耐ブロッキング性を有し、かつ、比較的高温(40℃程度)環境下であっても剥離強度を維持できる、多層構造体及び内装材を提供できる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は
[1]エチレン-ビニルアルコール共重合体(a1)(以下「EVOH(a1)」と略記する場合がある)を含む樹脂組成物からなる層(A)、アンカーコート層(B)および水性エマルジョン系接着剤(c1)を含む組成物からなる接着層(C)を備え、前記水性エマルジョン系接着剤(c1)が下記条件(1)を満たす、多層構造体。
[条件(1):100質量部の水性エマルジョン系接着剤(c1)と、82.9質量部のウレタン系硬化剤であるノニオン系末端イソシアネートのウレタンプレポリマーを混合し、23℃で10分間撹拌して塗工液を作製し、乾燥後の厚みが0.2μmとなるように前記塗工液をEVOH層(エチレン単位含有量44モル%、ケン化度99.5モル%、MFR(190℃、2160g荷重下)5g/10分、厚み12μm)上に塗工し、60℃で5分乾燥しEVOH層上に塗工液層を形成した後、塗工液層上に水性エマルジョン系接着剤(c1)を乾燥後の厚みが2μmとなるように塗工し、60℃で5分乾燥することで接着層を形成し、接着層上に非発泡塩化ビニル壁紙基材を積層し、熱傾斜シートシールテスターにて圧力0.1MPa、温度130℃、加熱時間1秒の条件で熱シールした後、JISK6854-3(1999)に準拠して測定される、EVOH層と塗工液層との間の層間剥離強度が1N/15mm以下である。];
[2]層(A)が変性ポリオレフィン(a2)を含む、請求項1に記載の多層構造体;
[3]変性ポリオレフィン(a2)が無水マレイン酸変性ポリオレフィンである、[2]の多層構造体;
[4]層(A)におけるEVOH(a1)と変性ポリオレフィン(a2)の質量比(a1)/(a2)が40/60~95/5である、[2]または[3]の多層構造体;
[5][1]~[4]のいずれかの多層構造体と基材(D)とを備える内装材;
を提供することで達成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の多層構造体及び内装材は、水性エマルジョン系接着剤を含む層を備える多層構造体であっても、耐ブロッキング性を有し、かつ、比較的高温(40℃程度)環境下であっても剥離強度を維持できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の多層構造体は、EVOH(a1)を含む樹脂組成物からなる層(A)、アンカーコート層(B)及び水性エマルジョン系接着剤(c1)を含む組成物からなる接着層(C)を備え、前記水性エマルジョン系接着剤(c1)が下記条件(1)を満たすものである。[条件(1):100質量部の水性エマルジョン系接着剤(c1)と、82.9質量部のウレタン系硬化剤であるノニオン系末端イソシアネートのウレタンプレポリマーを混合し、23℃で10分間撹拌して塗工液を作製し、乾燥後の厚みが0.2μmとなるように前記塗工液をEVOH層(エチレン単位含有量44モル%、ケン化度99.5モル%、MFR(190℃、2160g荷重下)5g/10分、厚み12μm)上に塗工し、60℃で5分乾燥しEVOH層上に塗工液層を形成した後、塗工液層上に水性エマルジョン系接着剤(c1)を乾燥後の厚みが2μmとなるように塗工し、60℃で5分乾燥することで接着層を形成し、接着層上に非発泡塩化ビニル壁紙基材を積層し、熱傾斜シートシールテスターにて圧力0.1MPa、温度130℃、加熱時間1秒の条件で熱シールした後、JISK6854-3(1999)に準拠して測定される、EVOH層と塗工液層との間の層間剥離強度が1N/15mm以下である。]
【0010】
本発明の多層構造体が層(A)を備えることで、汚れ防止機能、表面強化機能、耐薬品性能及び臭気等の非吸着性等の壁紙に求められる各種性能が改善する傾向となる。また、本発明の多層構造体がアンカーコート層(B)を備えることで剥離強度が改善される傾向となる。また、本発明の多層構造体が接着層(C)を備えることで耐ブロッキング性が向上し、かつ、比較的高温(40℃程度)環境下であっても剥離強度を維持できる傾向となる。なお、水性エマルジョン系接着剤(c1)が条件1を満たすための要因は後述するが、特に水性エマルジョン系接着剤(c1)の「イソシアネート基と反応活性が高い官能基」の含有量が少ないことが重要である。
【0011】
本明細書において、層構成を示す際に「/」及び「//」を使用する場合があるが、「/」は直接積層していることを意味し、「//」は直接または接着層を介して積層していることを意味する。
【0012】
(層(A))
本発明の多層構造体は、EVOH(a1)を含む樹脂組成物からなる層(A)を備える。本発明の多層構造体が層(A)を備えることで、汚れ防止機能、表面強化機能、耐薬品性能及び臭気等の非吸着性等の壁紙に求められる各種性能が改善する傾向となる。EVOH(a1)は、エチレン単位とビニルアルコール単位とを有する共重合体であって、例えば、エチレンとビニルエステルとを含む共重合体を、アルカリ触媒等を用いてケン化して得られる。ビニルエステルとしては、酢酸ビニルが代表的なものとして挙げられるが、その他の脂肪酸ビニルエステル(ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル及びバーサティック酸ビニル等)も使用できる。
【0013】
EVOH(a1)のエチレン単位含有量の下限は、20モル%が好ましく、23モル%がより好ましく、25モル%がさらに好ましい。EVOH(a1)のエチレン単位含有量の上限は、60モル%が好ましく、55モル%がより好ましく、50モル%さらに好ましい。エチレン単位含有量が前記下限以上であると、層(A)の耐水性が向上する傾向となる。逆に、エチレン単位含有量が前記上限以下であると、層(A)の汚れ防止機能が向上する傾向となる。EVOH(a1)のエチレン単位含有量は、1H-NMR測定で求められる。
【0014】
EVOH(a1)のケン化度の下限は、90モル%が好ましく、95モル%がより好ましく、99モル%がさらに好ましい。EVOH(a1)のケン化度が前記下限以上であると、層(A)の汚れ防止機能が向上する。けん化度とは、EVOH(a1)中のビニルアルコール単位及びビニルエステル単位の総数に対するビニルアルコール単位の数の割合を意味する。また、ケン化度の上限は99.99モル%であってもよい。EVOH(a1)のケン化度は、1H-NMR測定で求められる。
【0015】
EVOH(a1)は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、エチレン、ビニルエステル及びビニルアルコール以外の他の単量体単位を含有していてもよい。特に、特定の構造を有する一級水酸基を含む変性基を導入することで、EVOH(a1)のガスバリア性と成型加工性を高いレベルで両立できる場合がある。他の単量体単位の含有量は10モル%以下が好ましく、5モル%以下がより好ましく、1モル%以下がさらに好ましく、実質的に含有されていないことが特に好ましい。このような他の単量体としては、例えば、プロピレン、ブチレン、ペンテン、ヘキセン等のアルケン;3-アシロキシ-1-プロペン、3-アシロキシ-1-ブテン、4-アシロキシ-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-1-ブテン、3-アシロキシ-4-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-1-ブテン、3-アシロキシ-4-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-2-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-3-メチル-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-2-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-1-ペンテン、5-アシロキシ-1-ペンテン、4,5-ジアシロキシ-1-ペンテン、4-アシロキシ-1-ヘキセン、5-アシロキシ-1-ヘキセン、6-アシロキシ-1-ヘキセン、5,6-ジアシロキシ-1-ヘキセン、1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパン等のエステル基含有アルケンまたはそのケン化物;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸等の不飽和酸またはその無水物、塩、またはモノもしくはジアルキルエステル等;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド;ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸またはその塩;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(β-メトキシ-エトキシ)シラン、γ-メタクリルオキシプロピルメトキシシラン等のビニルシラン化合物;アルキルビニルエーテル類、ビニルケトン、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等が挙げられる。
【0016】
EVOH(a1)は、必要に応じてウレタン化、アセタール化、シアノエチル化、オキシアルキレン化等することにより変性されていてもよい。オキシアルキレン化はエポキシ化合物を用いて行うことができ、例えば、エポキシエタン(エチレンオキサイド)、エポキシプロパン、1,2-エポキシブタン、2,3-エポキシブタン、3-メチル-1,2-エポキシブタン、1,2-エポキシペンタン、3-メチル-1,2-エポキシペンタン、1,2-エポキシヘキサン、2,3-エポキシヘキサン、3,4-エポキシヘキサン、3-メチル-1,2-エポキシヘキサン、3-メチル-1,2-エポキシヘプタン、4-メチル-1,2-エポキシヘプタン、1,2-エポキシオクタン、2,3-エポキシオクタン、1,2-エポキシノナン、2,3-エポキシノナン、1,2-エポキシデカン、1,2-エポキシドデカン、エポキシエチルベンゼン、1-フェニル-1,2-プロパン、3-フェニル-1,2-エポキシプロパン、各種アルキルグリシジルエーテル、各種アルキレングリコールモノグリシジルエーテル、各種アルケニルグリシジルエーテル、グリシドール等の各種エポキシアルカノール、各種エポキシシクロアルカン、各種エポキシシクロアルケン等が挙げられる。中でも、1,2-エポキシブタン、2,3-エポキシブタン、エポキシプロパン、エポキシエタンまたはグリシドールが好ましく、エポキシプロパンまたはグリシドールがより好ましい。
【0017】
EVOH(a1)のメルトフローレート(MFR)(190℃、2160g荷重下)は好適には0.1~30g/10分であり、より好適には0.3g~25g/10分であり、さらに好適には0.5g~20g/10分である。但し、融点が190℃付近あるいは190℃を超えるものは2160g荷重下、融点以上の複数の温度で測定し、片対数グラフで絶対温度の逆数を横軸、MFRの対数を縦軸にプロットし、190℃に外挿した値で表す。
【0018】
EVOH(a1)は、1種単独で用いることもできるし、2種以上を併用してもよい。
【0019】
層(A)は、光沢を抑える観点から、変性ポリオレフィン(a2)を含んでいることが好ましい。変性ポリオレフィン(a2)は、ポリオレフィンが変性基を有していれば特に限定されないが、かかる変性基が水酸基との反応性を有する官能基であることが好ましく、酸変性ポリオレフィンであることがより好ましい。変性ポリオレフィン(a2)が有する官能基としては、カルボン酸、カルボン酸塩、およびボロン酸基または水の存在下でボロン酸基に転化しうるホウ素含有基、イソシアネート基、アミド基、エポキシ基等が挙げられるが、不飽和カルボン酸またはその無水物をオレフィン系重合体に付加反応やグラフト反応等により化学的に結合させて得られるカルボキシル基を含有する変性ポリオレフィンであることが好ましく、不飽和カルボン酸又はその無水物としてはマレイン酸、アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等が挙げられるが、無水マレイン酸が好ましい。具体的な変性ポリオレフィン(a2)としては、酸変性ポリエチレン、酸変性ポリプロピレン、酸変性エチレン-エチルアクリレート共重合体、酸変性エチレン-酢酸ビニル共重合体、酸変性エチレン-α-オレフィン共重合等から選ばれた1種または2種以上の混合物が好適なものとして挙げられる。中でも酸変性エチレン-α-オレフィン共重合が好ましい。酸変性エチレン-α-オレフィン共重合としては、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-1-ブテン共重合体、エチレン-1-ヘキセン共重合体、エチレン-4-メチル-1-ペンテン共重合体、エチレン-1-オクテン共重合体、エチレン-1-ブテン-1-ヘキセン共重合体、エチレン-1-ブテン-4-メチル-1-ペンテン共重合体、エチレン-1-ブテン-1-オクテン共重合体等の酸変性物が挙げられ、無水マレイン酸変性物であることが好ましい。変性ポリオレフィン(a2)は、未変性のポリオレフィンとのブレンド体であってもよいが変性ポリオレフィンのみからなることが好ましい。
【0020】
変性の方法としては、上記官能基を有するビニル化合物を共重合する方法や、ポリオレフィン中に微量存在する二重結合に付加させる方法、グラフト化して側鎖に官能基を導入する方法などが例示される。共重合以外の変性方法については、溶液中で反応させる方法や、押出機内で反応させる方法など、特に限定はされない。これらの変性ポリオレフィン(a2)は、単独、または複数を組み合わせて使用しても良い。
【0021】
層(A)におけるEVOH(a1)と変性ポリオレフィン(a2)の質量比(a1)/(a2)は、40/60~95/5であることが好ましい。質量比(a1)/(a2)が40/60以上であると層(A)の汚れ防止機能が向上し、製膜性も向上する傾向となる。また、質量比(a1)/(a2)が95/5以下であると層(A)の光沢を抑制できる傾向となる。質量比(a1)/(a2)の下限は、60/40がより好ましく、70/30がさらに好ましい。また、質量比(a1)/(a2)の上限は90/10がより好ましい。
【0022】
層(A)は、抗菌性の観点から抗菌剤(a3)を含んでいてもよい。抗菌剤(a3)としては、銀、銅、亜鉛などの金属イオンを含む化合物や、有機系抗菌剤を無機化合物固体に担持させたものが例示される。中でも、少量の添加でも効果的に抗菌できる観点から、銀イオン、銅イオン及び亜鉛イオンからなる群から選ばれる少なくとも1種のイオンを含む無機系抗菌剤が好ましい。これらの無機系抗菌剤は、単独、または複数を組み合わせて使用しても良い。無機系抗菌剤(a3)の含有量は、EVOH(a1)100質量部に対して0.01~5質量部が好ましく、0.03~3質量部がより好ましく、0.05~2質量部がさらに好ましく0.1~1.5質量部が特に好ましい。
【0023】
層(A)に、本発明の目的を阻外しない範囲内で、ホウ酸類、ホウ酸エステル、ホウ酸塩などのホウ素化合物や、カルボン酸/カルボン酸塩類などのカルボン酸化合物、リン酸、亜リン酸等の各種の酸やその塩などのリン酸化合物を配合する事ができる。これらの化合物を、単独あるいは複数配合する事により、組成物の耐水性・機械物性、あるいは溶融成形時の熱安定性などを改善する事ができる。必ずしも限定はされないが、ホウ素化合物の含有量は好ましくはホウ素元素換算で20~2000ppm、カルボン酸化合物の含有量は好ましくは5~2000ppm、リン酸化合物の含有量は好ましくはリン酸根換算で5~300ppmである。
【0024】
また層(A)は、可塑剤、酸化防止剤、顔料、紫外線吸収剤、帯電防止剤、架橋剤、充填剤、各種繊維等の補強剤、高級脂肪酸等の分散剤、変性ポリオレフィン(a2)以外の熱可塑性樹脂等を含んでいてもよい。
【0025】
層(A)が変性ポリオレフィン(a2)を含まない場合、層(A)を構成する樹脂におけるEVOH(a1)が占める割合は70質量%以上が好ましく、85質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、97質量%以上であっても、99質量%以上であっても、100質量%であってもよい。また、層(A)におけるEVOHが占める割合は、70質量%以上が好ましく、85質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、97質量%以上であっても、99質量%以上であってもよい。層(A)が変性ポリオレフィン(a2)を含む場合、層(A)を構成する樹脂におけるEVOH(a1)及び変性ポリオレフィン(a2)の合計が占める割合は70質量%以上が好ましく、85質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、97質量%以上であっても、99質量%以上であっても、100質量%であってもよい。また、層(A)におけるEVOH(a1)及び変性ポリオレフィン(a2)の合計が占める割合は70質量%以上が好ましく、85質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、97質量%以上であっても、99質量%以上であってもよい。
【0026】
層(A)の厚みは特に制限されないが、工業的な生産性の観点から5μm以上が好ましく、8μm以上がより好ましく、10μm以上がさらに好ましい。また、層(A)の厚さは50μm以下が好ましく、40μm以下がより好ましく、30μm以下がさらに好ましい。
【0027】
(アンカーコート層(B))
本発明の多層構造体はアンカーコート層(B)を備える。本発明の多層構造体がアンカーコート層(B)を備えることで、剥離強度が改善する傾向となる。
【0028】
アンカーコート層(B)を構成する材料としては、水性エマルジョン系接着剤(c1)と異なるものであれば特に限定されず、公知のアンカーコート剤を使用できる。アンカーコート剤は、層(A)及び接着層(C)と良好な接着性を示す物が好ましく、ポリウレタン系接着剤等が挙げられる。ポリウレタン系接着剤としては、公知のものを使用することができるが、ポリイソシアネート成分とポリオール成分とを混合し反応させる2液型ポリウレタン系接着剤を用いることが好ましい。2液型ポリウレタン系接着剤としては、市販品を用いることができ、例えば、三井化学株式会社製のタケラック(登録商標)、タケネート(登録商標)等が挙げられる。
【0029】
アンカーコート層(B)の厚みは、特に限定はされないが、0.01~100μmが好ましい。アンカーコート剤(B)層の厚みが0.01μm以上であると、剥離強度が改善する傾向となる。一方、アンカーコート層(B)の厚みが100μm以下であると、耐ブロッキング性が改善する傾向となる。アンカーコート層(B)の厚みは0.02~50μmが好ましく、0.05~10μmがさらに好ましく、0.1~5μmが特に好ましい。
【0030】
(接着層(C))
本発明の多層構造体は、水性エマルジョン系接着剤(c1)を含む組成物からなる接着層(C)を備える。接着層(C)を備えることで、本発明の多層構造体の耐ブロッキング性が向上し、かつ、本発明の多層構造体を壁紙として用いた際に比較的高温(40℃程度)環境下であっても剥離強度を維持できる傾向となる。ここで、水性エマルジョン系接着剤とは、樹脂を水の中に均一に分散させた接着剤のことを意味する。また、「水性エマルジョン系接着剤(c1)を含む組成物からなる接着層(C)」とは、水性エマルジョン系接着剤(c1)を含む組成物を塗工し乾燥して得られる接着層であることを意味するため、接着層(C)自体はエマルジョンではない。
【0031】
水性エマルジョン系接着剤(c1)は下記条件(1)を満たす。
[条件(1):100質量部の水性エマルジョン系接着剤(c1)と、82.9質量部のウレタン系硬化剤であるノニオン系末端イソシアネートのウレタンプレポリマーを混合し、23℃で10分間撹拌して塗工液を作製し、乾燥後の厚みが0.2μmとなるように前記塗工液をEVOH層(エチレン単位含有量44モル%、ケン化度99.5モル%、MFR(190℃、2160g荷重下)5g/10分、厚み12μm)上に塗工し、60℃で5分乾燥しEVOH層上に塗工液層を形成した後、塗工液層上に水性エマルジョン系接着剤(c1)を乾燥後の厚みが2μmとなるように塗工し、60℃で5分乾燥することで接着層を形成し、接着層上に非発泡塩化ビニル壁紙基材を積層し、熱傾斜シートシールテスターにて圧力0.1MPa、温度130℃、加熱時間1秒の条件で熱シールした後、JISK6854-3(1999)に準拠して測定される、EVOH層と塗工液層との間の層間剥離強度が1N/15mm以下である。]
条件(1)により測定される層間剥離強度は、水性エマルジョン系接着剤(c1)が有する「イソシアネート基と反応活性が高い官能基」の含有量と、かかる官能基自体のイソシアネート基への反応活性の高さが影響している。すなわち、水性エマルジョン系接着剤(c1)は、イソシアネート基と反応活性が高い官能基の含有量が少ないことが好ましく、また、イソシアネート基と反応し得る官能基を有する場合は、イソシアネート基との反応活性が低い官能基であることが好ましい。水性エマルジョン系接着剤(c1)が条件(1)を満たすことで、本発明の多層構造体の耐ブロッキング性を向上させることができる。また、ある程度高温(40℃)環境下であっても、剥離強度を維持できる傾向となる。この理由は定かではないが、水性エマルジョン系接着剤(c1)が条件(1)を満たすことでブリードアウトし辛くなるためであると推測される。
【0032】
水性エマルジョン系接着剤(c1)は、条件(1)を満たしていれば特に限定はされないが、エチレン、塩化ビニル及び酢酸ビニルからなる群より選ばれる少なくとも1種を単量体単位として有する重合体の水性エマルジョンであることが好ましく、エチレン、塩化ビニル及び酢酸ビニルからなる群より選ばれる少なくとも2種を単量体単位として有する共重合体の水性エマルジョンであることがより好ましい。また、条件(1)を満たす範囲であれば、イソシアネート基と反応可能な官能基を有していてもよいが、イソシアネート基と反応可能な官能基を有していないことが好ましい。水性エマルジョン系接着剤(c1)は、単独で用いても、異なる二種以上の水性エマルジョン系接着剤(c1)を混合して用いてもよい。また、接着層(C)を2層以上設けてもよい。
【0033】
接着層(C)は、本発明の目的を阻害しない範囲であれば、可塑剤、顔料、紫外線吸収剤、帯電防止剤、架橋剤、防腐剤、防カビ剤、充填剤、各種繊維、造膜助剤、抗菌剤、安定剤、消泡剤等の補強剤、酸化剤等を含んでいてもよい。
【0034】
接着層(C)を構成する樹脂を、水性エマルジョン系接着剤(c1)を構成する樹脂が占める割合は、70質量%以上が好ましく、85質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、97質量%以上であっても、99質量%以上であっても、100質量%であってもよい。接着層(C)を水性エマルジョン系接着剤(c1)の乾燥物が占める割合は70質量%以上が好ましく、85質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、97質量%以上であっても、99質量%以上であってもよい。
【0035】
接着層(C)の厚みは0.03μm以上500μm以下が好ましく、0.1μm以上200μm以下がより好ましく、0.5μm以上100μm以下がさらに好ましく、1μm以上50μm以下が特に好ましい。接着層(C)の厚みが上記範囲であると、耐ブロッキング性を改善しつつ、後述する基材(D)との接着性を改善できる傾向となる。
【0036】
(多層構造体)
本発明の多層構造体は、層(A)、アンカーコート層(B)及び接着層(C)を備える。層構成は特に限定されないが、アンカーコート層(B)は層(A)及び接着層(C)の間に備えられていることが好ましい。また、剥離強度が改善する観点から、一方の面が層(A)に直接積層しており、もう一方の面が接着層(C)に積層している、すなわち、層(A)/アンカーコート層(B)/接着層(C)の層構成を有することがより好ましい。本発明の多層構造体における層(A)、アンカーコート層(B)及び接着層(C)の厚みの合計は5μm以上50μm以下であることが壁紙の施工性の観点から好ましい。
【0037】
本発明の多層構造体は、さらに基材(D)を備える内装材であることが好ましい。内装材としては、特に限定されないが壁紙や化粧板等が挙げられる。内装材が壁紙として用いられる場合の基材(D)としては特に限定されないが、ポリオレフィン及びポリ塩化ビニルからなる群より選ばれる少なくとも1種である壁紙用樹脂層を備えることが好ましい。壁紙用樹脂層は壁紙用の樹脂が含み得る公知の添加剤を含んでいてもよい。また、壁紙用の基材(D)は紙層を備えることが好ましく、紙層としては壁紙用に用いられる公知の紙層を使用することができる。壁紙用の基材(D)は、壁紙用樹脂層及び紙層以外に、壁紙用の基材(D)として公知の他の層を備えていてもよい。化粧板用の基材(D)としては、特に限定されないが、石膏ボード、合板、パーティクルボード、鋼板、コンクリート板等の支持体層を有していることが好ましい。また、化粧板用の基材(D)は紙層及び樹脂層からなる群より選ばれる少なくとも1種の層を有していることが好ましい。樹脂層としてはポリ塩化ビニル等が挙げられる。紙層及び樹脂層からなる群より選ばれる少なくとも1種の層は、立体感を強調するためにエンボス加工されていてもよい。化粧板用の基材(D)は、支持体層と、紙層及び樹脂層からなる群より選ばれる少なくとも1種の層とが積層されていることが好ましい。化粧板用基材(D)は、プリント化粧板、化粧石膏ボード、塩ビ化粧板、塩ビ鋼板、塩ビ不燃板等の基材として用いられる。
【0038】
本発明の内層材は、本発明の効果を阻害しない範囲で、層(A)、アンカーコート層(B)、接着層(C)及び基材(D)以外の他の層を備えていてもよい。前記他の層としては、例えばポリエチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリエステルエラストマー;ナイロン-6、ナイロン-66等のポリアミド;ポリスチレン;ポリ塩化ビニリデン;アクリル系樹脂;ビニルエステル系樹脂;ポリウレタンエラストマー;ポリカーボネート;塩素化ポリエチレン;塩素化ポリプロピレン等の層が挙げられる。
【0039】
本発明の内装材の層構成は、多層構造体の接着層(C)側に基材(D)が積層されていることが好ましく、接着層(C)と基材(D)が直接積層していることがより好ましい。また、基材(D)が壁紙用の基材(D)である場合、接着層(C)は壁紙用樹脂層と直接積層していることが好ましい。本発明の内装材の層構成としては、例えば、層(A)/アンカーコート層(B)/接着層(C)/基材層(D)が挙げられ、層(A)/アンカーコート層(B)/接着層(C)/壁紙用樹脂層//紙層であることが好ましい。なお、本発明の内装材は前記層構成の任意の位置に前記他の層を備えていてもよい。
【0040】
本発明の多層構造体及び内装材を製造する方法は特に限定されないが、例えば、層(A)上にアンカーコート剤をコート・乾燥してアンカーコート層(B)を形成した後、アンカーコート層(B)上に水性エマルジョン系接着剤(c1)をコート・乾燥して接着層(C)を形成して多層構造体を作製した後、基材(D)と熱ラミネートして内装材を作製する方法;基材(D)上にアンカーコート層(B)上に水性エマルジョン系接着剤(c1)をコート・乾燥して接着層(C)を形成した後、接着層(C)上にアンカーコート剤をコート・乾燥してアンカーコート層(B)を形成し、アンカーコート層(B)上に層(A)を積層させて熱ラミネートすることで内装材を作製する方法;適当な支持体(テフロン(登録商標)板等)上にアンカーコート剤及び水性エマルジョン系接着剤(c1)を順次(層の形成順は限定されない)コート・乾燥して、支持体から剥離することでアンカーコート層(B)/接着層(C)の積層体を得た後、層(A)と熱ラミネートすることで層(A)/アンカーコート層(B)/接着層(C)の積層体を形成した後、接着層(C)と基材(D)とを熱ラミネートすることで内装材を作製する方法;等が挙げられる。中でも、層(A)上にアンカーコート剤をコート・乾燥してアンカーコート層(B)を形成した後、アンカーコート層(B)上に水性エマルジョン系接着剤(c1)をコート・乾燥して接着層(C)を形成して多層構造体を作製した後、基材(D)と熱ラミネートして内装材を作製する方法が好ましい。
【実施例0041】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されない。
【0042】
(使用した材料)
・EVOH(a1)
a1-1:「EVAL(登録商標)E105A」(EVOH、株式会社クラレ製、エチレン単位含有量44モル%、ケン化度99.5モル%、MFR(190℃、2160g荷重下)5g/10分))
a1-2:「EVAL(登録商標)F101A」(EVOH、株式会社クラレ製、エチレン単位含有量32モル%、ケン化度99.5モル%、MFR(190℃、2160g荷重下)1g/10分))
・変性PO(a2)
a2-1:三菱ケミカル株式会社製「モディック(商標)H511」(無水マレイン酸変性HDPE)
a2-2:三菱ケミカル株式会社製「モディック(商標)M545」(無水マレイン酸変性LLDPE)
・抗菌剤(a3)
a3-1:株式会社シナネンゼオミックス製ゼオミックAV10D(銀ゼオライト)
・接着剤(b1)
b1-1:ウレタン系2液型接着剤(三井化学株式会社製「タケラック(登録商標)W605)」及び「タケネート(登録商標)WD725」が脱イオン水で25倍希釈されており1:1で混合された水分散液)
・水性エマルジョン系接着剤(c1)
c1-1:「ビニブラン(商標)603」(酢酸ビニル-塩化ビニル共重合体エマルジョン、日信化学工業株式会社製、固形分濃度50質量%)
・条件(1)の剥離強度が1.0N/15mm超の接着剤(c’1)
c’1-1:「スミカフレックス(商標)830」(エチレン-酢酸ビニル-塩化ビニル共重合体エマルジョン、住化ケムテックス株式会社製、固形分濃度50質量%)
【0043】
(評価方法)
(1)条件(1)の剥離強度
実施例及び比較例で用いる接着剤c1-1及び接着剤c’1-1について、剥離強度試験を行った。まず、EVOHa1-1を下記条件で製膜してEVOHフィルムを得た。
押出機:株式会社東洋精機製作所製ラボプラストミル20mm一軸押出機
ダイ:300mm幅コートハンガータイプダイ
押出温度:210℃
スクリーン:50/100/50メッシュ
スクリュー回転数:40rpm
吐出量:1.1kg/時
キャストロール温度:50℃
ライン速度:2.5m/分
フィルム厚み:12μm
【0044】
次に、100質量部の水性エマルジョン系接着剤(c1)と82.9質量部の「タケネート(登録商標)WD725」とを23℃で10分間撹拌して塗工液を作製し、乾燥後の厚みが0.2μmとなるように前記塗工液を上記で得られたEVOHフィルム上に塗工し、60℃で5分乾燥しEVOHフィルム上に塗工液層を形成した後、塗工液層上に水性エマルジョン系接着剤(c1)を乾燥後の厚みが2μmとなるように塗工し、60℃で5分乾燥することで接着層を形成した。接着層上にスリーエイ株式会社製の非発泡塩化ビニル壁紙基材を積層し、熱傾斜シートシールテスターにて圧力0.1MPa、温度130℃、加熱時間1秒の条件で熱シールした後、JISK6854-3(1999)に準拠して測定される15mm幅の試験サンプルを切り出し、かかる試験サンプルについてJISK6854-3(1999)に記載されている方法に従い、EVOH層と塗工液層との間の層間剥離強度を測定した。
【0045】
(2)ブロッキング性
実施例及び比較例で得られた多層構造体について、幅10cm、長さ30cmにカットしたフィルム片の長さ方向の端部を直径25mmのアルミ管にテープで貼り付け、フィルム片の長さ方向の逆側の端部に1kgのおもりを取り付けてフィルム片に張力をかけた状態で、アルミ管を回転させてフィルム片をアルミ管に巻き付けた。1kg荷重をかけたまま、アルミ管に巻き付けられたフィルム片を45℃で24時間処理した。エージング後のフィルム片から、1kgのおもりを取り外し、オートグラフを用いて速度50mm/minの条件で、後述の方法にて試験を行い、得られた測定値(N/100mm)をブロッキング性評価の指標とした。
(オートグラフを用いた試験)
金属の棒に、上記のフィル片が貼り付けられたアルミ菅を通して、アルミ缶が回転する状態でオートグラフ下部のチャックに固定した。オートグラフ上部のチャックにアクリル板を取り付け、フィルム片を巻き取ったアルミ菅からフィルムを巻き出し、巻き出されたフィルム片をアルミ板に粘着テープで固定した。かかる状態で引張試験(ストローク100mm、引張速度50mm/min)を行い、得られた最大値をブロッキング性の数値とした。
【0046】
(3)壁紙基材層との剥離強度
実施例及び比較例で得られた壁紙について、15mm幅の試験サンプルを切り出し、かかる試験サンプルについてJISK6854-3(1999)に記載されている方法に従い、壁紙基材層と接着層(C)間の剥離強度を測定した。また、実施例及び比較例で得られた加熱試験後の壁紙について、上記と同様に壁紙基材層と接着層(C)間の剥離強度を測定した。
【0047】
(4)光沢性
実施例及び比較例で得られた多層構造体表面に蛍光灯の光を当てて、反射光による光沢を目視で確認し、下記基準で評価した。
評価:基準
A:蛍光灯の光をほとんど反射しない
B:わずかに蛍光灯の光を反射する
C:蛍光灯の光を反射させた時、明瞭に光源の形状が判る。
【0048】
(5)抗菌性
実施例及び比較例で得られた壁紙について、JISZ2801に記載の方法にしたがって、抗菌性を評価した。
・菌液濃度:1/500NB
・菌液滴下量:0.4ml
・保存温度:35±1℃
・保存湿度:>90%RH
・保存時間:24±1時間
・使用細菌:黄色ブドウ球菌(NBRC12732)、大腸菌(NBRC3972)
・サンプル数:n=3。
判定基準
A:黄色ブドウ球菌、大腸菌、いずれの菌の数も検出限界未満
B:黄色ブドウ球菌、大腸菌のいずれかまたは両方の菌数が検出限界以上で対照区の1/100以下。
C:黄色ブドウ球菌、大腸菌のいずれかまたは両方の菌数が対照区の1/100を超える
【0049】
(実施例1)
実施例1で使用する接着剤c1-1について、上記評価方法(1)に記載の方法に従い、条件(1)の剥離強度を測定した。結果を表1に示す。
【0050】
EVOHa1-1を下記条件で製膜してEVOHフィルムを得た。
押出機:株式会社東洋精機製作所ラボプラストミル20mm一軸押出機
ダイ:300mm幅コートハンガータイプダイ
押出温度:210℃
スクリーン:50/100/50メッシュ
スクリュー回転数:40rpm
吐出量:1.1kg/時
キャストロール温度:50℃
ライン速度:2.5m/分
フィルム厚み:12μm
【0051】
得られたEVOHフィルム上に接着剤b1-1を乾燥後の厚みが0.2μmとなるように塗工し、60℃の乾燥機で5分乾燥して、アンカーコート層(B)を設けた。アンカーコート層(B)上に接着層c1-1を乾燥後の厚みが2μmとなるように塗工し、60℃の乾燥機で5分乾燥して、接着層(C)を設けることで、多層構造体(EVOH/アンカーコート層(B)/接着層(C)=12μm/0.2μm/2μm)を得た。得られた多層構造体について、上記評価方法(2)及び(4)に記載の方法に従い、ブロッキング性及び光沢性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0052】
得られた多層構造体の接着層(C)上に株式会社デコリア製の非発泡塩化ビニル壁紙基材を積層し、熱プレス機にて圧力1Kgf/cm2、温度130℃、加熱時間1秒の条件で熱ラミネートして壁紙を作製した。得られた壁紙について、上記評価方法(3)及び(5)に記載の方法に従って、剥離強度及び抗菌性の評価を行った。結果を表1に示す。また、得られた多層構造体を40℃で2週間放置する加熱試験を実施した後に、多層構造体の接着層(C)上に株式会社デコリア製の非発泡塩化ビニル壁紙基材を積層し、熱プレス機にて圧力1Kgf/cm2、温度130℃、加熱時間1秒の条件で熱ラミネートして加熱試験後の壁紙を作製した。加熱試験後の壁紙について、上記評価方法(3)に記載の方法に従って、剥離強度を評価した。結果を表1に示す。
【0053】
(実施例2)
EVOHa1-1を使用する代わりに、EVOHa1-1を80質量部と変性POa2-1を20質量部とをタンブラーミキサーで10分間ドライブレンドした混合物を用いた以外は、下記条件で混合された樹脂組成物を用いた以外は、実施例1と同様の方法で多層構造体及び壁紙を作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0054】
(実施例3~6、比較例1)
EVOH(a1)の種類及び含有量、変性PO(a2)の種類及び含有量、抗菌剤(a3)の種類及び含有量並びに水性エマルジョン系接着剤(c1)の種類を表1に記載の通り変更した以外は、実施例2と同様の方法で多層構造体及び壁紙を作製し、評価した。結果を表1に示す。なお、抗菌剤(a3)はEVOHa1-1と変性POa2-2をドライブレンドすると同時にドライブレンドして混合した。
【0055】
(比較例2)
アンカーコート層(B)を設けずにEVOHフィルム上に直接接着層(C)を積層した以外は、実施例2と同様の方法で多層構造体及び壁紙を作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0056】