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特開2024-1026943C-SiC単結晶エピタキシャル基板の製造方法、3C-SiC自立基板の製造方法、及び3C-SiC単結晶エピタキシャル基板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102694
(43)【公開日】2024-07-31
(54)【発明の名称】3C-SiC単結晶エピタキシャル基板の製造方法、3C-SiC自立基板の製造方法、及び3C-SiC単結晶エピタキシャル基板
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/36 20060101AFI20240724BHJP
   C23C 16/42 20060101ALI20240724BHJP
   C30B 25/18 20060101ALI20240724BHJP
   C30B 33/02 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
C30B29/36 A
C23C16/42
C30B25/18
C30B33/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006762
(22)【出願日】2023-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】大槻 剛
(72)【発明者】
【氏名】阿部 達夫
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 温
(72)【発明者】
【氏名】松原 寿樹
【テーマコード(参考)】
4G077
4K030
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077BE08
4G077DB07
4G077EE03
4G077EE05
4G077FE02
4G077FE11
4G077FJ03
4G077HA12
4K030AA09
4K030BA37
4K030BB02
4K030CA04
4K030CA12
4K030DA02
4K030DA04
4K030DA09
4K030JA09
4K030JA10
(57)【要約】
【課題】
簡易な製造プロセスによって、大口径3C-SiC自立基板を得ることが可能な3C-SiC単結晶エピタキシャル基板の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
単結晶シリコン基板3を水素雰囲気下でアニールする水素ベイク工程と、水素ベイク工程後の単結晶シリコン基板3の表面に炭化処理を行いSiCの核を生成し、さらに生成した核を起点に3C-SiC単結晶膜5をエピタキシャル成長させて3C-SiC単結晶エピタキシャル基板1を得るエピタキシャル工程と、3C-SiC単結晶エピタキシャル基板1を、炭素を含むガス雰囲気下でSiの融点未満の温度に加熱して単結晶シリコン基板3中のSiを3C-SiC単結晶膜5との界面まで固体拡散させ、界面に到達したCとの固相反応でSiCを成長させることで、Siが拡散した跡に生じる空孔層7を界面に形成する拡散工程を含む3C-SiC単結晶エピタキシャル基板1の製造方法。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶シリコン基板を水素雰囲気下でアニールすることで前記単結晶シリコン基板の表面の自然酸化膜を除去する水素ベイク工程と、
前記水素ベイク工程後の前記単結晶シリコン基板の表面に炭化処理を行いSiCの核を生成し、さらに生成した核を起点に3C-SiC単結晶膜をエピタキシャル成長させて3C-SiC単結晶エピタキシャル基板を得るエピタキシャル工程と、
前記3C-SiC単結晶エピタキシャル基板を、炭素を含むガス雰囲気下でSiの融点未満の温度に加熱して前記単結晶シリコン基板中のSiを前記3C-SiC単結晶膜と前記単結晶シリコン基板との界面まで固体拡散させ、該拡散させたSiと前記界面に到達したCとの固相反応で、さらにSiCを成長させることで、Siが拡散した跡に生じる空孔を有する空孔層を前記単結晶シリコン基板における前記3C-SiC単結晶膜との前記界面に形成する拡散工程と、
を含むことを特徴とする3C-SiC単結晶エピタキシャル基板の製造方法。
【請求項2】
前記エピタキシャル工程及び前記拡散工程を、133.322Pa以上、13332.2Pa以下の圧力範囲で行うことを特徴とする請求項1に記載の3C-SiC単結晶エピタキシャル基板の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の3C-SiC単結晶エピタキシャル基板の製造方法で製造された前記3C-SiC単結晶エピタキシャル基板を冷却することで、前記空孔層で前記3C-SiC単結晶エピタキシャル基板を剥離し、前記単結晶シリコン基板から前記3C-SiC単結晶膜を分離して3C-SiC自立基板とする分離工程を含むことを特徴とする3C-SiC自立基板の製造方法。
【請求項4】
単結晶シリコン基板と、
前記単結晶シリコン基板上に設けられたエピタキシャル構造の3C-SiC単結晶膜と、
を備え、
前記単結晶シリコン基板は、
Siが欠落して生じた空孔の集合を含む空孔層を前記3C-SiC単結晶膜との界面に有することを特徴とする3C-SiC単結晶エピタキシャル基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3C-SiC単結晶エピタキシャル基板の製造方法、3C-SiC自立基板の製造方法、及び3C-SiC単結晶エピタキシャル基板に関する。
【背景技術】
【0002】
SiCは、2.2~3.3eVという広いバンドギャップを有することから高い絶縁破壊強度を有し、また熱伝導率も大きいためパワーデバイスや高周波用デバイスなどの各種半導体デバイス用の半導体材料として期待されている材料である。またSiCは結晶構造が異なる3C、4H、6Hなどが知られているが、3Cは立方晶であり、デバイスでは方位依存性がなく有望な材料として知られている。
【0003】
このような背景から、3C-SiC成長は古くから研究されており、バルク成長(非特許文献1および2)やヘテロエピタキシャル成長(非特許文献3:初期のヘテロエピタキシャル成長、特許文献1から5には、最近のシリコン基板上へのヘテロエピタキシャル成長について)が知られている。
【0004】
これらの先行研究・特許をまとめると、(1)バルク成長は高温が必要(>1500℃)であり、デバイスに適応するような大口径化は非常に難しい、(2)一方、エピタキシャル成長では、4Hや6Hのような高温(>1500℃)を必要とせず、およそ1100℃の温度で成長が可能なことから、シリコン基板への成長も可能であり、大口径化という意味では有利である。
【0005】
これらのことから、単結晶シリコン基板上に3C-SiCをヘテロエピタキシャル成長し3C-SiCエピタキシャル膜だけを残すことが研究されている(非特許文献4)。この方法では、Si(111)基板上におよそ100μmの3C-SiCを成長したあとに、フッ硝酸でSiを除去することで、2インチの3C-SiC自立基板を作製している。この方法は、成長後にエッチング工程を追加する必要がある。
【0006】
また、Siのように融点の低い基板上にSiCのような融点の高い膜を成長させたのちに、融点の低い基板を高温で溶解させる方法が特許文献6および7にて開示されている。
【0007】
また3C-SiCの成長については、特許文献8に記載のある通り、SiC結晶成長表面において、Si原子がC原子に対し過剰となるように保ちながら成長することで低温での成長も可能であることが開示されている。この場合のSiとCの供給源については一般的にはガスを用いる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2018-522412号公報
【特許文献2】特開2021-20819号公報
【特許文献3】特開2006-253617号公報
【特許文献4】特開2008-184361号公報
【特許文献5】特開2017-39622号公報
【特許文献6】米国特許出願公開第2013/157448号明細書
【特許文献7】米国特許出願公開第2016/307800号明細書
【特許文献8】特開平11-162850号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】H. Nagasawa, K. Yagi and T. Kawahara," 3C-SiC hetero-epitaxial growth on undulant Si(001) substrate", Journal of Crystal Growth,239 (2002), p1244.
【非特許文献2】D. Chaussende, F. Mercier, A. Boulle, F. Conchon, M.Soueidan, G. Ferro, A. Mantzari, A. Andreadou, E. K.Polychroniadis, C. Balloud, S. Juillaguet, J. Camassel and M.Pons, " Prospects for 3C-SiC bulk crystal growth" Journal of Crystal Growth, 310 (2008), p976.
【非特許文献3】T. Ujihara, R. Maekawa, R. Tanaka, K. Sasaki, K. Kuroda andY. Takeda, " Solution growth of high-quality 3C-SiC crystals" Journal of Crystal Growth, 310 (2008) p1438.
【非特許文献4】浅村他、「低温成長による3C-SiC(111)自立基板の結晶性評価」、第62回応用物理学会春季学術講演会 講演予稿集 13-095(2015)、応用物理学会
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
非特許文献4や特許文献6、7のように下地のSiを溶解させることで、SiCエピタキシャル層だけを残す方法では溶解したSiをどのように処理するかが非常に大きな問題となり、エピタキシャル成長装置の内部に残渣が残る等の問題が考えられる。またすべてのSiを気化させてしまうにはかなりの温度と時間を要することが、Siの蒸気圧からも容易に想像できる(1908K/1Pa)。
【0011】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、簡易な製造プロセスによって、大口径3C-SiC自立基板を得ることが可能な3C-SiC単結晶エピタキシャル基板の製造方法、3C-SiC自立基板の製造方法、および簡易な製造プロセスによって、大口径3C-SiC自立基板を得ることが可能なものとなる3C-SiC単結晶エピタキシャル基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、単結晶シリコン基板を水素雰囲気下でアニールすることで前記単結晶シリコン基板の表面の自然酸化膜を除去する水素ベイク工程と、前記水素ベイク工程後の前記単結晶シリコン基板の表面に炭化処理を行いSiCの核を生成し、さらに生成した核を起点に3C-SiC単結晶膜をエピタキシャル成長させて3C-SiC単結晶エピタキシャル基板を得るエピタキシャル工程と、前記3C-SiC単結晶エピタキシャル基板を、炭素を含むガス雰囲気下でSiの融点(1412±2℃:REALIZE社シリコンの科学919ページ引用)未満の温度に加熱して前記単結晶シリコン基板中のSiを前記3C-SiC単結晶膜と前記単結晶シリコン基板との界面まで固体拡散させ、該拡散させたSiと前記界面に到達したCとの固相反応で、さらにSiCを成長させることで、Siが拡散した跡に生じる空孔を有する空孔層を前記単結晶シリコン基板における前記3C-SiC単結晶膜との前記界面に形成する拡散工程と、を含むことを特徴とする3C-SiC単結晶エピタキシャル基板の製造方法を提供する。
【0013】
この製造方法によれば、単結晶シリコン基板に3C-SiC単結晶膜をエピタキシャル成長させた後で、基板中のSiを3C-SiC単結晶膜との界面まで固体拡散させ、Cとの固相反応を生じさせて、SiCを成長させつつ、Siが拡散した跡に生じる空孔を有する空孔層を界面に形成することで、その後の冷却等で空孔層を起点にした剥離により、3C-SiC単結晶膜を単結晶シリコン基板から分離することが可能である。
【0014】
このような方法によれば、単結晶シリコン基板上に3C-SiC単結晶を成長させた3C-SiC単結晶エピタキシャル基板から3C-SiC自立基板を得る際に、高温に温度を上げてSiを溶融させるような、溶融したSiによってその後の炉のメンテナンスに大きな影響を及ぼすような工程を行う必要もなく、また後から剥離用のエッチング工程を追加する必要もない。
そのため、簡易な製造プロセスによって、大口径3C-SiC自立基板を得ることができる。
【0015】
このとき、前記エピタキシャル工程及び前記拡散工程を、133.322Pa以上、13332.2Pa以下の圧力範囲で行うことができる。
【0016】
エピタキシャル工程及び拡散工程を、133.322Pa以上とすることで、特殊な減圧装置を用いずにエピタキシャル工程及び拡散工程を実施できる。また13332.2Pa以下とすることで、エピタキシャル工程における3C-SiCのエピタキシャル成長、及び拡散工程におけるSiの拡散を促進できる。
【0017】
また本発明は、上記に記載の製造方法で製造された前記3C-SiC単結晶エピタキシャル基板を冷却することで、前記空孔層で前記3C-SiC単結晶エピタキシャル基板を剥離し、前記単結晶シリコン基板から前記3C-SiC単結晶膜を分離して3C-SiC自立基板とする分離工程を含むことを特徴とする3C-SiC自立基板の製造方法を提供する。
【0018】
このような方法によれば、シリコン基板上に3C-SiC単結晶を成長させた3C-SiC単結晶から3C-SiC自立基板を得る際に、冷却するだけでシリコン基板と3C-SiC単結晶を分離できるため、高温に温度を上げてSiを溶融させるような、溶融したSiによってその後の炉のメンテナンスに大きな影響を及ぼすような工程を行う必要もなく、また後から剥離用のエッチング工程を追加する必要もない。
そのため、簡易な製造プロセスによって、大口径3C-SiC自立基板を得ることができる。
【0019】
さらに本発明は、単結晶シリコン基板と、前記単結晶シリコン基板上に設けられたエピタキシャル構造の3C-SiC単結晶膜と、を備え、前記単結晶シリコン基板は、Siが欠落して生じた空孔の集合を含む空孔層を前記3C-SiC単結晶膜との界面に有することを特徴とする3C-SiC単結晶エピタキシャル基板を提供する。
【0020】
このような3C-SiC単結晶エピタキシャル基板はSiが欠落して生じた空孔の集合を含む空孔層を3C-SiC単結晶膜との界面に有するため、Siを溶融させたり剥離用のエッチングをしたりしなくても、冷却等で空孔層を起点にした剥離により、3C-SiC単結晶膜を単結晶シリコン基板から分離することが可能なものとなる。
そのため、簡易な製造プロセスによって、大口径3C-SiC自立基板を得ることができるものとなる。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、本発明の3C-SiC単結晶エピタキシャル基板の製造方法によれば、簡易な製造プロセスによって、大口径3C-SiC自立基板を得ることが可能な3C-SiC単結晶エピタキシャル基板を製造することができる。
また、本発明の3C-SiC自立基板の製造方法によれば、簡易な製造プロセスによって、大口径3C-SiC自立基板を得ることが可能となる。
さらに、本発明の3C-SiC単結晶エピタキシャル基板によれば、簡易な製造プロセスによって、大口径3C-SiC自立基板を得ることが可能なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施形態に係る3C-SiC単結晶エピタキシャル基板の概略図を示す。
図2】本発明の実施形態に係る3C-SiC単結晶エピタキシャル基板の製造方法及び3C-SiC自立基板の製造方法のフロー図を示す。
図3】実施例で得られた3C-SiC単結晶エピタキシャル基板のIn Plane XRD解析結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0024】
上述のように、簡易な製造プロセスによって、大口径3C-SiC自立基板を得ることが可能な3C-SiC単結晶エピタキシャル基板の製造方法、3C-SiC自立基板の製造方法、および簡易な製造プロセスによって、大口径3C-SiC自立基板を得ることが可能なものとなる3C-SiC単結晶エピタキシャル基板が求められていた。
【0025】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、単結晶シリコン基板を水素雰囲気下でアニールすることで前記単結晶シリコン基板の表面の自然酸化膜を除去する水素ベイク工程と、前記水素ベイク工程後の前記単結晶シリコン基板の表面に炭化処理を行いSiCの核を生成し、さらに生成した核を起点に3C-SiC単結晶膜をエピタキシャル成長させて3C-SiC単結晶エピタキシャル基板を得るエピタキシャル工程と、前記3C-SiC単結晶エピタキシャル基板を、炭素を含むガス雰囲気下でSiの融点未満の温度に加熱して前記単結晶シリコン基板中のSiを前記3C-SiC単結晶膜と前記単結晶シリコン基板との界面まで固体拡散させ、該拡散させたSiと前記界面に到達したCとの固相反応で、さらにSiCを成長させることで、Siが拡散した跡に生じる空孔を有する空孔層を前記単結晶シリコン基板における前記3C-SiC単結晶膜との前記界面に形成する拡散工程と、を含むことを特徴とする3C-SiC単結晶エピタキシャル基板の製造方法により、簡易な製造プロセスによって、大口径3C-SiC自立基板を得ることが可能な3C-SiC単結晶エピタキシャル基板を製造することができることを見出し、本発明を完成した。
【0026】
また本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、上記に記載の製造方法で製造された前記3C-SiC単結晶エピタキシャル基板を冷却することで、前記空孔層で前記3C-SiC単結晶エピタキシャル基板を剥離し、前記単結晶シリコン基板から前記3C-SiC単結晶膜を分離して3C-SiC自立基板とする分離工程を含むことを特徴とする3C-SiC自立基板の製造方法により、簡易な製造プロセスによって、大口径3C-SiC自立基板を得ることができることを見出し、本発明を完成した。
【0027】
さらに本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、単結晶シリコン基板と、前記単結晶シリコン基板上に設けられたエピタキシャル構造の3C-SiC単結晶膜と、を備え、前記単結晶シリコン基板は、Siが欠落して生じた空孔の集合を含む空孔層を前記3C-SiC単結晶膜との界面に有することを特徴とする3C-SiC単結晶エピタキシャル基板により、簡易な製造プロセスによって、大口径3C-SiC自立基板を得ることができるものとなることを見出し、本発明を完成した。
【0028】
以下、図面を参照して説明する。
以下、図1及び図2を参照しながら本発明の実施形態に係る3C-SiC単結晶エピタキシャル基板1の製造方法、3C-SiC自立基板9の製造方法、及び3C-SiC単結晶エピタキシャル基板1の構成について説明する。
【0029】
まず、図1を参照して、本発明の実施形態に係る3C-SiC単結晶エピタキシャル基板1の概略構成について説明する。
図1に示すように3C-SiC単結晶エピタキシャル基板1は単結晶シリコン基板3と、単結晶シリコン基板上に設けられたエピタキシャル構造の3C-SiC単結晶膜5を備える。
【0030】
単結晶シリコン基板3は3C-SiC単結晶膜5がエピタキシャル成長で形成される際の下地となる基板である。単結晶シリコン基板3の厚さは、3C-SiC単結晶膜5の厚さにもよるが、例えば3C-SiC単結晶膜5がエピタキシャル成長で形成される際にシリコンとSiCの格子定数の違い等に起因した応力で単結晶シリコン基板3が曲がったり割れたりしない程度の厚さであればよい。
【0031】
単結晶シリコン基板3の口径は、少なくとも3C-SiC単結晶膜5の口径以上であるが、単結晶シリコン基板3の口径が大きくなるほど大口径の3C-SiC単結晶膜5を設けられるため、直径200mm以上とするのが好ましく、直径300mm以上とするのがより好ましい。
【0032】
また、単結晶シリコン基板3は、Siが欠落して生じた空孔の集合を含む空孔層7を3C-SiC単結晶膜との界面に有する。
空孔層7は空孔の集合があるため、他の部分と比べて脆くなっている。そのため冷却等で応力を加えることで、空孔層7で3C-SiC単結晶エピタキシャル基板1を剥離して単結晶シリコン基板3から3C-SiC単結晶膜5を容易に分離できるものとなる。
よって、3C-SiC単結晶エピタキシャル基板1は、簡易な製造プロセスによって、大口径3C-SiC自立基板を得ることができるものとなる。
なお、単結晶シリコン基板3における空孔層7以外の部分を以下の説明では基部11と称す。また、空孔層7における空孔の密度や空孔層の厚さは、冷却で容易に3C-SiC単結晶エピタキシャル基板1を剥離できる範囲で適宜設定する。
【0033】
3C-SiC単結晶膜5はエピタキシャル構造を有する膜である。3C-SiC単結晶膜5の厚さの下限は、例えば単結晶シリコン基板3から分離した後でも曲がったり割れたりせずに形状を保持でき、その後のデバイスの形成等の際の研磨やエッチング等で消失しない程度である。厚さの上限は、その後のデバイスの形成等の際に利用されない部分が多く生じてコスト高とならない程度である。また3C-SiC単結晶膜5の口径は単結晶シリコン基板3の口径以下である。
【0034】
次に、図2を参照して本発明の実施形態に係る3C-SiC単結晶エピタキシャル基板1の製造方法、及び3C-SiC自立基板9の製造方法について説明する。
【0035】
まず、図2(a)に示すように、3C-SiC単結晶膜5をエピタキシャル成長させる際の下地となる単結晶シリコン基板3を用意する。用意する単結晶シリコン基板3の表面の面方位は成長させる予定の3C-SiC単結晶膜5の面方位に応じて決定され、例えば(111)面であるが、(110)面や(100)面でもよい。単結晶シリコン基板3の厚さは成長させる予定の3C-SiC単結晶膜5の厚さに応じて、成長中に曲がったり割れたりしない程度の厚さのものを選択すればよい。単結晶シリコン基板3の口径は成長させる3C-SiC単結晶膜5の口径以上とする。
【0036】
次に、RP-CVD装置(減圧CVD装置)等の3C-SiC単結晶膜5をエピタキシャル成長させる成長炉内に、用意した単結晶シリコン基板3を配置し、単結晶シリコン基板3を水素雰囲気下でHアニールすることで表面の自然酸化膜を除去する(水素ベイク工程)。自然酸化膜が残っていると、単結晶シリコン基板3上に3C-SiC単結晶膜5をエピタキシャル成長させる際に、SiCの核形成が出来なくなってしまうためである。
【0037】
この時のHアニール温度は1000℃以上1200℃以下の条件とすることが好ましい。温度を1000℃以上とすることで、自然酸化膜の残留を防ぐための水素ベイク工程を短時間で完了できる。また温度を1200℃以下とすることでスリップの発生を確実に抑制できる。このときのHアニールの圧力や時間は自然酸化膜が除去できればよく、特に制約はない。
【0038】
次に、図2(b)に示すように水素ベイク工程後の単結晶シリコン基板3の表面に炭化処理を行いSiCの核を生成し、さらに生成した核を起点に3C-SiC単結晶膜5をヘテロエピタキシャル成長させる(エピタキシャル工程)。
【0039】
具体的には、まず、単結晶シリコン基板3の表面を炭化してSiCの核形成を行うために、原料ガスとしてプロパンガスのような炭化ガスをRP-CVD装置内に導入しながら300℃以上950℃以下の範囲の温度から1000℃以上1200℃未満の範囲の温度まで徐々に装置内を昇温する。
【0040】
続いて原料ガスをトリメチルシランガス等のCとSiを含むガスに切り替え、炭化で生成した核を起点に3C-SiC単結晶膜5をエピタキシャル成長させる。SiCのエピタキシャル成長時の昇温速度は0.5~5℃/minの範囲が好ましく、1℃/min程度が、より好ましい。
【0041】
なおエピタキシャル工程で成長させる3C-SiC単結晶膜5の厚さは、最終的な目標値よりも薄くてよい。これは、後工程でも3C-SiC単結晶膜5を成長させるためである。
【0042】
次に、図2(c)に示すように、3C-SiC単結晶エピタキシャル基板を、炭素を含むガス雰囲気下でSiの融点未満の温度に加熱して単結晶シリコン基板3中のSiを3C-SiC単結晶膜5と単結晶シリコン基板3との界面まで固体拡散させ、該拡散させたSiと界面に到達したCとの固相反応で、さらにSiCを成長させることで、Siが拡散した跡に生じる空孔を有する空孔層7を単結晶シリコン基板3における3C-SiC単結晶膜5との界面に形成する(拡散工程)。
【0043】
具体的には、例えば1000℃以上、シリコンの融点未満の温度でトリメチルシランガス等のCとSiを含んだガスをRP-CVD装置内に導入しながら、3C-SiC単結晶膜5の成長をおこなう。このとき、3C-SiC単結晶膜5は、原料がCだけでなくSiを含んでいれば表面での気相反応でも成長するが、さらに3C-SiC単結晶膜5と単結晶シリコン基板3との界面に到達した炭素原子と、Si基板から界面に拡散したSiとの固相反応でも成長する。
【0044】
なお、拡散工程では固相反応によって、単結晶シリコン基板3における3C-SiC単結晶膜5との界面にはSiが抜けたあとの空孔が発生し、この空孔の集まりにより空孔層7が形成される。
【0045】
このように、気相反応だけでなく固相反応も利用することで、単結晶シリコン基板3をSi源としたSiC成長も可能になり、図1に示すような、単結晶シリコン基板3における3C-SiC単結晶膜5との界面に空孔が存在した空孔層7をもつ3C-SiC単結晶エピタキシャル基板1を作ることができる。
【0046】
なお、エピタキシャル工程及び拡散工程を、133.322Pa(1Torr.)以上、13332.2Pa(100Torr.)以下の圧力範囲で行うことが好ましい。具体的には、エピタキシャル工程及び拡散工程の際のRP-CVD装置内の圧力を133.322Pa以上、13332.2Pa以下とするのが好ましい。
【0047】
RP-CVD装置内の圧力を133.322Pa以上とすることで、特殊な減圧装置を用いずにエピタキシャル工程及び拡散工程を実施できる。またRP-CVD装置内の圧力を13332.2Pa以下とすることで、エピタキシャル工程における3C-SiCのエピタキシャル成長、及び拡散工程におけるSiCの拡散を促進できる。
なお、拡散工程におけるRP-CVD装置内の圧力を666.612Pa(5Torr.)程度の圧力にすると、空孔の成長が促進され、かつSiCの成長速度も大きくなるので、好ましい。また、拡散工程の時間は、所望の厚さの3C-SiC単結晶膜5と空孔層7が得られる時間である。
以上が3C-SiC単結晶エピタキシャル基板1の製造方法の説明である。
【0048】
次に、この製造方法で製造された3C-SiC単結晶エピタキシャル基板1を冷却することで、空孔層7で3C-SiC単結晶エピタキシャル基板1を剥離し、図2(d)に示すように単結晶シリコン基板3から3C-SiC単結晶膜5を分離して3C-SiC自立基板9とする(分離工程)。
【0049】
具体的には拡散工程で、目標とする所定の厚さの3C-SiC単結晶膜5が成長したら、原料ガスの供給を停止してRP-CVD装置内を降温する等して、3C-SiC単結晶エピタキシャル基板1を冷却する。
【0050】
このときの降温によって、単結晶シリコン基板3の基部11から3C-SiC単結晶膜5が分離する。特に400℃前後の温度帯を急速に通過させると、空孔層7を起点として、3C-SiC単結晶エピタキシャル基板1が急速に剥離し、単結晶シリコン基板3の基部11から3C-SiC単結晶膜5が分離される。
【0051】
具体的な降温の際の処理は、3C-SiC単結晶エピタキシャル基板1を剥離して単結晶シリコン基板3から3C-SiC単結晶膜5が分離できれば特に限定しないが、例えば、冷却過程と低温処理と呼ばれる2つの処理を例示できる。
冷却過程とは、目標とする所定の厚さの3C-SiC単結晶膜5が成長した後に3C-SiC単結晶エピタキシャル基板1を500℃まで自然冷却し、500℃で30秒~3分保持し、200℃まで4~5℃/minで冷却し取り出す処理である。
低温処理とは、目標とする所定の厚さの3C-SiC単結晶膜5が成長した後に3C-SiC単結晶エピタキシャル基板1を200℃の炉内に直接投入し、200℃にて2時間処理後、4~5℃/minで500℃まで昇温し、500℃にて30秒保持し、そのまま炉外に取り出し室温にて自然冷却する処理である。
【0052】
なお、剥離後も単結晶シリコン基板3の基部11上に3C-SiC単結晶膜5が乗っているため、このままRP-CVD装置より取り出すことができ、取り出したのちに、単結晶シリコン基板3の基部11と3C-SiC単結晶膜5を分離できる。
【0053】
また、分離後の単結晶シリコン基板3の基部11を用いて再度ベイク工程、エピタキシャル工程、拡散工程を行うことで、再度3C-SiC単結晶膜5を成長させることも可能である。なお、この際、単結晶シリコン基板3の基部11は剥離後の表面をそのまま使用してもよいし、空孔層7の空孔の大きさや密度によっては、表面を一度研磨、洗浄等をしても良い。
以上が3C-SiC自立基板9の製造方法の説明である。
【0054】
このように、大口径基板に対応できる成長装置としてRP-CVD装置等を使用して、水素ベイク工程で例えば直径300mm以上の単結晶シリコン基板3の表面の自然酸化膜を除去した後に、炭化処理を行い、その後、単結晶シリコン基板3に3C-SiC単結晶膜5のヘテロエピタキシャル成長を行い、さらに、単結晶シリコン基板3が融解しない程度の高温にして炭素を含むガスを流して単結晶シリコン基板3の固体拡散によってさらに3C-SiC単結晶膜5を成長させ、単結晶シリコン基板3における3C-SiC単結晶膜5との界面に多数の空孔を持つ3C-SiCエピタキシャル基板を作製することで、この空孔を利用して、その後の冷却処理等で剥離を行うことができる。
【0055】
よって、本発明の3C-SiC自立基板9の製造方法では、単結晶シリコン基板3をSi供給源として固相拡散で3C-SiC単結晶膜5をヘテロエピタキシャル成長させ、空孔層7を形成した後に単結晶シリコン基板3を除去することで、直径200mmや300mmのような大口径の3C-SiC自立基板9を得ることができる。
【実施例0056】
以下、実施例を挙げて本発明について具体的に説明するが、これは本発明を限定するものではない。
本発明の3C-SiC単結晶エピタキシャル基板の製造方法で3C-SiC単結晶エピタキシャル基板1を製造し、さらに3C-SiC自立基板9の製造を試みた。具体的な手順は以下の通りである。
【0057】
まず、単結晶シリコン基板3として、直径300mm、表面の面方位が(111)、抵抗率が0.1Ω・cmのボロンドープの低抵抗単結晶シリコンウェーハを準備した。
次にRP‐CVD装置の反応炉内のサセプター上にウェーハを配置し、水素ベイク工程として、1080℃で1分間のHアニールを行った。続いて、エピタキシャル工程として、炉内温度を300℃まで降温させた後、昇温レート1℃/secで1130度まで昇温させながらプロパンガスを導入してSiCの核形成を行い、さらにトリメチルシランガスを導入してそれに続く3C-SiC単結晶膜5の形成を行った。この時の成長圧力は一律666.612Pa(5Torr)とした。
【0058】
さらに、反応炉内の温度が1130℃まで到達後10時間、保持し、拡散工程として3C-SiC単結晶膜5の成長及び空孔層7の形成を行った。その後、3C-SiC単結晶膜5の膜厚が100μmに達したら、原料ガスの供給を停止して、500℃まで自然冷却し、500℃で120秒保持し、200℃まで5℃/minで冷却した(冷却工程)。
【0059】
その後、冷却した3C-SiC単結晶エピタキシャル基板を反応炉から取り出し、3C-SiC単結晶膜5と単結晶シリコン基板3がずれないようにそのままの状態でIn plane配置にて3C-SiC単結晶エピタキシャル基板の結晶構造をXRDにて確認したところ、図3に示すようにSi(220)に平行な3C-SiC(220)のピークを確認することが出来、単結晶シリコン基板3上に単結晶の3C-SiC膜が成長していたことが確認された。
【0060】
また、反応炉から取り出した3C-SiC単結晶エピタキシャル基板1は追加の冷却等の処理を行わなくても3C-SiC単結晶膜5(3C-SiC自立基板9)と単結晶シリコン基板3の基部11に分離することができていたため、反応炉から取り出す前の冷却工程で既に剥離していたことも確認できた。
【0061】
以上のとおり、本発明の実施例によれば、3C-SiC単結晶エピタキシャル基板1を製造でき、製造した3C-SiC単結晶エピタキシャル基板1を剥離して3C-SiC自立基板9を製造できた。
【0062】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0063】
1…3C-SiC単結晶エピタキシャル基板、 3…単結晶シリコン基板、 5…3C-SiC単結晶膜、 7…空孔層、 9…3C-SiC自立基板、 11…基部。
図1
図2
図3