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特開2024-102697シラノール基を有するシリコーン樹脂の製造方法
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  • 特開-シラノール基を有するシリコーン樹脂の製造方法 図1
  • 特開-シラノール基を有するシリコーン樹脂の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102697
(43)【公開日】2024-07-31
(54)【発明の名称】シラノール基を有するシリコーン樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 77/08 20060101AFI20240724BHJP
   C08G 77/16 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
C08G77/08
C08G77/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006765
(22)【出願日】2023-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】西口 公二
(72)【発明者】
【氏名】佐野 温子
(72)【発明者】
【氏名】近藤 秀一
【テーマコード(参考)】
4J246
【Fターム(参考)】
4J246AA03
4J246BB021
4J246CA01M
4J246CA23U
4J246CA39U
4J246FC162
4J246FE07
4J246FE23
4J246FE32
4J246GA12
4J246GC07
4J246GD08
4J246HA22
(57)【要約】
【課題】貯蔵安定性に優れる、シラノール基を有するシリコーン樹脂の製造方法を提供する。
【解決手段】触媒存在下において、オルガノポリシロキサンに、水を反応させて、シラノール基を有するシリコーン樹脂を得た後、前記触媒を除去する工程を含む、シラノール基を有するシリコーン樹脂の製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒存在下において、オルガノポリシロキサンに、水を反応させて、シラノール基を有するシリコーン樹脂を得た後、前記触媒を除去又は失活する工程を含む、シラノール基を有するシリコーン樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記触媒が水溶性触媒であり、前記触媒を除去する工程において、前記水溶性触媒を水洗により除去する、請求項1に記載のシラノール基を有するシリコーン樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シラノール基を有するシリコーン樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーン樹脂は、無機質のシロキサン結合が主鎖で、側鎖に有機基が結合した構造を有し、有機物のポリマーの主鎖である炭素-炭素結合や炭素-酸素結合よりも結合エネルギーが非常に大きい。そのため、高温になってもその結合は切断され難く、化学的に安定しており、耐熱性、耐候性に優れている。また、シリコーン樹脂は、その構造からユニークな特性を示し、各種有機官能基の導入等により、用途に応じたカスタマイズが可能である。そのような優れた性質を有することから、電気・電子・自動車・建築・化学・化粧品・繊維・食品等、種々の分野で使用されている。
【0003】
シリコーン樹脂は、上記のように、耐候性に優れることの他、撥水性や、無機材料や樹脂からなる基材との密着性にも優れることから、撥水性塗料の塗料成分としても有用である。中でも、反応基としてアルコキシシリル基を有するものは、空気中の水分で加水分解してシラノール基に変換され、その後シラノール基同士が脱水縮合してシロキサン結合を形成することから、一液で硬化での可能であり、さらに無機基材との密着性に優れる等の利点がある。しかしながら、アルコキシシリル基は加水分解する際に、メタノールやエタノール等のアルコールが副生する問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-189941公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
反応基にシラノール基を有するシリコーン樹脂は、アルコキシシリル基の加水分解の工程が不要なこと、シラノール基どうしの縮合反応で生じる副生物が水であることから、硬化性や環境影響の観点で優れているといえる。しかしながら、シラノール基はその優れた反応性から貯蔵時においても脱水縮合が起きるため、樹脂の分子量が増大することがある。その結果、ワニスの品質又は塗膜特性に悪影響を及ぼす。すなわち、シラノール基を有するシリコーン樹脂は貯蔵安定性に問題があることから、シラノール基を有するシリコーン樹脂は末端にシラノール基を有するもの等、分子中のシラノール基の数が少ない製品が一部市販されているのみである。
【0006】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、その課題は、貯蔵安定性に優れる、シラノール基を有するシリコーン樹脂を製造可能な製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、誠意検討により、側鎖にシラノール基を有するシリコーン樹脂の貯蔵安定性に劣るのは、合成時の触媒が残存し、その触媒が側鎖のシラノール基の脱水縮合を助長することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、前記課題を解決する本発明の一態様は以下の通りである。
【0008】
(1)触媒存在下において、オルガノポリシロキサンに水を反応させてシラノール基を有するシリコーン樹脂を得た後、前記触媒を除去又は失活する工程を含む、シラノール基を有するシリコーン樹脂の製造方法。
【0009】
(2)前記触媒が水溶性触媒であり、前記触媒を除去する工程において、前記水溶性触媒を水洗により除去する、前記(1)に記載のシラノール基を有するシリコーン樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、貯蔵安定性に優れる、シラノール基を有するシリコーン樹脂を製造可能な製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1及び比較例1における、経時でのシラノール基数の変化を示すグラフである。
図2】実施例2及び比較例2における、経時でのシラノール基数の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<シラノール基を有するシリコーン樹脂の製造方法>
本実施形態のシラノール基を有するシリコーン樹脂の製造方法は、触媒存在下において、オルガノポリシロキサンに、水を反応させて、シラノール基を有するシリコーン樹脂を得た後、触媒を除去又は失活する工程を含むことを特徴としている。
【0013】
本実施形態の製造方法においては、触媒存在下で原料を反応させてシラノール基を有するシリコーン樹脂を得た後、触媒を除去するため、触媒の存在に起因するシラノール基の脱水縮合を抑えることができる。そのため、長期間貯蔵しても、分子量の増大が抑えられ、得られるシリコーン樹脂を塗料成分に用いた場合、ワニスの品質又は塗膜特性が保たれる。すなわち、本実施形態の製造方法で得られるシリコーン樹脂は貯蔵安定性に優れる。
以下に、先ず、本実施形態の製造方法において使用する原料について説明する。
【0014】
[オルガノポリシロキサン]
オルガノポリシロキサンの構造はケイ素-水素基を含んでいるものであれば特に限定されず、直鎖状、環状、網状、一部分岐を有する直鎖状から選ばれる1種類以上の構造であってよい。直鎖状のものとしては、例えば、下記一般式(1)で表されるオルガノポリシロキサンが挙げられる。
【0015】
【化1】
[一般式(1)中、R~Rは、それぞれ独立に、無置換又は置換された炭素原子数1~8のアルキル基、炭素原子数6~11のアリール基を示す]
【0016】
[触媒]
触媒としては、オルガノポリシロキサンと水との反応を促進させるために用いられる。例えば、白金触媒、金属カルボニル錯体等が挙げられる。白金触媒としては、例えば、塩化白金(IV)酸が挙げられる。
【0017】
触媒の配合量は、オルガノポリシロキサンとヒドロキシ基を有する化合物の合計量100質量部に対して、0.001~0.1質量部配合することができ、0.001~0.005質量部が好ましい。
【0018】
触媒が水溶性触媒である場合、触媒を除去する工程において、水溶性触媒を水洗により除去することができる。なお、塩化白金(IV)酸は水溶性であるため、水洗により除去することができる。
【0019】
本実施形態の製造方法においては、以上の原料を用いてシラノール基を有するシリコーン樹脂を生成する。以下に、本実施形態の製造方法における各工程について説明する。
【0020】
[仕込み]
まず、触媒存在下、オルガノポリシロキサンと水とを反応させるに当たり、溶媒中に、オルガノポリシロキサンと、水と、を反応容器内に投入する。攪拌しながら所定の温度まで昇温したのち、触媒の溶媒溶解液を滴下して反応させる。
【0021】
溶媒としては、アルコール系、エステル系、ラクトン系、エーテル系、ケトン系、アミド系、炭化水素系等の溶媒を用途に応じて使用することができる。本実施形態では、反応が完了した後の水洗工程で油層と水層に分離させる必要があることから、水への溶解が乏しい溶媒を用いることが好ましい。具体的には、n-ブチルアルコール、n-ペンチルアルコール、シクロペンタノール、n-ヘキサノール、シクロヘキサノール、酢酸エチル、酢酸n―プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸t-ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジブチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、メチルイソブチルケトン、2-ペンタノン、3-ペンタノン、シクロペンタノン、2-ヘキサノン、3-ヘキサノン、シクロヘキサノン、ジメチルカーボネート、トルエン、キシレン、ヘキサン等が挙げられる。また、反応で用いた溶媒を反応が完了したのちに脱溶する操作を行う場合は、上記の溶媒に限らず、水への溶解性を有する以下の溶媒も選定することができる。例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、イソブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ガンマブチロラクトン、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン等が挙げられる。
【0022】
[反応]
上記の仕込みが完了した後、オルガノポリシロキサンと、水とを反応させる。
【0023】
オルガノポリシロキサンと、水とを反応させるに当たり、温度については、還流条件で溶媒の沸点以下であれば特に制限はない。例えば、温度は5~120℃、反応時間は1~48時間とすることができる。副反応によるゲル化を防ぐ観点から、温度は50~90℃、反応時間は4~24時間が好ましい。
【0024】
[触媒除去]
上記反応終了後、触媒を除去する。触媒を除去する手段としては、水溶性触媒なら水洗により除去することができる。その場合、反応生成物を水中に投じて攪拌し、その後、静置する。すると、有機層と水層とに分離し、有機層には、生成したシラノール基を有するシリコーン樹脂と溶媒が分配され、水層には、水溶性触媒と水が分配される。そして、有機層のみを回収することで、触媒が除去された状態のシラノール基を有するシリコーン樹脂と溶媒が得られる。
【0025】
一方、触媒が水溶性でない場合、活性炭に吸着させる等の方法により除去することができる。
【0026】
[触媒失活]
一方、上記反応終了後、触媒を失活することにより触媒の機能を失わせてもよい。触媒の失活は、反応生成物に失活剤を添加することにより行うことができる。塩化白金酸等の酸性触媒の失活剤としては、塩基性の化合物で中和することで失活することができる。例えば、塩化白金酸の失活剤としては、炭酸ナトリウムや炭酸カリウム等の金属炭酸塩、炭酸水素ナトリウムなどの金属炭酸水素塩、水酸化ナトリウムなどの金属水酸化物、トリエチルアミンやピぺリジン等の有機塩基が挙げられ、中でも、炭酸水素ナトリウムが好ましい。
【0027】
以上の本実施形態の製造方法により得られるシラノール基を有するシリコーン樹脂は、上述の通り、貯蔵安定性に優れる。従って、塗料の撥水成分とした場合、ワニスの品質又は塗膜特性が良好に保たれる。
以下に、本実施形態の製造方法により得られるシラノール基を有するシリコーン樹脂を塗料の撥水成分とした場合の樹脂組成物とする場合の各成分について説明する。
【0028】
溶媒としては、上述の仕込みの工程で記した溶媒が挙げられる。
【0029】
[他の添加剤]
樹脂組成物には、その効果を損なわない範囲で、一般に使用されている表面改質材、消泡材、硬化剤、レオロジーコントロール剤、染料、顔料、難燃剤、紫外線吸収剤等の添加剤を使用してもよい。
【0030】
樹脂組成物を塗料として用いる場合、当該塗料を基材に塗布することにより、塗膜を形成することができる。塗膜とした樹脂組成物は、後述の方法で硬化することができる。当該基材としては、ガラス、セラミック、ステンレス、アルミ、銅等の無機材料や、エポキシ、ベークライト、ポリアクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン等の有機樹脂材料から構成される成分のうち、少なくとも1種類以上含有する材質からなるものが挙げられる。基材は単一組成に限らず、シリコンウエハのような電子関連部材や、上記記載の成分を基材の表面に積層したものでもよい。また、基材の形状は湾曲部や段差部にも適用することができる。
【0031】
樹脂組成物の塗布方法は特に限定されないが、スプレー塗布、バーコータ塗布、スピンコート塗布等が好ましい。塗布する際の膜厚は特に制限されないが、発泡や硬化不良を防ぐため100μm以下が好ましく、さらに好ましくは50μm以下である。製膜後に重ね塗りにすることで厚膜塗装を行うこともできる。また、塗膜を硬化した際の膜厚は特に制限されないが、100μm以下であってもよく、60μm以下であってもよく、40μm以下であってもよい。
【0032】
樹脂組成物は、加熱により硬化することができる。加熱温度としては、作業の簡便性から40℃以上とすることが好ましく、シラノール基が効率よく反応する120℃以上が更に好ましい。反応時間は硬化方法や温度に応じて様々であるが、一般的には1~48時間程度が好ましい、また、硬化速度を速めるために酸触媒又はアルカリ触媒を添加してもよい。
上記樹脂組成物は、加熱により硬化することができるが、用途に応じて樹脂構造中に適宜官能基を導入することで、紫外線硬化や2液硬化を行うこともできる。
【実施例0033】
以下に、実施例により本実施形態をさらに具体的に説明するが、本実施形態は以下の実施例に限定されるものではない。
【0034】
[実施例1]
ポリヒドロメチルシロキサン100gと、水66gと、酢酸エチル200gとを、1Lセパラブルフラスコに投入し、攪拌しながら70℃まで昇温した。塩化白金(IV)酸0.005gをn-プロパノール1g、酢酸エチル50gに溶解させ、滴下ポンプを用いて触媒溶液をフラスコに滴下しながら70℃で6時間反応させた。その後、反応後生成物に水100gを投入して攪拌後、静置した。1時間後、水層と有機層に分離したため、水層を排水し、有機層のみとした。つまり、水層中に分配された触媒を除去した。最後に、不揮発分が20質量%となるように溶媒を調整した。以上のようにして、シラノール基を有するシリコーン樹脂が溶解したワニスを得た。
【0035】
[実施例2]
溶媒を酢酸エチルからプロピレングリコールジメチルエーテルに変更したこと以外は実施例1と同様にして、シラノール基を有するシリコーン樹脂が溶解したワニスを得た。
【0036】
[比較例1]
反応後に触媒を除去しなかったこと以外は実施例1と同様にして、シラノール基を有するシリコーン樹脂が溶解したワニスを得た。
【0037】
[比較例2]
溶媒を酢酸エチルからプロピレングリコールジメチルエーテルに変更したこと以外は比較例1と同様にして、シラノール基を有するシリコーン樹脂が溶解したワニスを得た。
【0038】
[評価]
実施例1、実施例2、比較例1、比較例2で得られたシラノール基を有するシリコーン樹脂が溶解したワニスを、温度40℃にて3ヶ月保管した。そして、1ヶ月後、2ヶ月後、及び3ヶ月後において、シリコーン樹脂に含まれるケイ素-メチル基数に対するシラノール基数の割合をH-NMRにより測定した。測定結果を図1図2のグラフにて示す。
【0039】
実施例1~2及び比較例1~2において、40℃でワニスを保管した場合のシラノール基数の割合の経時での変化を示すグラフを図1~2に示す。図1のグラフにおいて、「●」プロットが比較例1、「〇」プロットが実施例1、「■」プロットが実施例2、「□」プロットが比較例2を示している。図1より、実施例1は比較例1よりも、経時でのシラノールの減少が少ない。すなわち、触媒を除去することで、経時でのシラノール基の脱水縮合が抑制され、貯蔵安定性に優れることが分かる。また、図2より、実施例2は比較例2よりも、経時でのシラノールの減少が少なく、溶媒を変更した場合においても、同様の効果が得られることが分かる。
図1
図2