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  • 特開-電磁波遮蔽シート 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102727
(43)【公開日】2024-07-31
(54)【発明の名称】電磁波遮蔽シート
(51)【国際特許分類】
   H05K 9/00 20060101AFI20240724BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20240724BHJP
   D03D 15/283 20210101ALI20240724BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20240724BHJP
   H01Q 17/00 20060101ALI20240724BHJP
   H01Q 1/52 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
H05K9/00 Q
D03D1/00 Z
D03D15/283
C09K3/00 105
H01Q17/00
H01Q1/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006813
(22)【出願日】2023-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柳原 英人
(72)【発明者】
【氏名】川本 道久
【テーマコード(参考)】
4L048
5E321
5J020
5J046
【Fターム(参考)】
4L048AA24
4L048AA34
4L048AB06
4L048BA01
4L048CA00
4L048DA24
5E321AA23
5E321BB41
5E321GG05
5J020EA04
5J020EA10
5J046AA02
5J046UA08
(57)【要約】
【課題】電磁波遮蔽シートとして、テラヘルツ波帯域の電磁波遮蔽性が良好である、電磁波遮蔽シートを新たに提案するものである。
【解決手段】目開が50~1100μmであるメッシュ構造を有し、透過率が0.7であるときの周波数が0.3THz以上である、電磁波遮蔽シート。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
目開が50~1100μmであるメッシュ構造を有し、透過率が0.7であるときの周波数が0.3THz以上である、電磁波遮蔽シート。
【請求項2】
前記シートが樹脂シートである、請求項1に記載の電磁波遮蔽シート。
【請求項3】
前記シートが樹脂繊維の織物である、請求項1に記載の電磁波遮蔽シート。
【請求項4】
前記樹脂繊維がポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミドのいずれかから選択される、請求項3に記載の電磁波遮蔽シート。
【請求項5】
透過率が0.3であるときの周波数が0.5THz以上である、請求項1に記載の電磁波遮蔽シート。
【請求項6】
周波数1.2THz以上1.5THz以下の範囲における電磁波の透過率が0.3以下である、請求項1に記載の電磁波遮蔽シート。
【請求項7】
金属層を有しない、請求項1に記載の電磁波遮蔽シート。
【請求項8】
通信用、医療用、計測用、または自動車用である、請求項1~7のいずれかに記載の電磁波遮蔽シート。
【請求項9】
目開が50~1100μmであるメッシュ構造を有し、透過率が0.7であるときの周波数が0.3THz以上であるメッシュ状織物を、電磁波遮蔽シートとして使用する方法。
【請求項10】
周波数1.2THz以上1.5THz以下の範囲における前記メッシュ状織物の電磁波の透過率が0.3以下である、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波遮蔽シートに関する。
【背景技術】
【0002】
テラヘルツ周波数とは、100GHzから10THzまでの間の周波数、または3mmから30μmまでの長さの波長を有する電磁波を指し、電波と赤外線の間に位置するこの「光」には、従来にはない、プラスチックや織物、紙や厚紙の「中を見る」ことができる特徴を有する。医療用途、産業用途、通信用途など、各種分野への応用が期待される状況にある。
また、近年、携帯やPCなどの電子機器の普及・映像などの高画質化に伴い、通信量はさらに増加する傾向にあり、電波を利用するアプリケーションも増加する一方であるため、テラヘルツ波が注目されている。
例えば、表面に金属皮膜を形成した電磁波遮蔽メッシュが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-176161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前述の通り、従来よりもさらに高い周波数の電磁波を利用する技術トレンドに対応して、不要な電磁波を遮蔽する電磁波遮蔽体やユーザの利便性を向上したシート状の電磁波遮蔽体である電磁波遮蔽シートにおいても、テラヘルツ波帯域の電磁波を遮蔽可能なものが必要とされる状況にある。
【0005】
そこで、本発明は、以上の問題点に鑑みてなされたものであり、電磁波遮蔽シートとして、テラヘルツ波帯域の電磁波遮蔽性が良好である電磁波遮蔽シートを提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意検討の結果、特定のメッシュ構造を有することで、上記の課題を解決した電磁波遮蔽シートを提供することができることを見出し、以下の本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[10]を提供するものである。
[1]目開が50~1100μmであるメッシュ構造を有し、透過率が0.7であるときの周波数が0.3THz以上である、電磁波遮蔽シート。
[2]前記シートが樹脂シートである、[1]に記載の電磁波遮蔽シート。
[3]前記シートが樹脂繊維の織物である、[1]に記載の電磁波遮蔽シート。
[4]前記樹脂繊維がポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミドのいずれかから選択される、[3]に記載の電磁波遮蔽シート。
[5]透過率が0.3であるときの周波数が0.5THz以上である、[1]~[4]のいずれかに記載の電磁波遮蔽シート。
[6]周波数1.2THz以上1.5THz以下の範囲で電磁波の透過率が0.3以下である、[1]~[5]のいずれかに記載の電磁波遮蔽シート。
[7]金属層を有しない、[1]~[6]のいずれかに記載の電磁波遮蔽シート。
[8]通信用、医療用、計測用、または自動車用である、[1]~[7]のいずれかに記載の電磁波遮蔽シート。
[9]目開が50~1100μmであるメッシュ構造を有し、透過率が0.7であるときの周波数が0.3THz以上であるメッシュ状織物を、電磁波遮蔽シートとして使用する方法。
[10]前記メッシュ状織物の周波数1.2THz以上1.5THz以下の範囲で電磁波の透過率が0.3以下である、[9]に記載の方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、電磁波遮蔽シートとして、メッシュ構造表面を金属層で被覆する必要がなく、特にテラヘルツ波帯域でも低周波よりの(100GHz~2THz)の電磁波遮蔽性が良好である電磁波遮蔽シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】メッシュ状織物の目開きが77μm~1000μmに対し、1~2THzの電磁波を照射したときの吸収スペクトルである。
図2】平織織物の一般的な形態を示す平面図である。
図3】織物の目開きの寸法測定位置を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、本発明の実施形態の一例について説明する。但し、本発明は、次に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0010】
本発明の電磁波遮蔽シートは、メッシュ構造を有するシート(メッシュシート)であり、メッシュ状の織物であることが好ましい。前記シートは樹脂シートであることが好ましい。前記シートが樹脂繊維の織物であるとき前記樹脂繊維がポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミドのいずれかから選択されることが好ましい。
<メッシュシート>
本発明で使用するメッシュシート(好ましくはメッシュ状織物等)は芯鞘構造を有する繊維を使用したものであってもよい。メッシュシートを構成する、複合フィラメントの芯成分を構成する樹脂は、例えばポリエステルが挙げられ、具体的には、ポリアルキレンテレフタレート、共重合ポリアルキレンテレフタレート、ポリ〔1,4-シクロヘキサンジオール・テレフタレート〕等が使用されるが、製織後、加工段階での熱セットにおける寸法安定性を確実なものとするためには、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート及びポリ〔1,4-シクロヘキサンジオール・テレフタレート〕の使用が好ましく、特に経済的に入手し易いポリエチレンテレフタレートの使用が最適である。また、ポリオレフィンとしてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン-1等が使用できるが、紡糸時の安定性や取り扱い性から、ポリエチレン、ポリプロピレンが好ましく、さらに好ましくは紡糸温度の選択の容易性からポリプロピレンが好ましい。また、鞘成分を構成するポリアミドとしては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン12、パラアミノシクロヘキシルメタンとドデカン二酸との縮合ポリアミド等の脂肪族ポリアミド、ポリキシリレンアジパミド、ポリヘキサメチレンフタルアミド等の芳香族ポリアミドが使用できるが、紡糸の容易さ及び経済性の点から、ナイロン6及びナイロン66が好ましい。
本発明では、合成繊維フィラメント糸条の特性を損なわない範囲内で、合成繊維スパン糸条、あるいは半合成繊維、再生繊維、天然繊維、無機繊維などを含んでいてもよい。
複合フィラメントの形態は、繊維横断面の全周にわたって鞘成分が連続して存在し、芯成分が露出していなくてもよい。繊維の横断面の形状は、通常の丸断面形状でよく、また芯成分の配置及び形状は特に限定されず、単芯、多芯、丸断面、異形断面、同心、偏心いずれも選択可能である。
芯成分と鞘成分の比率は、容量比率で1:5~3:1であるのが好ましく、1:2~2:1がより好ましい。
複合フィラメントは、モノフィラメント及びマルチフィラメントのいずれでもよい。
その繊度は1デニール以上あればよい。5~50デニールのモノフィラメントの使用が特に好ましい。
繊維径は100μm以下であるのが、テラヘルツ波の遮蔽性の観点で好ましい。下限値は特に制限されないが、1μm以上であることが同様にテラヘルツ波の遮蔽性の観点で好適である。繊維径の測定方法は特に制限されないが、目開きを測定する方向からみた繊維の幅として、顕微鏡像等から測定することができる。
【0011】
メッシュ状織物の組織としては、特に限定されるものでなく、平織り、朱子織り、綾織りなどを挙げることができる。なかでも、平織り(図2)は、経糸と緯糸が1本ずつ交互に交錯し合うので、経糸と緯糸の交点における拘束力が高く、形態安定性が増し、取り扱いに優れるので、好ましく用いられる。なお、本発明におけるメッシュ状織物は、所定の条件を満たす限り、不織布を排除するものではない。
【0012】
メッシュの網目は一定サイズ以上の目開であるほどテラヘルツ領域での電磁波遮蔽効果が高い傾向にある。具体的には、目開は50~1100μmとする必要がある。好ましくは70~900μm、より好ましくは100~800μm、その中でも150~600μmが更に好ましい。
【0013】
(メッシュシートの厚み)
本発明のメッシュシートの厚みは70~500μmが好ましい。厚みがこの範囲であると、電磁波遮蔽シートとして使用するのに適する。以上の観点から、本メッシュシートの厚みは、より好ましくは100~480μm、その中でも150~450μmが更に好ましい。
【0014】
<本メッシュシートの特性>
(テラヘルツ波遮蔽特性)
秋田県立大学所有のテラヘルツ測定装置(テラヘルツ時間領域分光法)を用いて、周波数が0~2.0THzの電磁波を照射した時、透過率が0.7であるときの周波数が0.3THz以上であることが必要である。好ましくは0.5THz以上、さらに好ましくは0.6THz以上である。透過率が0.3であるときの周波数は、0.5THz以上であることが好ましく、0.6THz以上がより好ましく、0.7THz以上が特に好ましい。上限は特にないが、2THz以下であることが実際的である。
【0015】
周波数特性を別の角度から規定すると、周波数1.2THz以上1.5THz以下の範囲における電磁波の透過率が0.3以下であることが好ましく、周波数1.0THz以上1.5THz以下の範囲における電磁波の透過率が0.3以下であることがより好ましく、周波数0.8THz以上1.5THz以下の範囲における電磁波の透過率が0.3以下であることがさらに好ましく、周波数0.6THz以上1.5THz以下の範囲における電磁波の透過率が0.3以下であることが更に好ましく、周波数0.5THz以上1.5THz以下の範囲における電磁波の透過率が0.3以下であることが更に好ましく、周波数0.4THz以上1.5THz以下の範囲における電磁波の透過率が0.3以下であることが更に好ましく、周波数0.3THz以上1.5THz以下の範囲における電磁波の透過率が0.3以下であることが特に好ましい。
【0016】
本発明の電磁波遮蔽シートにおけるメッシュ構造は、従来のような金属層を被覆したメッシュ構造ではなく、樹脂表面が露出した構造を有するのが特徴である。
従来、汎用的に使用される電磁波遮蔽シートは金属層で表面を被覆するなどして、金属と電磁波との干渉を利用して、電磁波の遮蔽効果を発現していたのが特徴である。
一方、本発明で使用されるテラヘルツ波は、従来にはなかった物体の「中を見る」ことができる特徴を有する。そのため、テラヘルツ波自体は、「光」としての特性を有するため、従来のようにメッシュ構造自体に予め、金属層で被覆する必要がなく、光干渉により、樹脂表面が露出した状態で、テラヘルツ波を遮蔽する効果を有することを知見し、本願発明を完成させるに至った。
【0017】
<用途>
本発明の電磁波遮蔽シートは通信用に使用することができる。例えば、通信用機器の筐体として使用することができる。これにより、内部の電子機器からテラヘルツ波の影響を低減することができる。また、本発明の電磁波遮蔽シートは医療用に使用することができる。各種測定機器の筐体に利用され、内部の機器をテラヘルツ波から守ることができる。さらに、本発明の電磁波遮蔽シートは計測用に使用することができる。計測機器の筐体に用いて、内部の電子回路等をテラヘルツ波から守ることができる。また、本発明の電磁波遮蔽シートは自動車用に使用することができる。例えば、フロントパネルに適用して、内部の電子機器のテラヘルツ波による影響を低減することができる。
【0018】
<語句の説明など>
本発明においては、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
本発明において、「X~Y」(X,Yは任意の数字)と記載した場合、特に断らない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意も包含するものである。
また、「X以上」(Xは任意の数字)と記載した場合、特に断らない限り「好ましくはXより大きい」の意を包含し、「Y以下」(Yは任意の数字)と記載した場合、特に断らない限り「好ましくはYより小さい」の意も包含するものである。
【実施例0019】
次に、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。但し、本発明は、以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0020】
<評価方法>
種々の物性及び特性の測定及び評価方法は、以下の通りである。
【0021】
(1)メッシュシート厚み
マイクロメーターで厚みを計測した。任意に5カ所を測定し、その平均値をシート厚みとした。
【0022】
(2)メッシュシートの目開き(図3)の測定方法
デジタルマイクロスコープ(株式会社ハイロックス製、KHタイプ)を用いて、目開きを規定した。目開きが正方形の場合、任意の一辺の長さを測定すればよい。目開きが長方形の場合は縦と横の長さの平均値が採用される。目開きが円形に近い場合、あるいは不定形な場合は、目開きの面積から求められる円相当直径が採用される。なお、繊維径も同様にして測定することができる。平均繊維径は同一視野の10本の繊維の数平均を採用する。
【0023】
(3)電磁波遮蔽特性
秋田県立大学所有のテラヘルツ測定装置(テラヘルツ時間領域分光法)を用いて、周波数が0~2THzの電磁波(テラヘルツ波帯域)を照射した時の透過率を測定した。
次に透過率が特定の値であるときのピークの周波数(THz)を読み取った。ピークが複数(2か所以上)存在する場合には、その中で最も周波数の高いものを読み取った。
【0024】
[実施例1~5]
目開が77~1000μmの間で異なる、ナイロン製のメッシュシート(株式会社くればぁ製)を用いた。これは平均繊維径85~550μmの繊維を用いた平織織物であった。
【0025】
[比較例1]
厚みが19μmの二軸延伸PETフィルム(三菱ケミカル株式会社製「ダイアホイルT100」)を用いた。
上記の各シートを用い、所定の電磁波の透過スペクトルの測定を行った。その結果を図1に示す。図1では、PETおよび目開きが77μm~1000μmのナイロン織物を対象に測定を行った。結果は図1に示した各スペクトルのとおりである。これを、シートの目開きごとに透過率と周波数との関係で整理したのが下記表1である。
【0026】
【表1】
【0027】
上記の表から分かるとおり、ナイロン織物の目開きが500μm以下のときに、0.3THz以上の相応に大きな周波数でそれなりに低い透過率0.7となる結果が得られた。また、さらに低い透過率0.3で見ると、目開きが500μmのとき、0.5THzであった。透過率0.7及び0.3のときのいずれも、さらに目開きが小さくなるにつれ、大きな周波数(THz)で、その透過率が達成されている。これは逆にいうと上記の条件の電磁波遮蔽シートを用いることで、高周波の電磁波を吸収し、その高い遮蔽性が得られることが分かる。
また、異なった視点で整理すると、188μmメッシュのとき、周波数1.2THz以上1.5THz以下の範囲における前記メッシュ状織物の電磁波の透過率が0.3以下であった。これはメッシュが大きくなるにつれ、周波数の下限値が広がっていく傾向があり、263μmのメッシュでは約1THz以上が透過率0.3以下となり、500μmメッシュでは約0.5THz以上が0.3以下となり、1000μmメッシュでは約0.2THz以上が0.3以下となった。
一方、PETのシート(比較例)では、目開きに相当する開口部はなく、結果として、0~2THzの範囲で十分な電磁波の吸収は観測されなかった。
図1
図2
図3