(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102744
(43)【公開日】2024-07-31
(54)【発明の名称】アンビギュイティ決定方法、決定システム、変位計測方法および変位計測システム
(51)【国際特許分類】
G01S 19/44 20100101AFI20240724BHJP
【FI】
G01S19/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006839
(22)【出願日】2023-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504196300
【氏名又は名称】国立大学法人東京海洋大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鳴海 智博
(72)【発明者】
【氏名】山口 範洋
(72)【発明者】
【氏名】久保 信明
【テーマコード(参考)】
5J062
【Fターム(参考)】
5J062AA01
5J062BB08
5J062CC07
5J062DD23
(57)【要約】
【課題】衛星測位計算において測位精度を高めることができるアンビギュイティ決定方法、決定システム、変位計測方法および変位計測システムを提供する。
【解決手段】アンビギュイティを探索する探索範囲の初期位置を設定する第一のステップS1と、設定した初期位置の探索範囲をメッシュ状に区分し、メッシュの交差位置をアンビギュイティの初期値としてRTK法による測位計算を行う第二のステップS2と、測位計算の結果に基づいて探索範囲を絞り込む第三のステップS3と、絞り込んだ探索範囲をメッシュ状に区分し、メッシュの交差位置をアンビギュイティの初期値としてRTK法による測位計算を行う第四のステップS4と、第三のステップS3と第四のステップS4を複数回繰り返してアンビギュイティを決定する第五のステップS5を有するようにする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
衛星測位システムにおいてアンビギュイティを決定する方法であって、
アンビギュイティを探索する探索範囲の初期位置を設定する第一のステップと、
設定した初期位置の探索範囲をメッシュ状に区分し、メッシュの交差位置をアンビギュイティの初期値としてRTK法による測位計算を行う第二のステップと、
測位計算の結果に基づいて探索範囲を絞り込む第三のステップと、
絞り込んだ探索範囲をメッシュ状に区分し、メッシュの交差位置をアンビギュイティの初期値としてRTK法による測位計算を行う第四のステップと、
第三のステップと第四のステップを複数回繰り返してアンビギュイティを決定する第五のステップを有することを特徴とするアンビギュイティ決定方法。
【請求項2】
衛星測位システムにおいてアンビギュイティを決定するシステムであって、
アンビギュイティを探索する探索範囲の初期位置を設定する第一の手段と、
設定した初期位置の探索範囲をメッシュ状に区分し、メッシュの交差位置をアンビギュイティの初期値としてRTK法による測位計算を行う第二の手段と、
測位計算の結果に基づいて探索範囲を絞り込む第三の手段と、
絞り込んだ探索範囲をメッシュ状に区分し、メッシュの交差位置をアンビギュイティの初期値としてRTK法による測位計算を行う第四の手段と、
第三の手段による絞り込みと第四の手段による測位計算を複数回繰り返してアンビギュイティを決定する第五の手段を有することを特徴とするアンビギュイティ決定システム。
【請求項3】
複数の測位衛星からの衛星信号を受信する衛星信号受信機を用いて計測対象物の変位を計測する方法であって、
前記計測対象物の外面の1点に設置した前記衛星信号受信機、もしくは、前記外面の互いに異なる位置に複数設置した前記衛星信号受信機により構成される観測点と、前記計測対象物の前記外面以外の位置に設置した前記衛星信号受信機により構成される固定点との間の時間経過に伴う変位を、相対測位により取得する相対測位ステップを有し、
前記相対測位ステップは、請求項1に記載のアンビギュイティ決定方法で決定したアンビギュイティに基づいて、前記観測点の初期位置を決定することを特徴とする変位計測方法。
【請求項4】
複数の測位衛星からの衛星信号を受信する衛星信号受信機を用いて計測対象物の変位を計測するシステムであって、
前記計測対象物の外面の1点に設置した前記衛星信号受信機、もしくは、前記外面の互いに異なる位置に複数設置した前記衛星信号受信機により構成される観測点と、前記計測対象物の前記外面以外の位置に設置した前記衛星信号受信機により構成される固定点との間の時間経過に伴う変位を、相対測位により取得する相対測位手段を有し、
前記相対測位手段は、請求項2に記載のアンビギュイティ決定システムで決定したアンビギュイティに基づいて、前記観測点の初期位置を決定することを特徴とする変位計測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衛星測位システムにおけるアンビギュイティ決定方法、決定システム、変位計測方法および変位計測システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、衛星測位システムによる構造物の変位等計測に際しては、一般に米国のGPS(Global Positioning System:衛星測位システム)衛星を利用する方法が主流であった。例えば、構造物の周辺地盤の固定点に設置したGPS受信機と、構造物上の観測点に設置したGPS受信機との間の相対測位により、構造物の変位等を計測する方法が知られている(例えば、特許文献1、2を参照)。しかし、米国のGPS衛星の数にも限りがあり、利用に際して以下のような制約や課題がある。
【0003】
(1)測位解析に必要なGPS衛星を捕捉するために衛星測位機器からの仰角を15°以上に保つことが必要である。
(2)そのため、構造物等が過密で上空視野を確保し難い都市部などでは、衛星測位機器の設置場所は構造物等の屋上に限定される。すなわち構造物等の屋上周辺の変位計測しかできない。
(3)しかし屋上にも様々な設備が配置され、衛星測位機器の設置場所は制限される。
(4)仮に屋上に衛星測位機器を設置できたとしても、屋上の他の設備や周辺のビルのマルチパスの影響を受け正確な変位計測を妨げるおそれがある。
【0004】
一方、近年においては米国のGPS衛星のみならず、ロシア、欧州、中国、日本の衛星測位システム(以下、これら全てを総称してGNSS(Global Navigation Satellite System:全球測位衛星システム)と呼ぶ。)が運用されており、衛星測位機器で測位すると30前後のGNSS衛星からの信号を受信可能である。今後各国のGNSS衛星数の増加が見込まれ、さらに日本の準天頂衛星数の増加により、高仰角からの信号の取得も容易となる。衛星数の増加とともに上記の課題は容易に解決できると思われがちであるが、逆に衛星数の増加とともにマルチパス増大という課題も生じるおそれがある。
【0005】
このような問題を解決するための技術として、本特許出願人は、「構造物等を含めた比較的安定した物体等は、構造物等を含めた比較的安定した物体等の周辺で行う各種測位にマルチパスを与える邪魔者と認識されることが多いが、GNSS測位機器を構造物等を含めた比較的安定した物体の壁面に直接設置すると、逆に構造物等を含めた比較的安定した物体等からのマルチパスが減り、構造物等を含めた比較的安定した物体等の変位計測には有効である」という点に着目して、構造物等の屋上のみならず、壁面の変位計測も可能とする技術として、特許文献3に記載のものを既に提案している。
【0006】
この特許文献3に記載の変位計測方法では、複数の測位衛星からの衛星信号を受信する衛星信号受信機を用いて、上空視野の限られた構造物等を含めた比較的安定した物体の変位を相対測位により計測する。具体的には、構造物等を含めた比較的安定した物体の外面の1点に衛星信号受信機を設置して観測点とし、観測点とは異なる場所に衛星信号受信機を設置して固定点とする。観測点と固定点の間の時間経過に伴う変位を、相対測位により取得する。複数の測位衛星のうち相対測位に利用する所定の測位衛星を選択し、選択した測位衛星からの衛星信号を用いて変位の相対測位を行い、あらかじめ保持している固定点の位置情報を基準位置として、衛星信号の搬送波位相のアンビギュイティを決定し、相対測位の結果から観測点の変位を特定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2015-197344号公報
【特許文献2】特開2008-76117号公報
【特許文献3】特開2018-179734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の特許文献3のような相対測位では、測位衛星の受信データからRTK(Real Time Kinematic)解析により位置を算出する際、
図3に示すように、まず、コード測位(通常の単独測位)によりFLOAT解と呼ばれる誤差が比較的大きい解(数m~数十mの精度)を算出し、その解を初期値として整数値バイアス(測位衛星と観測点間の搬送波の数、つまり正確な距離)と呼ばれる値を探索することでアンビギュイティを解消し、高精度な解(数cmの精度。FIX解と呼ばれる)を求め、位置を決定している。
図4に、初期アンビギュイティ探索範囲と候補解と収束後のアンビギュイティの位置関係のイメージを示す。
【0009】
しかし、測位衛星からの電波は様々なノイズを含んでおり、ノイズの種類としては、大気・電離層の影響や時計の誤差、また周囲の環境によるものなどがあることから、FLOAT解が極めて大きな誤差を持ち、その後のアンビギュイティ決定が不可能(FIX解とならない)であったり、誤った位置が解として決定されたりする場合がある(ミスFIXと呼ばれている)。このため、衛星測位計算において測位精度を高めることができるアンビギュイティ決定方法が求められていた。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、衛星測位計算において測位精度を高めることができるアンビギュイティ決定方法、決定システム、変位計測方法および変位計測システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るアンビギュイティ決定方法は、衛星測位システムにおいてアンビギュイティを決定する方法であって、アンビギュイティを探索する探索範囲の初期位置を設定する第一のステップと、設定した初期位置の探索範囲をメッシュ状に区分し、メッシュの交差位置をアンビギュイティの初期値としてRTK法による測位計算を行う第二のステップと、測位計算の結果に基づいて探索範囲を絞り込む第三のステップと、絞り込んだ探索範囲をメッシュ状に区分し、メッシュの交差位置をアンビギュイティの初期値としてRTK法による測位計算を行う第四のステップと、第三のステップと第四のステップを複数回繰り返してアンビギュイティを決定する第五のステップを有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係るアンビギュイティ決定システムは、衛星測位システムにおいてアンビギュイティを決定するシステムであって、アンビギュイティを探索する探索範囲の初期位置を設定する第一の手段と、設定した初期位置の探索範囲をメッシュ状に区分し、メッシュの交差位置をアンビギュイティの初期値としてRTK法による測位計算を行う第二の手段と、測位計算の結果に基づいて探索範囲を絞り込む第三の手段と、絞り込んだ探索範囲をメッシュ状に区分し、メッシュの交差位置をアンビギュイティの初期値としてRTK法による測位計算を行う第四の手段と、第三の手段による絞り込みと第四の手段による測位計算を複数回繰り返してアンビギュイティを決定する第五の手段を有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る変位計測方法は、複数の測位衛星からの衛星信号を受信する衛星信号受信機を用いて計測対象物の変位を計測する方法であって、前記計測対象物の外面の1点に設置した前記衛星信号受信機、もしくは、前記外面の互いに異なる位置に複数設置した前記衛星信号受信機により構成される観測点と、前記計測対象物の前記外面以外の位置に設置した前記衛星信号受信機により構成される固定点との間の時間経過に伴う変位を、相対測位により取得する相対測位ステップを有し、前記相対測位ステップは、上記のアンビギュイティ決定方法で決定したアンビギュイティに基づいて、前記観測点の初期位置を決定することを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る変位計測システムは、複数の測位衛星からの衛星信号を受信する衛星信号受信機を用いて計測対象物の変位を計測するシステムであって、前記計測対象物の外面の1点に設置した前記衛星信号受信機、もしくは、前記外面の互いに異なる位置に複数設置した前記衛星信号受信機により構成される観測点と、前記計測対象物の前記外面以外の位置に設置した前記衛星信号受信機により構成される固定点との間の時間経過に伴う変位を、相対測位により取得する相対測位手段を有し、前記相対測位手段は、上記のアンビギュイティ決定システムで決定したアンビギュイティに基づいて、前記観測点の初期位置を決定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るアンビギュイティ決定方法によれば、衛星測位システムにおいてアンビギュイティを決定する方法であって、アンビギュイティを探索する探索範囲の初期位置を設定する第一のステップと、設定した初期位置の探索範囲をメッシュ状に区分し、メッシュの交差位置をアンビギュイティの初期値としてRTK法による測位計算を行う第二のステップと、測位計算の結果に基づいて探索範囲を絞り込む第三のステップと、絞り込んだ探索範囲をメッシュ状に区分し、メッシュの交差位置をアンビギュイティの初期値としてRTK法による測位計算を行う第四のステップと、第三のステップと第四のステップを複数回繰り返してアンビギュイティを決定する第五のステップを有するので、衛星測位計算において測位精度を高めることができるという効果を奏する。
【0016】
また、本発明に係るアンビギュイティ決定システムによれば、衛星測位システムにおいてアンビギュイティを決定するシステムであって、アンビギュイティを探索する探索範囲の初期位置を設定する第一の手段と、設定した初期位置の探索範囲をメッシュ状に区分し、メッシュの交差位置をアンビギュイティの初期値としてRTK法による測位計算を行う第二の手段と、測位計算の結果に基づいて探索範囲を絞り込む第三の手段と、絞り込んだ探索範囲をメッシュ状に区分し、メッシュの交差位置をアンビギュイティの初期値としてRTK法による測位計算を行う第四の手段と、第三の手段による絞り込みと第四の手段による測位計算を複数回繰り返してアンビギュイティを決定する第五の手段を有するので、衛星測位計算において測位精度を高めることができるという効果を奏する。
【0017】
また、本発明に係る変位計測方法によれば、複数の測位衛星からの衛星信号を受信する衛星信号受信機を用いて計測対象物の変位を計測する方法であって、前記計測対象物の外面の1点に設置した前記衛星信号受信機、もしくは、前記外面の互いに異なる位置に複数設置した前記衛星信号受信機により構成される観測点と、前記計測対象物の前記外面以外の位置に設置した前記衛星信号受信機により構成される固定点との間の時間経過に伴う変位を、相対測位により取得する相対測位ステップを有し、前記相対測位ステップは、上記のアンビギュイティ決定方法で決定したアンビギュイティに基づいて、前記観測点の初期位置を決定するので、変位の計測精度を向上することができるという効果を奏する。
【0018】
また、本発明に係る変位計測システムによれば、複数の測位衛星からの衛星信号を受信する衛星信号受信機を用いて計測対象物の変位を計測するシステムであって、前記計測対象物の外面の1点に設置した前記衛星信号受信機、もしくは、前記外面の互いに異なる位置に複数設置した前記衛星信号受信機により構成される観測点と、前記計測対象物の前記外面以外の位置に設置した前記衛星信号受信機により構成される固定点との間の時間経過に伴う変位を、相対測位により取得する相対測位手段を有し、前記相対測位手段は、上記のアンビギュイティ決定システムで決定したアンビギュイティに基づいて、前記観測点の初期位置を決定するので、変位の計測精度を向上することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明に係るアンビギュイティ決定方法、決定システム、変位計測方法および変位計測システムの実施の形態を示す概略手順図である。
【
図2】
図2は、本実施の形態のアンビギュイティ探索範囲の説明図である。
【
図3】
図3は、従来のアンビギュイティ決定方法の概略手順図である。
【
図4】
図4は、初期アンビギュイティ探索範囲と候補解とアンビギュイティの位置関係を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、アンビギュイティ探索における初期位置の決定を複数回行うことで、正確なRTKのFIX解を求めるものである。以下に、本発明に係るアンビギュイティ決定方法、決定システム、変位計測方法および変位計測システムの実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0021】
(アンビギュイティ決定方法)
まず、本発明に係るアンビギュイティ決定方法の実施の形態について説明する。
図1に示すように、本実施の形態に係るアンビギュイティ決定方法は、アンビギュイティを探索する探索範囲の初期位置を設定する第一のステップS1と、設定した初期位置の探索範囲をメッシュ状に区分し、メッシュの交差位置をアンビギュイティの初期値としてRTK法による測位計算を行う第二のステップS2と、測位計算の結果に基づいて探索範囲を絞り込む第三のステップS3と、絞り込んだ探索範囲をメッシュ状に区分し、メッシュの交差位置をアンビギュイティの初期値としてRTK法による測位計算を行う第四のステップS4と、第三のステップS3と第四のステップS4を複数回繰り返してアンビギュイティを決定する第五のステップS5を有する。
【0022】
上記のステップS1~S5について、より具体的に説明する。
まず、ステップS1において、探索範囲の初期位置として、
図2に示すような初期アンビギュイティ探索範囲を設定する。この設定は、従来のように単独測位による解を用いてもよいし、他のセンサや過去の履歴などを用いて可能性のある位置の範囲を入力してもよい。
【0023】
次に、ステップS2において、初期アンビギュイティ探索範囲をメッシュ状に細かく区切り、このメッシュの交差位置を初期値としてRTK法による測位計算を行う。
図2の例では、メッシュが正方格子状の場合を示しているが、本発明はこれに限るものではなく、蜘蛛の巣状など他の形状であってもよい。
【0024】
次に、ステップS3において、測位計算結果により求められたFIX率やRatio値などの評価値に基づいて、初期アンビギュイティ探索範囲に含まれる部分から探索範囲の絞り込みを行う。この場合、最も評価値が高い格子を含む範囲を、次の探索範囲として絞り込む。なお、評価値としてFIX率やRatio値を用いる場合、RatioテストでFIXとなる回数を各メッシュ候補位置で尤度として算出し、その尤度が高いところを最終的な候補とする。評価値がこのような条件を満たす範囲を、次の探索範囲として設定してもよい。
【0025】
次に、ステップS4において、絞り込んだ探索範囲をメッシュ状に細かく区切り、このメッシュの交差位置を初期値として、測位計算に利用しても問題のない衛星の搬送波位相のみを用いてRTK法による測位計算を行う。
【0026】
次に、ステップS5において、上記のステップS3とステップS4を複数回繰り返して、最適な解析初期位置(アンビギュイティ)を決定する。なお、
図2の例では、初期アンビギュイティ探索範囲から第2次探索範囲が絞り込まれ、第2次探索範囲から第3次探索範囲が絞り込まれた例が示されている。なお、必ずしも全ての格子でRTK解析を行う必要はなく、勾配法や機械学習などを用いることで計算回数を削減することが可能である。
【0027】
以上の方法により、従来の手法では得られなかったFIX解を得ることができたり、FIX率を向上させることが可能となる。したがって、本実施の形態によれば、衛星測位計算において測位精度を高めることができる。
【0028】
(アンビギュイティ決定システム)
次に、本発明に係るアンビギュイティ決定システムの実施の形態について説明する。
本実施の形態に係るアンビギュイティ決定システムは、上記の実施の形態に係るアンビギュイティ決定方法を、コンピュータを用いて処理実行するシステムとして具現化したものである。上記のステップS1~S5の処理がそれぞれ第一~第五の手段に相当する。本実施の形態によれば、上記と同様の効果を奏することができる。
【0029】
(変位計測方法および変位計測システム)
次に、本発明に係る変位計測方法および変位計測システムの実施の形態について説明する。なお、以下の説明では、上記の特許文献3の実施の形態と同様、変位を計測・監視する計測対象物として都市部の過密した環境に設置された中小マンションを、衛星信号受信機としてGNSS測位機器を用いた相対測位を例に説明するが、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0030】
本実施の形態に係る変位計測方法は、複数の測位衛星からの衛星信号を受信するGNSS測位機器(衛星信号受信機)を用いて構造物(計測対象物)の変位を計測する方法であって、構造物の外面の1点に設置したGNSS測位機器、もしくは、外面の互いに異なる位置に複数設置したGNSS測位機器により構成される観測点と、構造物の外面以外の位置に設置したGNSS測位機器により構成される固定点との間の時間経過に伴う変位を、相対測位により取得する相対測位ステップを有する。この相対測位ステップは、複数の測位衛星のうち相対測位に利用する所定の測位衛星を選択し、選択した測位衛星からの衛星信号を用いて変位を相対測位により取得する。また、この相対測位ステップは、上記のアンビギュイティ決定方法で決定したアンビギュイティに基づいて、観測点の初期位置を決定する。
ここでは、相対測位の中で最も精度が良い搬送波を用いた干渉測位を用いた方法で説明する。
【0031】
より具体的には、GNSS測位機器の設置初期に固定点の座標を決定した後、固定点、観測点全てのGNSS測位機器で同時に観測をして、衛星からの電波到達の差(位相差)を解析し固定点と観測点間の距離を求める。例えばGNSS測位機器を5つ設置する場合には、固定点と他の観測点を1組とカウントしたとき、5組の座標変化や基線長の変化を取得することで、構造物のどの部分に傾斜や沈下が生じているか等を把握できる。
【0032】
次に、GNSS測位機器(観測点)を5つ設置した場合の変位計測システムを例にとり、初期座標設定から観測までの流れを説明する。以下で説明する流れは、上記の特許文献3に記載のものと同様である。
【0033】
中小マンションなどの構造物の外壁面の互いに異なる位置に、GNSS衛星からの衛星信号を受信するGNSS測位機器を5台設置し、観測点とし、別の構造物の上にGNSS測位機器を1台設置し固定点Fとして干渉測位を行う。道路に面する外壁面の上下左右の四隅と中央の合計5か所にGNSS測位機器A~Eを設置してもよい。設置位置、設置数についてはこれに限るものではなく同一構造物につき1点または互いに異なる複数点であればいかなる位置、数であっても構わない。固定点は外壁面以外に設定してもよく、例えば構造物の周辺地盤上や他の構造物の屋上などに設置してもよい。
【0034】
観測点、固定点に設置するGNSS測位機器としては、高性能な2周波GNSS機器、格安な1周波GNSS機器のどちらでもよい。なお、GNSS測位機器A~Eは、通信装置を通じて遠隔地の計測室のコンピュータに有線または無線通信回線を介して接続しているものとする。
【0035】
変位計測システムは、計測室に設けられるコンピュータを有している。コンピュータは、相対測位手段、報知手段、警報手段、記憶手段、これらを制御する制御手段を備えている。記憶手段はGNSS測位機器A~Eから得られた計測データをリアルタイムに記憶・収集する。記憶手段に記憶・収集されたデータは制御手段を通じて適宜読み出され、相対測位手段によって処理されるようになっている。相対測位手段はGNSS測位機器A~Eどうしの間の時間経過に伴う変位・変形情報を相対測位により取得するものであり、各種解析ソフトウェア、演算手段などで構成される。なお、このコンピュータはインターネットに接続している。このため、例えばユーザの要求に応じて、報知手段の機能によりインターネットを経由して構造物の管理関係者が有するユーザ端末装置(例えば、パソコンや携帯電話端末など)に取得した構造物の変位・変形情報を配信可能である。また、警報手段は、所定の閾値以上の変位が取得された場合に、管理室のコンピュータや上記のユーザ端末装置を通じてアラーム音などの警報を発する処理を行う。
【0036】
まず、5つの観測点にGNSS測位機器A~Eを設置する。次に構造物に設定した固定点Fの初期座標を数時間から数日間の単独測位や周辺の電子基準点とのスタティック測位等にて決定する。
【0037】
次に固定点と観測点で同時に観測を開始し衛星からの電波到達の差(位相差)を解析し、固定点と観測点の距離を求める。以上の初期座標の設定から干渉測位は、計測室のコンピュータに備わる解析ソフトウェアや干渉測位手段が行うことができる。本実施の形態では、相対測位としてRTK測位を利用する。その際、後述のアルゴリズムを適用し、構造物の外壁面に関して適切な座標・基線長解を得るものとする。
【0038】
異常値を含めた観測結果としての変位・変形情報は、報知手段の機能により計測室のコンピュータやユーザ端末装置の画面などに報知される。ここで、取得された異常値があらかじめ定めた所定の閾値以上である場合には、警報手段は計測室のコンピュータやユーザ端末装置を通じてアラーム音などの警報を発する。これにより管理者や管理関係者などのユーザは、閾値以上の変位が生じたことを即座に把握することができる。
【0039】
なお、上記の実施の形態において、コンピュータは観測点(固定点併用)の測位情報をリアルタイムで取得でき、相対測位手段による解析もリアルタイムで可能である。また、報知手段は、例えばユーザの要求に応じて、例えば所定時間毎(例えば1日(24時間)毎)の解析結果(観測結果)もユーザに報知することもできる。したがって、観測点を5つ設けた場合に必要となる解析時間も基本はリアルタイムである。また、一般に構造物はあまり大きく変位しないため、大地震時等を除き、測位情報を数時間平均または1日平均した測位平均値で比較するのが通例である。
【0040】
本実施の形態によれば、上記のアンビギュイティ決定方法で決定したアンビギュイティに基づいて、観測点の初期位置を決定するので、測位精度が向上し、変位の計測精度を高めることができる。
【0041】
また、例えば、都市部など過密な環境下に設置された学校等の公共施設、施工者のいなくなった中小マンション等の杭や構造物の変形・変位、斜面などを監視することができる。公共施設は一般に避難場所として利用されるが、大地震後の余震等が継続する中で当該施設が安全か否かの確認を行う際にも本発明を利用することができる。また、法面(盛土、切土)、橋梁、ダム、トンネル、高層ビルの建設前後の沈下状況、地滑り災害現場なども監視可能である。
【0042】
現在、既に多くの測位衛星や地球観測衛星から常時大量の航法用データが送信される社会となっており、その用途は日々の地盤や構造物の変化のモニタリング、測量など多岐にわたる。しかし現状のGNSSやリモートセンシングによる計測精度では建築土木分野における要求精度を満たさないことも多い。また、車両などの移動体の測位についても、自動運転や人流把握などの点で高精度な測位が求められている。本発明により、測位解析の精度が大幅に向上し、リアルタイムに、条件が良ければミリメートル精度で、物体の位置や静止物の変動状況が把握できることから、現場等への導入が進むと考えられる。例えば、本発明を発展させることにより、スマートフォンや衛星の画像・地図・地形・建物情報などについても極めて正確に位置を補正することができる。
【0043】
以上説明したように、本発明に係るアンビギュイティ決定方法によれば、衛星測位システムにおいてアンビギュイティを決定する方法であって、アンビギュイティを探索する探索範囲の初期位置を設定する第一のステップと、設定した初期位置の探索範囲をメッシュ状に区分し、メッシュの交差位置をアンビギュイティの初期値としてRTK法による測位計算を行う第二のステップと、測位計算の結果に基づいて探索範囲を絞り込む第三のステップと、絞り込んだ探索範囲をメッシュ状に区分し、メッシュの交差位置をアンビギュイティの初期値としてRTK法による測位計算を行う第四のステップと、第三のステップと第四のステップを複数回繰り返してアンビギュイティを決定する第五のステップを有するので、衛星測位計算において測位精度を高めることができる。
【0044】
また、本発明に係るアンビギュイティ決定システムによれば、衛星測位システムにおいてアンビギュイティを決定するシステムであって、アンビギュイティを探索する探索範囲の初期位置を設定する第一の手段と、設定した初期位置の探索範囲をメッシュ状に区分し、メッシュの交差位置をアンビギュイティの初期値としてRTK法による測位計算を行う第二の手段と、測位計算の結果に基づいて探索範囲を絞り込む第三の手段と、絞り込んだ探索範囲をメッシュ状に区分し、メッシュの交差位置をアンビギュイティの初期値としてRTK法による測位計算を行う第四の手段と、第三の手段による絞り込みと第四の手段による測位計算を複数回繰り返してアンビギュイティを決定する第五の手段を有するので、衛星測位計算において測位精度を高めることができる。
【0045】
また、本発明に係る変位計測方法によれば、複数の測位衛星からの衛星信号を受信する衛星信号受信機を用いて計測対象物の変位を計測する方法であって、前記計測対象物の外面の1点に設置した前記衛星信号受信機、もしくは、前記外面の互いに異なる位置に複数設置した前記衛星信号受信機により構成される観測点と、前記計測対象物の前記外面以外の位置に設置した前記衛星信号受信機により構成される固定点との間の時間経過に伴う変位を、相対測位により取得する相対測位ステップを有し、前記相対測位ステップは、上記のアンビギュイティ決定方法で決定したアンビギュイティに基づいて、前記観測点の初期位置を決定するので、変位の計測精度を向上することができる。
【0046】
また、本発明に係る変位計測システムによれば、複数の測位衛星からの衛星信号を受信する衛星信号受信機を用いて計測対象物の変位を計測するシステムであって、前記計測対象物の外面の1点に設置した前記衛星信号受信機、もしくは、前記外面の互いに異なる位置に複数設置した前記衛星信号受信機により構成される観測点と、前記計測対象物の前記外面以外の位置に設置した前記衛星信号受信機により構成される固定点との間の時間経過に伴う変位を、相対測位により取得する相対測位手段を有し、前記相対測位手段は、上記のアンビギュイティ決定システムで決定したアンビギュイティに基づいて、前記観測点の初期位置を決定するので、変位の計測精度を向上することができる。
【0047】
なお、2015年9月の国連サミットにおいて採択された17の国際目標として「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」がある。本実施の形態に係るアンビギュイティ決定方法、決定システム、変位計測方法および変位計測システムは、このSDGsの17の目標のうち、例えば「9.産業と技術革新の基盤をつくろう」の目標などの達成に貢献し得る。
【産業上の利用可能性】
【0048】
以上のように、本発明に係るアンビギュイティ決定方法、決定システム、変位計測方法および変位計測システムは、衛星測位システムを用いた干渉測位による構造物の位置計測に有用であり、特に、測位精度を高めるのに適している。