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特開2024-102750磁歪式トルクセンサ及び磁歪式トルクセンサの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102750
(43)【公開日】2024-07-31
(54)【発明の名称】磁歪式トルクセンサ及び磁歪式トルクセンサの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01L 3/10 20060101AFI20240724BHJP
【FI】
G01L3/10 301A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006852
(22)【出願日】2023-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鬼本 隆
(72)【発明者】
【氏名】河野 圭
(72)【発明者】
【氏名】藤森 亮利
(57)【要約】
【課題】複数の検出コイルが形成されたフレキシブル基板が高温時に厚み方向に強く押し付けられることを抑制可能な磁歪式トルクセンサ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】磁歪式トルクセンサ1は、回転軸90が挿通される空洞20が中心部に形成された円筒部21を有するボビン2と、ボビン2の円筒部21の外周に巻き付けられ、複数の検出コイル410~449が配線パターンによって形成されたフレキシブル基板4と、フレキシブル基板4を円筒部21との間に収容する円筒状の磁性体リング6と、ボビン2の円筒部21及びフレキシブル基板4と磁性体リング6との間に充填された硬化性樹脂からなる充填材7とを備える。ボビン2の線膨張係数は、磁性体リング6の線膨張係数より高く、充填材7は、ボビン2の円筒部21、フレキシブル基板4、及び磁性体リング6が磁歪式トルクセンサ1の使用温度範囲の上限温度よりも高い温度とされた状態で硬化している。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁歪効果を有する回転軸の周囲に取り付けられ、前記回転軸によって伝達されるトルクを所定の使用温度範囲で検出する磁歪式トルクセンサであって、
前記回転軸が挿通される空洞が中心部に形成された円筒部を有する樹脂成形体と、
前記樹脂成形体の前記円筒部の外周に巻き付けられ、複数の検出コイルが配線パターンによって形成されたフレキシブル基板と、
前記フレキシブル基板を前記円筒部との間に収容する円筒状の磁性体リングと、
前記円筒部及び前記フレキシブル基板と前記磁性体リングとの間に充填された硬化性樹脂からなる充填材と、を備え、
前記樹脂成形体の線膨張係数が前記磁性体リングの線膨張係数よりも高く、
前記充填材は、前記円筒部、前記フレキシブル基板、及び前記磁性体リングが前記使用温度範囲の上限温度よりも高い温度とされた状態で硬化している、
磁歪式トルクセンサ。
【請求項2】
前記充填材の線膨張係数が、前記樹脂成形体の線膨張係数よりも低く、前記磁性体リングの線膨張係数よりも高い、
請求項1に記載の磁歪式トルクセンサ。
【請求項3】
前記充填材は、硬化温度が前記上限温度よりも高い熱硬化性樹脂である、
請求項1に記載の磁歪式トルクセンサ。
【請求項4】
前記フレキシブル基板は、前記円筒部の周方向に延在する帯状部を有し、前記帯状部における長手方向の両端部がテープによって留められている、
請求項1に記載の磁歪式トルクセンサ。
【請求項5】
前記充填材により、前記磁性体リングを抜け止めする係止部が形成されている、
請求項1に記載の磁歪式トルクセンサ。
【請求項6】
磁歪効果を有する回転軸の周囲に取り付けられ、前記回転軸によって伝達されるトルクを所定の使用温度範囲で検出する磁歪式トルクセンサの製造方法であって、
前記回転軸が挿通される空洞が中心部に形成された円筒部を有する樹脂成形体、複数の検出コイルが配線パターンによって形成されたフレキシブル基板、及び前記樹脂成形体よりも線膨張係数が低い円筒状の磁性体リングを準備する準備工程と、
前記フレキシブル基板を前記円筒部の外周に巻き付け、前記磁性体リングを前記円筒部及び前記フレキシブル基板の外周に配置する配置工程と、
前記円筒部、前記フレキシブル基板、及び前記磁性体リングの温度を前記使用温度範囲の上限温度よりも高くした状態で、前記円筒部及び前記フレキシブル基板と前記磁性体リングとの間に充填した硬化性樹脂からなる充填材を硬化させる硬化工程と、を有する、
磁歪式トルクセンサの製造方法。
【請求項7】
前記充填材は、硬化温度が前記上限温度よりも高い熱硬化性樹脂であり、
前記硬化工程では、硬化前の液状の前記充填材を前記円筒部及び前記フレキシブル基板と前記磁性体リングとの間に充填した後に前記充填材の温度を前記上限温度よりも高くして硬化させる、
請求項6に記載の磁歪式トルクセンサの製造方法。
【請求項8】
前記フレキシブル基板は、前記円筒部の周方向に延在する帯状部を有し、
前記配置工程において、前記フレキシブル基板の前記帯状部における長手方向の両端部をテープによって留める、
請求項6に記載の磁歪式トルクセンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸によって伝達されるトルクを検出する磁歪式トルクセンサ、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば自動車のエンジンの出力回転軸のトルクを検出するために、磁歪式のトルクセンサが用いられている。磁歪式のトルクセンサは、応力によって回転軸の透磁率が変化する磁歪効果を利用し、回転軸の周囲に配置した検出コイルのインダクタンスの変化に基づいて回転軸に付与されたトルクを検出するように構成されている。本出願人は、複数の検出コイルが形成されたフレキシブル基板を回転軸の周囲に配置し、複数の検出コイルのインダクタンスの変化に基づいて回転軸に付与されたトルクを検出する磁歪式トルクセンサを提案している(特許文献1、2参照)。
【0003】
特許文献1、2に記載のトルクセンサは、回転軸が中心部に挿通される円筒状のボビンと、ボビンの外面に巻き付けられるように湾曲したフレキシブル基板と、フレキシブル基板の周囲を覆う円筒状の磁性リングとを有している。ボビンは、樹脂等の非磁性体からなる。フレキシブル基板には、複数の配線層にわたって、複数の検出コイルが配線パターンにより形成されている。特許文献1に記載の磁性リングは、圧粉磁心やアモルファス軟磁性体等の磁性体からなる。特許文献2に記載の磁性リングは、Fe系あるいはCo系のアモルファス軟磁性材料からなるアモルファステープをフレキシブル基板の周囲に巻き付けて構成されている。磁性リングは、磁気回路の磁気抵抗を下げると共に、複数の検出コイルで生じた磁束が外部に漏れて感度が低下することを抑制する機能を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-110970号公報
【特許文献2】特開2022-117292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
自動車に搭載されるトルクセンサは、例えば100℃以上の高温環境で使用される場合がある。このような高温時にボビンが磁性リングよりも高い割合で熱膨張すると、ボビンの熱膨張によってフレキシブル基板が磁性リングに向かって強く押し付けられてしまう。フレキシブル基板が押し付けられると、フレキシブル基板の厚み方向における配線層の間隔が狭くなって静電容量が変化し、トルクの検出精度に悪影響を及ぼしてしまうおそれがある。
【0006】
そこで、本発明は、複数の検出コイルが配線パターンによって形成されたフレキシブル基板を有し、このフレキシブル基板が樹脂成形体の円筒部とその外側の磁性体リングとの間に配置された磁歪式トルクセンサにおいて、高温時にフレキシブル基板が厚み方向に強く押し付けられることを抑制可能な磁歪式トルクセンサ、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、磁歪効果を有する回転軸の周囲に取り付けられ、前記回転軸によって伝達されるトルクを所定の使用温度範囲で検出する磁歪式トルクセンサであって、前記回転軸が挿通される空洞が中心部に形成された円筒部を有する樹脂成形体と、前記樹脂成形体の前記円筒部の外周に巻き付けられ、複数の検出コイルが配線パターンによって形成されたフレキシブル基板と、前記フレキシブル基板を前記円筒部との間に収容する円筒状の磁性体リングと、前記円筒部及び前記フレキシブル基板と前記磁性体リングとの間に充填された硬化性樹脂からなる充填材と、を備え、前記樹脂成形体の線膨張係数が前記磁性体リングの線膨張係数よりも高く、前記充填材は、前記円筒部、前記フレキシブル基板、及び前記磁性体リングが前記使用温度範囲の上限温度よりも高い温度とされた状態で硬化している、磁歪式トルクセンサを提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る磁歪式トルクセンサ及びその製造方法によれば、高温時にフレキシブル基板が厚み方向に強く押し付けられることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】(a)及び(b)は、本発明の実施の形態に係る磁歪式トルクセンサを示す斜視図である。
図2】磁歪式トルクセンサの各構成部材を上下方向に並べて示す斜視図である。
図3図1(a)のA-A線における磁歪式トルクセンサの断面図である。
図4】磁歪式トルクセンサが取付対象のトランスミッションケースに取り付けられた状態を示す斜視図である。
図5】トランスミッションケースに取り付けられた磁歪式トルクセンサをトルクの検出対象の回転軸と共に示す断面図である。
図6】円筒状に湾曲した状態のフレキシブル基板を示す斜視図である。
図7】ボビンの円筒部の外周に巻き付けられたフレキシブル基板をテープと共に示す構成図である。
図8】フレキシブル基板の帯状部の断面図である。
図9】(a)~(d)は、フレキシブル基板の第1乃至第4の配線層の配線パターンを示す平面図である。
図10】フレキシブル基板、発振器、及び電圧計によって構成される電気回路の構成例を模式的に示す回路図である。
図11】磁歪式トルクセンサの製造方法における硬化工程を示す説明図である。
図12】変形例に係る磁歪式トルクセンサを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施の形態]
図1(a)及び(b)は、本発明の実施の形態に係る磁歪式トルクセンサ1を示す斜視図である。図2は、磁歪式トルクセンサ1の各構成部材を上下方向に並べて示す斜視図である。図3は、図1(a)のA-A線における磁歪式トルクセンサ1の断面図である。図4は、磁歪式トルクセンサ1が取付対象のトランスミッションケース91に取り付けられた状態を示す斜視図である。図5は、トランスミッションケース91に取り付けられた磁歪式トルクセンサ1をトルクの検出対象の回転軸90と共に示す断面図である。
【0011】
磁歪式トルクセンサ1は、図5に示すように回転軸90の周囲に取り付けられ、回転軸90によって伝達されるトルクを所定の使用温度範囲で検出する。回転軸90は、例えば自動車のエンジンあるいは電動モータ等の駆動源の駆動力を伝達するシャフトである。磁歪式トルクセンサ1によって得られたトルクの検出結果は、駆動源や自動変速機などの制御のために用いられる。
【0012】
回転軸90は、磁歪効果を有する強磁性体であり、回転軸線Oを中心として回転してトルクを伝達する。ここで、磁歪効果とは、強磁性体に磁場を印加して磁化させると形状に歪(ひずみ)が現れる現象である。そして、この現象を逆に利用し、形状の歪によって発生する磁界を磁歪式トルクセンサ1で検出することで、回転軸90に付与されたトルクを検出することができる。回転軸90としては、例えばクロム鋼、クロムモリブデン鋼、又はニッケルクロムモリブデン鋼等のクロムを含有するクロム鋼からなる軸状体に浸炭焼入れ及び焼戻し処理を施し、さらにショットピーニングを施したものを好適に用いることができる。以下、回転軸90の回転軸線Oに平行な方向を軸方向という。
【0013】
磁歪式トルクセンサ1は、回転軸90が挿通される空洞20が中心部に形成された円筒部を有する樹脂成形体であるボビン2と、ボビン2に固定された金属ブラケット3と、ボビン2の円筒部21の外周に巻き付けられたフレキシブル基板4と、フレキシブル基板4を留めて湾曲した状態とするためのテープ5と、フレキシブル基板4をボビン2の円筒部21との間に収容する円筒状の磁性体リング6と、ボビン2の円筒部21及びフレキシブル基板4と磁性体リング6との間に充填された硬化性樹脂からなる充填材7と、を備えている。フレキシブル基板4には、回転軸90の歪みを検出するための複数の検出コイルが配線パターンによって形成されている。
【0014】
ボビン2は、例えばPPS(ポリフェニレンサルファイド)からなり、金属ブラケット3と一体になるように射出成形されている。金属ブラケット3は、回転軸線Oを中心とするリング状であり、周方向の複数箇所に軸方向の貫通孔30が形成されている。ボビン2は、円筒部21と、円筒部よりも外径が大きい円環状の鍔部22と、鍔部22の外周面22aから軸方向に対して垂直な径方向に延びる延在部23と、鍔部22の複数箇所から円筒部21とは反対側の軸方向に突出して設けられた複数の脚部24と、複数の脚部24のそれぞれの先端部に設けられた膨大部25とを一体に有している。複数の脚部24は、金属ブラケット3の複数の貫通孔30内に円柱状に形成されており、膨大部25は、脚部24よりも大径の円盤状に形成されている。
【0015】
金属ブラケット3は、膨大部25によって脚部24から抜け止めされている。金属ブラケット3の外周面3aは、回転軸線Oと平行に形成されている。金属ブラケット3の内径は、ボビン2の円筒部21の内径と同等である。金属ブラケット3は、トランスミッションケース91への磁歪式トルクセンサ1の位置決め及び固定のために用いられる。トランスミッションケース91は、例えばアルミニウム合金等の金属製である。
【0016】
図6は、円筒状に湾曲した状態のフレキシブル基板4を示す斜視図である。図7は、ボビン2の円筒部21の外周に巻き付けられたフレキシブル基板4をテープ5と共に示す構成図である。フレキシブル基板4は、ボビン2の円筒部21の周方向に延在する帯状部400と、帯状部400の一箇所から軸方向に突出して設けられた舌片部401と、舌片部401から延びる線状部402とを有している。帯状部400における長手方向の両端部は、テープ5によって留められている。テープ5は、例えば粘着層を有するフッ素樹脂粘着テープであり、伸縮性を有している。フレキシブル基板4の帯状部400は、充填材7が充填されて固化される前の状態において、テープ5によって円筒状に湾曲した状態が維持される。
【0017】
ボビン2の延在部23には、フレキシブル基板4の線状部402を収容する溝230が形成されている。充填材7は、溝230にも充填され、溝230に充填された充填材7によって線状部402が溝230内に固定されている。線状部402は、ボビン2の延在部23よりも長く延在し、図5に示すように、線状部402の先端部に設けられた第1及び第2の電極402a,402bが発振器11に電気的に接続され、第3及び第4の電極402c,402dが電圧計12に電気的に接続される。
【0018】
磁性体リング6は、例えば鋼材や焼結磁性体からなり、軟磁性を有し、ボビン2の円筒部21の外径よりも内径が大きい円筒状に形成されている。磁性体リング6が鋼材からなる場合、電磁ステンレス等の磁性鉄鋼材を好適に用いることができ、その成形方法としては、例えば深絞りを用いることができる。また、長尺なパイプ状の鋼材を所定の長さに切り出して磁性体リング6としてもよい。磁性体リング6は、軸方向の一端部がボビン2の鍔部22に当接している。
【0019】
本実施の形態では、充填材7が熱硬化性樹脂であり、より具体的には熱硬化性のエポキシ樹脂からなる。充填材7は、その一部が磁性体リング6をボビン2の円筒部21から抜け止めする係止部71となっている。係止部71は、磁性体リング6がボビン2の鍔部22から離間するように軸方向に移動することを抑止している。本実施の形態では、磁性体リング6における鍔部22側とは反対側の端部に環状の凹部60が形成されており、この凹部60に入り込んだ充填材7が係止部71となっている。
【0020】
なお、エポキシ樹脂には接着効果があり、充填材7によって磁性体リング6がボビン2の円筒部21に接着されることにより磁性体リング6のボビン2に対する軸方向移動が抑制されるが、充填材7の一部が係止部71となることによって、より確実に磁性体リング6が抜け止めされる。また、エポキシ樹脂の接着性及び密着性により、ボビン2の円筒部21と磁性体リング6との間に水分が浸入することが防止され、高い止水性を発揮する。
【0021】
図4及び図5に示すように、磁歪式トルクセンサ1は、トランスミッションケース91に形成された嵌合穴910に金属ブラケット3が嵌合することにより位置決めされ、嵌合穴910に取り付けられた一対の止め輪92,93によって固定される。止め輪92,93は、スナップリングであり、金属ブラケット3を軸方向に挟むように取り付けられている。磁歪式トルクセンサ1がトランスミッションケース91に取り付けられたとき、ボビン2の円筒部21の中心軸線Cが回転軸90の回転軸線Oと一致する。円筒部21の内周面21aは、回転軸90の外周面90aと僅かな隙間を介して対向する。
【0022】
金属ブラケット3は、ボビン2よりも熱膨張又は熱収縮しにくく、ボビン2よりも摩耗しにくいので、金属ブラケット3の嵌合によって磁歪式トルクセンサ1をトランスミッションケース91に対して位置決めすることにより、例えばボビン2の鍔部22の嵌合によって磁歪式トルクセンサ1を位置決めする場合に比較して、位置決め精度を高めることができる。外周面3aを含む金属ブラケット3の外周端部は、磁歪式トルクセンサ1の最大外径部である。
【0023】
図8は、フレキシブル基板4の帯状部400の断面図である。フレキシブル基板4は、第1乃至第4の配線層41~44を有する多層構造であり、湾曲の外側にあたる一方面4aから湾曲の内側にあたる他方面4bに向かって順に、カバーレイフィルム451、接着層461、第1の配線層41、第1のベースフィルム471、第2の配線層42、接着層462、カバーレイフィルム452、両面テープ48,カバーレイフィルム453、接着層463、第3の配線層43、第2のベースフィルム472、第4の配線層44、接着層464、及びカバーレイフィルム454が積層されている。
【0024】
第1の配線層41及び第2の配線層42は、銅箔をエッチングして形成された配線パターンであり、第1のベースフィルム471の表(おもて)面471a及び裏面471bにそれぞれ形成されている。同様に、第3の配線層43及び第4の配線層44は、銅箔をエッチングして形成された配線パターンであり、第2のベースフィルム472の表面472a及び裏面472bにそれぞれ形成されている。カバーレイフィルム451,452,453,454は、接着層461,462,463,464によって第1乃至第4の配線層41~44に貼り付けられた保護フィルムである。第1及び第2のベースフィルム471,472、ならびにカバーレイフィルム451,452,453,454は、ポリイミド等の絶縁性樹脂からなる。両面テープ48は、例えばアクリルテープである。
【0025】
図9(a)は、第1のベースフィルム471の表面471aに形成された第1の配線層41の配線パターンを示す平面図である。図9(b)は、第1のベースフィルム471の表面471a側から見た第2の配線層42の配線パターンを示す平面図である。図9(c)は、第2のベースフィルム472の表面472aに形成された第3の配線層43の配線パターンを示す平面図である。図9(d)は、第2のベースフィルム472の表面472a側から見た第4の配線層44の配線パターンを示す平面図である。
【0026】
第1の配線層41には、帯状部400の長手方向に並ぶ第1乃至第10の検出コイル410~419が配線パターンによって形成されている。第1及び第10の検出コイル410,419は三角形状であり、第2乃至第9の検出コイル411~418は平行四辺形状である。第2の配線層42にも同様に、帯状部400の長手方向に並ぶ第1乃至第10の検出コイル420~429が配線パターンによって形成されている。第1及び第10の検出コイル420,429は三角形状であり、第2乃至第8の検出コイル421~428は平行四辺形状である。
【0027】
第3の配線層43には、帯状部400の長手方向に並ぶ第1乃至第10の検出コイル430~439が配線パターンによって形成されている。第1及び第10の検出コイル430,439は三角形状であり、第2乃至第9の検出コイル431~438は平行四辺形状である。第4の配線層44にも同様に、帯状部400の長手方向に並ぶ第1乃至第10の検出コイル440~449が配線パターンによって形成されている。第1及び第10の検出コイル440,449は三角形状であり、第2乃至第9の検出コイル441~448は平行四辺形状である。
【0028】
第1の配線層41の第1乃至第10の検出コイル410~419、及び第4の配線層44の第1乃至第10の検出コイル440~449は、帯状部400の短手方向に対して一方側に所定角度(+45°)傾斜した直線部410a~419a,440a~449aをそれぞれ有している。第2の配線層42の第1乃至第10の検出コイル420~429、及び第3の配線層43の第1乃至第10の検出コイル430~439は、帯状部400の短手方向に対して他方側に所定角度(-45°)傾斜した直線部420a~429a,430a~439aをそれぞれ有している。
【0029】
図10は、フレキシブル基板4、発振器11、及び電圧計12によって構成される電気回路の構成例を模式的に示す回路図である。第1の配線層41の第1乃至第10の検出コイル410~419は、直列に接続されて第1の誘導負荷410を形成し、第2の配線層42の第1乃至第10の検出コイル420~429は、直列に接続されて第2の誘導負荷420を形成している。また、第3の配線層43の第1乃至第10の検出コイル430~439は、直列に接続されて第3の誘導負荷430を形成し、第4の配線層44の第1乃至第10の検出コイル440~449は、直列に接続されて第4の誘導負荷440を形成している。
【0030】
第1の誘導負荷410及び第3の誘導負荷430、ならびに第2の誘導負荷420及び第4の誘導負荷440は、第1の電極402aと第2の電極402bとの間にそれぞれ直列に接続されている。第1の誘導負荷410と第3の誘導負荷430とを接続する接続線路491は第3の電極402cに接続され、第2の誘導負荷420と第4の誘導負荷440とを接続する接続線路492は第4の電極402dに接続されている。発振器11は、第1の電極402aと第2の電極402bとの間に交流電圧を印加する。電圧計12は、第3の電極402cと第4の電極402dとの間の電圧を測定する。
【0031】
回転軸90にトルクが付与されると、軸方向に対して+45度の方向の透磁率が減少(又は増加)し、軸方向に対して-45度方向の透磁率が増加(又は減少)する。よって、発振器11から交流電圧を印加した状態で回転軸90にトルクが付与されると、第1の誘導負荷410及び第4の誘導負荷440のインダクタンスが減少(又は増加)し、第2の誘導負荷420及び第3の誘導負荷430ではインダクタンスが増加(又は減少)する。その結果、電圧計12で測定される電圧が変化するので、この電圧の変化を基に回転軸90に付与されたトルクを検出することができる。
【0032】
なお、図9(a)~(d)では、第1乃至第4の配線層41~44の第1乃至第10の検出コイル410~419,420~429,430~439,440~449を直列に接続する部分の配線パターンや、接続線路491,492、及びこれらの回路要素と第1乃至第4の電極402a~402dとの間の配線パターンの図示を省略している。
【0033】
上記のように構成されたフレキシブル基板4は、厚さ方向に押し付けられて圧縮されると、第1乃至第4の配線層41~44の間の静電容量が変化し、トルクの検出精度に誤差が生じてしまう。本実施の形態では、ボビン2の線膨張係数が磁性体リング6の線膨張係数よりも高く、磁歪式トルクセンサ1の温度が上昇するにつれてボビン2が磁性体リング6よりも高い割合で熱膨張し、フレキシブル基板4の帯状部400がボビン2の円筒部21によって磁性体リング6側に押し付けられる。
【0034】
そこで、本実施の形態では、磁歪式トルクセンサ1の製造時において、ボビン2の円筒部21、フレキシブル基板4の帯状部400、及び磁性体リング6を、磁歪式トルクセンサ1の使用温度範囲の上限温度よりも高い温度とした状態で充填材7を硬化させる。ここで、使用温度範囲の上限温度は、磁歪式トルクセンサ1の定格温度であり、例えば120℃である。
【0035】
このように充填材7を硬化させることにより、磁歪式トルクセンサ1の使用温度範囲では、フレキシブル基板4の帯状部400がボビン2の熱膨張によって磁性体リング6側に押し付けられることがない。本実施の形態では、充填材7として、硬化温度が磁歪式トルクセンサ1の使用温度範囲の上限温度よりも高い熱硬化性樹脂を用いる。これにより、ボビン2の円筒部21、フレキシブル基板4の帯状部400、及び磁性体リング6の温度が磁歪式トルクセンサ1の使用温度範囲の上限温度よりも高い状態で、充填材7を硬化させることができる。充填材7の硬化温度は、例えば150℃である。
【0036】
充填材7の線膨張係数は、ボビン2の線膨張係数よりも低く、磁性体リング6の線膨張係数よりも高いことが望ましい。充填材7の線膨張係数がボビン2の線膨張係数よりも低くかつ磁性体リング6の線膨張係数よりも高いことにより、高温時にフレキシブル基板4の帯状部400が厚さ方向に押し付けられることを抑制しつつ、充填材7とボビン2の円筒部21との間、又は充填材7と磁性体リング6との間に、線膨張係数の違いによる隙間(空間)ができてしまうことを防ぐことができる。
【0037】
本実施の形態では、ボビン2の線膨張係数をCTE1とし、フレキシブル基板4の線膨張係数をCTE2とし、充填材7の線膨張係数をCTE3とし、磁性体リング6の線膨張係数をCTE4としたとき、CTE1,CTE2,CTE3,CTE4は、CTE1>CTE2>CTE3>CTE4の関係にある。CTE1は、例えば25ppm/℃以上である。CTE2は、例えば20ppm/℃であり、CTE3は、例えば15ppm/℃であり、CTE4は、例えば11ppm/℃である。
【0038】
次に、図11を参照し、磁歪式トルクセンサ1の製造方法について説明する。磁歪式トルクセンサ1の製造方法は、金属ブラケット3が固定されたボビン2、フレキシブル基板4、及び磁性体リング6を準備する準備工程と、フレキシブル基板4の帯状部400をボビン2の円筒部21の外周に巻き付け、磁性体リング6をボビン2の円筒部21及びフレキシブル基板4の帯状部400の外周に配置する配置工程と、ボビン2の円筒部21、フレキシブル基板4の帯状部400、及び磁性体リング6の温度を磁歪式トルクセンサ1の使用温度範囲の上限温度よりも高くした状態で、ボビン2の円筒部21及びフレキシブル基板4の帯状部400と磁性体リング6との間に充填した充填材7を硬化させる硬化工程とを有している。
【0039】
配置工程では、フレキシブル基板4の帯状部400とボビン2の円筒部21の外周面21bとの間に隙間ができないように、帯状部400における長手方向の両端部をテープ5によって留める。この際、テープ5が弾性的に延びた状態で帯状部400における長手方向の両端部をテープ5によって留めることにより、帯状部400におけるフレキシブル基板4の他方面4bを円筒部21の外周面21bに密着させることができる。テープ5は、一方の端部が帯状部400の一端部に粘着し、他方の端部が帯状部400の他端部に粘着する。
【0040】
図11は、硬化工程を示す説明図である。硬化工程では、下型81及び上型82を有する金型8を用い、硬化前の液状の充填材7をボビン2の円筒部21及びフレキシブル基板4の帯状部400と磁性体リング6との間に充填した後に、充填材7の温度を使用温度範囲の上限温度よりも高くして硬化させる。図11では、硬化前の液状の充填材7である液性樹脂70をグレーで示している。液性樹脂70は、流動性が高く、注入孔80から注入されてボビン2の円筒部21及びフレキシブル基板4の帯状部400と磁性体リング6との間に流れ込む。また、液性樹脂70は、ボビン2の延在部23に形成された溝230にも流れ込む。
【0041】
ボビン2、フレキシブル基板4、磁性体リング6、及び液性樹脂70の加熱は、例えば下型81及び上型82をヒーターによって加熱することにより行うことができる。なお、液性樹脂70の注入は、液性樹脂70の充填が完了する前に液性樹脂70が硬化してしまうことを防ぐため、ボビン2、フレキシブル基板4、磁性体リング6、ならびに下型81及び上型82が充填材7の硬化温度よりも低い状態で行うことが望ましい。
【0042】
(変形例)
図12は、変形例に係る磁歪式トルクセンサ1Aを示す断面図である。上記の実施の形態では、磁性体リング6に環状の凹部60が形成され、この凹部60に入り込んだ充填材7が係止部71となっている場合について説明したが、変形例に係る磁歪式トルクセンサ1Aでは、磁性体リング6が凹凸のない単純円筒形状であり、充填材7の一部が磁性体リング6における鍔部22とは反対側の端部を覆っており、この充填材7の一部が係止部71となっている。この磁歪式トルクセンサ1Aは、上記と同様の製造方法によって製造することができ、上記の実施の形態と同様の効果が得られる。また、磁性体リング6の加工を容易にすることができ、さらなる低コスト化が可能となる。
【0043】
(実施の形態及び変形例のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態及び変形例から把握される技術思想について、実施の形態及び変形例における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態及び変形例に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0044】
[1]磁歪効果を有する回転軸(90)の周囲に取り付けられ、前記回転軸(90)によって伝達されるトルクを所定の使用温度範囲で検出する磁歪式トルクセンサ(1,1A)であって、前記回転軸(90)が挿通される空洞(20)が中心部に形成された円筒部(21)を有する樹脂成形体(ボビン2)と、前記樹脂成形体(2)の前記円筒部(21)の外周に巻き付けられ、複数の検出コイル(410~449)が配線パターンによって形成されたフレキシブル基板(4)と、前記フレキシブル基板(4)を前記円筒部(21)との間に収容する円筒状の磁性体リング(6)と、前記円筒部(21)及び前記フレキシブル基板(4)と前記磁性体リング(6)との間に充填された硬化性樹脂からなる充填材(7)と、を備え、前記樹脂成形体(2)の線膨張係数が前記磁性体リング(6)の線膨張係数よりも高く、前記充填材(7)は、前記円筒部(21)、前記フレキシブル基板(4)、及び前記磁性体リング(6)が前記使用温度範囲の上限温度よりも高い温度とされた状態で硬化している、磁歪式トルクセンサ(1,1A)。
【0045】
[2]前記充填材(7)の線膨張係数が、前記樹脂成形体(2)の線膨張係数よりも低く、前記磁性体リング(6)の線膨張係数よりも高い、上記[1]に記載の磁歪式トルクセンサ(1,1A)。
【0046】
[3]前記充填材(7)は、硬化温度が前記上限温度よりも高い熱硬化性樹脂である、上記[1]に記載の磁歪式トルクセンサ(1,1A)。
【0047】
[4]前記フレキシブル基板(4)は、前記円筒部(21)の周方向に延在する帯状部(400)を有し、前記帯状部(400)における長手方向の両端部がテープ(5)によって留められている、上記[1]に記載の磁歪式トルクセンサ(1,1A)。
【0048】
[5]前記充填材(7)により、前記磁性体リング(6)を抜け止めする係止部(71)が形成されている、上記[1]に記載の磁歪式トルクセンサ(1,1A)。
【0049】
[6]磁歪効果を有する回転軸(90)の周囲に取り付けられ、前記回転軸(90)によって伝達されるトルクを所定の使用温度範囲で検出する磁歪式トルクセンサ(1,1A)の製造方法であって、前記回転軸(90)が挿通される空洞(20)が中心部に形成された円筒部(21)を有する樹脂成形体(2)、複数の検出コイル(410~449)が配線パターンによって形成されたフレキシブル基板(4)、及び前記樹脂成形体(2)よりも線膨張係数が低い円筒状の磁性体リング(6)を準備する準備工程と、前記フレキシブル基板(4)を前記円筒部(21)の外周に巻き付け、前記磁性体リング(6)を前記円筒部(21)及び前記フレキシブル基板(4)の外周に配置する配置工程と、前記円筒部(21)、前記フレキシブル基板(4)、及び前記磁性体リング(6)の温度を前記使用温度範囲の上限温度よりも高くした状態で、前記円筒部(21)及び前記フレキシブル基板(4)と前記磁性体リング(6)との間に充填した硬化性樹脂からなる充填材(7)を硬化させる硬化工程と、を有する、磁歪式トルクセンサ(1,1A)の製造方法。
【0050】
[7]前記充填材(7)は、硬化温度が前記上限温度よりも高い熱硬化性樹脂であり、前記硬化工程では、硬化前の液状の前記充填材(7)を前記円筒部(21)及び前記フレキシブル基板(4)と前記磁性体リング(6)との間に充填した後に前記充填材(7)の温度を前記上限温度よりも高くして硬化させる、上記[6]に記載の磁歪式トルクセンサ(1,1A)の製造方法。
【0051】
[8]前記フレキシブル基板(4)は、前記円筒部(21)の周方向に延在する帯状部(400)を有し、前記配置工程において、前記フレキシブル基板(4)の前記帯状部(400)における長手方向の両端部をテープ(5)によって留める、上記[6]に記載の磁歪式トルクセンサ(1,1A)の製造方法。
【0052】
以上、本発明の実施の形態及び変形例を説明したが、上記の実施の形態及び変形例は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0053】
また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することができる。例えば、上記の実施の形態では、充填材7が熱硬化性樹脂である場合について説明したが、これに限らず、例えば光硬化性樹脂あるいは化学硬化性樹脂であってもよい。また、上記の実施の形態では、磁歪式トルクセンサ1の検出対象である回転軸90が自動車の駆動源の駆動力を伝達するシャフトである場合について説明したが、磁歪式トルクセンサ1の検出対象としてはこれに限らず、例えば産業機械においてトルクを伝達する回転軸のトルクを磁歪式トルクセンサ1によって検出することが可能である。
【符号の説明】
【0054】
1,1A…磁歪式トルクセンサ 2…ボビン(樹脂成形体)
20…空洞 21…円筒部
3…金属ブラケット 4…フレキシブル基板
400…帯状部 410~449…検出コイル
5…テープ 6…磁性体リング
7…充填材 71…係止部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12