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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024103135
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】定着装置、画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/20 20060101AFI20240725BHJP
【FI】
G03G15/20 515
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023007310
(22)【出願日】2023-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100207181
【弁理士】
【氏名又は名称】岡村 朋
(72)【発明者】
【氏名】高木 啓正
(72)【発明者】
【氏名】藤原 仁
(72)【発明者】
【氏名】南野 茂夫
(72)【発明者】
【氏名】池淵 豊
(72)【発明者】
【氏名】古市 祐介
【テーマコード(参考)】
2H033
【Fターム(参考)】
2H033BA11
2H033BA12
2H033BA13
2H033BA26
2H033BA27
2H033BB02
2H033BB18
2H033BB21
2H033BE03
(57)【要約】
【課題】導電性部材の回転による位置ずれを抑制することを課題とする。
【解決手段】定着ベルト20と、面状のヒータ22と、定着ベルト20の内面に接触する導電性部材40と、導電性部材40の一端40a側を保持する位置決めピン23aとを備えた定着装置9であって、導電性部材40の一端側を中心とした回転を、導電性部材40の定着ベルト20に接触する他端40b以外の部分で規制する回転規制リブ23bを有することを特徴とする。
【選択図】図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルト部材と、
面状の加熱体と、
前記ベルト部材の内面に接触する導電性部材と、
前記導電性部材の一端側を保持する保持部と、を備えた定着装置であって、
前記導電性部材の一端側を中心とした回転を、前記導電性部材の前記ベルト部材に接触する部分以外の部分で規制する回転規制部を有することを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記回転規制部は、前記導電性部材が前記ベルト部材に接触可能な範囲で、前記導電性部材の回転を規制する請求項1記載の定着装置。
【請求項3】
前記回転規制部は、前記導電性部材の回転方向の両側にそれぞれ設けられる請求項1記載の定着装置。
【請求項4】
前記導電性部材の回転方向の両側に設けられた回転規制部同士の間隔が、前記導電性部材の幅と同じに設けられる請求項3記載の定着装置。
【請求項5】
前記回転規制部は、前記導電性部材の回転方向の一方側あるいは他方側の少なくとも一方に複数設けられる請求項1記載の定着装置。
【請求項6】
前記加熱体は、その長手方向に、それぞれ独立して発熱可能な複数の発熱部を有する請求項1記載の定着装置。
【請求項7】
前記ベルト部材は、ポリイミドにより形成される請求項1記載の定着装置。
【請求項8】
前記ベルト部材は弾性層を有していない請求項7記載の定着装置。
【請求項9】
前記導電性部材は、その一端側に挿入孔を有し、
前記保持部は、前記挿入孔に挿入されて前記導電性部材を保持し、
前記挿入孔が、前記導電性部材の幅方向の中央位置から外れた位置に設けられる請求項1記載の定着装置。
【請求項10】
請求項1から9いずれか1項に記載の定着装置を備えた画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定着装置および画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
定着装置には、ベルト部材としての定着ベルトを加熱する加熱体としてのヒータが設けられる。そして、このヒータとして、基材上に形成された抵抗発熱体にAC電圧を印加することにより発熱し、絶縁層などを介して定着ベルトの内面を加熱するタイプのものが存在する。
【0003】
ヒータにAC電圧を印加する構成では、ヒータに設けられた絶縁層や定着ベルトの表層がコンデンサと等価になり、定着ベルトを介して定着ニップに交流電圧が印加される。そして、用紙が転写ニップと定着ニップとの両方に接触している状態では、この交流電圧が、用紙を介して転写ニップに伝播する。これにより、交流電圧が転写電界に影響を与えて、転写画像に周期的な濃度ムラが生じる、いわゆるバンディング画像の原因となってしまう。特に、高湿環境下や用紙に薄紙を用いた場合等、用紙が低抵抗の場合には、上記の問題が顕著になる。
【0004】
これに対して、定着ベルトの内面に導電性部材を接触させ、この導電性部材を介して接地側へ電流を逃がす構成の定着装置が従来から存在する。例えば特許文献1(特開2021-173807号公報)では、導電性部材の一端側に設けられた孔部にヒータホルダの突起を入れて外れないようにし、導電性部材の他端側を加熱フィルムの内面に接触させている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の定着装置では、導電性部材が取付方向と直交する方向へ回転してしまって位置ずれし、組み立ての手間が増えたり、導電性部材の定着ベルトに対する接触不良により適切な除電性能を得られないという問題があった。
【0006】
本発明では、導電性部材の回転による位置ずれを抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明は、ベルト部材と、面状の加熱体と、前記ベルト部材の内面に接触する導電性部材と、前記導電性部材の一端側を保持する保持部と、を備えた定着装置であって、前記導電性部材の一端側を中心とした回転を、前記導電性部材の前記ベルト部材に接触する部分以外の部分で規制する回転規制部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、導電性部材の回転による位置ずれを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】画像形成装置の概略構成図である。
図2】本発明の一実施形態に係る定着装置の概略構成を示す側面断面図である。
図3】バンディング画像の形成について説明する図である。
図4】導電性部材を示す平面図である。
図5】ヒータホルダの導電性部材の取り付け構造を示す斜視図である。
図6】ヒータホルダに導電性部材を取り付けた状態の斜視図である。
図7】ステーのヒータホルダへの取り付けを示す斜視図である。
図8】導電性部材がヒータホルダに対して回転する様子を説明する斜視図である。
図9】導電性部材の回転により定着ベルトに非接触となる様子を説明する概略図である。
図10】定着ベルトに接触させるための導電性部材の回転の限界角度を示す概略図である。
図11】導電性部材の回転により定着ベルトに非接触となる様子を説明する側面断面図である。
図12】本実施形態の回転規制リブの配置を示す概略図である。
図13】回転規制リブを導電性部材の回転方向の一方側および他方側に複数配置した図である。
図14】ヒータの平面図である。
図15】ヒータへの電力供給を示す図である。
図16図14と抵抗発熱体の形状が異なるヒータの平面図である。
図17図14図16と抵抗発熱体の形状が異なるヒータの平面図である。
図18】定着ベルトの配列方向の温度分布を示す図で、(a)図がヒータの平面図、(b)図が定着ベルトの温度分布を示す図である。
図19図16のヒータの分割領域を示す図である。
図20図19と異なる形状の分割領域を示す図である。
図21図17のヒータの分割領域を示す図である。
図22】ヒータ、第1高熱伝導部材、ヒータホルダの斜視図である。
図23】第1高熱伝導部材の配置を示すヒータの平面図である。
図24】第1高熱伝導部材の配置の異なる例を示すヒータの平面図である。
図25】第1高熱伝導部材の配置のさらに異なる例を示すヒータの平面図である。
図26図2とは異なる実施形態の定着装置の概略構成を示す側面断面図である。
図27】ヒータ、第1高熱伝導部材、第2高熱伝導部材、ヒータホルダの斜視図である。
図28】第1高熱伝導部材および第2高熱伝導部材の配置を示すヒータの平面図である。
図29】第1高熱伝導部材および第2高熱伝導部材の異なる配置の例を示すヒータの平面図である。
図30】グラフェンの原子結晶構造を示す図である。
図31】グラファイトの原子結晶構造を示す図である。
図32図28と第2高熱伝導部材の配置が異なるヒータを示す平面図である。
図33図2図26とは異なる実施形態の定着装置の概略構成を示す側面断面図である。
図34】上記と異なる定着装置の概略構成を示す側面断面図である。
図35】上記と異なる定着装置の概略構成を示す側面断面図である。
図36】上記と異なる定着装置の概略構成を示す側面断面図である。
図37図1と異なる画像形成装置の概略構成図である。
図38】本発明の一実施形態に係る定着装置の概略構成を示す側面断面図である。
図39図38の定着装置におけるヒータの平面図である。
図40】ヒータおよびヒータホルダの斜視図である。
図41】ヒータに対するコネクタの取付状態を示す斜視図である。
図42】サーミスタとサーモスタットの配置を示す図である。
図43】フランジの溝部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、各図中、同一又は相当する部分には同一の符号を付しており、その重複説明は適宜に簡略化ないし省略する。
【0011】
図1は、本発明の実施の一形態に係る画像形成装置の概略構成図である。
【0012】
図1に示す画像形成装置100は、画像形成装置本体に対して着脱可能な4つの作像ユニット1Y,1M,1C,1Bkを備える。各作像ユニット1Y,1M,1C,1Bkは、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの異なる色の現像剤を収容している以外は同様の構成となっている。これらの色の現像剤は、カラー画像の色分解成分に対応する。各作像ユニット1Y,1M,1C,1Bkは、像担持体としてのドラム状の感光体2と、帯電装置3と、現像装置4と、クリーニング装置5とを備える 。帯電装置3は感光体2の表面を帯電する。現像装置4は、感光体2の表面に現像剤としてのトナーを供給してトナー画像を形成する。クリーニング装置5は感光体2の表面をクリーニングする。
【0013】
また、画像形成装置100は、露光装置6と、給紙装置7と、転写装置8と、加熱装置としての定着装置9と、排紙装置10とを備える。露光装置6は、各感光体2の表面を露光し、その表面に静電潜像を形成する。給紙装置7は、記録媒体としての用紙Pを用紙搬送路14に供給する。転写装置8は各感光体2に形成されたトナー画像を用紙Pに転写する。定着装置9は用紙Pに転写されたトナー画像を用紙P表面に定着させる。排紙装置10は用紙Pを装置外に排出する。各作像ユニット1、感光体2、帯電装置3、露光装置6、転写装置8などは、用紙に画像を形成するための画像形成手段を構成している。
【0014】
転写装置8は、中間転写体としての無端状の中間転写ベルト11と、一次転写部材としての4つの一次転写ローラ12と、二次転写部材としての二次転写ローラ13とを有する。中間転写ベルト11は複数のローラによって張架される。一次転写ローラ12は各感光体2上のトナー画像を中間転写ベルト11へ転写する。二次転写ローラ13は中間転写ベルト11上に転写されたトナー画像を用紙Pへ転写する。複数の一次転写ローラ12は、それぞれ、中間転写ベルト11を介して感光体2に接触している。これにより、中間転写ベルト11と各感光体2とが互いに接触し、これらの間に一次転写ニップが形成される。一方、二次転写ローラ13は、中間転写ベルト11を介して中間転写ベルト11を張架するローラの1つに接触している。これにより、二次転写ローラ13と中間転写ベルト11との間には二次転写ニップが形成されている。
【0015】
また、用紙搬送路14における給紙装置7から二次転写ニップ(二次転写ローラ13)に至るまでの途中には、一対のタイミングローラ15が設けられている。
【0016】
次に、図1を参照して上記画像形成装置の印刷動作について説明する。
【0017】
印刷動作開始の指示があると、各作像ユニット1Y,1M,1C,1Bkにおいては、感光体2が図1の時計回りに回転駆動され、帯電装置3によって感光体2の表面が均一な高電位に帯電される。次いで、原稿読取装置によって読み取られた原稿の画像情報、あるいは端末からプリント指示されたプリント情報に基づいて、露光装置6が各感光体2の表面を露光する。これにより、露光された部分の電位が低下して静電潜像が形成される。そして、この静電潜像に対して現像装置4からトナーが供給され、各感光体2上にトナー画像が形成される。
【0018】
各感光体2上に形成されたトナー画像は、各感光体2の回転に伴って回転し、一次転写ニップ(一次転写ローラ12の位置)に達する。そしてトナー画像は、図1の反時計回りに回転駆動する中間転写ベルト11に順次重なり合うように転写される。そして、中間転写ベルト11上に転写されたトナー画像は、中間転写ベルト11の回転に伴って二次転写ニップ(二次転写ローラ13の位置)へ搬送される。トナー画像は、二次転写ニップにおいて搬送されてきた用紙Pに転写される。この用紙Pは、給紙装置7から供給されたものである。給紙装置7から供給された用紙Pは、タイミングローラ15によって一旦停止された後、中間転写ベルト11上のトナー画像が二次転写ニップに至るタイミングに合わせて二次転写ニップへ搬送される。かくして、用紙P上にフルカラーのトナー画像が担持される。また、トナー画像が転写された後、各感光体2上に残留するトナーは各クリーニング装置5によって除去される。
【0019】
トナー画像が転写された用紙Pは、定着装置9へと搬送され、定着装置9によって用紙Pにトナー画像が定着される。その後、用紙Pは排紙装置10によって装置外に排出されて、一連の印刷動作が完了する。
【0020】
続いて、定着装置の構成について説明する。
【0021】
図2に示すように、本実施形態に係る定着装置9は、ベルト部材あるいは定着部材としての定着ベルト20と、対向回転部材あるいは加圧部材としての加圧ローラ21と、加熱体としてのヒータ22と、保持部材としてのヒータホルダ23と、ステー24と、温度検知部材としてのサーミスタと、第1高熱伝導部材28と、導電性部材40等を備えている。定着ベルト20は無端状のベルトからなる。加圧ローラ21は定着ベルト20の外周面に接触して、定着ベルト20との間に定着ニップNを形成する。ヒータ22は定着ベルト20を加熱する。ヒータホルダ23はヒータ22を保持する。ステー24はヒータホルダ23を支持する。サーミスタは第1高熱伝導部材28の温度を検知する。
【0022】
図2の紙面に直交する方向は定着ベルト20、加圧ローラ21、ヒータ22、ヒータホルダ23、ステー24、第1高熱伝導部材28等の長手方向であり、図5図14等に示す両矢印Xの方向である。以下、この方向を単に長手方向と呼ぶ。なお、この長手方向は搬送される用紙の幅方向、定着ベルト20のベルト幅方向、そして、加圧ローラ21の軸方向でもある。図2の矢印A方向が用紙の搬送方向である。以下、図2の下側である用紙搬送方向の上流側を単に上流側、図2の上側である用紙搬送方向の下流側を単に下流側とも呼ぶ。
【0023】
定着ベルト20は、例えば外径が25mmで厚みが40~120μmのポリイミド(PI)製の筒状基体で構成される基層を有する。定着ベルト20の最表層には、耐久性を高めて離型性を確保するために、PFAやPTFE等のフッ素系樹脂による厚みが5~50μmの離型層が形成される。基体と離型層の間に厚さ50~500μmのゴム等からなる弾性層を設けてもよい。本実施形態の定着ベルト20は、弾性層を有していないゴムレスベルトである。また、定着ベルト20の基体はポリイミドに限らず、PEEKなどの耐熱性樹脂やニッケル(Ni)、SUSなどの金属基体であってもよい。定着ベルト20の内周面に摺動層としてポリイミドやPTFEなどをコートしてもよい。
【0024】
加圧ローラ21は、例えば外径が25mmであり、中実の鉄製芯金21aと、この芯金21aの表面に形成された弾性層21bと、弾性層21bの外側に形成された離型層21cとで構成されている。弾性層21bはシリコーンゴムで形成されており、厚みは例えば3.5mmである。弾性層21bの表面は離型性を高めるために、厚みが例えば40μm程度のフッ素樹脂層による離型層21cを形成するのが望ましい。
【0025】
加圧ローラ21が付勢手段によって定着ベルト20側へ付勢されることで、加圧ローラ21は定着ベルト20を介してヒータ22に圧接される。これにより、定着ベルト20と加圧ローラ21との間に、ニップ部としての定着ニップNが形成される。また、加圧ローラ21は駆動手段によって回転駆動されるように構成されており、加圧ローラ21が図2の矢印方向に回転すると、これに伴って定着ベルト20が矢印J方向へ従動回転する。
【0026】
ヒータ22は、定着ベルト20の内周面に接触するように配置されている。本実施形態のヒータ22は、定着ベルト20を介して加圧ローラ21に接触し、加圧ローラ21との間に定着ニップNを形成するニップ形成部材の役割をする。また、定着ベルト20は、ヒータ22に加熱される被加熱部材である。「加熱体がベルト部材の内面に接触する」とは、本実施形態のような直に接触する構成の他、他の部材を介した接触であってもよい。
【0027】
ヒータ22は、定着ベルト20の幅方向に渡って長手状に設けられた面状の加熱体である。ヒータ22は、板状の基材30と、基材30上に設けられた抵抗発熱体31と、抵抗発熱体31を被覆する絶縁層32等で構成されている。ヒータ22に対して電源200(図15参照)からAC電圧を印加することにより、主に抵抗発熱体31が発熱し、定着ベルト20を加熱する。
【0028】
また、ヒータ22は、絶縁層32側で定着ベルト20の内周面に対して接触しており、抵抗発熱体31から発された熱は、絶縁層32を介して定着ベルト20へと伝達される。本実施形態では、抵抗発熱体31や絶縁層32が基材30の定着ベルト20側(定着ニップN側)に設けられているが、反対に、抵抗発熱体31や絶縁層32を基材30のヒータホルダ23側に設けてもよい。その場合、抵抗発熱体31の熱が基材30を介して定着ベルト20に伝達されることになるため、基材30は窒化アルミニウムなどの熱伝導率の高い材料で構成されることが望ましい。また、基材30を熱伝導率の高い材料で構成することで、抵抗発熱体31を基材30の定着ベルト20側とは反対側に配置しても、定着ベルト20を十分に加熱することが可能である。
【0029】
ヒータホルダ23およびステー24は、定着ベルト20の内周側に配置されている。ステー24は、金属製のチャンネル材で構成され、その長手方向の両端部分が定着装置9の両側板に支持されている。ステー24によってヒータホルダ23およびヒータ22が支持されることで、加圧ローラ21が定着ベルト20に加圧された状態で、ヒータ22が加圧ローラ21の押圧力を確実に受けとめることができる。これにより、定着ベルト20と加圧ローラ21との間に定着ニップNが安定的に形成される。本実施形態では、ヒータホルダ23の熱伝導率は基材30よりも小さく設けられる。
【0030】
ステー24は、その用紙搬送方向上流側と下流側にそれぞれ、壁部としての垂直部24aを有する略U字の形状をなしている。垂直部24aはその端面でヒータホルダ23に当接し、ヒータホルダ23を支持する部分でもある。垂直部24aは、加圧ローラ21の加圧方向である図2の左右方向に延在する部分である。またステー24は、抵抗41を介して接地されている。
【0031】
本実施形態のステー24は、加圧ローラ21の加圧方向(図の左右方向)に延在した部分、あるいは、厚みを持った部分を、加圧ローラ21と反対側(図の左側)からヒータホルダ23に対して当接させることで、ヒータホルダ23を支持する。これにより、加圧ローラ21からの加圧力によるヒータホルダ23の撓み(本実施形態では、特に長手方向の撓み)を抑制できる。ただし、上記のステー24のヒータホルダ23に対する当接は、ステー24がヒータホルダ23に直接当接している場合に限らず、他の部材を介して当接する場合も含む。「他の部材を介した当接」とは、図の左右方向において、ステー24とヒータホルダ23との間に他の部材が挟まれ、かつ、少なくともその一部が対応する位置で、ステー24が他の部材に当接し、他の部材がヒータホルダ23に当接する状態を指す。また、上記の加圧方向に延在する、とは、加圧ローラ21の加圧方向と同一の方向に限らず、加圧ローラ21の加圧方向から、ある程度の角度をもった方向へ延在する場合も含む。これらの場合でも、ステー24が、加圧ローラ21からの加圧力に抗してヒータホルダ23の撓みを抑制できることはもちろんである。
【0032】
ヒータホルダ23は、ヒータ22の熱によって高温になりやすいため、耐熱性の材料で形成されることが望ましい。例えば、ヒータホルダ23をLCPやPEEKなどの低熱伝導性の耐熱性樹脂で形成した場合は、ヒータ22からヒータホルダ23への伝熱が抑制される。これにより、ヒータ22が効率的に定着ベルト20を加熱できる。
【0033】
ヒータホルダ23は、第1高熱伝導部材28とヒータ22とを保持するための凹部23eを有する(図22参照)。
【0034】
また図2に示すように、ヒータホルダ23には、定着ベルト20をガイドするガイド部26が一体的に設けられる。ガイド部26は、ヒータホルダ23の用紙搬送方向上流側と下流側にそれぞれ設けられる。
【0035】
ガイド部26には、複数の、ガイド部材としてのガイドリブ260が設けられる。ガイドリブ260は略扇型に形成される。ガイドリブ260は、定着ベルト20の内周面に沿うようにして設けられ、ベルト周方向に延在する円弧状又は凸曲面状のガイド面260aを有する。
【0036】
第1高熱伝導部材28は基材30よりも熱伝導率の高い部材により構成される。本実施形態では、第1高熱伝導部材28は板状のアルミニウムにより構成される。その他、例えば銅や銀、グラフェン、グラファイトにより第1高熱伝導部材28を構成してもよい。第1高熱伝導部材28を板状とすることにより、ヒータホルダ23や第1高熱伝導部材28に対するヒータ22の位置精度を向上させることができる。
【0037】
次に、上記の熱伝導率の算出方法について説明する。熱伝導率を算出する際には、まず、対象の物体の熱拡散率を測定し、この熱拡散率を用いて熱伝導率を算出する。
【0038】
熱拡散率の計測は、熱拡散率・熱伝導率測定装置(商品名:ai-Phase Mobile 1u、株式会社アイフェイズ性)を用いた。
【0039】
上記熱拡散率を熱伝導率に換算するためには、密度と比熱容量の値が必要である。 密度の計測には、乾式自動密度計(商品名:Accupyc 1330、株式会社島津製作所製)を用いた。 また、比熱容量の計は、示差走査型熱量測定装置(商品名:商品名:DSC-60 株式会社島津製作所製)を用い、比熱容量が既知の基準物質としてサファイアを用いて測定した。本実施例では比熱容量測定を5回行い、50℃における平均値を用いた。密度および比熱容量をそれぞれρ、Cとすると、上記熱拡散率測定で得られた熱拡散率αとから、熱伝導率λは、以下の式(1)により得ることができる。
λ=ρ×C×α・・・(1)
【0040】
本実施形態に係る定着装置9において、印刷動作が開始されると、加圧ローラ21が回転駆動され、定着ベルト20が従動回転を開始する。このとき、定着ベルト20の内周面がガイドリブ260のガイド面260aに接触してガイドされることで、定着ベルト20は安定かつ円滑に回転する。また、ヒータ22の抵抗発熱体31に電力が供給されることで、定着ベルト20が加熱される。そして、定着ベルト20の温度が所定の目標温度である定着温度に到達した状態で、図2に示すように、未定着トナー画像が担持された用紙Pが、定着ベルト20と加圧ローラ21との間の定着ニップNに搬送されることで、未定着トナー画像が加熱および加圧されて用紙Pに定着される。
【0041】
ところで、このような定着装置9では、バンディング画像の問題がある。つまり、ヒータ22にAC電圧を印加する定着装置9では、ヒータ22に設けられた絶縁層や定着ベルト20の表層がコンデンサと等価になる。この際、ヒータ22と定着ベルト20とが接触することで、定着ベルト20を介して定着ニップNに交流電圧が印加される。そして、図3に示すように、用紙Pが二次転写ニップNAと定着ニップNとの両方に接触している状態では、この交流電圧が図3の矢印で示すように用紙Pを介して二次転写ニップNAに伝播する。この交流電圧が転写電界に影響を与えることで、転写画像に周期的な濃度ムラが生じる、いわゆるバンディング画像の原因となってしまう。特に、高湿環境下や用紙Pに薄紙を用いた場合等、用紙Pが低抵抗の場合には、上記の問題が顕著になる。二次転写ニップNAは、二次転写ローラ13と二次転写対向ローラ16との間に形成されるニップ部である。
【0042】
またこのような定着装置9では、静電オフセットによる画像不良が生じる場合がある。つまり、定着ニップNに通紙した際に、帯電した定着ベルト20表層に用紙P上の未定着トナーが引き付けられ、未定着トナーが定着ベルト20に付着する。そして、定着ベルト20の回転により、付着したトナーが再び定着ニップN側へ移動し、前述の用紙以降に定着ニップNに到達した用紙Pにこのトナーが付着する。このトナーの付着により画像不良が生じてしまう。
【0043】
そこで本実施形態では、定着装置9に図2に示す導電性部材40を設けることにより、交流電圧を、定着ニップNから定着ベルト20、そして導電性部材40を介して接地側へ流すことができる。従って、上記のバンディング画像の形成を抑制する。また導電性部材40を設けることにより、定着ベルト20表面の電荷を取り除き、上記の静電オフセットによる画像不良を抑制する。
【0044】
図2に示すように、導電性部材40はシート状をなし、可撓性を有している。導電性部材40は導電性の材料により形成され、本実施形態ではカーボンブラックを添加した導電性のポリイミドにより形成される。導電性部材40は、ステー24および抵抗41を介して接地されている。導電性部材40は長手方向に複数設けられてもよいし、一つでもよい。導電性部材40は、ステー24とガイド部26との間に配置される。
【0045】
導電性部材40は、自由端である他端40bが、定着ベルト20の内面に接触する接触部である。他端40bの定着ベルト20の内面に対する接触により、定着ベルト20表面の電荷を、ステー24、抵抗41を介して接地側へ逃がすことができ、定着ベルト20表面に溜まった電荷を取り除くことができる。本実施形態で、導電性部材40の他端40bの反対側を一端40a側とする。単に他端40b側あるいは単に一端40a側とは、導電性部材40の面に沿う方向でその幅方向と直交する方向に沿った長さの中央位置よりも他端40b側あるいは一端40a側のことでもある。別の言い方をすると、導電性部材40が屈曲しておらず略シート状の形態である場合に、導電性部材40の面に沿う方向でその幅方向とは直交する方向の中央位置に相当する位置よりも他端40b側あるいは一端40a側のことでもある。
【0046】
導電性部材40は、ステー24の第一対向面24dおよびガイド部26の第二対向面26aに対向する対向部40cを有する。第一対向面24dおよび第二対向面26aは、導電性部材40の傾きを規制する。つまり、第一対向面24dおよび第二対向面26aは、導電性部材40が図2の上方向あるいは下方向へ傾いた際に導電性部材40に当接し、導電性部材40の傾きを規制できる位置に配置されている。
【0047】
導電性部材40は、屈曲部40dを境にしてその他端側が定着ベルト20の回転方向Jの下流側へ屈曲している。
【0048】
また導電性部材40は、対向部40cの一端40a側が折り曲げられている。そして、導電性部材40の対向部40cを挟んで他端40bとは反対側の一端40a側の部分が、ステー24の垂直部24aとヒータホルダ23とによって図2の左右方向に挟持されている。これにより、加圧ローラ21の加圧力によって、導電性部材40がステー24とヒータホルダ23との間に挟持される。これにより、導電性部材40をステー24に確実に接触させ、ステー24を介して接地することができる。
【0049】
図4に示すように、導電性部材40はその一端側に挿入孔40eを有する。導電性部材40は左右非対称の形状で設けられる。具体的には、挿入孔40eが導電性部材40の中央よりも図4の上寄りに配置される。別の言い方をすると、導電性部材40の幅方向一端から挿入孔40eの中心までの距離B1よりも、導電性部材40の幅方向他端から挿入孔40eの中心までの距離B2が大きく設けられる。導電性部材40の他端40bは先細りの突端部である。この突端部も、導電性部材40の幅方向中央位置に対して図4の上寄りに配置されている。
【0050】
以上の導電性部材40をヒータホルダ23に保持させる保持構造について、図5および図6を用いて説明する。
【0051】
図5に示すように、ヒータホルダ23のステー24側の面には、保持部としての位置決めピン23a、および、回転規制部としての回転規制リブ23bが設けられる。二つ設けられた回転規制リブ23bの間の位置に位置決めピン23aが配置される。位置決めピン23aおよび回転規制リブ23bは加圧ローラによる加圧方向である図2の左方向へ突出している。
【0052】
図6に示すように、導電性部材40をヒータホルダ23に組み付ける際には、導電性部材40の挿入孔40eに位置決めピン23aを挿入することで、位置決めピン23aに導電性部材40を保持させる。また、導電性部材40の他端40b側を二つの位置決めピン23aの間に配置する。これにより、導電性部材40がヒータホルダ23に取り付けられる。この状態で、図7に示すように、ステー24をヒータホルダ23に当接させ、図2に示すように、ステー24とヒータホルダ23との間に導電性部材40の一端40a側を挟み込み、導電性部材40の挟み込まれた部分よりも他端40b側をステー24に沿って加圧ローラ21と反対側へ起立させる(図2の左側へ延在させる)。そして、導電性部材40を屈曲部40dの位置でステー24側へ屈曲させる。ただし、図7では導電性部材40の記載を省略している。なお、図6および図7では定着ベルトは定着装置に組み付けられていない。
【0053】
上記のように、導電性部材40の一端40aの挿入孔40eに位置決めピン23aを挿入する構成では、図8に示すように、導電性部材40が位置決めピン23aを中心にして回転してしまう。これにより、図9および図10に示す実線部の導電性部材40のように、他端40bが定着ベルト20の内面に接触せず、定着ベルト20の内面を除電できなくなってしまう。また導電性部材40組み付けの際に、導電性部材40を正しい位置に配置に戻したり、回転しないようにステー24を組み付けるといったことが必要になり、定着装置9の組み立て作業性が悪化してしまうという問題があった。
【0054】
これに対して本実施形態では、図5に示す回転規制リブ23bを設けることにより、導電性部材40の回転を防止できる。導電性部材40の回転方向とは、位置決めピン23aの突出方向に垂直な面に沿う方向である。また特に本実施形態では、回転規制リブ23bを導電性部材40の両側に設けることにより、導電性部材40の両方向への回転を防止できる。ただし、いずれか一方側にのみ回転規制リブ23bを設けることもできる。
【0055】
このように、回転規制リブ23bにより導電性部材40の回転範囲を適切に規制するためには、導電性部材40の回転方向の両側に設けられた回転規制リブ23bを、適切な間隔で配置する必要がある。以下、この回転規制リブ23bの配置について説明する。
【0056】
図10に示すように、導電性部材40は、回転方向の一方側への回転角度が角度C1よりも大きくなると、その他端40bが定着ベルト20の内面に接触できなくなる。また導電性部材40は、回転方向の他方側への回転角度が角度C2よりも大きくなると、その他端40bが定着ベルト20の内面に接触できなくなる。以上の回転角度C1,C2が、導電性部材40を定着ベルト20に対して精度よく接触させるための限界角度である。この限界角度を超えると、図11に実線部の導電性部材40に示すように、導電性部材40が定着ベルト20の内面に接触できなくなってしまう。そして、図10に示す回転規制リブ23bは、導電性部材40の回転範囲をこの限界角度C1、C2以下になるように規制する。つまり、導電性部材40の回転範囲を角度C1および角度C2以下になるように、位置決めピン23aの中心位置から回転規制リブ23bまでの距離W2、W3が設定される。導電性部材40の限界角度以下の規制角度の一例として、回転規制リブ23bは、導電性部材40の一方側あるいは他方側への回転角度が45度以下になるように配置することが好ましい。これにより、導電性部材40の回転範囲を適切に規制し、導電性部材40を定着ベルト20に対して精度よく接触させることができるとともに、導電性部材40を定着ベルト20に対して鋭角で接触させることができ、導電性部材40と定着ベルト20との摺動負荷を低減できる。なお、ここで言う回転規制リブ23bによる導電性部材40の回転の規制とは、主に定着装置9の組み立て途中の、導電性部材40をヒータホルダ23に組み付ける際や、ステー24をヒータホルダ23に組み付ける際の回転の規制である。しかし、回転規制リブ23bは、定着装置9の組み立て後にも導電性部材40の回転を規制できる。
【0057】
図12に示すように、特に本実施形態では、回転規制リブ23b同士の間隔が、導電性部材40の幅W1と同じ幅で設けられる。この同じ幅とは、厳密に幅W1と同じ場合の他、幅W1に、幅W1の寸法誤差や挿入孔40eの配置誤差を加えた寸法を含むものである。
【0058】
回転規制リブ23b同士の間に導電性部材40を配置することにより、導電性部材40の両方向への回転を規制できる。特に本実施形態では、導電性部材40の回転方向の位置を固定できる。これにより、導電性部材40を定着ベルト20に対して精度よく接触させることができ、ACバンディングなどの不具合を防止できる。また導電性部材40を定着装置9に組み付ける際の作業性を向上させることができる。
【0059】
また図13に示すように、回転方向の一方側に複数の回転規制リブ23bを設けてもよい。これにより、導電性部材40の回転範囲をより確実に規制できる。本実施形態では特に、導電性部材40の回転方向の位置をより確実に固定できる。回転規制リブ23bの数は任意に設定できる。また回転方向の一方側と他方側とに配置される回転規制リブ23bの数や配置は異なっていてもよいし、一方側あるいは他方側だけに複数配置されていてもよい。
【0060】
本実施形態の構成は、特にポリイミド製の定着ベルト20を有する定着装置9に適用することが好適である。このような定着ベルト20では、形状が変化しやすく、特に導電性部材40を精度良く配置することが重要である。このため、本実施形態の構成により、導電性部材40を定着ベルト20に対して精度よく接触させることができる。さらに本実施形態の構成は、弾性層を有していないポリイミド製の定着ベルト20を有する定着装置9に適用することが好適である。このような定着ベルト20でも、同様に形状が変化しやすく、本実施形態の構成により、導電性部材40を定着ベルト20に対して精度よく接触させることができる。
【0061】
以上の説明では、ステー24とヒータホルダ23によって導電性部材40が挟持される場合を説明したが、導電性部材40がステー24とヒータホルダ23によって挟持されない構成であってもよい。
【0062】
次に、上記の定着装置に設けられたヒータのより詳細な構成について、図14を用いて説明する。図14は、本実施形態に係るヒータの平面図である。
【0063】
図14に示すように、板状の基材30の表面には、複数(4つ)の抵抗発熱体31と、導電体としての給電線33A、33Bと、第1電極部34Aおよび第2電極部34Bとが設けられる。ただし、抵抗発熱体31の数は本実施形態に限らない。以下、給電線33A、33Bを給電線33、第1電極部34Aあるいは第2電極部34Bを電極部34とも称する。
【0064】
なお、図2の紙面に直交する方向であるヒータ22等の長手方向は、本実施形態では、図14に示すように、複数の抵抗発熱体31の配列方向Xでもある。以下、この方向を単に配列方向とも呼ぶ。また、配列方向に交差する方向、特に本実施形態では垂直な方向で、基材30の厚み方向と異なる方向である図14の上下方向Yを複数の抵抗発熱体31の配列方向に交差する方向、あるいは、単に配列交差方向とも呼ぶ。配列交差方向Yは、基材30の抵抗発熱体31を設けた面に沿う方向であり、ヒータ22の短手方向、あるいは、定着装置9に通紙される用紙の搬送方向でもある。
【0065】
複数の抵抗発熱体31によって、配列方向に複数に分割された発熱部35が構成されている。各抵抗発熱体31は、一対の電極部34A、34Bに対して、給電線33A,33Bを介して電気的に並列に接続されている。一対の電極部34A、34Bは基材30の配列方向一方側端部である図14の左端に設けられる。給電線33A,33Bは、抵抗発熱体31よりも抵抗値の小さい導体で構成されている。互いに隣り合う抵抗発熱体31同士の隙間は、抵抗発熱体31間の絶縁性を確保する観点から、0.2mm以上が好ましく、0.4mm以上がさらに好ましい。また、互いに隣り合う抵抗発熱体31同士の隙間は、大きすぎると、その隙間の部分で温度低下が生じやすくなる。このため、配列方向に渡る温度ムラを抑制する観点から、上記隙間は5mm以下が好ましく、1mm以下がさらに好ましい。
【0066】
抵抗発熱体31は、PTC(正の温度抵抗係数)特性を有する材料で構成されており、温度が上昇すると抵抗値が上昇してヒータ出力が低下する特徴がある。
【0067】
抵抗発熱体31がPTC特性を有すること、および、配列方向に分割された発熱部35の構成により、小サイズ用紙を通紙時の定着ベルト20の過昇温を防止できる。つまり、発熱部35の全体幅よりも幅の小さい用紙を通紙した場合、紙幅より外側の領域では用紙によって定着ベルト20の熱が奪われないため、その部分に相当する抵抗発熱体31の温度が上昇する。抵抗発熱体31にかかる電圧は一定なので、紙幅より外側の抵抗発熱体31の温度が上昇すると、その抵抗値が上昇する。これにより、ヒータの出力、つまり発熱量が相対的に低下し、端部温度上昇が抑制される。また、複数の抵抗発熱体31が電気的に並列接続されることで、印刷スピードを維持したまま非通紙部温度上昇を抑制できる。なお、発熱部35を構成する発熱体は、PTC特性を有する抵抗発熱体以外のものであってもよい。また、抵抗発熱体は、ヒータ22の配列交差方向に複数列に配置されていてもよい。
【0068】
このように、抵抗発熱体31を配列方向に分割することで、上記端部温度上昇を抑制し、定着ベルト20の配列方向の温度ムラを抑制できる。定着ベルト20の剛性は、その温度によって変化するため、配列方向に温度ムラの小さい定着ベルト20の方が、前述の導電性部材40との安定した接触性を確保する上で有利である。従って、本実施形態の配列方向に分割した抵抗発熱体31の構成を採用することにより、また後述する第1高熱伝導部材28や第2高熱伝導部材36を配置する構成を採用することにより、導電性部材40を定着ベルト20に対して安定して接触させることができ、好ましい。
【0069】
抵抗発熱体31は、例えば、銀パラジウム(AgPd)やガラス粉末などを調合したペーストをスクリーン印刷等により基材30に塗工し、その後、当該基材30を焼成することによって形成することができる。本実施形態では、抵抗発熱体31の抵抗値を常温で80Ωとしている。抵抗発熱体31の材料は、前述したもの以外に、銀合金(AgPt)や酸化ルテニウム(RuO)の抵抗材料を用いてもよい。給電線33や電極部34の材料は、銀(Ag)もしくは銀パラジウム(AgPd)をスクリーン印刷等で形成することができる。給電線33は、抵抗発熱体31よりも小さい抵抗値の導体で構成されている。
【0070】
基材30の材料としては、耐熱性および絶縁性に優れるアルミナや窒化アルミニウムなどのセラミックや、ガラス、マイカなどの非金属材料が好ましい。本実施形態では、配列交差方向の幅8mm、配列方向の幅270mm、厚さ1.0mmのアルミナ基材を使用している。他に、金属などの導電材料に絶縁性材料を積層したもので、基材30を構成してもよい。基材30の金属材料としては、アルミニウムやステンレスなどが低コストで好ましい。基材30をステンレス板により構成することで、熱応力による割れを抑制できる。また、ヒータ22の均熱性を向上し画像品位を高めるために、基材30を銅、グラファイト、グラフェンなどの高熱伝導率の材料で構成してもよい。
【0071】
絶縁層32は、例えば厚さ75μmの耐熱性ガラスで構成される。絶縁層32によって抵抗発熱体31と給電線33とを被覆し、これらを絶縁・保護すると共に、定着ベルト20との摺動性を維持する。
【0072】
図15は、本実施形態に係るヒータへの電力供給回路を示す図である。
【0073】
図15に示すように、本実施形態では、各抵抗発熱体31に電力を供給するための電力供給回路が、交流電源200とヒータ22の電極部34A,34Bとを電気的に接続することで構成されている。また、電力供給回路には、供給電力量を制御するトライアック210が設けられている。各抵抗発熱体31への供給電力量は、サーミスタ25の検知温度に基づいて制御部220がトライアック210を介して制御する。制御部220は、CPU、ROM、RAM、I/Oインターフェース等を包含するマイクロコンピュータで構成される。
【0074】
本実施形態では、サーミスタ25が、最小通紙幅内であるヒータ22の配列方向中央領域と、ヒータ22の配列方向一端部側とに、それぞれ配置されている。さらに、ヒータ22の配列方向一端部側には、抵抗発熱体31の温度が所定温度以上となった場合に、抵抗発熱体31への電力供給を遮断する電力遮断手段としてのサーモスタット27が配置されている。サーミスタ25およびサーモスタット27は、第1高熱伝導部材28に接触してその温度を検知する。
【0075】
本実施形態では、第1電極部34Aおよび第2電極部34Bが配列方向の同じ側に設けられるが、それぞれ異なる側に設けられていてもよい。また抵抗発熱体31は、本実施形態の形状に限らない。例えば図16に示すように、抵抗発熱体31は長方形状であってもよいし、図17に示すように、抵抗発熱体31が線状部からなり、この線状部を折り返して略平行四辺形状をなす構成であってもよい。また図16に示すように、ブロック状の抵抗発熱体31の部分から給電線33の側に伸びる部分(配列交差方向に伸びる部分)は、抵抗発熱体31の一部であってもよいし、給電線33と同じ材料により構成されていてもよい。
【0076】
図18は定着ベルト20の配列方向の温度分布を示す図である。(a)図がヒータ22の配置を示す図である。(b)図は縦軸が定着ベルト20の温度Tを示し、横軸が定着ベルト20の配列方向の各位置を表している。
【0077】
図18(a)および図18(b)に示すように、ヒータ22に設けられる複数の抵抗発熱体31は配列方向に分割されており、抵抗発熱体31同士の分割領域Bが形成される。別の言い方をすると、ヒータ22に設けられる複数の抵抗発熱体31は間隔Bを設けて配置される。以下、分割領域としての範囲Bを間隔Bと呼ぶ。間隔Bでは、抵抗発熱体31が占める面積がその他の部分よりも小さくなり、発熱量が小さくなる。これにより、間隔Bにおける定着ベルト20の温度がその他の部分よりも小さくなり、定着ベルト20の配列方向の温度ムラの原因となる。また、分割領域である間隔Bの周辺の領域を含む拡大分割領域C(以下、単に領域Cと呼ぶ)においても、ヒータ22や定着ベルト20の温度が小さくなる。なお、ヒータ22の温度も、同様に間隔Bでの温度が小さくなる。ここで、図18(a)の拡大図に示すように、間隔Bは、ヒータ22の主たる発熱部分である抵抗発熱体31が配列方向に分割された部分全体を含む配列方向領域を意味する。また、間隔Bに加えて、抵抗発熱体31の接続部311に対応する範囲を含む領域を領域Cとする。この接続部311は、抵抗発熱体31のうち、配列交差方向に延在し、各給電線33A、33Bに接続される部分を指す。
【0078】
図19に示すように、図16に示した長方形状の抵抗発熱体31を有するヒータ22においても、間隔Bの温度がその他の部分よりも小さくなる。また図20に示す形状の抵抗発熱体31を有するヒータ22においても、間隔Bの温度がその他の部分よりも小さくなる。さらに、図21に示すように、図17に示す形状の抵抗発熱体31を有するヒータ22においても、間隔Bの温度がその他の部分よりも小さくなる。ただし、図18図20図21のように、隣り合う抵抗発熱体31同士を配列方向にオーバーラップさせることで、間隔Bのその他の部分に対する温度落ち込みを抑制できる。
【0079】
本実施形態では、上記の間隔における温度落ち込みを抑制して、定着ベルト20の配列方向の温度ムラを抑制するために、前述した第1高熱伝導部材28を設けている。以下、第1高熱伝導部材28についてより詳細に説明する。
【0080】
図2に示すように、第1高熱伝導部材28は、図2の左右方向において、ヒータ22とステー24との間に配置され、特にヒータ22とヒータホルダ23との間に挟まれる。つまり第1高熱伝導部材28は、一方の面を基材30の裏面に当接させ、他方の面をヒータホルダ23に当接させる。
【0081】
ステー24は、ヒータ22などの厚み方向に延在する二つの垂直部24aの当接面を直接ヒータホルダ23に当接させ、あるいは、導電性部材40を介してヒータホルダ23に当接させ、ヒータホルダ23、第1高熱伝導部材28、ヒータ22を支持する。配列交差方向(図2の上下方向)において、当接面は抵抗発熱体31が設けられる範囲よりも外側に設けられる。これにより、ヒータ22からステー24への伝熱を抑制でき、ヒータ22が定着ベルト20を効率よく加熱できる。
【0082】
図22に示すように、第1高熱伝導部材28は、その厚みが0.3mm、配列方向の長さが222mm、配列交差方向の幅が10mmの板材により構成される。本実施形態では第1高熱伝導部材28は単一の板材により構成されるが、複数の部材からなってもよい。なお、図22では図2のガイド部26やガイドリブ260の記載を省略している。
【0083】
第1高熱伝導部材28は、ヒータホルダ23の凹部23eに嵌め込まれ、その上からヒータ22が取り付けられることで、ヒータホルダ23とヒータ22とに挟み込まれて保持される。本実施形態では、第1高熱伝導部材28の配列方向の幅がヒータ22の配列方向の幅と略同じに設けられる。第1高熱伝導部材28およびヒータ22は、凹部23eを形成する配列方向の両側壁(配列方向規制部)23e1により、配列方向の移動を規制される。このように、第1高熱伝導部材28の定着装置9内での配列方向の位置ズレを規制することで、配列方向の狙いの範囲に対して熱伝導効率を向上させることができる。また、第1高熱伝導部材28およびヒータ22は、凹部23eを形成する配列交差方向の両側壁(配列交差方向規制部)23e2により、配列交差方向の移動を規制される。
【0084】
第1高熱伝導部材28を設ける配列方向の範囲は上記に限らない。例えば図23に示すように、配列方向の発熱部35に対応する範囲のみに第1高熱伝導部材28を設けてもよい(図23のハッチング部参照)。また、図24に示すように、配列方向の間隔Bに対応する位置で、その全域のみに第1高熱伝導部材28を設けることもできる。なお、図24では便宜上、抵抗発熱体31と第1高熱伝導部材28を図24の上下方向にずらして示しているが、両者は配列交差方向のほぼ同じ位置に配置される。ただし、これに限るものではなく、第1高熱伝導部材28が抵抗発熱体31の配列交差方向の一部に設けられていたり、後述の図25のように配列交差方向の全体を覆うようにして設けられていてもよい。
【0085】
さらに、図25に示すように、第1高熱伝導部材28を、配列方向の間隔Bに対応する位置に加えて、その間隔Bを間にはさむ両側の抵抗発熱体31にまたがって設けることもできる。この、両側の抵抗発熱体31にまたがって設ける、とは、第1高熱伝導部材28が両側の抵抗発熱体31と配列方向の位置が少なくとも一部重なることを言う。なお、ヒータ22の全ての間隔Bに対応して第1高熱伝導部材28を設けてもよいし、例えば図25のように間隔Bの1箇所に対応する位置にだけ第1高熱伝導部材28を設けるように、一部の間隔Bに対応する位置にだけ第1高熱伝導部材28を設けてもよい。ここで、配列方向の間隔Bに対応する位置に設ける、とは、間隔Bと配列方向に少なくともその一部が重なることを言う。
【0086】
加圧ローラ21の加圧力により、第1高熱伝導部材28はヒータ22とヒータホルダ23との間に挟み込まれてこれらの部材に密着する。第1高熱伝導部材28がヒータ22に接触することにより、ヒータ22の配列方向の熱伝導効率が向上する。そして、第1高熱伝導部材28が、配列方向において、ヒータ22の間隔Bに対応する位置に設けられることで、間隔Bにおける熱伝導効率を向上させることができる。これにより、配列方向の間隔Bの領域へ伝達される熱量を増やし、配列方向の間隔Bの領域における温度を上昇させることができる。従って、ヒータ22の配列方向の温度ムラを抑制できる。これにより、定着ベルト20の配列方向の温度ムラを抑制できる。従って、用紙に定着される画像の定着ムラや光沢ムラを抑制できる。あるいは、間隔Bの領域において十分な定着性能を確保するために、ヒータ22による余分な加熱をする必要が無くなり、定着装置9の省エネ化を実現できる。また、配列方向の発熱部35全域にわたって第1高熱伝導部材28を設けることにより、ヒータ22による主な加熱領域、つまり、通紙される用紙の画像形成領域の全域において、ヒータ22の伝熱効率を向上させ、ヒータ22ひいては定着ベルト20の配列方向の温度ムラを抑制できる。
【0087】
特に本実施形態では、上記の第1高熱伝導部材28の構成と前述したPTC特性を有する抵抗発熱体31との組み合わせにより、小サイズ用紙通紙時の非通紙領域による過昇温を効果的に抑制できる。つまり、PTC特性により非通紙領域における抵抗発熱体31の発熱量を抑制すると共に、温度が上昇した非通紙部の熱量を通紙部の側へ効率的に伝達することができ、非通紙領域による過昇温を効果的に抑制できる。
【0088】
また間隔Bの周辺においても、間隔Bの発熱量が小さいことによりその温度が小さくなるため、第1高熱伝導部材28を配置することが好ましい。例えば本実施形態では、領域C(図18(a)参照)に対応する位置に第1高熱伝導部材28を設けることにより、間隔Bおよびその周辺における配列方向の熱伝達効率を特に向上させ、ヒータ22の配列方向の温度ムラをより抑制できる。特に本実施形態では、配列方向において、発熱部35の全域にわたって第1高熱伝導部材28が設けられる。これにより、ヒータ22(定着ベルト20)の配列方向の温度ムラをより抑制できる。
【0089】
次に、定着装置の異なる実施形態について説明する。
【0090】
図26に示すように、本実施形態の定着装置9は、ヒータホルダ23と第1高熱伝導部材28との間に第2高熱伝導部材36を有する。第2高熱伝導部材36は、ヒータホルダ23やステー24、第1高熱伝導部材28等の部材の積層方向である図26の左右方向において、第1高熱伝導部材28と異なる位置に設けられる。より詳しくは、第2高熱伝導部材36は第1高熱伝導部材28に重ね合わせされて設けられる。なお、図26図2とは異なり、配列方向のサーミスタ25が配置されていない断面を示している。つまり、図26では第2高熱伝導部材36が配置された断面を示している。
【0091】
第2高熱伝導部材36は基材30よりも熱伝導率の高い部材、例えばグラフェンやグラファイトにより構成される。本実施形態では、第2高熱伝導部材36は厚み1mmのグラファイトシートにより形成される。ただし、第2高熱伝導部材36をアルミニウムや銅、銀などの板材により形成してもよい。
【0092】
図27に示すように、配列方向に部分的に設けられた各第2高熱伝導部材36が、配列方向に複数配置される。ヒータホルダ23の凹部23eの第2高熱伝導部材36が設けられる部分は、その他の部分よりもその深さが一段深く設けられている。第2高熱伝導部材36は、その配列方向の両側で、ヒータホルダ23との間に隙間が設けられる。これにより、第2高熱伝導部材36の配列方向両端からのヒータホルダ23への伝熱を抑制し、ヒータ22が定着ベルト20を効率的に加熱できる。なお、図27では図2のガイド部26の記載を省略している。
【0093】
図28に示すように、第2高熱伝導部材36(ハッチング部参照)は、配列方向において、間隔Bに対応する位置で、隣り合う抵抗発熱体31の少なくとも一部に重なる位置に設けられ、特に本実施形態では、間隔B全域にわたって設けられる。ただし図28および後述の図32では、第1高熱伝導部材28が、配列方向の発熱部35に対応する領域のみに設けられる場合を示しているが、前述のようにこれに限らない。
【0094】
本実施形態のように、第1高熱伝導部材28に加えて、配列方向の間隔Bに対応する位置で、隣り合う抵抗発熱体31の少なくとも一部に重なる位置に第2高熱伝導部材36を設けることで、間隔Bにおける配列方向の熱伝達効率を特に向上させ、ヒータ22の配列方向の温度ムラをより抑制できる。また、最も好ましくは、図29に示すように、間隔Bに対応する位置でその全域にのみ第1高熱伝導部材28および第2高熱伝導部材36を設ける。これにより、間隔Bに対応する位置で、その他の領域と比較して特に熱伝達効率を向上させることができる。なお、図29では便宜上、抵抗発熱体31と第1高熱伝導部材28そして第2高熱伝導部材36を、図29の上下方向にそれぞれずらして示しているが、これらは配列交差方向のほぼ同じ位置に配置される。ただし、これに限るものではなく、第1高熱伝導部材28や第2高熱伝導部材36が、抵抗発熱体31の配列交差方向の一部に設けられていてもよい。
【0095】
上記と異なる本発明の一実施形態では、第1高熱伝導部材28および第2高熱伝導部材36が上記グラフェンシートにより構成される。これにより、グラフェンの面に沿う所定の方向、つまり、厚み方向ではなく配列方向に熱伝導率の高い第1高熱伝導部材28および第2高熱伝導部材36を形成できる。従って、ヒータ22や定着ベルト20の配列方向の温度ムラを効果的に抑制できる。
【0096】
グラフェンは薄片状の粉体である。グラフェンは、図30に示すように、炭素原子の平面状の六角形格子構造からなる。グラフェンシートとは、シート状のグラフェンであり、通常、単層である。炭素の単一層に不純物を含んでいてもよい。またグラフェンはフラーレン構造を有したものであってもよい。フラーレン構造は、一般的に、同数の炭素原子が5員環および6員環でかご状に縮環した多環体を形成してなる化合物として認識されており、例えば、C60、C70およびC80フラーレン又は3配位の炭素原子を有する他の閉じたかご状構造である。
【0097】
グラフェンシートは、人工物であり、例えば化学気相蒸着(CVD)法で作製されうる。
【0098】
グラフェンシートには市販品を用いることができる。グラフェンシートの大きさ、厚み、あるいは後述するグラファイトシートの層数などは、例えば透過型電子顕微鏡(TEM)によって測定される。
【0099】
また、グラフェンを多層化したグラファイトは大きな熱伝導異方性を持つ。グラファイトは、図31に示すように、炭素原子の縮合六員環層面が平面状に広がった層を有し、この層が何重にも重なった結晶構造を有する。この結晶構造における炭素原子間は、層内での隣接する炭素原子同士は共有結合をなし、層間の炭素原子同士はファン・デル・ワールス結合をなす。そして、共有結合はファン・デル・ワールス結合に比べてその結合力が大きく、層内での結合と層間での結合とでは大きな異方性を持つ。つまり、第1高熱伝導部材28あるいは第2高熱伝導部材36をグラファイトにより構成することで、第1高熱伝導部材28あるいは第2高熱伝導部材36における配列方向の伝熱効率が厚み方向(つまり、部材の積層方向)に比べて大きくなり、ヒータホルダ23への伝熱を抑制できる。従って、ヒータ22の配列方向の温度ムラを効率よく抑制するとともに、ヒータホルダ23側へ流出する熱を最小限に抑えることができる。また第1高熱伝導部材28あるいは第2高熱伝導部材36をグラファイトにより構成することで、700度程度まで酸化しない優れた耐熱性を第1高熱伝導部材28あるいは第2高熱伝導部材36に持たせることができる。
【0100】
グラファイトシートの物性や寸法は、第1高熱伝導部材28あるいは第2高熱伝導部材36に求められる機能に応じて適宜変更できる。例えば、高純度のグラファイトあるいは単結晶グラファイトを用いる、あるいは、グラファイトシートの厚みを大きくすることで、その熱伝導の異方性を高めることができる。また、定着装置9を高速化するために、厚みの小さいグラファイトシートを用いて定着装置9の熱容量を小さくしてもよい。また、定着ニップNやヒータ22の幅が大きい場合には、それに合わせて第1高熱伝導部材28あるいは第2高熱伝導部材36の配列方向の幅を大きくしてもよい。
【0101】
機械的強度を高める観点から、グラファイトシートの層数は11以上であることが好ましい。またグラファイトシートは部分的に単層と多層の部分とを含んでいてもよい。
【0102】
第2高熱伝導部材36は、配列方向において、間隔B(さらに領域C)に対応する位置で、隣り合う抵抗発熱体31の少なくとも一部に重なる位置に設けられればよく、図28の配置に限らない。例えば、図32に示すように、第2高熱伝導部材36Aは、配列交差方向において、基材30よりも配列交差方向の両側へ飛び出して設けられる。また第2高熱伝導部材36Bは、配列交差方向において、抵抗発熱体31が設けられる範囲に設けられる。第2高熱伝導部材36Cは、間隔Bの一部に設けられる。
【0103】
また、図33に示すように、本実施形態では、第1高熱伝導部材28とヒータホルダ23との間に、厚み方向である図33の左右方向の隙間を設ける。つまり、ヒータホルダ23のヒータ22、第1高熱伝導部材28、そして第2高熱伝導部材36を配置するための凹部23e(図27参照)の一部領域に、凹部23eの深さをその他の第1高熱伝導部材28を受ける部分よりも深くする断熱層としての逃げ部23cを設ける。この一部領域は、配列方向の第2高熱伝導部材36が設けられた部分以外の部分の一部または全部で、配列交差方向の一部領域である。これにより、ヒータホルダ23と第1高熱伝導部材28との接触面積を最小限にとどめることができる。従って、第1高熱伝導部材28からヒータホルダ23への伝熱を抑制し、ヒータ22が定着ベルト20を効率的に加熱できる。なお、配列方向の第2高熱伝導部材36が設けられる断面では、前述の実施形態の図26のように、第2高熱伝導部材36がヒータホルダ23に当接する。
【0104】
また、特に本実施形態では、配列交差方向である図33の上下方向において、抵抗発熱体31が設けられた範囲全域にわたって逃げ部23cが設けられる。これにより、特に第1高熱伝導部材28からヒータホルダ23への伝熱を抑制し、ヒータ22が定着ベルト20を効率的に加熱できる。なお、断熱層として、逃げ部23cのように空間を設ける構成の他、ヒータホルダ23よりも熱伝導率の低い断熱部材を設ける構成であってもよい。
【0105】
さらに、以上の説明では、第2高熱伝導部材36を第1高熱伝導部材28とは異なる部材として設けたが、これに限らない。例えば、第1高熱伝導部材28の間隔Bに対応する部分を、その他の部分よりも厚みを設けて第2高熱伝導部材36に相当する部分としてもよい。
【0106】
以上の図26あるいは図33の実施形態においても、前述の回転規制リブ23bのような回転規制部を設けることにより、導電性部材40の回転による位置ずれを抑制できる。
【0107】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加え得ることは勿論である。
【0108】
また、本発明は、前述の定着装置のほか、図34図36に示すような定着装置にも適用可能である。以下、図34図36に示す各定着装置の構成について簡単に説明する。
【0109】
まず、図34に示す定着装置9は、定着ベルト20に対して加圧ローラ21側とは反対側に、押圧ローラ84が配置されている。押圧ローラ84は、回転部材としての定着ベルト20に対向して回転する対向回転部材である。この押圧ローラ84とヒータ22とが定着ベルト20を挟んで加熱するように構成されている。一方、加圧ローラ21側では、定着ベルト20の内周にニップ形成部材85が配置されている。ニップ形成部材85は、ステー24によって支持されている。ニップ形成部材85と加圧ローラ21とによって、定着ベルト20を挟んで定着ニップNを形成している。
【0110】
ニップ形成部材85の上流側および下流側にガイドリブ260が設けられる。そして、導電性部材40が、上流側のガイドリブ260とステー24との間に設けられる。より具体的には、導電性部材40の対向部40cは、本実施形態の第一対向部材である上流側のガイドリブ260の第一対向面260d、および、第二対向部材であるステー24の第二対向面24fに対向して設けられる。また、対向部40cは第一対向面260dおよび第二対向面24fに沿って設けられる。導電性部材40は、その他端40bが、回転部材としての定着ベルト20の内面に接触する。
【0111】
次に、図35に示す定着装置9では、前述の押圧ローラ84が省略されており、定着ベルト20とヒータ22との周方向接触長さを確保するために、ヒータ22が定着ベルト20の曲率に合わせて円弧状に形成されている。その他は、図34に示す定着装置9と同じ構成である。
【0112】
最後に、図36に示す定着装置9について説明する。定着装置9は、加熱アセンブリ92、定着部材である定着ローラ93、対向加圧部材である加圧アセンブリ94からなる。加熱アセンブリ92は、先の実施形態で説明したヒータ22、第1高熱伝導部材28、ヒータホルダ23、ステー24、加熱ベルト120等を有する。定着ローラ93は、ベルト部材としての加圧ベルト97に対向して回転する対向部材である。また、定着ローラ93は、中実の鉄製芯金93aと、この芯金93aの表面に形成された弾性層93bと、弾性層93bの外側に形成された離型層93cとで構成されている。また、定着ローラ93に対して加熱アセンブリ92側とは反対側に、加圧アセンブリ94が設けられている。加圧アセンブリ94は、ニップ形成部材95と、ニップ形成部材95を支持する支持部材としてのステー96とを有する。加圧アセンブリ94は、これらニップ形成部材95とステー96を内包するように、加圧ベルト97を回転可能に有する。そして、加圧ベルト97と定着ローラ93との間の定着ニップN2に用紙Pを通紙して加熱および加圧して画像を定着する。図36の矢印Jは加圧ベルトの回転方向である。
【0113】
ニップ形成部材95の上流側および下流側には、ガイドリブ261が設けられる。ガイドリブ261は配列方向に複数設けられ、略扇型に形成される。ガイドリブ261は、加圧ベルト97の内周面に対向するように、ベルト周方向に延在する円弧状又は凸曲面状のベルト対向面261aを有する。
【0114】
導電性部材40が、ステー96と下流側のガイドリブ261との間に設けられる。導電性部材40は、その一端40aの側が位置決めピン23aによって保持され、その他端40bが加圧ベルト97の内面に接触する。なお、定着ローラ93の表層および加熱ベルト120が導電性材料により形成される場合には、図2の実施形態と同様に導電性部材40を配置してもよい。この場合、導電性部材40は、その他端が、ベルト部材としての加熱ベルト120の内面に接触する。
【0115】
以上の図34図36の定着装置においても、前述の回転規制リブ23bのような回転規制部を設けることにより、導電性部材40の回転による位置ずれを抑制できる。
【0116】
本発明に係る画像形成装置は、図1に示すカラー画像形成装置に限らず、モノクロ画像形成装置や、複写機、プリンタ、ファクシミリ、あるいはこれらの複合機等であってもよい。
【0117】
例えば図37に示すように、本実施形態の画像形成装置100は、感光体ドラムなどからなる画像形成手段50と、一対のタイミングローラ15等からなる用紙搬送部と、給紙装置7と、定着装置9と、排紙装置10と、読取部51と、を備える。給紙装置7は複数の給紙トレイを備え、それぞれの給紙トレイが異なるサイズの用紙を収容する。
【0118】
読取部51は原稿Qの画像を読み取る。読取部51は、読み取った画像から画像データを生成する。給紙装置7は、複数の用紙Pを収容し、搬送路へ用紙Pを送り出す。タイミングローラ15は搬送路上の用紙Pを画像形成手段50へ搬送する。
【0119】
画像形成手段50は、用紙Pにトナー像を形成する。具体的には、画像形成手段50は、感光体ドラムと、帯電ローラと、露光装置と、現像装置と、補給装置と、転写ローラと、クリーニング装置と、除電装置とを含む。トナー像は、例えば、原稿Qの画像を示す。定着装置9は、トナー像を加熱および加圧して、用紙Pにトナー像を定着させる。トナー像の定着された用紙Pは、搬送ローラなどにより排紙装置10へ搬送される。排紙装置10は、画像形成装置100の外部に用紙Pを排出する。
【0120】
次に、本実施形態の定着装置9について説明する。前述の実施形態の定着装置と共通する構成については、適宜その記載を省略する。
【0121】
図38に示すように、定着装置9は、定着ベルト20と、加圧ローラ21と、ヒータ22と、ヒータホルダ23と、ステー24と、サーミスタと、第1高熱伝導部材28、導電性部材40等を備える。
【0122】
定着ベルト20と加圧ローラ21との間に定着ニップNが形成される。定着ニップNのニップ幅は10mm、定着装置9の線速は240mm/sである。
【0123】
定着ベルト20はポリイミドの基体と離型層とを備え、弾性層を有していない。離型層は、例えばフッ素樹脂からなる耐熱性のフィルム材からなる。定着ベルト20の外径は約24mmである。
【0124】
加圧ローラ21は、芯金21aと弾性層21bと離型層21cとを含む。加圧ローラ21の外径は24~30mmで形成され、弾性層21bの厚みは3~4mmで形成される。
【0125】
ヒータ22は、基材と、断熱層と、抵抗発熱体などを含む導体層と、絶縁層とを含み、全体の厚みが1mmで形成される。また、ヒータ22の配列交差方向の幅Yは13mmである。
【0126】
導電性部材40が、ステー24と下流側のガイドリブ260との間に設けられる。導電性部材40は、前述の実施形態と同様、その一端40aの側が位置決めピン23aによって保持され、その他端40bが加圧ベルト97の内面に接触する。
【0127】
図39に示すように、ヒータ22の導体層は、複数の抵抗発熱体31と、給電線33と、電極部34A~34Cとを備える。本実施形態においても、図39の拡大図に示すように、複数の抵抗発熱体31が配列方向に分割された分割領域としての間隔Bが形成される(ただし、図39では拡大図の範囲のみで間隔Bを図示しているが、実際は全ての抵抗発熱体31同士の間に間隔Bが設けられる)。抵抗発熱体31により、三つの発熱部35A~35Cが構成される。電極部34A,34Bに通電することにより、発熱部35A,35Cが発熱する。電極部34A,34Cに通電することにより、発熱部35Bが発熱する。このように、長手方向の中央側の発熱部35Bと端部側の発熱部35A、35Cとをそれぞれ独立して発熱させることができる。例えば、小サイズ用紙に定着動作を行う場合には発熱部35Bを発熱させ、大サイズ用紙に定着動作を行う場合には全ての発熱部に発熱させることができる。
【0128】
図40に示すように、ヒータホルダ23は、その凹部23dにヒータ22および第1高熱伝導部材28を保持する。凹部23dは、ヒータホルダ23のヒータ22側に設けられる。凹部23dは、ヒータ22のその他の面よりもステー24側に凹となった基材30に略平行な面23d1と、ヒータホルダ23の配列方向両側(一方側でもよい)でヒータホルダ23の内側に設けられた壁部23d2と、配列交差方向両側でヒータホルダ23の内側に設けられた壁部23d3とにより構成される。ヒータホルダ23はガイド部26を有する。ヒータホルダ23はLCP(液晶ポリマー)により形成される。
【0129】
図41に示すように、コネクタ60は、樹脂製(例えばLCP)のハウジングと、ハウジング内に設けられた複数のコンタクト端子等を備える。
【0130】
コネクタ60は、ヒータ22とヒータホルダ23とを表側と裏側から一緒に挟むようにして取り付けられる。この状態で、各コンタクト端子が、ヒータ22の各電極部に接触(圧接)することで、コネクタ60を介して発熱部35と画像形成装置に設けられた電源とが電気的に接続される。これにより、電源から発熱部35へ電力が供給可能な状態となる。なお、各電極部34は、コネクタ60との接続を確保するため、少なくとも一部が絶縁層に被覆されておらず露出した状態となっている。
【0131】
フランジ53は、定着ベルト20の配列方向の両側に設けられ、定着ベルト20の両端をベルトの内側から保持する。フランジ53は定着装置9の筐体に固定される。フランジ53はステー24の両端に挿入される(図41のフランジ53からの矢印方向参照)。
【0132】
コネクタ60のヒータ22およびヒータホルダ23に対する取り付け方向はヒータの配列交差方向である(図41のコネクタ60からの矢印方向参照)。コネクタ60のヒータホルダ23に対する取り付け時に、コネクタ60とヒータホルダ23との一方に設けた凸部が、他方に設けた凹部に係合し、凸部が凹部内を相対移動する構成としてもよい。またコネクタ60は、配列方向のいずれか一方側であって、加圧ローラ21の駆動モータが設けられる側とは反対側で、ヒータ22およびヒータホルダ23に取り付けられる。
【0133】
図42に示すように、定着ベルト20の内周面に対向して、定着ベルト20の配列方向中央側と端部側にそれぞれサーミスタ25が設けられる。サーミスタ25により検知された定着ベルト20の配列方向中央側と端部側のそれぞれの温度に基づいて、ヒータ22を制御する。
【0134】
定着ベルト20の内周面に対向して、定着ベルト20の配列方向中央側と端部側にそれぞれサーモスタット27が設けられる。サーモスタット27により検知された定着ベルト20の温度が定められた閾値を超えた場合には、ヒータ22への通電を停止する。
【0135】
定着ベルト20の配列方向両端には、定着ベルト20の各端部を保持するフランジ53が設けられる。フランジ53はLCP(液晶ポリマー)により形成される。
【0136】
図43に示すように、フランジ53にはスライド溝53aが設けられる。スライド溝53aは、定着ベルト20の加圧ローラ21に対する接離方向に延在する。スライド溝53aには定着装置9の筐体の係合部が係合する。この係合部がスライド溝53a内を相対移動することにより、定着ベルト20は加圧ローラ21に対する接離方向へ移動できる。
【0137】
以上の定着装置9においても、前述の回転規制リブ23bのような回転規制部を設けることにより、導電性部材40の回転による位置ずれを抑制できる。
【0138】
記録媒体としては、用紙P(普通紙)の他、厚紙、はがき、封筒、薄紙、塗工紙(コート紙やアート紙等)、トレーシングペーパ、OHPシート、プラスチックフィルム、プリプレグ、銅箔等が含まれる。
【0139】
本発明の態様は、例えば以下のとおりである。
<1>
ベルト部材と、
面状の加熱体と、
前記ベルト部材の内面に接触する導電性部材と、
前記導電性部材の一端側を保持する保持部と、を備えた定着装置であって、
前記導電性部材の一端側を中心とした回転を、前記導電性部材の前記ベルト部材に接触する部分以外の部分で規制する回転規制部を有することを特徴とする定着装置である。
<2>
前記回転規制部は、前記導電性部材が前記ベルト部材に接触可能な範囲で、前記導電性部材の回転を規制する<1>記載の定着装置である。
<3>
前記回転規制部は、前記導電性部材の回転方向の両側にそれぞれ設けられる<1>または<2>記載の定着装置である。
<4>
前記導電性部材の回転方向の両側に設けられた回転規制部同士の間隔が、前記導電性部材の幅と同じに設けられる<3>記載の定着装置である。
<5>
前記回転規制部は、前記導電性部材の回転方向の一方側あるいは他方側の少なくとも一方に複数設けられる<1>から<4>いずれか記載の定着装置である。
<6>
前記加熱体は、その長手方向に、それぞれ独立して発熱可能な複数の発熱部を有する<1>から<5>いずれか記載の定着装置である。
<7>
前記ベルト部材は、ポリイミドにより形成される<1>から<6>いずれか記載の定着装置である。
<8>
前記ベルト部材は弾性層を有していない<7>記載の定着装置である。
<9>
前記導電性部材は、その一端側に挿入孔を有し、
前記保持部は、前記挿入孔に挿入されて前記導電性部材を保持し、
前記挿入孔が、前記導電性部材の幅方向の中央位置から外れた位置に設けられる<1>から<8>いずれか記載の定着装置である。
<10>
<1>から<9>いずれか記載の定着装置を備えた画像形成装置である。
【符号の説明】
【0140】
1 画像形成装置
9 定着装置
20 定着ベルト(ベルト部材あるいは定着部材)
21 加圧ローラ(対向回転部材あるいは加圧部材)
22 ヒータ(加熱体)
23 ヒータホルダ(保持部材)
23a 位置決めピン(保持部)
23b 回転規制リブ(回転規制部)
24 ステー(支持部材)
31 抵抗発熱体
40 導電性部材
40e 挿入孔
N 定着ニップ(ニップ部)
P 用紙(記録媒体)
X 長手方向
【先行技術文献】
【特許文献】
【0141】
【特許文献1】特開2021-173807号公報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37
図38
図39
図40
図41
図42
図43