IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱レイヨン株式会社の特許一覧

特開2024-103167プラスチックから芳香族化合物を製造するための触媒及び芳香族化合物の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024103167
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】プラスチックから芳香族化合物を製造するための触媒及び芳香族化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 29/48 20060101AFI20240725BHJP
   C08J 11/12 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
B01J29/48 M ZAB
C08J11/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023007354
(22)【出願日】2023-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】福本 和貴
(72)【発明者】
【氏名】近藤 晃
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕太郎
【テーマコード(参考)】
4F401
4G169
【Fターム(参考)】
4F401AA08
4F401AA09
4F401AA10
4F401AA11
4F401BA06
4F401CA67
4F401CA70
4F401CA90
4F401EA77
4F401FA01Z
4G169AA02
4G169AA03
4G169BA07A
4G169BA07B
4G169BC17A
4G169BC17B
4G169BC24A
4G169BC25A
4G169BC25B
4G169BC35A
4G169BC35B
4G169CB35
4G169CB66
4G169CC40
4G169DA06
4G169EA01Y
4G169EA02Y
4G169ED08
4G169FB14
4G169FB30
4G169ZA01A
4G169ZA03A
4G169ZA06A
4G169ZA11A
4G169ZA11B
4G169ZD06
4G169ZF05A
4G169ZF05B
(57)【要約】
【課題】公知触媒において、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族化合物の収率が低
いこと、使用する金属が高価であること、触媒へのコーキングが多いこと、オレフィンパ
ラフィン比が低いために芳香族化合物以外の有用成分であるオレフィンが少ないことなど
が課題であった。本願発明は、芳香族化合物の収率がよく、経済性に優れること、コーキ
ングなどによる重炭素分の蓄積が抑制され、オレフィンパラフィン比が高い触媒を提供す
るものである。
【解決手段】プラスチックから芳香族化合物を得る反応に用いる、第15族元素を含むゼ
オライトである触媒を用いて解決する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックから芳香族化合物を得る反応に用い、第15族元素を含むゼオライトであ
る触媒。
【請求項2】
前記第15族元素がビスマスである、請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
更に、前記触媒にガリウム及び亜鉛から選択される少なくとも1つを含む、請求項1又
は2に記載の触媒。
【請求項4】
前記ゼオライトがFAU型、MOR型又はMFI型である、請求項1又は2に記載の触
媒。
【請求項5】
前記ゼオライトがFAU型、MOR型又はMFI型である、請求項3に記載の触媒。
【請求項6】
前記ゼオライトがMFI型である、請求項1又は2に記載の触媒。
【請求項7】
前記プラスチックがαオレフィンの付加重合体である、請求項1又は2に記載の触媒。
【請求項8】
前記付加重合体がポリエチレン、ポリプロピレン及びポリスチレンから選択される少な
くとも1種以上を含むものである、請求項7に記載の触媒。
【請求項9】
前記付加重合体がポリエチレンを含むものである、請求項7に記載の触媒。
【請求項10】
プラスチックから芳香族化合物を製造する方法であって、プラスチックから芳香族化合
物を得る反応が、請求項1又は2に記載の触媒を用い、反応温度250℃以上から100
0℃以下で行われるものである、芳香族化合物の製造方法。
【請求項11】
前記プラスチックから芳香族化合物を得る反応が、不活性ガス雰囲気下で行われるもの
である、請求項10に記載の芳香族化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックから芳香族化合物を製造するための触媒と芳香族化合物の製造
方法に関するものである。具体的には、第15族元素を含有することを特徴とする、プラ
スチックから芳香族化合物を製造するゼオライトの触媒である。
【背景技術】
【0002】
プラスチックは、包装、容器、コンテナ、電気機器、家庭用品、家具、建材などあらゆ
る分野で使用され、豊かな生活に貢献してきた。一方、プラスチックの廃棄量は、世界で
年々増加しており、一部のマテリアルリサイクルが進んでいるプラスチックを除き、ポリ
エチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニルなどを含むプラスチックの廃
棄物は、焼却や埋め立て処分されているのが現状である。そのためプラスチックを化学的
に分解し原料に戻して再利用できるケミカルリサイクルが注目されており、特に触媒を用
いた分解方法は、単純な熱分解では得られない有用な化学原料に変換できる可能性がある
ことから、これまで盛んに研究開発が行われてきた。たとえば、MFI型ゼオライト(ア
ルミノシリケート)であるZSM5を用いて窒素ガス流通下、440℃あるいは500℃
でLDPEを分解して、芳香族化合物を得ることができることを報告している(非特許文
献1)。またガリウム担持ZSM5やガロシリケートを用いて、窒素ガス流通下、525
℃でLDPEを分解して、芳香族化合物を得ることができることを報告している(非特許
文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】1 Applied Catalysis B:Environmental、104、211-221(2011)
【非特許文献2】高分子論文集、Vol.70、No12、738-743(2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者らが検討したところ、上記の公知触媒を用いた場合、ベンゼン
、トルエン、キシレン等の芳香族化合物の収率が低いこと、使用する金属が高価であるこ
と、触媒へのコーキングが多いこと、オレフィンパラフィン比が低いために芳香族化合物
以外の有用成分であるオレフィンが少ないことなど、満足のいくものではなかった。
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その目的は芳香族化合物の収率がよい
こと、比較的安価な金属で経済性に優れること、コーキングなどによる重炭素分の蓄積の
少ないこと、オレフィンパラフィン比が高いことを特徴とする触媒を設計することである
。さらに、その触媒を用いて効率よくプラスチックから芳香族化合物を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、脱水素反応が選択的に進行するために従来知られ
ていたガリウムや亜鉛などの金属元素を含むゼオライトよりも、あまり注目されていなか
った第15族元素を含むゼオライトの方が、触媒として優れた特徴を有することを見出し
た。特に第15族元素は、酸化反応などの特定の反応には触媒として利用できる例が報告
されていたものの、活性や選択性は満足できるものではなく、また触媒としての適用範囲
も特定の反応に限定されていたためにあまり注目されていなかった。本発明では、第15
族元素を含むゼオライトにおいて、芳香族化合物の収率がよいこと、使用する金属が安価
で経済性に優れること、触媒へのコーキングも少ないこと、オレフィンパラフィン比が高
いことを見出し、本発明に至った。
すなわち本発明は、以下の[1]~[9]を要旨とする。
【0006】
[1]プラスチックから芳香族化合物を得る反応に用い、第15族元素を含むゼオライト
である触媒。
[2]前記第15族元素がビスマスである、[1]に記載の触媒。
[3]更に、前記触媒にガリウム及び亜鉛から選択される少なくとも1つを含む、[1]
又は[2]に記載の触媒。
[4]前記ゼオライトがFAU型、MOR型又はMFI型である、[1]~[3]のいず
れか1に記載の触媒。
[5]前記ゼオライトがMFI型である、[1]~[3]のいずれか1に記載の触媒。
[6]前記プラスチックがαオレフィンの付加重合体である、[1]~[5]のいずれか
1に記載の触媒。
[7]前記付加重合体がポリエチレン、ポリプロピレン及びポリスチレンから選択される
少なくとも1種以上を含むものである、[6]に記載の触媒。
[8]前記付加重合体がポリエチレンを含むものである、[6]に記載の触媒。
[9]プラスチックから芳香族化合物を製造する方法であって、プラスチックから芳香族
化合物を得る反応が、[1]~[8]のいずれか1に記載の触媒を用い、反応温度250
℃以上から1000℃以下で行われるものである、芳香族化合物の製造方法。
[10]前記プラスチックから芳香族化合物を得る反応が、不活性ガス雰囲気下で行われ
るものである、[9]に記載の芳香族化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の触媒を用いれば、プラスチックをベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族
化合物に収率よく変換できる。また、使用する金属が安価であるために経済性に優れる。
さらに、触媒へのコーキングも少ないことからプロセス安定性に優れ、オレフィンパラフ
ィン比が高いためにオレフィンなどの有効成分の収率も向上する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明
は、本発明の実施態様の一例であり、これらの内容に限定されるものではない。本発明で
いう芳香族化合物は、ベンゼン、トルエン及びキシレン(オルト、メタ、パラを含む)を含
む化合物を指す。
【0009】
[触媒]
本発明の触媒は、プラスチックから芳香族化合物を得る反応に用いるものであり、第1
5族元素を含むゼオライトからなる触媒である。ゼオライトと第15族元素の役割は定か
ではないが、主にゼオライトの骨格構造に起因する酸点がCC結合を切断する役割を担い
、担持した第15族元素がルイス酸として機能して脱水素反応を選択的に進行させる役割
を担い、さらにゼオライトの細孔径も芳香族化合物の選択性の向上に機能していると考え
られる。また他の成分を第2成分として添加してもよく、この第2成分によって脱水素反
応を促進し、芳香族化合物の収率を向上することができる。
【0010】
(第15族元素)
第15族元素として、N、P、As、Sb及びBiが挙げられ、本発明の触媒は、第1
5族元素として、As、Sb、Biを少なくとも1種を含有することが好ましい。これら
のなかでも安価で毒性が低く取扱いやすいこと、さらに芳香族化合物の収率がよいこと、
コークスなどの重炭素分の蓄積が少ないこと、オレフィンパラフィン比が高いのでオレフ
ィン類の選択率に優れることから、Biを有することが好ましい。
本発明の触媒に含まれる第15族元素の量については、後述する担体の種類や触媒の調
製方法により適宜調整が可能であり、特に限定されることはないが、通常、0.1質量%
以上、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上であり、通常80
質量%以下、好ましくは60質量%以下、より好ましくは40質量%以下、さらに好まし
くは20質量%以下、特に好ましくは10質量%以下である。上記以上であることで、脱
水素反応の活性点として機能し、芳香族化合物の収率が高くなり、上記以下であることで
オーバーリアクションによるコーク量の増大抑制や金属量増加を抑制し経済性を向上させ
ることができる。
添加する金属元素の原料としては、限定されないが、硝酸塩、塩化物、硫酸塩、酢酸塩
、炭酸塩、酸化物などが挙げられ 特にBi種としては、硝酸ビスマス、塩化ビスマス、
硫酸ビスマス、酢酸ビスマス、炭酸ビスマス、次炭酸ビスマス、酸化ビスマス、塩基性硝
酸ビスマス、硝酸水酸化ビスマス、ビスマスヒドロキシドなどが好ましく、特に取扱いや
入手の容易さから硝酸ビスマスが好ましい。
【0011】
(第2成分元素)
本発明の触媒は、上述した第15族元素以外の元素を含んでいてもよい(以下、第2成
分と表すことがある)。第2成分元素は、第15族元素の周辺に配置あるいは相互作用し
、活性や選択性の維持や向上、金属成分の溶出やハロゲンや硫黄などの不純物による被毒
やコーキング等を抑制することで触媒の耐久性を改善することができる。元素として、脱
水素化に優れるガリウム、亜鉛、銅、ニッケル、コバルト、鉄、マンガン、クロム、スズ
、インジウム、カドミウム、銀、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、モリブデン、ニオ
ブ、鉛、金、白金、イリジウム、リンから選ばれる少なくとも一種以上の元素であり、よ
り好ましくは、亜鉛及びガリウムから選択される少なくとも1つが、芳香族化合物の収率
やコーキング量が少ないために好ましい。さらに好ましくは亜鉛が、安価な金属で経済性
に優れるので好ましい。
第2成分の量については、第15族元素の量や触媒の調製方法により適宜調整が可能で
あり、特に限定されることはないが、通常、0.1質量%以上、好ましくは0.2質量%
以上、より好ましくは0.5質量%以上であり、通常50質量%以下、好ましくは30質
量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下である。上記
の範囲にあれば、第15族元素と協奏的な効果により芳香族化合物の収率がよいために好
ましい。第15族元素と協奏的な効果をより促進するために、触媒を構成する第15族元
素に対する第2成分の質量比は、好ましくは0.01から10、より好ましくは0.05
から1、さらに好ましくは0.1から0.5である。
【0012】
(ゼオライト)
本発明におけるゼオライトの結晶構造は、AEI、ANA、CHA、ERI、GIS、
KFI、LTA、NAT、PAU、YUG、DDRなどの8員環、AEL、EUO、FE
R、HEU、MEL、MFI、NES、TON、WEI、MWWなどの10員環、MOR
、AFI、ATO、BEA、CON、FAU、GME、LTL、MOR、MTW、OFF
などの12員環、CLO、VFI、AET、CFI、DONなどの14員環等の各型が挙
げられる。好ましくは、より工業的に入手のしやすい、CHA、BEA、FAU、MOR
、MFI、LTL、MWW、LTA、FERの各型であり、より好ましくはFAU、MO
R、MFIの各型であり、プラスチックの分解に対して高活性を有するMFI型がさらに
好ましい。
ゼオライト骨格の構成元素としては、Si、Al、P、Ti、Ga、Zn、Biから選
ばれる少なくとも2種を有することが好ましく、Si、Al、Biがより好ましく、工業
的に安定して入手可能であるSi、Alがさらに好ましい。なお、ゼオライト骨格の構成
元素は前述の第15族元素及びその他の成分元素とは異なるものである。
シリカSiOとアルミナAlのモル比は、好ましくは1以上2000以下、よ
り好ましくは5以上1500以下である。
ゼオライトは、粉末、ペレット状又はその他の形状の成形体であってよく、より好まし
くは、差圧を抑制できプロセス負荷が低減されるので成形体がよい。
【0013】
(触媒の調整方法)
触媒の調製方法は、特に限定されるものではなく、以下の既存の方法、およびその組み
合わせを用いることができる。
ゼオライトを担体として用いる場合には、プロトン型でもアンモニウム型でもよいが、
プロトン型が好適に用いられる。アンモニウム型を焼成してプロトン型としてもよい。次
いで金属を担持する場合は、含浸担持法、イオン交換法、析出沈殿法、ポアフィリング法
、incipient-wetness法、スプレー担持法等を用いることが可能であり
、そのほか、物理混合法や共沈法等が好適に用いられる。また、水熱合成法などによりゼ
オライトの格子骨格に直接金属を組み込んだ結晶性シリケートで合ってもよい。なかでも
含浸担持法やイオン交換法が、簡便でプロセスの負荷が低いために好適に用いられる。
通常、含浸担持法、イオン交換法等で用いる原料としては、通常、ハロゲン物や硝酸塩
などの水溶性の塩、あるいはそれらの酸性溶液が用いられる。硝酸塩、炭酸塩、ギ酸塩、
酢酸塩、シュウ酸塩、硫酸塩、水酸化物、アンミン硝酸塩、エチレンジアミン硝酸塩、ア
ンミンニトロ化合物等のハロゲン元素を含まない水溶性原料が好ましい。
含浸担持やイオン交換法などの金属を担持して得られた触媒前駆体は通常、乾燥あるい
は焼成の処理をした後に反応に供される。焼成雰囲気としては、空気、酸素、酸素と窒素
の任意の混合ガスなどの好気雰囲気で、酸化物又は金属カチオンにすることが好ましい。
焼成温度は金属担持の際に用いた原料によって適宜調整可能であるが、通常、200℃か
ら1000℃まで、より好ましくは300℃から800℃、さらに好ましくは400℃か
ら600℃である。また必要に応じて水素等の還元雰囲気で高温処理することで金属メタ
ルに還元してもよい。
【0014】
[プラスチック]
本発明に適用できるプラスチックの種類としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピ
レン、ポリブテン、ポリブタジエン、ポリ4-メチル-1-ペンテン等のポリオレフィン
、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポ
リ酢酸ビニル、ポリアクリロニトリル、エチレンビニルアルコール共重合樹脂などの、末
端にアルケンを有するαオレフィンの付加重合ポリマー(付加重合体);ポリカーボネー
ト、ポリエチレンテレフタラート、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、ポリエーテ
ルケトン、ポリエーテルエーテルケトン等の重縮合ポリマー(重縮合体)が挙げられる。
また、これらのプラスチックは混合していてもよく、その形態もフィルム、チューブなど
成形加工されたものであってもよい。また、これらのプラスチックのうち、産業・家庭廃
棄物として多く排出されているポリエチレン、ポリプロピレン及びポリスチレンから選択
される少なくとも1種を含むことが好ましく、特にポリエチレンを含むことが好ましい。
また上記のプラスチックだけに限定されるものではなく、たとえば炭化水素、バイオマ
スなどがプラスチック混合物に含まれていてもよいし、炭化水素、バイオマスなどをプラ
スチックに後から加えてもよい。炭化水素としては、メタン、エタン、プロパン、ブタン
、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、
トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカン
、ノナデカン、イコサンなどの飽和炭化水素、またエチレン、プロプレン、ブテン、ペン
テン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、ノネン、デセン、ウンデセン、ドデセン、トリデ
セン、テトラデセン、ペンタデセン、ヘキサデセン、ヘプタデセン、オクタデセン、ノナ
デセン、イコセンなどの不飽和炭化水素でもよく、上記の炭化水素に分岐や炭化水素系、
ハロゲン系、含酸素系などの置換基、脂環式などの環状構造を有していてもよく、上記の
混合物やナフサなどの石油由来の留分でもよい。バイオマスとして、廃棄物系、未利用、
資源作物に分類されるバイオマスを利用できる。
【0015】
[反応]
本発明の触媒が用いられる反応は、常圧あるいは加圧状態でプラスチックを本発明の触
媒と接触させて芳香族化合物を得るものである。反応形式は特に限定されるものではなく
、例えば回分反応方式及び流通反応方式等、いずれの方法でも実施することができるが、
工業的には連続的に実施可能な流通反応方式を用いるのが好ましい。
流通反応方式では、触媒に接触する滞留時間を制御することにより、生成が逐次的に分
解、或いは重炭素化するような悪影響を小さくし、芳香族化合物の収率を最大限に高める
ことができる。また、反応器やプロセスを工夫することにより、触媒の入れ替えや再生が
容易となる長所も有する。
さらにプラスチックの供給は、固体状態でも溶融状態でも構わないが、反応温度や原料
供給の脈動を抑制するために溶融状態にしてフィードすることが好ましい。プラスチック
を予め溶融点以上に温度を上げて溶融状態とし、溶融状のプラスチックと窒素ガスを、本
発明の触媒を装填した管型反応管に連続的に供給し、反応器内の触媒と接触させることが
好ましい。プラスチックの溶融の方法は特に限定されないが、反応器の前段に溶融層や押
出機などを設け、あらかじめ所定の温度に保持して反応器に供給することが好ましい。
反応雰囲気は、酸素が含まれると燃焼してしまうため、窒素やアルゴンなどの不活性ガ
ス雰囲気が好ましい。より好ましくは安価な窒素である。
反応温度は、好ましくは250℃以上であり、より好ましくは300℃以上であり、さ
らに好ましくは350℃以上であり、特に好ましくは400℃以上である。また、好まし
くは1000℃以下であり、より好ましくは800℃以下であり、さらに好ましくは70
0℃以下であり、特に好ましくは600℃以下である。上記の範囲であれば、芳香族化合
物の収率がよく、オーバーリアクションによるコークスなどの重炭素分の生成が抑制され
る。
生成した芳香族化合物は、通常、エチレンやプロピレンなどの製品となるオレフィン類
、メタン、エタン又はプロパンなどのパラフィン類、副生成物等と分離され、さらに精製
によって純度が高められて製品となる。なお、製品以外のメタン、エタン又はプロパンな
どのパラフィン類、副生成物は、燃料として使用することや回収されて再度原料として使
用することも行われる。分離や精製においては、沸点差を利用する蒸留の他、液液分離な
ども用いられる。
【0016】
以上説明したように、本発明の第15元素とゼオライトからなる触媒、およびそれを用
いたプラスチックからの芳香族化合物への変換反応によって、芳香族化合物の収率よく得
ること、安価な金属を使用するために経済性に優れること、コークスなどの重炭素分の蓄
積が少ないこと、オレフィンパラフィン比が高いのでオレフィン類の選択率に優れるとい
う特徴を有している。
【実施例0017】
以下に、実施例に挙げて、本発明をより具体的に説明する。しかしながら、本発明はこ
れらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、実施例や比較例中の、生成物等
の分析は、取得した液体、ガス分をそれぞれガスクロマトグラフィー(GC)によって行
った。以下に詳細を示す。
【0018】
・BTXの測定方法
装置:FID-GC 島津GC2014(DB-5、60m)
測定条件:40℃3分保持、325℃へ10℃/min昇温、325℃20分保持。
・C2、C3ガスの測定方法
装置:TCD-GC 島津GC2014(shincarbonST、2m)
測定条件:40℃5分保持、300℃へ10℃/min昇温、300℃29分保持。
・触媒上のコーク測定
装置:株式会社日立ハイテクサイエンスSTA300
反応後の触媒を200mL/minの空気気流中で燃焼させ、300℃から1000℃
における触媒の重量減少から算出した。
【0019】
(実施例1)
硝酸ビスマス5水和物0.348gを少量の硝酸に完全に溶解させ、脱イオン水で2.
5mLにメスアップし水溶液とした。この溶液を蓋無しのガラス製容器を用いて予め50
0℃で乾燥したMFI型ゼオライト成形体(東ソー製 840HOD1A)3.0gに含
浸させた。均一な状態になるように軽く混合した後、容器を湯浴方式にて加熱し、撹拌し
ながら混合物から水分を除去した。得られた乾燥物をガラス製の焼成管に装填し、200
mL/minの空気流通下に100℃で7時間乾燥後、500℃まで2時間かけて昇温し
、そのまま500℃にて4時間保持した後、室温まで降温し、Bi5wt%担持ZSM5
とした。
調製した触媒を用いてポリエチレンの分解反応を以下のように行った。触媒2.0gを
内径10mmφの石英製反応管に装填し、流通反応装置に設置し、2次側にコンデンサー
を備えた分解油回収用ガラスフラスコに接続した後、窒素10Nml/min流通下で3
0分間、系内を窒素置換した。系出口をガスバックに繋ぎ、電気炉を用いて反応管の加熱
を開始した。10℃/minで昇温し、触媒装填部分の反応管の温度(反応温度)が47
0℃に達した後、反応温度を470℃に保持したまま、シリンジポンプを用いて予め20
0℃にて溶融させた原料ポリエチレン(Aldrich製 428043-1KG)の供
給を開始した。ベンゼンの供給速度は、200℃溶融体として2.0ml/hとし、反応
管に導入した。導入を開始してから約3時間後に、ガスバックに取得したガス分と、ガラ
スフラスコに回収した油分をGC―TCD、GC-FIDにてそれぞれ分析した。
【0020】
生成物であるベンゼン、トルエン、キシレン(オルト、メタ、パラ含)の各芳香族化合物
の重量収率については以下の方法を用いて算出した。まず取得した油分から、1,2ジメ
トキシエタンを内部標準として、各芳香族化合物の濃度を定量し、取得した油分の重さか
ら各芳香族化合物の生成量を求めた。さらにガス分については、絶対検量線法を用いて各
成分の濃度を求めて、取得したガス分の総体積から各芳香族化合物の生成量を求めた。各
芳香族化合物の油分とガス分を各々足し合わせた値を、ポリエチレンの供給量で割って、
100を乗じることで算出した。
各芳香族化合物の重量収率(%)=油分とガス分中の各芳香族化合物の生成量(g)/
ポリエチレン供給量(g)×100
またC2+C3のオレフィンパラフィン比は、絶対検量線法を用いて各成分の濃度に基
づいて以下の式から算出した。C2+C3のオレフィンパラフィン比=(エチレン選択率
(%)+プロピレン選択率(%))/(エタン選択率(%)+プロパン選択率(%))
【0021】
各実施例及び比較例の触媒、反応条件及び結果を表1及び2に示す。
【0022】
(実施例2)
実施例1の触媒調製において、硝酸ビスマス5水和物を0.0696gとした以外は同
様に行い、Bi1wt%担持ZSM5を調製した。当該触媒を用いて実施例1と同様に反
応を行った。
【0023】
(実施例3)
実施例1の触媒調製において、硝酸ビスマス水溶液に硝酸亜鉛6水和物0.137gを
追加した水溶液とした以外は同様に行い、Bi5wt%+Zn1wt%担持ZSM5を調
製した。当該触媒を用いて実施例1と同様に反応を行った。
【0024】
(実施例4)
実施例1の触媒調製において、硝酸ビスマス水溶液に硝酸ガリウム8水和物0.172
gを追加した水溶液とした以外は同様に行い、Bi5wt%+Ga1wt%担持ZSM5
を調製した。当該触媒を用いて実施例1と同様に反応を行った。
【0025】
(比較例1)
金属を含浸させることなく、焼成したZSM5を用いて実施例1と同様に反応を行った
【0026】
(比較例2)
実施例1の触媒調製において、硝酸ガリウム8水和物0.860gを脱イオン水に2.
5mLに溶解した水溶液とした以外は同様に行い、Ga5wt%担持ZSM5を調製した
。当該触媒を用いて実施例1と同様に反応を行った。
【0027】
(比較例3)
実施例1の触媒調製において、硝酸亜鉛6水和物0.683gを脱イオン水に2.5m
Lに溶解した水溶液とした以外は同様に行い、Zn5wt%担持ZSM5を調製した。当
該触媒を用いて実施例1と同様に反応を行った。
【0028】
実施例と比較例より、本願発明の触媒を用いることで、芳香族化合物が高い収率で得ら
れ、さらにオレフィンパラフィン比が高いことが示された。さらに、従来、ベンゼン(X
)、トルエン(T)及びキシレン(Y)の芳香族化合物を収率よく得ようとすると同時に
脱水素や縮合反応が促進され多環状芳香族となりコーキングしやすい傾向にあったが、B
TXの芳香族化合物の合計収率に対してコーク重量収率の割合が低いことから、本願発明
の触媒ではコーキングも抑制されていることが示された。
【0029】
【表1】
【0030】
【表2】