(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024103175
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】状態分類方法、状態分類装置及び状態分類プログラム
(51)【国際特許分類】
G01H 17/00 20060101AFI20240725BHJP
G01M 99/00 20110101ALI20240725BHJP
【FI】
G01H17/00 Z
G01M99/00 Z
G01M99/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023007364
(22)【出願日】2023-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100148323
【弁理士】
【氏名又は名称】川▲崎▼ 通
(74)【代理人】
【識別番号】100168860
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 充史
(72)【発明者】
【氏名】轟原 正義
(72)【発明者】
【氏名】大森 啓史
(72)【発明者】
【氏名】大西 凌矢
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 理文
(72)【発明者】
【氏名】井上 勝文
【テーマコード(参考)】
2G024
2G064
【Fターム(参考)】
2G024AD01
2G024CA13
2G024FA04
2G024FA06
2G024FA11
2G064AA01
2G064AA11
2G064AB01
2G064AB02
2G064AB22
2G064BA02
2G064BD02
2G064CC41
2G064CC43
2G064DD02
(57)【要約】
【課題】装置の振動の位相変化をとらえることにより装置の状態を精度よく分類することが可能な状態分類方法を提供すること。
【解決手段】振動する装置を対象として計測された振動に関する物理量の計測データを取得する工程と、回帰型ニューラルネットワークを用いたエンコーダー及びデコーダーを含み、前記装置を対象として前記計測データの将来の値を予測する深層学習を行った深層学習モデルが、前記計測データに基づいて、前記エンコーダーから前記振動の中間特徴量を出力する工程と、前記中間特徴量に基づく情報を用いて、前記装置の状態を分類する工程と、を含む、状態分類方法。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動する装置を対象として計測された振動に関する物理量の計測データを取得する工程と、
回帰型ニューラルネットワークを用いたエンコーダー及びデコーダーを含み、前記装置を対象として前記計測データの将来の値を予測する深層学習を行った深層学習モデルが、前記計測データに基づいて、前記エンコーダーから前記振動の中間特徴量を出力する工程と、
前記中間特徴量に基づく情報を用いて、前記装置の状態を分類する工程と、
を含む、状態分類方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記回帰型ニューラルネットワークは、LSTM(Long Short Term Memory)である、状態分類方法。
【請求項3】
請求項1において、
前記深層学習は、前記中間特徴量に含まれる複数の要素の間で直交化が進むように定義された損失関数の値が小さくなる方向に行われた学習である、状態分類方法。
【請求項4】
請求項3において、
前記複数の要素の自己相関の値が大きいほど前記損失関数の値が小さくなり、前記複数の要素の相互相関の値が小さいほど前記損失関数の値が小さくなる、状態分類方法。
【請求項5】
請求項1において、
前記計測データは、複数チャンネルの計測データである、状態分類方法。
【請求項6】
請求項1において、
前記深層学習は、前記装置を対象として計測された前記物理量の第1の時系列データと、前記第1の時系列データの特定の周波数の信号成分の位相及び振幅の少なくとも一方を変更した第2の時系列データとを用いて行われた学習である、状態分類方法。
【請求項7】
請求項1において、
前記深層学習は、前記装置を対象として計測された前記物理量の第1の時系列データと、前記第1の時系列データが計測された後に状態が経時変化した前記装置を対象として計測された前記物理量の第2の時系列データとを用いて行われた学習である、状態分類方法。
【請求項8】
振動する装置を対象として計測された振動に関する物理量の計測データを取得する計測データ取得部と、
回帰型ニューラルネットワークを用いたエンコーダー及びデコーダーを含み、前記装置を対象として前記計測データの将来の値を予測する深層学習を行った深層学習モデルが、前記計測データに基づいて、前記エンコーダーから前記振動の中間特徴量を出力する中間特徴量出力部と、
前記中間特徴量に基づく情報を用いて、前記装置の状態を分類する状態分類部と、
を備える、状態分類装置。
【請求項9】
振動する装置を対象として計測された振動に関する物理量の計測データを取得する工程と、
回帰型ニューラルネットワークを用いたエンコーダー及びデコーダーを含み、前記装置を対象として前記計測データの将来の値を予測する深層学習を行った深層学習モデルが、
前記計測データに基づいて、前記エンコーダーから前記振動の中間特徴量を出力する工程と、
前記中間特徴量に基づく情報を用いて、前記装置の状態を分類する工程と、
をコンピューターに実行させる、状態分類プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、状態分類方法、状態分類装置及び状態分類プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
工場などで使われる回転機械の故障診断は現在重要なタスクとなっている。生産ラインの一端を担っている機械など重要度が高い機械は停止させると非常に大きな損失が発生する。故障が診断されてから早急に停止させることが難しいため、より早期に故障を発見し、故障モードを診断することが重要である。回転機械の故障にはベアリング傷、アンバランス、ミスアライメントなどの多くのモードがある。これらほとんどの故障モードの影響が振動に現れることから、診断には振動データがよく利用されている。
【0003】
近年、深層学習を用いた振動による故障診断に関する研究が行われている。深層学習により、特徴量エンジニアリングのための機械の専門知識の必要性が減った。また、複数の軸振動が関わるような複雑な振動特徴をより正確に捉えることが可能になった。現在CNNベースの手法が多くの異常診断データセットで優秀な成果を上げている。振動データのような時系列データをCNNで扱うためには、振動を画像情報に変換する必要があり、多くの手法では前処理で振動データをスペクトログラムに変換している。スペクトログラムとは各時間におけるそれぞれの周波数成分の強度を色情報で表したものである。例えば、非特許文献1の手法では、短時間フーリエ変換によって、振動時系列データをスペクトログラムに変換してCNNで処理しており、クラスタリングを伴ったGANを利用しており、生成ベースで教師なし学習を行いつつ故障クラスをクラスタリングしている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Tao, Hongfeng, et al. "An unsupervised fault diagnosis method for rolling bearing using STFT and generative neural networks." Journal of the Franklin Institute 357.11 (2020): 7286-7307.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1の手法では、スペクトログラムをCNNで扱うことによって、振動のそれぞれの周波数成分の強度変化をとらえることができる。しかしながら、スペクトログラムを入力としたCNNベース手法では振動の位相変化をとらえることはできない。なぜなら、スペクトログラムには振幅強度のみが反映されており、位相情報は変換の際に消去されてしまうからである。機械の故障が振動強度の変化として顕在化するまえに位相の変化として現れると考えられるため、これらのCNNベース手法では故障初期の変化をとらえることができない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る状態分類方法の一態様は、
振動する装置を対象として計測された振動に関する物理量の計測データを取得する工程と、
回帰型ニューラルネットワークを用いたエンコーダー及びデコーダーを含み、前記装置を対象として前記計測データの将来の値を予測する深層学習を行った深層学習モデルが、前記計測データに基づいて、前記エンコーダーから前記振動の中間特徴量を出力する工程と、
前記中間特徴量に基づく情報を用いて、前記装置の状態を分類する工程と、
を含む。
【0007】
本発明に係る状態分類装置の一態様は、
振動する装置を対象として計測された振動に関する物理量の計測データを取得する計測データ取得部と、
回帰型ニューラルネットワークを用いたエンコーダー及びデコーダーを含み、前記装置を対象として前記計測データの将来の値を予測する深層学習を行った深層学習モデルが、前記計測データに基づいて、前記エンコーダーから前記振動の中間特徴量を出力する中間特徴量出力部と、
前記中間特徴量に基づく情報を用いて、前記装置の状態を分類する状態分類部と、
を備える。
【0008】
本発明に係る状態分類プログラムの一態様は、
振動する装置を対象として計測された振動に関する物理量の計測データを取得する工程と、
回帰型ニューラルネットワークを用いたエンコーダー及びデコーダーを含み、前記装置を対象として前記計測データの将来の値を予測する深層学習を行った深層学習モデルが、前記計測データに基づいて、前記エンコーダーから前記振動の中間特徴量を出力する工程と、
前記中間特徴量に基づく情報を用いて、前記装置の状態を分類する工程と、
をコンピューターに実行させる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】減衰のある場合の1自由度系の強制振動モデルを示す図。
【
図2】本実施形態の状態分類方法の手順を示すフローチャート図。
【
図4】本実施形態の状態分類方法を実行する状態分類装置の構成例を示す図。
【
図6】エンコーダー及びデコーダーの構成例を示す図。
【
図9】ローターキットにおける各クラスのワッシャーの付与とそのラベル名を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0011】
1.考察
図1に示すように、減衰のある場合の1自由度系の強制振動モデルを仮定し、振動の位相情報から減衰定数を算定することを考える。質量mに対し調和外力を印加した場合の運動方程式の解は、調和外力を0とした時の基本解と、調和外力に対応する特解の和で与えられ、
図1のモデルに対応する定常状態における振動については、特解の振る舞いを考えればよい。調和外力の角周波数をωとすると、運動方程式は式(1)の形で表される。式(1)において、xは質量mの変位であり、kはバネ定数であり、cは減衰係数である。
【0012】
【0013】
式(1)の特解は式(2)の形で表される。φは式(3)で与えられ、ωnは系の共振角振動数であり、ζは減衰定数である。
【0014】
【0015】
【0016】
式(3)をζについて解くと、式(4)が得られる。
【0017】
【0018】
外力Fが式(5)の形で表される場合、定常状態における振動は、式(6)のように、対応する特解の和で与えられる。
【0019】
【0020】
【0021】
式(4)において、φをφmに置き換え、ωをmωに置き換え、ζをζmに置き換えることにより、式(7)の関係が得られる。
【0022】
【0023】
外力Fが既知である特殊な場合を考えると、定常状態での2つの調和振動についての位相φk,φlがわかれば、減衰定数ζの周波数依存性が無視できると仮定してζk=ζlと置くことにより、式(8)の関係が得られる。ωは既知なので、式(8)よりωnが求まり、式(7)より、減衰定数ζを算定することができる。
【0024】
【0025】
一般に、回転機器の構成部品の劣化は、振動強度の増加として顕在化するよりも前に、バネ定数kや減衰定数ζの変化として現れることが知られている。上記のように、基本波および高調波に対応する複数の振動ピークについて、2つ以上の位相を取得すれば減衰定数ζを算定することができる。このことは、振動の位相には回転機器の状態に対応する情報が含まれており、位相情報が回転機器の状態の分類に有用であることを示唆している。そこで、本実施形態の状態分類方法は、回転機器等の振動する装置を対象として計測された時系列データを、スペクトログラム等の周波数領域の情報に変換することなく、そのまま用いて装置の状態を分類する。
【0026】
2.状態分類方法
図2は、本実施形態の状態分類方法の手順を示すフローチャート図である。本実施形態の状態分類方法は、例えば、状態分類装置100によって実行される。本実施形態の状態分類方法を実行する状態分類装置100の構成例については後述する。
【0027】
図2に示すように、まず、状態分類装置100は、工程S10において、振動する装置を対象として計測された振動に関する物理量の計測データを取得する。物理量は、振動によって生じる又は変化する物理量である。
【0028】
振動する装置は、その種類は特に限定されず、例えば、回転機構や振動機構を有するモーター等の各種の装置であってもよいし、外力によって振動する橋梁やビル等の構造物であってもよいし、周期性を有する信号を発生させる電気回路であってもよい。振動に関する物理量の種類は特に限定されず、例えば、第1~第Nの物理量は、加速度、角速度、速度、変位、圧力、電流、電圧等であってもよい。以下では、状態分類の対象となる振動する装置を「対象装置」と称する場合もある。
【0029】
計測データは、センサーから出力されるデジタル信号の時系列データであってもよいし、センサーから出力されるアナログ信号がアナログフロントエンドによって変換されたデジタル信号の時系列データであってもよい。計測データは、複数チャンネルの計測データであってもよい。例えば、複数チャンネルの計測データは、互いに直交するx軸、y軸及びz軸に対する物理量の計測データであってもよい。計測データを出力するセンサーは、例えば、水晶振動子を用いたセンサーであってもよいし、MEMSを用いたセンサーであってもよいし、IMUであってもよい。MEMSは、Micro Electro Mechanical Systemsの略であり、IMUは、Inertial Measurement Unitの略である。
【0030】
状態分類装置100は、センサーによって計測された計測データをリアルタイムに取得してもよいし、過去に計測された計測データが記憶されている記憶媒体から当該計測データを読み出して取得してもよい。
【0031】
図3に、振動する装置の一例である真空ポンプ1を示す。
図3に示すように、真空ポンプ1は基台20上に設置される。真空ポンプ1は断面形状が略長丸の柱状である。真空ポンプ1の長手方向をX方向とする。長丸の長軸方向をY方向とし、長丸の短軸方向をZ方向とする。
【0032】
真空ポンプ1は筐体3を備える。筐体3は-X方向側から+X方向側に向かって配置さ
れたモーターケース4、接続部5、ポンプケース6及びギアケース7を備える。筐体3は接続部5とポンプケース6との間に軸受ケーシングとしての第1側壁8を備える。筐体3はポンプケース6とギアケース7との間に第2側壁9を備える。
【0033】
ポンプケース6には+Z方向側の面に吸気管11が接続される。ポンプケース6には-Z方向側の面に排気管12が接続される。
【0034】
接続部5は基台20側に第1脚部13及び第2脚部を備える。第1脚部13は-Y方向側に配置され、第2脚部は+Y方向側に配置される。ギアケース7は基台20側に第3脚部14及び第4脚部を備える。第3脚部14は-Y方向側に配置され、第4脚部は+Y方向側に配置される。第1脚部13~第4脚部は第1ボルト15により基台20に締結される。
【0035】
筐体3にはセンサーユニット17が取り付けられる。センサーユニット17は、例えば接続部5に取り付けられる。例えば、センサーユニット17は、x軸、y軸及びz軸の各方向がそれぞれ+X方向、+Y方向及び+Z方向と一致するように取り付けられる。センサーユニット17は、3チャンネルの計測データ、すなわち、x軸、y軸及びz軸からなる3軸の計測データを出力する。例えば、状態分類装置100は、工程S10において、センサーユニット17から出力される3チャンネルの計測データを取得する。
【0036】
図2に示すように、次に、状態分類装置100は、工程S20において、回帰型ニューラルネットワークを用いたエンコーダー及びデコーダーを含む深層学習モデルが、工程S10で取得した計測データに基づいて、エンコーダーから振動の中間特徴量を出力する。深層学習モデルは、対象装置に対して計測データの将来の値を予測する深層学習を行った学習済みモデルである。深層学習モデルの詳細については後述する。
【0037】
次に、状態分類装置100は、工程S30において、工程S20で深層学習モデルから出力された中間特徴量に基づく情報を用いて、対象装置の状態を分類する。例えば、状態分類装置100は、対象装置の状態を正常状態又は異常状態に分類してもよいし、正常状態及び複数種類の異常状態のいずれかに分類してもよい。
【0038】
そして、状態分類の処理が終了するまで(工程S100のN)、状態分類装置100は、工程S10~S30を繰り返し行う。
【0039】
3.状態分類装置
図4は、本実施形態の状態分類方法を実行する状態分類装置100の構成例を示す図である。
図4に示すように、状態分類装置100は、センサー200、アナログフロントエンド210、処理回路110、記憶回路120、操作部130、表示部140、音出力部150及び通信部160を含む。なお、状態分類装置100は、
図4の構成要素の一部を省略又は変更し、あるいは、他の構成要素を付加した構成としてもよい。例えば、センサー200やアナログフロントエンド210は、状態分類装置100の構成要素で無くてもよい。
【0040】
センサー200は、対象装置が振動することによって生じる物理量を検出し、検出した物理量に応じた信号を出力する。センサー200の出力信号は、アナログフロントエンド210に入力される。
【0041】
アナログフロントエンド210は、センサー200の各々の出力信号に対して増幅処理やA/D変換処理等を行ってデジタル時系列信号である計測データを出力する。
【0042】
処理回路110は、アナログフロントエンド210から出力されるデジタル時系列信号を、対象装置の振動に関する物理量の計測データとして取得し、対象装置の状態を分類する処理を行う。具体的には、処理回路110は、記憶回路120に記憶されている状態分類プログラム121を実行し、計測データに対する各種の計算処理を行う。その他、処理回路110は、操作部130からの操作信号に応じた各種の処理、表示部140に各種の情報を表示させるための表示信号を送信する処理、音出力部150に各種の音を発生させるための音信号を送信する処理、不図示の外部装置とデータ通信を行うために通信部160を制御する処理等を行う。処理回路110は、例えば、CPUやDSPによって実現される。CPUはCentral Processing Unitの略であり、DSPはDigital Signal Processorの略である。
【0043】
なお、センサー200がデジタル時系列信号である計測データを出力してもよく、この場合、処理回路110は、センサー200から出力される計測データを出力すればよいので、アナログフロントエンド210は不要である。
【0044】
処理回路110は、状態分類プログラム121を実行することにより、計測データ取得部111、中間特徴量出力部112及び状態分類部113として機能する。すなわち、状態分類装置100は、計測データ取得部111と、中間特徴量出力部112と、状態分類部113と、を含む。
【0045】
計測データ取得部111は、振動する装置を対象として計測された振動に関する物理量の計測データを取得する。Nは1以上の所定の整数である。すなわち、計測データ取得部111は、
図2の工程S10を実行する。計測データ取得部111が取得した計測データは記憶回路120に記憶される。
【0046】
中間特徴量出力部112は、回帰型ニューラルネットワークを用いたエンコーダー及びデコーダーを含む深層学習モデルであり、工程S10で取得した計測データに基づいて、エンコーダーの出力に基づく、振動の中間特徴量を出力する。すなわち、中間特徴量出力部112は、
図2の工程S20を実行する。中間特徴量出力部112が出力した中間特徴量は記憶回路120に記憶される。
【0047】
状態分類部113は、中間特徴量出力部112から出力された中間特徴量に基づいて、対象装置の状態を分類する。すなわち、状態分類部113は、
図2の工程S30を実行する。状態分類部113は、浅い機械学習を行った学習済みの機械学習モデルであってもよい。状態分類部113が分類した対象装置の状態を表す情報は記憶回路120に記憶される。
【0048】
このように、状態分類プログラム121は、
図2の工程S10と、工程S20と、工程S30と、をコンピューターである処理回路110に実行させるプログラムである。
【0049】
記憶回路120は、不図示のROM及びRAMを有している。ROMはRead Only Memoryの略であり、RAMはRandom Access Memoryの略である。ROMは、状態分類プログラム121等の各種プログラムやあらかじめ決められたデータを記憶し、RAMは、処理回路110が生成したデータを記憶する。RAMは、処理回路110の作業領域としても用いられ、ROMから読み出されたプログラムやデータ、操作部130から入力されたデータ、処理回路110が一時的に生成したデータを記憶する。
【0050】
操作部130は、操作キーやボタンスイッチ等により構成される入力装置であり、ユーザーによる操作に応じた操作信号を処理回路110に出力する。
【0051】
表示部140は、LCD等により構成される表示装置であり、処理回路110から出力される表示信号に基づいて各種の情報を表示する。LCDは、Liquid Crystal Displayの略である。表示部140には操作部130として機能するタッチパネルが設けられていてもよい。例えば、表示部140は、処理回路110から出力される表示信号に基づいて、記憶回路120に記憶されている各種のデータの少なくとも一部を含む画面を表示してもよい。
【0052】
音出力部150は、スピーカー等によって構成され、処理回路110から出力される音信号に基づいて各種の音を発生させる。例えば、音出力部150は、処理回路110から出力される音信号に基づいて、状態分類の開始や終了を示す音を発生させてもよい。
【0053】
通信部160は、処理回路110と外部装置との間のデータ通信を成立させるための各種制御を行う。例えば、通信部160は、記憶回路120に記憶されている各種のデータの少なくとも一部の情報を外部装置に送信し、外部装置は、受信した情報を不図示の表示部に表示してもよい。
【0054】
なお、計測データ取得部111、中間特徴量出力部112及び状態分類部113の少なくとも一部が、専用のハードウエアで実現されてもよい。また、状態分類装置100は、単体の装置であってもよいし、複数の装置によって構成されてもよい。例えば、センサー200及びアナログフロントエンド210が第1の装置に含まれ、処理回路110、記憶回路120、操作部130、表示部140、音出力部150及び通信部160が第1の装置とは別体の第2の装置に含まれていてもよい。また、例えば、処理回路110及び記憶回路120がクラウドサーバー等の装置で実現され、当該装置が対象装置の状態を分類し、分類した状態を表す情報を、通信回線を介して操作部130、表示部140、音出力部150及び通信部160を含む端末に送信してもよい。
【0055】
4.深層学習モデル
図5は、中間特徴量出力部112として機能する深層学習モデル30の構成例を示す図である。
図5に示すように、深層学習モデル30は、エンコーダー31、アテンション32及びデコーダー33を含む。
【0056】
エンコーダー31は、回帰型ニューラルネットワークを用いて実現され、入力ステップtにおいて、計測データに含まれる計測値xtが入力され、中間特徴量htを出力する。tは1~Tの各整数であり、計測値xtが計測された時刻に相当する。計測値xtは、m個の要素からなるm次元のベクトルである。例えば、計測データが3軸加速度データである場合、計測値xtは3次元のベクトルである。中間特徴量htはn個の要素からなるn次元のベクトルである。計測値の総数であるTや整数nは、深層学習モデル30の作成者によって適切な値に設定される。本実施形態では、エンコーダー31に用いられる回帰型ニューラルネットワークは、LSTMである。LSTMは、Long Short Term Memoryの略である。
【0057】
アテンション32は、入力ステップ1~Tにおいてエンコーダー31から出力される中間特徴量h1~hTを、予測ステップiにおける注目スコアai,1~ai,Tでそれぞれ重み付けして加算し、予測ステップiにおけるコンテキストベクトルciを作成する。iは、1~pの各整数である。コンテキストベクトルciは、n次元のベクトルであり、予測ステップiにおけるデコーダー33への入力ベクトルとなる。
【0058】
デコーダー33は、回帰型ニューラルネットワークを用いて実現され、予測ステップiにおいて、アテンション32から出力されるコンテキストベクトルciが入力され、計測データの予測値fT+iを出力する。予測値fT+iは、m個の要素からなるm次元のベク
トルである。本実施形態では、デコーダー33に用いられる回帰型ニューラルネットワークは、LSTMである。
【0059】
例えば、中間特徴量h1~hTは、状態分類部113として機能する機械学習モデル40に入力され、機械学習モデル40は、中間特徴量h1~hTを用いて対象装置の状態を分類する。機械学習モデル40は、例えば、サポートベクターマシン(SVM)であってもよい。
【0060】
図6は、エンコーダー31及びデコーダー33の構成例を示す図である。
図6に示すように、エンコーダー31は、T個のLSTMセル311-1~311-T、T個のLSTMセル312-1~312-T及びT個の加算器313-1~313-Tを含む。
【0061】
LSTMセル311-tは、計測値xtを処理して処理結果を後段のLSTMセル311-(t+1)に出力する。tは1~Tの各整数である。
【0062】
図7は、LSTMセル311-tの構成例を示す図である。
図7に示すように、LSTMセル311-tは、計測値x
tと、LSTMセル311-(t-1)から出力されるセル状態C
1
t-1及び隠れ状態h
1
t-1とが入力され、セル状態C
1
t及び隠れ状態h
1
tを出力する。
【0063】
図7において、f
t,i
t,o
tは、シグモイド関数σを用いて、それぞれ式(9)、式(10)及び式(11)によって算出されるn+m次元のベクトルである。また、C
t’は、ハイパボリックタンジェント関数tanhを用いて、式(12)によって算出されるn+m次元のベクトルである。式(9)、式(10)、式(11)及び式(12)において、[h
1
t-1,x
t]は、n次元のベクトルである隠れ状態h
1
t-1とm次元のベクトルである計測値x
tとが結合されたm+m次元のベクトルである。また、W
f,W
i,W
o,W
Cはそれぞれ結合係数であり、b
f,b
i,b
o,b
Cはそれぞれバイアスである。
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
セル状態C1
tは、式(13)によって算出され、隠れ状態h1
tは、式(14)によって算出される。式(13)における演算子「*」は、アダマール積を意味し、式(14)における演算子「*」は、要素ごとの積を意味する。
【0069】
【0070】
【0071】
図6の説明に戻り、LSTMセル312-tは、計測値x
tを処理して処理結果を後段のLSTMセル312-(t-1)に出力する。tは1~Tの各整数である。LSTMセル312-tは、LSTMセル312-(t+1)から出力されるセル状態C
2
t+1及び隠れ状態h
2
t+1が入力される点が、LSTMセル311-tと異なる。すなわち、LSTMセル312-tは、計測値x
tと、LSTMセル312-(t+1)から出力されるセル状態C
2
t+1及び隠れ状態h
2
t+1とが入力され、セル状態C
2
t及び隠れ状態h
2
tを出力する。LSTMセル312-tの構成は
図7と同様であるため、その説明を省略する。
【0072】
図6に示すように、LSTMセル311-tから出力される隠れ状態h
1
tは加算器313-tに入力される。また、LSTMセル312-tから出力される隠れ状態h
2
tは加算器313-tに入力される。隠れ状態h
1
t,h
2
tは、ともにn個の要素からなるn次元のベクトルである。加算器313-tは、隠れ状態h
1
tと隠れ状態h
2
tとを加算して中間特徴量h
tを出力する。中間特徴量h
tは、n個の要素からなるn次元のベクトルである。
【0073】
このように、エンコーダー31では、LSTMセル311-1~311-Tに対応する順方向LSTMと、LSTMセル312-1~312-Tに対応する逆方向LSTMとからなる双方向LSTMが用いられており、加算器313-1~313-Tによって、同じ時刻での順方向LSTMの出力と逆方向LSTMの出力とが足し合わされる。足し合わされた後の中間特徴量h1~hTは後述する直交化の対象となる。双方向LSTMは、計測データの前半と後半の特徴をバランスよく抽出することができる。深層学習の結果、中間特徴量h1~hTには、計測データから抽出された情報が集約されており、機械学習モデル40は、中間特徴量h1~hTを利用して対象装置の状態を分類する。
【0074】
なお、
図6では、エンコーダー31において、計測値x
1~x
Tをそれぞれ処理するT個のLSTMセル311-1~311-Tが図示されているが、実際には回帰型ニューラルネットワークである1つのLSTMが、入力ステップ1~Tにおいて入力される計測値x
1~x
Tを順番に処理する。同様に、
図6では、エンコーダー31において、計測値x
1~x
Tをそれぞれ処理するT個のLSTMセル312-1~312-Tが図示されているが、実際には回帰型ニューラルネットワークである1つのLSTMが、入力ステップT~1において入力される計測値x
T~x
1を順番に処理する。
【0075】
図6に示すように、デコーダー33は、p個のLSTMセル331-1~331-p及びp個の予測部332-1~332-pを含む。
【0076】
LSTMセル331-iは、アテンション32から出力されるコンテキストベクトルc
iを処理して処理結果を後段のLSTMセル331-(i+1)に出力する。iは1~pの各整数である。LSTMセル331-1は、コンテキストベクトルc
1と、隠れ状態h
0’とが入力され、セル状態C
1’及び隠れ状態h
1’を出力する。隠れ状態h
0’は、中間特徴量h
Tである。LSTMセル331-1を除くLSTMセル331-iは、コンテキストベクトルc
iと、LSTMセル331-(i-1)から出力されるセル状態C
i
-1’及び隠れ状態h
i-1’とが入力され、セル状態C
i’及び隠れ状態h
i’を出力する。セル状態C
i’は、m次元のベクトルであり、隠れ状態h
i’はn次元のベクトルである。LSTMセル331-iの構成は
図7と同様であるため、その説明を省略する。
【0077】
アテンション32から出力されるコンテキストベクトルciは、式(15)によって算出される。式(15)において、αi,tは、予測ステップiにおける入力ステップtへの注目スコアであり、式(16)によって算出される。式(16)において、ei,tは、式(17)により、隠れ状態hi-1’と中間特徴量htとの内積として算出される。式(16)及び式(17)より、注目スコアαi,tは、隠れ状態hi-1’と中間特徴量htとが近似しているほど大きくなり、式(15)より、注目スコアαi,tが大きいほどコンテキストベクトルciに対する中間特徴量htの寄与度が大きくなる。
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
LSTMセル331-iから出力されるセル状態Ci’は、予測部332-iに入力され、予測部332-iからm次元の予測値fT+iが出力される。例えば、予測部332-iは、ReLU関数を用いてセル状態Ci’を予測値fT+iに変換してもよい。ReLUは、Rectified Linear Unitの略である。
【0082】
なお、LSTMセル311-t、LSTMセル312-t及びLSTMセル331-iは、
図7の構成に限られず、例えば、セル状態と隠れ状態がマージされた構成等、様々なバリエーションが考えられる。
【0083】
このように、深層学習モデル30は、対象装置に対して計測データの将来の値を予測する深層学習を行った学習済みモデルである。エンコーダー31から出力される中間特徴量h
1~h
Tには、対象装置の振動に関する情報が含まれている。この情報は、対象装置の状態を反映するものや対象装置の状態とは独立した時間情報である。さらに、対象装置の状態を反映する情報は、故障モードごとにそれぞれ独立していると考えられる。一般的な学習では、中間特徴量h
1~h
Tの各要素には対象装置の振動に関する様々な情報が混在し、さらに入力振動がもつある独立した情報が、中間特徴量h
1~h
Tの複数の要素に分散することになる。これに対して、本実施形態では、中間特徴量h
1~h
Tに直交化の圧力を加えながら深層学習モデル30に学習させる。具体的には、
図8に示すように、中間特徴量h
tがn個の要素c
t
1,c
t
2,c
t
3,…,c
t
nを有する場合、中間特徴量h
1~h
Tのそれぞれのj番目の要素c
1
j,c
2
j,c
3
j,…,c
T
jをつなげたベクトルX
jを定義し、n個のベクトルX
1~X
n同士を直交化する。jは1~nの各整数であり、要素c
t
jは入力のタイムポイントtで出力された中間特徴量h
tのj番目の要素である。詳細には、深層学習モデル30は、n個のベクトルX
1~X
nについて式(1
8)で示される分散共分散行列Σの非対角成分が0に近づくように、すなわち、ベクトルX
1~X
nの間の相関が弱くなるように学習する。
【0084】
【0085】
直交化により、振動に関する独立した情報のそれぞれが相異なる少数の要素に格納されやすくなる。そのため、異なる故障モードの混同や振動ノイズの影響が低減された中間特徴量h1~hTが得られ、機械学習モデル40による対象装置の状態分類の精度を向上させることができる。
【0086】
学習時に最適化するロス関数Lは、直交化ロスLorthとMSEロスLpredを組み合わせて式(19)で表される。MSEは、Mean Square Errorの略である。式(19)において、λは、直交化ロスLorthとMSEロスLpredのトレードオフを決定するためのハイパーパラメータである。ロス関数Lが小さくなる方向に、エンコーダー31やデコーダー33の結合係数Wの学習が行われる。
【0087】
【0088】
直交化ロスLorthは、式(20)で表される。直交化ロスLorthは、中間特徴量htに含まれる複数の要素ct
1~ct
nの間で直交化が進むように定義された損失関数であり、直交化ロスLorthが小さくなる方向に学習が行われる。複数の要素ct
1~ct
nの自己相関の値が大きいほど直交化ロスLorthの値が小さくなり、複数の要素ct
1~ct
nの相互相関の値が小さいほど直交化ロスLorthの値が小さくなる。換言すれば、直交化ロスLorthを小さくすることによって、自己相関を表す各共分散Cov[Xi,Xj]の絶対値が小さくなり、相互相関を表す各分散Var[Xi]の絶対値が大きくなる。その結果、中間特徴量htの要素ct
1~ct
nの時間的な振る舞いが独立になるよう学習される。
【0089】
【0090】
MSEロスLpredは、式(21)で表される。式(21)において、xiはi番目の予測値であり、yiはi番目の実測値である。MSEロスLpredは、計測データの将来値を予測するための損失関数であり、MSEロスLpredが小さくなる方向に学習が行われる。MSEロスLpredを小さくすることによって、将来値が正確に予測可能になるとともに、対象装置の振動の状態を表す有用な情報が中間特徴量htとして抽出される。
【0091】
【0092】
この深層学習は、故障に関するラベルを必要とせず、教師なしで行うことができる。エンコーダー31とデコーダー33はそれぞれLSTMであるため、時系列データをそのまま深層学習モデル30に入力することができる。対象装置の運用前に深層学習モデル30が深層学習を行う際は、当該対象装置は正常に動作するはずなので、基本的には、当該対象装置の振動に関する物理量の時系列データとして正常な時系列データが用いられる。正常な時系列データのみを用いて深層学習モデル30に学習を行わせた場合、深層学習モデル30は、異常な時系列データのパターンを学習していないため、計測データが正常な場合と異常な場合とで中間特徴量h1~hTに含まれる情報が大きく異なり、機械学習モデル40は、対象装置が正常な状態であるか異常な状態であるかを分類することができる。
【0093】
一方で、深層学習モデル30が正常な時系列データだけでなく異常な時系列データも用いて深層学習を行った方が、深層学習モデル30の予測精度が向上するとともに、対象装置の異常な振動状態も含めた有用な情報が中間特徴量htとして抽出されることが期待できる。そのため、例えば、深層学習モデル30は、正常な状態の装置を対象として計測された物理量の第1の時系列データと、当該第1の時系列データ計測データの特定の周波数の信号成分の位相及び振幅の少なくとも一方を変更した第2の時系列データとを用いて学習を行ってもよい。また、例えば、深層学習モデル30は、正常な状態の装置を対象として計測された物理量の第1の時系列データと、当該第1の時系列データが計測された後に状態が経時変化した当該装置を対象として計測された物理量の第2の時系列データとを用いて学習を行ってもよい。いずれの例でも、第1の時系列データは正常な時系列データであり、第2の時系列データは異常な時系列データである。
【0094】
なお、上記では、状態分類部113である機械学習モデル40は、中間特徴量h1~hTを用いて対象装置の状態を分類するが、中間特徴量h1~hTに基づく情報であるコンテキストベクトルc1~cpを用いて対象装置の状態を分類してもよい。
【0095】
5.実験結果
本発明者は、異なる2つの装置であるドライポンプとローターキットからそれぞれ得た振動データのデータセットで実験を行い、本実施形態の手法の妥当性を検証した。本発明者は、ドライポンプのデータセットでは、異常なデータとして、信号処理によって位相をシフトした故障データも作成した。また、本発明者は、ローターキットのデータセットでは、ローターに固定したおもりの重さや有無を変化させることで、アンバランスによる状態の変化を再現した。
【0096】
5-1.ドライポンプを対象とする実験結果
測定対象であるドライポンプは、荏原製作所製ドライポンプAA70Wであり、メインポンプとメカニカルブースターポンプを備えており、それぞれがベアリングと歯車を備えている。ドライポンプ稼働時に発生する振動を計測するために、セイコーエプソン製の6軸デジタル出力IMUセンサーM-354を、センサーX軸が軸方向、センサーY軸が左右方向、センサーZ軸が上下方向となるようにメインポンプの上面に固定した。固定には、測定への影響のないことを確認した強力粘着薄型タイプの両面テープを用いた。データの取得のための通信プロトコルにはUARTを用い、パーソナルコンピューターにインストールした専用ロガーソフトにより2000サンプル毎秒で5.5秒間、XYZ軸加速度データ・角速度データおよび温度データを取得した。本実施形態の手法の妥当性の検証に
はこれらのデータのうち加速度データを用いた。
【0097】
また、本発明者は、X軸加速度の位相をシフトすることで故障データを人工的に作成した。具体的には、本発明者は、計測データのスペクトルは85Hz,314Hz,398Hzにピークをもっており、それぞれの周波数成分の位相をシフトすることで、3種のモードの故障データを作成した。深層学習モデルへの入力時には、それぞれのデータを1ポイントずつずらしながら64ポイントの幅で切り出して使用した。学習データとテストデータに8:2の割合で分割して使用した。
【0098】
深層学習モデルは、位相シフト前の学習データで最大2000エポック学習した。学習後のモデルにテストデータを入力し、得られたコンテキストベクトルを分類器で分類した。コンテキストベクトルの1要素ずつを分類器に入力し、そのなかで最も高い分類精度で比較した。本発明者は、分類器としてOne-class SVMを使用し、各故障モードのデータに対する検知性能を評価した。One-class SVMの識別境界からの距離を異常度としたときのAUCを評価指標とした。表1に、ベースとなる直交化なしの比較例の手法とベースに直交化を加えた本実施形態の手法とでそれぞれの検知性能の結果を示す。表1に示すように、3つの故障モードのすべてに対して、本実施形態の手法は比較例の手法に比べて高いAUCを示した。AUCは、Area Under the Curveの略である。この結果から、直交化によって故障に関する情報がより少数の要素に集約され、検知が容易になったことがわかる。
【0099】
【0100】
また、本発明者は、分類器としてSVMを使用し、異なる故障モード間での分類性能を評価した。この評価によって、故障検知後に故障モードがいずれかを推定する精度を比較する。表2に、ベースとなる直交化なしの比較例の手法とベースに直交化を加えた本実施形態の手法とで、故障モード間の分類精度を示す。表2に示すように、本実施形態の手法により、85Hz成分をシフトした故障データと314Hz成分をシフトした故障データとの分類精度、314Hz成分をシフトした故障データと398Hz成分をシフトした故障データとの分類精度が大きく向上した。これらの結果について、直交化によってそれぞれの故障モードの情報が相異なる要素に集約されたことが、精度の向上に貢献したと考えられる。なお、85Hz成分をシフトした故障データと398Hz成分をシフトした故障データとの分類精度は比較例の手法に比べて低下したが、これはそれぞれの故障に関する情報が同じ要素に集約されてしまったことが原因と考えられる。
【0101】
【0102】
5-2.ローターキットを対象とする実験結果
本発明者は、ラベル付き実データを用いた検証を行うために、新川電機製の小型転がり軸受ローターキットAA31-020を測定対象としデータ収集を行った。セイコーエプソン製の3軸デジタル出力振動センサーM-A342を、センサーY軸が軸方向、センサーX軸が左右方向、センサーZ軸が上下方向となるようにベアリングの上面に固定した。この振動センサーは、回転機器の振動計測を目的に開発されたものである。同じ特性を持つ1軸振動センサーを3軸実装してデジタル信号処理を行う構成により、10Hz~1000Hzの使用帯域におけるフラットな周波数応答特性と、3軸データ取得時における10μs以下の優れた同期精度を実現している。また、アナログ配線の取り回しを最小化する工夫により、誘導ノイズなどの影響を受けにくいという特長がある。
【0103】
センサーの固定には、測定への影響のないことを確認した強力粘着薄型タイプの両面テープを用いた。データの取得のための通信プロトコルにはUARTを用い、パーソナルコンピューターにインストールした専用ロガーソフトにより3000サンプル毎秒でXYZ軸速度データおよび温度データを取得した.アンバランスの僅かな変化による振動の変化を検出し分類することを目的とし、ローターに固定した部品に対して、厚いものと薄いものの2種類のワッシャーの有無を変えたものを1200rpmで回転させ、それぞれの固定状態をラベルとしたデータを検証に用いることにした。ワッシャーの有無によってローターの状態が異なる6クラスのデータを用意した。
図9に、各クラスのワッシャーの付与とそのラベル名を示す。なお、
図9は、ローター及びローターに固定した部品をローターの回転軸の方向から視た図である。
【0104】
本発明者は、クラス間でワッシャーの有無による振動RMS値に有意差のないことを確認している。深層学習モデルへの入力時には、それぞれのデータを32ポイントずつずらしながら64ポイントの幅で切り出して使用した。学習データとテストデータに3:1の割合で分割して使用した。
【0105】
深層学習モデルは、全クラスの学習データを用いて最大500エポックで学習した。本発明者は、学習後のモデルにテストデータを入力し、得られたコンテキストベクトルを用いてクラス間の分離性能を評価した。評価にはシルエット係数を指標として使用した。シルエット係数はクラス間距離とクラス内凝集度を反映し、分離性能が高いほど大きい値を示す。コンテキストベクトルのそれぞれ1要素を使用した時のシルエット係数を算出し、そのなかで最も高い値で比較した。表3に、ベースラインである比較例の手法を用いた時のシルエット係数を示す。また、表4に、本実施形態の手法を用いた時のシルエット係数を示す。表3及び表4では、2クラス間のシルエット係数をすべての組合せで示している。また、すべての組合せでのシルエット係数の平均は比較例の手法で0.9071であり、本実施形態の手法で0.9239であり、本実施形態の手法が比較例の手法を上回った。表3及び表4から、状態の変化が小さいもの、すなわち、薄いワッシャーをつけたもので本実施形態の手法が優れる傾向がみられる。
【0106】
【0107】
【0108】
6.作用効果
以上に説明した本実施形態の状態分類方法によれば、深層学習モデル30が回帰型ニューラルネットワークを用いたエンコーダー31及びデコーダー33を含むので、計測データを時系列データのまま学習に使用することができる。すなわち、計測データを位相情報が欠落した周波数スペクトラムやスペクトログラムに変換せずに、位相情報を保持した時系列データのまま学習に使用することができる。そのため、深層学習モデル30のエンコーダー31から出力される中間特徴量h1~hTには対象装置の振動の位相情報も含まれている。したがって、本実施形態の状態分類方法によれば、機械学習モデル40が、中間特徴量h1~hTに基づく情報を用いて、周波数スペクトラムやスペクトログラムのRMS値では検出できない対象装置の振動の位相変化をとらえることにより、対象装置の状態を精度よく分類することができる。
【0109】
また、本実施形態の状態分類方法によれば、複数チャンネルの計測データを用いるので、計測データに含まれる位相情報が相対的に多くなり、対象装置の振動の位相変化をとらえやすくなるので、対象装置の状態をより精度よく分類することができる。
【0110】
また、本実施形態の状態分類方法によれば、深層学習モデル30を用いることにより、時系列データである計測データの非線形性を含む特徴を捉えることができる。さらに、本実施形態の状態分類方法によれば、深層学習モデル30が、将来の計測データを予測する学習を行うことで、中間特徴量h1~hTに計測データの情報を効率よく圧縮して集約することができる。
【0111】
また、本実施形態の状態分類方法によれば、エンコーダー31及びデコーダー33に用いられる回帰型ニューラルネットワークがLSTMであるので、データ長の大きな時系列データを入力して学習させることにより得られた予測精度の高い深層学習モデル30を用いて、対象装置の状態を精度よく分類することができる。
【0112】
また、本実施形態の状態分類方法によれば、直交化により中間特徴量htに含まれる複数の要素ct
1~ct
nの間で相互相関が弱くなるように学習が行われた深層学習モデル30を用いるので、計測データの特徴毎の情報が中間特徴量htの別々の要素に格納されて分離されやすくなる。このような中間特徴量h1~hTを用いることにより、対象装置の状態の分類や解釈が容易になる。
【0113】
また、本実施形態の状態分類方法によれば、対象装置に対して計測された第1の時系列データと、第1の時系列データの特定の周波数の信号成分の位相及び振幅の少なくとも一方を変更することにより対象装置の異常状態を模擬した第2の時系列データとを用いて学習が行われた深層学習モデル30を用いることにより、対象装置の状態の分類性能が向上する。この場合、深層学習モデル30の学習において、収集が困難な対象装置の異常状態に対応する実データを必要としない。
【0114】
また、本実施形態の状態分類方法によれば、対象装置の状態が経時変化する前後に計測された第1の時系列データ及び第2の時系列データを用いて学習が行われた深層学習モデル30を用いることにより、対象装置の状態の分類性能が向上する。
【0115】
上述した実施形態および変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば、上述の実施形態ではニューラルネットワークとして、LSTMを採用したが、ニューラルネットワークとしてLSTMではなく、3DCNN(3D Convolutional Neural Network)などの時系列処理が可能なCNN、LSTMを含むRNN(Recurrent Neural Network)又は言語翻訳に使用されるTransformerが採用されてもよい。また、対象装置の状態の分類において、例えば、対象装置に接続される負荷が変化する場合、対象装置の動作モードが変化する場合等、正常状態としてさらに複数種類の状態に分類されるようにしてもよい。また、分類器としてOne-class SVMを採用したが、その他の手法を用いてもよいし、異常データを学習させてもよい。例えば、異常の種類に応じてクラス分けされたkクラスSVMを用いて異常検知を行い、異常の種類も検知してもよい。また、状態変化あるいは状態変化の度合いを検知してもよい。その場合、状態変化及び状態変化の度合いの検知には、異常検知と同様にOne-class SVMなどを用いてもよい。各実施形態および各変形例を適宜組み合わせることも可能である。
【0116】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【0117】
上述した実施形態および変形例から以下の内容が導き出される。
【0118】
状態分類方法の一態様は、
振動する装置を対象として計測された振動に関する物理量の計測データを取得する工程と、
回帰型ニューラルネットワークを用いたエンコーダー及びデコーダーを含み、前記装置を対象として前記計測データの将来の値を予測する深層学習を行った深層学習モデルが、
前記計測データに基づいて、前記エンコーダーから前記振動の中間特徴量を出力する工程と、
前記中間特徴量に基づく情報を用いて、前記装置の状態を分類する工程と、
を含む。
【0119】
この状態分類方法によれば、深層学習モデルが回帰型ニューラルネットワークを用いたエンコーダー及びデコーダーを含むので、計測データを時系列データのまま学習に使用することができる。すなわち、計測データを位相情報が欠落した周波数スペクトラムやスペクトログラムに変換せずに、位相情報を保持した時系列データのまま学習に使用することができる。そのため、深層学習モデルのエンコーダーから出力される中間特徴量には装置の振動の位相情報も含まれている。したがって、この状態分類方法によれば、中間特徴量に基づく情報を用いて、周波数スペクトラムやスペクトログラムのRMS値では検出できない装置の振動の位相変化をとらえることにより、装置の状態を精度よく分類することができる。
【0120】
また、この状態分類方法によれば、深層学習モデルを用いることにより、時系列データである計測データの非線形性を含む特徴を捉えることができる。さらに、この状態分類方法によれば、深層学習モデルが、将来の計測データを予測する学習を行うことで、中間特徴量に計測データの情報を効率よく圧縮して集約することができる。
【0121】
前記状態分類方法の一態様において、
前記回帰型ニューラルネットワークは、LSTM(Long Short Term Memory)であってもよい。
【0122】
この状態分類方法によれば、データ長の大きな時系列データを入力して学習させることにより得られた予測精度の高い深層学習モデルを用いて、装置の状態を精度よく分類することができる。
【0123】
前記状態分類方法の一態様において、
前記深層学習は、前記中間特徴量に含まれる複数の要素の間で直交化が進むように定義された損失関数の値が小さくなる方向に行われた学習であってもよい。
【0124】
この状態分類方法によれば、中間特徴量に含まれる複数の要素の間で相互相関が弱くなるように学習が行われた深層学習モデルを用いるので、計測データの特徴毎の情報が中間特徴量の別々の要素に格納されて分離されやすくなる。このような中間特徴量を用いることにより、装置の状態の分類や解釈が容易になる。
【0125】
前記状態分類方法の一態様において、
前記複数の要素の自己相関の値が大きいほど前記損失関数の値が小さくなり、前記複数の要素の相互相関の値が小さいほど前記損失関数の値が小さくなってもよい。
【0126】
この状態分類方法によれば、中間特徴量に含まれる複数の要素の間で相互相関が弱くなるように学習が行われた深層学習モデルを用いて、装置の状態を精度よく分類することができる。
【0127】
前記状態分類方法の一態様において、
前記計測データは、複数チャンネルの計測データであってもよい。
【0128】
この状態分類方法によれば、計測データに含まれる位相情報が相対的に多くなるので、装置の振動の位相変化をとらえやすくなり、装置の状態をより精度よく分類することがで
きる。
【0129】
前記状態分類方法の一態様において、
前記深層学習は、前記装置を対象として計測された前記物理量の第1の時系列データと、前記第1の時系列データの特定の周波数の信号成分の位相及び振幅の少なくとも一方を変更した第2の時系列データとを用いて行われた学習であってもよい。
【0130】
この状態分類方法によれば、装置の異常状態を模擬した時系列データを用いて学習が行われた深層学習モデルを用いるので、装置の状態の分類性能が向上する。また、深層学習モデルの学習において、収集が困難な装置の異常状態に対応する実データを必要としない。
【0131】
前記状態分類方法の一態様において、
前記深層学習は、前記装置を対象として計測された前記物理量の第1の時系列データと、前記第1の時系列データが計測された後に状態が経時変化した前記装置を対象として計測された前記物理量の第2の時系列データとを用いて行われた学習であってもよい。
【0132】
この状態分類方法によれば、装置の状態が経時変化する前後の時系列データを用いて学習が行われた深層学習モデルを用いるので、装置の状態の分類性能が向上する。
【0133】
状態分類装置の一態様は、
振動する装置を対象として計測された振動に関する物理量の計測データを取得する計測データ取得部と、
回帰型ニューラルネットワークを用いたエンコーダー及びデコーダーを含み、前記装置を対象として前記計測データの将来の値を予測する深層学習を行った深層学習モデルが、前記計測データに基づいて、前記エンコーダーから前記振動の中間特徴量を出力する中間特徴量出力部と、
前記中間特徴量に基づく情報を用いて、前記装置の状態を分類する状態分類部と、
を備える。
【0134】
この状態分類装置によれば、装置の振動の位相情報が含まれる中間特徴量に基づく情報を用いて、周波数スペクトラムやスペクトログラムのRMS値では検出できない装置の振動の位相変化をとらえることにより、装置の状態を精度よく分類することができる。
【0135】
状態分類プログラムの一態様は、
振動する装置を対象として計測された振動に関する物理量の計測データを取得する工程と、
回帰型ニューラルネットワークを用いたエンコーダー及びデコーダーを含み、前記装置を対象として前記計測データの将来の値を予測する深層学習を行った深層学習モデルが、前記計測データに基づいて、前記エンコーダーから前記振動の中間特徴量を出力する工程と、
前記中間特徴量に基づく情報を用いて、前記装置の状態を分類する工程と、
をコンピューターに実行させる。
【0136】
この状態分類プログラムによれば、装置の振動の位相情報が含まれる中間特徴量に基づく情報を用いて、周波数スペクトラムやスペクトログラムのRMS値では検出できない装置の振動の位相変化をとらえることにより、装置の状態を精度よく分類することができる。
【符号の説明】
【0137】
1…真空ポンプ、3…筐体、4…モーターケース、5…接続部、6…ポンプケース、7…ギアケース、8…第1側壁、9…第2側壁、11…吸気管、12…排気管、13…第1脚部、14…第3脚部、15…第1ボルト、17…センサーユニット、20…基台、30…深層学習モデル、31…エンコーダー、32…アテンション、33…デコーダー、40…機械学習モデル、100…状態分類装置、110…処理回路、111…計測データ取得部、112…中間特徴量出力部、113…状態分類部、120…記憶回路、121…状態分類プログラム、130…操作部、140…表示部、150…音出力部、160…通信部、200…センサー、210…アナログフロントエンド、311-1~311-T…LSTMセル、312-1~312-T…LSTMセル、313-1~313-T…加算器、331-1~331-p…LSTMセル、332-1~332-p…予測部