(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024103284
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】医療用容器
(51)【国際特許分類】
A61J 1/05 20060101AFI20240725BHJP
【FI】
A61J1/05 311
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023007540
(22)【出願日】2023-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 祐子
(72)【発明者】
【氏名】古賀 智子
【テーマコード(参考)】
4C047
【Fターム(参考)】
4C047AA01
4C047AA05
4C047AA11
4C047AA21
4C047AA22
4C047BB19
4C047BB28
4C047BB35
4C047CC04
4C047CC05
4C047CC07
4C047CC24
4C047CC25
4C047CC30
4C047GG40
(57)【要約】
【課題】バイオマス原料を用いた、生体物質の吸着が抑制された医療用容器を提供する。
【解決手段】2,5-フランジカルボン酸に由来する構造単位を有するポリエステルを用いてなる医療用容器。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2,5-フランジカルボン酸に由来する構造単位を有するポリエステルを用いてなる医療用容器。
【請求項2】
前記ポリエステルの固有粘度が0.3~4.0dL/gである、請求項1に記載の医療用容器。
【請求項3】
前記ポリエステルが生体分子又は生体分子を含む組成物と接触する、請求項1又は2に記載の医療用容器。
【請求項4】
前記生体分子が、タンパク質、脂質、核酸、ホルモン、糖、アミノ酸、細胞、及び組織からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項3に記載の医療用容器。
【請求項5】
前記生体分子は、生体由来の生体分子及び人工的に調製された生体分子を含む、請求項4に記載の医療用容器。
【請求項6】
前記人工的に調製された生体分子が、抗体医薬品、抗体薬物複合体、核酸医薬品、部分修飾された核酸医薬品、これらのうち1種以上を担持する薬物送達キャリアからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項5に記載の医療用容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用容器に関する。
【背景技術】
【0002】
医療用容器は、ウイルスや菌の感染症予防のため、シングルユースが主流となっている。これまで医療用容器として一般的に用いられてきたガラスは、重くて割れやすい、さらにアルカリイオン等が溶出する、燃やせないため廃棄が困難という理由から、シングルユースに適したプラスチックが用いられるようになっている。一般的にポリエチレン、ポリプロピレン、環状オレフィン(COP)やポリ塩化ビニルなどが用いられている。
【0003】
特許文献1には、少なくともA層、B層、C層をこの順に有する3層以上の積層体であって、A層、又はA層及びC層が特定のポリエチレン樹脂組成物からなり、B層が熱可塑性樹脂からなることを特徴とする積層体よりなり、A層を内層とすることを特徴とする医療容器が記載されている。
【0004】
特許文献2には、熱可塑性ノルボルネン系樹脂からなる医療用器材が記載されている。
【0005】
特許文献3には、ノルボルネン系単量体の開環重合体水素添加物、ノルボルネン系単量体の付加型重合体、及びノルボルネン系単量体とオレフィンの付加型重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種の熱可塑性ノルボルネン系樹脂であって、単一の金属原子の含有量が1ppm以下である熱可塑性ノルボルネン系樹脂からなることを特徴とする医療用器材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2022-124557号公報
【特許文献2】特開平5-317411号公報
【特許文献3】特開2003-183361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1には、ポリエチレンを用いた医療容器が記載されているが、一般的にポリエチレンは、溶出物が多く、耐熱性に劣り、生体分子の吸着が多いという問題がある。
特許文献2及び特許文献3には、熱可塑性ノルボルネン系樹脂を用いた医療用器材が記載されているが、一般的に熱可塑性ノルボルネン系樹脂は石油由来原料を用いており、環境への配慮が十分ではない。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、バイオマス原料を用いた、生体分子の吸着が抑制された医療用容器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下の態様を含む。
[1]2,5-フランジカルボン酸に由来する構造単位を有するポリエステルを用いてなる医療用容器。
[2]前記ポリエステルの固有粘度(IV)が0.3~4.0dL/gである、[1]に記載の医療用容器。
[3]前記ポリエステルが生体分子又は生体分子を含む組成物と接触する、[1]又は[2]に記載の医療用容器。
[4]前記生体分子が、タンパク質、脂質、核酸、ホルモン、糖、アミノ酸、細胞、及び組織からなる群から選択される少なくとも1種を含む、[3]に記載の医療用容器。
[5]前記生体分子は、生体由来の生体分子及び人工的に調製された生体分子を含む、[4]に記載の医療用容器。
[6]前記人工的に調製された生体分子が、抗体医薬品、抗体薬物複合体、核酸医薬品、部分修飾された核酸医薬品、及びこれらのうち1種以上を担持する薬物送達キャリアからなる群から選択される少なくとも1種を含む、[5]に記載の医療用容器。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、バイオマス原料を用いた、生体分子の吸着が抑制された医療用容器を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下では本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、本発明は後述する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限り種々の変更が可能である。
【0012】
本発明の医療用容器は、2,5-フランジカルボン酸(下記式(1)で表される化合物)に由来する構造単位を有するポリエステルを用いてなる医療用容器である。
【0013】
【0014】
本発明において、「・・・・に由来する構造単位」とは、原料の単量体(モノマー)に由来して、ポリマー(ポリエステル)に取り込まれた構造単位をさす。以下、「に由来する構造単位」は単に「単位」と称す場合がある。例えば「ジオールに由来する構造単位」を「ジオール単位」、「ジカルボン酸に由来する構造単位」を「ジカルボン酸単位」、「2,5-フランジカルボン酸に由来する構造単位」を「2,5-フランジカルボン酸単位」と各々称す場合がある。
【0015】
[本発明に係るポリエステル]
<ジカルボン酸単位>
本発明に係るポリエステルは、ジカルボン酸単位として、上記構造式(1)で表される2,5-フランジカルボン酸に由来する構造単位を主たる構造単位として有する。すなわち、本発明のポリエステルの製造に用いられる際には、2,5-フランジカルボン酸及び/又はこれらの誘導体を用いて製造される。ここで2,5-フランジカルボン酸単位として取り込まれる2,5-フランジカルボン酸の誘導体としては、2,5-フランジカルボン酸の無水物、2,5-フランジカルボン酸の炭素数1~4の低級アルキルエステル、2,5-フランジカルボン酸の塩化物等が挙げられる。中でもメチルエステル、エチルエステル、n―プロピルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル等が好ましく、更に好ましくはメチルエステルである。
【0016】
ポリエステルを構成するジカルボン酸単位中の2,5-フランジカルボン酸単位の割合は特に限定されないが、好ましくは50モル%以上であり、より好ましくは60モル%以上であり、更に好ましくは70モル%以上であり、特に好ましくは80モル%以上である。また上限は特になく100モル%でも良い。これらの範囲であることで、ポリエステルの結晶性が維持され、耐熱性やバリア性が得られる傾向にある。
【0017】
本発明に係るポリエステルは、ジカルボン酸単位として、2,5-フランジカルボン酸単位以外の構造単位を有していても良い。他のジカルボン酸単位を構成するジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸;1,6-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸及びテレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸等が挙げられる。これらは無水物及び/又は誘導体であってもよい。本発明に係るポリエステルが有する2,5-フランジカルボン酸以外のジカルボン酸単位は、1種のみであっても、任意の組み合わせと比率の2種以上であってもよい。
【0018】
本発明に係るポリエステルが有する2,5-フランジカルボン酸単位以外のジカルボン酸単位の割合は、本発明に係るポリエステルが有する全ジカルボン酸単位100モル%中に、通常50モル%以下、好ましくは30モル%以下、より好ましくは20モル%以下、さらに好ましくは10モル%以下であることがよい。そして本発明に係るポリエステルは、2,5-フランジカルボン酸単位以外のジカルボン酸単位を有さないことが最も好ましい。
【0019】
<ジオール単位>
本発明に係るポリエステルは、ジオール単位を有する。すなわち本発明に係るポリエステルは、原料として、ジオールを用いて製造される。本発明に係るポリエステルが有するジオール単位としては、特に制限はない。
【0020】
本発明に係るポリエステルが有するジオール単位を構成するジオールとしては、例えば、1,2-エタンジオール、2,2’-オキシジエタノール、2,2’-(エチレンジオキシ)ジエタノール、1,3-プロパンジオール、1,2-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等の脂肪族ジオール;1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、イソソルバイド等の脂環式ジオール、及びキシリレングリコール、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4’-β-ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4-β-ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン等の芳香族ジオール等が挙げられる。
本発明に係るポリエステルが有するジオール単位は、1種のみであっても、任意の組み合わせと比率の2種以上であってもよい。
【0021】
本発明に係るポリエステルが有するジオール単位の割合は、本発明に係るポリエステルが有する全ジオール単位100モル%中に、通常50モル%以上、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、更に好ましくは90モル%以上であることがよい。
【0022】
<他の共重合成分に由来する構造単位>
本発明に係るポリエステルは、ジカルボン酸単位及びジオール単位以外の、共重合成分に由来する構造単位を有していてもよい。少量の共重合成分としては、芳香族ヒドロキシ化合物、ビスフェノール、ヒドロキシカルボン酸、ジアミン、これらの誘導体や3官能以上の官能基を含有する化合物等が挙げられる。
【0023】
共重合可能なヒドロキシカルボン酸及びヒドロキシカルボン酸誘導体としては、分子中に1個の水酸基とカルボキシル基を有する化合物又はその誘導体であれば特に限定されるものではない。ヒドロキシカルボン酸及びヒドロキシカルボン酸誘導体としては、分子中に1個の水酸基とカルボキシル基を有する化合物又はその誘導体であれば特に限定されるものではない。ヒドロキシカルボン酸及びヒドロキシカルボン酸誘導体の具体例としては、乳酸、グリコール酸、2-ヒドロキシ-n-酪酸、2-ヒドロキシカプロン酸、6-ヒドロキシカプロン酸、2-ヒドロキシ3,3-ジメチル酪酸、2-ヒドロキシ3-メチル酪酸、2-ヒドロキシイソカプロン酸、マンデル酸、サリチル酸、p-ヒドロキシ安息香酸、及びこれらのエステル、酸塩化物、酸無水物等が挙げられる。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
また、これらに光学異性体が存在する場合には、D体、L体、又はラセミ体のいずれでもよく、形態としては固体、液体、又は水溶液であってもよい。
【0024】
共重合可能な3官能以上の官能基を有する化合物としては、3官能以上の多価アルコール、3官能以上の多価カルボン酸(或いはその無水物、酸塩化物、又は低級アルキルエステル)、3官能以上のヒドロキシカルボン酸(或いはその無水物、酸塩化物、又は低級アルキルエステル)及び3官能以上のアミン類などが挙げられる。
【0025】
3官能以上の多価アルコールとしては、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。3官能以上の多価カルボン酸又はその無水物としては、トリメシン酸、プロパントリカルボン酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、シクロペンタテトラカルボン酸無水物等が挙げられる。3官能以上のヒドロキシカルボン酸としては、リンゴ酸、ヒドロキシグルタル酸、ヒドロキシメチルグルタル酸、酒石酸、クエン酸、ヒドロキシイソフタル酸、ヒドロキシテレフタル酸等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせと比率で用いてもよい。
【0026】
本発明に係るポリエステルが有する、他の共重合成分に由来する構造単位の割合は、溶融粘度の点では多いことが好ましい。一方で、本発明に係るポリエステルが有する、ほかの共重合成分に由来する構造単位の割合は、ポリマーの架橋が適度に進行し、安全にストランドを抜き出しやすく、成形性や機械物性に優れる点では少ないことが好ましい。そこで、本発明に係るポリエステルが有する、他の共重合成分に由来する構造単位の割合は、本発明に係るポリエステルを構成する全構造単位の合計100モル%に対して、5モル%以下、特に4モル%以下、とりわけ3モル%以下とすることが好ましい。
【0027】
本発明に係るポリエステルが有するジカルボン酸単位とジオール単位の合計割合は、本発明に係るポリエステルを構成する全構造単位の合計100モル%に対して、95モル%以上、特に96モル%以上、とりわけ97モル%以上とすることが好ましい。
【0028】
<鎖延長剤>
本発明に係るポリエステルの製造に際し、カーボネート化合物、ジイソシアネート化合物、ジオキサゾリン化合物、珪酸エステル等の鎖延長剤を使用してもよい。例えば、本発明に係るポリエステルの製造に際し、ジフェニルカーボネート等のカーボネート化合物をポリエステルの全構造単位100モル%に対して、20モル%以下、好ましくは10モル%以下となるように用いて、ポリエステルカーボネートを得ることもできる。
【0029】
この場合、カーボネート化合物としては、具体的には、ジフェニルカーボネート、ジトリールカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、m-クレジルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、エチレンカーボネート、ジアミルカーボネート、ジシクロヘキシルカーボネート等が例示される。その他、フェノール類、アルコール類のようなヒドロキシ化合物から誘導される、同種又は異種のヒドロキシ化合物からなるカーボネート化合物も、本発明に係るポリエステルの製造に際し、使用可能である。
【0030】
また、ジイソシアネート化合物としては、具体的には、2,4-トリレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネートと2,6-トリレンジイソシアネートとの混合体、ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5-ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の公知のジイソシアネートなどが例示できる。
【0031】
珪酸エステルとしては、具体的には、テトラメトキシシラン、ジメトキシジフェニルシラン、ジメトキシジメチルシラン、ジフェニルジヒドロキシラン等が例示できる。
【0032】
これらはいずれも1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせと比率で使用してもよい。
【0033】
<末端封止剤>
本発明に係るポリエステルの製造に際しては、ポリエステル末端基を、カルボジイミド、エポキシ化合物、単官能性のアルコール又はカルボン酸で封止してもよい。
【0034】
この場合、末端封止剤として用いるカルボジイミド化合物としては、分子中に1個以上のカルボジイミド基を有する化合物(ポリカルボジイミド化合物を含む)等が挙げられる。具体的には、モノカルボジイミド化合物として、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、t-ブチルイソプロピルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、ジ-t-ブチルカルボジイミド、ジ-β-ナフチルカルボジイミド、N,N’-ジ-2,6-ジイソプロピルフェニルカルボジイミド等が例示される。
【0035】
これらのポリエステル末端基の封止剤は、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせと比率で使用してもよい。
【0036】
<ポリエステル樹脂の物性>
(I)固有粘度(IV)
ポリエステル樹脂の固有粘度(IV)は、0.3dL/g以上であるが、0.5dL/g以上であってよく、0.6dL/g以上であってよく、好ましくは0.7dL/g以上である。固有粘度の上限は通常4.0dL/g以下、好ましくは3.0dL/g以下、より好ましくは2.0dL/g以下、更に好ましくは1.5dL/g以下である。固有粘度が上記下限値以上であることで、フィルムや射出成型品を成形しやすくなり、また得られた成形体の強度が得られる傾向にある。一方、固有粘度が上記上限値以下であることで、成形が容易となる傾向にある。
【0037】
ポリエステルの固有粘度(IV)は、通常、以下の方法により測定することができる。先ず、樹脂を溶媒に溶解させ、濃度c(g/dL)の樹脂溶液を調製する。次いで、毛細管粘度計(ウベローデ粘度計)を用いて、温度30.0℃±0.1℃の条件で溶媒の通過時間t0と樹脂溶液の通過時間tを測定し、次式(i)に基づいて還元粘度を算出する。
還元粘度(ηsp/c)=(t-t0)/t0c (i)
固有粘度[η]は、次式(ii)より、還元粘度(ηsp /c)をポリマー濃度cがゼロになるように外挿することで求められる。kはハギンス定数である。
還元粘度(ηsp/c)=[η]+k[η]2c (ii)
なお、本発明において、ポリエステル樹脂の固有粘度(IV)は、フェノール/1,1,2,2-テトラクロロエタン(1:1重量比)中、ポリエステル樹脂濃度0.5g/dLで、30℃にて測定した溶液粘度から求められたものである。
【0038】
<ポリエステルの製造方法>
本発明に係るポリエステルの製造方法としては、ポリエステル樹脂の製造に関する公知の方法が採用できる。また、この際の反応条件は、従来から採用されている公知の反応条件から適切な条件を設定することができ、特に制限されない。
【0039】
例えば、本発明に係るポリエステルは、2,5-フランジカルボン酸成分を必須成分とするジカルボン酸成分と、ジオールとを、エステル化反応及び/又はエステル交換反応させた後、重縮合反応を行うといった溶融重合の一般的な方法が採用できる。また、溶液重合を行った後に更に固相重合を行う方法を用いることができる。
ポリエステルは、好ましくは、触媒の存在下で製造される。用いられる触媒は、後記の触媒が挙げられ、添加するタイミング、量等も適宜調整することができる。
【0040】
ここで「・・・成分」とは、ポリエステルにおいて、当該単位となる化合物を言う。すなわち「2,5-フランジカルボン酸成分」は、ポリエステルにおいて、2,5-フランジカルボン酸単位となる2,5-フランジカルボン酸及び/又はその誘導体のことを言う。また「ジカルボン酸成分」はポリエステルにおいて、ジカルボン酸単位となるジカルボン酸及び/又はその誘導体のことを言う。
【0041】
本発明に係るポリエステルの製造に用いる、ジカルボン酸及び/又はその誘導体、ジオール及び他の共重合成分等の原料の種類等については、前述したとおりである。すなわち、本発明に係るポリエステルの原料となるジカルボン酸は2,5-フランジカルボン酸成分以外のジカルボン酸成分(ジカルボン酸、ジカルボン酸無水物、ジカルボン酸の低級アルキルエステル(アルキル基の炭素数1~4)、ジカルボン酸の塩化物等)を併用してもよい。そして、必要な物性等に応じて他の共重合成分等を併用してもよい。また、反応に際しては、必要な物性等に応じて、前述の鎖延長剤や末端封止剤を用いてもよい。
【0042】
エステル化またはエステル交換反応は、通常、ジカルボン酸成分及びジオールと、必要に応じて用いられるその他の共重合成分等を、撹拌機及び留出配管を備えた反応槽に仕込み、好ましくは触媒の存在下、不活性ガス雰囲気の減圧下で撹拌しつつ行う。ここで、反応により生じた水分等の副生成物は、系外へ留去しながら反応を進行させる。
【0043】
ポリエステルの製造方法において、ジカルボン酸成分とジオールの仕込モル比は、特に限定されない。ジカルボン酸成分1モルに対するジオールの量として、0.9モル以上が好ましく、1.0モル以上がより好ましく、1.01モル以上が更に好ましい。また、4.0モル以下が好ましく、3.5モル以下がより好ましく、3.0モル以下が更に好ましい。これらの範囲で仕込モル比を設定することで、製造時の昇華物が抑制され、留出配管を閉塞しない傾向にある。また、得られるポリエステルの分子量を十分に上げることができる傾向にある。
【0044】
<触媒>
本発明に係るポリエステルの製造に用いる触媒としては、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルの製造に用いることのできる任意の触媒を選択することができ、特に制限されない。例えば、ゲルマニウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、アンチモン、スズ、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、アルミニウム、コバルト、鉛、セシウム、マンガン、リチウム、カリウム、ナトリウム、銅、バリウム、カドミウム等の金属化合物が好適である。触媒としては、中でも、高活性である点から、ゲルマニウム化合物、チタン化合物、マグネシウム化合物、スズ化合物、亜鉛化合物、鉛化合物が好適であり、チタン化合物が最も好ましい。
【0045】
触媒として使用されるチタン化合物としては、特に制限されない。好ましい例としては、例えば、テトラプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、テトラエチルチタネート、テトラヒドロキシエチルチタネート、テトラフェニルチタネート等のテトラアルコキシチタネート等の有機チタン化合物が挙げられる。これらの中では、価格や入手の容易さ等から、テトラプロピルチタネート、テトラブチルチタネート等が好ましく、高活性である点から、最も好ましい触媒はテトラブチルチタネートである。
【0046】
これらの触媒は、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせと比率で併用してもよい。
【0047】
触媒の使用量は、多い方が、重合反応速度が速いため好ましい。また、触媒の使用量は、触媒コスト、ポリエステル中の触媒残渣量の低減、ポリエステルの安定性が良好な点から少ないことが好ましい。そこで、触媒の使用量は、生成するポリエステルに残存する触媒由来の金属換算量で、下限値は、好ましくは0.0001重量%、より好ましくは0.0005重量%、更に好ましくは0.001重量%である。また、上限値は、好ましくは1重量%、より好ましくは0.5重量%、更に好ましくは0.1重量%である。
【0048】
触媒をポリエステルの原料組成物に添加するタイミングは、ポリエステルを製造する際に触媒が機能できれば、特に限定されない。すなわち、触媒は、原料仕込み時に添加しておいてもよく、減圧開始時に添加してもよい。触媒は、原料仕込み時と減圧開始時に分けて添加してもよい。
【0049】
<反応条件>
本発明に係るポリエステルの製造は、通常、エステル化またはエステル交換反応によって生成する留出物を反応系外に留去させながら重合度を高めていくことにより行われる。反応は、加熱と減圧を適用することによって進行させる。
【0050】
反応温度は、十分な重合度を有するポリエステル得やすい点では高いことが好ましい。一方で、反応温度は、ポリエステルの熱分解や着色、ジオールの環化によるエーテル化合物の副生や熱分解等の副反応が抑制され、ポリエステルの末端酸価が大きくなりすぎない点から低いことが好ましい。具体的には、反応温度は、通常300℃以下、好ましくは290℃以下、更に好ましくは280℃以下がよい。
【0051】
反応は、任意の温度に到達した時点で減圧を開始し、最終的な減圧度は、通常1.33×103Pa以下、好ましくは0.40×103Pa以下の条件で行うことがよい。減圧時間は、通常1時間以上、好ましくは2~15時間で行うことがよい。
【0052】
上述の溶融重合によって得られたポリエステルについて、更に融点以下の温度で重合させる固相重合を行ってもよい。本発明に係るポリエステルは、平面性が高いことから結晶性を有する。そこで、上述の溶融重合によって得られたポリエステルは、更に固相重合を施すことにより、分子量を上げることが可能である。
【0053】
固相重合を行う場合、通常、ペレット状または粉末状のポリエステルを、窒素ガス雰囲気下、または減圧下において加熱する。この場合の温度条件は、通常80~260℃、好ましくは100~250℃の範囲で選ぶのがよい。固相重合は、通常、溶融重合より低い温度で重合反応が行われる。そこで、固相重合を行った場合は、溶融重合のみの場合に比べ、ポリエステルの熱分解や加水分解等の副反応が抑えられ、末端酸価が低く、着色が少なく、分子量が大きなポリエステルを得やすい。
【0054】
<添加剤>
本発明に係るポリエステルの製造では、その特性が損なわれない範囲において、各種の添加剤を用いてもよい。添加剤としては、熱安定剤、酸化防止剤(例えば、ヒンダードフェノール、ハイドロキノン、ホスファイト、チオエーテル類およびこれらの置換体など)着色防止剤(例えば、亜リン酸塩、次亜リン酸塩など)、加水分解防止剤、結晶核剤、可塑剤、難燃剤(臭素系難燃剤、燐系難燃剤、赤燐、シリコーン系難燃剤など)、難燃助剤、帯電防止剤、滑剤、離型剤、紫外線吸収剤(例えば、レゾルシノール、サリシレートなど)、染料または顔料を含む着色剤、導電剤等が挙げられる。
【0055】
これらの添加剤は、重合反応前に反応装置に添加してもよいし、重合反応開始から重合反応終了前に添加してもよいし、重合反応終了後の生成物の抜出前に添加してもよい。また、抜出後の生成物に添加剤を添加しよもよい。また、ポリエステルを成形する時に、結晶核剤、強化剤、増量剤等を添加して、ポリエステルと共に成形してもよい。
【0056】
本発明に係るポリエステルの製造に用いる結晶核剤としては、ガラス繊維、炭素繊維、チタンウィスカー、マイカ、タルク、窒化ホウ素、CaCO3、TiO2、シリカ、層状ケイ酸塩、ポリエチレンワックス及びポリプロピレンワックス等が挙げられる。これらのうち、結晶核剤としては、タルク、窒化ホウ素、シリカ、層状ケイ酸塩、ポリエチレンワックス及びポリプロピレンワックスが好ましく、中でもタルク及びポリエチレンワックスが好ましい。これらの結晶核剤は、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせと比率で併用してもよい。
【0057】
結晶核剤が無機材料である場合、結晶核剤の添加効果の面から、その粒径は小さいことが好ましい。結晶核剤の平均粒径は、好ましくは5μm以下、より好ましくは3μm以下、更に好ましくは1μm以下、最も好ましくは0.5μm以下である。結晶核剤の平均粒径の下限は、通常0.1μmである。
【0058】
本発明に係るポリエステルの製造に用いる結晶核剤の量は、ポリエステルに対して、好ましくは0.001重量%以上、より好ましくは0.01重量%以上、更に好ましくは0.1重量%以上である。また、結晶核剤の量の上限は、ポリエステルに対して、好ましくは30重量%、より好ましくは10重量%、更に好ましくは5重量%、最も好ましくは1重量%以下である。結晶核剤の量が多いと、結晶化促進の効果を十分に得やすい点で好ましい。結晶核剤の量が少ないと、ポリエステル本来の機械物性及びしなやかさ等が十分に得やすい、溶出物が低減される点で好ましい。
【0059】
上述した核剤以外の、他の機能を目的とした添加剤が、核剤として作用する場合もある。例えば剛性改良のために用いる無機系フィラー、熱安定剤として用いる有機安定剤、樹脂の製造又は成形加工過程で混入した異物等も結晶核剤となり得る。従って、本発明でいう結晶核剤とは、通常で固体であり、結晶成長に寄与する微小物質物が含まれる。
【0060】
<フィラー>
本発明に係るポリエステルの製造には、各種のフィラーを用いてもよい。ポリエステルの製造において、フィラーは、ポリエステルの剛性の改良及び滑剤等として機能する。本発明に係るポリエステル中のフィラーの含有量は、多い方が、その添加効果が十分に得られやすい点で好ましい。本発明に係るポリエステル中のフィラーの含有量は、少ない方が、ポリエステル本来の引張伸びや耐衝撃性が維持されたポリエステルを得やすい点で好ましい。
【0061】
ポリエステルの製造に用いるフィラーは、無機系でも有機系でもよい。
【0062】
無機系フィラーとしては、無水シリカ、雲母、タルク、酸化チタン、炭酸カルシウム、ケイ藻土、アロフェン、ベントナイト、チタン酸カリウム、ゼオライト、セピオライト、スメクタイト、カオリン、カオリナイト、ガラス、石灰石、カーボン、ワラステナイト、焼成パーライト、珪酸カルシウム、珪酸ナトリウム等の珪酸塩、酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、水酸化カルシウム等の水酸化物、炭酸第二鉄、酸化亜鉛、酸化鉄、リン酸アルミニウム、硫酸バリウム等の塩類等が挙げられる。これらの無機系フィラーは、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせと比率で併用してもよい。
【0063】
ポリエステル中の無機系フィラーの含有量は、通常1重量%以上であり、好ましくは3重量%以上であり、更に好ましくは5重量%以上である。またポリエステル中の無機系フィラーの含有量は、通常80重量%以下であり、好ましくは70重量%以下であり、更に好ましくは60重量%以下である。
【0064】
有機系フィラーとしては、生澱粉、加工澱粉、パルプ、キチン、キトサン質、椰子殻粉末、竹粉末、樹皮粉末、ケナフや藁等の粉末等が挙げられる。また有機系フィラーとしては、パルプ等の繊維をナノレベルに解繊したナノファイバーセルロース等も挙げられる。これらの有機系フィラーは、1種類を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせと比率で併用してもよい。
【0065】
ポリエステル中の有機系フィラーの含有量は、通常0.1重量%以上であり、好ましくは1重量%以上である。またポリエステル中の有機系フィラーの含有量は、通常70重量%以下であり、好ましくは50重量%以下である。
【0066】
<ポリエステル系樹脂組成物>
本発明に係るポリエステルは、未反応のモノマー等の製造時に不可避的に混入する不可避的不純物を含む組成物であるが、これらの不可避的不純物の他に、さらに、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリエステル以外の熱可塑性樹脂を含むポリエステル系樹脂組成物であってもよい。
【0067】
<医療用容器>
医療用容器とは、例えば、医薬品及び細胞治療製品、再生医療製品の培養工程、精製工程、製剤工程などの製造プロセスで使用される容器、又は検体や医薬品及び細胞治療製品、再生医療製品の保存、保管、包装、輸送のために使用される容器等を示す。医療用容器の形態としては特に制限されないが、フィルム、シート状であっても、ボトル状、チューブ状等の成形体であってもよい。また医療用容器は単層であっても多層体であってもよい。
ここで、医薬品の種類に関しては、特に制限されないが、例えば、低分子医薬品、抗体医薬品、核酸医薬品、中分子医薬品、タンパク質製剤やワクチン等の生物学的製剤や細胞等を用いる細胞治療製品や再生医療製品等が挙げられる。
【0068】
医療用容器の具体例としては、採血管、広口容器、狭口容器、液剤用容器、点眼剤用容器、点滴薬用容器、ジャー容器、スプレー容器、チューブ、アンプル、バイアル、プレフィルドシリンジ、プレフィラブルシリンジ、医療複室容器、人工透析用バック、輸液用バック、細胞培養容器、細胞培養用バック、ビーカー、シャーレ、フラスコ、ディッシュ、プレート、試験管及び検体容器などが挙げられる。
【0069】
上述したポリエステル又はポリエステル系樹脂組成物を用いて医療用容器を製造する方法は特に限定されない。例えば、射出成形法、エクストルージョンブロー成形法、インジェクションブロー成形法、二段ブロー成形法、多層ブロー成形法、コネクションブロー成形法、延伸ブロー成形法、回転成形法、真空成形法、押出成形法、絞り出し成形、カレンダー成形法、溶液流延法、熱プレス成形法、インフレーション成形法、貼り合わせ、コーティング等の方法が挙げられる。
【0070】
<積層体>
前記ポリエステルは、積層体を製造するための原料として用いることができる。
【0071】
前記積層体は、支持体及び樹脂層が積層された積層体であって、前記ポリエステルから得られる樹脂層の少なくとも一方の面に、支持体が積層された積層体である。積層体は、例えば、前記ポリエステルを、支持体上に塗布した後に、溶媒を除去する方法、前記ポリエステルのフィルムを加熱圧着により支持体に貼付する方法、前記ポリエステルのフィルムと支持体とを接着剤により貼付する方法、前記ポリエステルのフィルム上に支持体を蒸着により形成する方法などにより製造することができる。前記ポリエステルのフィルムは例えば二軸延伸フィルム等が挙げられる。
【0072】
前記ポリエステルを、支持体上に塗布した後に、溶媒を除去する方法について説明する。
例えば、ローラーコート法、ディップコート法、スプレイコーター法、スピナーコート法、カーテンコート法、スロットコート法、スクリーン印刷法等の各種手段が挙げられ、これらの手段によって前記ポリエステルを、支持体上に平坦かつ均一に流延して塗膜を形成する。
続いて、塗膜中の溶媒を除去することにより、支持体の表面にポリエステル層が形成される。溶媒の除去方法は、溶媒の蒸発により行うことが好ましい。溶媒を蒸発する方法としては、加熱、減圧、通風などの方法が挙げられる。溶媒の急激な蒸発を抑制でき、均一なフィルムが得られるため、引張特性に優れるフィルムが得られる観点から、加熱により溶媒を除去することが好ましい。加熱温度は、溶媒が揮発する温度であれば特に限定されないが、溶媒の急激な蒸発を抑制でき、均一なフィルムが得られるため、引張特性に優れるフィルムが得られる観点から、溶媒の沸点より低い温度であることが好ましい。したがって、室温より高く、溶媒の沸点より低い温度で加熱することが好ましい。
このようにして積層体を形成した後、必要に応じて熱処理を行ってもよい。熱処理の方法は特に限定されるものではなく、熱風オーブン、減圧オーブン、ホットプレート等の装置を用いて行うことができる。また、熱処理は、大気圧下、あるいは支持体やポリエステルが劣化しない範囲で、加圧下や減圧下で行ってもよい。また、ポリエステルの劣化を抑制し、引張特性に優れる観点から、熱処理を不活性ガスの雰囲気下で行うことが好ましい。例えば、窒素気流下、ポリエステル樹脂の融点-50℃~融点-5℃の範囲から、融点+5℃~融点+50℃の範囲まで、1~50時間かけて昇温することで行うことができる。
【0073】
本発明の医療用容器は、例えば、液体を収容する収容部を備え、前記収容部は前記ポリエステルからなる第1の樹脂組成物層及び前記ポリエステル以外の熱可塑性樹脂組成物からなる第2の樹脂組成物層を有する2層以上の積層体でもよく、その場合は生体分子と接触する層が前記第1の樹脂組成物層であることが好ましい。
前記収容部はフィルム状の袋又はボトル状、バック状、チューブ状、バイアル状であることが好ましい。
【0074】
本発明の医療用容器は、前記ポリエステルが生体分子又は生体分子を含む組成物と接触することを特徴とする。
前記生体分子は、タンパク質、ペプチド、脂質、核酸、ホルモン、糖、アミノ酸、細胞、及び組織なる群から選択される少なくとも1種を含む。前記生体分子は、生体由来のもののほか、人工的に調製されたものも含む。
前記生体分子の人工的に調製されたものとは、例えば、抗体医薬品、抗体薬物複合体、核酸医薬品、部分修飾された核酸医薬品、これらのうち1種以上を担持する薬物送達キャリアからなる群から選択される少なくとも1種を含む。
【0075】
生体分子を含む組成物の具体例としては、前記の生体分子を含む血液、血漿、血清、リンパ液、脳脊髄液、組織間液(細胞間液)、間質液、体腔液(腹水、胸水、心嚢液などの漿膜腔液、脳脊髄液、関節液(滑液)、眼房水(房水))、消化液(唾液、胃液、胆汁、膵液、腸液など)、汗、涙、鼻水、尿、精液、膣液、羊水、乳汁などが挙げられる。
【0076】
上記生体分子のうち、核酸の具体例としては、DNA、RNA、miRNA、siRNA、mRNA(以下、RNA類と言うことがある。)、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、等が挙げられる。
【0077】
前記抗体医薬品は、疾患関連分子に特異的に結合する抗体を遺伝子組換え技術等を応用して作製し、医薬品としたものである。前記抗体医薬品として、特に限定されるものではないが、具体例としては、TNFαを標的とするインフリキシマブ(商品名:レミケード)、アダリムマブ(商品名:ヒュミラ)等が挙げられる。
【0078】
前記抗体薬物複合体(Antibody Drug Conjugate:ADC)は、抗体に抗がん剤等の薬物を付加したものである。抗体が狙った細胞や組織にピンポイントで薬物を輸送するため、内服や注射投与で全身に薬物を巡らせるよりも標的以外の細胞や組織に対する副作用を回避しやすいほか、全体としての薬物投与量を抑えられるといったメリットがある。ADCは大きく分けて、(1)治療標的に効く薬物(ペイロード)、(2)標的に特異的に結合する抗体、(3)ペイロードと抗体のつなぎ(リンカー)の要素で構成されており、各要素の組み合わせで様々なADCが作られている。前記ADCとして、特に限定されるものではないが、具体例としては、抗CD33抗体にカリケアマイシンを結合させたゲムツズマブオゾガマイシン(商品名:マイロターグ)、抗ヒト上皮成長因子受容体(HER)2抗体であるトラスツズマブを使ったADCで乳がん治療薬のトラスツズマブデルクステカン(商品名:エンハーツ)が挙げられる。
【0079】
前記核酸医薬品は、核酸あるいは修飾核酸が十数~数十塩基連結したオリゴ核酸で構成され、タンパク質に翻訳されることなく直接生体に作用するもので、化学合成により製造される医薬品である。例えば、アンチセンス、siRNA、アプタマー、CpGオリゴなどが核酸医薬品の例として挙げられる。
【0080】
前記部分修飾された核酸医薬品としては、PEG、GalNAc等の親水性高分子で修飾した核酸医薬品が挙げられる。前記核酸医薬品として、特に限定されるものではないが、具体例としては、ペガプタニブ(商品名:マキュゲン)、ギボシラン(商品名:ギブラーリ)等が挙げられる。
【0081】
前記薬物送達キャリアとしては、特に限定されるものではないが、リン脂質二重膜から構成される脂質ナノカプセルであるリポソーム、親水基と疎水基をもつ化合物の球状の会合体であるミセル、樹状のポリマー高分子であるデンドリマーなどが具体例として挙げられる。
【実施例0082】
以下では実施例によって本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は後述する実施例によって限定されない。
【0083】
[測定方法及び評価方法]
<固有粘度(IV)>
実施例及び比較例で得られたポリエステルを溶媒(フェノール/1,1,2,2-テトラクロロエタン(1:1重量比))に溶解して、溶質濃度cが0.5[g/100mL]の樹脂溶液を調製し、30℃で測定した溶液粘度から前述の方法を用いて求めた。この時、PET及びPEFのハギンス定数は各々0.33、0.32である。
【0084】
<タンパク質(IgG)の吸着性評価>
樹脂を射出成形して製造した内容量2mLのマイクロチューブを、予め超純水2mLにて3回洗浄した後、風乾した。
続いて、マイクロチューブに、20mMクエン酸緩衝液(pH5.0)にて溶解した1.0g/L Humanポリクローナル抗体(IgG,LEE社製)溶液を1mL添加し、24時間、冷蔵条件にて静置し、タンパク質を吸着させた。
静置後、溶液を除去し、1.1mLの20mMクエン酸緩衝液(pH5.0)にて3回洗浄した後、1.1mLの5%SDS溶液を添加し、15分間室温条件下にて超音波をかけ吸着タンパク質を回収し、μBCA(Thermo Fisher Scientific社製)にて吸着タンパク質の定量を行った。吸着タンパク質の濃度からタンパク質溶液の接液面積を除算し、単位面積あたりのタンパク質吸着量を算出した。樹脂としてポリエチレン(PE)を用いた場合の吸着量を100%として、各試料のタンパク質吸着性を評価した。
【0085】
<核酸siRNA(Human MALAT1 siRNA)吸着性の評価>
予めNuclease-Free水(Thermo Fisher Scientific社製)2mLにて3回洗浄し、風乾したマイクロチューブに0.1nmol/mL Human MALAT1 siRNA(Thermo Fisher Scientific社製)0.2mLを添加し、氷上にて20 分静置にて核酸を吸着させた。
静置後、0.1mLを新たに採取しRNase Free水にて2倍希釈後、氷上にて20分静置し、核酸を吸着させた。2倍希釈したsiRNAを再度RNase Free水にて2倍希釈後、氷上にて20分静置し、核酸を吸着させた。吸着後、siRNA溶液を加熱処理し、2本の1本鎖RNAに変性させた後、逆転写反応及びqPCRにて上清siRNA量を定量した。逆転写およびqPCRはHuman MALAT1 siRNA用に設計されたTAQMAN siRNA Assay(Thermo Fisher Scientific社製)及びMaster Mix(Thermo Fisher Scientific社製)を使用した。4倍希釈(0.025nmol/mL) siRNAにおける理論値と実測値の差を吸着siRNA量とし、単位面積あたりの吸着siRNA量を算出した。樹脂としてポリエチレン(PE)を用いた場合の吸着量を100%として、各試料の核酸吸着性を評価した。
【0086】
[製造例1]
(PEF1 IV=0.75の製造)
撹拌装置、窒素導入口、加熱装置、温度計、精留塔を備えた反応容器に、原料として、2,5-フランジカルボン酸(V&V PHARMA INDUSTRIES製)42.85kg、エチレングリコール(三菱ケミカル社製)28.33L、二酸化ゲルマニウムを0.85質量%溶解させたエチレングリコール溶液2.54kg(生成したポリエステルに対するGe濃度は300ppm)、酢酸マグネシウムを6.85質量%溶解させたエチレングリコール溶液168g(生成したポリエステルに対するMg濃度は25ppm)を仕込み、反応容器内を窒素雰囲気にした。
次に、撹拌しながら1時間かけて185℃まで昇温し、185℃で3時間30分間保持して留出液を回収し、エステル化反応を進行させた。
続いて、この反応液を、減圧口と撹拌装置を備えた反応容器に移送し、2時間かけて260℃まで昇温すると共に、圧力を常圧から1.5時間かけて130Pa程度になるように徐々に減圧し、その後130Paを保持した。減圧開始から4時間25分経過したところで撹拌を停止し、復圧して重縮合反応を終了し、反応槽下部より製造されたポリエステルをストランド状に抜き出し、冷却水槽を通して冷却した後、ペレタイザーによって切断し、2~3mm角程度のペレット状のPEF1を得た。PEF1の固有粘度(IV)は0.75[dL/g]であった。
【0087】
[製造例2]
(PEF2 IV=0.85の製造)
PEF1に対して、窒素ガスを30L/minの流量で導入しながら加熱することにより、予備結晶化を行った。具体的には、PEF1の10kgをイナートオーブン(ヤマト科学社製「DN411I」)に入れ、120℃で3時間加熱後、常温(25℃)に冷却してから融着したペレット同士をほぐした。更にもう1回、このペレットを150℃で3時間加熱した後に常温(25℃)に冷却してから融着したペレット同士をほぐした。
次に、この予備結晶化させたPEF1、10kgを前述のイナートオーブンに入れ、窒素ガスを30L/minの流量で導入させた状態で、150℃で2時間、200℃で9時間加熱することにより固相重合を行い、PEF2を得た。PEF2の固有粘度(IV)は0.85[dL/g]であった。
【0088】
[実施例1]
製造例1で得られたPEF1を150℃にて4時間、真空乾燥し、射出成形機(住友重機械工業(株)製「SE18D」)を用いて、シリンダー温度270℃、金型温度80℃にて、内容量2mL強の(蓋付き)マイクロチューブ金型を用いて、内容量2mL強のマイクロチューブを成形した。
表1に樹脂の固有粘度(IV)及びマイクロチューブのタンパク質吸着性及び核酸吸着性を示す。
【0089】
[実施例2]
製造例2で得られたPEF2を用いた以外は、実施例1と同様にして、内容量2mL強のマイクロチューブを成形した。
表1に樹脂の固有粘度(IV)及びマイクロチューブのタンパク質吸着性及び核酸吸着性を示す。
【0090】
[比較例1]
PET樹脂(三菱ケミカル社製、GM547S、IV=0.75)を用いた以外は、実施例1と同様にして、内容量2mL強のマイクロチューブを成形した。その際の成形条件はシリンダー温度280℃、金型温度70℃であった。
表1に樹脂の固有粘度(IV)及びマイクロチューブのタンパク質吸着性及び核酸吸着性を示す。
【0091】
[比較例2]
PET樹脂(三菱ケミカル社製、BK2180、IV=0.83)を用いた以外は、実施例1と同様にして、内容量2mL強のマイクロチューブを成形した。その際の成形条件はシリンダー温度280℃、金型温度70℃であった。
表1に樹脂の固有粘度(IV)及びマイクロチューブのタンパク質吸着性及び核酸吸着性を示す。
【0092】
[比較例3]
PE(日本ポリエチレン社製、NF464N)を用いた以外は、実施例1と同様にして、内容量2mL強のマイクロチューブを成形した。その際の成形条件はシリンダー温度230℃、金型温度40℃であった。
表1にマイクロチューブのタンパク質吸着性及び核酸吸着性を示す。
【0093】
【0094】
2,5-フランジカルボン酸に由来する構造単位を有するポリエステルを用いた実施例1及び実施例2のマイクロチューブは生体分子(タンパク質、核酸)の吸着が抑制されていることが示された。
一方、PET又はPEを用いた比較例1~3のマイクロチューブは生体分子(タンパク質)の吸着が十分に抑制されていないことが示された。
バイオマス原料2,5-フランジカルボン酸に由来する構造単位を有するポリエステルはタンパク質や核酸等の生体分子の吸着が少ないため、医療用容器の生体分子との接触面に用いた場合、生体分子の吸着を抑制するための表面処理が不要である。そのため、本発明の医療用容器は、プレフィルドシリンジ、バイアル瓶、チューブ、アンプル、パッケージ、又は輸液バッグ等として用いることができる。