IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東京エレクトロン株式会社の特許一覧

特開2024-103289プラズマ処理装置、およびプラズマ処理方法
<>
  • 特開-プラズマ処理装置、およびプラズマ処理方法 図1
  • 特開-プラズマ処理装置、およびプラズマ処理方法 図2
  • 特開-プラズマ処理装置、およびプラズマ処理方法 図3
  • 特開-プラズマ処理装置、およびプラズマ処理方法 図4
  • 特開-プラズマ処理装置、およびプラズマ処理方法 図5
  • 特開-プラズマ処理装置、およびプラズマ処理方法 図6
  • 特開-プラズマ処理装置、およびプラズマ処理方法 図7
  • 特開-プラズマ処理装置、およびプラズマ処理方法 図8
  • 特開-プラズマ処理装置、およびプラズマ処理方法 図9
  • 特開-プラズマ処理装置、およびプラズマ処理方法 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024103289
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】プラズマ処理装置、およびプラズマ処理方法
(51)【国際特許分類】
   H05H 1/46 20060101AFI20240725BHJP
   C23C 16/505 20060101ALI20240725BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20240725BHJP
   H01L 21/31 20060101ALI20240725BHJP
   H01L 21/3065 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
H05H1/46 M
C23C16/505
H01L21/205
H01L21/31 C
H01L21/302 101G
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023007545
(22)【出願日】2023-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002756
【氏名又は名称】弁理士法人弥生特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山涌 純
【テーマコード(参考)】
2G084
4K030
5F004
5F045
【Fターム(参考)】
2G084AA02
2G084AA03
2G084AA05
2G084AA13
2G084BB07
2G084CC04
2G084CC12
2G084CC13
2G084CC16
2G084CC33
2G084DD02
2G084DD15
2G084FF02
2G084FF15
4K030CA04
4K030CA12
4K030EA04
4K030FA03
4K030FA04
4K030GA02
4K030HA01
4K030KA12
4K030KA30
4K030KA46
4K030KA47
5F004AA16
5F004BA04
5F004BA20
5F004BB13
5F004BB14
5F004BB18
5F004BB26
5F004BB29
5F004BC03
5F004BC06
5F004BC08
5F004BD04
5F004CA06
5F004DA22
5F004DA23
5F004DA25
5F045AA08
5F045AA15
5F045AC15
5F045AC16
5F045AC17
5F045AF01
5F045DP03
5F045DQ10
5F045EB03
5F045EB09
5F045EE04
5F045EE14
5F045EE19
5F045EF05
5F045EG01
5F045EH04
5F045EH05
5F045EH14
5F045EK07
5F045EM02
5F045EM09
5F045EM10
5F045EN04
(57)【要約】
【課題】有孔板に設けられた貫通孔に対して、プラズマにより活性化された処理ガスを通過させるにあたり、イオンの通過を抑制すること。
【解決手段】プラズマ処理装置は、処理容器内の基板にプラズマにより活性化された処理ガスを供給してプラズマ処理を行うプラズマ処理装置であって、前記処理ガスをプラズマ化するためのプラズマ形成機構を構成するプラズマ形成空間と、前記プラズマ形成空間からプラズマ化された前記処理ガスが流れ出る位置に配置され、当該プラズマにより活性化された前記処理ガスが通過する複数の貫通孔が設けられた有孔板と、前記複数の貫通孔に設けられ、前記プラズマ化された処理ガスに含まれるイオンが前記貫通孔へ向けて入射する方向と交差するように配置されたイオン遮蔽面を有し、前記イオン遮蔽面によりイオンの入射が遮蔽された前記貫通孔に前記活性化された処理ガスを通過させるように構成されたイオン遮蔽部材と、を備える。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理容器内の基板にプラズマにより活性化された処理ガスを供給してプラズマ処理を行うプラズマ処理装置であって、
前記処理容器内に設けられ、前記基板を載置するための載置台と、
前記処理ガスをプラズマ化するためのプラズマ形成機構を構成するプラズマ形成空間と、
前記プラズマ形成空間に前記処理ガスを供給するための処理ガス供給部と、
前記プラズマ形成空間からプラズマ化された前記処理ガスが流れ出る位置に配置され、当該プラズマにより活性化された前記処理ガスが通過する複数の貫通孔が設けられた有孔板と、
前記複数の貫通孔に設けられ、前記プラズマ化された処理ガスに含まれるイオンが前記貫通孔へ向けて入射する方向と交差するように配置されたイオン遮蔽面を有し、前記イオン遮蔽面によりイオンの入射が遮蔽された前記貫通孔に前記活性化された処理ガスを通過させるように構成されたイオン遮蔽部材と、
を備えるプラズマ処理装置。
【請求項2】
前記イオン遮蔽部材は、前記イオン遮蔽面を構成し、前記プラズマ形成空間側から見て前記貫通孔を覆うように配置された天板部と、前記天板部の外周に沿って設けられた側壁部とを備えたキャップ形状に構成され、
前記側壁部には、前記イオンがトラップされた前記処理ガスを前記貫通孔に流入させるための開口が形成されている、請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記イオン遮蔽部材は、前記有孔板の板面よりも前記プラズマ形成空間側に前記天板部を突出させた状態で配置され、前記天板部の突出高さは、前記有孔板の表面に形成されるイオンシースの厚さ以下である、請求項2に記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記イオン遮蔽部材は、前記側壁部の下端よりも上方の高さ位置にて、当該側壁部の外周面よりも外方へ突出するように設けられたフランジ部を備え、前記フランジ部よりも下方側の前記側壁部を前記貫通孔内に挿入し、前記フランジ部の下面を前記有孔板の板面に当接させることにより前記貫通孔に取り付けられる、請求項2に記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
前記イオン遮蔽部材は、前記貫通孔内に配置され、当該貫通孔の内壁面との間に螺旋状の流路を形成するための、螺旋形状部材であり、
前記イオン遮蔽面は、前記貫通孔の開口から、前記プラズマ形成空間に臨む位置に配置された前記螺旋形状部材の傾斜面によって構成される、請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項6】
前記螺旋形状部材は、前記貫通孔の開口直径に対応する幅を有する細長いリボン状の部材を、中心軸周りにねじった形状に構成されている、請求項5に記載のプラズマ処理装置。
【請求項7】
前記螺旋形状部材は、前記貫通孔の中心軸周りに、当該中心軸から前記貫通孔の前記内壁面までの幅を有する螺旋状のスロープを形成した形状に構成されている、請求項5に記載のプラズマ処理装置。
【請求項8】
前記螺旋形状部材は、前記貫通孔の内壁面に形成された螺旋状の溝に嵌合している、請求項5に記載のプラズマ処理装置。
【請求項9】
前記イオン遮蔽部材は、金属または誘電体によって形成されている、請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項10】
前記イオン遮蔽部材が、金属によって形成されている場合に、酸化膜または誘電体によって覆われている、請求項9に記載のプラズマ処理装置。
【請求項11】
前記プラズマ形成空間が、前記載置台の上方側に形成されている場合に、前記有孔板は、前記プラズマ形成空間と前記載置台との間に配置され、前記プラズマ形成空間で形成された前記活性化された処理ガスを前記複数の貫通孔を介して前記載置台に載置された基板に供給するためのシャワーヘッドである、請求項1ないし10のいずれか1つに記載のプラズマ処理装置。
【請求項12】
前記プラズマ形成空間が、前記処理容器内に形成されている場合に、
前記有孔板は、前記処理容器内の排気を行う排気流路の入口側に設けられている、請求項1ないし10のいずれか1つに記載のプラズマ処理装置。
【請求項13】
処理容器内に設けられ、基板を載置するための載置台と、処理ガスをプラズマ化するためのプラズマ形成機構を構成するプラズマ形成空間と、前記プラズマ形成空間に前記処理ガスを供給するための処理ガス供給部と、前記プラズマ形成空間からプラズマ化された前記処理ガスが流れ出る位置に配置され、当該プラズマにより活性化された前記処理ガスが通過する複数の貫通孔が設けられた有孔板と、前記複数の貫通孔に設けられ、前記プラズマ化された処理ガスに含まれるイオンが前記貫通孔へ向けて入射する方向と交差するように配置されたイオン遮蔽面を有し、前記イオン遮蔽面によりイオンの入射が遮蔽された前記貫通孔に前記活性化された処理ガスを通過させるように構成されたイオン遮蔽部材と、を用い、
前記プラズマ形成空間に前記処理ガスを供給する工程と、
前記プラズマ形成機構により、前記プラズマ形成空間に供給された前記処理ガスをプラズマ化する工程と、
前記貫通孔に、前記活性化された処理ガスを通過させる工程と、
前記活性化された処理ガスを通過させる工程の前または後において、前記載置台上に載置された前記基板に前記活性化された処理ガスを供給する工程と、
を含む、プラズマ処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プラズマ処理装置、およびプラズマ処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微細パターンの成膜に適する原子層堆積法(Atomic Layer Deposition、ALD)においては、反応ガスなどの処理ガスの反応性を向上させ、かつプロセス温度を低下するため、プラズマを利用する場合がある。このようなプラズマALD法(PEALD)では、放電やイオンによる基板や処理容器内等の損傷を防ぐため、処理空間から離れた位置にプラズマ形成空間を設け、プラズマ形成空間にて形成されたプラズマにより活性化された処理ガスを供給するリモートプラズマ方式を採用することがある。
【0003】
このようなリモートプラズマ方式であったとしても、プラズマに含まれるイオンや電子の一部が処理空間側に漏洩してしまい、またそれらが処理空間で放電を誘発ししてしまうことがある。処理空間内における放電の発生は、処理対象の基板や処理容器内の部材の損傷を引き起こす要因となる。特許文献1には、処理空間へのイオンの漏洩を防ぐため、リモートプラズマ源を構成するシャワープレートの直下にイオントラップを配置する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-203155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、有孔板に設けられた貫通孔に対して、プラズマにより活性化された処理ガスを通過させるにあたり、イオンの通過を抑制できる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のプラズマ処理装置は、
処理容器内の基板にプラズマにより活性化された処理ガスを供給してプラズマ処理を行うプラズマ処理装置であって、
前記処理容器内に設けられ、前記基板を載置するための載置台と、
前記処理ガスをプラズマ化するためのプラズマ形成機構を構成するプラズマ形成空間と、
前記プラズマ形成空間に前記処理ガスを供給するための処理ガス供給部と、
前記プラズマ形成空間からプラズマ化された前記処理ガスが流れ出る位置に配置され、当該プラズマにより活性化された前記処理ガスが通過する複数の貫通孔が設けられた有孔板と、
前記複数の貫通孔に設けられ、前記プラズマ化された処理ガスに含まれるイオンが前記貫通孔へ向けて入射する方向と交差するように配置されたイオン遮蔽面を有し、前記イオン遮蔽面によりイオンの入射が遮蔽された前記貫通孔に前記活性化された処理ガスを通過させるように構成されたイオン遮蔽部材と、
を備えている。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、有孔板に設けられた貫通孔に対して、プラズマにより活性化された処理ガスを通過させるにあたり、イオンの通過を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の第1実施形態に係る成膜装置を示す縦断側面図である。
図2】第1実施形態におけるシャワーヘッドを示す分解断斜視図である。
図3】第1実施形態におけるイオン遮蔽部材を示す縦断側面図である。
図4】ラジカル供給工程におけるイオン遮蔽部材の作用を示す説明図である。
図5】第2実施形態におけるイオン遮蔽部材を示す縦断側面図である。
図6】第3実施形態におけるイオン遮蔽部材を示す縦断側面図及び平面図である。
図7】ラジカル供給工程におけるイオン遮蔽部材の作用を示す説明図である。
図8】第4実施形態におけるイオン遮蔽部材を示す縦断側面図及び平面図である。
図9】第4実施形態の変形例におけるイオン遮蔽部材を示す縦断側面図及び平面図である。
図10】本開示の第5実施形態に係る成膜装置を示す縦断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1実施形態)
以下、本開示に係るプラズマ処理装置の第1の実施形態として、基板である半導体ウエハW(以後、基板Wという)に対し、PEALD法による成膜を行う成膜装置1について図1を参照して説明する。図1は本実施形態に係る成膜装置1を示す縦断側面図である。成膜装置1は、基板Wが配置される処理空間S1と、処理空間S1の上方に設けられて処理ガスをプラズマ化するプラズマ形成機構Pと、を備えている。そして、成膜装置1は、処理空間S1に対して、プラズマにより活性化したガスを含む各種処理ガスを順に供給することで、基板Wに原子層を一層ずつ形成する構成になっている。このような成膜装置1では、各種処理ガスの供給及び置換を迅速に行い、かつプラズマ形成機構Pによってプラズマの密度や温度を上げることで、成膜効率を向上させることができる。
【0010】
成膜装置1は、処理空間S1を含む処理容器5と、シャワーヘッド6と、環状部材51と、上蓋66と、を備えている。処理容器5は、上面が開口し、この開口にシャワーヘッド6が取り付けられている。環状部材51は、その上下両面が開口し、下面側の開口を塞ぐように配置されたシャワーヘッド6を介して処理容器5に取付られている。環状部材51の上方開口には、上蓋66が環状の絶縁部材52を介して取り付けられ、上蓋66は、環状部材51の上方開口を塞ぐように配置されている。上蓋66及びシャワーヘッド6は、相互に対向して配置されている。
【0011】
成膜装置1は、シャワーヘッド6、環状部材51、絶縁部材52、及び上蓋66によって囲まれたプラズマ形成空間S2を含んでいる。プラズマ形成空間S2は、シャワーヘッド6を介して処理容器5内の処理空間S1に接するように設けられている。シャワーヘッド6は、プラズマ形成空間S2及び処理空間S1との間に設けられ、これらの空間S1、S2の間を区画している。また、処理容器5、シャワーヘッド6、環状部材51、及び上蓋66は、金属製である。処理容器5は、接地されている。
【0012】
処理容器5の側壁には、基板Wの搬入出を行うための搬入出口53と、この搬入出口53を開閉するゲートバルブ54と、が設けられている。処理容器5内には、基板Wを水平に載置するための載置台8が設けられている。載置台8は、シャワーヘッド6に対向するように、シャワーヘッド6の下方側配置されている。載置台8には基板用ヒータ81が埋設され、基板用ヒータ81は、不図示の電源から給電されることにより基板Wを予め設定された温度に加熱する。載置台8は、例えば窒化アルミニウム(AlN)等の絶縁性セラミックスで構成され、内部に円盤状の電極82が配置されていている。当該電極82は、接地されている。
【0013】
載置台8には、基板Wを支持して昇降させるための3本(2本のみ図示)の基板支持ピン84が載置台8の表面に対して突没可能に設けられ、これら基板支持ピン84は支持板83に固定されている。そして、基板支持ピン84は、エアシリンダ等の不図示の駆動機構により支持板83を介して昇降される。
【0014】
載置台8は、円筒形状の支柱86に支えられ、支柱86は処理容器5の底部に取り付けられている。処理容器5は、図示しない加熱機構を有し、これらは図示しない電源から給電されることにより予め設定された温度に加熱される。処理容器5の底部の開口部56には排気管87が接続され、この排気管87には、排気装置89が接続されている。処理容器5の底部の開口部56及び排気管87は、処理空間S1内の処理ガスを排気するように排気流路を形成している。そしてこの排気装置89を動作させることにより処理容器5の処理空間S1を予め設定された真空度まで減圧することが可能となっている。
【0015】
成膜装置1は、シャワーヘッド6を介して処理空間S1に処理ガスを供給する処理ガス供給部7を備えている。処理ガス供給部7は、PEALD成膜を行う際に用いる処理ガス、例えば、形成しようとする膜の構成元素を含む原料ガス、原料ガスと反応する反応ガス、及びパージガス等を供給する。原料ガスおよび反応ガスは、成膜しようとする膜に応じて種々のものを用いることができる。パージガスとしては、不活性ガス、例えばAr(アルゴン)ガス、He(ヘリウム)ガス等の希ガスや、N2(窒素)ガスを用いることができる。
【0016】
処理ガス供給部7は、成膜の際、パージガスの供給を継続したまま、原料ガスと反応ガスとを交互にかつ間欠的に供給する。これらの処理ガスを供給する配管としては、原料ガス及びパージガスを供給するための原料ガス供給路71と、反応ガス及びパージガスを供給するための反応ガス供給路72と、がそれぞれ処理ガス供給部7に接続されている。これら処理ガスを供給する配管には、それぞれバルブ類およびマスフローコントローラのような流量制御器が設けられている。
【0017】
プラズマ形成機構Pは、既述のプラズマ形成空間S2と、高周波電源91と、プラズマ形成空間S2に電場を形成するための平行平板電極を構成する上蓋66及びシャワーヘッド6と、によって構成されている。シャワーヘッド6は、処理容器5を介して接地されている。上蓋66には、整合器92を介して高周波電源91が接続され、この高周波電源91から高周波電力が供給されるようになっている。高周波電源91の周波数は、450kHz~40MHzの範囲内の13.56MHzに設定する場合を例示できる。
【0018】
上蓋66には、上蓋66を貫通するように反応ガス導入孔67が形成され、反応ガス導入孔67には反応ガス供給路72の下流端が接続されている。後述するラジカル供給工程においてプラズマ形成空間S2に供給される反応ガスは、給電によって平行平板電極が形成した電場で電離されてプラズマ化する。この場合、平行平板電極の間隙においては、各平行平板電極近傍にシース領域R1が形成され、このシース領域R1の間は平衡状態の反応ガスのプラズマが形成されたプラズマ領域R2となる。
【0019】
図1図2に示すように、シャワーヘッド6には、反応ガスを流通させるための反応ガス流通路61(貫通孔)と、原料ガスを流通させるための原料ガス流通路62と、が相互に離隔して形成されている。以後、「反応ガス流通路61」を「貫通孔61」ともいう。図2は、シャワーヘッド6の内部構造を示す分解斜視図である。図2における貫通孔61、原料ガス流通路62、及び後述するイオン遮蔽部材10は、シャワーヘッド6の一部領域のもののみ図示し、その他の領域のものは図示を省略している。図2に示すように、原料ガス流通路62は、分散路62aと、分散路62aから複数分岐するように形成された複数の下流路62bと、を含む。図1及び図2中、分散路62aは破線及び実線で示してある。
【0020】
分散路62aは、シャワーヘッド6内に形成され、一端がシャワーヘッド6の側面に開口し(図1)、当該一端には既述の原料ガス供給路71の下流端が接続されている。また、分散路62aは、基板Wの直上域に形成され、平面視したとき面状もしくは放射状に広がるように形成されている。複数の下流路62bは、分散路62aの下面からシャワーヘッド6の下面側に向かって延びるように形成され、シャワーヘッド6の下面に開口している。これら複数の下流路62bは、平面視においてシャワーヘッド6の基板Wの直上域に略均一に分散して設けられている。
【0021】
貫通孔61は、シャワーヘッド6の上面から下面まで貫通し、プラズマ形成空間S2と処理空間S1との間を繋いでいる。複数の貫通孔61は、平面視において相互に離れて配置されている。複数の貫通孔61の上方開口61a及び下方開口61bは、平面視において基板Wの直上域でそれぞれ略均一に分散している。各貫通孔61は、上方開口61aにおいて下方側の他の部分より拡径した上方孔縁部61cが形成されていてもよい。各貫通孔61の直径は、例えば3mmから9mmである。
【0022】
複数の貫通孔61は、既述の原料ガス流通路62とは離隔して形成されている。また複数の貫通孔61についても、シャワーヘッド6の下面における基板Wの直上域で略均一に設けられている。シャワーヘッド6は、本開示の有孔板に相当している。
【0023】
以上に説明した構成を備えるシャワーヘッド6の各貫通孔61内には、イオン遮蔽部材10が設けられている。図2図3に示すように、イオン遮蔽部材10は、天板部11と、天板部11から下方側に向けて延在するように形成された筒状の側壁部12と、を備えたキャップ形状に構成されている。また、側壁部12の外周面には、その下端よりも上方の高さ位置に配置されて、外方側に向けて突出するように形成された環状のフランジ部14が形成されている。
【0024】
イオン遮蔽部材10は、天板部11を上に向けた状態でシャワーヘッド6の上方から側壁部12の下端を貫通孔61に挿入し、フランジ部14を貫通孔61の上方孔縁部61cにはめ込むことにより、シャワーヘッド6に取り付けられる。
【0025】
図3は、シャワーヘッドに取り付けられた状態のイオン遮蔽部材10の縦断側面図を示している。この状態においてイオン遮蔽部材10は、フランジ部14の下面がシャワーヘッド6の上方孔縁部61cの内側上面に当接して取付けられる。この取付け状態において、側壁部12は、フランジ部14より下方側の側壁下部12bを貫通孔61内に挿入した状態で配置されている。そして、側壁部12においてフランジ部14より上方側の側壁上部12a及び天板部11は、シャワーヘッド6の上面64(板面)より上方、つまりプラズマ形成空間S2側に突出した状態で配置される。
【0026】
天板部11は、円盤形状を有し、プラズマ形成空間S2側から見て貫通孔61を覆うように配置されている。また、天板部11の上面であるイオン遮蔽面11aは、プラズマ領域R2からシース領域R1に向けて後述の正イオンC1が入射する方向と交差するように配置されている。
【0027】
天板部11のシャワーヘッド6の上面64からの突出高さは、シャワーヘッド6の表面に形成されるシース領域R1の理論上の厚さ以下にしている。この天板部11の突出高さは、詳細には、シャワーヘッド6の上面64を基準としたイオン遮蔽面11aまでの高さであって、この高さがシース領域R1の厚さ以下に設定されている。天板部11の高さの設定理由については後述する。また、天板部11の突出高さは、側壁上部12aに後述の側壁貫通孔12cを上下方向に複数配列するため、例えば1mm以上であることが好ましい。
【0028】
側壁部12は、貫通孔61よりひとまわり直径が小さい円筒形状に構成され、貫通孔61の内壁に沿うように設けられている。フランジ部14よりも上方側の側壁上部12aは、天板部11の外周に沿うように形成され、プラズマ形成空間S2内に配置されている。側壁上部12aには、外壁面から内壁面まで貫通する複数の側壁貫通孔12cが形成され、各側壁貫通孔12cは、プラズマ形成空間S2に向かって開口している。
【0029】
例えば各側壁貫通孔12cは、円孔であり、側壁部12において高さ方向に列状に並べて形成されている。さらにこれら側壁貫通孔12cの列は、側壁部12の周方向に沿って複数列、配列されている。側壁貫通孔12cの直径は、0.4mm以上が好ましい。これにより、側壁貫通孔12cの内側面に形成されるイオンシースが側壁貫通孔12cを塞いでしまうことを抑制できる。フランジ部14よりも下方側の側壁下部12bは、上下方向において貫通孔61と概ね同じ長さに形成され、その下端は貫通孔61の自体の開口に沿って開口している。側壁下部12bの外側面は、貫通孔61の内側面に沿って配置されている。
【0030】
天板部11及び筒状の側壁部12の内側の空間は各側壁貫通孔12cの内側の開口とそれぞれ繋がっている。従って、イオン遮蔽部材10を設けた状態においても、各貫通孔61は、側壁貫通孔12c及びイオン遮蔽部材10の内部空間を介してプラズマ形成空間S2と繋がっている。このため、プラズマ形成空間S2にてプラズマにより活性化された反応ガスを、イオン遮蔽部材10の内側の空間を介して処理空間S1に供給することができる。
【0031】
イオン遮蔽部材10は、金属によって形成されて、表面を酸化膜または誘電体によって覆われている。具体的には、金属としては、ニッケル(Ni)及びアルミニウム(Al)のうち少なくともいずれかを含むことが好ましい。また酸化膜または誘電体としては酸化アルミニウム(Al)、石英、窒化アルミニウム(AlN)などが好ましい。
【0032】
図1に示すように、成膜装置1は、制御部100を備えている。制御部100は、プログラム、メモリ、CPUを含むデータ処理部を有する。プログラムは、制御部100から成膜装置1の各部に制御信号を送り、成膜処理に係る各工程を進行させる命令が組み込まれている。プログラムは、コンピュータ記憶媒体、例えばフレキシブルディスク、コンパクトディスク、ハードディスク、MO(光磁気ディスク)、不揮発メモリ等の記憶部に格納されて制御部100にインストールされる。制御部100は、操作者による操作および予め設定されたプログラムに従って、成膜装置1内の各構成を制御して動作させている。プラズマを各工程に合わせて適宜制御する場合、制御部100は、処理ガス供給部7、高周波電源91、及び排気装置89を制御する。
【0033】
以上に説明した構成を備える成膜装置1を用い、プラズマを用いてウエハWへの成膜処理を実行する動作について説明する。処理対象のウエハWが搬送されてきたら、ゲートバルブ54を開き、搬入出口53を介して、ウエハWを保持した搬送機構(不図示)を処理容器5内に進入させる。そして、載置台8に対し、基板支持ピン84を用いてウエハWの受け渡しを行う。
【0034】
しかる後、処理容器5から搬送機構を退出させ、ゲートバルブ54を閉じると共に、処理容器5内の圧力調節、ウエハWの温度調節を行う。次いで、各種処理ガスを予め設定されたタイミングで供給していく。この中のラジカル供給工程においては、プラズマ形成空間S2へ向けて反応ガスの供給を行う(反応ガスを供給する工程)と共に、高周波電源91から上蓋66に高周波電力を印加する。上蓋66への高周波電力の印加によって、上蓋66とシャワーヘッド6との間に容量結合プラズマが生成され、プラズマ形成空間S2に供給された反応ガスがプラズマ化される(処理ガスをプラズマ化する工程)。なお、プラズマ化する反応ガスにはArガスなどの補助ガスを同時に供給してもよい。
【0035】
上述の成膜処理において、プラズマ形成空間S2で形成されたプラズマにより活性化された反応ガスのラジカルは、シャワーヘッド6に設けられた貫通孔61を介して処理空間S1に供給され(貫通孔に活性化された処理ガスを通過させる工程)、基板Wに供給される(活性化された処理ガスを基板に供給する工程)。このラジカル供給工程におけるイオン遮蔽部材10の作用について以下に説明する。図4は、成膜装置1のラジカル供給工程におけるイオン遮蔽部材10の作用を示している。
【0036】
このラジカル供給工程では、プラズマ化した反応ガスは、電子、正イオン(以下、単に「イオン」ともいう)C1、及びラジカルC2などの活性種を含む。活性種は、プラズマ領域R2で最も密度が高く、電気的に中性な状態で存在する。一方、シース領域R1が形成されるシャワーヘッド6の上面64では、プラズマ化した反応ガスの密度がゼロになる。このため、シース領域R1では密度ゼロのシャワーヘッド6の上面64に向けて活性種の密度勾配が生じる。このような密度勾配が生じるシース領域R1では、イオンC1よりも拡散係数が大きい電子の増加による電気的不均衡を防ぐため、電子の進入を防ぎ、かつイオンC1を引き寄せるような電位分布が生じる。イオンC1は、シャワーヘッド6の上面64に向けて直進的に入射するように加速される。イオンC1の入射方向は、換言すると、プラズマ領域R2からシース領域R1へ向かう方向である。
【0037】
背景技術にて説明したように、このイオンC1が、貫通孔61を介して処理空間S1に進入してしまうと、放電が発生し、ウエハWや処理容器5内の部材の損傷を引き起こす要因ともなってしまう。そこでイオン遮蔽部材10は、プラズマ形成空間S2側から見て貫通孔61を覆うように貫通孔61を配置することにより、貫通孔61を遮蔽する。この構成により、シャワーヘッド6の上面64にむけて入射するイオンC1の一部が貫通孔61の配置領域に到達しても、当該イオンC1をイオン遮蔽面11aに衝突にさせることができる。イオン遮蔽面11aに衝突したイオンC1は、例えば失活する。
【0038】
このように、イオン遮蔽部材10はイオンC1が貫通孔61を通過して処理空間S1内に進入することを抑止している。そのためイオン遮蔽部材10は、仮にイオンC1が処理空間S1内に進入したならば、処理空間S1内で放電を誘発することを抑制し、基板Wや処理容器5内の部材の損傷を引き起こすことを防いでいる。
【0039】
この観点において、図4にはシャワーヘッド6の上面64よりも上方に突出した位置に1枚の天板部11を配置した例を示しているが、キャップ形状に構成されたイオン遮蔽部材10の配置例はこれに限定されない。例えば、上面側から平面視した際に、天板部11が貫通孔61を覆っていればよく、異なる高さ位置に互い違いに配置された複数の天板部11を備えたイオン遮蔽部材10を設けてもよい。
【0040】
上述したイオンC1の挙動と比較して、活性種であるラジカルC2は電気的に中性である。このため、ラジカルC2は、プラズマ形成空間S2から処理空間S1に向かう反応ガスの流れに乗って移動する傾向がある。この流れに乗って移動するラジカルC2は、側壁貫通孔12cを介してイオン遮蔽部材10の内側に流れ込んだ後、処理空間S1へ流入する。ラジカルC2は、イオン遮蔽部材10を通じて処理空間S1に流入する際にイオン遮蔽部材10に接触したとしても、表面が酸化膜または誘電体によって覆われているため、失活し難い。
【0041】
このように本例のイオン遮蔽部材10は、筒状に構成された側壁部12の直径が貫通孔61の内壁に沿うように形成されているため、流路断面積を大きくできる。複数の側壁貫通孔12cを通過した各気流は、イオン遮蔽部材10内で合流して下方に流れる際、上流から下流に向かって直線状に流れることができる。従って、このような側壁貫通孔12c及びイオン遮蔽部材10内の空間によれば、例えば屈曲した複雑な形状の流路を流れる場合と比較して、失活を防いで多くのラジカルC2を処理空間S1に流入させることができる。
【0042】
また既述のように、イオン遮蔽部材10は、天板部11の突出高さをシース領域R1の厚さ以下にしているため、イオン遮蔽部材10の側壁上部12aがプラズマ領域R2内に進入した状態となっていない。このように天板部11の突出高さを設定することで、側壁上部12aに設けられた側壁貫通孔12cがプラズマ領域R2内に向けて開口することを避け、プラズマ化した反応ガス中のイオンC1が、イオン遮蔽部材10内に直接進入することを抑止している。このように、処理容器5内にプラズマが漏れることを防いでいる。以上のように、本実施形態におけるイオン遮蔽部材10によれば、加速されたイオンが貫通孔61を通過することを抑止し、かつ処理容器5に向けてラジカルを効率よく流入させることができる。
【0043】
以上の成膜処理において、CVD法により成膜を行う場合は、プラズマ化した反応ガスのラジカルを供給するラジカル供給工程と原料ガスを供給する原料ガス供給工程とを並行して実施してもよい。また、ALD法により成膜を行う場合には、例えば原料ガス供給工程(ウエハWへのプリカーサの吸着)→パージガスのみの供給工程→ラジカル供給工程(ウエハWに吸着したプリカーサとの反応)→パージガスのみの供給工程のサイクルが、所定回数繰り返される。
【0044】
予め設定された期間、CVD法またはALD法による成膜を行ったら、反応ガス、原料ガスの供給、及びシャワーヘッド6及び上蓋66への高周波電力の供給を停止する。しかる後、搬入時とは反対の手順にて、成膜が行われたウエハWを処理容器5から搬出する。
【0045】
(変形例)
上述の第1実施形態における成膜装置1のプラズマ形成機構Pは、平行平板電極による容量結合を用いて容量結合プラズマ(capacitively coupled plasma、CCP)を形成しているが、これに限らず、プラズマ形成機構Pは、様々な手法のものを用いることができる。例えば、プラズマ形成機構Pは、平行平板電極に換えてコイル状のアンテナを備え、高周波電源が印可されたアンテナで誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma、ICP)を形成してもよい。また、プラズマ形成機構Pは、平行平板電極に換えてプラズマ形成空間S2内に板状の誘電体を備え、誘電体にマイクロ波を供給して誘電体から発せられる表面波で表面波プラズマ(surface wave plasma、SWP)を形成してもよい。
【0046】
第1実施形態における成膜装置1は、プラズマ形成空間S2を処理空間S1から離して配置したリモートプラズマ方式の成膜装置1であって、シャワーヘッド6が有孔板に相当しているが、これに限らない。他の例は、後述の実施形態で説明する(図10)。
【0047】
第1実施形態におけるシャワーヘッド6には、貫通孔61及び原料ガス流通路62が設けられているが、これに限らず、例えば貫通孔61のみが形成されていてもよい。この場合、原料ガス流通路62は、例えば処理空間S1に配置されたノズルなどに形成され、ノズルを介して基板Wに供給されてもよい。そしてこの場合、シャワーヘッド6の上面は、貫通孔61及び上方孔縁部61cを除いて平坦な面に形成されているが、これに限らない。例えば、シャワーヘッド6の上面における上方孔縁部61cとその周囲を処理空間S1側に陥没させ、上方孔縁部61cを当該周囲の外側のシャワーヘッド6の上面に対して更に下方に設けてもよい。このような下方に配置された上方孔縁部61cにイオン遮蔽部材10を取り付けると、イオン遮蔽部材10のシャワーヘッド6からの突出量を小さくできる。
【0048】
第1実施形態におけるイオン遮蔽部材10の取り付け手法は、プラズマ形成空間S2側から貫通孔61に挿入する場合を示したが、これに限らず、例えば、貫通孔61に処理空間S1側から挿入してもよい。この場合、フランジ部14は、シャワーヘッド6の下方開口61bの孔縁に当接するように取り付けられる。そして側壁部12が下方開口61bから貫通孔61内を伸びて設けられ、天板部11及び側壁上部12aがプラズマ形成空間S2内に突出するように設けられる。この場合にも天板部11は、プラズマ形成空間S2側から見て貫通孔61を覆うように配置された状態とすることができる。この例の場合は、フランジ部14から下方側へ向けて延びる側壁下部12bの形成を省略してもよい。
【0049】
また、図3図4に示す第1実施形態では、フランジ部14よりも上方側に天板部11が配置されるようにキャップ形状のイオン遮蔽部材10の取り付けを行った例をしめした。この例に替えて、イオン遮蔽部材10の上下を反転させてもよい。この場合には例えばシャワーヘッド6の下面における貫通孔61の下方側の孔縁部に対してフランジ部14が当接するように、イオン遮蔽部材10が取り付けられる。そして天板部11(上下を反転させた場合には底板部と見ることができる)が貫通孔61の下面開口側を覆った状態となる。この場合にも、プラズマ形成空間S2側から天板部11が、貫通孔61を覆うように配置された状態を構成することができる。
【0050】
第1実施形態の側壁下部12bは、貫通孔61の上方開口61aから下方開口61bに至る領域に設けられているが、これに限らず、側壁下部12bの下端が貫通孔61の途中位置に配置されていてもよい。またイオン遮蔽部材10は、側壁下部12bを備えることは必須の要件ではない。例えば、側壁下部12bの形成を省略し、側壁上部12aの下端を貫通孔61の上方開口または下方開口の周縁に直接、取り付けてもよい。
【0051】
また、第1実施形態における複数のイオン遮蔽部材10は、相互に独立して構成されているが、これに限らず、複数のイオン遮蔽部材10をまとめて構成してもよい。例えば1枚の平面プレートから、複数のイオン遮蔽部材10を突出させるように形成してもよい。このような平面プレートの場合、複数のイオン遮蔽部材10をシャワーヘッド6の上面64または下面に一括で取り付けることができる。
【0052】
第1実施形態の貫通孔61は、円孔であるがこれに限らず、矩形の孔など他の形状であってもよい(後述の各実施形態においても同様)。天板部11及び側壁部12は、円盤形状及び円筒形状であるが、これに限らず、矩形状及び四角柱形状などの他の形状でもよい。また、天板部11及び側壁部12は、貫通孔61に合わせて円盤形状及び円筒形状であるが、これに限らず、貫通孔61と異なる他の形状でもよい。
【0053】
側壁貫通孔12cは、円孔により構成する場合に限らず、スリット状のものでもよい。また、側壁貫通孔12cは、側壁上部12aの大部分を大きく切り欠いて形成してもよい。この場合、天板部11と側壁下部12bとを繋ぐような柱状の側壁上部12aを互いに間隔を開けて配置し、天板部11を支える構成を例示することができる。
【0054】
第1実施形態のイオン遮蔽部材10は、金属で形成され、表面を酸化膜または誘電体によって覆われているが、これに限らない。例えば成膜装置1が低温プラズマを用いて成膜処理する場合などにおいて、金属製のイオン遮蔽部材10は、酸化膜または誘電体によって覆われていなくてもよい。また、イオン遮蔽部材10は、金属では無く誘電体で形成されていてもよく、この場合、耐熱性が向上しラジカルの失活を抑制できる。さらに、イオン遮蔽部材10は、金属で全体を構成されているが、これに限らず、次の実施形態で示すように部分的に異なる材質で形成されていてもよい。
【0055】
(第2実施形態)
図5に基づいて、本開示の第2実施形態におけるイオン遮蔽部材10Aについて説明する。尚、以降の各実施形態の説明では、第1実施形態との差異点を中心に説明し、第1実施形態と同様の構成については説明を省略する。また、図5以降の各図においては、図1図4を用いて説明したものと共通の構成要素には、これらの図と共通の符号を付してある。図5は、図3と同様なイオン遮蔽部材10Aの縦断面図を示している。
【0056】
第2実施形態のイオン遮蔽部材10Aにおいては、天板部11及び側壁上部12aを含む上部15が、第1実施形態と同様に金属で一体的に形成され、表面が酸化膜又は誘電体で覆われている。一方、イオン遮蔽部材10Aの側壁下部12b及びフランジ部14を含む下部16は、誘電体で一体的に形成されている。この下部16に、上部15の下端を取り付けることにより異素材の上部15及び下部16が一体化されている。このように誘電体である下部16の上に取り付けられた金属製の上部15は、電気的に浮遊している。また、上部15はシャワーヘッド6の上面よりもプラズマ領域R2に近く配置されるため、上部15の浮遊電位は、上部15の周辺のシース領域R1の電位よりプラズマ領域R2の電位に近くなる。上部15の電位がプラズマ電位に近いため、電界が集中し易い角部を構成する天板部11の周端に向けて起きるプラズマ領域R2からの放電を抑制できる。
【0057】
(第3実施形態)
図6図7に基づいて、本開示の第3実施形態におけるイオン遮蔽部材10Bについて説明する。図6(a)は、イオン遮蔽部材10Bの縦断側面図を示し、図6(b)は、イオン遮蔽部材10Bの平面図である。図7は、ラジカル供給工程におけるイオン遮蔽部材10Bの作用を示している。図7における二点鎖線は、反応ガスの流れを示し、図に対向する位置から見て、太線がイオン遮蔽部材10Bの正面側を通るものを示し、細線がイオン遮蔽部材10Bの背面側を通るものを示している。
【0058】
第3実施形態のイオン遮蔽部材10Bは、貫通孔61の上下方向の中心軸に沿って形成された螺旋形状の部材であり、その全体が貫通孔61内に配置される。図6(a)、(b)に示すように、このイオン遮蔽部材10Bは、貫通孔61の開口直径に対応する幅を有する細長いリボン状の部材20を、長手方向沿う中心軸周りに360度以上ねじった形状に構成されている。
【0059】
リボン状の部材20の相互に対向する表面21及び裏面22は、同一方向に360度以上ねじられたような形状となっている。表面21及び裏面22は、それぞれ貫通孔61の上方開口61aから下方開口61bに向かって傾斜した螺旋面になる。そして、表面21及び裏面22は、それぞれが向かい合う貫通孔61の内壁面との間に連結路13を構成する。即ち、これらの2つの連結路13は、イオン遮蔽部材10Bを介して相互に対向した状態で、貫通孔61の上方開口61aから下方開口61bに亘って傾斜した螺旋状の流路になっている。
【0060】
本例のイオン遮蔽部材10Bにおいては、リボン状部材の表面21及び裏面22の上端部の面によってイオン遮蔽面11aが構成されている。これらのイオン遮蔽面11aは、プラズマ形成空間S2に臨むように上方に向けて配置されている。
【0061】
貫通孔61には、その内壁面に沿って二重螺旋状の突条部63が形成されている。イオン遮蔽部材10Bの取り付けは、これらの突条部63に沿って、イオン遮蔽部材10Bをねじ込むように挿入する。この構成によれば、イオン遮蔽部材10Bは、シャワーヘッド6の上下いずれの面からも貫通孔61に嵌合させることができるため、取付作業などが容易である。
【0062】
図7に示すように、第3実施形態のイオン遮蔽部材10Bによれば、ラジカル供給工程において、プラズマ領域R2からイオンC1が貫通孔61に入射しても、イオンC1はイオン遮蔽面11aに衝突して貫通孔61の通過を阻害される。一方、反応ガスのラジカルC2は、反応ガスの流れに乗って2つの連結路13を通過して、処理空間S1に供給される。
【0063】
図6図7に示した第3実施形態のイオン遮蔽部材10Bは、細長いリボン状の部材20を中心軸周りに360度以上ねじった構成を示した。但し、リボン状の部材20のねじれ角度は180度以上であればよい。最低180度ねじった構成では、リボン状の部材20の表面21及び裏面22は、プラズマ形成空間S2側から見て貫通孔61をそれぞれ半分ずつ覆うイオン遮蔽面11aを形成するので、イオンC1の貫通孔61の通過を遮蔽できる。
【0064】
(第4実施形態)
図8に基づいて、本開示の第4実施形態におけるイオン遮蔽部材10Cについて説明する。第3実施形態の図6図7と同様に、図8は、第4実施形態のイオン遮蔽部材10Cを示す縦断側面図及び平面図である。第4実施形態のイオン遮蔽部材10Cは、貫通孔61の上下方向に沿って設定された中心軸61A周りに、スロープ状に渦を巻く部材(スロープ状部材20a)を配置した構成となっている。具体的には、イオン遮蔽部材10Cは、スロープ状部材20aの例えば表面21を上方に向けた状態で、既述の中心軸61A周りに巻き付けて構成となっている。
【0065】
そして貫通孔61の内壁面と、表面21及び裏面22との間には連結路13が構成される。連結路13は、貫通孔61の上方開口61a側から下方開口61b側に亘って渦を巻く螺旋状の流路として構成されている。
【0066】
本例のイオン遮蔽部材10Cは、図8に示すように、スロープ状部材20aの上端部23側の螺旋1巻き分の範囲が拡幅し、イオン遮蔽面11aを構成している。そして、貫通孔61には、その内壁面に沿って一重螺旋状の突条部63が形成されている。イオン遮蔽部材10Cは、この突条部63に沿ってねじ込むように貫通孔61に挿入されて取り付けられている。そして既述の拡幅部分を成す上端部23は貫通孔61の上部側の拡径した上方孔縁部61cの内側に収容される。
【0067】
(変形例)
図9に基づいて、本開示の第4実施形態の変形例におけるイオン遮蔽部材10Dについて説明する。本変形例のイオン遮蔽部材10Dは、第4実施形態のイオン遮蔽部材10Cとは貫通孔61への取り付け方法が異なる。貫通孔61には、第4実施形態のように貫通孔61に一重螺旋状の突条部63は形成されていない。これに替えてプラズマ形成空間S2側から見て、それぞれ貫通孔61の内壁から中心軸61Aに向かって突出するように4つのリブ68が設けられている。リブ68は、貫通孔61の内周壁の周方向に互いに間隔を開けて設けられ、それぞれ中心軸61Aと平行に、上下方向に伸びるように形成されている。イオン遮蔽部材10Dには、リブ68と嵌合するような4つの溝18が形成されている。なお、図8を用いて説明したイオン遮蔽部材10Cとは異なり、本例のイオン遮蔽部材10Dの上端部には拡幅部分は形成されていない。
【0068】
このようなイオン遮蔽部材10Dは、貫通孔61側のリブ68に対して溝18が嵌合するように上方側または下方側から挿入することにより貫通孔61に取り付けられる。リブ68と溝18の嵌合により、イオン遮蔽部材10Dが回転して動いてしまうことを抑止し位置ずれを抑制している。既述の取り付け方法の他、イオン遮蔽部材10Dの貫通孔61の取り付け法に特段の限定はなく、任意の手法を採用してよい。
【0069】
(第5実施形態)
図10に基づいて、本開示に係る第5実施形態に係る成膜装置1Eについて説明する。図10は、第5実施形態に係る成膜装置を示す縦断側面図である。第5実施形態の成膜装置は、第1実施形態とは異なり、処理容器5内に形成されて処理空間S1自体がプラズマ形成空間S2となっている。このため、処理空間S1内に配置された処理容器5の内壁面や、排気管87の端面などにもシース領域R1が形成され、そこに向けてイオンが入射し、放電が起きることがある。特に、排気流路を構成する開口部56の上端面においては、プラズマを含む排気流が流入するため、プラズマ領域R2が近接し、放電が起こり易い。
【0070】
例えば図10に示した成膜装置1Eにおいては、処理空間S1に供給された処理ガス(反応ガスや原料ガス)が、排気管87へ向けて直接、流れ込む偏流の発生を抑え、載置台8の周囲から均一に排気を行うための整流板を成す有孔板6Eが設けられている。この有孔板6Eは、排気管87によって形成された排気流路の入口側に設けられている。尚、有孔板6Eは、この例に限らず、開口部56の上端面である排気流路の開口を直接覆うように配置されていてもよい。
【0071】
この有孔板6Eに形成された貫通孔61内に、処理空間S1内で形成された処理ガスのプラズマからイオンが入射すると、ホロカソードプラズマが発生し、部材の損傷やパーティクルの発生を引き起こすおそれがある。そこで図3図9を用いて説明した各実施形態と同様に、有孔板6Eの貫通孔61には各種のイオン遮蔽部材10、10Bを設けることができる。イオン遮蔽部材10、10Bを設けることにより、有孔板6Eの上面64でイオンの入射を遮蔽しつつ排気流を流通させることができる。
【0072】
本開示に係る基板処理装置の基板に対する処理は、成膜処理の他、エッチング処理、アッシング処理等、プラズマを用いて行う他の処理を行ってもよい。また、本開示の基板処理装置の被処理体の基板Wは、半導体ウエハに限らず、FPD(Flat Panel Display)などでもよい。
【0073】
なお、今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。上記の実施形態は、添付の特許請求の範囲及びその趣旨を逸脱することなく、様々な形態で省略、置換、変更または組み合わせが行われてもよい。
【符号の説明】
【0074】
C1 イオン
P プラズマ形成機構
S2 プラズマ形成空間
W 基板
1 成膜装置
5 処理容器
6 シャワーヘッド
7 処理ガス供給部
8 載置台
10 イオン遮蔽部材
11a イオン遮蔽面
61 貫通孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10