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特開2024-103349落雷判別システム、及び、落雷判別方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024103349
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】落雷判別システム、及び、落雷判別方法
(51)【国際特許分類】
   G01W 1/16 20060101AFI20240725BHJP
   G01R 31/08 20200101ALI20240725BHJP
【FI】
G01W1/16 E
G01R31/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023007629
(22)【出願日】2023-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 幹久
(72)【発明者】
【氏名】工藤 亜美
【テーマコード(参考)】
2G033
【Fターム(参考)】
2G033AC05
2G033AE01
(57)【要約】
【課題】落雷の状況を抽出する際に、落雷点を的確にする。
【解決手段】例えば、落雷位置標定システム(Location Systems:LLS)の電波観測手段1で観測された雷の電波に基づいて、制御手段6により、大地3、もしくは、構造物4への落雷における電波の波形をデータと比較し、大地3に雷撃した状況であるか、構造物4に雷撃した状況であるかを的確に判別する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
雷の電波を観測する電波観測手段と、
前記電波観測手段で観測された電波の経時変化の波形である経時波形を導出する波形形成手段と、
大地に雷撃した際の電波の経時変化の波形、及び、構造物に雷撃した際の電波の経時変化の波形が記憶波形として蓄積された波形記憶手段と、
前記波形形成手段で導出された前記経時波形、及び、前記波形記憶手段に記憶された前記記憶波形を比較する波形比較手段と、
前記波形比較手段で比較された結果に基づいて、前記経時波形の電波が、大地に雷撃した際の電波の波形であるか、構造物に雷撃した際の電波の波形であるかを判断する波形判別手段とを備えた
ことを特徴とする落雷判別システム。
【請求項2】
請求項1に記載の落雷判別システムにおいて、
前記波形記憶手段には、
ステップ状に伸びる第1雷撃の電波の第1波形、前記第1雷撃により形成された放電路を介した後続雷撃の後続波形が、大地に雷撃した際の波形、構造物に雷撃した際の波形のそれぞれに対して記憶波形として蓄積されている
ことを特徴とする落雷判別システム。
【請求項3】
雷の電波を観測する電波観測手段と、
前記電波観測手段で観測された電波の経時変化の波形である経時波形を導出する波形形成手段と、
大地に雷撃した際の波形の状況、構造物から雷雲に向けて延びる上向き雷が発生した状態における構造物に雷撃した際の波形の状況を導出する波形導出手段と、
前記波形形成手段で導出された前記経時波形の状況、及び、波形導出手段で導出された波形の状況に基づいて、構造物に雷撃した際の電波の波形であるか否かを判断する波形判別手段とを備えた
ことを特徴とする落雷判別システム。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の落雷判別システムにおいて、
前記波形判別手段により判断された雷撃の対象(大地・構造物)のそれぞれ対し、前記対象に応じた電流パラメータを導出する電流パラメータ導出手段を備えた
ことを特徴とする落雷判別システム。
【請求項5】
雷の電波に基づいて落雷を判定する際に、電波の波形を求め、求めた波形の状況が、大地に雷撃した際の波形の状況であるか、構造物に雷撃した際の波形の状況であるかを判断し、大地への落雷であるか、構造物への落雷であるかを判別する
ことを特徴とする落雷判別方法。
【請求項6】
請求項5に記載の落雷判別方法において、
波形の状況は、
構造物に雷撃した際の電流の状態における落雷の波形の状況、大地に雷撃した際の電流の状態における落雷の波形の状況に基づいて判断される
ことを特徴とする落雷判別方法。
【請求項7】
請求項5に記載の落雷判別方法において、
波形の状況は、
構造物から上向き雷が発生した際の落雷の波形の状況に基づいて判断される
ことを特徴とする落雷判別方法。
【請求項8】
請求項5から請求項7のいずれか一項に記載の落雷判別方法において、
雷撃の対象(大地・構造物)のそれぞれ対し、前記対象に応じた電流パラメータを求める
ことを特徴とする落雷判別方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、落雷の状況を抽出する際に、落雷点を的確にすることができる落雷判別システム、及び、落雷判別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
雷発生時の落雷電荷量や位置を推定する技術として、落雷位置標定システム(Lightning Location Systems:LLS)が使用されている(例えば、特許文献1)。LLSは、落雷に伴う電界や磁界の時間変化などを測定し、落雷の位置や時刻を抽出する技術となっている。
【0003】
落雷の状況を抽出する際には、雷が大地に雷撃した場合(落雷)の測定と、送電線や電波塔などの構造物、風力発電用の風車等の構造物に雷撃した場合(落雷)の測定とを判別することが望ましいとされている。構造物への落雷を判別することができれば、メンテナンスの重要性等を把握することができ、停電などの二次災害を最小限に抑制することができると考えられている。
【0004】
しかし、LLSでは、落雷地点の標定は行っているものの、構造物に多大な影響を及ぼし生活に支障をきたす虞のある落雷と、大地への影響に留まる落雷とを判別することは実施していないのが現状であった。このため、大地への落雷と構造物への落雷とを判別することができる技術の出現が望まれているのが実情であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-197017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、例えば、落雷位置標定システム(Lightning Location Systems:LLS)で観測された雷の電波に基づいて、大地への落雷と構造物への落雷とを判別することができる落雷判別システムを提供することを目的とする。
【0007】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、例えば、落雷位置標定システム(Lightning Location Systems:LLS)で観測された雷の電波に基づいて、大地への落雷と構造物への落雷とを判別することができる落雷判別方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための請求項1に係る本発明の落雷判別システムは、雷の電波を観測する電波観測手段と、前記電波観測手段で観測された電波の経時変化の波形である経時波形を導出する波形形成手段と、大地に雷撃した際の電波の経時変化の波形、及び、構造物に雷撃した際の電波の経時変化の波形が記憶波形として蓄積された波形記憶手段と、前記波形形成手段で導出された前記経時波形、及び、前記波形記憶手段に記憶された前記記憶波形を比較する波形比較手段と、前記波形比較手段で比較された結果に基づいて、前記経時波形の電波が、大地に雷撃した際の電波の波形であるか、構造物に雷撃した際の電波の波形であるかを判断する波形判別手段とを備えたことを特徴とする。
【0009】
請求項1に係る本発明では、波形形成手段により、電波観測手段で観測された電波の経時波形が導出され、波形記憶手段には、大地に雷撃した際の電波の波形、及び、構造物に雷撃した際の電波の波形が記憶波形として蓄積されており、経時波形と記憶波形が波形比較手段で比較され、比較の結果に基づいて経時波形の電波が、大地に雷撃した際の電波の波形であるか、構造物に雷撃した際の電波の波形であるかが判別手段で判断される。
【0010】
このため、例えば、落雷位置標定システム(Lightning Location Systems:LLS)で観測された雷の電波に基づいて、大地への落雷と構造物への落雷とを判別することが可能になる。
【0011】
そして、請求項2に係る本発明の落雷判別システムは、請求項1に記載の落雷判別システムにおいて、前記波形記憶手段には、ステップ状に伸びる第1雷撃の電波の第1波形、前記第1雷撃により形成された放電路を介した後続雷撃の後続波形が、大地に雷撃した際の波形、構造物に雷撃した際の波形のそれぞれに対して記憶波形として蓄積されていることを特徴とする。
【0012】
請求項2に係る本発明では、波形記憶手段には、大地に雷撃した雷、構造物に雷撃した雷のそれぞれに対して、第1雷撃の第1波形(立ち上がり時間が遅い)、後続雷撃の後続波形(立ち上がり時間が速い)が蓄積されている。
大地に雷撃した際には、雷放電路中を流れる光の40%程度の速さの電流で電波波形が形成される。
構造物(金属構造物)に雷撃した際には、構造物中を流れる光とほぼ同等の速さの電流に、光速の40%程度の雷放電路中の電流が重畳して電波波形が形成される。
構造物が送電線などである場合は、架空地線を通じて接続されている近傍の鉄塔を流れる電流により形成される電界波形も重畳する。
この違いにより、大地に雷撃した波形(第1波形、後続波形)と構造物に雷撃した波形(第1波形、後続波形)の形状が異なることになり、これらを比較することにより、大地に雷撃した雷と構造物に雷撃した雷とを判別する。
【0013】
そして、請求項3に係る本発明の落雷判別システムは、雷の電波を観測する電波観測手段と、前記電波観測手段で観測された電波の経時変化の波形である経時波形を導出する波形形成手段と、大地に雷撃した際の波形の状況、構造物から雷雲に向けて延びる上向き雷が発生した状態における構造物に雷撃した際の波形の状況を導出する波形導出手段と、前記波形形成手段で導出された前記経時波形の状況、及び、波形導出手段で導出された波形の状況に基づいて、構造物に雷撃した際の電波の波形であるか否かを判断する波形判別手段とを備えたことを特徴とする。
【0014】
請求項3に係る本発明では、波形形成手段により、電波観測手段で観測された電波の経時変化の波形である経時波形を導出し、波形導出手段により、大地に雷撃した際の波形の状況、構造物から雷雲に向けて延びる上向き雷が発生した状態における構造物に雷撃した際の波形の状況を導出し、波形判別手段により、経時波形の状況、及び、波形導出手段で導出された波形の状況に基づいて、構造物に雷撃した際の電波の波形であるか否かを判断する。
【0015】
即ち、夏場以外の季節(特に冬場)で雷雲が低いときには構造物から雷雲に向けて上向き雷が発生し、上向き雷により放電路が形成されて第1雷撃がない状態になることがある。第1雷撃がない状態で後続雷撃波形の状況になった際に、構造物への落雷であると判定する。
【0016】
また、請求項4に係る本発明の落雷判別システムは、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の落雷判別システムにおいて、前記波形判別手段により判断された雷撃の対象(大地・構造物)のそれぞれ対し、前記対象に応じた電流パラメータを導出する電流パラメータ導出手段を備えたことを特徴とする。
【0017】
請求項4に係る本発明では、雷撃の場所の判断に加えて、電流パラメータ導出手段により、雷撃の対象(大地・構造物)のそれぞれに応じて、電流パラメータを合わせて推定することができる。
【0018】
また、上記目的を達成するための請求項5に係る本発明の落雷判別方法は、雷の電波に基づいて落雷を判定する際に、電波の波形を求め、求めた波形の状況が、大地に雷撃した際の波形の状況であるか、構造物に雷撃した際の波形の状況であるかを判断し、大地への落雷であるか、構造物への落雷であるかを判別することを特徴とする。
【0019】
請求項5に係る本発明では、落雷における電波の波形(電界の経時変化)を求め、求めた波形の状況が、大地に雷撃した際の波形の状況であるか、構造物に雷撃した際の波形の状況であるかを判断することで、大地への落雷であるか、構造物への落雷であるかを判別する。
【0020】
請求項5に係る本発明では、例えば、落雷位置標定システム(Lightning Location Systems:LLS)で観測された雷の電波に基づいて、大地への落雷と構造物への落雷とを判別することが可能になる。
【0021】
また、請求項6に係る本発明の落雷判別方法は、請求項5に記載の落雷判別方法において、波形の状況は、構造物に雷撃した際の電流の状態における落雷の波形の状況、大地に雷撃した際の電流の状態における落雷の波形の状況に基づいて判断されることを特徴とする。
【0022】
請求項6に係る本発明では、構造物に雷撃した際の電流の状態における落雷の波形の状況(波形の形状)、大地に雷撃した際の電流の状態における落雷の波形の状況(波形の形状)が、例えば、蓄積された情報の波形の形状と比較され、電流速度の違い(大地に雷撃した時と構造物に雷撃した時の電流速度の違い)により生じる波形の形状の違いに基づいて、大地に雷撃した雷と構造物に雷撃した雷とを判別する。
【0023】
また、請求項7に係る本発明の落雷判別方法は、請求項5に記載の落雷判別方法において、波形の状況は、構造物から上向き雷が発生した際の落雷の波形の状況に基づいて判断されることを特徴とする。
【0024】
請求項7に係る本発明では、構造物から上向き雷が発生した際の落雷の波形の状況、即ち、上向き雷が発生し、立ち上がり時間が遅い第1雷撃が発生する前に、立ち上がり時間が速い後続雷撃が発生した状況になった際に、構造物への落雷であると判定する。即ち、冬場など、雷雲が低いときには構造物から雷雲に向けて上向き雷が発生し、上向き雷により放電路が形成されて第1雷撃がない状態になることがある。第1雷撃がない状態の波形の状況になった際に、構造物への落雷であると判定する。
【0025】
また、請求項8に係る本発明の落雷判別方法は、請求項5から請求項7のいずれか一項に記載の落雷判別方法において、雷撃の対象(大地・構造物)のそれぞれ対し、前記対象に応じた電流パラメータを求めることを特徴とする。
【0026】
請求項8に係る本発明では、雷撃の場所の判断に加えて、雷撃の対象(大地・構造物)のそれぞれに応じて、電流パラメータを合わせて推定することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の落雷判別システムは、例えば、落雷位置標定システム(Lightning Location Systems:LLS)で観測された雷の電波に基づいて、大地への落雷と構造物への落雷とを判別することが可能になる。
【0028】
本発明の落雷判別方法は、例えば、落雷位置標定システム(Lightning Location Systems:LLS)で観測された雷の電波に基づいて、大地への落雷と構造物への落雷とを判別することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の一実施例に係る落雷判別システムの全体構成を説明する概念図である。
図2】制御手段のブロック構成図である。
図3】電界強度の経時変化(波形)を表すグラフである。(大地)
図4】電界強度の経時変化(波形)を表すグラフである。(送電線鉄塔)
図5】電界強度の経時変化(波形)を表すグラフである。(構造物)
図6】波形導出手段に記憶された電界波形のデータである。(第1雷撃:立ち上がり時間が遅い)
図7】波形導出手段に記憶された電界波形のデータである。(後続雷撃:立ち上がり時間が速い)
図8】他の実施例に係る落雷判別システムの制御手段のブロック構成図である。
図9】夏場等(雷雲が高い位置で発生)の落雷の状況を説明する概念図である。
図10】夏場以外(雷雲が低い位置で発生)の落雷の状況を説明する概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1図2に基づいて本発明の一実施例に係る落雷判別システムの全体構成を説明する。図1には落雷を観測している状態の落雷判別システムの全体の概略構成、図2には制御手段のブロック構成を示してある。
【0031】
図1に示すように、落雷判別システムは、落雷位置標定システム(Lightning Location Systems:LLS)を備えている。即ち、所望の場所には複数の電波観測手段1(電波観測手段)が配されている。電波観測手段1では、大地3、もしくは、構造物4への落雷における雷放電路5の電波が計測される。計測(観測)された電波(電界)は制御手段6に入力される。
【0032】
制御手段6では、大地3、もしくは、構造物4への落雷における電波の波形に基づいて、大地3に雷撃した状況であるか、構造物4に雷撃した状況であるかが判断されると共に、雷撃の対象(大地3・構造物4)のそれぞれ対し、前記対象に応じた電流パラメータ(ピーク値、峻度など)が求められる。制御手段6で求められた雷撃の場所、電流パラメータの情報は表示手段7に表示される。
【0033】
図2から図7に基づいて、制御手段6の機能、及び、制御状況を具体的に説明する。
【0034】
図2には制御手段6の機能を説明するブロック構成、図3には大地3への雷撃よる電界強度の経時変化(波形)、図4には構造物4としての送電線鉄塔への雷撃による電界強度の経時変化(波形)、図5には構造物4としての高さが高い単独構造体(風車や電波塔など)への雷撃による電界強度の経時変化(波形)を示してある。
【0035】
また、図6には予めデータとして記憶された第1雷撃(立ち上がり時間が遅い)の電界強度の経時変化(記憶波形)、図7には予めデータとして記憶された後続雷撃(立ち上がり時間が速い)の電界強度の経時変化(記憶波形)を示してある。
【0036】
図2に示すように、制御手段6には、電波観測手段1で観測された電波の経時変化の波形である経時波形を導出する波形形成手段11が備えられている。また、制御手段6には、大地3に雷撃した際の電波の経時変化の波形、及び、構造物4(送電線鉄塔・単独構造体)に雷撃した際の電波の経時変化の波形が記憶波形として蓄積された波形記憶手段12が備えられている。
【0037】
波形形成手段11で導出された経時波形、及び、波形記憶手段12に記憶された記憶波形は波形比較手段13で比較される。波形比較手段13で比較された結果に基づいて、波形形成手段11で導出された経時波形の電波が、大地3に雷撃した際の電波の波形であるか、構造物4(送電線鉄塔・単独構造体)に雷撃した際の電波の波形であるかが、波形判別手段14で判断される。
【0038】
そして、波形判別手段14での判断結果に基づいて、電波観測手段1で観測された電波による雷撃の場所が場所特定手段15で特定される。つまり、電波観測手段1では観測された電波による落雷が、大地3への雷撃か、もしくは、構造物4(送電線鉄塔・単独構造体)への雷撃であるか、場所特定手段15で特定され、特定された場所の情報が場所情報として出力される。
【0039】
図3から図5に基づいて、電波観測手段1で観測された電波の経時波形の一例を説明する。
【0040】
大地3への雷撃の場合、図3に示した状態になる。即ち、第1雷撃で立ち上がり時間が遅い際には、細線で示すように、なだらかに電界強度が変化する。後続雷撃で立ち上がり時間が速い際には、太線で示すように、第1雷撃に比べて高い値で電界強度がなだらかに変化する。
【0041】
構造物4として、送電線鉄塔への雷撃の場合、図4に示した状態になる。即ち、第1雷撃で立ち上がり時間が遅い際には、細線で示すように、多少値が上下した状態で電界強度が変化する。後続雷撃で立ち上がり時間が速い際には、太線で示すように、第1雷撃に比べて振れ幅が大きくなって値が上下した状態で電界強度が変化する。
【0042】
構造物4として、風車や電波塔などの単独構造体への雷撃の場合、図5に示した状態になる。即ち、第1雷撃で立ち上がり時間が遅い際には、細線で示すように、大きくなだらかに電界強度が変化する。後続雷撃で立ち上がり時間が速い際には、太線で示すように、第1雷撃に比べて上下に大きく振れて値が上下した状態で電界強度が変化する。
【0043】
図6図7に基づいて、波形記憶手段12に記憶された記憶波形の一例を説明する。
【0044】
記憶波形は、以下の知見により設定されている。大地3に雷撃した際には、雷放電路中を流れる光の40%程度の速さの電流で電波波形が形成される。構造物(金属構造物)に雷撃した際には、構造物中を流れる光とほぼ同等の速さの電流に、光速の40%程度の雷放電路中の電流が重畳して電波波形が形成される。構造物が送電線などである場合は、架空地線を通じて接続されている近傍の鉄塔を流れる電流により形成される電界波形も重畳する。
【0045】
第1雷撃における記憶波形は、例えば、図6に示した状態のもの(ステップ状に伸びる第1雷撃の電波の第1波形)が記憶されている。即ち、大地3への雷撃の場合(実線で示してある)、構造物4として、送電線鉄塔への雷撃の場合(点線で示してある)、構造物4として、風車や電波塔などの単独構造体への雷撃の場合(一点鎖線で示してある)、いずれも比較的なだらかに電界強度が変化している。送電線鉄塔への雷撃の場合(点線で示してある)には、電界強度が上下に多少変化している。
【0046】
第1雷撃により形成された放電路を介した後続雷撃の後続波形における記憶波形は、例えば、図7に示した状態のものが記憶されている。即ち、大地3への雷撃の場合(実線で示してある)、なだらかに電界強度が大きく変化している。構造物4として、送電線鉄塔への雷撃の場合(点線で示してある)、電界強度が上下に大きく変化している。構造物4として、風車や電波塔などの単独構造体への雷撃の場合(一点鎖線で示してある)、電界強度が短時間で上下に大きく変化し、その後なだらかに変化している。
【0047】
図に示したように、大地3に雷撃した波形(第1波形、後続波形)と構造物4に雷撃した波形(第1波形、後続波形)の形状が異なることになり、これらを比較することにより、大地3に雷撃した雷と構造物4に雷撃した雷とが判別される。
【0048】
つまり、波形形成手段11で導出された経時波形(図3から図5に示した経時波形)と、波形記憶手段12に記憶された記憶波形(図6図7に示した記憶波形)とが、波形比較手段13で比較され、比較の結果に基づいて経時波形の電波が、大地3に雷撃した際の電波の波形であるか、構造物4(送電線鉄塔・単独構造体)に雷撃した際の電波の波形であるかが波形判別手段14で判断される。
【0049】
このため、例えば、落雷位置標定システム(Lightning Location Systems:LLS)で観測された雷の電波に基づいて、大地3への落雷と構造物4への落雷とを判別することが可能になる。
【0050】
一方、図2に示すように、制御手段6には、雷撃の対象(大地3・構造物4)のそれぞれに対し、大地3、構造物4に応じた電流パラメータを求める機能が備えられている。即ち、制御手段6には、電流導出手段17が備えられ、大地3、構造物4に応じた電流パラメータが導出される。例えば、電流パラメータとして、電流波高値、電流峻度、電流継続時間が導出される。
【0051】
場所特定手段15で特定された場所が大地3の場合、電流導出手段17で大地3の雷撃の状況に応じた電流パラメータが導出される。
【0052】
場所特定手段15で特定された場所が構造物4(送電線鉄塔)の場合、鉄塔補正機能18により送電線鉄塔の構造の仕様を加味して電流値が補正された状態で、電流導出手段17で構造物4(送電線鉄塔)の雷撃の状況に応じた電流パラメータが導出される。
【0053】
場所特定手段15で特定された場所が構造物4(単独構造体)の場合、構造体補正機能19により単独鉄塔の構造体の構造の仕様を加味して電流値が補正された状態で、電流導出手段17で構造物4(単独構造体)の雷撃の状況に応じた電流パラメータが導出される。
【0054】
電流導出手段17で導出された大地3の雷撃の状況に応じた電流パラメータ、構造物4(送電線鉄塔)の雷撃の状況に応じた電流パラメータ、構造物4(単独構造体)の雷撃の状況に応じた電流パラメータは、電流パラメータ情報として出力される。
【0055】
このため、雷撃の場所の判断に加えて、雷撃の対象である大地3、構造物4(送電線鉄塔・単独構造体)のそれぞれに応じて、電流パラメータ(例えば、電流波高値、電流峻度、電流継続時間)を合わせて推定することができる。
【0056】
図8から図10に基づいて本発明の他の実施例を説明する。
【0057】
図8には本発明の他の実施例に係る落雷判別システムの制御手段のブロック構成、図9には夏場等(雷雲が高い位置で発生している状態)の落雷の状況を説明するための概念、図10には夏場以外(冬場など雷雲が低い位置で発生している状態)の落雷の状況を説明するための概念を示してある。
【0058】
雷雲は所定の温度以下(例えば、マイナス10℃以下)の状態で発生することが知られている。図9に示すように、夏場はマイナス10℃以下の高さHが高く、上空の高い位置に雷雲21が発生する。一方、図10に示すように、夏場以外(特に冬場)はマイナス10℃以下の高さhが低く、上空の低い位置に雷雲21が発生する。
【0059】
図9に示すように、夏場の季節で雷雲21が高い時には、構造物22が存在していても、立ち上がり時間が遅い第1雷撃23が構造物22、もしくは、大地24に雷撃し、その後、第1雷撃23により形成された放電路を介した後続雷撃25が構造物22、もしくは、大地24に雷撃する。
【0060】
図10に示すように、夏場以外の季節(特に冬場)で雷雲21が低いときには、構造物22から雷雲21に向けて上向き雷26が発生し、上向き雷26により放電路が形成されて第1雷撃23が生じる前に、後続雷撃25が発生することがある。第1雷撃23がない状態で後続雷撃25が発生した場合に、構造物22への落雷であると判定する。または、第1雷撃23が生じる前に、後続雷撃25が生じることなく上向き雷撃独特の電解波形の雷撃が発生することもある。第1雷撃23がない状態で、後続雷撃25が生じることなく上向き雷撃独特の電解波形の雷撃が発生した場合に、構造物22への落雷であると判定する。
【0061】
つまり、図8に示すように、制御手段31には、電波観測手段1(図1参照)で観測された電波の経時変化の波形である経時波形を導出する波形形成手段32が備えられている。また、制御手段31には、構造物から雷雲に向けて延びる上向き雷が発生した状態における雷撃の波形の状況を導出する波形導出手段33が備えられている。
【0062】
そして、波形形成手段32で求められた経時波形と、波形導出手段33で導出された波形の状況に基づいて、構造物から雷雲に向けて延びる上向き雷が発生した状態の波形であるか否かが波形判別手段34で判断される。
【0063】
そして、波形判別手段34での判断結果に基づいて、電波観測手段1で観測された電波による雷撃の場所が、構造物から雷雲に向けて延びる上向き雷が発生した状態の構造物であるか、それ以外の大地であるかが判断されて、場所情報として出力される。
【0064】
一方、制御手段31には、雷撃の対象(大地・構造物)のそれぞれ対し、大地、構造物に応じた電流パラメータを求める機能が備えられている。即ち、制御手段31には、電流導出手段35が備えられ、大地、構造物に応じた電流パラメータが導出される。例えば、電流パラメータとして、電流波高値、電流峻度、電流継続時間が導出される。
【0065】
波形判別手段34で判断された場所が大地の場合、電流導出手段35で大地の雷撃の状況に応じた電流パラメータが導出される。
【0066】
波形判別手段34で判断された場所が構造物の場合(上向き雷が存在している場合)、季節構造物補正機能36により、夏場以外の雷雲21(図10参照)に対する上向き雷26(図10参照)の電界波形、及び、構造物の構造の仕様を加味され、電流導出手段35で構造物への雷撃の電流パラメータが導出される。
【0067】
このため、雷撃の場所の判断に加えて、雷撃の対象である大地、造物物のそれぞれに応じて、電流パラメータ(例えば、電流波高値、電流峻度、電流継続時間)を合わせて推定することができる。
【0068】
上述した落雷判別システムは、例えば、落雷位置標定システム(Lightning Location Systems:LLS)で観測された雷の電波に基づいて、雷撃の場所を判断すすることができる。そして、雷撃の場所の判断に加えて、雷撃の対象のそれぞれに応じて、電流パラメータ(例えば、電流波高値、電流峻度、電流継続時間)を合わせて推定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、落雷の状況を抽出する際に、落雷点を的確にすることができる落雷判別システム、及び、落雷判別方法の産業分野で利用することができる。
【符号の説明】
【0070】
1 電波観測手段
3、24 大地
4、22 構造物
5 雷放電路
6、31 制御手段
11、32 波形形成手段
12 波形記憶手段
13 波形比較手段
14、34 波形判別手段
15 場所特定手段
17、35 電流導出手段
18 鉄塔補正機能
19 構造体補正機能
21 雷雲
23 第1雷撃
25 後続雷撃
26 上向き雷
33 波形導出手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10