(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024103354
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】トリチウム含有水からのトリチウム分離方法
(51)【国際特許分類】
G21F 9/06 20060101AFI20240725BHJP
B01D 59/02 20060101ALI20240725BHJP
B01D 59/34 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
G21F9/06 591
B01D59/02
B01D59/34 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023007638
(22)【出願日】2023-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
(71)【出願人】
【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】山ノ井 航平
(72)【発明者】
【氏名】猿倉 信彦
(72)【発明者】
【氏名】波多野 雄治
(72)【発明者】
【氏名】小林 かおり
(72)【発明者】
【氏名】谷 正彦
(72)【発明者】
【氏名】古屋 岳
(57)【要約】
【課題】トリチウム含有水から選択的にトリチウム原子を分離するトリチウム分離方法を実現する。
【解決手段】本発明の一態様に係るトリチウム分離方法は、トリチウム水(HTO分子)における酸素-トリチウム結合(O-T結合)の振動を励起する波長範囲の光、および振動が励起された酸素-トリチウム結合を切断する波長範囲の紫外線を、トリチウム含有水に照射することにより、前記酸素-トリチウム結合を切断してトリチウム原子(T)を分離する分離工程を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリチウム水(HTO分子)における酸素-トリチウム結合(O-T結合)の振動を励起する波長範囲の光、および振動が励起された酸素-トリチウム結合を切断する波長範囲の紫外線を、トリチウム含有水に照射することにより、前記酸素-トリチウム結合を切断してトリチウム原子(T)を分離する分離工程を含む、
トリチウム分離方法。
【請求項2】
前記光の波長範囲が、2439nm~2857nm、4000nm~5000nm、6250nm~9090nm、2156nm~2253nm、または1636nm~1692nmのいずれかである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記紫外線が、酸素-水素結合(O-H結合)を切断しない波長範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記紫外線の波長範囲が、200nm~250nmである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
酸素-トリチウム結合(O-T結合)の振動を励起する波長範囲の前記光は、パルスレーザである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記紫外線は、パルスレーザである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記トリチウム含有水は有機化合物を含み、当該有機化合物に含まれる水素原子と、前記分離工程において得られたトリチウム原子とを反応させ、水素分子状トリチウム(HT)を生成する生成工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記有機化合物が、アルコールおよび/またはフロン系のガスである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記生成工程において得られた水素分子状トリチウム(HT)を含むトリチウム含有水を気化させた後、液化または固化させることにより、前記トリチウム含有水から水素分子状トリチウムを回収する回収工程をさらに含む、請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリチウム含有水からのトリチウム分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
福島第一原子力発電所等では、使用した冷却水は多核種除去施設(ALPS)に移され、冷却水からトリチウム以外が除去され、トリチウムを含有する処理水として貯蔵されている。前記処理水からトリチウムを分離する技術としては、例えば「低トリチウム濃度の大量トリチウム含有水」を「高トリチウム濃度の少量トリチウム含有水」に減容する技術がある。
【0003】
非特許文献1には、HDO分子(重水素分子)からD(重水素原子)を分離(解離)させる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】H. Akagi et. al.,“Selective OD bond dissociation of HOD: Photodissociation of vibrationally excited HOD in the 5v OD state”, J. Chem. Phys. 123, 184305(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の技術では、トリチウム含有水から選択的にトリチウム原子を分離することができない。結果的に、最終的に数十~数百m3程度の大量の高トリチウム濃度のトリチウム含有水が残るという問題がある。
【0006】
そこで、本発明の一態様は、トリチウム含有水から選択的にトリチウム原子を分離するトリチウム分離方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るトリチウム分離方法は、トリチウム水(HTO分子)における酸素-トリチウム結合(O-T結合)の振動(伸縮振動および/または変角振動)を励起する波長範囲の光、および振動(伸縮振動および/または変角振動)が励起された酸素-トリチウム結合を切断する波長範囲の紫外線を、トリチウム含有水に照射することにより、前記酸素-トリチウム結合を切断してトリチウム原子(T)を分離する分離工程を含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、トリチウム含有水から選択的にトリチウム原子を分離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係るトリチウム分離方法の一例の概略図を示す。
【
図2】本発明の一実施形態に係る処理フローの一例を示す。
【
図3】O-T結合に吸収される光の波数の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態の一例について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。また、本明細書中に記載された文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。
【0011】
本願明細書において、「トリチウム水」は「HTO分子」を指し、「トリチウム含有水」は「トリチウムが含まれる水」を指す。ここで、処理対象(処理前)のトリチウム含有水に含まれるトリチウムの多くは、HTO分子として存在する。処理過程におけるトリチウム含有水に含まれるトリチウムは、トリチウム原子(T)、HTO分子、Tを含む化合物、および/または、水素分子状トリチウム(HT)として存在し得る。
【0012】
〔1.トリチウム分離方法〕
〔1-1.本発明の概要〕
上述したように、福島第一原子力発電所では、使用した冷却水は多核種除去施設(ALPS)においてトリチウム以外が除去され、トリチウムを含有する処理水として約130万トンが貯蔵されている。前記処理水からトリチウムを分離する技術としては、「低トリチウム濃度の大量トリチウム含有水」を「高トリチウム濃度の少量トリチウム含有水」に減容する技術が知られている。このような技術では、トリチウム含有水から選択的にトリチウム原子を分離することができない。結果的に、数十~数百m3程度という大量の高トリチウム濃度のトリチウム含有水が残るという問題がある。高トリチウム濃度のトリチウム含有水は、トリチウム自身が持つ放射線で酸素と水素に分解され、水素爆発が起きる危険性がある。さらには、放射線によりラジカルが発生し、容器が腐食する危険性がある。したがって、高トリチウム濃度のトリチウム含有水は、慎重でかつ厳重な管理が求められる。そのため、トリチウム含有水から選択的にトリチウム原子を分離する方法が望まれていた。
【0013】
そこで、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、酸素-トリチウム結合(O-T結合)の振動(伸縮振動および/または変角振動)を励起する波長範囲の光、および振動(伸縮振動および/または変角振動)が励起された酸素-トリチウム結合を切断する波長範囲の紫外線に着目した。そして、酸素-トリチウム結合(O-T結合)の振動(伸縮振動および/または変角振動)を励起する波長範囲の光をトリチウム含有水に照射することにより、O-T結合の振動(伸縮振動および/または変角振動)を励起させ、振動(伸縮振動および/または変角振動)が励起されたO-T結合を切断する波長範囲の紫外線を照射することにより、電子励起が起こり、O-T結合が選択的に切断されることを見出した。これにより、HTO分子からトリチウム原子(T)を選択的に分離することが可能となる。非特許文献1には、水素原子より中性子が1個多い重水素に関して、減圧下で重水素原子を選択的に分離できることが開示されている。また、この場合の分離係数は(D-OH)/(H-OD)>12であることが明らかとなっている。
【0014】
本発明の一実施形態に係るトリチウム含有水からのトリチウム分離方法の一例の概略を、
図1を用いて説明する。
図1の分離工程において示すように、酸素-トリチウム結合(O-T結合)の振動(伸縮振動および/または変角振動)を励起する波長範囲の光をHTO分子に照射することにより、O-T結合を選択的に振動励起させることができる。O-T結合の振動(伸縮振動および/または変角振動)が励起されることにより、HTO分子におけるO-H結合を切断可能な紫外線の波長と、O-T結合を切断可能な紫外線の波長との差が、励起前より大きくなる。そのため、振動(伸縮振動および/または変角振動)が励起されたO-T結合を切断する波長範囲の紫外線は、O-H結合(酸素-水素結合)をほとんど切断しない。それゆえ、振動(伸縮振動および/または変角振動)が励起されたO-T結合を切断する波長範囲の紫外線を照射することにより、O-T結合が選択的に切断され、HTO分子からトリチウム原子(T)が選択的に分離(解離)される。互いに分離したトリチウム原子およびOHは、ラジカルとしてトリチウム含有水の中に存在する。
【0015】
次いで、
図1の生成工程において示すように、分離工程において得られたトリチウム原子(ラジカル)がトリチウム含有水の中の有機化合物に含まれる水素原子と反応することにより、水素分子状のトリチウム(HT)が含まれるトリチウム含有水が得られる。
【0016】
その後、
図1の回収工程において示すように、生成工程において得られたトリチウム含有水を例えば、コールドトラップに導入することにより、トリチウム含有水から水素分子状トリチウム(HT)が回収される。
【0017】
また、
図2は、本発明の一実施形態に係るトリチウム含有水からのトリチウム分離方法の一例のフローを示す。
図2に示すように、有機化合物を含むトリチウム含有水を分離工程に供することにより、トリチウム原子を含むトリチウム含有水が得られる。次いで、分離工程を経たトリチウム含有水を生成工程に供することにより、水素分子状トリチウムを含むトリチウム含有水が得られる。その後、生成工程を経たトリチウム含有水を回収工程に供することにより、トリチウム含有水から水素分子状トリチウムが得られる。
【0018】
〔1-2.分離工程〕
本発明の一態様に係るトリチウム分離方法は、トリチウム水(HTO分子)における酸素-トリチウム結合(O-T結合)の振動(伸縮振動および/または変角振動)を励起する波長範囲の光(本願明細書では、第1光とも称する)、および振動(伸縮振動および/または変角振動)が励起された酸素-トリチウム結合を切断する波長範囲の紫外線(本願明細書では、第2光とも称する)を、トリチウム含有水に照射することにより、前記酸素-トリチウム結合を切断してトリチウム原子(T)を分離する分離工程を含む。
【0019】
分離工程において、処理対象のトリチウム含有水に、生成工程で用いる有機化合物をあらかじめ加えておいてもよい。HTO分子を含むトリチウム含有水に、第1光を照射する。また、トリチウム含有水に、第1光と実質的に同時に第2光を照射する。第1光および第2光は、同じ領域(共通の領域)に実質的に同時に照射される。トリチウム含有水は液体状態であることが好ましい。
【0020】
第1光は、O-T結合の振動(伸縮振動および/または変角振動)を励起する波長範囲の光であれば特に限定されないが、例えば赤外線または赤色~黄色の可視光である。具体的には、第1光の波長範囲は、2439nm~2857nm、4000nm~5000nm、6250nm~9090nm、2156nm~2253nm、または1636nm~1692nm(それぞれ、波数範囲は、3500cm-1~4100cm-1、2000cm-1~2500cm-1、1100cm-1~1600cm-1、4438cm-1~4638cm-1、5910cm-1~6112cm-1)であってもよい。第1光の波長範囲は、上記以外に例えば、530nm~840nmであってもよい。
【0021】
上記の波長範囲のうち、トリチウム含有水に含まれるH2O、HDO、アルコール、およびフロンガスに吸収されない(吸収されにくい)観点から、第1光の波長範囲は4167nm~4546nm、2156nm~2253nm、または1636nm~1692nmであることが好ましい。
【0022】
振動(伸縮振動および/または変角振動)のエネルギー準位の一般式、HTO分子における振動(伸縮振動および/または変角振動)のエネルギー準位、および、HTO分子における振動遷移のエネルギーは下記式で表される。なお、下記式で表されるパラメータは、摂動による影響は考慮していない。
【0023】
【0024】
ここで、ωiは基準振動の振動数、νiは対応する振動量子数、xikは非調和定数である。ωiおよびxikについては実験から既知である。
例えば、(ν1,ν2,ν3,=0,1,0)では、振動遷移に対応する第1光の波長は約7505nmになる。
例えば、(ν1,ν2,ν3,=2,6,0)では、振動遷移に対応する第1光の波長は約834nmになる。
例えば、(ν1,ν2,ν3,=2,2,2)では、振動遷移に対応する第1光の波長は約701nmになる。
例えば、(ν1,ν2,ν3,=0,13,1)では、振動遷移に対応する第1光の波長は約530nmになる。
【0025】
種々の振動量子数の振動遷移に対応する第1光の波長(nm)の例を下記表に示す。
【0026】
【0027】
図3は、振動遷移に対応する第1光の波数(cm
-1)(横軸)と吸収強度(cm
2/分子)(縦軸)とを示す図である。
図3は、上記表の一部の波長範囲について示す。
図3に示すように、前記波長範囲の光はO-T結合に吸収されるため、O-T結合の選択的振動励起を生じさせる。第1光は、上記表に記載の波長の光を含むことが好ましい。ここで、
図3は、O-T結合において吸収強度が高くなる光の波長範囲の一例を示すことを意図しており、
図3に示す吸収強度は近似値である。
【0028】
トリチウム含有水には、軽水分子(H2O)、重水素分子(HDO)、およびHTO分子が含まれる。そのため、効率よくトリチウムを分離するためには、O-H結合およびO-D結合には吸収されず、O-T結合のみに吸収される(振動(伸縮振動および/または変角振動)を励起する)光を第1光および第2光として使用することが好ましい。この効率性の観点から、上記の波長範囲の光が好ましい。また、第1光および第2光は、トリチウム含有水の中の有機化合物にも吸収されない波長の光であることが好ましい。
【0029】
第1光の光源としてはLED(発光ダイオード)またはレーザ光源等の任意の光源を用いることができる。第1光の照射方法は特に限定されないが、紫外線照射との兼ね合いの観点から当該第1光がパルスレーザであることが好ましい。
【0030】
第2光の波長範囲は、振動(伸縮振動および/または変角振動)が励起された酸素-トリチウム結合を切断する波長範囲であれば特に限定されないが、200nm~250nmであることが好ましい。前記のような波長範囲であれば、O-H結合およびO-D結合には吸収されず(切断せず)、O-T結合のみに吸収されるため、効率よくO-T結合の電子励起を生じさせてO-T結合を切断し、トリチウム原子を分離できるため好ましい。
【0031】
第2光の照射方法は特に限定されないが、第2光(紫外線)がパルスレーザであることが好ましい。第2光の照射は、振動(伸縮振動および/または変角振動)が励起された酸素-トリチウム結合を切断できるタイミングであれば特に限定されない。ただし、O-T結合の振動励起の緩和時間は1μsより小さい。そのため、第2光の照射は、O-T結合の緩和時間の観点から、第1光と同時に照射することが好ましい。第1光の照射開始から、遅くとも第1光の照射終了後1μs経過するまでの間に、第2光を照射することが好ましい。
【0032】
〔1-3.生成工程〕
本発明の一態様に係るトリチウム分離方法は、上記の分離工程において得られたトリチウム原子と、水素原子とを反応させ、水素分子状トリチウム(HT)を生成する生成工程を含んでいてもよい。前記水素原子は、有機化合物に由来する水素原子であってもよい。前記有機化合物としては、トリチウム原子に水素原子を供給できる有機化合物であれば特に限定されないが、例えば、アルコールおよび/または水素原子を含むフロン系のガス(常温常圧で気体)を使用することができる。アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ホルムアルデヒド等が挙げられる。水素原子を含むフロン系のガスとしては例えば、C2H3F2、C2H4F2、C2H3F2、C2H3F、等が挙げられる。
【0033】
これらの有機化合物を添加するタイミングは特に限定されず、例えば、第1光、および第2光を照射する前のトリチウム含有水にあらかじめ添加してもよい。こうすることで、第1光および第2光の照射によって分離したトリチウム原子(ラジカル)が、同じく生じたOHラジカルと再結合する前に、トリチウム含有水に含まれる有機化合物の水素原子と反応しやすくなる。トリチウム含有水における有機化合物のモル濃度は、HTO分子のモル濃度より大きいことが好ましい。
【0034】
〔1-4.回収工程〕
本発明の一態様に係るトリチウム分離方法は、上記の生成工程において得られた水素分子状トリチウム(HT)を含むトリチウム含有水から、水素分子状トリチウム(HT)を回収する回収工程をさらに含んでいてもよい。トリチウム含有水から水素分子状トリチウム(HT)を回収する方法は特に限定されないが、例えば、トリチウム含有水をコールドトラップに導入することにより、水素分子状トリチウム(HT)のみを回収することができる。例えば、トリチウム含有水を加熱または減圧することにより気化させ、その後冷却または加圧することにより水および有機化合物を液化または固化させる。これにより、沸点が超低温である水素分子状トリチウム(HT)のみを回収することができる。水素分子状トリチウム(HT)は、例えば水素吸蔵合金などに吸収させて保管することができる。そのため、トリチウムを保管するために必要な容積を低減することができる。
【0035】
分離工程におけるトリチウムの分離係数は、12以上であると考えられる。それゆえ、原子力発電所で生じるトリチウム含有水に対して本発明の一態様に係るトリチウム分離方法を適用すると、例えば、トリチウム含有水全量の32%が処理により無くなった場合、残りのトリチウム含有水(すなわち、処理前のトリチウム含有水全量の68%)のトリチウム濃度を1/100以下に低減することができる。
【0036】
なお、分離工程において分離したトリチウム原子を、別の用途に用いてもよい。例えば、トリチウム原子を特定の有機化合物と反応させることで、トリチウムを含む有機化合物を生成してもよい。
【0037】
〔2.まとめ〕
本発明の一実施形態には、下記の構成が含まれている。
<1>トリチウム水(HTO分子)における酸素-トリチウム結合(O-T結合)の振動を励起する波長範囲の光、および振動が励起された酸素-トリチウム結合を切断する波長範囲の紫外線を、トリチウム含有水に照射することにより、前記酸素-トリチウム結合を切断してトリチウム原子(T)を分離する分離工程を含む、
トリチウム分離方法。
<2>前記光の波長範囲が、2439nm~2857nm、4000nm~5000nm、6250nm~9090nm、2156nm~2253nm、または1636nm~1692nmのいずれかである、<1>に記載の方法。
<3>前記紫外線が、酸素-水素結合(O-H結合)を切断しない波長範囲である、<1>または<2>に記載の方法。
<4>前記紫外線の波長範囲が、200nm~250nmである、<1>~<3>のいずれか1つに記載の方法。
<5>酸素-トリチウム結合(O-T結合)の振動を励起する波長範囲の前記光は、パルスレーザである、<1>~<4>のいずれか1つに記載の方法。
<6>前記紫外線は、パルスレーザである、<1>~<5>のいずれか1つに記載の方法。
<7>前記トリチウム含有水は有機化合物を含み、当該有機化合物に含まれる水素原子と、前記分離工程において得られたトリチウム原子とを反応させ、水素分子状トリチウム(HT)を生成する生成工程をさらに含む、<1>~<6>のいずれか1つに記載の方法。
<8>前記有機化合物が、アルコールおよび/またはフロン系のガスである、<1>~<7>のいずれか1つに記載の方法。
<9>前記生成工程において得られた水素分子状トリチウム(HT)を含むトリチウム含有水を気化させた後、液化または固化させることにより、前記トリチウム含有水から水素分子状トリチウムを回収する回収工程をさらに含む、<1>~<8>のいずれか1つに記載の方法。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、トリチウム含有水から選択的にトリチウム原子を分離する方法に利用することができる。