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特開2024-103369多元系金属窒化物、磁性体及び多元系金属窒化物の製造方法
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  • 特開-多元系金属窒化物、磁性体及び多元系金属窒化物の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024103369
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】多元系金属窒化物、磁性体及び多元系金属窒化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/047 20060101AFI20240725BHJP
【FI】
H01F1/047
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023007656
(22)【出願日】2023-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(71)【出願人】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人クオリオ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100118809
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 育男
(72)【発明者】
【氏名】中村 考志
(72)【発明者】
【氏名】梅津 理恵
(72)【発明者】
【氏名】石崎 学
(72)【発明者】
【氏名】栗原 正人
【テーマコード(参考)】
5E040
【Fターム(参考)】
5E040AA11
5E040NN01
5E040NN17
(57)【要約】
【課題】ニッケル元素及びマンガン元素を含んで高い飽和磁化を示す多元系金属窒化物、及びそれからなる磁性体、更に、500℃未満の低温で、しかも短時間で多元系金属窒化物を製造可能な方法を提供する。
【解決手段】ニッケル元素及びマンガン元素を含む多元系金属窒化物であって、ニッケル元素及びマンガン元素の各含有量の合計に占めるマンガン元素の含有率が5~25元素%であるマンガン含有多元系金属窒化物、及びそれからなる磁性体、並びに、複数の金属元素を含む多孔性配位高分子を、窒素源の存在下、温度400℃以上500℃未満で窒化処理して、多元系金属窒化物を得ることを含む、多元系金属窒化物の製造方法。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル元素及びマンガン元素を含む多元系金属窒化物であって、
ニッケル元素及びマンガン元素の各含有量の合計に占めるマンガン元素の含有率が5~25元素%である、多元系金属窒化物。
【請求項2】
下記組成式CF1で表される金属窒化物を含む、請求項1に記載の多元系金属窒化物。
組成式CF1: FeXXNiYY
組成式CF1中、XXは0~4であり、YYは0を超え4以下である。
【請求項3】
下記組成式CF2で表すことができる、請求項1に記載の多元系金属窒化物。
組成式CF2: FeXX(Ni(1-ZZ)MnZZYY
組成式CF2中、XXは0~4であり、YYは0を超え4以下であり、ZZは0.05~0.25である。
【請求項4】
ニッケル元素を含み、かつマンガン元素を含まない金属窒化物に対して1.5倍以上の飽和磁化を示す、請求項1に記載の多元系金属窒化物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の多元系金属窒化物からなる磁性体。
【請求項6】
複数の金属元素を含む多孔性配位高分子を、窒素源の存在下、温度400℃以上500℃未満で窒化処理して、多元系金属窒化物を得ることを含む、多元系金属窒化物の製造方法。
【請求項7】
前記多孔性配位高分子がプルシアンブルー型金属錯体である、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記プルシアンブルー型金属錯体が下記組成式CF1Aで表される、請求項7に記載の製造方法。

組成式CF1A: A[M(CN)・zH

組成式CF1A中、Aは陽イオンを示す。
は、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銀、亜鉛、アルミニウム、ランタン、ユーロピウム、ガドリニウム、ルテチウム、バリウム、ストロンチウム及びカルシウムからなる群より選ばれる1種又は2種以上の金属元素を示す。
は、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、白金及び銅からなる群より選ばれる1種又は2種以上の金属元素を示す。
xは0~3であり、yは0.3~1.5であり、zは0~30である。
【請求項9】
前記Mがニッケル元素とマンガン元素とを含み、Mが鉄元素を含む、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記M中において、ニッケル元素及びマンガン元素の各含有量の合計に占めるマンガン元素の含有率が5~25元素%である、請求項9に記載の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル元素及びマンガン元素を含む多元系金属窒化物、この多元系金属窒化物からなる磁性体、及び多元系金属窒化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ノイズフィルター、電磁波吸収体、近接センサー、磁気センサー等に用いる材料としては、飽和磁化が高い磁性素材が求められる。このような材料として、近年、Fe16等の窒化鉄をはじめとする金属窒化物が注目されている。金属窒化物は、単体金属や金属ハロゲン化物等の窒化反応、ゾル・ゲル化合物を用いた還元反応等より合成することができるが、近年、金属イオンと有機配位子とで形成される多孔性配位高分子(PCP:Porous coordination polymer)をアンモニア熱分解(アンモノリシス)して合成する方法が報告されている。例えば、非特許文献1には、Ni2.25Fe0.75[Fe(CN)/rGO(グラフェンオキシド)前駆体をアンモノリシスすることにより、FeNiN/rGOナノハイブリッドシートを合成できることが記載されている。また、非特許文献2には、MnOシート上にMnFe-PBA(プルシアンブルー類似体)を成長させた後に、これをアンモニア/アルゴン環境下で低温熱分解することにより、金属窒化物としてN-FeMnNiを合成できることが記載されている。
【0003】
ところで、近年、ノイズフィルター、電磁波吸収体、近接センサー、磁気センサー等の高性能化が急速に進展しており、それに応じて更に高い飽和磁化を示す磁性素材が望まれている。例えば、電磁波吸収体については、ポスト5G対応の通信技術が進んでおり、5GHz以上の電磁波を利用し適切に通信するため、高周波数帯(例えば28GHz以上)の電磁波ノイズを吸収できる吸収体が望まれている。電磁波吸収体において、電磁波吸収効率、例えば吸収周波数を上げるための効果的な手段の1つとして、磁性素材の飽和磁化を高める方法が挙げられる。
しかし、非特許文献1及び2は、いずれも、合成した金属窒化物を特定の反応に対する触媒として適用可能であることについて検討しているに過ぎず、磁性素材として、特に飽和磁化を高めるという観点からの検討はされていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】ACS Appl. Energy Mater. 2019, 2,8502-8510
【非特許文献2】Applied Surface Science 551 (2021) 149360
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これまで、磁性素材に用いる磁性金属元素として、鉄、コバルト、ニッケルが汎用されてきた。しかし、これらの磁性金属元素を用いた従来の磁性素材では、高い飽和磁化を示す磁性素材の開発という近年の要求には十分に応えることができない。
本発明は、ニッケル元素及びマンガン元素を含んで高い飽和磁化を示す多元系金属窒化物、及びそれからなる磁性体を提供することを課題とする。また、本発明は、500℃未満の低温で、しかも短時間で、望ましくは高い飽和磁化を示しうる多元系金属窒化物を製造可能な方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の課題は以下の手段によって達成された。
<1>ニッケル元素及びマンガン元素を含む多元系金属窒化物であって、
ニッケル元素及びマンガン元素の各含有量の合計に占めるマンガン元素の含有率が5~25元素%である、多元系金属窒化物。
<2>下記組成式CF1で表される金属窒化物を含む、<1>に記載の多元系金属窒化物。
組成式CF1: FeXXNiYY
組成式CF1中、XXは0~4であり、YYは0を超え4以下である。
<3>下記組成式CF2で表すことができる、<1>又は<2>に記載の多元系金属窒化物。
組成式CF2: FeXX(Ni(1-ZZ)MnZZYY
組成式CF2中、XXは0~4であり、YYは0を超え4以下であり、ZZは0.05~0.25である。
<4>ニッケル元素を含み、かつマンガン元素を含まない金属窒化物に対して1.5倍以上の飽和磁化を示す、<1>~<3>のいずれか1項に記載の多元系金属窒化物。
<5>上記<1>~<4>のいずれか1項に記載の多元系金属窒化物からなる磁性体。
<6>複数の金属元素を含む多孔性配位高分子を、窒素源の存在下、温度400℃以上500℃未満で窒化処理して、多元系金属窒化物を得ることを含む、多元系金属窒化物の製造方法。
<7>前記多孔性配位高分子がプルシアンブルー型金属錯体である、<6>に記載の製造方法。
<8>前記プルシアンブルー型金属錯体が下記組成式CF1Aで表される、<7>に記載の製造方法。
組成式CF1A: A[M(CN)・zH
組成式CF1A中、Aは陽イオンを示す。
は、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銀、亜鉛、アルミニウム、ランタン、ユーロピウム、ガドリニウム、ルテチウム、バリウム、ストロンチウム及びカルシウムからなる群より選ばれる1種又は2種以上の金属元素を示す。
は、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、白金及び銅からなる群より選ばれる1種又は2種以上の金属元素を示す。
xは0~3であり、yは0.3~1.5であり、zは0~30である。
<9>前記Mがニッケル元素とマンガン元素とを含み、Mが鉄元素を含む、<8>に記載の製造方法。
<10>前記M中において、ニッケル元素及びマンガン元素の各含有量の合計に占めるマンガン元素の含有率が5~25元素%である、<9>に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、ニッケル元素及びマンガン元素を含んで高い飽和磁化を示す多元系金属窒化物、及びそれからなる磁性体を提供できる。また、本発明は、500℃未満の低温で、しかも短時間で、多元系金属窒化物を製造可能な方法を提供できる。特に、本発明の好適な態様においては、500℃未満の低温で、しかも短時間で、高い飽和磁化を示す多元系金属窒化物を製造可能な方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実験例1及び実験例3で製造した各窒化物について測定温度300Kで飽和磁化(質量磁化率)を測定した結果を示すグラフである。
図2図2は、実験例1及び実験例3で製造した各窒化物について測定温度10Kで飽和磁化(質量磁化率)を測定した結果を示すグラフである。
図3図3は、実験例1で製造した各鉄ニッケル窒化物の2θ=20~75°の範囲の回折チャートを示すグラフである。
図4図4は、実験例1で製造した各鉄ニッケル窒化物の2θ=39~43°の範囲の回折チャートを示すグラフである。
図5図5は、実験例1で製造した各鉄ニッケル窒化物の2θ=15~30°の範囲の回折チャートを示すグラフである。
図6図6は、実験例3で製造した各鉄ニッケル窒化物の2θ=20~75°の範囲の回折チャートを示すグラフである。
図7図7は、実験例3で製造した各鉄ニッケル窒化物の2θ=39~43°の範囲の回折チャートを示すグラフである。
図8図8は、実験例3で製造した各鉄ニッケル窒化物の2θ=15~30°の範囲の回折チャートを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。なお、本発明において、含有量等について数値範囲を複数設定して説明する場合、数値範囲を形成する上限値及び下限値は、特定の数値範囲として「~」の前後に記載された特定の上限値及び下限値の組み合わせに限定されず、各数値範囲の上限値と下限値とを適宜に組み合わせた数値範囲とすることができる。
【0010】
[ニッケル元素及びマンガン元素を含む多元系金属窒化物]
本発明の、ニッケル元素及びマンガン元素を含む多元系金属窒化物(本発明において、便宜上、「マンガン含有多元系金属窒化物」ということがある。)は、少なくともニッケル元素を含む金属窒化物が更にマンガン元素を特定の含有率で含有している多元系金属窒化物である。
マンガン含有多元系金属窒化物を構成する少なくともニッケル元素を含む金属窒化物(マンガン元素が導入される金属窒化物であって、マンガン含有多元系金属窒化物のベースとなる結晶相に相当する)は、少なくともニッケル元素を含む金属窒化物であればよく、ニッケル元素に加えて、適宜にニッケル元素以外でマンガン元素以外の金属元素、例えば鉄元素を含んでいてもよい。このような金属窒化物としては、ニッケル窒化物、鉄元素とニッケル元素とを含む鉄ニッケ窒化物等を含む。この金属窒化物は、飽和磁化の大幅な向上が見込める点で、鉄ニッケル窒化物が好ましい。マンガン含有多元系金属窒化物は、マンガン元素が導入される金属窒化物として、組成式CF1:FeXXNiYYNで表される金属窒化物を含んでいることが好ましい。組成式CF1において、XXは0~4であり、高い飽和磁化を示しうる点で0~2であることが好ましい。ただし、上記金属窒化物が鉄元素を含む場合、XXは0を超え4以下であり、高い飽和磁化を示しうる点で1又は2であることが好ましい。YYは、0を超え4以下であり、高い飽和磁化を示しうる点で1~3であることが好ましい。金属窒化物において、鉄元素とニッケル元素との含有量比、組成式CF1ではXX:YYは、用途、要求特性等に応じて適宜に決定できる。少なくともニッケル元素を含む金属窒化物は、ニッケル元素、鉄元素及びマンガン元素の3元素以外の金属元素を含んでいてもよい。
【0011】
マンガン元素が導入される金属窒化物としてのニッケル窒化物(窒化ニッケル)は、特に制限されず、公知の窒化物が挙げられ、例えば、上記組成式CF1(XX=0、かつ0<YY≦4)で表されるニッケル窒化物が挙げられるが、これに限定されない。具体的には、NiN、NiN、NiN等のニッケル元素と窒素元素とのニッケル窒化物、更に、他元素とニッケル元素と窒素元素とを含む多元系ニッケル窒化物等が挙げられる。このニッケル窒化物は鉄元素を含まない。
【0012】
本発明において、窒化物が特定の元素を含まないとは、特定の元素を含まない態様(窒化物を構成する金属元素の全量に対して特定の元素の含有率が0質量%である態様)に加えて、特定の元素が不可避的に混入している態様を含むことを意味する。ここで、不可避的に混入している態様における特定の元素の含有率は、例えば、窒化物を構成する金属元素の全量に対して0.01元素%を超え35元素%以下とする。
【0013】
マンガン元素が導入される金属窒化物としての鉄ニッケル窒化物は、特に制限されず、公知の窒化物が挙げられ、例えば、上記組成式CF1(0<XX≦4、0<YY≦4)で表されるニッケル窒化物が挙げられるが、これに限定されない。具体的には、FeNiN、FeNiN、FeNiN等の鉄元素とニッケル元素と窒素元素との鉄ニッケル窒化物、更に、他元素と鉄元素とニッケル元素と窒素元素とを含む多元系鉄ニッケル窒化物等が挙げられる。
【0014】
マンガン含有多元系金属窒化物を構成する少なくともニッケル元素を含む金属窒化物は、上記窒化物の中でも、軟磁性体となって飽和磁化の向上効果が高くなる点で、鉄ニッケル窒化物が好ましく、FeNiN、FeNiNがより好ましい。
【0015】
本発明のマンガン含有多元系金属窒化物は、ニッケル元素及びマンガン元素を含んでおり、上述のマンガン元素が導入される金属窒化物にマンガン元素を導入した窒化物である。マンガン元素は、ニッケル元素に加えて含まれていてもよく、ニッケル元素の一部として(ニッケル元素の一部を置換して)含まれていてもよい。本発明のマンガン含有多元系金属窒化物において、マンガン元素を含有している態様(状態)は、特に制限されない。例えば、ニッケル元素を含む金属窒化物中(結晶格子中)にマンガンイオンとして固溶している態様、ニッケル元素を含む金属窒化物中(結晶格子中)にマンガンイオン又は酸化物(酸化マンガン)としてインターカレーションしている態様、ニッケル元素を含む金属窒化物とマンガン酸化物として混在している態様(ニッケル元素を含む金属窒化物の結晶相と酸化マンガン相(例えば酸化マンガン層)との混合物)、更に2以上の上記態様を含む態様等が挙げられる。
【0016】
マンガン含有多元系金属窒化物において、マンガン元素はニッケル元素の置換元素として含まれやすいため、本発明において、マンガン含有多元系金属窒化物のマンガン元素の含有率は、ニッケル元素及びマンガン元素の各含有量の合計に占めるマンガン元素の含有率で規定する。マンガン含有多元系金属窒化物において、ニッケル元素及びマンガン元素の各含有量の合計に占めるマンガン元素の含有率は5~25元素%(モル%)である。マンガン元素の含有率が5~25元素%であると、マンガン元素を含まない金属窒化物に対して、飽和磁化が高くなる。更に高い飽和磁化を実現できる点で、上記合計に占めるマンガン元素の含有率は、6~22元素%であることが好ましく、7~20元素%であることがより好ましい。
【0017】
本発明のマンガン含有多元系金属窒化物は、下記組成式CF2で表すことができる窒化物であることが好ましい。ここで、下記組成式CF2は、後述する実施例で説明する方法によって決定することができ、マンガン元素の組成比(存在量)ZZは、マンガン元素を含有している態様(マンガン元素、マンガンイオン、酸化マンガン等)に関わらず、含有するマンガン元素の全量を意味する。

組成式CF2: FeXX(Ni(1-ZZ)MnZZYY

上記組成式CF2において、XXは0~4であり、高い飽和磁化を示しうる点で0~2であることが好ましい。YYは0を超え4以下であり、高い飽和磁化を示しうる点で1~3であることが好ましい。ZZは、本発明のマンガン含有多元系金属窒化物におけるマンガン元素の含有率に対応する値(ただし、元素%を元素比に換算した範囲)に設定され、具体的には、0.05~0.25であり、高い飽和磁化を示す点で、本発明のマンガン含有多元系金属窒化物におけるマンガン元素の含有率に対応する範囲(ただし、元素%を元素比に換算した範囲)と同義である。
【0018】
本発明において、マンガン含有多元系金属窒化物、マンガン含有多元系金属窒化物を構成する少なくともニッケル元素を含む金属窒化物、更に上記組成式CF1及びCF2は、下記方法及び条件での粉末X線回折法(XRD)及び蛍光X線分光法(XRF)によって、同定できる。
<方法及び条件>
粉末X線回折法は、X線回折装置(型番:SmartLab、リガク社製)を用いて、電圧:40kV、電流:30mA、測定範囲:2θ=10~90°の条件で測定し、結晶相を同定する。
蛍光X線分光法は、蛍光X線分析装置(型番:EDX-720、島津製作所製)を用いて、電圧:50kV、電流:1mAの条件で測定する。
【0019】
本発明のマンガン含有多元系金属窒化物は、ニッケル元素を含み、かつマンガン元素を含まない金属窒化物に対して飽和磁化が向上しており、飽和磁化の向上量は、マンガン元素の含有率等によって一義的ではない。本発明のマンガン含有多元系金属窒化物における飽和磁化の向上量は、例えば、ニッケル元素を含み、かつマンガン元素を含まない金属窒化物(マンガン元素を導入する前の金属窒化物)の飽和磁化に対して、1.3倍以上であることが好ましく、1.5倍以上であることがより好ましく、1.6倍以上であることが更に好ましく、特にマンガン元素の含有率が上記7~20元素%の範囲にある場合、1.8倍以上とすることもできる。ここで、本発明のマンガン含有多元系金属窒化物における飽和磁化の向上量の基準となる上記マンガン元素を含まない金属窒化物は、上述のようにマンガン元素を不可避的に含有していてもよいが、通常、マンガン元素の含有率が0質量%の窒化物とする。
本発明のマンガン含有多元系金属窒化物が示す飽和磁化(測定値)は、特に制限されず、用途等に応じて適宜に設定できる。例えば、飽和磁化として、300K(常温環境)での質量磁化率(Mass magnetization:emu/g)は、40emu/g以上とすることができ、60emu/g以上であることが好ましい。また、10K(低温環境)での質量磁化率(Mass magnetization:emu/g)は、70emu/g以上とすることができ、100emu/g以上であることが好ましい。
本発明において、窒化物の飽和磁化は、実施例で説明する方法及び条件で測定したときの質量磁化率をいう。
【0020】
本発明のマンガン含有多元系金属窒化物が上記のように飽和磁化が大幅に向上する理由の詳細はまだ明らかではないが、次のように考えられる。すなわち、マンガン元素は電子スピンの軌道の並びから、特にマンガンイオン(Mn2+)は(3d)の電子配置をとることから、強磁性化(高飽和磁化等)が期待できる。その一方で、マンガン元素の存在状態(偏在若しくは局在)、またマンガン元素は反強磁性であること、更に窒化物中のマンガン元素の含有量が増大することによって、互いのスピンが影響し合い、磁化が消失する(マンガン元素同士の磁気モーメントが打ち消され磁化率が減少する)ことがある。しかし、本発明のマンガン含有多元系金属窒化物においては、少なくともニッケル元素を含む金属窒化物をホストとして、ニッケル元素及びマンガン元素の各含有量の合計に対して5~25元素%の含有率で、マンガン元素が偏在若しくは局在化することなく存在していると考えられる。そのため、マンガン元素が有する強磁性化を損なうことなく効果的に発現させることができ、飽和磁化の大幅な向上を実現できると考えられる。
【0021】
本発明のマンガン含有多元系金属窒化物は、マンガン元素、ニッケル元素の2元素以外の金属元素、更にマンガン元素、ニッケル元素及び鉄元素の3元素以外の金属元素を含んでいてもよい。マンガン含有多元系金属窒化物が含んでいてもよい金属元素としては、特に限定されず、元素の周期表の第1族~第13族に属する金属元素が挙げられ、例えば、後述する組成式CF1AのA、M又はMとしてとりうる金属元素が好適に挙げられる。
本発明のマンガン含有多元系金属窒化物は、好ましくは、下記の物性、性質を有する。
本発明のマンガン含有多元系金属窒化物がマンガン元素として酸化物相を含む場合、窒化物相のピーク面積と酸化物相のピーク面積との合計面積に対する酸化物相のピーク面積の割合(面積率)は、特に制限されないが、20%以下であることが好ましく、3~15%であることがより好ましい。
上記面積率は、試料(マンガン含有多元系金属窒化物)のX線回折パターンの40.6°付近の酸化物相に由来するピーク(図4及び図7参照)と41.2°付近の窒化物相に由来するピーク(図4及び図7参照)について、適宜のプログラムを利用してピーク分離を行い、得られたピーク面積比を利用することによって、算出できる。
【0022】
本発明のマンガン含有多元系金属窒化物における結晶相において、格子サイズ及び結晶子サイズは、特に制限されない。例えば、格子サイズは、0.3760~0.3780nmとすることができる。結晶子サイズは、格子面(111)について5~500nmとすることができ、格子面(200)について5~500nmとすることができる。
格子サイズ及び結晶子サイズは、試料のX線回折パターンの41.2°付近の窒化物相に由来するピークについて、適宜のプログラムを利用してピークフィッティングを行い、回折角度及び半値幅の情報から計算して行う。格子サイズは回折角度からブラッグの式を利用し算出する。一方、結晶子サイズはピークの半値幅からシェラーの式を利用して算出する。
【0023】
本発明のマンガン含有多元系金属窒化物を磁性素材として用いる場合、その形態は特に制限されず、用途等に応じて適宜に決定される。例えば、粒子(粉末)状であってもよい。粒子径は適宜に決定できる。
【0024】
[磁性体]
本発明のマンガン含有多元系金属窒化物は高い飽和磁化を示すため、磁性材料、磁性体として好適に用いることができる。
本発明の磁性体は、上述の本発明のマンガン含有多元系金属窒化物(磁性素材)からなるものであればよく、本発明のマンガン含有多元系金属窒化物そのものであってもよく、本発明のマンガン含有多元系金属窒化物で形成されたものであってもよい。通常、用途等に応じて所望の形状及び寸法に成形された成形体、例えば、長尺、枚葉のシート、直方体形状、円柱状形状若しくはリングコア形状、これら以外の任意の形状に成形した成形体等とされる。
本発明の磁性体は、他の部材、例えば、基材シート若しくは成形体ケース等を有していてもよい。
本発明のマンガン含有多元系金属窒化物及び磁性体は、磁性を利用する各種の用途に用いることができ、例えば、ノイズフィルター、電磁波吸収体、近接センサー、磁気センサー等に好適に用いることができる。特に、高い飽和磁化を利用して、5GHz以上の電磁波を利用する通信技術及びその関連技術の分野に好適に用いることができる。
【0025】
[多元系金属窒化物の製造方法]
本発明の多元系金属窒化物の製造方法(本発明の製造方法ともいう。)は、複数の金属元素を含む多孔性配位高分子を、窒素源の存在下、温度400℃以上500℃未満で窒化処理して、多元系金属窒化物を得る(合成する)ことを含む製造方法である。多孔性配位高分子を用いることにより、偏在若しくは局在させることなく、また自由に設定可能な含有量で、特定の金属元素を多元系金属窒化物中に組み込むことができる。そして、多孔性配位高分子に含まれる複数の金属元素を選択することにより、各種の金属窒化物を製造することができ、多元系金属窒化物のベースとなる金属元素としてニッケル元素、好ましくは更に鉄元素を選択し、多元系金属窒化物に導入する金属元素としてマンガン元素を選択することにより、必要によりマンガン元素の含有率を調整して、本発明のマンガン含有多元系金属窒化物を製造することができる。
【0026】
本発明の製造方法に用いる多孔性配位高分子は、複数の金属元素を含むものであればよく、製造目的とする多元系金属窒化物に応じて、適宜の金属元素と有機配位子とを選択できる。
金属元素としては、特に限定されず、元素の周期表の第1族~第13族に属する金属元素が挙げられ、例えば、後述する組成式CF1AのA、M又はMとしてとりうる金属元素が好適に挙げられる。多孔性配位高分子が含む金属元素の種類数は、特に限定されず、製造目的とする多元系金属窒化物に応じて決定され、例えば、2~6種とすることができ、2種又は3種であることが好ましい。多孔性配位高分子が含む金属元素の組み合わせについても、特に限定されず、製造目的とする多元系金属窒化物に応じて決定され、例えば、後述する組成式CF1AにおけるMとしてとりうる金属元素の組み合わせ、Mとしてとりうる金属元素の組み合わせ、更にMとしてとりうる金属元素とMとしてとりうる金属元素との組み合わせが挙げられる。
【0027】
有機配位子としては、特に限定されず、公知の配位子を選択できる。例えば、テレフタル酸等の酸素系配位子、ビピリジン等の窒素系配位子、シアノ配位子等が挙げられる。中でも、後述するアンモニア熱分解で配位子が焼失して窒化物中に残存しにくい点で、シアノ配位子が好ましい。
【0028】
本発明の製造方法に用いる多孔性配位高分子における、結晶構造、物性、性質等は、特に限定されず、通常採用される結晶構造、多孔質構造(孔径等)を適宜に選択できる。
【0029】
多孔性配位高分子は、上述の複数の金属元素と有機配位子とを適宜に選択して形成できるが、アンモニア熱分解によって500℃未満の低温で、しかも短時間で、多元系金属窒化物を、窒化処理前後での体積変化を抑制しながら、製造できる点で、プルシアンブルー型金属錯体であることが好ましく、下記組成式CF1Aで表されるプルシアンブルー型金属錯体であることがより好ましい。本発明において、プルシアンブルー型金属錯体は、プルシアンブルーと、プルシアンブルーに類似した構造を持つ金属錯体とを包含する。ここで、プルシアンブルー型金属錯体としては、NaCl型格子を組んだ2種類の金属原子の間をシアノ基が三次元的に架橋した構造をもつ金属錯体をいう。
なお、プルシアンブルー型金属錯体は、基本の組成式が下記組成式CF1Aで表されるものであればよく、例えば、シアノ基(CN)の一部がヒドロキシル基、アミノ基、ニトロ基、ニトロソ基、水等で置換されていてもよく、また、陰イオンなど他の構成成分を含有していてもよい。
また、プルシアンブルー型金属錯体は、主成分(主成分とは全体の1/2以上(単位:質量)を占める成分という。)が下記組成式CF1Aで表される構造を保っていれば、別の錯体等を含んでいてもよい。

組成式CF1A: A[M(CN)・zH
【0030】
組成式CF1Aにおいて、Aは陽イオンを示す。Aとしてとりうる陽イオンとしては特に限定されず、1価の陽イオンとして、例えば、カリウム、ナトリウム、セシウム、ルビジウム等の金属元素のイオン、水素イオン、アンモニウムイオン等が挙げられる。その他、マグネシウムや亜鉛などの多価の陽イオンでもよい。ただし、M及びMとしてとりうる金属元素のイオンでないことが好ましい。中でも、Aとしては、金属元素のイオンが好ましく、元素の周期表の第1族に属する金属元素のイオンが好ましい。
【0031】
は、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銀、亜鉛、アルミニウム、ランタン、ユーロピウム、ガドリニウム、ルテチウム、バリウム、ストロンチウム及びカルシウムからなる群より選ばれる1種又は2種以上の金属元素を示す。中でも、Mとしてとりうる金属元素としては、鉄、コバルト、ニッケル、バナジウム、マンガン、亜鉛の各元素が好ましく、鉄、ニッケル、マンガンの各元素がより好ましい。Mとしてとりうる金属元素が2種以上である場合、その種類数は、例えば、2~6種とすることができ、2種又は3種であることが好ましい。また、金属元素の組み合わせとしては、Mとしてとりうる金属元素を適宜に組み合わせることができ、例えば、鉄元素とニッケル元素の組み合わせ、鉄元素とコバルト元素の組み合わせ、ニッケル元素とコバルト元素の組み合わせ、鉄元素とマンガン元素との組み合わせ、ニッケル元素とマンガン元素との組み合わせ、鉄元素とニッケル元素とマンガン元素との組み合わせ等が挙げられ、鉄元素とニッケル元素との組み合わせ、鉄元素とマンガン元素との組み合わせ、ニッケル元素とマンガン元素との組み合わせ、鉄元素とニッケル元素とマンガン元素との組み合わせが好ましく、ニッケル元素とマンガン元素との組み合わせがより好ましい。
としてとりうる金属元素としては、ニッケル元素とマンガン元素とを含むことが好ましく、ニッケル元素とマンガン元素とであることがより好ましい。
としてとりうる金属元素がマンガン元素を含む場合、特に本発明のマンガン含有多元系金属窒化物を製造する場合、M中(Mとしてとりうる金属元素中)において、ニッケル元素及びマンガン元素の各含有量の合計に占めるマンガン元素の含有率が5~25元素%であることが好ましい。このマンガン元素の含有率は、本発明のマンガン含有多元系金属窒化物におけるマンガン元素の含有率と同じ範囲であることが好ましい。
【0032】
は、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、白金及び銅からなる群より選ばれる1種又は2種以上の金属元素を示す。中でも、Mとしてとりうる金属元素としては、鉄、クロム、コバルトが好ましく、鉄がより好ましい。Mとしてとりうる金属元素が2種以上である場合、その種類数は、例えば、2~6種とすることができ、2種又は3種であることが好ましい。また、金属元素の組み合わせとしては、鉄元素とクロム元素との組み合わせ、鉄元素とコバルト元素との組み合わせ、クロム元素とコバルト元素との組み合わせが好ましく、鉄元素とクロム元素との組み合わせがより好ましい。
としてとりうる金属元素としては、鉄元素を含むことが好ましく、鉄元素であることがより好ましい。
【0033】
組成式CF1Aにおいて、Mとしてとりうる金属元素とMとしてとりうる金属元素との組み合わせは、特に制限されず、M又はMとしてとりうる金属元素同士の組み合わせが挙げられ、Mとしてとりうる好ましい金属元素とMとしてとりうる好ましい金属元素との組み合わせが好ましく、Mとしてのニッケル元素及びマンガン元素と、Mとしての鉄元素との組み合わせが特に好ましい。
【0034】
組成式CF1Aにおいて、xは0~3であり、0~1であることが好ましく、0~0.12であることがより好ましい。
yは0.3~1.5であり、0.35~1であることが好ましく、0.4~0.65であることがより好ましい。
zは0~30であり、1~15であることが好ましく、2~15であることがより好ましく、3~6であることが更に好ましい。
【0035】
プルシアンブルー型金属錯体は、下記組成式CF1Bで表されるものが特に好ましい。

組成式CF1B:A(MA1 (1-W)A2 )[M(CN)・zH

組成式CF1Bにおいて、Aは上記組成式CF1AのAと同義である。
A1は、上記組成式CF1AのMとしてとりうる金属元素から選択され、ニッケル元素、鉄元素が好ましく、ニッケル元素がより好ましい。MA2は、上記組成式CF1AのMとしてとりうる金属元素から選択され、マンガン元素が好ましい。
は、上記組成式CF1AのMとしてとりうる金属元素から選択され、鉄元素が好ましい。
x、y及びzは、それぞれ、上記組成式CF1Aのx、y及びzと同義である。
wは、0を超えて1未満の数であり、製造目的とする多元系金属窒化物に応じて、適宜に設定される。特に、MA1がニッケル元素であり、MA1がマンガン元素である場合、wは0.05~0.25であることが好ましく、上記組成式CF2のZZと同義である。
【0036】
プルシアンブルー型金属錯体の製造方法としては、特に制限されず、例えば、拡散法、攪拌法等の溶液法、水熱法等の公知の方法が挙げられる。中でも、均一なプルシアンブルー型金属錯体を合成できる点で、攪拌法が好ましい。
プルシアンブルー型金属錯体の製造に用いる原料化合物は、特に限定されず、公知の方法に使用可能な原料化合物、例えば、各種の金属塩、有機配位子(その前駆体化合物を含む)を用いることができる。
【0037】
複数の金属元素を含む多孔性配位高分子は、粉末X線回折法(XRD)、熱重量-示差熱分析(TG-DTA)、蛍光X線分光法(XRF)等の分析法によって、同定、定性することができる。
【0038】
本発明の製造方法においては、複数の金属元素を含む多孔性配位高分子を、窒素源の存在下、温度400℃以上500℃未満で窒化処理(アンモニア熱分解処理)する。
窒素源としては、特に制限されないが、窒素ガス又はアンモニアが好ましく、窒素ガス又はアンモニアガス環境下で窒化処理を行うことが好ましく、窒素ガス又はアンモニアガスの流通下で窒化処理を行うことが好ましい。このときの窒素ガス又はアンモニアガスの流通量は、多孔性配位高分子の種類及び処理量、反応管の内径、処理温度、処理時間等に応じて適宜に決定でき、例えば、10~2000mL/minとすることができる。
加熱温度は、400℃以上500℃未満に設定する。本発明の製造方法では、単体金属や金属ハロゲン化物等の窒化反応、ゾル・ゲル化合物を用いた還元反応等で合成する際の加熱温度よりも低い温度で多元系金属窒化物を合成できるため、得られる多元系金属窒化物の磁気異方性の低下を抑制でき、飽和磁化の向上に寄与できる。本発明の製造方法における加熱温度は、飽和磁化の向上の点で、400~495℃であることが好ましく、450~490℃であることがより好ましい。
加熱時間は、特に制限されず、適宜に設定でき、通常、所定の加熱温度に到達してから、600分以内で適宜に設定することができ、30~180分とすることが好ましい。なお、所定の加熱温度まで昇温する昇温時間も、特に制限されず、例えば、10~180分に設定することができ、20~120分とすることが好ましい。本発明の製造方法において、加熱時間(所定温度での加熱保持時間)を長くすると、また昇温時間を短くすると、得られる多元系金属窒化物の飽和磁化が高くなる傾向がある。
窒化処理における上記条件以外の条件、窒化処理方法や装置については、公知の窒化処理法等を参照して、適宜に設定又は選択することができる。
【0039】
本発明の製造方法においては、窒化処理後に得られた多元系金属窒化物を、固液分離等の定法により、反応系から取り出すことができる。
本発明の製造方法においては、製造した多元系金属窒化物を、乾燥、精製等の後処理を行うこともできる。
【0040】
上述のようにして多孔性配位高分子を窒化処理することにより、多元系金属窒化物を500℃未満の低温で、しかも短時間で製造することができる。特に、多孔性配位高分子として特定量のマンガン元素と、ニッケル元素、好ましくは更に鉄元素とを含むプルシアンブルー型金属錯体を窒化処理することにより、500℃未満の低温で、しかも短時間で、高い飽和磁化を示す多元系金属窒化物、具体的には本発明のマンガン含有多元系金属窒化物を製造できる。
製造した多元系金属窒化物は、粉末X線回折法(XRD)、熱重量-示差熱分析(TG-DTA)、蛍光X線分光法(XRF)等の分析法によって、同定、定性することができる。例えば、粉末X線回折法によって多元系金属窒化物の結晶相を同定することができる。
【実施例0041】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0042】
<複数の金属元素を含む多孔性配位高分子の調製>
酢酸ニッケル(II)、酢酸マンガン(II)及びフェリシアン酸カリウムを金属源とし、脱イオン水を用いてこれらの水溶液をそれぞれ調製した。下記表1の組成式に示す所望の比率になるようにこれら3つの金属元素を含む水溶液を、室温(20~25℃)で120分間攪拌して、混合した。攪拌後の混合液には速やかに沈殿物が生成した。この沈殿物を遠心沈殿等により回収した後に、数回水洗し、減圧乾燥することで目的とする5種の前駆体をそれぞれ得た。得られた前駆体は次の方法及び条件で同定を行った。
粉末X線回折法(XRD)は、デスクトップX線回折装置MiniFlexII(リガク社製)を用いて、電圧:30kV、電流:15mA、測定範囲:2θ=10~60°の条件で測定した。熱重量-示差熱分析(TG-DTA)は、示差熱天秤Thermo plus EVO2(リガク社製)を用いて、昇温速度:10℃/min、測定温度範囲:室温~600℃の条件で測定した。蛍光X線分光法(XRF)は、蛍光X線分析装置EDX-720(島津製作所製)を用いて、電圧:50kV、電流:1mAの条件で測定した。
これらの分析から下記組成式に示す目的の多孔性配位高分子(プルシアンブルー型金属錯体)であることを確認した。
【0043】
【表1】
表1の「Mn含有率」は、実験例を特定するために便宜的に、ニッケル元素及びマンガン元素の合計含有量に対するマンガン元素の含有率(元素%)を、四捨五入した有効数字2桁で示している。
【0044】
<実験例1:多元系金属窒化物の製造>
調製した各前駆体0.6gを秤量したアルミナボートを、電気炉(型番:ARF300KC、アサヒ理科製作所社製)の炉心管(内径30mm)内に挿入した。
この状態で、まず窒素ガスで炉心管内を通気して酸素ガスを追い出した後、アンモニアガスを流しながら電気炉を加熱した。電気炉の昇温は、目的の温度400℃まで20分で昇温し、その後、同温度で40分保持して、窒化処理を行った。
こうして、Mn含有率0元素%の前駆体から多元系金属窒化物としてマンガン元素を含まない鉄ニッケル窒化物を製造し(比較例1-1)、また、表1に示す各Mn含有率の前駆体から多元系金属窒化物としてマンガン元素を含む鉄ニッケル窒化物を製造した(実施例1-1、1-2及び比較例1-2、1-3)。
【0045】
得られた各鉄ニッケル窒化物を、粉末X線回折法(X線回折装置:SmartLab(型番)、リガク社製)を用いて、電圧:40kV、電流:30mA、測定範囲:2θ=10~90°の条件で測定した。こうして得られた回折チャート(2θ=20~75°の範囲)をまとめて図3に示す。また、2θ=39~43°及び15~30°の範囲の回折チャートをそれぞれ抜粋して図4及び図5に示す。上記X線回折法により各鉄ニッケル窒化物の結晶相を同定し、その結果を表2に示す。なお、表2に示す結晶相は、上記X線回折装置に付属する自動検索機能によって同定されたものとした。ただし、一概には言えないが、図5に示されるように2θ=23.9°のピークが確認される鉄ニッケル窒化物、例えばMn含有率が50元素%の各鉄ニッケル窒化物は、γ-FeNiN結晶相と同定することもできる。実験例2及び3において同じ。
上記結果及び上述の計算式から得られた格子サイズ及び結晶子サイズを表2に示す。なお、各鉄ニッケル窒化物に対応する組成式は、同定された結晶相の金属元素比率に対して、後述する蛍光X線分光法にて定量した元素組成比を利用して、決定した。表2の「組成式」欄において、組成式:CF2における「YY」及び「ZZ」の値を丸括弧内に併記した。表3及び表4において同じ。
また、表2において、Mn含有率の単位は「元素%」であり、格子サイズa及び結晶子サイズの単位は「nm」であるが、表中において省略する。表3及び表4において同じ。
【0046】
【表2】
【0047】
鉄ニッケル窒化物における元素組成比は、蛍光X線分光法(蛍光X線分析装置:EDX-720(型番)、島津製作所製)を用いて、電圧:50kV、電流:1mAの条件で測定し、測定値からNi+Mn=1として計算して求めた。
【0048】
<実験例2:多元系金属窒化物の製造>
実験例1において、窒化処理の温度を430℃に変更したこと以外は、実験例1と同様にして、Mn含有率0元素%の前駆体から多元系金属窒化物としてマンガン元素を含まない鉄ニッケル窒化物を製造し(比較例2-1)、また、表1に示す各Mn含有率の前駆体から多元系金属窒化物としてマンガン元素を含む鉄ニッケル窒化物を製造して(実施例2-1、2-2及び比較例2-2、2-3)、各鉄ニッケル窒化物について、結晶相を同定し、組成式、格子サイズa及び結晶子サイズを測定、決定した。
【0049】
【表3】
【0050】
<実験例3:多元系金属窒化物の製造>
実験例1において、窒化処理の温度を480℃に変更したこと以外は、実験例1と同様にして、Mn含有率0元素%の前駆体から多元系金属窒化物としてマンガン元素を含まない鉄ニッケル窒化物を製造し(比較例3-1)、また、表1に示す各Mn含有率の前駆体から多元系金属窒化物としてマンガン元素を含む鉄ニッケル窒化物を製造して(実施例3-1、3-2及び比較例3-2、3-3)、各鉄ニッケル窒化物について、結晶相を同定し、組成式、格子サイズa及び結晶子サイズを測定、決定した。
実験例3で製造した鉄ニッケル窒化物を測定して得た回折チャート(2θ=20~75°の範囲)をまとめて図6に示す。また、2θ=39~43°及び15~30℃の範囲の回折チャートをそれぞれ抜粋して図7及び図8に示す。
【0051】
【表4】
【0052】
<飽和磁化の測定>
実験例1及び実施例3で製造した各鉄ニッケル窒化物について、超伝導量子干渉計(SQUID、型番:MPMS-5S、カンタムデザイン社製)を用いて、印可磁場-1~1Tまでの範囲、測定温度300Kで、飽和磁化として質量磁化率を測定した。
図1には、印可磁場1Tにおける飽和磁化について、同一の窒化温度で製造した鉄ニッケル窒化物をグループ化して示す。
なお、窒化温度400℃(実験例1)又は480℃(実験例3)で製造した各鉄ニッケル窒化物について、測定温度を10Kに変更したこと以外は、同様にして質量磁化率を測定した。その結果を図2に示す。
【0053】
表1~表4及び図1図2に示す結果から、以下のことが分かる。
図1及び図2に示されるように、ニッケル元素及びマンガン元素の各含有量の合計に占めるマンガン元素の含有率が5~25元素%であるマンガン元素を含む鉄ニッケル窒化物(実施例1-1、1-2、2-1、2-2、3-1及び3-2)は、本発明のマンガン含有多元系金属窒化物に相当し、高い飽和磁化を示す。例えば、マンガン元素の含有率が5~25元素%であるマンガン元素を含む鉄ニッケル窒化物(実施例1-1、1-2、3-1及び3-2)は、マンガン元素を含まない従来の鉄ニッケル窒化物(比較例1-1及び3-1)に対して、1.3倍以上の質量磁化率を示している。特に窒化温度を高くすると、質量磁化率の向上効果が高くなる傾向にある。一方、マンガン元素の含有率が30元素%又は50元素%であるマンガン元素を含む鉄ニッケル窒化物(比較例1-2及び3-2、比較例1-3及び3-3)は、マンガン元素を含まない従来の鉄ニッケル窒化物に対して、質量磁化率が低下しているものもあり、飽和磁化を一様に向上させることができない。
また、従来の製造条件よりも低温である400℃においても、複数の金属元素を含む多孔性配位高分子を短時間で窒化処理することができ、目的とする多元系金属窒化物、好適な態様においては本発明のマンガン含有多元系金属窒化物を、製造できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8