IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大学共同利用機関法人情報・システム研究機構の特許一覧 ▶ 学校法人加計学園の特許一覧

特開2024-103589オーキシンデグロンシステムのキット、及びその使用
<>
  • 特開-オーキシンデグロンシステムのキット、及びその使用 図1
  • 特開-オーキシンデグロンシステムのキット、及びその使用 図2
  • 特開-オーキシンデグロンシステムのキット、及びその使用 図3
  • 特開-オーキシンデグロンシステムのキット、及びその使用 図4
  • 特開-オーキシンデグロンシステムのキット、及びその使用 図5
  • 特開-オーキシンデグロンシステムのキット、及びその使用 図6
  • 特開-オーキシンデグロンシステムのキット、及びその使用 図7
  • 特開-オーキシンデグロンシステムのキット、及びその使用 図8
  • 特開-オーキシンデグロンシステムのキット、及びその使用 図9
  • 特開-オーキシンデグロンシステムのキット、及びその使用 図10
  • 特開-オーキシンデグロンシステムのキット、及びその使用 図11
  • 特開-オーキシンデグロンシステムのキット、及びその使用 図12
  • 特開-オーキシンデグロンシステムのキット、及びその使用 図13
  • 特開-オーキシンデグロンシステムのキット、及びその使用 図14
  • 特開-オーキシンデグロンシステムのキット、及びその使用 図15
  • 特開-オーキシンデグロンシステムのキット、及びその使用 図16
  • 特開-オーキシンデグロンシステムのキット、及びその使用 図17
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024103589
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】オーキシンデグロンシステムのキット、及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20240725BHJP
   C12N 15/29 20060101ALN20240725BHJP
   C07D 209/18 20060101ALN20240725BHJP
【FI】
C12N15/09 Z ZNA
C12N15/09 Z
C12N15/29
C07D209/18
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024086613
(22)【出願日】2024-05-28
(62)【分割の表示】P 2021532685の分割
【原出願日】2020-04-30
(31)【優先権主張番号】P 2019131464
(32)【優先日】2019-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業「植物のタンパク質分解系を応用した高機能RNAウイルスベクター遺伝子操作・細胞改変技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504202472
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人情報・システム研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】599035627
【氏名又は名称】学校法人加計学園
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】鐘巻 将人
(72)【発明者】
【氏名】林 謙一郎
(57)【要約】
【課題】厳密かつ自在にタンパク質の分解制御が可能なオーキシンデグロンシステムのキット、標的タンパク質の分解方法、標的タンパク質分解誘導剤、細胞、及び化合物を提供する
【解決手段】非植物由来の真核細胞中の標的タンパク質の分解を制御するオーキシンデグロンシステムのキットであって、オーキシン結合部位に変異を有する変異型TIR1ファミリータンパク質をコードする第一の核酸と、前記変異型TIR1ファミリータンパク質に親和性を有するオーキシンアナログと、少なくとも一部のAux/IAAファミリータンパク質を含み、前記変異型TIR1ファミリータンパク質-前記オーキシンアナログ複合体に親和性を有する分解タグをコードする第二の核酸と、を備える、キット。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非植物由来の真核細胞中の標的タンパク質の分解を制御するオーキシンデグロンシステムのキットであって、
オーキシン結合部位に変異を有する変異型TIR1ファミリータンパク質をコードする第一の核酸と、
前記変異型TIR1ファミリータンパク質に親和性を有するオーキシンアナログと、
少なくとも一部のAux/IAAファミリータンパク質を含み、前記変異型TIR1ファミリータンパク質-前記オーキシンアナログ複合体に親和性を有する分解タグをコードする第二の核酸と、
を備える、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーキシンデグロンシステムのキット、及びその使用に関する。具体的には、本発明は、オーキシンデグロンシステムのキット、標的タンパク質の分解方法、標的タンパク質分解誘導剤、及び細胞に関する。
本願は、2019年7月16日に、日本に出願された特願2019-131464号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
本発明者らはこれまでに、オーキシンデグロンシステムと呼ばれるタンパク質の分解制御技術の開発を行ってきた(例えば、特許文献1~3参照)。このシステムでは、オーキシン応答性ユビキチンリガーゼを構成するTIR1を、酵母や動物細胞等の真核生物由来の細胞に導入し、オーキシンの添加の有無やタイミングを調整することで、分解タグ(植物由来Aux/IAAファミリータンパク質又はその部分タンパク質;デグロンともいう。)を付加した標的タンパク質の分解を制御する。
【0003】
本発明者らが開発した標的タンパク質の分解を制御方法(オーキシンデグロン法ともいう。)は、すでに細胞生物学研究で広く使用されており、酵母、線虫、ショウジョウバエ、ゼブラフィッシュなどのモデル生物への利用も進んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-187958号公報
【特許文献2】国際公開第2010/125620号
【特許文献3】国際公開第2013/073653号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のオーキシンデグロン法を利用すると、オーキシンの添加により、分解タグ(デグロン)を付加した標的タンパク質を迅速に分解することが可能になる。しかしながら、従来のオーキシンデグロン法では、オーキシン非添加時にも標的タンパク質の弱い分解が起きるため、厳密な発現制御に困難があった。また、分解誘導に100μM以上の比較的高濃度のオーキシンが使用されており、特に多細胞動物においてオーキシン自体の毒性影響が懸念されていた。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、厳密かつ自在にタンパク質の分解制御が可能なオーキシンデグロンシステムのキット、標的タンパク質の分解方法、標的タンパク質分解誘導剤、細胞、及び化合物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の態様を含む。
【0008】
本発明は以下の態様を含む。
[1]非植物由来の真核細胞中の目的タンパク質の分解を制御するオーキシンデグロンシステムのキットであって、オーキシン結合部位に変異を有する変異型TIR1ファミリータンパク質をコードする第一の核酸と、前記変異型TIR1ファミリータンパク質に親和性を有するオーキシンアナログと、少なくとも一部のAux/IAAファミリータンパク質を含み、前記変異型TIR1ファミリータンパク質-前記オーキシンアナログ複合体に親和性を有する分解タグをコードする第二の核酸と、を備える、キット。
[2]更に、前記第二の核酸の上流又は下流に連結された標的タンパク質をコードする第三の核酸を備える、[1]に記載のキット。
[3]前記変異型TIR1ファミリータンパク質は、イネ由来タンパク質である、[1]又は[2]に記載のキット。
[4]前記変異型TIR1ファミリータンパク質は、OsTIR1の74番目のFが、A、G、又はSに変異しているタンパク質である、[1]~[3]のいずれか一つに記載のキット。
[5]前記オーキシンアナログは、下記一般式(I)で表される化合物、又はそのエステル体である、[1]~[4]のいずれか一つに記載のキット。
【0009】
【化1】
【0010】
(一般式(I)中、R10は、置換基を有していてもよく、環を構成する炭素原子の一部がヘテロ原子で置換されていてもよい環状の脂肪族炭化水素基、又は、置換基を有していてもよく、環を構成する炭素原子の一部がヘテロ原子で置換されていてもよい芳香族炭化水素基である。)
[6]更に、前記第一の核酸と、前記第二の核酸及び前記第三の核酸との間に、連結された、複数の遺伝子を1つのプロモーターで制御するためのリンカーをコードする第四の核酸を備える、[2]~[5]のいずれか一つに記載のキット。
[7]更に、前記第一の核酸、並びに/又は、前記第二の核酸及び前記第三の核酸を含むトランスポゾンベクターを備える、[2]~[6]のいずれか一つに記載のキット。
[8]更に、内在性の目的タンパク質をコードする標的ゲノムDNA切断酵素又は前記酵素をコードする第五の核酸を含有する、[1]~[7]のいずれか一つに記載のキット。
[9]更に、前記第一の核酸を染色体上に有する非植物由来の真核細胞を備える、請求項[1]~[8]のいずれか一つに記載のキット。
[10][1]~[9]のいずれか一つに記載のキットを用いる、標的タンパク質の分解方法。
[11]非植物由来の真核細胞中の標的タンパク質の分解を制御するオーキシンデグロンシステムに用いられる標的タンパク質分解誘導剤であって、下記一般式(I)で表される化合物、又はそのエステル体を含有する、標的タンパク質分解誘導剤。
【0011】
【化2】
【0012】
(一般式(I)中、R10は、置換基を有していてもよく、環を構成する炭素原子の一部がヘテロ原子で置換されていてもよい環状の脂肪族炭化水素基、又は、置換基を有していてもよく、環を構成する炭素原子の一部がヘテロ原子で置換されていてもよい芳香族炭化水素基である。)
[12]標的タンパク質の分解を制御するオーキシンデグロンシステムに用いられる非植物由来の真核細胞であって、オーキシン結合部位に変異を有する変異型TIR1ファミリータンパク質をコードする第一の核酸を含む染色体を有する、細胞。
[13]前記変異型TIR1ファミリータンパク質は、イネ由来タンパク質である、[12]に記載の細胞。
[14]前記変異型TIR1ファミリータンパク質は、OsTIR1の74番目のFが、A、G、又はSに変異しているタンパク質である、[12]又は[13]に記載の細胞。
[15]下記一般式(II)で表される化合物。
【0013】
【化3】
【0014】
(一般式(II)中、R30は、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、又はハロゲン原子を表し、R31は、水素原子、又は炭素数1~6のアルキル基を表す。但し、R30が、水素原子、又は炭素数1~6のアルキル基である場合、R31は、炭素数1~6のアルキル基である。)
【発明の効果】
【0015】
本発明のオーキシンデグロンシステムのキットによれば、厳密かつ自在にタンパク質の分解制御が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例1において、OsTIR1(F74G)/mAID-EGFP-NLS発現細胞での標的タンパク質の分解を調べた結果である。
図2】実施例2において、複数種類のオーキシンアナログを添加による、OsTIR1(F74G)/mAID-EGFP-NLS発現細胞での標的タンパク質の分解を調べた結果である。
図3】実施例3における、コロニー形成試験の結果である。
図4】(A)5-Ph-IAAを添加した、OsTIR1(F74G)/DHC1-mAID-Clover発現細胞の顕微鏡像である。(B)5-Ph-IAA依存的なDHC1の分解をウエスタンブロッティングにより確認した結果である。
図5】標的タンパク質分解系の概念図である。
図6】(A)5-Ph-IAA依存的なCENPHの分解をウエスタンブロッティングにより確認した結果である。(B)5-Ph-IAA依存的なPOLD1の分解をウエスタンブロッティングにより確認した結果である。
図7】(A)OsTIR1(WT)/mAID-EGFP-NLS発現細胞、及びOsTIR1(F74G)/mAID-EGFP-NLS発現細胞での標的タンパク質の分解を調べた結果である。(B)OsTIR1(WT)/mAID-EGFP-NLS発現細胞、OsTIR1(F74G)/mAID-EGFP-NLS発現細胞、及びOsTIR1(F74A)/mAID-EGFP-NLS発現細胞での標的タンパク質の分解をFACS解析した結果である。
図8】複数種類のオーキシンアナログ添加による、OsTIR1(F74G)/mAID-EGFP-NLS発現細胞での標的タンパク質の分解をFACS解析した結果である。
図9】(A)1μM 5-Ph-IAAで処理したHCT116細胞の細胞周期への影響を調べた結果である。(B)1μM 5-Ph-IAAで処理したHCT116細胞のコロニー形成効率への影響を調べた結果である。
図10】(A)OsTIR1(WT)及びOsTIR1(F74G)において、異なる用量のIAA(オーキシン)と5-Ph-IAAをそれぞれ使用してmAID-EGFP-NLSレポーター分解を誘導した結果を示すグラフである。(B)OsTIR1(WT)及びOsTIR1(F74G)において、レポーター分解を経時的に誘導した結果を示すグラフである。
図11】OsTIR1(F74G)において、5-Ph-IAA除去後のmAID-EGFP-NLSレポーター発現の回復を調べた結果である。
図12】(A)実施例5における実験の概要を示す図である。(B)各酵母株におけるプレート上でのコロニーの形成の程度を示した写真である。
図13】(A)OsTIR1(WT)、又はOsTIR1(F74G)を発現するRAD21-mAID-Clover(RAD21-mAC)細胞における、RAD21を含むレポーターの分解を調べた写真である。(B)OsTIR1(WT)、又はOsTIR1(F74G)を発現するRAD21-mAID-Clover(RAD21-mAC)細胞における、RAD21レポーターの分解を経時的に誘導した結果を示すグラフである。(C)OsTIR1(F74G)を発現するRAD21-mAID-Clover(RAD21-mAC)細胞における、RAD21の分解による細胞周期への影響を調べた結果である。(D)OsTIR1(F74G)を発現するRAD21-mAID-Clover(RAD21-mAC)細胞における、RAD21の分解による姉妹染色分体の凝集への影響を調べた写真である。
図14】実施例7における実験の概要を示す図である。
図15】(A)ゲノム編集を試みたOsTIR1(WT若しくはF74G)、又はAtAFB2発現細胞における、コロニー形成の有無を示す写真である。(B)OsTIR1(F74G)を発現する細胞における、1μM 5-Ph-IAA添加によるDHC1-mACの分解を調べた結果である。(C)1μM 5-Ph-IAA添加によりDHC1-mACを分解したOsTIR1(F74G)を発現する細胞における、M期の細胞の割合を示したグラフである。(D)1μM 5-Ph-IAA添加によりDHC1-mACを分解したOsTIR1(F74G)を発現する細胞における、分裂期の状態を示す染色像である。
図16】(A)mAID及びmini-IAA7(mIAA7)のアミノ酸配列のアライメントである。(B)mini-IAA7(mIAA7)を用いて、ゲノム編集を試みたOsTIR1(WT若しくはF74G)、又はAtAFB2発現細胞における、コロニー形成の有無を示す写真である。(C)AtAFB2又はOsTIR1(F74G)を発現している細胞で、mIAA7又はmAIDタグ付きDHC1の分解を誘導した際のレポーターの分解をFACS解析した結果である。
図17】OsTIR1(F74G)を構成的に発現しているHCT116における、5-Ph-IAA添加によるmAIDを付加したSMC2、CTCF、及びPOLR2Aの分解を調べた結果である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
≪オーキシンデグロンシステムのキット≫
本発明のキットは、非植物由来の真核細胞中の標的タンパク質の分解を制御するオーキシンデグロンシステムのキットであって、オーキシン結合部位に変異を有する変異型TIR1ファミリータンパク質をコードする第一の核酸と、前記変異型TIR1ファミリータンパク質に親和性を有するオーキシンアナログと、少なくとも一部のAux/IAAファミリータンパク質を含み、前記変異型TIR1ファミリータンパク質-前記オーキシンアナログ複合体に親和性を有する分解タグをコードする第二の核酸と、を備える。
【0018】
「オーキシンデグロンシステム」とは、本発明者らが開発したタンパク質の分解制御技術であり、植物ホルモンオーキシンによって導入される植物特異的なタンパク質分解系を、非植物由来の真核細胞に応用したシステムである(例えば、特許文献1~3参照)。
具体的に、このシステムは、E3ユビキチン化酵素複合体(SCF複合体)のサブユニットであるF-boxタンパク質としての植物由来TIR1ファミリータンパク質と、植物由来Aux/IAAファミリータンパク質又はその部分配列からなるペプチドで標識された標的タンパク質とを非植物由来の真核細胞に導入することにより、オーキシン受容体であるTIR1ファミリータンパク質が、オーキシン依存的に、Aux/IAAファミリータンパク質又はその部分配列からなるペプチドを認識し、非植物由来の真核細胞におけるユビキチン/プロテアソーム分解系を利用して、標的タンパク質を分解するシステムである。
【0019】
本発明者らは、係るシステムにおいて、オーキシン非依存的に標的タンパク質が分解されるという問題を見出した。係る問題に対して、本発明者らは、オーキシン結合部位に変異を有する変異型TIR1ファミリータンパク質と、前記変異型TIR1ファミリータンパク質に親和性を有するオーキシンアナログと、少なくとも一部のAux/IAAファミリータンパク質を含み、前記変異型TIR1ファミリータンパク質-前記オーキシンアナログ複合体に親和性を有する分解タグの組み合わせを見出した。
また、本発明者らは、低濃度のオーキシンアナログで、標的タンパク質を分解誘導できることを見出した。
本発明によれば、オーキシン非添加時には、標的タンパク質の分解はほとんど起こらず、オーキシン添加時には、標的タンパク質の分解効率が非常に高いオーキシンデグロンシステムを提供できる。
【0020】
<第一の核酸>
本発明において、第一の核酸は、オーキシン結合部位に変異を有する変異型TIR1ファミリータンパク質をコードする。
TIR1ファミリータンパク質とは、ユビキチン/プロテアソーム系のタンパク質分解において、E3ユビキチン化酵素複合体(SCF複合体)を形成するサブユニットの一つであるF-boxタンパク質であり、植物特有のタンパク質である。TIR1ファミリータンパク質は、成長ホルモンであるオーキシンの受容体となっており、オーキシンを受容することによって、オーキシン情報伝達系の抑制因子Aux/IAAファミリータンパク質を認識して、標的タンパク質を分解することが知られている。
【0021】
TIR1ファミリータンパク質をコードする遺伝子としては、植物由来のTIR1ファミリータンパク質をコードする遺伝子であれば、その種類は限定されない。また、由来となる植物の種類も限定されず、例えば、シロイヌナズナ、イネ、ヒャクニチソウ、マツ、シダ、ヒメツリガネゴケ等が挙げられる。TIR1ファミリータンパク質をコードする遺伝子の具体例としては、例えば、TIR1遺伝子、AFB1遺伝子、AFB2遺伝子、AFB3遺伝子、FBX14遺伝子、AFB5遺伝子等が挙げられる。
中でも、イネ由来のTIR1遺伝子である、OsTIR1遺伝子が好ましい。係る遺伝子としては、NCBIに登録されているアクセッション番号NM_001059194(GeneID:4335696)、Os04g0395600又はアクセッション番号EAY93933、OsI_15707の遺伝子が挙げられ、より具体的には、配列番号1で表される塩基配列からなる遺伝子が挙げられる。更に、ヒト細胞用にコドンを最適化した配列番号2で表される塩基配列からなる遺伝子が好ましい。
【0022】
本発明において、変異型TIR1ファミリータンパク質は、オーキシン結合部位に変異を有するものである。係る変異タンパク質は、後述するオーキシンアナログとの親和性を有するものであれば特に限定されないが、OsTIR1の74番目のFが、A、G、又はSに変異しているものが好ましく、Gに変異しているものがより好ましい。
【0023】
具体的には、変異型TIR1ファミリータンパク質は、以下の(a)~(c)のいずれか一つのアミノ酸配列を含む配列からなり、且つ、オーキシンアナログとの複合体を介して、分解タグと結合して標的タンパク質を分解に導くタンパク質が特に好ましい。
(a)配列番号3で表されるアミノ酸配列のアミノ酸番号74位がグリシンであるアミノ酸配列、
(b)前記(a)のアミノ酸番号74位以外の部位において、1~数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換若しくは付加されたアミノ酸配列、
(c)前記(a)のアミノ酸番号74位以外の部位において、80%以上の同一性を有するアミノ酸配列
【0024】
(b)において欠失、挿入、置換若しくは付加されたアミノ酸の数としては、1 ~120個が好ましく、1~60個がより好ましく、1~20個が更に好ましく、1~10個が特に好ましく、1~5個が最も好ましい。
(a)のアミノ酸配列を含む配列からなるタンパク質と機能的に同等であるためには80%以上の同一性を有する。係る同一性としては、85%以上がより好ましく、90%以上が更に好ましく、95%以上が特に好ましく、99%以上が最も好ましい。
【0025】
OsTIR1のF74Aタンパク質としては、配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるものが挙げられ、OsTIR1のF74Aタンパク質をコードする遺伝子としては、配列番号5で表される塩基配列からなる遺伝子が挙げられる。
OsTIR1のF74Gタンパク質としては、配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるものが挙げられ、OsTIR1のF74Gタンパク質をコードする遺伝子としては、配列番号7で表される塩基配列からなる遺伝子が挙げられる。
【0026】
変異型TIR1ファミリータンパク質をコードする第一の核酸は、エキソンとイントロンとを含むDNAでもよいし、エキソンからなるcDNAであってもよい。変異型TIR1ファミリータンパク質をコードする第一の核酸は、例えば、ゲノムDNAにおける全長配列又はcDNAにおける全長配列であってもよい。また、変異型TIR1ファミリータンパク質をコードする第一の核酸は、発現したタンパク質が、TIR1として機能する範囲において、ゲノムDNAにおける部分配列又はcDNAにおける部分配列であってもよい。
【0027】
本明細書において、「TIR1ファミリータンパク質として機能する」とは、例えば、オーキシンアナログの存在下で、分解タグ(Aux/IAAファミリータンパク質の全長又は部分タンパク質)を認識することを意味する。TIR1ファミリータンパク質が分解タグを認識できれば、分解タグで標識化された標的タンパク質を分解できるからである。
【0028】
本発明のキットにおいて、TIR1ファミリータンパク質をコードする第一の核酸の5’末端に、該第一の核酸の転写を制御するプロモーター配列が作動可能に連結されていることが好ましい。これによって、より確実にTIR1ファミリータンパク質を発現できる。
【0029】
本明細書において、「作動可能に連結」とは、遺伝子発現制御配列(例えば、プロモーター又は一連の転写因子結合部位)と発現させたい遺伝子(TIR1ファミリータンパク質をコードする第一の核酸)との間の機能的連結を意味する。ここで、「発現制御配列」とは、その発現させたい遺伝子(TIR1ファミリータンパク質をコードする第一の核酸)の転写を指向するものを意味する。
【0030】
前記プロモーターとしては、特別な限定はなく、例えば、細胞の種類等に応じて適宜決定できる。プロモーターの具体例としては、CMVプロモーター、SV40プロモーター、EF1aプロモーター、RSVプロモーター等が挙げられる。
【0031】
本発明のキットにおいて、TIR1ファミリータンパク質をコードする第一の核酸及び上流に作動可能に連結されたプロモーター配列は、ベクターに挿入された形であってもよい。
【0032】
ベクターとしては、発現ベクターであることが好ましい。発現ベクターとしては特に制限されず、宿主細胞に応じた発現ベクターを用いることができる。
【0033】
ベクターは、TIR1ファミリータンパク質をコードする第一の核酸の5’末端又は3’末端に、ポリアデニル化シグナル、NLS、蛍光タンパク質のマーカー遺伝子等が作動可能に連結されていてもよい。
【0034】
本発明のキットは、第一の核酸を染色体上に有する非植物由来の真核細胞を備えてもよい。係る細胞は、第一の核酸をセーフハーバー座位に有することが好ましい。
「セーフハーバー座位」とは、恒常的且つ安定的に発現が行われている遺伝子領域であり、かつ当該領域に本来コードされている遺伝子が欠損又は改変された場合であっても、生命の維持が可能な領域を意味する。CRISPRシステムを用いて、外来DNA(本実施形態においては、TIR1をコードする遺伝子)をセーフハーバー座位に挿入する場合には、近傍にPAM配列を有することが好ましい。セーフハーバー座位としては、例えば、GTP-binding protein 10遺伝子座、Rosa26遺伝子座、beta-Actin遺伝子座、AAVS1(the AAV integration site 1)遺伝子座等が挙げられる。中でも、ヒト由来細胞の場合は外来DNAをAAVS1遺伝子座に挿入することが好ましい。
【0035】
細胞としては、非植物由来の真核細胞であれば特に限定されず、動物、菌類、原生生物等の細胞があげられる。動物としては、例えば、ヒト、マウス、ラット、ウサギ等の哺乳類、ゼブラフィッシュ、アフリカツメガエル等の魚類や両生類、C.elegansやショウジョウバエ等の無脊椎動物が挙げられる。
また、株化された真核動物由来細胞やES細胞、iPS細胞も挙げられる。真核細胞として具体的には、例えば、株化されたヒト由来細胞、株化されたマウス由来細胞、株化されたニワトリ由来細胞、ヒトES細胞、マウスES細胞、ヒトiPS細胞、マウスiPS細胞等が挙げられる。具体的には、ヒトHCT116細胞、ヒトHT1080細胞、ヒトNALM6細胞、ヒトES細胞、ヒトiPS細胞、マウスES細胞、マウスiPS細胞、ニワトリDT40細胞等が挙げられる。
また、菌類としては、例えば、出芽酵母、分裂酵母等が挙げられる。
【0036】
<オーキシンアナログ>
本発明において、オーキシンアナログは、前記変異型TIR1ファミリータンパク質に親和性を有するものであれば特に限定されず、下記一般式(I)で表される化合物、又はそのエステル体であることが好ましい。
【0037】
【化4】
【0038】
(一般式(I)中、R10は、置換基を有していてもよく、環を構成する炭素原子の一部がヘテロ原子で置換されていてもよい環状の脂肪族炭化水素基、又は、置換基を有していてもよく、環を構成する炭素原子の一部がヘテロ原子で置換されていてもよい芳香族炭化水素基である。)
【0039】
[環状の脂肪族炭化水素基]
10における環状の脂肪族炭化水素基としては、単環式基でも多環式基でもよい。
単環式の脂肪族炭化水素としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基が挙げられる。
多環式の脂環式炭化水素基としては、デカヒドロナフチル基、アダマンチル基、2-アルキルアダマンタン-2-イル基、1-(アダマンタン-1-イル)アルカン-1-イル基、ノルボルニル基、メチルノルボルニル基、イソボルニル基等が挙げられる。
【0040】
環状の脂肪族炭化水素基は、環を構成する炭素原子の一部がヘテロ原子で置換されていてもよい。ヘテロ原子としては、酸素原子、硫黄原子、窒素原子等が挙げられる。係る複素環としては、ピロリジン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロチオフェン、ピペリジン、テトラヒドロピラン、テトラヒドロチオピラン、ジオキサン、ジオキソラン等が挙げられる。
【0041】
置換基としては、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、ハロゲン原子、炭素数6~30のアリール基が挙げられる。
【0042】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、シクロブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、シクロペンチル基、2,3-ジメチルプロピル基、1-エチルプロピル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、シクロヘキシル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、1,1,2-トリメチルプロピル基、3,3-ジメチルブチル基等が挙げられる。
【0043】
アルコキシ基としては、-ORのRの部分が、上述した炭素数1~6のアルキル基と同様のものが挙げられる。中でも、炭素数アルコキシ基としては、メトキシ基又はエトキシ基であることが好ましい。
ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。中でも、ハロゲン原子としては、フッ素原子又は塩素原子が好ましい。
【0044】
アリール基としては、フェニル基、ナフチル基、ベンジル基、フェネチル基、ビフェニル基、ペンタレニル基、インデニル基、アントラニル基、テトラセニル基、ペンタセニル基、ピレニル基、ペリレニル基、フルオレニル基、フェナントリル基が挙げられる。
【0045】
[芳香族炭化水素基]
10における芳香族炭化水素基としては、上述した炭素数6~30のアリール基が挙げられる。
芳香族炭化水素基は、環を構成する炭素原子の一部がヘテロ原子で置換されていてもよい。ヘテロ原子としては、酸素原子、硫黄原子、窒素原子等が挙げられる。係る複素環としては、ピロール、フラン、チオフェン、ピリジン、イミダゾール、ピラゾール、オキサゾール、チアゾール、ピリダジン、ピリミジン、インドール、ベンゾイミダゾール、キノリン、イソキノリン、クロメン、イソクロメン等が挙げられる。
【0046】
置換基としては、[環状の脂肪族炭化水素基]で挙げたものと同様のものが挙げられる。
【0047】
一般式(I)で表される化合物のエステル体は、一般式(I)の-COOHにおける水素原子が、炭化水素基に置換されたものであり、アルキル基に置換されたものが好ましい。
係るアルキル基としては、炭素数1~6のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、シクロブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、シクロペンチル基、2,3-ジメチルプロピル基、1-エチルプロピル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、シクロヘキシル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、1,1,2-トリメチルプロピル基、3,3-ジメチルブチル基等が挙げられる。
【0048】
一般式(I)で表される化合物のうち、R10が芳香族炭化水素基であるものとして、下記一般式(I-1)で表される化合物、又はそのエステル体が好ましい。
【0049】
【化5】
【0050】
(一般式(I-1)中、Rは、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、ハロゲン原子、又は炭素数6~30のアリール基である。nは0~5の整数であり、nが2~5の整数である場合、n個のRは互いに同一でも異なっていてもよい。)
【0051】
のハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。中でも、ハロゲン原子としては、フッ素原子又は塩素原子が好ましい。
【0052】
のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、シクロブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、シクロペンチル基、2,3-ジメチルプロピル基、1-エチルプロピル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、シクロヘキシル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、1,1,2-トリメチルプロピル基、3,3-ジメチルブチル基等が挙げられる。中でも、炭素数1~6のアルキル基としては、メチル基又はエチル基であることが好ましい。
【0053】
のアルコキシ基としては、-ORのRの部分が、上述した炭素数1~6のアルキル基と同様のものが挙げられる。中でも、炭素数アルコキシ基としては、メトキシ基又はエトキシ基であることが好ましい。
【0054】
のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、ベンジル基、フェネチル基、ビフェニル基、ペンタレニル基、インデニル基、アントラニル基、テトラセニル基、ペンタセニル基、ピレニル基、ペリレニル基、フルオレニル基、フェナントリル基が挙げられる。
【0055】
のnは0~5の整数であり、0~3が好ましい。一般式(I-1)で表される化合物が複数のRを有する場合、以下の化合物、又はそのエステル体が挙げられる。
【0056】
【化6】
【0057】
(一般式(I-1-1)~(I-1-3)中、R~Rは、それぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、ハロゲン原子、又は炭素数6~30のアリール基である。)
【0058】
一般式(I-1-1)~(I-1-3)における、R~Rは、一般式(I-1)におけるRと同様である。
【0059】
また、一般式(I)で表される化合物のうち、以下に示す化合物、又はそのエステル体が好ましい。
下記式(I-1-4)で示される化合物(5-(3-MeOPh)-IAAともいう。)。
下記式(I-1-5)で示される化合物(5-Ph-IAAともいう。)。
下記式(I-1-6)で示される化合物(5-(3,4-diMePh)-IAAともいう。)。
下記式(I-1-7)で示される化合物(5-(3-MePh)-IAAともいう。)。
下記式(I-1-8)で示される化合物(5-(3-ClPh)-IAAともいう。)。
【0060】
【化7】
【0061】
【化8】
【0062】
また、下記式(I-1-9)で示される化合物、又はそのエステル体も好ましい。
【0063】
【化9】
【0064】
また、R10が芳香族炭化水素基であるものとして、下記式(I-2)~(I-5)で示される化合物、又はそのエステル体も好ましい。
【0065】
【化10】
【0066】
また、R10が環状の脂肪族炭化水素基であるものとして、下記一般式(I-6)で示される化合物、又はそのエステル体も好ましい。
【0067】
【化11】
【0068】
(一般式(I-6)中、Rは、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、ハロゲン原子、又は炭素数6~30のアリール基である。mは0~11の整数であり、mが2~11の整数である場合、m個のRは互いに同一でも異なっていてもよい。)
【0069】
は、一般式(I-1)で挙げられてものと同様である。mは0~6が好ましく、0~3がより好ましい。
【0070】
また、R10が環状の脂肪族炭化水素基であるものとして、下記式(I-7)で示される化合物、又はそのエステル体も好ましい。
【化12】
【0071】
<第二の核酸>
本発明において、第二の核酸は、少なくとも一部のAux/IAAファミリータンパク質を含み、変異型TIR1ファミリータンパク質-前記オーキシンアナログ複合体に親和性を有する分解タグをコードする。
Aux/IAAファミリータンパク質をコードする遺伝子としては、植物由来のAux/IAAファミリー遺伝子であれば、その種類について特別な限定はない。Aux/IAAファミリータンパク質をコードする遺伝子の具体例としては、例えば、IAA1遺伝子、IAA2遺伝子、IAA3遺伝子、IAA4遺伝子、IAA5遺伝子、IAA6遺伝子、IAA7遺伝子、IAA8遺伝子、IAA9遺伝子、IAA10遺伝子、IAA11遺伝子、IAA12遺伝子、IAA13遺伝子、IAA14遺伝子、IAA15遺伝子、IAA16遺伝子、IAA17遺伝子、IAA18遺伝子、IAA19遺伝子、IAA20遺伝子、IAA26遺伝子、IAA27遺伝子、IAA28遺伝子、IAA29遺伝子、IAA30遺伝子、IAA31遺伝子、IAA32遺伝子、IAA33遺伝子、IAA34遺伝子等が挙げられる。
【0072】
本発明のキットは、いずれか一種の前記Aux/IAAファミリータンパク質をコードする遺伝子の全長又は部分配列を有していてもよいし、二種類以上を有していてもよい。例えば、シロイヌナズナ由来のAux/IAAファミリー遺伝子の配列は、TAIR(the Arabidopsis Information Resource)に登録されており、各遺伝子のアクセッションナンバーは、次のとおりである。
【0073】
IAA1遺伝子(AT4G14560)、IAA2遺伝子(AT3G23030)、IAA3遺伝子(AT1G04240)、IAA4遺伝子(AT5G43700)、IAA5遺伝子(AT1G15580)、IAA6遺伝子(AT1G52830)、IAA7遺伝子(AT3G23050)、IAA8遺伝子(AT2G22670)、IAA9遺伝子(AT5G65670)、IAA10遺伝子(AT1G04100)、IAA11遺伝子(AT4G28640)、IAA12遺伝子(AT1G04550)、IAA13遺伝子(AT2G33310)、IAA14遺伝子(AT4G14550)、IAA15遺伝子(AT1G80390)、IAA16遺伝子(AT3G04730)、IAA17遺伝子(AT1G04250)、IAA18遺伝子(AT1G51950)、IAA19遺伝子(AT3G15540)、IAA20遺伝子(AT2G46990)、IAA26遺伝子(AT3G16500)、IAA27遺伝子(AT4G29080)、IAA28遺伝子(AT5G25890)、IAA29遺伝子(AT4G32280)、IAA30遺伝子(AT3G62100)、IAA31遺伝子(AT3G17600)、IAA32遺伝子(AT2G01200)、IAA33遺伝子(AT5G57420)、IAA34遺伝子(AT1G15050)。
これらの中でも、シロイヌナズナIAA17遺伝子が好ましい。
【0074】
分解タグは、変異型TIR1ファミリータンパク質-オーキシンアナログ複合体と結合し、標的タンパク質を分解に導くものであれば特に限定されず、Aux/IAAファミリータンパク質のうち、mAIDの全長又は部分タンパク質を含むものが好ましい。
【0075】
「mAID」とは、「Mini-auxin-inducible degron」の略称であり、Aux/IAAファミリータンパク質の一つであるシロイヌナズナIAA17の部分配列からなるタンパク質である。この部分配列とは、Aux/IAAファミリータンパク質のドメインII領域のN末端側及びC末端側に少なくとも2個ずつのLys残基を含む領域からなる配列、又は、該配列を2個以上連結してなる配列である。このmAIDは標的タンパク質を標識する分解タグとなり得る。例えば、mAIDのアミノ酸配列は、配列番号8で表される。
【0076】
<第三の核酸>
本発明のキットにおいて、標的タンパク質が定まっている場合には、第二の核酸の上流又は下流に連結された標的タンパク質をコードする第三の核酸を備えていてもよい。第二の核酸は、第三の核酸の5’側又は3’側のどちらに隣接されて配置されてもよい。
第二の核酸と第三の核酸からなる融合核酸は、第一の核酸と同様に、プロモーター配列が作動可能に連結されていることが好ましく、発現ベクターに組み込まれたものであってもよい。
【0077】
<第四の核酸>
上記、第一の核酸、及び、第二の核酸、又は第二の核酸と第三の核酸からなる融合核酸は、それぞれ発現ベクターに組み込まれたものであってもよいが、本発明のキットは、第一の核酸と、第二の核酸と第三の核酸からなる融合核酸との間に連結された、複数の遺伝子を1つのプロモーターで制御するためのリンカーをコードする第四の核酸を備えていてもよい。
第四の核酸としては、リードスルーリンカーをコードする核酸、非リードスルーリンカーをコードする核酸が挙げられる。
リードスルーリンカーをコードする核酸としては、内在性酵素による切断配列をコードする核酸が挙げられ、T2Aペプチドをコードする核酸、P2Aペプチドをコードする核酸、F2Aペプチドをコードする核酸、E2Aペプチドをコードする核酸が挙げられる。
非リードスルーリンカーをコードする核酸としては、IRESが挙げられる。
【0078】
<トランスポゾンベクター>
本発明のキットは、第一の核酸、並びに/又は、第二の核酸及び前記第三の核酸からなる融合核酸を含むトランスポゾンベクターを備えていてもよい。
具体的には、本発明のキットは、プロモーター配列が作動可能に連結された、第一の核酸、及び/又は、融合核酸の両端にトランスポゾンエレメントを備えたベクターと、トランスポゼースをコードする核酸を備えたベクターを含むことが好ましい。
第一の核酸及び融合核酸は、それぞれ個別のベクターに含まれていてもよいが、一つのベクターに含まれる場合には、係るベクターは、上記第四の核酸を含むことが好ましい。
【0079】
トランスポゾンの転移には、トランスポジション反応を触媒する酵素(トランスポゼース)と、このトランスポゼースにより認識されて転移するDNA(トランスポゾンエレメント)が必要である。本発明のキットは、これらを含むことが好ましい。
本発明のキットにおいて、トランスポゼースをコードするDNA及びトランスポゾンエレメントが、トランスポゾンDNAとして、連結して一つの発現系に組み込まれている場合には、トランスポゾンDNAは、一度細胞内に導入すると、自らトランスポゼースを発現して転移し得る。
このような自律性トランスポゾンは、転移した位置から別の位置へ転移する可能性がある。そのため、より安定して染色体内に目的遺伝子を導入するためには、本発明のキットは、トランスポゼースをコードするDNA及びトランスポゾンエレメントが、それぞれ別個の発現系に組み込まれていることが好ましい。
【0080】
トランスポゾンとしては、特に限定されず、Sleeping Beauty、piggyBac、Tol2等が挙げられる。
【0081】
<第五の核酸>
第二の核酸と第三の核酸からなる融合核酸は、相同組換えにより内在性の第三の核酸と入れ替えられてもよいが、係る融合核酸がトランスポゾン等により、任意の染色体に組み込まれている場合には、本発明のキットは、内在性の標的タンパク質をコードする標的ゲノムDNA切断酵素又は前記酵素をコードする第五の核酸を含むことが好ましい。標的ゲノムDNAの二重鎖切断に用いるシステムとしては、CRISPR-Cas9システム、Transcription activator-like effector nuclease(TALEN)システム、及びZnフィンガーヌクレアーゼシステム等が挙げられる。これらのシステムの細胞への導入方法としては、特に限定されず、標的ゲノムDNA切断酵素自体を細胞に導入してもよく、第五の核酸を含む標的ゲノムDNA切断酵素発現ベクターを細胞に導入してもよい。
例えば、CRISPR-Cas9システムにおいては、Cas9発現ベクターと、切断したい箇所にCas9を誘導するガイドRNAをコードする発現ベクターと、を細胞に導入する方法や、発現精製した組み換えCas9タンパク質と、ガイドRNAと、を細胞に導入する方法等が挙げられる。ガイドRNAはtracrRNAとcrRNAの2つに分かれていてもよく、1本につながっているsgRNAであってもよい。
【0082】
≪標的タンパク質分解方法≫
本発明の標的タンパク質の分解方法は、上述した本発明のキットを用いる方法である。オーキシンデグロンシステムにおいて、上述のキットを用いることで、厳密かつ自在に標的タンパク質の分解制御が可能である。
【0083】
例えば、上述のキットを用いて標的タンパク質の分解制御を行う方法としては、以下の方法等が挙げられる。
まず、細胞内において、分解タグで標識された標的タンパク質、及びTIR1ファミリータンパク質を発現させる。分解タグで標識された標的タンパク質、及びTIR1ファミリータンパク質は、定常的に発現していることが好ましい。
【0084】
次いで、オーキシンアナログを培地に添加する。培地に含まれるオーキシンアナログの濃度は、限定されず、例えば、1μM以上0.1mM未満であり、10nM以上50μM以下であることが好ましい。実施例で後述するように、一般式(I)で表される化合物とOsTIR1(F74G)の組み合わせでは、50nMの濃度で、十分に標的タンパク質の分解を誘導できる。所定濃度のオーキシンアナログの添加により、変異型TIR1ファミリータンパク質-オーキシンアナログ複合体が形成され、この複合体が分解タグによって標識された標的タンパク質を認識し、標的タンパク質の分解が誘導される。
【0085】
本発明の分解方法によれば、オーキシンアナログ特異的に標的タンパク質の分解を誘導できる。
【0086】
≪化合物≫
本発明の化合物は、下記一般式(II)で表される化合物である。
【0087】
【化13】
【0088】
(一般式(II)中、R30は、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、又はハロゲン原子を表し、R31は、水素原子、又は炭素数1~6のアルキル基を表す。但し、R30が、水素原子、又は炭素数1~6のアルキル基である場合、R31は、炭素数1~6のアルキル基である。)
【0089】
30のハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。中でも、ハロゲン原子としては、フッ素原子又は塩素原子が好ましい。
【0090】
30及びR31のアルキル基としては、例えば、それぞれ独立して、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、シクロブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、シクロペンチル基、2,3-ジメチルプロピル基、1-エチルプロピル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、シクロヘキシル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、1,1,2-トリメチルプロピル基、3,3-ジメチルブチル基等が挙げられる。中でも、炭素数1~6のアルキル基としては、メチル基又はエチル基であることが好ましい。
【0091】
一般式(II)で表される化合物のうち、下記式(II-1)~(II-4)で表される化合物が好ましい。
【0092】
【化14】
【0093】
≪細胞≫
本発明の細胞は、標的タンパク質の分解を制御するオーキシンデグロンシステムに用いられる非植物由来の真核細胞であって、オーキシン結合部位に変異を有する変異型TIR1ファミリータンパク質をコードする第一の核酸を含む染色体を有する。
本発明の細胞は、第一の核酸をセーフハーバー座位に有することが好ましい。
【0094】
細胞としては、≪オーキシンデグロンシステムのキット≫で述べたものと同様であり、
非植物由来の真核細胞であれば特に限定されず、動物、菌類、原生生物等の細胞があげられる。
【0095】
TIR1ファミリータンパク質としては、≪オーキシンデグロンシステムのキット≫で述べたものと同様であり、イネ由来のTIR1タンパク質である、OsTIR1タンパク質が好ましい。
【0096】
変異型TIR1ファミリータンパク質は、≪オーキシンデグロンシステムのキット≫で述べたものと同様であり、OsTIR1の74番目のFが、A、G、又はSに変異しているものが好ましく、Gに変異しているものがより好ましい。
【0097】
具体的には、変異型TIR1ファミリータンパク質は、≪オーキシンデグロンシステムのキット≫で述べたものと同様であり、上述した(a)~(c)のいずれか一つのアミノ酸配列を含む配列からなり、且つ、オーキシンアナログとの複合体を介して、分解タグと結合して標的タンパク質を分解に導くタンパク質が特に好ましい。
【0098】
本発明の細胞は、更に、少なくとも一部のAux/IAAファミリータンパク質を含み、変異型TIR1ファミリータンパク質-オーキシンアナログ複合体に親和性を有する分解タグをコードする第二の核酸と、前記第二の核酸の上流又は下流に連結された標的タンパク質をコードする第三の核酸と、を含む染色体を有することが好ましい。
【0099】
第一の核酸、第二の核酸、及び第三の核酸の染色体への導入方法としては、特に限定されず、≪オーキシンデグロンシステムのキット≫で述べたように、CRISPRシステム等ゲノム編集技術を用いて導入してもよく、トランスポゾンベクターを用いて導入してもよい。
【実施例0100】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0101】
[実施例1]
1.オーキシンアナログの合成
式(I-2)で示される化合物(5-Ph-IAAともいう。)を合成した。
【0102】
2.細胞の準備
OsTIR1(WT)遺伝子又はOsTIR1(F74G)遺伝子とmAID-EGFP(緑色蛍光タンパク質)-NLS(核移行シグナル)遺伝子がP2A配列を介してコードされるDNAがトランスポゾンにより染色体上に挿入されているHCT116細胞(ヒト結腸腺癌由来細胞)(以下、「OsTIR1(WT)/mAID-EGFP-NLS発現細胞」又は「OsTIR1(F74G)/mAID-EGFP-NLS発現細胞」と称する)を準備した(図1参照。)。
【0103】
3.オーキシンアナログの添加
OsTIR1(F74G)/mAID-EGFP-NLS発現細胞にオーキシンアナログ(培地中の濃度:0、200μM)を添加して、24時間培養した。また、対照として、OsTIR1(WT)/mAID-EGFP-NLS発現細胞にオーキシンを添加した細胞も準備した。
【0104】
3.FACS解析
オーキシンアナログの添加から24時間後に細胞を回収し、FACS解析を行った。結果を図1に示す。
【0105】
図1から、オーキシンアナログを添加したOsTIR1(F74G)/mAID-EGFP-NLS発現細胞では、OsTIR1(WT)/mAID-EGFP-NLS発現細胞と比較して、分解誘導前の発現が高く均一である。さらに、オーキシンアナログを添加したOsTIR1(F74G)/mAID-EGFP-NLS発現細胞では、オーキシンを添加したOsTIR1(WT)/mAID-EGFP-NLS発現細胞と比較して、よりシャープにGFPの分解が観察された。
【0106】
更に同様の実験を、OsTIR1(WT)/mAID-EGFP-NLS発現細胞に100μMオーキシンを添加し、OsTIR1(F74G)/mAID-EGFP-NLS発現細胞に、1μM5-Ph-IAAを添加し、4時間後に細胞を回収し、FACS解析を行った。結果を図7(A)に示す。
同質遺伝的背景で、OsTIR1(WT)とOsTIR1(F74G)を比較したところ、OsTIR1(WT)においては、オーキシン未添加の状態で、mAID-EGFP-NLSレポーターレベルが低く、そのシグナルピークが広く、基底分解があることを示していた。OsTIR1(WT)に100μMオーキシンを添加することにより、シグナルピークが左にシフトし、レポーターが分解したことを示した。
対照的に、OsTIR1(F74G)を発現している細胞では、mAID-EGFP-NLSレポーターの発現レベルが高く、そのシグナルピークがよりシャープであり、これらの細胞では基底分解が、低いことが示された。更に、1μM5-Ph-IAAを4時間添加すると、レポーターはOsTIR1(F74G)を発現する細胞で効率的に分解された。
【0107】
更に、OsTIR1(F74A)/mAID-EGFP-NLS発現細胞も用い、3つのクローンで同様の実験を行った。結果を図7(B)に示す。
図7(B)に示す様に、OsTIR1(WT)を発現する3つの細胞株は、低発現レベルでより広いピークを示し、オーキシン無しでも基底分解があることを示唆した。
一方、OsTIR1(F74G)及びOsTIR1(F74A)を発現するクローンは、5-Ph-IAAを添加しない状態で、レポーターのより強い発現レベルを示し、基底分解が抑制されたことを示唆している。
更に、OsTIR1(F74G)を発現するクローンは、5-Ph-IAA処理によりOsTIR1(F74A)を発現するクローンと比較して、よりシャープなmAID-EGFP-NLSレポーターの分解を示した。 すべての場合において、シグナルピークは、5-Ph-IAA処理後に左にシフトし、分解が誘発されたことを示した。
【0108】
OsTIR1(WT)とOsTIR1(F74G)をより詳細に比較するために、異なる用量のIAA(オーキシン)と5-Ph-IAAをそれぞれ使用してmAID-EGFP-NLSレポーター分解を誘導した(図10(A)参照)。図10(A)に示す様に、 OsTIR1(F74G)を発現する細胞の分解に必要なリガンド濃度は有意に低かった。 DC50値(50%分解の濃度)は、それぞれOsTIR1(WT)及びOsTIR1(F74G)で、300±30nM及び0.45±0.01nMであり、5-Ph-IAAを使用したシステムが、従来のオーキシンデグロンシステムと比較して、約670倍の低濃度で機能することが確認された。
【0109】
標的タンパク質除去による、経時的動態を調べるために、時間経過後のサンプルを取り、レポーターの発現レベルを観察した(図10(B)参照。)。本発明に係る分解システム(AID2システムともいう。)は、半減期が62.3±2.0分で、従来のシステムと比べて、遥かにシャープに機能することが確認された。
一方、従来のシステムは、半減期147.1±12.5分で効率が低下していた。OsTIR1(F74G)を使用したAID2システムは、標的タンパク質の基底分解が少なく、新しい活性化リガンドである5-Ph-IAAの濃度が大幅に低くて済み、ターゲットの分解速度が速くなることが確認された。
【0110】
OsTIR1(F74G)と5-Ph-IAAのペアを使用したAID2システムの可逆性を確認するために、mAID-EGFP-NLSレポーターの分解を誘発した後に、5-Ph-IAAを含まない培地に交換し、レポーターの発現を調べた。結果を図11に示す。図11に示す様に、レポーター発現は3時間後に完全に回復し、AID2システムの可逆性が示された。
【0111】
[実施例2]
1.オーキシンアナログの合成
式(I-1-5)で示される化合物(5-Ph-IAAともいう。)、式(I-1-6)で示される化合物(5-(3,4-diMePh)-IAAともいう。)、式(I-1-7)で示される化合物(5-(3-MePh)-IAAともいう。)、式(I-1-8)で示される化合物(5-(3-ClPh)-IAAともいう。)を合成した。式(I-1-4)で示される化合物(5-(3-MeOPh)-IAAともいう。)は、東京化成工業株式会社から購入した。
以下に、合成した化合物の合成方法を示す。
【0112】
[5-ブロモインドール3-酢酸メチルエステルの合成]
【0113】
【化15】
【0114】
5-ブロモインドール3-酢酸 (500 mg, 1.97 mmol) のメタノール 溶液(25 mL)を100 mL 丸底フラスコ入れて、撹拌しながら塩化アセチル 1 mL を滴下した。室温で3時間反応させた。反応液を水 100 mL に注ぎ、これを50 mL の酢酸エチルで2回抽出した。有機層を飽和食塩水 100 mLで洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで脱水し、減圧濃縮して茶褐色オイルの5-ブロモインドール3-酢酸メチルエステル(26 mg, 1.96 mmol, 収率99 %) を得た。
得られた化合物のH-NMR、及び13C-NMRによる分析結果を以下に示す。
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ 8.17 (s, 1H), 7.73 (d, J = 1.8 Hz, 1H), 7.28 (dd, J = 7.6, 5.7 Hz, 1H), 7.20 (dd, J = 13.5, 4.8 Hz, 1H), 7.16-7.10 (m, 1H), 3.75-3.70 (m, 2H), 3.71 (s, 3H),13C-NMR (100MHz, CDCl3) δC 172.33, 134.80, 129.06, 125.21, 124.42, 121.59, 113.12, 112.730, 108.24, 52.18, 30.98.
【0115】
[5-フェニル-インドール3-酢酸メチルエステルの合成]
【0116】
【化16】
【0117】
5-ブロモインドール3-酢酸メチルエステル (540 mg, 2.01 mmol) 、フェニルボロン酸 (467 mg, 3.83 mmol)、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリド[PdCl2(PPhe3)2 :67 mg, 0.095 mmol]を 、ジメチルホルムアミド 5 mL 、エタノール 5 mL 、3 M 炭酸カリウム水溶液 2 mL を入れた50 mL の丸底フラスコに加えた。容器内を窒素置換し、120 ℃ で5時間加熱還流した。反応液に酢酸エチル10 mL と水20 mL を加え、酢酸エチル15 mL で3回抽出した。有機層を飽和食塩水20 mLで洗浄し、続いて無水硫酸ナトリウムで脱水した後、減圧濃縮した。この濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー ( 溶出溶媒、ヘキサン : 酢酸エチル = 3 : 1 ) で精製し、5-フェニル-インドール3-酢酸メチルエステルを橙色オイルとして得た(134 mg, 0.50 mmol,収率25.1 %) 。
得られた化合物のH-NMR、及び13C-NMRによる分析結果を以下に示す。
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ 8.14 (s, 1H), 7.82 (s, 1H), 7.69-7.61 (m, 2H), 7.43 (t, J = 7.8 Hz, 3H), 7.40-7.34 (m, 1H), 7.34-7.28 (m, 1H), 7.16 (d, J = 10.1 Hz, 1H), 4.17 (qd, J = 7.1, 4.0 Hz, 2H), 3.81 (s, 3H),13C-NMR (100MHz, CDCl3) δC 172.19, 142.64, 135.74, 133.37, 128.74, 127.52, 126.44, 123.88, 122.18, 117.53, 111.52, 109.04, 60.95, 31.50.
【0118】
[5-フェニル-インドール3-酢酸メチルエステル(式(I-1-5)で示される化合物(5-Ph-IAAともいう。))の合成]
【0119】
【化17】
【0120】
5-フェニル-インドール3-酢酸メチルエステル (124 mg, 0.47 mmol) を10 mL 丸底フラスコにとり、メタノール 1 mL とテトラヒドロフラン1 mLを加えた。これに水酸化リチウム水溶液(23 mg, 0.96 mmolを水1 mL に溶解)を滴下した。この反応液を室温で2時間攪拌して加水分解した。反応液に 1 M 希塩酸 5 mLと 酢酸エチル 5 mL を加えて酢酸エチル層に生成物を抽出した。さらに酢酸エチル 5 mL で3回抽出した。この有機層を飽和食塩水 10 mL で洗浄後、無水硫酸ナトリウムを加えて脱水し、減圧濃縮した。濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (クロロホルム :アセトン = 95: 5)で精製し、5-フェニルインドール3-酢酸を淡褐色粉末(98 mg, 0.39 mmol, 収率 83.4 %)として得た。
得られた化合物のH-NMR、及び13C-NMRによる分析結果を以下に示す。
1H-NMR (400 MHz, acetone-d6) δ10.61 (s, 1H), 10.17 (s, 1H), 7.89 (s, 1H), 7.68-7.65 (m, 2H), 7.48-7.46 (m, 1H), 7.44-7.40 (m, 3H), 7.34 (d, J = 2.3 Hz, 1H), 7.26 (tt, J = 7.3, 1.4 Hz, 1H), 3.82 (s, 2H), 13C-NMR (100 MHz, acetone-d6) δ 173.20, 143.65, 137.15, 133.06, 129.51, 129.15, 127.86, 126.96, 125.39, 121.85, 118.07, 112.54, 109.65, 31.39
【0121】
[5-フェニル-インドール3-酢酸メチルエステルの合成]
【0122】
【化18】
【0123】
5-ブロモインドール3-酢酸 (508 mg、2.00 mmol) のエタノール溶液(25 mL)を100 mL 丸底フラスコに入れて、これに撹拌しながら塩化アセチル 1 mL を滴下した。この反応液を室温で3時間撹拌した。反応液を水 100 mL に注ぎ、これを50 mL の酢酸エチルで2回抽出した。有機層を飽和食塩水 100 mLで洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで脱水し、減圧濃縮し、茶褐色オイルの5-ブロモインドール3-酢酸エチルエステル(556 mg, 1.97 mmol, 収率99 %) を得た。
得られた化合物のH-NMR、及び13C-NMRによる分析結果を以下に示す。
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ 8.23 (s, 1H), 7.73 (s, 1H), 7.24 (dd, J = 8.5, 2.1 Hz, 1H), 7.15 (d, J = 8.7 Hz, 1H), 7.07 (s, 1H), 4.18 (q, J = 7.2 Hz, 2H), 3.71 (s, 2H), 1.28 (t, J = 7.3 Hz, 3H), 13C-NMR (100 MHz, CDCl3) δ 172.07, 134.82, 129.05, 125.08, 124.49, 121.64, 112.99, 112.77, 108.21, 61.11, 31.31, 14.32.
【0124】
[5-(3-メチルフェニル)-インドール3-酢酸エチルエステルの合成]
【0125】
【化19】
【0126】
5-ブロモインドール3-酢酸メチルエステル (112 mg, 0.40 mmol) 、3-メチルフェニルボロン酸 (107 mg, 0.79 mmol)、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリド(PdCl2(PPhe3)2 :15 mg, 0.02 mmol)を 、ジメチルホルムアミド 1 mL、エタノール 1mL 、3 M 炭酸カリウム水溶液 0.5 mLを入れた50 mL の丸底フラスコに加えた。容器内を窒素置換し、120 ℃ で5時間加熱還流した。反応液に酢酸エチル10 mL と水20 mL を加え、酢酸エチル15 mL で3回抽出した。有機層を飽和食塩水20 mLで洗浄し、続いて無水硫酸ナトリウムで脱水した後、減圧濃縮した。この濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー ( 溶出溶媒、ヘキサン : 酢酸エチル = 3 : 1 ) で精製し、5-(3-メチルフェニル)-インドール3-酢酸エチルエステルを黄色オイル(17 mg, 0.058 mmol, 収率14.6 %)として得た。
得られた化合物のH-NMR、及び13C-NMRによる分析結果を以下に示す。
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ 8.10 (s, 1H), 7.81 (s, 1H), 7.49-7.42 (m, 3H), 7.39 (d, J = 8.2 Hz, 1H), 7.32 (t, J=7.8, 1H), 7.19 (d, J = 1.1 Hz, 1H), 7.16-7.11 (m, 1H), 4.18 (q, J=7.6, 2H), 3.82 (s, 2H), 2.41 (s, 3H), 1.27 (t, J = 7.1 Hz, 3H), 13C-NMR (100MHz, CDCl3) δC 172.12, 142.59, 138.23, 135.68, 133.51, 128.62, 128.32, 127.84, 127.19, 124.61, 123.74, 122.24, 117.51, 111.39, 109.13, 60.91, 31.49, 21.67, 14.34.
【0127】
[5-(3-メチルフェニル)-インドール3-酢酸の合成]
【0128】
【化20】
【0129】
5-(3-メチルフェニル)-インドール3-酢酸エチルエステル (40mg, 0.14 mmol) を5 mLガラスバイアルにとり、メタノール0.25 mL とテトラヒドロフラン0.25 mL を加えた。これに、10 %(W/V)水酸化カリウム水溶液0.25 mLを滴下した。この反応液を室温で2時間攪拌し加水分解した。反応液に 1 M 希塩酸 1 mLと 酢酸エチル 2 mL を加えて抽出した。さらに酢酸エチル 2 mL で3回抽出した。この有機層を飽和食塩水 1 mL で洗浄後、無水硫酸ナトリウムを加えて脱水し、減圧濃縮した。濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (クロロホルム :アセトン = 95: 5)で精製し、5-(3-メチルフェニル)-インドール3-酢酸を淡褐色粉末(29 mg, 0.11 mmol, 収率 80.2 %)として得た。得られた化合物のH-NMR、及び13C-NMRによる分析結果を以下に示す。
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ 8.05 (s, 1H), 7.77 (d, J = 1.4 Hz, 1H), 7.48-7.40 (m, 3H), 7.36 (d, J=8.7Hz, 1H), 7.30 (t, J=7.3Hz,1H), 7.16-7.09 (m, 2H), 3.82 (s, 2H), 2.41 (s, 3H), 13C-NMR (100MHz, CDCl3) δC 177.84, 142.51, 138.29, 135.63, 133.70, 128.67, 128.36, 127.69, 127.27, 124.68, 124.04, 122.41, 117.34, 111.53, 108.22, 31.07, 21.68.
【0130】
[5-(3,4-ジメチルフェニル)-インドール3-酢酸エチルエステルの合成]
【0131】
【化21】
【0132】
5-ブロモインドール3-酢酸メチルエステル (113 mg, 0.40 mmol) 、3,4-ジメチルフェニルボロン酸 (120 mg, 0.80 mmol)、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリド(PdCl2(PPhe3)2 :15 mg, 0.02 mmol)を 、ジメチルホルムアミド 1 mL、エタノール 1mL 、3 M 炭酸カリウム水溶液 0.5 mLを入れた50 mL の丸底フラスコに加えた。容器内を窒素置換し、120 ℃ で5時間加熱還流した。反応液に酢酸エチル10 mL と水20 mL を加え、酢酸エチル15 mL で3回抽出した。有機層を飽和食塩水20 mLで洗浄し、続いて無水硫酸ナトリウムで脱水した後、減圧濃縮した。この濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー ( 溶出溶媒、ヘキサン : 酢酸エチル = 3 : 1 ) で精製し、5-(3,4-ジメチルフェニル)-インドール3-酢酸エチルエステルを黄色オイル(36 mg, 0.12 mmol, 収率29.2 %)として得た。
得られた化合物のH-NMR、及び13C-NMRによる分析結果を以下に示す。
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ 8.10 (s, 1H), 7.79 (d, J = 0.9 Hz, 1H), 7.44 (m, 2H), 7.38 (m, 2H), 7.22-7.14 (m, 2H), 4.17 (q, J = 7.0 Hz, 2H), 3.80 (s, 2H), 2.35 (s, 3H), 2.31 (s,3H), 1.25 (t, J = 7.0 Hz, 3H), 13C-NMR (100MHz CDCl3) δC 172.17, 140.24, 136.80, 135.55, 134.75, 133.44, 130.30, 128.80, 127.83, 124.85, 123.70, 122.15, 117.23, 111.37, 109.04, 60.89, 31.49, 20.04, 19.46, 14.35
【0133】
[5-(3,4-ジメチルフェニル)-インドール3-酢酸の合成]
【0134】
【化22】
【0135】
5-(3,4-ジメチルフェニル)-インドール3-酢酸エチルエステル (30 mg, 0.098 mmol) を5 mLガラスバイアルにとり、メタノール0.25 mL とテトラヒドロフラン0.25 mL を加えた。これに10 %(W/V)水酸化カリウム水溶液0.25 mLを滴下した。この反応液を室温で2時間攪拌し加水分解した。反応液に 1 M 希塩酸 1 mLと 酢酸エチル 2 mL を加えて抽出した。さらに酢酸エチル 2 mL で3回抽出した。この有機層を飽和食塩水 1 mL で洗浄後、無水硫酸ナトリウムを加えて脱水し、減圧濃縮した。濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (クロロホルム :アセトン = 95: 5)で精製し、5-(3,4-ジメチルフェニル)-インドール3-酢酸を淡褐色粉末(20 mg, 0.0716 mmol, 収率 73.4 %)として得た。
得られた化合物のH-NMR、及び13C-NMRによる分析結果を以下に示す。
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ 8.06 (s, 1H), 7.76 (s, 1H), 7.46-7.40 (m, 2H), 7.37 (d, J = 8.2 Hz, 2H), 7.22-7.14 (m, 2H), 3.84 (s, 2H), 2.33 (s, 3H), 2.30 (s, 3H),13C-NMR (100MHz, CDCl3) δC 177.32, 140.13, 136.83, 135.50, 134.83, 133.67, 130.05, 128.83, 127.69, 124.89, 123.91, 122.34, 117.10, 111.45, 108.23, 30.99, 20.03, 19.46.
【0136】
[5-(3-クロロフェニル)-インドール3-酢酸エチルエステルの合成]
【0137】
【化23】
【0138】
5-ブロモインドール3-酢酸メチルエステル (113 mg, 0.40 mmol) 、3-クロロフェニルボロン酸 (128 mg, 0.82 mmol)、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリド(PdCl2(PPhe3)2 :15 mg, 0.02 mmol)を 、ジメチルホルムアミド 1 mL、エタノール 1mL 、3 M 炭酸カリウム水溶液 0.5 mLを入れた50 mL の丸底フラスコに加えた。容器内を窒素置換し、120 ℃ で5時間加熱還流した。反応液に酢酸エチル10 mL と水20 mL を加え、酢酸エチル15 mL で3回抽出した。有機層を飽和食塩水20 mLで洗浄し、続いて無水硫酸ナトリウムで脱水した後、減圧濃縮した。この濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー ( 溶出溶媒、ヘキサン : 酢酸エチル = 3 : 1 ) で精製し、5-(3-クロロフェニル)-インドール3-酢酸エチルエステルを黄色オイル(25 mg, 0.79 mmol, 収率19.5 %)として得た。
得られた化合物のH-NMR、及び13C-NMRによる分析結果を以下に示す。
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ 8.14 (s, 1H),7.80 (s, 1H), 7.63 (t, J = 1.8 Hz, 1H), 7.53 (dt, J = 8.0, 1.4 Hz, 1H), 7.42 (d, J = 1.4 Hz, 2H), 7.36 (t, J = 8.0 Hz, 1H), 7.30-7.24 (m, 1H), 7.23 (d, J = 2.3 Hz, 1H), 4.18 (q, J = 7.2 Hz, 2H), 3.81 (s, 2H), 1.27 (t, 7.2 Hz, 3H), 13C-NMR (100MHz, CDCl3) δC 171.99, 144.48, 135.96, 134.54, 131.96, 129.90, 127.98, 127.52, 126.38, 125.59, 123.99, 121.98, 117.68, 111.61, 109.29, 60.95, 31.45, 14.34.
【0139】
[5-(3-クロロフェニル)-インドール3-酢酸(式(I-1-8)で示される化合物(5-(3-ClPh)-IAAともいう。))の合成]
【0140】
【化24】
【0141】
5-(3-クロロフェニル)-インドール3-酢酸エチルエステル (38 mg, 0.12 mmol) を5 mLガラスバイアルにとり、メタノール0.25 mL とテトラヒドロフラン0.25 mL を加えた。これに10 %(W/V)水酸化カリウム水溶液0.25 mLを滴下した。この反応液を室温で2時間攪拌し加水分解した。反応液に 1 M 希塩酸 1 mLと 酢酸エチル 2 mL を加えて抽出した。さらに酢酸エチル 2 mL で3回抽出した。この有機層を飽和食塩水 1 mL で洗浄後、無水硫酸ナトリウムを加えて脱水し、減圧濃縮した。濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (クロロホルム :アセトン = 95: 5)で精製し、5-(3-クロロフェニル)-インドール3-酢酸を淡褐色粉末(31 mg, 0.11 mmol, 収率 89.6 %)として得た。
得られた化合物のH-NMR、及び13C-NMRによる分析結果を以下に示す。
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ 8.13 (s, 1H), 7.76 (s, 1H), 7.61 (t, J = 1.8 Hz, 1H), 7.49 (dt, J = 7.8, 1.4 Hz, 1H), 7.40 (s, 2H), 7.34 (t, J = 7.8 Hz, 1H), 7.26-7.28 (m, 1H), 7.20 (d, J = 2.3 Hz, 1H), 3.82 (s, 2H), 13C-NMR (100MHz, CDCl3) δC 177.42, 144.36, 135.92, 134.54, 132.15, 129.94, 127.74, 127.54, 126.45, 125.66, 124.26, 122.15, 117.51, 111.73, 108.39, 30.98.
【0142】
2.細胞の準備
OsTIR1(WT)遺伝子又はOsTIR1(F74G)遺伝子を含むプラスミドが導入されており、mAID-EGFP(緑色蛍光タンパク質)-NLS(核移行シグナル)遺伝子が染色体上に挿入されているHCT116細胞(ヒト結腸腺癌由来細胞)(以下、「OsTIR1(WT)/mAID-EGFP-NLS発現細胞」又は「OsTIR1(F74G)/mAID-EGFP-NLS発現細胞」と称する)を準備した(図1参照。)。
【0143】
3.オーキシンアナログの添加
OsTIR1(F74G)/mAID-EGFP-NLS発現細胞にオーキシンアナログ(培地中の濃度:0、50nM、100nM、500nM、1μM)を添加して、24時間培養した。また、対照として、OsTIR1(WT)/mAID-EGFP-NLS発現細胞にオーキシンを添加した細胞も準備した。
【0144】
4.FACS解析
各オーキシンアナログの添加から24時間後に細胞を回収し、FACS解析を行った。結果を図2に示す。図2において、「Control」とは、オーキシンアナログ溶媒であるDMSOのみを添加した細胞を示す。
【0145】
図2から、オーキシンアナログを添加したOsTIR1(F74G)/mAID-EGFP-NLS発現細胞では、オーキシンを添加したOsTIR1(WT)/mAID-EGFP-NLS発現細胞と比較して、低濃度でGFPの分解が観察された。
【0146】
更に、OsTIR1(F74G)/mAID-EGFP-NLS発現細胞に、低濃度の各オーキシンアナログを処理した。結果を図8に示す。用いたオーキシンアナログの中で、
5-Ph-IAAは、1nMおよび10nMで他の化合物よりより強いmAID-EGFP-NLSレポーターの分解誘導の効果を示した。
【0147】
HCT116細胞を、1μM 5-Ph-IAAで処理した影響を調べた、図9(A)に示す様に、細胞周期への影響を示さなかった。図9(B)に示す様に、コロニー形成効率の変化を示さなかった。5-Ph-IAAは、効果的なリガンドであり、1μMでは毒性が無いことが確認された。
【0148】
[実施例3]
1.細胞の準備
HCT116細胞において、セーフハーバー座位であるAAVS1遺伝子座に、CRISPR/Casシステムを用いて、OsTIR1(WT)遺伝子又はOsTIR1(F74G)遺伝子を導入し、OsTIR1(WT)発現HCT116細胞、又はOsTIR1(F74G)発現HCT116細胞を構築した。
【0149】
2.コロニー形成試験
mAIDとCloverとネオマイシン耐性遺伝子を有し、mAIDとネオマイシン耐性遺伝子とを挟むように、DHC1遺伝子に対して相同な配列を有するプラスミドベクターを、CRISPR/Cas9システムを用いて、OsTIR1(WT)発現HCT116細胞、又はOsTIR1(F74G)発現HCT116細胞に導入し、内在性のDHC1遺伝子と相同組換えを行った。次いで、G418によるセレクションの後、形成されたコロニーを、クリスタルバイオレットを用いて染色した。尚、「DHC1」とはdynein heavy chain1の略称であり、ダイニン重鎖1を意味する。結果を図3に示す。
【0150】
図3から、CRISPR無しでは、耐性遺伝子が働いていないためコロニーの形成は確認されなかった。OsTIR1(WT)発現HCT116細胞では、相同組換えを行った細胞においても、オーキシン非依存的な分解誘導がなされているためか、コロニーの形成は確認されなかった。一方、OsTIR1(F74G)発現HCT116細胞では、相同組換えを行った細胞において、コロニーの形成は確認された。
【0151】
3.分解誘導試験
上記2にて相同組換えを行った、OsTIR1(F74G)発現HCT116細胞(以下、「OsTIR1(F74G)/DHC1-mAID-Clover発現細胞」と称する。)を用いて、DHC1の分解誘導試験を行った。
OsTIR1(F74G)/DHC1-mAID-Clover発現細胞に、式(I-2)で示される化合物(5-Ph-IAAともいう。)を添加し、24時間後の細胞の様子を観察した(図4(A))。
【0152】
図4(A)に示すように、5-Ph-IAA添加により、DHC1-mAID-Clover融合タンパク質が分解されることで、分裂期の細胞の蓄積が観察された。
更に、DHC1の分解をウエスタンブロッティングにより確認した(図4(B))。図4(B)に示すように、相同組換えを行って作製したクローン#1~3の全てにおいて、5-Ph-IAA依存的に、DHC1及びmAIDの分解が確認された。
【0153】
[実施例4]
内在性の標的タンパク質分解系を構築するには、以下3点の難点がある。(1)多くの培養細胞は多倍体化しているため、標的遺伝子のアリルが2コピー以上ある。そのため、様々な培養細胞株でこの分解系を構築することが難しい。(2)OsTIR1(F74G)があらかじめ導入された親株を作成する必要がある。(3)多数の分解系を構築してライブラリー化するには手間がかかる。
【0154】
係る問題点を解決するために、図5に示す、新たな標的タンパク質分解系を構築した。この分解系では、(1)OsTIR1(F74G)遺伝子とmAID-標的遺伝子が、P2Aリンカー遺伝子で繋がれたトランスポゾンベクターと、(2)gRNAとCas9遺伝子を含む、内在性の標的遺伝子をノックアウトするためのCRISPR-KOベクターを含む。
この分解系では、トランスポゾンベクターにより、ゲノム中にOsTIR1(F74G)遺伝子とmAID-標的遺伝子をインテグレートさせる一方で、CRISPR-KOベクターにより、内在性の標的遺伝子をノックアウトする。
【0155】
OsTIR1(F74G)遺伝子とmAID-EGFP-CENPH又はmAID-EGFP-POLD1標的遺伝子が、P2Aリンカー遺伝子で繋がれたトランスポゾンベクターを作製し、このベクターを内在性CENPH又はPOLD1遺伝子を標的とするCRISPR-KOベクターとともにHeLa細胞へ導入した。係る細胞へ5-Ph-IAAを添加し、標的タンパク質の分解をウエスタンブロッティングにより確認した(図6)。
図6(A)に抗CENPH抗体を用いたウエスタンブロッティングの結果を示す。内在性のCENPH遺伝子がノックアウトされていることが確認され、かつ5-Ph-IAA依存的にmAID-EGFP-CENPHの分解が確認された。
図6(B)に抗POLD1抗体を用いたウエスタンブロッティングの結果を示す。クローン#1~3において、内在性のPOLD1遺伝子がノックアウトされていることが確認され、かつ5-Ph-IAA依存的にmAID-EGFP-POLD1の分解が確認された。
【0156】
[実施例5]
AID2システムが酵母でも機能することを確認するために、GAL1-10プロモーターの制御下で、URA3遺伝子座に、OsTIR1(WT、F74G、又はF74A)を導入した(図12(A)参照。)。その後、必須の複製イニシエーターである、MCM10、SLD3、又はCDC45をコードする遺伝子にmAIDタグを付けた。
例えば、図12(B)のOsTIR1 ON、リガンドなし、cdc45-mAID等に示されるように、OsTIR1(WT又はF74A)を発現している酵母株は、遅い増殖を示し、酵母でより高い基底分解があることを示唆した。
更に、OsTIR1(WT及びF74A)は、500μMIAAでこれらmAID導入株の増殖抑制がみられたこのことは、OsTIR1(F74A)がIAAに対する反応性を残していることを示唆している。
すべての場合において、OsTIR1(F74G又はF74A)を発現する株は、5μM5-Ph-IAAを含むプレート上で、強い増殖阻害を示した。OsTIR1(F74G又はF74A)が発現された場合、mcm10-mAID株及びsld3-mAID株の増殖が強く阻害されることから、AID2システムがより分解能力が高く、強い表現型を示す変異体を製造できることを示している。
【0157】
[実施例6]
OsTIR1(F74G)を恒常的に発現するヒトHCT116細胞を材料に、ゲノム編集によりRAD21-mAID-Clover(RAD21-mAC)細胞を作製し、5-Ph-IAA添加による効果を確認した。図13(A)及び(B)に示されるように、 RAD21-mACの発現レベルは、添加前の0分でOsTIR1(WT)を発現している細胞よりも、OsTIR1(F74G)を発現している細胞の方が高く、従来のAIDシステムのにおける基底分解を示している。
RAD21-mACは、OsTIR1(WT)とOsTIR1(F74G)両方の場合に、リガンドの添加後に急速に消失した。但し、T1/2は、OsTIR1(WT)とOsTIR1(F74G)でそれぞれ26.5分と11.7分であり、RAD21-mACがAID2システムによってより速く分解されたことを示している。これらの結果は、AID2システムが、従来のAIDシステムよりもRAD21-mACをより迅速に制御できることを示している。
【0158】
AID2システムによる急速なRAD21-mAC分解の表現型を見るために、細胞周期を調べたところ、RAD21-mAC分解細胞の大部分がG2/M期で停止していることが確認された(図13(C)参照。)。RAD21-mAC分解細胞は、RAD21の本質的な役割と一致して、姉妹染色分体の対合に重大な欠陥を示した(図13(D)参照。)。
【0159】
[実施例7]
OsTIR1(F74G)がより少ない基底分解を示したことに鑑みて、OsTIR1(F74G)を恒常的に発現するHCT116細胞で、DHC1-mAID-Clover(DHC1-mAC)を作製できるかどうか検討した。 OsTIR1(WT又はF74G)を構成的に発現する親細胞株に、デグロンタグを付加するためのCRISPRプラスミドと、それぞれネオマイシンまたはハイグロマイシン耐性マーカーを持つ二つのドナーをトランスフェクトした(図14参照。)。OsTIR1(F74G)発現細胞において、G418及びハイグロマイシンの存在下で、コロニーは形成され、両アリルでのDHC1遺伝子にタグが付加された(図15(A)参照。)。 OsTIR1(WT)を発現する細胞では、コロニーは形成されなかった。OsTIR1(F74G)を発現するクローンでは、DHC1-mACは1μM 5-Ph-IAAの添加により効率的に分解した(図15(B)参照。)。 これらの細胞は有糸分裂で停止し(図15C参照。)、有糸分裂紡錘体形成に強い欠陥を示した(図15(D)参照。)。これは、DHC1が有糸分裂時に形成される紡錘体形成に必須であることと一致している。
【0160】
更に、シロイヌナズナのTIR1パラログであるAtAFB2を用いて、DHC1-mAC変異体が作製できるかどうか検討した。図15(A)に示されるように、コロニーを得ることができたが、得られたコロニー数は、OsTIR1(F74G)と比較して少なかった。
【0161】
更に、mAIDの代わりに、もう1つのデグロンタグであるmini-IAA7(mIAA7)を用いて同様の実験を行った(図16参照)。図16(B)に示す様に、すべての条件において、コロニー形成が確認された。ただし、OsTIR1(F74G)を発現する細胞と比較して、コロニー数はOsTIR1(WT)及びAtAFB2を発現する細胞の方が少なかった。
AtAFB2又はOsTIR1(F74G)を発現している細胞で、mIAA7又はmAIDタグ付きDHC1の分解を誘導した(図16(C)参照)。図16(C)において、OsTIR1(F74G)とmAIDタグの組み合わせが、最も効率的であることが確認された。これは、図16(A)に示す様に、mIAA7の長さが短いため、及び/又はmIAA7のユビキチン化に必要なリジン残基が少ないために、IAAによる3成分複合体の形成効率が落ちるためと考えられる。
【0162】
[実施例8]
OsTIR1(WT)を恒常的に発現するHCT116細胞を使用しては、AID細胞株を作製することが困難であった、コンデンシン複合体のサブユニットSMC2、インシュレータータンパク質CTCF、及びRNA ポリメラーゼ 2 最大サブユニット(POLR2A)について、OsTIR1(F74G)を構成的に発現する細胞で、細胞株を作製できるか検討した。図17に示すように、OsTIR1(F74G)を構成的に発現しているHCT116内の内因性SMC2、CTCF、及びPOLR2Aの両アリルにタグを付加できることが確認された。これらの細胞株では、1μM5-Ph-IAAの添加によりmAID融合ターゲットが急速に分解された。これらの結果により、OsTIR1(F74G)を構成的に発現する細胞を使用するAID2システムが、元のAIDシステムを使用して細胞株を作製することが不可能な遺伝子に対しても作製できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0163】
本発明のオーキシンデグロンシステムによれば、オーキシン非依存的な標的タンパク質の分解を阻害することができるため、厳密かつ自在に標的タンパク質の分解制御が可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
【配列表】
2024103589000001.xml