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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024103619
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】食酢及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12J 1/00 20060101AFI20240725BHJP
   C12P 1/04 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
C12J1/00 Z
C12P1/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024087472
(22)【出願日】2024-05-29
(62)【分割の表示】P 2022541297の分割
【原出願日】2022-01-25
(31)【優先権主張番号】P 2021013905
(32)【優先日】2021-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】514057743
【氏名又は名称】株式会社Mizkan Holdings
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 清路
(72)【発明者】
【氏名】石川 篤志
(72)【発明者】
【氏名】高岡 正周
(57)【要約】
【課題】従来に比べてより高い粘度を有する食酢及びその製造方法を提供することを目的として、
【解決手段】本食酢は、水溶性多糖類であるPS1(Glc:Gal:Man:GlcA=6.0:5.0~6.5:0.05~0.4:0.05~0.4)及び/又はPS2Glc:Rha:Man:GlcA=4.0:1.5~2.5:0.05~0.4:0.05~0.4)を含む。本方法は、S及びSの2つの発酵工程を備え、Sは、第1の培地において、アセトバクター属、グルコノバクター属、コザキア属、コマガタエイバクター属及びグルコンアセトバクター属から選択される酢酸菌を培養して、PS1及びPS2から選択される水溶性多糖類を含む第1培養物を得る発酵工程であり、Sは、第1培養物を含む第2の培地において、アセトバクター属、グルコノバクター属、コザキア属、コマガタエイバクター属及びグルコンアセトバクター属から選択される酢酸菌を培養して、酢酸及び前記水溶性多糖類を含む第2培養物を得る発酵工程である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性多糖類である下記PS1及び/又は下記PS2を含むことを特徴とする食酢。
PS1:構成糖がグルコース、ガラクトース、マンノース及びグルクロン酸であり、その構成比が6.0:5.0~6.5:0.05~0.4:0.05~0.4である水溶性多糖類
PS2:構成糖がグルコース、ラムノース、マンノース及びグルクロン酸であり、その構成比が4.0:1.5~2.5:0.05~0.4:0.05~0.4である水溶性多糖類
【請求項2】
粘度が1000mPa・s以上、且つ、酸度0.5%以上である請求項1に記載の食酢。
【請求項3】
前記PS1の濃度が5.2g/L以上、又は、前記PS2の濃度が3.5g/L以上である請求項1又は2に記載の食酢。
【請求項4】
下記S及び下記Sの2つの発酵工程を備えることを特徴とする食酢の製造方法。
:第1の培地において、アセトバクター属に属する酢酸菌、グルコノバクター属に属する酢酸菌、コザキア属に属する酢酸菌、コマガタエイバクター属に属する酢酸菌、及び、グルコンアセトバクター属に属する酢酸菌から選択される酢酸菌を培養して、下記PS1及び下記PS2から選択される水溶性多糖類を含む第1培養物を得る発酵工程
:前記第1培養物を含む第2の培地において、アセトバクター属に属する酢酸菌、グルコノバクター属に属する酢酸菌、コザキア属に属する酢酸菌、コマガタエイバクター属に属する酢酸菌及びグルコンアセトバクター属に属する酢酸菌から選択される酢酸菌を培養して、酢酸及び前記水溶性多糖類を含む第2培養物を得る発酵工程
PS1:構成糖がグルコース、ガラクトース、マンノース及びグルクロン酸であり、その構成比が6.0:5.0~6.5:0.05~0.4:0.05~0.4である水溶性多糖類
PS2:構成糖がグルコース、ラムノース、マンノース及びグルクロン酸であり、その構成比が4.0:1.5~2.5:0.05~0.4:0.05~0.4である水溶性多糖類
【請求項5】
前記発酵工程Sで用いる前記酢酸菌と、前記発酵工程Sで用いる前記酢酸菌と、が共通する請求項4に記載の食酢の製造方法。
【請求項6】
前記第2の培養物は、粘度が1000mPa・s以上であり、且つ、酸度4%以上である請求項4又は5に記載の食酢の製造方法。
【請求項7】
前記第1の培地が、フルクトースを含む請求項4乃至6のうちのいずれかに記載の食酢の製造方法。
【請求項8】
前記第1の培地が、フルクトース及びグルコースのうちの少なくともフルクトースを含み、
フルクトース及びグルコースの合計を100質量%とした場合のフルクトースの割合RFRUが50質量%を超えて100質量%以下である請求項4乃至7のうちのいずれかに記載の食酢の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食酢及びその製造方法に関する。更に詳しくは、高い粘度を有する食酢及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ある種の酢酸菌により生産される多糖類が食品に粘稠性を与えることが知られている。下記特許文献1には、粘稠物質を生産する発酵工程と、得られた培養物を酢酸発酵させることで粘稠な食酢を得る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭62-044164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、酸味と粘性とを有する食品として、例えば、タレ、ソース、ドレッシング、ケチャップ等の粘稠性を有する液体調味料が知られる。これらの粘稠性液体調味料は、一般に酸味と粘性とのバランスが求められる。そこで、これらの粘稠性液体調味料の調製にあたって、その酸味を付与するために食酢が利用され得る。しかしながら、食酢は一般に低粘度の食品であり、酸味を増大させることはできても、粘度を増大させることにおいては寄与させることが難しく、粘稠性液体調味料においては粘度を低下させる因子となりがちである。
他方、別途の増粘剤等の添加による粘度増大も可能であるが、近年、添加物を利用することなく食品製造することが求められるケースが増えているという実情がある。また、上記特許文献1にも記載される通り、食酢を後添加によって増粘させることは技術的に困難であり、食酢を事後的に増粘させることは難しい。
この点、上記のような要求に対し、上記特許文献1に開示された技術を利用することが可能である。即ち、特許文献1に開示された方法により得られる粘稠な食酢を利用することが考えられる。しかしながら、特許文献1の実施例に示される通り、この技術で得られる食酢の粘度は700mPa・s程であり、これ以上に高い粘度を有する食酢の生産には至っていない実情がある。
【0005】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、従来に比べてより高い粘度を有する食酢及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
即ち、本発明は、以下に示される。
[1]水溶性多糖類である下記PS1及び/又は下記PS2を含むことを特徴とする食酢。
PS1:構成糖がグルコース、ガラクトース、マンノース及びグルクロン酸であり、その構成比が6.0:5.0~6.5:0.05~0.4:0.05~0.4である水溶性多糖類
PS2:構成糖がグルコース、ラムノース、マンノース及びグルクロン酸であり、その構成比が4.0:1.5~2.5:0.05~0.4:0.05~0.4である水溶性多糖類
[2]粘度が1000mPa・s以上、且つ、酸度0.5%以上である上記[1]に記載の食酢。
[3]前記PS1の濃度が5.2g/L以上、又は、前記PS2の濃度が3.5g/L以上である上記[1]又は[2]に記載の食酢。
[4]下記S及び下記Sの2つの発酵工程を備えることを特徴とする食酢の製造方法。
:第1の培地において、アセトバクター属に属する酢酸菌、グルコノバクター属に属する酢酸菌、コザキア属に属する酢酸菌、コマガタエイバクター属に属する酢酸菌、及び、グルコンアセトバクター属に属する酢酸菌から選択される酢酸菌を培養して、下記PS1及び下記PS2から選択される水溶性多糖類を含む第1培養物を得る発酵工程
:前記第1培養物を含む第2の培地において、アセトバクター属に属する酢酸菌、グルコノバクター属に属する酢酸菌、コザキア属に属する酢酸菌、コマガタエイバクター属に属する酢酸菌及びグルコンアセトバクター属に属する酢酸菌から選択される酢酸菌を培養して、酢酸及び前記水溶性多糖類を含む第2の培養物を得る発酵工程
PS1:構成糖がグルコース、ガラクトース、マンノース及びグルクロン酸であり、その構成比が6.0:5.0~6.5:0.05~0.4:0.05~0.4である水溶性多糖類
PS2:構成糖がグルコース、ラムノース、マンノース及びグルクロン酸であり、その構成比が4.0:1.5~2.5:0.05~0.4:0.05~0.4である水溶性多糖類
[5]前記発酵工程Sで用いる前記酢酸菌と、前記発酵工程Sで用いる前記酢酸菌と、が共通する上記[4]に記載の食酢の製造方法。
[6]前記第2の培養物は、粘度が1000mPa・s以上であり、且つ、酸度4%以上である上記[4]又は[5]に記載の食酢の製造方法。
[7]前記第1の培地が、フルクトースを含む上記[4]乃至[6]のうちのいずれかに記載の食酢の製造方法。
[8]
前記第1の培地が、フルクトース及びグルコースのうちの少なくともフルクトースを含み、
フルクトース及びグルコースの合計を100質量%とした場合のフルクトースの割合RFRUが50質量%を超えて100質量%以下である上記[4]乃至[7]のうちのいずれかに記載の食酢の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の食酢によれば、食酢自体が高い粘度を有するため、粘稠性液体調味料として利用した場合に、食品に対して優れた付着性を発揮させることができる。また、酸味を有する粘稠性液体調味料の原料として利用できる。即ち、粘度低下を抑制しつつ、酸味や食酢の風味を付与することができる食品原料として利用できる。
本発明の食酢の製造方法によれば、1000mPa・s以上且つ酸度4以上の食酢を製造できる。また、1000mPa・s以上且つ酸度4以上の食酢を効率的に製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[1]食酢
本発明の食酢は、水溶性多糖類であるPS1及び/又はPS2を含むことを特徴とする。
【0009】
上記「PS1」は、その構成糖比が、グルコース:ガラクトース:マンノース:グルクロン酸=6.0:5.0~6.5:0.05~0.4:0.05~0.4の多糖類であり、ヘテロ多糖類である。即ち、構成糖がグルコース、ガラクトース、マンノース及びグルクロン酸であり、その構成比は、6.0:5.0~6.5:0.05~0.4:0.05~0.4である。また、PS1は、水溶性を示すため、本食酢内に水溶されて含有され、水溶性多糖類である。更に、PS1は、酸性を呈し、酸性多糖類である。
本食酢内へのPS1の含有は、後述する方法により可能である。即ち、発酵工程S及び発酵工程Sの2つの工程を経ることで可能となる。この方法については後述する。
【0010】
本食酢にPS1が含まれる場合、その濃度は限定されないが、5.2g/L以上であることが好ましい。この濃度は、6.3g/L以上がより好ましく、7.0g/L以上が更に好ましく、9.0g/L以上がより更に好ましく、12.0g/L以上が特に好ましい。PS1が5.2g/L以上含まれることにより、酸度0.5%以上且つ粘度1000mPa・s以上を達することができる。
一方、その上限値は限定されず、多く含まれるほど好ましいが、通常50g/L以下であり、45g/L以下でもよく、35g/L以下でもよく、25g/L以下でもよく、20g/L以下でもよい。
尚、PS1の濃度は、後述の実施例に示す方法により測定される。
【0011】
上記「PS2」は、その構成糖比が、グルコース:マンノース:グルクロン酸:ラムノース=4.0:1.5~2.5:0.05~0.4:0.05~0.4の多糖類であり、ヘテロ多糖類である。また、PS2は、水溶性を示すため、本食酢内に水溶されて含有され、水溶性多糖類である。更に、PS2は、酸性を呈し、酸性多糖類である。
本食酢内へのPS2の含有は、後述する方法により可能である。即ち、発酵工程S及び発酵工程Sの2つの工程を経ることで可能となる。この方法については後述する。
【0012】
本食酢にPS2が含まれる場合、その濃度は限定されないが、3.5g/L以上であることが好ましい。この濃度は、5.5g/L以上がより好ましく、6.0g/L以上が更に好ましく、8.0g/L以上がより更に好ましく、10.0g/L以上が特に好ましい。PS2が3.5g/L以上含まれることにより、酸度0.5%以上且つ粘度1000mPa・s以上を達することができる。
一方、その上限値は限定されず、多く含まれるほど好ましいが、通常30g/L以下であり、25g/L以下でもよく、20g/L以下でもよく、15g/L以下でもよく、10g/L以下でもよい。
尚、PS2の濃度は、後述の実施例に示す方法により測定される。
【0013】
本発明の食酢の粘度は1000mPa・s以上にすることができる。即ち、粘度は1000mPa・s以上の食酢は、食酢自体が高い粘度を有するため、粘稠性液体調味料として利用した場合に、対象食品に対して優れた付着性を発揮させることができる。また、酸味を有する粘稠性液体調味料の原料として利用できる。即ち、ソース、ケチャップ、タレ、ドレッシング等の粘稠性液体調味料(例えば、粘度1000~30000mPa・s、更には1500~20000mPa・s、更には2000~10000mPa・s、更には2500~5000mPa・s)を製造する際に、酸味の付与や食酢の風味の付与を行うための原料として利用できる。特にこのような原料として利用する場合には、粘稠性液体調味料の粘度低下を抑制しつつ、酸味や食酢の風味を付与することができる。
食酢の粘度は1000mPa・s以上であればよいが、更には1500mPa・s以上、更には2000mPa・s以上、更には2500mPa・s以上にすることができる(通常、4500mPa・s以下)。
尚、食酢の粘度は、25℃、30rpm、ローターNo.3の各条件におけるB型粘度計を用いて測定される粘度である。
【0014】
本発明の食酢の酸度は0.5%(w/v)以上にすることができる。この酸度は、更に、1%以上が好ましく、2%以上がより好ましく、3%以上が更に好ましく、4%以上が特に好ましい(通常、20%以下)。酸度が4%以上である場合、食酢は、食酢品質表示基準で定義される醸造酢の酸度の基準を満すことができ、更に、日本農林規格で定義される醸造酢の酸度の基準を満たすことができる。食酢の酸度は4%以上である場合、例えば4~20%、更に4~15%、更に4~10%にすることができる。
尚、食酢の酸度(酢酸酸度)の測定は、日本農林規格第4条に準拠して滴定法により測定される。より具体的には、例えば、自動滴定装置を用いて、検体に0.5Mの水酸化ナトリウム標準溶液を滴定する方法で測定することができる。
また、上述した食酢品質表示基準で定義される醸造酢は、平成十二年十二月十九日農林水産省告示第1668号が平成二十三年八月三十一日消費者庁告示第8号で最終改正されたものをいい、日本農林規格で定義される醸造酢とは、昭和五十四年六月八日農林水産省告第八百一号が平成二十年十月十六日農林水産省告示第千五百六号で最終改正されたものをいう(以下、同様)。
【0015】
更に、後述するように、本発明の食酢は、培養源(酢酸菌に対する栄養源)として、穀類、果実、アルコール、野菜、その他の農産物又ははちみつを酢酸発酵させて得ることができるうえ、上述の通り、酸度を4%以上にすることができる。そして、無塩可溶固形分を1.2~4.0%にすることにより、本発明の食酢は、食酢品質表示基準で定義される醸造酢の基準を満すことができ、更に、日本農林規格で定義される醸造酢の基準を満たすことができる。即ち、醸造酢と表示可能な食酢とすることができる。
尚、本発明の食酢には、穀物酢、米酢、米黒酢、りんご酢、ぶどう酢等も含まれる。
【0016】
また、本発明の食酢は、上述した水溶性多糖類及び酢酸以外にも他の成分を含むことができる。他の成分としては、塩分、糖類、乳化剤(グリセリン脂肪酸エステル、酢酸モノグリセリド、乳酸モノグリセリド、クエン酸モノグリセリド、ジアセチル酒石酸モノグリセリド、コハク酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リノシール酸エステル、キラヤ抽出物、ダイズサポニン、チャ種子サポニン、ショ糖脂肪酸エステル等)、人工甘味料(例えばスクラロース、アスパルテーム、サッカリン、アセスルファムK等)、ミネラル(例えばカルシウム、カリウム、ナトリウム、鉄、亜鉛、マグネシウム等、及びこれらの塩類等)、香料、pH調整剤(例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、乳酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸及び酢酸等)、シクロデキストリン、酸化防止剤(例えばビタミンE、ビタミンC、茶抽出物、生コーヒー豆抽出物、クロロゲン酸、香辛料抽出物、カフェ酸、ローズマリー抽出物、ビタミンCパルミテート、ルチン、ケルセチン、ヤマモモ抽出物、ゴマ抽出物等)、着色料、増粘安定剤等を配合できる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0017】
[2]食酢の製造方法
本発明の食酢の製造方法は、発酵工程S及び発酵工程Sの2つの発酵工程を備えることを特徴とする。各工程は、以下の通りであり、発酵工程Sは発酵工程Sの前工程である。即ち、発酵工程Sは発酵工程Sの後工程である。
【0018】
「発酵工程S」は、第1の培地において、アセトバクター属に属する酢酸菌、グルコノバクター属に属する酢酸菌、コザキア属に属する酢酸菌、コマガタエイバクター属に属する酢酸菌、及び、グルコンアセトバクター属に属する酢酸菌から選択される酢酸菌を培養して、PS1及びPS2から選択される水溶性多糖類を含む第1培養物を得る工程である。PS1及びPS2については前述の通りである。
【0019】
発酵工程Sで用いる酢酸菌は、酢酸菌科(Acetobacteraceae)に属する細菌であって、酢酸を生産する細菌である。このような酢酸菌のなかでも、本発明では、コマガタエイバクター属(Komagataeibacter)に属する酢酸菌、コザキア属(Kozakia)に属する酢酸菌、アセトバクター属(Acetobacter)に属する酢酸菌、グルコノバクター属(Gluconobacter)に属する酢酸菌、及び、グルコンアセトバクター属(Gluconacetobacter)に属する酢酸菌、から選択される酢酸菌が含まれる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0020】
上述のうち、コマガタエイバクター属(Komagataeibacter)の酢酸菌としては、コマガタエイバクター・キシリナス(Komagataeibacter xylinus)、コマガタエイバクター・ハンゼニイ(Komagataeibacter hansenii)、コマガタエイバクター・ユーロペウスヨーロッパエウス(Komagataeibacter europaeus)、コマガタエイバクター・オボエディエンス(Komagataeibacter oboediens)等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0021】
また、コザキア属(Kozakia)の酢酸菌としては、コザキア・バリエンシス(Kozakia baliensis)等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0022】
また、アセトバクター属(Acetobacter)の酢酸菌としては、アセトバクター・ポリオキソゲネス(Acetobacter polyoxogenes)、アセトバクター・トロピカリス(Acetobacter tropicalis)、アセトバクター・インドネシエンシス(Acetobacter indonesiensis)、アセトバクター・シジギイ(Acetobacter syzygii)、アセトバクター・シビノンゲンシス(Acetobacter cibinongensis)、アセトバクター・オリエンタリス(Acetobacter orientalis)、アセトバクター・パスツリアヌス(Acetobacter pasteurianus)、アセトバクター・オルレアネンシス(Acetobacter orleanensis)、アセトバクター・ロバニエンシス(Acetobacter lovaniensis)、アセトバクター・アセチ(Acetobacter aceti)、アセトバクター・ポモラム(Acetobacter pomorum)、アセトバクター・マローラム(Acetobacter malorum)等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0023】
また、グルコノバクター属(Gluconobacter)の酢酸菌としては、グルコノバクター・フラトウリ(Gluconobacter frateurii)、グルコノバクター・セリナス(Gluconobacter cerinus)等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0024】
また、グルコンアセトバクター属(Gluconacetobacter)の酢酸菌としては、グルコンアセトバクター・スウィングシ(Gluconacetobacter swingsii)、グルコンアセトバクター・キシリナス(Gluconacetobacter xylinus)、グルコンアセトバクター・ジアゾトロフィカス(Gluconacetobacter diazotrophicus)、グルコンアセトバクター・インタメデイウス(Gluconacetobacter intermedius)、グルコンアセトバクター・サッカリ(Gluconacetobacter sacchari)、グルコンアセトバクター・マルタセティ(Gluconacetobacter maltaceti)、グルコンアセトバクター・コンブチャ(Gluconacetobacter kombuchae)、グルコンアセトバクター・リックウェフェシエンス(Gluconacetobacter liquefaciens)等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0025】
上述のなかでも、コマガタエイバクター属(Komagataeibacter)の酢酸菌、及び、コザキア属(Kozakia)の酢酸菌が好ましい。より具体的には、コザキア・エスピー MZ-1005(Kozakia SP. MZ-1005)株、及び、コマガタエイバクター・エスピー MZ-077(Komagataeibacter SP. MZ-077)株が好ましい。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
このうち、コザキア・エスピー MZ-1005(Kozakia SP. MZ-1005)株は、特にPS1の生成に適する。また、コマガタエイバクター・エスピー MZ-077(Komagataeibacter SP. MZ-077)株は、特にPS2の生成に適する。
【0026】
上述のコザキア・エスピー MZ-1005(Kozakia SP. MZ-1005)株は、「NITE BP-03344」として、独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に寄託されている。
一方、コマガタエイバクター・エスピー MZ-077(Komagataeibacter SP. MZ-077)株は、「NITE BP-03343」として、独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に寄託されている。
【0027】
また、発酵工程Sで用いる酢酸菌には、上記の各種酢酸菌以外にも他の酢酸菌を含むことができる。他の酢酸菌としては、例えば、アシドモナス属(Acidomonas)に属する酢酸菌、スワミナサニア属(Swaminathania)に属する酢酸菌、ネオアサイア属(Neoasaia)に属する酢酸菌、タンティチャロエニア属(Tanticharoenia)に属する酢酸菌、アメヤマエア属(Ameyamaea)に属する酢酸菌、エンドバクター属(Endobacter)に属する酢酸菌、グラヌリバクター属(Granulibacter)に属する酢酸菌、アサイア属(Asaia)に属する酢酸菌、アシドモナス属(Acidomonas)に属する酢酸菌、アシディフィラム属(Acidiphilium)に属する酢酸菌、アシディスファエラ属(Acidisphaera)に属する酢酸菌、アシドセラ属(Acidocella)に属する酢酸菌、アサイア属(Asaia)に属する酢酸菌、ベルナピア属(Belnapia)に属する酢酸菌、クラウロコッカス属(Craurococcus)に属する酢酸菌、リーヒバクター属(Leahibacter)に属する酢酸菌、ムリコッカス属(Muricoccus)に属する酢酸菌、オレオモナス属(Oleomonas)に属する酢酸菌、パラクラウロコッカス属(Paracraurococcus)に属する酢酸菌、ロドピラ属(Rhodopila)に属する酢酸菌、ロゼオコッカス属(Roseococcus)に属する酢酸菌、ルブリテピダ属(Rubritepida)に属する酢酸菌、サッカリバクター属(Saccharibacter)に属する酢酸菌、ステラ属(Stella)に属する酢酸菌、テイココッカス属(Teichococcus)に属する酢酸菌、ザヴァルジニア属(Zavarzinia)に属する酢酸菌等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0028】
これらの酢酸菌の由来は限定されず、食酢製造に使用されている酢酸菌、食酢製造現場から単離された酢酸菌、自然環境等から単離された酢酸菌、微生物保存機関に保存されている酢酸菌等を適宜使用できる。また、これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0029】
上述の酢酸菌を培養する第1の培地は、通常、炭素源が含まれる。その他、窒素源を含むことができる。更に、ミネラル源を含むことができる。その他にも、アミノ酸、ビタミン等を含むことができる。
【0030】
上述のうち、炭素源は、酢酸菌が摂取してPS1生成又はPS2生成を行うに資する炭水化物である。このような炭素源としては、ケトース及びアルドース等の単糖類、これら単糖類が結合された二糖類、三糖類、更にはそれ以上の多糖類(但し、PS1及びPS2を除く)、これら糖類の還元物である糖アルコール、及び、これらを含む澱粉糖化液、糖蜜などが挙げられる。
より具体的には、ケトースとしては、フルクトース、ソルボース等のケトヘキソース類、キシルロース等のケトペントース類などが挙げられる。アルドースとしては、グルコース、マンノース、ガラクトース等のアルドヘキソース類、キシロース、アラビノース等のアルドペントース類、グリセルアルデヒド等のアルドトリオース類、エリトロース等のアルドテトロース類などが挙げられる。二糖類としては、スクロース、ラクトース、マルトース、トレハロース等が挙げられる。三糖類としては、マルトトリオース等が挙げられる。糖アルコールとしては、マンニトール、ソルビトール等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
上記のなかでも、フルクトース、グルコース、マンノース、ガラクトース、キシロース、アラビノース、スクロース、マルトース、トレハロース、マンニトール、ソルビトール、グリセリン、エタノールが好ましく、更には、フルクトース、グルコース、マンノース、ガラクトース、アラビノース、スクロース、マンニトール、ソルビトールがより好ましく、少なくともフルクトース及びグルコースのうちのフルクトースを含むことがとりわけ好ましい。
【0031】
第1の培地へフルクトース及びグルコースを配合する場合、フルクトース及びグルコースの合計を100質量%とした場合のフルクトースの割合RFRUは50質量%を超えて100質量%以下とすることができる。この割合は、更に、51質量%以上95質量%以下が好ましく、52質量%以上90質量%以下がより好ましく、53質量%以上85質量%以下がより好ましく、54質量%以上80質量%以下が特に好ましく、55質量%以上75質量%以下がとりわけ好ましい。
【0032】
また、上述の炭素源は、単独の成分として配合してもよいが、果汁等として配合することができる。例えば、果物の果汁には、通常、フルクトースとグルコースとの両方が含まれるため、培地へ果物の果汁を配合することによって、培地へフルクトースとグルコースとの両方を配合することができる。また、果汁に配合するフルクトースとグルコースとの割合が所望の配合でない場合には、フルクトース又はグルコースを添加して調整することができる。
上述のうち、果汁としては、例えば、りんご、みかん、ぶどう、桃、いちご、梨、バナナ、メロン、キウイ、レモン、パイナップル、グレープフルーツ、カシス、アセロラ、ブルーベリー、アプリコット、グアバ、プラム、マンゴー、パパイヤ、ライチ等の果物に由来する果汁が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0033】
上記以外にも、他の炭素源を利用できる。他の炭素源としては、有機酸及びアルコールが挙げられる。有機酸としては、酢酸、フマル酸、クエン酸、プロピオン酸、リンゴ酸、マロン酸、コハク酸、乳酸、ピルビン酸等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
また、アルコールとしては、エタノール、プロパノール等の一価アルコール、グリセリン、エチレングリコール等の多価アルコール等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
尚、培地(1L)に配合する炭素源量は、適宜設定できるが、例えば、5~300g/L、更には、35~200g/L、更には、75~150g/Lにすることができる。
【0034】
上述のうち、窒素源としては、有機窒素源及び無機窒素源のどちらを用いてもよい。このうち、有機窒素源としては、酵母エキス、乾燥酵母、酒粕分解物、酒粕、米、糠(米糠、赤糠、中糠、白糠、特上糠、特白糠等の各種糠を含む)、糠分解物(前述の各種糠の分解物を含む)、小麦ふすま、肉エキス、アミノ酸、たんぱく質、核酸類、尿素、CSL、豆類(大豆、ピーナッツ等)、豆類加工物、豆類加工残渣(大豆粕、ピーナッツミール等)等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。また、無機窒素源としてはアンモニウム塩(硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等)、硝酸塩(硝酸カリウム、硝酸アンモニウム等)、アンモニアなどが挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
窒素源としては、上述のうち、有機窒素源が好ましく、更には、酵母エキス、乾燥酵母、酒粕分解物、酒粕、糠、糠分解物、小麦ふすま、肉エキス等が好ましい。これらの有機窒素源を配合する場合、培地(1L)に配合する有機窒素源量は、適宜設定できるが、例えば、0.05~100g/L、更には、0.1~60g/L、更には、0.2~40g/Lにすることができる。
【0035】
また、上述のうちミネラル源としては、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸水素ニナトリウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硫酸鉄、塩化鉄、硫酸マンガン、塩化マンガン、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、硫酸銅、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0036】
第1の培地のpHは限定されず、通常、発酵工程SにおいてpH制御を要しないが、例えば、1~8とすることができ、2~8とすることができ、2~7とすることができる。pH制御を行う場合は、塩酸、水酸化ナトリウム、炭酸カルシウム等を用いることができる。
また、培養温度も限定されないが、通常、15~45℃とすることができ、更に20~45℃とすることができ、更に25~35℃とすることができる。更に、培養時間も限定されないが、通常3~15日間、更には5~8日間とすることができる。
【0037】
培養時における振とう及び撹拌の有無は限定されず、静置培養(無振とう・無撹拌)してもよく、振とう培養してもよく、撹拌培養してもよい。また、振とう培養を行う場合、振とう方法は限定されず、回転振とうを行ってもよいし、往復振とうを行ってもよい。更に、撹拌培養を行う場合、撹拌方法は限定されず、通気式撹拌を行ってもよいし、機械式撹拌を行ってもよい。これらのなかでは、撹拌培養が好ましく、更には、通気撹拌培養がより好ましく、より具体的には、深部通気撹拌培養を用いることができる。
通気撹拌を行う場合、その通気量は限定されないが、例えば、0.1~2vvm(通気容量/発酵液量/分)の通気量とすることができ、更に0.1~1.5vvmとすることができ、更に0.25~1.0vvmとすることができる。
本発明の食酢の製造方法において、発酵工程Sの終点は限定されないが、所定の水溶性多糖類濃度まで発酵が進行した時点で終了することができる。更には、例えば、その環境における水溶性多糖類の生成量の飽和時を終点とすることができる。
【0038】
「発酵工程S」は、第1培養物を含む第2の培地において、アセトバクター属に属する酢酸菌、グルコノバクター属に属する酢酸菌、コザキア属に属する酢酸菌、コマガタエイバクター属に属する酢酸菌、及び、グルコンアセトバクター属に属する酢酸菌から選択される酢酸菌を培養して、酢酸及び水溶性多糖類を含む第2培養物を得る工程である。
【0039】
発酵工程Sで用いる酢酸菌は、発酵工程Sで用いる酢酸菌と異なってもよいが、共通させることができる。即ち、共通する場合とは、発酵工程Sで用いた酢酸菌を、発酵工程Sでもそのまま用いる場合が挙げられる。更に、発酵工程Sで用いた酢酸菌と同じ種類の酢酸菌を発酵工程Sでも用いる場合が挙げられる。更に、発酵工程Sで用いた酢酸菌を排除することなく、そのまま発酵工程Sでも用いつつ、発酵工程Sで用いていない酢酸菌を新たに加えて、発酵工程Sを行う場合が挙げられる。尚、共通する場合とは、発酵工程Sで用いた酢酸菌を排除した後、発酵工程Sでは発酵工程Sで用いていない酢酸菌を用いる場合が挙げられる。
この発酵工程Sで用いることができる酢酸菌は、発酵工程Sの説明で例示した酢酸菌の説明がそのまま適用できる。
【0040】
発酵工程Sにおける第2の培地には、通常、炭素源とエタノールが含まれる。その他、第1の培地と同様に、窒素源を含むことができ、更にミネラル源を含むことができる他、アミノ酸、ビタミン等を含むことができる。
【0041】
第2の培地には、第1の培地が含む炭素源をそのまま利用できる。また、必要に応じて追加することができる。追加する場合に利用できる炭素源は、発酵工程Sの説明で例示した炭素源の説明がそのまま適用できる。
その他、第2の培地は、酢酸発酵を行うためのエタノールを要する。第2の培地へエタノールを配合する場合、配合するエタノール量は適宜設定できるが、例えば、1~15v/v%となる量を配合でき、更には、2~15v/v%となる量を配合でき、更には、5~8v/v%となる量を配合できる。
【0042】
また、第2の培地のpHは限定されず、通常、発酵工程SにおいてpH制御を要しないが、例えば、1~8とすることができ、2~8とすることができ、2~7とすることができる。
また、培養温度も限定されないが、通常、15~45℃とすることができ、更に20~45℃とすることができ、更に25~35℃とすることができる。更に、培養時間も限定されないが、通常半日~14日間、更には2~7日間とすることができる。
【0043】
培養時における振とう及び撹拌の有無は限定されず、静置培養(無振とう・無撹拌)してもよく、振とう培養してもよく、撹拌培養してもよい。また、振とう培養を行う場合、振とう方法は限定されず、回転振とうを行ってもよいし、往復振とうを行ってもよい。更に、撹拌培養を行う場合、撹拌方法は限定されず、通気式撹拌を行ってもよいし、機械式撹拌を行ってもよい。これらのなかでは、撹拌培養が好ましく、更には、通気撹拌培養がより好ましく、より具体的には、深部通気撹拌培養を用いることができる。
通気撹拌を行う場合、その通気量は限定されないが、例えば、0.1~1.5vvm(通気容量/発酵液量/分)の通気量とすることができ、更に0.1~1.5vvmとすることができ、更に0.25~1.0vvmとすることができる。
本発明の食酢の製造方法において、発酵工程Sの終点は限定されないが、所定の酢酸濃度まで発酵が進行した時点で終了することができる。更には、例えば、その環境における酢酸の生成量の飽和時を終点とすることができる。
【0044】
本発明の食酢の製造方法は、発酵工程S及び発酵工程Sのみを備えてもよいが、これら以外の他工程を備えることができる。発酵槽から取り出された発酵液は、酢酸菌の不活化、熟成、清澄化処理及び殺菌工程を経て、食酢としての製品化が可能できる。即ち、発酵槽から発酵液を取り出す発酵液取出工程や、酢酸菌を不活化する不活化工程や、発酵液を熟成する熟成工程や、発酵液を清澄化する清澄工程や、殺菌工程等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0045】
本発明の食酢の製造方法によれば、水溶性多糖類であるPS1及び/又はPS2を含んだ食酢を製造できる。即ち、前述した本発明の食酢を製造することができる。更には、粘度が1000mPa・s以上、且つ、酸度4%以上である食酢を製造できる。
【実施例0046】
以下、本発明を実施例に則して更に詳細に説明する。
[1]発酵工程Sの検討
下記表1に示すように、フルクトース、グルコース及びスクロースの配合割合を変えた炭素源と、10g/Lの酵母エキスを添加して形成した、殺菌済みの第1の培地(培養開始時のpH5.5)に、コザキア・エスピー MZ-1005(Kozakia SP. MZ-1005)株を、1v/v%となるように接種して、30℃、150rpmの条件下で144時間(6日間)、振とう培養して第1培養物を得た。得られた第1培養物の粘度を下記「サンプルの評価」に示す方法により測定し、下記表1に示した。
この結果、糖全体濃度に対して60質量%以上のフルクトース濃度を有する培地を用いることで、粘度の高い培養物が得られることが分かる。
【0047】
【表1】
【0048】
[2]多糖類の分析
以下に示す手順により、実験例4~8の第1培養物を得た後、各第1培養物に含まれる多糖類を分離し、各多糖類を糖組成分析に供した。尚、多糖類の分離方法、及び、糖組成分析の詳細は、下記「サンプルの評価」に示した。
【0049】
〔実験例4〕果汁を栄養源とする非通気振とう培養(PS1生成)
コザキア・エスピー MZ-1005(Kozakia SP. MZ-1005)株を、1v/v%となるように、殺菌済みの培地(実施例1と同じ培地であり、培養開始時のpH5.5)に接種して、30℃、150rpmの条件で非通気振とう培養(フラスコ培養)して培養物(第1培養物)を得た。この培養の間、pH制御は行わなかった。
その結果、構成糖がグルコース、ガラクトース、マンノース及びグルクロン酸であり、その構成比が6.0:5.5:0.2:0.2である水溶性多糖類PS1が得られた。
【0050】
〔実験例5〕果汁を栄養源とする通気撹拌培養(PS1生成)
コザキア・エスピー MZ-1005(Kozakia SP. MZ-1005)株を、1v/v%となるように、殺菌済みの培地(実施例1と同じ培地であり、培養開始時のpH5.5)に接種して、30℃、400~600rpm、0.25~0.5vvmの条件下で通気撹拌培養(ジャーファーメンター培養)して培養物(第1培養物)を得た。この培養の間、pH制御は行わなかった。
その結果、構成糖がグルコース、ガラクトース、マンノース及びグルクロン酸であり、その構成比が6.0:5.7:0.2:0.2である水溶性多糖類PS1が得られた。
【0051】
〔実験例6〕配合栄養源を用いた非通気振とう培養(PS1生成)
コザキア・エスピー MZ-1005(Kozakia SP. MZ-1005)株を、1v/v%となるように、殺菌済みの培地(培養開始時のpH5.5)に接種して、30℃、150rpmの条件で非通気振とう培養(フラスコ培養)して培養物(第1培養物)を得た。この培養の間、pH制御は行わなかった。尚、培地は、フルクトース30g/L、酵母エキス2g/L、クエン酸三ナトリウム5g/L、リン酸二水素カリウム0.1g/L、リン酸水素二カリウム0.09g/L、硫酸マグネシウム0.25g/L、及び、塩化第二鉄0.0005g/Lを含む。
その結果、構成糖がグルコース、ガラクトース、マンノース及びグルクロン酸であり、その構成比が6.0:5.4:0.2:0.2である水溶性多糖類PS1が得られた。
【0052】
〔実験例7〕配合栄養源を用いた通気撹拌培養(PS1生成)
コザキア・エスピー MZ-1005(Kozakia SP. MZ-1005)株を、1v/v%となるように、殺菌済みの培地(実験例6と同じ培地であり、培養開始時のpH5.5)に接種して、30℃、400~600rpm、0.25~0.5vvmの条件下で通気撹拌培養(ジャーファーメンター培養)して培養物(第1培養物)を得た。この培養の間、pH制御は行わなかった。
その結果、構成糖がグルコース、ガラクトース、マンノース及びグルクロン酸であり、その構成比が6.0:5.8:0.2:0.2である水溶性多糖類PS1が得られた。
【0053】
〔実験例8〕配合栄養源を用いた非通気振とう培養(PS2生成)
コマガタエイバクター・エスピー MZ-077(Komagataeibacter SP. MZ-077)株を、1v/v%となるように、殺菌済みの培地(実験例6と同じ培地であり、培養開始時のpH5.5)に接種して、30℃、150rpmの条件で非通気振とう培養(フラスコ培養)して培養物(第1培養物)を得た。この培養の間、pH制御は行わなかった。
その結果、構成糖がグルコース、ラムノース、マンノース及びグルクロン酸であり、その構成比が4.0:2.1:0.2:0.2である水溶性多糖類PS1が得られた。
【0054】
【表2】
【0055】
[3]食酢の製造
以下に示す手順により、実施例1~5の食酢を製造した。
〔実施例1〕
(1)発酵工程S
コザキア・エスピー MZ-1005(Kozakia SP. MZ-1005)株を、1v/v%となるように、殺菌済みの第1の培地(培養開始時のpH5.5)に接種して、30℃、400~600rpm、0.25~0.5vvmの条件下で120時間(5日間)、通気撹拌培養して第1培養物を得た。この培養の間、pH制御は行わなかった。尚、第1の培地は、フルクトース約70g/L及びグルコース約35g/Lを含んだリンゴ果汁(Brix10°)、1g/Lの酵母エキスを含む。
その結果、PS1を15.6g/L含有し、pHが4.0であり、粘度3000mPa・sである第1培養物を得た。尚、PS1濃度及び粘度は、下記「サンプルの評価」に示す方法により測定した。
【0056】
(2)発酵工程S
発酵工程Sで得られた第1培養物に、エタノール及び酢酸を、エタノール7v/v%及び酢酸1w/v%となるように添加して、30℃、600rpm、0.5vvmの条件下で72時間(3日間)、通気撹拌培養して第2培養物を得た。
その結果、PS1を12.9g/L含有し、酸度が4.9であり、粘度2000mPa・sである食酢を得た。尚、酸度及び粘度は、下記「サンプルの評価」に示す方法により測定した。
【0057】
〔実施例2〕
(1)発酵工程S
実施例1と同じ培養を行って第1培養物(PS1を15.6g/L含有し、pHが4.0であり、粘度3000mPa・sである)を得た。
(2)発酵工程S
発酵工程Sで得られた第1培養物に、エタノール及び酢酸を、エタノール3v/v%及び酢酸1w/v%となるように添加して、30℃、600rpm、0.5vvmの条件下で24時間(1日間)、通気撹拌培養して第2培養物を得た。
その結果、PS1を14.0g/L含有し、酸度が3.3であり、粘度2400mPa・sである食酢を得た。尚、酸度及び粘度は、下記「サンプルの評価」に示す方法により測定した。
【0058】
〔実施例3〕
(1)発酵工程S
コザキア・エスピー MZ-1005(Kozakia SP. MZ-1005)株を、1v/v%となるように、殺菌済みの第1の培地(培養開始時のpH5.5)に接種して、30℃、400~600rpm、0.25~0.5vvmの条件下で148時間(6日間)、通気撹拌培養して第1培養物を得た。この培養の間、pH制御は行わなかった。尚、第1の培地は、フルクトース約70g/L及びグルコース約35g/Lを含んだリンゴ果汁(Brix10°)、1g/Lの酵母エキスを含む。
その結果、PS1を15.7g/L含有し、pHが3.8であり、粘度2900mPa・sである第1培養物を得た。尚、PS1濃度及び粘度は、下記「サンプルの評価」に示す方法により測定した。
【0059】
(2)発酵工程S
発酵工程Sで得られた第1培養物に、エタノールを、エタノール4v/v%となるように添加して、30℃、600rpm、0.5vvmの条件下で24時間(1日間)、通気撹拌培養して第2培養物を得た。
その結果、PS1を14.0g/L含有し、酸度が1.6であり、粘度2200mPa・sである食酢を得た。尚、酸度及び粘度は、下記「サンプルの評価」に示す方法により測定した。
【0060】
〔実施例4〕
(1)発酵工程S
コマガタエイバクター・エスピー MZ-077(Komagataeibacter SP. MZ-077)株を、1v/v%となるように、殺菌済みの第1の培地(培養開始時のpH6.0)に接種して、30℃、400~600rpm、0.25~0.5vvmの条件下で120時間(5日間)、通気撹拌培養して第1培養物を得た。この培養の間、pH制御は行わなかった。尚、第1の培地は、フルクトース約70g/L及びグルコース約35g/Lを含んだリンゴ果汁(Brix10°)、1g/Lの酵母エキス、2g/Lの赤糠分解物を含む。
その結果、PS2を13.8g/L含有し、pHが5.0であり、粘度4000mPa・sである第1培養物を得た。尚、PS2濃度及び粘度は、下記「サンプルの評価」に示す方法により測定した。
【0061】
(2)発酵工程S
発酵工程Sで得られた第1培養物に、エタノール及び酢酸を、エタノール8v/v%及び酢酸1w/v%となるように添加して、30℃、600rpm、0.5vvmの条件下で168時間(7日間)、通気撹拌培養して第2培養物を得た。
その結果、PS2を13.4g/L含有し、酸度が4.8であり、粘度3100mPa・sである食酢を得た。尚、酸度及び粘度は、下記「サンプルの評価」に示す方法により測定した。
【0062】
〔実施例5〕
(1)発酵工程S
実施例4と同じ培養を行って第1培養物(PS2を13.8g/L含有し、pHが5.0であり、粘度4000mPa・sである)を得た。
(2)発酵工程S
発酵工程Sで得られた第1培養物に、エタノール及び酢酸を、エタノール4v/v%及び酢酸1w/v%となるように添加して、30℃、600rpm、0.5vvmの条件下で72時間(3日間)、通気撹拌培養して第2培養物を得た。
その結果、PS2を13.5g/L含有し、酸度が3.1であり、粘度3300mPa・sである食酢を得た。尚、酸度及び粘度は、下記「サンプルの評価」に示す方法により測定した。
【0063】
[4]サンプル(食酢・第1培養物)の評価
(1)酸度(酢酸換算)の測定
下記手順により、酸度を測定した。
自動滴定装置COM-1600(平沼産業社)を用いて、各食酢5mlを0.5Mの水酸化ナトリウムでpH8.2になるまで中和滴定した後、滴定量を以下の式で酢酸酸度%(w/v)に換算した。更に、算出した酢酸酸度%(w/v)に食酢の比重を考慮し、質量%に換算した値を酸度(酢酸換算)と規定した。
酢酸酸度%(w/v)=0.03×(T-B)×F/V×100
T:各食酢における0.5mol/L水酸化ナトリウム標準溶液の滴定量(ml)
B:空試験における0.5mol/L水酸化ナトリウム標準溶液の滴定量(ml)
F:0.5mol/L水酸化ナトリウム標準溶液のファクター
V:食酢採取量(ml)0.03:0.5mol/L水酸化ナトリウム溶液1mlに相当する酢酸の重量(g)
【0064】
(2)pHの測定
ガラス電極法により、サンプルのpHを測定した。
測定にはpHメータ F-51(堀場製作所製)を用いた。
【0065】
(3)粘度の測定
下記手順により、粘度を測定した。
No.3ローターを装着したBII型粘度計(BMII(東機産業株式会社製))を用い、ローター回転数30rpmで測定されるサンプル(25℃)の粘度を測定した。
【0066】
(4)PS1濃度及びPS2濃度の測定
サンプルから遠心分離(12000G、10分、4℃)により上清を回収した。上清0.5mLに99.5%冷エタノール1.5mLを加え、遠心分離(12000G、10分、4℃)により沈殿を回収した。回収した沈殿は1mLの75%冷エタノールを加え洗浄した後、遠心分離(12000G、10分、4℃)により沈殿物を回収した。得られた沈殿物を超純水(いわゆる、MillQ水)0.5mLに溶解し、フェノール硫酸法を用いてPS1濃度又はPS2濃度の測定を行った。
【0067】
(5)多糖類の分離
実験例4~8で得られた各第1培養物を超純水で希釈したうえ、遠心分離及び珪藻土濾過を行って菌体を除去した。その後、濾液に70%エタノール水溶液を添加して沈殿物を得た。得られた沈殿物を回収し、水で再溶解した。次いで、5%CTAB水溶液(臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム水溶液)を添加(沈殿物を生じなくなるまで添加)して沈殿物を得た後、遠心分離により、この沈殿物を回収した。その後、回収した沈殿物を20%NaCl水溶液により再溶解した。次いで、超純水により透析を行った後、70%エタノール水溶液を添加して沈殿物を得た。得られた沈殿物を遠心分離により回収した後、水に再懸濁した。その後、再度超純水により透析を行った後、凍結乾燥を行って実験例4~8で生成された多糖類サンプルを得た。
【0068】
(6)多糖類の糖組成分析
上記(5)で得た実験例4~8の各多糖類サンプルを超純水で2mg/mlとなるように可溶化し、酸加水分解、蛍光ラベル化した後、超高速高分離液体クロマトグラフ(UPLC)に供した。分析条件は以下の通りである。また、構成糖の定量分析には、下記に示す13種の糖標準品を用いた。
【0069】
装置:Waters社製、型式「ACQUITY UPLC H-Class」
カラム:Waters社製、型式「ACQUITY UPLC BEH C18,2.1mm×100mm」
移動相:A/0.2Mホウ酸カリウムバッファ(pH8.9)、B/アセトニトリル
流速:0.7mL/min
カラム温度:50℃
Detection:FLR 305nm、360nm
Injection vol:1μL
タイムプログラム:B conc. 4.5%(0min)→4.5%(8min)→9.0%(15min)
【0070】
糖標準品:グルクロン酸(GlcA)、ガラクツロン酸(GalA)、ガラクトース(Gal)、マンノース(Man)、グルコース(Glc)、アラビノース(Ara)、リボース(Rib)、キシロース(Xyl)、N-アセチルマンノサミン(ManNAc)、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)、ラムノース(Rha)、フコース(Fuc)、N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)
【0071】
(7)多糖類のNMR分析
実験例 と同条件で生成した多糖類PS1を、上記(5)と同様に分離した。このPS1(3.57mg)にDOを1000ml添加し、60℃に加温してPS1溶液を得た。この液体から600μLをNMRサンプルとして分取し、下記分析条件でNMRによる構造解析を行った。その結果、PS1に「Glcβ1→6Glcβ1→6Gal→」の構造が含まれることが判明した。
【0072】
装置:500MHz NMR、Agilent Technologies社製、型式「Unity INOVA 500」
測定温度:60℃
その他の条件:水消しパルス照射
フーリエ変換及び解析:得られたNMR FIDデータをACD/NMR Processor(http://www.acdlabs.com)を用いて。
測定種と積算回数
・1H NMR/積算回数:8回
・COSY/積算回数:1回
・HSQC積算回数:32回
・TOCSY積算回数:32回
・HSQC-TOCSY積算回数:64回
・HMBC積算回数:64回
尚、各測定種は、以下の通り。COSY(Correlation Spectroscopy)、HSQC(Hetero Nuclear Single Quantum Coherence)、TOCSY(Totally Correlated Spectroscopy)、HSQC-TOCSY、HMBC(Heteronuclear Multiple Bond Coherence)
【0073】
尚、本明細書では、「XX~YY」の記載は、「XX以上YY以下」を意味する。
また、本発明は、上記具体的実施例に限定されない。これらの実施例はあくまでも説明のために便宜的に示す例に過ぎず、本発明は如何なる意味でもこれらの実施例に限定されるものではなく、本発明は、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変更することができる。また、本明細書中で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書中にとり入れるものとする。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の食酢は、食品分野において広く利用される。より具体的には、本発明の食酢は、食酢自体が高い粘度を有するため、粘稠性液体調味料として好適に利用できる。この場合、食品に対して優れた付着性を発揮させることができる。また、本発明の食酢は、食酢自体が高い粘度を有するため、酸味を有する粘稠性液体調味料(ソース、ケチャップ、タレ、ドレッシング等)の原料として利用できる。この場合、粘度低下を抑制しつつ、酸味や食酢の風味を付与することができる食品原料として利用できる。