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特開2024-103903炭素繊維二軸織物及び炭素繊維強化複合材料の製造方法
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  • 特開-炭素繊維二軸織物及び炭素繊維強化複合材料の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024103903
(43)【公開日】2024-08-02
(54)【発明の名称】炭素繊維二軸織物及び炭素繊維強化複合材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D03D 15/275 20210101AFI20240726BHJP
   B29C 43/12 20060101ALI20240726BHJP
   B29C 70/44 20060101ALI20240726BHJP
   B29C 70/22 20060101ALI20240726BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20240726BHJP
   D03D 15/37 20210101ALI20240726BHJP
【FI】
D03D15/275
B29C43/12
B29C70/44
B29C70/22
D03D1/00 A
D03D15/37
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023007853
(22)【出願日】2023-01-23
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】原田 耕志
【テーマコード(参考)】
4F204
4F205
4L048
【Fターム(参考)】
4F204AA39
4F204AC05
4F204AD16
4F204AM28
4F204FA01
4F204FA13
4F204FB01
4F204FF05
4F204FN11
4F204FN15
4F204FN17
4F204FQ37
4F205AA39
4F205AC05
4F205AD16
4F205AM28
4F205HA09
4F205HA23
4F205HA33
4F205HA37
4F205HA47
4F205HB01
4F205HC05
4F205HC17
4F205HF05
4F205HF30
4F205HK04
4F205HK05
4F205HM02
4L048AA05
4L048AA34
4L048AA37
4L048AA46
4L048AA48
4L048AB07
4L048AB11
4L048AC09
4L048CA01
4L048CA15
4L048DA41
4L048EA00
4L048EB00
(57)【要約】
【課題】VaRTM法による成型品製造の際に必要な強化繊維基材の積層枚数が少なく、かつ内部欠陥あるいは表面欠陥の発生が抑制された成型品が得られる炭素繊維二軸織物、及びそれを用いた炭素繊維強化複合材料の製造方法の提供。
【解決手段】炭素繊維マルチフィラメント糸条を経糸及び緯糸に用いて製織された炭素繊維二軸織物であって、前記炭素繊維マルチフィラメント糸条を構成する炭素繊維フィラメントの単繊維繊度が1.2dtex以上2.4dtex未満であり、前記炭素繊維二軸織物の平均厚みが0.54mm以上である、炭素繊維二軸織物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維マルチフィラメント糸条を経糸及び緯糸に用いて製織された炭素繊維二軸織物であって、
前記炭素繊維マルチフィラメント糸条を構成する炭素繊維フィラメントの単繊維繊度が1.2dtex以上2.4dtex未満であり、
前記炭素繊維二軸織物の平均厚みが0.54mm以上である、炭素繊維二軸織物。
【請求項2】
前記炭素繊維フィラメントの繊維軸に垂直な断面の形状の真円度が0.7以上0.9以下である、請求項1に記載の炭素繊維二軸織物。
【請求項3】
前記炭素繊維フィラメントは、前記炭素繊維フィラメントの長手方向に延びる溝部を表面に有する、請求項1に記載の炭素繊維二軸織物。
【請求項4】
前記炭素繊維フィラメントが、ポリアクリロニトリル系炭素繊維を含む、請求項1に記載の炭素繊維二軸織物。
【請求項5】
目付が490g/m以上である、請求項1に記載の炭素繊維二軸織物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の炭素繊維二軸織物を強化繊維基材として1層以上成形型に積層し、前記強化繊維基材の全体をバッグフィルムで覆い、前記バッグフィルムの内部を真空状態にし、前記強化繊維基材に液状樹脂を拡散させ、前記強化繊維基材に前記液状樹脂を含浸させる工程と、
前記強化繊維基材に含浸した前記液状樹脂を硬化させる工程とを含む、炭素繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項7】
前記液状樹脂が常温硬化性の樹脂である、請求項6に記載の炭素繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項8】
前記液状樹脂の拡散を常温で行う、請求項6に記載の炭素繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項9】
前記液状樹脂を前記強化繊維基材の面方向に流動するように供給する、請求項6に記載の炭素繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項10】
前記液状樹脂を前記強化繊維基材の厚み方向に流動するように供給する、請求項6に記載の炭素繊維強化複合材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維二軸織物及び炭素繊維強化複合材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は、高い比強度及び比弾性率を有するため、炭素繊維を強化繊維基材として用い、マトリクス樹脂を含浸させた炭素繊維強化複合材料は、優れた力学特性及び軽量性を有する。よって、炭素繊維強化複合材料は、スポーツ用途や航空・宇宙用途に加え、自動車、土木・建築、圧力容器及び風車ブレードなどの一般産業用途にも幅広く展開されつつあり、さらなる高性能化が求められている。
炭素繊維強化複合材料の代表的な成形方法として、オートクレーブ成形法、圧縮成形法、Resin Transfer Molding法(RTM法)などが知られている。また、これらの成形方法以外にも、低設備投資かつ生産性の高い成型方法として、VaRTM(Vacuum assisted ResinTransfer Molding)法が知られている。
【0003】
VaRTM法では、マトリクス樹脂が含浸されていないドライな強化繊維基材を1層以上、成形型に積層し、強化繊維基材の全体をバッグフィルムで覆い、バッグフィルムの内部を真空状態とし、低粘度の液状樹脂を注入することにより、強化繊維基材に液状樹脂を含浸させ、その状態で液状樹脂を硬化させることにより、成型品である炭素繊維強化複合材料を製造する。この際、ドライな状態でも取り扱いが可能な強化繊維基材を用いる必要がある。
【0004】
強化繊維基材としては、二軸織物、一方向性強化繊維基材、NCF(ノンクリンプファブリック)などが用いられる。これらの中でも、材料としての異方性の小ささや、汎用的に使用される織機で製造可能という設備投資の面での負担の小ささなどの観点から、二軸織物が最も多く使用されている。
【0005】
二軸織物は強化繊維糸条からなる経糸及び緯糸を一体化することで得られ、経糸と緯糸の組み合わせのパターンにより、平織、綾織、朱子織などの周期的な織組織構造が形成される。経糸及び緯糸の一体化の際、経糸及び緯糸はもう一方の糸に上下方向に拘束されながら力を受けるため、幅方向長さの縮小と厚みの増大が生じる。この幅方向長さの縮小が生じるため、隣り合う糸条同士は完全に接触することはできず、糸条間に空隙が存在している。
【0006】
VaRTM法において強化繊維基材に液状樹脂を含浸する際、流動抵抗の大きい糸条内部よりも、流動抵抗の小さい糸条間の空隙において液状樹脂が先行して充填される現象が起こることが知られている。成形型内での二軸織物の積層枚数を減らすためには、糸状厚みを大きくすればよいが、糸条(トウ)厚みが大きいと糸条内部まで液状樹脂が十分に含浸しにくい。糸条内部に液状樹脂の未含浸部が存在する場合、液状樹脂の硬化後にボイドとして残存する、あるいは液状樹脂の注入後に未含浸部周辺の液状樹脂が未含浸部に吸収されることで、成型品表面の樹脂が不足しピンホールが発生する、といった内部欠陥、表面欠陥等の欠陥の原因となる。内部欠陥は成型品強度の低下の原因となり、表面欠陥は外観品位の低下の原因となる。
【0007】
こうした欠陥の発生を防ぐため、特許文献1に開示される炭素繊維二軸織物においては、製織後に空気流による扁平化処理を行うことで、トウ幅の拡幅とトウ厚みの低減を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001-179844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、トウ厚みの小さい強化繊維基材を使用する場合は、一定厚みの成型品を製造する際に多数の強化繊維基材を積層する必要がある。
本発明の目的の一つは、VaRTM法による成型品製造の際に必要な強化繊維基材の積層枚数が少なく、かつ内部欠陥あるいは表面欠陥の発生が抑制された成型品が得られる炭素繊維二軸織物、及びそれを用いた炭素繊維強化複合材料の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]炭素繊維マルチフィラメント糸条を経糸及び緯糸に用いて製織された炭素繊維二軸織物であって、
前記炭素繊維マルチフィラメント糸条を構成する炭素繊維フィラメントの単繊維繊度が1.2dtex以上2.4dtex未満であり、
前記炭素繊維二軸織物の平均厚みが0.54mm以上である、炭素繊維二軸織物。
[2]前記炭素繊維フィラメントの繊維軸に垂直な断面の形状の真円度が0.7以上0.9以下である、前記[1]の炭素繊維二軸織物。
[3]前記炭素繊維フィラメントは、前記炭素繊維フィラメントの長手方向に延びる溝部を表面に有する、前記[1]又は[2]の炭素繊維二軸織物。
[4]前記炭素繊維フィラメントが、ポリアクリロニトリル系炭素繊維を含む、前記[1]~[3]のいずれかの炭素繊維二軸織物。
[5]目付が490g/m以上である、前記[1]~[4]のいずれかの炭素繊維二軸織物。
[6]前記[1]~[5]のいずれかの炭素繊維二軸織物を強化繊維基材として1層以上成形型に積層し、前記強化繊維基材の全体をバッグフィルムで覆い、前記バッグフィルムの内部を真空状態にし、前記強化繊維基材に液状樹脂を拡散させ、前記強化繊維基材に前記液状樹脂を含浸させる工程と、
前記強化繊維基材に含浸した前記液状樹脂を硬化させる工程とを含む、炭素繊維強化複合材料の製造方法。
[7]前記液状樹脂が常温硬化性の樹脂である、前記[6]の炭素繊維強化複合材料の製造方法。
[8]前記液状樹脂の拡散を常温で行う、前記[6]又は[7]の炭素繊維強化複合材料の製造方法。
[9]前記液状樹脂を前記強化繊維基材の面方向に流動するように供給する、前記[6]~[8]のいずれかの炭素繊維強化複合材料の製造方法。
[10]前記液状樹脂を前記強化繊維基材の厚み方向に流動するように供給する、前記[6]~[8]のいずれかの炭素繊維強化複合材料の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、VaRTM法による成型品製造の際に必要な強化繊維基材の積層枚数が少なく、かつ内部欠陥あるいは表面欠陥として特にピンホールの発生が抑制された成型品が得られる炭素繊維二軸織物、及びそれを用いた炭素繊維強化複合材料の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】炭素繊維強化複合材料の製造方法を模式的に説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
「炭素繊維二軸織物」
以下、炭素繊維二軸織物の一実施形態について説明する。
本実施形態の炭素繊維二軸織物は、炭素繊維マルチフィラメント糸条を経糸及び緯糸に用いて製織された二軸織物である。具体的には、炭素繊維マルチフィラメント糸条からなる経糸群を配列させ、炭素繊維マルチフィラメント糸条からなる緯糸群を交錯させて接着せしめる二軸織物である。
【0014】
炭素繊維二軸織物の平均厚みは、0.54mm以上であり、0.54mm以上2.20mm以下が好ましく、0.54mm以上0.88mm以下がより好ましく、0.54mm以上0.72mm以下がさらに好ましい。炭素繊維二軸織物の平均厚みが上記下限値以上であれば、VaRTM法による成型品製造の際に必要な強化繊維基材の積層枚数を少なくできる。炭素繊維二軸織物の平均厚みが上記上限値以下であれば、強化繊維基材が十分なドレープ性を有し、屈曲した金型上に配置した際に、ものしわが発生しにくい。
炭素繊維二軸織物の平均厚みは、JIS L 1096:2010の「織物及び編物の生地試験方法」の「8.4 厚さ」に記載のA法(JIS法)に従って測定される値である。
【0015】
炭素繊維二軸織物の目付は、490g/m以上が好ましく、490g/m以上2000g/m以下がより好ましく、490g/m以上800g/m以下がさらに好ましく、490g/m以上653g/m以下が特に好ましい。炭素繊維二軸織物の目付が上記下限値以上であれば、VaRTM法による成型品製造の際に必要な強化繊維基材の積層枚数を少なくできる。炭素繊維二軸織物の目付が上記上限値以下であれば、強化繊維基材が十分なドレープ性を有し、屈曲した金型上に配置した際に、ものしわが発生しにくい。
【0016】
炭素繊維マルチフィラメント糸条は、複数の単繊維である炭素繊維フィラメントが同一方向に引き揃えられ、例えばサイズ剤などにより一体化された糸条である。
炭素繊維マルチフィラメント糸条を構成する炭素繊維フィラメントの単繊維繊度は、1.2dtex以上2.4dtex未満であり、1.2dtex以上1.8dtex以下が好ましく、1.2dtex以上1.6dtex以下がより好ましく、1.2dtex以上1.4dtex以下がさらに好ましい。炭素繊維フィラメントの単繊維繊度が上記下限値以上であれば、炭素繊維マルチフィラメント糸条を構成する炭素繊維フィラメント間の距離が大きくなる。その結果、流体の流動抵抗が少なくなり、通常では含浸が困難な厚い基材においても液状樹脂の含浸性が良好となる。具体的には、成型品製造の際に、炭素繊維二軸織物への液状樹脂の含浸速度が高まるとともに、炭素繊維マルチフィラメント糸条の内部にまで液状樹脂が十分に含浸しやすくなる。よって、本実施形態の炭素繊維二軸織物を強化繊維基材として用いれば、内部欠陥あるいは表面欠陥の発生が抑制された成型品が得られる。加えて、VaRTM法による成型品製造の際に必要な強化繊維基材の積層枚数を少なくできる。炭素繊維フィラメントの単繊維繊度が上記上限値以下であれば、容易に炭素繊維フィラメントを入手できる。
【0017】
炭素繊維フィラメントの断面形状の真円度は、0.7以上0.9以下が好ましく、0.75以上0.9以下がより好ましく、0.8以上0.9以下がさらに好ましい。断面形状の真円度が上記下限値以上であれば、炭素繊維フィラメントが均一に分散しやすくなり、液状樹脂を含浸させたときに繊維間において液状樹脂が過剰に含浸される領域が少なくなり、成型品の強度が向上する。断面形状の真円度が上記上限値以下であれば、炭素繊維マルチフィラメント糸条を構成する炭素繊維フィラメント間の距離が大きくなる。その結果、流体の流動抵抗が少なくなり、通常では含浸が困難な厚い基材においても液状樹脂の含浸性が良好となる。具体的には、成型品製造の際に、炭素繊維二軸織物への液状樹脂の含浸速度が高まるとともに、炭素繊維マルチフィラメント糸条の内部にまで液状樹脂が十分に含浸しやすくなる。よって、本実施形態の炭素繊維二軸織物を強化繊維基材として用いれば、内部欠陥あるいは表面欠陥の発生が抑制された成型品が得られる。
【0018】
なお、炭素繊維フィラメントの断面形状とは、炭素繊維フィラメントの繊維軸に対して垂直な断面の形状のことである。
炭素繊維フィラメントの断面形状の真円度は、例えば、炭素繊維フィラメントの材料である樹脂組成や、樹脂を紡糸する際のノズルの形状により制御できる。
炭素繊維フィラメントの断面形状の真円度は、下記式(1)により求められる。式(1)中の「S」は炭素繊維フィラメントの断面積であり、「L」は炭素繊維フィラメントの周長である。「S」及び「L」は、それぞれ、炭素繊維フィラメントの繊維軸に対して垂直な断面をSEM観察し画像解析することにより求められる。
真円度=4πS/L ・・・(1)
【0019】
炭素繊維フィラメントは、その表面に、炭素繊維フィラメントの長手方向に延びる溝部を有することが好ましい。炭素繊維フィラメント表面に溝部が設けられていれば、炭素繊維マルチフィラメント糸条を構成する炭素繊維フィラメント間の距離が大きくなる。その結果、流体の流動抵抗が少なくなり、通常では含浸が困難な厚い基材においても液状樹脂の含浸性が良好となる。具体的には、成型品製造の際に、炭素繊維二軸織物への液状樹脂の含浸速度が高まるとともに、炭素繊維マルチフィラメント糸条の内部にまで液状樹脂が十分に含浸しやすくなる。よって、本実施形態の炭素繊維二軸織物を強化繊維基材として用いれば、内部欠陥あるいは表面欠陥の発生が抑制された成型品が得られる。
【0020】
炭素繊維フィラメント表面に設けられる溝部は1本でもよいし、2本以上でもよい。
なお、本明細書において、炭素繊維フィラメントの断面形状の真円度が0.7以上0.9以下であり、かつ、炭素繊維フィラメントの表面に前記溝部が設けられている場合、炭素繊維フィラメントの断面形状を「キドニー形状」又は「空豆形状」ともいう。
【0021】
炭素繊維フィラメントを構成する炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル(以下、「PAN」ともいう。)系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維などが挙げられる。
ここで、PAN系炭素繊維は、アクリロニトリルを主成分として重合させたポリアクリロニトリル系樹脂からなる繊維を、不融化させて、さらに炭化させて生成される。
ピッチ系炭素繊維は、メソフェーズピッチ、すなわち石油タール、石炭タール等を処理して生じた部分的に液晶構造を示す樹脂、又は、人工的に合成されたメソフェーズピッチを紡糸して、不融化して、さらに炭化させて生成される。
【0022】
炭素繊維としては、強度が高く、また、生産性に優れることから製造コストを低減できる観点から、PAN系炭素繊維が好ましい。すなわち、炭素繊維フィラメントは、ポリアクリロニトリル系炭素繊維を含むことが好ましい。
【0023】
PAN系炭素繊維を含む炭素繊維フィラメントで構成された炭素繊維マルチフィラメント糸条は、例えば以下のようにして製造できる。
まず、アクリロニトリル系重合体を有機溶媒に溶解して調製した紡糸原液を、湿式紡糸法により紡糸し、前駆体繊維束を得る。次いで、前駆体繊維束を耐炎化処理した後に、炭素化処理し、炭素繊維マルチフィラメント糸条を得る。
【0024】
炭素繊維二軸織物の製造方法としては特に制限されないが、例えば、炭素繊維二軸織物は、複数の炭素繊維マルチフィラメント糸条を経糸及び緯糸として用い、織り合わせることで得られる。
【0025】
以上説明した本実施形態の炭素繊維二軸織物は、従来の二軸織物に用いられていた糸条よりも、単繊維繊度の大きい炭素繊維フィラメントで構成された炭素繊維マルチフィラメント糸条を用いているので、炭素繊維フィラメント間の距離が大きく、液状樹脂の含浸性が良好である。よって、本実施形態の炭素繊維二軸織物を強化繊維基材として用いれば、内部欠陥あるいは表面欠陥の発生が抑制された成型品が得られる。
また、本実施形態の炭素繊維二軸織物の平均厚みが0.54mm以上であるため、VaRTM法による成型品製造の際に必要な強化繊維基材の積層枚数を少なくできる。
【0026】
「炭素繊維強化複合材料の製造方法」
以下、炭素繊維強化複合材料の製造方法の一実施形態について説明する。
本実施形態の炭素繊維強化複合材料の製造方法は、上述した炭素繊維二軸織物を強化繊維基材として用いて、VaRTM法により炭素繊維強化複合材料を製造する方法であり、具体的には、以下に示す含浸工程と、硬化工程とを含む。
含浸工程は、上述した炭素繊維二軸織物を強化繊維基材として1層以上成形型に積層し、強化繊維基材の全体をバッグフィルムで覆い、バッグフィルムの内部を真空状態にし、強化繊維基材に液状樹脂を拡散させ、強化繊維基材に液状樹脂を含浸させる工程である。
硬化工程は、強化繊維基材に含浸した液状樹脂を硬化させる工程である。
ここで、「液状」とは、常温で液体であることを意味する。「常温」とは、23℃±5℃を意味する。
【0027】
以下、図1を用い、炭素繊維強化複合材料の製造方法の一例について詳細に説明する。
図1は、炭素繊維強化複合材料の製造方法を模式的に説明する図である。
まず、成形型1に離型剤を塗布し、その上に強化繊維基材2として上述した炭素繊維二軸織物を所定の方向に所定の枚数、積層する。
また、強化繊維基材2の面方向Pの両端に液状樹脂を供給するスパイラルチューブ3を配置し、これら全体をバッグフィルム4で覆い、空気が漏れないようにバッグフィルム4の周囲をシール材5で成形型1に接着し、封止する。なお、一方のスパイラルチューブ3には、樹脂タンク(図示略)から注入される液状樹脂の吐出口8を取り付けておき、強化繊維基材2の面方向Pの一端から液状樹脂を注入して、液状樹脂が強化繊維基材2の面方向Pに流動するように供給する。強化繊維基材2の面方向Pに樹脂含浸させるVaRTM法の場合であっても、トウ内部にまで液状樹脂が含浸するため、強化繊維基材の積層枚数を減らしつつピンホールの発生を抑制することができる。他方のスパイラルチューブ3には、真空ポンプの吸引口6を取り付けておく。
バッグフィルム4としては、機密性を有するものが好ましく、例えばナイロンフィルム、ポリエステルフィルムなどが挙げられる。
【0028】
樹脂タンクには、液状樹脂を充填しておく。
次いで、真空ポンプ(図示略)によりバッグフィルム4で覆われた強化繊維基材2を、真空圧力が70~76cmHg程度の真空状態にした後、バルブ7を開放して液状樹脂を注入する。
その際、バッグフィルム4で覆われた内部が真空状態であり、強化繊維基材2の面方向Pの両端に配したスパイラルチューブ3の一方から注入した液状樹脂は、強化繊維基材2の面方向Pに向かってほぼ一線状に拡散し、含浸する。この含浸度合いは強化繊維基材2として用いる炭素繊維二軸織物の形態に影響される。なお、真空ポンプは少なくとも液状樹脂の含浸が完了するまで運転し、バッグフィルム4の内部を真空状態に保つことが好ましい。
液状樹脂の拡散は常温で行うことが好ましい。特に、液状樹脂が後述する常温硬化性の樹脂である場合、液状樹脂の拡散は常温で行うことが好ましい。
【0029】
液状樹脂の含浸が完了した後、液状樹脂を硬化させる。液状樹脂が常温硬化性の樹脂である場合は、液状樹脂を常温で硬化させることが好ましい。
次いで、バッグフィルム4などを除去し、成形型1から脱型することによって炭素繊維強化複合材料を得る。
【0030】
液状樹脂は、常温で硬化する樹脂(以下、「常温硬化性の樹脂」ともいう。)であることが好ましい。液状樹脂が常温硬化性であれば、大型の部材であっても全体を加熱するオーブンなど高価な設備を必要とせず、製造コストを低減できる。
常温硬化性の樹脂としては、例えばエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂などが挙げられる。
【0031】
液状樹脂の常温における粘度は、500mPa・s以下が好ましく、10mPa・s以上500mPa・s以下がより好ましく、10mPa・s以上300mPa・s以下がさらに好ましい。液状樹脂の粘度が上記上限値以下であれば、液状樹脂の流動性に優れ、液状樹脂を注入しやすい。
【0032】
液状樹脂には、硬化剤が混合されていてもよい。以下の明細書において、液状樹脂と硬化剤とを含む混合物を「マトリクス樹脂組成物」ともいう。すなわち、液状樹脂として、マトリクス樹脂組成物を用いてもよい。
硬化剤の割合は特に制限されないが、例えば液状樹脂100質量部に対して、1質量部以上100質量部以下が好ましく、5質量部以上30質量部以下がより好ましい。
【0033】
なお、フローメディア(図示略)を強化繊維基材2の厚み方向Tの両端に配置し、液状樹脂の吐出口8を強化繊維基材2の厚み方向Tの少なくとも一方に取り付けて、液状樹脂が強化繊維基材2の厚み方向Tに流動するように供給してもよい。この場合、液状樹脂は、強化繊維基材2の厚み方向Tに向かってほぼ平面状に拡散し、含浸する。
【0034】
また、強化繊維基材2の上面に、液状樹脂が硬化した後に引き剥がして除去するシート、いわゆるピールプライをさらに積層してもよい。
ピールプライとしては、液状樹脂を通過させることができるものであれば特に制限されないが、例えばナイロン繊維織物、ポリエステル繊維織物、ガラス繊維織物などが挙げられる。これらの織物においては、織密度の少ない物ほど隙間が大きいため、液状樹脂の通過は容易である反面、液状樹脂が硬化した後に剥がす際に、強化繊維基材2の表面に凹凸が発生することがある。そのため、できるだけ液状樹脂の通過性に優れ、強化繊維基材2の表面に凹凸が発生しにくいものを選択して用いることが好ましい。
【0035】
以上説明した本実施形態の炭素繊維強化複合材料の製造方法によれば、上述した炭素繊維二軸織物を強化繊維基材として用いて炭素繊維強化複合材料を製造するので、液状樹脂の含浸性が良好である。よって、内部欠陥あるいは表面欠陥の発生が抑制された成型品である炭素繊維強化複合材料が得られる。加えて、強化繊維基材の積層枚数を少なくできる。
【0036】
なお、上述した炭素繊維強化複合材料の製造方法は、VaRTM法により炭素繊維強化複合材料を製造する方法であるが、上述した炭素繊維二軸織物を強化繊維基材として用いて、RTM法により炭素繊維強化複合材料を製造してもよい。
【実施例0037】
以下、本発明を実施例に基づいてより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
実施例及び比較例中の「%」及び「ppm」は断りのない限り「質量%」及び「質量ppm」を意味する。
【0038】
[実施例1]
<炭素繊維マルチフィラメント糸条の製造>
容量80Lのタービン撹拌翼付きアルミニウム製の重合釜(攪拌翼:240φ、55mm×57mmの2段4枚羽)に、脱イオン交換水が重合釜のオーバーフロー口まで達するよう76.5L入れ、硫酸第一鉄(FeSO・7HO)を0.01g加え、反応液のpHが3.0になるように硫酸を用いて調節し、重合釜内の温度を57℃で保持した。
【0039】
次いで、重合開始50分前から、単量体に対してレドックス重合開始剤である過硫酸アンモニウムを0.10モル%、亜硫酸水素アンモニウムを0.35モル%、硫酸第一鉄(FeSO・7HO)を0.3ppm、硫酸を5.0×10-2モル%となるように、それぞれ脱イオン交換水に溶解して連続的に供給し、攪拌速度180rpm、攪拌動力1.2kW/mにて撹拌を行い、重合釜内での単量体の平均滞在時間が70分になるように設定した。
【0040】
次いで、重合開始時に、モル比でアクリロニトリル(以下、「AN」と略す。)98.7%、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル(以下、「HEMA」と略す。)1.3%からなる単量体混合物を水/単量体混合物=3(質量比)となるように、単量体混合物の連続供給を開始した。その後、重合開始1時間後に重合反応温度を50℃まで下げて温度を保持し、重合釜のオーバーフロー口より連続的に重合体スラリーを取り出した。
【0041】
重合体スラリーには、シュウ酸ナトリウム0.37×10-2モル%、重炭酸ナトリウム1.78×10-2モル%を脱イオン交換水に溶解した重合停止剤水溶液を、重合スラリーのpHが5.5~6.0になるように加えた。この重合スラリーをオリバー型連続フィルターによって脱水処理した後、重合体に対して10倍量の脱イオン交換水(70L)を加え、再び分散させた。再分散後の重合体スラリーを再度オリバー型連続フィルターによって脱水処理し、ペレット成形して、80℃にて8時間、熱風循環型の乾燥機で乾燥後、ハンマーミルで粉砕し、ポリアクリロニトリル系共重合体A(以下、「PAN系共重合体A」と略す。)を得た。
得られたPAN系共重合体Aの組成は、AN単位98.5モル%、HEMA単位1.5モル%であり、比粘度は0.21であり、湿熱下融点は170℃であった。
【0042】
PAN系共重合体Aをジメチルアセトアミド等の有機溶媒に溶解して濃度21%の紡糸原液を調製した。次いで、紡浴濃度60%、紡浴温度35℃の紡浴条件で、湿式紡糸法にて紡糸し、前駆体繊維束を得た。
得られた前駆体繊維束の単繊維繊度は、2.0dtex、フィラメント数は6000本、繊維密度は1.18g/cm、断面形状は真円度0.85の空豆形状であった。
【0043】
次いで、前駆体繊維束を熱風循環式耐炎化炉にて250℃~290℃の加熱空気中で伸張率+2%で耐炎化処理を60分間行い、耐炎化繊維束を得た。
得られた耐炎化繊維の密度は、1.392g/cmであった。
【0044】
次いで、耐炎化繊維束を窒素雰囲気下、最高温度660℃、伸張率3.0%にて1.5分間低温熱処理し、さらに窒素雰囲気下、最高温度が1350℃の高温熱処理炉にて-4.5%の伸張の下、約1.5分間、炭素化処理して、PAN系炭素繊維である炭素繊維フィラメントで構成された、炭素繊維マルチフィラメント糸条(炭素繊維束)を得た。
得られた炭素繊維フィラメントの単繊維繊度は1.2dtex、直径Dは9.43μmであり、断面形状は真円度0.84の空豆形状であった。
【0045】
<炭素繊維二軸織物の製造>
先に得られた炭素繊維マルチフィラメント糸条を経糸及び緯糸として用い、レピア織機(津田駒工業株式会社製)によって製織を実施し、炭素繊維二軸織物を得た。経糸密度及び緯糸密度は、それぞれ7.5Tows/inchとした。
得られた炭素繊維二軸織物の平均厚みは0.54mmであり、基材目付は490g/mであった。
なお、炭素繊維二軸織物の平均厚みは、JIS L 1096:2010の「織物及び編物の生地試験方法」の「8.4 厚さ」に記載のA法(JIS法)に従って測定した。測定時の負荷圧力は23.5kPaとした。
【0046】
<炭素繊維強化複合材料の製造>
先に得られた炭素繊維二軸織物から縦400mm、横160mmの長方形形状のカットシートを4枚切り出した。切り出したカットシートの1枚目を配置し、同じ向きで2枚目のカットシートを1枚目のカットシートの上に積層した。さらに、3枚目のカットシートを裏返して2枚目のカットシートの上に積層し、3枚目と同じ向きで4枚目のカットシートを3枚目のカットシートの上に積層し、合計4枚のカットシートからなる積層体を得た。得られた積層体を強化繊維基材として用い、図1に示すようにして炭素繊維強化複合材料を製造した。具体的には以下の通りである。
離形剤が塗された成形型1の上に、強化繊維基材2として積層体を配置した。繊維配向と直角に向かい合う二辺のそれぞれ中央には内径4mmのポリウレタン製のスパイラルチューブ3を配置した。一方のスパイラルチューブ3には液状樹脂の吐出口8を取り付け、他方のスパイラルチューブ3には真空ポンプの吸引口6を取り付けた。これら全体をバッグフィルム4としてバギングフィルム(AIRTECH社製、製品名:「ライトロンWL8400」)で覆い、空気が漏れないようにバッグフィルム4の周囲をシール材5としてシーラントテープ(RICHMOND社製、製品名:「RS200」)で成形型1に接着し、封止した。
【0047】
次いで、真空ポンプの吸引口6から真空引きを行い、液状樹脂の吐出口8より液状樹脂を流し込み、液状樹脂を強化繊維基材2の面方向Pに流動するように供給し、常温環境下でのVaRTM成型を実施した。その後、硬化条件24℃、24時間で含浸硬化を行った。以上の工程により、炭素繊維強化複合材料(成型品)を得た。
なお、液状樹脂としては、ナガセケムテックス株式会社製のエポキシ樹脂(製品名:「XNR6815」)と、硬化剤(製品名:「XNH6815」)とを、エポキシ樹脂:硬化剤=100:27の質量比で配合したマトリクス樹脂組成物(樹脂粘度260mPa・s)を用いた。
【0048】
得られた成型品の外観品質を目視による評価を行ったところ、ピンホール発生はなく良好であった。
【0049】
[実施例2]
製織における経糸密度及び緯糸密度を7.5Tows/inchから10.0Tows/inchに変更した以外は、実施例1と同様にして炭素繊維二軸織物を製造した。
得られた炭素繊維二軸織物の平均厚みは0.72mmであり、基材目付は653g/mであった。
得られた炭素繊維二軸織物を用いた以外は、実施例1と同様にして炭素繊維強化複合材料(成型品)を製造した。
【0050】
得られた成型品の外観品質を目視による評価を行ったところ、ピンホール発生はなく良好であった。
【0051】
[実施例3]
積層体を作製する際のカットシートの積層枚数を4枚から2枚に変更した、具体的には、1枚目と4枚目のカットシートを積層しなかった以外は、実施例1と同様にして炭素繊維強化複合材料(成型品)を製造した。
【0052】
得られた成型品の外観品質を目視による評価を行ったところ、ピンホール発生はなく良好であった。
【0053】
[比較例1]
製織において使用する経糸及び緯糸として、単繊維繊度が0.8dtexであり、フィラメント数が12000本である炭素繊維糸条(三菱ケミカル株式会社製、製品名:「パイロフィル」)を用いた以外は、実施例1と同様にして炭素繊維二軸織物を製造した。
得られた炭素繊維二軸織物の平均厚みは0.54mmであり、基材目付は490g/mであった。
得られた炭素繊維二軸織物を用いた以外は、実施例1と同様にして炭素繊維強化複合材料(成型品)を製造した。
【0054】
得られた成型品の外観品質を目視による評価を行ったところ、ピンホール発生がみられ、良好な成型品は得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の炭素繊維二軸織物は、内部欠陥あるいは表面欠陥の発生が抑制された炭素繊維強化複合材料の材料として好適である。本発明の炭素繊維二軸織物を用いて得られる炭素繊維強化複合材料は、例えばスポーツ用途、航空・宇宙用途、自動車、土木・建築、圧力容器、風車ブレードとして有用である。
【符号の説明】
【0056】
1 成形型
2 強化繊維基材
3 スパイラルチューブ
4 バッグフィルム
5 シール材
6 真空ポンプの吸引口
7 バルブ
8 液状樹脂の吐出口
P 強化繊維基材2の面方向
T 強化繊維基材2の厚み方向
図1