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特開2024-10393クリ属植物の渋皮剥皮性を判定する方法、及びクリ属植物の渋皮剥皮性判定用プライマーセット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024010393
(43)【公開日】2024-01-24
(54)【発明の名称】クリ属植物の渋皮剥皮性を判定する方法、及びクリ属植物の渋皮剥皮性判定用プライマーセット
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6876 20180101AFI20240117BHJP
   A01H 6/00 20180101ALI20240117BHJP
【FI】
C12Q1/6876 Z
A01H6/00 ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111709
(22)【出願日】2022-07-12
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、農林水産省、「園芸作物の有用遺伝子の同定とDNAマーカーの開発委託事業」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100211199
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 さやか
(72)【発明者】
【氏名】寺上 伸吾
(72)【発明者】
【氏名】西尾 聡悟
(72)【発明者】
【氏名】高田 教臣
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 寿広
(72)【発明者】
【氏名】竹内 由季恵
(72)【発明者】
【氏名】加藤 秀憲
【テーマコード(参考)】
2B030
4B063
【Fターム(参考)】
2B030AA03
2B030AB03
2B030AD20
2B030CA05
2B030CB02
4B063QA08
4B063QQ04
4B063QQ42
4B063QR08
4B063QR42
4B063QR62
4B063QR66
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】クリ属(Castanea)植物の渋皮剥皮性を判定する新規な方法、及び渋皮剥皮性判定に用いる新規プライマーセットを提供すること。
【解決手段】
クリ属植物における渋皮剥皮性を判定する方法であって、クリ属植物のDNAにおける、配列番号1の塩基配列からなるプライマー及び配列番号2の塩基配列からなるプライマーを用いてPCRで増幅されるDNA領域の長さに基づき、渋皮剥皮性を判定することを含む、方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリ属(Castanea)植物における渋皮剥皮性を判定する方法であって、
クリ属植物のDNAにおける、配列番号1の塩基配列からなるプライマー及び配列番号2の塩基配列からなるプライマーを用いてPCRで増幅されるDNA領域の長さに基づき、渋皮剥皮性を判定することを含む、方法。
【請求項2】
1対の相同染色体の両方において、前記増幅されるDNA領域の長さが、366塩基長~368塩基長である場合に、前記クリ属植物は易渋皮剥皮性であると判定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
1対の相同染色体の両方において、前記増幅されるDNA領域の長さが、367塩基長である場合に、前記クリ属植物は易渋皮剥皮性であると判定することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
クリ属植物のDNAにおける、前記増幅されるDNA領域の長さに基づき、渋皮剥皮性を判定することが、
前記増幅されるDNA領域の長さを検出するためのプライマーセットを用いて、クリ属植物のDNAを増幅する工程、並びに
DNA増幅産物の増幅長に基づき、渋皮剥皮性を判定する工程を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記プライマーセットが、
配列番号1と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチド配列からなるプライマー、及び配列番号2と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチド配列からなるプライマーを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
DNA増幅産物の増幅長に基づき、渋皮剥皮性を判定する工程が、
1対の相同染色体の両方において、DNA増幅産物の増幅長が、易渋皮剥皮性品種と比較して、同一又は違いが1塩基長のみである場合に前記クリ属植物は易渋皮剥皮性であると判定することを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
DNA増幅産物の増幅長に基づき、渋皮剥皮性を判定する工程が、
1対の相同染色体の両方において、DNA増幅産物の増幅長が、易渋皮剥皮性品種と比較して同一である場合に、前記クリ属植物は易渋皮剥皮性であると判定することを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
請求項1~3のいずれか一項に記載の方法により渋皮剥皮性を判定することを含む、クリ属植物の作出方法。
【請求項9】
請求項4に記載の方法により渋皮剥皮性を判定することを含む、クリ属植物の作出方法。
【請求項10】
配列番号1の塩基配列からなるプライマー及び配列番号2の塩基配列からなるプライマーを用いてPCRで増幅されるDNA領域の長さを検出するための、クリ属植物の渋皮剥皮性判定用プライマーセット。
【請求項11】
配列番号1と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー、及び配列番号2と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマーを含む、請求項10に記載のプライマーセット。
【請求項12】
請求項9に記載の方法により得られるクリ属植物。
【請求項13】
請求項12に記載のクリ属植物から得られた果実又は種子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリ属植物の渋皮剥皮性を判定する方法、及びクリ属植物の渋皮剥皮性判定用プライマーセットに関する。
【背景技術】
【0002】
ニホングリ(Castanea crenata Sieb. et Zucc.)は、チュウゴクグリ(Castanea mollissima)やヨーロッパグリ(Castanea sativa)と比較して果実は大きいものの、渋皮が果肉から剥がれにくいという欠点を有している。そのため、家庭消費や加工利用への障害となっており、近年は天津甘栗などに代表されるチュウゴクグリ加工品の輸入が増加する一方で、ニホングリの消費は大きく減少している。よって、渋皮剥皮性を改良することがニホングリの最大の育種目標とされている。「ぽろたん」に続き「ぽろすけ」が育成されたことにより、渋皮がむけやすいニホングリの収穫期間は拡大されたが、どちらも早生品種であり、中生及び晩生品種の育成が望まれている。このような事情から、易渋皮剥皮性を有するクリ属植物をDNAマーカーにより選抜することで、育種の効率化が求められている。
【0003】
ニホングリの渋皮剥皮性については、遺伝様式が明らかとなっており(非特許文献1)、主働一遺伝子によって制御されていることが分かっており、渋皮剥皮性と連鎖するマーカーについても開発されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Takada et al., “Inheritance of the Easy-peeling Pellicle Trait of Japanese ChestnutCultivar Porotan”, HortScience, (2012) Volume 47(7) :845-847
【非特許文献2】Nishio et al., “Mapping andpedigree analysis of the gene that controls the easy peel pellicle trait inJapanese chestnut (Castanea crenata Sieb. et Zucc.)”, Tree Genetics &Geneomes, (2013) Volume 9: 723-730
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ニホングリ育種における渋皮剥皮性の評価法では、播種後圃場に定植し、樹を大きく育てて結実させた果実を用いる必要がある。このため、育種圃場には、渋皮が剥けにくい実生を含む多数の実生を維持・管理する必要がある。
【0006】
また、渋皮剥皮性を制御する遺伝子座(peeling(pellicle-peeling locusやp locusと表現される場合もある。))と連鎖する既存のDNAマーカーは、渋皮剥皮性を制御する遺伝子座との距離があるため、易渋皮剥皮性実生を選抜しても、難渋皮剥皮性実生が含まれてしまうことがある。また、連鎖マーカーの遺伝子型が渋皮剥皮性の表現型及び遺伝子型と対応していないことから、交配組合せによっては両親間にマーカーの多型性がなく、そもそもマーカー選抜が行えないという問題があった。
【0007】
このような状況を鑑み、本発明は、クリ属(Castanea)植物の渋皮剥皮性を判定する新規な方法、及び渋皮剥皮性判定に用いる新規プライマーセットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、高精度に渋皮剥皮性判定が可能な染色体DNAマーカーを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、例えば、以下の各発明に関する。
[1]
クリ属(Castanea)植物における渋皮剥皮性を判定する方法であって、
クリ属植物のDNAにおける、配列番号1の塩基配列からなるプライマー及び配列番号2の塩基配列からなるプライマーを用いてPCRで増幅されるDNA領域の長さに基づき、渋皮剥皮性を判定することを含む、方法。
[2]
1対の相同染色体の両方において、上記増幅されるDNA領域の長さが、366塩基~368塩基である場合に、上記クリ属植物は易渋皮剥皮性であると判定することを含む、[1]に記載の方法。
[3]
1対の相同染色体の両方において、上記増幅されるDNA領域の長さが367塩基長である場合に、上記クリ属植物は易渋皮剥皮性であると判定することを含む、[2]に記載の方法。
[4]
クリ属植物のDNAにおける、上記増幅されるDNA領域の長さに基づき、渋皮剥皮性を判定することが、
上記増幅されるDNA領域の長さを検出するためのプライマーセットを用いて、クリ属植物のDNAを増幅する工程、並びに
DNA増幅産物の増幅長に基づき、渋皮剥皮性を判定する工程を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]
上記プライマーセットが、
配列番号1と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー、及び配列番号2と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチド配列からなるプライマーを含む、[4]に記載の方法。
[6]
DNA増幅産物の増幅長に基づき、渋皮剥皮性を判定する工程が、
1対の相同染色体の両方において、DNA増幅産物の増幅長が、易渋皮剥皮性品種と比較して、同一又は違いが1塩基長分のみである場合に、上記クリ属植物は易渋皮剥皮性であると判定することを含む、[4]又は[5]に記載の方法。
[7]
DNA増幅産物の増幅長に基づき、渋皮剥皮性を判定する工程が、
1対の相同染色体の両方において、DNA増幅産物の増幅長が、易渋皮剥皮性品種と比較して同一である場合に、上記クリ属植物は易渋皮剥皮性であると判定することを含む、[4]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8]
易渋皮剥皮性品種が、ぽろたん、ぽろすけ及び奴からなる群から選択される、[6]又は[7]に記載の方法。
[9]
[1]~[8]のいずれかに記載の方法により渋皮剥皮性を判定することを含む、クリ属植物の作出方法。
[10]
配列番号1の塩基配列からなるプライマー及び配列番号2の塩基配列からなるプライマーを用いてPCRで増幅されるDNA領域の長さを検出ための、クリ属植物の渋皮剥皮性判定用プライマーセット。
[11]
配列番号1と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー、及び配列番号2と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマーを含む、[10]に記載のプライマーセット。
[12]
[9]に記載の方法により得られるクリ属植物。
[13]
[12]に記載のクリ属植物から得られた果実又は種子。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ニホングリ易渋皮剥皮性アレルを有する実生を、DNAマーカーにより早期に識別することができる。
【0011】
また、従来の連鎖マーカーよりも原因遺伝子座(Peeling遺伝子座)の近くに座乗するマーカーであることから、より高精度に選抜が可能である。さらに、増幅産物長と渋皮剥皮性アレルとの間に相関が見られることから、渋皮剥皮性の遺伝子型を推定することが可能となる。
【0012】
本発明により、ニホングリ易渋皮剥皮性アレルを有する実生個体を高精度に幼苗選抜できることから、従来育種や既存の連鎖マーカーと比較して育種選抜に要する時間が大幅に短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】「ぽろたん」、「丹沢」、「国見」、及び「石鎚」の関係、渋皮剥皮性の表現型及び遺伝子型を示す図である。図中、(易)は易渋皮剥皮性、(難)は難渋皮剥皮性を意味する。
図2】「ぽろたん」×クリ筑波43号の集団から構築された連鎖地図(LG.1、第1染色体)におけるpeeling遺伝子座、既存マーカー(PRD52、PRD58)及び新規マーカー(CmSca06716)の位置関係を示す図である。数値はマーカー間の遺伝距離(cM)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
クリ属植物とは、ブナ科クリ亜科クリ属植物を意味する。クリ属植物には、例えば、ニホングリ(Castanea crenata Sieb. et Zucc.)、チュウゴクグリ(Castanea mollissima)、アメリカグリ(Castanea dentata)、及びヨーロッパグリ(Castanea sativa)が挙げられる。本実施形態の方法は、渋皮が果実から剥がれにくい傾向のあるニホングリで特に有効であることから、クリ属植物は、ニホングリ又はニホングリ由来であることが好ましい。
【0015】
本明細書において、「植物」は、特段の限定がない限り、植物全体、植物細胞、植物プロトプラスト、植物カルス、又は植物の部分、例えば、胚、花粉、胚珠、配偶子、種子、葉、花、枝、果実、茎、根、葯等を含む。なお、クリ属植物において、イガは総苞といい、他の果実でいう皮に該当する。また、鬼皮は他の果実でいう果肉に該当し、渋皮とそれより内部の子実(果肉)は種子に該当する。本明細書において「クリ果実」は、特段の限定がない限り、鬼皮、渋皮及び果肉を含む部分を意味する。本明細書において「実生」は、交雑等によって得られた種子から発芽した植物を意味する。
【0016】
渋皮剥皮性は、加熱後のクリ果実における渋皮の剥け易さを意味する。渋皮剥皮性は、加熱したクリ果実において渋皮を剥皮できるか否かで判断することができる。加熱前に果実の鬼皮に対してナイフ等の刃物で切れ目(例えば、深さ3.5mm、長さ2cm~3/4週)を入れ、加熱したクリ果実においてナイフ等を使用して手で渋皮を剥皮できるものを易渋皮剥皮性、渋皮が剥皮できないものを難渋皮剥皮性とすることができる。加熱は、例えば、沸騰したお湯を用いて2~3分で行ってもよく、オーブントースター(例えば、500W~800W又は600W)を用いて7~15分で行ってもよい。
【0017】
易渋皮剥皮性の品種としては、特に限定されないが、例えば、ニホングリ品種である、「ぽろたん」(農林認定品種登録番号:くり農林8号、品種登録の番号:15658)、「ぽろすけ」(品種登録の番号:26828)及び「奴」が挙げられる。易渋皮剥皮性は単一遺伝子座における劣性(潜性)の主働遺伝子pによって支配されており、これがホモ型(pp)となった場合に易渋皮剥皮性となる。
【0018】
難渋皮剥皮性品種としては、特に限定されないが、例えば、「丹沢」、「国見」、「筑波」及び「石鎚」が挙げられる。「丹沢」及び「国見」は上記劣性の主働遺伝子をヘテロ型(Pp)に有する。「筑波」及び「石鎚」は上記劣性の主働遺伝子をもたず、遺伝子型はPPである。
【0019】
<クリ属植物の渋皮剥皮性判定方法>
本発明は一実施形態として、クリ属(Castanea)植物における渋皮剥皮性を判定する方法を提供する。本実施形態の方法は、クリ属植物のDNAにおける、配列番号1の塩基配列からなるプライマー及び配列番号2の塩基配列からなるプライマーを用いてPCRで増幅されるDNA領域の長さに基づき、渋皮剥皮性を判定することを含む。判定する対象であるクリ属植物は、例えば、交配後代クリ属植物であってもよく、ニホングリ又はニホングリに由来するクリ属植物の交配後代クリ属植物であってもよい。
【0020】
本発明は、配列番号1の塩基配列からなるプライマー及び配列番号2の塩基配列からなるプライマーを用いてPCRで増幅されるDNA領域の長さを指標(ぽろたんでは、367bp)として、渋皮剥皮性を判定することができるという発見に基づくものである。上記DNA領域には、SSR(Simple Sequence Repeat)が含まれる。配列番号1の塩基配列からなるプライマー及び配列番号2の塩基配列からなるプライマーを以下に示す。
フォワードプライマー CCACTCCTCTCAGTCCCTCA(5’→3’、配列番号1)
リバースプライマー CAGTCGGTTTTGGCCTTTGG(5’→3’、配列番号2)
【0021】
上記「配列番号1の塩基配列からなるプライマー及び配列番号2の塩基配列からなるプライマーを用いてPCRで増幅」する際のDNA増幅反応としては、上記プライマー対を用いてPCRで増幅できる限り特に制限されないが、例えば、非等温条件下での増幅反応であるPCR法や、これを応用したリアルタイムPCR法等であってよい。例えば、被験クリ属植物からDNA抽出し、そのDNAを鋳型として上記プライマーセットを用いてPCR法によりDNA断片を増幅することであってよい。DNA増幅反応を行う際の反応液組成、温度サイクル条件の温度及び反応時間等は、核酸増幅法の種類、プライマーのTm値、使用する機器の仕様等を考慮して当業者が適宜設定することができる。PCR法の場合、例えば、反応液は、鋳型及び上記プライマーセット、DNAポリメラーゼの他、デオキシヌクレオシド三リン酸(dNTP)、マグネシウムイオン、1以上の塩類、トリスバッファ(Tris-HCL)、EDTA、グリセロール及びpHバッファからなる群から選択される1以上を含んでいてもよい。また、例えば、90℃~98℃で30秒~180秒間の初期変性工程後、90℃~98℃で5秒~180秒間の変性工程、55℃~68℃で10秒~60秒間のアニーリング工程及び70℃~75℃で30秒~700秒の伸長工程を1サイクルとして、20サイクル~50サイクル行い、68℃~72℃で120秒~360秒の最終伸長工程を行う条件で核酸増幅反応を実施してもよい。また、例えば、95℃~98℃で60秒~120秒の初期変性工程後、95℃~98℃で20秒~30秒間の変性工程、55℃~60℃で20秒~30秒間のアニーリング工程及び70℃~75℃で30秒~60秒の伸長工程を1サイクルとして、38サイクル~42サイクル行い、68℃~72℃で240秒~300秒の最終伸長工程を行う条件で核酸増幅反応を実施してもよい。配列番号1の塩基配列からなるプライマー及び配列番号2の塩基配列からなるプライマーを用いてPCRでDNA領域が増幅していることは、例えば、アガロースゲル電気泳動、フラグメント解析、DNAシーケンシングにより確認できる。増幅したDNA断片の長さは、例えば、分子量マーカーとの比較や、フラグメント解析、DNAシーケンシングにより確認することができる。例えば、得られた増幅産物は、適切な機器(例えば、Applied Biosystems 3130xl Genetic Analyzer等のDNAシーケンサー)で分析してもよい。また、遺伝子型を判定する解析は、例えば、GeneMapperソフトウェアを用いて行ってもよい。この方法によれば、アガロースゲル電気泳動により目視で判断できない数塩基の差異も確認することができる。
【0022】
本明細書において、ヌクレオチド塩基の一文字コードは、国際純正・応用化学連合(IUPAC)の定める塩基表記に従い使用している。プライマーは、塩基A、G、C、T若しくは類似体、又は縮重塩基(M、R、W、S、Y、K)からなっていてよい。
【0023】
本明細書において、「配列同一性」とは、当該技術分野において公知の数学的アルゴリズムを用いて2つのDNA塩基配列をアラインさせた場合の最適なアラインメントにおける、オーバーラップする全DNA塩基配列に対する同一塩基の割合(%)を意味する。アラインメントの作成及び配列同一性の算出には、例えば、EMBOSS Needle(EMBL-EBI提供 URL: https://www.ebi.ac.uk/Tools/psa/emboss_needle/)を用いることができる。
【0024】
渋皮剥皮性の判定は、易渋皮剥皮性品種又は難渋皮剥皮性品種と比較して行ってもよく、所定の基準値に基づき行ってもよい。
【0025】
易渋皮剥皮性は単一遺伝子座における劣性の主働遺伝子pによって支配されており、これがホモ型(pp)となった場合に易渋皮剥皮性となることから、易渋皮剥皮性となるには、上記は1対(2本)の相同染色体のうちの両方において該当しなくてはならない。すなわち、クリ属植物において、2本の相同染色体のうちの1本の「配列番号1の塩基配列からなるプライマー及び、配列番号2の塩基配列からなるプライマーを用いてPCRで増幅されるDNA領域」の長さが易渋皮剥皮性品種の当該DNA領域と同一であっても、もう1本のDNA領域が難渋皮剥皮性品種における当該DNA領域と同一である場合には、当該クリ属植物は易渋皮剥皮性ではなく、難渋皮剥皮性となる。
【0026】
例えば、1対の相同染色体の両方において、判定するクリ属植物(被験クリ属植物)の「配列番号1の塩基配列からなるプライマー及び、配列番号2の塩基配列からなるプライマーを用いてPCRで増幅されるDNA領域」の長さが、易渋皮剥皮性品種における当該DNA領域と比較して同一又は違いが1塩基長分のみである場合に、上記クリ属植物は易渋皮剥皮性であると判定することを含んでいてもよい。また、例えば、1対の相同染色体の両方において、上記DNA領域の長さが、易渋皮剥皮性品種と同一である場合に、上記クリ属植物は易渋皮剥皮性であると判定することを含んでいてもよい。例えば、1対の相同染色体の両方において、上記増幅されるDNA領域の長さが、366塩基~368塩基である場合に、上記クリ属植物は易渋皮剥皮性であると判定することを含んでもよく、1対の相同染色体の両方において、上記増幅されるDNA領域の長さが367塩基長である場合に、上記クリ属植物は易渋皮剥皮性であると判定することを含んでいてもよい。
【0027】
また、例えば、1対の相同染色体の少なくとも一方において、判定するクリ属植物の「配列番号1の塩基配列からなるプライマー及び、配列番号2の塩基配列からなるプライマーを用いてPCRで増幅されるDNA領域」の長さが、易渋皮剥皮性品種における当該DNA領域と比較して3塩基長以上異なる場合に、上記クリ属植物は易渋皮剥皮性ではない、又は難渋皮剥皮性であると判定することを含んでいてもよい。3塩基長以上異なる場合とは、例えば、4塩基長以上、5塩基長以上、6塩基長以上異なる場合であってもよく、3塩基長以上短い又は4塩基長以上短い、5塩基長以上短い、又は6塩基長以上短い場合であってもよい。
【0028】
また、例えば、1対の相同染色体の少なくとも一方において、判定するクリ属植物の「配列番号1の塩基配列からなるプライマー及び、配列番号2の塩基配列からなるプライマーを用いてPCRで増幅されるDNA領域」の長さが、難渋皮剥皮性品種と比較して同一又は違いが1塩基長分のみである場合に、上記クリ属植物は易渋皮剥皮性ではない、又は難渋皮剥皮性であると判定することを含んでいてもよい。1対の相同染色体の少なくとも一方において、上記DNA領域の長さが、難渋皮剥皮性品種と比較して同一である場合に、上記クリ属植物は易渋皮剥皮性ではない、又は難渋皮剥皮性であると判定することを含んでいてもよい。ここで、難渋皮剥皮性品種の相同染色体間において、当該DNA領域の長さに違いがある場合には、より短い方のDNA領域の長さと比較する。
【0029】
易渋皮剥皮性品種又は難渋皮剥皮性品種と比較する場合には、例えば、上記DNA領域を挟み込むプライマーを設計し、判定するクリ属植物のDNAと、易渋皮剥皮性品種のDNA及び/又は難渋皮剥皮性品種のDNAをそれぞれ用いてDNA増幅し、クリ属植物の増幅産物の長さと、易渋皮剥皮性品種の増幅産物の長さ及び/又は難渋皮剥皮性品種の増幅産物の長さを比較してもよい。
【0030】
易渋皮剥皮性品種である「ぽろたん」及び「奴」において、1対の相同染色体の両方における「配列番号1の塩基配列からなるプライマー及び配列番号2の塩基配列からなるプライマーを用いてPCRで増幅されるDNA領域」の長さは367塩基長である。したがって、易渋皮剥皮性品種における当該DNA領域は、例えば、366塩基長~368塩基長であってよく、367塩基長であってもよい。
【0031】
難渋皮剥皮性品種である「丹沢」において、1対の相同染色体の一方における「配列番号1の塩基配列からなるプライマー及び配列番号2の塩基配列からなるプライマーを用いてPCRで増幅されるDNA領域」の長さは363塩基長であり、もう一方における当該DNA領域の長さは367塩基長である。そのため、「丹沢」を難渋皮剥皮性品種として用いる場合には、当該DNA領域の長さはより短い方である363塩基長を基準とする。「国見」において、1対の相同染色体の一方における「配列番号1の塩基配列からなるプライマー及び配列番号2の塩基配列からなるプライマーを用いてPCRで増幅されるDNA領域」の長さは359塩基長であり、もう一方における当該DNA領域の長さは367塩基長である。そのため、「国見」を難渋皮剥皮性品種として用いる場合には、当該DNA領域の長さはより短い方である359塩基長を基準とする。「筑波」において、1対の相同染色体の両方における「配列番号1の塩基配列からなるプライマー及び配列番号2の塩基配列からなるプライマーを用いてPCRで増幅されるDNA領域」の長さは359塩基長であり、もう一方における当該DNA領域の長さは379塩基長である。そのため、「筑波」を難渋皮剥皮性品種として用いる場合には、当該DNA領域の長さは359塩基長を基準とする。「石鎚」において、1対の相同染色体の一方における「配列番号1の塩基配列からなるプライマー及び配列番号2の塩基配列からなるプライマーを用いてPCRで増幅されるDNA領域」の長さは359塩基長であり、もう一方における当該DNA領域の長さは379塩基長である。そのため、「石鎚」を難渋皮剥皮性品種として用いる場合には、当該DNA領域の長さはより短い方である359塩基長を基準とする。したがって、難渋皮剥皮性品種における当該DNA領域(相同染色体間において、当該DNA領域の長さに違いがある場合には、より短い方)は、例えば、358塩基長~364塩基長であってよく、359塩基長~363塩基長であってよく、359塩基長または363塩基長であってもよい。
【0032】
所定の基準値に基づき渋皮剥皮性の判定をする場合には、例えば、1対の相同染色体の両方において、判定するクリ属植物のDNA領域の長さが、所定の基準値と比較して同一又は違いが1塩基長のみである場合に、上記クリ属植物は易渋皮剥皮性であると判定することを含んでいてもよい。また、例えば、1対の相同染色体の両方において、上記DNA領域の長さが、所定の基準値と比較して同一である場合に、上記クリ属植物は易渋皮剥皮性であると判定することを含んでいてもよい。また、例えば、1対の相同染色体の少なくとも一方において、判定するクリ属植物のDNA領域の長さが、所定の基準値と比較して3塩基長以上異なる場合に、上記クリ属植物は易渋皮剥皮性ではない、又は難渋皮剥皮性であると判定することを含んでいてもよい。3塩基長以上異なる場合とは、例えば、4塩基長以上、5塩基長以上、6塩基長以上異なる場合であってもよく、3塩基以上短い又は4塩基長以上短い、5塩基長以上短い、又は6塩基長以上短い場合であってもよい。これらの場合の所定の基準値は、易渋皮剥皮性品種における当該DNA領域に基づいて設定されたものであってよく、例えば、366塩基長~368塩基長であってよく、367塩基長であってもよい。基準値は複数の易渋皮剥皮性品種の平均値から定めたものであってもよい。
【0033】
また、例えば、1対の相同染色体の少なくとも一方において、判定するクリ属植物のDNA領域の長さが、所定の基準値と比較して同一又は違いが1塩基長分のみである場合に、上記クリ属植物は易渋皮剥皮性ではない、又は難渋皮剥皮性であると判定することを含んでいてもよい。1対の相同染色体の少なくとも一方において、上記DNA領域の長さが、所定の基準値と比較して同一である場合に、上記クリ属植物は易渋皮剥皮性ではない、又は難渋皮剥皮性であると判定することを含んでいてもよい。これらの場合の所定の基準値は、難渋皮剥皮性品種における当該DNA領域に基づいて設定されたものであってよく、例えば、358塩基長~364塩基長であってよく、359塩基長~363塩基長であってよく、359塩基長または363塩基長であってもよい。基準値は複数の難渋皮剥皮性品種の平均値から定めたものであってもよい。
【0034】
本実施形態の方法においては、「配列番号1の塩基配列からなるプライマー及び配列番号2の塩基配列からなるプライマーを用いてPCRで増幅されるDNA領域」の長さに基づいて渋皮剥皮性を判定すればよく、「配列番号1の塩基配列からなるプライマー及び配列番号2の塩基配列からなるプライマーを用いてPCRで増幅されるDNA領域」の記載において配列番号1の塩基配列からなるプライマー及び配列番号2の塩基配列からなるプライマーはあくまでも当該DNA領域を特定するために使用されているものであり、配列番号1の塩基配列からなるプライマー及び配列番号2の塩基配列からなるプライマー以外のプライマーを用いて判定することを除外するものではない。本実施形態の方法は、例えば、「配列番号1の塩基配列からなるプライマー及び配列番号2の塩基配列からなるプライマーを用いてPCRで増幅されるDNA領域」の周辺の領域(例えば、外側の領域)を含めて判定してもよく、例えば、上記DNA領域の長さに基づいて渋皮剥皮性を判定することは、「配列番号1の塩基配列からなるプライマー及び配列番号2の塩基配列からなるプライマーを用いてPCRで増幅されるDNA領域」の5’側及び/又は3’側の領域を含めて判定してもよい。したがって、「配列番号1の塩基配列からなるプライマー及び配列番号2の塩基配列からなるプライマーを用いてPCRで増幅されるDNA領域」の長さを検出するためのプライマーセットは、「配列番号1の塩基配列からなるプライマー及び配列番号2の塩基配列からなるプライマーを用いてPCRで増幅されるDNA領域」よりも外側の領域を含め、当該領域を挟み込むように設計してもよい。
【0035】
本実施形態の方法において、例えば、クリ属植物のDNAにおける、「配列番号1の塩基配列からなるプライマー及び配列番号2の塩基配列からなるプライマーを用いてPCRで増幅されるDNA領域」の長さに基づき、渋皮剥皮性を判定することは、上記増幅されるDNA領域の長さを検出するためのプライマーセットを用いて、被験クリ属植物のDNAを増幅する工程、並びにDNA増幅産物の増幅長に基づき、渋皮剥皮性を判定する工程を含むものであってもよい。DNA増幅産物の増幅長に基づき、渋皮剥皮性を判定する工程は、例えば、1対の相同染色体の両方において、DNA増幅産物の増幅長が、易渋皮剥皮性品種と比較して、同一又は違いが1塩基長分のみである場合に上記クリ属植物は易渋皮剥皮性であると判定することを含むものであってよく、DNA増幅産物の増幅長に基づき、渋皮剥皮性を判定する工程が、1対の相同染色体の両方において、DNA増幅産物の増幅長が、易渋皮剥皮性品種と比較して同一である場合に、上記クリ属植物は易渋皮剥皮性であると判定することを含むものであってもよい。
【0036】
各プライマーの長さは、目的のDNA領域を増幅可能である限り特に制限されないが、例えば、15塩基~50塩基、18塩基~50塩基、19塩基~45塩基、20塩基~40塩基、20塩基~30塩基等であってよく、各プライマーにおけるクリ属植物のゲノム配列に基づく配列は、10塩基~30塩基、15塩基~25塩基、18塩基~20塩基等であってもよい。
【0037】
「配列番号1の塩基配列からなるプライマー及び配列番号2の塩基配列からなるプライマーを用いてPCRで増幅されるDNA領域」の長さを検出するためのプライマーセットは、例えば、配列番号1に示す配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー、及び配列番号2に示す配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマーを含むものであってよく、配列番号1に示す配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を3’末端側に有するヌクレオチドからなるプライマー、及び配列番号2に示す配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を3’末端側に有するヌクレオチドからなるプライマーを含むプライマーセットであってもよい。
【0038】
配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4又は配列番号5の配列に対する配列同一性は、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、又は100%であってもよい。また、配列番号1と90%以上の配列同一性を有する塩基配列及び/又は配列番号2と90%以上の配列同一性を有する塩基配列は、例えば、19塩基長~21塩基長であってよく、20塩基長であってもよい。また、各プライマーは、特定の配列である塩基配列、又はその3’末端若しくは5’末端に0~5個、1~4個、1~3個、1~2個、若しくは1個のヌクレオチド付加若しくは欠失を含む塩基配列を含むものであってもよい。
【0039】
配列番号1と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を3’末端側に有するヌクレオチドからなるプライマーは、3’末端側がこの配列になっていればよく、5’側にさらにヌクレオチド配列等を含んでいてよい。配列番号2と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を3’末端側に有するヌクレオチドからなるプライマーも同様に、3’末端側がこの配列になっていればよく、5‘側にさらにヌクレオチド配列等を含んでいてよい。例えば、フォワードプライマーは、
5’-(さらなるヌクレオチド配列等)CCACTCCTCTCAGTCCCTCA(配列番号1)-3’であってよく、
リバースプライマーは
5’-(さらなるヌクレオチド配列等)CAGTCGGTTTTGGCCTTTGG(配列番号2)-3’
であってもよい。
【0040】
さらなるヌクレオチド配列は、クリ属植物のゲノム配列に基づくものであってもよく、ゲノム配列と無関係の配列であってもよい。さらなるヌクレオチド配列を有するプライマーを用いた場合には、さらなるヌクレオチド配列の分増幅産物の長さが長くなる。例えば、配列番号3に示すフォワードヌクレオチドからなるプライマー及び配列番号4に示すヌクレオチドからなるリバースプライマーを用いた場合、それぞれクリ属ゲノム配列よりもユニバーサル配列の20bp及びpig-tail配列の7bp分長いため、増幅産物の長さもクリ属ゲノム配列より27bp分長くなる。
【0041】
本実施形態において、クリ属植物のDNAを増幅する際のDNA増幅反応としては、特に制限されないが、例えば、非等温条件下での増幅反応であるPCR法や、これを応答したリアルタイムPCR法等であってよい。例えば、被験クリ属植物からDNA抽出し、そのDNAを鋳型としてプライマーセットを用いてPCR法によりDNA断片を増幅することであってよい。DNAはクリ属植物の葉等から常法により抽出することができる。DNA増幅反応を行う際の反応液組成、温度サイクル条件の温度及び反応時間等は、核酸増幅法の種類、プライマーのTm値、使用する機器の仕様等を考慮して当業者が適宜設定することができる。PCR法の場合、例えば、反応液は、鋳型及び上記プライマーセット、DNAポリメラーゼの他、デオキシヌクレオシド三リン酸(dNTP)、マグネシウムイオン、1以上の塩類、トリスバッファ(Tris-HCL)、EDTA、グリセロール及びpHバッファからなる群から選択される1以上を含んでいてもよい。また、例えば、90℃~98℃で5秒~180秒間の変性工程の後、55℃~68℃で10秒~60秒間のアニーリング工程、70℃~75℃で30秒~700秒の伸長工程を1サイクルとして、20サイクル~50サイクル行う条件で核酸増幅反応を実施してもよい。「配列番号1の塩基配列からなるプライマー及び配列番号2の塩基配列からなるプライマーを用いてPCRで増幅されるDNA領域」が増幅していることは、例えば、アガロースゲル電気泳動、フラグメント解析、DNAシーケンシングにより確認できる。増幅したDNA断片の長さは、例えば、分子量マーカーとの比較や、DNAシーケンシングにより確認することができる。
【0042】
各プライマーは、分光学的手段、光化学的手段、生化学的手段、免疫化学的手段、又は化学的手段により検出可能な標識を有するものであってもよい。検出可能な標識としては、例えば、標識アビジン(例えば、蛍光標識ストレプトアビジン)で検出するビオチン、ハプテン、蛍光色素(例えば、フルオレセイン、テキサスレッド及びローダミン)、電子密度試薬、酵素(例えば、ホースラディッシュペルオキシダーゼ及びアルカリホスファターゼ)、及び放射性同位元素(例えば、32P、H、14C及び125I)が挙げられる。標識は、例えば、プライマーの配列番号1と90%以上の配列同一性を有する塩基配列又は配列番号2と90%以上の配列同一性を有する塩基配列よりも5’末側に標識を有していてもよく、リンカーを介して標識されていてもよい。
【0043】
DNA増幅産物の増幅長に基づき、渋皮剥皮性を判定する工程は、上述したように渋皮剥皮性を判定する工程である。判定はヒトが行ってもよいし、ソフトウェアや機器が行うように設定してもよい。本実施形態の方法は、さらに、判定結果を表示する工程を含んでもよい。判定を行うのはソフトウェアや機器である場合には、判定結果はPC又は機器の画面上に表示されてもよい。
【0044】
<クリ属植物の作出方法>
本発明は、一実施形態として、上述した判定方法により渋皮剥皮性を判定することを含む、クリ属植物の作出方法も提供する。クリ属植物の作出方法は、さらに、易渋皮剥皮性であると判定されたクリ属植物を選抜することを含んでもよい。上述したように、易渋皮剥皮性は単一遺伝子座における劣性の主働遺伝子pによって支配されており、これがホモ型(pp)となった場合に易渋皮剥皮性となる。ホモ型ppを有するクリ属植物を選抜することで、易渋皮剥皮性のクリ属植物を作出することができる。判定する対象であるクリ属植物は、交配後代クリ属植物であってよく、ニホングリ又はニホングリに由来するクリ属植物の交配後代クリ属植物であってもよい。交配後代クリ属植物は、相同染色体の少なくとも一方にpを含む(すなわち、ホモ型pp又はヘテロ型Pp)クリ属植物を交配することにより得られた雑種第1代(F)であってもよく、さらなる交配により得られた雑種第2代(F)以降の植物、例えば、F、Fであってもよく、例えば、Fを易渋皮剥皮性であるクリ属植物と戻し交配をした第1代(BC)であってもよく、さらに戻し交配をした第2代(BC)以降の植物であってもよい。
【0045】
本作出方法は、例えば、易渋皮剥皮性のクリ属植物と易渋皮剥皮性のクリ属植物を交配することを含んでもよく、易渋皮剥皮性のクリ属植物と難渋皮剥皮性のクリ属植物(ヘテロ型Pp)を交配することを含んでもよく、難渋皮剥皮性のクリ属植物(ヘテロ型Pp)と難渋皮剥皮性のクリ属植物(ヘテロ型Pp)を交配することを含んでもよい。易渋皮剥皮性のクリ属植物及び難渋皮剥皮性のクリ属植物としては、既に渋皮剥皮性は分かっている品種を用いてもよいし、上述した方法により渋皮剥皮性を判定したクリ属植物を用いてもよい。また、選抜した後、さらに交配をしてもよい。例えば、より優れた形質を有する交配後代植物を得るために、例えば、近親交配、戻し交配及び連続戻し交配等を行ってもよい。例えば、選抜した易渋皮剥皮性のクリ属植物植物をさらに易渋皮剥皮性のクリ属植物又は難渋皮剥皮性のクリ属植物(ヘテロ型Pp)と交配してもよい。
【0046】
本実施形態による方法により、クリ属植物、特に易渋皮剥皮性のクリ属植物を得ることができる。このクリ属植物が実生等である場合には、さらに生長させることで果実又は種子等を得ることもできる。
【0047】
本実施形態に係るに作出方法おける具体的な態様等は、判別方法の説明を含む、上述した具体的な態様等を制限なく適用できる。
【0048】
<クリ属植物の渋皮剥皮性判定用プライマーセット>
本発明は、一実施形態として、クリ属植物のDNAにおける、配列番号1の塩基配列からなるプライマー及び配列番号2の塩基配列からなるプライマーを用いてPCRで増幅されるDNA領域の長さを検出するための、クリ属植物の渋皮剥皮性判定用プライマーセットも提供する。そのようなプライマーセットとしては、上述した具体的な態様等を制限なく適用できる。例えば、プライマーセットは、配列番号1と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマー、及び配列番号2と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドからなるプライマーを含むものであってよく、検出可能な標識(例えば、蛍光色素)を有するプライマーをさらに含むものであってもよい。この場合、フォワードプライマーにおけるゲノム配列に相補的な配列(例えば、配列番号1と90%以上の配列同一性を有する塩基配列)又はリバースプライマーにおけるゲノム配列に相補的な配列(例えば、配列番号2と90%以上の配列同一性を有する塩基配列)よりも5’末側に、当該検出可能な標識を含んでいてもよい。配列番号1及び配列番号2に対する配列同一性は、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上であってもよい。
【0049】
プライマーセットを使用したDNA増幅方法、渋皮剥皮性判定方法については、上述したとおりである。その他、本実施形態に係るにおける具体的な態様等も、判別方法の説明を含む、上述した具体的な態様等を制限なく適用できる。
【実施例0050】
[参考例 ニホングリ渋皮剥皮性の既存マーカー]
図1に「ぽろたん」、「丹沢」、「国見」及び「石鎚」の関係、渋皮剥皮性の表現型及び遺伝子型を示す。既存マーカーとしては、PRD52及びPRD58(非特許文献2)を用い、以下のように遺伝子型解析を行った。なお、図2に、渋皮剥皮性を制御する遺伝子座であるpeelingと既存マーカー(PRD52、PRD58)の位置関係を示す。
【0051】
ニホングリの品種「ぽろたん」、「奴」、「丹沢」、「国見」、「筑波」及び「石鎚」の葉からDNAを抽出した。DNA抽出は、DNeasy Plant Mini Kit(QIAGEN社)を用いて行った。
【0052】
各品種から抽出したDNAを用い、非特許文献2に記載の条件下でPCR法によりDNA増幅を実施した。プライマーセットは、非特許文献2に記載のPRD52プライマーセット及びPRD58プライマーセットを増幅産物の安定の観点から若干改変したものを用いた。なお、用いた各プライマーセットがターゲットとする反復領域は、非特許文献2に記載のPRD52プライマーセット及びPRD58プライマーセットと同一である。
【0053】
得られたDNA増幅産物と渋皮剥皮性の表現型及び遺伝子型との関係を以下の表1に示す。増幅産物長においてスラッシュで区切られ2つの数値が記載されているのは、1対の相同染色体のうちのそれぞれの相同染色体における増幅産物長を意味する。
【0054】
【表1】
【0055】
表1において、例えば、PRD52を用いた場合に、易剥皮性である「ぽろたん」と難剥皮性である「丹沢」の増幅産物長が同じである。また、例えば、PRD58を用いた場合に、「ぽろたん」と「奴」で増幅産物長が異なっている。このように、PRD52及びPRD58のいずれのプライマーセットを用いた場合にも、表現型と増幅産物長が対応していないことが分かった。
【0056】
[実施例1 新規プライマーセット(1)]
新規マーカー(CmSca06716)、すなわち配列番号1のフォワードプライマー及び配列番号2のリバースプライマーの5’末端に、ユニバーサル配列及びpig-tail配列をそれぞれ付加したプライマーセットを作製し、以下のように遺伝子型解析を行った。なお、図2に、peeling遺伝子座と新規マーカーの位置関係を示す。既存マーカーと比較して、新規マーカーはpeeling遺伝子座に非常に近い位置に存在することが分かる。
【0057】
ニホングリの品種「ぽろたん」、「奴」、「丹沢」、「国見」、「筑波」及び「石鎚」から参考例と同様にDNAを抽出した。
【0058】
SSR-PCR解析は、Schuelke M et al. Nat Biotechnol(2000)18:233-234の方法を参考にし、nested-PCRにて行った。2.5μLの2×GoTaq G2 Hot Start Green Master Mix(Promega社)、配列番号1の配列の5’末端にユニバーサル配列(配列番号5)を付与した0.3μMのフォワードプライマー(配列番号3)、配列番号2の5’末端にpig-tail配列を付与した0.5μMのリバースプライマー(配列番号4)、6-FAM蛍光でラベルした0.2μMのユニバーサルプライマー、約2ngのDNAを含む、合計5μLの反応系で行った。Schuelke(2000)の論文では、M13(-21)配列がユニバーサル配列として用いられているが、改変した20-bpの配列をユニバーサル配列(5’-GCTACGGACTGACCTCGGAC-3’ 配列番号5)として用いた。リバースプライマーの5’末端に付与されたpig-tail配列(Brownstein et al.,BioTechniques(1996)20:1004-1010, 5’-GTTTCTT-3’)は、ジェノタイピングを安定化させるためのものである。PCR システム GeneAmp PCR System 9700 を用いて、以下のプログラムで、PCR反応を行った。
・95°C2分(初期変性)。
・95°C30秒(変性)、55°C30秒(アニーリング)、72°C45秒(伸長)の反応を、40サイクル。
・72°C5分(最終伸長)の反応後、4°Cで保持する。
【0059】
得られた増幅産物は、DNAシーケンサーで分析した。Applied Biosystems 3130xl Genetic Analyzerのプロトコールに従い、36cmキャピラリー、POP-7ポリマー、内部標準(400 HD ROX)、専用のバッファー(Genetic Analyzer Buffer with EDTA)を用いて、泳動した。GeneMapperソフトウェアを用いて、遺伝子型を判定した。
【0060】
得られたDNA増幅産物と渋皮剥皮性の表現型及び遺伝子型との関係を以下の表2に示す。なお、フォーワードプライマーに20bpのユニバーサル配列、リバースプライマーに7bpのpig-tail配列を付与しているため、増幅産物における実際のゲノム配列の長さは、増幅産物長から27bpを引いた長さとなる。
【0061】
【表2】
【0062】
上記プライマーセットを用いた394bpの増幅産物(実際のゲノム配列の長さは367bp)が渋皮剥皮性の主働遺伝子pと対応していることが分かった。
【0063】
同様に他のニホングリの品種についても解析を行った。394bpの増幅産物の増幅の有無に基づき、増幅産物長タイプと、遺伝子型及び渋皮剥皮性との関係を以下の表3に示す。増幅産物長タイプは、1対の相同染色体の両方において394bpの増幅産物が確認された品種を「394ホモ」、1対の相同染色体の片方において394bpの増幅産物が確認された品種を「394ヘテロ」、1対の相同染色体のいずれにおいても394bpの増幅産物が確認されなかった品種を「394を増幅しない」と記載している。
【0064】
【表3】
【0065】
このように、この新規マーカーにより、渋皮剥皮性の遺伝子型を推定することが可能となり、易渋皮剥皮性のクリ属植物を高精度に選抜可能となったことが示された。
【0066】
[実施例2 新規プライマーセット(2)]
新規マーカー(CmSca06716)のプライマーセットを設計し、遺伝子型解析を行った。ニホングリの各品種のDNAは参考例と同様に抽出した。
2.5μLの2×GoTaq G2 Hot Start Green Master Mix(Promega社)、配列番号1の配列の5’末端に蛍光色素を付与した0.4μMのフォワードプライマー、配列番号2の配列からなる0.4μMのリバースプライマー、約2ngのDNAを含む、合計5μLの反応系で行った。PCR システム GeneAmp PCR System 9700 を用いて、以下のプログラムで、PCR反応を行った。
・95°C2分(初期変性)。
・95°C30秒(変性)、55°C30秒(アニーリング)、72°C45秒(伸長)の反応を、40サイクル。
・72°C5分(最終伸長)の反応後、4°Cで保持する。
【0067】
得られた増幅産物を、実施例2と同様にDNAシーケンサーで分析し、GeneMapperソフトウェアを用いて、遺伝子型を判定した。
【0068】
得られたDNA増幅産物と表現型及び遺伝子型との関係は実施例2の表2及び3と同様であった。なお、本実施例のプライマーセットを用いた場合の増幅産物は、表2及び3に記載の増幅産物長から27bpを引いた長さとなる。
【0069】
このように、この新規マーカーにより、渋皮剥皮性の遺伝子型を推定することが可能となり、易渋皮剥皮性のクリ属植物を高精度に選抜可能となったことが示された。
図1
図2
【配列表】
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