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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024010404
(43)【公開日】2024-01-24
(54)【発明の名称】臭気変調剤、及び臭気変調方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 9/01 20060101AFI20240117BHJP
   A61F 5/441 20060101ALI20240117BHJP
   A61F 5/445 20060101ALI20240117BHJP
【FI】
A61L9/01 H
A61F5/441
A61F5/445
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111726
(22)【出願日】2022-07-12
(71)【出願人】
【識別番号】000151966
【氏名又は名称】株式会社桃谷順天館
(71)【出願人】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100171310
【弁理士】
【氏名又は名称】日東 伸二
(72)【発明者】
【氏名】瓜野 松雄
(72)【発明者】
【氏名】高橋 智彦
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼井 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】高橋 秀依
(72)【発明者】
【氏名】牧野 宏章
(72)【発明者】
【氏名】荒木 拡嗣
(72)【発明者】
【氏名】石丸 熙
(72)【発明者】
【氏名】外▲崎▼ 遼太
【テーマコード(参考)】
4C098
4C180
【Fターム(参考)】
4C098AA09
4C098CC31
4C180AA03
4C180AA05
4C180BB15
4C180CB01
4C180EB06Y
4C180EB07X
4C180EB08X
4C180EB12X
4C180EC01
4C180EC02
4C180MM10
(57)【要約】
【課題】腫瘍、褥瘡、又はストーマに起因する臭気に対する患者の周囲の作業者の不快感のみならず、患者自身の不快感をも解消し得る臭気変調剤を提供する。
【解決手段】腫瘍、褥瘡、又はストーマからの臭気を変調する臭気変調剤であって、(A)エステル化合物、(B)ラクトン化合物、及び(C)テルペン化合物からなる群から選択される少なくとも二種を含有し、アルデヒド化合物を実質的に含有しない臭気変調剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
腫瘍、褥瘡、又はストーマからの臭気を変調する臭気変調剤であって、
(A)エステル化合物、(B)ラクトン化合物、及び(C)テルペン化合物からなる群から選択される少なくとも二種を含有し、
アルデヒド化合物を実質的に含有しない臭気変調剤。
【請求項2】
前記(A)エステル化合物は、ヘキサン酸アリル、オクタン酸エチル、アントラニル酸メチル、及び酢酸イソアミルからなる群から選択される少なくとも一種である請求項1に記載の臭気変調剤。
【請求項3】
前記(A)エステル化合物の含有量は、25~55質量%である請求項1又は2に記載の臭気変調剤。
【請求項4】
前記(B)ラクトン化合物は、γ-ウンデカラクトンである請求項1に記載の臭気変調剤。
【請求項5】
前記(B)ラクトン化合物の含有量は、0.001~30質量%である請求項1又は4に記載の臭気変調剤。
【請求項6】
前記(C)テルペン化合物は、リナロール及び/又は1,8-シネオールである請求項1に記載の臭気変調剤。
【請求項7】
前記(C)テルペン化合物の含有量は、0.001~45質量%である請求項1又は6に記載の臭気変調剤。
【請求項8】
(D)フラン化合物をさらに含有する請求項1、2、4又は6に記載の臭気変調剤。
【請求項9】
腫瘍、褥瘡、又はストーマからの臭気を変調する臭気変調方法であって、
請求項1、2、4又は6に記載の臭気変調剤を患者の体表面に接触させる臭気変調方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍、褥瘡等の疾患部、又はストーマからの臭気を変調する臭気変調剤、及び臭気変調方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、日常生活において、腫瘍、嘔吐物等を発生源とする臭気が問題となっている。これらの臭気は、臭気発生源の取扱者、介護者といった作業者に不快感を与えることから、作業環境の悪化に繋がる。このため、これらの臭気に対して作業者が知覚する臭気を変調する臭気変調剤が使用されている。
【0003】
この種の臭気変調剤として、例えば、エステル類、アルデヒド類、アルコール類、及びピラン類を含有する臭気変調剤が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-213676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
作業者に不快感を与える臭気の中には、腫瘍の他に褥瘡といった疾患部も存在し、また、ストーマ(人工肛門)といった治療具由来の臭気も存在している。これら治療具由来の臭気、及び上記疾患部に起因する臭気は、作業者(看護師、介助者、介護者等)のみならず、臭気の発生源である患者自身にも不快感を与えることになる。
【0006】
しかし、特許文献1の臭気変調剤は、腫瘍、褥瘡、ストーマといった臭気による不快感を十分に解消し得るとはいい難く、また、臭気の発生源である患者自身の不快感に着目したものでもない。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、腫瘍、褥瘡、又はストーマに起因する臭気に対する患者の周囲の作業者の不快感のみならず、患者自身の不快感をも解消し得る臭気変調剤、及び臭気変調方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明に係る臭気変調剤の特徴構成は、
腫瘍、褥瘡、又はストーマからの臭気を変調する臭気変調剤であって、
(A)エステル化合物、(B)ラクトン化合物、及び(C)テルペン化合物からなる群から選択される少なくとも二種を含有し、
アルデヒド化合物を実質的に含有しないことにある。
【0009】
本構成の臭気変調剤によれば、上記(A)~(C)の化合物のうち少なくとも二種を含有する一方、アルデヒド化合物を実質的に含有しないことによって、腫瘍、褥瘡、又はストーマからの臭気を、患者の周囲の作業者のみならず患者自身にも不快感を解消し得るような臭気に変調し得る。これにより、患者の周囲の作業者は患者に対して快適に作業を行うことができ、患者自身のQOL(Quality of Life)も向上し得るものとなる。
【0010】
本発明に係る臭気変調剤において、
前記(A)エステル化合物は、ヘキサン酸アリル、オクタン酸エチル、アントラニル酸メチル、及び酢酸イソアミルからなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0011】
本構成の臭気変調剤によれば、(A)エステル化合物が上記特定の化合物であることによって、腫瘍、褥瘡、又はストーマからの臭気をより高いレベルで変調することができるため、上記患者の周囲の作業者のみならず患者自身の不快感をもより高いレベルで解消し得る。
【0012】
本発明に係る臭気変調剤において、
前記(A)エステル化合物の含有量は、25~55質量%であることが好ましい。
【0013】
本構成の臭気変調剤によれば、(A)エステル化合物の含有量が上記範囲内であることによって、臭気の変調効果が確実に得られるとともに、エステル化合物自体の香りも抑えられるため、上記患者の周囲の作業者のみならず患者自身の不快感をもより高いレベルで解消し得る。
【0014】
本発明に係る臭気変調剤において、
前記(B)ラクトン化合物は、γ-ウンデカラクトンであることが好ましい。
【0015】
本構成の臭気変調剤によれば、(B)ラクトン化合物が上記特定の化合物であることによって、腫瘍、褥瘡、又はストーマからの臭気をより高いレベルで変調することができるため、上記患者の周囲の作業者のみならず患者自身の不快感をもより高いレベルで解消し得る。
【0016】
本発明に係る臭気変調剤において、
前記(B)ラクトン化合物の含有量は、0.001~30質量%であることが好ましい。
【0017】
本構成の臭気変調剤によれば、(B)ラクトン化合物の含有量が上記範囲内であることによって、臭気の変調効果が確実に得られるとともに、ラクトン化合物自体の香りも抑えられるため、上記患者の周囲の作業者のみならず患者自身の不快感をもより高いレベルで解消し得る。
【0018】
本発明に係る臭気変調剤において、
前記(C)テルペン化合物は、リナロール及び/又は1,8-シネオールであることが好ましい。
【0019】
本構成の臭気変調剤によれば、(C)テルペン化合物が上記特定の化合物であることによって、腫瘍、褥瘡、又はストーマからの臭気をより高いレベルで変調することができるため、上記患者の周囲の作業者のみならず患者自身の不快感をもより高いレベルで解消し得る。
【0020】
本発明に係る臭気変調剤において、
前記(C)テルペン化合物の含有量は、0.001~45質量%であることが好ましい。
【0021】
本構成の臭気変調剤によれば、(C)テルペン化合物の含有量が上記範囲内であることによって、臭気の変調効果が確実に得られるとともに、テルペン化合物自体の香りも抑えられるため、上記患者の周囲の作業者のみならず患者自身の不快感をもより高いレベルで解消し得る。
【0022】
本発明に係る臭気変調剤において、
(D)フラン化合物をさらに含有することが好ましい。
【0023】
本構成の臭気変調剤によれば、(D)フラン化合物をさらに含有することによって、腫瘍、褥瘡、又はストーマからの臭気をより高いレベルで変調することができるため、上記患者の周囲の作業者のみならず患者自身の不快感をもより高いレベルで解消し得る。
【0024】
上記課題を解決するための本発明に係る臭気変調方法の特徴構成は、
腫瘍、褥瘡、又はストーマからの臭気を変調する臭気変調方法であって、
上述した当該臭気変調剤を患者の体表面に接触させることにある。
【0025】
本構成の臭気変調方法によれば、上述した当該臭気変調剤を患者の体表面に接触させることによって、上述したように、腫瘍、褥瘡、又はストーマに起因する臭気に対する患者の周囲の作業者の不快感のみならず、患者自身の不快感をも解消し得る。これにより、患者の周囲の作業者は患者に対して快適に作業を行うことができ、患者自身のQOLも向上し得るものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の臭気変調剤、及び臭気変調方法の実施形態について、以下に説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態に記載される構成に限定されることを意図しない。なお、本明細書において数値範囲を示す表記「~」がある場合、その数値範囲には、「~」を挟む各数値が上限値及び下限値として含まれることを意味し、また、各上限値及び各下限値を適宜組み合わせて数値範囲としてもよい。
【0027】
[臭気変調剤]
本実施形態の臭気変調剤は、腫瘍、褥瘡、又はストーマからの臭気を変調する臭気変調剤である。当該臭気変調剤は、(A)エステル化合物、(B)ラクトン化合物、及び(C)テルペン化合物からなる群から選択される少なくとも二種を含有し、アルデヒド化合物を実質的に含有しないものである。
【0028】
アルデヒド化合物を実質的に含有しない当該臭気変調剤の態様としては、上記三種の化合物のうち、(A)エステル化合物と(B)ラクトン化合物との二種を含有する態様(態様1)、(A)エステル化合物と(C)ラクトン化合物との二種を含有する態様(態様2)、(B)ラクトン化合物と(C)テルペン化合物との二種を含有する態様(態様3)、(A)エステル化合物と(B)ラクトン化合物と(C)テルペン化合物との三種を含有する態様(態様4)が挙げられる。
【0029】
「アルデヒド化合物を実質的に含有しない」とは、当該臭気変調剤の臭気の変調性に悪影響を及ぼさないような量のアルデヒド化合物を含有しないことを意味し、どのような場合においてもアルデヒド化合物の含有量が厳密に0%であることを意図するものではない。例えば、意図せずして極微量のアルデヒド化合物を含有することになった場合や、意図的に極微量のアルデヒド化合物を含有させたとしても当該臭気変調剤としての作用を奏しない場合は、実質的にアルデヒド化合物を含有しない臭気変調剤とみなす。意図せずして極微量のアルデヒド化合物を含有することとなった場合の例としては、臭気変調剤の製造設備において、以前にアルデヒド化合物を含有する別の製品を製造していた場合、容器や配管に付着していた極微量のアルデヒド化合物がコンタミとして臭気変調剤に混入するケースや、製造室内の空気中に浮遊又は揮散していたアルデヒド化合物の微粒子が製造中の臭気変調剤に付着するケース等が挙げられる。このような場合は、アルデヒド化合物を極微量含むものであっても、実質的にアルデヒド化合物を含有しない臭気変調剤として取り扱う。
【0030】
本実施形態の臭気変調剤によれば、上記(A)~(C)の化合物のうち少なくとも二種を含有する一方、アルデヒド化合物を実質的に含有しないことによって、腫瘍、褥瘡、又はストーマからの臭気を、患者の周囲の作業者のみならず患者自身にも不快感を解消し得るような臭気に変調し得る。これにより、患者の周囲の作業者は患者に対して快適に作業を行うことができ、患者自身のQOLも向上し得るものとなる。以下、化合物(A)~(C)の具体例、及びその他含み得る成分について説明する。
【0031】
<(A)エステル化合物>
(A)エステル化合物は、分子構造内にエステル結合を有する有機化合物であれば特に限定されず、例えば、ヘキサン酸エステル、オクタン酸エステル、アントラニル酸エステル、酢酸エステル、プロピオン酸エステル、酪酸エステル、イソ酪酸エステル、蟻酸エステル、ペンタン酸エステル、ヘプタン酸エステル等が挙げられる。これらのうち、ヘキサン酸エステル、オクタン酸エステル、アントラニル酸エステル、酢酸エステルが好ましい。ヘキサン酸エステルとしてはヘキサン酸アリルが好ましく、オクタン酸エステルとしてはオクタン酸エチルが好ましく、アントラニル酸エステルとしてはアントラニル酸メチルが好ましく、酢酸エステルとしては酢酸イソアミルが好ましい。(A)エステル化合物は、上記化合物を単独で使用することができるが、二種以上の混合物として使用することもできる。
【0032】
(A)エステル化合物が上記特定の化合物であることによって、腫瘍、褥瘡、又はストーマからの臭気をより高いレベルで変調することができるため、上記患者の周囲の作業者のみならず患者自身の不快感をもより高いレベルで解消し得る。
【0033】
当該臭気変調剤中の(A)エステル化合物の含有量は、適宜設定することができ、例えば25~55質量%であることが好ましく、35~55質量%がより好ましく、40~55質量%がさらに好ましい。
【0034】
(A)エステル化合物の含有量が上記範囲内であることによって、臭気の変調効果が確実に得られるとともに、エステル化合物自体の香りも抑えられるため、上記患者の周囲の作業者のみならず患者自身の不快感をもより高いレベルで解消し得る。
【0035】
<(B)ラクトン化合物>
(B)ラクトン化合物は、分子構造内にラクトン構造(すなわち、環状エステル構造)を有する有機化合物であれば特に限定されず、例えばγ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-ヘプタラクトン、γ-ヘキサラクトン、γ-オクタラクトン、γ-ノナラクトン、γ-デカラクトン、γ-ウンデカラクトン、γ-ドデカラクトン、δ-バレロラクトン、δ-ヘプタラクトン、δ-ヘキサラクトン、δ-オクタラクトン、δ-ノナラクトン、δ-デカラクトン、δ-ウンデカラクトン、δ-ドデカラクトン、δ-トリデカラクトン、δ-テトラデカラクトン、δ-ヘキサデカラクトン、δ-オクタデカラクトン、ε-デカラクトン、ε-ドデカラクトン等が挙げられる。これらのうち、γ-ウンデカラクトンが好ましい。(B)ラクトン化合物は、上記化合物を単独で使用することができるが、二種以上の混合物として使用することもできる。
【0036】
(B)ラクトン化合物が上記特定の化合物であることによって、腫瘍、褥瘡、又はストーマからの臭気を高いレベルで変調することができるため、上記患者の周囲の作業者のみならず患者自身の不快感をも高いレベルで解消し得る。
【0037】
当該臭気変調剤中の(B)ラクトン化合物の含有量は、適宜設定することができ、例えば0.001~30質量%であることが好ましく、1~25質量%がより好ましく、2~10質量%がさらに好ましい。
【0038】
(B)ラクトン化合物の含有量が上記範囲内であることによって、臭気の変調効果が確実に得られるとともに、ラクトン化合物自体の香りも抑えられるため、上記患者の周囲の作業者のみならず患者自身の不快感をもより高いレベルで解消し得る。
【0039】
<(C)テルペン化合物>
(C)テルペン化合物は、分子構造内にテルペノイド骨格を有する有機化合物であれば特に限定されず、例えばα-ピネン、β-ミルセン、β-リモネン、β-イオノン、リナロール、1,8-シネオール、ゲラニオール、シトロネロール等が挙げられる。これらのうち、リナロール、1,8-シネオールが好ましい。(C)テルペン化合物は、上記化合物を単独で使用することができるが、二種以上の混合物として使用することもできる。
【0040】
(C)テルペン化合物が上記特定の化合物であることによって、腫瘍、褥瘡、又はストーマからの臭気をより高いレベルで変調することができるため、上記患者の周囲の作業者のみならず患者自身の不快感をもより高いレベルで解消し得る。
【0041】
当該臭気変調剤中の(C)テルペン化合物の含有量は、0.001~45質量%であることが好ましく、2~10質量%がより好ましい。
【0042】
(C)テルペン化合物の含有量が上記範囲内であることによって、臭気の変調効果が確実に得られるとともに、テルペン化合物自体の香りも抑えられるため、上記患者の周囲の作業者のみならず患者自身の不快感をもより高いレベルで解消し得る。
【0043】
<その他の成分>
当該臭気変調剤は、(A)エステル化合物、(B)ラクトン化合物、及び(C)テルペン化合物以外の他の成分を含有してもよい。このような他の成分としては、例えば(D)フラン化合物が挙げられ、その他に天然香料、合成香料、溶媒等が挙げられる。
【0044】
・(D)フラン化合物
(D)フラン化合物は、分子構造内にフラン骨格を有する有機化合物であれば特に限定されず、例えば、フラネオール、フルフラール、5-メチルフルフラール、フルフリルメルカプタン、フルフリルアルコール、2-プロピオニルフラン、2-エチルフラン、2-メチル-3-フランチオール、2-メチル-3-テトラヒドロフランチオール等が挙げられる。これらのうち、フラネオールが好ましい。(D)フラン化合物は、上記化合物を単独で使用することができるが、二種以上の混合物として使用することもできる。
【0045】
当該臭気変調剤が(D)フラン化合物をさらに含有することによって、腫瘍、褥瘡、又はストーマからの臭気をより高いレベルで変調することができるため、上記患者の周囲の作業者のみならず患者自身の不快感をも高いレベルで解消し得る。また、(D)フラン化合物がフラネオールであることによって、腫瘍、褥瘡、又はストーマからの臭気をさらに高いレベルで変調することができるため、上記患者の周囲の作業者のみならず患者自身の不快感をもさらに高いレベルで解消し得る。
【0046】
当該臭気変調剤中の(D)フラン化合物の含有量は、0.001~10質量%であることが好ましく、0.1~5質量%がより好ましい。
【0047】
(D)フラン化合物の含有量が上記範囲内であることによって、臭気の変調効果が確実に得られるとともに、フラン化合物自体の香りも抑えられるため、上記患者の周囲の作業者のみならず患者自身の不快感をもより高いレベルで解消し得る。
【0048】
・天然香料
天然香料は、天然物から抽出される香料であればよく、特に限定されるものではない。天然香料は、精油、コールドプレスオイル、エキス、エッセンス等の形態で使用することができる。当該臭気変調剤中の天然香料の含有量は、当該臭気変調剤の臭気変調性能を妨げない程度において適宜設定することができ、0.01~50質量%であることが好ましい。天然香料の含有量が上記範囲内であることにより、当該臭気変調剤によって臭気が変調された雰囲気を賦香することができる。天然香料は、一種を単独で使用することができるが、二種以上の混合物として使用することもできる。
【0049】
・合成香料
合成香料は、化学合成された香料であればよく、特に限定されるものではない。合成香料は、精油、コールドプレスオイル、エキス、エッセンス等の形態で使用することができる。当該臭気変調剤中の合成香料の含有量は、当該臭気変調剤の臭気変調性能を妨げない程度において適宜設定することができ、0.01~50質量%であることが好ましい。合成香料の含有量が上記範囲内であることにより、当該臭気変調剤によって臭気が変調された雰囲気を賦香することができる。合成香料は、一種を単独で使用することができるが、二種以上の混合物として使用することもできる。
【0050】
・溶媒
当該臭気変調剤は、溶媒を含有し、当該臭気変調剤に含まれる上記各成分が溶媒中に分散又は溶解していることが好ましい。上記各成分が溶媒中に分散又は溶解していることにより、上記臭気変調剤を複数回に小分けして人体の表面に適用する際、一回当たりの上記各成分の適用量のバラツキを抑制する(すなわち、比較的均一にする)ことができる。これにより、当該臭気変調剤の臭気変調性能を安定して発揮させることができる。また、保存後、各適用時に当該臭気変調剤を振とうする等の作業が不要となるため、臭気変調剤を散布、塗布、噴霧等することが容易となる。
【0051】
溶媒としては、水、有機溶剤等を用いることができるが、上記各成分との相溶性に優れる点で、有機溶剤が好ましい。有機溶剤としては、例えばエタノール等の一価アルコール、多価アルコール等を用いることができる。
【0052】
多価アルコールとしては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール等が挙げられる。これらのうち、上記各成分との相溶性に優れ、有害性が低い点で、ジプロピレングリコールが好ましい。
【0053】
溶媒は、一種を単独で使用することができるが、二種以上の混合物として使用することもできる。
【0054】
当該臭気変調剤中の溶媒の含有量は、1~60質量%であることが好ましく、20~50質量%がより好ましく、35~45質量%がさらに好ましい。溶媒の含有量が上記範囲内であることによって、当該臭気変調剤中に上記各成分を比較的均一に分散又は溶解させることができるため、上述したように、当該臭気変調剤の臭気変調性能を安定して発揮させることができ、また、臭気変調剤を散布、塗布、噴霧等することが容易となる。
【0055】
<アルデヒド化合物を実質的に含有しない>
当該臭気変調剤は、アルデヒド化合物を実質的に含有しない。アルデヒド化合物は、アルデヒド基を有する有機化合物であり、臭気を発する物質である。当該臭気変調剤は、上述した(A)エステル化合物と、(B)ラクトン化合物と、(C)テルペン化合物とからなる群から選択される少なくとも二種以上を含有することに加えて、アルデヒド化合物を含有しないことによって、腫瘍、褥瘡、又はストーマからの臭気を、患者の周囲の作業者のみならず患者自身にも不快感を解消し得るような臭気に変調し得るものとなり、同時に、アルデヒド化合物に由来する臭気も発生しない。また、当該臭気変調剤は、アルデヒド化合物を実質的に含有しないことによって、健康への悪影響が抑制されたものとなる。
【0056】
<臭気変調剤の製造方法>
当該臭気変調剤は、(A)エステル化合物と、(B)ラクトン化合物と、(C)テルペン化合物とからなる群から選択される少なくとも二種以上と、任意の他の成分とを混合することによって得ることができる。
【0057】
<対象臭気>
当該臭気変調剤は、腫瘍、褥瘡、又はストーマからの臭気を変調対象とする。これらの臭気は、トリメチルアミン、ジメチルトリスルフィド、及びイソ吉草酸を主な臭気成分(原因物質)として含有している。当該臭気変調剤は、主として、これらの臭気成分を変調することにより、上述したように不快感を軽減することができる。また、腫瘍からの臭気のうち、乳癌からの臭気に適用することが、乳癌患者の生活の質(QOL)を高めることができる点で、好ましい。
【0058】
[臭気変調方法]
本実施形態の臭気変調方法は、腫瘍、褥瘡、又はストーマからの臭気を変調する臭気変調方法であって、上述した当該臭気変調剤を、前記腫瘍、前記褥瘡、及び前記ストーマ以外の人体の表面に接触させる方法である。
【0059】
当該臭気変調方法によれば、上述した当該臭気変調剤を患者の体表面に接触させることによって、上述したように、腫瘍、褥瘡、又はストーマに起因する臭気に対する患者の周囲の作業者の不快感のみならず、患者自身の不快感をも解消し得る。
【0060】
体表面に接触させる態様としては、散布、塗布、噴霧等が挙げられる。また、体表面のうち、腫瘍、褥瘡、及びストーマに直接接触させるのではなく、これらの周囲の体表面に接触させることが好ましい。例えば、当該臭気変調剤をガーゼに染み込ませて患者の手の甲に貼付する、当該臭気変調剤を手の甲に塗布、散布、又は噴霧すること等が挙げられる。
【実施例0061】
以下、実施例を示しつつ本発明を更に詳細に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0062】
本発明の特徴構成を有する臭気変調剤(実施例1~4)を作製し、下記の評価を行った。また、比較のため、本発明の特徴構成を有しない臭気変調剤(比較例1~3)を作製し、同様の評価を行った。結果を表1~2に示す。
【0063】
[実施例1~4、比較例1~3]
表1~2に記載の配合量に従い、各成分を混合することによって、実施例1~4、及び比較例1~3の臭気変調剤を得た。なお、表1~2において、「-」は、配合しなかったことを示す。
【0064】
[臭気変調性能評価]
臭気成分として、以下の三種の臭気成分を用い、得られた実施例1~4、及び比較例1~3の臭気変調剤の臭気変調性能を評価した。臭気成分A、B、及びCは、何れも腫瘍、褥瘡、及びストーマからの臭気の主要な原因物質として含まれる臭気成分である。
臭気成分A:トリメチルアミン
臭気成分B:ジメチルトリスルフィド
臭気成分C:イソ吉草酸
【0065】
具体的には、室温下において、滅菌シャーレ内に滅菌された濾紙を置き、濾紙上に臭気成分Aを静置した後、臭気成分Aに実施例1~4、及び比較例1~3の臭気変調剤を夫々滴下(適用)した。適用直後(0分)において、滅菌シャーレの中央から上方に10cm離れた位置にて、訓練された3名の評価者が夫々臭気を嗅ぎ、下記評価基準に基づいて臭気変調性能を評価し、平均値を算出した(n=3)。評価した後、滅菌シャーレに蓋をし、適用から5分後、及び適用から30分後に夫々蓋を開けて、適用直後と同様にして、臭気変調性能を評価した。臭気成分B、及びCについても、臭気成分Aと同様にして、臭気変調性能を評価した。結果を表1~2に示す。
【0066】
(評価基準)
5:臭気成分の臭いを全く感じなかった(極めて良好)
4:臭気成分の臭いを殆ど感じなかった(良好)
3:臭気成分の臭いを多少感じた(普通)
2:臭気成分の臭いを感じた(不良)
1:臭気成分の臭いを強く感じた(極めて不良)
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
アルデヒド化合物の有無以外は同じ処方どうしで比較すると、(A)エステル化合物、及び(B)ラクトン化合物を含有し、アルデヒド化合物を含有しない実施例1の臭気変調剤は、アルデヒド化合物を含有する比較例1の臭気変調剤よりも、臭気成分Bの適用から5分後、及び30分後、並びに臭気成分Cの適用から5分後、及び30分後において、臭気変調評価に優れることが示された。
【0070】
同様に比較すると、(A)エステル化合物、(B)ラクトン化合物、及び(C)テルペン化合物を含有し、アルデヒド化合物を含有しない実施例2の臭気変調剤は、アルデヒド化合物を含有する比較例2の臭気変調剤よりも、臭気成分Bの適用直後(0分)、適用から5分後、及び30分後において、臭気変調性能に優れることが示された。
【0071】
同様に比較すると、(B)ラクトン化合物、及び(C)テルペン化合物を含有し、アルデヒド化合物を含有しない実施例3の臭気変調剤は、アルデヒド化合物を含有する比較例3の臭気変調剤よりも、臭気成分Bの適用直後(0分)、適用から5分後、及び30分後において、臭気変調性能に優れることが示された。
【0072】
実施例1~3を比較すると、(A)エステル化合物、(B)ラクトン化合物、及び(C)テルペン化合物の三種を含有する実施例2よりも、(B)ラクトン化合物、及び(C)テルペン化合物の二種を含有する実施例3の方が、臭気変調性能に優れる傾向にあり、また、この実施例3よりも、(A)エステル化合物、及び(B)ラクトン化合物の二種を含有する実施例1の方が、臭気変調性能に優れる傾向にあることが示された。
【0073】
実施例1と、実施例4とを比較すると、(D)フラン化合物の含有量が大きい実施例1の方が実施例4よりも、臭気変調性能に優れる傾向にあることが示された。なお、実施例4の配合において、さらにアルデヒド化合物を配合すると、上記と同様、実施例4よりも臭気変調性能に劣るものと推察される。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の臭気変調剤、及び臭気変調方法は、腫瘍、褥瘡、又はストーマからの臭気を変調し、患者の周囲の介護者のみならず、患者本人の不快感をも解消し得る。これにより、介護者の作業環境を改善することができるだけでなく、患者のQOLをも向上させることができる。