(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104057
(43)【公開日】2024-08-02
(54)【発明の名称】細胞老化マーカー
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20240726BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20240726BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20240726BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20240726BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20240726BHJP
C07K 14/47 20060101ALI20240726BHJP
【FI】
G01N33/68 ZNA
G01N33/53 D
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
C07K16/18
C07K14/47
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008071
(22)【出願日】2023-01-23
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】樋上 賀一
(72)【発明者】
【氏名】小林 正樹
(72)【発明者】
【氏名】野崎 優香
(72)【発明者】
【氏名】出口 祐介
(72)【発明者】
【氏名】平田 琢朗
(72)【発明者】
【氏名】八谷 一貴
【テーマコード(参考)】
2G045
4H045
【Fターム(参考)】
2G045AA24
2G045DA36
2G045FB03
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA50
4H045FA71
(57)【要約】
【課題】既存の細胞老化マーカーとは機序が相違する新たな細胞老化マーカーを見出し、細胞老化の診断及び新たな機序のsenolytic drugの開発手段を提供すること。
【解決手段】本発明は、PARIS蛋白質からなる細胞老化マーカー、及び
PERIS蛋白質と結合する抗体、抗体断片又はアプタマーを含有する細胞老化診断剤に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PARIS蛋白質からなる細胞老化マーカー。
【請求項2】
PERIS蛋白質と結合する抗体、抗体断片又はアプタマーを含有する細胞老化診断剤。
【請求項3】
被検者より採取した細胞又は組織中のPARISタンパク質量を測定することを特徴とする、被検者由来の細胞が細胞老化している可能性を試験する方法。
【請求項4】
前記測定値が、細胞老化を起こしていない被検者由来の細胞の測定値に比べて高い場合に、前記被検者由来の細胞が細胞老化を起こしている可能性があると判定する、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記PARISタンパク質量の測定手段が、請求項2記載の細胞老化診断剤を用いる免疫学的測定手段である請求項3又は4記載の方法。
【請求項6】
被験物質を添加又は投与して、対象細胞又は組織中のPARISタンパク質量の変化を測定することを特徴とする、細胞老化抑制剤又は細胞老化促進剤のスクリーニング方法。
【請求項7】
前記PARISタンパク質量の変化の測定手段が、請求項2載の細胞老化診断剤を用いる免疫学的測定手段である請求項6載のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞老化マーカー及び細胞老化診断薬に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、老齢個体の組織内に老化細胞が存在し、SASP(senescent-associated secretory phenotype)因子の分泌により周囲細胞に悪影響を及ぼすこと、老化細胞選択的な細胞死により、様々な老化関連病態が抑制されて、寿命延伸が可能であることが示された。
【0003】
メトフォルミン、SGLT2阻害薬、NAD誘導体など健康長寿を志向する化合物が提案されている。また、新たな取り組みとして、近年、senolytic drugの開発が進められている。その創薬標的は老化関連抗アポトーシス経路で、この経路を阻害するdasatinib、quercetin、fisetin単独又はこれらを組み合わせたsenolytic drugによる臨床試験が、米国において一部の老化関連疾患に対して行われている(非特許文献1)。またごく最近、老化細胞の一部はPD-L1を発現して強い炎症を誘導するとともに、CD8陽性T細胞からの免疫監視を逃れていることが示され、抗PD1抗体がsenolytic drugになりうる可能性が示された(非特許文献2)。
【0004】
DNA傷害、活性化メタボライト、ミトコンドリア異常など様々なストレスや障害により細胞老化が誘導される。p16INK4aやp21CIP1/WAF1、SA-βGal活性などが細胞老化マーカーとして汎用されている(非特許文献3)。しかし、p16INK4aやp21CIP1/WAF1、SASP等のターゲットを標的とする創薬は進んでおらず、多岐にわたる老化関連疾患の発症を予防可能な化合物は未だ報告がない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Chaib S, Tchkonia T, Kirkland JL. Cellular senescence and senolytics: the path to the clinic. Nat Med. 2022 Aug;28(8):1556-1568. doi: 10.1038/s41591-022-01923-y. Epub 2022 Aug 11.
【非特許文献2】Wang TW, Johmura Y, Suzuki N, Omori S, Migita T, Yamaguchi K, Hatakeyama S, Yamazaki S, Shimizu E, Imoto S, Furukawa Y, Yoshimura A, Nakanishi M. Blocking PD-L1-PD-1 improves senescence surveillance and ageing phenotypes. Nature. 2022 Nov;611(7935):358-364. doi: 10.1038/s41586-022-05388-4. Epub 2022 Nov 2.
【非特許文献3】Tuttle CSL, Luesken SWM, Waaijer MEC, Maier AB. Senescence in tissue samples of humans with age-related diseases: A systematic review. Ageing Res Rev. 2021 Jul;68:101334. doi: 10.1016/j.arr.2021.101334. Epub 2021 Apr 2.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
既存の主なsenolytic drugの創薬標的は老化関連抗アポトーシス経路である。p16ink4aやp21CIP1/WAF1は広く認知されている細胞老化マーカーであるが、まだ有効性が確実な化合物は作られていない。また、p16ink4aやp21CIP1/WAF1は細胞周期を抑制するので、この長期間の阻害は発癌リスクを生ずると考えられる。
本発明の課題は、既存の細胞老化マーカーとは機序が相違する新たな細胞老化マーカーを見出し、細胞老化の診断及び新たな機序のsenolytic drugの開発手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者は、ミトコンドリア生合成を促進するPGC-1αを負に制御する転写因子であるPARISに着目し、PARIS蛋白質発現の増加及び減少と、脂肪細胞の分化に関連する因子、脂肪細胞のミトコンドリア活性、他の細胞老化マーカーとの関係などを検討した結果、PARIS蛋白質の過剰発現、蓄積により、脂肪細胞への分化抑制、ミトコンドリア機能異常が起こり、細胞老化が誘導されていることを見出し、PARISが細胞老化のマーカーとして有用であり、組織中のPARIS量を測定すれば細胞老化の診断が可能であり、PARIS量に影響を与える物質を探索すれば、細胞老化抑制剤又は細胞老化促進剤のスクリーニングが可能であることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、次の発明[1]~[7]を提供するものである。
[1]PARIS蛋白質からなる細胞老化マーカー。
[2]PARIS蛋白質と結合する抗体、抗体断片又はアプタマーを含有する細胞老化診断剤。
[3]被検者より採取した細胞又は組織中のPARISタンパク質量を測定することを特徴とする、被検者由来の細胞が細胞老化している可能性を試験する方法。
[4]前記測定値が、細胞老化を起こしていない被検者由来の細胞の測定値に比べて高い場合に、前記被検者由来の細胞が細胞老化を起こしている可能性があると判定する、[3]記載の方法。
[5]前記PARISタンパク質量の測定手段が、[2]記載の細胞老化診断剤を用いる免疫学的測定手段である[3]又は[4]記載の方法。
[6]被験物質を添加又は投与して、対象細胞又は組織中のPARISタンパク質量の変化を測定することを特徴とする、細胞老化抑制剤又は細胞老化促進剤のスクリーニング方法。
[7]前記PARISタンパク質量の変化の測定手段が、[2]記載の細胞老化診断剤を用いる免疫学的測定手段である[6]記載のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の細胞老化診断マーカーを測定すれば、被検者の細胞が細胞老化を起こしている可能性があることを判定できる。また、本発明の細胞老化マーカー量に影響を与える物質をスクリーニングすれば、細胞老化抑止剤又は細胞老化促進剤を探索することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】マウスの各組織(後腹膜周囲WAT(rWAT)、精巣周囲WAT(eWAT)、皮下WAT(sWAT)、褐色脂肪組織(BAT)、大腿四頭筋(Skeletal muscle)、心臓(Heart)、肝臓(Liver)、脾臓(Spleen)、大脳皮質(Cerebral cortex)、小脳(Cerebellum)、間脳(Diencephalon)、脳幹(Brain stem)に対するPARIS蛋白質のWestern blotの結果を示す。
【
図1C】マウスのWATをコラゲナーゼ処理し、白色脂肪組織由来間葉系幹細胞(ADSC)と、成熟脂肪細胞が含まれるAEFに分画し、PARIS蛋白質のWestern blotを行った結果を示す。
【
図2A】8週齢の若齢群と100週齢の高齢群のマウスのWATを採取し、PARIS蛋白質のWestern blotを行った結果を示す。
【
図2B】通常食摂餌(ND)したマウスと、高脂肪食摂餌(HFD)したマウスからWATを採取し、PARIS蛋白質のWestern blotを行った結果を示す。
【
図2C】自由摂食群(AL)のマウスと、カロリー制限(CR)のマウスからWATを採取し、PARIS蛋白質のWestern blotを行った結果を示す。
【
図2D】8週齢の若齢群と100週齢の高齢群のマウスのWATを採取し、脂肪細胞分化の主要制御因子であるPparγ、Cebpα、ミトコンドリア生合成の主要制御因子であるPgc-1αのmRNA量を測定した結果を示す。
【
図2E】通常食摂餌(ND)したマウスと、高脂肪食摂餌(HFD)したマウスからWATを採取し、Pparγ、Cebpα、Pgc-1αのmRNA量を測定した結果を示す。
【
図2F】自由摂食群(AL)のマウスと、カロリー制限(CR)のマウスからWATを採取し、Pparγ、Cebpα、Pgc-1αのmRNA量を測定した結果を示す。
【
図2G】33週齢と111週齢のマウスのWATをコラゲナーゼ処理し、白色脂肪組織由来間葉系幹細胞(ADSC)を分画し、PARIS蛋白質のWestern blotを行った結果を示す。
【
図3A】8週齢の若齢群と100週齢の高齢群のマウスの褐色脂肪組織(BAT)を採取し、PARISタンパク質の発現量をWestern blotで解析した結果を示す。
【
図3B】8週齢の若齢群と100週齢の高齢群のマウスの肝臓(Liver)を採取し、PARISタンパク質の発現量をWestern blotで解析した結果を示す。
【
図3C】8週齢の若齢群と100週齢の高齢群のマウスの腎臓(Kidney)を採取し、PARISタンパク質の発現量をWestern blotで解析した結果を示す。
【
図3D】8週齢の若齢群と100週齢の高齢群のマウスの心臓(Heart)を採取し、PARISタンパク質の発現量をWestern blotで解析した結果を示す。
【
図3E】8週齢の若齢群と100週齢の高齢群のマウスの大腿四頭筋(Skeletal muscle)を採取し、PARISタンパク質の発現量をWestern blotで解析した結果を示す。
【
図4A】マウス前駆脂肪細胞株3T3L1を成熟脂肪細胞へ分化させ、経時的なPARISタンパク質、PGC-1aタンパク質、PPARgタンパク質の発現量をWestern blotで解析した結果を示す。
【
図4E】マウス前駆脂肪細胞株3T3L1を成熟脂肪細胞へ分化させ、経時的なPgc-1αのmRNA量を解析した結果を示す。
【
図4F】マウス前駆脂肪細胞株3T3L1を成熟脂肪細胞へ分化させ、経時的なPparγのmRNA量を解析した結果を示す。
【
図5A】マウス前駆脂肪細胞3T3L1において、PARISを恒常的に発現するPARIS過剰発現(PARIS OE)細胞を作成し、脂肪滴蓄積量をOil-Red O染色を用いて解析した結果を示す。
【
図5C】5つのPARIS OE細胞株において、PARISの発現量とOil-Red Oを指標とした脂肪蓄積量をプロットした結果を示す。
【
図5D】PARIS OE細胞を分化させ、PparγのmRNA量を経時的に解析した結果を示す。
【
図5E】PARIS OE細胞を分化させ、CebpαのmRNA量を経時的に解析した結果を示す。
【
図5F】PARIS OE細胞を分化させ、脂肪細胞の初期の分化誘導に関与するCebpδのmRNA量を経時的に解析した結果を示す。
【
図5G】PARIS OE細胞を分化させ、脂肪細胞の初期の分化誘導に関与するCebpβのmRNA量を経時的に解析した結果を示す。
【
図5K】PARIS OE細胞とコントロール(Mock)細胞を分化させ、PARISとPPARγのタンパク質発現量をWestern blotで解析した結果を示す。
【
図6A】3T3L1細胞において、PARISを恒常的に発現するPARIS過剰発現(PARIS OE)によるPgc-1αのmRNA量を解析した結果を示す。
【
図6B】Pgc-1aのプロモーター下でLuciferaseを発現するプラスミドを、PARIS OE細胞に一過性導入し、Pgc-1αのプロモーター活性を解析した結果を示す。
【
図6C】5つのPARIS OE細胞株において、Pgc-1α mRNA発現量とPARISタンパク質発現量をプロットした結果を示す。
【
図6D】PARISを恒常的に発現するPARIS過剰発現(PARIS OE)が、ミトコンドリアDNA(mtDNA)発現量に与える影響を示す。
【
図6E】PARIS OEが、ミトコンドリア酸素消費速度(呼吸速度)(OCR)に与える影響を示す。
【
図6F】PARIS OEが、ミトコンドリア膜のプロトン電位依存的に蓄積するTMRMに与える影響を示す。
【
図6G】PARIS OEが、MitoTracker Greenで染色したミトコンドリアの数に与える影響を示す。
【
図7A】PARIS OEが、細胞増殖速度に与える影響を示す。
【
図7B】PARIS OEが、細胞老化マーカーであるCdkn1a(p21
CIP/WAF1)、Cdkn2a(p16
INK4a)のmRNA量に与える影響を示す。
【
図7C】PARIS OE細胞において、PARIS、p16
INK4a、DAPI(核マーカー)の細胞染色を行った結果を示す。
【
図7D】
図7Cと同様の実験系において、1細胞ごとのPARISとp16
INK4aの発現量をプロットした結果を示す。
【
図7E】PARIS OE細胞とコントロール(Mock)細胞それぞれを、核画分と細胞質画分に分画し、Western blotを行った結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において、細胞老化(Senescence)とは、DNA損傷応答などで見られる、増殖していた細胞が増殖促進刺激に対する抵抗性を獲得し、安定的に細胞周期が停止した状態をいい、加齢(aging)とは明確に相違する。老化した細胞は、形態的な変化、代謝の変化、クロマチンの再構成、遺伝子発現の変化などを有し、SASP(Senescence-associated secretory phenotype)と呼ばれる炎症促進性の表現型を獲得することも知られている。
細胞老化は、損傷を受けた細胞が悪性形質転換し、がん化するのを防ぐ機構であると考えられている一方で、様々な加齢に関わる病態 (組織の変性、炎症性疾患、がんなど) に老化した細胞が関与するという知見もある。老化した細胞の数は加齢と共に増えるが、細胞老化は発生や創傷治癒時にも重要な役割を果たすともいわれる。
【0012】
本発明の一態様は、PARIS蛋白質からなる細胞老化マーカーである。
PARIS蛋白質は、ミトコンドリア生合成を促進するPGC-1αを負に制御する転写因子であることは知られているが、脂肪老化のマーカーとして有用であることは全く報告されていない。
【0013】
後記実施例に示すように、本発明者は、PARISタンパク質が脂肪組織の血管間葉系分画のadipose-derived stem cellsに多く局在し、脂肪組織において加齢や肥満症において増加すること、一方、代謝改善、抗老化、寿命延伸効果のあるカロリー制限(CR)マウスの脂肪組織では、発現が減少することを見出した。また、この時、PARISタンパク質発現量と脂肪細胞の分化に関連するPparγ、Cebpα発現や、ミトコンドリ生合成を促進するPgc-1α発現が負に相関した。加えて、PARISタンパク質は老化にともない褐色脂肪組織、肝臓、腎臓においても増加したが、心臓や骨格筋では増加は見られなかった。
脂肪細胞の分化過程において、PARISタンパク質の発現は減少し、それとは逆にPPARγタンパク質発現が増加し、Pgc-1αタンパク質発現は減少した。
【0014】
PARISタンパク質を過剰発現すると脂肪細胞へのトリグリセリド蓄積が減少し、その蓄積量はPARISタンパク質発現量と負の相関を示した。また、脂肪分化関連遺伝子のうちPparγ、Cebpα遺伝子発現、PPARγタンパク質発現が減少した。すなわち、PARISタンパク質の過剰発現は脂肪細胞分化を抑制した。
PARISタンパク質を過剰発現するとPgc-1α発現が減少し、Pgc-1α遺伝子のプロモーター活性も減少した。またPARISタンパク質発現量はPgc-1α発現量と負の相関を示した。PARISタンパク質の過剰発現によりmtDNAの減少、ミトコンドリア酸素消費、特に最大呼吸能力が減少した。また、ミトコンドリア膜電位異常を示さないTMRM陽性ミトコンドリアが減少した。すなわち、脂肪分化関連遺伝子のうちPparγ、Cebpα遺伝子発現、PPARγタンパク質発現が減少した。すなわち、PARISタンパク質の過剰発現は脂肪細胞のミトコンドリア活性を抑制した。
【0015】
PARISタンパク質を過剰発現すると細胞増殖能力は低下して、細胞老化マーカーであるp21CIP1/WAFや16INK4a発現が増加した。さらに、核でのPARIS陽性細胞と16INK4a陽性細胞の共局在を検討したところ、相関係数0.45とその相関は強くはなかった。核分画と細胞質分画に分けて、16INK4a発現を検討したところ、PARIS過剰発現により分子量16KDa付近のバンドは顕著に増加していた。100KDa付近に非特異的なバンドが観察されたことから、核でのPARIS陽性細胞と16INK4a陽性細胞の共局在の相関が高くなかったものと考えられた。
【0016】
以上の結果から、PARIS蛋白質の過剰発現、蓄積により、脂肪細胞への分化抑制、ミトコンドリア機能異常が起こり、細胞老化が誘導されていることを見出し、PARISが細胞老化のマーカーとして有用であることを見出した。また、組織中のPARIS量を測定すれば細胞老化の診断が可能であり、PARIS量に影響を与える物質を探索すれば、細胞老化抑制剤又は細胞老化促進剤のスクリーニングが可能であることを見出した。
【0017】
本発明の他の一態様は、PARIS蛋白質と結合する抗体、抗体断片又はアプタマーを含有する細胞老化診断剤である。
本発明の細胞老化診断剤は、PARIS蛋白質を検出できるものを用いることができる。従って、PARIS蛋白質に結合する抗体、抗体断片又はアプタマーが用いられる。
【0018】
PARIS蛋白質に結合する抗体は、PARIS蛋白質又はその断片をマウスなどの動物に免疫することにより作製することができる。また、常法により、モノクローナル抗体を作成してもよいし、ファージライブラリーのスクリーニングにより作成することもできる。
抗体断片としては、Fv、Fab、scFvなどが挙げられる。
アプタマーとしては、ペプチドアプタマーが挙げられる。ペプチドアプタマーは、例えば、例えば酵母を用いたTwo-hybrid法等により選別することができる。
これらの抗体、その断片又はアプタマーを用いる検出法としては、採取した細胞又は細胞を含む組織を用いる免疫学的測定、免疫組織化学染色が挙げられる。具体的には、例えば、サンドイッチELISA、ウエスタンブロット、逆相蛋白質アレイを用いた検出、免疫組織化学染色等が挙げられる。なお、逆相蛋白質アレイを用いた検出とは、試料を固相にアレイ状に固定し、PARIS蛋白質に特異的な抗体等を反応させることにより、試料中のPARIS蛋白質を検出する解析方法である。
【0019】
本発明の他の一態様は、被検者より採取した細胞又は組織中のPARISタンパク質量を測定することを特徴とする、被検者由来の細胞が細胞老化している可能性を試験する方法である。
本発明方法に用いられる試料は、被検者より採取した細胞又は組織である。被検者としては、細胞老化が疑われるヒトが挙げられるが、健康診断の対象者であってもよい。
採取される細胞又は組織としては、被験者のへ負担を考慮すると、脂肪細胞又は脂肪組織が好ましい。
PARIS蛋白質量の測定にあたっては、前記のPARIS蛋白質と結合する抗体、抗体断片又はアプタマーを含有する細胞老化診断剤を用いるのが好ましい。従って、被検者から採取した細胞又は細胞を含む組織を用いて免疫学的測定又は免疫組織化学染色を行うのが好ましい。
得られたPARIS蛋白質量の測定値が、細胞老化を起こしていない被検者由来の細胞の測定値に比べて高い場合に、前記被検者由来の細胞が細胞老化を起こしている可能性があると判定することができる。
【0020】
本発明の他の一態様は、被験物質を添加又は投与して、対象細胞又は組織中のPARISタンパク質量の変化を測定することを特徴とする、細胞老化抑制剤又は細胞老化促進剤のスクリーニング方法である。
本発明のスクリーニング方法は、インビトロ又はインビボのいずれでも行うことができる。インビトロの場合は、哺乳類から採取した細胞又は組織を用い、被験物質を添加して、対象細胞又は組織中のPARISタンパク質量の変化を測定する。一方、インビボの場合は、哺乳類に被験物質を投与して、当該哺乳類の細胞又は組織を採取し、得られた細胞又は組織中のPARISタンパク質量の変化を測定する。
ここで、細胞又は組織中のPARISタンパク質量の測定は、前記のPARIS蛋白質と結合する抗体、抗体断片又はアプタマーを含有する細胞老化診断剤を用いるのが好ましい。従って、例えば、採取した細胞又は細胞を含む組織を用いて免疫学的測定又は免疫組織化学染色を行うのが好ましい。
得られたPARIS蛋白質量の測定値が、細胞老化を起こしていない対象の細胞の測定値に比べて高い場合に、添加又は投与した被験物質は細胞老化促進剤である可能性があると判定することができる。また、得られたPARIS蛋白質量の測定値が、細胞老化を起こしていない対象の細胞の測定値に比べて低い場合に、添加又は投与した被験物質は細胞老化抑制剤である可能性があると判定することができる。
【実施例0021】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0022】
「材料と方法」
(1)使用マウスの作製と維持
C57BL/6J雄性マウスを、東京理科大学薬学部動物実験施設内specific pathogen free(SPF)環境下、12時間明期(8:00~20:00)、室温約23℃のSPF条件下で、自由飲水にて飼育した。CRF-1(Oriental Yeast,Tokyo,Japan)を十分量与え続け、8週齢、24週齢、100週齢まで自由摂食させた。その後安楽死させ、精巣周囲WAT(epididymal WAT;eWAT)、皮下WAT(subcutaneous WAT;sWAT)、後腹膜周囲WAT(retroperitoneal WAT;rWAT)、褐色脂肪組織(brown adipose tissue;BAT)、大腿四頭筋、心臓、肝臓、腎臓、脾臓、大脳皮質、小脳、間脳、脳幹を採取した。また、C57BL/6J雄性マウスをnormal diet(ND)群と8週齢から高脂肪食を与えたhigh fat diet(HFD)群に分け、21~22週齢(14週間HFD)で安楽死させ、eWAT及びsWATを採取した。臓器は液体窒素により急速凍結後-80oCにて保存した。ND群にはCRF-1、HFD群にはHigh fat Diet 32(CREA,Tokyo,Japan)を与えた。
【0023】
(2)細胞培養と分化方法
マウス白色前駆脂肪細胞株3T3-L1はJCRB(Japanese Collection of Research Bioresources,Osaka,Japan)より購入し、10%FBS(fetal bovine serum;Capricorn Scientific,Ebsdorfergrund,Germany)、100U/mL P/S(penicillin-streptomycin;Sigma-Aldrich,St Louis,MO,USA)を含有するDMEM low glucose(WAKO,Osaka,Japan)(以下、通常培地)で培養し、0.25~2.5×104cells/cm2の細胞密度で維持した。
【0024】
(成熟脂肪細胞への分化誘導)
3T3-L1分化誘導は1.5×104cells/cm2の密度で播種し、2日後に100%コンフルエントに達した時点をDay-2とし、通常培地で培地交換を行った。さらに、2日後をDay0とし、2日間は500μM 3-isobutyl-1-methylxanthin(IBMX;Sigma-Aldrich,St Louis,MO,USA)及び1μM dexamethasone(DEX;Sigma-Aldrich,St Louis,MO,USA)を含む通常培地で培養することで脂肪細胞への分化誘導を行った。その後は2日置きに10μg/mL insulin(WAKO,Osaka,Japan)及び50nM tri-iode thyronine(T3;Sigma-Aldrich,St Louis,MO,USA)を含む通常培地で培養することで成熟脂肪細胞へと誘導した。
【0025】
(3)Western blot
記載していないすべての操作は室温で行った。細胞サンプルはSDS sample buffer(50mM Tris-HCl pH6.8,2% SDS,3M Urea,6% glycerol)を加え、95℃で5分間加熱処理した後、超音波破砕した。一方、WAT及び他はSDS sample bufferを加え、ソニケーションにより破砕したのち遠心(12000g,30分)、上清を95℃で5分間加熱処理した。各サンプルはBSA Protein Assay Kit(Thermo Fisher Scientific,Waltham,MA,USA)によりタンパク質量を定量し、タンパク質量を0.2~2mg/mLに調節後、BPB/2-Me溶液(0.25% Bromophenol Blue,50% 2-Mercaptoethanol)を1/10量加えた。その後再び95℃で5分間加熱処理した後、解析時まで-20℃に保存した。サンプルはSDS-PAGEにて分離し、ニトロセルロースメンブレン(PALL,Port Washington,NY,USA)に転写した。転写後、メンブレンはblocking溶液中(2.5% skim milk(Wako,Osaka,Japan),0.25% BSA,TTBS(25mM Tris-HCl[pH7.4],140mM NaCl,2.5mM KCl,0.1% Tween 20))にて1時間振盪させた。その後、一次抗体を至適濃度で加えた反応液(Immuno shot reagent 1(Cosmo Bio Co.,Ltd.,Tokyo,Japan):blocking溶液=2:1)中で、4℃にて一晩反応させた。一次抗体反応後、メンブレンをTTBSにて4回洗浄し、各二次抗体を至適濃度で加えた反応液(Immuno shot reagent 2(Cosmo Bio Co.,Ltd):blocking溶液=2:1)中で1時間反応させた。二次抗体反応後、メンブレンをTTBSにて4回洗浄し、ImmunoStarTM LD (Wako)を用いた化学発光をルミノ・イメージアナライザー(LAS-3000,Fujifilm,Tokyo,Japan)にて検出した。
【0026】
(4)Real-time RT PCR
組織または細胞からISOGEN II(Nippon gene,Tokyo,Japan)を用いてmRNAを抽出し、分光光度計NanoDrop Lite (Thermo,Waltham,MA,USA)を用いて濃度を測定した。Total RNAはReverTra AceTM qPCR RT Master Mix(TOYOBO,Osaka,Japan)を用いた逆転写反応を行い、cDNAを得た。その後、THUNDERBIRDTM SYBRTM qPCR Mix(TOYOBO,Osaka,Japan)を用いたQuantitative RT-PCRをCFX connectTM quantitative PCRシステム(Bio-rad,Hercules,CA,USA)にて行った。なお、それぞれの各々の反応条件は試薬メーカーの推奨プロトコルに従った。定量は検量線法により行った。
【0027】
(5)細胞染色
細胞はカバーガラス(Iwaki,Shizuoka, Japan)を配置した6-well Dishで培養した。細胞を1mL PBSで洗浄後、1mL 4% paraformaldehyde溶液で15分間固定し、再び1mL PBSで洗浄後、0.2% Triton-X 100で10分間膜透過処理し、再度PBSで洗浄した。その後blocking溶液(1% goat serum(Invitrogen,Waltham,MA,USA),0.2% BSA(Sigma-Aldrich,St Louis,MO,USA))中で、シェーカーで静かに揺らしながら30分間blocking反応を行い、洗浄液をTPBS(0.1% Tween in PBS)に変更し洗浄後、至適濃度で一次抗体を加えたblocking溶液中で4℃にて一晩反応させた。翌日、TPBSで洗浄(5分×4回)した後、各二次抗体を至適濃度で加えたblocking溶液で1時間反応させ、再びTPBS(5分×4回)で洗浄した。洗浄後、FluoromountTM(Diagnostic BioSystems,Pleasanton,CA,USA)を用いてスライドガラス(Matsunami-glass,Osaka,Japan)上に封入したサンプルを蛍光顕微鏡TCS SP8(Leica,Wetzlar,Germany)で撮影した。撮影した写真の定量はImageJ(NIH,Bethesda,MD,USA)を用いた。
【0028】
実施例1
マウスの各組織(後腹膜周囲WAT(rWAT)、精巣周囲WAT(eWAT)、皮下WAT(sWAT)、褐色脂肪組織(BAT)、大腿四頭筋(Skeletal muscle)、心臓(Heart)、肝臓(Liver)、脾臓(Spleen)、大脳皮質(Cerebral cortex)、小脳(Cerebellum)、間脳(Diencephalon)、脳幹(Brain stem)を採取し、Western blotを行った。β-actin、GAPDH、CBBはinternal controlとして用いた。
その結果、
図1A及び
図1B(
図1Aの定量結果)に示すように、PARIS蛋白質の発現は脂肪組織で特に多かった。
マウスのWATをコラゲナーゼ処理し、白色脂肪組織由来間葉系幹細胞(ADSC)と、成熟脂肪細胞が含まれるAEFに分画し、Western blotを行った。その結果、
図1Cに示すように、PARISの発現は、脂肪前駆細胞で高かった。
【0029】
実施例2
8週齢の若齢群と100週齢の高齢群のマウスのWATを採取し、Western blotを行った。その結果、
図2Aに示すように、WATにおけるPARISの発現は高齢群で増加した。
通常食摂餌(ND)したマウスと、高脂肪食摂餌(HFD)したマウスからWATを採取し、Western blotを行った。その結果、
図2Bに示すように、WATにおけるPARISの発現は、高脂肪食摂餌により増加した。
自由摂食群(AL)のマウスと、カロリー制限(CR)のマウスからWATを採取し、Western blotを行った。その結果、
図2Cに示すように、WATにおけるPARISの発現は、CRにより減少した。
8週齢の若齢群と100週齢の高齢群のマウスのWATを採取し、脂肪細胞分化の主要制御因子であるPparγ、Cebpα、ミトコンドリア生合成の主要制御因子であるPgc-1αのmRNA量を測定した。その結果、
図2Dに示すように、Pparγ、Cebpα、Pgc-1αの発現は高齢群で有意に減少もしくは減少傾向をしめした。
通常食摂餌(ND)したマウスと、高脂肪食摂餌(HFD)したマウスからWATを採取し、Pparγ、Cebpα、Pgc-1αのmRNA量を測定した。その結果、
図2Eに示すように、Pparγ、Cebpα、Pgc-1αの発現は高脂肪食摂餌により有意に減少した。
自由摂食群(AL)のマウスと、カロリー制限(CR)のマウスからWATを採取し、Pparγ、Cebpα、Pgc-1αのmRNA量を測定した。その結果、
図2Fに示すように、Pparγ、Cebpα、Pgc-1αの発現はCRにより有意に増加した。
33週齢と111週齢のマウスのWATをコラゲナーゼ処理し、白色脂肪組織由来間葉系幹細胞 (ADSC)を分画した。その結果、
図2G及び
図2F(
図2Gの定量結果)に示すように、PARISの発現は111週齢マウスのADSCで増加した。
【0030】
実施例3
8週齢の若齢群と100週齢の高齢群のマウスの褐色脂肪組織(BAT)を採取し、PARISタンパク質の発現量をWestern blotで解析した。その結果、
図3Aに示すように、PARISの発現は高齢群で有意に増加した。
8週齢の若齢群と100週齢の高齢群のマウスの肝臓(Liver)を採取し、PARISタンパク質の発現量をWestern blotで解析した。その結果、
図3Bに示すように、PARISの発現は高齢群で有意に増加した。
8週齢の若齢群と100週齢の高齢群のマウスの腎臓(Kidney)を採取し、PARISタンパク質の発現量をWestern blotで解析した。その結果、
図3Cに示すように、PARISの発現は高齢群で有意に増加した。
8週齢の若齢群と100週齢の高齢群のマウスの心臓(Heart)を採取し、PARISタンパク質の発現量をWestern blotで解析した。その結果、
図3Dに示すように、PARISの発現は若齢群・高齢群間で変化はなかった。
8週齢の若齢群と100週齢の高齢群のマウスの大腿四頭筋(Skeletal muscle)を採取し、PARISタンパク質の発現量をWestern blotで解析した。その結果、
図3Eに示すように、PARISの発現は若齢群・高齢群間で変化はなかった。
【0031】
実施例4
マウス前駆脂肪細胞株3T3L1を成熟脂肪細胞へ分化させ、経時的なPARISの発現量を解析した。その結果、
図4A~
図4Dに示すように、PARISタンパク質量は3T3L1の分化に伴い減少した。この時、PARISの発現量は、脂肪細胞分化に関わるPPARγ、ミトコンドリア生合成に関わるPGC-1αのタンパク質発現量と負に相関した。
マウス前駆脂肪細胞株3T3L1を成熟脂肪細胞へ分化させ、経時的なPgc-1αのmRNA量を解析した。その結果、
図4Eに示すように、Pgc-1αのmRNA量は分化に伴い増加し、PARISタンパク質発現量と負に相関した。
マウス前駆脂肪細胞株3T3L1を成熟脂肪細胞へ分化させ、経時的なPparγのmRNA量を解析した。その結果、
図4Fに示すように、PparγのmRNA量は分化に伴い増加し、PARISタンパク質発現量と負に相関した。
【0032】
実施例5
マウス前駆脂肪細胞3T3L1において、PARISを恒常的に発現するPARIS過剰発現(PARIS OE)細胞を作成し、脂肪滴蓄積量をOil-Red O染色を用いて解析した。その結果、
図5A及び
図5Bに示すように、PARIS OEにより脂肪分化が抑制された。
5つのPARIS OE細胞株において、PARISの発現量とOil-Red Oを指標とした脂肪蓄積量をプロットした。その結果、
図5Cに示すように、PARISのタンパク質発現量と脂肪分化抑制の程度は、有意に負に相関した。
PARIS OE細胞を分化させ、PparγのmRNA量を経時的に解析した。その結果、
図5Dに示すように、PparγのmRNA量はPARIS OEにより有意に減少した。
PARIS OE細胞を分化させ、CebpαのmRNA量を経時的に解析した。その結果、
図5Eに示すように、CebpαのmRNA量はPARIS OEにより有意に減少した。
PARIS OE細胞を分化させ、脂肪細胞の初期の分化誘導に関与するCebpδのmRNA量を経時的に解析した結果、変化はなかった(
図5F)。
PARIS OE細胞を分化させ、脂肪細胞の初期の分化誘導に関与するCebpβのmRNA量を経時的に解析した結果、変化はなかった(
図5G)。
PARIS OE細胞とコントロール(Mock)細胞を分化させ、PARISとPPARγのタンパク質発現量を解析した。その結果、
図5K及び
図5Lに示すように、PPARγの発現量はPARIS OEにより減少し、特に、PPARγの発現量のピークである分化誘導後4日の時点において、PARIS OE細胞株におけるPPARγの発現量の減少は顕著であった。
【0033】
実施例6
神経細胞において、PARISがPgc-1αのプロモーター領域に結合し、その転写を負に制御するという報告がある(Shin et al .Cell 144(5): 689-702.,2011)。3T3L1細胞においても、PARISを恒常的に発現するPARIS過剰発現(PARIS OE)によってPgc-1αのmRNA量が減少した(
図6A)。
Pgc-1aのプロモーター下でLuciferaseを発現するプラスミドを、PARIS OE細胞に一過性導入し、Pgc-1αのプロモーター活性を解析した。その結果、
図6Bに示すように、PARIS OEによりPgc-1αのプロモーター活性(転写活性)が減少した。
5つのPARIS OE細胞株において、Pgc-1α mRNA発現量とPARISタンパク質発現量をプロットした結果、負に相関した(
図6C)。
PARIS OEにより、ミトコンドリアDNA(mtDNA)は有意に減少した(
図6D)。
PARIS OEにより、ミトコンドリア酸素消費速度(呼吸速度)(OCR)が減少した(
図6E)。
PARIS OEにより、ミトコンドリア膜のプロトン電位依存的に蓄積するTMRMが減少した(
図6F)。
PARIS OEにより、MitoTracker Greenで染色したミトコンドリアの数が減少した(
図6G)。
【0034】
実施例7
PARIS OEにより、細胞増殖の速度が減少した(
図7A)。
PARIS OEにより、細胞老化マーカーであるCdkn1a(p21
CIP/WAF1)、Cdkn2a(p16
INK4a)のmRNA量が減少した。一方でTrp53は変化がなかった(
図7B)。
PARIS OE細胞において、PARIS、p16
INK4a、DAPI(核マーカー)の細胞染色を行った。その結果、PARISの発現が特に顕著な細胞はp16
INK4a陽性であった(
図7C)
図7Cと同様の実験系において、1細胞ごとのPARISとp16
INK4aの発現量をプロットした。その結果、PARISとp16
INK4aの発現量は非常に弱い正の相関を示した(
図7D)。
PARIS OE細胞とコントロール(Mock)細胞それぞれを、核画分と細胞質画分に分画し、Western blotを行った。その結果、PARIS OE細胞の核画分でのみp16
INK4aの発現量が増加した(
図7E)。