(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001041
(43)【公開日】2024-01-09
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用正極活物質、リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20231226BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20231226BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
C01G53/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023151726
(22)【出願日】2023-09-19
(62)【分割の表示】P 2018202463の分割
【原出願日】2018-10-29
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100192212
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 貴明
(74)【代理人】
【識別番号】100200001
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 明彦
(72)【発明者】
【氏名】菅沼 慎介
(72)【発明者】
【氏名】相田 平
(72)【発明者】
【氏名】加藤 敏弘
(57)【要約】
【課題】二次電池を構成した場合に、電池容量とサイクル特性をさらに向上することが可能な正極活物質を提供することを目的とする。
【解決手段】リチウム遷移金属複合酸化物粒子からなるリチウムイオン二次電池用正極活物質であって、一般式(B):Li
1+uNi
xMn
yCo
zM
tO
2(-0.05≦u≦0.50、x+y+z+t=1、0.3≦x≦0.8、0.05≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0≦t≦0.1、Mは、Nb、Mo、Ta、Zr、Wから選択される1種以上の添加元素)で表され、層状構造を有する六方晶系の結晶構造を有し、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子からなる正極活物質であり、前記正極活物質を走査型電子顕微鏡を用いて観察した際に、観察視野内の二次粒子の数に対する、5個以上の二次粒子が凝集した凝集粒子の数の割合が0.7%以下であり、前記正極活物質に含まれる余剰リチウム量が0.08質量%以下であることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム遷移金属複合酸化物粒子からなるリチウムイオン二次電池用正極活物質であって、
一般式(B):Li1+uNixMnyCozMtO2(-0.05≦u≦0.50、x+y+z+t=1、0.3≦x≦0.8、0.05≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0≦t≦0.1、Mは、Nb、Mo、Ta、Zr、Wから選択される1種以上の添加元素)で表され、層状構造を有する六方晶系の結晶構造を有し、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子からなる正極活物質であり、
前記正極活物質を走査型電子顕微鏡を用いて観察した際に、観察視野内の二次粒子の数に対する、5個以上の二次粒子が凝集した凝集粒子の数の割合が0.7%以下であり、前記正極活物質に含まれる余剰リチウム量が0.08質量%以下であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項2】
粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90-d10)/MV〕が0.55以下であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項3】
前記二次粒子は、平均粒径が3μm~15μmであることを特徴とする請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項4】
正極と、負極と、セパレータと、非水電解質とを備えるリチウムイオン二次電池であって、
前記正極は、請求項1~3のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質が正極材料として用いられていることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用正極活物質およびリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォンやタブレットPC等の携帯情報端末の普及に伴い、高いエネルギー密度を有する小型で軽量な非水電解質二次電池の開発が強く望まれている。また、ハイブリット電気自動車、プラグインハイブリッド電気自動車、電池式電気自動車などの電気自動車用の電源として高出力の二次電池の開発が強く望まれている。
【0003】
このような要求を満たす二次電池として、リチウムイオン二次電池がある。このリチウムイオン二次電池は、負極、正極、電解質などで構成され、その負極および正極の材料として用いられる活物質には、充放電によりリチウムを脱離および挿入することが可能な材料が使用される。
【0004】
このリチウムイオン二次電池のうち、層状またはスピネル型のリチウム遷移金属複合酸化物を正極材料に用いたリチウムイオン二次電池は、4V級の電圧が得られるため、高エネルギー密度を有する電池として、現在、研究開発が盛んに行われており、一部では実用化も進んでいる。
【0005】
このようなリチウムイオン二次電池の正極材料として、合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2)粒子、コバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO2)粒子、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2)粒子、マンガンを用いたリチウムマンガン複合酸化物(LiMn2O4)粒子、リチウムニッケルマンガン複合酸化物(LiNi0.5Mn0.5O2)粒子などのリチウム遷移金属複合酸化物粒子が提案されている。
【0006】
ところで、サイクル特性や出力特性に優れたリチウムイオン二次電池を得るためには、正極活物質が、小粒径で粒度分布が狭い粒子によって構成されていることが必要となる。これは、粒径が小さい粒子は、比表面積が大きく、正極活物質として用いた場合に電解液との反応面積を十分に確保することができるばかりでなく、正極を薄く構成し、リチウムイオンの正極-負極間の移動距離を短くすることができるため、正極抵抗の低減が可能だからである。また、粒度分布が狭い粒子は、電極内で粒子に印加される電圧を均一化できるため、微粒子が選択的に劣化することによる電池容量の低下を抑制することが可能だからである。
【0007】
例えば、特開2011-116580号公報、特開2012-246199号公報、特開2013-147416号公報およびWO2012/131881号公報には、主として核生成を行う核生成工程と、主として粒子成長を行う粒子成長工程の2段階に明確に分離した晶析反応により、正極活物質の前駆体となる遷移金属複合水酸化物粒子を製造する方法が開示されている。
【0008】
これらの方法では、核生成工程および粒子成長工程におけるpH値や反応雰囲気を適宜調整することで、小粒径で粒度分布が狭い前駆体が得られているが、このような前駆体を用いて粒度分布が狭い正極活物質を得ている。更に、主として核生成を行う核生成工程と、主として粒子成長を行う粒子成長工程の雰囲気を制御することにより、微細一次粒子からなる低密度の中心部と、板状または針状一次粒子からなる高密度の外周部とから構成される遷移金属複合水酸化物粒子が得られ、このような前駆体を用いて中空構造を有する正極活物質を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2011-116580号公報
【特許文献2】特開2012-246199号公報
【特許文献3】特開2013-147416号公報
【特許文献4】WO2012/131881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、これらの文献に記載の製造方法では、粒子構造が改善されることによって出力特性を改善できるが、今後求められる電池容量やサイクル特性をさらに向上することができない。
【0011】
そこで本発明は、上述の問題に鑑みて、二次電池を構成した場合に、電池容量とサイクル特性をさらに向上することが可能な正極活物質を提供することを目的とする。また、本発明は、この正極活物質を用い電池容量とサイクル特性をさらに向上させた二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質は、リチウム遷移金属複合酸化物粒子からなるリチウムイオン二次電池用正極活物質であって、一般式(B):Li1+uNixMnyCozMtO2(-0.05≦u≦0.50、x+y+z+t=1、0.3≦x≦0.8、0.05≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0≦t≦0.1、Mは、Nb、Mo、Ta、Zr、Wから選択される1種以上の添加元素)で表され、層状構造を有する六方晶系の結晶構造を有し、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子からなる正極活物質であり、前記正極活物質を走査型電子顕微鏡を用いて観察した際に、観察視野内の二次粒子の数に対する、5個以上の二次粒子が凝集した凝集粒子の数の割合が0.7%以下であり、余剰リチウム量が0.08質量%以下であることを特徴とする。
【0013】
このようにすれば、上記リチウムイオン二次電池用正極活物質を二次電池に構成した場合に、電池容量とサイクル特性をさらに向上することが可能な正極活物質を提供することができる。
【0014】
このとき、本発明の一態様では、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90-d10)/MV〕が0.55以下としてもよい。
【0015】
このようにすれば、前駆体とする正極活物質の粒度分布を狭くすることができ、二次電池の安全性、サイクル特性および出力特性を十分に改善することができる。
【0016】
このとき、本発明の一態様では、前記二次粒子は、平均粒径が3μm~15μmとしてもよい。
【0017】
このようにすれば、二次電池の単位体積あたりの電池容量を増加させることができるばかりでなく、安全性や出力特性も改善することができる。
【0018】
本発明の一態様では、正極と、負極と、セパレータと、非水電解質とを備えるリチウムイオン二次電池であって、前記正極は、上記リチウムイオン二次電池用正極活物質が正極材料として用いられていることを特徴とする。
【0019】
このようにすれば、電池容量とサイクル特性をさらに向上することが可能な正極活物質を提供することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、電池容量とサイクル特性をさらに向上することが可能な正極活物質を提供することができる。また、本発明は、この正極活物質を用い電池容量とサイクル特性をさらに向上させた二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の概略を示す工程図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の実施例の電池評価に使用したコイン型電池の概略断面図である。
【
図3】
図3(A)は、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の実施例のインピーダンス評価の測定結果を示すナイキストプロットであり、
図3(B)は、当該インピーダンス評価の解析に使用した等価回路の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明者らは、2013-147416号公報などの従来技術に基づいてリチウムイオン二次電池用正極活物質(以下、「正極活物質」という)の電池容量とサイクル特性をさらに改善するために鋭意研究を重ねた。この結果、前駆体とリチウム化合物の混合物を焼成する工程において、特定の温度で仮焼して仮焼物の半価幅を適切な範囲に調製した後、焼成することで、正極活物質を構成する二次粒子の焼結凝集を抑制することができ、電池に用いた際の特性を向上させることが可能であるとの知見を得た。本発明は、これらの知見に基づき完成されたものである。以下、本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0023】
なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で変更が可能である。また、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法、リチウムイオン二次電池用正極活物質、リチウムイオン二次電池について、下記の順に説明する。
1.遷移金属複合水酸化物粒子
1-1.遷移金属複合水酸化物粒子
1-2.遷移金属複合水酸化物粒子の製造方法
2.リチウムイオン二次電池用正極活物質
2-1.リチウムイオン二次電池用正極活物質
2-2.リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法
3.リチウムイオン二次電池
【0024】
<1.遷移金属複合水酸化物粒子>
<1-1.遷移金属複合水酸化物粒子>
本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造する過程においては、遷移金属複合水酸化物粒子(以下、「複合水酸化物粒子」という)をリチウムイオン二次電池用正極活物質の前駆体として用いる。
【0025】
複合水酸化物粒子は、複数の板状一次粒子が凝集して形成された二次粒子から構成されることが好ましい。さらに、二次粒子は、前記微細一次粒子が凝集して形成された中心部を有し、該中心部の外側に、該板状一次粒子が凝集して形成された外周部を備えることが好ましく、前記中心部は外周部より高濃度の添加元素を含むことがより好ましい。このような中心部を有する複合水酸化物粒子を用いることで、より高い出力特性を有する中空構造の正極活物質を得ることが可能となる。また、二次粒子の平均粒径が3μm~15μmであることが好ましい。
【0026】
(1)粒子構造
二次粒子の構造
本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質に用いる好適な複合水酸化物粒子は、複数の板状一次粒子が凝集して形成された略球状の二次粒子となっている。さらに、粒子内部は微細一次粒子からなる中心部を有し、中心部の外側に該微細一次粒子よりも大きな板状一次粒子からなる外周部を有する構造を備えていることが好ましい。このような複数の板状一次粒子が凝集した構造により、本発明の正極活物質であるリチウムニッケルマンガン複合酸化物を形成する焼結工程において、粒子内へのリチウムの拡散が十分に行われるため、リチウムの分布が均一で良好な正極活物質が得られる。このような複合水酸化物粒子やその製造方法は、例えば、特開2011-116580号公報、特開2012-246199号公報に詳細に開示されている。
【0027】
ここで、上記中心部が、微細な一次粒子が連なった隙間の多い構造である場合、より大きく厚みのある板状一次粒子からなる外周部と比べると、上記焼成工程S5において焼結による収縮が低温から発生する。このため、焼成時に低温から焼結が進行して、粒子の中心から焼結の進行が遅い外周部側に収縮して、中心部に空間が生じる。また、中心部は低密度と考えられ、収縮率も大きいことから、中心部は十分な大きさを有する空間となる。これにより、焼成後に得られる正極活物質が中空構造となる。
【0028】
さらに、板状一次粒子がランダムな方向に凝集して二次粒子を形成したものであれば、より好ましい。板状一次粒子がランダムな方向に凝集することで、一次粒子間にほぼ均一に空隙が生じて、リチウム化合物と混合して焼成するとき、溶融したリチウム化合物が二次粒子内へ行きわたり、リチウムの拡散が十分に行われる。
【0029】
また、ランダムな方向に凝集していることで、上記中心部を有する複合水酸化物粒子は、上記焼成工程S5における中心部の収縮も均等に生じることから、正極活物質内部に十分な大きさを有する空間を形成することができ、好ましい。
【0030】
上記焼成時の空間形成のためには、上記微細一次粒子は、その平均粒径が0.01~0.3μmであることが好ましく、0.1~0.3μmであることがさらに好ましい。また、板状一次粒子は、その平均粒径が0.3~3μmであることが好ましく、0.4~1.5μmであることがさらに好ましく、0.4~1.0μmであることが特に好ましい。
【0031】
(2)平均粒径
本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質に用いる複合水酸化物粒子は、二次粒子の平均粒径が、好ましくは3μm~12μm、より好ましくは3μm~10μmに調整される。二次粒子の平均粒径は、この複合水酸化物粒子を前駆体とする正極活物質の平均粒径と相関する。このため、二次粒子の平均粒径をこのような範囲に制御することで、この複合水酸化物粒子を前駆体とする正極活物質の平均粒径を所定の範囲に制御することが可能となる。
【0032】
なお、上記二次粒子の平均粒径とは、体積基準平均粒径(MV)を意味し、例えば、レーザ光回折散乱式粒度分析計で測定した体積積算値から求めることができる。
【0033】
(3)粒度分布
本発明に用いる複合水酸化物粒子は、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90-d10)/平均粒径〕が、0.65以下、好ましくは0.55以下、より好ましくは0.50以下となるように調整される。
【0034】
正極活物質の粒度分布は、その前駆体である複合水酸化物粒子の影響を強く受ける。このため、微細粒子や粗大粒子を多く含む複合水酸化物粒子を前駆体とした場合には、正極活物質にも微細粒子や粗大粒子が多く含まれることとなり、これを用いた二次電池の安全性、サイクル特性および出力特性を十分に改善することができなくなる。これに対して、複合水酸化物粒子の段階で、〔(d90-d10)/平均粒径〕が0.65以下となるように調整しておけば、これを前駆体とする正極活物質の粒度分布を狭くすることができ、上述した問題を回避することが可能となる。ただし、工業規模の生産を前提とした場合には、複合水酸化物粒子として、〔(d90-d10)/平均粒径〕が過度に小さいものを使用することは現実的ではない。したがって、コストや生産性を考慮すると、〔(d90-d10)/平均粒径〕の下限値は、0.25程度とすることが好ましい。
【0035】
なお、d10は、各粒径における粒子数を粒径の小さい側から累積し、その累積体積が全粒子の合計体積の10%となる粒径を、d90は、同様に粒子数を累積し、その累積体積が全粒子の合計体積の90%となる粒径を意味する。d10およびd90は、平均粒径と同様に、レーザ光回折散乱式粒度分析計で測定した体積積算値から求めることができる。
【0036】
(4)組成
本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質に用いる複合水酸化物粒子は、一般式(A):NixMnyCozMt(OH)2+a(x+y+z+t=1、0.3≦x≦0.8、0.05≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0≦t≦0.1、0≦a≦0.5、Mは、Nb、Mo、Ta、Zr、Wから選択される1種以上の添加元素)で表される。このような複合水酸化物粒子を前駆体とすることで、後述する一般式(B)で表される正極活物質を容易に得ることができ、より高い電池性能を実現することができる。
【0037】
なお、一般式(A)で表される複合水酸化物粒子において、これを構成するニッケル、マンガン、コバルトおよび添加元素Mの組成範囲およびその臨界的意義は、後述の一般式(B)で表される正極活物質と同様となる。このため、これらの事項について、ここでの説明は省略する。
【0038】
<1-2.遷移金属複合水酸化物粒子の製造方法>
次に上述した遷移金属複合水酸化物粒子の製造方法について説明する。本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質に用いる複合水酸化物粒子は、例えば、反応槽内に、少なくとも遷移金属を含有する原料水溶液と、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液を供給することで反応水溶液を形成し、晶析反応によって、リチウムイオン二次電池用正極活物質の前駆体となる遷移金属複合水酸化物粒子を製造する方法で得られる。
【0039】
特に、晶析反応を、反応水溶液の液温25℃基準におけるpH値を12.0~14.0の範囲に調整し、核生成を行う核生成工程と、核生成工程で得られた核を含む反応水溶液の液温25℃基準におけるpH値を、核生成工程のpH値よりも低く、かつ、10.5~12.0となるように制御して、核を成長させる、粒子成長工程の2段階に明確に区別にすることが好ましい。また、核生成工程および粒子成長工程の初期における反応雰囲気を酸素濃度が5容量%を超える酸化性雰囲気に調整するとともに、粒子成長工程において、反応雰囲気を、前記酸化性雰囲気から5容量%以下の非酸化性雰囲気に切り替えることが好ましい。
【0040】
なお、複合水酸化物粒子の製造方法は、上述した構造、平均粒径および粒度分布を実現できる限り、その組成によって制限されることはないが、一般式(A)で表される複合水酸化物粒子に対して、好適に適用することができる。
【0041】
(1)晶析反応
上記複合水酸化物粒子の製造方法では、晶析反応を、主として核生成を行う核生成工程と、主として粒子成長を行う粒子成長工程の2段階に明確に分離するとともに、各工程における晶析条件を調整することにより、特に、粒子成長工程において、反応雰囲気を切り換えることにより、上述した粒子構造、平均粒径および粒度分布を備える複合水酸化物粒子を効率よく得ることを可能としている。
【0042】
[核生成工程]
核生成工程では、はじめに、この工程における原料となる遷移金属の化合物を水に溶解し、原料水溶液を調製する。同時に、反応槽内に、アルカリ水溶液と、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液を供給および混合して、液温25℃基準で測定するpH値が12.0~14.0、アンモニウムイオン濃度が3g/L~25g/Lである反応前水溶液を調製する。なお、反応前水溶液のpH値はpH計により、アンモニウムイオン濃度はイオンメータにより測定することができる。
【0043】
次に、この反応前水溶液を撹拌しながら、原料水溶液を供給する。これにより、反応槽内には、核生成工程における反応水溶液である核生用成水溶液が形成される。この核生成用水溶液のpH値は上述した範囲にあるので、核生成工程では、核はほとんど成長することなく、核生成が優先的に起こる。なお、核生成工程では、核生成に伴い、核生成用水溶液のpH値およびアンモニウムイオンの濃度は変化するので、アルカリ水溶液およびアンモニア水溶液を適時供給し、反応槽内液のpH値が液温25℃基準でpH12.0~14.0の範囲に、アンモニウムイオンの濃度が3g/L~25g/Lの範囲に維持するように制御することが必要となる。
【0044】
なお、核生成工程においては、反応雰囲気を酸素濃度が5容量%を超える酸化性雰囲気に調整する。これにより、複合水酸化物粒子の内部に微細一次粒子が凝集して形成された中心部を形成することができ、この複合水酸化物粒子を前駆体として用いることによって中空構造を有する正極活物質を得ることができるため、電解液との反応面積を一層大きくすることができる。
【0045】
核生成工程では、核生成用水溶液に、原料水溶液、アルカリ水溶液およびアンモニウムイオン供給体を含む水溶液を供給することにより、連続して新しい核の生成が継続される。そして、核生成用水溶液中に、所定量の核が生成した時点で、核生成工程を終了する。
【0046】
この際、核の生成量は、核生成用水溶液に供給した原料水溶液に含まれる金属化合物の量から判断することができる。核生成工程における核の生成量は、特に制限されるものではないが、粒度分布の狭い複合水酸化物粒子を得るためには、核生成工程および粒子成長工程を通じて供給する原料水溶液に含まれる金属化合物中の金属元素に対して、0.1原子%~2原子%とすることが好ましく、0.1原子%~1.5原子%とすることがより好ましい。
【0047】
[粒子成長工程]
核生成工程終了後、反応槽内の核生成用水溶液のpH値を、液温25℃基準で10.5~12.0に調整し、粒子成長工程における反応水溶液である粒子成長用水溶液を形成する。pH値は、アルカリ水溶液の供給を停止することでも調整可能であるが、粒度分布の狭い複合水酸化物粒子を得るためには、一旦、すべての水溶液の供給を停止してpH値を調整することが好ましい。具体的には、すべての水溶液の供給を停止した後、核生成用水溶液に、原料となる金属化合物を構成する酸と同種の無機酸を供給することにより、pH値を調整することが好ましい。
【0048】
次に、この粒子成長用水溶液を撹拌しながら、原料水溶液の供給を再開する。この際、粒子成長用水溶液のpH値は上述した範囲にあるため、新たな核はほとんど生成せず、核(粒子)成長が進行し、所定の粒径を有する複合水酸化物粒子が形成される。なお、粒子成長工程においても、粒子成長に伴い、粒子成長用水溶液のpH値およびアンモニウムイオン濃度は変化するので、アルカリ水溶液およびアンモニア水溶液を適時供給し、pH値およびアンモニウムイオン濃度を上記範囲に維持することが必要となる。
【0049】
特に、本発明の複合水酸化物粒子の製造方法においては、粒子成長工程の途中で、反応雰囲気を酸化性雰囲気から酸素濃度が5容量%以下の非酸化性雰囲気に切り替える。これによって、上述した粒子構造を有する複合水酸化物粒子を得ることが可能となる。
【0050】
なお、このような複合水酸化物粒子の製造方法では、核生成工程および粒子成長工程において、金属イオンは、核または複合水酸化物粒子を形成する一次粒子となって析出する。このため、核生成用水溶液および粒子成長用水溶液中の金属成分に対する液体成分の割合が増加する。この結果、見かけ上、原料水溶液の濃度が低下し、特に、粒子成長工程においては、複合水酸化物粒子の成長が停滞する可能性がある。したがって、液体成分の増加を抑制するため、核生成工程終了後から粒子成長工程の途中で、粒子成長用水溶液の液体成分の一部を反応槽外に排出することが好ましい。具体的には、原料水溶液、アルカリ水溶液およびアンモニウムイオン供給体を含む水溶液の供給および攪拌を一旦停止し、粒子成長用水溶液中の核や複合水酸化物粒子を沈降させて、粒子成長用水溶液の上澄み液を排出することが好ましい。このような操作により、粒子成長用水溶液における混合水溶液の相対的な濃度を高めることができるため、粒子成長の停滞を防止し、得られる複合水酸物粒子の粒度分布を好適な範囲に制御することができるばかりでなく、二次粒子全体としての密度も向上させることができる。
【0051】
[添加元素の添加]
原料水溶液中における添加元素以外の元素に対する添加元素の濃度は、酸化性雰囲気における濃度を、非酸化性雰囲気における濃度より高くする。酸化性雰囲気における濃度は、非酸化性雰囲気における濃度の好ましくは2倍以上、より好ましくは5倍以上とする。特に好ましくは、酸化性雰囲気においては添加元素を含む水溶液を添加し、非酸化性雰囲気においては前記添加元素を含む水溶液の添加を停止する。酸化性雰囲気で形成した微細一次粒子が凝集した中心部は、正極活物質を製造した際に、非酸化性雰囲気において形成された板状一次粒子が凝集して形成された外周部の内側に収縮して中空部を形成する。よって酸化性雰囲気で添加した添加元素は、外周部に拡散し、正極活物質の外殻部を形成する一次粒子の表面に多く存在するのに対し、非酸化性雰囲気で添加した添加元素は、前記一次粒子の内部に多く存在することになり、前記一次粒子の表面に添加元素の濃化層が形成される。電解液と接触する一次粒子表面に前記濃化層を形成することによって、出力特性を向上する添加元素を有効に機能させることが可能となる。酸化性雰囲気で添加した添加元素の濃度を、非酸化性雰囲気において添加する濃度より、高くすることによって、前記濃化層中の添加元素の量を増加させることができ、さらに有効に機能させることができる。
【0052】
さらに、前記粒子成長工程において、前記酸化性雰囲気から前記非酸化性雰囲気への切り替え後から、該粒子成長工程終了までの時間に対して35%~75%の範囲で、前記添加元素の濃度を前記35%~75%の範囲の濃度より高くすることで、外周部の厚さの50%~80%より表面側における添加元素の濃度を、外周部の内部側より高くすることができる。このような内部側より高濃度の添加元素を含む層を外周部の表面側に形成することで、正極活物質における濃化層の形成をさらに均一して電池特性を向上させることが可能となる。
【0053】
[複合水酸化物粒子の粒径制御]
上述のようにして得られる複合水酸化物粒子の粒径は、粒子成長工程や核生成工程の時間、核生成用水溶液や粒子成長用水溶液のpH値や、原料水溶液の供給量により制御することができる。例えば、核生成工程を高pH値で行うことにより、または、粒子成長工程の時間を長くすることにより、供給する原料水溶液に含まれる金属化合物の量を増やし、核の生成量を増加させ、得られる複合水酸化物粒子の粒径を小さくすることができる。反対に、核生成工程における核の生成量を抑制することで、得られる複合水酸化物粒子の粒径を大きくすることができる。
【0054】
[晶析反応の別実施態様]
本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質に用いる複合水酸化物粒子の製造方法では、核生成用水溶液とは別に、粒子成長工程に適したpH値およびアンモニウムイオン濃度に調整された成分調整水溶液を用意し、この成分調整用水溶液に、核生成工程後の核生成用水溶液、好ましくは核生成工程後の核生成用水溶液から液体成分の一部を除去したものを添加および混合して、これを粒子成長用水溶液として、粒子成長工程を行ってもよい。
【0055】
この場合、核生成工程と粒子成長工程の分離をより確実に行うことができるため、各工程における反応水溶液を、最適な状態に制御することができる。特に、粒子成長工程の開始時から粒子成長用水溶液のpH値を最適な範囲に制御することができるため、得られる複合水酸化物粒子の粒度分布をより狭いものとすることができる。
【0056】
(2)供給水溶液
a)原料水溶液
原料水溶液中の金属元素の比率が、概ね、得られる複合水酸化物粒子の組成比となる。このため、原料水溶液は、目的とする複合水酸化物粒子の組成に応じて、各金属元素の含有量を適宜調整することが必要となる。例えば、上述した一般式(A)で表される複合水酸化物粒子を得ようとする場合には、原料水溶液中の金属元素の比率を、Ni:Mn:Co:M=x:y:z;t(ただし、x+y+z+t=1、0.3≦x≦0.80、0.05≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0≦t≦0.1)となるように調整することが必要となる。
【0057】
原料水溶液を調製するための、遷移金属の化合物は、特に制限されることはないが、取扱いの容易性から、水溶性の硫酸塩、硝酸塩および塩酸塩などを用いることが好ましく、コストやハロゲンの混入を防止する観点から、硫酸塩を好適に用いることが特に好ましい。
【0058】
また、複合水酸化物粒子中に添加元素M(Mは、Nb、Mo、Ta、Zr、Wから選択される1種以上の添加元素)を含有させる場合には、添加元素Mを供給するための化合物としては、同様に水溶性の化合物が好ましく、例えば、シュウ酸ニオブ、モリブデン酸アンモニウム、タンタル酸ナトリウム、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸アンモニウムなどを好適に用いることができる。
【0059】
原料水溶液の濃度は、金属化合物の合計で、好ましくは1.0mol/L~2.6mol/L、より好ましくは1.5mol/L~2.2mol/Lとする。原料水溶液の濃度が1.0mol/L未満では、反応槽当たりの晶析物量が少なくなるため、生産性が低下する。一方、混合水溶液の濃度が2.6mol/Lを超えると、常温での飽和濃度を超えるため、各金属化合物の結晶が再析出して、配管などを詰まらせるおそれがある。
【0060】
上述した金属化合物は、必ずしも原料水溶液として反応槽に供給しなくてもよい。例えば、混合すると反応して目的とする化合物以外の化合物が生成されてしまう金属化合物を用いて晶析反応を行う場合には、全金属化合物水溶液の合計の濃度が上記範囲となるように、個別に金属化合物水溶液を調製して、個々の金属化合物の水溶液として、所定の割合で反応槽内に供給してもよい。
【0061】
また、原料水溶液の供給量は、粒子成長工程の終了時点において、粒子成長用水溶液中の生成物の濃度が、好ましくは30g/L~200g/L、より好ましくは80g/L~150g/Lとなるようにする。生成物の濃度が30g/L未満では、一次粒子の凝集が不十分になる場合がある。一方、200g/Lを超えると、反応槽内に、核生成用金属塩水溶液または粒子成長用金属塩水溶液が十分に拡散せず、粒子成長に偏りが生じる場合がある。
【0062】
b)アルカリ水溶液
反応水溶液中のpH値を調整するアルカリ水溶液は、特に制限されることはなく、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの一般的なアルカリ金属水酸化物水溶液を用いることができる。なお、アルカリ金属水酸化物を、直接、反応水溶液に添加することもできるが、pH制御の容易さから、水溶液として添加することが好ましい。この場合、アルカリ金属水酸化物水溶液の濃度を、好ましくは20質量%~50質量%、より好ましくは20質量%~30質量%とする。アルカリ金属水溶液の濃度をこのような範囲に規制することにより、反応系に供給する溶媒量(水量)を抑制しつつ、添加位置で局所的にpH値が高くなることを防止することができるため、粒度分布の狭い複合水酸化物粒子を効率的に得ることが可能となる。
【0063】
なお、アルカリ水溶液の供給方法は、反応水溶液のpH値が局所的に高くならず、かつ、所定の範囲に維持される限り、特に制限されることはない。例えば、反応水溶液を十分に撹拌しながら、定量ポンプなどの流量制御が可能なポンプにより供給すればよい。
【0064】
c)アンモニウム供給体を含む水溶液
アンモニウムイオン供給体を含む水溶液も、特に制限されることはなく、例えば、アンモニア水、または、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウムもしくはフッ化アンモニウムなどの水溶液を使用することができる。
【0065】
アンモニウムイオン供給体として、アンモニア水を使用する場合には、その濃度は、好ましくは20質量%~30質量%、より好ましくは22質量%~28質量%とする。アンモニア水の濃度をこのような範囲に規制することにより、揮発などによるアンモニアの損失を最小限に抑制することができるため、生産効率の向上を図ることが可能となる。
【0066】
なお、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液の供給方法も、アルカリ水溶液と同様に、流量制御が可能なポンプにより供給することができる。
【0067】
(3)pH値
本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質に用いられる複合水酸化物粒子の製造方法においては、液温25℃基準におけるpH値を、核生成工程においては12.0~14.0の範囲に、粒子成長工程においては10.5~12.0の範囲に制御することが必要となる。なお、いずれの工程においても、晶析反応中のpH値の変動幅は、±0.2以内に制御することが好ましい。pH値の変動幅が大きい場合には、核生成量と粒子成長の割合が一定とならず、粒度分布の狭い複合水酸化物粒子を得ることが困難となる。
【0068】
a)核生成工程
核生成工程においては、反応水溶液(核生成用水溶液)のpH値を、液温25℃基準で、12.0~14.0、好ましくは12.3~13.5、より好ましくは12.5~13.3の範囲に制御することが必要となる。これにより、核の成長を抑制し、核生成を優先させることが可能となり、この工程で生成する核を均質かつ粒度分布の狭いものとすることができる。一方、pH値が12.0未満では、核生成とともに核(粒子)の成長が進行するため、得られる複合水酸化物粒子の粒径が不均一となり、粒度分布が悪化する。また、pH値が14.0を超えると、生成する核が微細になりすぎるため、核生成用水溶液がゲル化する問題が生じる。
【0069】
b)粒子成長工程
粒子成長工程においては、反応水溶液(粒子成長用水溶液)のpH値を、液温25℃基準で、10.5~12.0、好ましくは11.0~12.0、より好ましくは11.5~12.0の範囲に制御することが必要となる。これにより、新たな核の生成が抑制され、粒子成長を優先させることが可能となり、得られる複合水酸化物粒子を均質かつ粒度分布が狭いものとすることができる。一方、pH値が10.5未満では、アンモニウムイオン濃度が上昇し、金属イオンの溶解度が高くなるため、晶析反応の速度が遅くなるばかりでなく、反応水溶液中に残存する金属イオン量が増加し、生産性が悪化する。また、pH値が12.0を超えると、粒子成長工程中の核生成量が増加し、得られる複合水酸化物粒子の粒径が不均一となり、粒度分布が悪化する。
【0070】
なお、pH値が12.0の場合は、核生成と核成長の境界条件であるため、反応水溶液中に存在する核の有無により、核生成工程または粒子成長工程のいずれかの条件とすることができる。すなわち、核生成工程のpH値を12.0より高くして多量に核生成させた後、粒子成長工程のpH値を12.0とすると、反応水溶液中に多量の核が存在するため、粒子成長が優先して起こり、粒度分布が狭い複合水酸化物粒子を得ることができる。一方、核生成工程のpH値を12.0とすると、反応水溶液中に成長する核が存在しないため、核生成が優先して起こり、粒子成長工程のpH値を12.0より小さくすることで、生成した核が成長して良好な複合水酸化物粒子を得ることができる。いずれの場合においても、粒子成長工程のpH値を核生成工程のpH値より低い値で制御すればよく、核生成と粒子成長を明確に分離するためには、粒子成長工程のpH値を核生成工程のpH値より0.5以上低くすることが好ましく、1.0以上低くすることがより好ましい。
【0071】
(4)反応雰囲気
上述のような複合水酸化物粒子が中心部を有する好ましい構造は、核生成工程および粒子成長工程における反応水溶液のpH値を上述のように制御するとともに、これらの工程における反応雰囲気を制御することにより形成される。したがって、このような複合水酸化物粒子の製造方法においては、各工程におけるpH値の制御とともに、反応雰囲気を制御する。すなわち、各工程におけるpH値を上述のように制御した上で、核生成工程と粒子成長工程の初期の反応雰囲気を酸化性雰囲気に調整することで、微細一次粒子が凝集した中心部が形成される。また、粒子成長工程の途中で、酸化性雰囲気から非酸化性雰囲気に切り替えることにより、中心部の外側に、板状一次粒子が凝集した外周部が形成される。
【0072】
このような反応雰囲気の制御では、中心部を構成する微細一次粒子は、通常、板状および/または針状となるが、複合水酸化物粒子の組成によっては、直方体状、楕円状、稜面体状などの形状も採り得る。この点については、外周部を構成する板状一次粒子についても同様である。したがって、目的とする複合水酸化物粒子の組成に応じて、各段階における反応雰囲気を適切に制御する。
【0073】
a)酸化性雰囲気
複合水酸化物粒子の中心部を形成する段階では、反応雰囲気を、酸化性雰囲気に制御する。具体的には、反応雰囲気中における酸素濃度が、5容量%を超えるように、好ましくは10容量%以上、より好ましくは大気雰囲気(酸素濃度:21容量%)となるように制御する。反応雰囲気中の酸素濃度をこのような範囲に制御することにより、一次粒子の平均粒径が0.01μm~0.3μmの範囲となるため、微細一次粒子で形成された中心部を形成することができる。
【0074】
なお、この段階における反応雰囲気中の酸素濃度の上限は特に制限されることはないが、酸素濃度が過度に高いと、一次粒子の平均粒径が0.01μm未満となり、低密度層が十分な大きさとならない場合がある。このため、酸素濃度は30容量%以下とすることが好ましい。
【0075】
b)非酸化性雰囲気
一方、複合水酸化物粒子の外周部を形成する段階における反応雰囲気は、弱酸化性雰囲気ないしは非酸化性雰囲気に制御する。具体的には、反応雰囲気中における酸素濃度が、5容量%以下、好ましくは2容量%以下、より好ましくは1容量%以下となるように、酸素と不活性ガスの混合雰囲気に制御する。これにより、不要な酸化を抑制しつつ、核生成工程で生成した核を一定の範囲まで成長させることができるため、複合水酸化物粒子の外周部を、平均粒径が0.3μm~3μmの範囲にあり、板状一次粒子が凝集した構造とすることができ、上述した中心部と十分な一次粒子径の差を有する外周部を形成することができる。
【0076】
c)雰囲気制御のタイミング
粒子成長工程において、上述した雰囲気制御は、目的とする粒子構造を有する複合水酸化物粒子が形成されるように、適切なタイミングで行うことが必要となる。
【0077】
上記粒子成長工程における雰囲気の切り替えは、最終的に得られる正極活物質において、微粒子が発生してサイクル特性が悪化しない程度の中空部が得られるように、複合水酸化物粒子の中心部の大きさを考慮して、そのタイミングが決定される。例えば、粒子成長工程時間の全体に対して、粒子成長工程の開始時から0~40%、好ましくは0~30%、さら好ましくは0~25%の時間の範囲で行う。粒子成長工程時間の全体に対して40%を超える時点で上記切り替えを行うと、形成される中心部が大きくなり、上記二次粒子の粒径に対する外周部の厚さが薄くなり過ぎる。一方、粒子成長工程の開始前、すなわち、核生成工程中に上記切り替えを行うと、中心部が小さくなりすぎるか、上記構造を有する二次粒子が形成されない。
【0078】
d)切替方法
従来、晶析工程中における反応雰囲気の切り替えは、反応槽内に雰囲気ガスを流通させるか、反応水溶液に、内径が1mm~50mm程度の導管を挿入し、雰囲気ガスによってバブリングすることで行う。しかしながら、このような従来技術では、反応雰囲気の切り替えに長時間を要するため、切替中に、原料水溶液の供給を停止することが必要とされる。したがって、原料水溶液を供給しながら反応雰囲気の切り替えを行う場合は、散気管を用いることが好ましい。散気管は、表面に微細な孔を多数有する導管によって構成され、液体中に微細なガス(気泡)を多数放出することができるため、短時間で反応雰囲気の切り替えを行うことが可能である。このため、反応雰囲気の切替時に、原料水溶液の供給を停止する必要はなく、生産効率の改善を図ることができる。
【0079】
このような散気管としては、高pH環境下における耐性に優れるセラミック製のものを用いることが好ましい。また、散気管は、その孔径が小さいほど、微細な気泡を放出することができるため、高い効率で反応雰囲気を切り替えることが可能となる。本発明においては、孔径が100μm以下の散気管を用いることが好ましく、50μm以下の散気管を用いることがより好ましい。
【0080】
(5)アンモニウムイオン濃度
反応水溶液中のアンモニウムイオン濃度は、好ましくは3g/L~25g/L、より好ましくは5g/L~20g/Lの範囲内で一定値に保持する。反応水溶液中においてアンモニウムイオンは錯化剤として機能するため、アンモニウムイオン濃度が3g/L未満では、金属イオンの溶解度を一定に保持することができず、また、反応水溶液がゲル化しやすくなり、形状や粒径の整った複合水酸化物粒子を得ることが困難となる。一方、アンモニウムイオン濃度が25g/Lを超えると、金属イオンの溶解度が大きくなりすぎるため、反応水溶液中に残存する金属イオン量が増加し、組成ずれなどの原因となる。
【0081】
なお、晶析反応中にアンモニウムイオン濃度が変動すると、金属イオンの溶解度が変動し、均一な複合水酸化物粒子が形成されなくなる。このため、核生成工程と粒子成長工程を通じて、アンモニウムイオン濃度の変動幅を一定の範囲に制御することが好ましく、具体的には、±5g/Lの変動幅に制御することが好ましい。
【0082】
(6)反応温度
反応水溶液の温度(反応温度)は、核生成工程と粒子成長工程を通じて、好ましくは20℃以上、より好ましくは20℃~60℃の範囲に制御することが必要となる。反応温度が20℃未満では、反応水溶液の溶解度が低くなることに起因して、核生成が起こりやすくなり、得られる複合水酸化物粒子の平均粒径や粒度分布の制御が困難となる。なお、反応温度の上限は、特に制限されることはないが、60℃を超えると、アンモニアの揮発が促進され、反応水溶液中のアンモニウムイオンを一定範囲に制御するために供給するアンモニウムイオン供給体を含む水溶液の量が増加し、生産コストが増加してしまう。
【0083】
(7)被覆工程
正極活物質に添加元素を加えるため、被覆工程を備えてもよい。被覆方法は、複合水酸化物粒子を、添加元素Mを含む化合物によって均一に被覆することができる限り、特に制限されることはない。例えば、複合水酸化物粒子をスラリー化し、そのpH値を所定の範囲に制御した後、添加元素Mを含む化合物を溶解した水溶液(被覆用水溶液)を添加し、複合水酸化物粒子の表面に添加元素Mを含む化合物を析出させることで、添加元素を含む化合物によって均一に被覆された複合水酸化物粒子を得ることができる。この場合、被覆用水溶液に代えて、添加元素のアルコキシド溶液をスラリー化した複合水酸化物粒子に添加してもよい。また、複合水酸化物粒子をスラリー化せずに、添加元素を含む化合物を溶解した水溶液またはスラリーを吹き付けて乾燥させることにより被覆してもよい。さらに、複合水酸化物粒子と添加元素を含む化合物が懸濁したスラリーを噴霧乾燥させる方法により、または、複合水酸化物粒子と添加元素を含む化合物を固相法で混合するなどの方法により被覆することもできる。
【0084】
なお、複合水酸化物粒子の表面を添加元素で被覆する場合には、被覆後の複合水酸化物粒子の組成が、目的とする複合水酸化物粒子の組成と一致するように、原料水溶液および被覆用水溶液の組成を適宜調整することが必要となる。また、被覆工程は、複合水酸化物粒子を熱処理した後の熱処理粒子に対して行ってもよい。
【0085】
(8)製造装置
本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質に用いられる複合水酸化物粒子を製造するための晶析装置(反応槽)としては、上述した散気管によって反応雰囲気の切り替えを行うことができるものである限り、特に制限されることはない。しかしながら、晶析反応が終了するまで、析出した生成物を回収しないバッチ式晶析装置を用いることが好ましい。このような晶析装置であれば、オーバーフロー方式によって生成物を回収する連続晶析装置とは異なり、成長中の粒子がオーバーフロー液と同時に回収されることがないため、粒度分布の狭い複合水酸化物粒子を容易に得ることができる。また、本発明の複合水酸化物粒子の製造方法では、晶析反応中の反応雰囲気を適切に制御することが必要となるため、密閉式の晶析装置を用いることが好ましい。
【0086】
<2.リチウムイオン二次電池用正極活物質>
<2-1.リチウムイオン二次電池用正極活物質>
本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質は、一般式(B):Li1+uNixMnyCozMtO2(-0.05≦u≦0.50、x+y+z+t=1、0.3≦x≦0.80、0.05≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0≦t≦0.1、Mは、Nb、Mo、Ta、Zr、Wから選択される1種以上の添加元素)で表され、層状構造を有する六方晶系の結晶構造を有し、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子からなる正極活物質であり、前記正極活物質を走査型電子顕微鏡を用いて観察した際に、観察視野内の二次粒子の数に対する、5個以上の二次粒子が凝集した凝集粒子の数の割合が0.7%以下であり、正極活物質に含まれる余剰リチウム量が0.08質量%以下であることを特徴とする。
【0087】
(1)粒子構造
a)二次粒子の構造
本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質は、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子から構成される。より高い出力特性を有するためには、二次粒子は、外殻部と、外殻部の内側に一次粒子が存在しない中空部とを備えていることが好ましい。
【0088】
中空構造を有する正極活物質では、一次粒子間の粒界または空隙から電解液が浸入して、粒子内部の中空側の一次粒子表面における反応界面でもリチウムの挿脱入が行われるため、Liイオン、電子の移動が妨げられず、出力特性を高くすることができる。
【0089】
b)外殻部
中空構造を有する正極活物質では、外殻部の厚さは、上記二次粒子の粒径に対する比率において5~45%であることが好ましく、8~38%であることがより好ましい。また、絶対値においては0.5~2.5μmの範囲にあることがより好ましく、0.4~2.0μmの範囲にあることが特に好ましい。外殻部の厚さの比率が5%未満であると、該二次粒子の強度が低下するため、粉体取扱時および電池の正極とするときに粒子が破壊され微粒子が発生し、特性を悪化させる。一方、外殻部の厚さの比率が45%を超えると、粒子内部の中空部へ電解液が侵入可能な上記粒界あるいは空隙から電解液が少なくなり、電池反応に寄与する表面積が小さくなるため、正極抵抗が上がり、出力特性が低下してしまう。なお、二次粒子径に対する外殻部の厚さの比率は、上記複合水酸化物粒子と同様にして求めることができる。
【0090】
(2)平均粒径
本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質は、平均粒径が、好ましくは3μm~12μm、より好ましくは3μm~10μmとなるように調整される。正極活物質の平均粒径がこのような範囲にあれば、この正極活物質を用いた二次電池の単位体積あたりの電池容量を増加させることができるばかりでなく、安全性や出力特性も改善することができる。これに対して、平均粒径が3μm未満では、正極活物質の充填性が低下し、単位体積あたりの電池容量を充分に増加させることができないことがある。一方、平均粒径が15μmを超えると、正極活物質の反応面積が低下し、電解液との界面が減少するため、出力特性を充分に改善することができないことがある。
【0091】
なお、正極活物質の平均粒径とは、上述した複合水酸化物粒子と同様に、体積基準平均粒径(MV)を意味し、例えば、レーザ光回折散乱式粒度分析計で測定した体積積算値から求めることができる。
【0092】
(3)粒度分布
本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質は、走査型電子顕微鏡を用いて倍率1000倍で観察した際に、5個以上の二次粒子が凝集した凝集粒子の割合は、視野中の二次粒子数に占める割合が0.7%以下、より好ましくは0.4%以下である。凝集粒子を低減することで、正極中の正極活物質粒子の分布が均一になり、Liの挿抜と電流の流れを均一にすることができ、電池容量とサイクル特性を向上させることができる。凝集粒子が増加すると、正極中の正極活物質粒子の分布が不均一になり、上記電池特性を改善することが困難である。
【0093】
さらに粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90-d10)/平均粒径〕が、好ましくは0.55以下、より好ましくは0.50以下であり、きわめて粒度分布が狭い粒子により構成される。このような正極活物質は、微細粒子や粗大粒子の割合が少なく、これを用いた二次電池は、安全性、サイクル特性および出力特性がより優れたものとなる。
【0094】
これに対して、〔(d90-d10)/平均粒径〕が0.55を超えると、正極活物質中の微細粒子や粗大粒子の割合が増加する。例えば、微細粒子の割合が多い正極活物質を用いた二次電池では、微細粒子の局所的な反応に起因して、二次電池が発熱しやすくなり、安全性が低下するばかりでなく、微細粒子の選択的な劣化により、サイクル特性が劣ったものとなることがある。また、粗大粒子の割合が多い正極活物質を用いた二次電池では、電解液と正極活物質の反応面積を十分に確保することができず、出力特性が劣ったものとなることがある。
【0095】
一方、工業規模の生産を前提とした場合には、正極活物質として、〔(d90-d10)/平均粒径〕が過度に小さいものを用いることは現実的でではない。したがって、コストや生産性を考慮すると、〔(d90-d10)/平均粒径〕の下限値は、0.25程度とすることが好ましい。
【0096】
なお、粒度分布の広がりを示す指標〔(d90-d10)/平均粒径〕におけるd10およびd90の意味、ならびに、これらの求め方は、上述した複合水酸化物粒子と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0097】
(4)結晶子径
本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質は、結晶子径が100nm~160nmであることが好ましく、110nm~150nmであることがより好ましい。結晶子径を上記範囲に制御することにより、サイクル特性と出力をさらに良好なものとすることができる。
【0098】
(5)組成
本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質は、一般式(B):Li1+uNixMnyCozMtO2(-0.05≦u≦0.50、x+y+z+t=1、0.3≦x≦0.80、0.05≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0≦t≦0.1、Mは、Nb、Mo、Ta、Zr、Wから選択される1種以上の添加元素)で表される正極活物質に対して好適に適用することができる。
【0099】
本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質において、リチウム(Li)の過剰量を示すuの値は、好ましくは-0.05以上0.50以下、より好ましく0以上0.50以下、さらに好ましくは0以上0.35以下とする。uの値を上記範囲に規制することにより、この正極活物質を正極材料として用いた二次電池の出力特性および電池容量を向上させることができる。これに対して、uの値が-0.05未満では、二次電池の正極抵抗が大きくなるため、出力特性を向上させることができない。一方、0.50を超えると、初期放電容量が低下するばかりでなく、正極抵抗も大きくなってしまう。
【0100】
ニッケル(Ni)は、二次電池の高電位化および高容量化に寄与する元素であり、その含有量を示すxの値は、0.3以上0.80以下、より好ましくは0.3以上0.60以下とする。xの値が0.3未満では、この正極活物質を用いた二次電池の電池容量を向上させることができない。一方、xの値が0.80を超えると、他の元素の含有量が減少し、その効果を得ることができない。
【0101】
マンガン(Mn)は、熱安定性の向上に寄与する元素であり、その含有量を示すyの値は、好ましくは0.05以上0.55以下、より好ましくは0.10以上0.40以下とする。yの値が0.05未満では、この正極活物質を用いた二次電池の熱安定性を向上させることができない。一方、yの値が0.55を超えると、高温作動時に正極活物質からMnが溶出し、充放電サイクル特性が低下してしまう。
【0102】
コバルト(Co)は、充放電サイクル特性の向上に寄与する元素であり、その含有量を示すzの値は、好ましくは0以上0.4以下、より好ましくは0.10以上0.35以下とする。zの値が0.4を超えると、この正極活物質を用いた二次電池の初期放電容量が大幅に低下してしまう。
【0103】
本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質では、二次電池の耐久性や出力特性をさらに改善するため、上述した金属元素に加えて、添加元素Mを含有してもよい。このような添加元素Mとしては、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、ランタン(La)、タングステン(W)から選択される1種以上を用いることができる。
【0104】
添加元素Mの含有量を示すtの値は、好ましくは0以上0.1以下、より好ましくは0.001以上0.05以下とする。tの値が0.1を超えると、Redox反応に寄与する金属元素が減少するため、電池容量が低下する。
【0105】
(6)余剰リチウム
本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質は、余剰リチウム(Li)量が0.8質量%以下である。余剰Li量は、正極活物質から溶出してくるLiを滴定することにより評価できる。得られた正極活物質1gに純水10mlを加えて1分間攪拌後、ろ過したろ液のpHを測定しながら1mol/リットルの塩酸を加えていくことにより出現する中和点から溶出するリチウムの化合物状態を分析して余剰Li量を評価するが、滴定曲線の高アルカリ側からの1段目の中和点(ショルダー)から算出したLi量を余剰Li量とする。通常は滴定曲線において2段の中和点が認められ、1段目の中和点がLiOH量を示し、2段目の中和点がLi2CO3量を示す。
【0106】
本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質では、余剰Li量を0.80質量%以下、好ましくは0.75質量%以下とすることで、電池製造に用いるペースト製造時における正極活物質からのLiの溶出を抑制し、ペーストのゲル化を抑制することができる。これにより、均一な正極の製造が可能となり、電池容量やサイクル特性が向上する。また、結晶性が高いためにLiの溶出が抑制されることで、正極活物質の結晶中から過剰にリチウムが引き抜かれることが防止され、高い結晶性が維持されて電池容量やサイクル特性が向上する。
【0107】
(6)比表面積
本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質は、比表面積が、0.3m2/g~5.0m2/gであることが好ましく、0.3m2/g~4.0m2/gであることがより好ましく、0.5m2/g~3.0m2/gであることがさらに好ましい。比表面積がこのような範囲にある正極活物質は、電解液との接触面積が大きく、これを用いた二次電池の出力特性を大幅に改善することができる。これに対して、正極活物質の比表面積が0.3m2/g未満では、二次電池を構成した場合に、電解液との反応面積を確保することができず、出力特性を十分に向上させることが困難となる。一方、正極活物質の比表面積が4.0m2/gを超えると、電解液との反応性が高くなりすぎるため、熱安定性が低下する場合がある。
【0108】
なお、正極活物質の比表面積は、例えば、窒素ガス吸着によるBET法により測定することができる。
【0109】
(7)タップ密度
携帯電子機器の使用時間や電気自動車の走行距離を伸ばすために、二次電池の高容量化は重要な課題となっている。一方、二次電池の電極の厚さは、電池全体のパッキングや電子伝導性の問題から数ミクロン程度とすることが要求される。このため、正極活物質として高容量のものを使用するばかりでなく、正極活物質の充填性を高め、二次電池全体としての高容量化を図ることが必要となる。このような観点から、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質では、充填性の指標であるタップ密度を、1.0g/cm3以上とすることが好ましく、1.2g/cm3以上とすることがより好ましい。タップ密度が1.0g/cm3未満では、充填性が低く、二次電池全体の電池容量を十分に改善することができない場合がある。一方、タップ密度の上限値は、特に制限されるものではないが、通常の製造条件での上限は、3.0g/cm3程度となる。
【0110】
なお、タップ密度とは、JIS Z-2504に基づき、容器に採取した試料粉末を、100回タッピングした後のかさ密度を表し、振とう比重測定器を用いて測定することができる。
【0111】
<2-2.リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法>
次に本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法について図を用いながら説明する。本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法は、
図1に示すように、少なくとも、上述した複合水酸化物粒子をリチウム化合物と混合し、リチウム混合物を得る混合工程S2と、得られたリチウム混合物を、酸化性雰囲気中、750℃~900℃で仮焼する仮焼工程S3と、上記仮焼工程S3で仮焼したリチウム混合物を形成された上記リチウム混合物を、酸化性雰囲気中、850℃~980℃で焼成する焼成工程S5とを備える製造方法によって正極活物質を合成する。なお、必要に応じて、上述した工程に、熱処理工程S1や解砕工程などの工程を追加してもよい。このような製造方法によれば、上述した正極活物質、特に、一般式(B)で表される正極活物質を容易に得ることができる。以下工程ごとに詳細に説明する。
【0112】
(1)熱処理工程S1
本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法においては、任意的に、混合工程S2の前に熱処理工程S1を設けて、複合水酸化物粒子を熱処理粒子としてからリチウム化合物と混合してもよい。ここで、熱処理粒子には、熱処理工程S1において余剰水分を除去された複合水酸化物粒子のみならず、熱処理工程S1により、酸化物に転換された遷移金属複合酸化物粒子(以下、「複合酸化物粒子」という)、または、これらの混合物も含まれる。
【0113】
熱処理工程S1は、複合水酸化物粒子を105℃~750℃に加熱して熱処理することにより、複合水酸化物粒子に含有される余剰水分を除去する工程である。これにより、焼成工程S5後まで残留する水分を一定量まで減少させることができ、得られる正極活物質の組成のばらつきを抑制することができる。
【0114】
熱処理工程S1における加熱温度は105℃~750℃とする。加熱温度が105℃未満では、複合水酸化物粒子中の余剰水分が除去できず、ばらつきを十分に抑制することができない場合がある。一方、加熱温度が700℃を超えても、それ以上の効果は期待できないばかりか、生産コストが増加してしまう。
【0115】
なお、熱処理工程S1では、正極活物質中の各金属成分の原子数や、Liの原子数の割合にばらつきが生じない程度に水分が除去できればよいので、必ずしもすべての複合水酸化物粒子を複合酸化物粒子に転換する必要はない。しかしながら、各金属成分の原子数やLiの原子数の割合のばらつきをより少ないものとするためには、400℃以上に加熱して、すべての複合水酸化物粒子を、複合酸化物粒子に転換することが好ましい。なお、熱処理条件による複合水酸化物粒子に含有される金属成分を分析によって予め求めておき、リチウム化合物との混合比を決めておくことで、上述したばらつきをより抑制することができる。
【0116】
熱処理を行う雰囲気は特に制限されるものではなく、非還元性雰囲気であればよいが、簡易的に行える空気気流中で行うことが好ましい。また、熱処理時間は、特に制限されないが、複合水酸化物粒子中の余剰水分を十分に除去する観点から、少なくとも1時間とすることが好ましく、5時間~15時間とすることがより好ましい。
【0117】
(2)混合工程S2
混合工程S2は、上述した複合水酸化物粒子または熱処理粒子に、リチウム化合物を混合して、リチウム混合物を得る工程である。
【0118】
混合工程S2では、リチウム混合物中のリチウム以外の金属原子、具体的には、ニッケル、コバルト、マンガンおよび添加元素Mとの原子数の和(Me)と、リチウムの原子数(Li)との比(Li/Me)が、1:0.95~1:1.5、好ましくは1:1.0~1:1.5、より好ましくは1:1.0~1:1.35、さらに好ましくは1:1.0~1:1.2となるように、複合水酸化物粒子または熱処理粒子とリチウム化合物を混合することが必要となる。すなわち、焼成工程S5の前後ではLi/Meは変化しないので、混合工程S2におけるLi/Meが、目的とする正極活物質のLi/Meとなるように、複合水酸化物粒子または熱処理粒子とリチウム化合物を混合することが必要となる。
【0119】
混合工程S2で使用するリチウム化合物は、特に制限されることはないが、入手の容易性から、水酸化リチウム、硝酸リチウム、炭酸リチウムまたはこれらの混合物を用いることが好ましい。特に、取り扱いの容易さや品質の安定性を考慮すると、水酸化リチウムまたは炭酸リチウムを用いることが好ましく、炭酸リチウムを用いることがより好ましい。
【0120】
複合水酸化物粒子または熱処理粒子とリチウム化合物は、微粉が生じない程度に十分に混合することが好ましい。混合が不十分であると、個々の粒子間でLi/Meにばらつきが生じ、十分な電池特性を得ることができない場合がある。なお、混合には、一般的な混合機を使用することができる。例えば、シェーカーミキサ、レーディゲミキサ、ジュリアミキサ、Vブレンダなどを用いることができる。
【0121】
(3)仮焼工程S3
上記混合工程S2で形成された上記リチウム混合物を、酸化性雰囲気中、550℃~800℃、好ましくは580℃~720℃で仮焼する。これにより、複合水酸化物粒子または熱処理粒子中に、リチウムを十分に拡散させて反応させ、次工程の焼成工程S5での二次粒子の焼結凝集を抑制することができる。すなわち、仮焼することにより、リチウム化合物が複合水酸化物粒子または熱処理粒子との反応により消費され、仮焼後に残留するリチウム化合物が大幅に減少する。次の焼成工程S5では、リチウム遷移金属複合酸化物粒子の結晶性を高めるため、高温に保持する必要があり、この保持中にリチウム化合物が溶融してリチウム遷移金属複合酸化物の二次粒子の焼結凝集が急速に進む。仮焼により残存するリチウム化合物を大幅に減少させることで、二次粒子の焼結凝集を抑制することができる。
【0122】
なお、上記温度での保持時間は、1時間~10時間とすることが好ましく、3時間~6時間とすることが好ましい。また、仮焼工程S3における雰囲気は、後述する焼成工程S5と同様に、酸化性雰囲気とすることが好ましく、酸素濃度が18容量%~100容量%の雰囲気とすることがより好ましい。
【0123】
本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法では、仮焼にて得られる仮焼粉の(003)面半価幅が0.45°以上、好ましくは0.50°以上である。これにより、結晶性が比較的低い仮焼粉、すなわちリチウム遷移金属複合酸化物粒子が得られ、後工程の焼成工程S5で高い結晶性のリチウム遷移金属複合酸化物粒子が得られる。仮焼粉の(003)面半価幅は、仮焼粉中に残留する炭酸リチウム量を低減する観点から、0.80°以下とすることが好ましく、0.75°以下とすることがより好ましい。半価幅の制御は、仮焼工程S3に供給する酸素量や保持する温度、時間を調整することで容易に制御できる。例えば、雰囲気ガスの流量を低減して供給する酸素量を少なくすることで、リチウム遷移金属複合酸化物の生成反応を遅らせ、半価幅の低下を抑制しながら炭酸リチウムを反応させることができる。
【0124】
本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質では、特に上述した半価幅を制御することで、上記リチウムイオン二次電池用正極活物質を二次電池に構成した場合に、電池容量とサイクル特性をさらに向上することができる。
【0125】
さらに、仮焼後の粒子の炭素含有量を好ましくは1.0質量%以下、好ましくは0.8質量%以下、より好ましくは0.30質量%~0.75質量%となるように制御する。これにより、残留するリチウム化合物をさらに減少させ、焼成工程S5におけるリチウム遷移金属複合酸化物の二次粒子の焼結凝集をさらに抑制することができるとともに、十分に結晶性を高めることができる。炭素含有量の制御は、仮焼する温度と時間により容易に制御できる。
【0126】
(4)焼成前解砕工程S4
焼成前解砕工程S4では、下記の焼成工程S5の前に、上記仮焼工程S3で仮焼したリチウム混合物を解砕する。仮焼工程S3は酸化性雰囲気中、750℃~900℃の高温下で行われるので、当該仮焼工程S3によって得られたリチウム複合酸化物粒子は、粗粒のLiOH等が十分ほぐれて無い場合等でリチウム濃度が高い部位が凝集しやすいため、凝集又は軽度の焼結が生じている場合がある。このような場合には、そのまま高温での焼成を行うと、焼結が強固になってしまい、焼成工程S5の後で行われる焼成後解砕工程を経て、なお、凝集粒子が残ってしまう。このため、本実施形態では、仮焼工程S3で生じた仮焼後のリチウム複合酸化物粒子の凝集体又は焼結体を解砕することによって、得られる正極活物質の平均粒径や粒度分布を好適な範囲に調整することができる。
【0127】
このように、本実施形態では、仮焼工程S3で仮焼したリチウム混合物を解砕することによって、焼結工程後の正極活物質を構成する二次粒子の焼結凝集を抑制している。なお、ここで言及する解砕とは、仮焼時に二次粒子間の焼結ネッキング等により生じた複数の二次粒子からなる凝集体に、機械的エネルギーを投入して、二次粒子自体をほとんど破壊することなく分離させて、凝集体をほぐす操作を意味する。また、解砕の方法としては、公知の手段を用いることができ、例えば、ピンミルやハンマーミル等を使用することができる。この際、二次粒子を破壊しないように解砕力を適切な範囲に調整することが好ましい。
【0128】
(5)焼成工程S5
焼成工程S5は、リチウム混合物を所定条件の下で仮焼して得られた仮焼粉の結晶性を高めて、結晶性の高いリチウム遷移金属複合酸化物粒子を得る工程である。
【0129】
複合水酸化物粒子は、微細一次粒子が凝集して形成された中心部を有し、当該中心部の外側に、当該板状一次粒子が凝集して形成された外周部を備える二次粒子である場合、この焼成工程S5と前工程の仮焼工程S3において、複合水酸化物粒子および熱処理粒子の中心部および高密度層は、焼結収縮し、正極活物質における一次粒子の凝集部を形成する。一方、低密度層は、微細一次粒子によって構成されているため、この微細一次粒子よりも大きな板状一粒子によって構成される中心部や高密度層よりも低温域から焼結し始める。しかも、低密度層は、中心部や高密度層と比べて収縮量が大きなものとなる。このため、低密度層を構成する微細一次粒子は、焼結の進行が遅い中心部や高密度層側に収縮し、適度な大きさの空間部が形成されることとなる。この際、低密度層内の高密度部は、中心部や高密度層との連結を維持したまま、焼結収縮するため、得られる正極活物質においては、外殻部と凝集部とが電気的に導通し、かつ、その経路の断面積を十分に確保することができる。この結果、正極活物質の内部抵抗が大幅に減少し、二次電池を構成した場合に、電池容量やサイクル特性を損ねることなく、出力特性を改善することが可能となる。
【0130】
このような正極活物質の粒子構造は、基本的に、前駆体である複合水酸化物粒子の粒子構造に応じて定まるものであるが、その組成や焼成条件などの影響を受けることがあるため、予備試験を行った上で、所望の構造となるように、各条件を適宜調整することが好ましい。
【0131】
なお、焼成工程S5に用いられる炉は、特に制限されることはなく、大気ないしは酸素気流中でリチウム混合物を加熱できるものであればよい。ただし、炉内の雰囲気を均一に保つ観点から、ガス発生がない電気炉が好ましく、バッチ式あるいは連続式の電気炉のいずれも好適に用いることができる。この点については、熱処理工程S1および仮焼工程S3に用いる炉についても同様である。
【0132】
a)焼成温度
仮焼粉の焼成温度は、仮焼温度より高く、かつ760℃~1050℃、好ましくは790℃~1000℃とすることが必要となる。焼成温度が760℃未満では、複合水酸化物粒子または熱処理粒子中にリチウムが十分に拡散せず、余剰のリチウムや未反応の複合水酸化物粒子または熱処理粒子が残存したり、得られるリチウム複合酸化物粒子の結晶性が不十分なものとなる。一方、焼成温度が1050℃を超えると、リチウム複合酸化物粒子間が激しく焼結し、異常粒成長が引き起こされ、不定形な粗大粒子の割合が増加することとなる。
【0133】
また、焼成工程S5における昇温速度は、2℃/分~10℃/分とすることが好ましく、5℃/分~10℃/分とすることがより好ましい。さらに、焼成工程S5中、リチウム化合物の融点付近の温度で、好ましくは1時間~5時間、より好ましくは2時間~5時間保持することが好ましい。これにより、仮焼粉の結晶性をより均一に高めることができる。
【0134】
b)焼成時間
焼成時間のうち、上述した焼成温度での保持時間は、少なくとも1時間とすることが好ましく、2時間~24時間とすることがより好ましい。焼成温度における保持時間が2時間未満では、得られるリチウム複合酸化物粒子の結晶性が不十分なものとなるおそれがある。
【0135】
なお、保持時間終了後、焼成温度から少なくとも200℃までの冷却速度は、2℃/分~10℃/分とすることが好ましく、3℃/分~7℃/分とすることがより好ましい。冷却速度をこのような範囲に制御することにより、生産性を確保しつつ、匣鉢などの設備が、急冷により破損することを防止することができる。
【0136】
c)焼成雰囲気
焼成時の雰囲気は、酸化性雰囲気とすることが好ましく、酸素濃度が18容量%~100容量%の雰囲気とすることがより好ましく、上記酸素濃度の酸素と不活性ガスの混合雰囲気とすることが特に好ましい。すなわち、焼成は、大気ないしは酸素気流中で行うことが好ましい。酸素濃度が18容量%未満では、リチウム複合酸化物粒子の結晶性が不十分なものとなるおそれがある。
【0137】
焼成工程S5では、酸化性雰囲気中、リチウム化合物の融点±50℃の温度範囲で1時間~5時間保持し、その後昇温して、760℃~980℃で2~24時間保持して焼成することが特に好ましい。リチウム化合物の融点±50℃とは、リチウム化合物によって融点は異なるが、それぞれのリチウム化合物の融点の±50℃の温度範囲である。
【0138】
(6)焼成後解砕工程S6
焼成工程S5によって得られたリチウム複合酸化物粒子は、凝集または軽度の焼結が生じている場合がある。このような場合には、リチウム複合酸化物粒子の凝集体または焼結体を解砕することが好ましい。これによって、得られる正極活物質の平均粒径や粒度分布を好適な範囲に調整することができる。なお、解砕とは、焼成時に二次粒子間の焼結ネッキングなどにより生じた複数の二次粒子からなる凝集体に、機械的エネルギーを投入して、二次粒子自体をほとんど破壊することなく分離させて、凝集体をほぐす操作を意味する。
【0139】
解砕の方法としては、公知の手段を用いることができ、例えば、ピンミルやハンマーミルなどを使用することができる。なお、この際、二次粒子を破壊しないように解砕力を適切な範囲に調整することが好ましい。
【0140】
<3.リチウムイオン二次電池>
本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質は、用いる二次電池に限定されないが、例えばリチウムイオン二次電池に好適に用いることができる。リチウムイオン二次電池は、正極、負極、セパレータおよび非水電解液などの、一般のリチウムイオン二次電池と同様の構成部材を備える。なお、以下に説明する実施形態は例示にすぎず、本発明のリチウムイオン二次電池は、本明細書に記載されている実施形態を基づいて、種々の変更、改良を施した形態に適用することも可能である。
【0141】
(1)構成部材
a)正極
上述したリチウムイオン二次電池用正極活物質を用いて、例えば、以下のようにしてリチウムイオン二次電池の正極を作製する。
【0142】
まず、本発明の正極活物質に、導電材および結着剤を混合し、さらに必要に応じて活性炭や、粘度調整などの溶剤を添加し、これらを混練して正極合剤ペーストを作製する。その際、正極合剤ペースト中のそれぞれの混合比も、リチウムイオン二次電池の性能を決定する重要な要素となる。例えば、溶剤を除いた正極合剤の固形分を100質量部とした場合には、一般のリチウムイオン二次電池の正極と同様に、正極活物質の含有量を60質量部~95質量部、導電材の含有量を1質量部~20質量部および結着剤の含有量を1質量部~20質量部とすることができる。
【0143】
得られた正極合剤ペーストを、例えば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、乾燥して、溶剤を飛散させる。必要に応じて、電極密度を高めるべく、ロールプレスなどにより加圧することもある。このようにして、シート状の正極を作製することができる。シート状の正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断などをして、電池の作製に供することができる。なお、正極の作製方法は、上記例示のものに限られることはなく、他の方法によってもよい。
【0144】
導電材としては、例えば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛など)や、アセチレンブラックやケッチェンブラックなどのカーボンブラック系材料を用いることができる。
【0145】
結着剤は、活物質粒子をつなぎ止める役割を果たすもので、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂またはポリアクリル酸を用いることができる。
【0146】
このほか、必要に応じて、正極活物質、導電材および活性炭を分散させ、結着剤を溶解する溶剤を正極合剤に添加することができる。溶剤としては、具体的に、N-メチル-2-ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。また、正極合剤には、電気二重層容量を増加させるために、活性炭を添加することもできる。
【0147】
b)負極
負極には、金属リチウムやリチウム合金などを使用することができる。また、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる負極活物質に、結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合剤を、銅などの金属箔集電体の表面に塗布し、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成したものを使用することができる。
【0148】
負極活物質としては、例えば、金属リチウムやリチウム合金などのリチウムを含有する物質、リチウムイオンを吸蔵・脱離できる天然黒鉛、人造黒鉛およびフェノール樹脂などの有機化合物焼成体ならびにコークスなどの炭素物質の粉状体を用いることができる。この場合、負極結着剤としては、正極同様、PVDFなどの含フッ素樹脂を用いることができ、これらの活物質および結着剤を分散させる溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。
【0149】
c)セパレータ
セパレータは、正極と負極との間に挟み込んで配置されるものであり、正極と負極とを分離し、電解質を保持する機能を有する。このようなセパレータとしては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどの薄い膜で、微細な孔を多数有する膜を用いることができるが、上記機能を有するものであれば、特に限定されることはない。
【0150】
d)非水電解液
非水電解液は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものを用いてもよい。また、非水電解液として、イオン液体にリチウム塩が溶解したものを用いてもよい。なお、イオン液体とは、リチウムイオン以外のカチオンおよびアニオンから構成され、常温でも液体状を示す塩をいう。
【0151】
有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートおよびトリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートおよびジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート、さらに、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフランおよびジメトキシエタンなどのエーテル化合物、エチルメチルスルホンやブタンスルトンなどの硫黄化合物、リン酸トリエチルやリン酸トリオクチルなどのリン化合物などから選ばれる1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0152】
支持塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiN(CF3SO2)2、およびそれらの複合塩などを用いることができる。さらに、非水系電解液は、ラジカル捕捉剤、界面活性剤および難燃剤などを含んでいてもよい。
【0153】
また、非水系電解質としては、固体電解質を用いてもよい。固体電解質は、高電圧に耐えうる性質を有する。固体電解質としては、 無機固体電解質、有機固体電解質が挙げられる。無機個体電解質として、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質等が用いられる。
【0154】
酸化物系固体電解質としては、特に限定されず、酸素(O)を含有し、かつ、リチウムイオン電導性と電子絶縁性とを有するものであれば用いることができる。酸化物系個体電解質としては、例えば、リン酸リチウム(Li3PO4)、Li3PO4NX、LiBO2NX、LiNbO3、LiTaO3、Li2SiO3、Li4SiO4-Li3PO4、Li4SiO4-Li3VO4、Li2O-B2O3-P2O5、Li2O-SiO2、Li2O-B2O3-ZnO、Li1+XAlXTi2-X(PO4)3(0≦X≦1)、Li1+XAlXGe2-X(PO4)3(0≦X≦1)、LiTi2(PO4)3、Li3XLa2/3-XTiO3(0≦X≦2/3)、Li5La3Ta2O12、Li7La3Zr2O12、Li6BaLa2Ta2O12、Li3.6Si0.6P0.4O4等が挙げられる。
【0155】
硫化物系固体電解質としては、特に限定されず、硫黄(S)を含有し、かつ、リチウムイオン電導性と電子絶縁性とを有するものであれば用いることができる。硫化物系固体電解質としては、例えば、Li2S-P2S5、Li2S-SiS2、LiI-Li2S-SiS2、LiI-Li2S-P2S5、LiI-Li2S-B2S3、Li3PO4-Li2S-Si2S、Li3PO4-Li2S-SiS2、LiPO4-Li2S-SiS、LiI-Li2S-P2O5、LiI-Li3PO4-P2S5等が挙げられる。
【0156】
なお、無機固体系電解質としては、上記以外のものを用いてよく、例えば、Li3N、LiI、Li3N-LiI-LiOH等を用いてもよい。
【0157】
有機固体電解質としては、イオン電導性を示す高分子化合物であれば、特に限定されず、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、これらの共重合体などを用いることができる。また、有機固体電解質は、支持塩(リチウム塩)を含んでいてもよい。
【0158】
(2)リチウムイオン二次電池
以上の正極、負極、セパレータおよび非水電解液で構成される本発明のリチウムイオン二次電池は、円筒形や積層形など、種々の形状にすることができる。
【0159】
いずれの形状を採る場合であっても、正極および負極を、セパレータを介して積層させて電極体とし、得られた電極体に、非水電解液を含浸させ、正極集電体と外部に通じる正極端子との間、および、負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を、集電用リードなどを用いて接続し、電池ケースに密閉して、リチウムイオン二次電池を完成させる。
【0160】
(3)リチウムイオン二次電池の特性
本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、上述したように、本発明の正極活物質を正極材料として用いているため、電池容量、出力特性およびサイクル特性に優れる。しかも、従来のリチウムニッケル系複合酸化物粒子からなる正極活物質を用いた二次電池との比較においても、熱安定性や安全性において優れているといえる。
【0161】
(4)用途
本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、上述のように、電池容量、出力特性およびサイクル特性に優れており、これらの特性が高いレベルで要求される小型携帯電子機器(ノート型パーソナルコンピュータや携帯電話など)の電源に好適に利用することができる。また、本発明のリチウムイオン二次電池は、安全性にも優れており、小型化および高出力化が可能であるばかりでなく、高価な保護回路を簡略することができるため、搭載スペースに制約を受ける輸送用機器の電源としても好適に利用することができる。
【実施例0162】
以下、実施例および比較例を用いて、本発明を詳細に説明する。なお、以下の実施例および比較例では、特に断りがない限り、複合水酸化物粒子および正極活物質の作製には、和光純薬工業株式会社製試薬特級の各試料を使用した。また、核生成工程および粒子成長工程を通じて、反応水溶液のpH値は、pHコントローラ(日伸理化製、NPH-690D)により測定し、この測定値に基づき、水酸化ナトリウム水溶液の供給量を調整することで、各工程における反応水溶液のpH値の変動幅を±0.2の範囲に制御した。
【0163】
(実施例1)
(遷移金属複合水酸化物粒子の製造)
(核生成工程)
はじめに、反応槽(34L)内に、水を半分の量まで入れて撹拌しながら、槽内温度を40℃に設定した。このときの反応槽内は、大気雰囲気(酸素濃度:21容量%)とした。この反応槽内の水に、25質量%水酸化ナトリウム水溶液と25質量%アンモニア水を適量加えて、液温25℃基準で、槽内の反応液のpH値が13.0となるように調整した。さらに、当該反応液中のアンモニア濃度を10g/Lに調節して反応前水溶液とした。
【0164】
同時に、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガン、硫酸ジルコニウムを、各金属元素のモル比がNi:Mn:Co:Zr=33.1:33.1:33.1:0.2となるように水に溶解し、1.8mol/Lの原料水溶液を調製した。
【0165】
この混合水溶液を、反応槽内の反応前水溶液に88ml/minの割合で加えて、反応水溶液とした。同時に、25質量%アンモニア水および25質量%水酸化ナトリウム水溶液も、この反応水溶液に一定速度で加えていき、反応水溶液(核生成用水溶液)中のアンモニア濃度を上記値に保持した状態で、pH値を13.0(核生成pH値)に制御しながら、2分30秒間晶析させて核生成を行った。
【0166】
(粒子成長工程)
核生成終了後、一旦、すべての水溶液の供給を一旦停止するとともに、硫酸を加えて、pH値が、液温25℃基準で11.6となるように調整することで、粒子成長用水溶液を形成した。反応水溶液(粒子成長用水溶液)に、再度、原料水溶液と25質量%水酸化ナトリウム水溶液の供給を再開するとともに原料水溶液としてタングステン酸ナトリウム水溶液を追加供給し、25質量%アンモニア水によりアンモニア濃度を上記値に保持して、pH値を上記値に保持し、晶析を継続して粒子成長を行った。タングステン酸ナトリウム水溶液は、組成に合うように濃度と流量を調整した。30分間の粒子成長を行った後、給液を一旦停止し、反応槽内空間の酸素濃度が0.2容量%以下の非酸化性雰囲気となるまで窒素ガスを5L/minで流通させた。その後、原料水溶液とタングステン酸ナトリウム水溶液の給液を再開し、アンモニア濃度とpH値を保持して成長開始からあわせて2時間晶析を行った。
【0167】
反応槽内が満液になったところで、晶析を停止するとともに、撹拌を止めて静置することで、生成物の沈殿を促した。その後、反応槽から上澄み液を半量抜き出した後、晶析を再開し、2時間晶析を行った後(計4時間)、晶析を終了させた。
【0168】
そして、生成物を水洗、濾過、乾燥させて複合水酸化物粒子を得た。なお、上記大気雰囲気から窒素雰囲気への切り替えは、粒子成長工程の開始時から粒子成長工程時間の全体に対して12.5%の時点で行ったことになる。
【0169】
上記晶析において、pHは、pHコントローラにより水酸化ナトリウム水溶液の供給流量を調整することで制御され、変動幅は設定値の上下0.2の範囲内であった。
【0170】
(複合水酸化物の分析)
得られた複合水酸化物について、その試料を無機酸により溶解した後、ICP発光分光法により化学分析を行ったところ、その組成は、Ni0.331Mn0.331Co0.331Zr0.002W0.005(OH)2+a(0≦a≦0.5)であった。
【0171】
また、この複合水酸化物について、平均粒径および粒度分布を示す〔(d90-d10)/平均粒径〕値を、レーザ回折散乱式粒度分布測定装置(日機装株式会社製、マイクロトラックHRA)を用いて測定した体積積算値から算出して求めた。その結果、平均粒径は4.5μmであり、〔(d90-d10)/平均粒径〕値は、0.48であった。
【0172】
次に、得られた複合水酸化物粒子のSEM(株式会社日立ハイテクノロジース製、走査型電子顕微鏡S-4700)観察(倍率:1000倍)を行ったところ、この複合水酸化物粒子は、略球状であり、粒径がほぼ均一に揃っていることが確認された。
【0173】
また、得られた複合水酸化物粒子の試料を、樹脂に埋め込み、クロスセクションポリッシャ加工を行ったものについて、倍率を10,000倍としたSEM観察結果を行ったところ、この複合水酸化物粒子が二次粒子により構成され、当該二次粒子は、針状、薄片状の微細一次粒子(粒径およそ0.3μm)からなる中心部と、当該中心部の外側にこの微細一次粒子よりも大きい板状の一次粒子(粒径およそ0.6μm)からなる外周部とにより構成されていることが確認された。この断面のSEM観察から求めた、二次粒子径に対する外殻部の厚さは、12%であった。
【0174】
(正極活物質の製造)
上記複合水酸化物粒子を、Li/Me=1.12となるように水酸化リチウムを秤量して混合し、リチウム混合物を調製した。混合は、シェーカーミキサ装置(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製、TURBULA TypeT2C)を用いて行った。
【0175】
得られたリチウム混合物を雰囲気制御可能な炉を用いて大気中(酸素:21容量%)にて、650℃で4時間仮焼した。炉への大気雰囲気ガスの供給は、5L/分とした。得られた仮焼粉は、(003)半価幅が0.55°、炭素含有量が0.71質量%であった。仮焼粉を解砕後、5℃/分で昇温し970℃で3時間焼成し、冷却した後、解砕して正極活物質を得た。
【0176】
(正極活物質の分析)
複合水酸化物粒子と同様の方法で、得られた正極活物質の粒度分布を測定したところ、平均粒径は4.9μmであり、〔(d90-d10)/平均粒径〕値は、0.50であった。
【0177】
また、複合水酸化物粒子と同様の方法で、正極活物質のSEM観察および断面SEM観察を行ったところ、得られた正極活物質は、略球状であり、粒径がほぼ均一に揃っていることが確認された。また、走査型電子顕微鏡を用いて倍率1000倍で観察した際に、5個以上の二次粒子が凝集した凝集粒子の数の割合が0.7%以下であった。
【0178】
溶出Li量は、正極活物質1gに純水10mlを加えて1分間攪拌後、ろ過したろ液のpHを測定しながら1mol/リットルの塩酸を加えていくことにより出現する中和点から求めた。溶出Li量は、0.07質量%であった。
【0179】
得られた正極活物質について、流動方式ガス吸着法比表面積測定装置(ユアサアイオニクス株式会社製、マルチソーブ)により比表面積を、タッピングマシン(株式会社蔵持科学器械製作所、KRS-406)によりタップ密度を、それぞれ測定した。この結果、比表面積は1.5m2/gであり、タップ密度は1.20g/cm3であることが確認された。
【0180】
また、得られた正極活物質について、X線回折装置(パナリティカル社製、X’Pert PRO)を用いて、Cu-Kα線による粉末X線回折で分析したところ、この正極活物質の結晶構造が、六方晶の層状結晶リチウムニッケルマンガン複合酸化物単相からなることを確認した。得られたX線回折図形からシェラーの式を用いた(003)面結晶子径が115nmであった。
【0181】
さらに、ICP発光分光分析装置を用いた分析により、この正極活物質は、一般式:Li1.12Ni0.331Mn0.331Co0.331Zr0.002W0.005O2で表されるものであることが確認された。
【0182】
(コイン型電池の製造および電池特性の評価)
非水系電解質二次電池用正極活物質52.5mg、アセチレンブラック15mg、およびポリテトラフッ化エチレン樹脂(PTFE)7.5mgを混合し、100MPaの圧力で直径11mm、厚さ100μmにプレス成形して
図2に示す正極1(評価用電極)を作製した。その作製した正極1を真空乾燥機中120℃で12時間乾燥した。そして、この正極1を用いて2032型のコイン型電池10を、露点が-80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で作製した。
【0183】
負極2には、直径14mmの円盤状に打ち抜かれた平均粒径20μm程度の黒鉛粉末とポリフッ化ビニリデンが銅箔に塗布された負極シートを用い、電解液には、1MのLiPF6を支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合液(富山薬品工業株式会社製)を用いた。セパレータ3には膜厚25μmのポリエチレン多孔膜を用いた。また、コイン型電池10は、ガスケット4とウェーブワッシャー5を有し、正極缶6と負極缶7とでコイン状の電池に組み立てられた。製造したコイン型電池10の性能を示す初期放電容量、正極抵抗は、以下のように評価した。
【0184】
a)初期放電容量
初期放電容量は、コイン型電池10を製作してから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(Open Circuit Voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.1mA/cm2としてカットオフ電圧4.3Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧3.0Vまで放電したときの容量を初期放電容量とした。
【0185】
b)正極抵抗
また、正極抵抗は、コイン型電池10を25℃で充電電位4.1Vで充電して、周波数応答アナライザおよびポテンショガルバノスタット(ソーラトロン製、1255B)を使用して交流インピーダンス法により測定すると、
図3に示すナイキストプロットが得られる。このナイキストプロットは、溶液抵抗、負極抵抗とその容量、および、正極抵抗とその容量を示す特性曲線の和として表しているため、このナイキストプロットに基づき等価回路を用いてフィッティング計算を行い、正極抵抗の値を算出した。
【0186】
本実施例により得られた複合水酸化物および仮焼粉の特性を表1に、正極活物質の特性およびこの正極活物質を用いて製造したコイン型電池10の各評価を表2に、それぞれ示す。また、以下の実施例2~6および比較例1についても、同様の内容について、表1および表2に示す。
【0187】
(実施例2)
粒子成長工程において、酸化性雰囲気における原料水溶液中の添加元素(タングステン)の濃度に対して非酸化性雰囲気におけるタングステンの濃度が20%となるようにタングステン酸ナトリウム水溶液の流量を調整したこと以外は、実施例1と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価を行った。得られた正極活物質の組成は、Li1.12Ni0.331Mn0.331Co0.331Zr0.002W0.005O2で表されるものであることが確認された。
【0188】
(実施例3)
仮焼時間を8時間としたこと以外は、実施例1と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。
【0189】
(実施例4)
仮焼温度を700℃、焼成温度を990℃としたこと以外は、実施例1と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価を行った。
【0190】
(実施例5)
仮焼温度を600℃、焼成温度を980℃としたこと以外は、実施例1と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価を行った。
【0191】
(実施例6)
焼成工程S5で仮焼粉を焼成時、リチウム化合物の融点付近の温度で2時間保持したこと以外は、実施例1と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価を行った。
【0192】
(比較例1)
仮焼工程S3において炉への大気雰囲気ガスの供給を10L/分とし、非酸化性雰囲気としたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例1と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価を行った。
【0193】
【0194】
【0195】
(評価)
本発明の一実施形態に係る遷移金属複合水酸化物粒子および、リチウムイオン二次電池用正極活物質は、いずれの正極活物質も、凝集が少なく、余剰リチウムが低くなっていた。よって、これらのリチウムイオン二次電池用正極活物質を用いたコイン型電池は、初期放電容量が高く、正極抵抗も低いものとなっており、優れた特性を有した電池となっている。よって、電池容量とサイクル特性をさらに向上することが可能な正極活物質を提供することができた。また、本発明は、この正極活物質を用い電池容量とサイクル特性をさらに向上させた二次電池を提供することができた。
【0196】
なお、上記のように本発明の各実施形態および各実施例について詳細に説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは、当業者には、容易に理解できるであろう。従って、このような変形例は、全て本発明の範囲に含まれるものとする。
【0197】
例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。またリチウムイオン二次電池用正極活物質、リチウムイオン二次電池の構成、動作も本発明の各実施形態および各実施例で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。