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  • 特開-塗工面変質層の除去方法及び除去剤 図1
  • 特開-塗工面変質層の除去方法及び除去剤 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104148
(43)【公開日】2024-08-02
(54)【発明の名称】塗工面変質層の除去方法及び除去剤
(51)【国際特許分類】
   C09D 9/00 20060101AFI20240726BHJP
   E04G 23/02 20060101ALI20240726BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20240726BHJP
   B05D 3/10 20060101ALI20240726BHJP
   B05D 7/02 20060101ALI20240726BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20240726BHJP
   B05D 3/12 20060101ALI20240726BHJP
【FI】
C09D9/00
E04G23/02 A
B05D7/24 302U
B05D7/24 301P
B05D7/24 303E
B05D3/10 H
B05D7/02
B05D7/00 K
B05D3/12 E
B05D3/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008231
(22)【出願日】2023-01-23
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英介
(74)【代理人】
【識別番号】100101144
【弁理士】
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100101694
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 明茂
(74)【代理人】
【識別番号】100124774
【弁理士】
【氏名又は名称】馬場 信幸
(72)【発明者】
【氏名】三宅 央真
(72)【発明者】
【氏名】小森 篤也
【テーマコード(参考)】
2E176
4D075
4J038
【Fターム(参考)】
2E176BB03
2E176BB36
4D075AC57
4D075AE03
4D075BB01Z
4D075BB02X
4D075BB05Z
4D075BB20Z
4D075BB21Z
4D075BB60Z
4D075BB61Z
4D075BB63Y
4D075BB68Y
4D075BB79Z
4D075CA07
4D075CA13
4D075CA47
4D075CA48
4D075DA04
4D075DA06
4D075DA27
4D075DB12
4D075DB47
4D075DC05
4D075EA05
4D075EA35
4D075EA41
4D075EB33
4D075EB45
4D075EC07
4D075EC30
4D075EC51
4J038PB05
4J038RA05
4J038RA13
4J038RA16
(57)【要約】
【課題】 エポキシ系接着樹脂の塗工面に発生した、アミンブラッシング現象による変質層を除去するための安全な方法を提供する。
【解決手段】 エポキシ系接着樹脂の塗工面に発生した変質層を除去する方法であって、
ジメチルスルホキシドと有機溶媒の混合液を変質層が発生した塗工面に塗布した後、当該塗布部分を払拭することを特徴とする塗工面変質層の除去方法及び除去剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ系接着樹脂の塗工面に発生した変質層を除去する方法であって、
ジメチルスルホキシドと有機溶媒の混合液を変質層が発生した塗工面に塗布した後、当該塗布部分を払拭することを特徴とする塗工面変質層の除去方法。
【請求項2】
混合液に含有される有機溶媒が炭素数1~3のアルコールである請求項1に記載の除去方法。
【請求項3】
混合液に含有されるジメチルスルホキシドの濃度が5~25質量%である請求項1に記載の除去方法。
【請求項4】
ジメチルスルホキシドと有機溶媒の混合液からなるエポキシ系接着樹脂塗工面変質層の除去剤。
【請求項5】
混合液に含有される有機溶媒が炭素数1~3のアルコールである請求項4に記載の除去剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ系接着樹脂の塗工面に発生した変質層を除去する方法及び当該変質層の除去剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリート構造物や鋼構造物、繊維強化プラスチック(FRP)構造物、木造構造物等の構造物を補強または補修する施工方法として、当該構造物に対して、ガラス繊維および/または炭素繊維、アラミド繊維等からなる補強用繊維シートや、これらの繊維を用いた繊維強化プラスチック線材をすだれ状のシートとした補強用繊維シートに接着性樹脂を含浸させて貼り付け、当該接着性樹脂を硬化させることによる繊維シート接着工法が実施されている。
【0003】
特許文献1には、構造物に補強用繊維シートを接着して前記構造物を補強または補修する方法であって、
前記構造物に対して、下地処理とプライマーを塗布するステップと、
前記構造物上において、前記プライマー塗布面に接着剤も兼ねたパテ状のエポキシ樹脂を所要の厚さにて塗布したのち、補強用繊維シートを押し付けて貼り付けるステップと、
前記構造物に貼り付けられた前記繊維シートの上に、更にパテ状のエポキシ樹脂を塗布するステップと、
前記パテ状のエポキシ樹脂を硬化させるステップと、
を含むことを特徴とする構造物の補強または補修方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、既設床等の改修においては、基礎コンクリートが歪み、亀裂が生じておらず、既存塗り床等の下地への密着が十分であれば、下地、既存塗材を残した方が、すなわち、塗り床等の塗材への重ね塗りで、美観復活や経時的塗膜の磨耗・劣化によるものは回復することができ、これにより、材料費の削減の他、大幅な工期を短縮できるが、しかし、従来、既設部を改修する場合、ポリッシャー等で機械的なサンディング処理をした後に、プライマー処理、上塗り工程を行うが、上記サンディング処理は粉塵を発し、プライマー処理、養生時間を含め、決して容易な工程ではなかったことに鑑み、既設熱硬化系塗材上にさらに熱硬化系塗材を重層塗装するに際し、サンディング等の機械的処理なく、また、密着性を改善するプライマー等の余分な処理することなくできるという課題を解決するため、アミド基を有する溶剤を20%以上含有し、混合物の溶解度パラメータSP値が9~12である組成物であって、既設熱硬化系塗材上に、研磨処理及び樹脂含有前処理剤を使用せず、熱硬化系塗材を重層可能にする処理用組成物である発明が開示され、これによりサンディング等の機械的処理なく、プライマーの乾燥及び硬化を待つことなく、熱硬化系塗材に仕上げることができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5214864号
【特許文献2】特開2008-55259号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
構造物に繊維シートを接着剤によって貼り付けて補強を行う繊維シート接着工法において、特に冬季における施工の際、構造物に塗布したエポキシ系接着樹脂の塗工面が結露等によって、エポキシ系接着樹脂に含有されるアミン系硬化剤が副反応を起こしてアミンブラッシング現象と呼ばれる白化、ベトツキ等の変質を起こすことがある。塗工面のこの変質を生じた部分は強度が低下するので、その上に接着剤を塗り継ぐと剥離を起こし易く、接着した繊維シート等が構造物から脱落するなどのトラブルを招く。
【0007】
エポキシ系接着樹脂の当該変質は、エポキシ系接着樹脂を含有するあらゆる塗工面に発生し得る。そのため、そのような変質部分の上に接着剤を塗工しても強固な接着を行うことができないという不都合を招く。これは、例えば、プライマー/パテ界面、パテ/接着剤界面、接着剤/接着剤界面のいずれでも起こり得る。
【0008】
これに対し、従来、サンドペーパーを用いた研磨処理や処理剤を用いて拭き取ることなどによる変質部分の除去方法が行われている。特許文献2には、使用される処理剤として、NMPなどのアミド基を有する溶剤を20%以上含有し、溶解度パラメータSP値が9~12である処理用組成物が開示されている。
【0009】
しかしながら、研磨処理による変質部分の除去方法は、作業に多大な労力を必要とする。特許文献2の方法では、DMFやNMP、DMACなどの生殖器系への有毒性に関する大きな懸念がある溶剤を使用しなければならないという問題がある。
【0010】
本発明の解決すべき課題は、エポキシ系接着樹脂の塗工面に発生した変質層を除去するための安全な方法及び除去剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、人体への安全性が高く、エポキシ系接着樹脂の塗工面に発生した変質部分の除去が効果的に行える実用性の高い除去方法及び除去剤の開発という課題を解決するために検討し、本発明に到達した。
【0012】
すなわち、本発明は、エポキシ系接着樹脂の塗工面に発生した変質層を除去する方法であって、
ジメチルスルホキシドと有機溶媒の混合液を変質層が発生した塗工面に塗布した後、当該塗布部分を払拭することを特徴とする塗工面変質層の除去方法に関する。
また、本発明は、ジメチルスルホキシドと有機溶媒の混合液からなるエポキシ系接着樹脂塗工面の変質層除去剤に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、エポキシ系接着樹脂の塗工面に発生した変質部分を容易に除去することができる、人体への安全性が高い除去方法及び変質層除去剤を提供する。
本発明によれば、エポキシ系接着樹脂の変質に伴う強度低下により接着した繊維シート等が構造物から剥離、脱落するなどのトラブルが防止される。
【0014】
より具体的には、本発明の除去剤を用いた方法は、塗工面に生じた白化(変質層)を確実に除去して、処理後の塗工面を均一な清浄状態にすることができ、他面との接着性を高めることができる。また、本発明の除去剤を用いた方法は、繊維シート接着工法に悪影響を与えず、特に、目粗しとアセトン払拭処理といった人力に大きく依存することがなく、かつ、従来の表面処理方法で見られる「一部界面剥離」という処理ムラを発生させることがない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施例における剥離試験を示す図である。
図2】本発明の実施例における継手強度試験に使用する試験片を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明が対象とするエポキシ系接着樹脂とは、エポキシ樹脂とアミン系硬化剤を含む混合物である。当該接着樹脂は、硬化する過程で低温高湿状態に晒されると、アミン系硬化剤が空気中の二酸化炭素と反応し、硬化剤の炭酸塩及び未反応のエポキシ樹脂がエポキシ系接着樹脂の表面の全面または局所的(斑状)に変質層として生じることがある。この塗工面の変質はアミンブラッシング現象と呼ばれ、変質部分は、一般的には白化、ベトツキ等を伴うため、塗工面を目視又は接触することによって、変質の発生を検知することができる。
【0017】
エポキシ樹脂としては、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂やこれらの誘導体(例えば、水添化物や臭素化物など)、ノボラック型エポキシ樹脂(例えば、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂など)、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、ウレタン結合を有するウレタン変性エポキシ樹脂、含窒素エポキシ樹脂(例えば、メタキシレンジアミンやヒダントイン等のアミンのエポキシ化物、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンやトリグリシジルパラアミノフェノール等のグリシジルアミン型エポキシ樹脂など)、ゴム変性エポキシ樹脂(例えば、ゴム成分としてポリブタジエン等の合成ゴムや天然ゴムを含有するエポキシ樹脂など)、環状脂肪族型エポキシ樹脂、長鎖脂肪族型エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0018】
アミン系硬化剤としては、脂肪族第一アミン(脂肪族ジアミン、脂肪族ポリアミン、芳香環含有脂肪族ポリアミン、脂環ポリアミン、環状ポリアミン等)、芳香族第一アミン、第三アミン硬化剤、含リン若しくは含ハロゲンのアミン硬化剤、変性ポリアミンアダクトなどのアミン系硬化剤などが挙げられる。
【0019】
本発明の塗工面変質層の除去方法及び変質層除去剤で使用されるジメチルスルホキシド(DMSO)は、変質したエポキシ系接着樹脂に良好に浸透するので、本発明の変質層除去剤の主要成分である。ジメチルスルホキシドは、実質的に無色無臭の安定な化合物であり、NMPなどのアミド系溶剤と比べて人体への有害な影響が少ない溶剤である。また、ジメチルスルホキシドの引火点は95℃と高く、安全性の点においても取り扱いが容易である。
【0020】
ジメチルスルホキシドは融点が19℃と比較的高いので、本発明においては、取り扱いの容易さから有機溶媒との混合液として使用することが好ましい。混合液に含有されるジメチルスルホキシドの濃度は、1~99質量%であり、取り扱いの容易さから、好ましくは5~25質量%、より好ましくは10~20質量%である。
【0021】
混合液に含有される有機溶媒としては、常温で安定な液体が使用できる。メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、n-アミルアルコール、イソアミルアルコール、sec-アミルアルコール、tert-アミルアルコール、ネオペンチルアルコール、1-ヘキシルアルコールに例示される一価アルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオールに例示される二価アルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンに例示されるケトン類、酢酸メチル、酢酸エチルに例示されるエステル類、キシレン、トルエンに例示される炭化水素類が挙げられる。
【0022】
混合液に含有される実用的な有機溶媒として、炭素数1~8のアルコールが好ましく、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコールなどの炭素数1~3のアルコールが特に好ましい。
【0023】
ジメチルスルホキシドと有機溶媒の混合液には、種々の補助成分を添加することが可能である。
例えば、天井面や壁面等に塗工されたエポキシ系接着樹脂に塗布するため、混合液に増粘剤を添加することができる。添加される増粘剤としては、ポリエチレングリコール、ポリ-N-ビニルアセトアミド、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマーなどのポリマー系増粘剤、メチルセルロースやセルロースナノファイバーなどのセルロース系増粘剤、ポリアクリル酸ナトリウムなどのアクリル系増粘剤、グリセロールなどが例示される。なお、増粘剤は混合液100重量部に対して0.1~25質量部、好ましくは0.5~10質量部配合される。
【0024】
また、混合液を塗工面に塗布する際に混合液が十分に塗布されたことを確認したり、塗布部分を払拭する際に塗布部分が十分に払拭されたことを確認することを容易にするため、混合液に最大で10質量部の着色剤を添加することができる。添加される着色剤としては、染料でも顔料でも構わないが、染料であれば天然染料や合成染料を適宜使用することができ、顔料であれば酸化チタン、カーボンブラック、ベンガラなどが例示される。
【0025】
本発明においては、まず、変質が発生したエポキシ系接着樹脂の塗工面にジメチルスルホキシドと有機溶媒の混合液を塗布する。塗布する際は、スプレー吹き付け等も可能ではあるが、刷毛やローラーなどを用いることが好ましい。
塗布後、好ましくは1~60分、より好ましくは5~20分放置して、塗工面の変質したエポキシ系接着樹脂に塗布した混合液を浸透させる。
【0026】
次いで、混合液を浸透させた部分を払拭して、変質したエポキシ系接着樹脂を除去する。前記混合液は、変質したエポキシ系接着樹脂に良好に浸透して、当該変質部分を軟化若しくは溶解させるので、変質部分を容易に除去することができる。
【0027】
払拭する際には、綿布などからなるウェス又は合成樹脂などからなるスポンジ等の払拭具を用いる。その際、払拭具にシンナーを含浸させることが好ましい。
【0028】
払拭する際に使用するシンナーとしては、DMSOとの親和性があって揮発性が高い溶剤が好ましい。例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの炭化水素類、メタノールやエタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトンなどのケトン類、又は、これらの混合物が使用できる。揮発性の観点からは、キシレン、エチルベンゼン、イソブタノール、メチルイソブチルケトン、又はこれらの混合物が好ましく、安全性の観点からは、エタノールが好ましく使用される。乾燥環境によっては、水と水溶性溶剤の混合物を使用することもできる。
【0029】
本発明の変質層の除去方法及び変質層除去剤は、水路や道路・鉄道などのトンネルや高架橋といったコンクリート構造物や橋梁や金属管柱などの鋼構造物、FRP構造物、木造構造物等の構造物を補強または補修する際等に使用される接着工法、特に、繊維シート接着工法を施工する際において好適に使用できる。
繊維シート接着工法に用いられる繊維シートとしては、弾性率及び強度に優れた、炭素繊維からなる炭素繊維シートや芳香族ポリアミド繊維からなるアラミド繊維シートが好ましい。
【実施例0030】
以下、実施例、比較例をあげて、本発明についてより詳細な説明を行うが、本発明はその内容に限られるものではない。
【0031】
・エポキシ樹脂材料
プライマー:日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、品名FP-NS、
パテ材:日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、品名FE-Z
含浸接着樹脂:日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、品名FR-E3P
・繊維シート
トウシート:日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、品名FTS-C1-30
【0032】
(剥離試験による評価)
[実施例1]
[試験体の作成]
ケレン処理した30cm角コンクリート平板にプライマー(FP-NS)を室温雰囲気にて塗布量が200g/mとなるように塗工して24hr放置したのち、プライマー塗布面にエポキシ樹脂とアミン系硬化剤の混合物からなるエポキシ系接着樹脂であるパテ材(FE-Z)を5℃雰囲気にて1kg/mとなるように塗工し30min放置した。
次いでパテ材を塗布した平板を、水道水中での20minの浸漬と5℃雰囲気下での2hr放置を4回繰り返してパテ材表面を白化させて試験体を得た。
【0033】
[処理及び効果]
ジメチルスルホキシド(DMSO、林純薬工業株式会社製)をエタノール(林純薬工業株式会社製)で希釈したDMSO濃度10wt%のエタノール溶液からなる処理液を作成し、これを刷毛にてパテ材表面が白化した試験体の全面に塗工した。次いで、キシレン、エチルベンゼン、イソブタノール、メチルイソブチルケトンの混合物からなるシンナー(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、品名FC-U中塗用シンナー)をしみこませたウェスにて試験体の表面を乾いた状態となるまで払拭を行った。
拭き取り後の試験体の表面に繊維シート(FTS-C1-30)を含浸接着樹脂(FR-E3P)を用いて室温環境下にて貼り付け、試験片を作製した。
【0034】
得られた試験片を用いて、図1に示すようにしてばねばかりを用いて90°方向への繊維シートの剥離試験を行った。試験片の繊維シートが剥離した時点のばねばかりの指示値(kgf)を剥離強度とした。剥離強度が5kgf以上の場合を○、2kg以上~5kgf未満の場合を△、2kgf未満の場合を×と評価した。また、剥離後の繊維シート表面の状態を目視で観察した。結果を表1に示す。
【0035】
[比較例1]
♯80のサンドペーパーを用いて、パテ材表面が白化した試験体の表面を研磨痕が残る程度まで縦横方向に研磨したのち、アセトン(小宗化学薬品株式会社製)をしみこませたウェスにて平板の表面を乾いた状態となるまで表面の研磨粉等の拭き取りを行った。
拭き取り後の試験体の表面に繊維シート(FTS-C1-30)を含浸接着樹脂(FR-E3P)を用いて室温環境下にて貼り付けて試験片を作製し、繊維シートの剥離試験を行った。結果を表1に示す。
【0036】
[比較例2]
白化した試験体の表面の処理を何も行わずに、実施例1と同様にして、繊維シートを貼り付けて試験片を作製し、繊維シートの剥離試験を行った。結果を表1に示す。
【0037】
白化が発生した塗面を本発明の塗工面変質層の除去剤を用いて表面処理を行った実施例1では剥離強度が高く、かつ全てが凝集破壊となる結果となった。これに対して、塗面を何も処理しなかった比較例2では白化が生じたパテ材層と、その上に塗り継がれた含浸接着樹脂層の間で容易に剥離した。剥離後の状態は、界面剥離が全面的に発生していた。白化が発生した塗面を目粗しとアセトン払拭処理を行った比較例1でも剥離に対する抵抗性は低く、部分的な界面剥離が観察された。
【0038】
【表1】
【0039】
(継手強度試験)
[実施例2]
[試験体の作製]
離型フィルムに塗工したエポキシ樹脂とアミン系硬化剤の混合物からなるエポキシ系接着樹脂である含浸接着樹脂(FR-E3P)に1層目となる繊維シートを押し付けて貼り付け脱泡しながら含浸させた後、当該繊維シートの上からさらに前記含浸接着樹脂を塗工して、低温高湿度環境(5℃、湿度95~100%)下のもと7日間養生して試験体を作製した。
【0040】
[処理及び効果]
ジメチルスルホキシドをエタノールで希釈したDMSO濃度10wt%のエタノール溶液からなる処理液を作成し、これを刷毛にて含浸接着樹脂表面が白化した前記試験体の全面に塗工した。次いで、キシレン、エチルベンゼン、イソブタノール、メチルイソブチルケトンの混合物からなるシンナーをしみこませたウェスにて試験体の表面を乾いた状態となるまで拭き取りを行った。
【0041】
次いで、2層目となる繊維シートを準備し、その端部10cmの部分を1層目の繊維シートの端部10cmの部分と重ね、重なり部分に含浸接着樹脂を2層目の繊維シートの上から含浸塗工した。その上に離型フィルムを貼り付けて室温で1日養生し、反りを防止するためにSUS板で挟み込んだ上で45℃、3日間の加温養生を行い、試験片を作成した。得られた試験片の概略形状を図2に示す。
【0042】
得られた試験片を用いて、JSCE-E542-2013 連続繊維シートの継手試験方法(案)に準拠した試験方法にて5個の試験片の引張試験を行った。具体的には、万能材料試験機を用いて試験速度4±0.4mm/minにて引張試験を行い、継手強度及び終局状態の観察を目視で行った。
結果を表2に示す。
【0043】
[比較例3]
♯80のサンドペーパーを用いて、実施例2と同様に作製したパテ材表面が白化した試験体の表面を研磨痕が残る程度まで縦横方向に研磨したのち、アセトンをしみこませたウェスにて試験体の表面の研磨粉等の拭き取りを行った。
拭き取り後の試験体の表面に、実施例2と同様にして、2層目となる繊維シートを重ねて含浸接着樹脂を含浸塗工した後、離型フィルムを貼り付けて室温で1日養生し、SUS板で挟み込んだ上で45℃、3日間の加温養生を行い、試験片を作成した。
得られた試験片の引張試験を行った。
結果を表2に示す。
【0044】
[比較例4]
実施例2と同様に作製した白化した試験体の表面の処理を何も行わずに、実施例2と同様にして繊維シートを貼り付けて試験片を作成し、得られた試験片の引張試験を行った。
結果を表2に示す。
【0045】
【表2】
【0046】
継手強度試験では、すべての試験片において繊維シート間での界面剥離は観察されなかったが、剥離強度は、目粗し及びアセトン処理の場合(比較例3)及び無処理の場合(比較例4)と比較して、本発明の塗工面変質層除去剤による除去方法を行った場合(実施例2)が最も高く、測定結果数値のばらつきも小さい結果となった。特に、実施例2は、比較例3のようなサンドペーパーによる表面粗化を行っていないにも関わらず高い剥離強度を安定して発現していることから、処理面を次層の塗り継ぎに適した表面状態に均一に処理できているものと考えられる。
【0047】
以上より、本発明の塗工面変質層の除去方法の有効性を確認することができた。すなわち、本発明の除去剤による処理は、繊維シート接着工法に悪影響を与えないことはもちろん、目粗しとアセトン払拭処理といった人力に大きく依存する表面処理で見られる「一部界面剥離」という処理ムラを発生させることなく、かつ、塗工面に生じた白化(変質層)を確実に除去して、処理後の塗工面を均一な清浄状態にすることができ、他面との接着性を高めることができることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の変質層を除去する方法及び変質層の除去剤は、コンクリート構造物や鋼構造物、FRP構造物、木造構造物等の構造物を補強または補修する際等に使用されるエポキシ系接着樹脂の変質層を除去する工程のほか、既設床等の改修の際などにおけるエポキシ樹脂系の塗材を重層塗装する場合などにも好適に利用される。
図1
図2