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特開2024-1042103次元画像解析による漏洩現象の同定方法及び同定システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104210
(43)【公開日】2024-08-02
(54)【発明の名称】3次元画像解析による漏洩現象の同定方法及び同定システム
(51)【国際特許分類】
   G01M 3/02 20060101AFI20240726BHJP
【FI】
G01M3/02 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008325
(22)【出願日】2023-01-23
(71)【出願人】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(71)【出願人】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(71)【出願人】
【識別番号】000208204
【氏名又は名称】大林道路株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100197848
【弁理士】
【氏名又は名称】石塚 良一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 哲也
(72)【発明者】
【氏名】木津 和樹
(72)【発明者】
【氏名】萩原 大生
(72)【発明者】
【氏名】島本 由麻
(72)【発明者】
【氏名】北野原 朋宏
(72)【発明者】
【氏名】本間 順
【テーマコード(参考)】
2G067
【Fターム(参考)】
2G067AA11
2G067CC02
2G067DD02
(57)【要約】
【課題】既設のパイプラインに加工などを施すことなく、画像解析手法により、パイプラインの管材変形挙動を捉えることで、当該パイプラインにおける流体の漏洩現象を同定することが可能な、3次元画像解析による漏洩現象の同定方法及び同定システムを提供する。
【解決手段】パイプラインにおける流体の漏洩現象の同定方法であって、前記パイプラインの管材の表面に画像解析面を設置する解析面設置ステップと、前記画像解析面を撮影手段で撮影する解析面撮影ステップと、前記撮影手段によって撮影された画像に基づいて前記管材の周方向変位量を計測する変位量計測ステップと、計測された前記周方向変位量に基づいて解析を行い、少なくとも前記流体の漏洩現象の有無を判別することが可能な漏洩現象判別ステップと、を少なくとも有することを特徴とする。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パイプラインにおける流体の漏洩現象の同定方法であって、
前記パイプラインの管材の表面に画像解析面を設置する解析面設置ステップと、
前記画像解析面を撮影手段で撮影する解析面撮影ステップと、
前記撮影手段によって撮影された画像に基づいて前記管材の周方向変位量を計測する変位量計測ステップと、
計測された前記周方向変位量に基づいて解析を行い、少なくとも前記流体の漏洩現象の有無を判別することが可能な漏洩現象判別ステップと、を少なくとも有する
ことを特徴とする3次元画像解析による漏洩現象の同定方法。
【請求項2】
前記撮影手段は、互いに異なる方向から前記画像解析面を撮影する少なくとも2以上の撮影カメラである
請求項1に記載の3次元画像解析による漏洩現象の同定方法。
【請求項3】
少なくとも前記周方向変位量を機械学習する学習ステップを有し、
前記漏洩現象判別ステップにおいて、前記機械学習による所定のアルゴリズムに基づいて前記解析を実行する
請求項1又は2に記載の3次元画像解析による漏洩現象の同定方法。
【請求項4】
パイプラインにおける流体の漏洩現象の同定システムであって、
前記パイプラインの管材の表面に設置される画像解析面と、
前記画像解析面を撮影する撮影手段と、
前記撮影手段によって撮影された画像に基づいて前記管材の周方向変位量を計測する変位量計測手段と、
計測された前記周方向変位量に基づいて解析を行い、少なくとも前記流体の漏洩現象の有無を判別することが可能な漏洩現象判別手段と、を少なくとも有する
ことを特徴とする3次元画像解析による漏洩現象の同定システム。
【請求項5】
前記撮影手段は、互いに異なる方向から前記画像解析面を撮影する少なくとも2以上の撮影カメラである
請求項4に記載の3次元画像解析による漏洩現象の同定システム。
【請求項6】
少なくとも前記周方向変位量を機械学習する学習手段を有し、
前記漏洩現象判別手段において、前記学習手段の所定のアルゴリズムに基づいて前記解析が実行される
請求項1又は2に記載の3次元画像解析による漏洩現象の同定方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パイプラインにおける流体の漏洩現象を同定することが可能な、3次元画像解析による漏洩現象の同定方法及び同定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
送配水を担うパイプラインシステムでは、漏水や水撃現象が施設の長寿命化に影響を及ぼす。しかし、水利用上これらの現象は避けることができないため、維持管理の観点からパイプラインシステムの検査技術の確立が不可欠である。
【0003】
このような状況下において、非特許文献1及び非特許文献2に開示された技術では、灌漑用パイプラインにおける漏水に対して、バルブ操作に伴う水撃圧に漏水の情報を加え、数値シミュレーションを援用することで詳細な検知法を確立することが検討されている。
【0004】
また、非特許文献3に開示された技術では、直接的な計測手法として、管水路内にカプセル型の探査装置を投入し、当該探査装置が取得した漏水音からパイプラインの漏水位置を特定することが検討されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】浅田洋平、他4名、“管路内の圧力波形の減衰メカニズムの解明”、[online]、土木学会、[令和4年10月20日検索]、インターネット<https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscejhe/74/5/74_I_769/_article/-char/ja/>
【非特許文献2】浅田洋平、他4名、“管水路内のエネルギー減衰を利用した漏水検知法の適用性検討”、[online]、土木学会、[令和4年10月20日検索]、インターネット<https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscejhe/75/2/75_I_799/_article/-char/ja/>
【非特許文献3】浅野 勇、他5名、“管水路のカプセル型漏水探査装置の開発”、[online]、農業農村工学会、[令和4年10月20日検索]、インターネット<https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsidre/86/6/86_513/_article/-char/ja/>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1及び非特許文献2に開示された方法においては、パイプラインに水圧計を設置して水圧を計測することが必須となるところ、特に老朽化した既存のパイプラインにおいては、水圧計を設置することが困難となることが想定される。
【0007】
また、非特許文献3に開示された方法においては、パイプラインの中に水中マイクが内蔵されたφ55mm×165mmのカプセルを投入する必要であり、特に、管径の小さなパイプラインに対応することが困難である。加えて、カプセルの回収が必須となるところ、既設のパイプラインに対して投入及び回収するための加工が必要であることや、万が一カプセルを回収できない事態が発生した場合のリスクなどの課題がある。
【0008】
そこで本願発明は、既設のパイプラインに加工などを施すことなく、画像解析手法により、パイプラインの管材変形挙動を捉えることで、当該パイプラインにおける流体の漏洩現象を同定することが可能な、3次元画像解析による漏洩現象の同定方法及び同定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、パイプラインにおける流体の漏洩現象の同定方法であって、前記パイプラインの管材の表面に画像解析面を設置する解析面設置ステップと、前記画像解析面を撮影手段で撮影する解析面撮影ステップと、前記撮影手段によって撮影された画像に基づいて前記管材の周方向変位量を計測する変位量計測ステップと、計測された前記周方向変位量に基づいて解析を行い、少なくとも前記流体の漏洩現象の有無を判別することが可能な漏洩現象判別ステップと、を少なくとも有することを特徴とする。
【0010】
本発明の構成によれば、例えばマンホール内の限られたスペースの中で、既設のパイプラインに加工などを施すことなく、画像解析手法により、パイプラインの管材変形挙動を捉え、当該パイプラインにおける流体の漏洩現象を同定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明におけるモデルパイプラインによる実験から解析・非接触検出のフロー図である。
図2】(a)はモデルパイプラインの管材の諸元を示す表である。(b)は実験における検討ケースの内訳詳細を示した表である。
図3】モデルパイプラインの構成を説明する概略図である。
図4】パイプラインに対する撮影態様を説明する概略図である。
図5】パイプラインにおける円筒座標系のモデルを説明する概略図である。
図6】(a)は画像計測解析面Aの可視画像であり、(b)は画像計測解析面Aの三次元解析画像である。
図7】モデルパイプラインにおける計測条件を示した概略図である。
図8】(a)はCase Aの、(b)はCase Bの管内の水圧変動と管体の周方向変位量を時系列で示したグラフである。
図9】(a)はCase Cの、(b)はCase Dの管内の水圧変動と管体の周
図10】(a)はCase Eの、(b)はCase Fの管内の水圧変動と管体の周方向変位量を時系列で示したグラフである。
図11】(a)はCase CとCase Dの水撃圧を時系列で示したグラフであり、(b)は水撃圧の周波数分布を示したグラフである。
図12】(a)はCase CとCase Dの周方向変位量を時系列で示したグラフであり、(b)は周方向変位量の周波数分布を示したグラフである。
図13】(a)はCase EとCase Fの水撃圧を時系列で示したグラフであり、(b)は水撃圧の周波数分布を示したグラフである。
図14】(a)はCase EとCase Fの周方向変位量を時系列で示したグラフであり、(b)は周方向変位量の周波数分布を示したグラフである。
図15】管内の水圧変動と管体の周方向変位量のスカログラムであって、(a)はCase Cの、(b)はCase Dの、水撃圧の時間周波数特性を示している。
図16】管内の水圧変動と管体の周方向変位量のスカログラムであって、(a)はCase Cの、(b)はCase Dの、周方向変位量の時間周波数特性を示している。
図17】管内の水圧変動と管体の周方向変位量のスカログラムであって、(a)はCase Eの、(b)はCase Fの、水撃圧の時間周波数特性を示している。
図18】管内の水圧変動と管体の周方向変位量のスカログラムであって、(a)はCase Eの、(b)はCase Fの、周方向変位量の時間周波数特性を示している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ、本発明の3次元画像解析による漏洩現象の同定方法及び同定システムについて、送配水パイプラインにおける漏水現象の同定方法を例に、その実施形態を説明する。
【0013】
(モデルパイプライン実験)
本発明に先立ち、モデルパイプラインを作製し、当該モデルパイプラインにおける模擬漏水の有無、及び、バルブ操作に伴って生じる管体の挙動を、画像解析手法のひとつであるディジタル画像相関法(以下、「DIC法」という)によって非接触で検出するための実験を実施している。
【0014】
すなわち、図1のフロー図に示されるように、本実験では、漏水の有無とバルブ開度により、異なる水圧変動の検討ケースを設定し、水圧と画像データの取得を同期させて水圧変動と管体変形を計測する(管体の変形挙動を管内の水圧変動との比較により評価)。
【0015】
上記モデルパイプラインの管材の諸元は、図2(a)に示されるとおりである。また、モデルパイプラインの外観は図3に示されるとおりである。最上流に不図示の水槽を設置し、最下流のバルブBの操作で流量調整を行っている。なお、水槽は地上2.9m地点で架台に固定し、最下流で約7.8mの圧力水頭を確保している。
【0016】
モデルパイプラインの模擬漏水については、図3に示されるように、下流側に2か所の直径5mmの漏水孔Hを設けることで再現している。また、管内の水圧計測と、管体の変形挙動を解析するため、図示される位置に、水圧計P及び後述する画像解析面Aを設置している。
【0017】
次に、本実験における検討ケースが図2(b)に示されており、模擬漏水の有無及びバルブ開度を考慮した6種類の検討ケースを設定している。計測態様は以下のとおりである。
【0018】
Case Aは、バルブBを閉塞し、管内を満水にした静水状態で60秒間の水圧計測と、管体の変形挙動を計測している。
Case Bは、静水状態の開始から10秒後に2か所の漏水孔Hから模擬漏水を行い、その後の50秒間継続して計60秒間の水圧計測と、管体の変形挙動を計測している。
Case Cは、静水状態の開始から10秒後にバルブBを開放(開度16.9°)して通水し、水槽内の水位が約1m低下したときにバルブBを閉塞して水撃圧を発生させ、その減衰が終わるまで間、水圧計測と、管体の変形挙動を計測している。
Case Dは、静水状態の開始から10秒後に2か所の漏水孔Hから模擬漏水を行い、その10秒後にバルブBを開放(開度16.9°)して通水し、水槽内の水位が約1m 低下したときにバルブBを閉塞して水撃圧を発生させ、その減衰が終わるまでの間、水圧計測と、管体の変形挙動を計測している。
Case Eは、静水状態の開始から10秒後にバルブBを開放(開度5.6°)して通水し、水槽内の水位が約1m低下したときにバルブBを閉塞して水撃圧を発生させ、その減衰が終わるまで間、水圧計測と、管体の変形挙動を計測している。
Case Dは、静水状態の開始から10秒後に2か所の漏水孔Hから模擬漏水を行い、その10秒後にバルブBを開放(開度5.6°)して通水し、水槽内の水位が約1m 低下したときにバルブBを閉塞して水撃圧を発生させ、その減衰が終わるまでの間、水圧計測と、管体の変形挙動を計測している。
【0019】
なお、上記した水圧計測においては、小型圧力センサ(センシズ社製HTV-100KP)を最上流の水槽付近と最下流のバルブB付近の2か所に設置し、電圧データロガー(T&D社製WCR-4V)による記録(サンプリング:100Hz)と、管体の変形挙動の画像計測に伴う同期接続により記録(サンプリング:20Hz)を行っている。すなわち、管体の変形挙動の画像解析結果との相互比較を行うために、同期接続によって得られた水圧データを後述する解析で使用している。
【0020】
また、上記した管体の変形挙動を非接触検出するために、図4に示される態様で管体の変形挙動を画像計測している。管体の変形挙動を3次元で同定できるように、前述したDIC法を援用している。本手法は、計測対象となる管材の表面に設置した画像解析面Aにランダムパターンを施し、そのランダムパターンにおけるドットの移動量をCCDカメラで撮影することで、ディジタル画像中の画素群の動態から変位量を算出している。
【0021】
そこで、図4に示されるように、ランダムパターンが施された画像解析面Aを、管体の管頂にあたる位置に設置し、当該画像解析面Aを真上から見下ろすようにして2台のCCDカメラ11、12を設置している。なお、実施例のランダムパターンは55mm(横)×80mm(縦)の大きさの長方形で作成している。計測条件として、シャッタースピードを5ms、絞りを4とし、フレームレートは20Hzとして同期接続により水圧データも取り込めるようにしている。
【0022】
加えて、DIC法では画像解析面Aに対する明るさが解析精度に大きく影響するため、外乱の少ない日没後に計測を行い、図示されるようにスタンドライトとクリップライトによる照明20を設置して明るさの調節を行っている。
【0023】
DIC法を実施するソフトウェアとして、計測ではVic Snap(Correlated Solutions社製)、解析ではVic 3D(Correlated Solutions社製)を使用している。また、DIC法による管体の変形挙動の評価指標として、円筒座標系における周方向の変位量(rad)(後述する検討結果ではdThetaと表示)を用いている。
【0024】
図5には、円筒座標系のモデルが図示されているが、本指標は初期状態の画像解析面Aのランダムパターンから周方向θに対する変位量を表している。そして、管軸方向Zの正方向に対して反時計回りが正方向、時計回りが負方向となる。
【0025】
図6には、上記した実験の解析結果の一例が示されている。長方形で囲まれた画像解析面Aのランダムパターンの中心座標における周方向の変位量の時系列データを抽出して解析を行っている。
【0026】
(解析方法)
以下では、図1のフロー図にしたがって、解析方法について説明する。
【0027】
管体の諸元、物性値及び設置条件に基づく固有振動数の計算について説明する。
管体の振動をはりの振動と仮定して固有振動数を求める。固有振動数の計算においては、図7に示されるように、管体の長さを下流における曲管と上流における曲管との間の約 7.4mとし、境界条件は両端単純支持としている。固有角振動数ωは下記の数式1によって示される。
【0028】
【数1】
【0029】
ここで、lは長さ(m)、Eは弾性係数(N/m)、Iは断面二次モーメント(m)、ρは密度(kg/m)、Aは断面積(m)である。そして、上記固有角振動数より固有振動数f は下記の数式2で表される。
【0030】
【数2】
【0031】
本解析では、図2(a)の表に示されたモデルパイプラインの諸元を考慮し、l=7.4(m)、E=3.33×10(N/m)、I=3.22×10-6(m)、ρ=1.43×10(kg/m)、A=2.23×10-3(m)とし、計算の結果、固有振動数のモード1は1.67Hz、モード2は6.67Hzとなる。(以降の検討では、それぞれ1.7Hz及び6.7Hzで解析を進める。)
【0032】
離散フーリエ変換について説明する。
管内の水圧変動と管体の周方向変位量の周波数特性を評価するために、離散フーリエ変換を行う。サンプリングによる長さNの信号x[n](n=0,1,...,N-1)に対する離散フーリエ変換を下記の数式3に示す。
【0033】
【数3】
【0034】
ここで、kは離散化に伴う周波数番号であり、周波数番号k番目の周波数fkは、サンプリング周波数fsにより下記の数式4で示される。
【0035】
【数4】
【0036】
本解析では、画像計測とその同期接続による水圧計測のサンプリングレートは20Hzであり、バルブBの閉塞による水撃圧を含む水圧及び周方向変位量の512データを対象としている。
【0037】
連続ウェーブレット変換について説明する。
水圧変動と周方向変位量の時間周波数特性を評価するため、連続ウェーブレット変換を行う。当該ウェーブレット変換では、時間情報を保持したまま周波数情報を得ることができる。時間信号f(t)に対する連続ウェーブレット変換を下記の数式5で示す(ただし、数値計算上では離散的に取り扱っている)。
【0038】
【数5】
【0039】
ここで、aは伸張パラメータ、bは位置パラメータ、ψ(t)はマザーウェーブレット、アスタリスクは複素共役を表す。本解析では、マザーウェーブレットとして複素モルレーウェーブレットを用いている。マザーウェーブレットを下記の数式6で示す。
【0040】
【数6】
【0041】
(検討結果)
管内の水圧変動と管体の周方向変位量の時系列について説明する。
図8図10には、管内の水圧変動と管体の周方向変位量が、前述のケースごとに時系列で示されている。図示されるように、図8(a)の静水状態では、水圧と周方向変位量は定常的な変動となることが確認できる。また、図8(b)の漏水状態では、漏水開始の水圧の低下に伴い、周方向変位量が負の値に変動することが確認できる。これは漏水に伴う水圧の開放により、管内では漏水孔Hと反対側に水圧の合力が偏り、これが周方向の負の方向に従うためである。
【0042】
図9の通水(バルブ開度16.9°)では、周方向変位の時系列の変動が増大する結果となっている。図9(c)と図9(d)を比較すると、漏水時での通水状態では周方向変位の変動の振幅が小さいことが確認できる。
【0043】
図10の通水(バルブ開度5.6°)では、図9の通水(バルブ開度16.9°)と比較して、周方向変位の変動の振幅が小さい結果となっている。図10(e)の漏水がない場合では周方向変位が通水中に負の値で変動し、図10(f)の漏水がある場合では正の値で変動する傾向が確認できる。
【0044】
以上のことから、漏水の有無やバルブ開度に応じた管内流況の相違を、画像解析によって得られる管体の周方向変位量の時系列から、その実態を非接触で検出できることが判る。
【0045】
(漏水の有無に伴う水撃圧と周方向変位量の周波数特性について)
次に、バルブBを閉塞するときの急激な水圧上昇である水撃圧に着目し、漏水と周方向変位量を評価する。ここではCase C~Fを対象に、バルブ閉塞の8秒前から25.6秒間の512データ(サンプリング:20Hz)を抽出して評価する。
【0046】
図11(a)~図14(a)には、管体の周方向変位量と水撃圧が時系列で示されている。図示されるように、最大水圧はCase Cで134kPa、Case Dで108kPa、Case Eで79kPa、Case Fで80kPaとなっている。図11(a)と図13(a)に示された水圧の時系列を比較すると、バルブ開度が16.9°でより大きいCase C及びDのバルブ閉塞において、水圧の上昇が増大する結果となっている。
【0047】
また、同一のバルブ開度で漏水の有無を比較すると、Case CとDとの比較、Case EとFとの比較で、ともに漏水がある方が水圧変動の減衰が早いことが確認できる。
【0048】
図12(a)と図14(a)で管体の周方向変位量を比較すると、いずれの場合も水撃圧による水圧上昇に伴い、周方向変位量の値が正の方向に増加することが確認できる。
【0049】
図11(b)~図14(b)には、管体の周方向変位量と水撃圧における周波数分布が示されている。図11(b)と図13(b)の水撃圧の周波数分布では、1.7Hz付近に振幅スペクトルが集中する傾向が確認できる。漏水があるケース(Case DとF)では、漏水がないケース(Case CとE)よりも1.7Hz付近に集中する振幅スペクトルの値が小さいことが判る。
【0050】
図12(b)と図14(b)に示された周方向変位量の周波数分布では、モデルパイプラインの設置条件を考慮して算出した固有振動数の1.7Hz(モード1)と6.7Hz(モード2)に、振幅スペクトルが集中する傾向が確認できる。このことから、画像解析によって求めた管体の周方向変位量のパラメータによって、管体の固有振動を検出できることが判る。
【0051】
上記の結果から、水圧の周波数分布における1.7Hz付近の周波数帯は、本実験条件下における管材および流況において生じる水撃圧を起源とする周波数帯の可能性が考えられる。水撃圧は水を圧縮性と仮定し、かつその伝播速度は水を拘束する管材の物性や管厚にも依存することから、その周波数特性は一様ではなく、管材や流況により相違があるものと考えられる。水撃現象を水と管材の複合体による現象と考えると、管材の挙動をモニタリングすることで、管内の流況の特性を推定できる可能性がある。すなわち、管体(水と管材の複合体)の振動特性である固有振動に着目することで、管内の水圧変動の周波数特性を検出できると認められる。したがって、画像解析によって得られる管体の周方向変位量の周波数分布から固有振動を検出し、それにより管内の水撃圧の周波数特性を非接触で同定することが可能となる。
【0052】
(時間周波数領域における漏水の有無に伴う水撃圧と周方向変位量の減衰について)
続いて、図15図18には、管内の水圧変動と管体の周方向変位量のスカログラム(ウェーブレット変換結果)が示されている。すなわち、図15及び図17には水撃圧の時間周波数特性が示され、図16及び図18には、周方向変位量の時間周波数特性が示されている。これは、図11(a)~図14(a)に示す時系列をウェーブレット変換によって時間周波数領域で表している。これにより、時間情報を保持したまま周波数情報を得ることができる。
【0053】
図15図18に示される解析の結果、いずれの水圧変動と周方向変位量のスカログラムから、バルブ閉塞による水撃圧の発生に伴い、固有振動の1.7Hz(モード1)と6.7Hz(モード2)の周波数帯に比較的に強い信号が確認できる。
【0054】
また、水圧変動のスカログラムでは図15図17に示されるように、水撃圧の時間経過に伴って、信号強度の減衰が検出されている。時系列での水圧変動の振幅は漏水時において早い減衰が確認できるが(図11(a)と図13(a))、時間周波数領域においても同様に、漏水時における信号強度のより早い減衰が固有振動と同一の周波数帯で検出されている。この傾向に着目すると、周方向変位量のスカログラムでは図16図18に示されるように、固有振動の周波数帯で水撃圧の時間経過に伴う信号強度の減衰が検出されている。特に、バルブ開度の大きいCase CとDでは顕著であり(図16)、漏水に伴う早い減衰も明確に検出されている。
【0055】
バルブ開度の小さいCase EとFでは、固有振動数6.7Hz(モード2)において、Case CとDほどの水撃圧の減衰は検出されていない。
【0056】
以上のようなモデルパイプラインにおける実験結果により、周方向変位量の時間周波数領域では、固有振動の周波数帯における水撃圧起源の振動および漏水の有無に伴う減衰の相違を検出できることが確認された。これにより、DIC法による画像解析結果から得られる周方向変位量を指標にすることで、パイプラインにおける漏水実態を非接触で検出・評価できることが明らかとなった。
【0057】
(システム構成)
以下に、本発明の実施形態における漏洩現象の同定システム100の構成について説明する。
【0058】
本発明の実施形態における漏洩現象の同定システム100は、図4に示されるように、パイプラインの管材の表面に設置される画像解析面Aと、当該画像解析面Aを撮影する撮影手段(CCDカメラ11、12)と、当該撮影手段によって撮影された画像に基づいて管材の周方向変位量を計測する変位量計測手段101と、計測された周方向変位量に基づいて解析を行い、少なくとも流体の漏洩現象の有無を判別することが可能な漏洩現象判別手段103と、を少なくとも有している。
【0059】
なお、本実施形態では、図4に示されるように、撮影手段として、互いに異なる方向から画像解析面Aを撮影する少なくとも2以上のCCDカメラ11、12を設けたが、画像解析面Aの3次元画像を撮影できる撮影手段であれば、CCDカメラを含む撮影カメラの台数は1台又は複数台であってもよい。そして、撮影手段(CCDカメラ11、12)は、漏洩現象判別手段103等を内蔵するPCに接続される。
【0060】
また、PC内の漏洩現象判別手段103は、解析手段104と、少なくとも管材の周方向変位量を機械学習する(学習ステップ)学習手段105を備えており、学習手段105の所定のアルゴリズムに基づいて解析が実行される。そして、解析結果に基づいて、漏水現象の同定情報が漏水情報出力部102に出力される。
【0061】
また、漏洩現象判別手段103には、計測施設情報入力手段106が接続され、例えば、パイプラインの径や材質に加え、実際に発見した漏水孔Hの径、画像撮影位置から漏水孔Hまでの距離等を入力することが可能となっている。このような各種情報と管材の周方向変位量を学習データとすることで、取得した3次元画像から、漏水孔Hの有無のみならず、漏水位置や漏水規模を同定することが可能となり、さらに、漏水現象の同定精度を向上させることが可能となる。
【0062】
(漏水現象の同定方法)
既存のパイプラインにおいては、そのほとんどが地中に埋設されているため、止水弁などがあるマンホール内において、露出しているパイプラインの管材の表面に画像解析面Aを設置する(解析面設置ステップ)。そして、撮影手段(CCDカメラ11、12)を設置して、上記画像解析面Aを撮影手段で撮影する(解析面撮影ステップ)。
【0063】
撮影手段によって撮影された画像はPCに送られ、これに基づいて管材の周方向変位量を計測する(変位量計測ステップ)。計測された管材の周方向変位量に基づいて解析を行い、流体の漏洩現象の有無を判別することが可能となる(漏洩現象判別ステップ)。すなわち、前述したDIC法によって管体の変形挙動を評価し、円筒座標系における周方向の変位量(図5「θ」)を求め、時間と周波数の両者(時間周波数領域)における減衰挙動を判別することでパイプラインにおける漏洩現象を同定することができる。
【0064】
(その他の実施態様)
以上、本発明の3次元画像解析による漏洩現象の同定方法及び同定システムについて、送配水パイプラインにおける漏水現象の同定方法を例に、その実施形態を説明したが、本発明は必ずしも上記したような構成に限定されるものではなく、以下のような種々の変更が可能となっている。
【0065】
例えば、本発明の3次元画像解析による漏洩現象の同定方法及び同定システムは、必ずしも送配水パイプラインに限定されるものではなく、燃料配管やガス管、蒸気配管など、種々の流体を移送する加圧パイプラインに適用することが可能であり、流体の特性及び管体の特性を考慮することで、高精度に流体の漏洩現象を同定することが可能である。
【0066】
また、管材の変形の規模は、管材の弾性係数と断面二次モーメントに依存する。したがって、鋳鉄管ほかの鋼管よりも塩化ビニール製の管材に対して、より好適に本発明の同定方法及び同定システムを適用することができる。
【0067】
以上、本発明の実施形態について図面にもとづいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものではない。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。また、上記実施例に記載された具体的な材質、寸法形状等は本発明の課題を解決する範囲において、変更が可能である。
【符号の説明】
【0068】
A 画像解析面
H 漏水孔
P 水圧計
B バルブ
11 CCDカメラ
12 CCDカメラ
20 照明
100 漏洩現象の同定システム
101 変位量計測手段
102 漏洩情報出力手段
103 漏洩現象判別手段手段
104 解析手段
105 学習手段
106 計測施設情報入力手段

図1
図2
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