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特開2024-104225位相同期回路およびそれを用いたカスケード位相同期回路
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104225
(43)【公開日】2024-08-02
(54)【発明の名称】位相同期回路およびそれを用いたカスケード位相同期回路
(51)【国際特許分類】
   H03L 7/099 20060101AFI20240726BHJP
   H03L 7/091 20060101ALI20240726BHJP
   H03L 7/093 20060101ALI20240726BHJP
【FI】
H03L7/099 170
H03L7/091
H03L7/093
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008347
(22)【出願日】2023-01-23
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年6月12日に、「2022 IEEE Symposium on VLSI Technology&Circuits」の予稿集に発表 [刊行物等] 令和4年6月14日に、「2022 IEEE Symposium on VLSI Technology&Circuits」に発表
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 哲也
(72)【発明者】
【氏名】徐 祖楽
(72)【発明者】
【氏名】楊 尊松
【テーマコード(参考)】
5J106
【Fターム(参考)】
5J106AA01
5J106AA04
5J106CC01
5J106CC21
5J106CC25
5J106GG01
5J106JJ01
5J106JJ02
5J106KK27
5J106KK40
5J106LL01
(57)【要約】
【課題】低消費電力かつ低雑音の位相同期回路を提供する。
【解決手段】リングオシレータ110は、複数のインバータ112を含み、複数のインバータ112のうちの少なくともひとつである可変遅延インバータ114の遅延時間が制御電圧VCTRLに応じて調節可能である。リングオシレータ110は、可変遅延インバータ114と反対側に位置する出力ノードから出力クロックCKOUTを取り出し可能である。フィードバック回路120は、出力クロックCKOUTの周波数が基準クロックにもとづく目標周波数に近づくように、基準クロックCKREFのエッジに応じたタイミングで制御電圧VCTRLを更新する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のインバータを含み、前記複数のインバータのうちの少なくともひとつである可変遅延インバータの遅延時間が制御電圧に応じて調節可能であり、前記可変遅延インバータと反対側に位置する出力ノードから出力クロックを取り出し可能であるリングオシレータと、
前記出力クロックの周波数が前記基準クロックにもとづく目標周波数に近づくように、前記基準クロックのエッジに応じたタイミングで前記制御電圧を更新するフィードバック回路と、
を備えることを特徴とする位相同期回路。
【請求項2】
前記フィードバック回路は、サブサンプリング位相検出器を含むことを特徴とする請求項1に記載の位相同期回路。
【請求項3】
前記フィードバック回路は、比例パスと積分パスを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の位相同期回路。
【請求項4】
前記可変遅延インバータは、インバータと、前記インバータの出力と接続された可変容量を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の位相同期回路。
【請求項5】
請求項1または2に記載の位相同期回路である第1位相同期回路と、
前記第1位相同期回路の出力クロックを逓倍する第2位相同期回路と、
を備えることを特徴とするカスケード位相同期回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、位相同期回路に関する。
【背景技術】
【0002】
通信応用等を想定した~10GHz程度の低雑音の周波数生成にはコイル(インダクタンス)を用いた発振回路が用いられることが多いが、集積回路上の面積を多く必要とすることや、他の回路との磁界結合があること、複数の位相を作ることが難しいこと、周波数調整範囲が狭いことなどの欠点から好ましくない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Zule Xu, Masaru Osada and Tetsuya Iizuka, "A 3.3-GHz 4.6-mW Fractional-N Type-II Hybrid Switched-Capacitor Sampling PLL Using CDAC-Embedded Digital Integral Path with -80-dBc Reference Spur,", in IEEE Symposium on VLSI Circuits Digest of Technical Papers, Jun. 2021.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
それに対してリングオシレータ型の発振回路では位相雑音が高く、帯域の広い位相同期回路を使う事でその雑音を抑える必要があるが、従来技術では帯域を拡げすぎると回路が不安定になるなどの問題があり、低雑音化が難しい。
【0005】
本開示は係る状況においてなされたものであり、その例示的な目的のひとつは、低消費電力かつ低雑音の位相同期回路の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のある態様は、位相同期回路に関する。位相同期回路は、複数のインバータを含み、複数のインバータのうちの少なくともひとつである可変遅延インバータの遅延時間が制御電圧に応じて調節可能であり、可変遅延インバータと反対側に位置する出力ノードから出力クロックを取り出し可能であるリングオシレータと、出力クロックの周波数が基準クロックに応じた目標周波数に近づくように、基準クロックのエッジに応じたタイミングで制御電圧を更新するフィードバック回路と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本開示のある態様によれば、消費電力かつ低雑音の位相同期回路を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態に係るPLL回路のブロック図である。
図2】実施例1に係るPLL回路の回路図である。
図3図2のPLL回路の動作波形図である。
図4】比較技術に係るPLL回路の回路図である。
図5】実施形態と比較技術それぞれの位相雑音を示す図である。
図6】実施形態と比較技術それぞれのジッタを示す図である。
図7】実施例2に係るPLL回路の回路図である。
図8】リングオシレータの構成例を示す回路図である。
図9図8のリングオシレータのゼロISF領域を説明する図である。
図10】PLL回路を備えるカスケードPLL回路のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(実施形態の概要)
本開示のいくつかの例示的な実施形態の概要を説明する。この概要は、後述する詳細な説明の前置きとして、実施形態の基本的な理解を目的として、1つまたは複数の実施形態のいくつかの概念を簡略化して説明するものであり、発明あるいは開示の広さを限定するものではない。この概要は、考えられるすべての実施形態の包括的な概要ではなく、すべての実施形態の重要な要素を特定することも、一部またはすべての態様の範囲を線引きすることも意図していない。便宜上、「一実施形態」は、本明細書に開示するひとつの実施形態(実施例や変形例)または複数の実施形態(実施例や変形例)を指すものとして用いる場合がある。
【0010】
一実施形態に係る位相同期(PLL:Phase Locked Loop)回路は、複数のインバータを含み、複数のインバータのうちの少なくともひとつである可変遅延インバータの遅延時間が制御電圧に応じて調節可能であり、可変遅延インバータと反対側に位置する出力ノードから出力クロックを取り出し可能であるリングオシレータと、出力クロックの周波数が基準クロックに応じた目標周波数に近づくように、基準クロックのエッジに応じたタイミングで制御電圧を更新するフィードバック回路と、を備える。
【0011】
この構成によると、リングオシレータの出力のインパルス感度関数(ISF)のゼロ領域において、リングオシレータの発振周波数が更新されるため、広いループ帯域幅を実現でき、ひいては低雑音を実現できる。またインダクタを利用しない構成とすることで、回路面積を小さくできる。
【0012】
一実施形態において、「可変遅延インバータと反対側に位置する」とは、可変遅延インバータの出力の位相を0°とした場合に、位相が90~270°の範囲に含まれることをいう。あるいは、n個(nは奇数)のインバータが存在し、可変遅延インバータをn番目とした場合、n×1/4番目~n×3/4番目に位置するインバータをいう。
【0013】
一実施形態において、可変遅延インバータの個数は、1であってもよい。一実施形態において、可変遅延インバータの個数は、2あるいは3であってもよいし、さらに大きくてもよい。
【0014】
一実施形態において、可変遅延インバータは、インバータと、インバータの出力と接続された可変遅延容量を含んでもよい。
【0015】
一実施形態において、可変遅延インバータは、バイアス電流が調節可能なインバータを含んでもよい。
【0016】
一実施形態において、フィードバック回路は、サブサンプリング位相検出器を含んでもよい。
【0017】
一実施形態に係るカスケード位相同期回路は、上述のいずれかの位相同期回路である第1位相同期回路と、第1位相同期回路の出力クロックを逓倍する第2位相同期回路と、を備える。この構成によれば、前段の第1位相同期回路において、低雑音の第1周波数の前段クロック信号を生成し、前段クロック信号を後段の第2位相同期回路において逓倍することにより、アプリケーションで必要とされる第2周波数のクロック信号を、低雑音で得ることができる。
【0018】
(実施形態)
以下、好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施形態は、開示および発明を限定するものではなく例示であって、実施形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも開示および発明の本質的なものであるとは限らない。
【0019】
本明細書において、「部材Aが、部材Bと接続された状態」とは、部材Aと部材Bが物理的に直接的に接続される場合のほか、部材Aと部材Bが、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0020】
同様に、「部材Cが、部材Aと部材Bの間に接続された(設けられた)状態」とは、部材Aと部材C、あるいは部材Bと部材Cが直接的に接続される場合のほか、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0021】
図1は、実施形態に係る位相同期回路、すなわちPLL(Phase Locked Loop)回路100のブロック図である。PLL回路100は、基準クロックCKREFを受け、基準クロックCKREFを逓倍した出力クロックCKOUTを生成する。
【0022】
PLL回路100は、リングオシレータ110およびフィードバック回路120を備える。リングオシレータ110は、リング電圧制御発振器(VCO)であり、リング状に接続された複数n個(nは奇数)のインバータ112_1~112_nを含む。通常のリングVCOは、インバータ112_1~112_nすべての遅延量が調節可能であるのに対して、図1のリングオシレータ110は、1個のインバータ112の遅延量のみが可変であり、その他のインバータの遅延量は固定される。遅延量が可変であるインバータを、可変遅延インバータ114と称し、制御電圧VCTRLに応じて遅延量が可変である。この例では可変遅延インバータ114は1個であり、n番目のインバータ112が、可変遅延インバータ114となっている。
【0023】
リングオシレータ110は、可変遅延インバータ114と反対側(図中、一点鎖線116よりも右側)に出力ノードOUTが設けられており、出力ノードOUTに発生するクロックが、出力クロック(フィードバッククロック)CKOUTとして取り出し可能となっている。具体的には、n/4<j<n×3/4を満たすj番目のインバータ112_jの出力を、出力ノードOUTに選ぶことができる。
【0024】
フィードバック回路120は、出力クロックCKOUTの周波数fOUTが基準クロックCKREFに応じた目標周波数fREFに近づくように可変遅延インバータ114の遅延量を規定する制御電圧VCTRLを生成する。フィードバック回路120は、基準クロックCKREFのエッジに応じたタイミングφで、可変遅延インバータ114に供給すべき制御電圧VCTRLを更新する。
【0025】
以上がPLL回路100の基本構成である。
【0026】
このPLL回路100は、リングVCOをベースとしているため、インダクタを用いる発振器に比べて回路面積が小さいという利点がある。リングVCOは、インダクタを用いるオシレータに比べてジッタ性能(雑音)が劣るが、実施形態に係るPLL回路100は、ジッタ性能で劣るリングVCOを採用しているにもかかわらず、インダクタを用いたオシレータを採用する場合に比べて、低ジッタが実現できる。これは、VCOのジッタ(雑音)はPLLのループ帯域内では抑圧されるところ、実施形態に係るPLL回路100では、ループ帯域を広くすることが可能であり、雑音の抑圧性能が高いからである。
【0027】
さらに、リングオシレータ110のインパルス感度関数(ISF)のゼロ領域においてのみ、リングオシレータ110に与える制御電圧VCTRLを更新することにより、出力クロックCKOUTが遷移しない区間において制御電圧VCTRLの更新が発生する。つまり制御電圧VCTRLの更新が、フィードバックされる出力クロックCKOUTのポジティブエッジ、ネガティブエッジに干渉しないため、スプリアスが生成されない。これにより、制御電圧VCTRLを平滑化するためのローパスフィルタが不要となり、余計なポールを削除でき、帯域を拡張できる。
【0028】
本開示は、図1のブロック図や回路図として把握され、あるいは上述の説明から導かれるさまざまな装置、方法に及ぶものであり、特定の構成に限定されるものではない。以下、本開示の範囲を狭めるためではなく、本開示や本発明の本質や動作の理解を助け、またそれらを明確化するために、より具体的な構成例や実施例を説明する。
【0029】
図2は、実施例1に係るPLL回路100Aの回路図である。可変遅延インバータ114は、インバータ112_jと、その出力と接続された可変容量(バラクタ)113を含む。可変容量113の容量は、フィードバック回路120から供給される制御電圧VCTRLに応じて制御可能である。その他のインバータ112_i(i≠j)の出力には、図示しない固定容量を接続してもよい。
【0030】
フィードバック回路120は、シングルサンプラーベースのサブサンプリング位相検出器(SSPD:Sub-Sampling Phase Detector)のアーキテクチャで構成される。フィードバック回路120は、パルス発生器122、スロープ発生器124、サンプルホールド回路126を含む。
【0031】
パルス発生器122は基準クロックCKREFを受け、基準クロックCKREFと同期したタイミング信号φを生成する。タイミング信号φは、可変遅延インバータ114に対する制御電圧VCTRLを更新するタイミングを規定する。
【0032】
スロープ発生器124は、PLL回路100Aの出力クロック(フィードバッククロック)CKOUTのエッジをトリガーとして遷移を開始するスロープ電圧VSLOPEを生成する。このスロープ電圧VSLOPEの電圧レベルは、出力クロックCKOUTのエッジを始点とする経過時間を表している。サンプルホールド回路126は、スイッチSW1およびキャパシタC1を含む。スイッチSW1は、タイミング信号φ1に応じてオンとなり、そのときのスロープ電圧VSLOPEが、制御電圧VCTRLとして取り込まれ、制御電圧VCTRLが更新される。取り込まれた制御電圧VCTRLは、出力クロックCKOUTと基準クロックCKREFの位相差を表す。
【0033】
以上がPLL回路100Aの構成である。
【0034】
図3は、図2のPLL回路100Aの動作波形図である。図3には、上から順に、n番目のインバータ112の出力の電圧V(出力クロックCKOUT)、n番目のインバータ112におけるインパルス感度関数ISF、出力ノードOUTの電圧V、スロープ電圧VSLOPE、タイミング信号φ、制御電圧VCTRLが示される。
【0035】
時刻t~tの間、タイミング信号φがアサート(ハイ)され、サンプルホールド回路126のスイッチSW1がオンとなり、サンプルホールド回路126は入力と出力が等しいトラッキング状態となる。期間t~tは、インパルス感度関数ISFがゼロであるゼロISF領域と一致している。時刻tに、出力ノードOUTの電圧Vxが遷移すると、それをトリガとしてスロープ電圧VSLOPEが上昇し始める。時刻t~tの間は、制御電圧VCTRLは、スロープ電圧VSLOPEと等しい。
【0036】
時刻tにタイミング信号φ1がネゲート(ロー)される時刻tにおいて、スイッチSW1がオフとなり、それ以降の制御電圧VCTRLの電圧レベルは、時刻tにおけるスロープ電圧VSLOPEの電圧レベルに固定される。
【0037】
以上がPLL回路100Aの動作である。
【0038】
このPLL回路100Aでは、シングルサンプラーベースのサブサンプリング位相検出器を利用することで、広いループ帯域幅(BW)と、低い基準スプリアスを実現できる。
【0039】
PLL回路100Aの利点は、比較技術との対比によって明確となる。
【0040】
図4は、比較技術に係るPLL回路200の回路図である。PLL回路200は、マスター-スレーブ型の位相検出器(MSSPD)をベースとするアーキテクチャで構成され、VCO210、分周器・スロープ発生器220、タイミング発生器230、マスタースレーブ型のサンプルホールド回路240、ローパスフィルタ250を備える。
【0041】
VCO210は、制御電圧VCTRLに応じた周波数fOUTで発振する。分周器・スロープ発生器220は、VCO210の出力クロックCKOUTを分周し、スロープ電圧VSLOPEを発生する。タイミング発生器230は、基準クロックCKREFと同期して、ノンオーバーラップのタイミング信号φ,φを生成する。サンプルホールド回路240は、第1タイミング信号φに応答して、スロープ電圧VSLOPEをサンプリングし、第2タイミング信号φに応答して、前段の電圧をサンプリングする。
【0042】
サンプルホールド回路240の出力電圧は、ローパスフィルタ250によって平滑化され、VCO210に制御電圧VCTRLとして供給される。
【0043】
図4のPLL回路200では、ローパスフィルタ250によって、余計なポールが導入される。またループ内に、大きな遅延ΔTが含まれている。これらによって、ループ帯域が制限され、位相ノイズがピークを持つ。
【0044】
これに対して実施形態に係るPLL回路100Aでは、シングルステージのサンプルホールド回路126を利用しており、さらにローパスフィルタが不要であるため、余計なポールが存在しない。さらに分周器が不要であるため、ループ遅延を大きく削減できる。これらによって、ループ帯域を比較技術に比べて広げることができ、位相ノイズのピークを低減できる。
【0045】
図5は、実施形態と比較技術それぞれの位相雑音を示す図である。実施形態によれば、比較技術に比べて、位相雑音のピークを抑制できていることが分かる。
【0046】
図6は、実施形態と比較技術それぞれのジッタを示す図である。実施形態によれば、比較技術に比べて、ジッターも抑制できていることが分かる。
【0047】
図7は、実施例2に係るPLL回路100Bの回路図である。PLL回路100Bのフィードバック回路120Bは、比例パスであるサンプルホールド回路126に加えて、積分パス128およびダミーサンプラー130を備える。
【0048】
積分パス128は、スイッチSW2,SW3、キャパシタC2,C3,C4、gmアンプ(トランスコンダクタンスアンプ)129を含む。スイッチSW2は、タイミング信号φに応じて制御され、スイッチSW3は、タイミング信号φと逆相の反転タイミング信号φに応じて制御される。
【0049】
リングオシレータ110Bの発振周波数は、比例パスであるサンプルホールド回路126の出力VCTRL,P1と、積分パス128の出力VCTRL,I1によって制御可能となっている。
【0050】
図8は、リングオシレータ110Bの構成例を示す回路図である。リングオシレータ110Bは、複数の差動インバータ112Bで構成される。差動インバータ112Bは、4個のインバータを含む疑似差動クロスカップルドインバータである。ここではn=31である。
【0051】
n=31番目の差動インバータ112B_31の出力に、可変容量113Bが接続される。可変容量113Bは、4個のキャパシタCv1~Cv4を含む。キャパシタCv1,Cv2の制御ノードには、制御電圧VCTRL,P1が入力され、キャパシタCv3,Cv4の制御ノードには、制御電圧VCTRL,I1が入力される。
【0052】
最終段以外の差動インバータ112B_1~112B_30の出力には、コンデンサバンクが接続されており、周波数を粗く調整できるようになっている。
【0053】
図9は、図8のリングオシレータ110BのゼロISF領域を説明する図である。i番目のインバータの出力電圧をVと表記する。図8には、31番目~21番目までの出力電圧V31~V21が示される。ゼロISF領域は、V31の中央付近に位置している。21番目のインバータ112_21の出力電圧V21は、ゼロISF領域の終了直後に遷移する。したがって、j=21番目のインバータ112_21の出力を、出力クロック(フィードバッククロック)CKOUTを取り出す出力ノードOUTとして選ぶことができる。n=31とすると、j=21は、n/4<j<n×3/4を満たしている。
【0054】
図7のPLL回路100Bによれば、積分パス128を追加で組み込むことにより、リングオシレータ110Bのフリッカーノイズをさらに抑制することができ、サブサンプリング位相検出器の線形領域にロックすることが可能となる。
【0055】
続いてPLL回路100の用途を説明する。
【0056】
実施形態に係るPLL回路100は、0.5GHz~5GHzの範囲、より好ましくは0.5GHz~2GHz程度の周波数fOUTを持つ低位相雑音のクロック信号CKOUTの生成に適している。これは、PLL回路100の発振周波数が高くなるにしたがってゼロISF領域が狭くなり、複雑で高速なフィードバック回路が必要となるためであり、出力クロックCKOUTの周波数fOUTが0.5GHz~5GHz程度であれば、フィードバック回路の複雑化を抑えつつ、低雑音のクロック信号を生成できるからである。
【0057】
10GHzを超えるようなクロック信号を生成したい場合には、カスケードPLL回路を用いることができる。
【0058】
図10は、PLL回路100を備えるカスケードPLL回路300のブロック図である。カスケードPLL300は、カスケードに接続される第1PLL回路310および第2PLL回路320を備える。前段の第1PLL回路310には、上述のPLL回路100のアーキテクチャが適用でき、第1PLL回路310によって、f=0.5~2GHz程度の低雑音のクロック信号CK1を生成することができる。そして、後段の第2PLL回路320は、第1PLL回路310が生成したクロック信号CK1を逓倍し、10GHzあるいはそれより高い周波数fのクロック信号CK2を生成する。
【0059】
(変形例)
上述した実施形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なことが当業者に理解される。以下、こうした変形例について説明する。
【0060】
(変形例1)
実施例では、フィードバック回路120をシングルサンプラーベースのSSPDで構成したが、本開示はそれに限定されない。たとえば、フリップフロップやXOR等の論理ゲートを用いたPFD(Phase Frequency Detector)を用いてフィードバック回路120を構成してもよい。
【0061】
(変形例2)
実施形態では、可変遅延インバータ114の個数が1個であったが、本開示はそれに限定されず、nが大きい場合には、隣接する2個、あるいは3個のインバータ112を、可変遅延インバータ114としてもよい。
【0062】
(変形例3)
可変遅延インバータ114の構成は、インバータと可変容量の組み合わせに限定されない。たとえばインバータのバイアス電流を制御電圧VCTRLに応じて制御可能とすることで、可変遅延インバータ114を構成できる。あるいは固定遅延のインバータと可変遅延素子の直列接続回路を構成し、可変遅延素子の遅延量を制御電圧VCTRLに応じて制御可能としてもよい。
【0063】
本開示に係る実施形態について、具体的な用語を用いて説明したが、この説明は、理解を助けるための例示に過ぎず、本開示あるいは請求の範囲を限定するものではない。本発明の範囲は、請求の範囲によって規定されるものであり、したがって、ここでは説明しない実施形態、実施例、変形例も、本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0064】
100 PLL回路
110 リングオシレータ
112 インバータ
113 可変容量
114 可変遅延インバータ
120 フィードバック回路
122 パルス発生器
124 スロープ発生器
126 サンプルホールド回路
128 積分パス
130 ダミーサンプラー
300 カスケードPLL回路
310 第1PLL回路
320 第2PLL回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10