(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104237
(43)【公開日】2024-08-02
(54)【発明の名称】細菌の検出方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/04 20060101AFI20240726BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20240726BHJP
A23L 2/00 20060101ALI20240726BHJP
A23C 19/00 20060101ALN20240726BHJP
【FI】
C12Q1/04
A23L5/00 Z
A23L2/00 B
A23C19/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008373
(22)【出願日】2023-01-23
(71)【出願人】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】細澤 幸輔
(72)【発明者】
【氏名】大西 薫
(72)【発明者】
【氏名】黒木 杏理
【テーマコード(参考)】
4B001
4B035
4B063
4B117
【Fターム(参考)】
4B001BC99
4B001EC01
4B035LC01
4B035LP59
4B063QA18
4B117LC03
4B117LP20
(57)【要約】
【課題】飲食品において、風味劣化を起こすグラム陰性菌を検出する新たな手法を提供する。
【解決手段】以下の工程(1)および(2)のうち少なくとも一つを含んでなる、飲食品におけるグラム陰性菌の検出方法を提供する:
(1)上記飲食品またはその培養物に界面活性剤を添加してなる測定試料を用いてATP法によりグラム陰性菌を検出する工程、
(2)スキムミルクおよびデオキシコール酸塩を含有する培地で上記飲食品由来試料を培養してグラム陰性菌を検出する工程。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程(1)および(2)のうち少なくとも一つを含んでなる、飲食品におけるグラム陰性菌の検出方法:
(1)前記飲食品またはその培養物に界面活性剤を添加してなる測定試料を用いてATP法によりグラム陰性菌を検出する工程、
(2)スキムミルクおよびデオキシコール酸塩を含有する培地で飲食品由来試料を培養してグラム陰性菌を検出する工程。
【請求項2】
前記グラム陰性菌が苦味発生菌である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記飲食品がグラム陽性菌を含有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記飲食品が、チーズ、ヨーグルト、牛乳およびアイスクリームからなる群から選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記飲食品が、モッツアレラチーズ、マスカルポーネチーズまたはクリームチーズである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
工程(1)の測定試料が、前記飲食品を保管または培養した後、前記界面活性剤を添加することにより得られるものである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項7】
工程(1)における界面活性剤が、ラウリル硫酸塩またはデオキシコール酸塩である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項8】
工程(1)における界面活性剤の終濃度が前記グラム陰性菌を溶菌しない範囲である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項9】
工程(1)における界面活性剤の終濃度が前記グラム陽性菌を溶菌する範囲である、請求項3に記載の方法。
【請求項10】
工程(1)における界面活性剤の終濃度が、測定試料全量に対して0.025~0.5質量%である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項11】
工程(2)におけるスキムミルクの含有量が、前記培地全量に対して1~4質量%である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項12】
工程(2)におけるデオキシコール酸塩の含有量が、前記培地全量に対して0.05~0.5質量%である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項13】
工程(1)の測定試料が、前記飲食品を保管または培養した後、前記界面活性剤を添加することにより得られるものであり、
工程(2)の飲食品由来試料が、前記飲食品を保管または培養した後のものである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項14】
以下の工程(1)および(2)のうち少なくとも一つを含んでなる、苦味の発生が抑制された飲食品の製造方法:
(1)前記飲食品またはその培養物に界面活性剤を添加してなる測定試料を用いてATP法によりグラム陰性菌を検出する工程、
(2)スキムミルクおよびデオキシコール酸塩を含有する培地で飲食品由来試料を培養してグラム陰性菌を検出する工程。
【請求項15】
以下の工程(1)および(2)のうち少なくとも一つを含んでなる、飲食品における苦味の発生を抑制する方法:
(1)前記飲食品またはその培養物に界面活性剤を添加してなる測定試料を用いてATP法によりグラム陰性菌を検出する工程、
(2)スキムミルクおよびデオキシコール酸塩を含有する培地で飲食品由来試料を培養してグラム陰性菌を検出する工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細菌の検出方法に関する。より詳細には、本発明は飲食品におけるグラム陰性菌の選択的な検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の食品中において、製品の出荷前に汚染微生物の有無、特に大腸菌群をはじめとするグラム陰性菌の有無を確認することは非常に重要である。乳および乳製品の成分規格等に関する省令(乳等省令)では、牛乳および乳製品の成分規格が定められており、牛乳および乳製品中の大腸菌群は、陰性であることが定められている。大腸菌群の検出法として、例えばデソキシコーレイト寒天培地法による推定試験(DOA法)などが知られているが、DOA法は判定を得るまでに20時間程度を要する。
【0003】
飲食品の早期出荷のため、DOA法よりも迅速で高感度の大腸菌群の検出法が検討されている。例えば、特許文献1(特開平7-213297号公報)には、ろ過膜を用いて測定試料を濃縮して生菌を捕捉し、デオキシコール酸ナトリウムなどが配合された培地で培養後、ATP(アデノシン三リン酸)を測定することを特徴とする、大腸菌群の検出法が開示されている。このようなATP法は、微生物をはじめとする生物細胞中に存在するATPを、ルシフェラーゼを用いた発光反応により検出する方法であり、試料中の微生物を感度良く検出や定量することができる。
【0004】
また、特許文献2(特許第6712126号公報)には、発酵微生物の生育を抑制する物質を添加した培地としてデオキシコール酸ナトリウム添加LST培地を用いて、あらかじめ測定試料を培養し、その後に、検出対象の大腸菌群の迅速検出法としてATP法を実施し、大腸菌群測定の公定法であるデソキシコーレイト寒天培地法と比較して、検出の所要時間が40%以上50%以下に短縮されることを特徴とする、発酵食品中の大腸菌群の検出法が開示されている。
【0005】
一方で、大腸菌群以外のグラム陰性菌についても食品衛生上許容できないことから、食品汚染を検査するために種々の検討がなされている。例えば、非特許文献1(日本食品保蔵科学会誌VOL.25 NO.51999 P.239-P.244)では、Nutrient Skimmilk Agar培地(スキムミルク8%添加培地)を用いてシュードモナス属(Pseudomonas)のタンパク質分解能を調査している。
【0006】
しかしながら、飲食品において風味劣化を生じるグラム陰性菌を迅速に検出する方法は本発明者らの知る限り何ら報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7-213297号公報
【特許文献2】特許第6712126号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】日本食品保蔵科学会誌VOL.25 NO.51999 P.239-P.244
【発明の概要】
【0009】
このような技術状況下、本発明者らは検討を行ったところ、風味劣化を起こすグラム陰性菌が飲食品に微量(製品当たり10個未満程度)でも含まれると賞味期限(例えば、10℃43日)内に風味劣化を起こす場合があるにもかかわらず、風味劣化を起こすグラム陰性菌を選択的に検出することは困難であることが明らかとなった。そこで、本発明者らは、さらに鋭意検討した結果、飲食品に特定の処理を行うと、乳酸菌等をはじめとするグラム陽性菌が共存するにもかかわらず、グラム陰性菌を高感度で検出しうることを見出した。本発明はかかる知見に基づくものである。
【0010】
したがって、本発明は、飲食品において、風味劣化を起こすグラム陰性菌を検出することを一つの目的としている。
【0011】
本発明の一実施態様によれば、以下の工程(1)および(2)のうち少なくとも一つを含んでなる、飲食品におけるグラム陰性菌の検出方法が提供される:
(1)上記飲食品またはその培養物に界面活性剤を添加してなる測定試料を用いてATP法によりグラム陰性菌を検出する工程、
(2)スキムミルクおよびデオキシコール酸塩を含有する培地で上記飲食品由来試料を培養してグラム陰性菌を検出する工程。
【0012】
本発明の別の実施態様によれば、以下の工程(1)および(2)のうち少なくとも一つを含んでなる、苦味の発生が抑制された飲食品の製造方法が提供される:
(1)上記飲食品またはその培養物に界面活性剤を添加してなる測定試料を用いてATP法によりグラム陰性菌を検出する工程、
(2)スキムミルクおよびデオキシコール酸塩を含有する培地で上記飲食品由来試料を培養してグラム陰性菌を検出する工程。
【0013】
本発明のさらに別の実施態様によれば、以下の工程(1)および(2)のうち少なくとも一つを含んでなる、飲食品における苦味の発生を抑制する方法が提供される:
(1)上記飲食品またはその培養物に界面活性剤を添加してなる測定試料を用いてATP法によりグラム陰性菌を検出する工程、
(2)スキムミルクおよびデオキシコール酸塩を含有する培地で上記飲食品由来試料を培養してグラム陰性菌を検出する工程。
【0014】
本発明によれば、飲食品において、風味劣化を起こすグラム陰性菌を迅速に検出することができる。本発明は、飲食品が微量のグラム陰性菌に汚染された際、グラム陰性菌の汚染を高感度で判別し、かつその汚染菌が冷蔵下で食品の風味劣化を引き起こす菌であるか否か判定する上で有利に利用することができる。本発明においては、ATP法を実施する際、乳酸菌等のグラム陽性菌存在下でもグラム陰性菌を特異的に検出可能であることから、乳酸菌生菌含有商品(チーズやヨーグルト、アイスクリームなど)において特に有利に利用することができる。本発明は、微量のグラム陰性菌汚染により風味劣化を引き起こす可能性がある食品全般に適用可能であることから、微生物汚染による食品廃棄を防止する上でも有利である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】試験例3において、スキムミルク添加DOA培地(スキムミルク添加デソキシコーレイト寒天培地)に菌液を直線状に塗抹し、25℃24時間静置培養後の模式図である。測定試料の塗抹箇所の周囲で透明化している領域(以下、「透明帯」ともいう。)は、苦味を発生させる菌によるものである。2,4,6に透明帯が確認できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施態様によれば、飲食品におけるグラム陰性菌の検出方法は、以下の工程(1)および(2)のうち少なくとも一つを含んでなる:
(1)上記飲食品またはその培養物に界面活性剤を添加してなる測定試料を用いてATP法によりグラム陰性菌を検出する工程、
(2)スキムミルクおよびデオキシコール酸塩を含有する培地で上記飲食品由来試料を培養してグラム陰性菌を検出する工程。
以下、工程(1)および工程(2)を順に説明する。
【0017】
工程(1)
本発明の一実施態様によれば、工程(1)において、飲食品またはその培養物に界面活性剤を添加してなる測定試料を用いてATP法によりグラム陰性菌を検出する。
【0018】
本発明の一実施態様によれば、測定試料は、飲食品をそのまま測定試料としてもよいが、グラム陰性菌を増殖させて高感度で検出する観点から、飲食品を一定期間保管したサンプル、または、飲食品の一部または全部を培地で培養して得られる培養物を測定試料とすることが好ましい。ここで保管とは、未開封の最終製品(商品)を一定の温度条件で、静置または振盪させながら一定期間保存することをいう。
【0019】
工程(1)において、上記保管または培養温度は、本発明の効果が得られる範囲で任意に設定できるが、例えば、20~40℃であり、好ましくは25~37℃である。かかる培養温度で検査を実施することは、飲食品中に微量に含まれている低温保管中に苦味を発生させる菌株を検出する上で有利である。
【0020】
また、工程(1)において、上記保管または培養時間は、本発明の効果が得られる範囲で任意に設定できるが、例えば、18~72時間であり、好ましくは24~48時間である。かかる時間内で培養を実施することは、迅速なグラム陰性菌の検出の観点から好ましい
【0021】
また、飲食品の培養に使用する培地としては、グラム陰性菌の増殖に使用しうる限り特に限定されないが、例えば、トリプチケースソイ培地(TSB培地)、LB培地、SOC培地等が挙げられる。これらの培地を用いることで、食品中の製造直後は損傷を受けて増殖できないが、保存中に回復して増殖し得る菌(損傷菌)を高感度で検出することができる。
【0022】
本発明によれば、グラム陰性菌が微量であっても、上記保管または培養を行うことで、グラム陰性菌を高感度で検出することができる。上記飲食品中のグラム陰性菌は、飲食品中に1個以上含まれていれば特に限定されないが、例えば、上記飲食品に対して、0.01cfu/g以上、好ましくは0.05cfu/g以上、より一層好ましくは1cfu/g以上とされる。また、上記飲食品中のグラム陰性菌の上限は、特に限定されないが、例えば、上記飲食品に対して、1.0×104cfu/g以下である。
上記保管または培養をして得られる培養物を測定試料とする場合、ATP法によりグラム陰性菌を検出できれば特に限定されないが、例えば、上記培養物に対して、1.0×104cfu/g以上、好ましくは1.0×105cfu/g以上、より好ましくは、1.0×106cfu/g以上とされる。また、上記培養物中のグラム陰性菌の上限は、特に限定されないが、例えば、上記培養物に対して、1.0×1010cfu/g以下である。
【0023】
本発明の一実施態様によれば、グラム陰性菌は、球菌(cocci)、非腸内桿菌(nonenteric rod)および腸内桿菌(enteric rod)を含む。グラム陰性菌としては、例えば、セラチア属菌(Serratia)、シュードモナス属菌(Pseudomonas)、パントエア属菌(Pantoea)、クレブシエラ属菌(Klebsiella)、アクロモバクター属菌(Achromobacter)、ステノトロフォモナス属菌(Stenotrophomonas)、エンテロバクター属菌(Enterobacter)やアシネトバクター属菌(Acinetobacter)等が挙げられるが、好ましくは、クレブシエラ オキシトカ(Klebsiella oxytoca)、シュードモナス・アエルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、シュードモナス・プロテゲンス(Pseudomonas protegens)、シュードモナス・アルカリゲネス(Pseudomonas alcaligenes)、シュードモナス・シュードアルカリゲネス(Pseudomonas pseudoalcaligenes)、コマモナス・テストステロニ(Comamonas testosteroni)、アクロモバクター・キシロソキシダンス(Achromobacter xylosoxidans)、ステノトロフォモナス・マルトフィリア(Stenotrophomonas maltophilia)等が挙げられる。
【0024】
また、本発明は、苦味を発生するグラム陰性菌を高感度で検出する上で有利に利用することができる。したがって、本発明の一実施態様によれば、上記グラム陰性菌は、苦味を発生するグラム陰性菌(以下、「苦味発生菌」ともいう。)である。一実施態様によれば、苦味発生菌は、プロテアーゼによりタンパク質を分解し苦味を発生させるグラム陰性菌とされる。苦味発生菌の好適な例としては、シュードモナス属菌(シュードモナス・フルオレッセンス、シュードモナス・プチダ、シュードモナス・プロテゲンス等)、ステノトロフォモナス属菌等が挙げられる。
【0025】
また、本発明の一実施態様によれば、上述のとおり、乳酸菌等のグラム陽性菌の共存下であっても、グラム陰性菌を高感度で検出することが可能である。したがって、本発明の好ましい実施態様によれば、飲食品およびそれに由来する測定試料は、乳酸菌を含んでなるものである。
【0026】
測定試料が乳酸菌等を含む場合、上記測定試料中の乳酸菌等の濃度は、特に限定されないが、乳酸菌等のグラム陽性菌を検出せずにグラム陰性菌を検出する観点から、例えば、測定試料に対して、1.0×108cfu/g以下、好ましくは5.0×107cfu/g以下、より一層好ましくは1.0×107cfu/g以下とされる。
【0027】
本発明の好ましい乳酸菌としては、特に限定されないが、ラクトバチルス属菌(Lactobacillus)、ストレプトコッカス属菌(Streptococcus)、ラクトコッカス属菌(Lactococcus)、エンテロコッカス属菌(Enterococcus)、ロイコノストック属菌(Leuconostoc)、ビフィドバクテリウム属菌(Bifidobacterium)、プロピオニバクテリウム属菌(Propionibacterium)およびそれらの組み合わせが挙げられるが、チーズに含まれる乳酸菌が好ましく、ストレプトコッカス属菌を含む乳酸菌がより好ましい。ストレプトコッカス属菌を含む乳酸菌としては、例えば、ストレプトコッカス属菌、ストレプトコッカス属菌とラクトバチルス属菌との組み合わせ、またはストレプトコッカス属菌とラクトコッカス属菌との組み合わせ等が挙げられる。
【0028】
ストレプトコッカス属菌としては、例えば、ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)、ストレプトコッカス・ラクチス(Streptococcus lactis)、スレプトコッカス・クレモリス(Streptococcus cremoris)、ストレプトコッカス・ダイアセチラクチス(Streptococcus diacetylactis)、ストレプトコッカス・デュランス(Streptococcus durance)、ストレプトコッカス・フェカリス(Streptococcus faecalis)、ストレプトコッカス・シトロボラス(Streptococcus citrovorus)、ストレプトコッカス・パラシトロボラス(Streptococcus paracitrovorus)等が挙げられる。
【0029】
ラクトバチルス属菌としては、例えば、ラクトバチルス・デルブルッキー(Lactobacillus delbrueckii)、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバチルス・ラムノーサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)、ラクトバチルス・サリバリウス(Lactobacillus salivarius)、ラクトバチルス・ペントサス(Lactobacillus pentosus)、ラクトバチルス・ケフィラノファシエンス(Lactobacillus kefiranofaciens)、ラクトバチルス・ヘルベティクス(Lactobacillus helveticus)、ラクトバチルス・ジョンソニ(Lactobacillus johnsonii)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)、ラクトバチルス・アミロボラス(Lactobacillus amylovorous)、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、およびラクトバチルス・サケイ(Lactobacillus sakei)等が挙げられる。好ましいラクトバチルス属菌は、ラクトバチルス・デルブルッキー、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・ガセリ、ラクトバチルス・ラムノーサス、ラクトバチルス・ロイテリ、ラクトバチルス・サリバリウス、ラクトバチルス・ペントサス等である。
【0030】
また、本発明の一実施態様によれば、工程(1)において、上記飲食品を保管または培養後、界面活性剤を添加する。界面活性剤を飲食品またはその保管物もしくは培養物に添加することは、グラム陰性菌を溶菌させずに乳酸菌等のグラム陽性菌を溶菌させてATP法により高感度でグラム陰性菌を検出する上で好ましい。
【0031】
界面活性剤としては、例えば、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン界面活性剤が挙げられるが、グラム陽性菌を選択的に溶菌する観点から、好ましくは陽イオン性界面活性剤(炭素数16以上)、陰イオン性界面活性剤またはノニオン界面活性剤であり、より好ましくはラウリル硫酸塩(ラウリル硫酸ナトリウム等)、デオキシコール酸塩(デオキシコール酸ナトリウム等)等である。
【0032】
界面活性剤の終濃度は、グラム陰性菌の検出感度の向上の観点から、グラム陰性菌を溶菌せずに、検出ノイズとなる乳酸菌等のグラム陽性菌を溶菌できるように調整することが好ましい。したがって、本発明の一実施態様によれば、工程(1)における界面活性剤の終濃度はグラム陰性菌を溶菌しない範囲である。本発明の一実施態様によれば、工程(1)における界面活性剤の終濃度はグラム陽性菌を溶菌する範囲である。なお、終濃度とは、混合の際の濃度である。したがって、終濃度は、混合により生成する混合液中の濃度としても表現できる。界面活性剤の終濃度としては、例えば、測定試料全量に対して0.025~0.5質量%、好ましくは0.025~0.2質量%、より好ましくは0.05~0.2質量%、より一層好ましくは0.05~0.1質量%とされる。
【0033】
本発明の検出法では、飲食品を上記条件で保管または培養した後に測定試料として用い、検出対象の微生物を検出するための迅速検出法としてATP法を好適に実施する。ATP法は、微生物をはじめとする生物細胞中に存在するATPを、ルシフェラーゼを用いた発光反応により検出する方法である。この発光量を相対発光量(Relative Light Unit;RLU)として定量することも可能であり、試料中の微生物を感度よく検出や定量することができる。ただし、一般に、試料が食品の場合は、食品中の植物や動物細胞などに由来するATPが、バックグラウンドとして検出され、検出感度が低下する。食品中の微生物由来ATPを測定するため、例えば「ルシフェール(登録商標)AT」(キッコーマン株式会社)などの測定キットや、「MLSII」(スリーエムジャパン株式会社)などの自動ATP測定システムが知られている。これらは、試料の測定時において、菌体外のATPを消去してから測定する工程を備えており、測定時のバックグラウンドを抑え、高感度で測定できる。ただし、これらは試料中に存在するグラム陽性菌およびグラム陰性菌の両者のATPを検出するものであり、特異性の面で不十分であった。
【0034】
一方で、工程(1)では、測定試料に含まれるグラム陽性菌(乳酸菌等)を大幅に溶菌させつつ、測定試料中に存在するグラム陰性菌の溶菌は防ぐことができる。すなわち、工程(1)では、ATP法での測定に影響を及ぼす微生物を溶菌させながら、検出対象のグラム陰性菌には実質的に影響を及ぼさず、グラム陰性菌に由来するATPのみを測定することができ、特異的な高感度の検出が可能となると考えられる。
【0035】
本発明の一実施態様によれば、工程(1)は、例えば、飲食品を保管または培養したものを測定試料とする場合の検出の所要時間は、通常18~72時間、好ましくは24~48時間である。飲食品をそのまま測定試料とする場合の検出の所要時間は 、通常10~30分、好ましくは15~20分である。
【0036】
工程(2)
本発明の一実施態様によれば、工程(2)において、スキムミルクおよびデオキシコール酸塩を含有する培地で飲食品由来試料を培養してグラム陰性菌を検出する。スキムミルクおよびデオキシコール酸塩を含有する培地において、特に苦味を発生するグラム陰性菌を高感度にて選択的に検出することができることは意外な事実である。
【0037】
本発明の一実施態様によれば、工程(2)において、上記培養後、測定試料の塗抹箇所の周囲で透明化している領域、すなわち、透明帯が生じる場合には、苦味を発生させるグラム陰性菌が存在すると判定することができる。理論に拘束されるものではないが、工程(2)では、スキムミルク中のカゼインがグラム陰性菌由来のプロテアーゼによって分解されることによって透明帯が生じるものと考えられる。苦味の発生は、グラム陰性菌が産生するプロテアーゼによって飲食品中のタンパク質が分解されて生じる可能性があるためである。
【0038】
工程(2)の方法において、培地に添加するスキムミルクの濃度は、目的のグラム陰性菌の性質や検出感度等に応じて適宜決定してよいが、スキムミルクの濃度が5%を越えると菌種によっては透明帯が確認しづらくなる場合があり、苦味発生菌が透明帯を作る時間も余計にかかる。したがって、スキムミルクの濃度は、所定の範囲に調整することが好ましく、培地全量に対して、例えば、1~4質量%、好ましくは1.5~3.5質量%、より好ましくは2~3質量%とされる。
【0039】
工程(2)の方法において、培地に添加するデオキシコール酸塩の濃度は、培地全量に対して、例えば、0.05~0.5質量%、好ましくは0.1~0.5質量%、より好ましくは0.1~0.25質量%とされる。
【0040】
工程(2)は、大腸菌群の検出の公定法であるデソキシコーレイト寒天培地法(DOA法)に準じて実施することができる。本発明の一実施態様によれば、工程(2)おいては、スキムミルクおよびデオキシコール酸塩を添加した寒天培地を作成し、φ90mmのシャーレに約12~20ml程度分注して固化させ、表面乾燥させる。ここで、培地の量が多すぎると苦味発生菌が透明帯を作る時間を要する場合があり、少なすぎると培養中に寒天が乾燥しひびが入りやすくなる場合があるため、培地の量は約15~18ml程度が好適である。さらに、本発明の一実施態様によれば、スキムミルクおよびデオキシコール酸塩を添加した培地平板に測定試料を塗抹し、静置培養する。
【0041】
工程(2)において、上記飲食品由来試料は、飲食品をそのまま測定試料として使用してもよく、あるいは、保管した後の測定試料または培養した後の測定試料を使用してもよく、水等で希釈して使用してもよい。飲食品を希釈して使用する場合には、希釈倍率は、後述する乳酸菌をはじめとするグラム陽性菌の濃度を勘案して決定することができる。工程(2)において、測定試料として使用される上記試飲食品由来試料の量は、例えば、0.02~20μLとしてもよい。
【0042】
工程(2)において、上測定試料が乳酸菌を含む場合、上記測定試料中の乳酸菌の濃度は、例えば、1.0×108cfu/g以下であり、好ましくは5.0×107cfu/g以下であり、より一層好ましくは1.0×107cfu/g以下である。
【0043】
また、工程(2)において、上記測定試料中にグラム陰性菌が存在する場合、グラム陰性菌の濃度は、特に限定されないが、例えば、1.0×104cfu/g以上であり、好ましくは1.0×105cfu/g以上であり、より一層好ましくは1.0×106cfu/g以上である。
【0044】
また、工程(2)において、例えば、培養温度は20~30℃であり、好ましくは23~27℃である。かかる培養温度で検査を実施することは、飲食品中に微量で含まれて低温保管中に苦味を発生させる菌株を検出する上で有利である。
【0045】
また、本発明の一実施態様によれば、工程(2)は、例えば、培養時間は20~48時間であり、好ましくは24~30時間である。かかる時間内で培養を実施することは、迅速に苦味を発生させるグラム陰性菌を検出する観点から好ましい。
【0046】
また、本発明の一実施態様によれば、工程(2)において、上記培養完了後、目視にて透明帯の有無を確認することにより、苦味を発生させるグラム陰性菌を検出することができる。また、CCDカメラ等でデジタル画像を取得し、当該デジタル画像を画像処理して透明帯の有無を判別してもよく、本発明にはかかる態様も包含される。
【0047】
本発明の一実施態様によれば、工程(1)および工程(2)のいずれか一方を実施する。また、本発明の好ましい実施態様によれば、工程(1)および工程(2)の両者を組み合わせて実施する。工程(1)および工程(2)の両者を組合せて実施することは、苦味を発生させるグラム陰性菌を迅速かつ高感度で検出する上で特に有利である。工程(1)および工程(2)は同時に実施してもよく、順次実施してもよく、本発明にはかかる態様も包含される。本発明の好ましい実施態様によれば、工程(1)および工程(2)は順次実施する。工程(1)はグラム陰性菌の有無を迅速に判断し出荷判定を行う上で有利であり、工程(2)は工程(1)でグラム陰性菌を含むと判定された製品を対象とし、苦味を発生させるグラム陰性菌のみを高感度に検出する上で有利である。
【0048】
飲食品
本発明の一実施態様によれば、上述のとおり、微量のグラム陰性菌で汚染されている飲食品においても高感度な検出が可能となる。本発明の飲食品中のグラム陰性菌の菌数は、特に限定されないが、例えば、製品検査試料中に1個、又は、数個、数十個のグラム陰性菌であってもよい。
【0049】
また、本発明の一実施態様によれば、飲食品は乳酸菌を含んでなり、好ましくは乳性飲食品とされる。本発明の飲食品が乳酸菌を含む場合、上記飲食品中の乳酸菌の濃度は、特に限定されないが、例えば、1.0×108cfu/g以下であり、好ましくは5.0×107cfu/g以下であり、より一層好ましくは1.0×107cfu/g以下である。
【0050】
本発明の好ましい実施態様によれば、飲食品は、乳酸菌の代謝活動により、食品中に存在する有機物などの成分や性状が変化した発酵食品であってもよく、例えば、ヨーグルト、ドリンクヨーグルト、乳酸菌飲料、チーズ、発酵バターなどが挙げられるが、好ましくはナチュラルチーズ(モッツアレラチーズ、マスカルポーネチーズ、クリームチーズ等)等であり、より好ましくはモッツアレラチーズ、マスカルポーネチーズまたはクリームチーズである。
【0051】
また、本発明の別の実施態様によれば、以下の工程(1)および(2)のうち少なくとも一つを含んでなる、苦味の発生が抑制された飲食品の製造方法が提供される:
(1)上記飲食品またはその培養物に界面活性剤を添加してなる測定試料を用いてATP法によりグラム陰性菌を検出する工程、
(2)スキムミルクおよびデオキシコール酸塩を含有する培地で上記飲食品由来試料を培養してグラム陰性菌を検出する工程。
【0052】
本発明の別の実施態様によれば、以下の工程(1)および(2)のうち少なくとも一つを含んでなる、飲食品における苦味の発生を抑制する方法が提供される:
(1)上記飲食品またはその培養物に界面活性剤を添加してなる測定試料を用いてATP法によりグラム陰性菌を検出する工程、
(2)スキムミルクおよびデオキシコール酸塩を含有する培地で上記飲食品由来試料を培養してグラム陰性菌を検出する工程。
【0053】
本発明の苦味の発生が抑制された飲食品の製造方法および苦味の発生を抑制する方法は、本発明の飲食品におけるグラム陰性菌の検出方法に準じて当業者は実施することができる。なお、飲食品において苦味の発生が抑制されているか否かは、本発明の実施例に記載の官能試験に準じて確認することができる。
【0054】
また、本発明の一実施態様によれば、以下[1]~[15]が提供される。
[1]以下の工程(1)および(2)のうち少なくとも一つを含んでなる、飲食品におけるグラム陰性菌の検出方法:
(1)上記飲食品またはその培養物に界面活性剤を添加してなる測定試料を用いてATP法によりグラム陰性菌を検出する工程、
(2)スキムミルクおよびデオキシコール酸塩を含有する培地で上記飲食品由来試料を培養してグラム陰性菌を検出する工程。
[2]上記グラム陰性菌が苦味発生菌である、[1]に記載の方法。
[3]上記飲食品がグラム陽性菌を含有する、[1]または[2]に記載の方法。
[4]上記飲食品が、チーズ、ヨーグルト、牛乳およびアイスクリームからなる群から選択される、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]上記飲食品が、モッツアレラチーズ、マスカルポーネチーズまたはクリームチーズである、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]工程(1)の測定試料が、上記飲食品を保管または培養した後、上記界面活性剤を添加することにより得られるものである、[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7]工程(1)における界面活性剤が、ラウリル硫酸塩またはデオキシコール酸塩である、[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8]工程(1)における界面活性剤の終濃度が上記グラム陰性菌を溶菌しない範囲である、[1]~[7]のいずれかに記載の方法。
[9]工程(1)における界面活性剤の終濃度が上記グラム陽性菌を溶菌する範囲である、[3]~[8]のいずれかに記載の方法。
[10]工程(1)における界面活性剤の終濃度が、測定試料全量に対して0.025~0.5質量%である、[1]~[9]のいずれかに記載の方法。
[11]工程(2)におけるスキムミルクの含有量が、上記培地全量に対して1~4質量%である、[1]~[10]のいずれかに記載の方法。
[12]工程(2)におけるデオキシコール酸塩の含有量が、上記培地全量に対して0.05~0.5質量%である、[1]~[11]のいずれかに記載の方法。
[13]工程(1)の測定試料が、上記飲食品を保管または培養した後、上記界面活性剤を添加することにより得られるものであり、
工程(2)の飲食品由来試料が、上記飲食品を保管または培養した後のものである、[1]~[12]のいずれかに記載の方法。
[14]以下の工程(1)および(2)のうち少なくとも一つを含んでなる、苦味の発生が抑制された飲食品の製造方法:
(1)上記飲食品またはその培養物に界面活性剤を添加してなる測定試料を用いてATP法によりグラム陰性菌を検出する工程、
(2)スキムミルクおよびデオキシコール酸塩を含有する培地で上記飲食品由来試料を培養してグラム陰性菌を検出する工程。
[15]以下の工程(1)および(2)のうち少なくとも一つを含んでなる、飲食品における苦味の発生を抑制する方法:
(1)上記飲食品またはその培養物に界面活性剤を添加してなる測定試料を用いてATP法によりグラム陰性菌を検出する工程、
(2)スキムミルクおよびデオキシコール酸塩を含有する培地で上記飲食品由来試料を培養してグラム陰性菌を検出する工程。
【実施例0055】
以下、実施例に基づいて、本発明をより具体的に説明する。なお、この実施例は、本発明を限定するものではない。なお、実施例で使用した微生物はいずれも、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許生物寄託センター(NPMD)(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)または独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンター 微生物材料開発室(RIKEN BRC-JCM)(日本国茨城県つくば市高輪台3-1-1)から当業者が入手可能なものを使用している。
【0056】
試験例1:ATP検査法の改良
1-1
ATP法を用いて一定菌数の乳酸菌(Streptococcus thermophilus)の溶菌に必要な界面活性剤濃度を検証した。界面活性剤としてはSDS(ラウリル硫酸ナトリウム)を採用した。また、測定サンプルとして所定量のモッツァレラチーズ由来の乳酸菌とSDSを含む水溶液(60μL)を用いて、ATP法を実施した。ここで、ATP法において、陽性の閾値は、使用機器のプロトコールに沿って100(RLU)以上とした。さらなる詳細は、https://multimedia.3m.com/mws/media/538139O/3m-microbial-luminescence-system-usb-user-guide.pdf&fn=DOC149-MLS_instructions.pdfの記載に準じて測定を実施した。
【0057】
その結果、表1に示される通り、乳酸菌数103、106、107(cfu/g)で検討したところ、いずれのSDS濃度でも103(cfu/g)の乳酸菌は陰性であった。乳酸菌数106~107(cfu/g)では、SDS濃度0.009~0.023質量%で陽性(ATP値:359RLU~5260RLU)となったが、SDS濃度0.05質量%およびSDS濃度0.083質量%では陰性(SDS濃度0.05質量%-ATP値:11RLU~73RLU、SDS濃度0.083質量%-ATP値:6RLU~15RLU)となった。
以上の結果から、乳酸菌存在下であっても、SDSのような界面活性剤の濃度を調節すれば、乳酸菌を溶菌し、ATP法において他の対象菌を検出できることが示唆された。
【0058】
【0059】
1-2
グラム陰性菌(Pseudomonas aeruginosa、Pseudomonas fluorescens、Pseudomonas sp.、Klebsiella oxytoca)の4菌種について、モッツァレラチーズ(明治北海道十勝生モッツァレラ、株式会社明治製)に3~25(cfu/製品(モッツァレラチーズ100g及び保存液))程度接種し、30℃で48時間静置保存し、107~108(cfu/g)程度に増菌させたものを試料として使用し、乳酸菌のATP値を陰性にするSDS濃度0.05質量%、0.083質量%においてグラム陰性菌のATP値を確認した。
【0060】
結果は表2に示される通りであった。グラム陰性菌(Pseudomonas aeruginosa、Pseudomonas fluorescens、Pseudomonas sp.、Klebsiella oxytoca)はSDS濃度0.05質量%、0.083質量%ではATP陽性となった。なお、表に示さないが、SDS濃度0.125質量%でもATP値は陰性とならなかったが、ATP値は低下した。また、SDS0.625質量%となると、グラム陰性菌であってもATP値は100RLUを下回り陰性となるものが確認された。
1-1および1-2の結果から、モッツァレラチーズに乳酸菌又はグラム陰性菌が107~108(cfu/g)程存在する場合、SDS濃度0.05質量%、0.083質量%では、乳酸菌は陰性になる一方で、グラム陰性菌(Pseudomonas aeruginosa、Pseudomonas fluorescens、Pseudomonas sp.、Klebsiella oxytoca)は陽性を示すことが確認された。
【0061】
【0062】
また、後述する試験例3と同様の官能試験を実施したところ、Pseudomonas fluorescens、Pseudomonas sp.はいずれも、苦味を発生する菌(評価:×)として分類された。苦味は、カフェイン0.02質量%溶液を基準とし、上記カフェイン0.02質量%溶液で感じる苦味よりも苦味が強い場合、苦味を感じると評価した。なお、Pseudomonas aeruginosaとKlebsiella oxytocaはBSL2(ヒトまたは動物に病原性を有するが、実験室その他の職員等、家畜等に対して、重要な災害となる可能性が低いもの)に分類されることから、官能試験から除外した。
また、Serratia sp.を試験菌株に加え、再試験を行った結果、SDS濃度0.05質量%では、ATP試験で陽性を示していた。なお、予備試験の結果から、Serratia sp.は風味異常を起こす菌であることが確認されていた。
【0063】
試験例2:飲食品がマスカルポーネチーズまたはクリームチーズである場合の検討
飲食品としてマスカルポーネを選択し、SDS濃度0.05質量%程度に調整し、試験例1の方法に準じてATP試験(n=2)を実施した。結果は、表3に示される通りであった。ブランクは陰性、接種品は陽性(全てATP値100RLU以上)であった。
【0064】
【0065】
なお、クリームチーズについても、マスカルポーネチーズと同様に予備試験を行った結果、pHが低い場合に、増菌に影響があることが判った。予備試験の結果から、予めクリームチーズのpHを5~9程度、より好ましくはpHを6~7.5に調整して、試験例1に準じてATP試験を実施すれば、グラム陰性菌を高感度で検出できるものと考えられる。
【0066】
試験例3:スキムミルク添加DOA培地での苦味を発生するグラム陰性菌の特異的検出
4質量%スキムミルク溶液(121℃5分殺菌)と2倍濃度で調整したデソキシコーレイト寒天(DOA)培地を50:50の割合で混合し、2質量%スキムミルク添加DOA培地平板を作成した。培地はφ90mmのシャーレに約15mlずつ分注して固化させ、表面乾燥してから使用した。次に、賦活した菌液(Pseudomonas属菌5種、Achromobacter xylosoxidans、Stenotrophomonas属菌2種、Comamonas testosteroni)をスキムミルクDOA培地に直線状に塗抹し、25℃24時間静置培養した。培養後、訓練されたパネラー(視力1.0以上)3名により、透明帯の生成を目視にて確認した。目視は培地平面から垂直方向の距離30cmの地点から実施した。
【0067】
また、以下の評価基準に従い、試験サンプルについて官能評価を実施した。試験サンプルとしては、モッツァレラチーズ1製品(モッツァレラチーズ100g及び保存液)にそれぞれ菌が10cfu/g程度入るように接種した後、クリップで封をし、10℃で43日間保存したものを使用した。
【0068】
評価基準:
○:苦味を感じない
×:苦味を感じる
【0069】
結果は以下の表4の通りであった。25℃24時間静置培養後、塗抹箇所の周囲が透明化している菌株(透明帯、
図1)は、苦味発生菌であることが分かった。
【0070】
【0071】
また、温度条件を変更して再実験を行った。
その結果、今回の測定対象となったグラム陰性菌は10℃保存下で増殖して苦味を産生する菌であり、25℃での培養が適していた。
また、培養温度30℃培養では菌種によっては透明帯が早く観察でき、10℃で増殖できない菌(Pseudomonas aeruginosa等)も透明帯を作ることが確認された。
また、培養温度27℃であっても、培地が薄い場合(容量15mL以下)、例えば、Pseudomonas aeruginosaが24時間で透明帯を形成することが確認された。
一方、培養温度23℃培養では透明帯を作るのに時間がかかり、例えば、苦味を発生する菌であるPseudomonas fluorescensが透明帯を作るまでに30時間かかることが確認された。