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特開2024-104506気化器の温度制御方法及び基板処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104506
(43)【公開日】2024-08-05
(54)【発明の名称】気化器の温度制御方法及び基板処理装置
(51)【国際特許分類】
   G05D 23/19 20060101AFI20240729BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
G05D23/19 J
H01L21/205
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008748
(22)【出願日】2023-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125254
【弁理士】
【氏名又は名称】別役 重尚
(74)【代理人】
【識別番号】100118278
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 聡
(72)【発明者】
【氏名】原田 順一
(72)【発明者】
【氏名】紫藤 琢磨
【テーマコード(参考)】
5F045
5H323
【Fターム(参考)】
5F045EC09
5F045EE02
5F045EE04
5H323AA05
5H323AA40
5H323BB03
5H323CB02
5H323DA01
5H323EE06
5H323FF01
5H323KK05
(57)【要約】
【課題】気化器の温度を設定温度へ早期に安定させる。
【解決手段】ヒータを備え、流入する薬液を加熱して気化させる気化器の温度を制御する際、現時刻から所定の先の時刻までの第1の予測期間における各時刻の薬液の気化器への流入量と、測定された現時刻の気化器の温度と、第1の予測期間における各時刻において予測される気化器の温度とに基づいて、現時刻のヒータへの入力電力を決定する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒータを備え、流入する薬液を加熱して気化させる気化器の温度制御方法であって、
現時刻から所定の先の時刻までの第1の予測期間における各時刻の前記薬液の前記気化器への流入量と、測定された前記現時刻の前記気化器の温度と、前記第1の予測期間における各時刻において予測される気化器の温度とに基づいて、前記現時刻の前記ヒータへの入力電力を決定する、気化器の温度制御方法。
【請求項2】
前記第1の予測期間の前記気化器の温度変動を最小にする、前記第1の予測期間における各時刻の前記ヒータへの入力電力の時系列を求め、前記時系列における一番目の前記ヒータへの入力電力を、前記現時刻の前記ヒータへの入力電力として決定する、請求項1に記載の気化器の温度制御方法。
【請求項3】
前記第1の予測期間における各時刻の前記薬液の前記気化器への流入量は、前記気化器を備える処理装置で実行される処理のレシピ情報から取得される、請求項1に記載の気化器の温度制御方法。
【請求項4】
現時刻から所定のサンプリング時間が経過した後の次の時刻から所定の先の時刻までの第2の予測期間における各時刻の前記薬液の前記気化器への流入量と、測定された前記次の時刻の前記気化器の温度と、前記第2の予測期間における各時刻において予測される気化器の温度とに基づいて、前記次の時刻の前記ヒータへの入力電力を決定し、
前記測定された前記次の時刻の前記気化器の温度は、前記決定された前記現時刻の前記ヒータへの入力電力が前記ヒータへの入力された結果である、請求項1に記載の気化器の温度制御方法。
【請求項5】
モデル予測制御を用いて前記ヒータへの入力電力を決定し、
前記モデル予測制御において前記気化器の温度を予測する予測モデルは離散状態方程式である、請求項1に記載の気化器の温度制御方法。
【請求項6】
モデル予測制御を用いて前記ヒータへの入力電力を決定し、
前記モデル予測制御において前記気化器の温度を予測する予測モデルはARXモデルである、請求項1に記載の気化器の温度制御方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項の気化器の温度制御方法が適用される気化器を備える基板処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、気化器の温度制御方法及び基板処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
基板処理装置としての成膜装置ではプロセスガスの供給手段として直接気化方式(Direct Liquid Injection、以下、「DLI」と略す)方式の気化器が用いられることがある(例えば、非特許文献1参照)。DLI方式の気化器では、気化器がヒータ等によって目標温度(以下、「設定温度」という)に維持され、流入する薬液を加熱して気化させることにより、プロセスガスを生成する。
【0003】
従来、DLI方式の気化器では、薬液投入の有無にかかわらず、気化器へのヒータの入力電力を一定に保ち、当該気化器の温度を設定温度に維持している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】“直接気化方式”,[online],株式会社堀場製作所,[令和4年12月28日検索],インターネット <URL:https://www.horiba.com/jpn/semiconductor/key-technologies/element-technology/vaporization-methods/l>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示に係る技術は、気化器の温度を設定温度へ早期に安定させる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る技術の一態様は、ヒータを備え、流入する薬液を加熱して気化させる気化器の温度制御方法であって、現時刻から所定の先の時刻までの第1の予測期間における各時刻の前記薬液の前記気化器への流入量と、測定された前記現時刻の前記気化器の温度と、前記第1の予測期間における各時刻において予測される気化器の温度とに基づいて、前記現時刻の前記ヒータへの入力電力を決定する。
【発明の効果】
【0007】
本開示に係る技術によれば、気化器の温度を設定温度へ早期に安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施の形態に係る気化器の温度制御方法が適用されるDLI方式の気化器とその周辺の機器を説明するための図である。
図2】モデル予測制御を説明するための図である。
図3】モデル予測制御とPID制御の違いを説明するためのグラフである。
図4】本実施の形態に係る気化器の温度制御方法に適用されるモデル予測制御の概念を示すブロック線図である。
図5】本実施の形態に係る気化器の温度制御方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
ところで、近年、複数のプロセスガスを使用する成膜プロセスが多用されるため、成膜装置でも複数の気化器を備える必要がある。そして、成膜装置において、複数の気化器の配置を容易に成立させるために気化器の小型化が求められている。
【0010】
気化器が小型化すると気化器の熱容量が小さくなるため、薬液の気化熱による影響が大きくなり、ヒータの入力電力を一定に保ったままだと、気化させる薬液の気化器への流入量(以下、「気化流量」という)の変化に応じて気化器の温度が大きく変化する。
【0011】
そこで、一般的なフィードバック制御であるPID制御によって気化器の温度を設定温度に維持するように、ヒータの入力電力を制御することが考えられる。
【0012】
しかしながら、PID制御では気化器の温度が設定温度から変動し始めた後からヒータの入力電力を調整し始めるため、設定温度から変動した気化器の温度が設定温度まで戻るためにある程度の時間を要する。特に、薬液の流入開始時や流入停止時の気化流量の変化が大きいと、気化器の温度が設定温度まで戻るのに多くの時間を要する。
【0013】
気化器の温度が設定温度まで戻るのに時間を要すると、例えば、気化器の温度が低下した場合、気化できなくなる薬液の量が増え、薬液のロスが多くなる。また、気化器が大きな温度変動を受ける時間が長くなるので、気化器そのものの劣化が早くなるという課題がある。
【0014】
これに対して、本開示に係る技術は、モデル予測制御を用い、気化器の温度を設定温度へ早期に安定させる。
【0015】
以下、図面を参照して本開示に係る技術の一実施の形態を説明する。図1は、本発明の一実施の形態に係る気化器の温度制御方法が適用されるDLI方式の気化器とその周辺の機器を説明するための図である。図1において、DLI方式の気化器10には、MFC(Mass Flow Controller)11と、液体用MFC12が接続される。MFC11にはタンク(不図示)からキャリアガスが供給される。液体用MFC12には、薬液タンク13から加圧ガスの圧力によって押出された薬液が供給される。
【0016】
気化器10はヒータ14と測温計15とコントローラ16とを備える。ヒータ14には外部から電力が入力される。測温計15は気化器10の温度(以下、単に「気化器温度」という)を測定し、コントローラ16へ測温結果を送信する。コントローラ16は、測温計15の測温結果と外部のメモリ17から取得したレシピ情報に基づいて、気化器温度を設定温度に維持するように、ヒータ14への入力電力(以下、単に「ヒータ入力電力」という)を決定する。なお、ここでのレシピ情報は、例えば、気化器10を備える成膜装置(基板処理装置)で実行される成膜処理のレシピ情報であり、各時刻の気化流量が予め設定されている。
【0017】
MFC11は、供給されたキャリアガスの気化器10への流入量を制御する。液体用MFC12は、供給された薬液の気化器10への流入量を制御する。気化器10は供給された薬液を内蔵する気化室(不図示)へ噴霧することによって気化し、気化した薬液をキャリアガスと混合してプロセスガスを生成する。このとき、ヒータ14の熱によって薬液を加熱して安定的な連続的気化を実現する。なお、気化器10がコントローラ16を備えず、外部のコントローラが測温計15の測温結果とレシピ情報に基づいてヒータ入力電力を決定してもよい。
【0018】
ところで、気化器10において、測温計15の測温結果に基づいてヒータ入力電力を決定する際、一般的なフィードバック制御であるPID制御を用いると、気化器温度が設定温度から変動した後からヒータ入力電力が調整され始める。したがって、設定温度から変動した気化器温度が設定温度まで戻るためにある程度の時間を要する。そこで、本実施の形態では、PID制御の代わりにフィードバック制御の1つであるモデル予測制御を用いる。
【0019】
モデル予測制御は(MPC: Model Predictive Control)は、予測期間における各時刻で未来の応答を予測しながら最適化を行う制御手法である。モデル予測制御では、制御対象の動的特性を示す予測モデルを設定し、制御対象の現時刻からの有限区間である予測期間における未来の振る舞いを予測する。予測モデルとしては、ステップ応答モデル、インパルス応答モデル、伝達関数モデル、自己回帰移動平均モデル(ARXモデル)又は離散状態方程式が用いられる。
【0020】
次に、制御対象の出力(以下、「制御出力」という)と制御対象への入力(以下、「制御入力」という)の関係について説明する。モデル予測制御では、制御出力を目標値に追従させたい場合、現時刻から先の時刻までの予測期間における各時刻の目標値と制御出力の差分の積和に対応する追従誤差の面積を最小にさせる制御入力の時系列を探索する。
【0021】
例えば、モデル予測制御において、時刻tの制御入力をu[t]とし、時刻tの制御出力をy[t]とし、予測モデルとして、下記式(1)に示す離散状態方程式が用いられる場合を考える。なお、下記式(1)のC、Dは重みであり、事前の実験等を通じて求められる。
y[t+1]=Cy[t]+Du[t] … (1)
【0022】
まず、現時刻の制御出力と仮置きされた現時刻の制御入力を用い、上記式(1)に基づいて次の時刻の制御出力を算出する。ここで用いられる現時刻の制御出力は実測値である。次いで、算出された次の時刻の制御出力と仮置きされた次の時刻の制御入力を用い、上記式(1)に基づいてさらに次の時刻の制御出力を算出する。以上を繰り返し、現時刻から所定の先の時刻までの第1の予測期間における各時刻の制御出力を算出する。そして、第1の予測期間における各時刻の目標値と算出された第1の予測期間における各時刻の制御出力との追従誤差の面積を最小にする第1の予測期間における各時刻の制御入力を探索する。ここで、各時刻の制御入力は変更可能な値である。そして、モデル予測制御では、追従誤差の面積(図2(A)においてハッチングで示す領域)を最小にするように、各時刻の制御入力(図2(B)の各白丸参照)が調整される。すなわち、追従誤差の面積を最小にする第1の予測期間における各時刻の制御入力(制御入力の時系列)が探索される。ここでの制御入力の時系列の探索はある種の最適化問題である。そして、探索によって得られた制御入力の時系列の一番目の要素を実際の現時刻の制御入力として制御対象に適用する。
【0023】
また、現時刻から所定のサンプリング時間が経過した後の次の時刻に、次の時刻の制御出力と仮置きされた次の時刻の制御入力を用い、上記式(1)に基づいてさらに次の時刻の制御出力を算出する。ここで用いられる次の時刻の制御出力は実測値である。次いで、算出されたさらに次の時刻の制御出力と仮置きされたさらに次の時刻の制御入力を用い、上記式(1)に基づいてさらに次の時刻からもう1つ後の時刻の制御出力を算出する。以上を繰り返し、次の時刻から所定の先の時刻までの予測期間(以下、「第2の予測期間」という)の各時刻の制御出力を算出する。そして、第2の予測期間における各時刻の目標値と算出された第2の予測期間における各時刻の制御出力の追従誤差の面積(図2(C)においてハッチングで示す領域)を最小にする第2の予測期間における各時刻の制御入力を探索する。そして、探索によって得られた制御入力(図2(D)の各白丸参照)の時系列の一番目の要素を実際の次の時刻の制御入力として制御対象に適用する。
【0024】
以上を所定のサンプリング時間が経過する毎に繰り返し、各時刻の実測値である制御出力を用いて各時刻の制御入力を決定していく。現時刻から所定のサンプリング時間が経過した後の次の時刻の制御入力を決定する際、現時刻の制御入力を制御対象に適用した結果である次の時刻の制御出力の実測値を用いるため、モデル予測制御はフィードバック制御と言える。
【0025】
なお、モデル予測制御におけるサンプリング時間や予測期間の長さは任意であり、制御対象の動的特性に応じて設定される。例えば、変動が収束しにくい制御対象では、サンプリング時間や予測期間が比較的長く設定される。
【0026】
図3は、モデル予測制御とPID制御の違いを説明するためのグラフである。ここでは、時刻Tで気化器10の気化流量が増加する場合を考える。この場合、時刻Tにおいて気化器10(のヒータ)の熱が薬液の気化に奪われて気化器温度が低下する。
【0027】
PID制御を用いて気化器温度を制御する場合、気化器温度が時刻Tにおいて設定温度(図中の破線参照)から変動し始めた後からヒータ入力電力が調整され始める。すなわち、ヒータ入力電力の調整の開始が遅くなり、設定温度から変動した気化器温度が設定温度まで戻るためにある程度の時間を要する。
【0028】
一方、モデル予測制御を用いて気化器温度を制御する場合、予測期間に時刻Tが含まれるようになると、時刻Tにおける気化器10の気化流量の増加の影響が予測モデルによって制御出力である気化器温度に反映される。すなわち、時刻Tよりも前に時刻Tにおける気化器10の気化流量の増加の影響を先読みすることができ、先読みした結果に基づいて時刻Tよりも前からヒータ入力電力の調整が開始される。その結果、変動した気化器温度が設定温度へ早期に安定させられる。但し、ヒータ入力電力の調整が時刻Tよりも前から開始されるため、気化器温度は時刻Tよりも前から設定温度から変動し始める。また、モデル予測制御では気化器10の気化流量の増加の影響を先読みしてヒータ入力電力が調整されるため、モデル予測制御における気化器温度の変動量は、PID制御における気化器温度の変動量よりも小さくなる。
【0029】
図4は、本実施の形態に係る気化器の温度制御方法に適用されるモデル予測制御の概念を示すブロック線図である。図4において、モデル予測制御 (MPC)を実行する制御器18は、コントローラ16において構成され、予測モデル19と最適化器20を有する。また、制御器18には、目標指令として、予測期間の気化器10の設定温度が入力される。
【0030】
予測モデル19は制御対象である気化器10の温度を予測するモデルであり、図に示すように、レシピ情報から取得される予測期間における各時刻の気化流量が入力されるモデルである。予測モデル19は、例えば、下記式(2)で示される離散状態方程式で表される。なお、下記式(2)のA、B、Vは重みである。
x[t+1]=Ax[t]+Bu[t]+Vuf[t] … (2)
【0031】
上記式(2)において、u[t]は時刻tの制御入力であるヒータ入力電力であり、x[t]は時刻tの制御出力である気化器温度であり、uf[t]は時刻tの気化流量である。ここで、x[t]は時刻tにおける気化器温度の実測値である。また、予測モデル19は気化流量に対応する項を有するため、本実施の形態におけるモデル予測制御では、気化流量の変化による影響を考慮して気化器温度を予測することができる。さらに、上記式(2)において、uf[t]は時刻tの関数として示されるが、実際には、レシピ情報において予め定められた値であるため、定数項として扱われる。
【0032】
最適化器20は、最適化問題を解くためのブロックである。なお、最適化器20が用いる最適化問題の解法は、特に限定されない。本実施の形態では、最適化器20が、各時刻の制御入力であるヒータ入力電力を調整することにより、予測期間のヒータ14の設定温度に対する(予測モデル19から予測される)ヒータ14の温度の追従誤差の面積を最小にさせるヒータ入力電力の時系列を探索する。
【0033】
そして、制御器18は、探索によって得られたヒータ入力電力の時系列の一番目の要素を実際に入力すべきヒータ入力電力として気化器10に入力する。また、ヒータ入力電力が入力された結果としての気化器温度(制御出力)が測定されて制御器18へフィードバックされる。
【0034】
すなわち、本実施の形態におけるモデル予測制御では、レシピ情報から予測期間における各時刻の気化流量を取得し、気化器温度の実測値を用い、実際に入力すべきヒータ入力電力を決定する。
【0035】
図5は、本実施の形態に係る気化器の温度制御方法を示すフローチャートである。図5の温度制御方法は、例えば、気化器10のコントローラ16が所定のプログラムに応じて実行する。また、本実施の形態では、図5の温度制御方法を実行する前に、気化器10やその類似モデルを用いた実験を通じて上記式(2)で示される予測モデルを予め同定しておく。このとき、上記式(2)の重みA、B、Vが求められる。
【0036】
図5において、まず、測定された現時刻の気化器温度を取得し(ステップS51)、レシピ情報から第1の予測期間における各時刻の気化流量を取得する(ステップS52)。
【0037】
次いで、取得された現時刻の気化器温度と気化流量、並びに、仮置きされた現時刻のヒータ入力電力を用い、上記式(2)に基づいて次の時刻の気化器温度を算出する。次いで、算出された次の時刻の気化器温度と仮置きされた次の時刻の制御入力を用い、上記式(2)に基づいてさらに次の時刻の気化器温度を算出する。以上を繰り返し、第1の予測期間における各時刻の気化器温度を算出する。
【0038】
そして、第1の予測期間における目標温度と気化器温度の追従誤差の面積に相当する気化器温度の変動を最小にするヒータ入力電力の時系列を、最適化問題を解くことによって探索する(ステップS53)。
【0039】
ところで、上記式(2)ではVuf[t]が定数項として扱われることを考慮すると、上記式(2)はヒータ入力電力であるuの関数とも言える。ここで、算出された第1の予測期間における各時刻の気化器温度であるx(u)を時間発展させた上でベクトルXとして表記し、第1の予測期間における各時刻の設定温度xrefをベクトルXrefとして表記し、また、第1の予測期間における各時刻のヒータ入力電力をベクトルUとして表記することを考える。このとき、気化器温度の変動を最小にすることは、下記式(3)で示される二次形式の評価関数を最小化することに該当する。なお、下記式(3)のQ、Pは重みである。
評価関数:(Xref-X(U))Q(Xref-(U))+UPU … (3)
【0040】
また、ヒータ入力電力に上限と下限が制約条件として設定されている際、例えば、供給可能なヒータ入力電源の最大値が設定されている際には、この制約条件を不等式制約として定式化する。そして、制約条件を考慮しながら、上記式(3)の評価関数に基づいて制約付きの最適化問題を解くことにより、制約条件に収まるヒータ入力電力の時系列を探索することができる。
【0041】
なお、上記式(3)をスカラで表すと、評価関数は下記式(4)のような二次式で示され、評価関数を最小化することは、第1の予測期間における各時刻で算出される下記式(4)の値の積和を最小化することに相当する。
評価関数:Q(xref-x(u))+Pu … (4)
【0042】
次いで、探索された評価関数を最小にするヒータ入力電力の時系列の一番目の要素を現時刻に入力すべきヒータ入力電力として決定する(ステップS54)。
【0043】
そして、ステップS51~S54を所定のサンプリング時間が経過する毎に繰り返す。例えば、第1の予測期間における各時刻の気化流量を用いて現時刻に入力すべきヒータ入力電力を決定した後は、第2の予測期間における各時刻の気化流量を用いて次の時刻に入力すべきヒータ入力電力を決定することになる。なお、本実施の形態では、所定のサンプリング時間として、例えば、1000m秒(1秒)が想定されるが、サンプリング時間は、気化器10の温度の動的特性に応じて変更されてもよい。
【0044】
また、ステップS51~S54を繰り返す際、現時刻から所定のサンプリング時間が経過した後の次の時刻に入力すべきヒータ入力電力を決定するときに、次の時刻の気化器温度の実測値を用いる。この次の時刻の気化器温度の実測値は、現時刻に決定された入力すべきヒータ入力電力を気化器10に入力した結果であるため、本実施の形態に係る気化器の温度制御方法はフィードバック制御と言える。
【0045】
本実施の形態によれば、モデル予測制御を用いて、予測期間における各時刻の気化器温度を予測する際に、気化器温度の予測にレシピ情報から取得された気化流量の変化による影響を考慮することができる。すなわち、気化流量が変化する前に気化流量の変化の影響を先読みすることができるため、気化流量が変化するよりも前からヒータ入力電力の調整が開始される。その結果、変動した気化器温度を設定温度へ早期に安定させることができる。また、変動した気化器温度を設定温度へ早期に安定させることができるため、例えば、気化器10の温度が低下したために気化できなくなる薬液の量を減少させて薬液のロスを少なくすることができる。また、気化器10が大きな温度変動を受ける時間が短くなるので、気化器10そのものの劣化を抑制することができる。
【0046】
さらに、本実施の形態では、気化器10の気化流量の増加の影響を先読みしてヒータ入力電力が調整されるため、気化器温度の変動量が小さくなり、気化器10の温度を調整するために使用されるヒータ14への入力電力も少なくすることができる。
【0047】
また、本実施の形態では、気化器温度の変動を最小にするヒータ入力電力の時系列を探索する際、制約付きの最適化問題を解くことにより、ヒータ入力電力の上限と下限を考慮してヒータ入力電力の時系列を探索することができる。すなわち、ヒータ入力電力の上限と下限の間に収まるヒータ入力電力の時系列を探索することができる。
【0048】
以上、本開示の好ましい実施の形態について説明したが、本開示は上述した実施の形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【0049】
例えば、本実施の形態に係る気化器の温度制御方法は、気化器10のコントローラ16が所定のプログラムに応じて実行したが、外部のコントローラが所定のプログラムに応じて実行してもよい。
【0050】
また、本実施の形態に係る気化器の温度制御方法が適用される気化器10は、成膜装置だけではなく、プロセスガスを用いる他の種類の基板処理装置、例えば、エッチング装置に備えられてもよい。
【0051】
さらに、本実施の形態では、気化器10の温度の予測モデルとして、離散状態方程式が用いられたが、予測モデルはこれに限られず、例えば、ARXモデルが用いられてもよい。
【0052】
この場合、予測モデルは下記式(5)のように示される。
x[t+1]=Ax[t]+Bu[t]+Vuf[t]+Ax[t-1]+Bu[t-1]+Vuf[t-1]+Ax[t-2]+Bu[t-2]+Vuf[t-2]+... … (5)
【0053】
なお、上記式(5)のA、B、V、A、B、V、A、B、Vは重みである。
【0054】
ARXモデルを用いると、次の時刻の気化器温度を予測する際に、現時刻の気化器温度、ヒータ入力電力や気化流量だけでなく、現時刻よりも前の時刻の気化器温度、ヒータ入力電力や気化流量を考慮することができる。したがって、薬液が薬液タンク13から気化器10へ到達するのに時間を要し、気化流量の変化に対して気化器温度の変化が遅れるような場合に、ARXモデルは適している。
【符号の説明】
【0055】
10 気化器
14 ヒータ
16 コントローラ
18 制御器
19 予測モデル
図1
図2
図3
図4
図5