(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104548
(43)【公開日】2024-08-05
(54)【発明の名称】透過潜像効果を有するセキュリティ媒体
(51)【国際特許分類】
B42D 25/333 20140101AFI20240729BHJP
B41M 3/14 20060101ALI20240729BHJP
B42D 25/324 20140101ALI20240729BHJP
B42D 25/378 20140101ALI20240729BHJP
【FI】
B42D25/333
B41M3/14
B42D25/324
B42D25/378
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008826
(22)【出願日】2023-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】303017679
【氏名又は名称】独立行政法人 国立印刷局
(72)【発明者】
【氏名】堀内 直人
(72)【発明者】
【氏名】寺岡 拓真
【テーマコード(参考)】
2C005
2H113
【Fターム(参考)】
2C005HA02
2C005HA04
2C005HB01
2C005HB02
2C005HB10
2C005HB13
2C005JB11
2C005JB20
2C005LB19
2H113AA06
2H113BA03
2H113BA09
2H113BB02
2H113BB07
2H113BB22
2H113CA34
2H113CA37
2H113CA39
2H113CA44
(57)【要約】
【課題】積層構造を有することなく、暗がりでも適切にすき入れ等の潜像画像が視認可能なセキュリティ製品を提供する。
【解決手段】本発明は、光透過性を有する基材の少なくとも一部に、基材とは光透過性が異なり、かつ、等色で、反射光下では基材とは区別できず、透過光下では基材と区別できる潜像画像と、発光素子及びコイル型アンテナを有するセキュリティ媒体であって、セキュリティ媒体は単層構造から成り、潜像画像は反射光下では視認されず、透過光下では基材とは透過光量の差によって視認され、かつ、発光素子の発光によっても潜像画像が視認されることを特徴とするセキュリティ媒体に関するものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性を有する基材の少なくとも一部に、前記基材とは光透過性が異なり、かつ、等色で、反射光下では前記基材とは区別できず、透過光下では前記基材と区別できる潜像画像と、発光素子及びコイル型アンテナを有するセキュリティ媒体であって、
前記セキュリティ媒体は単層構造から成り、
前記潜像画像は反射光下では視認されず、透過光下では前記基材とは透過光量の差によって視認され、かつ、前記発光素子の発光によっても前記潜像画像が視認されることを特徴とするセキュリティ媒体。
【請求項2】
前記潜像画像は、すかし又は基材のエンボスから成ることを特徴とする請求項1記載のセキュリティ媒体。
【請求項3】
前記潜像画像は、すかしインキ又は光遮断性のインキにより形成されて成ることを特徴とする請求項1記載のセキュリティ媒体。
【請求項4】
前記潜像画像は、基画像を分割及び圧縮のうち少なくとも一方から成る要素を第1のピッチで複数形成されて成り、
前記要素に対応したレンズ要素又は光遮断要素が複数配置された判別部を前記基材に重ねて、前記発光素子が発光すると前記潜像画像が視認され、前記基材に対する観察角度又は前記判別部の位置を変えると前記潜像画像がチェンジ及び動的変化のうち少なくとも一方で視認されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のセキュリティ媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子、コイル型アンテナ及び透過光下で視認できるすかしを有するセキュリティ媒体において、積層構造を有することがなく、暗がりでもすかしを視認できる従来にないセキュリティ媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
銀行券、パスポート、印紙、切手、有価証券、身分証明書、各種チケット、セキュリティラベル等をはじめとするセキュリティ媒体は、偽造防止のために、様々な偽造防止技術が付与されている。
【0003】
この偽造防止技術の一つとして、用紙の薄厚又は繊維の粗密によって模様を形成して透過光下で視認させる、いわゆるすかし技術が存在する。このすかし技術は、一定量以上の光さえ存在すれば、あらゆる環境下で真偽判別が可能な技術であり、また、知名度も高いことから、古くから存在する古典的な技術であるにもかかわらず、今なお世界中の銀行券で用いられている。
【0004】
このような環境下において、古くから知名度の高い前述のようなすかし技術に加え、セキュリティ製品のセキュリティレベルを増大させてそれらをより改ざんしにくくするために、超小型集積回路デバイスとして、発光素子やアンテナ、無線ICタグ(RFID)デバイス等をそこに組み込むことは公知である(例えば、特許文献1)。
【0005】
また、意匠性向上の観点からは、非接触ICカードにおいて、発光素子の発光により隠蔽画像が視認できる技術として、ICチップ、アンテナ、発光素子を備えたコアシートと、表裏両側に設けられる外装シートの一方に画像形成領域を有した映写カードが開示されている。(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2011-525672号公報
【特許文献2】特開2017-217863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の技術は、あくまでもセキュリティ製品を光に透かしてすかしを視認する技術であるため、暗がりではすかしを確認することによる真偽判別を行うことができないという課題があった。
【0008】
特許文献2の技術は、少なくともコアシートと保護層(上下)の3層構造にする必要があり、最後に熱プレス等の作業を要するため、製造性が悪いという課題があった。
【0009】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、積層構造を有することなく、太陽光等の所定の光に対して透過光下で視認できる画像が暗がり等の観察条件でも適切に視認可能なセキュリティ媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のセキュリティ媒体は、光透過性を有する基材の少なくとも一部に、基材とは光透過性が異なり、かつ、等色で、反射光下では基材とは区別できず、透過光下では基材と区別できる潜像画像と、発光素子及びコイル型アンテナを有するセキュリティ媒体であって、セキュリティ媒体は単層構造から成り、潜像画像は反射光下では視認されず、透過光下では基材とは透過光量の差によって視認され、かつ、発光素子の発光によっても潜像画像が視認されることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の潜像画像は、すかし又は基材のエンボスから成ることを特徴とするセキュリティ媒体である。
【0012】
また、本発明の潜像画像は、すかしインキ又は光遮断性のインキにより形成されて成ることを特徴とするセキュリティ媒体である。
【0013】
また、本発明の潜像画像は、基画像を分割及び圧縮のうち少なくとも一方から成る要素を第1のピッチで複数形成されて成り、要素に対応したレンズ要素又は光遮断要素が複数配置された判別部を基材に重ねて、発光素子が発光すると潜像画像が視認され、基材に対する観察角度又は判別部の位置を変えると潜像画像がチェンジ及び動的変化のうち少なくとも一方で視認されることを特徴とするセキュリティ媒体である。
【発明の効果】
【0014】
本発明のセキュリティ媒体は、リーダライタ等の装置に翳すことで発光素子が発光し、すかし等の透過画像が発現することで、暗がり等の観察条件でも適切に真偽判別が可能となる。
【0015】
また、本発明のセキュリティ媒体は層構成にする必要がないため、製造工程が簡略化可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明のセキュリティ媒体について示す図である。
【
図3】コイル型アンテナの位置関係について示す図である。
【
図4】第1の実施の形態における光透過性が高い潜像画像の構成を示す図である。
【
図5】第1の実施の形態における光透過性が低い潜像画像の構成を示す図である。
【
図6】第1の実施の形態の活用例について示す図である。
【
図7】透過潜像画像発現構造の概要を示す図である。
【
図8】第2の実施の形態における潜像画像の構成を示す図である。
【
図9】第2の実施の形態における光透過性が高い潜像画像の構成を示す図である。
【
図10】第2の実施の形態における光透過性が低い潜像画像の構成を示す図である。
【
図11】判別部の一例であり、レンチキュラーレンズの構成を示す図である。
【
図13】透過潜像画像発現構造を発光素子の発光時に観察した場合の効果を示す図である。
【
図14】第2の実施の形態の活用例について示す図である。
【
図15】第3の実施の形態における潜像画像と基画像について示す図である。
【
図16】第3の実施の形態における潜像画像の詳細について示す図である。
【
図17】第3の実施の形態における潜像画像の形成方法について示す図である。
【
図18】第4の実施の形態における潜像画像と基画像について示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他の様々な実施の形態が含まれる。
【0018】
(第1の実施の形態)
図1に、本発明のセキュリティ媒体(10)を示す。
図1(a)に示すセキュリティ媒体(10)は、
図1(b)に示す潜像画像(2)を有する基材(1)と、
図1(c)に示すコイル型アンテナ(3)及び発光素子(4)から成る単層構造で形成される。単層構造については後述する。以下、第1の実施の形態のセキュリティ媒体(10)の詳細な構成について説明する。
【0019】
(潜像画像)
第1の実施の形態における潜像画像(2)とは、セキュリティ媒体(10)に付与した画像のことであり、印刷、所定の箇所において紙層構造を部分的に変化させたすかし、エンボス加工、レーザ加工等によって付与されることにより、基材(1)とは透過光量に差が発生する。したがって、反射光下では不可視であった画像が、発光素子(4)が発光した際に可視化される。
【0020】
(基材)
本発明において潜像画像(2)を形成するための基材(1)は、光透過性を有する、紙又はポリマーを用いることができる。
【0021】
基材(1)を紙で構成する場合、繊維の種類は特に限定されるものでなく、各種木材を原料とするKP(クラフトパルプ)、SP(亜硫酸パルプ)等の化学パルプ、GP(砕木パルプ)、TMP(サーモメカニカルパルプ)、CTMP(ケミカルサーモメカニカルパルプ)等の機械パルプ、古紙再生パルプを使用することができる。また、麦、アバカ、バガス、ケナフ、楮、みつまた、竹等の非木材も使用することができる。これらの木材又は非木材から得られる繊維を単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。有色の紙として、各色の顔料又は染料を配合して作製された紙を基材(1)として用いてもよい。なお、紙の材料として、一般的に用いられるサイズ剤、紙力増強剤等の薬品、てん料は、必要に応じて配合することができる。
【0022】
また、本発明において、基材(1)に紙を用いる場合、紙の厚さ、坪量は特に限定されるものではなく、セキュリティ媒体(10)を構成するために一定の厚さ及び強度を有する。
【0023】
また、本発明において、基材(1)にポリマーを用いる場合、光透過性を有する材料であれば、透明に限らず、着色されたものでもよい。樹脂の種類としては、ポリエステル、ナイロン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメタクリル酸エステル等を使用することができる。
【0024】
(発光素子)
本発明の発光素子(4)について、
図2を用いて説明する。
図2は
図1(a)におけるA-A´断面を示すものである。発光素子(4)の配置については、
図2(a)に示すように、潜像画像(2)が付与された面とは反対の面に、潜像画像(2)と重畳する位置であってもよく、発光素子(4)が複数設けられてもよい。また、
図2(b)に示すように、潜像画像(2)が付与された面とは反対の面に、潜像画像(2)と重畳しない位置であってもよく、発光素子(4)が複数設けられてもよい。また、
図2(c)に示すように、潜像画像(2)が付与された面に、潜像画像(2)と重畳しない位置であってもよく、発光素子(4)が複数設けられてもよい。また、
図2(d)に示すように、基材(1)の内部に、潜像画像(2)と重畳する位置であってもよく、発光素子(4)が複数設けられてもよい。なお、発光素子(4)の配置及び個数については、これに限定されるものではなく、適宜選定される。
【0025】
本発明の発光素子(4)としては、発光ダイオード(LED)やEL素子を用いることができる。なお、コスト面や入手の容易性、安定性から考えると、LEDであることが好ましい。
【0026】
(コイル型アンテナ)
本発明のコイル型アンテナ(3)について、
図3を用いて説明する。
図3は、
図1(a)における、B-B´断面を示すものである。コイル型アンテナ(3)の基材(1)に対する位置関係については、発光素子(4)同様、いずれの位置に設けてもよい。潜像画像(2)の視認性を考慮すると、潜像画像(2)と重ならない位置が好ましいが、必ずしもこれに限定されるものではない。例えば、
図3(a)に示すように、コイル型アンテナ(3)が基材(1)の内部にあってもよく、
図3(b)に示すように、基材(1)の裏面にあってもよい。また、発光素子(4)の内部にコイル型アンテナ(3)を埋め込み、一体型としてもよい。
【0027】
コイル型アンテナ(3)は、アルミニウムや胴のような導電性の材料であれば、形成方法については特に限定はない。例えば、導電性の透明インキを用いてコイル型アンテナ(3)を設けた場合は、発光素子(4)の発光により潜像画像(2)が視認される際にコイル型アンテナ(3)は視認されないため、潜像画像(2)の視認性を更に向上させることが可能となる。
【0028】
コイル型アンテナ(3)と発光素子(4)は電気的に接続され、基本的には有線で繋がっているものであるが、基材(1)に磁性繊維による導電性を持たせることで、磁性繊維がコイル型アンテナ(3)と発光素子(4)を接続する役割を果たし、コイル型アンテナ(3)と発光素子(4)を切り離した構成とすることも可能である。
【0029】
(作製方法)
コイル型アンテナ(3)及び発光素子(4)の基材(1)への付与方法は、基材(1)の表面にコイル型アンテナ(3)及び発光素子(4)を糊などによって貼り付けるような簡単な構成や、抄造時にコイル型アンテナ(3)及び発光素子(4)を抄きこむ構成、湿紙状態の基材(1)によってコイル型アンテナ(3)及び発光素子(4)を挟みこむ構成があり、これらの構成は、本発明における単層構造とする。また、コイル型アンテナ(3)に関しては、導電性インキをスクリーン印刷、グラビア印刷、インクジェット印刷等の公知な印刷方法により付与してもよい。
【0030】
(潜像画像の加工)
潜像画像(2)は、反射光下では基材(1)と同じ色で不可視であり、透過光下で視認できる構成で基材(1)に形成される。発光素子(4)の発光時に視認できる潜像画像(2)は、具体的には、基材(1)における潜像画像(2)が構成される部分が、基材(1)における潜像画像(2)が構成された部分以外に対して、光透過性が高い構成か、光透過性が低い構成である。
【0031】
基材(1)と比較して光透過性が高い潜像画像(2)を形成する方法としては、紙を製造する工程で、円網やダンディロールによる公知のすかし技術を用いて、部分的に厚さが薄い構成とすればよい。
図4(a)は、紙の基材(1)にすかし技術を用いて、基材(1)より厚さが薄い潜像画像(2)が形成された状態を示す図である。
図4(a)に示す構成の潜像画像(2)は、紙又はポリマーの基材(1)にレーザ加工により、基材(1)の一部を除去したり、エンボス加工により基材の一部の厚みを変えたりすることでも形成することができる。
【0032】
図4(b)は、紙から成る基材(1)に、メジウム等の透明インキ又は透明ニス等によるすかしインキを印刷することで、潜像画像(2)を形成したすかし技術の例であり、この場合、基材(1)にすかしインキが浸透して、光透過性が高い潜像画像(2)が形成される。
【0033】
図4(c)は、紙又はポリマーから成る基材(1)に、基材(1)と等色の光遮断性のインキにより、潜像画像(2)以外の領域を覆うことで、基材(1)自体の光透過性を利用し、部分的に光透過性が高い潜像画像(2)を形成したすかし技術の例である。光遮断性のインキは、基材(1)と等色であれば限定はないが、金属顔料を含むインキは光遮断性が高く、潜像画像(2)のコントラストが高くなることから好ましい。光遮断性を有するインキとしては、金属顔料であって、透明、白色又は淡い色彩の顔料を選択して配合すればよい。このような顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化アルミ等の金属酸化物の顔料が最も適している。また、前述の顔料には劣るものの、炭酸カルシウム、シリカ等を含む白色インキでも一定の光遮断性の効果を得ることができる。
【0034】
また、基材(1)と比較して光透過性が低い潜像画像(2)を形成する方法としては、紙を製造する工程で、円網やダンディロールによる公知のすかし技術を用いて、部分的に厚さが厚い構成とすればよい。
図5(a)は、紙から成る基材(1)にすかし技術を用いて、基材(1)より厚さが厚い潜像画像(2)が形成された状態を示す図である。
図5(a)に示す構成の潜像画像(2)は、紙又はポリマーの基材(1)にレーザ加工により、潜像画像(2)の周囲の基材(1)の一部を除去したり、エンボス加工により基材の一部の厚みや密度を変えたりすることでも形成することができる。
【0035】
図5(b)は、紙又はポリマーの基材(1)に、基材(1)と等色の光遮断性のインキを印刷して光透過性の低い潜像画像(2)を形成したすかし技術の例を示す図である。光遮断性のインキは、前述のように基材(1)と等色であれば、限定はないが、金属顔料を含むインキは光遮断性が高く、潜像画像(2)のコントラストが高くなることから好ましい。金属顔料を含むインキの例については前述と同様である。
【0036】
第1の実施の形態における潜像画像(2)は、
図4及び
図5に示すいずれの構成でもよく、
図4及び
図5に示す構成を組み合わせてもよい。例えば、潜像画像(2)の一部を
図4に示す構成のいずれか一つで構成し、その他の潜像画像(2)を
図5に示す構成のいずれか一つで構成してもよい。
【0037】
(発現原理及び効果)
以上の構成から成る第1の実施の形態のセキュリティ媒体(10)は、
図6に示すようにセキュリティ媒体(10)をリーダライタ(5)のような電磁波を発生するもの、電波を発生するもの、磁界を発生するものに翳すことで、コイル型アンテナ(3)での受信により通電し、電気的に接続された発光素子(4)が発光することによって基材(1)に付与された潜像画像(2)が出現する。
【0038】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態は、前述した第1の実施の形態における潜像画像(2)の構成が異なり、さらに判別部(6)を有した透過潜像画像発現構造(20)によって構成される点が第1の実施の形態と異なる。その他の基材(1)、コイル型アンテナ(3)、発光素子(4)及びリーダライタ(5)の構成は第1の実施の形態と同様であるため、これらの詳細な説明については割愛する。
【0039】
第2の実施の形態における透過潜像画像発現構造(20)について
図7を用いて説明する。
図7の透過潜像画像発現構造(20)は、
図7(a)に示すように、潜像画像(2)と判別部(6)から成る。
図7(b)に示すように、基材(1)に付与された潜像画像(2)と判別部(6)が重なることで、反射光下で観察した際に、潜像画像(2)は不可視であるが、発光素子の発光により潜像画像(2)が発現し、さらに観察角度を変化させる又は判別部(6)を移動させて観察すると、潜像画像(2)が変化又は動的効果を持って視認できる。
【0040】
(潜像画像)
潜像画像(2)の構成について、
図8を用いて説明する。ここでは、構成を簡単に説明するため、観察角度を変化又は判別部(6)を移動させた際にアルファベットの文字「A」と、アルファベットの文字「B」で潜像画像(2)が変化する例について説明する。
【0041】
(分断要素)
図8(a)は、本発明の潜像画像(2)の構成を示す図であり、潜像画像(2)は、
図8(b)に示すアルファベットの文字「A」を現す第1の潜像画像(2A)と、
図8(c)に示すアルファベットの文字「B」を現す第2の潜像画像(2B)によって構成される。
【0042】
図8(b)は、第1の潜像画像(2A)の構成を示す図であり、第1の要素幅(W1)の第1の要素(22A)が、第1の方向(S1)に、第1のピッチ(P1)で、万線状に配置されて成る。
図8(b)に示すように、第1の潜像画像(2A)を構成する各々の第1の要素(22A)は、潜像画像(2)として出現する基画像の「A」の文字(図示せず)を分割した各々の要素に対応しており、複数の第1の要素(22A)が合わさることで「A」の文字を現す構成となっている。なお、本明細書において「万線状」とは、要素が規則的に複数配列されている状態をいう。
【0043】
図8(c)は、第2の潜像画像(2B)の構成を示す図であり、第2の要素幅(W2)の第2の要素(22B)が、第1の方向(S1)に、第1の要素(22A)の配置と同じ第1のピッチ(P1)で、万線状に配置されて成る。なお、以降の説明において、個別の要素(22C、22B)を指すのではなく、要素全般を指す場合には要素(22)として説明する。
図8(c)に示すように、第2の潜像画像(2B)を構成する各々の第2の要素(22B)は、潜像画像(2)として出現する基画像の「B」の文字(図示せず)を分割した各々の要素に対応しており、複数の第2の要素(22B)が合わさることで「B」の文字を現す構成となっている。
【0044】
第1の要素(22A)の第1の要素幅(W1)は全て同一であり、第2の要素(22B)の第2の要素幅(W2)も全て同一である必要があるが、第1の要素(22A)の第1の要素幅(W1)と第2の要素(22B)の第2の要素幅(W2)の値は同一であってもよいし、異なっていてもよい。ここでいう同一とは、設計上同一の要素幅で作製し、製造上のあばれ等により要素幅が異なってしまう程度の誤差であれば本発明に含まれる。
【0045】
ここで、それぞれの第1の要素(22A)と第2の要素(22B)の位置関係について説明する。第1の要素(22A)と第2の要素(22B)は重なり合ってはならない。具体的に第1の要素(22A)と第2の要素(22B)は、第1の方向(S1)に位相がずれている必要がある。
図8(a)は、その一例として、第1のピッチ(P1)の2分の1ずれて配置された状態を示している。仮に、第1の要素(22A)と第2の要素(22B)が重なり合って配置された場合には、発光素子(4)の発光時の観察状態において、第1の潜像画像(2A)が現す「A」の文字と、第2の潜像画像(2B)が現す「B」の文字が重なり合った不明瞭な潜像画像(2)が出現するため、そのような構成は避けなければならない。
【0046】
(要素の加工)
要素(22)の加工に関しては、第1の実施の形態における潜像画像(2)と同じように加工される。つまり、要素(22)が反射光下では基材(1)と同じ色で不可視であり、発光素子(4)の発光時に視認できる潜像画像(2)は、基材(1)における潜像画像(2)が構成される部分が、基材(1)における潜像画像(2)が構成された部分以外に対して、光透過性が高い構成か、光透過性が低い構成である。
【0047】
基材(1)と比較して光透過性が高い要素(22)を形成する方法としては、紙を製造する工程で、円網やダンディロールによる公知のすかし技術を用いて、部分的に厚さが薄い構成とすればよい。
図9(a)は、紙の基材(1)にすかし技術を用いて、基材(1)より厚さが薄い要素(22)が形成された状態を示す図であり、
図9(a)に示す配置に対応して、第1の要素(22A)と第2の要素(22B)が交互に形成される。
図9(a)に示す構成の要素(22)は、紙又はポリマーの基材(1)にレーザ加工により、基材(1)の一部を除去したり、エンボス加工により基材の一部の厚みを変えたりすることでも形成することができる。
【0048】
図9(b)は、紙から成る基材(1)に、メジウム等の透明インキ又は透明ニス等によるすかしインキを印刷することで、要素(22A、22B)を形成したすかし技術の例であり、この場合、基材(1)にすかしインキが浸透して、光透過性が高い要素(22A、22B)が形成される。
【0049】
図9(c)は、紙又はポリマーから成る基材(1)に、基材(1)と等色の光遮断性のインキにより、要素(22A、22B)以外の領域を覆うことで、基材(1)自体の光透過性を利用し、部分的に光透過性が高い要素(22)を形成したすかし技術の例である。光遮断性のインキは、基材(1)と等色であれば限定はないが、金属顔料を含むインキは光遮断性が高く、要素(22A、22B)のコントラストが高くなることから好ましい。金属顔料を含むインキの例については前述と同様である。
【0050】
また、基材(1)と比較して光透過性が低い要素(22A、22B)を形成する方法としては、紙を製造する工程で、円網やダンディロールによる公知のすかし技術を用いて、部分的に厚さが厚い構成とすればよい。
図10(a)は、紙から成る基材(1)にすかし技術を用いて、基材(1)より厚さが厚い要素(22A、22B)が形成された状態を示す図である。
図10(a)に示す構成の要素(22A、22B)は、紙又はポリマーの基材(1)にレーザ加工により、要素(22A、22B)の周囲の基材(1)の一部を除去したり、エンボス加工により基材の一部の厚みを変えたりすることでも形成することができる。
【0051】
図10(b)は、紙又はポリマーの基材(1)に、基材(1)と等色の光遮断性のインキを印刷して光透過性の低い要素(22A、22B)を形成したすかし技術の例を示す図である。光遮断性のインキは、前述のように基材(1)と等色であれば、限定はないが、金属顔料を含むインキは光遮断性が高く、要素(22A、22B)のコントラストが高くなることから好ましい。金属顔料を含むインキの例については前述と同様である。
【0052】
第2の実施の形態においても、潜像画像(2)を構成する要素(22A、22B)は
図9及び
図10に示すいずれの構成でもよく、
図9及び
図10に示す構成を組み合わせてもよい。例えば、第1の要素(22A)を
図9に示す構成のいずれか一つで構成し、第2の要素(22B)を
図10に示す構成のいずれか一つで構成してもよい。また、潜像画像(2)を構成する複数の要素(22A、22B)は、基材(1)の一部の領域に形成してもよいし、基材(1)の全体に形成してもよい。
【0053】
(判別部)
次に、本発明を構成する透過潜像画像発現構造(20)を実現する上で、潜像画像(2)を出現させるために必要な判別部(6)について説明する。
図11(a)に判別部(6)の平面図、
図11(b)にその断面図を示す。
図11に示す判別部(6)は、公知のレンチキュラーレンズの構成であり、
図11(a)に示すように、第3の要素幅(W3)のレンズ要素(23)が、第1の方向(S1)に、要素(22)と同じピッチ(P1)で万線状に配置されて成る。また、
図11(b)に示すように、各レンズ要素(23)は、所定の高さ(H)を有している。このレンズ要素(23)の要素高さ(H)については、特に限定されるものではなく、一般的に市販されている公知のレンチキュラーレンズと同様の形状である。なお、
図11に示すレンチキュラーレンズは、レンズ要素(23)が離れて配置された状態を示しているが、レンズ要素(23)同士が隣接して一体型となっている構成であってもよいし、基材(1)の上にレンズ要素(23)が直接付与されて一体型となっている構成でもよい。レンズ要素(23)を付与する方法の詳細については後述する。また、
図11(a)では、図面上分かりやすいように、一部を色付けして図示しているが、本発明におけるレンチキュラーレンズは、透明又は半透明であるため、実際には、ほぼ視認できない色彩となっている。
【0054】
図12(a)は、潜像画像(2)と判別部(6)の関係を示す図であり、一例として、
図9(a)に示す構成の要素(22A、22B)にレンチキュラーレンズを重ねた状態を示している。レンチキュラーレンズを構成するレンズ要素(23)は、
図12(a)に示すように、交互に配置された第1の要素(22A)と第2の要素(22B)に、一つのレンズ要素(23)が重なる必要がある。このため、レンズ要素(23)の第3の要素幅(W3)は、第1の要素(22A)の第1の要素幅(W1)と第2の要素(22B)の第2の要素幅(W2)の和よりも大きい形状とする必要がある。なお、第1の要素(22A)及び第2の要素(22B)を配置する第1のピッチ(P1)と、レンズ要素(23)を配置する第1のピッチ(P1)は、同じであることから、
図12に示すように、一つのレンズ要素(23)に対する第1の要素(22A)と第2の要素(22B)の位置は、全てのレンズ要素(23)において同じ位置に配置される。
【0055】
なお、それぞれの要素(22)の幅(W1、W2)及びレンズ要素の幅(W3)については、前述の第1のピッチ(P1)の幅以下であれば特に限定はない。また、判別部(6)については、前述のとおり、潜像画像(2)を発現させることができればよく、少なくとも潜像画像(2)を覆う範囲の判別部(6)であればよい。
【0056】
図12(a)は、要素(22)が形成された側の基材(1)の表面にレンズ要素(23)が重なる状態を示しているが、
図12(b)に示すように、要素(22)が形成された基材(1)の表面と反対側の表面にレンズ要素(23)を重ねてもよい。また、
図9(b)、
図9(c)、
図10(a)及び
図10(b)に示す要素(22)においても、これと同様にして、レンズ要素(23)を重ねてもよい。
【0057】
(作製方法)
第2の実施の形態における基材(1)と判別部(6)の組合せ方法については、レンチキュラーレンズを別付けとし、潜像画像(2)を発現させたいときにレンチキュラーレンズを重ねる構成でもよく、レンチキュラーレンズのようなレンズ要素(23)を予め基材(1)に付与した構成としてもよい。
【0058】
レンズ要素(23)を予め基材(1)に付与する方法として、レンチキュラーレンズを例に説明する。基材(1)に、レンチキュラーレンズから成るフィルタを形成する方法としては、市販されているフィルタから、要素(22)の第1のピッチ(P1)に対応したレンチキュラーレンズを適宜選択して用い、接着剤により基材(1)に固定すればよい。なお、あらかじめ選択したレンチキュラーレンズに対応した第1のピッチ(P1)の要素(22)を基材(1)に形成してもよい。また、スクリーン印刷や凹版印刷、UVインキジェットプリンタのような盛りのある印刷ができる印刷装置によって、透明な樹脂を印刷材料として用いて印刷し、レンズ要素(23)を形成してもよい。また、基材(1)に所定の厚さの樹脂を塗布した後、エンボス成型により、レンズ要素(23)を形成してもよい。なお、レンズ要素(23)を形成するための透明な樹脂としては、ポリエステルアクリレート系、エポキシアクリレート系、ウレタンアクリレート系、ポリオールアクリレート等の紫外線硬化型樹脂がある。
【0059】
(発現原理及び効果)
本発明の透過潜像画像発現構造(20)は、反射光下で観察すると、潜像画像(2)は基材(1)と等色であることから視認することはできない。一方、
図13(a)に示すように、基材(1)に対して傾いた角度(α1)から発光素子(4)が発光している状態で観察すると、第1の要素(22A)と第2の要素(22B)を透過する光のうち、レンズ要素(23)から成るレンチキュラーレンズを通して第2の要素(22B)のみがサンプリングされることで、複数の第2の要素(22B)から構成された「B」の文字が第2の潜像画像(2B)として視認できる。また、
図13(a)に示すように、光透過性が高い要素(22)が形成されている場合、「B」の文字の第2の潜像画像(2B)は、基材(1)より明るく視認できる。
【0060】
また、
図13(b)に示すように、基材(1)に対して傾いた別の角度(α2)から発光素子(4)が発光している状態で観察すると、第1の要素(22A)と第2の要素(22B)を透過する光のうち、レンズ要素(23)から成るレンチキュラーレンズを通して第1の要素(22A)のみがサンプリングされることで、複数の第1の要素(22A)から構成された「A」の文字が、第1の潜像画像(2A)として基材(1)より明るく視認できる。
【0061】
以上の構成から成る第2の実施の形態のセキュリティ媒体(10)は、反射光下で潜像画像(2)は不可視であるが、
図14(a)及び
図14(b)に示すように、判別部(6)が積層されたセキュリティ媒体(10)をリーダライタ(5)のような電磁波を発生するもの、電波を発生するもの、磁界を発生するものに翳すことで、コイル型アンテナ(3)の受信により通電し、電気的に接続された発光素子(4)の発光とレンズ要素(23)の効果により基材(1)に付与された第1の潜像画像(2A)又は第2の潜像画像(2B)が出現する。また、観察角度の変化又は判別部(6)の位置をずらすことで、レンズ要素(23)によってサンプリングされる潜像画像(2)が第1の潜像画像(2A)と第2の潜像画像(2B)で変わることから、視認できる潜像画像(2)が変化する効果が得られる。
【0062】
ここでは、潜像画像(2)の構成を簡単に説明するため、「A」と「B」の文字が視認できる例について説明したが、別の図柄に対応した要素(22)を第1の要素(22A)と第2の要素(22B)と重ならない配置で形成することで、更に多くの図柄の潜像画像(2)を形成することもできる。また、潜像画像(2)の図柄は、文字に限定されるものではなく、記号、図形や任意の絵柄等であってもよい。また、ここでは、
図9(a)に示す構成の要素(22)に判別部(6)を重ねた場合の効果について説明したが、要素(22)を、
図10に示すような部分的に光透過性が低い構成とした場合、基材(1)より暗い潜像画像(2)が視認される。
【0063】
また、透過潜像画像発現構造(20)において、
図13(a)に示すように、第2の要素(22B)の厚さが一定の場合は、一様な明るさの「B」の文字の第2の潜像画像(2B)が視認されるが、第2の要素(22B)の厚さを異ならせた場合、厚さが薄い程、明るく視認されることから、第2の潜像画像(2B)が明暗を伴って視認される。また、複数配置される第2の要素(22B)の一端から他端にかけて徐々に厚さが薄くなる構成にすることで、第2の潜像画像(2B)となる「B」の文字も、一端から他端にかけて徐々に明るくなるグラデーションとして視認される。
【0064】
本発明において、判別部(6)の例としたレンチキュラーレンズを構成するレンズ要素(23)は、
図11に示す半球状の構成の他に、フレネルレンズでもよく、この場合、透過潜像画像発現構造(20)全体の厚さが薄くなることから好ましい。
【0065】
(その他の要素構成)
本発明において、判別部(6)を用いて潜像画像(2)を発現させることが可能な要素構成の例として、上述した要素構成以外の例を以下に説明する。
【0066】
(第3の実施の形態)
図15(a)は、インテグラルフォトグラフィ方式の立体画像の形成方法を利用して、発光素子(4)の発光時の観察で基画像(11)が潜像画像(2)として出現し、観察する角度を傾けることにより、出現した潜像画像(2)が動いて見える、動画効果を生じさせることが可能な第3の潜像画像(2C)の形態である。ここでは、
図15(b)に示す「森」の文字を基画像(11)とした例について説明する。
【0067】
図15(a)の第3の潜像画像(2C)は、基画像(11)の「森」の文字を基にして形成した第3の要素(22C-1、22C-2、・・・、22C-n(nは、2以上の自然数とする。))が、
図11(a)に示すレンズ要素(23)の第1のピッチ(P1)以下の第4の要素幅(W4)、かつ、レンズ要素(23)の第1のピッチ(P1)と同じ第1のピッチ(P1)で万線状に第1の方向(S1)に複数配置されて成る。本実施の形態において、個別の第3の要素(22C-1、22C-2、・・・、22C-n)を指すのではなく、要素全般を指す場合には要素(22C)として説明する。なお、第3の要素(22C)の第4の要素幅(W4)が、レンズ要素(23)の第1のピッチ(P1)を超えて形成されると、第3の要素(22C)と隣り合う第3の要素(22C)が重なり合う領域ができ、出現する第3の潜像画像(2C)が複数重なり合った状態で出現してしまう場合があることから、第3の要素(22C)の第4の要素幅(W4)は、第1のピッチ(P1)以下に留めて設計する必要がある。
【0068】
第3の潜像画像(2C)の具体的な構成について説明する。第3の要素(22C)は、基画像(11)である「森」の文字の上に、一定のピッチ(P)でレンズ要素(23)が連続して配置された縦スリットタイプのレンチキュラーレンズを重ねた場合に、レンチキュラーレンズを通して観察される画像を、画像処理ソフトで擬似的に再現したものである。第3の潜像画像(2C)は、複数の第3の要素(22C-1、22C-2、・・・、22C-n)から構成されており、個々の第3の要素(22C-1、22C-2、・・・、22C-n)は、基画像(11)である「森」の文字の一部分が特定の割合で左右に圧縮されて形成されて成る。
【0069】
第3の潜像画像(2C)を構成する第3の要素(22C-1、22C-2、・・・、22C-n)は、図面左から第3の要素(22C-1)、第3の要素(22C-2)、・・・、第3の要素(22C-n)とした場合、それぞれ第1のピッチ(P1)ずつ位相が第1の方向(S1)へずれて配置されている。第3の要素(22C-1、22C-2、・・・、22C-n)の第4の要素幅(W4)は、
図11(a)に示したレンズ要素(23)の第1のピッチ(P1)以下の幅で構成されることから、要素(22C)同士が重なり合うことはない。
【0070】
図16に、第3の潜像画像(2C)を形成している第3の要素(22C-1、22C-2、・・・、22C-n)の構成を示す。複数の第3の要素(22C-1、22C-2、・・・、22C-n)のうち、第3の潜像画像(2C)において、図面一番左側に位置する第3の要素(22C-1)、図面ほぼ中央に位置する第3の要素(22C-16)及び図面右側に位置する第3の要素(22C-28)を抜き出して説明する。図示はしていないが、第3の要素(22C-1)と第3の要素(22C-16)の間には、当然、第3の要素(22C-2)から第3の要素(22C-15)までが第1のピッチ(P1)で配置されて成り、同様に、第3の要素(22C-16)と第3の要素(22C-28)の間には、第3の要素(22C-17)から第3の要素(22C-27)までが第1のピッチ(P1)で配置されて成る。第3の要素(22C-1、22C-16、22C-28)は、基画像(11)である「森」の文字に対して、特定の大きさのフレーム(13-1、13-16、13-28)を当てはめることで基画像(11)を分割し、分割された基画像(11)をそれぞれのフレーム内画像(12-1、12-16、12-28)として抜き出し、このフレーム内画像(12-1、12-16、12-28)を第4の要素幅(W4)に圧縮して形成して成る。
【0071】
基画像(11)に当てはめるフレームの高さは、基画像(11)の高さ以上であればよく、
図16に示すフレームの第5の要素幅(W5)は、基画像(11)の幅以下である必要がある。よって、第3の潜像画像(2C)の左端に位置する第3の要素(22C-1)には、基画像(11)の左端部分の画像のみが含まれ、第3の潜像画像(2C)のほぼ中央に位置する第3の要素(22C-16)には、基画像(11)の中央部分の画像のみが含まれ、第3の潜像画像(2C)の右側に位置する第3の要素(22C-28)には、基画像(11)の右部分の画像のみが含まれている。
【0072】
図17を用いて、具体的な第3の潜像画像(2C)の作製手順の一例を説明する。まず、STEP1として、すべてのフレーム位置の基準となる図面実線で示した最左端のフレーム(13-1)位置を決定する。基準となる最左端のフレーム(13-1)の位置は、フレーム(13-1)の右辺が基画像(11)の左端にわずかに重なった位置とする。ここでいう「わずかに重なった位置」とは、フレーム(13-1)と基画像(11)が少しでも重なっている状態の位置のことであり、まったく重ならない位置を除いた状態のことである。このフレーム(13-1)内に含まれる基画像(11)をフレーム内画像(12-1)として、このフレーム内画像(12-1)を第4の要素幅(W4)に圧縮し、第3の要素(22C-1)を形成して配置する。
【0073】
次に、STEP2として、図面点線で示した左端のフレーム(13-1)の位置から第1のピッチ(P1)だけ右側にずらして、図面実線で示したフレーム(13-2)の位置を決定する。フレーム(13-2)内に含まれる基画像(11)をフレーム内画像(12-2)とし、同様に第4の要素幅(W4)に圧縮して第3の要素(22C-2)を作製し、第3の要素(22C-1)から第1のピッチ(P1)だけ離して右側に配置する。
【0074】
次に、STEP3として、同様に、図面点線で示したフレーム(13-2)の位置から第1のピッチ(P1)だけ右側にずらして、図面実線で示したフレーム(13-3)の位置を決定する。フレーム(13-3)内に含まれる基画像(11)をフレーム内画像(12-3)とし、同様に第4の要素幅(W4)に圧縮して第3の要素(22C-3)を作製し、第3の要素(22C-2)から第1のピッチ(P1)だけ離して右側に配置する。この手順をSTEPnまで繰り返し、フレーム内に基画像(11)が含まれない位置まで達した時点で第3の要素(22C)の作製が終了する。つまり、フレーム(13-n)まで同様の手順を繰り返し、最後に第3の要素(22C-n)を配置して第3の潜像画像(2C)が完成する。この第3の潜像画像(2C)の作製には市販の画像処理ソフトを用いればよい。なお、上記の作製手順では、基準となるフレームの位置を基画像(11)の左端を基準点に作製したが、これに限定されるわけではなく、基画像(11)の中心や右端を基点にして作製しても何ら問題ない。
【0075】
このように、本実施の形態における第3の要素(22C)は、基画像(11)を基にして分割されたフレーム内画像を横方向、縦方向又は両方向に第1の縮率で圧縮した形状の異なる要素のことであり、それぞれの第3の要素(22C)は、すべて同じ縮率で形成されている。
【0076】
なお、本発明における「基画像を基にして分割されたフレーム内画像」とは、基画像(11)の中心点と第3の潜像画像(2C)の中心点を重ね合わせたと仮定した場合に、第3の潜像画像(2C)を形成しているそれぞれの第3の要素(22C)における幅方向の中心に、特定の大きさのフレームにおける幅方向の中心を当てはめた場合に、そのフレーム内に収まっている基画像(11)のことである。したがって、基画像(11)を単純に複数に分割しているわけではないため、
図17に示すように、フレーム内画像(12-2)には、隣接するフレーム内画像(12-1)の一部が含まれており、さらにフレーム内画像(12-3)には、隣接するフレーム内画像(12-2)の一部が含まれており、このように隣接するフレーム内画像には、それぞれ重複する基画像(11)の一部が存在することとなる。
【0077】
また、第3の要素(22C)を圧縮する方向は、縦方向、横方向又は斜め方向等の一方向に対して画像を圧縮するものと、縦方向と横方向の両方向(単純な縮小)の圧縮とが可能である。本実施の形態における「第1の縮率」とは、一つの第3の潜像画像(2C)を形成している複数の第3の要素(22C)同士が、全て同じ縮率であるという意味である。ただし、縦方向と横方向の両方向に圧縮する場合は、縦方向の縮率と横方向の縮率を異ならせても良いが、この場合も一つの第3の潜像画像(2C)を形成している複数の第3の要素(22C)同士は、すべて同じ縮率で形成される。なお、インテグラルフォトグラフィ方式の立体画像の形成方法の詳細については、例えば、特許第5200284号公報に記載されており、特許第5200284号公報に記載の要素、画素の構成を本発明の第3の要素(22C)の構成に応用することができる。
【0078】
(発現原理及び効果)
図15(a)に示した第3の潜像画像(2C)を備えたセキュリティ媒体(10)を反射光下で観察すると、第3の要素(22C)は、基材(1)と等色であることから視認することはできない。一方、セキュリティ媒体(10)に判別部(6)を積層させ、発光素子(4)が発光した状態で観察すると、基画像(11)である「森」の文字が第3の潜像画像(2C)として視認でき、さらに、観察する角度を変化させる、又は判別部(6)の位置を第1の方向(S1)に移動させると第3の潜像画像(2C)が第1の方向(S1)に動く様子を視認することができる。
【0079】
(第4の実施の形態)
図18は、モアレ拡大現象を利用して潜像画像(2)として拡大モアレが出現し、観察する角度を傾けることにより、出現した拡大モアレが動いて見える動画効果が生じる第4の潜像画像(2D)の形態である。ここでは、
図18(b)に示す「J」の文字を基画像(11)とした例について説明する。
【0080】
モアレ拡大現象を利用する第4の潜像画像(2D)は、
図18(a)に示すように、レンチキュラーレンズ又は万線フィルタ等の判別部(6)の方向と直交する第1の方向(S1)に基画像(11)を圧縮した第6の要素幅(W6)を有する第4の要素(22D)を、判別部(6)の第1のピッチ(P1)と異なる第2のピッチ(P2)で複数配置した構成である。第4の要素(22D)を配置する第2のピッチ(P2)は、判別部(6)の第1のピッチ(P1)より大きくてもよいし、小さくてもよいが、モアレ拡大現象が生じるために、一方のピッチの値が、他方のピッチの値で割り切れる数値であってはならない。なお、一方のピッチの値が、他方のピッチの値の80%から120%(100%を除く)程度の数値である場合、視認性が高く、動画効果も高い拡大モアレが出現することから好ましい。また、このモアレ拡大現象を利用した要素構成は、
図16に記載の構成に限定されるものではなく、特許第4844894号公報、特許第5131789号公報等に記載のその他の要素構成を用いてもよい。
【0081】
(発現原理及び効果)
図18(a)に示した第4の潜像画像(2D)を備えたセキュリティ媒体(10)を反射光下で観察すると、第4の要素(22D)は、基材(1)と等色であることから視認することはできない。一方、セキュリティ媒体(10)に判別部(6)を積層させ、発光素子(4)が発光した状態で観察すると、モアレ拡大現象により、「J」の文字の拡大モアレが第4の潜像画像(2D)として視認でき、さらに、観察する角度を変化させる、又は判別部(6)の位置を第1の方向(S1)に移動させると第4の潜像画像(2D)が第1の方向(S1)に動く様子を視認することができる。
【0082】
なお、第3の実施の形態及び第4の実施の形態においては、判別部(6)としてレンチキュラーレンズを使用した場合で説明したが、レンチキュラーレンズの代わりに、液晶、偏光板、コイル型アンテナ(3)を有する液晶部を用いても本実施の形態における潜像画像(2)のチェンジ又は動的効果の少なくとも一方を視認することができる。さらに、液晶部に基板を設けてコイル型アンテナ(3)と接続し、液晶における光が通過する位置を制御することによって潜像画像(2)の複雑なチェンジ又は動的効果の少なくとも一方を発現させることも可能である。
【0083】
(実施例1)
以下、発明を実施するための形態にしたがって、 本発明のセキュリティ媒体(10)の実施例について図面を用いて説明するが、本発明は、この実施例に限定されるものではない。
【0084】
実施例1は、第1の実施の形態で説明したセキュリティ媒体(10)の基本形態であり、
図1に示すように、基材(1)の裏面に発光素子及びコイル型アンテナを付与する方法である。
【0085】
(基材)
使用する基材はアバカパルプを用いて、厚さは約100μmの抄造紙を作製した。
【0086】
(潜像画像の加工)
上記基材(1)の抄造紙を作製する際に、湿紙条件時にダンディロールに付与した凹凸模様を湿紙に転写し、乾燥させることですかしである要素(22)を有する基材(1)を作製した。
【0087】
(発光素子及びコイル型アンテナ)
発光素子(4)及びコイル型アンテナ(3)は一体型(共立プロダクツ製、NFC非接触発光LED型番:NP-NFLEP)を用いた。
【0088】
(発光素子及びコイル型アンテナの付与)
上記要素(22)を付与した基材(1)に対し、上記の発光素子(4)及びコイル型アンテナ(3)の一体型をPVA糊で基材(1)の裏面に貼り付けてセキュリティ媒体(10)を作製した。貼り付けた位置は、要素(22)が形成されている領域と重なる位置とした。
【0089】
(効果)
上記のセキュリティ媒体(10)を表面側から反射光下で観察すると、無地の基材色のみが視認され、裏面側から反射光下で観察すると、無地の基材色及び一体型の発光素子(4)及びコイル型アンテナ(3)が視認されるが、潜像画像(2)は視認できなかった。しかし、小型リーダライタ(SONY製、型番:RC-S380)やリーダライタ(株式会社アート製、W-LINE出入管理リーダ型番:WML-50)等のNFC機能によって電磁波を発生させる装置にセキュリティ媒体(10)を近づけると、コイル型アンテナ(3)の通電によりコイル型アンテナ(3)と接続された発光素子(4)が発光し、潜像画像(2)である顔画像を視認することができた。なお、iphone12(apple社製)のNFC機能によっても電磁波が発生するため、セキュリティ媒体(10)を近づけると発光素子(4)が発光し、潜像画像(2)の発現を確認できた。
【0090】
(実施例2)
実施例2は、第1の実施の形態で説明したセキュリティ媒体(10)の応用例であり、基材(1)の内部に発光素子(4)及びコイル型アンテナ(3)を付与した形態である。実施例2においても、発光素子(4)及びコイル型アンテナ(3)は一体型(共立プロダクツ製、NFC非接触発光LED型番: NP-NFLEP)を用いた。
【0091】
(基材)
使用する紙はN・B・KP(針葉樹晒クラフトパルプ)を用いて、シートマシン(JIS P 8222記載)により坪量100g/m2の基材(1)となる手すきシートを作製した。
【0092】
(潜像画像の加工)
上記手すきシートを作製する際に、シートマシンで使用する脱水用網にすかしとして付与する模様部分の網目を埋めることですき入紙を作製した。
【0093】
(発光素子及びコイル型アンテナの付与)
さらに、シートマシンによって上記のすき入紙を作製する際、脱水始めの紙層が形成される際に前述する一体型の発光素子(4)及びコイル型アンテナ(3)をピンセットで配置し、残りの繊維が紙層に堆積することで、紙層内に発光素子(4)及びコイル型アンテナ(3)を付与することで、要素(22)を有する基材(1)の内部に発光素子(4)及びコイル型アンテナ(3)が付与されたセキュリティ媒体(10)を作製した。
【0094】
なお、上記の発光素子(4)及びコイル型アンテナ(3)をピンセットで配置するタイミングを調整することで、発光素子(4)及びコイル型アンテナ(3)が完全に基材(1)の中に埋没した形態や、半分露出した形態など適宜作製可能であるが、今回は完全に埋没した形態を作製した。また、発光素子(4)及びコイル型アンテナ(3)を付与した位置は、実施例1と同様に要素(22)が形成されている領域と重なる位置とした。
【0095】
(効果)
上記のセキュリティ媒体(10)を表裏双方から反射光下で観察すると、無地の基材色と、発光素子(4)及びコイル型アンテナ(3)が薄く透けて視認されるが、潜像画像(2)は視認できなかった。しかし、実施例1と同様にリーダライタ等の装置にセキュリティ媒体(10)を近づけると、コイル型アンテナ(3)の通電によりコイル型アンテナ(3)と接続された発光素子(4)が発光し、潜像画像(2)である顔画像を視認することができた。
【0096】
(実施例3)
実施例3は、第2の実施の形態で説明したセキュリティ媒体(10)である。実施例3においても、発光素子(4)及びコイル型アンテナ(3)は一体型(共立プロダクツ製、NFC非接触発光LED型番: NP-NFLEP)を用いた。
【0097】
(基材)
使用する基材(1)はアバカパルプを用いて、厚さは約100μmの抄造紙を作製した。また、潜像画像(2)となるすかしは実施例1と同様にダンディロールを使用して付与した。
【0098】
(潜像画像の加工)
上記の潜像画像(2)について
図8を用いて説明する。
図8(a)に示すように、潜像画像(2)は、2種類の画像「A」及び「B」を複合した画像であり、
図8(b)に示す第1の潜像画像(2A)である「A」の画像と
図8(c)に示す第2の潜像画像(2B)である「B」の画像から成る。第1の潜像画像(2A)を構成する第1の要素(22A)及び第2の潜像画像(2B)を構成する第2の要素(22B)は、いずれも要素幅(W1、W2)を318μmとし、ピッチ(P1)を636μmとして、第1の方向(S1)に複数形成した。なお、第1の要素(22A)と第2の要素(22B)は、第1の方向(S1)に318μmずらした配置とした。
【0099】
(発光素子及びコイル型アンテナの付与)
上記潜像画像(2)を付与した基材(1)に対し、上記の発光素子(4)及びコイル型アンテナ(3)の一体型をPVA糊で基材(1)の裏面に貼り付けてセキュリティ媒体(10)を作製した。貼り付けた位置は、要素(22)が形成されている領域と重なる位置とした。
【0100】
本実施例では判別部(6)として
図11に示すレンチキュラーレンズを使用した。レンチキュラーレンズの構成は線数40Lpi、高さ830μm、レンズ部高さ(H)162μm、視野角が49°とした。
【0101】
(効果)
上記のセキュリティ媒体(10)を表面側から反射光下で観察すると、無地の基材色のみが視認され、裏面側から反射光下で観察すると、無地の基材色及び一体型の発光素子(4)及びコイル型アンテナ(3)が視認されるが、潜像画像(2)は視認できなかった。しかし、セキュリティ媒体(10)に対してレンチキュラーレンズを重ねて、実施例1と同様にリーダライタ等の装置にセキュリティ媒体(10)を近づけると、コイル型アンテナ(3)の通電によりコイル型アンテナ(3)と接続された発光素子(4)が発光し、第1の潜像画像(2A)である「A」の画像が視認された。さらに、セキュリティ媒体(10)の角度を変化させると、第2の潜像画像(2B)である「B」の画像が視認され、潜像画像(2)のチェンジ効果を確認することができた。
【符号の説明】
【0102】
1 基材
2 潜像画像
2A 第1の潜像画像
2B 第2の潜像画像
2C 第3の潜像画像
2D 第4の潜像画像
3 コイル型アンテナ
4 発光素子
5 リーダライタ
6 判別部
10 セキュリティ媒体
11 基画像
12-1、12-16、12-28 フレーム内画像
13-1、13-16、13-28 フレーム
20 透過潜像画像発現構造
22 要素
22A 第1の要素
22B 第2の要素
22C、22C-1、22C-2、22C-15、22C-16、22C-17、22C-27、22C-28、22C-n 第3の要素
22D 第4の要素
23 レンズ要素