(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104549
(43)【公開日】2024-08-05
(54)【発明の名称】検査装置を備えた印刷機
(51)【国際特許分類】
B41F 33/00 20060101AFI20240729BHJP
B41F 33/06 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
B41F33/00 280
B41F33/06 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008827
(22)【出願日】2023-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】303017679
【氏名又は名称】独立行政法人 国立印刷局
(72)【発明者】
【氏名】志賀 敬之
(72)【発明者】
【氏名】松本 幹生
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 崇
(72)【発明者】
【氏名】矢部 真之介
【テーマコード(参考)】
2C250
【Fターム(参考)】
2C250EA31
2C250EB16
(57)【要約】
【課題】印刷模様を検査する装置を有した印刷機を提供する。
【解決手段】
可視光下において視認できる地紋模様と凹版模様を撮影し、第1データとして取得する第1の取得機構と、特定条件下において視認できる機能性インキによって印刷された地紋模様と凹版模様を撮影し、第2データとして取得する第2の取得機構を有する検査部と、検査部から得られた第1データ及び第2データと、可視光下において視認できる地紋模様と凹版模様を予め記憶した第1の基準データ及び特定の条件下でのみ視認できる機能性インキによって印刷された地紋模様と凹版模様を予め記憶した第2の基準データとを、それぞれ比較し、良否判定を行う判定機構と、判定機構における判定結果に基づき、指令を出す指令機構から成る制御部を備えた印刷機とした。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートを供給する給紙部と、前記給紙部の下流側に配置され、地紋模様を印刷するための地紋模様印刷部と、前記地紋模様印刷部の下流側に配置され、凹版模様を印刷するための凹版模様印刷部と、前記凹版模様印刷部の下流側に配置され、前記シートを排紙する排紙部と、を少なくとも備えた印刷機であって、前記印刷機は更に検査部と、制御部を備え、
前記検査部は、前記凹版模様印刷部と前記排紙部の間に配置され、前記シートに印刷された可視光下において視認できる前記地紋模様と前記凹版模様を撮影し、第1データとして取得する第1の取得機構と、特定条件下において視認できる機能性インキによって印刷された前記地紋模様と前記凹版模様を撮影し、第2データとして取得する第2の取得機構の少なくとも一方の取得機構を有し、
前記制御部は、前記検査部によって得られた前記第1データ及び/又は前記第2データと、可視光下において視認できる前記地紋模様と前記凹版模様を予め記憶した第1の基準データ及び/又は特定の条件下でのみ視認できる機能性インキによって印刷された前記地紋模様と前記凹版模様を予め記憶した第2の基準データとを、それぞれ比較し、良否判定を行う判定機構と、前記判定機構における判定結果に基づき、良と判定された前記シートと、否と判定された前記シートを区分けして排紙するための指令を出す指令機構を有することを特徴とした印刷機。
【請求項2】
前記地紋模様印刷部は、地紋横引出インカーを前記シートの搬送方向に対して、直交する方向への移動を可能とした地紋印刷部移動機構を備えたことを特徴とした請求項1に記載の印刷機
【請求項3】
前記凹版模様印刷部は、凹版インカーを前記シートの搬送方向に対して、直交する方向への移動を可能とした凹版印刷部移動機構を備えたことを特徴とした請求項1に記載の印刷機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地紋印刷と凹版印刷をシートに施し、印刷したシートの券面検査を行う印刷機に関する。
【背景技術】
【0002】
日本銀行券や株券、債券等の有価証券は、偽造防止を図るために多色の印刷が施されている。この種の印刷を可能とした印刷機としては、地紋印刷部と凹版印刷部を備えたものであり、地紋印刷と凹版印刷とをいわゆる1パスで行うコンビネーション印刷機が用いられ(例えば、特許文献1参照)、地紋印刷ユニットと凹版印刷ユニットに加え、印刷したシートを検査する検査手段を有する印刷機が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3735642号
【特許文献2】特許第6061416号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献2に示した印刷機には、凹版模様を検査する検査装置が搭載されておらず、凹版模様における異常は、印刷工程より後工程にて異常製品が発見されるため、品質異常製品が大量に後工程に流れる可能性がある。また、後工程で異常製品が発見されることで、印刷工程への情報のフィードバックに時間がかかり、印刷工程での対応が遅れることがあった。
【0005】
また、特許文献1に示したコンビネーション印刷機は、地紋模様印刷部及び凹版模様印刷部におけるインカーが、用紙搬送方向と同方向に移動する機構である。したがって、インカーの移動スペース及びインカー内部における作業員の作業スペースを確保するため、印刷機全体のサイズは大型なものとなり、設置場所の制約を受けていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
シートを供給する給紙部と、給紙部の下流側に配置され、地紋模様を印刷するための地紋模様印刷部と、地紋模様印刷部の下流側に配置され、凹版模様を印刷するための凹版模様印刷部と、凹版模様印刷部の下流側に配置され、シートを排紙する排紙部と、を少なくとも備えた印刷機であって、印刷機は更に検査部と、制御部を備え、検査部は、凹版模様印刷部と排紙部の間に配置され、シートに印刷された可視光下において視認できる地紋模様と凹版模様を撮影し、第1データとして取得する第1の取得機構と、特定条件下において視認できる機能性インキによって印刷された地紋模様と凹版模様を撮影し、第2データとして取得する第2の取得機構の少なくとも一方の取得機構を有し、制御部は、検査部によって得られた第1データ及び前記第2データと、可視光下において視認できる地紋模様と凹版模様を予め記憶した第1の基準データ及び特定の条件下でのみ視認できる機能性インキによって印刷された地紋模様と凹版模様を予め記憶した第2の基準データとを、それぞれ比較し、良否判定を行う判定機構と、判定機構における判定結果に基づき、「良」と判定されたシートと、「否」と判定されたシートを区分けして排紙するための指令を出す指令機構を有することを特徴とした印刷機である。
【0007】
凹版模様印刷部は、凹版インカーをシートの搬送方向に対して、直交する方向への移動を可能とした凹版印刷部移動機構を備え、地紋模様印刷部は、地紋横引出インカーをシートの搬送方向に対して、直交する方向への移動を可能とした地紋印刷部移動機構を備えたことを特徴とした印刷機である。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る印刷機によれば、印刷機上で製品の異常製品を確認することが可能となるため、印刷工程での対応及び後工程への異常製品の流出防止が可能となる。
【0009】
また、凹版印刷部及び地紋印刷部において、インカー横引出機構を設けることで、省スペースが図られることから、限られたスペースの中で検査装置を搭載することが可能となり、正紙と損紙を区分けして排紙するための損紙パイルを設けることができる。損紙パイルを設けることで、正紙と損紙の区分け作業の負荷を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明における印刷機のブロック図を示す図である。
【
図2】本発明における印刷機の概要を示す図である。
【
図3】本発明における印刷機の給紙部の詳細を示す図である。
【
図4】本発明における印刷機の地紋模様印刷部の詳細を示す図である。
【
図5】地紋模様印刷部における地紋印刷部移動機構の概要を示す図である。
【
図6】地紋模様印刷部における地紋印刷部移動機構の概要を示す図である。
【
図7】本発明における印刷機の凹版模様印刷部の詳細を示す図である。
【
図8】凹版模様印刷部における凹版印刷部移動機構の概要を示す図である。
【
図9】凹版模様印刷部における凹版印刷部移動機構の概要を示す図である。
【
図10】本発明における検査部のブロック図を示す。
【
図11】本発明における印刷機の検査部及び排紙部の詳細を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態について図面を用いて説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載における技術的思想の範囲内であれば、その他様々な形態が実施可能である。
【0012】
図1は、本発明に係る印刷機(1)のブロック図である。
図1に示すように本発明の印刷機(1)は、少なくとも給紙部(10)と、地紋模様印刷部(20)と、凹版印刷模様部(30)と、検査部(40)と、制御部(50)と、排紙部(60)とを備えている。
【0013】
図2は、本発明に係る印刷機(1)の概略図である。印刷機(1)は、シートを供給する給紙部(10)の下流側(
図2中S1方向)に、地紋模様印刷部(20)、凹版模様印刷部(30)、検査部(40)、排紙部(60)が順次配置されていく。なお、制御部(50)は検査部(40)の近傍に位置すれば、配置場所は問わない。以下、各部の詳細な構成と動作について説明する。
【0014】
図3は、給紙部(10)の詳細を示した図である。給紙部(10)は、給紙用積層台(11)、フィーダボード(12)、渡胴(13)を備えて成る。
【0015】
給紙用積層台(11)は昇降可能に支持されており、給紙用積層台(11)には印刷前のシートが積層されている。給紙用積層台(11)が、給紙準備位置まで上昇し、最上部のシートが一枚ずつフィーダボード(12)へと送給される。給紙用積層台(11)は、送給量に応じて最上部のシートが、常時一定の位置に配置されるように自動上昇する。
【0016】
フィーダボード(12)における下流側(
図3に示す矢印S1方向)には、第1の渡胴(13a)が配設される。また、第1の渡胴(13a)の
図3におけるS1方向に沿った下流側には、第2の渡胴(13b)が対接している。渡胴(13)は、咥え爪(図示せず)を有しており、フィーダボード(12)から、シートを一枚ずつ受け取ることができるようになっており、第2の渡胴(13b)を介して地紋模様印刷部(20)へ搬送される。
【0017】
図4(a)は、地紋模様印刷部(20)を示した図であり、
図4(b)は、
図4(a)における一点鎖線で囲んだ領域の拡大図である。地紋模様印刷部(20)は、地紋インカー(21)、地紋横引出インカー(22)、地紋模様印刷ユニット(23)、ブラン胴(24)、地紋圧胴(25)、渡胴(26)、地紋印刷部移動機構(27)、地紋インキ乾燥部(28)を備えて成る。以下、地紋模様印刷部(20)の詳細な構成について説明する。
【0018】
地紋インカー(21)は、少なくとも1つ以上の地紋印刷ユニット(23)を有する。更に地紋模様印刷ユニット(23)は、地紋インキつぼ(23a)、呼び出しローラ(23b)、練ローラ(23c)を備えて成る。
【0019】
地紋横引出インカー(22)は、地紋インカー(21)と接続され、少なくとも一つ以上の地紋版胴(22a)を有して成る。また、地紋版胴(22a)には、地紋版面(22b)が装着されている。
【0020】
地紋模様印刷ユニット(23)は、一色につき一つのユニットにて構成される。地紋インキつぼ(23a)に投入された地紋インキは、
図4中における矢印S1方向に沿って、呼び出しローラ(23b)及び練ローラ(23c)を介し、地紋版面(22b)へと転写される。なお、
図4(a)では、地紋模様印刷ユニット(23)を6個配置した構成を示したが、地紋模様印刷ユニット(23)の数は特に限定されるものではなく、地紋模様印刷ユニット(23)の数を増減させることで、地紋印刷に用いる色数を変更することができる。
【0021】
地紋版面(22b)へと転写された地紋インキは、ブラン胴(24)を介し、地紋圧胴(25)において、給紙部(10)から供給されるシートに地紋インキが転写される。また、地紋模様が印刷されたシートは、地紋インキ乾燥部(28)を経て、凹版模様印刷部(30)へと搬送される。なお、
図4(a)においては渡胴(26)を4つ配置した構成を示したが、渡胴(26)の数は特に限定されるものではない。
【0022】
地紋インキ乾燥部(28)は、渡胴(26)の近傍に配置される。地紋インキ乾燥部(28)によってシートに印刷された地紋インキは、地紋インキ乾燥部(28)からの紫外光又はLEDの照射によって乾燥される。なお、
図4においては、渡胴(26)の下部に地紋インキ乾燥部(28)を配置した構成を示したが、搬送されるシートを照射できる位置であれば、配置は特に限定されるものではなく、渡胴(26)の上部に配置してもよい。
【0023】
図5及び
図6を用いて地紋印刷部移動機構(27)について説明する。地紋印刷部移動機構(27)は、地紋横引出インカー(22)をシートの搬送方向に対して直交する方向へ移動させるための機構である。
図5(a)は、地紋横引出インカー部(22)を移動させる前の状態を示し、
図5(b)は地紋横引出インカー(22)を移動させた後の状態を示す。また、
図6は地紋模様印刷部(20)を上から見た図である。地紋印刷部移動機構(27)は、地紋インカー部(21)を前後に移動させるための地紋インカー前後移動レール(27a)と、地紋横引出インカー(22)を印刷機(1)の外へと移動させるための地紋インカー横引出レール(27b)と地紋切替レール(27c)を有している。
図6においては、地紋インカー前後移動レール(27a)と地紋インカー横引出レール(27b)はそれぞれ2本のレールが平行に設けられ、地紋切替レール(27c)は4本の回転可能なレールから成り、地紋インカー前後移動レール(27a)と地紋インカー横引出レール(27b)は、90°で交差して成る構成を示しているが、レールの本数及びレールの成す角度は特に限定されるものではない。
【0024】
図6を用いて地紋横引出インカー(22)を移動させる手順について説明する。最初に、地紋インカー(21)を、地紋インカー前後移動レール(27a)に沿った方向(図中矢印S2方向)に移動させる。次に、地紋横引出インカー部(22)を支持する車輪(図示せず)が地紋切替レール(27c)の位置に来るまで地紋横引出インカー(22)を、地紋インカー前後移動レール(27a)に沿った方向(図中矢印S2方向)に移動させる。地紋横引出インカー(22)が地紋切替レール(27c)まで到達した後、地紋切替レール(27c)が地紋インカー横引出レール(27b)と並行となるように90°回転する。地紋切替レール(27c)の回転に併せて地紋横引出インカー(22)を支持する車輪も回転することで、地紋横引出インカー(22)が、地紋インカー横引出レール(27b)方向への移動を可能とし、地紋横引出インカー(22)は印刷機(1)外へと移動する。地紋横引出インカー(22)の移動方法については手動、もしくは後述する印刷機の駆動を制御する制御部(60)によって移動させてもよい。
【0025】
地紋横引出インカー(22)を、印刷機(1)外へ移動させることにより、地紋横引出インカー(22)の用紙搬送方向への移動スペース及び印刷機(1)内における作業員の作業スペースを削減することができるため、地紋横引出インカー(22)における保守点検や洗浄作業のための作業スペースを確保しつつ、印刷機(1)全体のサイズをコンパクト化することができる。
【0026】
図7は、凹版模様印刷部(30)を示した図である。凹版模様印刷部(30)は、凹版インカー部(31)、凹版版胴(32)、凹版版面(33)、ワイピングローラ(34)、凹版圧胴(35)、用紙搬送機構(36)、凹版インキ乾燥部(37)、凹版模様印刷ユニット(38)、凹版印刷部移動機構(39)を備えて成る。以下、凹版模様印刷部(30)の詳細な構成について説明する。
【0027】
凹版模様印刷ユニット(38)は、凹版インキつぼ(38a)、ダクトローラ(38b)、摺動ローラ(38c)、パターンローラ(38d)を備えて成り、1色につき1つの凹版模様印刷ユニット(38)を用いる。なお、
図7では凹版模様印刷ユニット(38)を4個配置した構成を示したが、凹版模様印刷ユニット(38)の数は特に限定されるものではなく、凹版模様印刷ユニット(38)の数を増減させることで、凹版模様印刷に用いる色数を変更することができる。
【0028】
凹版インキつぼ(38a)に投入された凹版インキは、
図7における矢印S2方向に沿って、ダクトローラ(38b)からパターンローラ(38d)へと転移される。転移された凹版インキは、凹版版胴(32)に取り付けられた凹版版面(33)に着肉される。
【0029】
凹版版面(33)に着肉された凹版インキは、ワイピングローラ(34)により画線部以外に着肉された余剰インキが拭き取られ、凹版圧胴(35)において地紋模様印刷部(20)から供給されたシートに凹版インキが転写される。
【0030】
用紙搬送機構(36)は、咥え爪(36a)とチェーン(36b)により構成される。凹版模様印刷部(30)における凹版圧胴(35)にて、咥え爪(36a)がシートを1枚ごと担持し、凹版インキ乾燥部(37)及び検査部(40)を経て、排紙部(60)へと搬送される。
【0031】
凹版インキ乾燥部(37)は、用紙搬送機構(36)における搬送経路の近傍に配置される。凹版インキ乾燥部(37)によって、シートに印刷された凹版インキは、凹版インキ乾燥部(37)からの紫外光又はLEDの照射によって乾燥される。なお、
図7においては、用紙搬送機構(36)の上部に凹版インキ乾燥部(37)を配置した構成を示したが、用紙搬送機構(36)によって搬送されるシートを照射できる位置であれば、配置は限定されるものではなく、用紙搬送機構(36)の内部に配置してもよいし、下部に配置してもよい。
【0032】
図8及び
図9を用いて凹版印刷部移動機構(39)について説明する。凹版印刷部移動機構(39)は、凹版インカー部(31)をシートの搬送方向に対して直交する方向へ移動させるための機構である。
図8(a)は凹版インカー部(31)を、移動させる前の状態を示した図であり、
図8(b)は凹版インカー部(31)を移動させた後の状態を示した図である。また、
図9は凹版模様印刷部(30)を上から見た図を示す。凹版印刷部移動機構(39)は、凹版インカー部(31)を印刷機(1)外へと移動させるための凹版インカー横引出レール(39a)と凹版部切替レール(39b)を有している。なお、
図8及び
図9においては、凹版インカー横引出レール(39a)は2本のレールが平行に設けられ、凹版切替レール(39b)は回転可能とした4本のレールから成る構成を示しているが、レールの本数及びレールの成す角度は特に限定されるものではない。
【0033】
図9を用いて凹版インカー部(31)を移動させる手順について説明する。凹版インカー部(31)は、凹版切替レール(39b)に沿ってS1方向に、パターンローラ(38d)から離れるように移動する。次に、凹版インカー部(31)を支持する車輪(図示せず)を凹版切替レール(39b)の位置まで、凹版インカー部(31)をS1方向に移動させる。凹版インカー部(31)が凹版切替レール(39b)まで到達した後、凹版切替レール(39b)が凹版インカー横引出レール(39a)と並行となるように90°回転する。凹版切替レール(39b)の回転に併せて凹版インカー部(31)を支持する車輪も回転することで、凹版インカー部(31)が、凹版インカー横引出レール(39a)方向への移動を可能とし、凹版インカー部(31)は印刷機(1)の外へと移動する。地紋横引出インカー(22)の移動に関しては手動もしくは後述する制御部(50)における印刷機(1)の駆動によって移動させてもよい。
【0034】
凹版インカー(31)を、印刷機(1)外へ移動させることにより、凹版インカー(31)の用紙搬送方向への移動スペース及び印刷機(1)内における作業員の作業スペースを削減することができるため、凹版インカー(31)における保守点検や洗浄作業のための作業スペースを確保しつつ、印刷機(1)全体のサイズをコンパクト化することができる。
【0035】
図10は、検査部(40)、制御部(50)、排紙部(60)のブロック図である。
図10を用いて各部の詳細な構成について説明する。なお、本発明の印刷機は、前述した地紋模様印刷部及び凹版模様印刷部の少なくとも一方に機能性特性を付与する構成するものとする。
【0036】
まず、検査部(40)について説明する。検査部(40)は、シートに施された地紋模様及び凹版模様(以下、印刷模様とする)の画像データの検査を行う。検査部(40)は、検査胴(41)、取得機構(42)を備えて成る。以下、検査部(40)の詳細な構成について説明する。
【0037】
検査胴(41)は、用紙搬送機構(36)から受け取ったシートを検査胴(41)の外周面に巻き付けて搬送するローラである。搬送形式は、シートのバタつきを抑える形式が望ましく、シートを固定するためにグリッパや吸引式など公知のものを適宜用いてもよい。
【0038】
取得機構(42)は、検査胴(41)に巻き付けられているシートの印刷模様を画像データとして取得すると同時に、シートに施された機能性特性を数値データとして取得するための機構である。なお、機能性特性とは、数値で示される機能性インキの有する特性(例えば、磁性値や発光強度)を指す。取得機構(42)は、検査胴(41)の外周上に配置される。取得機構(42)は、印刷模様を可視光下にて撮影し、画像データとして取得する第1の取得機構(42a)と、シートに印刷された機能性インキの印刷模様である画像データと数値データの少なくとも一方を取得する第2の取得機構(42b)の少なくとも一方を有する。以下、第1の取得機構(42a)と第2の取得機構(42b)について説明する。
【0039】
第1の取得機構(42a)は、シートに施された印刷模様を可視光下にて撮影し、第1データを取得する機構である。第1の取得機構(42a)に関しては、ビデオカメラやラインセンサカメラ、エリアカメラ等、撮影可能なカメラであれば特に限定されるものではない。なお、印刷模様を正確に撮影するために、LED等の光源を第一の取得機構のシートを照射できる位置に配置してもよい。
【0040】
第2の取得機構(42b)は、特定の条件下でのみ視認できる機能性インキによって印刷された印刷模様と機能性特性の少なくとも一方を数値データである第2データとして取得する機構である。印刷模様を取得する方法に関しては、ビデオカメラやラインセンサカメラ、エリアカメラ等、撮影可能なカメラであれば特に限定されるものではないが、撮影する機能性にあわせた光学フィルタを第2の取得機構(42b)に取り付ける必要がある。撮影する機能性については、赤外特性、紫外特性、蛍光、燐光等が挙げられる。例えば、撮影する機能性が赤外特性であった場合、赤外線が照射されたシートから取得される波長のうち、870nm未満の波長領域を除去し、赤外線の870nm以上の波長領域を透過する可視光カット赤外透過フィルタを備えることで、赤外線領域のみが抽出可能となり、印刷模様における赤外線画像データを取得することができる。なお、機能性特性とは、数値で示される機能性インキの有する特性(例えば、磁性値や発光強度)を指す。機能性特性を取得する機構に関しては、ビデオカメラやラインカーメラ等ではなく、センサを用いても良い。例えば、磁性インキで印刷された場合は磁気センサ、蛍光インキで印刷された場合は、蛍光センサを用いてもよい。
【0041】
本発明における特定の条件下とは、可視光下での観察、赤外線波長域の光での観察、紫外線波長域の光での観察等から選択される条件を指す。
【0042】
制御部(50)は、検査部(40)から得られたデータをもとに、シートの良否を判定し、判定結果に応じて、印刷機(1)における各部へと運転又は運転停止を主とした何らかの指令の伝達を行う。制御部(50)は、記憶機構(51)、判定機構(52)、指令機構(53)を備えて成る。以下、制御部(50)の詳細な構成について説明する。
【0043】
記憶機構(51)は、予め基準となるデータを記憶させるための機構である。記憶機構(51)は、第1の記憶機構(51a)と第2の記憶機構(51b)を有する。記憶機構(51)は、ハードディスクや不揮発性メモリといった記憶デバイスで構成され、良否判定の基準となる基準データを予め記憶させておく。以下、第1の記憶機構(51a)と第2の記憶機構(51b)の詳細について説明する。
【0044】
第1の記憶機構(51a)は、可視光下において撮影された印刷模様の画像データを予め第1基準データとして記憶するための機構である。
【0045】
第2の記憶機構(51b)は、特定の条件下でのみ視認できる機能性インキによって印刷された印刷模様である画像データもしくは機能性特性を数値化したデータを予め第2基準データとして記憶するための機構である。
【0046】
判定機構(52)は、取得機構(42)によって取得した画像データと、記憶機構(51)において記憶された基準データとを比較及び判定するための機構である。判定機構(52)は、第1の判定機構(52a)と第2の判定機構(52b)を有する。以下、第1の判定機構(52a)と第2の判定機構(52b)について説明する。
【0047】
第1の判定機構(52a)は、第1の取得機構(42a)において可視光下で撮影された印刷模様である第1データと、第1の記憶機構(51a)において予め記憶された印刷模様の第1基準データとを比較し、一定の許容範囲内に収まるか否かを判定する機構である。
【0048】
第1の取得機構(42a)において撮影された印刷模様の第1データと、第1の記憶機構(51a)において予め記憶された第1基準画像を比較した結果、一定の許容範囲内に収まった場合、第1の判定機構は「良」と判定する。一方、第1の取得機構(42a)において撮影されたシートにおいて、著しい品質欠陥(例えば、汚れやキズ、白抜け)により、第1の記憶機構(51a)において予め記憶された第1基準画像と比較した結果、許容範囲内から外れた場合、第1の判定機構(52a)は「否」と判定する。また、第1の取得機構(42a)において撮影されたシートにインキのかすれやインキの過剰供給から生じる色彩不良により、第1の記憶機構(51a)において予め記憶された第1基準画像の濃淡と比較した結果、許容範囲内から外れた場合、第1の判定機構(52a)は「否」と判定する。
【0049】
第2の判定機構(52b)は、第2の取得機構(42b)において取得された第2データを第2の記憶機構(51b)において予め記憶された印刷模様である画像データもしくは機能性特性を数値化したデータと比較判定し、一定の許容範囲内に収まるか否かを判定する機構である。
【0050】
第2の取得機構(42b)において取得された第2データと、第2の記憶機構(51b)において予め記憶された第2基準データを比較した結果、一定の許容範囲内に収まった場合、第2の判定機構(52b)は、「良」と判定する。第2の取得機構(42b)において撮影されたシートに機能性インキの発色不良やかすれにより、第2の記憶機構(51b)において、印刷模様を画像データとして予め記憶させた第2基準データの濃淡と比較した結果、許容範囲内から外れた場合、第2の判定機構(52b)は「否」と判定する。また、機能性特性の数値データにおいては、センサにより取得された測定値が、第2の記憶手段(51b)において予め記憶された許容範囲内から外れた場合、第2の判定機構(52b)は「否」と判定する。
【0051】
また、「否」と判定されたシートには、「否」である旨を表示してもよい。表示する方法としては、例えばシートの余白部にレーザーマーキングにより穿孔を施す方法や、インクジェットプリンタ等で印字を行う方法がある。
【0052】
指令機構(53)は、取得機構(42)によって得られたデータと、記憶機構(51)によって予め記憶された基準データとを比較し、判定機構(52)における判定結果を、後述する排紙部(60)へと伝達する機構である。
【0053】
図11は検査部(40)及び制御部(50)、排紙部(60)を示した図である。
図11では、検査部(40)及び制御部(50)に関する説明を省略し、排紙部(60)について説明する。排紙部(60)は、排紙部搬送機構(61)と積載パイル(62)、損紙パイル(63)、サンプリングパイル(64)を備えている。
【0054】
排紙部搬送機構(61)は、咥え爪(61a)とチェーン(61b)により構成されている。排紙部搬送機構(61)は、指令機構(53)からの指令を受け、シートを積載パイル(62)、損紙パイル(63)、サンプリングパイル(64)のいずれかのパイルへと排紙をおこなう。
【0055】
判定機構(52)により、「良」と判定された場合、積載パイル(62)上で排紙部搬送機構(61)の咥え爪(61a)を解放させるための信号が指令機構(53)から発信される。指令機構(53)からの信号を受信した排紙部搬送機構(61)は、咥え爪(61a)を積載パイル(62)上で解放させることで、シートを積載パイル(62)上に落下させ積載させる。
【0056】
判定機構(52)により、「否」と判定された場合、積載パイル(62)上で排紙部搬送機構(61)の咥え爪(61a)を解放させるための信号が指令機構(53)から発信される。指令機構(53)からの信号を受信した排紙部搬送機構(61)は、咥え爪(61a)を損紙パイル(63)上で解放させることで、シートを損紙パイル(63)上に落下させ積載させる。
【0057】
サンプリングパイル(64)は、試刷紙及びサンプリング紙を排紙するパイルである。なお、試刷紙とは、印刷が開始されても直ちに正常な印刷状態とはならずに、試刷り状態のシートを指す。また、サンプリング紙とは、印刷時の印刷品質を人の目で確認するために、任意のタイミングもしくは所定の間隔で取り出されたシートを指す。
【0058】
なお、本形態における制御部(50)は、排紙部搬送機構(61)の駆動を制御し、積載パイル(62)、損紙パイル(63)、サンプリングパイル(64)のいずれかにシートを排紙する構成としたが、給紙部(10)の駆動を制御し、シートの供給を停止させる構成としてもよい。制御部(50)が給紙部(10)を制御する構成とすることで、給紙部(10)の運転を停止させ、損紙の増加を早期に防ぐことができる。
【0059】
図11において、2つの積載パイル(62)と1つの損紙パイル(63)、1つのサンプリングパイル(64)を配置した構成を示したが、積載パイル(62)と損紙パイル(63)を少なくとも1つずつ配置しておけばよい。
【符号の説明】
【0060】
1 印刷機
10 給紙部
11 給紙用積層台
12 フィーダボード
13 渡胴
20 地紋模様印刷部
21 地紋インカー
22 地紋横引出インカー
22a 地紋版胴
22b 地紋版面
23 地紋模様印刷ユニット
23a 地紋インキつぼ
23b 呼び出しローラ
23c 練ローラ
23d 地紋版胴
24 ブラン胴
25 地紋圧胴
26 渡胴
27 地紋印刷部移動機構
27a 地紋インカー前後移動レール
27b 地紋インカー横引出レール
27c 地紋切替レール
28 地紋インキ乾燥部
30 凹版模様印刷部
31 凹版インカー
32 凹版版胴
33 凹版版面
34 ワイピングローラ
35 凹版圧胴
36 用紙搬送機構
36a 咥え爪
36b チェーン
37 凹版インキ乾燥部
38 凹版模様印刷ユニット
38a 凹版インキつぼ
38b ダクトローラ
38c 摺動ローラ
38d パターンローラ
39 凹版印刷部移動機構
39a 凹版インカー横引出レール
39b 凹版切替レール
40 検査部
41 検査胴
42 取得機構
42a 第1の取得機構
42b 第2の取得機構
50 制御部
51 記憶機構
51a 第1の記憶機構
51b 第2の記憶機構
52 判定機構
52a 第1の判定機構
52b 第2の判定機構
53 指令機構
60 排紙部
61 排紙部搬送機構
61a 咥え爪
61b チェーン
62 積載パイル
63 損紙パイル
64 サンプリングパイル